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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X12
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X12
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X12
管理番号 1251680 
審判番号 無効2011-890026 
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-04-01 
確定日 2012-01-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第5111437号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5111437号商標(以下「本件商標」という。)は,「NANKANG」の文字と「ナンカン」の文字を二段に横書きしてなり,平成19年3月22日に登録出願,第12類「自動車並びにその部品及び附属品,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片」を指定商品として,平成20年1月8日に登録査定,同年2月15日に設定登録されたものであり,その商標権は,現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は,「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て,その理由を次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第43号証(枝番を含む。)を提出した(なお,甲号証において,枝番を有するもので,枝番のすべてを引用する場合は,枝番の記載を省略する。)。
1 請求の理由
本件商標の登録は,以下の理由により,商標法第4条第1項第7号,同第10号及び同第19号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第7号該当性
ア 請求人及び請求人の使用する商標の周知著名性について
(ア)請求人は,自社製品のタイヤ(以下「請求人商品」という。)について,「NANKANG」若しくは「Nankang」又は「NANKANG」若しくは「Nankang」を含む商標を付して,日本を始めとする世界各国に輸出及び販売する台湾企業である(甲4?甲20)。
(イ)請求人は,米国のタイヤ業界情報を扱う会社(甲3)によって運営されるウェブサイト「TireBusiness.com」の米国ランキング一覧において,1999年第47位,2001年第50位,2005年第40位,2007年第41位,2008年第46位にランキングされた(甲4?甲8)。
(ウ)請求人の名称(英語表記)「NANKANG RUBBER TIRE CORPORATION,LTD.」の一部である「NANKANG」又は「Nankang」は,Moderntiredealer(甲9)によって集計された,2006年(甲10),2004年(甲11),2000年(甲12),2002年(甲13)の米国における独立系タイヤ販売会社及びタイヤ卸売会社のランキングの上位にランクされている会社の取り扱いタイヤブランドとして,多数記載された(甲10?甲13)。
(エ)さらに,Moderntiredealer及びTireBusiness.comのウェブサイト内では,請求人商品に付された「NANKANG」又は「Nankang」という商標(これらをまとめて,以下「請求人商標」という。)は,多数の記事に取り上げられた(甲14,甲15)。
(オ)上記証拠のうち甲第4号証ないし甲第7号証及び甲第10号証ないし甲第13号証は,請求人とは無関係の第三者によって,米国内における実際の販売実績に基づいて作成されたものである。このように,請求人商標は,請求人商品に付して販売した実績によって,全米の販売ランキングに多数回にわたり登場するまでに需要者に広く認識されるようになっている。
また,甲第14号証,甲第15号証によれば,少なくとも2000年ころから2008年に至るまでの間,請求人商標を付した請求人商品が,複数回,継続して雑誌の記事に取り上げられおり,これによっても請求人商品が幅広い需要者に認められていた,と考える。
イ 請求人と本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)との関係
請求人は,日本国内において,請求人商品を複数の国内販売業者を通じて販売している。
甲第16号証の1の1頁は,請求人商品について,請求人と日本国内の販売業者(本件商標権者を含む。)との取引実績を示す資料であり,2頁以降は,請求人と本件商標権者との取引実績を示す資料であって,甲第16号証の2は,甲第16号証の1の対応日本語訳である。これらの証拠に示されるように,本件商標権者は,本件商標の登録出願前から請求人商品を輸入,販売する国内販売業者の一つである。
また,請求人は,日本国内において,請求人商品を直接宣伝広告すると共に,本件商標権者を含む複数のタイヤ販売業者を介し,請求人商品を雑誌で広告宣伝し(甲17?甲19),かつ,請求人商品の販売実績がある(甲16?甲19)。
さらに,本件商標権者は,日本国内において,請求人商品を現在も継続して販売している(甲20)。
ウ 請求人商標及び請求人商品と本件商標及びその指定商品の比較
(ア)請求人商品は,本件商標の指定商品「自動車並びにその部品及び付属品,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片」とは,商品の生産部門,需要者の範囲,販売部門等が一致し,又は,完成品と部品の関係にある。
したがって,本件商標の指定商品は,請求人商品と同一又は類似する。
(イ)本件商標は,下段部「ナンカン」と上段部「NANKANG」とに分離でき,これら双方が識別部となり,上段部から,「ナンカン」の称呼を生じる(甲1)。
一方,請求人商標は,「NANKANG」又は「Nankang」であり,「ナンカン」という称呼を生じる。
このため,本件商標と請求人商標は,共に「ナンカン」の称呼を共通にするから,称呼において類似する。
また,甲第3号証ないし甲第14号証に示されるように,米国内においては,請求人商標を付した請求人商品の販売実績によって,「NANKANG」から,請求人又は請求人商品が想起される。
したがって,本件商標と請求人商標とは,称呼及び観念が類似する。
