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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199831328 審決 商標
取消200530788 審決 商標
審判199830905 審決 商標
取消2008300167 審決 商標
審判199830904 審決 商標

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審決分類 審判 全部取消 商53条の2正当な権利者以外の代理人又は代表者による登録の取消し 無効としない Y12
管理番号 1218357 
審判番号 取消2009-300361 
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2009-03-27 
確定日 2010-06-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第4808365号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4808365号商標(以下「本件商標」という。)は、「SPORT TECHNIC」の文字を書してなり、平成16年4月22日に登録出願、第12類「自動車並びにその部品及び附属品,陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。),陸上の乗物用の機械要素,乗物用盗難警報器,陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。),二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品」を指定商品として、平成16年10月8日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第30号証を提出した。
(1)請求の理由
ア 本件商標は、パリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって、当該権利にかかる商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品とするものであり、かつ、その商標登録出願が、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで、その代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であったものによってされたものであるから、商標法第53条の2の規定により取り消されるべきである。
イ 本件商標について
本件商標は、1記載のとおりである(甲第1号証)。
ウ パリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者であることについて
請求人は、米国特許商標局の商標主登録簿上において、別掲に示すとおりの構成からなり、後記(1)に記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務とする登録第3171805号商標(以下「引用商標1」という。)を有している(甲第1号証の2)。
なお、引用商標は平成13年9月6日に出願され、平成18年11月14日に米国特許商標局の主登録簿に登録されたものであるが、米国法上、商標に関する権利は使用によって生じるところ、引用商標は第7類の商品について2002年3月1日、第12類の商品について2002年1月1日、第37類の役務について2001年12月1日に商業的使用が開始されているから、本件商標の出願日において、米国法上引用商標につき商標に関する権利を有していた。
また、請求人は、スイスの商標登録原簿上において、「SPORTEC」の文字からなり、後記(2)記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務とし、登録日を1997年8月20日とする登録第444680号商標(以下「引用商標2」という。)を有している(甲第1号証の3)。
さらに、請求人は、世界知的所有権機関の商標登録原簿上において、「SPORTEC」の文字からなり、後記(3)記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、国際登録日を1997年12月2日とし、ドイツ、オーストリア、フランスを指定国とする国際登録第684182号商標(以下「引用商標3」といい、引用商標1ないし3を総称して「引用商標」というときもある。)を有している(甲第1号証の4)。
よって、請求人は、パリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者である。
ウ 請求人及び被請求人の関係について
