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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X1835373945
管理番号 1236666 
審判番号 無効2010-890081 
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-09-24 
確定日 2011-05-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第5252987号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5252987号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5252987号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1の構成からなり、平成21年1月19日に登録出願され、第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」、第35類「かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、第37類「かばん類の修理,袋物の修理」、第39類「旅行用かばん類の貸与,旅行用袋物の貸与」及び第45類「かばん類の貸与(但し旅行用のものを除く。),袋物の貸与(但し旅行用のものを除く。)」を指定商品及び指定役務として同年7月9日に登録査定、同月31日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第55号証を提出している。
1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
2 無効原因
(1)商標法第4条第1項第10号該当性について
請求人は、甲第1号証ないし甲第3号証に示された立体的形状(別掲2参照)を請求人の販売するハンドバッグ(以下「バーキン」という。)につき使用している。立体的形状が商標たり得ることは商標法第2条第1項により明らかであるところ、このようなバーキンの立体的形状は、請求人の商品を表示するものとして使用される商標(以下「引用商標」という。)である。
引用商標は、以下に述べるとおり、請求人の商品を表示するものとして著名であるところ、本件商標は、引用商標に類似し、かつ、請求人の業務に係る商品に類似する商品に使用されるものである。
ア 引用商標の周知性
(ア)引用商標は、バーキンの立体的形状である。
請求人は、1837年、ティエリ・エルメスによりフランスにて創業され、バッグ、高級婦人服、アクセサリー等で知られる高級ブランドである。請求人の商品は、高級ブランド品として世界中で著名であり、かつ人気を博しているが、特に近年の売上高の増加はめざましく、1995年における売上高は5億8300万ユーロ、2000年における売上高は11億5900万ユーロ、2004年における売上高は約13億3100万ユーロを記録し、約10年前に比して倍増しているほどである。とりわけ、日本の市場は請求人にとって最重要市場のひとつであり、日本における売上高は、請求人の本国であるフランスをも凌駕し、世界の売上高の30%を占めている(甲4)。
また、請求人の商品は、現在日本で極めて高い人気を誇り、請求人の商品のみを特集した女性誌すら存在する(例として、甲5)。
日本においては、請求人の商品は戦前から知られていたが、1964(昭和39)年に、株式会社西武百貨店(以下「西武百貨店」という。)と提携し、渋谷、池袋を始め、名古屋、大阪、札幌等全国に合計15店舗の専門店を出店してから、その高い品質及びファッション性がより広くの顧客層に知られるようになった。1983(昭和58)年に、請求人と西武百貨店の合弁会社であるエルメスジャポン株式会社(以下「エルメスジャポン」という。)が設立されると、さらに積極的な販売活動が行われるようになった(なお、現在ではエルメスジャポンは請求人の100%子会社である。)。請求人の店舗は年々増え、現在では札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、熊本、福岡等全国に49の店舗を有する(甲6)。
このように、請求人の「エルメス」ブランドが日本において極めて著名であることは、もはや周知の事実であると信ずるものである。
(イ)引用商標は、このような請求人の商品の中でも、その代表的な商品であるバーキンの立体的形状である。
バーキンの原型であるサック・オータクロア(「サック」はバッグの意味である。)は、1892年に販売が開始されたバッグである(甲8)。1984年には、このオータクロアを原型として、著名なフランスの女優であるジェーン・バーキンのためにバーキンが発表され、以後、同人が愛用したことで世界的に広く知られることとなった。その後も、その高い品質ゆえに多くのセレブと呼ばれる女性に愛用され(甲5、甲34等)、後記(エ)のとおり、名品としての地位をゆるぎないものとしている。
