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審決分類 審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない X43
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X43
管理番号 1243354 
審判番号 無効2010-890052 
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-07-08 
確定日 2011-02-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第5157900号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5157900号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成19年8月2日に登録出願、第43類「日本料理を主とする飲食物の提供,その他の飲食物の提供」を指定役務として、同20年7月24日に登録査定がなされ、同年8月8日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張(要旨)
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第4号証(枝番を含む。)を提出した。
本件商標の登録は、商標法3条1項柱書及び同法4条1項7号に違反してされたものである。
1 商標法3条1項柱書違反について
(1)黒豚しゃぶしゃぶ店「くろ黒亭」について
請求人は、東京都新宿区内に、黒豚しゃぶしゃぶ等の鹿児島料理を中心とした飲食物を提供する「くろ黒亭」という店舗を経営しており(甲第1号証の1ないし3)、松下征夫がその代表取締役を勤めている(甲第2号証)。
平成15年9月30日に、松下征夫と被請求人は、東京に黒豚しゃぶしゃぶの店を出店するため、共同出資をして、請求人を設立した。松下征夫と被請求人は、請求人が発行する全株式60株中各30株ずつを保有し、松下征夫が代表取締役、被請求人が取締役となって、上記2名が共同して請求人を経営する形態とした(甲第2号証)。請求人は、黒豚しゃぶしゃぶ店の店舗名を「くろ黒亭」と定め、平成15年12月12日に、黒豚しゃぶしゃぶ店「くろ黒亭」を開店した。
(2)「くろ黒亭」という呼称及び標章の使用状況について
請求人が経営する店舗の「くろ黒亭」という呼称は、店舗開店に先立ち、本件店舗の名称として松下征夫が考えたものである。また、「くろ黒亭」の字体・デザイン等は、開店前に、松下征夫及び被請求人が業者に発注し、字体や文字周辺の円状のイラスト等のデザインの提案を受けたものである。別掲(2)のとおりの構成からなる標章(以下「引用商標」という。)及び本件商標は、いずれもその提案により作成された商標である。引用商標と本件商標には若干違う点があるようにも見えるが、開店当時、引用商標も本件商標もどちらも区別せずに、店舗くろ黒亭のロゴとして使用されていた。
そして、請求人は、当該店舗において、開店当初より店舗名「くろ黒亭」という呼称及び引用商標を店の看板から備品までありとあらゆる箇所に使用してきた(甲第3号証の1ないし同号証の9)。
(3)被請求人の業務に係る役務ではないこと
被請求人は、請求人の営む「くろ黒亭」の店舗経営のほかに、飲食物の提供等の業務を行っておらず、また、被請求人が関わっている事業には、本件店舗以外に「くろ黒亭」という名のものはない。
(4)引用商標との同一・類似性について
本件商標と引用商標は、漢字・平仮名及び読み方が同一であるほか、そのデザインについても字体の同一・類似性、色彩、円状図形の形状等、類似性は極めて顕著であり、本件商標が店舗「くろ黒亭」を示すものとして登録されていることは明らかである。
(5)まとめ
上記したとおり、被請求人が上記店舗「くろ黒亭」以外に「くろ黒亭」という名を使用して、飲食物の提供を行う業務を行っていないこと及び本件商標と引用商標との同一性から考えると、本件商標は、上記店舗「くろ黒亭」を指すものとして登録されたものである。
そして、当該店舗「くろ黒亭」の業務は、請求人の業務に係る役務である。被請求人が請求人の取締役及び全株式中2分の1を保有する株主であったとしても、取締役ないし株主とその会社との関係はあくまでも他人であり、その業務に係る役務は、被請求人にとっては他人の業務にかかる役務であって、それが被請求人の「自己の業務」たり得ないことは言うまでもない。