(ア)請求人は、ポルシェ、アウディ、ベンツ等のドイツ製自動車のエンジン及び外装、ブレーキ等の部品の改造部品(所謂「チューンアップパーツ」)の製造販売並びにこれら部品を装着した自動車(完成車)の販売及びこれら部品を用いた自動車の改造を業とするスイス法人であり、平成7年(1995年)に設立された。設立以来、請求人はその商品及び役務について引用商標を使用しており(甲第2号証 各枝番を含む。)、請求人商品の性能と信頼性の高さと相俟って、自動車並びにその部品及び附属品、自動車の改造の商品及び役務の分野において、引用商標は、請求人が製造販売する商品及び請求人が提供する役務の出所を表示する商標として、スイス本国はもちろんのこと、ドイツ、スペイン等の欧州各国、米国、中華人民共和国及びわが国において、自動車とりわけ欧州性能車の需要者・取引者の間において、周知著名になっている。
(イ)請求人商品の販売金額
甲第3号証は平成9年(1997年)から平成18年(2006年)までの10年間にわたる請求人商品の売上高の推移である。スイス国内の売上高と輸出による売上高を合算した合計売上高は平成9年に100万スイスフラン(約1億円)であったが、請求人商品がその性能と信頼性の高さによって市場における認知度を高めるにしたがって、平成13年には6倍以上の650万スイスフラン(約6億5千万円)に達し、その後も600万スイスフラン(約6億円)前後で推移している。
わが国においても、平成12年ごろから被請求人が代表取締役を勤めていた株式会社スポーテックジャパン(以下「スポーテックジャパン」という。)を通じて請求人の商品が輸入され、雑誌において「話題のスポーテックチューン上陸間近」などと紹介され、「東京オートサロン」などの自動車ショーに出展するなどした結果、平成13年には725,750スイスフラン、平成14年には686,650スイスフラン、平成15年には750,599スイスフランの売上を実現したが、後述のとおり、被請求人が不当に本件商標並びに登録第4768661号商標及び登録第4819143号商標を登録したことによって、平成17年以降は、請求人商品の日本国内における輸入・販売が出来ない状況になっている。
(ウ)外国雑誌における広告
平成14年にはドイツ連邦において権威の高い車専門誌である「オートビルド」誌において、請求人の商品を装着した改造車が平成14年の「チューニングカー・オブ・ザ・イヤー」(読者が選ぶチューニングカー(ミドルクラス))に選ばれている(甲第4号証の1)。また同様にドイツ連邦において最も権威のある車専門誌「スポーツオート」誌においても、請求人の商品を装着した改造車が読者が選ぶチューニングカー(スポーツカー部門)の第1位に選ばれている(甲第4号証の2)。
請求人カタログ(甲第2号証の8)は、請求人商品を装着した改造車が受賞・達成した賞や記録を列記したものである。平成12年には、請求人の自動車用ホイールがスイスの「Auto Illustrierte」誌において読者が選ぶ「年間最優秀ホイール賞」第1位を獲得している。平成13年にはドイツ連邦の雑誌「VMAXX」誌で請求人の取扱いにかかる改造車が「読者が選ぶスポーツカー」第1位を獲得し、請求人の自動車用ホイールが前掲「Auto Illustrierte」誌において読者が選ぶ「年間最優秀ホイール賞」第1位を獲得している。平成15年には、請求人の取扱いにかかる改造車が前掲「Auto Illustrierte」誌において「読者が選ぶスポーツカー及びクーペ」第1位及び「読者が選ぶセダン及びステーションワゴン」第2位を獲得し、アメリカ合衆国でも「European Cars」誌において「編集者が選ぶ1.8Tチャレンジ」第1位を獲得している。また、請求人の製造販売にかかる自動車用ホイールが前掲「Auto Illustrierte」誌において「読者が選ぶ自動車用ホイール」第3位を獲得している。
また、請求人が平成15年に頒布したプレスリリースにおいても、多数の自動車専門誌に請求人及び請求人の商品が紹介されたことが報道されている(甲第5号証の1ないし7)。
この他、請求人及び請求人の取扱いにかかる商品は、スイス及びドイツ連邦のみならず、日本、中華人民共和国、ロシア等、多数の国の自動車専門誌でも報道されている(甲第6号証)。
(エ)国際自動車ショーヘの出展
請求人は、平成13年にはスイスのチューリッヒ市で行われた自動車ショー「Auto Zurich 2001」及び日本で行われた「東京オートサロン」、平成14年には千葉県幕張メッセで開催された「東京オートサロン」、平成15年には11月4日ないし7日にかけて米国ラス・ベガス市で開催された自動車ショー「Sema Las Vegas 2003」及びドイツ連邦エッセン市で開催された「MotorShow Essen 2003」、平成16年及び平成18年には本国スイスのジュネーブ市で開催された「Auto Salon Genf 2004」等、世界各国の自動車ショーに自社ブースを設営して出展しており、当該ブースでは請求人の商品を装着した自動車が展示されると共に、引用商標が大々的に表示された(甲第7号証)。
(オ)わが国における広告・報道記事
わが国においても、請求人の取扱いにかかる商品及び役務は、多数の自動車専門誌において大々的に報道された。
まず、請求人は、平成13年1月に開催された「東京オートサロン」に自社ブースを出展し(甲第12号証の10ほか)、請求人商品や請求人商品を装着した改造車両を展示した。さらに、同年10月3日及び4日の両日において、神奈川県足柄郡の「箱根プリンスホテル レイクサイドアネックス」において、報道関係者を招き「プレス試乗会」を実施した(甲第10号証)。
平成14年1月には、当時日本における請求人商品の輸入販売代理店であったスポーテックジャパンを通じて、日本市場向けの請求人商品のカタログを作成・頒布しており、当該カタログにおいては引用商標が大々的に使用されている(甲第11号証)。
