• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X35
管理番号 1244673 
審判番号 無効2011-890009 
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-02-01 
確定日 2011-09-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第5241080号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5241080号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5241080号商標(以下「本件商標」という。)は、「シャーリーテンプル」の片仮名文字を標準文字で表してなり、平成20年1月31日に登録出願、同21年5月25日に登録査定がなされ、第35類「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、同年6月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第10号証(枝番号を含む。ただし、以下、全ての枝番号を含む場合には、その枝番号を省略する。)を提出した。
請求の理由
1 本件商標について
本件商標は、アメリカ合衆国の子役女優であり、成人後は、ハリウッド女優及び外交官であったShirley Temple Black(旧姓:Shirley Temple)(以下「Temple」という場合がある。)のファーストネームとミドルネームをカタカナ書きで表したものからなり、第35類の「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、登録出願、設定登録されたものである(甲第1号証)。
2 Templeが日本を含む世界的に著名な人物であること
(1)「Shirley Temple」及び「シャーリーテンプル」は、1928年4月23日生まれの世界的に著名な米国女優Shirley Temple Black(甲第2号証)の略称である。Templeは、子役映画俳優としてデビューし、1935年に6歳でアカデミー賞特別賞を受賞するなど多数の映画に出演した実績を有する。3歳で子役映画俳優としてデビューして以来現在に至るまで、世界各国におけるTempleの知名度及び出演作品の人気度が非常に高い。
アメリカ最大のオンラインショッピングサイト(Amazon.com)において、Templeにちなんだ書籍が652点(甲第3号証の1)、出演映画作品、テレビ番組などのVHSビデオ及びDVDが479点など(甲第3号証の2)、総数1000点以上の商品が実際に販売されている。
更には、Templeをかたどった人形、絵皿、写真などいわゆるキャラクターグッズも多種販売されており、人形の商品点数は、100件(甲第3号証の3)、絵皿の商品点数は、7件(甲第3号証の4)、写真やポスターなどに至っては、1161件(甲第3号証の5)もの商品が現在も取引の対象とされている。
また、Templeが日本の需要者の間でも「Shirley Temple」又は「シャーリーテンプル」という名称で親しまれ、Templeの出演作品が非常に人気を博していることは、Amazon.comの日本の需要者向けのサイトにおいて、平成18年以降、主演映画「輝く瞳」、「農園の寵児」、「小連隊長」、「テンプルの愛国者」、「テンプルのえくぼ」の新カラーバージョンを収録したDVDが発売されている事実(甲第4号証)からも明らかである。
さらに、書籍としては、平成4年に「シャーリー・テンプルー私が育ったハリウッド 上・下」というタイトルの自伝が平凡社から出版されている(甲第2号証の3)。
以上のように、本件商標「シャーリーテンプル」は、米国出身の女優Shirley Temple Blackを指し示すものとして一般に受け入れられているのであり、「著名な略称」に該当する。
(2)「シャーリーテンプル」という標章が「著名な略称」に該当することについては、特許庁も認めている(甲第5号証)。
(3)さらに、被請求人である株式会社シャーリー・テンプル(以下「STKK」という。)自身、Templeが著名であることを認めた上で、Templeとの間で平成5年5月1日に商標ライセンス契約書(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結(甲第6号証)し、請求人であるシャーリーズ・ワールド L.P.との間で平成15年6月30日に商標ライセンス契約修正契約書(以下「本件修正契約」という。)を締結している(甲第7号証)。STKKは、本件商標の出願経過においてTempleの著名性については、一切争っておらず(甲第5号証の1及び甲第8号証)、著名性の観点が改めて問題となることはないと考えられる。