日本においては、バーキンは、その発表後より販売が開始され、上記全国の店舗において販売されている。このように、バーキンは、日本全国において1984年の発表以降25年にわたり継続して販売されているのである。
(ウ)バーキンは、その殆どが1個50万円を超え、高価なものであれば250万円を超える高級バッグである(甲8等)にもかかわらず、「世界中の女性が憧れるバッグの最高峰」(甲32)として年々売上を伸ばしている。1998(平成10)年には販売個数は年間3000個を超え、以降さらに売上を伸ばし、2003(平成15)年には販売個数が前年の倍近い年間8000個超となり、その後も現在に至るまで急激に売上を伸ばしている(甲52)。さらに、売上高でいえば、1997(平成9)年には10億円を突破し、2006(平成18)年には97億円と、100億円に迫る勢いである。
(エ)さらに、請求人は、多数の雑誌を通じて継続的に請求人の商品の販売促進を図っており、1985(昭和60)年から1996(平成8)年までにバーキンに費やした広告宣伝費は6200万円にも及ぶ(甲7)。
しかも、請求人の商品を代表する商品であるバーキンは、日本で極めて高い人気を誇っていることから、現在では請求人が広告宣伝を行わなくとも、多数の雑誌がこれを取り上げており、その掲載雑誌は枚挙にいとまがない(例として、甲9ないし甲48)。平成18年度には、少なくとものべ15誌に取り上げられている。この中で、バーキンは、「究極の定番バッグ」(甲15)、「最上のデザイン×最上の素材」(甲15)、「名品」(甲18、甲32、甲34)、「ベストオブ名品」(甲27)などと称されたうえ、「エルメス」の「バーキン」として、請求人の商品であることが強く印象付けられる記載がなされたうえで、その形状がカラー写真で紹介されている。
そして、上記(ウ)のとおり、1997(平成9)年には、バーキンの販売個数は年間2000個を超え、売上高は10億円を突破するに至っており、バーキンは極めて人気の高い商品となっていた(甲52)。
他方、バーキンは、専門の職人が手作業で製造するものであり、大量生産することは困難である(甲5)。
このため、1997(平成9)年前後になると、バーキンは品薄状態となり、店頭での提供が困難となっていたことから、請求人は、あえて自ら宣伝広告費を支出してバーキンに関する広告を行わないこととしたのである。したがって、請求人は、1997(平成9)年以降はバーキンそのものに対する宣伝広告費は支出していない(しかし、雑誌社自らがバーキンを多数取り上げていることは甲第9号証ないし甲第48号証のとおりである。)が、このような請求人の措置は、バーキンがいかに需要者間で人気の高い著名な商品となっていたかを示すものといえる。
さらに、上記(ア)で記載した全国の49の請求人の店舗において、バーキンが展示されることにより、実際に来店する需要者に対し、その立体的形状が請求人の商品を示すものとして広く示されている。
(オ)引用商標の立体的形状は、「債権者の商品であることを示す表示として需要者の間に広く認識され」、少なくとも不正競争防止法第2条第1項第1号の周知の商品等表示に当たることが認められている(東京地裁平成20年1月11日決定、平成19年(ヨ)第22071号不正競争仮処分中立事件、甲53)。
また、2007年6月には、経産大臣よりエルメスジャポン宛に、バーキン(審決注:「ケリー」の誤記と認められる。)の商品形態が、「かばん類の商品表示として全国の需要者の間に広く認識されているものであると認められる」旨の意見書が交付された(甲54)。
さらに、2008年5月には、東京税関において、バーキン及び、同じく請求人の代表的商品としてバーキンと並び称されるケリーの形態に類似する模倣品が不正競争防止法に違反する商品であるとして、輸入差止の対象となることが認められた(甲55)。
このように、引用商標の立体的形状の周知性は、裁判所、経済産業省及び税関のいずれによっても認められている。
(カ)以上のとおりであり、1)バーキンはフランスにおける1984年の発表以来、日本において継続的に販売され、販売開始後25年後の現在に至っても一貫して同一の立体的形状が使用されてきたこと、2)バーキンは高額にもかかわらず極めて人気があり、極めて高い販売個数及び売上高を誇っていること、3)にもかかわらず請求人は多額の宣伝広告費用を支出したこと、それだけでなく請求人が自ら宣伝広告費用を負担しなくても多数の雑誌にてバーキンがその立体的形状がカラー写真で紹介されていること、4)引用商標の立体的形状が、裁判所、経産大臣及び税関により不正競争防止法第2条第1項第1号の周知の商品等表示に当たるものと認められていることから、引用商標は、使用により需要者間に広く認識されるに至ったものである。
イ 本件商標と引用商標の類似性
(ア)結合商標の類否の判断方法
