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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X03
管理番号 1218367 
審判番号 無効2009-890015 
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-29 
確定日 2010-06-15 
事件の表示 上記当事者間の登録第5065800号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5065800号商標(以下「本件商標」という。)は、「Gold Glitter EVOLUTION」の文字を標準文字で表してなり、平成19年3月8日に登録出願、第3類「つや出し剤」を指定商品として、同年7月6日に登録査定、同年7月27日に設定登録されたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
本件審判請求人である株式会社吉野(以下「請求人」という。)は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第44号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標の登録は、以下の理由により、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第15号及び同第19号に違反してされたものであるから、無効とされるべきである。
(1)本件審判の請求の経緯等
ア 請求人による商品の製造・販売開始と商標「GOLD Glitter」の採択
請求人は、自動車のほぼ全部分に使用でき、かつ、優れたコーティング効果を発揮することのできる「つや出し剤兼コーティング剤」を開発し、平成6年6月頃からこれに「GOLD Glitter」及び「ゴールドグリッター」の商標で、製造・販売している。また、請求人は、「GOLD/Glitter(上下二段書き)」及び「ゴールドグリッター」等のロゴ態様も商標として使用している(以下、請求人の主張において、これらを合わせて「請求人商標」といい、請求人商標を使用した「つや出し剤兼コーティング剤」を「請求人商品」という)。
イ 商標権者(被請求人)との取引関係
請求人は、平成6年9月から、被請求人との間で請求人商品の取引を開始した。取引形態としては、請求人から被請求人に販売した商品を、被請求人が他の卸売業者や小売業者に販売する、というものであった。その後、平成13年秋頃からは、被請求人の要請により、被請求人が請求人の主たる販売先(主たる特約店)となり、請求人から購入した請求人商品のほぼ全部が被請求人から卸売業者の一つである株式会社協和興材(以下「協和興材」という。)へ卸売され、協和興材から自動車用品小売店やガソリンスタンドなどの販売店を通じて一般消費者への小売に供される、という流れとなった。 なお、被請求人は、現在「有限会社グリッタージャパン」(以下「グリッタージャパン」という。)の社名で営業を行っている(甲第23号証)。
ウ 被請求人による商標「GOLD Glitter」の出願・登録
被請求人は、平成9年7月24日に、第3類「つや出し剤」を指定商品とする商標「GOLD Glitter」を、請求人に無断で出願し、同10年10月23日に登録を得た(商標登録第4203576号、甲第3号証及び甲第4号証。(以下「被請求人登録商標」という。)。
請求人は、自身が採択し使用してきた商標について、取引先会社である被請求人が無断で出願・登録したことを知り抗議したが、被請求人の機嫌を損ねて取引中止などの事態に発展することを恐れ強硬手段を採ることができず、商標権移転等の解決には至らなかった(甲第22号証)。
エ 被請求人による偽造行為と取引関係の破綻等
平成13年頃、被請求人は、請求人に対して、被請求人以外への請求人商品の納入を控えるように指示してきた。請求人はその指示に従う必要はなかったが、大口取引者である被請求人の立場に配慮してその指示どおりにした。その結果、被請求人は、請求人商品の主たる取引ルートとなり、請求人と協和興材との直接の接触を禁じた。平成16年頃から、被請求人からの注文本数が減少したため、その理由を被請求人に質問したが、納得のいく説明は得られなかった。そこで、平成18年になってから、協和興材に注文本数の減少理由を直接質問したところ、協和興材から被請求人への請求人商品の注文本数は減少しておらず、被請求人が他社に偽造品を製造させ、それを協和興材に納入していたことが判明した。偽造品は、請求人商品とそっくりのパッケージに収納され、製造元として請求人の商号「株式会社吉野」まで記載されていた。同時に、被請求人によって長年にわたり、多額の広告費を詐取されていたことも発覚したため、請求人は、平成19年1月に、被請求人との取引関係を解消した。
被請求人は、その2ヶ月後の平成19年3月に、本件商標を出願し、同年7月に登録を得た。
オ 訴訟事件及び不正使用による商標登録取消審判事件との関係
請求人は、被請求人に対し、平成19年9月20日に、大阪地方裁判所に訴えを提起した(平成19年(ワ)第11489号)。当該訴訟は、請求人の周知の商品等表示(商標)を使用し、請求人商品との混同を惹起したこと(不正競争防止法第2条第1項第1号)、及びその商標を使用することによって請求人の製造に係る品質の商品であるかの如く品質に誤認を生ぜしめること(同法第2条第1項第13号)、並びに請求人の商号の盗用等に基づく民法第709条を請求の原因とするものである。
さらに、請求人は、被請求人登録商標に対して、通常使用権者たるグリッタージャパンが、請求人商品と混同を生ぜしめるような方法で当該商標を使用したことによる商標法第53条第1項の規定に基づく商標登録取消審判(取消2007-301208)も請求した。当該取消審判事件は、平成19年(ワ)第11489号事件の結果を待つために現在手続が中止されている状態である。
本件審判と、上記訴訟及び取消審判とは、背景となる事情に共通するところも多く、本件の審理についても、上記事件の結果が大きく影響するものと考えられる。したがって、請求人は、上記取消審判事件と同様に、本件審判についても、上記訴訟事件の結果が出るまで審理手続を中止することを希望する。
(2)商標法第4条第1項第7号
ア 請求人商標が請求人固有の商標であること
