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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない 118
管理番号 1256417 
審判番号 取消2010-300213 
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2010-02-23 
確定日 2012-04-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第1517958号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1517958号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおり,籠文字で表した「ABBEYROAD」の欧文字と「アビーロード」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり,昭和53年12月25日に登録出願,同56年11月13日に登録査定がなされ,第21類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同57年6月29日に設定登録,その後,平成4年10月29日及び同14年8月20日の二回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ,また,同16年7月14日に指定商品の書換登録があった結果,指定商品を第18類「かばん類,袋物」とするものである。

第2 請求人の主張
請求人は,商標法第51条第1項の規定により,本件商標の登録を取り消す,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由の要旨を以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
1 請求の理由
(1)被請求人の使用商標
被請求人は,甲第1号証に示すとおり,「ABBEY ROAD」の文字が整然と横一列に配した標章を商標権者が販売するキャリーバッグの商品タグに使用している(以下,「使用商標1」という。)。
使用商標1の少し下に離れた箇所には,「SINCE 1962」の文字が記載され,さらに,その下においては,「The Beatles saved the world.」から始まるキャッチコピーが5行にわたって印字されている。
(2)本件商標と使用商標1との類否
本件商標は,図案化された「ABBEYROAD」及び「アビーロード」の文字からなるのに対し,使用商標1は,「ABBEY ROAD」の文字のみからなるものであるが,外観において異なるものの,両者ともに「アビーロード」の称呼を生ずるものであり,少なくとも称呼においては,相紛れるおそれのある商標である。
また,本件商標が極めて特徴的な図案化された「ABBEYROAD」及び「アビーロード」の文字からなるのに対し,使用商標1が「ABBEY ROAD」の文字を極めて整然と配列し表示させていることから,両者は,外観上異なる商標であることは明らかである。これらのことからすれば,使用商標1の使用は,本件商標と同一のものの使用態様とはいえない。
被請求人は,「ABBEY ROAD」の文字を極めて整然と配列し表示させ,ザ・ビートルズを用いたキャッチコピーとともに使用しているのであるから,使用上普通に行われる程度の変更であるとはいえず,誤認混同を生じさせやすい形態へ近づけられているといえ,本件商標と使用商標1とは,「同一」ではなく,「類似」の関係に立つものである。
(3)使用商標1の使用時期
甲第1号証は,請求人が被請求人に対して提起した商標法第50条に基づく不使用取消審判事件において,被請求人が乙第1号証及び乙第2号証として提出したものの写しである。
当該審判事件において被請求人の提示した証拠は,商標法第50条に基づく不使用取消審判との関係で本件商標の使用を証明するものとしては,不十分なものであるが,仮に,本件商標の登録が維持されると判断された場合には,実際に被請求人が使用していた態様での使用は,本件商標の禁止権の範囲での「類似」商標の使用であり,故意に出所の混同を招くものというべきであるため,請求人は,本件審判を請求するものである。
(4)請求人について
請求人は,1931年に英コロムビアと英グラモフォンが合併し,Electric and Musical Industries Ltdとして設立され,ユニヴァーサル・ミュージック,ソニーBMG,ワーナー・ミュージックと共に4大レコード会社のひとつとして知られるイギリスのレコード会社である(甲第3号証)。
