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審決分類 |
審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X35 |
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管理番号 | 1225060 |
審判番号 | 取消2009-300042 |
総通号数 | 131 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2010-11-26 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2009-01-09 |
確定日 | 2010-10-15 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5080663号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5080663号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5080663号商標(以下「本件商標」という。)は、「Fuu Tube」の文字を書してなり、平成19年1月25日に登録出願、第35類「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける静止画広告用及び動画広告用スペースの提供,出張風俗サービス事業に関する指導及び助言,出張風俗サービス事業の設立に関する指導及び助言,出張風俗サービス事業の管理,出張風俗サービス事業の経営の診断及び指導,出張風俗サービス事業に関する情報の提供」を指定役務として、平成19年9月28日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第261号証を提出した。 1 請求の理由 (1)引用商標 登録第4999383号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成からなり、平成18年7月28日に登録出願され、第38類、第41類及び第42類に属する別掲(3)に示す役務を指定役務として、平成18年10月27日設定登録されたものである。 (2)本件商標の使用態様 本件商標の使用態様(以下「使用商標」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成態様(甲第3号証及び同第4号証)からなるものである。 (3)請求の根拠 本件商標は上記1に示す構成よりなるところ、被請求人は、第35類「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける静止画広告用及び動画広告用スペースの提供」等や、これと類似する「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウェブサイトにおける動画の提供」(第41類)について、上記(2)に示すとおり、本件商標と類似する標章(商標)を使用している。かかる使用標章は請求人であるグーグル インコーポレイテッドの関連会社「ユーチューブ リミテッド ライアビリティー カンパニー(以下「ユーチューブ社」という。)」の業務に係る周知・著名商標と極めて近似するものとなっている(なお、請求人は、ユーチューブ社を2006年11月に買収、完全子会社化したものであり、現在に至るまで、引用商標並びに関連する役務の提供に関して実質的に管理を行っている。)。 そして、請求人及びその関連会社とは何らの関係もない被請求人が本件使用標章をその指定役務並びにそれに類似する役務について使用するときには、請求人らの業務に係る役務と混同を生ずるものというべきである。また、被請求人が上記行為を故意に行ったことは明らかである。 よって、本件商標は、商標法第51条第1項の規定により、その登録を取り消されるべきである。 (4)具体的理由 ア 本件商標及びその使用態様について 本件商標は、「Fuu Tube」の欧文字を明朝体と思しき書体を用いて横書きしてなり、指定役務を第35類「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける静止画広告用及び動画広告用スペースの提供」等としているものである(甲第1号証)。 しかし、現実には、少なくとも平成19年12月頃から平成20年の1月頃にわたって、被請求人の提供するウェブサイトにおいて、上記(2)に示すように、黒い太い文字(ゴシック体)を用いて表わした「Fuu」の右側に、四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形(四辺形の各辺はなだらかな曲線で書され、全体としてやや丸みがかった態様となっている。)の内部に白抜きした太い文字(ゴシック体)「Tube」を表わした構成からなる商標を使用している(甲第3号証及び同第4号証)。 かかる使用標章は、本件商標と対比した場合、「Fuu」と「Tube」の文字を有している点において共通しているものの、外観構成において請求人の引用する商標に近似する方向で修正されており、同修正は、商標の使用上普通に行われる程度の変更の範囲を大きく逸脱するものである。よって、本件商標との同一性はなく、「類似」範囲の使用というべきものである。 なお、被請求人は、使用商標を第35類の「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける静止画広告用及び動画広告用スペースの提供」のみならず、これと類似する「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウェブサイトにおける動画の提供」なる役務(第41類)に使用している(甲第3号証及び同第4号証)。 イ 使用商標と引用商標の混同の有無について 商標法第51条第1項における混同の有無に関しては、需要者保護を目的とする商標法の趣旨に鑑みて、現実に混同が生じている場合のみならず、混同を生ずるおそれがある場合を含むと解される(最判昭60年2月15日昭和59年(行ツ)第8号)。ここで、「混同を生ずるおそれ」の有無は、(i)当該商標と他人の表示との類似性の程度、(ii)他人の表示の周知著名性及び(iii)独創性の程度や、(iv)当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者・需要者の共通性(v)その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者・需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものであるとされる(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。 そこで、以下のとおり詳述する。 (ア)使用商標と引用商標の形態の近似性(類似性)について 使用商標は、前記したとおり、黒い太い文字(ゴシック体)を用いて表わした「Fuu」の右側に、四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形(四辺形の各辺はなだらかな曲線で書され、全体としてやや丸みがかった態様となっている)の内部に白抜きした太い文字(ゴシック体)「Tube」を表わした構成からなる(甲第3号証及び甲第4号証)。 これに対して、引用商標は、黒い太い文字(ゴシック体)を用いて表わした「You」の右側に、四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形(四辺形の各辺はなだらかな曲線で書され、全体としてやや丸みがかった態様となっている)の内部に白抜きした太い文字(ゴシック体)「Tube」を表わした構成からなる(甲第2号証及び同第5号証)。 使用商標と引用商標は、その外観構成において、「Fuu」と「You」の文字の差があるとしても、いずれも同じ書体(太いゴシック体)を用いており、且つ、各文字の右側には四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形(四辺形の各辺はなだらかな曲線で書され、全体としてやや丸みがかった態様となっている)の内部に白抜きした太い文字(ゴシック体)「Tube」を表わした構成からなる点において同じである。 特に、右側の赤色の図形(「Tube」の文字を含む。)部分は、色(配色)・輪郭の縦横比・白抜き文字の態様(書体・太さ)などが殆ど同じであって実質的に同一の外観構成を有しているのであり、且つ、これら図形部分が各商標において最も看者の注意を惹く部分となっているため、両者の形態(外観)は極めて近似したものとなっており、彼此紛らわしい。 もともと、本件商標と引用商標にあっては、まず称呼に関していえば、両者の音構成の差異が与える影響が小さく、寧ろ全体として近似した語調・語感を有している関係で称呼上類似したものとなっており、また観念に関していえば、両者はいわゆる造語であるが、共に「テレビ、ブラウン管」の意を有する「TUBE」の文字を含む関係で(甲第9号証及び同第10号証)、「何か、テレビ(映像)に関するもの」であるかの如き連想を生じさせる意味において観念上も類似するといえるものである。使用商標にあっては、外観上も極めて近似した態様を有するべく修正がなされており、類似性は非常に高いものとなっている。 (イ)引用商標の周知・著名性について 引用商標は、請求人の関連会社が日本及び世界において、動画共有サイトの運営等の役務について使用している著名商標である(甲第11号証ないし同第260号証)。 ユーチューブ社は、インターネット上における動画配信サービスの先駆者として知られ、また、同社の提供する動画配信サイト「YouTube」は極めて短期間のうちに世界中で広く知られるようになったものであり、これに伴い、引用商標も周知・著名なものとなった。 ユーチュープ社は、2005年2月にカリフォルニア州サンマテオで設立された。創業当時は3名の若者によって運営される極めて小規模なベンチャー企業であった。これら3人の若者が自作のパーティビデオなどの動画を友人らに配り、また、お互いにこれらを交換することを簡単に行うため、インターネット上で各種作業を簡単に行うための方法を開発し、そのためのウェブサイトを開設したことが創業の契機となった。かかるウェブサイトは「YouTube」と名付けられ(以下「ユーチューブ」という。)、またたく間に日本を含む世界のネットユーザーに急速に浸透し、引用商標は極めて短期間に日本を含む世界中で周知・著名な商標として認識されるに至った。 ユーチューブにおいては、会員登録をしたユーザーは、容量100MB以内・再生時間10分以内の動画ファイルを、インターネット上にアップロードすることにより投稿し、公開することができる。また、ユーチューブで公開された動画ファイルの検索・閲覧は会員登録の有無に拘わらず誰でも無料で閲覧することができる。会員登録したユーザーはさらに閲覧した動画に対するコメントを投稿したり、動画を5段階で評価したりすることもできる。ユーチューブが登場以前からも動画配信サイト自体は存在していたが、一般的なインターネット個人ユーザーが動画をウェブ上で公開するための手段として使い勝手の良い動画配信サイトは、ユーチューブが初めてのものである。ユーチューブが開設されたことにより、個人が容易にビデオクリップ等の動画をウェブ上にアップロード、検索・閲覧、インターネット・個人専用のビデオネットワーク又は電子メールを経由して他人と動画を共有することが極めて容易にできることとなった。 ユーチューブは、サービスを開始した当初は英語のみで運営していたが、動画のアップロード・閲覧が簡単にできるという高い利便性・娯楽性から世界中で人気が爆発し、サービスを開始後間もなく(2006年春)、世界中から一日当たり6万5千件もの動画のアップロードがなされ、1億件を超える動画の配信が行われるようになった。その中には日本からの投稿者・視聴者も非常に多く、さらにその数も急増することとなった(サービスを開始直後の2006年3月時点において、米国内からのアクセスが1ヶ月あたり800万、日本国内からのアクセスも1ヶ月あたり200万を数えた)。さらに、請求人グーグル社が2006年11月にユーチューブ社を買収したことが大々的に報道されたことの話題性も相俟って、2007年6月には日本語版のユーチューブのサイトが完成し、より多くの日本のユーザーが容易にアクセスできるようになり、ユーチューブは我が国において急激に広まることとなった。 また、ユーチューブを利用することによってインターネット上で手軽に動画を公開・配信することが可能になることに着目し、ユーチューブを広告・宣伝の媒体として利用する者も現れた。例えば、映画・放送番組などの制作に関わるコンテンツ業界は、早くからユーチューブの広告・宣伝的な利用法に着目した。そこで、ユーチューブ社は、米国の映画制作会社と提携し、映画の予告編がユーチューブで配信されるようになった。また、米国のテレビ会社であるCBSや、英国のBBCとも提携関係を結んだことも話題を呼んだ。もちろん、ユーチューブの有する手軽に動画を公開・配信することができるという特色は、他方で著作権を侵害する蓋然性の高いコンテンツの無断配信をも可能にしてしまうという側面もあり、このことが取り沙汰されることもある。ところが、著作権・著作権隣接権の所有者の中には、ユーチューブの有する広告・宣伝機能を利用した活用の可能性を見出し、無断配信を制止することに躍起になるよりは、寧ろこれを逆手にとって、ユーチューブにおける動画配信による高い広告・宣伝効果を狙ってこれを黙認するような動きもみられるようになった(甲第53号証及び同第54号証)。 さらに、ユーチューブ並びにその広告・宣伝的な機能は、文化・経済・政治などの各方面からも注目されることとなった。例えば、米国においては、ユーチューブはサイト上に「You Choose‘08」を設け、これを2008年アメリカ合衆国大統領選挙の為に候補者と有権者が直接映像で意見交換をするスペースとして提供したことは話題を集め、ユーチューブの広告宣伝機能は、これを利用する者にとっては現実に政治に対する影響力を有することとなった(甲第260号証)。