(ア)前述のとおり、請求人商標は、請求人の創業者である林隆温が開発した請求人商品に、現在まで使用し続けているものである(甲第5号証)。また、平成6年3月16日付けで、林隆温を出願人・発明者として、請求人商品に関する発明が特許出願されたことからも、請求人商品は、林隆温が開発した商品であることは明らかである(甲第6号証)。
(イ)請求人が平成6年6月から請求人商品の販売を開始したことは、以下の事実から明らかである。
a 甲第7号証ないし甲第9号証の写真やチラシの物件には、請求人の名称と共に、その住所として「大阪市鶴見区緑1丁目3-6-404」と記載されているところ、請求人の登記上の住所は、会社設立時(平成6年6月3日)から現在まで「大阪市平野区加美北3丁目9番21号」であり(甲第10号証)、この住所とは相違している。その理由は、会社設立前の準備期間において、会社発起人の一人であって林隆温の息子である林鍵(前取締役)とその配偶者である林麻友美(現代表取締役)とが住んでいた「大阪市鶴見区緑1丁目3-6-404」(甲第11号証)を登記上の住所とすべく準備を進めていたためであるが、最終的に、登記上には林隆温の住所である「大阪市平野区加美北3丁目9番21号」(甲第6号証)としたため、設立準備期間に用意された印刷物等には、「大阪市鶴見区緑1丁目3-6-404」の住所が掲載されたのである。したがって、上記住所の記載によって、甲第7号証なしい甲第9号証が会社設立登記前に作成されたものであることが推定されるものと考える。
また、広告チラシ(甲第9号証)には、請求人商品を取り扱う小売業者(ガソリンスタンド)「竹村産業株式会社」の住所が「・・・阿保6丁目858-1」と記載されているが、この住所は、平成7年5月1日に住居表示変更がされ(甲第12号証)、現在は、「・・・阿保6丁目12-19」となっている(甲第13号証)。したがって、この広告チラシが平成7年5月1日以前に上記ガソリンスタンドに置かれていたことが窺われる。さらに、郵便番号の記載からも、郵便番号の7桁化された平成10年2月2日(甲第14号証)以前に作成されたものであることがわかる。
b 請求人商標は、取扱い商品のみならず、請求人のハウスマークとしても用いている最も重要な商標である。請求人は、会社設立時から現在まで一貫して、取扱い商品を輸送するための段ボール箱に、請求人商標を大きく表示している(甲第15号証)。また、請求人の封筒(甲第16号証の1及び2)、社員の名刺(甲第17号証)、制服などにも請求人商標を表示している。さらに、請求人商標が表示された宣伝用のポスターやステッカー(甲第18号証)も作成・配布している。上記封筒には、上記aの「大阪市鶴見区緑1丁目3-6-404」の住所が記載される共に、平成10年2月2日に7桁化される以前の3桁の郵便番号(甲第14号証)、平成11年1月1日に4桁化される以前の3桁の電話番号(甲第19号証)が記載されている。これらの記載により、請求人が長年、請求人商標をハウスマークとして使用してきたことが窺われるものと考える。併せて、平成6年2月から6月にかけて、請求人が印刷会社に、請求人商標の入った封筒、パッケージ、チラシ、リーフレット、ステッカー、段ボール箱などを印刷させたことを示す、印刷会社の納品書写(甲第20号証)を提出する。これらの証拠書類により、請求人が会社設立当時から、請求人商標を使用していることが証明できるものと考える。
なお、請求人が請求人商標を使用してきたというだけでなく、もともとこの商標を採択したのが請求人であることについては、請求人の代表者による陳述書(甲第21号証及び甲第22号証)のとおりである。
(ウ)前述のとおり、請求人は、平成6年9月から被請求人との取引を開始した。その後、平成10年頃からは、被請求人と協和興材とが特約店となったことから、請求人商品のパッケージや広告物の一部に、請求人の名称と共に「協和興材」、「グリッタージャパン」の名称も掲載するようになった(甲第5号証及び甲第24号証)。しかし、これは流通経路を明らかにするための表示にすぎず、請求人商標が請求人固有の商標であることに変わりがない。実際、請求人は、会社設立当時から約6、7年間、請求人商品について、青色を基調とするパッケージの商品(甲第7号証)のほかに、品質が同一であるピンク色を基調とするパッケージの商品(甲第8号証及び甲第25号証)も製造・販売していた。ピンク色を基調とするパッケージの商品は、商標権者やその関係者を一切介せずに、他の卸売業者を介して生活協同組合などに販売されていた。
イ 請求人商標の周知性
発売開始からその品質の高さで常に高い評判を得ていた請求人商品は、平成13年のカーグッズ・オブ・ザ・イヤー賞を受賞し(甲第5号証)、輸入高級自動車ディーラーのヤナセが愛車セット用品として選んだことでも有名となり(甲第5号証)、代表的なカーケア用品の一つとなった。また、請求人は、雑誌や新聞への広告も積極的に行った(甲第5号証、甲第26号証の1及び2)。
売り上げにおいても、その本数は発売初年(平成6年)から2万本を越え、平成15年から平成16年には年間7万6千本を売り上げるまでになり、平成18年末までの売上額累計は4億8千万以上にも達している(甲第22号証)。
自動車関連の業界誌「オートマート A・M NETWORK」に掲載されているカー用品小売チェーン店ごとの「カー用品売れ筋ランキング」においても、常時上位にランクされている人気商品である(甲第27号証の1ないし8)。なお、同雑誌の2005年8月号(甲第27号証の4)の「ドライバースタンド」の売れ筋ランキング第5位に商標「ゴールドグリッターエボリューション」の記載があるが、これは、本件商標に係る商品を被請求人が販売したものであり、請求人商品ではない。後述する被請求人のウェブページ(甲第35号証の2)からも明らかなとおり、被請求人は当該商品を請求人商品の進化版として広告しており、当該商品が販売開始直後に売れ筋ランキングにランクインするほどの売れ行きであったのは、請求人商標の獲得している周知性フリーライドした結果であることを窺わせるものである。さらに、同雑誌の2005年2月号(甲第27号証の3)、2006年8月号(甲第27号証の6)、2007年2月号(甲第27号証の7)においては、「イエローハット」でも「ゴールドグリッター」がランクインしているが、これには前述の「偽造品」(甲第37号証)の売上が相当数含まれているものと思われる。
ウ 本件商標の出願に至る経緯については、前記(1)で述べたとおりである。
エ 本件商標の登録が請求人商標の剽窃行為であること