以上のとおり、被請求人は、他人の業務にかかる役務を自己の業務として登録したものであって、被請求人個人としては、何ら本件商標に係る業務を自ら行っていないのであるから、本件商標は、商標法3条1項柱書の「自己の業務」の要件を満たさず、無効とされるべきものである。
2 商標法4条1項7号違反について
商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、商標の構成自体についてのみならず、当該商標を指定商品あるいは指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、あるいは、社会の一般道徳観念に反するような商標も含まれると解される。そして、本件商標が登録された経緯に照らせば、本件商標登録は社会の一般道徳観念に反するというべきであるから、その登録は、無効とされるべきである。
(1)「くろ黒亭」の経営状況について
請求人は、平成15年12月より、しゃぶしゃぶ店「くろ黒亭」を開業したが、店の売上は、当初の予測を大幅に下回るものだった。被請求人は、「くろ黒亭」開店後わずか半年後の平成16年5、6月頃、故郷の鹿児島県鹿屋に帰ってしまった。そのため、松下征夫は、店の切り盛りから、従業員の仕事環境改善や人脈作り等に奔走し、実質的に1人で「くろ黒亭」の経営を行ってきた。松下征夫は、被請求人に、東京に戻ってくるように頼んだが、被請求人はこれを拒否し、東京に戻ることはほとんどなかった。結局、被請求人が行う「くろ黒亭」の業務は、地元鹿児島でも可能な金融機関を介した経理事務(買掛先や従業員に対する入金)に限られてしまった。被請求人が送金業務しか行わない一方、松下征夫は、取引先との繋がりを広げ、従業員教育や店舗宣伝等に力を入れ、店舗を切り盛りし、何とか「くろ黒亭」を軌道に乗せた。
(2)コスト削減のためのトラブルについて
上記のような状況が続く中、松下征夫は、平成19年5月頃、コスト削減のため、東京で送金業務を行うことを被請求人に事前に説明した上で、東京で経理事務を行うことができるよう会社の入出金口座を変えた。これを契機に、「くろ黒亭」の経営に関するトラブルが発生した。
そのような経営権に関するトラブルが発生している最中の平成19年8月、被請求人は、取締役会の招集も行わず、被請求人単独で、本件商標登録を個人名義で行った。請求人の代表者松下征夫は、本件商標登録が行われていたことを平成21年8月頃に初めて知るに至った。
(3)経営権に関するトラブルの経過について
松下征夫と被請求人との間では、その後も役員給与等に関しても紛争になり、「くろ黒亭」の経営権に関して、両者の間に合意が成立しなかった。平成21年6月、被請求人は、松下征夫に対し「2人のうちどちらか一方が他方の持つ株式をすべて取得して、くろ黒亭及び請求人の経営を単独で行い、株式を手放した者はくろ黒亭の経営から退く」という内容の協議を持ちかけ、さらに当該内容の調停を申し立てた。
そのような最中の平成21年6月12日から4日間、被請求人は、プロレスラー数人と共謀して、同人らを「くろ黒亭」に出向かせ、松下征夫に対して金銭を要求し、「くろ黒亭」に長時間居座って刺青を見せるなどしてあたかも暴力団構成員であるかのように思わせ、松下征夫を畏怖させて店の売上31万円を喝取した。
この件により、被請求人は、プロレスラーらと共に逮捕されたものの、「店の経営権を松下征夫に譲る」などと記載した書面を警察に提出するなどして、結局、不起訴とされた。しかし、被請求人は、警察から釈放されるやいなや態度を翻し、再び、請求人に対して経営権を主張するようになった(甲第4号証)。
このように、被請求人は、「くろ黒亭」の経営にほとんど携わらず、すべて松下征夫に任せている一方で、請求人及び「くろ黒亭」の経営に対する執着心は強固であり、現在、松下征夫と被請求人との間には、経営権に関する争いがある。
(4)請求人は、本来、「くろ黒亭」の経営者として、その業務に使用している引用商標を商標登録することができる権限があるにも関わらず、本件商標登録がなされていることにより、それができない状態となっている。
「くろ黒亭」の経営権に対する上記のようなトラブルの経緯や被請求人の経営権に対する執着心からすると、経営権に関するトラブルが発生した直後の平成19年8月に、被請求人が松下征夫に無断で、本件商標の登録を行ったのは、まさに、本件商標の登録を行うことにより、請求人が商標登録をすることを妨害し、より有利に経営争いを進めようとしたものと考えられる。
正当な権限ある者の商標登録を妨害し、さらには、本来、権限がないにも関わらず、自らの利益を得んがために商標登録を行うことは、商標法の趣旨に反する不正な目的に基づく商標登録というべきであり、本件商標は、公序良俗に反するというべきである。