これらの営業活動をうけて、わが国における自動車の需要者・取引者を購読者とする多数の自動車専門誌において、請求人と請求人が製造、販売ないし提供する商品や役務が大々的に報道されるようになったのである(甲第12号証の1ないし55)。
(カ)請求人と被請求人の関係
(a)スポーテックジャパンは、請求人の日本における輸入総代理店であった。
請求人は、平成12年3月頃より、当時請求人のマーケッティング担当ディレクターであったイエンツ・ハウナー氏が個人的に知人関係にあったドイツ在住の日本人岡本寿一氏(以下「岡本氏」という。)を通じ、従前より請求人のチーフ・エンジニアであるウルリッヒ・ホーデル氏と個人的に知人関係にあった被請求人との間で、我が国における請求人製品の輸入販売事業を開始するための交渉を開始した(甲第13号証1ないし5)。
被請求人は、平成12年11月15日に株式会社ディギットパワージャパンをスポーテックジャパンに変更すると共に、同社の代表取締役に就任した。請求人との交渉・連絡において被請求人の代理人としての役割を担っていた岡本氏は同社の取締役に就任した(甲第14号証)。
スポーテックジャパンは、平成12年以降平成15年頃まで、請求人商品の日本における輸入販売代理店として、継続的に請求人商品を日本に輸入し、日本国内において販売するとともに、日本国内におけるプレス発表会の開催(甲第10号証)、日本語ホームページの開設、自動車ショーヘの参加(甲第7号証ほか)、日本人ジャーナリストによるスイスの請求人本社見学旅行の開催、雑誌等への広告掲出(甲第12号証の12ほか)などを行った。
スポーテックジャパンは、請求人との取引の開始当初より、請求人製品の日本における輸入販売代理店として事業活動を行っていた。このことは、雑誌上で、スポーテックジャパンが「日本でのスポーテックの総代理店であるスポーテックジャパン」(甲第12号証の8)、「ハウナー氏はスポーテックジャパンの設立を足がかりにして、スポーテックを知名度という点からも既存の大手チューナーと比肩するものに導こうとしているのだ。」(甲第12号証の9)などと報道されている事実、スポーテックジャパンの取締役であった岡本氏が「スポーテックの日本進出にあわせて、設立されたスポーテックジャパンの代表取締役。」と紹介されている事実(甲第12号証の10)、平成13年9月1日付で被請求人が「代理店各位殿」として取引先に送付した「スポーテックジャパン代理店加入のご案内」とする書面(甲第10号証)において「本国(チューリッヒ スポーテックAG)・スポーテックジャパンより新進した製品をお届けできるよう社員一丸となってがんばって参ります。」などと記載している事実、雑誌における被請求人個人の紹介記事において「スイスに本拠を置くチューナー、スポーテックの日本代理店ともいえるTMSの綱島氏」と記載されている事実(甲第16証)から明らかである。また、請求人は、被請求人及びスポーテックジャパンに対して「スポーテック」、「SPORTEC」及び引用商標が請求人が有する商標であって、請求人の許諾によってのみ使用可能であることを明確に通知していた(甲第17号証の31)。
商品の発注及び代金の支払いに関する請求人とスポーテックジャパンとの間の連絡は、ドイツ語が堪能な岡本氏を通じて行われた(甲第17号証の1ないし39)。請求人商品の発注はスポーテックジャパンから請求人に対して行われ、商品はスイスの請求人本社からスポーテックジャパンの所在地に納入された。納入された商品に対する請求書は請求人によって発行され、スポーテックジャパンがこれを支払った(甲第18号証)。このように、請求人と被請求人との間には、平成12年以降、以下に述べるように、スポーテックジャパンが代理店契約の継続を辞退した平成15年12月までの期間、継続的な取引関係が存在した。
以上のとおり、平成12年から平成15年12月までの間、スポーテックジャパンは、請求人の日本における輸入総代理店として事業を行い、対外的にもそのように自認すると共に、報道機関や需要者・取引者等の第三者にとっても請求人の日本における輸入総代理店であると認識されていた。
(b)輸入代理店関係及び使用許諾の解消
平成15年8月8日、スイスのチューリッヒ近郊シュリーレンにおいて請求人代表者、被請求人及び岡本氏の間で行われた会議において、被請求人は請求人に対し、請求人が提供していた既存の商品ではスポーテックジャパンの売上高と利益を確保することができないと主張し、請求人のブランド「SPORTEC」の日本市場向けセカンド・ブランドとして「SPORTEC DESIGN」を立ち上げ、同ブランド名で日本車用の部品(ホイール・リムなど)を販売することを提案した。一方、同会議の席上、請求人は被請求人に対し、請求人の文書による許可なしに、Sportecブランド或いはこれらの使用に関連していかなる画像、図面、車両、車両パーツ及びテスト報告も作製、公表、出版或いは使用してはならないことを明確に通知した(甲第19号証の1ないし3)。