日本においても、2007年12月には自由民主党・社会民主党・日本共産党が相次いで公式チャンネルを開設し、政策発信や党の活動状況の情報配信を行い、若い有権者へのアピールを行う場としたことは記憶に新しい(甲第258号証)。他方、民間企業においても、ユーチューブの広告・宣伝的活用法が着目され、多くの日本企業との提携による、単なる動画配信にとどまらない新たな活用法やビジネスモデルが模索されるまでになった。 ユーチューブを運営するユーチューブ社は、動画配信サービスを通じたネット先進企業として内外からの注目を浴び、その話題は新聞・雑誌・TVなどで数多く取り上げられてきた(甲第11号証ないし同第260号証)。また、インターネットにおいても数多く紹介され、インターネット上の主要な検索エンジンにおいても、実に多くのヒット数を誇る(甲第6号証ないし同第8号証)、さらに、「You Tube」の語は2007年のYahoo!の検索ワードランキングで第2位となった程である(甲第260号証)。 以上により、ユーチューブ社及びユーチューブの先駆的かつ革新的な活動内容(サービス)、さらに高い話題性も相俟って、今日においては、引用商標が、同社の提供する動画配信サービスに使用される商標として、日本および世界において周知・著名となっているものである。そして、引用商標は、遅くとも本件商標の出願時には、米国及び日本を含めた世界各国においてユーチューブ社の提供するサービスを表示するものとして著名になっていたものであり、本件商標の査定時、使用商標の使用時(少なくとも平成19年12月頃?平成20年1月頃)においても継続してその著名性を維持していた。 (ウ)引用商標の独創性 引用商標は黒い太い文字(ゴシック体)を用いて表わした「You」の右側に、四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形(四辺形の各辺はなだらかな曲線で書され、全体としてやや丸みがかった態様となっている)の内部に白抜きした太い文字(ゴシック体)「Tube」を表わした請求人関連会社の創作に係る特異な構成からなる。 「Tube」の語は、アメリカにおいてテレビを意味する俗語として知られている。しかし、このような(テレビ)放送に関係する言葉を、敢えてインターネット(通信)におけるウェブサイトの名称(商標)に使用したことは他に例がなく、非常に独創的なものである(赤色の横長四辺形は、テレビやPCのモニターの表示画面部分の輪郭をモチーフにしたものである。)。 なお、我が国においては、「Tube」の語は「テレビ、ブラウン管」の意を有する「TUBE」としてのみならず、「流体を通す筒・管」等の意味合いを有する外来語「チューブ」としても知られており(甲9、10)、必ずしもアメリカ国内と同様の事情があるとはいえないが、仮にそうだとしても、「Tube」自体の自他役務識別標識としての機能が失われるわけではなく、寧ろ「You Tube」はその提供されるサービスの内容自体が画期的で独創的で、広く周知されていたことも相俟って、「You Tube」の文字全体のみならず、赤色の横長四辺形内に白抜きで顕著に書された「Tube」の文字は特に看者の脳裡に深く刻み込まれて、需要者等をして、強く印象付けられているというべきである。よって、引用商標は高い独創性を有するとみるのが相当である。 このことは、インターネットを介した「動画の提供」(広告用動画を含む)や「広告スペースの提供」等の役務に使用される商標として、「○○Tube」の如く「Tube」の文字を含む商標が、引用商標が採択される以前は、他人により登録されている事例がないにもかかわらず、You Tubeの登場以降、第41類の「動画の提供」に係る役務に使用される商標として「Tube」の文字を含む商標が急増した事情からもうかがえる(甲第261号証)。 (エ)役務の関連性及び需要者の共通性について 使用商標が使用されている役務は、「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウェブサイトにおける静止画広告用及び動画広告用スペースの提供、風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける動画の提供」である。なお、本件商標の指定役務中に「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウェブサイトにおける動画の提供」は含まれていない。 これに対して、引用商標が使用される役務は、「インターネット等により電子情報をアップロード・投稿・・・共有その他の方法で提供する放送、(電気通信回線を通じたビデオデータの伝送交換などを含む)電気通信」、「インターネット等を利用した(動画の提供を含む)娯楽の提供」や「(動画の共有のために用いられるものを含む)電子計算機用プログラムの提供」等の各種役務である。 まず、使用商標と引用商標は、いずれも「インターネットを通じた動画を提供」について使用されている点で同じであり、この意味において、関連性は非常に高いといえる。 次に、使用商標が使用されている(本件商標に係る指定役務)「風俗サービスに関するインターネット上における動画広告用のスペースの提供」は、特許庁の類似商品役務審査基準によれば、当該指定役務と引用商標「インターネット等を利用した(動画の提供を含む)娯楽の提供」等とは、非類似との取り扱いがなされている。 しかし、両役務は、動画が広告用のものかそれ以外のものかの違いはあるとしても、いずれも「インターネットを介した動画等電子データの提供行為(ストリーミング形式)」を通じて行われる点で同じである(一般の消費者をして、インターネットを通じて提供される動画が、広告用のものかそうでないものかを常に適切に判断できるとは考えられない)。また、「主たる需要者」についても、両商標ともに「一般的なインターネットユーザー」を対象としている点で共通する。 さらには、取引の実情として、動画の配信・共有のためのウェブサイトであるユーチューブが、商品・役務等の広告・宣伝の媒体として利用される可能性が見出され、現実にもそのように利用されている例がみられる事実や、また、インターネットのいわゆるポータルサイトのようなものが、そのサイト上に広告スペースを提供することで収入を得ていることが多いことも、現実の取引においては「広告スペースの提供」と「動画の配信」の間には現実の取引において、明確な垣根のようなものがないという事情がある。してみると、両商標に係る各役務の間には少なからぬ関連性がある。 (オ)その他 両者の主たる需要者が一般的なインターネットユーザーであって、一般的な消費者が想定されるところ、その注意力・理解力は必ずしも高いとはいえないのであって、上記のような取引の実情に鑑みれば、インターネット上のウェブサイトにアクセスして、動画を閲覧する場合、これが広告用の動画であるのか、そうでないかの区別を即座に行うことは、現実には極めて困難であるといわざるを得ず、混同を生じる蓋然性は極めて高い。 (カ)まとめ 以上の事情を総合勘案すれば、請求人の関連会社の提供する役務を表示するものとして著名な「YouTube」の文字と類似する本件商標が、その指定役務に使用された場合、取引者・需要者をして、その役務が請求人の関連会社であるユーチューブ社の提供にかかわるものであるかのごとく、あるいは、同人と何等かの経済的・組織的関連がある者に提供に係る役務であるかの如く認識され、出所混同を生ぜしめる蓋然性が極めて高いといわざるを得ない。 