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審決分類 審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y41
審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y41
審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y41
管理番号 1221506 
審判番号 無効2009-890122 
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-11-10 
確定日 2010-07-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第4817540号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4817540号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4817540号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲に示すとおりの構成からなり、平成16年1月8日に登録出願、第41類「学習塾における知識の教授,電子計算機端末による通信を利用した学習塾における教授,学習塾が行う在宅学習指導,ファクシミリ・電子メール・インターネットその他電子計算機端末を利用した通信添削による学習指導,学習・受験・進学についての生徒への指導及び助言,学習塾の運営者に対する知識の教授,学習塾に関する情報の提供,進学・入試情報の提供,進学説明会の企画・運営又は開催,学習講習会の企画・運営又は開催,学習用教室の提供,図書の貸与,学習支援プログラムを記録した記録媒体の貸与」を指定役務として、同年11月12日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第36号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)請求の理由の要点
ア 本件商標登録は、商標法第3条第1項第3号または同法第4条1項16号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
イ 本件商標登録は、商標法第3条第1項第6号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
ウ 本件商標登録は、商標法第4条第1項第10号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
エ 本件商標登録は、商標法第4条第1項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
オ 本件商標登録は、商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
(2)無効原因
ア 請求人の経営する学習塾(以下「請求人学習塾」という。)の概要
請求人は、昭和63年9月に東京都江戸川区西葛西で学習塾を開校して以来、現在に至るまで、以下の4点を基本指導方針として、学習塾の経営を行ってきた(甲2)。
(a)講師1人に生徒1人または2人の完全個別指導
(b)曜日・時間・回数の選択が自由
(c)生徒が講師を選べる講師指名制度
(d)生徒一人ひとりにぴったりのカリキュラム
請求人学習塾において、かかる基本方針が貫かれてきたことは、例えば請求人学習塾の広告として頒布された、新聞折込チラシの記載から明らかである(甲3-1?甲10-14)。
なお、チラシが頒布された時期については、チラシ裏面の右下隅に付された番号から特定することができる。例えば、甲6-1号証には「990415」と記載されており、これは平成11年4月15日に頒布されたことが示されている。
また、甲3-1号証?甲3-3号証については、頒布年月日がチラシに付されていないものの、甲3-1号証?甲3-3号証の裏面には「新教室オープン」として、赤羽教室ら5校が記載されている。そして、登録申請のための報告書(甲11)の14頁に、平成6年2月15日に赤羽教室が設置された旨の記載があるところ、同チラシには同年7月5日に設置された南浦和教室の記載がないことから、甲3-1号証?甲3-3号証の新聞折込チラシは、遅くとも平成6年7月までには頒布されたことは明らかである(甲2・第1項)。
さらに、甲5-1号証の新聞折込チラシの裏面には、発行日として「0412」と記載されていること、裏面の教室一覧の欄に「鶴見教室」が含まれる一方で「大森教室」が含まれていないところ、鶴見教室及び大森教室は、それぞれ、平成9年2月、同年6月に開校したことからすれば(甲11の16頁)、甲5-1号証のチラシは平成9年4月12日に頒布されたものであることは明らかである。