エ 以上のとおり,本件商標権者は,本件商標の登録出願当時,米国において,請求人商品を示すものとして,請求人商標が注目されるようになっていたこと及び日本国内でも請求人商品の販売実績があったことに着目し,近い将来,日本国内においても,請求人商標が注目される可能性が高いとの判断の下に,日本国内で商標登録されていないことを幸いに,請求人商標と同一又は類似する本件商標につき商標登録を受けることにより,日本国内において,請求人商品の輸入総代理店等の有利な立場を得たり,あるいは,請求人の名声に便乗して不正な利益を得るために使用することを目的として本件商標を登録出願した,と推認せざるを得ない。
したがって,本件商標は,公正な商取引の秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものとして,公序良俗を害するおそれがある商標と断じざるを得ず,商標法第4条第1項第7号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第10号該当性
ア 前記(1)アのとおり,請求人は,請求人商品を世界各国に輸出及び販売する台湾企業であり,「N NANKANG」の文字よりなる米国商標登録第1938146号(以下「米国登録商標」という。)を有するほか,米国以外の複数の外国でも登録商標を有する(甲21?甲33。なお,米国登録商標の要部は,「NANKANG」である。)。そして,請求人商標は,少なくとも米国において周知著名性を獲得している(甲3?甲15)。また,前記(1)イのとおり,請求人商品は,日本国内においても,販売実績が認められる(甲16?甲20)。さらに,請求人商標を付した請求人商品は,例えば,米国,スペインにおいて,現在も,インターネット経由で販売されている(甲38,甲39)ほか,オーストラリアでは,請求人が請求人商品を紹介するウェブサイトを開設している(甲40)。さらに,請求人商品は,英国におけるユーザの使用感を報告するサイトで,本件商標の登録出願のころから現在に至るまで,多数のユーザによって評価され,英国においても周知となっている(甲41)。また,請求人商品は,本件商標の登録出願前から,スリランカに輸出,販売されていた(甲43)。
以上の事実から,請求人商標は,請求人商品を表示するものとして,米国を始めとする諸外国及び日本の需要者の間に広く認識されている。
イ 請求人商標及び請求人商品と本件商標及びその指定商品の比較
前記(1)ウのとおり,本件商標と請求人商標は,互いに類似するものであり,また,請求人商品と本件商標の指定商品は同一又は類似するものである。
ウ 以上によれば,本件商標は,その登録出願当時,請求人商品を示すものとして,外国及び日本の需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品又はこれに類似する商品について使用する商標であるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性
ア 請求人商標の周知著名性
前記(1)アのとおり,請求人商標は,少なくとも米国において周知著名である(甲3?甲20)。
イ 請求人商標及び請求人商品と本件商標及びその指定商品の比較
前記(1)ウのとおり,本件商標と請求人商標は,類似するものであり,また,本件商標の指定商品と請求人商品は,同一又は類似するものである。
不正の目的
(ア)前記(1)イのとおり,請求人は,本件商標の登録出願前に,日本国内で発行された雑誌に,請求人商品の宣伝広告を掲載して,請求人自らが請求人商品を提供する意思を示すと共に,日本国内の複数の販売会社を介して請求人商品を広告販売し(甲16?甲20),日本における請求人商品の販売を積み重ね,販路及び事業規模の拡大を図っている。このような事業拡大の計画は,本件商標の登録出願から登録を通して継続されており,最近でも,請求人は,例えば,2011年3月25日ないし同27日に,東京ビッグサイトにて開催予定の「第38回東京モーターサイクルショー2011」に出展のためのエントリーをするなど,本件商標の登録出願時に事業拡大のための様々な計画がなされていたことが推認できる(なお,上記ショーは,東北関東大震災の影響により,中止となったが,請求人が,日本市場における規模拡大を目指し,日本国に進出する具体的計画を有していることは,開催直前まで出展準備をしていたことから明らかである。また,請求人と上記モーターサイクルショーに出展予定の「ナンカンタイヤ株式会社」とは,英語と日本語による表記上の差異であって,同一である:甲34?甲37)。
(イ)また,請求人は,本件商標に対し,商標法第53条の2の規定による取消審判(取消2008-301387)を請求したが,当該審判において,本件商標権者は,登録を放棄することなく,請求人と争い,審判費用を請求人の負担とするよう求めた。
(ウ)本件商標権者は,自らが運営する商品販売サイトにて,請求人以外の多数のブランドのタイヤを販売する者(甲42)であって,本件商標が,本件商標権者が取り扱う他のタイヤ製造会社により製造されたタイヤに付された場合,請求人の周知商標に化体した信用,名声,顧客吸引力等を毀損させるおそれもある。
(エ)「NANKANG」は,中国語としては造語ではないと思われるが,日本語としては不自然な態様であり,したがって,請求人標章は,造語に準じたものであり,構造上顕著な特徴を有する。
(オ)以上を総合すると,本件商標は,不正な目的をもって使用をするものと考えざるを得ない。
エ 以上によれば,本件商標は,その登録出願当時,請求人商品を表示するものとして外国(少なくとも米国)及び日本における需要者の間に広く認識されていた請求人商標と類似する商標であって,不正の目的をもって使用する商標であるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を次のように述べ,乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)請求人及び請求人商標の周知著名性について
ア 請求人は,甲第3号証ないし甲第8号証を挙げ,米国のタイヤ業界情報を扱う会社により運営されているウェブサイト「TireBusiness.com」の米国ランキングにおいて,請求人が40位ないし50位にランキングされていることを述べ,請求人が米国内において,需要者の間で周知著名であることは明らかである旨を主張する。
しかしながら,以下のとおり,甲第3号証ないし甲第8号証は,米国における請求人の周知著名性を示すものではない。
すなわち,甲第3号証には,「TireBusiness.com」が,“the global tire market”に関するランキングを編集している旨の記載があるが,「TireBusiness.com」が北米市場のみを対象としたランキングを掲載しているとの記載は見受けられない。そして,甲第4号証ないし甲第8号証においては,西暦と共に「Global Tire Company Ranking」のタイトルのもとにタイヤ企業のランキングが記載されている。
