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審決分類 |
審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 101 |
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管理番号 | 1219901 |
審判番号 | 取消2009-300352 |
総通号数 | 128 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2010-08-27 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2009-03-25 |
確定日 | 2010-06-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2015748号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第2015748号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第2015748号商標(以下「本件商標」という。)は、「久遠水」の文字を書してなり、昭和60年7月12日に登録出願、第1類「液剤」を指定商品として、昭和63年1月26日に設定登録されたものである。 2 請求人の主張 請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第7号証を提出した。 (1)請求の理由 本件商標は、その指定商品「液剤」について継続して3年以上日本国内において商標権者、許諾による使用権者のいずれも使用した事実がない。このことは、わが国内で市販されている一般薬に係る情報が掲載された日本医薬品集(一般薬)2009-10年版、日本医薬品集(一般薬)2008-9年版、及び日本医薬品集(一般薬)2007-8年版のいずれにおいても、一般薬に使用されている「久遠水」を含む商標として、請求人の製造する点眼用薬に使用されている「身延 久遠水」のみしか掲載されていないことからも明らかである。また、商標登録原簿の内容からみて専用使用権者、及び通常使用権者のいずれも存在しない。 よって、本件商標は、商標法第50条第1項の規定により取消されるべきものである。 (2)弁駁 ア 被請求人は不使用の事実については認めている。しかし、被請求人は、「薬剤」を製造販売するためには薬事法に基づく承認を得る必要があるが、目薬について「身延 久遠水」という販売名が既に承認されいるため、被請求人がたとえ「久遠水」を使用した「液剤」を販売するために承認審査を申請したとしても、当該申請が認められないことは自明であったとして、商標法第50条第2項但書に規定された「正当な理由」が存在すると主張しているが、かかる主張には理由がない。 イ すなわち、「液状の薬剤」は指定商品「液剤」に含まれるが、「液剤」には「薬剤」以外にも、消臭液剤、めっき用液剤、界面活性液剤、乳化剤、溶剤、化粧水、石鹸水等々が含まれており、「液剤」と「液状の薬剤」とは異なる。同様に、「薬剤」には医薬品に係る薬剤と、例えば植物用害虫駆除薬剤、除草剤というように医薬品以外の薬剤とが含まれる。そして、薬事法に基づく承認を得る必要があるのは医薬品に係る薬剤であり、医薬品以外の薬剤及び薬剤以外の液剤については薬事法に基づく承認を得る必要は無いのであるから、これら医薬品以外の薬剤及び薬剤以外の液剤について、被請求人の主張は失当である。 ウ 次に、医薬品に係る薬剤についての被請求人の主張も失当である。 以下、具体的に説明する。 エ 医薬品の「販売名」の承認審査においては、乙第1号証及び乙第2号証に記載されているように、医療用医薬品及び一般用医薬品のいずれについても「既承認品目のブランド名(販売名)と同一のブランド名(販売名)は認められない」が、例外的に既承認品目が製造・販売されていない場合は、既承認品目のブランド名(販売名)と同一のブランド名(販売名)は認められるとされている。 つまり、当該承認審査において認められないブランド名(販売名)は既承認品目のブランド名(販売名)と「同一」である場合に限られるのであり、既承認品目のブランド名(販売名)と同一でないブランド名(販売名)は、たとえ商標法上では実質的に同一又は類似であると判断されるおそれがある場合であっても承認されるのである。 その一例を示すと、甲第6号証から明らかなように2002年(平成14年)当時、「ネオ晴明水」又は「沢市晴明水」が既に承認されている状況下であっても「沢市晴明水」又は「ネオ晴明水」が承認されている。 したがって、「身延久遠水」が既に承認されている場合でも、被請求人にあっては、例えば「覚林 久遠水」とした販売名で承認を受け、当該販売名を使用することは十分に可能であったのである。 実際、被請求人は、同人の住所である山梨県南巨摩郡身延町身延3510に所在する覚林房の第42代の住職を務められているが、かかる覚林房にあっては、甲第7号証に示したようにそのWEB(販売コーナー)、及び覚林房内において、「覚林 日朝水」と外箱に表示した目薬が、少なくとも平成16年頃から販売されている。 したがって、承認審査を申請したとしても、当該申請が認められないことは自明であったとする被請求人の主張は失当である。 更に、このような状況であったにも拘らず、被請求人により承認申請を行ったという事実は何ら示されていない。これらのことは、被請求人にあって、そもそも「久遠水」という登録商標を使用する意思が全く無かったということを如実に示している。 オ さらに言えば、「久遠水」と「身延久遠水」とは同一ではない。 