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審決分類 審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X03
管理番号 1238233 
審判番号 無効2010-890064 
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-08-16 
確定日 2011-05-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5225550号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5225550号商標(以下「本件商標」という。)は,「ESTENITY」及び「エステニティ」の文字を上下二段に横書きしてなり,平成20年6月25日に登録出願され,第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,植物性天然香料,動物性天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料,つけづめ,つけまつ毛」を指定商品として平成21年4月24日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして請求人が引用する登録第2498854号商標(以下「引用商標1」という。)は,「ESTENEY」及び「エステニー」の文字を上下二段に横書きしてなり,平成2年11月15日に登録出願,第4類「化粧品,その他本類に属する商品」を指定商品として平成5年1月29日に設定登録され,その後,平成14年11月19日に商標権の存続期間の更新登録がされ,さらに,平成15年7月9日に指定商品を第3類「せっけん類,化粧品,香料類,歯磨き」とする書換登録がされているものである。
同じく,登録第4510153号商標(以下「引用商標2」という。)は,「エステニー」及び「ESTENY」の文字を上下二段に横書きしてなり,平成12年10月19日に登録出願,第21類「ボディースポンジ,ボディーブラシ,あかすり用タオル,浴用ヘチマ,浴用軽石,角質除去具,手動式美容用マッサージローラ,美容用痩身サウナベルト(化粧用具に属するもの),その他の化粧用具」を指定商品として平成13年9月28日に設定登録されたものである。
また,本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当するとして請求人が引用する商標は,請求人が自己の業務に係るソープ,ジェル,マッサージクリーム,バスソルト等の女性消費者向け各種ボディケア商品(第3類「せっけん類,化粧品」に属する商品:以下,「エステニー商品」という。)について使用する,やや図案化された「Esteny」の文字からなる商標(別掲参照)及び「エステニー」の文字からなる商標(以下,一括して「引用商標3」という。)である。

第3 請求人の主張の要点
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1ないし第25号証(枝番を含む。)を提出した。
1 理由の要点
(1)本件商標は,引用商標1及び2のいずれとも,外観,称呼,観念の全てにおいて類似し,また,本件商標の指定商品中「せっけん類,歯磨き,化粧品,植物性天然香料,動物性天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料」については引用商標1の指定商品と,「つけづめ,つけまつ毛」については引用商標2の指定商品と,それぞれ同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)本件商標は,その登録出願日以前から「エステニー商品」を表示するものとして,登録出願時及び登録査定時において我が国の需要者間において広く知られ,著名性を獲得していた引用商標3と類似し,その商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。
(3)本件商標がその指定商品について使用された場合,その取引者及び需要者に対し,請求人の業務に係る上記商品の出所について誤認を生じさせるか,いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品か事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させ,その出所について混同を生ずるおそれがあるから,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 引用商標3の独創性及び周知著名性
(1)請求人である常盤薬品工業株式会社は,大手化粧品メーカーである株式会社ノエビアの100%出資子会社であり,昭和24年の設立以来,医薬品,医薬部外品,化粧品,食品等の製造販売を全国規模で行っている(甲第4号証)。
請求人は,平成16年9月に,同じく株式会社ノエビアの子会社であった株式会社サナ(以下「サナ社」という。)と合併し,同社の化粧品・医薬部外品事業を引用商標と共に承継し(甲第2号証の1及び甲第3号証の1),サナ(SANA)ブランドを立ち上げた(甲第5号証の1)。そのサナ(SANA)ブランドの商品の一つが,引用商標3を付した「エステニー商品」(甲第5号証の2及び3)である。
(2)エステニー商品は,「ボディケアをトータルプロデュース」とのコンセプトの下に,主にボディの引き締め効果を訴求するシリーズとしてサナ社により開発されたものである。ヒップ用,ウエスト用,全身用等のパーツ別に,ソープ,ジェル,マッサージクリーム,バスソルト等の豊富な商品ラインナップを取り揃え,女性消費者がこれらをシリーズで使用することにより,自宅で簡単にエステ気分を味わえることを特徴としている(甲第5号証の2及び3並びに第6号証の1ないし15)。
