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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X30
管理番号 1243319 
審判番号 無効2010-890086 
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-10-15 
確定日 2011-08-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第5194745号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5194745号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,平成20年6月2日に登録出願,第30類「菓子及びパン」を指定商品として,同年11月20日に登録査定,同21年1月9日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張(要旨)
請求人は,商標法第46条第1項第1号の規定により,本件商標の登録を無効とする,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,その理由を請求書及び口頭審理陳述要領書において要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている「田舎家」の商標(以下「使用商標」という。)と同一又は類似する商標であって,その商品と同一又は類似する商品について使用をするものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当し,その登録は無効にされるべきである。
(1)本件商標と使用商標との類否
本件商標は,別掲のとおり,漢字「田舎家」と平仮名「いなかや」の文字を左右に並べて縦書きにより構成されているものである。
これに対し,使用商標は,漢字「田舎家」の文字を横書きにして構成されているものである(甲第2号証,甲第4号証及び甲第5号証)。
以上からすれば,両商標は,縦書きと横書きとの違いはあるものの,漢字「田舎家」を用いて構成されていることは一目瞭然であり,本件商標は,使用商標と同一又は類似する商標である。
そして,本件商標の指定商品は,第30類「菓子及びパン」であるところ,請求人が使用商標を使用している商品(以下「請求人商品」という。)は,「甘納豆,きなこ駄菓子,あんこ駄菓子,黒糖駄菓子,胡麻駄菓子,ちんすこう,かりんとう,せんべい,米煎餅」等であるから(甲第2号証ないし甲第5号証),本件商標の指定商品と請求人商品とは同一又は類似する商品である。
したがって,本件商標と使用商標とは,同一又は類似する関係にあることは明らかである。
(2)使用商標の周知性
ア 請求人は,昭和62年(1987年)11月に千葉県成田市青山(旧表示:千葉県香取郡下総町青山)において創業し,平成5年(1993年)に会社を設立して現在に至っている(甲第4号証)。使用商標は,いわゆる商号商標であり,請求人商品にはほぼ100%使用されている商標であって,創業時から23年間の永きに亘り,継続して使用し続けている(甲第3号証ないし甲第7号証)。
イ 請求人は,創業地が千葉県であり,千葉県を中心として営業を行っているが(甲第3号証ないし甲第6号証),インターネットホームページを開設しており,販売地域も全国的に広がっており,千葉県以外の全国的な営業展開となっている(甲第5号証)。
ウ 請求人の営業実績は,甲第7号証に示すとおり,創業以来,着実に業績を伸ばしており,年間3億円程度の売り上げを達成している。
エ 広告宣伝については,請求人は,使用商標や取扱品目,店舗紹介等を表示したちらしを配布している(甲第2号証)。また,請求人のホームページのアクセス数は,38000ほどとなっており,「田舎家」あるいは「駄菓子 田舎家」の語句で検索すれば,請求人のホームページは検索結果のトップページに表示されるのであり,この一事をみても,使用商標は,広く全国的なコマーシャルが行われており,日本全国においても周知な商標となっていることを窺わせるものである。
オ 以上のとおり,使用商標は,永年の使用の結果,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標であることは明らかである。