本件商標の構成中、「EVOLUTION」の部分は、「発展、進化」の意味合いの英語であり(甲第28号証)、商標においても、その商品の進化版、改良モデルなどの意味合いでしばしば使用されている語である(甲第29号証ないし甲第34号証)。
そして、被請求人は、そのホームページで、本件商標を付した商品につき、「『Gold Glitter 誕生12周年』12年目のリニューアル!性能、デザイン、プライスを一新、更に進化しました!!!」と使用している(甲第35号証の2)。すなわち、本件商標は、請求人商標を剽窃し、その進化版・改良版であるかの如く装うための「EVOLUTION」の文字を付加したものであり、請求人が長年かけて培ってきた信用にフリーライドしようとするものにほかならない。
協和興材は、被請求人から本件商標を用いた商品の取扱いを依頼された際に、当該商品は当然請求人の製造に係るものであると思っていたとして、「ゴールドグリッターの名前があるからには当然のこととして吉野がかかわっていると考え、グリッタージャパンに確認すらしておりません。」と述べている(甲第36号証)。協和興材は、本件当事者と取引関係にあるとはいえ、自動車用品業界において名のある存在であり、協和興材がこのように判断したということは、まさにこの業界の取引者の認識を表すものであると思料する。
平成10年頃から、請求人商品のパッケージ等に特約店の一つとして、協和興材と共に被請求人の名称も記載されているとはいえ、請求人商標はあくまでも請求人固有の商標であり、いわば製造標であるから、請求人の承諾もなく被請求人が本件商標を出願・登録するのは許されない。仮に、被請求人も請求人商標に化体する信用の形成に多少の役割を担ったとしても、被請求人が請求人を除外して単独で出願・登録を行うことは、まさに剽窃行為としか言い得ない。そして、本件商標の出願の時期が、請求人から取引解消を言い渡された2ヶ月後であることからも、被請求人の意図は明らかであると考える。
商標法第4条第1項第7号の趣旨から考えて、当該規定に該当する場合の一として「特定の商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が、その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃したと認めるべき事情があるなど、当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合も、この規定に該当すると解するのが相当である」(知財高裁平成16年(行ケ)第7号等)との趣旨が多数の判決等において判示されているが、本件もまさに商標法第4条第1項第7号に該当すべき事例であると確信する。
(3)商標法第4条第1項第10号
ア 請求人商標の周知性
本件商標の出願時である平成19年3月8日及び登録査定時である平成19年7月6日において、請求人商標は、請求人の使用する商標として、すでに一般需要者・取引者間に広く認識されていた。
イ 本件商標が請求人商標と類似すること
本件商標は、請求人商標をその構成中に含むものである。しかも、本件商標は、20文字の冗長な構成からなることに加え、前半の「Gold Glitter」部分は、小文字(語頭文字のみ大文字)、後半の「EVOLUTION」は、全て大文字で表されていることから、外観上、「Gold Glitter」と「EVOLUTION」とに分離して認識される。
また、本件商標を称呼した場合も、「ゴールドグリッターエボリューション」と15音にも及ぶ冗長な称呼であり、「ゴールドグリッター・エボリューション」と中間で一息人れて発音するのが自然である。
さらに、後半の「EVOLUTION」部分は、「○○の進化版、改良モデル」等の意味合いで普通に使用されている語であることは、前記(2)で述べたとおりであるから、本件商標からは請求人商標に係る商品の「進化版」という観念を想起させる。
以上のとおり、本件商標は、その外観・称呼・観念からみて、前半部「Gold Glitter」と後半部「EVOLUTION」とに分離して認識されるものであり、また、その観念からみて、本件商標の要部は「Gold Glitter」部分にあるものと考える。
したがって、本件商標は、周知な請求人商標と類似する商標である。
なお、被請求人は、そのホームページ(甲第35号証の1)に掲載された商品パッケージの写真に示すように、「Gold Glitter」部分はやや小さく、その下部に「EVOLUTION」のロゴを大きく表示した態様で使用し、まさに「Gold Glitter」商品シリーズの一つとしてこの「EVOLUTION」(進化版)商品が位置づけられていることが一見して看取される。この実際の態様においても、本件商標が周知な請求人商標と混同を生ずることは必至である。
ウ 本件商標の指定商品は第3類「つや出し剤」であり、請求人商品とは、ほぼ同一である。
エ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
(4)商標法第4条第1項第15号
仮に本件商標の指定商品「つや出し剤」が、請求人商品と同一又は類似でなく、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しないとしても、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあることは明らかであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(5)商標法第4条第1項第19号
ア 請求人商標の周知性、本件商標との類似性
請求人商標が日本国内で周知であることは、前記(2)のとおりであり、また、本件商標が請求人商標と類似するものであるは、前記(3)のとおりである。
不正の目的
本件商標は、前記のとおり、請求人商品を請求人から購入し卸売していた被請求人が、偽造行為をとがめられて請求人からその取引を解除された2ヶ月後に出願されたものである。被請求人のホームページ(甲第35号証の2)などでは、前記のように、請求人商品をそのまま改良したかのような誤った認識を一般需要者に与えていることからも、請求人商標に化体した信用にフリーライドしようとする不正の目的は明白である。実際、その結果として、本件商標に係る商品は、販売開始直後には、自動車関連の業界誌の「カー用品売れ筋ランキング」にランクインするほどの売れ行きを示したのであり(甲第27号証の4)、被請求人が登録の必要性に思い至ったことは想像に難くない。