さらに,甲第8号証で2008年,2009年のランキングトップに記されている株式会社ブリヂストン(以下「ブリヂストン」という。)の2009年12月期の決算短信(乙1)によると,ブリヂストンの全世界を対象にしたタイヤの売上額は,2008年において2兆6291億5000万円,2009年において2兆1529億6500万円,ブリヂストン社の米州(米国,カナダ,メキシコ,ベネズエラ,ブラジルほか)の売上額は,2008年において1兆3863億1800万円,2009年において1兆1256億5900万円であることが分かる。これに対し,甲第8号証のブリヂストンのタイヤの売上額は,2008年において234億3500万USドル,2009年において205億USドルとなっており,同社決算短信に記された売上額を鑑みれば,甲第4号証ないし甲第8号証が示しているのは世界市場全体のタイヤの売上額であることが推認され,少なくとも米国のみのタイヤの売上額ではないことが分かる。
したがって,甲第3号証ないし甲第8号証からは,請求人の米国におけるタイヤの売上額を確認することはできず,甲第3号証ないし甲第8号証は,請求人の米国での周知著名性を示す資料になり得ない。
イ 請求人は,甲第9号証ないし甲第13号証を挙げて,ModernTireDealerという業者によって上位にランクされている独立系タイヤ販売会社及びタイヤ卸売業者の取扱いタイヤブランドに請求人の名称の一部である「NANKANG」又は「Nankang」が多数記載されており,請求人商標が需要者の間で周知著名であることは明らかである旨主張する。
しかしながら,取扱いタイヤブランドとして,請求人商標が記載されているのは,甲第10号証に示す独立系タイヤ販売会社106社中3社,甲第11号証に示す米国販売会社102社中3社,甲第12号証においては独立系タイヤ販売会社で52社中1社,北米のタイヤ卸売業者で20社中3社,そして,甲第13号証では20社中3社となっている。
したがって,取扱いタイヤブランドに請求人商標が記されている販売会社及び卸売業者は,甲第10号証ないし甲第13号証のそれぞれの資料において,全体の2?3%か多くとも6%で,非常に少数であることが分かる。
そして,これらの販売会社及び卸売業者がランキングされていることからすれば,これらの販売会社及び卸売業者は,数多くのタイヤブランドを取扱う規模の大きな会社又は業者であることが容易に推測される。よって,このような会社又は業者のみを対象にしても,取扱いが極めて少ないということは,甲第9号証ないし甲第13号証が,むしろ請求人商品が需要者の間で周知性を有していないことを示すものであるといえる。
ウ 請求人は,甲第14号証,甲第15号証を挙げて,請求人商品に付された請求人商標が多数の記事に何度も取り上げられている旨を示し,2000年ころから2008年の間に,請求人商標を付した請求人商品が,複数回,継続して雑誌の記事に取り上げられており,請求人商品が幅広い需要者に認められていた旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,甲第14号証,甲第15号証をもって,請求人商品が幅広い需要者に認められていたということはできない。
甲第14号証において,北米でトップ20にランクされるタイヤストアチェーンが1996年にアジアのタイヤブランドを取り扱っていたという記載(1頁の本文5行?14行)の中に請求人の名称は見当たらず,さらに,米国のトップ20に入る独立系ディーラーシップによって取り扱われるアジアのタイヤブランド数が2006年までに増加したという記載(同頁の本文16行?23行)の中にも請求人の名称は見当たらない。
そして,甲第15号証には,「Nankang」という文字が記載された10の記事が記載されているが,そもそもこれらの記事を含む記事集には全部でいくつの記事が存在しているのかが不明であり,この10の記事数が多いか少ないかを客観的に判断することはできない。さらに,この記事が掲載されたウェブサイトの閲覧頻度も不明である。
したがって,甲第14号証,甲第15号証を挙げて,請求人商標が多数の記事に何度も取り上げられているとはいえず,このことから請求人商品が幅広い需要者に認められていたと考えることは到底できない。
エ 以上のことから,請求人商標が米国において周知であるとはいえず,さらに,他の外国において周知であることを示す証拠もないことから,請求人商標が外国において周知であるという請求人の主張は失当である。
(2)不正の意図等について
ア 請求人は,本件商標権者が,米国において請求人商品を示すものとして,請求人商標が注目されるようになっていたことに着目して,本件商標を登録出願したと主張するが,独立系タイヤ販売会社のランキングを示す甲第10号証ないし甲第12号証を見てみると,取扱いタイヤブランドに請求人商標が記された独立系タイヤ販売会社の数は,2000年に52社中1社,2004年に102社中3社,2006年に106社中3社となっており,本件商標の登録出願時である2007年3月22日に近づくにつれ数が増加する傾向は一切見られず,注目の予兆すら感じられない。
イ 請求人は,本件商標権者が近い将来日本国内において請求人商標が注目される可能性が高いとの判断の下に,本件商標を登録出願したと主張するが,以下のとおり,その主張も到底認めることはできない。
ここで,日本市場における請求人商標に関連した資料は,甲第16号証ないし甲第20号証のみであるので,これらから本件商標の登録出願前に,本件商標権者が近い将来,請求人商標が日本国内で注目されるようになると知ることができたか否かについて検討する。
(ア)甲第16号証には,2006年?2008年の各年において,請求人が日本に輸出したタイヤ数が記されている。この記載から,本件商標の登録出願前,すなわち,2006年1月?2007年3月の期間において,請求人が日本に輸出したタイヤ数を算出すると,2007年1月?3月の輸出数を,2007年1月?12月の470,155本の1/4にあたる117,539本とすると,2006年が441,781本であるので,2006年1月?2007年3月は,これらを足し合わせた559,320本であることが分かる。車1台に4本のタイヤが装備されることから,上記559,320本のタイヤは,車139,830台分にあたる。
そして,本件商標を登録出願した2007年3月末時点における日本国内の乗用車保有台数は,57,510,360台である(財団法人自動車検査登録情報協会作成の資料:乙2)。よって,車139,830台分という数は,2007年3月末に日本国内で保有されていた乗用車数の約0.24%というごく僅かな値であることが分かり,甲第16号証に記載されたデータをもって,請求人商標が注目されるようになっていたということは到底できず,むしろ,注目されていなかったことを示している。