請求人学習塾の上記指導方針が生徒及び保護者に受け入れられた結果、請求人学習塾の規模は急速に拡大し、平成11年(1999年)4月に野村證券金融研究所より発行されたアナリストレポート(甲12)において、請求人学習塾が「主要個別指導塾」の1つとして紹介され、97年度(平成9年度)では売上高として第2位の規模であったことが記載されている。
また、平成12年3月の時点では、関東圏及び関西圏で合計98の学習塾を展開するに至っており、これは個別指導学習塾の中では第2位の規模に相当し、売上高では首位に相当する(甲13・2頁、3頁)。
さらに、平成13年10月に発刊された日本経済新聞の記事において、被告が個別指導の学習塾を運営する専業大手の一つであり、売上高では首位であることが記載されている(甲14)。
また、平成13年(2001年)12月発行の「月刊私塾界」においても、「東京個別指導学院・馬場信治社長。オリジナルの個別指導でトップを走る。」と記載されるに至っている(甲15)。
このように、請求人学習塾は、遅くとも平成9年頃から、個別指導塾において大手の地位にあったことは明らかであり、被請求人が本件商標につき商標登録出願(以下「本件登録出願」という。)をした平成16年1月当時には、請求人学習塾は、需要者である保護者及び生徒に対して、大手の個別指導学習塾として広く認識されていたものである。
イ 商標法第3条第1項第3号または同法第4条1項16号該当
本件商標は、「塾、なのに家庭教師」の語句から構成されるところ、「なのに」とは「前文をうけ、逆接の意で下へ続ける」(甲16)を意味する。
したがって、「塾、なのに家庭教師」は、国語的に、塾であるけれども、家庭教師のようなサービスを意味していることは容易に理解することができるから、請求人学習塾のような個別指導塾で提供される役務の内容を端的に表現したものに過ぎず、自他役務識別力を備えないことは明らかである。
また、以下に述べるように、本件登録出願につき登録査定がなされた平成16年11月までに、請求人及び被請求人を含めた複数の学習塾において、本件商標と称呼が同一である「塾なのに家庭教師」の語句が使用されており、本件商標は、需要者に個別指導塾で提供される役務の内容を表すものと認識される可能性があるから、これを特定人に独占使用させることは公益上適当でないことは明らかである。
(ア)請求人学習塾による使用
上述したように、請求人は、「塾なのに家庭教師」の語句を生徒募集用の新聞折り込みチラシに付して頒布してきた(甲2、甲3-1?甲10-14)。
(イ)被請求人学習塾による使用
本件登録出願における意見書(甲17)に記載されているとおり、登録査定前である平成16年9月13日には、被請求人学習塾において、「塾なのに家庭教師」の語句を使用していた。
(ウ)他の学習塾による使用
本件登録出願における拒絶理由通知書(甲18)に記載されているとおり、本件商標の登録査定前(平成16年7月27日)には、「翔英塾」及び「早稲田教育ゼミナール」において、「塾なのに家庭教師」の語句が使用されていた。
また、本件商標では、「塾、なのに」の文字が、「家庭教師」の文字よりも小さく構成されるとともに、「塾、なのに家庭教師」の文字に青色の縁取りが設けられているものの、いずれも特異な表示態様というものではない。
したがって、本件商標は、個別指導塾で提供される役務の内容を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法第3条1項3号に該当し、無効とされるべきものである。
また、本件商標の指定役務は、第41類「学習塾における知識の教授」等であるところ、学習塾の中には、1人または2人といった少人数の生徒に対して教授を行う形式の個別指導塾と、多数の生徒に対して同一内容の講義を同時に行うという形式の集団指導塾が含まれる。
そして、「塾、なのに家庭教師」という、個別指導塾で提供される役務の内容を表示する商標が、集団指導塾において使用されるならば、需要者である生徒ないし親に対し、その役務の質について誤認を生じるおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条1項16号に該当し、無効とされるべきものである。
ウ 商標法第3条第1項第6号該当
本件商標を構成する「塾、なのに家庭教師」は、「塾であるけれども、家庭教師のようなサービス」を意味するスローガンないしキャッチフレーズであって自他役務識別力を備えるものではない。このことは、本件登録出願の拒絶理由通知書(甲18)において、塾なのに家庭教師のように個別に指導する意味合いを有するキャッチフレーズ(宣伝文句)の一種と理解させるにすぎないと明確に述べられていること、及び、「塾、なのに家庭教師」の称呼が11音と非常に長く、出所識別標識として認識されるものではないことからも明らかである。