ウ 商標権者(被請求人)の故意について 商標法第51条のいう「故意」の内容は、当該使用標章の使用の結果、他人の業務に係る役務と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り、必ずしも他人の登録商標(周知商標)に近似させたいとの意図をもってこれを使用していたことまでを必要としないと解する。 ここで、使用商標と引用商標は、いずれも同じ書体(太いゴシック体)を用いており、且つ、各文字の右側には四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形(四辺形の各辺はなだらかな曲線で書され、全体としてやや丸みがかった態様となっている)の内部に白抜きした太い文字(ゴシック体)「Tube」を表わした構成からなる点において同じである。当該赤色平行四辺形の図形と「TUBE」の白抜き文字の組み合わせは、請求人関連会社の創作に係る特異な構成よりなるといえるものであり、これが偶然に採択されたとは到底思えない。 この点、使用商標は、引用商標と同じ「インターネットを通じた動画を提供(を含む娯楽の提供)」について使用されている点で共通しているし、引用商標は、本件商標の出願時においては、すでに「インターネット・携帯電話による通信を用いて行う動画の提供」等を行う業界の取引界において広く知られていたものであり、インターネットのみならず、新聞・雑誌・テレビにおいて「ユーチューブ」が数多く取り上げられていたことからすれば、被請求人は、本件商標の採択や使用標章の使用開始当初より、請求人の関連会社の提供するサービスや著名な引用商標を知悉していたというべきである。 さらに、甲第3号証及び同第4号証によれば、被請求人の管理運営するウェブサイトにおいて使用商標の下方に「YouTube ja naiyo(ユーチューブじゃないよ)」などと表示していることから、使用商標の使用の結果、請求人並びにその関連会社の業務に係る役務と混同を生じさせることの認識があったと推認される。 以上より、被請求人には故意があったとみるのが相当である。 2 弁駁の理由 被請求人の主張に対する反論を以下に述べる。なお、前提として、被請求人は、本件商標を甲第3号証及び同第4号証に示された態様で使用した事実について、答弁書において使用の事実を認めている。 (1)不正使用の期間が短期間であるとの主張について 商標法第51条の適用に関しては、使用した期間に拘わらず、商標権者による類似範囲において他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある使用を行った場合に適用される。尤も、本条が上記のような使用を行った商標権者に対する制裁規定であることに鑑みれば、使用した期間の長短が問題となる筈もない。 しかも、被請求人は、平成19年12月頃から平成20年1月頃のみ使用を行ったと述べ、恰も使用した期間がその期間だけであるか如くに主張する。しかし、これはただ単に請求人が「少なくとも平成19年12月頃から平成20年1月頃」と請求書に記載したことを受けただけのことであり、何ら事実を正確に示すものではないと考えられる。実際には、平成19年12月以前から使用していた可能性を否定できないのであり、被請求人の主張には疑念を抱かざるを得ない。 (2)不正使用の「故意」がないとの主張について 請求人関連会社のウェブサイト「YouTube」、並びに「YouTube」の文字からなる商標、並びに、太い黒字で表わした「You」と「Tube」の文字を四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形の内部に白抜きで太い文字で表わした態様からなる引用商標が、被請求人の本件商標の登録出願時以前から我が国において広く知られていたことに鑑みれば、被請求人がウェブサイト「YouTube」や著名な引用商標「YouTube」について知悉していたことは明白である。このことは、被請求人が管理運営するウェブサイトにおいて使用商標の下側にわざわざ「YouTube ja naiyo」と表示していたところからも理解できる。 そして、上記「YouTube ja naiyo」の表示を行っていることにより、被請求人が、使用商標を自社の運営するウェブサイトで使用することによって請求人関連会社の運営するウェブサイト「YouTube」(又は著名な引用商標「YouTube」)との関係で出所の混同が生ずるおそれについての認識があったことは紛れの無い事実である。 さらに、被請求人は、答弁書において「どうせなら目立つ形態で商標を使用しよう」という意思を以って、本件商標を甲第3号証及び同第4号証に示したような使用商標の態様での使用を行っている。このことから、被請求人は上記著名商標に近似させることにより、著名商標の名声にあやかり(不正競争の目的)需要者等の目を惹く「目立つ形態」にしたいという明確な意図をも有していたということができる。 してみると、被請求人は、被請求人関連会社のウェブサイトや著名な引用商標の存在を知悉し、需要者等をして混同を生じるおそれを認識しながら、それら著名商標に近似させたいとの明確な意思を以って、その著名商標「YouTube」の印象を色濃く残す商標「FuuTube」をわざわざ採択して、さらにその著名商標「YouTube」の特徴的部分である「Tubeの文字を四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形の内部に白抜きで太い文字で表わした態様をそっくり取り込んだ使用商標の使用を行っていたということができる。被請求人が不正使用行為を「故意」に行ったといわなければならない。 なお、被請求人は、請求人の通告に驚いて上記不正使用を中止したことをもって恰も「過失」であったかの如き主張をしているが、上記のとおり、使用開始当初から「故意」に不正使用を行っていたことは明らかである。 また、被請求人は、上記「You Tube ja naiyo」の表示が、「著名商標『You Tube』とは異なる商標である点を利用者に印象づける工夫」としているが、「○○○ ja naiyo」という表示が、取引界における経験則上、混同防止表示として一般に用いられ、且つ取引者、需要者をして、そのように理解、認識されるとは考えられない。被請求人は結局のところ、上記表示のような模倣・混同のおそれがある事実を恰も自ら暴露するかの如き表示を用いて、逆に注目を集めようとしているものである。被請求人は需要者等に混同を生じさせ、結果として著名商標にフリーライドする目的で当該使用標章を採択したとの印象は拭えない。 (3)混同が生じないとの主張について 被請求人は、「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける動画の提供」なる役務は行っておらず、専ら広告主からもちこまれた宣伝広告用の動画や静止画を、管理者(広告代理店)として有料にてインターネットウェブサイトの広告用スペースに掲載させるためのサービスを行っているだけである旨主張している。 