(4)以上のとおり、「Shirley Temple」及び「シャーリーテンプル」は、1928年4月23日生まれの世界的に著名な米国女優Shirley Temple Blackの略称として、本件商標の出願時(平成20年1月31日)及び査定時(平成21年5月25日)のいずれの時点においても著名であったことは明らかである。
3 本件商標の登録に際しTemple及び請求人の承諾がないこと
STKKは、本件の代理人磯野富彦弁理士作成に係る平成20年12月25日付け意見書において、本件ライセンス契約自体がSTKKとTempleとの間の「商標に関する合意書」にあたると主張した(甲第8号証)。かかる主張は、以下の点で誤りである。
第1に、Temple及び請求人は、STKKに対し、「シャーリーテンプル」という標章を商標登録出願することを承諾したことも、承諾を不合理に遅滞したこともない(甲第9号証及び甲第10号証)。
第2に、本件ライセンス契約第5条は、商標登録出願についてTempleがSTKKに承諾を与えた規定ではない。本規定は、一方でSTKKが「シャーリーテンプル」を含む標章を本件ライセンス契約において指定された商品に限り使用することを認めた範囲は、「婦人及び女児用に小売販売される衣料品」等に限定されており、本件商標の指定役務「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、含まれない。他方、STKKは、Templeの承諾を得ない限り当該標章を商標として登録出願してはならないという義務を負うことを明示している。本件ライセンス契約においてSTKKに認められた権利は、本件ライセンス契約において指定された商品に標章を使用し、Templeのグッドウィルを利用して営業することのみであって、無断で商標の登録出願を行うことではない。
第3に、被請求人は、本件ライセンス契約時に他の商標が既に登録されていることをもって、商標登録が自由に許諾されていたと主張するかもしれないが、Templeの承諾を得ずに過誤で認められた商標登録が過去に存在したからといって、本件ライセンス契約締結後に、別の指定商品・役務で新たに商標登録を出願する際に同人の承諾が不要であることにはならない。
以上のとおりであるから、登録査定時において、他人の著名な略称である本件商標の登録要件として不可欠な、他人に該当するTempleからの承諾が存在していなかったことは明らかである。
4 結論
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当し、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第6号証(枝番号を含む。)を提出した。
答弁の理由
1 シャーリー・テンプル・ブラックの著名性について
1930年代は、日本では、第2次世界大戦前であり、この略称が著名であったとはいえない。当時の著名な略称であるか否かについては、現在では、調査することもできないが、問題は、本件登録出願時でも著名な略称であるかである。
この点、1987年7月1日第一刷(株式会社キネマ旬報社)「外国映画俳優全集・女優編」(乙第1号証)を見ると、シャーリーテンプルは、掲載されていない。「まえがき」を見ると「80年代の現在、言及に値する女優はほぼ取り上げているつもりである。」との記載がある。このような映画を紹介する専門の会社がシャーリーテンプルを挙げていないことは、1980年代には、もはや有名ではないといえるのではないか。
確かに、自叙伝を平成4年に出版し、平成14年同人の子役時代のDVDが発売されたと事実は確認できるとしても、そのことをもって、直ちに、世間一般に広く知られた著名な略称との結論は導けない。けだし、情報が錯綜する昨今、売れないタレントが自叙伝を出すことが良くあるからであり、あるDVDのランキングが87,702位であることから、世間一般に広く知られたということはできない。
また、インターネットで検索すれば、同人の氏名はたくさん出るが(乙第2号証)、映画業界から見ていると、その評価は、世間一般とは異なる。
2 米国特許庁も著名とは認めていないことについて
米国においては、人形やカクテルの名称になっていることから、シャーリーテンプルが一般名称になっており、もはや商標として希釈化されていると考えるのが妥当である。
商標として希釈化された点を証明する証拠として、米国商標登録出願(77/723,398号)において、ソフトドリンクを指定商品として「SHIRLEY TEMPLE」は、単に記述的商標にすぎないと判断している(乙第3号証の1)。
この乙第3号証には、米国特許庁の拒絶理由通知で、現存する人物なので、その方の同意は必要だとの記述はあるが、シャーリー・テンプルが著名だとの記述はない。米国で著名でない以上、我が国でも著名ではない。