この特徴をアピールするため,サナ社はそれら商品のブランド名として,「エステ」の文字を取り入れ,かつ,辞書等には掲載されておらず,当時から業界内でも全く使用されていなかった「ESTENY」,「エステニー」の語を独自に創造し,登録直後の平成5年からエステニー商品の販売を開始した。
その後,エステニー商品は現在に至るまで,後述するとおり,ドラッグストアやスーパーマーケット,コンビニエンスストア等で全国的に販売されている。サナ社及びその事業を承継した請求人による約16年に亘る企業努力の結果,引用商標3は,本件商標の登録出願時には,我が国の取引者,需要者の間において,請求人の業務に係る「エステニー商品」の商標として広く認識され,高い著名性を獲得するに至っており,本件商標の登録日においてもその状況は継続していた。
(3)引用商標3の周知著名性は,以下の事情により容易に確認できる。
(ア)エステニー商品の販売実績について
サナ社及びその事業を承継した請求人は,約16年に亘り,「ボディケアをトータルプロデュース」とのコンセプトの下に,女性消費者のニーズに合った新商品やリニューアル品を次々投入しながら,常に10種類以上の豊富な品揃えのエステニー商品を販売してきた(甲第6号証の1ないし15及び第7号証)。
甲第8号証の1及び2(「エステニー販売店舗一覧」)に示すとおり,エステニー商品は,マツモトキヨシ,ジャスコ,イトーヨーカ堂,東急ハンズ,ドン・キホーテ等を初めとする,集客数の多い大手ドラッグストアやスーパーマーケット,コンビニエンスストア等,計12,000店以上もの店舗において,北は北海道から南は九州まで,全国津々浦々に販売されている。
エステニー商品の販売個数及び売上高は,平成5年度から平成21年度までの16年間で,1,400万個近くに達し,約147億円の売上を計上している(甲第7号証)。
また,ボディマッサージクリーム(ボディジェル)市場におけるエステニー商品のマーケットシェア等が記載された甲第9号証(株式会社富士経済発行平成19年度版「化粧品マーケティング要覧」)及び甲第10号証(平成18年7月3日付日経MJ紙一部抜粋)においても,本件商標の登録出願前におけるエステニー商品の人気の高さが裏付けられる。
(イ)請求人によるエステニー商品の販促活動について
請求人は,前記のとおり豊富な品揃えのエステニー商品を店頭で販売するにあたり,より多くの女性消費者の注意を惹くよう常に創意工夫を凝らし,各販売店舗に対して,様々なディスプレイ方法やディスプレイ用ツール,キャンペーン企画等を提案している。
甲第11号証は,エステニー商品が実際に店舗で販売されている状態を示す店頭の陳列写真であり,甲第12号証の1ないし10は,平成16年から平成19年にかけて,請求人が各販売店舗に提案したディスプレイ方法やディスプレイ用ツール,キャンペーン企画の企画書等である。これらディスプレイ用ツールが実際に使用された事実は,パネル等の印刷業者による「納品兼請求書」及び「納品受領書」をはじめ,使用されたパネル等及びそれらの実際の使用例を示す店舗写真(甲第12号証の1ないし16)から確認できる。なお,甲第12号証の14の「納品受領書」の宛先「日本コルマー(株)」は,請求人がエステニー商品の製造仕上げを委託している会社である。
このように,店頭で一際目立つエステニー商品のディスプレイと,当該ディスプレイ用ツールに目立つように表示された引用商標3及びそれと共に付された「常盤薬品」の文字に接した消費者は,引用商標3を請求人の業務に係る当該ボディケアシリーズの商品のブランド名として記憶することは明らかといえる。
(ウ)エステニー商品の各種媒体での掲載について
エステニー商品が本件商標の登録出願日以前から人気商品として注目を集めていたことは前述のとおりであるが,かかる事実は,女性消費者を読者層とする各種雑誌に頻繁に取り上げられていること(甲第13号証の1ないし50)からも裏付けられる。そのうち,本件商標の登録出願日以前に発行された,発行部数が10万部以上の女性消費者を読者層とする雑誌(平成19年10月1日?平成20年9月30日の1年間に発売された雑誌1号あたりの「平均印刷部数」を基準とする。社団法人日本雑誌協会調べ。)及び新聞だけを抜粋しても,以下の例が挙げられる。
(a)株式会社光文社発行「女性自身」(発行部数約47万部),平成18年6月20日号(甲第13号証の1)
(b)株式会社主婦の友社発行「Ray」(発行部数約21万部)平成18年7月号,平成20年4月号及び同年8月号(甲第13号証の2,19及び21)
(c)株式会社徳間書店発行「ラブベリー」(発行部数約13万部),平成18年7月号(甲第13号証の3)
(d)株式会社講談社発行「ViVi」(発行部数約44万部),平成18年9月号,平成19年11月号及び平成20年2月号(甲第13号証の4,13及び15)
(e)株式会社ベルシステム24発行「ビーズアップ」(発行部数約14万部),平成18年10月号及び平成20年7月号(甲第13号証の5及び20)
(f)朝日新聞(大阪版)(発行部数約800万部),平成19年2月2日付(甲第13号証の6)
(g)株式会社マガジンハウス発行「anan」(発行部数約25万部),平成19年5月2日号(甲第13号証の7):
(h)株式会社小学館発行「美的」(発行部数約13万部),平成19年7月号(甲第13号証の8)
(i)株式会社角川・エス・エス・コミュニケーションズ発行「レタスクラブ」(発行部数約34万部),平成19年7月号(甲第13号証の9)
(j)株式会社日之出出版発行「SEDA」(発行部数約12万部),平成19年8月号(甲第13号証の10)
(k)株式会社主婦の友社発行「hanachu」(発行部数約13万部),平成19年8月号(甲第13号証の11)
(l)株式会社主婦と生活社発行「週刊女性」(発行部数約35万部),平成19年8月14日号(甲第13号証の12)
(m)株式会社徳間書店発行「nicola」(発行部数約19万部),平成19年12月号(甲第13号証の14)
(n)株式会社集英社発行「MAQUIA」(発行部数約11万部),平成20年3月号(甲第13号証の16)
(o)株式会社学習研究社発行「FYTTE」(発行部数約12万部),平成20年3月号及び同年4月号(甲第13号証の17及び18)