しかし、請求人において調査したところによれば、被請求人のウェブサイトにおいては、いわゆるCM映像、画像と理解されるものにとどまらず、風俗店の体験レポートなどのビデオ映像をストリーミング形式でインターネットを通じて配信するサービスを行っている。これらの映像はいわゆるテレビコマーシャルやチラシに代表されるような一般的なCM映像、画像とはおよそかけ離れたものである。 すなわち、被請求人は、自ら管理、運営するウェブサイトにおいて「(風俗サービス及び出張風俗サービスに関する)インターネットウェブサイトにおける動画の提供」を行っており、このような役務は第41類に属し、引用商標に係る指定役務と類似する。 他方、仮に百歩譲って、被請求人が第35類に属するべき広告用動画の提供のみを行っていたと考えられる場合があるとしても、第41類に属する「インターネットウェブサイトにおける動画の提供」とは、インターネットを通じて動画を提供する役務である点においては全く同じであって、これに接する取引者、需要者をして直ちに「第35類の広告用動画の提供」と「第41類の動画の提供」を区別することは容易ではない。 そうとすると、引用商標の著名性に鑑みれば、使用商標が引用商標と酷似する態様で使用された場合、これに接する取引者・需要者をして、その役務が請求人の関連会社であるユーチューブ社の提供にかかわるものであるかの如く、あるいは、同人と何等かの経済的・組織的関連がある者の提供に係る役務であるかの如く認識され、出所混同を生ぜしめる蓋然性が極めて高いといわざるを得ない。 (4)その他 ア 被請求人が提出する変更後の本件商標の使用例(乙第1号証)は、本件取消審判の請求原因事実とは直接関係しない。 他方、当該使用例にみられるような類似範囲における使用を様々な態様において節度なく繰り返す被請求人が、将来、使用商標の態様での使用を再開するおそれは依然としてある。 イ 被請求人は、先の異議事件において、本件商標と引用商標が非類似と判断されたことを出所の混同のおそれがないことの根拠とする。 しかし、本件取消審判においては特に使用商標の態様での使用の事実を問題としているから、被請求人の主張は失当である。 ウ 被請求人は、使用商標を採択・使用したことについて、「法律の不知」を理由として、法の適用を除外すべきとの主張を行っている。 しかし、法治国家である我が国において、法の不知によって法律の適用を免れることができるとすれば、著しく公平を欠き、不合理である。しかも、被請求人は法のもとで一定の範囲での事業の遂行を認められた法人であるところ、一方では「法律を不知」と言いつつ、他方では本件商標について弁理士を通じて登録出願等の手続を行い、商標法による保護を求めているのである。被請求人による前記主張は、誠に独善的で身勝手なものといわざるを得ない。 第3 被請求人の主張 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証を提出した。 1 請求人の請求理由について 請求人は、下記(1)ないし(4)の4項目の態様を説明している。 (1)本件商標は「Fuu Tube」の欧文字を明朝体と思しき書体を用いて横書きしてなり、指定役務を第35類「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける静止画広告用及び動画広告用スペースの提供」としているものである(甲第1号証)。 (2)しかし、現実には、少なくとも平成19年12月頃から平成20年の1月頃にわたって、被請求人の提供するウェブサイトにおいて、別掲に示すように、黒い太い文字(ゴシック体)を用いて表した「Fuu」の右側に、四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形(四辺形の各辺はなだらかな曲線で書され、全体としてやや丸みがかった態様となっている)の内部に自抜きした太い文字(ゴシック体)「Tube」を表した構成からなる商標を使用している(甲第3号証及び同第4号証)。 (3)かかる使用標章は、本件商標と対比した場合、「Fuu」と「Tube」の文字を有している点において共通しているものの、外観構成において請求人の引用する商標に近似する方向で修正されており、同修正は、商標の使用上普通に行われる程度の変更の範囲を大きく逸脱するものである。よって、本件商標との同一性はなく、「類似」範囲の使用というべきものである。 (4)なお、被請求人は、使用商標を第35類の「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける静止画広告用及び動画広告用スペースの提供」のみならず、これと類似する「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウェブサイトにおける動画の提供」なる役務(第41類)に使用している(甲第3号証及び同第4号証)。 2 被請求人の意見 (1)上記(1)ないし(4)の態様中、(1)ないし(3)に記載の各態様(事実)に付いてはこれを一部認めるが、上記(4)の態様について、後述する(6)及び(7)の理由によってこれを全部否認する。 (2)すなわち、上記甲第3号証及び同第4号証に示された本件商標の使用形態は、上記(2)にも記載の如く、平成19年12月頃から平成20年1月頃までのほんの短い時期であり、それも、請求人からの平成20年1月30日付「通知書」による通告に驚いてその過失を認め、即刻その使用を中止して現在に至っている。 (3)また、甲第3号証及び同第4号証に示された本件商標の使用形態は、被請求人の不勉強と経験不足による間違った判断、すなわち、「折角権利になったのだから、どうせなら目立つ形態で商標を使用しよう」という素人判断に起因するもので、決して故意や悪意にて甲第3号証及び同第4号証の如き形態の商標を使用した訳ではない。 なお、本件商標は、被請求人が初めて獲得した唯一の商標権である。 (4)また、その使用が故意や悪意ではないことを証明する証拠として、甲第3号証及び甲第4号証に見られるように、被請求人の管理運営するウェブサイトにおいて使用商標「Fuu Tube」の下側に、わざわざ「You Tube ja naiyo(ユーチューブじゃないよ)」と表示して、著名商標である「You Tube」とは異なる商標である点を利用者に印象付ける工夫と努力が払われている点が存在する。 したがって、被請求人による商標の使用には「故意」があるとする証拠として、「使用商標の使用の結果、請求人並びにその関連会社の業務に係る役務と混同を生じさせることの認識があったと推認される。」とする請求人の主張には、全く根拠が無く、妥当性を欠くものと解する。 すなわち、被請求人が請求人並びにその関連会社の業務に係る役務と混同を生じさせようと認識した場合には、わざわざ(ユーチューブじゃないよ)と、その認識を暴露するような表示を使用商標に付記するわけがないのが、一般的であるからである。 (5)なお、乙第1号証の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)は、前記請求人からの「通知書」を授受した後に、被請求人によってデザインされて作成され、また、現在も使用している本件商標の使用形態を示したものであって、引用商標とは、商標の外観と使用の形態が全く相違することは明白である。 (6)また、請求人は、前述の(4)において、被請求人が本件商標を第41類の指定役務「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウェブサイトにおける動画の提供」なる役務に使用している旨の主張を行っているが、これは請求人による独善的な判断によるものであって、事実を誤認している。 (7)すなわち、被請求人は未だかって自らが風俗サービス等の宣伝広告用の動画や静止画を作成して、これをインターネットウェブサイトにおける広告用スペースに提供して配信した事実は全く無い。被請求人は専ら利用客(広告主)から持ち込まれた風俗サービス等に関する宣伝広告用の動画や静止画を、管理者(広告代理店)として有料にてインターネットウェブサイトの広告用スペースに掲載させるためのサービスを行っているだけであるから、商標の使用形態は第35類に属していて、第41類に属していないことは明白である。 (8)以上述べた次第で、本件商標と請求人が提示した甲第2号証の登録商標とは、商標自体が非類似である(平成20年9月18日付異議の決定参照)だけではなく、指定役務の点でも非類似の商標であって、両商標が商取引の現場で彼此相紛れて誤認・混同を引き起こす心配が無いことは極めて明白である。 3 まとめ したがって、本件商標が取り消される理由は、唯一、本件商標を甲第3号証及び甲第4号証に示された形態で使用した点に絞られるが、前述の如くかかる形態での本件商標の使用期間は約1ヶ月弱と極めて短期間であり、また、その使用の原因も法律の不知と経験不足による過失に基づくものであって、請求人からの通告を受けると直ちにその使用を停止して、そのデザイン(形態)を全く異なる形態(乙第1号証)に変更した点を考え合わせると、被請求人が上記行為を「故意」に実行したとは到底考えられえない。 更に、甲第3号証及び甲第4号証に示された商標(標章)の使用形態が原因で、「風俗サービス及び出張風俗サービスに関する静止画広告及び動画広告」が、世界的に著名な企業である請求人によって配信されたと誤認された事実は一度も無く、また、その誤認発生の可能性も絶無であって、かかる被請求人による間違った登録商標の使用によって、一般公衆を害した事実も存在しなかった点を考え合わせると、本件商標が商標法第51条第1項の規定に該当しないことは明白である。 第4 当審の判断 1 本件商標と使用商標について (1)使用商標 甲第3号証及び同第4号証によれば、別掲(2)に示す標章が、被請求人のインターネットウェブサイト上において表示されており、かかる表示は、少なくとも、平成19年12月頃から平成20年1月頃に行われたということができる。 ちなみに、使用商標の使用の時期が「平成19年12月頃から平成20年1月頃」であるとの請求人の主張に対して、被請求人も「平成19年12月頃から平成20年1月頃までのほんの短い時期であり、それも、請求人からの平成20年1月30日付『通知書』による通告に驚いてその過失を認め、即刻その使用を中止して現在に至っている。」と述べている。したがって、前記の同時期に使用商標が使用された点については、被請求人も明らかに争っておらず、本件の当事者間に争いはない。 (2)本件商標と使用商標 本件商標は、「Fuu Tube」の文字を書してなるものであるところ、その構成文字から「フーチューブ」の称呼を生じ、特定の観念を表すことのない造語からなるものと認められる。一方、甲第3号証及び同第4号証によれば、被請求人は、自己の管理するインターネットウェブサイトに、本件使用商標を表示していることが認められる。 そして、本件商標が平易な書体で「Fuu Tube」を横書きしてなるのに対して、使用商標は、黒い太い文字(ゴシック体)を用いて表わした「Fuu」の右側に、四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形の内部に白抜きした太い文字(ゴシック体)で「Tube」の文字を表わした構成からなるものである。 しかして、使用商標は、本件商標と構成欧文字を共通にし、これより生ずる「フーチューブ」の称呼が本件商標のそれと共通のものであるが、その外観構成を異にするものであるから、使用商標は、本件商標に類似する商標というべきである。そして、被請求人は、答弁書中で、本件商標が同人にとって唯一の登録商標であると述べている。 してみれば、使用商標は、本件商標と同一でなく、本件商標に変更を加え、本件商標と類似する商標にあたる態様で使用をしたものと認められる。 2 引用商標及びその周知性等について (1)引用商標は、別掲(1)に示すとおり、黒い太い文字(ゴシック体)を用いて表わした「You」の右側に、四隅に丸みをもたせた赤色の横長四辺形の内部に白抜きした太い文字(ゴシック体)「Tube」を表わした構成からなるものであるところ、これとほぼ同一の構成態様で、請求人の関連子会社ユーチューブ社の役務について、現に使用をされているものである(甲第5号証)。 (2)請求人提出の証拠(甲第11号証ないし同第260号証)によれば、以下の事実が認められる(なお、上記証拠にあって、甲第118号証までが本件商標の出願前(平成19年1月25日前)の事実にかかり、甲第第197号証までがその登録査定時(平成19年8月15日)までの事実に関するものである。)。 ユーチューブ社は、2005年2月にカリフォルニア州サンマテオで設立され法人であり、2006年11月に請求人の関連子会社となったものであって、日本及び世界において、動画共有サイトの運営等の役務を提供している。 ユーチューブ社は、インターネット上における動画配信サービスの先駆者として知られ、また、同社の提供する動画配信サイト「You Tube」は極めて短期間のうちに世界中で広く知られるようになった。 すなわち、「You Tube」(ユーチューブ)において、会員登録をしたユーザーは、動画ファイルをインターネット上にアップロードすることにより投稿し、公開することができ、また、公開された動画ファイルの検索・閲覧は会員登録の有無に拘わらず、誰でも無料で閲覧することができる。サービスを開始した当初は、英語のみで運営していたが、動画のアップロード・閲覧が簡単にできるという高い利便性・娯楽性から、日本を含む世界のネットユーザーに急速に浸透し、2006年春のサービス開始後間もなく、世界中から一日当たり6万5千件もの動画のアップロードがなされ、1億件を超える動画の配信が行われるようになった。その中には、日本からの投稿者・視聴者も非常に多く、さらにその数も急増することとなった(甲第11号証ないし同第118号証)。 また、インターネット上で手軽に動画を公開・配信することが可能になることに着目し、広告・宣伝の媒体として利用する者も現れた。ユーチューブの広告・宣伝的な機能は、文化・経済・政治などの各方面からも注目され、例えば、米国においては、2008年アメリカ合衆国大統領選挙のために候補者と有権者が直接映像で意見交換をするスペースとして提供したことが話題を集めた(甲第260号証)。日本においても、2007年12月には自由民主党・社会民主党・日本共産党が相次いで公式チャンネルを開設し、政策発信や党の活動状況の情報配信を行い(甲第258号証)、民間企業においても、その広告・宣伝的活用法が着目され、単なる動画配信にとどまらない新たな活用法やビジネスモデルが模索されるまでになった。 