2 口頭審理陳述要領書
(1)請求人会社は,たとえ小規模であっても使用商標の永年の使用により,十分に周知性を獲得することはできる。まして,歴年にわたり年間3億円程度の売り上げを達成している(甲第7号証及び甲第8号証)ことから,商標法第4条第1項第10号規定の周知性を獲得するには十分な売り上げ規模である。
(2)仮に請求人が1887年の創業時から使用商標を使用していなかったとしても,本件商標の出願時(平成20年6月2日)より前から,請求人が使用商標を使用していたことは明らかである。会社案内会社概要の中の「従業員13名(2004年3月現在)」の記載から,本件商標の出願前4年以前の平成16年3月には,また,ホームページにつき,平成17年1月に現在の構成に変更したことからも明らかなように本件商標の出願前3年以前の平成17年1月には,甲第9号証ないし甲第12号証から,少なくとも1999年(平成11年)6月以来現在まで,請求人は使用商標を使用し続けていることは明らかである。
(3)使用商標は,デザイン化されて識別性の高い特殊の文字からなる独自書体の商標であり,独自書体の使用商標を本件商標の出願前から永年にわたり使用したことにより,周知性を獲得したことに疑いはない。
(4)甲第4号証には「会社案内 成田街道駄菓子 田舎家」,「だがし 田舎家」,「成田街道駄菓子 田舎家 本店」の記載があり,また,甲第5号証のホームページには,「下総の国 成田街道 駄菓子今昔 田舎家」の記載がある。使用商標は商号であるとともに,菓子類を表示する商標として使用されていることに疑義はない。たとえ「商号商標」としての使用であっても「商標」の使用であることに変わりはない。すなわち,商標とは「商品に使用するもの」(商標法第2条第1項各号)であるが,被請求人が「商号商標」として使用していると言明していることからすれば,被請求人自らが,使用商標を商品に使用する「商標」と認めていることに他ならない。
(5)甲第2号証の「米煎餅」の下に記載された使用商標の表示は,小さいということはなく明らかに商標として使用されている。使用商標は商号ととともに,菓子類を表示する商標として使用されている。
(6)営業地域については,周知性を獲得すべき地域の広さには限定はなく,たとえ地域的な使用でも周知性は十分に獲得できる。まして,歴年にわたり年間3億円程度の売り上げを達成していることから,周知性を獲得するには十分な売り上げ規模である。さらに,本件商標の出願(平成20年6月2日)前の平成16年11月17日には,請求人がその取扱商品を全国的に広告宣伝していることが証明できる(甲第9号証)。
(7)甲第7号証の売上金額の歴年表は,自社が参考のために作成するものである。平成22年度(平成21年9月1日乃至平成22年8月31日)決算書(甲第8号証)では,売上高は,平成22年度では,274,053,024円である。毎年3億円程度を売り上げていることが明らかであり,使用商標が周知性を獲得したことが証明される。
(8)広告宣伝について,甲第4号証及び甲第5号証については前記のとおりであり,甲第9号証及び甲第10号証には「国内産餅米100%使用/田舎家」,甲第12号証には「成田街道 駄菓子今昔 田舎家」の表示がある。これら各「田舎家」はデザイン化された特徴のある統一された書体で表示されており,商品を表示する商標として使用されていることは明らかである。使用商標は,商号とともに,菓子類を表示する商標として使用されている。
(9)以上のとおり,本件商標は,需要者の間に広く認識されている使用商標と同一又は類似する商標であり,その使用する商品も請求人商品と同一又は類似する商品であるから,商標法第4条第1項第10号に該当するものであり,同法第46条第1項第1号の規定により,その登録は無効にされるべきである。

第3 被請求人の答弁(要旨)
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を答弁書及び口頭審理陳述要領書において要旨次のように述べた。
1 答弁の理由
(1)請求人は,資本金300万円,従業員13名の小規模な事業体であり,出店も本店を含めわずか3店舗であり,このような零細な事業体において,その商号商標が周知性を獲得しているとはいい難い。
甲第4号証では1987年(昭和62年)が創業との記載があり,商号が「有限会社田舎家」との記載はあるが,創業以来,請求人商品に商品商標としての「田舎家」を表示していた事実を窺わせる証拠はない。また,甲第2号証ないし同第4号証から窺えることは,名称「田舎家」が商号商標であるという事実のみであって,商品商標として使用された事実は窺えない。