さらに、上記(2)において述べたように、本件商標と称呼が同一である「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズは、請求人及び被請求人を含めた多数の学習塾において用いられており、「塾、なのに家庭教師」を見た需要者が一定の出所を認識することは困難である。
したがって、本件商標は、需要者が何人からの業務に係る商品ないし役務であることを認識することができないから、商標法第3条1項6号に該当し、無効とされるべきものである。
エ 商標法第4条第1項第10号該当
(ア)他人の役務を表示する周知商標であること
上記アにおいて述べたように、請求人学習塾は、遅くとも平成9年頃から個別指導塾の大手として広く知られていたのであるから、本件登録出願がなされた平成16年1月当時、請求人学習塾は需要者である保護者及び生徒に広く認識されていたことは明らかである。
また、「塾なのに家庭教師」というフレーズは、もともと、平成5年頃に、請求人が集団指導塾に対する個別指導塾の特徴を端的に表すためのスローガン、キャッチフレーズとして、請求人が依頼したコピーライターがその当時は珍しかった個別指導塾の指導方法から自然と思いついたものであり、請求人が他の塾に先駆けて使用を開始したものである(甲19?甲22)。
その後、請求人は、「塾なのに家庭教師」を、集団指導塾に対する個別指導塾の特徴を端的に表すためのスローガン、キャッチフレーズとして、請求人学習塾の新聞折込チラシに付して、大量に頒布してきた(甲2、甲3-1?甲10-14)。
「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズが付され、請求人により頒布されたチラシの部数は、請求人がチラシ頒布数の集計を開始した平成10年2月から、本件商標に係る商標登録出願の出願日である平成16年1月8日までの間に限っても、少なくとも、関東圏において合計約2億9807万部、関西圏において合計約5745万部、名古屋圏において約505万部にのぼっていた(甲2)。
請求人が新聞折込チラシを大量に頒布してきたことは、甲13号証において、「生徒・父母に対するアピールの面では、社員による営業を行わない代わりに大量の折り込みチラシを実施。広告効果の分析を教室単位、新聞販売店単位で積みかさねてきた結果、生徒募集のノウハウが確立されている。」と記載されていることからも明らかである。
さらに、請求人は、平成12年2月ころから、小田急バス、神奈川中央交通バス、国際興業バス、都営バス、川崎市バス、東急バス及び西武バスにおいて、「塾なのに家庭教師、先生を自由に選べる東京個別指導学院」との車内放送を継続的に流してきた(甲23?25)。
このように、請求人学習塾において「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズを継続的に使用した結果、平成9年(1997年)3月に発行された雑誌において、「『塾なのに家庭教師』で急成長したTKG(東京個別指導学院、本部=東京・中央区)」と紹介されるに至っており(甲26)、本件商標に類似する「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズは、平成9年3月には既に、請求人学習塾を示す商標として需要者に広く知れ渡っていたものである。
また、平成10年(1998年)5月に発行された雑誌において、「差異化の一例をあげると、『塾なのに家庭教師』を謳うTKGは、授業料は家庭教師の半分程度としている。」(甲27)と記載され、さらに、平成15年10月に発行された雑誌には、「『塾なのに家庭教師』というキャッチフレーズで知られる東京個別指導学院」(甲28)と記載されるに至っているのである。
したがって、本件商標の出願時及び査定時において、本件商標に類似する「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズは、少なくとも、関東圏、関西圏及び名古屋圏において、学習塾の需要者である生徒及び保護者に対して、請求人学習塾を示すものとして広く認識されていたことは明らかである。
(イ)標章及び役務が同一あるいは類似すること
本件商標の指定役務は「学習塾における教授」であるところ、これは請求人学習塾で提供される役務と同一であることは明らかである。
また、請求人学習塾において用いられている「塾なのに家庭教師」と本件商標とは、「塾」と「なのに」の間に「、」が付されている点、及び、本件商標では黄色で着色された文字列と青色の縁取りとの組み合わせから構成されるのに対し、請求人学習塾で用いられる「塾なのに家庭教師」は単色である点について相違する。
しかし、かかる相違点が本件商標の要部に該当せず、「塾、なのに家庭教師」の文字部分が本件商標の要部に該当するのであれば、請求人の使用に係る「塾なのに家庭教師」という商標は、本件商標と類似する。
(ウ)まとめ
したがって、本件商標は、請求人学習塾を示す標識として周知である「塾なのに家庭教師」の標章と類似し、かつ、同一の役務において使用されるものであるから、商標法第4条1項10号に該当し、無効とされるべきものである。