EMIは,その同名レーベルのほかに傘下レーベルとして,多数の著名なレーベルを抱えている。ザ・ビートルズとの関係については,「アップル・レコード」のほかにアメリカでの契約レーベルが「キャピトル・レコード」であり,「アップル・レコード」設立までは,ザ・ビートルズは,「バーロフォン」と契約していたなど,ザ・ビートルズとEMIとは,密接な関係にある。また,EMIは,ザ・ビートルズの音源にかかる権利を保有しており,近時においても,ザ・ビートルズのアルバムのデジタルリマスター版が,EMIグループによって,2009年9月9日に世界同時発売されたことがニュースとして取り上げられたことは,記憶に新しいところである(甲第4号証)。
また,ザ・ビートルズの録音が,EMIがロンドンのウェストミンスターに保有するスタジオで行われていたことも音楽愛好家にとっては,著名な事実である(甲第5号証)。
(5)ザ・ビートルズについて
ザ・ビートルズ(The Beatles)は,1962年10月にレコードデビューし,1970年4月に解散した,世界中で最も広く知られているイギリス出身のロックバンドであり,解散後もその知名度・人気は衰えることはなく,前記のとおり,そのアルバムのデジタルリマスター版が昨年9月9日に世界同時発売されたことがニュースとして大々的に取り上げられている。
ザ・ビートルズの最後のスタジオ録音アルバムとして知られているのが,本件商標と同一のタイトルである「アビイ・ロード」(甲第6号証)であるが,「アビイ・ロード」のタイトルは,同アルバムがレコーディングされたEMIが所有するスタジオ前の通りに因んで名づけられたこと,当該スタジオが,「アビイ・ロード」発売以降,「Abbey Road Studios」と改名されていることも音楽愛好家にとっては,周知な事実である(甲第7号証)。
(6)使用商標1
使用商標1が用いられているタグの下には,「SINCE 1962」の文字が記載され,さらに,その下においては,「The Beatles saved the world.」から始まるキャッチコピーが5行にわたって印字されている。1962年は,ザ・ビートルズのデビューの年であり,このキャッチコピーの内容からも,被請求人は,例えばロンドンのある道路(甲第8号証)の名称を商標として採択したというよりは,ザ・ビートルズの著名性に依拠して本件商標を採択して商品販売を行っていることは,明らかである。
(7)請求人の業務に係る商品との混同
請求人は,上記のとおり,ザ・ビートルズの音源を管理し,日本におけるEMIグループの法人である株式会社EMIミュージック・ジャパンのホームページ上において,ザ・ビートルズのオフィシャル・サイトを展開し,ビートルズ関連商品を販売するなど,ザ・ビートルズと非常に密接な関係を持っていることは,周知の事実である(甲第9号証)。
被請求人のように,明らかにザ・ビートルズとは,特に関係のない者が,ザ・ビートルズの名称を使用し,関連商品を販売する行為は,ザ・ビートルズの著名性を剽窃する行為であり,需要者から見た場合,被請求人の取り扱う商品がザ・ビートルズに関連する者から何らかの許諾を得たものであるかのような出所の誤認混同を与える行為である。
また,被請求人は,自ら「ザ・ビートルズ」の名称をその商品タグにおいて使用しているのであるから,このような出所混同が生じるおそれのある行為を明らかに意図的に行っているものというべきである。
昭和55年(行ツ)第139号に係る最高裁判所判決において,「商標法51条1項の規定に基づき商標登録を取り消すには,商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用し又は指定商品に類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標を使用するにあたり,右使用の結果商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足りる」とされている(甲第10号証)ところ,上記のとおり,本件では,被請求人は,出所混同が生じることについて明らかに意図的に行っているものであるから,本件商標の登録は,同条に基づき取り消されるべきものである。
(8)結語
以上より,被請求人は,本件商標に類似する商標を,故意に,指定商品中「かばん類」に含まれるキャリーバッグに使用し,あたかもザ・ビートルズ又はこれに関係する者から許諾を得た者であるかのような表示を行うことにより,需要者に誤認混同を与えたものであるから,本件商標登録は,一般公衆の利益を害することを防ぎ,需要者を保護するという商標法第51条第1項に基づき取り消されるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由の要旨を以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。
答弁の理由
乙第1号証の写真の正面に装着されているABBEYROADのロゴバッチ(乙第2号証)の書体及び発音は,他の読み方,発音をすることが出来ず類似のものと混同する可能性を認めることができない同一のもであることは,容易に判断できるものである。