(2)請求人の営業地域は,千葉県に限られているが,千葉県全域というわけではない。本店以外は2店にすぎないものであり,かなり限られた地域でしか営業活動をしていない。また,今日においては,数多くの商店がホームページを開設しているが,だからといってそれらの商店が全国的に周知されているわけではない。
したがって,使用商標は,地域的な観点からも周知性を獲得しているとは言えない。
(3)請求人の営業実績について,売上高明細が本件審判のために作られた書類であることは,その体裁から見て明らかである。そして,売上金額を裏付ける証拠も全く提出されておらず,ゴム印による社名・住所等の表示はあっても,代表者や経理責任者の署名押印もないから,この書類による売上金額の主張は信用することができない。
(4)広告宣伝について,ホームページの製作経過によると,請求人のホームページは,2001年に開設され,2005年(平成17年)1月にリニューアルされたようであり,このことを前提としても,それによって直ちに全国的に周知となったというには無理がある。しかも,ホームページ上で窺えることは「田舎家」が商号として表示されている事実であって,商品菓子に商号商標として使用されていた事実は全く窺えない。
したがって,この点からみても,「田舎家」が商品商標として周知性を獲得しているとはいえない。
2 口頭審理陳述要領書
(1)甲第8号証について
ア 請求人の総売上高は約2億7000万円余であるが,使用商標に関係すると思われる商品売上高は約2億5000万円である。ただし,この商品売上高のうち,使用商標が使用されているとされる商品「米煎餅」の売上高は全く不明である。
イ 同号証は,平成21年9月から平成22年8月末までの1年間の経理書類であり,それ以前のことは全く分からない。
ウ 商標の周知性に最も影響を与えるはずの広告宣伝費については,同号証には全く記載がない。
エ 損益計算書の当期純損失(最下欄)や株主資本等変動計算書の当期変動額合計(下から2行目)を見ると,請求人は1600万円程度の赤字企業であることが分かる。赤字企業が広告宣伝費に投資することは考えにくいので,使用商標の広告宣伝費は実際にも全くないと考える。
(2)甲第9号証について
ア 同号証のFAX案内書には,会社印が押してあり,「立石」なる名字の入ったゴム印が押してあるが,作成者が不明であり,「立石」なる人物が商標の使用実態を証明できる立場の者か否かも分からないので,形式的証拠力に欠けている。
イ「平成11年6月23日受注」の文字が記載されているが,これにより平成11年からの使用事実があることを信ずることはできない。
(3)甲第10号証について
ア 同号証の3の取引証明書には会社印を押してあることは分かるが,その作成者は全く不明であり,取引事実を証明できる立場の者が作成したかどうかも不明である。
イ 取引証明書には,単に取引開始時期とラベル使用開始時期が2行にわたって書かれているだけである。しかも,現時点よりも12年も前のことを今より1か月前に作成した(作成日時は,平成23年5月26日付である)にすぎないたった1枚の文書が事実を反映しているとは到底思えない。
ウ 同号証の2のラベルは,そのもの自体で使用商標の使用開始時期の証拠となるものではない。また,このラベルは取引証明書(同号証の3)が立証しようとする事実の対象となるものか否かも不明である。特に重要であるが,ラベルに記載されている「田舎家」の文字は販売者の欄に記載され,かつ住所と併記されていることから,商号として用いられているのであって,商品商標としての使用ではない。
エ 同号証の1のFAX案内書は,単なる送信案内であって主張を根拠づける証拠ではない。なお,主張を根拠づける証拠であったとしても,現時点よりも12年も前のことを今より1か月前に作成した(作成日時は,平成23年5月26日付である)にすぎないたった1枚の文書が事実を反映しているとは到底思えない。
(4)甲第11号証について
同号証の1ないし3によると2004年11月に開催された「むらおこし展」の千葉県ブースに請求人が展示したであろうことは推測できる。しかし,請求人商品の展示の状態は不明であるので周知性確保にどれだけ影響を与えたかは全くわからない。1回限りの展示では全国的な(あるいは地域を限ったとしても)周知性は確保できていないと判断する。
(5)甲第12号証について