平成15年8月8日の会議の内容を受けて、請求人は自動車用ホイールを設計し、平成15年9月11日シュリーレンにおいて再度被請求人及び岡本氏と会議を行った(甲第20号証の1)。会議の席上、請求人は新たに日本車向けに設計した自動車用ホイールを提示し(甲第20号証の2)、請求人と被請求人はホイール・リムの技術的なスペック(仕様)と販売契約の内容について協議し、同年9月30日までに最終的な販売契約を締結することを目標とすることについて合意した。また、請求人は、被請求人に対し、販売契約書のドラフトを提示した(甲第20号証の3)。当該販売契約書ドラフトにおいて「SPORTEC及びSPORTEC JPラインの商標は、契約期間中もその後も、販売者(引用注:請求人)が占有する」ことが明確に記載されていた。
スポーテックジャパンは、日本における金融機関や取引先との交渉のためにレター・オブ・インテントが必要であると主張したので、請求人はスポーテックジャパンのかかる要請に応じ、平成15年9月12日、日本市場向けに日本車用の特別仕様のホイール・リムを製造することを決定したこと、ホイール・リムは「SPORTEC S-LINE」のブランドで販売すること、デザインは請求人が製造して世界的に人気商品となっていた「MONO/10」ホイール・リムをベースとしたものにすること、日本市場へのホイール・リムの独占的輸人権をスポーテックジャパンに与えること、同年9月30日までに日本市場向けホイール・リムの製造販売に関する契約条件の詳細を確定し、最終的な契約が請求人とスポーテックジャパンの間で締結されることを条件として、平成16年初めまでにホイール・リムの供給を開始する計画であること等を記載したレター・オブ・インテントを発行した(甲第21号証)。
同年9月18日、請求人は、スポーテックジャパンにホイール・リムの最終デザインと「SPORTEC DESIGN」と本件商標の商標使用に関する最終的なプロポーザルをスポーテックジャパンに提供した。
同年9月22日、請求人は、7500セットのホイール・リムの販売に関するドイツ語の詳細な商品販売契約書の草案をスポーテックジャパンに送付した。しかし、技術上及び商取引上明らかにしなければならない事項があり、そのための情報提供をスポーテックジャパンに求めたが、スポーテックジャパンはこれらの情報を請求人に対して提供しなかった。
ところが、平成15年10月、スポーテックジャパンは、日本市場向けホイール・リムの製造販売に関する契約を締結しないまま、請求人に何ら告げることなく、また請求人の許諾を得ることもなく、東京モーターショーに出展し、インターネット上でその商品を宣伝した。東京モーターショーにおいて、スポーテックジャパンは、「SPORTEC DESIGN」ブランドの部品を装着した二台の日本車(完成車)を展示し、ホイール・リムのみならず、様々な日本車用の改造部品が「SPORTEC DESIGN」ブランドで販売されるかのような印象を与えた。しかしながら、請求人は、その時点ではそのような広範な種類の部品を日本車向けに製造・供給する意図は全くなく、ホイール・リムの製造についてのみスポーテックジャパンに対して同意を示していたにすぎないのであって、しかも、これに対してスポーテックジャパンは、請求人が提示した販売契約書の草案に対する回答すらしていなかったのである。スポーテックジャパンによるかかる行動から、スポーテックジャパンが、請求人とは関係なく独自に日本市場及び極東市場を対象として「SPORTEC DESIGN」ブランドの自動車部品の販売活動を展開することを企図しているのではないかとの重大な懸念を抱いた請求人は、平成15年11月6日、岡本氏に宛てて警告書を送付し、(a)請求人の許諾なしに東京モーターショーに出展したことに対する苦情を述べ、(b)スポーテックジャパンの事業活動を日本市場以外に拡大しないよう要求し、(c)請求人による明示された同意がない限り請求人の商標である「SPORTEC」及び「SPORTEC DESIGN」を使用しないように要求した(甲第22号証)。
これに対して、スポーテックジャパンは、平成15年11月14日付で請求人に対して回答書を送付した。回答書において、スポーテックジャパンは「両社にとって有益なパートナーシップ」を継続したいとの希望を述べ、東京モーターショーヘの出品は、計画されていたホイール・リムの潜在的顧客を惹きつけるために取りうる唯一の手段であったと弁解し、スポーテックジャパンは中国市場に事業を拡大する意思は有していないとも述べた(甲第23号証)。
その後、ドイツ連邦のエッセンで開催されたモーターショーの場で、請求人代表者と被請求人及びスポーテックジャパンの間で会議が行われた。請求人と被請求人及びスポーテックジャパンは、書面による販売代理店契約とライセンス契約の締結の可能性について協議したが、請求人がスポーテックジャパンに対して商標「SPORTEC DESIGN」を付した自動車部品の製造は請求人の承認を得ない限り行ってはならず、これらの部品の製造については請求人が主導権をとるべきことを告げたところ、被請求人は立腹してそのまま会議の場を立ち去ったのである。
その後、平成15年12月2日付の書面により、請求人が被請求人及びスポーテックジャパンに対し、平成16年度について従前どおり請求人商品の日本における輸入販売代理店としての関係を継続する意向であれば、書面による販売代理店契約を締結することが前提条件であることを通知した(甲第24号証)。これに対して、スポーテックジャパンは、平成15年12月9日付の電子メールにおいて、請求人との「協力関係」を解消すると述べて、平成16年以降の販売契約を請求人との間で締結しないとの意思表示をした(甲第25号証)。
エ 商標の同一又は類似について
(ア)本件商標について
