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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2011900117 審決 商標
無効2009890134 審決 商標
無効2011890096 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Z25
審判 全部無効 観念類似 無効としない Z25
審判 全部無効 外観類似 無効としない Z25
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z25
審判 全部無効 称呼類似 無効としない Z25
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Z25
管理番号 1256366 
審判番号 無効2009-890004 
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-15 
確定日 2012-04-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4959859号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成21年9月17日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10022号平成22年8月31日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4959859号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成13年9月25日に登録出願、第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、同18年5月10日に登録審決、同年6月9日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録は無効とする、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第77号証(枝番を含む。)を提出している。
1 引用商標
請求人は、次の(1)ないし(5)に掲げる登録商標(いずれも現に有効に存続している。)を引用する。以下、これらの登録商標を総称するときは、単に「引用商標」という。
(1)商標登録第571612号(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲(2)のとおり
登録出願日:昭和34年4月27日
設定登録日:昭和36年5月1日
更新登録日:昭和56年7月31日、平成3年7月30日、平成13年5月8日
書換登録日:平成14年6月12日
指定商品 :第9類、第10類、第14類、第21類、第24類、第25類及び第26類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(2)商標登録第2372008号(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲(3)のとおり
登録出願日:昭和44年10月9日
設定登録日:平成4年1月31日
更新登録日:平成14年2月5日
書換登録日:平成14年7月10日
指定商品 :第5類、第9類、第10類、第16類、第17類、第20類ないし第22類、第24類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(3)商標登録第2372009号(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲(4)のとおり
登録出願日:昭和46年12月10日
設定登録日:平成4年1月31日
更新登録日:平成14年2月5日
書換登録日:平成14年7月10日
指定商品 :第5類、第9類、第10類、第16類、第17類、第20類ないし第22類、第24類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(4)商標登録第2465858号(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:別掲(5)のとおり
登録出願日:昭和46年12月10日
設定登録日:平成4年10月30日
更新登録日:平成14年10月15日
書換登録日:平成15年3月26日
指定商品 :第5類、第9類、第10類、第16類、第17類、第20類ないし第22類、第24類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(5)商標登録第2521607号(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:別掲(6)のとおり
登録出願日:平成2年9月5日
設定登録日:平成5年3月31日
更新登録日:平成15年4月1日
書換登録日:平成15年8月6日
指定商品 :第5類、第9類、第10類、第16類、第17類、第20類ないし第22類、第24類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
2 無効原因
(1)引用商標の著名性
ア 引用商標1の商標権に係る経緯
引用商標1は、もともとは、シンガポール国籍のリー セン ミン カンパニイ センデイリアンバーハッド(利生民有限公司。以下「リー社」という。)が保有していた登録商標であった(甲第2号証の2)。請求人は、引用商標1の使用について、リー社から許諾を得て、我が国において昭和38年から引用商標1を付した布製シャツ、ニットシャツ等の輸入販売を開始し、リー社との昭和44年9月1日付けの契約により、我が国における引用商標1の独占的使用権を得た(甲第7号証)。請求人は、昭和51年11月25日付けの契約及び昭和52年2月14日付けの設定登録により引用商標1の専用使用権者となり(甲第8号証及び甲第2号証の2)、その後は製品を全て自社製造に切り替えて、引用商標1を使用した商品を独占的に日本国内において販売し始めた。その後、請求人は、リー社より引用商標1の商標権を譲り受け(甲第9号証)、昭和55年4月21日付けで商標権の移転登録がなされた(甲第2号証の2)。
イ 人気ブランド「クロコダイル」の歴史
引用商標は、請求人が昭和38年以来、45年にわたって販売しているカジュアル衣料ブランド「クロコダイル」の商標として使用されてきたものである(甲第10号証の1及び甲第71号証)。特に、引用商標1に表された左向きワニの図形は、我が国においては、請求人が引用商標1の商標権者であったリー社の独占的通常使用権者となった昭和44年以降、一貫して請求人のみによって使用されてきたものであり、その著名性は、遅くとも昭和44年には市場において確立されていた(甲第11号証)。請求人が引用商標1の専用使用権者となった昭和50年初めごろには、左向きワニの図形は、当時のいわゆる「ワンポイントブランドブーム」の牽引役となり、また、紳土用被服のカジュアルスタイルの先駆として、請求人の取扱いに係る「クロコダイル」ブランドの高い信用の下で、請求人が取り扱う商品の出所を表示するブランドマークとして絶大なる人気を博した(甲第12号証)。左向きワニの図形を付した「クロコダイル」ブランド商品は、昭和56年以降、年間約80億円超という非常に高い売上高を維持し、平成元年から平成4年にかけては100億円を突破した。その後、請求人は、流行の移り変わりや国内景気の変動の影響を受けながらも、平成10年には総合小売店での自社管理型売場運営を開始してブランド管理を強化し、平成14年には女性向けに「クロコダイル・レディス」(甲第10号証の3)をスタートさせ、ブランドの育成と需要者層の拡大・売上強化に尽力した結果、若年需要者の間で「ワンポイントブランド復活」などと報道されたブームの再来(甲第12号証の3)を招来し、さらに「スウィッチ・モーション・クロコダイル・スポーツ」(甲第10号証の4)、「ベイジェジェ・クロコダイル」(甲第10号証の5ないし7)等のシリーズブランド(甲第10号証の2)を展開するなどして、平成17年度には再び100億円を超える販売実績を上げており、請求人の「クロコダイル」ブランドは、今日においても我が国を代表する長寿ブランドとしての地位を堅持している(甲第10号証及び甲第12号証)。
ウ 請求人による広告・宣伝活動の内容
請求人は、商品としての品質の維持向上もさることながら、「クロコダイル」ブランドのブランド・イメージを高めるための宣伝広告も積極的に行ない、「クロコダイル」ブランドによる事業のより一層の拡大に務めてきた。すなわち、請求人は、昭和50年頃から雑誌等の媒体に左向きワニの図形を使用した広告を盛大かつ継続的に行ない(甲第13号証ないし甲第30号証)、テレビにおけるコマーシャル放映(甲第31号証)も大々的に行なった。これに費やした請求人の宣伝広告費及び販売促進費については、年度によってばらつきはあるものの、昭和59年度から平成18年度までの23年間の平均額が8000万円を超えており、昭和62年度から平成3、5、7及び17年度は各年度とも1億円を超える費用を投じている。その結果、クロコダイルブランドの商品は以前にも増して取引者、需要者により広く知られるようになり、その人気も益々高まる一方であった。「ワンポイントブランドブーム」が流行の推移により停滞した時期においても、請求人は「お父さん改造講座」なる企画においてモニターを広く一般の夫婦から募集し、物づくりについて消費者の意見を求める機会を設けるという独自のマーケティング戦略を展開する(甲第32号証及び甲第33号証)とともに、自社管理型売場を拡大等するという戦略を用いて、さらに「クロコダイル」ブランドの維持及び飛躍的発展に努めた(甲第21号証)。
こうした企業努力の一環として、請求人は、引用商標1だけでなく、「左向きワニの図形」のみからなる構成の引用商標2及びこれに色彩を付した引用商標3、引用商標1から矩形の外枠を切除した引用商標4及び引用商標4から色彩を除き、「CLASSIC LABEL」の欧文字と結合した引用商標5の登録出願及びその使用を積極的に行ない、「クロコダイル」ブランドの商標による保護を強化した。その結果、以下に摘示する証拠上明らかなように、「Crocodile」の欧文字を含む引用商標1、4及び5はもちろんのこと、「Crocodile」の文字を有しない引用商標2及び3についても、左向きワニの図形といえば請求人の「クロコダイル印のワニ」と認識されるほど取引者及び需要者の間に広く知られるところとなり、左向きワニの図形を含む引用商標は、請求人が開発、製造及び販売する「クロコダイル」ブランドを表わすものとして市場において完全に定着し、その著名度は確固たる不動のものとなった。
エ 取引者・需要者間における「クロコダイル」ブランドの認知度を示す資料
(ア)同業者、取引先、公的機関等による証明書
「クロコダイル」ブランドの著名性について、平成8年に被服業界の同業他社並びに業界新聞である日本繊維新聞及び繊研新聞社が、「Crocodile」の文字と左向きワニの図形を結合した商標について「著名なブランド・商標であることを証明する」との証明書を発行した(甲第11号証の2ないし13)。さらに、大阪商工会議所は、「Crocodile」の文字と左向きワニの図形を結合した商標を付した商品は取引者・需要者において直ちに請求人の製品であることを認識させるほど著名な商標となったと証明した(甲第11号証の1)。
(イ)アンケート結果
日本経済新聞社が行った「ファッションブランドアンケート」(甲第35号証)及び「繊維二次製品銘柄調査」(甲第36号証)において、以下のとおり、請求人のブランド「クロコダイル」が高い認知度と人気を有する著名ブランドであることが証明されている。
すなわち、平成5年に行われた「'93ファッション・ブランドアンケート」(甲第35号証の1)の結果に照らすと、請求人のブランド「クロコダイル」は、メンズカジュアルブランド10ブランド中「Polo Club」に次いで二番目に高い認知度を有し、一流評価率においても2番目に高い評価を得ている。平成12年に行われた「繊維二次製品総合調査」(甲第36号証の9)に徴すると、「クロコダイル」ブランドの認知率は54.9%で、「エマニュエル・ウンガロ」、「L.L.ビーン」、「ジャンセン」のようなブランドのそれを大きく上回っており、調査対象ブランドの中では最も高い認知度を示している。近年においても、平成18年に行われた「繊維二次製品総合調査」(甲第36号証の10)に徴すると、「クロコダイル」ブランドの認知率は72.4%で、米国製人気スニーカー「コンバース」や成人男性向け雑誌で著名な「プレイボーイ」を上回る数値を記録している。さらに一流評価率を見ると、回答者の17.5%が「一流と思う銘柄」と回答しており、「エディーバウアー」、「ゲス」、「ポールスミス」、「ポロクラブ」等国内外の主要ブランドのそれを大きく上回り、「アーノルドパーマー」と並んで二番目に高い数値を記録している。
オ 防護標章登録
特許庁の商標審査基準において、「『需要者の間に広く認識されている商標』の認定に当たっては、防護標章登録を受けている商標(中略)については、その登録又は認定に従い需要者の間に広く認識された商標と推認して取り扱うものとする」とされているところ(甲第37号証)、引用商標1に係る商標権について防護標章登録が認められている(甲第2号証の1及び3)。引用商標1が著名商標であることはかかる事実によっても根拠付けられる。また、引用商標1は特許電子図書館の「日本国周知・著名商標検索」でも周知・著名商標としてデータ登録され(甲第38号証)、また、AIPPI発行の「日本有名商標集」にも掲載されている(甲第39号証)。
カ 「左向きワニの図形」(引用商標2及び3)のワンポイントマークの著名性
請求人は、左向きワニの図形、すなわち引用商標2及び3を「クロコダイル」ブランドを端的に指標する重要な商標として位置づけて永年にわたり一貫して使用し、宣伝・広告に努めてきた。すなわち、請求人の取扱いに係る「クロコダイル」ブランドの商品には、一貫して、ポロシャツの左胸部分や、靴下のくるぶし部分等、需要者の注意を強く惹く部分に「左向きワニの図形」が「ワンポイントマーク」として付されている(甲第40号証)。