本件商標は、「Celebourg」等の文字と同文字中の「g」の文字にひっかけるようにして描かれたハンドバッグ様の図形(以下「バッグ図形」という。)からなる結合商標である。
この点、結合商標については、商標の各構成部分が、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、出所識別表示として機能する各構成部分の外観・観念・称呼が他人の商標のそれと類似するときに両商標は類似するといえる(最高裁昭和38年12月5日判決、判例時報366号26頁)。
ここで、本件商標は、「Celebourg」等の文字及びバッグ図形はすべて外観上独立して看取できる構成となっており、不可分的に結合しているとはいえない。
この場合、類似性の判断にあっては、識別力を有する部分、すなわち要部があるときには要部を重視した比較により商標の類似性判断をすべきであるが、本件商標では、以下に述べるとおり、バッグ図形の部分が要部となるというべきである。
本件商標中、バッグ図形以外の部分は、その構成からしても識別力は相対的に弱いといえる。すなわち、まず、「Rent a Brand Bag」との文字は、「ブランドバッグを貸出す」との意を有し、被請求人の事業の内容を説明するものにすぎず、「http://www.celebourg.jp」との文字も被請求人が運営するWebサイトのURLを記述したものにすぎないから、識別標識としての機能は弱い。また、「Celebourg」あるいは「セレブール」の文字は、「著名人」、「名声」等の意を有する「Celebrity」あるいは「セレブリティ」を変容させた言葉と思われるが、一般的に「セレブ」という言葉が「富裕層」を指す意味の言葉として広く通用しており、一般名詞ということができるため、出所識別機能は弱い。
これに対し、バッグ図形は、後述のとおり、引用商標に酷似するものである。加えて、上記アで述べたとおり、引用商標は、請求人のバッグ「バーキン」を示すものとして周知であるところ、本件商標の指定商品は、皮革、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ(第18類)、かばん類に係る役務(第35類、第37類、第39類及び第45類)であって、これら商品及び役務の需要者がバーキンを知らないことはあり得ない。そこで、バッグ図形は、本件商標に接した需要者に対し、バーキンを想起させるものといえる。
したがって、本件商標中、自他識別力を有するのはバッグ図形であるということができる。
しかも、外観上、本件商標中の他の構成要素が濃茶色あるいは黒色等の暗い色で描かれているのに対し、バッグ図形は観察者の意識を引き付けやすい、明るい橙色で描かれている。このため、本件商標に接した需要者は、自然にバッグ図形の部分に着目するということができる。
以上のとおりであるから、本件商標と引用商標との類似性の判断にあたっては、本件商標からバッグ図形を分離したうえ、要部であるバッグ図形を比較の対象とすべきである。
(イ)類否判断
<外観>
引用商標は立体商標であり、本件商標は平面商標であるところ、外観の比較にあたっては、立体商標を観察する場合に主として視認するであろう方向(以下「所定方向」という。)を想定し、該方向から見たときの視覚に映る姿が平面商標と同一又は近似する場合には、外観類似の関係にあるというべきである。また、そのような所定方向が複数存在する場合には、いずれか一方の所定方向から見たときに視覚に映る姿が特定の平面商標と同一又は近似していれば外観類似の関係があるというべきである(東京高裁平成13年1月31日判決、裁判所ウェブサイト参照)。
ここで、引用商標が使用されたバーキンは、ハンドバッグである。ハンドバッグは、物を収納するという目的から、複数の面を有するが、これを超えてファッション小物の一つとして使用者の外見を装うという機能も有する商品である。このため、とりわけ正面はデザインの中心であり、重点的に装飾等が施され、販売店等においても正面が視認される方向で陳列・展示されるのが一般的である。したがって、所定方向は正面ということになる。これはバーキンの写真が掲載された多くの雑誌(甲9ないし甲48)からも明らかである。
実際に、引用商標の外観を所定方向から観察すると、その特徴としては、1)形状が底辺のやや長い台形である点、2)正面上部にかけて覆われている蓋部がある点、3)当該蓋部が略凸状となるように両サイドに切込みを有し、横方向に略3等分する位置に鍵穴状の縦方向の切込みが二箇所設けられている点、4)左右一対のベルトが設けられ、前記蓋部の凸型部分と当該ベルトとを本体正面の上部中央にて同時に固定することができる先端にリング状を形成した固定具が設けられている点、5)前記鍵穴状の切込みの外側の位置において、前記蓋部の凸型部分と前記ベルトとを同時に固定することができる左右一対の補助固定具が設けられている点、6)上部に円弧状をなす一対のハンドルが縫合され、前記鍵穴状の切込みを通るように設けられている点があげられる。
ここで、バッグ図形は、引用商標の上記特徴1)ないし6)のすべてを備えているものであるから、引用商標とバッグ図形の外観は極めて類似するものである。