なお、前記のとおり、被請求人は、請求人商品を偽造し、請求人の商号まで盗用していた(甲第37号証)。これは請求人の信用にフリーライドするという意図そのものを示しているものと思料する。同時に、被請求人が本件商標の使用を継続すれば、周知な請求人商標に化体した信用、名声、顧客吸引力は毀損されてしまうおそれも十分に考えられる。
2 答弁に対する弁駁
(1)請求人と被請求人との関係について
ア 被請求人は、平成7年に、請求人と被請求人との合意によって、請求人商品の一切の権利が被請求人に移譲されたと主張する。
しかし、このような合意がされた事実は一切なく、また、合意を示す証拠、対価の授受を示す証拠も存在しない。したがって、被請求人の主張が事実に反すること明らかである。
イ 被請求人は「現在、請求人は協和興材と協力して、請求人商品の後継品であるとして『パーマラックス』なる名称の同種商品を製造・販売しており、『ゴールドグリッター』は使用していない。」と主張するが、請求人は、本件商標の登録査定時には、請求人商品の製造・販売を継続していたので、その後の製造・販売の有無が本件審判に影響を及ぼすものではない。なお、念のため、請求人商品に関する製造・販売の現状について述べると、請求人は、平成19年9月30日までは継続して請求人商品を月数千本以上製造・販売していたが、被請求人の商品偽造等の事情から請求人及び協和興材によってグリッタージャパンとの取引関係が解消され、法律上も大阪地方裁判所における民事訴訟(平成19年(ワ)第11489号)と、被請求人登録商標に対する不正使用取消審判(取消2007-301208)との係争関係にある状態となったところ、被請求人が被請求人登録商標を有することなどから、取引先に配慮し、この争いが決着するまで、請求人商品の製造・販売を控えるべきであると判断した次第である。
ウ 被請求人は、当初売れていなかった商品が「被請求人の努力の結果、本件商品はヒット商品となったのである」とも主張するが、請求人商品がヒットした最大の理由は、従来のカーワックス・カーコーティング剤とは異なる高い「品質」であり、これは請求人の開発努力により達成されたものである。
(2)被請求人登録商標の出願・登録について
被請求人は、被請求人登録商標の出願・登録につき、請求人が「被請求人に抗議した証拠は全くない」、また、たとえ抗議をしていたとしても長期間「何ら法的な手段を講じておらず」とし、被請求人が請求人に無断で出願・登録を行ったことなどありえない、と主張する。さらに、「被請求人が『グリッタージャパン』という請求人商品を明らかに連想させる屋号(ないしは商号)で取引を行い始めてからも何ら抗議などされたことはない。」とも主張する。
しかし、実際は、請求人が、被請求人登録商標の出願・登録に対して、電話を通じて、又は直接出向いて、強く抗議を続けてきたものである。抗議をした証拠がなく、あるいは法的手段を講じなかったとしても、そのことが、「被請求人が請求人に無断で出願・登録を行わなかった」ことの証明にはならない。
(3)取引関係の破綻について
ア 被請求人は、請求人との取引関係につき、「グリッタージャパンが、請求人に代金を常に前払いするというものであった。当然のことながら、請求人らが前払いする代金は、その月の売上が低くとも一定であり、逆によく売れた月には追加で支払うというものであった。」と述べ、「請求人は何らのリスクを負っていない」取引態様であったことを主張する。
しかしながら、この取引態様の何をもって、被請求人が専らリスクを負っているといえるのか、全く理解しかねるところである。請求人と被請求人の間では、少なくとも月1回は発注するというような契約は存在しなかったものの、前受金を受けて4000本単位で発注を受けるようになった平成12年末以降には、前述の協和興材が特約店として販売網を拡げており、年間7万本ほどの売り上げがあったのであるから、1か月に4000本以上の発注があることは両者にとって当然の認識であった。実際に、平成12年末以降、1か月に複数回の前受金の入金がある月が多いことがわかる(甲第38号証)。このように、被請求人のリスクは実際には殆どない状況にあった。しかも、請求人は、被請求人及びグリッタージャパンから支払われた前受金に相当する数量を超えて請求人商品を納品することもあった(甲第39号証の1ないし6)。このように、被請求人側がリスクを負う取引態様ではなかったことは明らかである。
イ 被請求人は、広告費の詐取に関しても、「そのような事実は全くなく・・・請求人が設定した定価から値引きをしていたにすぎない。また、被請求人は自らの商品をより多く販売するために広告宣伝費を支出していたことは事実である」と主張する。
しかし、広告宣伝費用の大部分を実際に供出していたのは被請求人ではなく、協和興材であったことは、陳述書(甲第21号証)に記載のとおりである。請求人商品の偽造や広告費の詐取といった不正な行為が取引の破綻を導いたのであり、被請求人の主張する「何らの落ち度もないにもかかわらず、一方的かつ強引に取引解消を告げてきた」という経緯の説明は、事実無根の全く不当なものと言わざるを得ない。
(4)請求人商標の周知性について
被請求人は、「請求人商品が一般需要者や取引者間で最も広く認識されるようになって以降の外箱の表示や広告には請求人固有の商品であることを示す外観はない」と主張し、請求人固有の商品としての表示を用いた広告や外箱によって、請求人商品は一般需要者や取引者間で広く認識されるようになったことを、被請求人も認めている。
また、被請求人は、請求人商品が一般需要者や取引者間で最も広く認識されるようになって以降は、「広告には、請求人の名称が記載されておらず」、「外箱の記載も請求人の名称のみではなく、グリッタージャパン及び協和興材の名称も付されている」と主張するが、請求人の名称が記載されている広告は多数存在し(甲第40号証及び甲第41号証)、また、請求の理由にも記載のとおり、たとえば、請求人商品を搬送する段ボール箱(甲第15号証)には、請求人の名称のみが大きく表示され、この態様は、発売開始当初から変更されることなく継続されている。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べた。
1 請求人主張の事実関係について
(1)つや出し剤兼コーティング剤(以下「本件商品」という)をめぐる請求人と被請求人との関係について
請求人は、「GOLD Glitter」等の名称で、本件商品を平成6年6月頃から製造・販売していたようである。
本件商品は、請求人が平成6年6月以前にその基礎となるものを開発したが、その後被請求人が改良を指示するなどして、改良が加えられ、現在に至っている。