そもそも、「ワンポイント(マーク)」とは、「シャツの胸元や、ソックスなどにあしらわれたメーカー名やブランド名、マーク、ワッペンなどのプリント、刺繍、アップリケのこと。」(「新ファッションビジネス基礎用語辞典」:甲第41号証)であるところ、着用時には隠れてしまう襟ネームのようなものと対照的に、商品が畳まれて陳列された状態や、着用した状態で見やすい場所に付されて需要者の注意を惹き、他の商品・ブランド等と識別する機能を発揮しやすいこと、着用する需要者自身にとっても、周囲に自己の嗜好やステータス(地位)を端的に表示する方法として好まれること、「ワニ」のような親しまれた動物や、「傘」のような身近な品物をモチーフとしたものは、一目で把握されて需要者の記憶に残りやすいことなどから、アパレル商品のマーケティング戦略上、極めて重要な役割を担うものである。
請求人のブランド「クロコダイル」においても、「Crocodile」の文字と結合した引用商標1のみならず、商品にワンポイントマークとして付される「左向きワニの図形」こそ、「クロコダイル」ブランドを他のブランドから識別する重要な商標であると位置づけ、昭和44年に引用商標2及び3を登録出願し、商標登録を受けている(甲第3号証及び甲第4号証)。
そして、請求人が使用する「左向きワニの図形」は、昭和50年頃第一次「ワンポイントブランドブーム」に火をつけ、その後平成14年頃第二次「ワンポイントブランドブーム」を引き起こした。
広告宣伝においては、例えば「ゴルフダイジェスト」(2005年8月2日号:甲第26号証の3)には「創業40年以上を誇るワニのマークがポイントの『クロコダイル』は、清潔感あふれるシティカジュアルブランド」と記載され、「ゴルフダイジェスト」(2005年8月号:甲第26号証の1)には「鹿の子素材のポロシャツにワニのワンポイントが施された『クロコダイル』ブランドがスタートしたのは1963年。」と記載されており、「ワニ」のワンポイントマークが請求人のマーケティング戦略上重要な役割を果たすものとして用いられていることがうかがえる。
そして、需要者の間においても「クロコダイル」ブランドは「左向きワニ」のワンポイントマークのブランドとして認識され、定着していることは以下に摘示したアンケート結果に照らしてみれば明らかである。
「日本経済新聞社ファッションブランドアンケートまとめ1993/1994/1995」(甲第35号証の3)において、「クロコダイルについては、認知率は、『ワニのロゴ』の印象からか以前高く、所有率についても同様である。」と評価されており、ブランド認知において「クロコダイル印のワニ」が強い記銘力を有する商標として、取引者に評価されていることがうかがわれる。
需要者の認識としても、甲第35号証の1に示すアンケート結果報告書の中で「ブランド商品についての意見・希望」として「商品をアピールするクロコダイルワニのようなマークが価値を一層高めると思います」という需要者の評価が掲載されている。「広告企画『'99ファッションブランドアンケート』調査結果報告書」(甲第22号証の5)においても、「・・・ワニのマークがはいっているのに気付いた。親しみが湧き愛用しています。」、「軽装の時などワニマークがついているとリッチな気分になれ、品質に信頼が持てます」、「ソックスやポロシャツのワンポイント。昔から知っています。」のような需要者の声が記録されている。これより5年後の「広告企画『2004ファッションブランドアンケート』調査結果報告書」(甲第35号証の6)においても、「クロコダイル(わに)マークで、カジュアルな上着として広く名が知られている。」、「ワニのマークで有名。」、「昔から馴染みがある。今でも古くさくない。」、「若いときからこのロゴは好みだった。スポーツシャツの大好き人間には、ワニ君は今でもこたえられない魅力がある。」、「ワンポイントマークの楽しさを教えてくれるマーク」などの評価が寄せられている。翌年の「広告企画『2005ファッションブランドアンケート』調査結果報告書」(甲第35号証の7)においても、「昔から憧れていてワニのマークは強烈だった。」、「ワニの英語がクロコダイルであることを初めて知ったブランド名」、「ワンポイントといえばこのブランドです。」、「ポロシャツのワニのワンポイントは憧れでした。」、「ワニのポイントマークで古くから親しまれている・・・」といった評価が寄せられている。
これらの需要者の声・評価から、需要者の間においても、「クロコダイル」ブランドは、左向きワニの図形(引用商標2及び3)と強く結び付けて認識されており、左向きワニの図形がその強い記銘力によって請求人ブランドの出所表示として需要者の間に定着し、強力な顧客吸引力を発揮していることがうかがえる。
キ 小括
以上のとおり、引用商標及び引用商標に含まれる左向きワニの図形すなわち「クロコダイル印のワニ」が、請求人が提供する商品(被服)であることを指標する著名商標であることに疑う余地はなく、引用商標及び「クロコダイル印のワニ」が、本件商標の登録出願時及び審決時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、取引者及び需要者の間に極めて広く知られた著名商標であったことは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標
本件商標は、「CARTELO」の欧文字を緑色、青色及び赤色で彩色した横長矩形中に白抜きで表してなる図形(以下、「CARTELO図形」という。)と、左側を向いて顎を開き、上方に振り上げた尾を同じく左側に伸ばしたワニを描いた図形(以下「本件ワニ図形」という。)を、その胴ないし尾の部分が上記矩形に重なるように描いたものである。本件商標からは、上記の欧文字に相応して「カルテロ」又は「カーテロ」の称呼が、「本件ワニ図形」から「ワニ」の称呼がそれぞれ生じる。また、「CARTELO」は特段の観念が生じない造語と考えられるため、該欧文字部分から特定の観念は生じず、「本件ワニ図形」から「ワニ(鰐)」の観念が明確に生じる。
ここで、「本件ワニ図形」は、以下に述べるとおり、「クロコダイル印のワニ」との称呼及び観念が生じる請求人の左向きワニの図形と基本的構成態様が共通すること、及び「クロコダイル(Crocodile)」は被請求人の略称又は名称の一部を構成するものであることから、本件商標からは、「クロコダイルのワニ(鰐)」といった称呼及び観念も生じる。
イ 引用商標
引用商標1は、横長矩形内に、ややデザイン化された筆記体の「Crocodile」の欧文字と、口を開いて尾の先端を前方に向けた左向きのワニの姿態を描いた図形(左向きワニの図形)とを配したものである。引用商標1からは、上記構成に照応して、欧文字部分から「クロコダイル」の称呼及び観念が生じ、左向きワニの図形から「ワニ」の称呼及び「ワニ(鰐)」の観念が生じる。
引用商標2及び3は、引用商標1と同様の左向きワニの姿態を描いた左向きワニの図形からなり、引用商標3の左向きワニの図形は、緑系統の色彩で表わされている。引用商標2及び3からは、いずれも上記左向きワニの図形に照応して「ワニ」の称呼及び「ワニ(鰐)」の観念が生じる。
引用商標4は、緑色で、ややデザイン化された筆記体で書してなる「Crocodile」の欧文字(該文字の右上方には、円輪郭に「R」の文字を内包する小さな記号が付されている。)と、口を開いて尾の先端を前方に向けた左向きのワニの姿態を描いた図形(左向きワニの図形)とを組み合わせたものであり、左向きワニの図形の口中部分は赤で、その他の部分は緑で彩色されている。引用商標4からは、引用商標1と同様に、欧文字部分から「クロコダイル」の称呼及び観念が生じ、左向きワニの図形から「ワニ」の称呼及び「ワニ(鰐)」の観念が生じる。
引用商標5は、ややデザイン化された筆記体の「Crocodile」の欧文字、及び口を開いて尾の先端を前方に向けた左向きのワニの姿態を描いた図形(左向きワニの図形)の下方に、「CLASSIC LABEL」の欧文字を配したものである。引用商標5からは、引用商標1と同様に、「クロコダイル」の称呼及び観念、並びに左向きワニの図形から「ワニ」の称呼及び「ワニ(鰐)」の観念が生じるほか、「CLASSIC LABEL」の欧文字部分に照応して、「クラシックレーベル」または「クラシックラベル」が生じる。「CLASSIC LABEL」は、一種の造語と考えられるため、ここから特段の観念は生じない。
さらに、引用商標に含まれる上記左向きワニの図形は、請求人がワンポイントマークとして使用して著名となっている左向きワニの図形と同一であるから、引用商標からは、いずれも上記著名性に相応して「クロコダイル印のワニ」との称呼及び観念が明確に生じる。
ウ 本件商標と引用商標の対比
(ア)本件商標と引用商標は、いずれもその構成中にワニ(鰐)の姿態を表わした図形部分を有する点において共通する。そこで、本件商標における「本件ワニ図形」と引用商標の左向きワニの図形を対比すると、両ワニ図形は、いずれも口を開いて尾の先端を前方に向けた左向きのワニの姿態を描いた点を基本的構成態様とし、その着想や、ワニがやや右上がりに配置されているという構図についても共通するため、外観上、構成の軌を一にする共通部分を有する。一方、称呼及び観念については、本件商標からはその欧文字部分から「カルテロ」又は「カーテロ」の称呼が生じるほか、既述のとおり、「本件ワニ図形」から「ワニ」の称呼及び「ワニ(鰐)」の観念だけでなく、「クロコダイルのワニ(鰐)」といった称呼及び観念も生じる。これに対し、引用商標からは、その左向きワニの図形からいずれも「ワニ」の称呼及び「ワニ(鰐)」の観念が生じ、また、請求人が永年使用している左向きワニの図形の著名性に相応して「クロコダイル印のワニ」との称呼及び観念が明確に生じる。したがって、本件商標は、引用商標とは外観、称呼及び観念上の共通性が大きいものである。
(イ)ところで、本件商標は、「本件ワニ図形」以外の構成要素として、「CARTELO」の欧文字を表わした緑、青及び赤で彩色した横長矩形図を有する。
しかし、最高裁判所の昭和38年12月5日第一小法廷判決は、「簡易、迅速をたつとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによつて簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(昭和三六年六月二三日第二小法廷判決、民集一五巻六号一六八九頁参照)。しかしてこの場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。」と説示し、結合商標類否判断における要部観察の重要性を明らかにしている(甲第43号証)。また、最高裁判所昭和43年2月27日第三小法廷判決は、「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」と判示して、商標の類否判断においては具体的な取引の実情を考察すべき点を明らかにしている(甲第44号証)。さらに、東京高等裁判所昭和58年11月7日判決は、商標の類似とは、「二個の商標が、外観、称呼または観念のうちのいずれか一つ以上の点で相紛らわしく、その結果それらの商標が同一または類似の商品に使用された場合、取引者や一般需要者によりそれらの商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある程度に似ていることをいうのであって、その類似するか否かの判断は、右の三要素につき全体的かつ離隔的に対比観察し、当該商標が使用されている商品の取引の実情を考慮し、取引者や一般の需要者が商品購入時に通常払うであろう注意を基準として決すべきものであるが、商標中に商品識別機能を有するとは認められないような付記や付飾部分が存在する場合には、これを除いた部分を要部として特定し、これを比較対照する要部観察も、全体的観察と併せてする必要がある。」と判示している(昭和56年(う)第1596号:甲第45号証)。
(ウ)上記の最高裁判決及び東京高裁判決における判断基準を本件商標と引用商標の類否判断に当てはめると、本件商標が、引用商標に類似するものであることは明らかである。すなわち、上記アで述べたとおり、「CARTELO」は特段の観念を有しない造語であり、また、「CARTELO」の欧文字を除けば横長矩形図自体ありふれたものであって、いずれも「本件ワニ図形」とは直接的な繋がりを何ら有しない部分であることは明白であるから、必ずしも本件商標を全体として一体のものとして観察する必要性はない。本件商標において、「本件ワニ図形」は、横長矩形図と常に一体のものとして認識されるとはいえず、これとは分離して観察されるべきものであり、「本件ワニ図形」は、それ自体単独で自他商品等識別機能を発揮する、本件商標の要部のひとつを構成している。また、「本件ワニ図形」は、「CARTELO」を表した横長矩形図に対し、その胴ないし尾の部分が重なるように描かれてはいるが、引用商標の左向きワニの図形と外観上、構成の軌を一にする共通要素が多いものであり、ここから「クロコダイルのワニ(鰐)」という称呼及び観念も生じうることに加え、この外観、称呼及び観念上の要素は引用商標の左向きワニの図形が有する「クロコダイル印のワニ」としての著名性に通じるから、「クロコダイル」ブランドが、取引者・需要者の間で「クロコダイル印のワニ」として著名であるという取引の実情を考慮すると、本件商標に接した取引者又は需要者は、「CARTELO」を表した横長矩形図とは別に、「本件ワニ図形」にも印象付けられ、ここから「クロコダイル」ブランドの著名性に通じる「クロコダイルのワニ(鰐)」の称呼及び観念をもって取引に当たると考えられる。
(エ)本件商標のうち、「本件ワニ図形」が要部であることは、以下の事実に照らしてみても明らかである。すなわち、被請求人は、もともと「CARTELO」の文字商標について登録商標を有しており(登録第2449774号:甲第46号証)、その後、「CARTELO」の文字をゴルフ場のパッティンググリーンとピンフラッグの図形と結合した商標を複数登録し(登録第2521479号ほか:甲第47号証ないし甲第51号証)、さらに本件商標を構成する「CARTELO図形」のみからなる商標を登録している(商標登録第4152337号:甲第52号証)。かかる商標採択の経緯に照らしてみれば、本件商標は、登録第4152337号商標に、別の独立した構成要素として「本件ワニ図形」を結合したものに他ならず、「本件ワニ図形」こそ本件商標の要部であること、少なくとも「CARTELO図形」と「本件ワニ図形」のそれぞれが独立して自他商品識別機能を発揮する要部であることは明らかである。