同号証は,千葉県成田市に1枚の看板が設置されたという事実を伺わせるだけである。看板中の「田舎家」の文字は,看板の性格上,また住所と併記されていることから商号として表示されていると理解され,商品商標の使用事実となるものではない。
(6)請求人の主張に対する反論ついて
周知性の獲得は,永年の使用という事実があって世間に知られるものである。しかるに,使用商標には,そのような永年使用の事実を裏付ける証拠がなく,よって,請求人の主張は理由がない。
イ 使用商標の形態は,標準文字ではないにしろよくある漢字体であって,特別に強い印象を与えるものではない。
ウ 請求人の主張する「商号商標としての使用も商標の使用に変わりはない」との論法は,商標法の基礎知識を欠くものである。商標の周知性は,登録商標の商品区分毎に考えなければならないものである。商標の使用事実は,事実のみによって認定されるべきである。
エ 「地域的な使用でも周知性を獲得できる」との論旨はあくまで一般論であり,本件事案において充分な立証を行っていないので,たとえ地域的であったとしても周知性を認めるに足る証拠はない。
(7)まとめ
以上を総合して考慮すると,請求人の経営実態は,一地方の小さな菓子メーカーが,たまたま類似する商標を細々と使用していたというものであって,提出された証拠方法も被請求人が精査したとおり,形式的証拠力に欠けるものもあり,かつ実質的証拠力も乏しいものである。いったん成立した商標登録につき,その無効を主張するからには,相当明白な根拠が証拠によって裏付けられるべきであろうことを考慮すると,請求人が提出した証拠に基づいて商標法4条1項10号に規定する周知商標と認定することはできない。
以上のとおり,請求人の名称「田舎家」は,第30類「菓子及びパン」について周知とはいえないから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しないものである。

第4 当審の判断
商標法第4条第1項第10号「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するもの」は,他人の周知商標の保護についての規定である。
そこで,本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するものであるか否かについて,上記条文に即して判断する。

1 使用商標の周知性について
使用商標は,前記1のとおり,「田舎家」の文字からなるものであるところ,「田舎家」の文字は,「田舎の家。また,粗末な家。田舎風の家」の意味合いを表す語(広辞苑第六版,小学館発行の国語大辞典等)あって,独創性のある語とはいえないものである。
そして,請求人が使用商標を使用している請求人商品は,全国的に流通する一般的な商品であって,地域的嗜好特性も格別認め難い商品といえるものである。
以上の観点から,請求人の提出に係る甲各号証をみる。
ところで,請求人の提出に係る甲各号証について,当合議体は,平成23年6月16日の口頭審理において,請求人に対し,提出された甲第4号証ないし甲第12号証の原本の提出を求めたが,原本と認め得る書面の提出はなかった。
したがって,請求人の提出に係る甲第4号証ないし甲第12号証については,証拠の成立を認めることができない。
しかしながら,仮に,当該各号証を証拠としての成立を認め得たとしても,これらの記載事項によっては,使用商標が,本件商標の登録出願時及び査定時において,請求人商品を表示する商標として,需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。
その理由は,以下のとおりである。
(1)使用商標並びに商品について
甲第2号証は,請求人の商品「ちらし」(写し)であり,「だがし」,「田舎家」,「成田街道駄菓子/田舎家/本店」等の表示のもとに,請求人会社の紹介記事が記載され,各種商品の写真が掲載されている中に,「米煎餅/田舎家」と表示されている商品がみえる。そして,主な扱い商品として,「甘納豆,きなこ駄菓子,あんこ駄菓子,黒糖駄菓子,胡麻駄菓子,ちんすこう,かりんとう,せんべい,米煎餅,産直コーナー(青大豆,にんにく,食べるとうがらし,食べるにんにく,高原生花豆,いもがら,乾燥しいたけ)・・・黒豆茶,ゴーヤ茶」等と記載されているが,これらの商品に使用商標を使用しているか否かの確認はできない。
甲第4号証は,請求人会社の会社案内(写し)であり,「だがし田舎家」の表示があるものの,事業内容である,商品「甘納豆,駄菓子等」に使用商標を使用しているか否かの確認はできない。