本件商標は、右に約20度傾斜したイタリック体で「SPORT TECHNIC」の文字を横一連に書してなる商標である。本件商標からはその構成文字に応じて「スポートテクニック」の称呼が生じるが、第4音の「ト」と第5音の「テ」はともに同行音に属し、子音「t」に従属する母音が異なるのみであり、母音「o」と「e」が極めて近似した音であること、「t」が歯茎摩擦音で日本人にとっては連続して発音し難い音であることから、これが連続して「スポーテクニック」のように発音される。「SPORT」も「TECHNIC」もわが国において広く親しまれた平易な英単語であることから、これより「スポーツ」と「技術」の観念を生じる。
(イ)引用商標について
引用商標1は、黒色の背景の上に、右に約20度傾斜させた欧文字の「S」をモチーフとした図形(以下「S字状図形」という。)を大きく表示し、その下に引いた横棒を介して、右に傾斜したイタリック態様で、左から右へ「S」、「P」(ただし縦棒の上半分が省略されたデザイン書体となっている。)、「O」、「R」(ただし、文字左端の縦棒が省略されたデザイン書体となっている。)、「T」を記載し、三本の横棒を並行に配置した記号を介して「C」の各文字ないし記号を、小さく横書きしてなるものであり、これを全体としてみれば、「SPORTEC」の欧文字をデザイン化したものとして認識・把握される。該「SPORTEC」は造語よりなるものであるが、一見して、平易で我が国においても広く親しまれた英単語である「SPORT」と「TECHNIC」を結合して縮めた短縮語と認識されるものであり、前半の5文字「SPORT」から「スポーツ」の観念が生じるとともに、後半「TEC」は英語においても「TECHNICAL」、「TECHNICIAN」の略語として用いられ(甲第28号証の1)、また、「テク」の語がわが国において「技術、技巧」の意味で複合語をつくる外来語として定着しており、「財テク」(財務のハイテクノロジー)、「ハイテク」(高度・先端的な技術、ハイ・テクノロジーの略)、「バイテク」(バイオテクノロジーの意)「ローテク」(low technology 日常品の生産に用いられるような低次の技術に関するさま)(甲第28号証の2)、「ドラテク」(自動車等の運転技術)等のように使用されて親しまれていることに照らせば(甲第28号証の3)、当該「TEC」(テック、テク)の文字からは「技術」の観念が生じる。
引用商標2及び3は「SPORTEC」の欧文字を横一連に書してなるものであり、これよりはその構成文字に応じて、「スポーテック」の称呼が生じる。「SPORTEC」は造語よりなるものであるが、上記のとおり、前半の5文字「SPORT」から「スポーツ」の観念が生じるとともに、後半「TEC」(テック、テク)の文字からは「技術」の観念が生じる。
(ウ)本件商標と引用商標との対比
そこで、本件商標を引用商標と対比するに、以下のとおりである。
(a)観念について
本件商標と引用商標からは、ともに「スポーツ」と「技術」の同一の観念が生じる。
(b)称呼について
本件商標から生じる「スポートテクニック」ないし「スポーテクニック」と引用商標から生じる「スポーテック」を対比すると、両称呼は、聴覚上需要者・取引者の注意を強く惹く前半部分に位置する「スポーテク」(スポーテック)の音構成を共通にする。さらに、上述のとおり「テクニック(TECHNIC)」の語が日本語では「テク」のように短縮されて用いられることからすれば、本件商標の末尾の「ニック(NIC)」の音は容易に聴き落とされ、省略されて発音されることも大いにありうる。してみれば、両称呼は極めて近似性が高く、相当によく似ているということができる。
(c)外観について
本件商標「SPORT TECHNIC」は、引用商標2及び3を構成する「SPORTEC」の7文字をそっくりそのまま包含し、とりわけ、看者の注意を惹きやすい語頭部分に位置する5文字を共通にしているから、外観上も近似性の高いものである。
(d)まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標からは同一の観念が生じ、称呼も相当によく似ており、外観上も近似性の高いものである。
これらを総合すれば、本件商標と引用商標は、同一の商品・役務に使用した場合には、需要者・取引者において出所の混同を生じるほどに相紛らわしく、引用商標に類似するというべきである。
本件商標と引用商標との間に、厳密には称呼や外観の上で相違する点があるとしても、両者から生じる観念が全く同一であり、本件商標を構成する「SPORT」と「TECHNIC」の2語を省略して造語としたものが引用商標1に含まれる「SPORTEC」や、引用商標2及び3であるということもできる。このような観念上の同一性を考慮し、上に述べた称呼・外観上の類似性・近似性を勘案すれば、本件商標は引用商標に類似するものと優に認めることができる。
この点、東京高等裁判所平成14年(行ケ)第377号平成15年7月3日判決(甲第29号証)は、商標「ふぐの子」と商標「子ふぐ」を対比して、両者は「観念においてほぼ同一であるといいうる程度によく似ており、称呼・外観においても相当によく似ているということができる」として、「両商標の観念において共通するところがあるとしても(引用注略)称呼上明瞭な差異を有するばかりでなく、外観上の明白な差異を含め商標のもつ伝達能力を総合的にみたときに、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標である」とした審決を取り消して、「両商標は、反対に解すべき特段の事情が認められない限り、全体として、商標法4条1項11号にいう意味で類似するというべきである」と判断している。