3 被請求人の店舗名についての歴史
被請求人の店舗名としての歴史があることは、被請求人のホームページによる会社の沿革を示す(乙第4号証)。
被請求人は、SHIRLEY TEMPLE(第1478894号)を昭和56年に登録している(乙第5号証)。
さらに、被請求人は、本件商標を平成21年に登録していることから(乙第5号証)、現在になって、無効を請求されるのは、承服しかねる。昭和56年より以前の第2次世界大戦前に有名であった人物が、もし昭和の時代に拒絶されておれば商標の選択を変更できた余地があるが、現在になって無効を請求されるのは取引の安全を害している。
4 結論
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。

第4 当審の判断
1 「Temple」及びその著名性について
請求人提出の甲第2号証ないし甲第4号証(枝番号を含む。)によれば、米国カリフォルニア州在住のShirley Temple(Shirley Temple Black)は、1928年に生まれ、3才で映画デビュー、1934年にフォックス撮影所入社、1935年に6歳でアカデミー賞特別賞を受賞するなど多数の映画に出演した実績を有し、子役映画俳優としてデビューして以来米国を代表する子役俳優として活動し、数々の映画に出演したこと、同人の出演した、特に子役時代の映画は、ビデオテープやDVD等に収録されて、今日においても市販され、一般家庭で普通に観ることができること、これらのビデオテープやDVD等のパッケージには、「SHIRLEY TEMPLE」、「シャーリー・テンプル」の文字が大きく表示されていること、さらに、Templeは、平成4(1992)年5月に、「シャーリー・テンプル-わたしが育ったハリウッド」と題する自叙伝を発行したことなどを認めることができる。
上記状況からすると、「Shirley Temple(シャーリー・テンプル)」、すなわち本件商標「シャーリーテンプル」は、米国の映画俳優であったTempleの略称を表すものとして、本件商標の登録出願時には、既に米国のみならず、我が国の国民の間でもよく知られていたと認めることができ、その状態は、本件商標の登録査定時においても継続していたということができる。
被請求人は、乙第1号証を示して、株式会社キネマ旬報社発行の「外国映画俳優全集・女優編」に「シャーリーテンプルは、掲載されていない。」と述べている。
しかしながら、Templeは、「50年には映画界を引退し、・・・その後は政界に活躍の場を移し、国連代表委員、ガーナ大使を歴任、現在はチェコスロバキア大使を務めている。」(甲第2号証の3)とあり、1950年には女優としての活動を停止しているものである。
そして、当該辞典は、「80年代なかばの現在でも活動している女優を収録することにした」(乙第1号証)のであるから、Templeが掲載されていないのは当然であり、女優としての活動を停止したからといって、その著名性が直ちに消滅するものではなく、政界その他の場における活動を通じてもなお、その著名性は維持され、継続されているというべきである。
また、被請求人は、米国において「シャーリーテンプル」が人形やカクテルの名称になっていること(乙第3号証)をもって、一般名称になっており、もはや商標として希釈化されている旨、さらに、被請求人の店舗名としての歴史があること(乙第4号証)及び過去の登録例(乙第5号証)があることをもって、現在になって,無効を請求されるのは承服しかねる旨主張するも、これらの事情が、本件商標の商標法第4条第1項第8号の該当性の判断を左右するものではない。
したがって、いずれの請求人の主張は、採用することができない。
2 Temple及び請求人と本件商標の商標権者との間の商標ライセンス契約等について
(1)甲第6号証ないし甲第10号証(枝番号を含む。)によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)平成5(1993)年5月1日に、Templeと商標権者との間で締結した本件ライセンス契約(以下「原契約」という。)の内容は、概略以下のとおりである(甲第6号証)。
a Templeは、商標権者に対し、商標権者が商品「ワンピース、スカート、ブラウス、シャツ、パンツ、コート、ジャケット、寝巻き、靴、靴下及び帽子を含む、婦人及び女児用に小売販売される衣料品」(以下「本製品」という。)について、日本、香港、韓国、台湾、シンガポール及び東南アジア地域において、「シャーリー・テンプル」の標章を使用し、幼少の頃のテンプルの肖像写真を使用する、譲渡不可かつ独占的な、ロイヤリティを対価とするライセンスを許諾するが、当該ライセンスは、本製品の流通及び小売販売にのみ関連するものとし、その他の目的には使用しないものとする(第1条第2条)。