<観念>
上記アで述べたとおり、引用商標が既に十分な周知性を獲得していることからすれば、これに酷似するバッグ図形に接した需要者は、当然に請求人商品たるバーキンを想起するといえる。
したがって、引用商標とバッグ図形から生ずる観念は同一である。
(ウ)結語
以上のとおり、引用商標とバッグ図形の外観・観念が類似することから、本件商標と引用商標は類似するものである。
ウ 商品・役務の類似性
(ア)類否の判断
本件商標の指定商品は、第18類「皮革、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」であり、指定役務は、第35類「かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、第37類「かばん類の修理、袋物の修理」、第39類「旅行用かばん類の貸与、旅行用袋物の貸与」及び第45類「かばん類の貸与(但し旅行用のものを除く。)、袋物の貸与(但し旅行用のものを除く。)」であり、引用商標は、ハンドバッグに使用されるものである。
第18類「皮革、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」のうち、「かばん類、袋物」は、特許庁「類似商品・役務審査基準」により、ハンドバッグと類似とされている。
また、請求人のバーキンは、皮革を利用したハンドバッグであるところ、このようなハンドバッグと「皮革」は、生産部門、販売部門、需要者のいずれも同一である。
さらに、「携帯用化粧道具入れ」は、ハンドバッグと同様に女性用のファッション小物であって、販売者・販売場所、需要者層が主に女性である点で一致する。さらに、両商品とも持ち物を入れるという用途を有しており、この点においても同一である。
したがって、当該指定商品(第18類)と請求人の商品は類似する。
第35類「かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、特許庁「類似商品・役務審査基準」により、ハンドバッグと類似するとされていることからも、商品・役務の類似性が肯定される。
第37類「かばん類の修理、袋物の修理」は、ハンドバッグの製造・販売を行う業者が、商品の購入者に対して補修あるいは修理等のアフターサービスを提供することが一般的であり、実際に請求人もこれを行っている(甲5)。
また、このような役務の需要者は、すなわち商品を実際に購入した者であるといえるから、商品の需要者と同一である。
したがって、ハンドバッグの製造・販売と上記役務の提供が同一事業者により、同一需要者に対して行われるものといえるので、役務と商品との間において、出所の混同を招くおそれがある。
よって、ハンドバッグと上記役務は類似するといえる。
第39類「旅行用かばん類の貸与、旅行用袋物の貸与」及び第45類「かばん類の貸与(但し旅行用のものを除く。)、袋物の貸与(但し旅行用のものを除く。)」は、上記第18類の指定商品について述べたとおり、当該役務の対象となるかばん類・袋物はハンドバッグと類似であるうえ、これが旅行用に使用されることもあることは当然である。実際に、請求人においても、旅行用かばんとしての利用も十分に可能なサイズの大きいかばんの取扱いを行っている(甲6)。
そして、かばん類・袋物の販売と貸与をともに行う事業者は数多く存在する(甲50、甲51)。
さらに、かばん類・袋物と旅行用かばん・旅行用袋物の需要者は、いずれもかばん類・袋物の利用を望む者であって、両商品の需要者も共通する。
以上のことからすれば、ハンドバッグの製造・販売と上記役務の提供は、同一事業者によって同一需要者に対して行われるものといえるので、役務と商品との間において、出所の混同を招くおそれがある。
したがって、ハンドバッグと上記役務は類似するといえる。
(イ)結論
以上より、本件商標の指定商品・指定役務と請求人の業務に係る商品であるハンドバッグは類似する。
エ 結語
したがって、本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標に類似する商標であって、かつ、請求人の業務に係る商品と類似の商品又は役務について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標の周知著名性及び本件商標との類似性
前記(1)アにおいて述べたとおり、引用商標は周知であり、かつ、本件商標と引用商標は、前記(1)イで述べたとおり類似する。
イ 引用商標の独創性
引用商標が使用された商品はハンドバッグであるところ、ハンドバッグの形状は多種多様であり、引用商標の形状は独創的な商標といえる。実際、引用商標を模倣した商品を除き、引用商標の立体的形状を使用したハンドバッグは、請求人の商品以外に例をみない。
ウ 本件商標の指定商品・指定役務と請求人の業務に係る商品の関連性
前記(1)ウで述べたとおり、本件商標の指定商品・指定役務と請求人の業務に係る商品とは、その大部分がかばん類・袋物に関係し、また、取引を行う事業者、取引場所、需要者等の点で多分に共通するため、両者の間には密接な関連性があるということができる。