(オ)さらに加えて、商標法第4条第1項第11号の商標審査基準上、著名商標を一部に含む商標の類否について、「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする。」(甲第53号証)としていることに照らすと、本件商標は、引用商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用された場合に、取引者や一般需要者によりそれらの商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがある程度に似ているといわざるを得ない。
(カ)本件商標が、引用商標とは、要部の外観、称呼及び観念が共通する類似商標である点は、過去の裁判例及び審決例に照らすことでより明らかとなる(甲第54号証ないし甲第59号証)。
よって、本件商標は、図形部分と文字部分が常に一体に把握されるという特段の事情もなく、図形部分と文字部分がそれぞれ独立して自他商品等識別標識としての機能を果たす商標であるといえるから、本件商標と引用商標とは、それぞれの要部の外観、称呼及び観念が共通する類似商標である。
エ 本件商標と引用商標の指定商品の類否
本件商標に係る指定商品中「ジャンパー,ジャケット,ウィンドブレーカー,スーツ,ワンピース,スカート,短ズボン,その他のズボン,ロンパース,カマーバンド,その他の洋服,オーバーコート,その他のコート,カーディガン,チョッキ,その他のセーター類,ティーシャツ,ポロシャツ,ブラウス,その他のワイシャツ類,ナイトガウン,パジャマ,バスローブ,その他の寝巻き類,タンクトップ,ボクサーショーツ,ブリーフ,キャミソール,コルセット,シュミーズ,ガードル,パンティガードル,スリップ,パンツ,ブラジャー,ペチコート,袖なしアンダーシャツ,その他の下着,水泳着,水泳帽,エプロン,布製幼児用おしめ,よだれかけ,タイツ,パンティストッキング,その他の靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ボータイ,耳覆い,保温用マフ,サンバイザー,ボンネット,ベレー帽,その他の帽子,その他の被服」は,引用商標1に係る第25類「洋服,オーバーコート,レインコート,股引き,きゃはん,帽子,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,シャツ,じゅばん,ずぼん下,手袋,靴下,カラー,カフス,ネクタイ,えり巻き,巻ゲートル」と同一又は類似する商品であり、引用商標2ないし5に係る第25類「被服」に含まれる商品である。また、本件商標に係る指定商品中「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」は、引用商標1に係る第25類「ガーター」と同一又は類似する商品である。
よって、本件商標は、引用商標の指定商品と同一又は類似する商品を指定するものである。
オ 登録出願の先後関係
本願商標は、平成13年9月25日に登録出願されたものである。一方、引用商標は、いずれも本願商標よりも先に登録出願され、登録されたものである(甲第2号証ないし甲第6号証)。したがって、本件商標は、引用商標が登録出願された日後に登録出願されたことは明らかである。
カ 小括
以上のとおり、本件商標は、その登録出願日前の商標登録出願に係る請求人の先行登録商標である引用商標に類似する商標であり、また、引用商標に係る上記指定商品と同一又は類似の指定商品について使用をするものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 出所の混同のおそれ
商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者・需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者・需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものであるとされている(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁、甲第60号証)。
そこで、上記最高裁判所判決が判示する判断基準に沿って、本件商標が引用商標との間で出所の混同を生じさせるおそれについて検討する。
イ 本件商標と引用商標の類似性の程度
本件商標は、上記(2)アのとおり、「CARTELO図形」と「本件ワニ図形」を結合してなる。そして、「CARTELO図形」と「本件ワニ図形」との間に観念的なつながりはなく、外観上、両図形は部分的に重なり合ってはいるものの、それ以上にデザイン上の有機的な一体性が認められるものではないから、両図形を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。このような構成の本件商標に接した一般需要者が、何ら意味を有しない「CARTELO」の語や、ありふれた色彩・図形の組合せであって特段注意を喚起する点のない横長矩形図形のみに注意を払い、本件商標を単に「カーテロ(カルテロ)」とのみ把握し、そのようにのみ称呼して取引に及ぶと考えることは極めて不自然である。むしろ、需要者は、覚えやすく親しみやすい「ワニ」の図形に注意を惹かれる結果、「本件ワニ図形」を本件商標の唯一の要部として把握するか、少なくとも、「本件ワニ図形」と「CARTELO図形」の2要素を、それぞれが独立して自他商品識別機能を発揮する要部として把握するとみるのが自然である。
したがって、本件商標からは「本件ワニ図形」が要部として認識され、「ワニ」の称呼及び「ワニ(鰐)」の観念が生じる。
他方、引用商標は、いずれも左側を向いて顎を開き、上方に振り上げた尾を同じく左側に伸ばしたワニの図形を顕著な要部として有する商標である。 よって、いずれの引用商標からも「ワニ」の称呼及び「ワニ(鰐)」の観念が生じる。
そこで両商標を対比するに、両商標から生じる称呼及び観念は全く同一であるうえ、要部であるワニ(鰐)の図形部分を対比すると、両ワニ図形は、いずれも口を開いて尾の先端を前方に向けた左向きのワニの姿態を描いた点を基本的構成態様とし、その着想や、ワニがやや右上がりに配置されているという構図についても共通するため、外観上、構成の軌を一にする共通部分を有し、著しく類似する。
そうすると、本件商標と引用商標は、それぞれの要部を構成する「左向きワニの図形」において、称呼及び観念が同一で、外観上酷似するものである。
ウ 引用商標の周知著名性及び独創性の程度
引用商標が高い周知著名性を有する点、とりわけ、引用商標を構成する「左向きワニの図形」が請求人によって永年大々的にワンポイントマークとして使用された結果、その強い記銘力によって、請求人の「クロコダイル」ブランドを指標する商標として取引者・需要者の間に定着している点については、既に述べたとおりである。引用商標の独創性の程度について、引用商標のうち最も早い出願日を有するものは昭和34年4月27日に登録出願された引用商標1であるが、昭和34年当時、被服類に用いられる商標として、は虫類が採用されることはほとんどなく、引用商標1は、口を開いて尾の先端を前方に向けた左向きのワニの姿態を描いているという基本的構成においても、ワニがやや右上がりに配置されているという構図についても、登録出願当時は他に類をみない斬新なデザインであった。
したがって、この左向きワニの図形を共通して描いた引用商標は、いずれも独創性にあふれた極めて斬新なものである。
エ 商品間の関連性、取引者、需要者の共通性
商品間の関連性、取引者、需要者の共通性について、引用商標は、紳士向けカジュアルウェアを中心とする被服類全般を含むファッション関連商品について使用されるものである。これに対し、被請求人が本件商標を使用することを企図している商品も、紳士向けカジュアルウェアを中心とする被服類全般である。すなわち、本件商標と同様に、「CARTELO」の欧文字と「本件ワニ図形」を表した商標を付した紳士向け用のポロシャツ等が被請求人又はその関係会社によって中国で製造販売されており(甲第61号証)、その一部の商品の輸入が請求人の商標権侵害物品に該当する輸入禁制品として名古屋空港税関で差し止められた事実がある(甲第62号証)。
したがって、本件商標と引用商標は、それぞれ紳士向けカジュアルウエアを中心とする被服という同一の商品に使用されるものであるから、商品間の関連性が極めて高いことはいうまでもなく、当然にその取引者及び需要者の範囲は一致する。
オ 本件商標の指定商品の需要者において普通に払われる注意力その他取引の実情
本件商標の指定商品は日常的に消費される商品であること、その購入者には必ずしも商標やブランドについて詳細な知識を持たない者も多数含まれることに加え、商品の購入に際し、メーカー名などについて常に注意深く確認するとは限らず、小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないことからすれば、需要者が商品購入時に払う注意力は高いものではない(東京高等裁判所平成17年4月13日判決(平成17年(行ケ)第10230号)、甲第63号証)。
また、被服類の商品分野では、商標がワンポイントマークとして使用されうることも少なくなく、現実に、請求人は引用商標(とりわけ引用商標2及び3)をワンポイントマークとして使用しており(甲第13号証及び甲第28号証)、被請求人も本件商標をワンポイントマークとして使用している(甲第61号証及び甲第64号証)。ワンポイントマークは商品に小さく表示されて取引に資される取引の実情があるから、例えば本件商標においては、引用商標に比べるとワニの図形がやや簡略化されている程度の相違点は容易に捨象されることとなる。これらを勘案すれば、本件商標がワンポイントマークとして使用された場合には、これに接した需要者等は、商品購入時に商標を構成する細部にまで注意点を向けることなく、むしろ、「本件ワニ図形」の基本的構成をとらえ、そこから受ける覚えやすく親しみやすい「ワニ」の印象及び過去に購買した際の記憶に基づいてその商品を選択ないし購買すると考えるのが自然である。
さらに、請求人は、2002年秋に女性向けの「クロコダイル・レディス」(甲第10号証の3)を、2005年秋に「スウィッチ・モーション・クロコダイル・スポーツ」(甲第10号証の5)等を発表し、「クロコダイル」ブランドの複数の派生ブランドを展開していることから、請求人の商標として周知・著名な「クロコダイル印のワニ」を要部とする本件商標に接した取引者・需要者は、それが請求人の「クロコダイル」ブランドの新しいシリーズ商品(甲第10号証の2)或いは兄弟ブランドではないかと誤認、混同するおそれがある。
カ 特許庁における審査基準
商標法第4条第1項第15号に関する商標審査基準上、「他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して取り扱うものとする。」とされている(甲第65号証)。「左向きワニの図形」が「クロコダイル印のワニ」として、請求人の著名ブランド「クロコダイル」の商標として取引者・需要者の間に広く認識されていることに鑑みれば、「左向きワニの図形」を他の構成要素と単純に結合した本件商標は、上記審査基準上にいう「他人の著名な商標と他の文字又は図形を結合した商標」に該たり、その外観構成がまとまりよく一体に表されていると否とにかかわらず、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標として、商標法第4条第1項第15号により排除されなければならない。
キ まとめ
上記のとおり、(ア)本件商標と引用商標が、これらの商標に接する需要者の注意を惹き、親しみやすく印象に残りやすい「左向きのワニ」の外観・称呼・観念を共通にする点において、高い類似性を有すること、(イ)引用商標が請求人の取扱いに係る「クロコダイル」ブランドの商標として我が国において45年間にわたって使用され、本件商標の登録出願時及び審決時において極めて著名であったこと、(ウ)引用商標における「左向きワニの図形」の独創性が高いものであること、(エ)本件商標の指定商品と引用商標が使用されて著名性を獲得した商品がいずれも紳士向けカジュアル衣料を主とする被服であって、同一であること、(オ)被服の中でも、本件商標や引用商標が使用されるカジュアル衣料は、比較的安価で日常的に売買される商品であって、需要者がその取引に当たって払う注意力が高いものではなく、さらに本件商標及び引用商標がワンポイントマークとして使用されるという取引の実情があること、及び(カ)特許庁商標審査基準を総合して考慮すると、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者・需要者は、本件商標のうち「本件ワニ図形」に着目して、著名な引用商標及び「クロコダイル印のワニ」を想起・連想し、あたかも請求人若しくはその関連会社の取り扱い業務に係る商品又はそのシリーズ商品であるかのごとく、請求人が展開する「クロコダイル」、「クロコダイル・レディス」等の「クロコダイル」ブランドのひとつであると認識して取引にあたり、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
ア 引用商標の周知著名性
上記(1)のとおり、引用商標及び「クロコダイル印のワニ」は、本件商標の登録出願時及び審決時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、取引者及び需要者の間に極めて広く知られた著名商標であった。
イ 本件商標は引用商標に類似する。
上記(2)ウのとおり、本件商標と引用商標とは、それぞれの要部である「左向きワニの図形」から生じる「ワニ」の称呼及び観念において同一であり、その外観が酷似するから、相互に類似する商標である。
ウ 被請求人は本件商標を不正の目的をもって使用するものである。
本号にいう「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)」とは、図利目的・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的のことをいうとされる(甲第66号証)。以下に述べるとおり、本件における諸事情等を考慮するならば、請求人が本件商標を不正の目的をもって使用するものであることは明らかである。
(ア)本件における諸事情
(a)引用商標1の商標権に係る経緯
上記(1)アのとおり、請求人は、もともと、シンガポール国籍のリー社が保有していた引用商標1の使用について、リー社から許諾を得ていた独占的通常使用権者であり(甲第7号証)、昭和51年のリー社との契約及び昭和52年2月14日付けの設定登録により引用商標1の専用使用権者となった(甲第8号証)後、昭和55年4月21日付けの移転登録で、リー社より引用商標1の商標権を譲り受けた(甲第2号証の2)。