(イ)甲第16号証に記載のデータから,本件商標の登録出願年である2007年と翌年2008年とにおける請求人商品が日本へ輸出された数を比較すると,2008年は403,631本であり,2007年の470,155本より約7万本少なく,実際に,請求人商品が,本件商標の登録出願後にも日本国内で注目されるようになっていなかったことが認められる。
(ウ)甲第17号証ないし甲第19号証の各刊行物は,それぞれ発行日が2007年4月24日,2007年6月24日,2007年11月24日であり,全て本件商標の登録出願後に発行されたものである。したがって,本件商標権者は,本件商標の登録出願前にこれらの刊行物を見ることはできず,この刊行物をもって,本件商標権者が本件商標の登録出願前に請求人商品が日本で注目されるようになると知ることはできない。
また,これらの刊行物は,「ドリフト天国」という,タイヤをスリップさせながら自動車を走行させる運転テクニックを示す,いわゆる「ドリフト走行」に興味のある者を対象にした雑誌であるから,その読者は,ドリフト走行に興味のあるごく一部であることが考えられ,自動車を運転する者全体に対して,非常に少数であることが推認される。よって,そもそもこの雑誌一誌に広告が掲載された事実を挙げて,本件商標権者が,請求人商標が日本国内で注目されるようになると知ったと考えること自体に無理があるといわざるを得ない。
ウ 以上のことから,本件商標権者が近い将来日本国内において,請求人商標が注目される可能性が高いとの判断をして,本件商標の登録出願をしたという請求人の推測が成り立たないことは明らかである。
なお,請求人が述べるように,本件商標権者が請求人商品を輸入販売する国内業者の一つであり,日本国内において,請求人商品についての広告をし,販売実績があったことには相違ないが,これらの事実は,本件商標権者が不正の目的をもって商標登録出願をしたという根拠にはならない。
(3)以上から,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当しないことは明白である。
2 商標法第4条第1項第10号について
(1)請求人は,甲第3号証ないし甲第15号証を挙げ,請求人商標が少なくとも米国において周知著名性を獲得している旨主張する。
しかしながら,前記1(1)のとおり,甲第3号証ないし甲第15号証から,請求人商標の米国における周知性は認められず,これら証拠をもって,請求人商標が,本件商標の登録出願時及び現時点において米国で周知であるとは到底いえない。
(2)請求人は,甲第16号証ないし甲第20号証を根拠に,日本において請求人商品の販売実績が認められたと主張するが,甲第16号証は,請求人商品の日本への輸出数を示す資料であり,甲第17号証ないし甲第19号証は,請求人商品についての広告が自動車市場全体に対してごく一部の特定の需要者で構成される規模の小さな市場を購読対象にした刊行物に掲載されていることを示すものである。そして,甲第20号証は,請求人商品をインターネット経由で販売する本件商標権者のウェブサイトの存在を示すものであることから,甲第16号証ないし甲第20号証は,請求人商品が日本国で販売実績があったことを直接的に示すものではない。
また,甲第17号証ないし甲第20号証は,本件商標の登録出願後に発行又は閲覧可能となったものであり,そもそも本件商標の登録出願時における請求人商標の周知性を示す証拠にはなり得ない。
そして,甲第16号証に示されている,本件商標の登録出願前に日本へ輸出された請求人商品が全て日本国内で販売されたと仮定しても,本件商標の登録出願時点における請求人商品の日本国内での販売数は,前記1(2)イのとおり,日本国内で登録されている自動車数を鑑みると,極めて少ないことが分かる。
以上から,請求人商標が,本件商標の登録出願時及び現時点において日本国内で周知であった,あるいは周知であるとは到底いえない。よって,請求人の主張は失当である。
(3)請求人は,請求人商品に関し,米国,スペイン,スリランカ等の市場で流通していること(甲38,甲39,甲43),オーストラリアで,請求人が請求人商品を紹介するウェブサイトを開設していること(甲40),英国等で周知であること(甲41)を述べた上で,外国及び国内において,請求人商品はその周知性が認められている旨主張する。
しかしながら,甲第38号証は,インターネットを介して請求人商品を販売する米国の一業者の存在を示すものにすぎず,甲第39号証は,インターネットを介して請求人商品を販売するスペインの一業者の存在を示しているにすぎない。また,甲第40号証は,オーストラリアに請求人及び請求人商品に関する情報が掲載されたウェブサイトがあることを単に示しているだけであり,甲第41号証は,英国に請求人商品についての使用感等を掲載した1つのウェブサイトが存在していることを示しているにすぎない。さらに,甲第43号証は,請求人商品がスリランカにおいて販売された事実があることを示すのみである。
したがって,甲第38号証ないし甲第41号証,甲第43号証からは,米国,スペイン,オーストラリア,英国及びスリランカにおいて請求人商品の取扱いがあること,若しくはその可能性を示しているに留まり,これらから,日本における請求人商品の周知性はもとより,米国,スペイン,オーストラリア,英国又はスリランカにおける請求人商品の周知性でさえもうかがい知ることはできない。
さらには,甲第38号証ないし甲第41号証は,本件商標の登録出願後にインターネットを介して閲覧した証拠であり,本件商標の登録出願前の記録を示す証拠は,甲第43号証のみである。そして,甲第43号証のみでは,本件商標が登録出願時に周知性を有することを示す根拠にはならないことはいうまでもなく,甲第43号証に,甲第38号証ないし甲第41号証を加え,これら全体に示された事実を鑑みても,請求人商標が周知であるとは到底いえない。したがって,請求人商標は本件商標の登録出願時点においては当然のこと,現時点においても周知であるとはいえない。
(4)請求人は,甲第21号証ないし甲第33号証を示して,請求人が米国及びその他複数の国で登録商標を有している旨主張するが,請求人の登録商標「N NANKANG」は本件商標とは異なり,これらの登録をもって,日本において,請求人商標が周知であるという証明にはならない。
(5)以上から,本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しないことは明らかである。
3 商標法第4条第1項第19号について
(1)請求人は,請求人商標が,少なくとも米国において周知著名である旨を主張するが,前記1(1)のとおり,請求人商標が,本件商標の登録出願時及び現時点において米国で周知であるとは到底いえない。