エ 結論
以上のとおりであり、本件商標を指定商品又は指定役務に使用するときは、その取引者及び需要者において、少なくとも当該商品又は役務が、請求人又は請求人との間に親子会社や系列会社等の緊密な関係にある営業主の営業に係る商品・役務であると誤信される(広義の混同)おそれは極めて高いということができる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性について
前記(1)アで述べたとおり、引用商標が少なくとも周知であることは明らかであるところ、本件商標と引用商標とは、前記(1)イで述べたとおり、単に類似するのみならず、ファッション分野において極めて人気が高く、著名なバーキンの形状をそのままバッグ図形として含むものである。
そして、被請求人は、自己の営業においてバーキンを実際に取り扱っているのであるから、当然に引用商標の存在を熟知しているものである。
したがって、被請求人が本件商標にバッグ図形を使用し、これを使用して自己の営業を行っている事実は、被請求人が請求人の業務に係る商品であるバーキンの著名性を十分に認識したうえでその名声や信用性を不当に利用する意図を明白にうかがわせるものである。
以上のとおり、被請求人は「不正の目的」をもって本件商標を使用するものであって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、請求人の主張に対し何ら答弁していない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)引用商標について
ア 引用商標の形状
請求人の提出に係る甲第1号証ないし甲第3号証によれば、引用商標は、別掲2のとおりの構成からなり、以下のような形態を有するバッグの立体的形状からなるものといえる。
(ア)正面及び背面が底辺のやや長い台形状となっている。
(イ)正面上部にかけて覆われている蓋部があり、該蓋部は略凸状となるように両サイドに切り込みを有し、横方向に略3等分する位置に鍵穴状の縦方向の切込みが二箇所設けられている。
(ウ)本体背面部の上部に端部を縫合された左右一対のベルトが設けられ、該ベルトは本体各側面に形成されたタックの山部を貫通し、本体正面蓋部の上部まで延伸している。
(エ)上記ベルトは、上記蓋部の凸型部分と該ベルトとを本体正面の上部中央にて同時に固定することができる先端にリング状を形成した固定具が設けられている。
(オ)上記鍵穴状の切込みの外側の位置において、上記蓋部の凸型部分と上記ベルトとを同時に固定することができる左右一対の補助固定具が設けられている。
(カ)本体正面上部及び背面上部に、円弧状をなす一対のハンドルが縫合され、正面側のハンドルは上記(イ)の鍵穴状の切込みを通るように設けられている。
イ 引用商標の周知著名性
請求人の提出に係る証拠によれば、引用商標に関し、以下の事実が認められる。
(ア)引用商標の立体的形状を有するバッグは、1892年に販売が開始された「オータクロア」を原型として、フランスの女優ジェーン・バーキンのために1984年に発表、販売が開始され、以後、該女優に因み「バーキン」と称されるようになった(甲5、甲8)。
(イ)バーキンは、その多くが1個100万円を超え、高価なものは400万円を超える高級バッグであり、各種雑誌に多数紹介されている(甲5、甲8ないし甲48)。これらの雑誌等においては、バーキンが請求人の商品であることが明示され、バーキンを正面又は側面から撮影したカラー写真が掲載されているほか、バーキンは「20年間変わらず愛され続けるバッグ“バーキン”」(甲9)、「大人の女性がひとつはもっていたい究極の定番バッグ」、「最上のデザイン×最上の素材」(甲15)、「ベージュの名品」(甲18)、「誰もが憧れる普遍の名作、エルメスの『バーキン』」(甲26)、「誰もが認める名品」、「世界中の女性が憧れるバッグの最高峰」(甲32)、「大人の女性が持つべき名品」(甲34)などと称されている。また、これらの雑誌等の多くは、本件商標の登録出願前に発行されたものである。
(ウ)バーキンの売上個数及び売上高は、1998年に年間3000個、16億7000万円を超え、さらに2006年には10000個、97億2000万円を超え、2007年に12081個、約125億5500万円、2008年に14672個、約162億6600万円、2009年に17883個、約192億900万円と年々増加している(甲52)。
(エ)請求人は、我が国において札幌、仙台、東京、名古屋、熊本、福岡等全国に49の店舗を有している(甲6)。請求人の銀座店オープンの際には、バーキンを初めとする請求人の取扱いに係る商品のみを特集した雑誌が発行された(甲5)。
請求人は、1985年から1996年までの間、バーキンの広告宣伝費として約6200万円を費やした(甲7)が、上記(イ)の雑誌における紹介のほとんどは、その後に他人によってなされたものである。
ウ まとめ