そして、請求人は、その後は引用商標1を、引用商標2ないし5とともに、自己の商標として使用し、我が国で「クロコダイル」ブランドの信用及び名声を蓄積してきた。
一方、リー社はその後名称をクロコダイル・インターナショナル・プライベイト・リミテッドと改称(甲第67号証)し、またヤマトシャツ株式会社との間で専用使用権協定書(甲第9号証)が結ばれた当時、リー社の取締役社長として契約書に署名したTANHIAN-TSIN(陳賢臣)氏は、現在も被請求人の実質的な代表者である(甲第67号証)。被請求人は、我が国を除くシンガポールや中国等において、引用商標1と同一の商標を現在に至るまで被服等の商品について使用している(甲第64号証)。すなわち、引用商標1は、我が国では請求人が保有する登録商標として使用し、我が国以外の地域では被請求人の商標として使用されているものであって、長年にわたり、請求人と被請求人によって、事実上、それぞれ明確な「地域的棲み分け」をもって用いられてきたものである。
(b)引用商標の著名性及び顧客吸引力についての被請求人の認識
上記(a)に述べた経緯に照らせば、我が国以外の地域で引用商標1と同一の商標を永年使用してきた被請求人が、本件商標の構成中、「左向きワニの図形」こそ自他商品識別機能を発揮する部分であり、当該図形が日本国内で高い著名性と顧客吸引力を有するものであることを知っていたことは明白である。
(c)被請求人による不自然なすりより
被請求人は、もともと「CARTELO」の文字商標を登録していたものであり(登録第2449774号:甲第46号証)、その後、本件商標の構成中の「CARTELO図形」のみからなる登録第4152337号商標を取得し(甲第52号証)、更に進んで、登録第4152337号商標に「本件ワニ図形」を結合した本件商標を出願、登録したものである。しかし、「本件ワニ図形」と「CARTELO」の文字の間には何ら関連性がなく、本件指定商品との関係で「本件ワニ図形」が商品の品質表示や用途表示であるという事情はないから、このような商標採択経緯に照らせば、被請求人が、自己のブランド「CARTELO」から、「クロコダイル」ブランドの出所表示として高い著名性と強力な顧客吸引力を有する「左向きワニの図形」に不自然にすりよったものであることは明白である。
(d)本件商標の出願経過に関する被請求人の請求人に対する虚偽の説明
被請求人は、本件商標の登録出願前の平成13年9月5日に、請求人に対してファクシミリによるレターを送付した(甲第68号証の1)。当該レターにおいて、被請求人は、要旨「日本で本件商標を出願するが、この出願は、中国で被請求人が本件商標と同一の商標を出願したのに対してラコステ社が本件商標がラコステ社商標に類似するとして登録異議の申立てを行ってきたところ、弁護士からの本件商標を日本で出願するべきであるとの助言にしたがって行うものである。本件商標の日本での出願に対しては、ラコステ社と請求人が登録異議の申立てを行ってくるであろうと認識しているが、請求人と被請求人との永年の協力関係に鑑みて、上記事情を理解して登録異議の申立てをしないで欲しい」と記載されていた。このことは、被請求人自身、本件商標が引用商標と相紛らわしいものであることを自認していたことに他ならない。なぜならば、そのように理解しなければ、被請求人が請求人に対し、予め登録異議の申立てをしないように要請をしたことを合理的に説明することができないからである。上記に対し、請求人は、平成14年2月13日付けレターで、被請求人の申し出を断った(甲第68号証の2)。
さらに、平成16年3月2日、請求人は、被請求人の当時の代表者であったAng Boon Tian氏(アン・ブーン・チャン氏:甲第67号証)と会談し、本件商標を登録出願した被請求人の目的について質した。これに対して被請求人は、「日本における『CARTELO』商標の出願は、日本市場の進出を目的としたものではない。」と述べ、当時中国で行われていたフランスのラコステ社との係争に関連して、日本での本件商標出願に対して「ラコステ社が『CARTELO』と『ラコステ』が同一の商標と主張して異議申立をしてくればラコステ社の矛盾を主張するつもりだった」と説明した(甲第69号証)。
ところが、本件商標が登録されると、被請求人は、「中国での紛争を理由とするもの」、「日本市場の進出を目的としたものではない」との従前の説明を翻し、請求人に対して「登録されましたCARTELOブランドに関して、日本で一緒にやっていく可能性を探求したい」として請求人代表者との面談を申し入れてきた(甲第70号証)。被請求人は、当該レターの中で「我社クロコダイルインターナショナルが他社と手を組むことになる前にヤマトが上記(b)に関して興味をもっていただけるかどうか知りたく、この手紙を書いています」と述べ、請求人が被請求人との取引に応じない場合には、本件商標の使用を他社に許諾することをほのめかした。
(e)被請求人による本件ワニ図形を強調した本件商標の変更使用
被請求人の関係会社が提供するインターネットホームページ上に表示されている商標(甲第61号証の1)、商標を付した商品及び上海の直営店を紹介した個人サイト上に表示された商標(甲第61号証の2)や、請求人が中国国内に所在する被請求人の直営店で人手した商品の包装箱に付された商標(甲第64号証)、あるいは上記名古屋空港税関で差し止められた商品に付された商標(甲第62号証)などをみれば明らかなとおり、被請求人は、「本件ワニ図形」を下に、「CARTELO図形」を上に重畳させた構成からなる本件商標とは反対に、「CARTELO図形」を下に、「本件ワニ図形」を上に重ねることによって、「本件ワニ図形」を「CARTELO図形」よりも浮き立たせ、「本件ワニ図形」のほうがより目立つ態様で当該商標を用いている。我が国においても、インターネットオークションなどを利用する一部の個人輸入業者が被請求人の「CARTELO」ブランド商品を取り扱っている様子がインターネット上で確認できる(甲第61号証の3)が、その掲載商品に付された商標をみると、本件商標と比較して、より一層「本件ワニ図形」の方が「CARTELO」の文字よりも主体的に表され、「CARTELO」の欧文字は「本件ワニ図形」に埋没してほとんど目立たない態様で用いられている。しかも、商品の包装形態によっては、被請求人の略称である「Crocodile International」の欧文字や引用商標3と同一の左向きワニの図形が、「CARTELO」の欧文字を表したワニ図形の商標の近傍に表わされている(甲第62号証及び甲第64号証)。
上記のように、「CARTELO図形」に隠れるように「本件ワニ図形」を表した本件商標が、現実には「本件ワニ図形」の部分を「CARTELO図形」よりも強調した態様や、「Crocodile」の欧文字の近傍で用いられている事実に照らすと、我が国において被請求人が真に使用しているあるいは使用しようとしている商標は、「本件ワニ図形」を下に「CARTELO図形」を上に重畳させた構成からなる本件商標そのものでなく、「本件ワニ図形」を「CARTELO図形」よりも浮き立たせ、「本件ワニ図形」のほうがより目立つ態様で表された商標であることは明らかである。需要者がこのような使用商標に接した場合には、「CARTELO図形」や「CARTELO」の文字は容易に捨象され、請求人の著名な商標である「クロコダイル印のワニ」に酷似する「本件ワニ図形」に着目して、これらの使用商標から請求人の著名な引用商標及び「クロコダイル印のワニ」を想起・連想し、「クロコダイル印のワニ」と誤認するおそれが極めて高い。
(イ)上記の本件における諸事情等から認定できる被請求人の不正の目的
(a)被請求人の不正の目的1(取引等の不当な強要)
上述したとおり、本件において、請求人が使用する引用商標が日本において高度の著名性と強い顧客吸引力を有することを十分に知悉した被請求人は、予め請求人に対して「異議申立をしないで協力して欲しい」と依頼(甲第68号証)するほど引用商標と相紛らわしい本件商標を登録出願し、その出願経過においては「中国での訴訟戦略上出願したにすぎず、実際に日本で使用する意図はない」(甲第69号証)などと説明をして請求人を欺き、一旦商標登録を取得するや否や、自ら「永年にわたる協力関係にあった」と自認する請求人に対して、先に提示した説明を翻して本件商標の日本での使用を開始すると述べ、請求人が被請求人との取引に応じなければ、他社と事業を行うとほのめかしてきたものである(甲第70号証)。
このような状況下において、請求人としては、本件商標の登録の適法性が認められた場合には、被請求人による引用商標の有する顧客吸引力への不当なフリーライド等を防ぐためには、自ら使用する予定も必要性もないのにかかわらず、被請求人とライセンス契約を締結するか、又は、本件商標を買い取るかといったことを検討せざるを得なくなる。以上からすれば、本件商標の出願・登録は、被請求人が、自己に有利な条件での取引を請求人に強要することを目的としたものであったことは明白である。
また、かかる被請求人の行為は、昭和38年に遡る引用商標1の使用許諾関係(甲第7号証)、引用商標1の譲渡契約(甲第9号証)、さらには、引用商標1の譲渡後の商標使用に関する事実上の地域的棲み分けを通じて、請求人と被請求人との間に成立している信頼関係をないがしろにし、取引上の信義則に反するものであって、到底許されるものではない。
(b)被請求人の不正の目的2(フリーライド及び希釈化)
さらに、上記経緯に照らせば、被請求人としては、本件商標の使用について請求人が被請求人とのライセンス契約の締結を拒絶した場合には、予め請求人に対して「登録異議の申立てをしないで欲しい」と要請するほどに請求人の引用商標に相紛らわしいと被請求人が自認する本件商標を、他の事業者とともに日本国内で使用することによって、請求人の永年不断の努力によって培われた引用商標の著名性及びその顧客吸引力に便乗し、かかる「ただ乗り」行為によって不正の利益を得、さらには引用商標を希釈化し、請求人に損害を与えることを企図していたことは明らかである。このことからすれば、本件商標の出願・登録は、請求人の引用商標に対するフリーライド及び希釈化を目的としたものであったということもできる。
なお、上記(ア)(e)のとおり、被請求人は、中国において、本件商標に関し本件ワニ図形を強調したものに変更し使用している(甲第61号証及び甲第64号証)が、今後は、日本においても、本件商標が登録されたことを奇貨として、本件商標を変形したものを使用することが十分予想される。この場合には、需要者は、本件商標そのものが使用される場合に比べ、請求人の著名な引用商標及び「クロコダイル印のワニ」を想起・連想し、「クロコダイル印のワニ」と誤認するおそれがより一層高くなることはいうまでもない。被請求人による本件商標の出願・登録の目的として、このような違法性の高い商標の使用を日本においても容易にすることもあったことは明白である。
エ まとめ
以上の次第で、本件商標は、周知著名な引用商標に類似する商標であって、被請求人が不正の目的をもって使用するものであることは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 本号にいう「公序良俗を害するおそれがある商標」
商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、「(a)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、当該商標の使用が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれる」とされる(知的財産高等裁判所平成18年9月20日判決(平成17年(行ケ)第10349号):甲第72号証)。
上記「(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」についての判決、審決おいては、商取引を通じて商標の使用を欲する他人の存在を知悉し、当該他人と接点を有する者が、我が国商標法が建前とする先願登録主義と商標権による排他的効力を濫用して、当該他人との交渉を有利に運び又は自己の事業に利することを専ら目的として取得された商標は、商標法第4条第1項第7号にいう「公序良俗を害するおそれのある商標」に該たると判断されている(甲第73号証ないし甲第75号証)。
イ 本件商標の登録出願の経緯
(ア)請求人と被請求人の関係
請求人が引用商標1の商標権者となった経緯は、上記(1)アのとおりである。
被請求人は、引用商標1と同一の商標を日本以外の諸外国で使用する法人であり(甲第61号証及び甲第64号証)、引用商標1を請求人に譲渡したリー社が名称を変更したものである(甲第67号証)。また、被請求人の代表者は、リー社が請求人と上記専用使用権の使用許諾契約を締結した際、専用使用権協定書(甲第9号証)に署名するなど、請求人との取引関係に直接関与した者である。さらに、引用商標1の譲渡が行われた(甲第2号証の2)後、今日に至るまで、請求人と被請求人の間には、引用商標1ないしこれと同一の商標を、日本国内においては請求人が、日本国外の諸外国においては被請求人が、それぞれ排他的に使用する「地域的な棲み分け」を行うという国際取引関係が維持されている。したがって、被請求人は、請求人が我が国における引用商標1の使用権限が請求人に独占排他的に帰属すること、引用商標1が日本国内において昭和38年以来ほぼ半世紀にわたり請求人によって日本国内で継続的かつ大々的に使用されてきた結果、高度の著名性と顧客吸引力を有する商標となっていること、請求人が引用商標1の保護に重大な関心を有していることについて十分に知悉していた。
また、被請求人が日本国外の諸外国において「左向きワニの図形」を要部とする引用商標1と同一の商標を使用している(甲第61号証及び甲第64号証)ことからすれば、被請求人は、本件商標構成中の「本件ワニ図形」こそが需要者の注意を惹き、商品の出所を識別する標識として機能する要部と認識されることについても十分に知悉していた。
(イ)登録出願の経緯
被請求人は、本件商標の登録出願前の平成13年9月5日に、上記(4)ウ(ア)(d)のとおり、請求人に対して、「永年の協力関係に鑑みて」本件商標に対して登録異議の申立てを行わないように要請した(甲第68号証)。このことはとりもなおさず、被請求人が、(a)請求人と被請求人との間に取引上の信頼関係が存在すること、(b)本件商標が、請求人が使用する引用商標に類似し、出所の混同を生じるおそれのある商標であること、(c)被請求人が本件商標を登録・使用することに対して、請求人が引用商標の保護の観点から極めて重大な関心と懸念を抱くであろうことを認識していたことを示している。この際、我が国において引用商標を使用する権限を専有する請求人にしてみれば、当然、自己の商標と相紛らわしい商標の併存登録を認めなければならない理由は何ら存在しないところ、被請求人による要請に請求人が応じるべき理由として、被請求人は、(a)本件商標が中国での法的紛争を有利に運ぶための便宜的なものにすぎず、日本国内で本件商標を使用することを意図したものではないこと、及び(b)請求人と被請求人との間の永年にわたる協力関係を上記レターにおいて掲記した(甲第68号証)。