上掲の雑誌等の中には,若い女性を主たる読者層とするファッション誌やコスメ誌に限らず,一般週刊誌である「女性自身」(甲第13号証の1)や「週刊女性」(甲第13号証の12),料理雑誌である「レタスクラブ」(甲第13号証の9),一般紙である朝日新聞(甲第13号証の6)のように,高年齢層の女性や主婦を含む広範囲の女性消費者が目にする媒体が含まれる。
このように,請求人自身はテレビ・雑誌等で大々的に宣伝広告をしていないにも拘らず,メディアや女性消費者に常に注目されてきたからこそ,上記(ア)のとおり,エステニー商品は,ボディマッサージケアクリームの市場において,平成16年以降,常に上位3?4位のマーケットシェアを維持し,平成19年には既に,業界において低価格帯のボディケア商品の主要ブランド・主要商品と位置付けられ,セルフ市場では定番ブランド・中心ブランドと認知されるに至った(甲第9号証)。
(エ)小括
以上により,引用商標3は,本件商標の登録出願日には既に我が国の取引者,需要者の間において,エスティニー商品の商標として広く認識され,高い著名性を獲得するに至っていた。そして,本件商標の登録日の時点においてもかかる周知著名性が継続していたことは,甲第13号証の44ないし50において示したエステニー商品の雑誌への掲載,インターネット上における検索結果や化粧品情報口コミ件数ランキング等の事実より明らかである。
3 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標と引用商標1及び2との類似性について
(ア)商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最高裁昭39(行ツ)110号(甲第17号証))。かかる判断基準に照らすと,本件商標は,以下のとおり,引用商標1及び2と類似することは明らかである。
(イ)各商標の構成
本件商標は,「ESTENITY」及び「エステニティ」の文字を上下二段に横書きしてなるものであるところ,その構成各文字は,欧文字8字と片仮名6字とがそれぞれ同書,同大,等間隔で表されており,外観上まとまりよく一体的な構成からなるものである。
引用商標1は,「ESTENEY」及び「エステニー」の文字を上下二段で横書きしてなるところ,その構成各文字は,欧文字7文字と片仮名5文字とがそれぞれ同書,同大,等間隔で表されており,外観上まとまりよく一体的な構成からなるものである。
引用商標2は,「エステニー」及び「ESTENY」の文字を上下二段で横書きしてなるところ,その構成各文字は,片仮名5文字と欧文字6文字がそれぞれ同書,同大,等間隔で表されており,外観上まとまりよく一体的な構成からなるものである。
(ウ)称呼の類似性
本件商標は,「エステニティ」の称呼が生じるほか,一般的に「TY」で終わる我が国で馴染みのある英単語「CITY」,「PARTY」等が「ティ」で完結することなく長音を伴って余韻を残して発音される(「シティー」,「パーティー」等)ことから,「ESTENITY」の欧文字部分からは,長音を伴った「エステニティー」の自然な称呼が生じる。
一方,引用商標1及び2は,「エステニー」が欧文字部分の称呼を特定する役割を果たすものと無理なく認識できることから,「エステニー」が自然な称呼である。
そこで,「エステニティ」と「エステニー」の称呼を対比すると,聴取したときに最も印象に強く残る語頭音だけでなく,その後に続く第4音目までの「エステニ」が同一で,語尾における「ティ」と長音「ー」の差異を有するにすぎない。
また,「エステニティー」と「エステニー」の称呼を対比すると,最も印象に強く残る語頭音から第4音目までの「エステニ」が同一であることに加え,語尾が長音「ー」により余韻を残した印象を与える点で共通し,差異点は,聴取し難い語尾の直前の「ティ」の有無のみである。称呼の識別上重要な要素を占める語頭の第4音目までが共通することは,称呼の類似性に極めて大きく影響するものであり,かつ,「エステニティ」,「エステニティー」のいずれの称呼も,語尾の母音が「i」である点において「エステニー」と共通することからも,両商標を一連に称呼するときは,その語調,語感が近似したものとして聴取されることは明らかである。
さらに,本件における取引の実情,すなわち,a)「エステニー」は引用商標1の指定商品に属する各種ボディケア商品との関係において請求人の商標として周知著名であること,及び,b)請求人が調べた限り,「エステニ」で始まる商品名を有する各指定商品が,請求人の商品以外に市場で流通していないこと等を考慮すると,請求人の周知著名な商標「エステニー」の長音を外したにすぎない「エステニ」の称呼をそのまま語頭に含む本件商標の称呼「エステニティ」,「エステニティー」を聴取した取引者,需要者は,請求人の商標「エステニー」を容易に連想し,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
(エ)外観の類似性
<欧文字部分について>
欧文字と片仮名が二段に併記された構成からなる商標であって,かつ,片仮名が欧文字部分の自然な読みを併記したにすぎないと理解される場合,欧文字部分と片仮名部分を常に不可分一体のものとして把握されるものとはいい難く,欧文字部分も看者の注目を集め,欧文字部分のみを捉えて取引に供される場合も少なくないものとみるのが相当である。したがって,該欧文字部分において取引者・需要者をして誤認混同を生ぜしめるおそれがある場合には,対比する両商標は,該欧文字部分において類似する商標と判断されるべきである(甲第20号証参照)。
また,該欧文字部分が全体として7文字以上のやや長めの構成からなるものであり,かつ,対比する両商標における差異が看者の視覚的注意力が比較的届きにくい中間の位置にある場合には,この違いによる印象の差は決して大きいものとはいえず,時と所を異にして離隔的に観察するときには,取引者・需要者をして誤認混同を生ぜしめるおそれがあると判断されるべきである(甲第20及び第21号証参照)。