したがって、被請求人は、「身延久遠水」が既に承認されている状況下であっても、「久遠水」を販売名として申請を行うことにより承認を得ることも十分に可能であったのである。 かかることからも、承認審査を申請したとしても、当該申請が認められないことは自明であったとする被請求人の前記主張は、明らかに失当である。 しかし、被請求人によりそのような承認申請を行ったという事実は何ら示されておらず、被請求人にあっては「久遠水」という登録商標を使用する意思が全く無かったことが明らかにされている。 カ さらに、被請求人は「久遠水」の商標権者であるので、当該権利を行使することによって「身延久遠水」の使用を差し止めることも可能であった。 「身延久遠水」の使用を差し止めた場合、販売名に「久遠水」を含む品目の製造販売が無くなることとなるので、被請求人が「久遠水」を販売名として申請を行った場合、より確実に承認を得ることができるものと考えられる。 ここで、前に記載したように承認審査においては例外的に、既承認品目が製造・販売されていない場合は、当該既承認品目のブランド名(販売名)と同一のブランド名(販売名)であっても認められるとされている。 しかし、被請求人によりそのような差止請求を行ったという事実は何ら示されていない。結局のところ、被請求人にあっては「久遠水」という登録商標を医薬品に係る薬剤に使用する意思が全く無かったものと認められる。 キ ところで、医薬品の製造許可を得るためには、販売名が適正であること以外に、厚生労働省令で定める基準に適合する構造設備の製造所を有する必要があることが薬事法(第13条第4項第1号)に規定されている。 しかし、本件商標が登録された昭和63年1月26日から20年以上も経過しているが、被請求人がそのような製造所を有するに至ったという事実は全く認めらない。 つまり、被請求人には医薬品を製造販売する意思は微塵も存しないのである。 したがって、被請求人には医薬品製造許可の申請を行うべき事情はそもそも無かったのであるから、被請求人の主張にはその前提において矛盾が認められる。また、かかる事実は、被請求人にあって自ら「久遠水」という登録商標を医薬品に係る薬剤に使用する意思が全く無かったことも明らかにしている。 ク 以上のように、医薬品に係る薬剤についての被請求人の主張も失当であり、また、医薬品以外の薬剤及び薬剤以外の液剤についての被請求人の主張も失当である。よって、指定商品「液剤」について登録商標「久遠水」を使用していないことについての被請求人の主張には理由が無い。 ケ 商標法第3条第1項柱書きに反する場合、即ち使用の意思が無い場合(他人に使用させるだけで、自ら使用することが無い場合も含まれる。)には拒絶され(同法第15条第1号)、誤って登録された場合であっても無効にされることとなっている(同法第46条第1項第1号)。これは、商標の使用によって化体した業務上の信用を保護するという商標法の制度趣旨によるものである。 本件商標は、指定商品液剤について、被請求人に使用の意思が全く無いにも拘らず、審査において登録査定となり、無効審判を請求されることなく除斥期間(商標法第47条第1項)を経過してしまい、更に、平成9年10月22に行われた本件商標に係る第1回目の更新申請の期日は、使用事実の審査を行わない更新登録申請制度が施行された平成9年4月1日より後であったため、使用事実の審査が行われることなく更新登録されてきたものである。 しかし、本件商標は、登録されてから本審判の請求時までの20年以上、一度も使用されたことがなく、したがって、商標法の保護対象である業務上の信用が全く化体していない。このように信用が全く化体していない本件商標が存続することは、商標法の制度趣旨に反することになることは明らかであり、取り消されるべきである。 3 被請求人の主張 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証及び同第2号証を提出した。 (1)不使用の事実について争いはない。しかし、被請求人が本件商標の使用をしていないことについては、「正当な理由」(商標法第50条第2項但書)が存在するのであって、本件商標は、取り消されるべきではない。以下、具体的に主張する。 (2)本件商標の指定商品は、「液剤」すなわち「液状の薬剤」であって、「薬剤」を製造販売するためには、厚生労働省等の承認を得なければならない旨が薬事法で規定されている。 そして、上記製造販売承認に関する申請書には、「販売名」も記載する必要があり、当該「販売名」も承認審査の対象となる。 この「販売名」の承認審査について、医療用医薬品に関しては、一般原則として「既承認品目のブランド名と同一のブランド名は認められない」(乙第1号証)とされている。そして、「正当な理由があり混乱が全く考えられない場合は、この限りではない」(乙第1号証)とされていることからすると、当該規制の趣旨は、市場での混乱を防止するということにあることは明白である。 また、一般用医薬品についても、「既承認品目の販売名と同一の販売名は認められない」(乙第2号証)とされており、当該規制の趣旨も上記医療用医薬品に関する規制の趣旨と同様であると解される。 (3)一方、請求人が製造している「身延 久遠水」について、2007年以降の日本医薬品集にも記載されている(甲第1号証ないし甲第3号証)とおり、製造承認を受けたのは3年以上前のことである。 (4)したがって、被請求人が、本件商標である「久遠水」を使用した「液剤」を販売するために、製造販売の承認審査を受ければ、「身延 久遠水」が既承認品目として存在するがために、市場の混乱が生じる可能性が高いという理由で、製造販売が承認されないことは自明のことであって、被請求人は本件商標を「使用しなかった」のではなく、「使用できなかった」のである。 (5)よって、被請求人が本件商標の使用をしていないことについては、客観的・法律的な障害事由が存在するのであって、「正当な理由」(商標法第50条2項但書)があることは明らかであり、本件商標は、取り消されるべきではない。 4 当審の判断 (1)商標法(以下「法」という。)第50条第1項に基づき、商標登録の取消審判が請求された場合には、被請求人が、取消請求に係る指定商品について、審判請求の登録前3年以内における当該登録商標の使用の事実を証明するか、あるいは、不使用の場合には、正当な理由のあることを明らかにしない限り、その登録の取消しを免れないものである(法第50条第2項)。 そして、法第50条第2項但書にいう「正当な理由」とは、登録商標を使用していないことについて、商標権者の責に帰することができない止むを得ない事情、例えば、天災地変等の不可抗力事由その他法的規制等であり、当該登録商標を取り消すことが社会通念上商標権者に酷であるような場合をいうものと解され(平成9年(行ケ)第53号事件・平成9年10月16日判決、平成19年(行ケ)第10227号事件・平成19年11月29日判決参照)、当該登録商標の使用を予定する医薬品の承認申請を行ったが、本件審判請求の登録前3年以内において未だその承認に至らない場合等は、当該登録商標の不使用に係る正当な理由となり得るものと解される。 また、当該「正当な理由」に関しては、取消請求に係る指定商品の全てについて要することなく、その一について存在することを明らかにすることをもって足りると解される(特許庁編「工業所有権法逐条解説」参照)。 (2)被請求人は、本件商標が、本件審判請求の登録前3年以内に取消請求に係る指定商品について使用をされなかったことは争っておらず、使用の事実を示す資料を提出していない。しかし、本件商標の不使用について法第50条第2項但書にいう「正当な理由」があると主張している。 (3)被請求人は、その「正当な理由」として、本件商標の使用を予定する医薬品の製造販売の承認審査を受ければ、「身延 久遠水」が既承認品目として存在するがために、市場の混乱が生じる可能性が高いという理由で、製造販売が承認されないことは自明のことであって、本件商標を「使用しなかった」のではなく、「使用できなかった」のであるとして、客観的・法律的な障害事由が存在すると主張する。 そして、被請求人提出の証拠(乙第1号証及び乙第2号証)によれば、「医薬品製造販売指針 2005」には、医療用医薬品の承認申請書の記載要領の販売名に関して、「既承認品目のブランド名と同一のブランド名は認められない。」との記載があること、及び、一般用医薬品の承認申請書の記載要領の販売名に関して、「既承認品目の販売名と同一の販売名は認められない。」との記載があることが認められ、また、請求人提出の証拠(甲第3号証ないし甲第5号証)によれば、「日本医薬品集 一般薬」の「2007-08年版」「2008-09年版」「2009-10年版」のいずれにも、「身延久遠水」と表示された医薬品が掲載されていることが認められる。 しかして、被請求人は、上記既承認品目の存在を挙げて客観的・法律的な障害事由が存在する旨主張するが、本件商標の使用を医薬品に予定していたのであれば、それを実現すべく、何らかの準備的な行為があっても不自然ではない。しかしながら、それに関係するといえる事実を窺い知ることはできない。 さらに、販売名に関して審査結果についての予測が必ずしも定かでないとしても、少なくとも、承認申請を行うことは可能であったということができ、本件商標と「久遠水」の文字部分が共通する「身延久遠水」を販売名とした既承認品目が存在したとの事実と、これに関連した被請求人の予見のみをもって、直ちに被請求人が本件商標の使用をなすことができない客観的・法律的な障害事由として、不使用に係る「正当な理由」があったとすることはできないというのが相当である。 そして、被請求人は、本件審判請求の登録前3年以内及びそれ以前において製造販売に関する承認申請を行った事実について、何ら示すところががない。してみると、被請求人は、本件商標の使用を予定する医薬品について製造販売の承認に関する申請をしていないと判断せざるを得ないから、被請求人が当該商品について使用の意思を有していたにも拘わらず、使用の前提となる承認申請に対する承認が得られないために、すなわち、被請求人の責に帰さない事由によって、本件審判請求の登録前3年以内においてその使用をなし得ない状態にあったということはできない。 上記のほか、本件商標の不使用の「正当な理由」に係る主張及び立証はみいだせない。 したがって、被請求人によって、本件商標の不使用について法第50条第2項但書にいう「正当な理由」が明らかにされたものと認めることはできない。 (4)以上のとおり、本件商標が本件審判請求の登録前3年以内に取消請求に係る指定商品について使用をされたとは認められず、かつ、その不使用について正当な理由があったとも認められないから、本件商標は、商標法第50条の規定により、その登録の取消しを免れないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-10 |
結審通知日 | 2009-12-15 |
審決日 | 2009-12-28 |
出願番号 | 商願昭60-71909 |
審決分類 |
T
1
31・
1-
Z
(101)
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最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
芦葉 松美 |
特許庁審判官 |
岩崎 良子 内山 進 |
登録日 | 1988-01-26 |
登録番号 | 商標登録第2015748号(T2015748) |
商標の称呼 | クオンスイ、キュウエンスイ、クオン、キュウエン |
代理人 | 平井 安雄 |
代理人 | 齋藤 祐次郎 |