「You Tube」を運営するユーチューブ社は、動画配信サービスを通じたネット先進企業として内外からの注目を浴び、2006年6月19日発行の日経ビジネスをはじめ、新聞・雑誌・TVなどで数多く取り上げられた(甲第13号証ないし同第259号証)。「You Tube」の語は、2007年のYahoo!の検索ワードランキングで第2位となった(甲第260号証)。 (3)以上よりみれば、前記「You Tube」のサイト上において継続して使用をされたと認められる引用商標は、「ユーチューブ」の称呼とともに、請求人の関係子会社の業務に係る役務を表示するものとして、本件商標の登録時はもとより出願時において、その需要者間に広く認識され、また、一般にも広く知られるに至っていたと認められ、それは、前記使用商標の使用の時期を含めて、現在に至るまで継続していると優に推認される。 3 混同の惹起行為 (1)使用商標と引用商標との類似性の程度 引用商標は、前記のとおり、別掲(1)に示す構成態様をもって、請求人の関連子会社の役務を表示する商標として使用されており、当該商標は、前記2のとおり、請求人の関係子会社の業務に係る役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されるに至っていると認められるものである。 そこで、使用商標と引用商標を対比すると、使用商標は、前記の1(1)に述べたとおりの構成態様のものであり、引用商標は、前記2に述べたとおりの構成態様のものである。 しかして、両者の外観構成を比較してみると、いずれも、黒い欧文字の右に、四隅全ての角に丸みをもたせ、辺部もやや丸みのある赤色の横長四角形を配した構成のものであり、その赤い四角形内に、ともにゴチック体で「Tube」の文字を白抜きに表している。また、左側の欧文字も、「You」と「Fuu」の相違はあるけれども、ともに語頭における大文字1字とこれに続く小文字2文字の3文字を黒くゴチック体で表したものである。両者は、その黒く表した欧文字と赤色の横長四角形の配置、大文字と小文字の大きさの比を共通にし、その組み合わせにおいて、全体として構成の軌を一にしたものであるから、両者の外観全体から受ける印象は、極めて酷似しており相紛らわしいものである。また、使用商標から生ずる称呼「フーチューブ」と引用商標から生ずる「ユーチューブ」の称呼も、前半において「フ」(fu)と「ユ」(yu)との音に差異があるが、後半の「チューブ」を共通にするから、全体としての音感は比較的近似したものということができ、さらに、両者は、観念での比較ができないから、観念の違いをもって明確に区別し得るものではない。 したがって、使用商標と引用商標とは、その外観から受ける全体の印象が極めて酷似する標章として看取されるというのが相当であり、両者の類似性の程度は極めて高いものである。 (2)使用される役務間の関連性及び需要者等 使用商標は、「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける静止画広告用及び動画広告用スペースの提供」の役務について使用されているものと認められる。これに対して、引用商標の使用に係る役務は「インターネットによる動画の配信(娯楽の提供)」である。 しかして、両役務は、それぞれ第35類「広告」と第41類「娯楽の提供」の範疇に属する役務という相違からみれば、必ずしも「類似する役務」と推認することはできない。 ところで、甲第6号証ないし甲第8号証に示すとおり、ユーチューブを閲覧する際には、Yahoo検索、google検索等を利用して、「ユーチューブ」「YouTube」等のキーワード検索から得られた検索結果一覧によりリンクされたユーチューブウェブサイトで動画が閲覧できる仕組みになっている。 そうとすれば、閲覧者は、役務内容が第35類「広告」か第41類「娯楽の提供」の範疇に属する役務であるか意識することなく、検索し、閲覧することができる。 そして、甲第3号証ないし同第5号証に示されたホームページ上に表示された商標の使用の実際に徴してみれば、当該両役務の提供に関して、商標が表示された役務の提供場所であるインターネットのサイト上では、「動画の配信」がともに常時行われ、かつ、誰でもがアクセスできる環境が提供されている。 してみれば、一般の閲覧者(需要者)にとって、そこで配信される動画が、広告に関わるものであるのか、投稿によるものであるのか等を精緻に認識し区別することなく、興味や関心のある情報を入手することができるから、実際の役務の提供の場においては、「風俗サービス及び出張風俗サービスに関するインターネットウエブサイトにおける静止画広告用及び動画広告用スペースの提供」と「インターネットによる動画の配信(娯楽の提供)」を区別することは困難なことといわざるを得ないものである。 しかして、使用商標を表示して行われる被請求人の役務と引用商標が使用される役務とは、共通性が強く連性が高いものとして看取される場合が決して少なくないというのが相当である。 そして、両役務は、ともにインターネットを介在して提供されるものであり、これに接する閲覧者(需要者)が共通であるといえる。 (3)小活 以上に述べた、引用商標の周知性の高さ、引用商標と使用商標との類似性の程度、使用されている役務の関連性の程度、需要者の共通性等を総合してみると、インターネット上で使用商標に接する需要者は、引用商標を連想し、想起して、当該役務が引用商標に係る事業者の業務に係る役務であるかの如く、あるいは同事業者と経済的又は組織的に何らかの関係にある者の業務に係る役務であるかの如く誤認し、その出所について混同する蓋然性が極めて高いといわざるを得ないものである。 したがって、使用商標を使用する行為は、他人の業務に係る役務と混同を生ずるものをした行為に該当するといわざるを得ないものである。 4 故意について 商標法第51条第1項にいう「故意」は、当該商標の使用にあたり、その使用の結果他人の業務に係る役務と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り、必ずしも他人の登録商標や周知商標に近似させたいとの意図をもって使用したことまで必要とするものではないと解される(最高栽昭和56年2月24日第3小法廷判決参照)。 本件において、インターネットを利用して事業を展開する被請求人が、本件商標の出願日よりも以前からインターネット関係者の間で広く知られるに至っていた引用商標の存在を、全く知らなかったとは認め難く、むしろ知悉していたと推認され、そのうえで、前記3のとおり、引用商標と酷似する印象を与える使用商標の使用をしているものである。 そして、使用商標の下側には、小さく「YouTube ja naiyo」との表示をしているが、当該表示は、「ユーチューブじゃないよ」を欧文字により表現したものとして看取し得るものである。 この点に関して、被請求人は、「使用商標の下側に、わざわざ『YouTube ja naiyo(ユーチューブじゃないよ)』と表示して、著名商標『You Tube』とは異なる商標である点を利用者に印象付ける工夫と努力が払われている」と主張している。 