商標には,その混同を生じない商品について分類別に商標を出願,登録することができる。本件のABBEYROADについても乙第3号証に表示されているように15件の登録出願がなされている。その中に(乙第4号証)本件の請求人であるイーエムアイ(アイビー)リミテッドも登録している。もちろんカバン袋物類ではない。乙第4号証に記載あるように請求人登録日は,平成14年11月8日と表示されている。被請求人の登録日は,昭和56年7月28日(乙第5号証)である。その間には,20年以上の歳月があり,登録以来の年数にしても現在まで約30年である。乙第6号証のカタログにザ・ビートルズの文字が使われているが,それは,単にアビイ・ロードの説明文にすぎず,カタログ全体の構成からしても混同を招くような表現とは思えない。

第4 当審の判断
商標法第51条第1項は,「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定している。
そこで,被請求人による使用商標の使用行為が,上記規定に,該当するものであるか否かについて,以下検討する。
1 本件商標と使用商標の類否について
(1)本件商標について
本件商標は,「ABBEY ROAD」と「アビーロード」の文字を籠文字風に二段に書してなるものであるところ,「Abbey Road(アビイ・ロード)」は,英国ウェストミンスターにある通りの名称であって,ザ・ビートルズがその通りに因んで名付けたとされるザ・ビートルズ最後のアルバムのタイトルとして広く知られていることが認められる(甲第4号証ないし甲第7号証)。
そうすると,本件商標は,その構成文字に相応し,「アビーロード」の称呼を生じ,観念においては,「英国ロンドンにある通りの名称」又は「ザ・ビートルズの製作に係るアルバムのタイトル」を認識させるものである。
(2)使用商標について
甲第1号証及び乙第6号証は,右上に商品タグが表示されているキャリーバックのカタログの抜粋であり,甲第1号証の2枚目(乙第2号証の表示がある。)は,上部に平成20年8月1日に誠美堂印刷株式会社が被請求人宛に発行した納品書,下部に甲第1号証及び乙第6号証の右上に表示されたものと同じ商品タグが表示された書面である。
そして,これらの商品タグには,「ABBEY ROAD」の文字からなる使用商標1が表示され,その「ABBEY ROAD」の文字の少し下の離れた箇所に「SINCE 1962」の文字,さらに,その下に「The Beatles saved the world.」から始まるキャッチコピーが印字されているところ,上段の「ABBEY ROAD」の文字部分は,他の文字よりも大きく顕著に表されていることから,独立して自他商品識別機能を果たし得るものといえる。
乙第2号証は,「ABBEY ROAD」(以下「使用商標2」という。)の文字が表示されたロゴバッチ及びそのコピーであるところ,そのロゴバッチは,甲第1号証及び乙第6号証に表示されたキャリーバックの正面上部に付されたものであることが容易に推認し得るものである。
そうすると,被請求人は,「ABBEY ROAD」の文字からなる使用商標1及び2(以下,これらを併せて「使用商標」という。)をキャリーバックの商品タグ及びロゴバッチに使用していたことが認められる。
そして,使用商標は,その構成文字に相応し,「アビーロード」の称呼を生じ,観念においては,「英国ロンドンにある通りの名称」又は「ザ・ビートルズの製作に係るアルバムのタイトル」を認識させるものである。
(3) 小括
前記1(1)及び(2)のとおり,本件商標と使用商標は,いずれも「アビーロード」の称呼を生じ,観念においては,「英国ロンドンにある通りの名称」又は「ビートルズの製作に係るアルバムのタイトル」を認識させるものであるから,両者は,「アビーロード」の文字の有無に差異を有するものの,称呼及び観念を共通にする類似の商標ということができる。
また,使用商標の使用に係る商品である「キャリーバック」は,本件商標の指定商品中の「かばん類」に含まれるものである。
そうすると,被請求人による使用商標の使用は,本件商標の指定商品についての登録商標に類似する商標の使用ということができる。
2 出所の混同について
(1)「Abbey Road(アビイ・ロード)」について
前記1(1)のとおり,「Abbey Road(アビイ・ロード)」は,英国ウェストミンスターにある通りの名称であり,ザ・ビートルズがその通りに因んで名付けたとされるザ・ビートルズ最後のアルバムのタイトルとして広く知られていることが認められる。
(2) 「ザ・ビートルズ(The Beatles)」について
ザ・ビートルズは,1962年10月にレコードデビューし,1970年4月に解散した世界中で最も広く知られているイギリス出身のロックバンドであり,「Abbey Road(アビイ・ロード)」を含む12枚のアルバムを製作していることが認められる(甲第4号証ないし甲第9号証)。