これを本件についてみると,両商標の各片仮名部分は,各欧文字部分の自然な読みを併記したにすぎないと理解されるため,各欧文字部分において取引者・需要者をして誤認混同を生ぜしめるおそれがある場合には,両商標は各欧文字部分において類似する商標と判断されるべきである。
そこで,本件商標と引用商標1及び引用商標2の欧文字部分とを対比すると,以下のとおり,外観上類似することは明らかである。
本件商標と引用商標1の各欧文字部分は,それぞれ8文字と7文字という比較的長い文字構成からなるところ,両者の第5文字目までの「E」,「S」,「T」,「E」及び「N」の全ての文字及び,末尾の「Y」の文字がそれぞれ共通する。両者の差異点は,本件商標の8文字中,第6・7文字目の「IT」の2文字が,引用商標1では「E」の1文字である点にすぎない。
本件商標と引用商標2の各欧文字部分は,それぞれ8文字と6文字という比較的長い文字構成からなるところ,両者の第5文字目までの「E」,「S」,「T」,「E」及び「N」の全ての文字及び,末尾の「Y」の文字がそれぞれ共通する。両者の差異点は,本件商標の8文字中,第6・7文字目の「IT」の2文字が,引用商標2には存在しない点にすぎない。
本件商標と引用商標1及び2に接した取引者,需要者が,8文字と7文字又は6文字という比較的長い文字構成において中間に位置する上記の僅かな差異点に着目し,該差異点を明確に記憶するとは考え難い。特に,上記差異点のうち,本件商標における欧文字「I」は,前の文字「N」の右側の縦線と密接して書されていることから極めて希薄な印象となり,「I」のみが独立して看者の視覚に印象付けられるとは考えられない。
また,「ESTENITY」と「ESTENY」は,比較的長い綴りであることに加え,既成の親しまれた語ではないため,その綴りも明確に記憶され難いといえる。特に,「IT」と「E」のように中間に位置する文字の綴りであれば一層記憶に残り難いものである。このため,両者を時と処を異にして離隔的に観察した場合には,外観上近似した印象,記憶,連想等を生ずるといえる(甲第22号証参照)。
以上により,本件商標と引用商標1及び2の各欧文字部分は,商品の出所に誤認混同を生ぜしめる程度に外観上類似していることは明らかである。
<片仮名部分について>
本件商標と引用商標1及び2の各片仮名部分は,それぞれ6文字と5文字のうちの語頭の第4文字までが共通し,両者の差異点は末尾の「ティ」と「ー」の違いにすぎない。この語頭の4文字全てが同一文字で構成されているという事実からすれば,取引者,需要者がこれを時と処を異にして離隔的に観察した場合,外観において見誤るおそれがある。
さらに,上記(ウ)において説明した取引の実情a)及びb)を考慮すると,本件商標に接する取引者,需要者が「エステニティ」の「エステニ」の文字部分に着目し,請求人の周知著名な「エステニー」と見誤る可能性は十分想定できるものである。
よって,本件商標と引用商標1及び2とは,各片仮名部分においても外観が類似するといえる。
以上により,本件商標と引用商標1及び2とは,全体として外観が類似することは明らかである。
(オ)観念の類似性
引用商標1及び2の構成中の「ESTENY」及び「エステニー」の文字部分は,サナ社が独自に創造した造語であり,引用商標1の指定商品に属するエステニー商品の商標として周知著名である。引用商標2の指定商品もエステニー商品と同じ売り場で隣接して販売されることの多いエステニー商品と密接な関連性を有する商品であることを考慮すると,引用商標1及び2からは,いずれも請求人又はエステニー商品の観念が生ずる。
一方,本件商標も辞書等に掲載されていない造語であるところ,語尾の「ITY」及び「ティ」は,「状態,性質」などの意味を表す接尾語にすぎない(甲第23号証)。
上記(ウ)において説明した取引の実情a)及びb)を考慮すると,本件商標に接する取引者,需要者が「ESTEN」及び「エステニ」の文字部分に着目し,請求人又はエステニー商品を想起する可能性は十分想定できる。
以上により,本件商標と引用商標1及び2とは,観念においても相紛らわしい類似の商標であることは明らかである。
(カ)小括
以上のとおり,本件商標と引用商標1及び2とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても相紛らわしく,互いに出所混同のおそれのある類似の商標である。
(2)本件商標と引用商標1及び2における商品の同一・類似性について
本件商標の指定商品中の「せっけん類,歯磨き,化粧品,植物性天然香料,動物性天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料」は,引用商標1の指定商品「せつけん類,化粧品,香料類,歯磨き」と同一又は類似の商品である。
また,「つけづめ,つけまつ毛」は,引用商標2の指定商品中の「ボディースポンジ,ボディーブラシ,あかすり用タオル,浴用ヘチマ,浴用軽石,角質除去具,手動式美容用マッサージローラ,美容用痩身サウナベルト(化粧用具に属するもの),その他の化粧用具(「電動式歯ブラシ」を除く。)」と同一の類似群コードが付される商品であり,かつ,いずれも特に女性消費者が好んで美容のために使用するものであり,近接した場所で販売されるのが通常であることから,類似の商品である。
(3)小括
以上のとおり,本件商標と引用商標1及び2とは,商標及び商品共に同一又は類似の関係にあることから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
4 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)引用商標3の周知著名性について
引用商標3は,前述のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,エスティニー商品の商標として,取引者,需要者の間で広く認識され,高い著名性を獲得していたものである。
(2)本件商標と引用商標3との類似性について
前述のとおり,本件商標は引用商標3のうちの「エステニー」商標と類似し,引用商標3のうちの「Esteny」からは,「エステニー」の称呼及び請求人又はエステニー商品の観念が生ずる。また,かかる称呼及び観念が本件商標の称呼及び観念と類似することから,本件商標は,引用商標3のうちの「Esteny」商標とも類似する。