しかしながら、引用商標は、上記2のとおり、請求人の関係子会社の業務に係る役務を表示するものとして、需要者間に広く認識されていることを考慮すれば、「YouTube ja naiyo」と表示してユーチューブの役務でないことを注意喚起するまでもないことであって、例えば、甲第3号証に表示された被請求人のホームページには、「2007.04.26 OPEN Caution!Adults only.The minorcannot browse this site.」が表示されている。 また、甲第5号証の5頁には、「YouTubeファクトリーシート 概要と特徴」の項の「よくある質問」の見出しの下に「YouTubeにおける不適切なコンテンツの取り扱いについて(ポルノ画像、暴力的な画像など)YouTubeのポリシーでは、不適切なコンテンツの掲載は禁じられています。」と記載されている。 してみれば、被請求人が、自らのホームページ上に「YouTube ja naiyo」の表示を設けたことによって、ユーチューブの著名性にフリーライドして、需要者が被請求人のホームページに誘導される可能性があること認識し得たことを否定できず、被請求人は、使用商標が看者をして需要者間に周知な「You Tube」と何らかの関係付けをして間違われる余地があることを認識していたとみるのが自然である。 以上によれば、被請求人には、使用商標の使用の結果が引用商標に係る役務との混同を生じることの認識があったと認められるから、使用商標の使用は、「故意に」なされたと判断されるものである。 5 その他の被請求人の主張について (1)被請求人は、使用商標の使用期間が約1ヶ月弱と極めて短い旨主張している。 しかし、商標法第51条第1項による商標登録の取消しは、登録商標に関する不当な使用についての制裁的制度であるから、当該条項に該当する行為があったと認められる以上、その使用期間の長短によって左右されることはないというべきであり、当該主張は採用し得ない。 (2)被請求人は、使用商標の使用行為については悪意はなく、法律の不知と経験不足による過失に基づく旨の主張をしている。 しかし、商標法第51条第1項における「故意」は、前記4のとおり解されるべきであって、本件にあっては、使用商標が「故意に」使用されたと判断がされるものであるから、悪意がなかったとか、法律の不知と経験不足による過失によるものであったとの主張によっては、前記判断は左右され得ないものである。 なお、「YouTube ja naiyo」の表示をもって、「故意に」でないことの証左とは認められないこと前記4のとおりである。 (3)被請求人は、自らが風俗サービス等の宣伝広告用の動画や静止画を作成して、これをインターネットウェブサイトにおける広告用スペースに提供して配信した事実は全く無く、専ら広告主から持ち込まれた宣伝広告用の動画や静止画を管理者として有料にてインターネットウェブサイトの広告用スペースに掲載させるためのサービスを行っているだけで、商標の使用形態は、第35類に属し、第41類に属していないと主張する。 確かに使用商標は、指定役務(第35類)について使用されているというべきである。しかし、前記3(3)のとおり、使用商標及び引用商標の使用に係る役務の間に関連性を看取させるものであり、被請求人自らが制作した動画や静止画を広告用スペースに提供して配信した事実がないからといって、需要者が看取する両役務の関連性が否定されることにはなり得ないというべきである。当該主張によって、前記の認定判断は左右されない。 (4)被請求人は、使用商標が原因で、「世界的に著名な企業である請求人によって配信されたと誤認された事実は一度も無く、また、その誤認発生の可能性も絶無であって、かかる被請求人による間違った登録商標の使用によって、一般公衆を害した事実も存在しなかった」と主張している。 しかし、商標法第51条は、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨の規定であるから(特許庁編「工業所有権法逐条解説」参照)、現に誤認や混同等の事態が発生した場合に本条項が適用されるのは無論のこと、それに限られることなく、混同等を惹起させる使用行為があった場合にも、本条項が適用され得るものと解される。そして、本件は、混同を惹起させる使用行為があったと認められるものである。したがって、被請求人の主張は採用し得ない。 6 結び したがって、本件商標の商標権者である被請求人は、故意に、本件商標と類似する商標をその指定役務について使用し、他人の業務に係る役務と混同を生ずるものをしたものであるから、商標法第51条第1項の規定に基づき、本件商標の登録を取り消すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 (1)引用商標(色彩については原本参照) (2)使用商標(色彩については原本参照) (3)引用商標の指定役務 第38類「インターネットその他の通信網により電子媒体・電子情報をアップロード・投稿・展示・掲示・付加・ブログ・共有その他の方法で提供する放送,電気通信(放送を除く。),放送,報道をする者に対するニュースの供給,電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」 第41類「インターネットその他の通信網により電子媒体・電子情報を提供する教育及び娯楽の提供,当せん金付証票の発売,技芸・スポーツ又は知識の教授,献体に関する情報の提供,献体の手配,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,スポーツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,図書の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画の貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,カメラの貸与,光学機械器具の貸与 第42類「気象情報の提供,建築物の設計,測乳地質の調査,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,ウェブサイトの作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,計測器の貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与,製図用具の貸与」 |
審理終結日 | 2009-09-04 |
結審通知日 | 2009-09-09 |
審決日 | 2009-09-25 |
出願番号 | 商願2007-5248(T2007-5248) |
審決分類 |
T
1
31・
3-
Z
(X35)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 新井 裕子、堀内 真一 |
特許庁審判長 |
渡邉 健司 |
特許庁審判官 |
井出 英一郎 鈴木 修 |
登録日 | 2007-09-28 |
登録番号 | 商標登録第5080663号(T5080663) |
商標の称呼 | フーチューブ、フー、エフユウユウ、チューブ |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 矢島 正和 |