本件商標が登録出願された後、被請求人による要請を拒絶した請求人が本件商標の登録を阻止するために平成14年4月19日付けで刊行物等提出を行ったところ、被請求人は、平成16年3月2日に行われた会議の席上で、再度、本件商標が中国での法的紛争を有利に運ぶための便宜的なものであって、日本国内で本件商標を使用することを意図したものではないと表明した(甲第69号証)。その上で、被請求人は請求人に対して「特許庁に対する異議申立を取り下げてほしい」と要請したのである(なお、会議記録上「異議申立」と記載されているが、時期的な前後関係から判断して、これは請求人による刊行物等提出のことを指している)。
ところが、本件商標が商標登録され、請求人及びラコステ社による登録異議の申立て(異議2006-90393)に対して登録を維持すべき旨の決定がなされると、「日本国内で使用することを意図したものではない」との従前の表明を翻して、被請求人は、請求人に対して共同で本件商標を使用した事業を開始することを提案し、請求人がこれに応じない場合には、他の事業者に本件商標の使用を許諾するとの意思表示をした(甲第70号証)。
ウ 本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあることについて
上記請求人と被請求人との関係及び本件商標の登録出願の経緯に照らせば、本件商標が、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものであることは明らかである。
すなわち、本件商標が客観的に引用商標に類似するものであると否とにかかわらず、被請求人が主観的に本件商標が引用商標と相紛らわしいもの、少なくとも、引用商標の商標権者である請求人に本件商標に対して重大な関心と懸念を抱かせるものであると認識して本件商標を登録出願したことをもって、本件商標の登録出願には不正の目的があったという他なく、社会的相当性を欠くものがある。
エ 被請求人による契約違背
さらに、昭和54年に請求人とリー社の間で締結された引用商標1に係る商標権の譲渡契約(甲第9号証)は、商標権が更新を繰り返すことによって半永久的に維持される永久権たる法的性質を有することに照らせば、当然に、リー社が引用商標1及びその類似商標の独占的使用を請求人に半永久的に認める旨の合意を含むものである。そうとすれば、引用商標1の商標権の移転登録後は、リー社は、我が国において引用商標1及びその類似商標についてその登録も使用も企図せず、その他、請求人が平穏に引用商標1を独占排他的に使用することを阻害したり、意図的に引用商標1の出所表示力を希釈する行為等、引用商標1の経済的価値を毀損する行為を為さない旨を黙示的に合意したと考えられるのであるから、リー社が名称変更をした同一法人であり、日本国外の諸外国で引用商標1と同一の商標を使用している被請求人が、かかる契約上の義務を負担するものであることは明らかである。ところが、本件商標は引用商標1の出所表示力を希釈化し、引用商標1の経済的価値を毀損し、請求人が我が国において平穏に引用商標1の使用権限を専有することを脅かすものであるから、本件商標は、商標権の譲渡に関する契約当事者間の黙示の契約ないし商標権譲渡契約(甲第9号証)の本旨に違背して登録出願されたものである。
したがって、本件商標の登録出願は、取引者間で締結された契約を踏みにじる行為であり、このような商標の登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認されるものではないことは明らかである。
オ 小括
以上のとおり、本件商標は、被請求人が請求人に対して虚偽の説明をし、取引上の信義則に違反して出願されたものであり、また、本件商標の登録出願は、引用商標1を中核とする「クロコダイル」ブランドの譲渡に関して取引者間で締結された契約をないがしろにするものである。さらに、被請求人が過去に手放した引用商標1ひいてはこれに含まれる左向きワニの図形商標に対して、その周知性や顧客誘引力に着目し、その顧客誘引力を少しでも横奪しようとする目的で出願されたものであるから、そのような商標登録出願は、健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり、このような商標の登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものとして、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 結び
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第11号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第4号証を提出している。
1 本件商標採択について被請求人が配慮した特段の事情
被請求人は、いくつかのワニ図形の商標が日本で並存している状況下で、本件商標と他人の「わに又はワニ又は鰐の文字を含む商標」や引用商標のような「ワニの図形」若しくは「ワニとおぼしき図形」との間に取引者・需要者が商品の出所を誤認混同することがあってはならないとの強い認識のもとに本件商標を採択した。
換言すると、仮に、現実に本件商標と引用商標との間に取引者・需要者の出所混同や両者間に資本関係等何らかの関係があると誤認された場合、引用商標の商標権者もさることながら、なによりも被請求人自身、ひいては需要者の利益も損なわれることになる。そもそも、需要者が出所の混同に陥るのを未然に防止することは被請求人等メーカーの担うべき最も基本的義務であるというべきである。そして、ここにいう義務とは法律上の義務というよりは、より広い道義的義務というべきものである。被請求人は、このことを十分に認識して採用したのが本件商標であり、本件商標を採択する上で下記大阪地裁の判断を尊重したものである。
すなわち、本件指定商品中の「被服」の分野において、鰐の図形を構成要素として含むからといって、そのことをもって直ちに取引者・需要者が両者を取違えるとはいえないことが、大阪地裁昭和44年(ワ)2333号商標権侵害禁止等請求事件における判決で説示されている(乙第1号証)。この事件では、市場における需要者の混同(広義の混同)を防止して商標の使用をする者の業務上の信用を維持し、併せて需要者の利益を保護するという商標法の法目的に即して、両当事者のワニ図形の類否や出所混同のおそれの存否について普遍性のある判断が示されている。すなわち、上記商標権侵害事案においては、裁判所は、ワニの図形を含む商標やワニの観念を持つ商標が併存している事実を参酌し、原告の「ワニの図形部分」と「Crocodileの英文字部分」とが結合した構成全体として特別顕著性を有し、その構成全体としての外観、称呼、観念が生じるものとして、原告商標は、「ワニの図形部分」と「LACOSTEの文字部分」若しくは「CHEMISE LACOSTEの文字」とを結合させてなる被告商標とは区別できると判断した。
ちなみに、被請求人の新商標である本件商標は、既に中国その他の東南アジア諸国において商標登録及び出願がされている(乙第2号証)。
被請求人は、1947年から衣料ビジネスをスタートさせ、異なる需要者層に合う商品を提供し、絶え間なくその商品群を拡大してきた。このために、被請求人は、「CARTELO」、「CARTELOと図形」、「Crocokids」、「AIKO」、「Cezanne」(審決注:2文字目の「e」には、アクサンテギュが付されている。)等の一連のブランドを創設した。これらの商標の一部を別紙に列挙した(乙第3号証)。異なる商標を使用する被請求人の根本的意図は、需要者の混同を招くことではなく、日本であろうと他の国であろうと多様な需要者層の多様なニーズに応えるものである。競争が激しく、絶え間なく変わる小売ビジネスの事情に鑑み、被請求人の創始者Dato Dr.Tan Hian-Tsin氏はこのような戦略を構想して1990年代から本件商標の積極的な使用を開始した。
他方、被請求人が引用商標に蓄積した信用にただ乗りする意図があるとしたならば、被請求人が本件商標の宣伝に何億ドルも投じるはずがない。本件商標の宣伝の過程において、被請求人は政府当局から絶えず表彰を受けてきた(乙第4号証)。
被請求人は、日本は登録主義であり、事業を立ち上げる前にまず商標登録を受ける必要があることを考慮して、本件商標の登録出願より前に日本での本件商標の使用を行わなかった。この事実は、被請求人が、通常の方策ではなく、日本の法律に沿った方策を採ったとして、好意的に解釈されるべきものである。
上記大阪地裁判決の説示に従えば、「鰐とおぼしき図形」を含む商標は全て類似するとの判断は妥当でなく、本件商標と引用商標の間に出所混同を招く要因は見いだせないとの結論に達するほかないことをうかがわせるものである。
けだし、本件商標は、誰の目にも顕著な特徴であると認識される「緑・紺・赤に3区画した帯状図形要素」と、「CARTELO」の文字要素と、「CARTELO」の文字より5分の1小さく、かつ、一体に重なるように配した「線描きしたワニとおぼしき図形要素」と渾然一体視されるように配慮して全体を構成することにより、取引者・需要者が本件商標を見て単なるワニの図形商標であると認識することが無いように手当てしてある。これにより、本件商標と他人のワニ系商標との差別化は十分達成されていると考える。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標及び引用商標の称呼及び観念の特定
本件商標は、緑・紺・赤の3色に色分けした帯状図形内に、ゴシック体で「CARTELO」の文字を白抜きで大書して表し、この文字部分と一体に重なるようにワニとおぼしき図形を線描きして全体を構成したものであって、その構成全体がまとまりよく一体的に表現されているものである。そして、これらの大書された欧文字部分は、いずれもゴシック体の大文字であって書体を同一とし、各文字の大きさは同じであり、各文字はいずれも白色であり、かつ、「CARTELO」なる一語として認識できるように密間隔に連綴されている。かかる構成からすると、本件商標は、その構成中にワニ図形が描かれているとしても、殊更、該ワニの図形部分のみを捉え、これより「ワニ」の称呼及び「鰐」の観念を生ずるとみるのは、不自然であって、むしろ構成全体をもって、一体不可分のものとして取引に資されるものというべきである。
そうすると、本件商標は、図形部分からは、特定の称呼及び観念は生じないというべきであるが、その構成中の帯状図形内に大きく書された「CARTELO」の文字は造語であり、特定の既成観念を有する成語ではないものの、容易に判読することができるものであるから、これより「カーテロ」の称呼を生ずるものといえる。
したがって、本件商標は、その構成中の「CARTELO」の文字部分から「カーテロ」の称呼を生ずる以外には、既成の親しまれた称呼及び観念は生じないものというのが相当である。
他方、引用商標は、そのほとんどが文字を伴い、それぞれの構成に照らし、「クロコダイル」、「ワニ」又は「ワニジルシ」の称呼及び観念を生ずる。
(2)本件商標と引用商標の外観上の差異
本件商標と引用商標とは、それぞれの構成に照らし、外観上判然と区別し得る差異を有するものであり、本件商標と引用商標が外観上相紛れるおそれはない。
ア 引用商標1、4及び5中の図形はいずれも、本件商標のように文字と重なったものではなく、図形はすべて文字部分から独立している。一方、本件商標中の図形は、その輪郭のみが「CARTELO」の文字に重なって描かれており、しかも当該図形部分は文字部分に比して5分の1の小ささであり、印象に残るのは「CARTELO」の文字部分である。すると、取引者・需要者は、当該図形部分のみを抽出してこれを「クロコダイル」や「ワニ」、「ワニジルシ」と認識するというよりは、「CARTELO」の文字部分を度外視し難い主たる構成要素であると認識するとみるのが自然である。また、引用商標1及び4は「Crocodile」の文字を、引用商標5は「Crocodile」及び「CLASSIC LABEL」の文字を伴うので、それぞれ本件商標と区別できることはより明確である。
イ 引用商標2及び3は、いずれも図形のみからなり、本件商標のように文字部分が大部分を占める構成とは、明らかな差異を有する。
ウ ところで、請求人は、本件商標の図形部分のみを捉えて、引用商標のワニ図形と基本的構成態様が共通すると主張するが、本件商標の図形部分と引用商標の図形部分は具体的な構成態様において全く異なる。すなわち、本件商標のワニとおぼしき動物は、その輪郭のみ印象の弱い線書きされ、無色透明で、全長は短く、尾は動物の全長の3分の2の位置まで折り返しており、口先は短くやや上に反り加減に開き、優しい目をしており、全体的に小太りで漫画的な印象にまとまっている。一方、引用商標のワニ図形は、写実的な生々しい鰐そのものであって、皮膚等の状態が微細に描かれているため全体に黒っぽく、ワニの全長は長く、尾は尖った先端が折り返しワニの全長の右3分の1の位置で止まっており、口先は長く、全体的にスリムでどう猛な印象を与える。
思うに、多くのワニ図形が併存している状況下においては、具体的な構成態様の差異によって十分に互いを区別可能というべきである。したがって、両図形は具体的な構成態様において大きく異なるので、需要者が両商標を混同することはないと考える。
(3)まとめ
本件商標から生ずる「カーテロ」の称呼と引用商標から生ずる「クロコダイル」、「ワニ」又は「ワニジルシ」の称呼とは、音構成が著しく相違するものであり、明らかに区別することができるものである。そして、本件商標と引用商標とは、それぞれの構成に照らし、外観上判然と区別し得る差異を有するものであり、本件商標と引用商標が外観上相紛れるおそれはない。また、本件商標は造語であり、既成の親しまれた観念を想起し得ない以上、観念上、引用商標と比較することもできない。
してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならないから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