オ 商標法第4条第1項第19号該当
(ア)他人の業務にかかる役務を示す商標
上記「エ(ア)」で述べたように、「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズは、本件商標の出願時及び登録査定時において、請求人学習塾を示す商標として用いられていた。
(イ)日本国内における需要者の間に広く認識されていること
上記「エ(ア)」で述べたように、「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズは、本件商標の出願時及び査定時において、学習塾の需要者である生徒及び保護者に対して、請求人学習塾を示すものとして広く認識されていたことは明らかである。
(ウ)同一または類似の商標
上記「エ(イ)」で述べたように、「塾、なのに家庭教師」の文字部分が本件商標の要部に該当する場合には、本件商標と「塾なのに家庭教師」の商標は類似する。
(エ)不正の目的で使用するものであること
上記「エ(ア)」で述べたように、請求人は「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズを、平成5年ころから継続的に使用し続けてきた結果、平成9年3月の時点では既に、「塾なのに家庭教師」の商標が請求人学習塾を示すものとして雑誌に紹介されるに至っており(甲26)、その時点において、「塾なのに家庭教師」の商標が請求人の学習塾を示すものとして広く知られていた。
これに対し、被請求人が、「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズの使用を開始したのは、平成11年頃であった。
すなわち、被請求人は、遅くとも平成6年ころから、被請求人学習塾の本部所在地である名古屋市昭和区の職業別電話帳(タウンページ)に広告を掲載していた(甲29?甲34)。そして、平成6年版(1994年2月14日現在)?平成10年版(1998年1月20日現在)の職業別電話帳に掲載された被請求人学習塾の広告には、「塾なのに家庭教師」は記載されていなかったが(甲29?甲33)、平成11年版(1999年2月1日現在)に掲載された広告に初めて、「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズが記載されるに至ったのである(甲34)。
そして、平成11年当時、被請求人と請求人は個別指導塾を経営する同業者であったことに鑑みれば、被請求人は「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズが請求人学習塾を示すものであることを熟知した上で、著名商標である「塾なのに家庭教師」ヘフリーライド(ただ乗り)する、あるいは、請求人による「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズの使用を妨害するという不正の目的をもって、本件商標登録出願を行ったことは明らかである。
しかも、被請求人は、本件商標登録出願の出願日以前から、「名学館」の商標で学習塾を展開していて、「塾なのに家庭教師」という標章につき商標登録出願をする必要性に乏しかったことに鑑みれば、かかる意図はより一層明白である。
したがって、本件商標は、商標法第4条1項19号に該当し、無効とされるべきものである。
カ 商標法第4条第1項第7号該当
上述したように、被請求人は、「塾なのに家庭教師」の標章が商標登録されていないのを奇貨として、個別指導塾の大手である請求人を示す著名商標である「塾なのに家庭教師」にフリーライドする、あるいは、「塾なのに家庭教師」のスローガンないしキャッチフレーズを用いた請求人の事業展開を阻止するという目的で、本件登録出願をしたのであるから、かかる商標出願は、公正な競争秩序を害するものである。よって、本件商標は公序良俗に反し、商標法第4条1項7号に該当する。

3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べた。
(1)請求人が審判請求書で指摘する無効理由は全て理由の無いものであるが、そもそも本件審判の請求人には以下に述べるように審判請求の利益が無く、したがって、本件審判請求は却下されるべきである。
(2)審判請求が却下されるべき理由
ア 商標登録無効審判(46条)の請求要件として、濫請求防止の観点より請求人には請求の利益を有することが要求される。
イ ところで、被請求人は、本件審判請求の対象となっている登録商標「塾、なのに家庭教師」(登録第4817540号)に係る商標権(第1商標権)の権利者であるとともに、登録商標「塾なのに家庭教師」(登録第4684359号)に係る商標権(第2商標権)の権利者でもある。