(3)本件商標の指定商品とエステニー商品の同一性について
本件商標の指定商品中「せっけん類,化粧品」は,エステニー商品と同一である。
(4)小括
以上のとおり,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時にエスティニー商品の商標として取引者,需要者の間で広く認識され,高い著名性を獲得していた引用商標3と,商標類似,商品同一の関係にあることから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
5 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)最高裁判決(平成10年(行ヒ)85号(甲第24号証))において判示されたとおり,商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,(ア)当該商標と他人の表示との類似性の程度,(イ)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,(ウ)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,(エ)商品等の取引者及び需要者の共通性及び(オ)その他取引の実情に照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである。
そして,これを本件についてみると
(ア)本件商標と引用商標3とは,類似するものである。
(イ)引用商標3は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,エスティニー商品の商標として広く認識され,高い著名性を獲得していた。また,引用商標3は,サナ社が独自に創作した造語よりなるものである。
(ウ)本件商標の指定商品中「せっけん類,化粧品」は,エステニー商品と同一であり,「植物性天然香料,動物性天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料」を含む「香料類」とエステニー商品中「せっけん類」及び「歯磨き」は,共にトイレタリー(商品)であって密接な関連性がある商品である。また,「つけづめ,つけまつ毛」と「化粧品」は,いずれも女性消費者が好んで美容のために使用するものであり,近接した場所で販売されるのが通常であることから,密接な関連性を有する商品である。
(エ)本件商標の指定商品とエステニー商品はいずれも,主たる需要者は一般女性消費者であり,また,化粧品,トイレタリー(商品),つけづめ,つけまつ毛等は,スーパーマーケットやドラッグストア,バラエティショップ,コンビニエンスストア等で販売されることが多いことから,取引者においても共通するといえる。
(オ)引用商標3のうち「Esteny」商標は,筆記体風で書したものであることが容易に把握されることから,取引者,需要者は,その書体を外れて「Esteny」の構成文字自体をエステニー商品の商品名と把握していると考えるのが自然である(甲第14号証の1)。
請求人が調べた限り,本件商標と「ESTENY」及び引用商標3との共通文字「ESTEN」,「Esten」又は「エステニ」で始まる商品名を有するせっけん類又は化粧品は,請求人のエステニー商品以外に流通していない。
一方,前述のとおり,本件商標も辞書等に掲載されていない造語であり,語尾の「ITY」及び「ティ」は,「状態,性質」などの意味を表す接尾語にすぎないから,本件商標の構成中,「ESTEN」及び「エステニ」の文字部分は,「ITY」及び「ティ」の文字部分に比して自他商品の識別力が強く,商標として重要な要素を占める部分である。このため,本件商標に接する取引者,需要者が「ESTEN」及び「エステニ」の文字に着目し,本件商標の付された商品が請求人の取扱に係る商品であるかの如く誤認し,その出所について混同を生じるおそれがあることは明らかである。
エステニー商品は,前述したとおり,複数の種類の商品をシリーズで取り揃えて販売されていることから,「ESTEN」及び「エステニ」に接尾語を付けたにすぎない本件商標が,エステニー商品と密接な関連性を有する本件商標の指定商品に使用された場合,取引者,需要者は,エステニー商品のシリーズ商品であると誤信する可能性が極めて高いと考えられる。
(2)以上により,本件商標をその指定商品に使用するときは,その取引者及び需要者に対し,恰もエステニー商品のシリーズの一つとして認識させ,請求人の業務に係る商品の出所について誤認を生じさせるか,いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品か事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させ,その出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
なお,請求人は,本件審判請求と同じ理由に基づき商標登録異議申立を行ない本件商標の登録を維持するとの決定が下されたが,その決定は,引用商標3が周知商標であることを認めながらも,前記最高裁判決が示した判断基準を十分に参酌せずに判断したものであって,各号の適用解釈を誤ったものであるから,本件審理に何ら影響を与えるべきものではない。
よって,本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
6 まとめ
以上に詳述したとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同第11号及び同第15号の規定に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項第1号の規定により,その登録を無効にすべきものである。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1ないし第6号証(枝番を含む。)を提出した。