また,請求人は,請求人商標が,米国以外の他の外国において周知である旨主張するが,前記2(3)のとおり,米国以外の他の外国に関する情報を示す甲第39号証ないし甲第41号証,甲第43号証からは,請求人商標が本件商標の登録出願時及び現時点に米国以外の他の外国において周知であることを確認することはできない。
したがって,請求人商標は,本件商標が登録出願時及び現時点において外国で周知であるとはいえない。
なお,甲第38号証ないし甲第41号証は,本件商標の登録出願後の証拠であり,登録出願時に請求人商標が周知性を有していたことを示す証拠にはなり得ない。
(2)請求人は,請求人商標が,日本国内において周知である旨も主張する。
そこで,甲第16号証ないし甲第20号証を基に,請求人商標の周知性の有無を検討する。なお,商標法第4号第1項第19号でいう「日本国内における需要者の間に広く認識されている」とは,特許庁が作成の審査基準及び発明協会から発行されている工業所有権法逐条解説から「全国的に著名」であることを示していることはいうまでもない。
ア 甲第16号証に記載されている日本へ輸出された請求人商品の数について,その数の大小を客観的に検討してみると,前記1(2)イ(ア)のとおり,2006年1月から本件商標の登録出願時(2007年3月)の期間の輸出数559,320本は,日本の国内で登録されている自動車数を鑑みると,極めて少ない値であることが分かる。よって,甲第16号証をもって,本件商標の登録出願時に,請求人商標が日本国内で周知であったとは到底いえない。
イ 甲第17号証ないし甲第19号証は,本件商標の登録出願後に発行されたものであり,そもそも本件商標の登録出願時における請求人商標の周知性を示す証拠にはなり得ない。そして,刊行物「ドリフト天国」の対象読者は,前記1(2)イ(ウ)のとおり,自動車を運転する者全体に対して非常に少数であることが推認され,甲第17号証ないし甲第19号証をもって,請求人商標が現時点において日本国内で周知であったということもいえない。
ウ 甲第20号証は,請求人商品をインターネット経由で販売する本件商標権者のウェブサイトの存在を示すものにすぎず,甲第20号証をもって,請求人商標が現時点において日本国内で周知であるともいえない。なお,甲第20号証と甲第42号証(本件商標権者が運営する商品販売サイト)は,本件商標の登録出願後のものである。
したがって,請求人商標は,本件商標の登録出願時及び現時点において日本国内で全国的な周知性を有しているとは到底いえない。
(3)不正の目的について
ア 請求人は,甲第34号証ないし甲第37号証を示して,請求人が,東京ビッグサイトにて開催が予定されていた「第38回東京モーターサイクルショー2011」に出展のエントリーをしていた旨主張する。
しかしながら,そのショーは,本件商標の登録出願から4年以上も経過した2011年3月25日?同27日に開催を予定していたものである。
したがって,請求人がそのショーヘの出展を計画していたことによって,本件商標の登録出願時及び現時点において,本件商標権者により不正な目的をもって使用するものであるとは到底いえない。
イ 請求人は,本件商標に対し,商標法第53条の2の規定による取消審判を請求したが,本件商標権者は,登録を放棄することなく,請求人と争い,審判費用を請求人にするよう求めたと主張している。
しかしながら,そもそも,上記取消審判の請求書副本の本件商標権者への発送日は,2008年12月5日であり,これは,本件商標の登録出願から約1年半も後のことである。
したがって,上記取消審判の請求があったことによって,本件商標が登録出願時において,本件商標権者により不正な目的をもって使用するものであったとはいえない。
そして,上記取消審判において,本件商標権者が,登録を放棄することなく,請求人と争い,審判費用を請求人にするよう求めたのは,商標法第53条の2に規定の取消審判事件に限らず,審判を請求された商標権者が通常求める内容であり,このような求めをしたことが,本件商標が不正な目的をもって使用するものであることを裏付ける事実になり得ないことはいうまでもない。
(4)以上より,請求人商標が本件商標の登録出願時に,米国をはじめとする外国や日本国内において周知であったという事実はなく,さらに,本件商標が登録出願時において本件商標権者により不正な目的をもって使用するものであったという事実もない。
よって,本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当しないことは明らかである。
4 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同第10号及び同第19号のいずれにも該当しない。
したがって,本件商標の登録は,商標法第46条第1項第1号により無効にすることはできい。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」のある商標は商標登録をすることができないと規定しているところ,同規定は,商標自体の性質に着目した規定となっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については,同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。そして,同規定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである(平成14年(行ケ)第616号,平成19年(行ケ)第10391号ほか)。
(2)本件において,請求人は,「本件商標権者は,本件商標の登録出願当時,米国において,請求人商品を示すものとして,請求人商標が注目されるようになっていたこと及び日本国内でも請求人商品の販売実績があったことに着目し,近い将来,日本国内においても,請求人商標が注目される可能性が高いとの判断の下に,日本国内で商標登録されていないことを幸いに,請求人商標と同一又は類似する本件商標につき商標登録を受けることにより,日本国内において,請求人商標を付した商品の輸入総代理店等の有利な立場を得たり,あるいは,請求人の名声に便乗して不正な利益を得るために使用することを目的として本件商標を登録出願したと推認せざるを得ず,したがって,本件商標は,公正な商取引の秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものとして,公序良俗を害するおそれがある商標であるから,商標法第4条第1項第7号に該当する」旨主張するので,以下,検討する。