当初、本件商品は全く売れておらず、請求人は、被請求人に対して、本件商品の全てを任せることを平成7年頃に打診してきた。これに対し、被請求人は、本件商品が全く売れていない無名の商品であったこと、自らが代金前払いで請求人に本件商品を製造させなければならなかったことなどを考慮して、請求人の申し出を躊躇したが、請求人が本件商品の一切を被請求人に移譲することを強く約したので、被請求人も平成7年にこれに応じた。この合意により、本件商品の一切の権利は被請求人に移譲され、被請求人の努力の結果、本件商品はヒット商品となったのである。
その後は、請求人が被請求人に無断で独自に本件商品を販売することはしておらず(仮に行っていたとすれば、重大な契約違反である。)、本件商品に付されている名称「GOLD Glitter」等(以下「本件名称」という。)を現在まで一貫して使用してきたということはない。さらに付言すれば、現在、請求人は、協和興材と協力して、本件商品の後継品として「パーマラックス」なる名称の同種商品を製造・販売しており、本件名称は使用していない。
以上のような経緯が真実であって、請求人が主張するように、被請求人が「主たる特約店」などというのは明らかな事実の曲解である。
(2)被請求人による被請求人登録商標の出願・登録について
請求人は、被請求人が被請求人登録商標を請求人に無断で取得したかのように主張し、その上で、被請求人が被請求人登録商標を取得したことを知ると当然のように抗議したが、取引中止などの事態を恐れて余り強硬手段を採れなかったなどと主張するようである。
しかしながら、そもそも請求人が被請求人に抗議した証拠は全くない。しかも、取引中止などの事態を恐れていたという主張は、それだけで被請求人が単なる取引先の一つではなかったことを自認するに等しい。
また、被請求人が出願し、登録を受けた被請求人登録商標に対し、請求人は、登録後約10年もの間、何ら苦情等を申し入れず、放置していたのである。仮に万一、請求人が主張するように抗議をしていたとしても、何ら法的な手段を講じておらず、しかも、被請求人が「グリッタージャパン」という本件商品を明らかに連想させる屋号(ないしは商号)で取引を行い始めてからも請求人から何ら抗議などされたことはない。いずれにせよ、被請求人が、被請求人登録商標の出願・登録を請求人に無断で行ったなどということは到底ありえない。
(3)請求人と被請求人との取引関係の破綻
ア 請求人と被請求人との取引関係は、被請求人ないし被請求人が経営するグリッタージャパンが、請求人に代金を常に前払いするというものであった。被請求人らが前払いする代金は、その月の売上が低くとも一定であり、逆によく売れた月には追加で支払うというものであった。このような取引態様においては、請求人は何らのリスクを負っていないことになる(少なくとも毎月の定期収益は確保される)。なお、毎月の支払額は、340万5615円(4000本分)であった。
イ 請求人は、商品偽造と広告費詐取を被請求人が行っていたかのような主張をする。しかしながら、そもそも本件商品の一切を移譲された被請求人が本件商品を製造することは何ら問題がない。しかも、広告費詐取についても、そのような事実は全くなく、毎月4000本で代金340万5615円との契約を締結していたのであり、請求人が設定した定価から値引きをしていたにすぎない。また、被請求人は、自らの商品をより多く販売するために広告宣伝費を支出していたことは事実である。
いずれにせよ、請求人が主張するような取引関係解消に至る経緯は、全くもって事実と異なるものであり、被請求人としては、むしろ何らの落ち度もないにもかかわらず、一方的、かつ、強引に取引解消を告げてきたという認識である。
(4)訴訟事件及び不正使用による商標登録取消審判事件との関係
この点については、請求人と同じく、被請求人としても、訴訟事件(大阪地方裁判所平成19年(ワ)第11489号事件)の結果が出るまで、本件審判も手続きを中止すべきであると考えている。
(5)商標法第4条第1項第7号について
ア 請求人は、被請求人登録商標が自らの固有の商標であるなどと主張する。確かに開発当初は請求人が被請求人登録商標を使用していたが、平成7年に、被請求人に本件商品の一切が移譲されて以降は、請求人は当然のことながら、被請求人以外に本件商品を納品することを禁じられていたのである。被請求人は、売上が低くとも毎月4000本という大量の商品を前払いで納品させなければならないのに、請求人が他にも本件商品を販売できるというのは余りに被請求人にとって不利であり、現在のように軌道に乗っている商品であればまだしも、当時は全く売れていなかったのであり、そのような商品を毎月定数かつ定額でしかも前払いで購入するなどというのは明らかに一般取引常識に反する。
なお、請求人が独自の販売を行っていたことについては、被請求人はその事実を知って即時に抗議し、請求人も販売を即時に差し控えたという事情がある。
以上の経緯からすれば、被請求人登録商標は明らかに被請求人固有の商標である。
イ 特定の商標の使用者が、その特定の商標をベースに新たに取得した商標が商標法第4条第1項第7号により無効とされないのは自明である。
そうすると、既述のとおり、被請求人商標は被請求人固有の商標であるから、本件商標は何らの問題もないというべきである。
(6)商標法第4条第1項第10号について
ア 被請求人登録商標の周知性について
請求人は、被請求人登録商標が請求人の商標として一般需要者・取引者間に広く認識されていたなどと主張する。
しかしながら、本件商品が一般需要者や取引者間で最も広く認識されるようになって以降の外箱の表示や広告には、請求人固有の商品であることを示す外観はない。すなわち、雑誌等に掲載されている本件商品の広告には、請求人の名称が記載されておらず、被請求人(グリッタージャパン)又は協和興材の名称のみが記載されているのである。また、外箱の記載も請求人の名称のみではなく、グリッタージャパン及び協和興材の名称も付されている。
したがって、少なくとも「請求人の商標として、一般需要者・取引者間に広く認識されて」いたなどというのは全く事実と異なる。
イ 本件商標と被請求人登録商標について
請求人は、被請求人登録商標が請求人の周知商標であることを前提に、本件商標がそれに類似しており、したがって、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当すると主張するようである。
しかしながら、前述のとおり、そもそも被請求人登録商標は請求人の周知商標ではない。