(2)使用開始時期,使用期間,使用地域について
甲第4号証によれば,「社名 有限会社 田舎家」,「創業 1987年(昭和62年)11月」であり,「所在地 千葉県香取郡下総町青山(現表示:千葉県成田市青山),「主要取引 千葉三越,ロビンソン百貨店,ボンベルタ百貨店,千葉県物産協会,全国むらからまちから館,ちばマルシェ空の駅(成田空港店),そごう八王子店,その他」とあり,1993年1月に米屋観光センター内へテナント出店,1998年12月に下総町青山に田舎家本店を設立等と記載されているものであるから,請求人は,1987年(昭和62年)11月に「社名」として使用商標の使用を開始し,現在においても使用しているといえるものの,商品「甘納豆,駄菓子等」に使用商標を使用しているか否かの確認はできない。
使用地域については,千葉県の一部一部地域に限られているものであり,甲第5号証の1によれば,請求人のホームページにおいて,使用商標を表示しているが,いかなる地域の者と商品の取引があるかについては,確認ができない。
(3)営業の規模(店舗数,営業地域,売上高等)
ア 甲第4号証によれば,請求人は,千葉県成田市青山に本店を置き,資本金が3百万円,従業員が13名(2004年3月現在)の有限会社であり,本件商標の出願時である平成20年6月当時においては,成田空港店と米屋観光センター(千葉県成田市)内のテナント店の2支店を置いており,主要取引先は,千葉三越,ロビンソン百貨店,ボンベルタ百貨店,千葉県物産協会,全国むらからまちから館,そごう八王子店であったものといえる。主要取引先の所在を職権により調査したところによれば,千葉三越は千葉市中央区にあり,ロビンソン百貨店は埼玉県春日部市と神奈川県小田原市にあり,ボンベルタ百貨店は千葉県成田市にあり,千葉県物産協会は千葉市中央区にあり,全国むらからまちから館は東京都千代田区有楽町の東京交通会館内にあり,そごう八王子店は東京都八王子市にある。
そうとすれば,請求人の資本金の額,従業員数,支店の数及び主要取引先の数からみれば,請求人の事業規模は,その事業内容が菓子の製造・販売であることを考慮しても,それ程大きなものとはいえないものというべきであり,また,請求人の主要取引先の一部には,千葉県以外の所在地のものもあるとしても,本店も支店も成田市にあり,主要取引先の過半も千葉県内にあることからみれば,請求人の主な商圏は,千葉県内の,しかもその一部地域に限られているものといわなければならない。
イ 甲第7号証は,請求人会社設立以来の各年毎の売上高明細であるが,これが甲第2号証(チラシ)等に記載されている「菓子」のみについての売上高であるのか否か明らかではない。該チラシには,菓子以外にも,「青大豆,にんにく,食べるとうがらし,食べるにんにく,高原生花豆,いもがら,乾燥しいたけ,黒豆茶,ゴーヤ茶」等の商品が掲載されており,甲第5号証の1のホームページ上のネットショッピングにおいても,菓子以外に「黒豆茶,ゴーヤ茶」等の項目が掲げられている。また,甲第3号証の履歴事項全部証明書の目的の欄には(目的の欄に記載されている事業が全て行われているという性質のものではないが),菓子類以外にも,「珍味食品の販売,弁当,総菜等調理食品の製造販売業,自動販売機による飲料水,タバコの販売業」等の記載がなされているものである。
そして,請求人は,「田舎家」は商号商標であり,請求人が販売する商品には全て使用商標が使用されている旨述べている。
そうとすれば,甲第7号証に記載されている各年毎の売上高が,菓子以外の商品の売上高をも含むものであるとすれば,菓子についての売上高は,記載されている売上高よりも少ないものといわなければならず,その詳細が明らかにされていない甲第7号証は,使用商標の周知性を立証する証拠として的確なものということはできない。
また,甲第7号証に記載されている売上高が,菓子のみについての売上高であったとしても,本・支店及び主要取引先別の詳細や店舗とネットショッピング別の詳細,主要な菓子についての品目別の詳細も明らかにされていないばかりでなく,売上高を裏付ける証拠も提出されていない。しかも,該証拠の作成についての責任の所在を明らかにする代表者や経理責任者の署名押印もなく,単に,下部欄外に,請求人会社の名称や住所,電話番号,FAX番号等が表示されているゴム版が押されているに過ぎないものであるから,その作成内容及び信憑性の観点からみても的確なものとはいい難く,甲第7号証に記載されている売上高をみただけでは,請求人の業務に係る商品がどのような地域的広がりをもって販売されていたのかを把握することもできない。