本件商標と引用商標の対比にあっても、上述のとおり、両者が観念において完全に同一であって、構成上、本件商標を構成する2語を短縮して結合したものが引用商標1に含まれる「SPORTEC」や、引用商標2及び3であるという点や、称呼・外観上の共通点も多いことに照らせば、両商標は全体として類似するというのが相当であって、これを反対に解すべき特段の事情も認められない。よって、本件商標は引用商標に類似する。
オ 商品の同一又は類似について
本件商標の指定商品「自動車並びにその部品及び附属品,陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く),陸上の乗物用の機械要素,乗物用盗難警報機,陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。),二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品」は、引用商標1の指定商品のうち第7類「内熱機関用の燃焼部分,すなわち、点火コイル・分配器・加速器・アノード・蓄電器・(分配器の)スイッチ・コンデンサー、内熱機関用の点火用マグネト・排気管・多岐管・排気多岐管により主に構成される車両排気システム・車両排気システム用のサイレンサー、地上用車両用のエンジン・カップリング、及び車両エンジン用の中間冷却器」及び第12類「自動車、地上用車両用のチューンエンジン、車体、自動車のシャーシ、車両のボンネット、車両に適合した日よけ、車両用の軸受ジャーナル、車両用の車軸、自動車車輪用のバンド、自動車用のトーションバー、地上用車両用の車体、地上用車両用のブレーキ、地上用車両用のブレーキ・ライニング、地上用車両用のブレーキ・セグメント、地上用車両用のブレーキ・シュー、自動車用のバンパー、地上用車両のガソリンタンク用キャップ、自動車車輪用のスポーク・クリップ、自動車用のクラッチ、地上用車両用のトルクコンバーター、地上用車両用のトランスミッション・カップリング、地上用車両用のシート・カバー、地上用車両用の方向指示器、自動車用のスポーツ・ステアリング・ホイール及びアルミホイル、自動車用自由車輪、地上用車両用の駆動歯車、地上用車両用のギア・ノブ、自動車用の空力構造部品、地上用車両のためのアルミ・ペダル、車両シート用のセキュリティ・ハーネス、車両エンジン用フード、車両用フード、ハブキャップ、自動車車輪用ハブ、自動車車輪用リム、自動車用スポーツ・シーツ、車両用サスペンション・ショック・アブソーバー、自動車用ショック・アブサーバー、車両用緩衝バネ、スポーツ・カー、地上用車両用変速装置、及び地上用車両用車台」、引用商標2の指定商品のうち第7類「機械および工作機械;エンジン(農耕用作業車用エンジンを除く);クラッチおよび駆動ベルト(農耕用作業車用を除く)」及び第12類「車両;陸上、空中、水上の輸送手段に用いられる機器」並びに引用商標3の指定商品のうち第7類「機械、工作機械;エンジン(陸上車のエンジンは除く);連結装置、伝動装置(陸上車のエンジンは除く)」及び第12類「輸送機関;陸上、航空、水上での輸送機械」と対比すると、その生産部門、販売部門、原材料及び品質、用途、需要者の範囲が完全に一致するものである。よって、本件商標は、引用商標に関する請求人の権利に係る商品と同一又は類似する商品を指定商品とするものである。
カ 被請求人が、本件商標の登録出願の日前1年以内に、請求人の日本における代理人と実質的に同一視できる者であったことについて
商標法第53条の2は、商標法に関する権利を有する者の代理人もしくは代表者が、その権利者との間に存する信頼関係に違背して正当な理由がないのに同一又は類似の商標登録をした場合に、その取り消しについて審判を請求できる旨の規定である。したがって、商標法第53条の2にいう「商標に関する権利を有する者の代理人又は代表者」は、商標権者から何らかの代理権を授与された者或いは法人である商標所有者の代表者のように狭く解釈すべきではなく、広く商標権者の商品を輸入し販売する者を指し「契約に基づき継続的な法的関係があるか、少なくても、継続的な取引から慣行的な信頼関係が形成され、外国の商標権者の販売体系に組み込まれている者であることを要する」と解するべきであり、かつ、それをもって足りるというべきである(甲第26号証の1及び2)。
特許庁における審決例においても、「商標法第53条の2の規定は、パリ条約6条の7の規定を受けて昭和40年法律第81号により追加された規定であって、該条約の規定の趣旨よりすれば、本条の代理人、代表者の地位にある者の範囲は、特約店、輸入総代理店等外国商標権者との間に、その商品の販売について特別の契約上、慣行上の関係を有する者が含まれると解されるとみるのが相当である」のように述べられており、商標法第53条の2の規定による取消審判の被請求人が同条にいう「代理人又は代表者」に該当するか否かは、単に請求人と被請求人との間に直接書面による取引契約が存在するか否かに囚われることなく、両者間の取引の内容や信頼関係の程度等に照らして実質的に「代理人」と同一視することができるか否かに基づいて判断されている(甲第27号証の1ないし6)。