(5)以上のとおり、本件商標は、公序良俗に反する目的によって登録されたものであるから、商標法4条1項7号に該当し、無効とされるべきものである。

第3 被請求人の答弁の要旨
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第5号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法3条1項柱書違反の主張について
被請求人は、株式会社松設計との契約書に基づいて、アリックスゴルフ場(鹿児島県志布志市有明町)のレストラン「くろ黒亭」を経営し、「飲食物の提供」に係る業務を行っており、自己の業務について本件商標と同一範囲内の商標をその指定役務「飲食物の提供」に係る業務を行っていることは明らかである(乙第1号証ないし同第3号証)。
したがって、本件商標は、商標法3条1項柱書に該当するものではない。
2 商標法4条1項7号違反の主張について
(1)商標法4条1項7号には、商標の構成自体についてのみならず、当該商標を指定商品あるいは指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、あるいは、社会の一般道徳観念に反するような商標も含まれるとする請求人の主張は、商標審査基準からみても当然のことである。しかしながら、工業所有権法(産業財産権法)逐条解説によれば、商標法4条1項7号は、旧法2条1項4号に相当する規定で、本号を解釈するにあたっては、むやみに解釈の幅を広げるべきではなく、1号から6号までを考慮して行うべきである旨解説されている(乙第4号証)。
(2)「くろ黒亭」の経営状況及びコスト削減のためのトラブルについての請求人の主張は、請求人の一方的な主張であって認めることはできない。
すなわち、被請求人は、開店当初、請求人に対し、「くろ黒亭」に係る商標を他人に取得されると「くろ黒亭」の使用ができなくなるばかりでなく、営業までも不可能になる可能性があり、商標権取得の必要性について再三にわたり進言してきたにもかかわらず、費用がかかるとの理由で全く聞き入れてもらえず、相手にされなかったのが実情である。
被請求人は、取締役という責任から、専門家(弁理士)に相談指導を受けた結果、請求人が商標権取得の必要性を受け入れないのであるならば、取締役の責任において、個人で商標権を取得し、将来的には、請求人に譲渡することを予定して経営の安全を確保すべきであるとの指導のもとに商標権を取得したのが事情である。
また、経営権に関するトラブルの経過についても、請求人の一方的な主張であり、しかも、これらのトラブルについては、現在、検察庁で取調べ中の案件であり、検察庁の結論が出されるまでは一方的な主張はすべきではないものと思料する。
(3)したがって、本件商標は、商標法4条1項7号に違反して登録されたものではない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法3条1項柱書及び同法4条1項7号に違反して登録されたものではないから、本件商標の登録は、無効とされるべきではない。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標が商標法3条1項柱書及び同法4条1項7号に違反して登録されたものであることを理由に、同法46条1項1号に基づく商標登録の無効の審判を請求している。
そこで、本件商標が請求人の掲げる上記各号に該当するか否かについて検討する。
1 商標法3条1項柱書について
請求人は、「『くろ黒亭』の業務は、請求人の業務に係る役務であり、被請求人が請求人の取締役及び全株式中2分の1を保有する株主であったとしても、取締役ないし株主とその会社との関係は、あくまでも他人であり、その業務に係る役務は、被請求人にとっては他人の業務に係る役務であって、それが被請求人の『自己の業務』たり得ない」として、本件商標は商標法3条1項柱書きに違反してされたものである旨主張している。
ところで、我が国の商標法は、登録主義を採用し、登録するための要件として、出願された商標の現実の使用を必要とせず、使用の意思を有すれば足りることとしているが、将来においても使用されないことが明らかな商標までをも登録して保護するものでないことは同法1条(目的)及び50条(商標登録取消審判)の趣旨からみても当然のことといえる。
そして、自己の業務(近い将来開始の業務を含む。)が存在しないところに、自己の業務に係る役務についてその商標を使用することは有り得ないから、出願された商標に係る指定役務に関する自己の業務(近い将来開始の業務を含む。)が存在しない場合等、将来も使用されないことが明らかな商標は、商標法3条1項柱書により登録を受けることができないこととされている。