さらにいえば、被請求人登録商標は、「黄金」という意味の一般的な英単語と「輝き」という意味の一般的な英単語を単純に組み合わせたものであり、「PAJERO」のように特殊な単語ではない。そうすると、本件商標は、外観上、「Gold」「Glitter」「EVOLUTION」と3つの単語からなることは一見して明らかであり、「EVOLUTION」の文字が大文字であることは同語を強調しようという意図にすぎないことを考慮すると、外観上は、「GOLD」「Glitter」「EVOLUTTON」の3つに分離して認識されるというべきである。
そして、称呼の点については、わずか15音しかなく、「ゴールドグリッターエボリューション」と一息で発音するのが自然である。
さらに、観念の点からすれば、「進化」とは、「生物が、周囲の条件やそれ自身の内部の発達によって、長い間にしだいに変化し、種や属の段階を超えて新しい生物を生じるなどすること」であり、「○○(商標)エボリューション」という場合には、今までの「○○」とは次元の異なるものという観念を想起させるものである。
以上のとおり、本件商標は、その外観・称呼・観念の各観点から検討しても、被請求人登録商標と類似するものとは到底いえないものである。
いずれにせよ、被請求人登録商標は、そもそも請求人固有の商標とは到底認められない上、本件商標との類似性もないから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号には該当する余地はない。
(7)商標法第4条第1項第15号について
既述のとおり、そもそも被請求人登録商標は請求人固有の商標ではない以上、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはない。しかも、現在、請求人は、協和興材と共同で「パーマラックス」なるカーワックスを販売しており、本件商品の販売をしていない。したがって、いずれにせよ混同を生ずるおそれはない。
以上のとおり、商標法第4条第1項第15号該当性も認められない。
(8)商標法第4条第1項第19号について
前述のとおり、そもそも、被請求人登録商標は請求人固有のものではありえないし、本件商標との類似性も認められない。したがって、商標法第4条第1項第19号に該当する余地はない。
なお、「不正の目的」についても、本件商品はそもそも被請求人の固有の商品なのであるから、「不正の目的」は全くもって認められず、むしろ、本件商品の後継品などとして「パーマラックス」を販売している請求人が不正な利益を得ようとしているといわざるを得ない。
(9)むすび
以上の次第であるから、本件審判の請求は成り立たないことは明らかであるが、別件訴訟事件(大阪地方裁判所平成19年(ワ)第11489号)で請求人の請求は成り立たないことがより一層明らかとなると思料されるから、同訴訟の結果が出るまで本件の審理を中止されたい。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号について
請求人は、請求人商標は請求人の業務に係る商品(本件商品)を表示するものとして周知性を獲得していたものであり、本件商標は、請求人商標を剽窃したものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張し、証拠方法として甲各号証を提出しているので、以下検討する。
(1)本件商標の使用及びその周知性等について
ア 甲第3号証ないし甲第20号証、甲第23号証ないし甲第27号証の8、甲第39号証の1ないし6、甲第40号証によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)請求人の代表者であった林隆温は、「つや出し剤兼コーティング剤」(甲第6号証の特許請求の範囲によれば、「自動車ボディーの光沢保護ワックス、フロントガラスの油膜除去、フロントガラスの撥水コーティング、メッキ部分・プラスティック部分・ビニール部分・レザー部分の光沢保護を同時にできるワックスコーティング剤」。本件商品)を開発し、これを商品化して、該商品の外装に、別掲のとおりの構成よりなる商標、「GOLD Glitter」、「ゴールド グリター」の文字を上下二段に横書きしてなる商標(以下、これらをまとめて「本件使用商標」という。)を表示し(甲第7号証ないし甲第9号証)、平成6年6月頃から販売を開始した。
(イ)平成6年6月頃に販売された本件商品の外装には、本件使用商標の表示、裏面下部には、「株式会社吉野」の文字が表示され、また、同時期の請求人商品の広告用チラシには、本件使用商標のほか、「発売元/株式会社吉野」の文字が表示されていた(甲7号証ないし甲第9号証)。平成6年頃から使用をしている本件商品の梱包用段ボール箱、請求人の封筒・名刺(争いのない事実)には、本件使用商標の表示と共に、「株式会社吉野」の文字が表示されている(甲第15号証ないし甲第17号証)。
なお、段ボール箱、封筒等がいつの時点まで使用されていたのかは、証拠の提出がなく不明である。
(ウ)請求人は、本件商品の販売開始前の平成6年2月から販売開始時である同年6月にかけて、本件商品の案内状約12,000部、リーフレット約80,000部、チラシ約80,000部、ステッカー約1,600部のほか、段ボール箱、化粧箱などを印刷会社から納品された(甲第20号証)。
(エ)雑誌「CarGoods Magazine」(平成14年11月30日、株式会社三栄書房発行)には、「ゴールドグリッターの秘密を探る」と題した特集記事に、本件商品の特性やこれを開発した経緯などが林隆温の話と共に掲載された。さらに、同雑誌の「賢・い・洗・車・新・聞」の頁に「2000-2001 Car Goods of the year/ゴールドグリッターはCar Goods Magazine(三栄書房)カーグッズ・オブ・ザ・イヤー『CarCare部門賞』を受賞」との記載のもとに、「ここが違うゴールドグリッターの秘密」と題する特集記事が掲載され、かつ、GOLD Glitter 総発売元として「株式会社協和興材」の文字が大きく表示され、その下に、製造元として「吉野 グリッタージャパン」の文字が小さく表示された(甲第5号証)。
また、平成14年4月29日発行の同雑誌の広告にも、「2000-2001 Car Goods of the year/ゴールドグリッターはCar Goods Magazine(三栄書房)のカーグッズ・オブ・ザ・イヤー“カーグッズ大賞”を受賞」との記載があり、GOLD Glitter総発売元及び製造元が、上記平成14年11月30日に発行されたものと同様に記載された(甲第40号証)。