上記1のとおり、本件商標は、引用商標から差別化を図る目的で、緑・紺・赤の3色に色分けしたインパクトある帯状図形内の「CARTELO」の文字が最初に目に入るよう手当されている。
請求人は、本件商標の構成のうち、「CARTELO図形」と「本件ワニ図形」との間に観念的なつながりはなく、外観上、両図形は部分的に重なり合ってはいるものの、それ以上にデザイン上の有機的な一体性が認められるものではないから、両図形を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない、と主張するが、本件商標は、誰の目にも顕著な特徴であると認識される「緑・紺・赤に3区画した帯状図形要素」と、「CARTELO」の文字要素と、「CARTELO」の文字より5分の1小さく、かつ一体に重なるように配した「線描きしたワニとおぼしき図形要素」がまとまりよく一体的に表されてなるものであり、かかる構成においては、これに接する取引者、需要者は、その図形部分と文字部分を分離、抽出して認識するというよりは、図形部分と文字部分が渾然一体となったものとして認識、把握するというのが自然である。仮に、当該両図形が別個に把握されたとしても、具体的な構成態様が明らかに異なることから、本件商標をその指定商品に使用しても、需要者は請求人の業務に係る商品との関連性を想起することはない。本件商標の「ワニとおぼしき図形」の輪郭は比較的印象の弱い線書きされている上に、その上半分は上記紺色区画内にあるので、該「ワニとおぼしき図形」部分のみに注目して、取引者、需要者が請求人の商標と混同するという事態は想定し難いものである。
また、請求人は、引用商標が、ワニのマークの「クロコダイル」ブランドとして「カジュアルウェア等の被服、装身具、かばん類」について、取引者、需要者間に広く認識されている、と主張するが、著名となっているのは「Crocodile ワニ」であって、多種のワニ図形商標が併存する状況下、請求人にのみワニ図形を独占させることは、商標法の法目的に照らし、妥当ではないと考える。
さらに、請求人は、ワンポイントマークは商品に小さく表示されて取引に資される取引の実情があるから、例えば本件商標においては、引用商標に比べるとワニの図形がやや簡略化されている程度の相違点は容易に捨象されることとなる、と主張するが、商品に小さく表示されて取引に資されるワンポイントマークであれば尚更、本件商標においては、5分の1小さく表されたワニ図形よりも「CARTELO」の文字部分に需要者は注目するということがいえる。
結論として、本件商標は、上記2(3)のとおり、引用商標とは全く別異のものであるから、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が引用商標又は請求人を連想、想起するようなことはないというべきであり、該商品が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれはないものというのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
請求人は、本件商標は、信義則に反し、その他不正の目的によって登録出願されたものである、と主張するが、本件商標は、不正の目的があって登録出願されたものではない。この点につき、以下に検証する。
(1)甲第68号証について
請求人は、甲第68号証に「当社の出願はラコステとヤマトによる登録異議の申立てを受けるであろうと理解しています」と記載されていることを、被請求人自身、本件商標が引用商標と相紛らわしいものであることを自認していたことに他ならない、と主張するが、ラコステ社とヤマト社は別個の法人であり、それぞれが、本件商標と同一の第25類において先行商標登録を保有している事実、及び、これまでワニとおぼしき図形を含む商標同士の争いが絶えない現実に鑑みると、商標同士が相紛らわしいか否にかかわらず、両法人から別々に登録異議の申立てを受けるであろうと考えることは自然な懸念であり、甲第68号証に記載されているような事前の手当は、無用な争いを生じさせないための、むしろ取引秩序の維持のためには好ましいことであって、通常取引において慣行的に行われているものである。なお、被請求人は、「当社は日本で(D)を開発する機会があれば、絶対にヤマトを通すことを約束します」と述べ、本件商標の取り扱いにつき、友好的かつ紳士的な態度で請求人に彼らの意思を伝えている(甲第68号証文面中「(D)」と記載されているのは、「(C)」(本件商標)の誤りと考えられる。)。
(2)甲第69号証について
請求人は、被請求人が「(本件商標の登録出願は)日本国内で使用することを意図したものではない」との従前の説明を翻し、一旦商標登録を取得するや否や、本件商標の日本での使用を開始すると述べた、と主張する。
しかし、甲第69号証には「日本で販売する気はない」、「日本市場の進出を目的にしたものではない」との記載はあるものの、甲第69号証は、手書きの議事録であり、証拠としての信憑性に欠けるものである。仮に、そのような話がその場でなされたとしても、これより以前である本件商標の登録出願時において、被請求人は、「当社は日本で(D)を開発する機会があれば、絶対にヤマトを通すことを約束します」という日本での販売可能性を示唆しており、決して従前の説明を翻したものではない。
(3)甲第70号証について
甲第70号証には、「登録されましたCARTELOブランドに関して、日本で一緒にやっていく可能性を探究したい」、「数十年とお互い協力しあってやってこれましたのと同様、親密な関係を保ちながら、お互いの利益追求のため、一緒にやっていこうではありませんか」、「我社クロコダイルインターナショナルが他社と手を組むことになる前にヤマトが上記(b)に関して興味をもっていただけるかどうか知りたく、この手紙を書いています」との記載があるが、これらの文面からは、被請求人の不正の目的というよりは、むしろ、誠実、友好的に、取引相手である請求人に歩み寄る姿勢が読み取れる。これこそが、取引相手との関係を尊重した、筋を通した取引上の信義則に則ったビジネスのあるべき姿ではないだろうか。
(4)ところで、請求人は、商標法第4条第1項第19号の適用根拠として、他の事業者と共に日本国内で使用することによって、請求人の永年不断の努力によって培われた引用商標の著名性及びその顧客吸引力に便乗し、かかる「ただ乗り」行為によって不正の利益を得、さらには引用商標を希釈化し、請求人に損害を与えることを企図していた、とも主張するが、仮に、被請求人が、請求人に損害を与えることを企図していたならば、請求人のもとへ何度も足を運び、どこよりも先に請求人との業務提携を望む訳がない。また、不当な条件を提示した等の事実もない。甲第68号証に示すように、そもそも、被請求人が本件商標を日本において登録出願した背景には、被請求人が本件商標と同一の商標を中国で出願したところ、他社が保有する商標と類似することを根拠に当該他社から異議申立を受けたという事情がある。各国の審査は、各国当局の判断に委ねられるが、日本において本件商標と当該他社が保有する商標との間の非類似性が認められた場合には、中国での権利化を強化する有力な材料となるため、被請求人は、本件商標を日本で登録出願した。したがって、本件商標は、不正の利益を得、さらには引用商標を希釈化し、請求人に損害を与えることを企図して登録出願されたものではない。
(5)以上に鑑みれば、被請求人は、むしろ友好的に請求人と平和解決を図ろうとして、正常なビジネスのステップを踏襲したものであり、不正の意図をもって行ったものではなく、請求人の主張及び根拠は被請求人の不正の意図を十分に立証するものではない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
請求人は、本件商標が当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない、と主張するが、上述のように、被請求人の辿った行動は、むしろ友好的に請求人と平和解決を図ろうとして、正常な歩み寄りによる商談行為であり、それを請求人に拒絶されたことは、被請求人に計り知れないところであって、請求人との交渉を有利に運び又は自己の事業に利することを専ら目的として取得された商標ではない。
出願された商標が商標法第4条第1項第7号に該当するというためには、我が国商標制度の大原則たる先願主義の適用を除外するに足りる事情が必要であると考える。すなわち、同第7号をみだりに適用することは、商標制度の法的安定性を害し、また、商標選択の自由を不当に制限することになりかねない。さらに、同第7号は、公益的な側面を主眼とする拒絶理由であって、少なくとも私人間の事情や利益を必要以上に適用根拠とすべきではない。よって、当該商標がその出願人によって採択・使用される結果、社会公共の秩序を著しく混乱させる蓋然性が著しく高い場合に限って適用されるべきである。
これは、知財高裁平成20年6月26日判決(平成19年(行ケ)第10391号)において、「(1)原告と被告との間の紛争は、本来当事者間における契約や交渉等によって解決調整が図られるべき事項であって一般国民に影響を与える公益とは、関係のない事項であること、(2)本件のような私人間の紛争については、正に法4条1項19号が規定する『他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的・・・をもって使用をするもの・・・』との要件への該当性の有無によって判断されるべきであること、(3)被告が米国において有している商標権は、あくまでも私権であり、被告がそのような権利を有したからといって、原告が、日本において、同商標と類似又は同一の商標に係る出願行為をすることが当然に『公の秩序又は善良な風俗を害するという公益に反する事情に該当するものとは解されないこと、(中略)』等を総合すると、本件について、原告の出願に係る本件商標が『公の秩序又は善良な風俗を害する』とした審決の判断には、誤りがあるというべきである。」と判示されているとおりである。
したがって、本件商標に商標法第4条第1項第7号の適用は妥当でないと考える。
6 結語
叙上に徴し、本件審判請求は、棄却されるべきである。本件商標は、審査段階で拒絶され、拒絶査定不服審判を経て登録に至り、その後、本件請求人及びラコステ社からの登録異議の申立てを制して登録維持の判断が特許庁にてなされた。本件審判においても、当該事実を考慮すべきである。
よって、本件審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 本件商標と引用商標の類似性について
(1)本件商標の外観、称呼及び観念
ア 外観
本件商標は、別掲(1)のとおり、「CARTELO」の欧文字及び彩色からなる図形(CARTELO図形)と、ワニを描いた図形(ワニ図形)を組み合わせたものである。
CARTELO図形は、左から順に緑色、青色及び赤色で縦割りに彩色した横長矩形中に、「CARTELO」の欧文字を、左から横書きに、緑色の部分に「CAR」の文字、青色の部分に「TE」の文字、赤色の部分に「LO」の文字を、それぞれ白抜きにして大きく表した図形及び文字からなる。
ワニ図形は、頭部を左に向けて顎を開き、尾を上方に湾曲させて左方に伸ばしたワニを黒い細線により描いた図形である。ワニ図形は、背と尾を除いてウロコは描かれず、輪郭のみが一筆書き風に、戯画的に描かれており、全体的に細密な印象を与えるものではない。
ワニ図形は、本件商標の横方向の長さでは、CARTELO図形の3分の1程度であるが、CARTELO図形の中央下部に配置され、ワニ図形のワニの胴体後部ないし尾の部分は、CARTELO図形の青色部分の下半分に重なるように描かれており、重なり部分において、CARTELO図形の文字及び色彩がワニ図形によって隠れないように、ワニ図形が輪郭のみが透けるように描かれている。
イ 称呼
本件商標は、CARTELO図形の「CARTELO」の文字部分から、「カーテロ」又は「カルテロ」の称呼を生ずる。また、ワニ図形が描かれていることから、「ワニ」の称呼を、CARTELO図形とワニ図形の組み合わせであることから、「カーテロワニ」又は「カルテロワニ」の称呼を生ずる。
ウ 観念
CARTELO図形の「CARTELO」の文字部分は、造語であり、そこからは特定の観念を生じない。ワニ図形が描かれていることから、「ワニ」の観念を生ずる。
(2)引用商標の外観、称呼及び観念
ア 引用商標1
(ア)外観
引用商標1は、別掲(2)のとおり、黒い線で描いた横長の矩形中に、左側に筆記体で書した「Crocodile」の文字を配し、右側に、頭部を左に向けて顎を開き、尾を上方に湾曲させて左方に伸ばしたワニを黒い細線により描いたワニの図形を配したものである。ワニの図形は、ウロコに至るまで詳細に、写実的かつ生き生きと描かれている。
そして、「Crocodile」の文字中の「C」の文字は大きく書かれ、また、「e」の文字は特殊な字体で書かれ、さらに、左下方向に長く伸びて、特徴のある筆致で書かれている。
(イ)称呼
引用商標1は、「Crocodile」との文字部分から、「クロコダイル」の称呼を生じ、ワニの図形から「ワニ」の称呼を生じ、又は全体から「クロコダイルワニ」の称呼を生ずる。
(ウ)観念
「Crocodile」とは、ワニの一種を意味する英語であるが、そのことは、我が国においてある程度は知られているものの、一般的に広く知られるまでには至っていないと推認される。そのため、引用商標1は、「Crocodile」との文字部分とワニの図形から、「クロコダイル種のワニ」との観念を生ずる場合があるが、「Crocodile」との文字部分が、ワニの一種を意味する語として認識されず、造語のように受け止められ、「Crocodile」との文字部分からは特定の観念を生じない場合も少なくないものと認められる。また、引用商標1は、「Crocodile」との文字部分がワニの種類を表すと認識されるか否かにかかわらず、ワニの図形から、「ワニ」の観念を生ずるものと認められる。
イ 引用商標2
(ア)外観
引用商標2は、別掲(3)のとおり、頭部を左に向けて顎を開き、尾を上方に湾曲させて左方に伸ばしたワニを黒い細線により描いたワニの図形からなる。ワニの図形は、ウロコに至るまで詳細に、写実的かつ生き生きと描かれている。
(イ)称呼及び観念
引用商標2は、「ワニ」の称呼及び観念を生ずる。
ウ 引用商標3
(ア)外観
引用商標3は、別掲(4)のとおり、頭部を左に向けて顎を開き、尾を上方に湾曲させて左方に伸ばしたワニを黒い細線により描き、口中を赤く、その他を緑色に彩色したワニの図形からなる。ワニの図形は、ウロコに至るまで詳細に、写実的かつ生き生きと描かれている。