以上によれば、バーキンは、上記(1)ア(ア)ないし(カ)に記載の形状をしており、台形状である点、蓋部を有し、横方向に略3等分する位置に鍵穴状の切り込みがある点、本体正面背部から正面に伸びる一対のベルトを有している点、該ベルトには本体正面中央で固定できる固定具が設けられている点、左右一対の補助固定具が設けられている点等において、他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有しているものといえる。そして、バーキンが、その形状を撮影した写真と共に、雑誌等において多数回にわたり紹介されきたことなどの広告宣伝の状況等に照らすと、バーキンの形状は、本件商標の登録出願前には既に、請求人の業務に係る商品であるバッグを示すものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきである。
してみれば、バーキンの形状からなる引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示する商標として、取引者、需要者の間に広く認識されていたものといわなければならない。
(2)本件商標と引用商標との対比
本件商標は、別掲1のとおり、文字と図形の組合せからなるところ、文字部分と図形部分(バッグ図形)とは色彩を異にしているばかりでなく、両者が常に不可分一体にのみ認識され把握されるべき格別の理由は見いだし難いから、それぞれの部分が独立して商品・役務の出所識別標識としての機能を果たすものというべきである。
そして、本件商標のバッグ図形は、一見して直ちにバッグを表したものとして認識し理解されるものであるばかりでなく、その表現方法を見ると、底辺がやや長く台形である点、円弧状のハンドルがある点、上部を覆う蓋部を有し、横方向に略3等分する位置に切り込みがある点、その上にベルトがあり、該ベルトには中央に固定具を有しその左右に補助固定具を有する点等において、前示バーキンの形状を正面から見た場合の特徴をことごとく捉えたものとなっている。
そうすると、本件商標に接する取引者、需要者は、バッグ図形から周知著名となっている引用商標を連想、想起する場合が少なくないとみるのが自然であり、本件商標は、引用商標と外観上相紛らわしく類似するものというべきである。
(3)不正の目的について
前示のとおり、引用商標は、請求人の業務に係る高級バッグを示す商標として周知著名となっていること、本件商標は、バーキンの形状と酷似した図形を含むものであって、引用商標と類似するものであること、本件商標の指定商品及び指定役務はいずれもバッグに関係するものであること、本件商標の構成中の「Rent a Brand Bag」の文字からは、ブランド品といわれる高級バッグの貸与の意味合いが容易に認識し理解されること、また、甲第49号証によれば、被請求人は、実際にブランド品のバッグの貸与を業として行い、バーキンも取り扱っている事実が認められること、などを総合すると、被請求人は、請求人及び周知著名となっているバーキンの存在を熟知していたものというべきである。
そうすると、被請求人は、バーキンの周知著名性を十分認識した上で、その名声や信用にただ乗りし、バーキンに化体した請求人の信用を利用して利益を得るために、本件商標の登録出願をしたものと優に推認することができるから、被請求人には「不正の目的」があったものというべきである。
(4)小括
以上によれば、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものに該当するものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから、その余の無効事由に論及するまでもなく同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
1 本件商標

(色彩は、原本参照)

2 引用商標

(色彩は、原本参照)

審理終結日 2011-03-09 
結審通知日 2011-03-11 
審決日 2011-03-23 
出願番号 商願2009-2734(T2009-2734) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (X1835373945)
最終処分 成立  
前審関与審査官 津金 純子 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 酒井 福造
末武 久佳
登録日 2009-07-31 
登録番号 商標登録第5252987号(T5252987) 
商標の称呼 セレブールレンタブランドバッグ、セレブール、セレボーグ、ダブリュウダブリュウダブリュウドットセレブールドットジェイピイ、セレブールドットジェイピイ、セレブールジェイピイ 
代理人 鈴岡 正 
代理人 恒田 勇 
代理人 高松 薫 
代理人 泉 潤子 
復代理人 鈴木 康之 

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