しかして、「自己の業務に係る役務について使用」をしないことが明らかな場合とは、例えば、法令上、業務の範囲が限られている出願人が、その業務範囲外に係る役務を指定する場合(例えば、銀行は、銀行法に定められた所定の銀行業務や銀行業務に付随する業務等以外の業務を営むことができないこととされているので(銀行法12条)、銀行業を営む者が「鉄道による輸送」等の役務を指定する場合)、あるいは、法令上、指定役務に係る業務を行い得る者の範囲が限定されている場合において、その範囲外の者が、その業務に係る役務を指定して出願する場合(例えば、弁護士のように業務の性質上その資格が自然人に限られ、法人(弁護士法人を除く。)には認められていない業務があるので、上記法人が「訴訟事件その他に関する法律事務」を指定する場合)等をいうものとされている(特許庁ホームページの「商標審査基準」中の「第1 第3条第1項(商標登録の要件)二 第3条第1項柱書」の項を参照)。
これを本件についてみるに、被請求人は、個人名義で、第43類「日本料理を主とする飲食物の提供,その他の飲食物の提供」を指定役務として出願をし、商標権を取得しているところ、被請求人(出願人)が行い得る業務範囲が法令上制限されている場合に該当するものとはいえないし、また、法令上、「日本料理を主とする飲食物の提供,その他の飲食物の提供」に係る業務を行い得る者の範囲が限定されている場合に該当するものとも認められない。
そうとすれば、少なくとも、本件商標の登録査定時において、被請求人(出願人)が近い将来において本件商標を使用する「日本料理を主とする飲食物の提供,その他の飲食物の提供」に係る業務を行うであろう蓋然性までをも否定することはできないものといわなければならない。
なお、被請求人は、アリックスゴルフ場のレストラン「くろ黒亭」を経営しており、「飲食物の提供」に係る業務を行っていることは明らかである旨主張し、乙第1号証ないし同第3号証を提出しているが、該事実は、本件商標の登録査定後に生じた事実であるから、本件商標の登録査定時の判断に考慮される事実には当たらない。
また、請求人は、請求人である有限会社おおすみフーズが行っている「くろ黒亭という名称の黒豚しゃぶしゃぶ店」の業務との関係において、被請求人が請求人の取締役及び全株式中2分の1を保有する株主であったとしても、該業務は、被請求人にとっては他人の業務であって、それが被請求人の自己の業務たり得ない旨主張しているようであるが、請求人が主張しているような個別具体的に行われている「くろ黒亭という名称の黒豚しゃぶしゃぶ店」の業務が何人に属する業務であるかということと商標法3条1項柱書における「自己の業務」とは、別異のことというべきである。
したがって、本件商標の登録は、商標法3条1項柱書きに違反してされたものとはいえない。

2 商標法4条1項7号について
(1)請求人と被請求人との関係について
甲第2号証(平成22年6月1日付「現在事項全部証明書」)によれば、請求人は、商号を「有限会社おおすみフーズ」と称し、会社成立の年月日は平成15年9月2日、本店の所在地は鹿児島県鹿屋市白崎町、焼肉しゃぶしゃぶ店の経営等を目的とし、松下征夫が代表取締役となり、松下民治(被請求人)が取締役となっている。
そして、請求人と被請求人は、両者の関係についておおよそ以下のように主張している。
ア 請求人の主張
松下征夫と被請求人は、東京に黒豚しゃぶしゃぶの店を出店するため、共同出資をして、請求人が発行する全株式60株中各30株ずつを保有し、松下征夫が代表取締役、被請求人が取締役となって、上記2名が共同して請求人を経営する形態とし、平成15年12月12日に東京都新宿区内(甲第1号証の2等によれば、東京都渋谷区内と認められる。)に、黒豚しゃぶしゃぶ等の鹿児島料理を中心とした飲食物を提供する「くろ黒亭」という店舗を開店した。
「くろ黒亭」という呼称は、松下征夫が考えたものであり、松下征夫及び被請求人が業者に発注し、字体や文字周辺の円状のイラスト等のデザインの提案を受けたものであり、引用商標も本件商標もその提案により作成された商標である。請求人は、当該店舗において、開店当初より店舗名「くろ黒亭」という呼称及び引用商標を使用してきた(甲第3号証の1ないし同号証の9)。
「くろ黒亭」の売上は、開店当初の予測を大幅に下回るものであったところ、被請求人は、「くろ黒亭」の開店後わずか半年後に鹿児島県鹿屋に帰ってしまった。被請求人は、松下征夫との共同経営という立場にありながら、地元鹿児島で可能な金融機関を介した経理事務(買掛先や従業員に対する入金)を行っていただけであり、松下征夫のみが「くろ黒亭」の経営を行っていた。松下征夫は、平成19年5月頃、コスト削減のため、東京で送金業務を行うことを被請求人に事前に説明した上で、東京で経理事務を行うことができるよう会社の入出金口座を変えたが、これを契機に「くろ黒亭」の経営に関するトラブルが発生した。