ウ 請求人は、甲第13号証1ないし同第10号証14から明らかなように、第2商標権に係る登録商標「塾なのに家庭教師」と実質的に同一の標章「塾なのに家庭教師」を使用して第2商標権を侵害しており、これについて被請求人は請求人を被告として商標権侵害差止等を求めている(東京地方裁判所 平成20年(ワ)第34852号)。
エ 請求人が現在使用している標章は「塾なのに家庭教師」であり、これ以外の標章を使用する意思を請求人は示していない。
オ よって、本件審判によって、たとえ第1商標権が無効になったとしても、第2商標権の存在によって請求人は「塾なのに家庭教師」の標章を使用することはできない。
カ なお、第2商標権については、いわゆる私益的無効事由について除斥期間を経過しており(47条)、かかる無効理由については、もはや無効審判を請求することができない。
キ 請求人による本件審判の請求は、本来第2商標権についての無効審判を請求しなければ初期の目的が達せられないにも拘らず、既に除斥期間を経過した私益的無効事由も含めて第1商標権に係る本件審判を請求するもので、特許庁の限られた人材、設備の能力を徒に費消するものである。
よって、濫請求防止の観点より、本件審判の請求は却下されるべきものである。

4 当審がした審尋
被請求人は、前記3に記載の旨の主張をしているが、本件の審理には、「審判請求の利益」以外の「登録無効の理由」についても審理する必要があるので、答弁書を提出されたい。

5 当審の判断
(1)本案前の申立について
被請求人は、本件審判請求について、請求の利益を欠くものであるから、却下されるべきであると主張しているので、これについて判断する。
無効審判を請求する者は、当該審判を請求することについて、法律上の利益を有することを要するものと解される。
しかして、請求人の主張及び同人が提出した証拠から、同人は、業として本件商標の指定役務と同種の役務を提供する者と認められ、自己の業務に係る役務及びそれに関する商標の使用が、本件商標に係る商標登録の存在によって具体的に影響を受ける立場にあると認められるから、本件審判を請求することについて、法律上の利益を有する者というべきである。
被請求人は、本件審判の請求は本来第2商標権(商標登録第4684359号)についての無効審判を請求しなければ初期の目的が達せられないにも拘らず、既に除斥期間を経過した私益的無効事由も含めて第1商標権に係る本件審判を請求するもので、特許庁の限られた人材、設備の能力を徒に費消するものである。よって、濫請求防止の観点より、本件審判の請求は却下されるべきものであると主張する。
しかしながら、商標登録の有効性・無効性は、登録商標毎に具体的事案に即して判断されるべきものであるから、仮に本件商標と類似する第2商標権が存在するとしても、それをもって直ちに本件商標の有効性・無効性の判断が左右され得るものではなく、本件審判請求の目的が達せられないと即断することはできない。
上記のとおり、本件請求について、請求人に法律上の利益が認められる以上、これを請求の利益を欠く不適法なものとして、却下することはできないというべきである。
そこで、本案に入り審理し、以下のとおり判断する。
(2)商標法第4条第1項第10号該当について
ア 引用商標の周知性について
請求人提出の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア)請求人は、昭和63年に学習塾を開校した。以来、「講師1人に生徒1人または2人の完全個別指導」等を基本指導方針として塾経営を行ってきた。
そして、平成11年4月時のアナリストレポートにおいて、主要個別指導塾の一として紹介され、平成9年度の売上高で第2位とされ(甲第12号証)、また、平成12年3月時において、関東圏及び関西圏で合計98の学習塾を事業展開するに至り、個別指導学習塾の第2位の規模となり、売上高で首位になった(甲第13号証)。
(イ)被請求人は、同人の業務に係る役務「学習塾における知識の教授」について、標章「塾なのに家庭教師」(以下「引用商標」という。)を、遅くとも平成8年2月13日のチラシに表示したのをはじめとして、本件商標の出願時に至る間継続してチラシに表示し使用し、それ以降も継続してチラシに表示し使用した。
即ち、「生徒・父母に対するアピールの面では、社員による営業を行わない代わりに大量の折り込みチラシを実施。広告効果の分析を教室単位、新聞販売店単位で積みかさねてきた結果、生徒募集のノウハウが確立されている。」と記載されている(甲第13号証)ように、引用商標を表示した新聞折り込みチラシを、東京・神奈川・千葉・埼玉の関東圏を主とし、さらに兵庫、大阪、名古屋において、継続して頒布した(甲第3号証ないし同第10号証:枝番を含む。)。
(ウ)請求人は、平成12年2月頃から、小田急バス、神奈川中央交通バス、国際興業バス、都営バス、川崎市バス、東急バス及び西武バスにおいて、「塾なのに家庭教師、先生を自由に選べる東京個別指導学院」との車内放送を継続的に流した(甲第23号証ないし同第25号証)。