ア 甲第3号証ないし甲第20号証及び甲第34号証ないし甲第37号証によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア)請求人は,タイヤの製造,販売を事業内容として,1959年に設立された台湾の企業である(甲36,甲37)。
(イ)タイヤ業界の各種情報を取り扱うウェブサイト「TIRE BISINESS.COM」(米国の会社が運営:甲3)によれば,請求人は,「Global Tire Company Ranking」(世界タイヤ製造会社の順位)において,1997年?1999年は47位,2000年及び2001年50位,2004年43位,2005年40位,2006年及び2007年41位,2008年46位,2009年42位であったこと(甲4?甲8)。
(ウ)個人経営のタイヤの卸販売業者・小売販売業者に情報提供をする米国企業「MTD(MODERN TIRE DEALER)」の調査によれば,請求人商標は,(a)2006年の米国国内の自営タイヤ販売店(Independent Tire Store Chains)トップ100において,41位,51位,53位,63位にランクされた店舗の取扱いブランドの一つとして,(b)2004年の米国国内の自営タイヤ販売店トップ100において,64位,70位,98位にランクされた店舗の取扱いブランドの一つとして,(c)2000年の米国国内の自営タイヤ販売店トップ50において,33位にランクされた店舗の取扱いブランドの一つとして,また,2000年の北米のタイヤ流通業者トップ20において,1位,3位,5位にランクされた企業の取扱いブランドの一つとして,(d)2002年の北米のタイヤ流通業者トップ20において,1位,4位,9位にランクされた企業の取扱いブランドの一つとして,それぞれ記載された(甲9?甲13)。
(エ)2007年4月1日付けの前掲「MTD」のウェブサイトには,米国におけるアジア製タイヤの位置づけに関する記事の中で,米国のタイヤ輸入業者が取り扱っているブランドの一つに,請求人商品が存在することが記載されている。その他,2000年から2008年にかけて,前掲「TIRE BISINESS.COM」のウェブサイトにおいて,請求人ないし請求人商品に関する記事(その多くのものは,米国のタイヤ販売会社が取り扱うブランドの一つに請求人商品が含まれる,というものである。)が10件程度掲載された(甲14,甲15)。
(オ)請求人は,請求人商品を本件商標権者を含む日本国内のタイヤ販売会社を通じて,2006年(平成18年)に約44万個(そのうち本件商標権者には約19万5千個),2007年(平成19年)に約47万個(そのうち本件商標権者には約25万5千個),2008年(平成20年)に約40万個(そのうち本件商標権者には約25万個)を日本に輸出した(甲16)。
(カ)請求人商品は,平成19年4月24日及び同年6月24日発行に係る雑誌「ドリフト天国」において,本件商標権者,日本の同業他社1社,請求人により広告された(甲17,甲18)。上記平成19年4月24日発行の上記雑誌における本件商標権者の請求人商品の広告には,「NANKANG」,「ナンカン:台湾」の文字と共に「本国や北米では,フェデラルと双璧する人気のタイヤメーカー。」などと記載された。また,請求人商品は,平成19年11月24日発行に係る雑誌「ドリフト天国」において,本件商標権者,日本の同業他社2社,請求人により広告された(甲19)。
さらに,本件商標権者のホームページにも,「NANKANG(ナンカン)タイヤ」の表示をもって,請求人商品の広告が掲載されている(なお,同ホームページには,「3月11日(金)に発生した東北地方太平洋沖地震により,亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます・・」との記載がある。甲20)。
(キ)請求人は,2011年(平成23年)3月25日から同年同月27日の間に開催が予定されていた「第38回東京モーターサイクルショー」に出展する企業としてリストに掲載されていた(甲34,甲35。なお,該「第38回東京モーターサイクルショー」は,東日本大震災の影響に伴い中止された。)。
イ 前記アで認定した事実によれば,以下のとおり認定するのが相当である。
(ア)米国における請求人商標の周知著名性
a.1959年に設立された台湾のタイヤメーカーである請求人は,2000年(平成12年)ころから請求人商標を付した請求人商品を米国に輸出していたと推認することができる(甲10?甲13。なお,甲4?甲8は,「世界タイヤ製造会社の順位」であって,これをもって,請求人商品が,1997年(平成9年)ころから米国で販売されていたと直ちに認めることはできない。)。
しかし,請求人商品は,2000年には,米国国内の自営タイヤ販売店トップ50中の33位にランクされた一店舗において,その取扱いブランドの一つであったにすぎないものであり,また,2000年及び2002年(平成14年)の北米のタイヤ流通業者トップ20のうち,上位を占める3業者の取扱いブランドの一つに挙げられていたとしても,タイヤ流通業者の上位を占める企業は取り扱うブランド数も多いと考えられるから,これをもって,請求人商品ないし請求人商標が2000年?2002年にかけて,米国で周知著名になっていたことを裏付ける証拠とすることはできない。
さらに,2004年(平成16年)及び2006年(平成18年)における米国国内の自営タイヤ販売店トップ100中の中位から下位にかけての3?4店舗が請求人商品を取り扱ったとしても,これをもって,請求人商品ないし請求人商標が2004年?2006年にかけて,米国で周知著名になっていたと認めることはできない。
b.また,米国のタイヤ業界におけるウェブサイトの一つに,請求人ないし請求人商品に関する記事が掲載されていたとしても(甲14,甲15),2000年から2008年にかけて10回程度にすぎず,しかもその多くのものは,米国のタイヤ販売会社が取り扱うブランドの一つに請求人商品が含まれる,というものである。
したがって,米国のタイヤ業界におけるウェブサイトの一つに,請求人ないし請求人商品に関する記事が掲載されていたとしても,これをもって,請求人商品ないし請求人商標の米国における周知著名性が確立していたと認めることはできない。
c.そして,請求人は,請求人商品に関し,米国へ輸出した数量,米国における売上高,米国で宣伝広告をした回数・期間・地域などを示す証拠は何ら提出しておらず,上記a.及びb.認定の証拠を併せ考慮すると,請求人商標が請求人商品を表示するものとして,本件商標の登録出願日(平成19年3月22日)の時点に,米国において,周知著名性を獲得していたと認めることはできない。また,本件商標の登録査定日(平成20年1月8日)の時点に,その状況が変化したとうかがわせる証拠の提出はない。なお,請求人は,「Global Tire Company Ranking」(世界タイヤ製造会社の順位(販売額に基づく))を提出するところ(甲4?甲8),請求人が,1997年から2009年にかけて,おおよそ40位から50位の間を保持していたことが認められるものの,その地位を保持するために貢献した販売額において,そのすべてが請求人商標を付した商品の売上高であるのかは明らかではない。