本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同第10号及び同第15号のいずれにも該当しない。
1 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標は,引用商標1と類似しない
(ア)本件商標は,上段に欧文字で「ESTENITY」,下段に片仮名にて「エステニティ」と配した上下2段の構成からなり,「エステニティ」の称呼を生じる。
これに対し,引用商標1は,上段に欧文字で「ESTENEY」,下段に片仮名にて「エステニー」と配した上下2段の構成からなり,「エステニー」の称呼を生じる。
よって,これらは称呼において末尾の音「ティ」と「ー」を異にする。この場合,本件商標の「ティ」は舌尖を上前歯に密着し破裂させて発する無声子音(t)であるが,引用商標1の長音「ー」は,「ニ」を単に伸ばした抑揚のない微弱音で,「ティ」とは調音位置,調音方法が全く異なり,「ティ」が強く発音し聴取されることからも,両商標をそれぞれ一連に称呼した場合に語感,語調を異にし相紛れるおそれは全くない。
これに関し,請求人は本件商標の「ESTENITY」部分からは「エステニティ」の称呼の他,「エステニティー」の称呼も生じると主張する。
しかしながら,本件商標は請求人が例示する「CITY」,「PARTY」のように発音の仕方が固定され,かつ我が国においてもその発音が親しまれている既存の単語ではなく,特定の観念を有しない造語である。
そして,「ESTENITY」の下にはそれと同じ比率で「エステニティ」の文字を配している。
一方,「ESTENITY」の文字からはごく自然に「エステニティ」の称呼が生じるものであり,「エステニティ」の称呼は決してかけ離れたものではない。
よって,発音の仕方が固定されている既存の単語ではなく造語である本件商標に接した需要者,取引者は,下段に配した「エステニティ」の文字を,上段に配した「ESTENITY」の文字の称呼を表したものであると直感し,「エステニティ」をもって本件商標を称呼するものであり,そこにはあえて下段に配した「エステニティ」の文字に逆らって本件商標を「エステニティー」と称呼すべき余地はない。
もっとも,仮に本件商標から「エステニティー」の称呼が生じたとしても,「エステニー」の称呼とは明らかに非類似である。
すなわち,「エステニー」の称呼が全体に澱みなく一連に称呼されるのに対し,「エステニティ」の場合は発音上「エステニ」と「ティ」の間に区切りが生じることは必定であり,2音節をもって称呼されることから全体の音調,音感が「エステニー」と明らかに異なることになることは本件商標の異議決定が教えるところである。
この場合,仮に「ティ」に長音「ー」が付加されると,それにより「ティ」部分の後半が開放されることとなり,「ティ」に比べより発声,聴取しやすくなると考えるのが自然である。
これは,とりも直さず,称呼上「ティー」部分が「エステニ」に対し独立した音節として機能することが,より助長されることを意味するものであり,非類似性がより高まることになる。
これに関し,請求人は両称呼が共に語尾に長音「ー」が付されることにより語調,語感が近似したものになるとの趣旨の主張を行なっているが,それ以前に本件商標は2音節,引用商標1は1音節の明確な相違があるものであることを無視した議論であるといわざるを得ない。
商標はその全体として識別の用に供されるものであり,一部分の共通性のみをもって類似性を論じることはおかしい。
仮に,語尾において請求人がいうところの「余韻を残した印象を与える」点が共通するとしても,それ以前に「ティ」の有無により全体として明らかに異なる音調,音感が生じる以上,両称呼が相紛れるおそれは皆無である。
なお,請求人は上記主張に関連して甲第18及び第19号証の審決例を引用しているが,前者は「アイクルス」と「アイクル」,後者は「エコロハ」と「エコロア」に関する事例であり,1音違いで音節数が同一である称呼同士に関するこれらの事例は,2音違いで,しかも音節数に相違がある称呼同士に関する本件とは事情を全く異にするものである。
一方,本件商標と引用商標1が類似しないことは,いまさら被請求人が主張するまでもなく,特許庁においても同様の扱いであることは,末尾の音「ティ」と「ー」を異にする商標同士の類似性について判断した乙第1号証の審決例や,末尾の音「ティ」と「ー」を異にする登録商標同士,末尾の音「ティ」の有無を異にする登録商標同士の類似群04C01における併存例(乙第2号証の1ないし42)に照らしても明白である。
なお,特許庁の登録例により審判での判断が拘束されるわけではないことは勿論であり,上記併存例(乙第2号証の1ないし42)の立証の趣旨は,「ティ」と「ー」を異にする登録商標同士,末尾の音「ティ」の有無を異にする登録商標同士における多数人(審査官)の見解を示す点にあることを付記する。
(イ)次に,請求人は,引用商標1と本件商標とはその欧文字部分において外観上類似すると主張している。
しかしながら,両者は「E」の1文字と「IT」の2文字において相違し,しかも,これらの文字は,例えば「N」と「M」や「D」と「O」の場合などのような,外観上の近似性を有しない全く異なる外観からなるものであり,両者間に外観上相紛れるおそれがないことは火を見るより明らかである。
(ウ)さらに,請求人は,引用商標1と本件商標は観念上類似するとも主張している。
しかしながら,両者は,ともに特定の観念を有しない造語であり,そもそも観念を比較することさえできない。
また,請求人が提出した「エステニー」関係の使用実績をみても,それに特定の観念を付与して使用した形跡もない。
(2)本件商標は引用商標2と類似しない
(ア)引用商標2は,上段に欧文字で「ESTENY」,下段に片仮名で「エステニー」と配した上下2段の構成からなり(審決注:誤記と認められる。正しくは上段に「エステニー」,下段に「ESTENY」の構成からなる。),「エステニー」の称呼を生じ,その称呼は引用商標1と同一である。