本件においては、スポーテックジャパンは、遅くとも株式会社ディギットパワージャパンの商号を株式会社スポーテックジャパンに変更した平成12年11月頃には請求人の取扱いにかかる商品の日本における輸入総代理店として事業活動を開始していた。そして、請求人とスポーテックジャパンの継続的関係は、スポーテックジャパンが請求人に対して平成16年以降の販売契約を締結しないとの意思表示をした平成15年12月9日まで継続した。
してみれば、スポーテックジャパンは、平成12年11月ごろから平成15年12月までの期間、請求人の輸入販売総代理店若しくは輸入販売総代理店に準ずる地位にあったのであり、スポーテックジャパンにおいてもそのことを自認し、対外的にもそのように表明していた(甲第10号証ほか)。
このように、スポーテックジャパンが本件商標の出願の日より起算して1年以内の時期に、請求人が製造販売する請求人の当該権利にかかる商品に相当する自動車用部品について日本の輸入元となり、略3年以上の期間にわたって継続的に請求人商品を販売していたことからすれば、スポーテックジャパンは実質的に請求人の日本国内における輸入販売総代理店を任ずる者であったということができる。
そして、スポーテックジャパンの事業活動は、同社の代表取締役である被請求人と不離一体の関係にある行為であり、被請求人はスポーテックジャパンと実質的に同一視できる立場の者ということができるから、被請求人は、本件商標の登録出願の日前1年以内において請求人の輸入販売総代理店の地位にあったとみて何ら差し支えはない。
キ 被請求人が、請求人の承諾を得ないで、本件商標の登録出願をしたことについて
請求人が、被請求人に対して本件商標の登録出願をすることについて承諾を与えた事実はない。
ク 請求人が正当な理由がないのに、本件商標の登録出願をしたことについて
被請求人が、請求人の承諾を得ないで本件商標の登録出願をしたことについて何ら正当な理由はない。
ケ 結語
以上、本件商標は、パリ条約の同盟国であるアメリカ合衆国、スイス、ドイツ、オーストリア及びフランスにおいて請求人が有する商標に関する権利に係る商標に類似する商標であって、当該権利に係る商品及び役務に類似する商品を指定商品とするものであり、かつ、その商標登録出願は、正当な理由がないのに請求人の承諾を得ることなく、本件商標の出願の日前1年以内に請求人の代理人の立場にあった被請求人によってされたものである。
(2)弁駁
ア 本件商標は引用商標に類似する。
(ア)観念について
本件商標は「SPORT」と「TECHNIC」の2語を、間に僅かな間隙を介して、やや右に傾斜したイタリック体の太文字をもって横書きにしたものである。したがって、本件商標からは「SPORT」の文字部分から「スポーツ」の観念が生じ、「TECHNIC」の文字部分から「技術」の観念が生じる。そして、「SPORT TECHNIC」全体として何らかのまとまった意味合いを有する複合語ではないから、本件商標からは、「スポーツ」の観念と「技術」の観念が認識されるものである。
他方、引用商標「SPORTEC」は、一見して「スポーツ」の意味を有する英単語として我が国国民の間でも広く認識され親しまれた語である「SPORT」の文字を包含するから、これよりは、「スポーツ」の観念を生じるものである。また「TEC」の文字部分からは「技術」の観念を生じるものでもある。
加えて、ある商標からどのような印象、記憶、連想が生じるかは、単に商標の外形のみに注目するのでなく、その商標が使用される商品との関係においても考察されるべきである。この点、引用商標は、例えば甲第11号証において「オンラインチューニングを可能にする次世代テクノロジー」、「スポーテックAGは、その技術力を基盤にスイスの精密加工技術を駆使したターボチューンやメカニカルチューン、そしてオリジナルのサスペンションシステム、ブレーキシステムなどにおいて圧倒的なパフォーマンスを実現しているのです」などと紹介されているように、引用商標が、特殊合金を使用した軽量で強度の高いホイールの装着や、燃料噴射装置やターボチャージャーの特性を変更するコンピュータROMの書き換えなどの技術的手段によって、スポーツ走行を愉しむための自動車(スポーツ・カー)のチューン・アップ(性能の向上を目的とする改造)に用いられる商品や役務に使用されるものとして周知・著名であるという取引の実情を考慮すれば、なおのこと、需要者・取引者にあっては、引用商標が「SPORT」と「TEC(HNIC)」の2語を結合してなる造語と容易に理解するというべきである。したがって、引用商標に接した需要者・取引者はこれより「スポーツ」と「技術」の2つの観念を認識し、把握することになる。
被請求人は、引用商標「SPORTEC」は造語であり、「造語からは特定の意味が生じないとされるのが通例である」と主張する。しかし、造語であるからといって、常に何らの観念も生じないということはない。引用商標「SPORTEC」のように、「SPORT」や「TEC」のような平易で広く親しまれた語が顕著に包含される場合には、その平易で広く親しまれた語に相当する部分に応じた観念が生じることもある。
また、被請求人は「SPORTEC」から「SPORT」を切り離すと「EC」であるから、引用商標から生じる観念は「スポーツ」と「欧州共同体(EC)」であるなどと主張する。しかし、被請求人の分析手法は極めて形式的で、機械的に過ぎるといわざるをえない。商標に接する需要者・取引者が抱く印象・認識は、被請求人の主張するような形式的、機械的分析を超えた、柔軟かつ多様なものであって、「SPORTEC」に包含される「SPORT」の部分から「スポーツ」の観念を認識・把握し、同時に、「TEC」の部分から「技術」の観念を認識・把握することは十分に可能である。