d.以上によれば,請求人商標は,本件商標の登録出願日及びその登録査定日の時点に,米国において周知著名性を獲得していたと認めることはできない。
したがって,「本件商標の登録出願当時,請求人商標が,米国において請求人商品を示すものとして,注目されるようになっていた」旨の請求人の主張は,採用することができない。
(イ)日本における請求人商品の販売実績・広告等について
a.前記ア(オ)認定のとおり,請求人は,請求人商品を,本件商標権者を含む日本国内のタイヤ輸入販売会社を通じて,本件商標の登録出願日(平成19年3月22日)の前年である2006年(平成18年)に約44万個,本件商標の登録出願日と同年の2007年(平成19年)に約47万個を日本に輸出したこと,さらに,本件商標の登録査定日(平成20年1月8日)と同年の2008年(平成20年)に約40万個を日本に輸出したことが認められる。
しかし,これら日本に輸入された請求人商品が,本件商標の登録出願日からその登録査定日を通じて,どの程度の数量が販売されたのか等については明らかではない。
また,「わが国の自動車保有動向/自動車保有台数の推移」(乙2)によれば,平成18年の我が国の自動車保有台数は,約7899万台(そのうち乗用車が約5709万台)であり,平成19年は,約7900万台(そのうち乗用車が約5751万台),平成20年は,約7908万台(そのうち乗用車が約5755万台)であって,我が国の自動車保有台数に比べ,請求人商品の我が国へ輸出した数量は,さほど多いものとはいえない。
したがって,請求人商品が日本において販売実績があったと推認することができるものの,その前提となる輸出数量は,タイヤ関連の取引者,需要者の多くが注目するようなものとはいい難いところである。
b.前記ア(カ)認定のとおり,請求人商品は,平成19年4月24日,同年6月24日,同年11月24日の各発行に係る雑誌「ドリフト天国」において,本件商標権者を含む日本の販売業者及び請求人により広告された事実が認められる。
しかし,これらの広告は,本件商標の登録出願後に発行された雑誌に掲載されたものである。その他,本件商標の登録出願前に,請求人商品が日本において宣伝,広告された事実を明らかにする証拠の提出は全くなく,また,本件商標の登録査定時までに,上記雑誌以外に,請求人商品が宣伝,広告された事実を明らかにする証拠の提出も全くない。
c.以上によれば,請求人商品の日本への輸出数量は,本件商標の登録出願日からその登録査定日を通じて,さほど多いものではなく,販売実績もさらに少ないものと推認することができる。また,請求人商品に関する宣伝広告も,本件商標の登録出願前には,全く行われていなかったものと認めることができる。
そうすると,本件商標の登録出願前までにあった少量の販売実績と本件商標の登録出願前に日本国内で全く広告すらされていなかった請求人商品について,本件商標権者が,請求人の主張するところの「請求人商品が日本国内でも請求人商品の販売実績があったことに着目し,近い将来,日本国内においても,請求人商標が注目される可能性が高いと判断」することは,相当困難であったというべきである。
したがって,上記請求人の主張は根拠のないものであり,採用することができない。
(ウ)本件商標の登録出願について
a.請求人は,前記ア(オ)認定のとおり,2006年(平成18年)ころから本件商標権者を含む日本国内のタイヤ輸入販売会社を通じて,請求人商品を日本へ輸出していたところ,請求人商品の日本への輸出のうち,2006年は約44%が,2007年は約54%が,2008年は約62.5%が,本件商標権者に引き渡され(甲16),本件商標権者は,2006年以降2011年3月の時点において(甲20)も,請求人商品の日本での販売にかかわってきたことが認められ,その間の平成19年3月22日に,本件商標の登録出願をしたということができる。
b.一方,請求人は,日本における請求人商品の取引が順調に進むようにするための手順として,当然に請求人商標を日本において商標登録出願をすべきところ,それが可能であったにもかかわらず(請求人が請求人商標を日本で登録出願することを妨げる事情は見出せない。),これを怠っていたといわざるを得ない。
また,請求人は,本件商標に対し,登録異議の申立てをした形跡もなく,本件商標の登録から3年以上経過して本件審判を請求したところである(なお,請求人は,本件商標について,平成20年10月30日に商標法第53条の2に基づく取消審判(取消2008-301387)を請求したが,当該取消審判は,平成21年7月16日付けで,「請求不成立」との審決がされ,平成21年12月18日に確定の登録がされた。)。上記経緯からすれば,むしろ,請求人は,単に請求人商品を日本のタイヤ輸入販売会社に販売することのみを重要視していたと考えられなくもない。
そして,本件商標権者が,本件商標の商標登録を受けたことにより,請求人に対し,日本国内における代理店契約を強制するなど,不当な利益を得るための行為をしたなどを基礎付ける具体的な事実は何ら見出せない。かえって,本件商標権者は,前記ア(カ)認定のとおり,本件商標の登録出願後である平成19年4月ころから同年11月ころにかけて発行された自動車専門雑誌「ドリフト天国」に,「NANKANG」,「ナンカン:台湾」の文字と共に「本国や北米では,フェデラルと双璧する人気のタイヤメーカー。」などと記載して,請求人商品の宣伝広告をしていたこと,本件商標の登録後である2011年(平成23年)3月の時点においても,インターネット上で請求人商品の販売をしていたが認められるところからすれば,自己の業務に係るタイヤ販売を継続していく上で,日本において,請求人商標の商標登録出願がされていないことに強い危惧を抱いていたと解することもできるのである。
ウ 以上によれば,請求人と本件商標権者との私人間の紛争は,本来,当事者間における契約や交渉等によって解決,調整が図られるべき事項であって,一般国民に影響を与える公益とは,関係のない事項である。
そして,本件商標権者が,日本において,請求人商標と類似する本件商標の登録出願をし,登録を受ける行為が当然に「公の秩序や善良な風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものとは解すことはできない。
(3)したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第10号及び同第19号について
(1)請求人商標の周知著名性について