そして、このような経営権に関するトラブルが発生している最中の平成19年8月に、被請求人は、本件商標登録を個人名義で行ったものであり、請求人の代表者松下征夫は、その事実を平成21年8月頃に知るに至った。
イ 被請求人の主張
「くろ黒亭」の経営に関するトラブルについての請求人の主張は、請求人の一方的な主張であって認めることはできない。被請求人は、「くろ黒亭」の開店当初、請求人に対し、再三にわたり商標登録の取得を進言したが、費用がかかることを理由にその進言を全く受入れなかったため、取締役の責任において、個人名義で本商標権を取得したものである。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
上記(1)に認定した事実及び両当事者の主張を前提として、本件商標が商標法4条1項7号に該当するか否かについて判断する。
商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は商標法4条1項7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし、同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法4条1項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。
これを本件についてみれば、上記(1)のとおり、被請求人は、請求人(有限会社おおすみフーズ)の取締役の立場にある者であり、自己又は第三者の利益を優先させて会社の利益を犠牲にするようなことをしないといういわゆる忠実義務等を負っているとはいえるが、それはあくまでも会社と取締役との間の内部問題であるということができる。また、商標の取得に関していえば、被請求人が請求人に対して商標登録の取得を進言していたか否かは定かではないとしても、請求人においても、事業の遂行に欠かすことの出来ない引用商標を自ら取得するための努力を永年に亘って怠っていたことは否めないところである。
そうとすれば、請求人と被請求人との紛争は、私的な事項であり、当事者間における利害の調整に関わる事柄であって、一般国民に影響を与える公益とは関係のない事項であるといわなければならない。
してみれば、そのような私的な利害の調整は、公的な秩序の維持に関わる商標法4条1項7号の問題ではないというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第616号判決、知財高裁平成19年(行ケ)第10391号判決 参照)。
なお、請求人は、甲第4号証(東京第一検察審査会へ宛てた審査申立書)を提出して、被請求人との間の経営権に関するトラブルの経過について述べているが、甲第4号証に係る事件は、本件商標の出願・登録の後に生じた事案であるばかりでなく、その経緯がどのように推移するとしても、上記した本件についての判断に影響を与えるものではない。

3 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法3条1項柱書及び同法4条1項7号に違反してされたものではないから、同法46条1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1)
本件商標(色彩は原本を参照)




別掲(2)
引用商標(色彩は原本を参照)



審理終結日 2010-12-22 
結審通知日 2011-01-04 
審決日 2011-01-19 
出願番号 商願2007-85526(T2007-85526) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (X43)
T 1 11・ 18- Y (X43)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 幸一 
特許庁審判長 鈴木 修
特許庁審判官 前山 るり子
内山 進
登録日 2008-08-08 
登録番号 商標登録第5157900号(T5157900) 
商標の称呼 クロクロテー、クログロテー、クロクロ、クログロ 
代理人 渡邊 菜穂子 
代理人 余頃 桂介 
代理人 栫 生長 
代理人 高谷 覚 

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