よって,引用商標2の称呼は,引用商標1に関し前記した理由により,本件商標の称呼とは類似しない。
(イ)次に,請求人は,引用商標2と本件商標とはその欧文字部分において外観上類似すると主張している。
しかしながら,両者は「IT」の文字の有無において相違し,しかも,それにより全体の字数で2文字もの違いがあり,両者間に外観上相紛れるおそれがないことは火を見るより明らかである。
(ウ)さらに,請求人は,引用商標2と本件商標とは観念上類似するとも主張している。
しかしながら,両者はともに特定の観念を有しない造語であり,そもそも観念を比較することさえできない。
また,請求人が提出した「エステニー」関係の使用実績をみても,それに特定の観念を付与して使用した形跡もない。
2 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
称呼「エステニティ」と「エステニー」が類似しないことや,「ESTENEY/エステニー」と「ESTENITY/エステニティ」の観念が類似しないことは上記のとおりである。
また,筆記体で書した引用商標3とは,本件商標と全体の字数で2文字もの違いがあり,かつ,活字体で書した本件商標とは外観上も明らかに非類似である。
したがって,本件商標と非類似である以上,本件商標は,商標法第4条第1項第10号には該当しない。
1 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)請求人は,広義の混同,すなわち「本件商標がその指定商品について使用された場合,その取引者及び需要者に対し,請求人の業務に係る上記商品の出所について誤認を生じさせるか,いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品か事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させ,その出所について混同を生ずるおそれがある」と主張されているようであるが,前記したように,仮に商品が類似したとしても,本件商標と引用商標3が明らかに非類似である以上,本件商標は商標法第4条第1項第15号には該当しない。
(2)一方,審判請求の理由の全趣旨からは,請求人は抽象的な混同の危険でなく,具体的な混同の危険,すなわち,仮に非類似であっても相紛れるおそれがあることを主張しているのかとも見受けられる。
なるほど,ある商標の一部に著名な商標が含まれていると仮定した場合は,結合の度合いが弱まり,相紛れるという事態も生じ得るかもしれない(例えば,「ギフトセゾン」と「セゾン」:東京高裁平成8年(行ケ)第202号平成10年3月31日判決)。
しかし,それは結合商標を対象にした議論であり,また,請求人の使用実績に照らした場合,そこまでの著名性は認められない。
比較的短い文字数で「ESTENITY/エステニティ」と等しい書体,等間隔,等大でまとまりよく記した構成よりなる本件商標は,結合商標でなく,ひとかたまりの商標としてのみ認識されると考えるのが自然であり,上記のような議論は通用しない。
ちなみに,乙第3号証の審決例に示すように,引用商標とは比べ物にならないほどの著名性を有する商標「AVON」を含む商標にさえ,被請求人主張のような考えが適用されている。
(3)そして,これは極めて重要なことであるが,本件商標の構成中には引用商標3は含まれていない。すなわち,本件商標を構成する文字「ESTENITY」には引用商標3の「Esteny」は含まれておらず,同じく「エステニティ」には「エステニー」は含まれていない。
ちなみに,含まれているとは「ESTENYTY」や「エステニーティ」のような場合である。
(4)一方,申立人は引用商標3の独創性を主張している。
しかしながら,本件の商品の分野に関し「エステ」の文字に識別力がないことは,例えば乙第4及び第5号証の審決例に照らしても明白であり,引用商標3のように「エステ」の文字を派生した登録商標は類似群04C01に関するものだけでも多数併存し,引用商標3に卓越した独創性があるとは到底いい得ない。
なお,類似群04C01に関し,「エステ」の文字を派生した登録商標の代表的なものの一覧を乙第6号証の1ないし5として提出する。
(5)以上のとおり,引用商標3と本件商標の間には混同のおそれはなく,本件商標は商標法第4条第1項第15号には該当しない。
4 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同第10号及び同第15号のいずれの規定にも該当しないものであり,本件審判の請求は成り立たない。

第5 当審の判断
1 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標は,「ESTENITY」の欧文字と「エステニティ」の片仮名を,欧文字を片仮名よりもやや太字で,上下二段に書してなるものであるところ,それぞれの文字部分に相応し,「エステニティ」の称呼を生ずるものとみるのが自然であり,また,特定の観念を生じさせない造語からなるものといえる。
これに対し,引用商標1は,「ESTENEY」の欧文字と「エステニー」の片仮名を,欧文字と片仮名の文字の太さを同じくし,上下二段に書してなるものであり,また,引用商標2は,「エステニー」の片仮名と「ESTENEY」の欧文字を,片仮名と欧文字の文字の太さを同じくし,上下二段に書してなるものであるところ,これらは,それぞれの文字部分に相応し,いずれも「エステニー」の称呼を生ずるものとみるのが自然であり,また,特定の観念を生じさせない造語からなるものといえる。
そこで,本件商標から生ずる「エステニティ」の称呼と引用商標1及び2から生ずる「エステニー」の称呼を比較すると,両称呼は,いずれも5音からなり,そのうちの前半部の「エステニ」を共通にし,末尾の音「ティ」と長音「ー」の音に差異を有するものである。