さらに,請求人は,甲第7号証に記載されている売上高が同業他者の同種商品との関係において,どの程度のシェアを占めるものであるのかを明らかにする証拠を何ら提出しておらず,甲第2号証のチラシや甲第5号証の1のホームページ以外に,新聞や雑誌等における宣伝広告をしていた事実についての証拠も何ら提出していない。
(4)広告宣伝の方法,回数及び内容,並びに,一般紙,業界紙,雑誌又はインターネット等における記事掲載の回数及び内容等について
甲第2号証のチラシは,甲第5号証の2(諏訪山デザイン事務所からの報告書)によれば,2004年(平成16年)7月当時に印刷されたものといえるとしても,どの程度の部数が印刷されたものであるのか明らかにされておらず,仮に,その配布先が本店・支店及び甲第4号証に記載されている主要取引先(6カ所)と推認し得るとしても,この範囲にとどまるものであるとすれば,使用商標の周知性を認めるには充分なものとはいえない。
(5)請求人の主張について
請求人は,審判請求書の「営業地域」の項において,「請求人は,創業地が千葉県であり,千葉県を中心として営業を行っている」と述べており,また,請求人は,ホームページを開設していることにより,販売地域は全国的に広がっている旨主張している。
しかしながら,請求人がホームページを開設していることは確認できるとしても,今日においては,個人商店においても数多くの事業者がホームページを開設している状況にあり,ホームページが全国どこからでも閲覧できるからといって,そのことから直ちに,それらの各事業者が全国的に周知になっているわけではない。また,ホームページの閲覧件数の中には,必ずしもホームページを精読する閲覧者ばかりではなく,ホームページを検索していく過程の中にあって一瞥するに過ぎない閲覧者も含まれているものというべきであるから,閲覧件数から直ちに使用商標の周知性を推し測ることは困難である。そして,請求人がホームページを開設していることを根拠に使用商標の周知性を主張するのであれば,少なくとも,請求人のホームページにおけるネットショッピングにおいて,どのような地域からどの程度の取引の実績があったのかを明らかにすべきであるが,この点について,請求人は,何らの主張もしておらず,証拠の提出もしていない。
したがって,請求人の主張は,採用することができない。

2 まとめ
以上のとおり,請求人の主張及び提出に係る甲各号証をもってしては,「菓子」に使用されている使用商標は,本件商標の登録出願時において,全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されていたものとは認め難いばかりでなく,請求人の本・支店がある千葉県及びその隣接数県の相当範囲の地域においてさえ,少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていたものとも認めることはできない。
したがって,使用商標は,本件商標の登録出願時及び査定時において,請求人の業務に係る商品を表示する商標として,需要者の間に広く認識されていたものとは認められないものであるから,たとえ,本件商標が使用商標と類似するとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。

3 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第10号に違反してされたものとはいえないから,商標法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲 <本件商標>




審決日 2011-07-19 
出願番号 商願2008-41307(T2008-41307) 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (X30)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 田中 亨子
鈴木 修
登録日 2009-01-09 
登録番号 商標登録第5194745号(T5194745) 
商標の称呼 イナカヤ 
代理人 山内 康伸 
代理人 中井 博 
代理人 山内 章子 
代理人 窪谷 剛至 

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