さらに、平成14年3月6日付け及び平成14年5月8日付けの日本経済新聞の広告欄には、「ゴールドグリッターセット」として、本件商品が掲載された。なお、これらの請求人商品の広告について、「商品提供:株式会社協和興材」の記載がある(甲第26号証の1及び2)。
(オ)自動車関連の業界誌「オートマート A・M NETWORK」(株式会社自動車産業通信社発行)の「主要カー用品専門チェーン/カー用品売れ筋ランキング」によれば、そのワックス部門において、2004年2月号では2003年(平成15年)11月の「ドライバースタンド」で、「ゴールドリッター」が2位にランクされた(甲第27号証の1)。2004年8月号では、2004年(平成16年)5月の「ドライバースタンド」で、「協和興材/ゴールドリッター」が1位にランクされ、「協和興材/ゴールドリッター2P」が4位にランクされた(甲第27号証の2)。2005年2月号では2004年11月の「ドライバースタンド」で、「協和興材/ゴールドリッター」が1位にランクされ、「協和興材/ゴールドリッター2P」が5位にランクされた(甲第27号証の3)。2005年8月号では2005年(平成17年)5月の「ドライバースタンド」で、「協和興材/ゴールドリッター」が1位にランクされ、「協和興材/ゴールドリッターエボリューション」が5位にランクされた(甲第27号証の4)。2006年2月号では2005年11月の「ドライバースタンド」で、「協和興材/ゴールドリッター」が3位にランクされた(甲第27号証の5)。2006年8月号では2006年(平成18年)5月の「ドライバースタンド」で、「協和興材/ゴールドリッター」が2位にランクされた(甲第27号証の6)。2007年2月号では2006年11月の「ドライバースタンド」で、「協和興材/ゴールドリッター」が2位にランクされた(甲第27号証の7)。2007年8月号では2007年(平成19年)5月の「ドライバースタンド」で、「協和興材/ゴールドリッター」が4位にランクされた(甲第27号証の8)。
(カ)請求人は、平成13年11月2日、平成13年12月18日、平成14年1月17日、平成18年7月31日、平成18年8月1日及び平成18年8月3日に、品名「グリター」又は「グリッター」をグリッタージャパンに納品をした(甲第39号証の1ないし6)。
(キ)被請求人は、平成9年7月24日に、「GOLD Glitter」の文字よりなる商標(被請求人登録商標)を、第3類「つや出し剤」を指定商品として出願し、該出願は、平成10年10月23日に設定登録された(甲第3号証及び甲第4号証)。
イ 前記アで認定した事実によれば、以下のとおりである。
(ア)請求人は、その代表者であった林隆温が開発した「つや出し剤兼コーティング剤」(本件商品)について、本件商標を平成6年頃から使用を開始したものと認めることができる。また、平成18年8月頃まで、本件商品を被請求人が経営するグリッタージャパンに納品したことを窺うことができる。さらに、本件商品の発売当初においては、本件商品やその広告用チラシなどに、本件商標と共に、「株式会社吉野」の文字が表示され、かつ、本件商品の案内状や広告用チラシなどがガソリンスタンド等に配布されたことを窺うことができる。
(イ)しかしながら、本件商品の発売から8年以上経過した平成14年に発行された自動車用品専門誌である「CarGoods Magazine」には、確かに、本件商品の開発者として、請求人の代表者であった林隆温の記載があったことが認められるものの、本件商品の紹介記事においては、その発売元である「株式会社協和興材」の文字が目立つような態様で表示され、製造元としての請求人は、「吉野 グリッタージャパン」として小さく表示されていたにすぎないものであり、日本経済新聞の広告にいたっては、
「商品提供」として「株式会社協和興材」の記載があるのみである。そして
、上記自動車用品専門誌及び新聞における広告は、平成14年にされた各2回のみであり、本件商標の登録出願時までに、本件商品が請求人の業務に係る商品であることを取引者又は需要者に認識させるような形で、広告用チラシを配布したとか、雑誌や新聞に広告をしたという事実を窺わせる証拠の提出はない。
さらに、自動車関連の業界誌「オートマート A・M NETWORK」における「主要カー用品専門チェーン/カー用品売れ筋ランキング」においても、「ゴールドリッター」が上位にランキングされていたことが認められるものの、その取扱者として表示されているのは、「協和興材」である。
加えて、請求人は、本件商品の販売数や売上高を述べるも、これを裏付ける客観的証拠の提出はない。
そうすると、平成14年に発行された雑誌の広告に小さく記載された「製造元/吉野 グリッタージャパン」の文字以外に、本件商標の登録出願日である平成19年3月8日に至るまで、取引者又は需要者の目に触れるような態様で本件商標が請求人の業務に係る商品を表示するものとして使用されていた事実を見出すことはできない。
したがって、本件使用商標は、請求人の業務に係る商品(本件商品)を表示するものとして、本件商標の登録出願日である平成19年3月8日及び本件商標の登録査定日である平成19年7月6日の時点において、その取引者又は需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)本件使用商標の帰属及び本件商標の登録が本件使用商標の剽窃行為であることについて
ところで、商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないと規定しているところ、同規定は、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については、同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。
さらに、同規定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである(知財高裁平成19年(行ケ)第10391号判決)。
これを本件についてみると、本件商標は、商標それ自体には公序良俗違反がないことは明らかである。