しかして,その差異音は,「ティ」が舌尖を上前歯に密着し破裂させて発する無声子音(t)と母音(i)あるいは(e)とが結合した音であるのに対し,長音「ー」は,前音「ニ」を単に伸ばした抑揚のない微弱音であるから,両音は,音そのものの調音位置や調音方法が明らかに異なるものである。加えて,両称呼を一連に称呼した場合には,「エステニティ」が「エステ」と「ニティ」の2音節をもって称呼されるのに対し,「エステニー」は,よどみなく一気一連に称呼されるところから,両称呼は,比較的短い5音構成における差異音の調音位置や調音方法の明らかな相違及び一連に称呼した場合の音調,音感の相違により,それぞれを全体として称呼するときには,互いに聞き誤るおそれのないものというべきである。
また,本件商標と引用商標1及び2は,いずれも造語からなるものであるから,観念上比較することができない。
次に,外観についてみると,本件商標と引用商標1は,その構成中の前半部の「ESTEN」と「エステニ」及び欧文字における末尾の「Y」を共通にするものの,欧文字において中間部に「IT」と「E」の差異を,片仮名において末尾に「ティ」と「ー」の差異を有するものであり,しかも,構成各文字の文字の太さや上下段の結合状態の相違等から,それぞれを時と所を異にし離隔的に観察した場合にも,需要者に誤認混同を生ぜしめるおそれがあるとはいえず,外観上十分に区別し得るものである。
また,引用商標2は,片仮名を上段に欧文字を下段に書してなるものであるから,欧文字を上段に片仮名を下段に書してなる本件商標とは,外観上明らかに区別し得るものである。
そうすると,本件商標は,引用商標1及び2とは,称呼及び外観において相違し,観念において比較することができないものであるから,外観,称呼及び観念のいずれを考慮しても,商品の出所につき誤認混同のおそれのない非類似の商標というべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
請求人が本件商標の商標法第4条第1項第10号該当を理由として引用する引用商標3は,別掲のとおりのやや図案化された筆記体の「Esteny」の欧文字からなる商標及び活字体の「エステニー」の片仮名からなる商標であるから,これらから生ずる称呼は,引用商標1及び2と同一の「エステニー」であり,また,いずれも観念は生じないものである。
そして,前記1のとおり,「エステニティ」と「エステニー」は,称呼において相違するものであり,また,両者の観念は比較し得ないものである。
また,欧文字と片仮名の二段書きからなる本件商標と,やや図案化された筆記体で書された「Esteny」又は活字体の「エステニー」の一段書きからなる引用商標3とは,外観上明らかに区別し得るものである。
そうすると,本件商標と引用商標3は,外観,称呼及び観念のいずれにおいても商品の出所につき誤認混同のおそれのない非類似の商標である。
したがって,たとえ本件商標の指定商品と引用商標3を使用する商品である「エステニー商品」が同一又は類似するものであるとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
請求人の主張及び提出に係る証拠によれば,引用商標3のうち,やや図案化された筆記体で書された「Esteny」は,請求人に対する100%出資者であるノエビア化粧品が,遅くとも1995年頃から使用,そして,その事業を引き継いだ請求人により継続して使用された結果,本件商標の出願,登録時においてエステニー商品,すなわち,ボディマッサージケアクリーム等の女性向けの各種ボディケア商品について使用する商標として,この種商品の需要者,取引者間に相当程度広く知られていることが認められる。
しかしながら,前記2のとおり,引用商標3は,本件商標と外観,称呼及び観念のいずれにおいても商品の出所につき誤認混同のおそれのない非類似の商標であり,かつ,明らかに区別できる別異の商標というべきものである
。また,本件商標の指定商品の分野において,「Este(エステ)」の文字を含む商標が多数登録されていることを考慮すれば,「Este(エステ)」の文字に「ny(ニー)」の文字を結合したものと容易に認識し得る引用商標3は,独創性の程度の高い商標ということはできない。
そうすると,前記のほか,本件商標の指定商品と引用商標3を使用する商品「エステニー商品」との間の性質,用途又は目的における関連性,当該商品の取引者及び需要者の共通性及びその他取引の実情に照らし,本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準とし総合的に判断しても,被請求人が本件商標をその指定商品に使用した場合に,これに接する取引者・需要者が,引用商標3を想起・連想して,該商品を請求人の取扱に係る商品若しくは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く誤信し,その出所について誤認を生ずるおそれがあるものということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第10号,第11号及び第15号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,無効とすべきものではない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲
引用商標3


審理終結日 2011-03-08 
結審通知日 2011-03-11 
審決日 2011-03-31 
出願番号 商願2008-50886(T2008-50886) 
審決分類 T 1 11・ 26- Y (X03)
T 1 11・ 25- Y (X03)
T 1 11・ 271- Y (X03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前山 るり子 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 小川 きみえ
小林 由美子
登録日 2009-04-24 
登録番号 商標登録第5225550号(T5225550) 
商標の称呼 エステニティ 
代理人 特許業務法人 有古特許事務所 
代理人 神保 欣正 

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