(イ)称呼及び観念
引用商標3は、「ワニ」の称呼及び観念を生ずる。
エ 引用商標4
(ア)外観
引用商標4は、別掲(5)のとおり、左側に緑色の筆記体で書した「Crocodile」の文字を配し、右側に、頭部を左に向けて顎を開き、尾を上方に湾曲させて左方に伸ばしたワニを黒い細線により描き、口中を赤く、その他を緑色に彩色したワニの図形を配したものである。ワニの図形は、ウロコに至るまで詳細に、写実的かつ生き生きと描かれている。「Crocodile」の文字中の「C」の文字は大きく書かれ、また、「e」の文字は特殊な字体で書かれ、さらに、左下方向に長く伸びて、特徴のある筆致で書かれている。
(イ)称呼
引用商標4は、引用商標1と同様に、「クロコダイル」、「ワニ」又は「クロコダイルワニ」の称呼を生ずる。
(ウ)観念
引用商標4は、引用商標1と同様に、「クロコダイル種のワニ」との観念を生ずる場合があるが、「Crocodile」との文字部分からは特定の観念を生じない場合も少なからずあり、また、ワニの図形から、「ワニ」の観念を生ずる。
オ 引用商標5
(ア)外観
引用商標5は、別掲(6)のとおり、上方左側に筆記体で書した「Crocodile」の文字を配し、上方右側に、頭部を左に向けて顎を開き、尾を上方に湾曲させて左方に伸ばしたワニを黒い細線により描いたワニの図形を配し、それらの下に、「CLASSIC LABEL」との文字を大きく記載したものである。ワニの図形は、ウロコに至るまで詳細に、写実的かつ生き生きと描かれている。「Crocodile」の文字中の「C」の文字は大きく書かれ、また、「e」の文字は特殊な字体で書かれ、さらに、左下方向に長く伸びて、特徴のある筆致で書かれている。
(イ)称呼
引用商標5は、「Crocodile」の文字部分から、「クロコダイル」の称呼を生じ、ワニの図形から「ワニ」の称呼を生じ、「Crocodile」との文字部分とワニの図形から、「クロコダイルワニ」の称呼を生ずる。また、「CLASSIC LABEL」との文字から、「クラシックレイベル」又は「クラシックラベル」の称呼を生ずる。
(ウ)観念
引用商標5は、「Crocodile」との文字とワニの図形から、引用商標1と同様に、「クロコダイル種のワニ」との観念を生ずる場合があるが、「Crocodile」との文字部分からは特定の観念を生じない場合も少なからずあり、また、ワニの図形から、「ワニ」の観念を生ずる。
そして、「CLASSIC」という語は、「古典の」、「第一流の」等の意味を有する英語であり、「LABEL」という語は、「貼り紙」、「レッテル」、「商標」等の意味を有する英語であり、「CLASSIC LABEL」との文字から、「古典的な商標」又は「第一流の商標」との観念を生ずることがある。他方、「CLASSIC」という語が「古典の」という意味として認識されることから、「CLASSIC LABEL」との部分は、「Crocodile」との文字とワニの図形からなる商標が長く続いたことを付加的に説明したものと認識される余地もあり、その場合には、「CLASSIC LABEL」との部分は、自他商品の識別機能という点においては、「Crocodile」との文字とワニの図形からなる商標に加えて更に固有の観念を生じさせるものではないともいえる。
(3)本件商標と引用商標との類否
ア 引用商標1との対比
(ア)本件商標のCARTELO図形は、緑、青、赤の色彩に「CARTELO」の文字を白抜きして大きく表記され、ワニ図形によって隠れることがないような態様で表示されているから、本件商標においては、CARTELO図形が見る者の注意を強くひくものと認められる。これに対し、ワニ図形は、ワニの胴体後部ないし尾の部分が、CARTELO図形の青色部分と重なり、輪郭線のみが透けるように描かれているため、ワニ全体の形状を確認することは容易でなく、必ずしもワニの形状や特徴を鮮明に認識できるとはいえない。
上記の態様に照らすならば、本件商標の特徴的部分は、大きく表記されたCARTELO図形であって、同図形が見る者の注意を強くひき、一般的には、「カーテロ」又は「カルテロ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものというべきである。仮に、本件商標が、「ワニ」の称呼、観念を生じたり、「カーテロワニ」又は「カルテロワニ」の称呼を生じ得る場合があったとしても、CARTELO図形と切り離して、「ワニ」のみにより識別されることはないというべきである。
(イ)これに対して、引用商標1は、「Crocodile」の文字とワニの図形からなるものであり、「クロコダイル」、「ワニ」又は「クロコダイルワニ」の称呼を生じ、「ワニ」又は「クロコダイル種のワニ」との観念を生ずる場合もある。
そうすると、本件商標と引用商標1は、取引の実情を考慮し、離隔的観察により、その構成部分全体を対比するならば、外観において著しく異なり、また称呼、観念において類似することはないので、全体として類似しないものである。
イ 引用商標2との対比
前記アのとおり、本件商標においては、CARTELO図形が見る者の注意を強くひくものであり、CARTELO図形と切り離して、「ワニ」のみにより識別されることはないというべきである。これに対して、引用商標2は、CARTELO図形はなく、ワニの図形のみからなるものであり、「ワニ」の観念、称呼を生ずる。
そうすると、本件商標と引用商標2は、取引の実情を考慮し、離隔的観察により、その構成部分全体を対比するならば、外観において著しく異なり、また称呼、観念において類似することはないので、全体として類似しないものである。
ウ 引用商標3との対比
引用商標3は、CARTELO図形はなく、彩色されたワニの図形のみからなるものであり、「ワニ」の観念、称呼を生ずる。
そうすると、本件商標と引用商標3は、取引の実情を考慮し、離隔的観察により、その構成部分全体を対比するならば、外観において著しく異なり、また称呼、観念において類似することはないので、全体として類似しないものである。
エ 引用商標4との対比
引用商標4は、CARTELO図形はなく、緑色の筆記体で書した「Crocodile」の文字と彩色したワニの図形の組み合わせからなるものであり、「クロコダイル」、「ワニ」又は「クロコダイルワニ」の称呼を生じ、「クロコダイル種のワニ」、「ワニ」との観念を生ずる。
そうすると、本件商標と引用商標4は、取引の実情を考慮し、離隔的観察により、その構成部分全体を対比するならば、外観において著しく異なり、また称呼、観念において類似することはないので、全体として類似しないものである。
オ 引用商標5との対比
引用商標5は、CARTELO図形はなく、「Crocodile」の文字、ワニの図形及び「CLASSIC LABEL」との文字の組み合わせからなるものであり、「ワニ」、「クロコダイルワニ」、「クラシックレイベル」又は「クラシックラベル」の称呼を生じ、「クロコダイル種のワニ」、「ワニ」との観念を生じ、場合によっては、「古典的な商標」又は「第一流の商標」との観念を生ずる。
そうすると、本件商標と引用商標5は、取引の実情を考慮し、離隔的観察により、その構成部分全体を対比するならば、外観において著しく異なり、また称呼、観念において類似することはないので、全体として類似しないものである。
2 引用商標の周知性等について
(1)請求人の引用商標に係る使用経緯及び態様等
ア 商標権の帰属等
被請求人は、昭和27年(1952年)1月3日、シンガポールにおいて登録された会社であり、旧商号は「リー セン ミン カンパニイ センデイリアンバーハッド」であったが、昭和58年(1983年)9月15日、現商号に商号変更した(甲第67号証)。
リー社は、かつて我が国で引用商標1の商標権を有しており、請求人は、昭和38年(1963年)、リー社から引用商標1の使用許諾を受け、引用商標1を付したシャツ等の輸入販売を開始した(甲第10号証の1及び甲第71号証)。請求人は、引用商標1について、昭和44年(1969年)9月1日、リー社から独占的通常使用権の許諾を受け(甲第7号証)、昭和50年(1975年)12月2日、リー社から専用使用権の設定を受け、昭和52年(1977年)2月14日、その旨の登録を得た(甲第2号証の2及び甲第8号証)。請求人は、昭和54(1979年)年7月12日、リー社から引用商標1の譲渡を受け、昭和55年(1980年)4月21日、その旨の登録を得た(甲第2号証の2及び甲第9号証)。請求人は、別掲(3)ないし(6)記載のとおり、引用商標2ないし5を出願し、登録を得た。
イ 引用商標の使用態様
(ア)請求人は、昭和38年以降、引用商標を付した被服を輸入販売してきたが、昭和44年に独占的通常使用権の許諾を受けた後は、自社で引用商標を付した被服の製造販売を行うようになり、引用商標を使用して、紳士用ゴルフウェア、カジュアルウェアを中心に、婦人用カジュアルウェアも含め、被服等の製造販売を行っている(甲第10号証の1、甲第12号証の1及び3、甲第34号証並びに別掲(7)の書証)。
(イ)甲第12号証の1及び3、甲第41号証並びに甲第42号証によれば、「ワンポイント」とは、シャツの胸元やソックスにあしらわれたマークなどのプリント・刺繍・アップリケ、又はそれらを付けたものであり、ゴルフウェアにワンポイントを付することは、かつて流行し、引用商標のワニ図形も、ワンポイントの一つとして知られていたこと、その後、ワンポイントの流行は一時廃れたものの、再び、かつての流行を知らない若年層を対象とした商品にワンポイントが付され、ワンポイントがゴルフウェアのイメージから脱却するようになり、引用商標を含め、ワンポイントを付した衣料品の売上が再び増加してきたことが認められる。
(2)引用商標を付した商品の宣伝広告
ア 宣伝広告の態様
(ア)雑誌等の広告
引用商標を付した被服については、別掲(7)のとおり、雑誌等における宣伝広告が行われた。これらの広告には、引用商標が表示され、又は引用商標を付した被服等の写真が掲載された。これらの広告には、ファッションモデルを用いたもの、プロ野球選手を用いたものなどがあった。
(イ)テレビコマーシャル
請求人は、昭和59年(1984年)の4月1日から9月30日まで、プロ野球選手を用い、引用商標4を表示したテレビコマーシャルを、全国ネットのテレビで放映した。また、平成5年(1993年)9月13日から40日間、引用商標4を表示したテレビコマーシャルを全国ネットのテレビで放映した(甲第31号証の1及び2)。
(ウ)販売促進活動
請求人は、平成6年(1994年)秋から平成10年(1998年)秋まで、「お父さん改造講座」と称する広告キャンペーンを行い、引用商標4を表示し、請求人の商品を掲載した「お父さん改造講座BOOK」と題するリーフレットを季節毎に作成して配布した(甲第32号証の1ないし9)。
また、請求人は、平成11年(1999年)から、「父の日モニターキャンペーン」との名称により、父の日に合わせ、ポロシャツ等を応募者にプレゼントするなどの販売促進活動を行った(甲第33号証の1ないし7)。
さらに、被請求人は、各年の夏物、秋冬物、春物の被服等につき、引用商標4を付したカタログを作成して配布した(甲第40号証の1ないし5)。
イ 宣伝広告費
請求人代表者の陳述書(甲第71号証)3頁4ないし6行目によれば、請求人は、昭和59年度から平成18年度までの23年間に、引用商標を付した請求人の商品の宣伝広告費及び販売促進費として年間平均8000万円を越える費用を投じ、1億円を超えた年もあった。
(3)引用商標を付した商品の売上
ア 引用商標を付した商品の売上に関する新聞記事等について
(ア)昭和61年(1986年)1月16日付け日経流通新聞(甲第12号証の1)には、引用商標について、「ワニのワンポイントマークで親しまれ年商百億円ブランドに育ったが、消費者のワンポイント離れに対応してマークにこだわらず自由な物づくりで『クロコダイル』のブランドを売り込む戦略に変えてきている。」(1段目8行目ないし2段目2行目)と記載されている。
(イ)平成14年(2002年)4月16日付け日経MJ(甲第12号証の3)には、引用商標を付した商品について、「九〇年代初頭には百六十億円の売り上げ(同)があったが、現在は七十億円(百店舗)にまで落ち込んでいる。・・・三年後に男性物、女性物を合わせ百億円の売り上げ規模を見込む。」(中央本文2段目3ないし15行目)と記載されている。
(ウ)平成14年(2002年)9月2日付けセンイジャーナル(甲第34号証)には、「ピーク時(91年)の売り上げは100億円を超えていた。当初は卸中心の展開で、専門店、地方問屋向けに販売していたが、ワンポイントブームが終わり、バブル経済の崩壊に伴う景気の後退などで売り上げが減少していった。ここ2?3年は、売り場を自主管理に転換して、売り上げを伸ばしている。」(本文2段目9行目ないし3段目8行目)、「現在では販売員を付けた自主管理売り場は100店舗を越えている。」(本文5段目7行目ないし9行目)と記載されている。
イ 上記アの新聞記事等の記載によれば、引用商標を付した商品の年間売上は、昭和61年(1986年)には約100億円であり、1990年代初頭には約160億円に達したこともあったが、平成14年(2002年)には70億円であったことが認められる。
(4)引用商標の周知性
ア 上記認定した請求人の引用商標に係る使用経緯、態様等(前記(1))、引用商標を付した商品の宣伝広告(前記(2))、引用商標を付した商品の売上(前記(3))に照らすと、引用商標は、本件商標の出願時及び登録審決の時点においては、相当程度に多数の需要者・取引者に知られていたということができるが、著名性が著しく高いものであったとはいえない。
イ(ア)別掲(7)によれば、宣伝広告には、引用商標のうち引用商標4が使用されている場合が多いことが認められる。しかし、引用商標4においては、「Crocodile」の文字のみならず、ワニの図形も強い印象を与え、出所を識別させる重要な要素であり、引用商標4が多く使用される場合は、見る者に、ワニの図形が請求人の出所を示す標識であるとの認識をも生じさせるものと認められる。そのため、本件において、引用商標4が多数使用された場合は、引用商標2、3のように引用商標4のワニの図形と同様なワニの図形のみからなる商標についても、需要者・取引者において、請求人の出所を示す標識であると、広く認識されていたものと解される。また、請求人の商品には、ワニの図形のみが、ワンポイントマークとして胸部等に付されているものが多く(甲第40号証の1ないし5)、前記(1)イのとおり、かつては、引用商標のワニの図形がワンポイントの一つとして流行したことも考慮すると、ワニの図形のみからなる引用商標2、3も、需要者・取引者において、請求人の出所を示す標識であると、広く認識されていたものと認められる。