b Templeは、商標権者が、日本国内で、「Shirley Temple」及び「シャーリー・テンプル」の各標章を使用していることを承知しているが、商標権者は、Templeの承諾を得ずに、当該標章に係るいかなる権利も譲渡、ライセンス許諾、その他の方法で移転しないことに同意すること、また、商標権者は、「Shirley Temple」という名前を含む一切の標章については、あらゆる形態において、あらゆる管轄地において、Templeの承諾なく登録を得ることを企図しないことに同意する(第5条)。
(イ)平成15(2003)年6月30日に、Templeの承継者かつ譲受人である請求人と商標権者との間で締結した本件修正契約(以下「本契約」という。)の内容は、概略以下のとおりである(甲第7号証)。
a Templeは、原契約に基づく一切の権利義務を請求人に譲渡しており、また、請求人に対し、商標権者へのシャーリー・テンプル標章のライセンスを供与する権利を付与している。
b 原契約の期間は、平成15(2003)年4月30日に満了する。
c 請求人と商標権者は、原契約の期間の延長をし、原契約の条件を修正及び変更するため、本契約を締結した。
d 本製品及びその使用地域は、原契約どおりである(第1条)。
e 原契約の期間を10年延長(平成25(2013)年4月30日に満了)する(第2条)。
f 本契約において修正された場合を除き、原契約の規定は継続して効力を有する(第8条)。
(ウ)本件商標の審査の段階において、商標権者は、平成20年12月15日付け発送に係る拒絶理由通知(商標法第4条第1項第8号)を受けたことに対し、同年12月25日付け意見書において、「承諾につきまして、シャーリーテンプルブラック様との間で商標に関する合意書がありますので、必要な個所の翻訳を添付して、同日付けで提出する手続補足書でご郵送します。以上の結果、拒絶理由が解消しましたので、登録査定の程、よろしくお願い申し上げます。」と述べ(甲第8号証)、当審における職権調査によれば、同日付け手続補足書に添付された商標権者のいう「合意書」は、前記平成15(2003)年5月1日に締結された原契約書(甲第6号証)と認められる。
(エ)Templeの「宣誓供述書」によれば、日本において「Shirley Temple(シャーリー・テンプル)」の商標を第35類として登録する承諾を商標権者に与えていないことが認められる(甲第9号証)。
(2)上記(1)で認定した事実によれば、商標権者は、自己の業務に係る被服等に、「Shirley Temple」及び「シャーリー・テンプル」の各標章を使用することについて、平成5(1993)年5月1日及び同15(2003)年6月30日において、Templeないし請求人との間で、原契約及び本契約を締結したことが認められる。
しかし、上記各契約は、あくまでも商標権者が婦人及び女児用の衣料品に「Shirley Temple」及び「シャーリー・テンプル」の各標章を使用することについて、Templeないし請求人が許諾をしたにすぎないものであって、商標権者が「シャーリーテンプル」の文字からなる本件商標の登録出願をし、商標登録を得ることについてまで承諾を与えたとみることはできない。
また、既に、Templeは、日本において「Shirley Temple(シャーリー・テンプル)」の商標を第35類として登録する承諾を商標権者に与えていない旨の「宣誓供述書」が提出されているものである。
その他、請求人らが商標権者に対し、本件商標の登録出願について、承諾を与えたと認めるに足る証拠は見いだせない。
そうすると、本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において、世界的に知られている米国の女優であったTempleの著名な略称であって、かつ、商標権者は、本件商標の出願及び登録について、その承諾を得ていなかったものといわざるを得ない。
3 結び
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2011-07-15 
結審通知日 2011-07-21 
審決日 2011-08-02 
出願番号 商願2008-6387(T2008-6387) 
審決分類 T 1 11・ 23- Z (X35)
最終処分 成立  
前審関与審査官 津金 純子今田 三男 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 小川 きみえ
鈴木 修
登録日 2009-06-19 
登録番号 商標登録第5241080号(T5241080) 
商標の称呼 シャーリーテンプル、シャーリー、テンプル 
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ 
代理人 磯野 富彦 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