(エ)平成9年3月発行の雑誌「月刊私塾界」において、「『塾なのに家庭教師』で急成長したTKG(東京個別指導学院)」と紹介され、平成10年5月発行の上記雑誌において、「差異化の一例をあげると、『塾なのに家庭教師』を謳うTKGは、・・・。」(甲第27号証)と紹介され、さらに、平成15年10月発行の同雑誌には、「『塾なのに家庭教師』というキャッチフレーズで知られる東京個別指導学院」(甲第28号証)と紹介されている。
以上を綜合してみれば、引用商標は、本件商標の出願時において、請求人の業務に係る役務「学習塾における知識の教授」を表示する商標として、その需要者の間で広く認識されるに至っていたものと認められ、それは、その登録査定時にも継続していたと推認されるものである。
イ 商標の類否及び役務の類否について
(ア)本件商標は、別掲のとおり、「塾、なのに家庭教師」の黄色の文字(「塾、なのに」は、「家庭教師」に比してやや小さい。)に、紺色の縁取りを施したものであり、その構成文字から「ジュクナノニカテイキョウシ」の称呼を生じるものである。
一方、引用商標は、「塾なのに家庭教師」の文字からなるものであり、これより「ジュクナノニカテイキョウシ」の称呼を生じるものである。
しかして、本件商標及び引用商標は、「ジュクナノニカテイキョウシ」の称呼を共通にするか、称呼上極めて紛らわしものであり、また、その構成文字「塾、なのに家庭教師」と「塾なのに家庭教師」において酷似するものである。さらに、両商標は、「塾ではあるけれども家庭教師のようである」程の酷似した意味合いをもって看取されるというのが相当である。
してみると、本件商標と引用商標とは、外観構成において文字の大小、「、」及び縁取りの有無や色合いの相違があるけれども、特別なものとまではいえないその相違が、時と所を異にした取引場裏において、上記の共通性・近似性を凌駕して、両商標が明確に別異の出所を表示するものとの認識を与えるものとは言い難く、彼此相紛らわしいものというべきである。
したがって、両商標の外観、称呼及び観念から受ける印象、記憶及び連想を綜合してみた場合、両商標を同一又は類似の役務に使用したときには、同一の事業者の提供に係る役務であるかの如く誤認されるおそれがあると判断されるものであるから、本件商標は、引用商標に類似する商標というべきものである。
なお、引用商標の構成文字である「塾なのに家庭教師」は、役務「学習塾における知識の教授」の質等を具体的直截的に表示するものとはいえないうえ、要部を特定し得ない程に構成が散漫であったり、極めて冗長であるというものではなく、また、「学習塾における知識の教授」に関して、頻繁に採択使用されている常套句や宣伝文句の類であるとすべき的確な証左はみいだせないから、纏まりのある標章として自他役務の識別機能を果たし得るものというべきである。
(イ)また、引用商標の使用に係る役務は、「学習塾における知識の教授」に属すべき役務と認められるから、本件商標の指定役務は、これと同一又は類似の役務である。
ウ 小括
上記のア及びイによれば、本件商標は、その査定時及び出願時において、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至っていた引用商標に類似するものであり、かつ、引用商標の使用に係る役務に類似する役務について使用をするものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
(3)審尋に対して、被請求人は、何ら答弁をしていない。
(4)結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものであるから、その余の無効理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標(登録第4817540号商標)



(色彩については、原本を参照されたい。)


審理終結日 2010-06-03 
結審通知日 2010-06-07 
審決日 2010-06-18 
出願番号 商願2004-1232(T2004-1232) 
審決分類 T 1 11・ 251- Z (Y41)
T 1 11・ 253- Z (Y41)
T 1 11・ 252- Z (Y41)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩崎 安子 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 酒井 福造
小林 由美子
登録日 2004-11-12 
登録番号 商標登録第4817540号(T4817540) 
商標の称呼 ジュクナノニカテーキョーシ、ジュクナノニ 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大野 聖二 
代理人 守田 賢一 
代理人 中村 仁 
代理人 小林 英了 

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