(3)請求人について
請求人は,1931年に英コロムビアと英グラモフオンが合併し,Electric and Musical Industries Ltdとしで設立されたイギリスのレコード会社であり,ザ・ビートルズの音源を管理し,近年においても,請求人の関連会社であるEMIグループを通じ,「Abbey Road(アビイ・ロード)」を含むザ・ビートルズのアルバムのデジタルリマスター版を2009年9月9日に販売したこと,また,請求人所有の「Abbey Road(通り名)」沿いにある録音スタジオは,ザ・ビートルズがほとんどの曲を録音したスタジオであり,前記のザ・ビートルズのアルバムのタイトルである「Abbey Road」に因み「Abbey Road Studios」と名付けられていること等が認められる(甲第3号証ないし甲第7号証)
(4) 小括
以上の(1)ないし(3)のとおり,「Abbey Road(アビイ・ロード)」が,ザ・ビートルズの最後のアルバムのタイトルとして広く知られていること,そして,請求人が,ザ・ビートルズの音源を管理し,請求人の関連会社であるEMIグループを通じ,近年においても「Abbey Road(アビイ・ロード)」を含むザ・ビートルズの製作に係るアルバムのデジタルリマスター版を販売するなど,請求人とザ・ビートルズとが密接な関連にあることが認められる。
そして,請求人は,請求人の関連会社であるEMIグループの日本法人である株式会社EMIミュージック・ジャパンを通じ,ザ・ビートルズ関連商品を販売している旨主張するが,請求人の提出に係る証拠からは,ザ・ビートルズ又は請求人が,「Abbey Road(アビイ・ロード)」の文字からなる標章を,アルバムのタイトル以外の商品・役務について使用している事実は認められない。
これに対し,被請求人が使用する商品は,かばん類に属する「キャリーバック」であるところ,キャリーバックとアルバムとでは,互いの商品の生産部門,販売部門,原材料,用途等が異なるものであるから,「Abbey Road(アビイ・ロード)」が,ザ・ビートルズの製作に係るアルバムのタイトルとして広く知られていたとしても,被請求人によるキャリーバックについての使用商標の使用が,ザ・ビートルズ又は請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものとはいえない。
また,被請求人によるキャリーバックについての使用商標の使用が,商品の品質若しくは役務の質の誤認を生ずるものともいえない。
3 故意について
請求人は,被請求人がキャリーバックの商品タグに使用商標1とともに,ザ・ビートルズのデビュー時期である「SINCE 1962」の文字と「The Beatles saved the world.」から始まるキャッチコピーを印字していることをもって,被請求人による当該使用商標の使用が意図的(故意)である旨主張しているものと解される。
しかしなから,「SINCE 1962」及び「The Beatles」の文字を含むキャッチコピーの表示から,ザ・ビートルズの名称に便乗しようとする被請求人の意図が伺われることがあるとしても,これらの表示は,これに接する取引者・需要者に対し,「ABBEY ROAD」の名称の由来を説明したものとの印象を与えるにとどまるものとみるのが相当であり,これらの文字があるからといって,被請求人の使用商標の使用に,商品の出所について誤認・混同を生じさせる故意(意図)があったものということはできないし,また,請求人からは,実際に商品の出所について誤認・混同を生じたとする事実も示されていない。
したがって,前記の「SINCE 1962」等の文字を伴う,被請求人によるキャリーバックについての使用商標の使用は,故意によるものとはいえない。
4 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標権者(被請求人)が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第51条第1項の規定により,その登録を取り消すべきものではない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)




審理終結日 2010-11-09 
結審通知日 2010-11-11 
審決日 2011-06-29 
出願番号 商願昭53-95930 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (118)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 小川 きみえ
鈴木 修
登録日 1982-06-29 
登録番号 商標登録第1517958号(T1517958) 
商標の称呼 アビーロード 
代理人 杉山 直人 

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