前記1(2)イ認定のとおり,請求人商標は,請求人の業務に係る商品(請求人商品)を表示するものとして,本件商標の登録出願日である平成19年3月22日及び本件商標の登録査定日である平成20年1月8日の時点において,米国及び日本国内において,その取引者及び需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
また,請求人は,請求人商品を,スペイン,オーストラリア,英国において,インターネット上で販売したり,スリランカに輸出販売している旨主張し,甲第38号証ないし甲第41号証及び甲第43号証を提出するところ,これら証拠のうち,インターネットは,いつ掲載されたものであるか明らかではなく(いずれも2011年3月18にプリントアウトされたもの。),また,スリランカに請求人商品を輸出された事実はうかがうことができるものの,スリランカでの販売数量,広告をした事実などを裏付ける証拠の提出はない。したがって,これらの証拠をもって,本件商標の登録出願日及びその登録査定日の時点において,請求人商標が請求人商品を表示するものとして,上記外国の取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認めることは到底できない。
なお,請求人は,米国やその他複数の外国において,「N NANKANG」の文字よりなる登録商標を有している旨主張し,甲第21号証ないし甲第33号証を提出するが,これら外国における登録商標を有することをもって,請求人商標が当該外国において周知著名性を獲得していたとする主張の根拠にならないことは明らかである。
(2)不正の目的について
請求人が,本件商標は不正の目的をもって使用するものである,と主張する根拠は,以下のとおりである。
(a)請求人及び日本国内のタイヤ販売会社は,本件商標の登録出願前に,雑誌を介して,請求人商品の広告をし,かつ,請求人は,請求人商品の販売を積み重ね,販路拡大,請求人の事業規模拡大をするため,「第38回東京モーターサイクルショー」の出展を予定していた(甲34,甲35)。(b)請求人が本件商標に対し,商標法第53条の2に基づく取消審判の請求をしたところ,本件商標権者は,本件商標の登録を放棄することなく,争ってきた。(c)本件商標権者の販売する他社の銘柄のタイヤに,本件商標を使用するときは,請求人商標に化体した信用,名声,顧客吸引力が毀損されるおそれがある。(d)請求人商標は,造語に準じたものであり,顕著な特徴を有する。
しかしながら,(a)について,請求人及び日本国内のタイヤ輸入販売会社が請求人商品について広告は,本件商標の登録出願日後に発行された雑誌「ドリフト天国」に掲載されたのものである。また,「第38回東京モーターサイクルショー」も,2011年(平成23年)3月25日から同年同月27日の間に開催が予定されていたものであり,本件商標の登録出願日はもちろんのこと,本件商標の登録査定日よりもさらに後のものである。
したがって,請求人が,本件商標の登録出願前より,日本国内において,請求人商品の広告をしていた事実は認めることができないし,請求人商品の販路拡大及び請求人の事業規模拡大をしていた事実も認めることができない。
(b)について,請求人が本件商標について請求した商標法第53条の2に基づく取消審判に対して,本件商標権者が争うことは,通常の当事者対立構造の形式をとる審判事件においては極めて一般的というべきであり,本件商標権者が上記取消審判で争ったことが,直ちに本件商標が不正の目的をもって使用されるとする要因と結論づけることはできない。
(c)について,自動車のタイヤ等の取引において,ある特定の会社の製造に係るタイヤに,これと全く関係を有しない第三者の銘柄を付すことは,特別な契約が存在するような場合はともかく,通常の取引においては考えられないし,また,タイヤ販売の業界において,そのようなことが普通に行われているという事実を裏付ける証拠の提出もない。さらに,前記認定のとおり,請求人商標が,他社の製造に係るタイヤに好んで使用される程度に,タイヤ業界において,周知著名性を有しているものとは認められない。
(d)について,請求人商標を構成する「NANKANG」又は「Nankang」の文字及び本件商標中の「NANKANG」の文字は,我が国においては,馴染みの薄いものであり,特定の語義を有しない造語と理解されるものである。しかし,「NANKANG」の文字を含む本件商標を本件商標権者が登録出願した経緯は,前記1(2)イ(ウ)認定のとおり,請求人が日本において請求人商標を商標登録出願していない一方で,本件商標権者は,日本に輸入された請求人商品の約半数以上取り扱う業者として,自己の業務に係るタイヤ販売を継続していく上で,日本において,請求人商標の商標登録出願がされていないことに強い危惧を抱いていたと解することもできるのである。
してみると,本件商標は不正の目的をもって使用するものである,とする請求人の主張は,いずれも理由がなく,採用することはできない。その他,本件商標が不正の目的をもって使用されたと認め得る証拠の提出はない。
(3)以上によれば,請求人商標は,本件商標の登録出願時及びその登録査定時において,請求人商品を表示するものとして,日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と認めることはできない。また,本件商標は,不正の目的をもって使用する商標ということもできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当しない。
3 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号,同第10号及び同第19号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2011-08-22 
結審通知日 2011-08-24 
審決日 2011-09-21 
出願番号 商願2007-25067(T2007-25067) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (X12)
T 1 11・ 25- Y (X12)
T 1 11・ 22- Y (X12)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 浩子 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 鈴木 修
小川 きみえ
登録日 2008-02-15 
登録番号 商標登録第5111437号(T5111437) 
商標の称呼 ナンカン、ナンカング 
代理人 中前 富士男 
代理人 木村 高久 

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