(イ)また、「広告白書」(日経広告研究所、平成21年(2009年)7月8日発行)によれば、平成18年(2006年)における「ファッション・アクセサリー」業種における広告費は、1232億円であることが認められる。引用商標を付した請求人の商品の平均の年間宣伝広告費及び販売促進費である8000万円(前記(2)イ)が上記の金額に占める割合は、0.06%(8000万円/1232億円=0.0006)である。
しかし、「ファッション・アクセサリー」業種には、商品の種類・価格、需要者層が様々の業種が含まれており、広告の態様も様々であると推認されるから、その業種全体の広告費に占める割合が高くないとしても、そのことから直ちに、引用商標が需要者・取引者に知られていなかったとはいえない。
(ウ)さらに、「繊維白書2006年版」(株式会社矢野経済研究所、平成17年(2005年)11月25日発行、甲第76号証)63頁によれば、本件商標出願時である平成13年(2001年)における「衣料品総小売市場規模」は、「紳士服・洋品」、「婦人服・洋品」、「子供・ベビー服・洋品」の合計で10兆7339億円であり、「アパレル産業白書2005」(株式会社矢野経済研究所、平成17年(2005年)10月31日発行、甲第77号証)3頁によれば、アパレル関連企業227社の売上高の合計は平成13年(2001年)に約4兆2691億円であった。
引用商標を付した請求人の商品の売上(前記(3)イ)が、上記の金額に占める割合を検討すると、仮に、出願後の年間の請求人の商品の売上が、70億円であったとするならば、「衣料品総小売市場」に対する割合は、0.06%(70億円/10兆7339億円=0.0006)となり、「アパレル関連企業227社の売上高」に対する割合は、0.16%(70億円/4兆2691億円=0.0016)となる。
上記売上比率は、必ずしも高いものではないが、衣料品は、紳士服・婦人服・子供服などの類型ごとに需要者が異なり、更にそれぞれの類型の中でも、フォーマル・カジュアル、注文生産品・既製品、低価格品・高価格品、低年齢向・高年齢向など様々な種類の商品が存在し、使用される商標も、商品の各種類ごとに多数存在することに照らすと、上記売上比率から、引用商標が需要者・取引者に知られていたか否かを推認することはできない。
引用商標は、社団法人日本国際知的財産保護協会(AIPPI)の日本有名商標集(甲第39号証)に掲載されている一方で、ファッションブランドに関する書籍には、掲載されていないことが認められるが、これらの媒体における掲載基準がどのようなものであるかが明らかでない点を考慮するならば、これらの掲載の有無から、引用商標が需要者・取引者に知られていたか否かを推認することはできない。
3 被請求人と請求人との関係、本件商標に対する登録異議の申立て等についての交渉経過及び原告の商標の使用について
(1)事実認定
ア 被請求人と請求人との関係
前記2(1)のとおり、引用商標1は、被請求人(リー社)が有していたものであるが、請求人は、被請求人から、同商標に係る使用許諾を受け、その後、独占的通常使用権の許諾、専用使用権の設定を受け、さらに、引用商標1の譲渡を受けたものである。
イ 本件商標に対する登録異議の申立て等についての交渉経過
被請求人と請求人の間には、本件商標に対する登録異議の申立て等に先だって、次のような交渉経過等があったことが認められる。
被請求人は、本件商標出願前の平成13年(2001年)9月5日、請求人に対し、ファクシミリの書簡により、本件商標に対して登録異議の申立てをしないように要請したが、これに対し、請求人は、直ちに回答することはなかった。そこで、被請求人は、同年9月25日、本件商標を出願したが、その後、請求人は、同14年(2002年)2月13日ころ、ファクシミリの書簡により、被請求人の上記要請を拒絶した(甲第68号証の1及び2)。
被請求人と請求人とは、本件商標出願後の平成16年(2004年)3月2日に協議をしたが、その際、被請求人は、本件商標の出願が日本市場への進出を目的としたものでない旨述べ、再度、本件商標に対する異議申立てをしないよう要請したが、請求人は被請求人の要請を拒絶した(甲第69号証の1及び2)。請求人は被請求人に対し、平成16年3月18日、ファクシミリ書簡により、再度、異議申立てを控えることはできないという請求人取締役会の検討結果を伝えた(甲第69号証の3)。
被請求人は、平成15年12月25日付け拒絶査定を受け、同16年4月5日、拒絶査定不服審判を請求し(不服2004-6812号)、同18年5月10日、登録審決を受け、本件商標は、同年6月9日、設定登録された。請求人は、平成18年8月8日、登録異議を申し立て(異議2006-90393号)、フランス法人ラコストも、同月10日、登録異議を申し立てた。なお、平成18年9月8日、請求人は、再度登録異議を申し立て、当初の登録異議申立てを取り下げた。上記登録異議申立てについては、平成19年12月20日、登録維持の決定がされた。
被請求人は、平成20年(2008年)3月27日、請求人に対し、本件商標に関する事業を日本で協力して実施する可能性の有無を打診し、請求人がこれに応じない場合には他社と手を組むことをほのめかすファクシミリの書簡を送付した(甲第70号証)。
ウ 被請求人の中国における商標の使用
なお、被請求人は、中国において、引用商標と類似すると解する余地のある商標を使用している。
すなわち、被請求人の中国語のホームページ(甲第61号証の1)、被請求人の上海の店舗の写真(甲第61号証の2)、請求人が中国国内の被請求人の直営店で入手した衣類の包装箱(甲第64号証の1及び2)には、本件商標と同様にCARTELO図形とワニ図形からなり、ワニ図形のワニの胴体後部ないし尾の部分が、CARTELO図形の青色部分の下半分に重なるように描かれているものの、本件商標と異なり、ワニ図形が白色に塗られており、ワニ図形の全体を極めて容易に認識することができ、CARTELO図形とワニ図形の重なり部分において、白く塗られたワニ図形によりCARTELO図形の文字及び色彩が隠れるように構成された商標(以下「中国商標」という。)が付されており、被請求人は、中国においては、中国商標を使用しているものと認められる。
4 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、前記1のとおり、CARTELO図形とワニ図形の重なり部分において、CARTELO図形の文字及び色彩がワニ図形によって隠れないように、ワニ図形が輪郭のみで透けるように描かれているから、ワニ図形は、その全体を極めて容易に認識し得るとはいい難く、見る者の注意を強くひく部分は、CARTELO図形であるから、本件商標と引用商標とは、取引の実情を考慮し、離隔的観察により、その構成部分全体を対比するならば、外観において著しく異なり、また称呼、観念において類似することはないので、全体として類似しないものと認められる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第15号について
ア まず、本件商標に対する登録異議の申立て等の交渉経過について検討すると、被請求人は、本件商標出願後の平成16年3月2日の請求人との会談で、本件商標の出願が日本市場への進出を目的としたものでない旨の回答を行い、本件商標に対する異議申立てをしないよう要請したにもかかわらず、本件商標の設定登録後の同20年3月27日、請求人に対し、本件商標に関する事業を協力して実施する可能性の有無を打診し、請求人がこれに応じない場合には他社と手を組むことをほのめかす旨のファクシミリの書簡を送付している。
しかし、平成20年3月27日の時点においては、本件商標は、登録審決され、請求人及びラコストが申し立てた登録異議申立てに対しても登録維持決定を受けて、登録されているのであるから、被請求人は、本件商標について、自由に使用できる地位を有していたものであり、請求人との関係で、当然に制約を受ける立場にはない。そして、請求人が登録異議を申し立てたことなどの事実経過にかんがみれば、被請求人が、平成20年3月27日、請求人に対し、本件商標に関する事業を日本において協力して実施する可能性の有無を打診し、請求人がこれに応じない場合には他社と手を組むことをほのめかすファクシミリの書簡を送付したとしても、直ちに、不正な動機があることを示すものとはいえない。
したがって、上記のファクシミリを送付したことに基づいて、被請求人が、引用商標の著名性、顧客吸引力等にただ乗りする意思があったとはいえない。
イ また、被請求人が、中国において、引用商標と類似すると解する余地のある中国商標を使用した点について検討すると、我が国において中国商標を使用した事実は認められないから、中国商標の使用をもって、本件商標が、我が国における引用商標の著名性、顧客吸引力等にただ乗りするものであるということはできない。
ウ 混同のおそれの有無
前記のとおり、本件商標と引用商標とは、その外観において著しく異なり、称呼、観念において類似せず(前記1)、また、引用商標は、本件商標の出願時及び登録審決時においても、相当程度に多数の需要者・取引者に知られてはいたとはいえるが、必ずしも、著名性が高いとまではいえない(前記2)。
そうすると、本件商標と引用商標の類似性の程度、引用商標の周知著名性及び独創性の程度や、本件商標の指定商品等と引用商標が使用されている商品等との関連性の程度、需要者及び取引者の共通性その他取引の実情などに照らし、指定商品等の需要者及び取引者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断するならば、本件商標は、その指定商品等に使用したときに、その商品等が請求人の業務に係る商品等であると誤信させるおそれがある(狭義の混同)商標であるとは認められず、また、その商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化グループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させるおそれがある(広義の混同)商標であるとは、到底いえない。
したがって、本件商標は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には該当せず、かつ、被請求人が本件商標を出願し、登録したことにより、我が国における引用商標の著名性や顧客吸引力等にただ乗りするものであることが容易に推認されるとはいえないというべきであるから、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第19号について
本件商標は、上記のとおり、周知なものと認め得る「ワニ図形」を要部とする商標と類似の商標とは認められず、その点において既に本号の「需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標である」との要件を充足し得ないから、本号の他の要件事実について論及するまでもなく、本件商標は、法第4条第1項第19号に違反して登録されたものとはいえない。
7 商標法第4条第1項第7号について
商標の構成それ自体において公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標はもとより法第4条第1項第7号に該当するが、商標自体には公序良俗を害するおそれがない場合であっても、その商標の登録に至る出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合等は、本号に該当するものと解される(東京高裁平成14(行ケ)第403号事件・平成15年3月20日判決(最高裁HP)参照)。
そして、本件商標は、別掲(1)のとおり、CARTELO図形であり、その商標の構成自体において公序良俗を害するおそれがあるものでないことは明らかである。
また、請求人が主張する「本件商標に対する登録異議の申立て等の交渉経過」についての検討(前記3)及び請求人提出の全証拠によってみても、本件商標の出願の経緯において著しく社会的妥当性を欠くものがあった等、この登録を維持することが法の予定する秩序に反し到底是認し得ないとすべき事情もみいだせない。
したがって、本件商標は、公序良俗を害するおそれのある商標に該当するものとは認められないから、法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものではない。
したがって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲
(1)本件商標(登録第4959859号商標)


(色彩については原本参照)

(2)引用商標1(登録第571612号)



(3)引用商標2(登録第2372008号)



(4)引用商標3(登録第2372009号)



(色彩については原本参照)

(5)引用商標4(登録第2465858号)



(色彩については原本参照)

(6)引用商標5(登録第2521607号)




(7)






審理終結日 2012-01-27 
結審通知日 2009-08-28 
審決日 2012-02-29 
出願番号 商願2001-86504(T2001-86504) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (Z25)
T 1 11・ 22- Y (Z25)
T 1 11・ 263- Y (Z25)
T 1 11・ 261- Y (Z25)
T 1 11・ 271- Y (Z25)
T 1 11・ 262- Y (Z25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 千里 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 石田 清
酒井 福造
登録日 2006-06-09 
登録番号 商標登録第4959859号(T4959859) 
商標の称呼 カーテロ、カルテロ 
代理人 寺田 花子 
代理人 田中 克郎 
代理人 中村 勝彦 
代理人 阪田 至彦 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 鮫島 睦 
代理人 勝見 元博 
代理人 佐々木 美紀 
代理人 廣中 健 
代理人 田中 光雄 

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