一方、請求人の主張によれば、請求人は平成6年9月頃から被請求人と本件商品に関する取引を開始したところ、被請求人は、平成9年7月24日に、「GOLD Glitter」の文字よりなる被請求人登録商標を本件商品とほぼ同一といえる「つや出し剤」について、請求人に無断で出願し登録を受けたこと、請求人は、上記被請求人の行為に対し抗議を試みたこと、平成10年頃からは、グリッタージャパンと協和興材が本件商品の特約店となったこと、平成13年頃に、被請求人が一方的ともいえるやり方で本件商品の販売ルートの変更を指示したこと、平成18年頃に、被請求人が他社に請求人商品の偽造品を製造させ販売したことなどから、請求人と被請求人との間の取引が破綻し、その約2ヶ月後に本件商標の登録出願がされた状況にあったとされる。
しかしながら、請求人が被請求人の被請求人登録商標を登録出願した行為に対し抗議を試みたという事実を明らかにする証拠の提出は一切ない。また、前記(1)ア(イ)で認定のとおり、本件商品が発売開始された平成6年当時は、本件商品の外装、広告用チラシ等に、本件使用商標と共に、請求人の商号が表示されていたが、その後8年以上経過した平成14年における広告には、請求人の名称は、「吉野 グリッタージャパン」として小さく表示されているのに対し、発売元である「株式会社協和興材」が目立つ態様で表示されているか、あるいは、発売元の表示のみである。さらに、本件使用商標が請求人のハウスマークとしても使用されるほど、請求人にとって重要な商標であるとすれば、請求人は、本件使用商標について商標登録出願をすることが可能であったにもかかわらず、これを怠っていたといわざるを得ないし、被請求人登録商標についての商標権の譲渡や使用権の許諾を得るなど適切な措置を採ることも可能であったにもかかわらず、このような措置を採ったと窺わせる証拠は見出せない。そして、本件商品の一取引者たる被請求人が一方的に製造元の商品販売ルートなどを変更するなどの行為は、通常の商取引においては到底考えられない行為であることを併せ考慮すると、むしろ、被請求人が主張するように、平成7年頃に、請求人と被請求人との間において、本件商品に関する権利の移譲があったのではないかとの疑問さえ生ずるものである。
そうすると、本件使用商標が請求人の創作に係る商標であることは認め得るとしても、その後の本件使用商標の帰属は、請求人及び被請求人が真っ向から対立する主張を行っている一方、これらの主張を裏付ける証拠の提出が一切ないものであるから、これを認定することはできない。したがって、本件商標は、本件使用商標を剽窃して出願、登録されたものと、直ちに認めることはできない。
そして、本件のような被請求人と本来商標登録を受けるべきと主張する請求人との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであることは、前記判決が判示するところであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でないというべきである。
(3)以上によれば、本件商標は、商標自体が公の秩序又は善良の風俗を害する商標でないことは明らかであり、また、その出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認めることができないような場合にも該当しないというべきである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものではない。
2 商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号について
前記1(1)イの認定のとおり、本件使用商標は、請求人の業務に係る商品(本件商品)を表示するものとして、本件商標の登録出願日である平成19年3月8日及び本件商標の登録査定日である平成19年7月6日の時点において、その取引者又は需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
そうすると、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、該商品が請求人又は請求人と営業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということができない。また、本件商標は、不正の目的をもって使用する商標ということもできない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に違反してされたものではない。
3 なお、請求人及び被請求人は、別件民事訴訟事件(大阪地方裁判所平成19年(ワ)第11489号)の結果が出るまで本件の審理を中止されたいと述べているが、上記民事訴訟における請求は民事上の差止請求並びに損害賠償請求事件であるのに対し、本件審判は、商標登録無効審判事件であり、民事訴訟と本件審判とは目的が異なることから、本件の審理を中止する必要はないものと判断した。
また、本件審判の審理終結後においても、被請求人は、平成21年9月15日付け(16日差出)審理再開申立書(乙第1号証を添付。)を提出しているが、その趣旨は、前述の内容と重複するものであって、前記判断に影響を与えるものとは認められないから、本件の審理再開は行わないこととした。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第15号及び同第19号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲



(色彩については、原本を参照されたい。)
審理終結日 2009-09-07 
結審通知日 2009-09-10 
審決日 2009-09-30 
出願番号 商願2007-20300(T2007-20300) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (X03)
T 1 11・ 271- Y (X03)
T 1 11・ 25- Y (X03)
T 1 11・ 22- Y (X03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 謙司 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 瀧本 佐代子
小畑 恵一
登録日 2007-07-27 
登録番号 商標登録第5065800号(T5065800) 
商標の称呼 ゴールドグリッターエボリューション、グリッターエボリューション、ゴールドグリッター、エボリューション 
代理人 川瀬 幹夫 
代理人 谷口 光雄 
代理人 谷口 哲一 
代理人 小谷 悦司 
代理人 松山 和徳 
代理人 平野 和宏 
代理人 薬袋 真司 

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