よって、本件商標と引用商標は「スポーツ」と「技術」の観念を共通にする点において類似する。
(イ)称呼・外観について
本件商標からは「SPORT TECHNIC」の文字に応じて「スポートテクニック」の称呼が生じるが、実際に発音される場合には、中間音である「ト」と「テ」がつづまって、「スポーテクニック」のように発音されるものである。他方、引用商標からは「スポーテック」、「スポーテク」の称呼が生じる。両称呼を対比すると、その相違点は称呼上印象の弱い語尾部分における「ニック」の音の有無のみであり、また、本件商標から生じる「スポーテクニック」の称呼は引用商標から生じる「スポーテク」の称呼を包含するものでもある。してみれば、両称呼は仮に称呼上類似するとまではいえないとしても、非常に近似性の高いものである。
外観上も「SPORT TECHNIC」は引用商標「SPORTEC」を包含しているということができ、また、書体も、引用商標1の下段に記載された「SPORTEC」の文字と同様に、右に傾斜したイタリック文字で書かれている。したがって本件商標と引用商標とは、仮に外観上類似するとまではいえないとしても、非常に近似性の高いものである。
以上のように、本件商標と引用商標は、少なくとも「スポーツ」と「技術」の2つの観念を想起させる点において類似する商標といえる上、称呼及び外観の点においても非常に近似性の高いものである。
イ 被請求人の出願に正当な理由はない。
(ア)請求人が、被請求人に対し、商標「SPORTEC」が日本で登録できると保証した事実はない。
乙第1号証の1ないし3は、請求人の代理人から請求人に宛てて作成された日本での商標登録出願手続きが完了した旨の報告書に過ぎず、商標「SPORTEC」が日本で登録することができるなどという保証は何ら記載されていない(甲第30号証)。
被請求人が平成12年3月の時点で「商標関係の確認作業」や「商標調査」を行ったか否かについて、請求人は不知である。
(イ)被請求人は、平成15年9月にドイツ国フランクフルトにおいて、「今後の製造・販売戦略、商標、ライセンス、翌月の東京モーターショーにおける活動について話し合い、合意した。」と主張するが、請求人と被請求人の間でそのような合意がなされた事実はない。また、被請求人は、恰も請求人から自動車用ホイールの製造についてのライセンスを得ていたかのように主張するが、請求人が被請求人に対して自動車用ホイールの製造についてのライセンスを与えた事実は一切ない。平成15年8月ないし9月当時において請求人と被請求人の間で協議されていたのは、あくまで請求人が製造するホイールの日本での輸入販売代理店としての地位についてであって、製造ライセンスについて協議されたものではない。また、請求人が被請求人に対して商標「SPORTEC」又はこれに類似する商標の使用を許諾した事実はなく、本件商標を含めて、商標「SPORTEC」又はこれに類似する商標を、被請求人が自己の名義で出願・登録することを許諾した事実もない。むしろ、明確にこれを禁止していたのである(甲第19号証の1ないし3、甲第20号証の3、甲第22号証)。
(ウ)被請求人は、「国産車用商品発売にあたり、本田技研所有の上記『SPORTIC』商標との抵触を避ける意味で、商標『S/DESIGN』を第12類に出願した」と主張するが、そのような事情は、請求人が有する周知著名な引用商標に酷似する商標を請求人に無断で出願することを何ら正当化するものではない。また、被請求人は「2度にわたる請求人との協議に何の進展も見られないため、多大な宣伝広告費等を負担している自己の事業を保護するために、本件商標を第12類に出願した。また、商標『S』を第12類に出願した」と主張するが、仮に請求人との間の協議において被請求人の望むような進展がみられないことがあったとしても、請求人が有する引用商標に酷似する商標を請求人に無断で出願することを何ら正当化するものではない。
(エ)なお、被請求人は、請求人が株式会社レイズ等に対して虚偽内容を記載した通知をしたと主張するが、請求人の通知書に記載されているのは、請求人とスポーテック・ジャパンの間に正規ライセンス製造に関する契約は一切存在しないことであり、純然たる事実であって、何ら虚偽の事実にあたらない。

3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第6号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)本件商標について
本件商標は、1記載のとおりであり、その構成文字から「スポーツテクニック」との称呼が生じるものである。
(2)商標法第53条の2該当性
ア 本件商標と引用商標の類否
(ア)本件商標は、欧文字の大文字で「SPORT TECHNIC」と書しており、「SPORT」は、日本人になじみの有る単語であり、中学生でも「スポーツ」と読めるものである。また、「TECHNIC」からは、テクニックとの称呼が生じるものである。したがって、本件商標からは「スポーツテクニック」との称呼が生じるものである。
(イ)引用商標1は、右に20度傾斜させた欧文字の大文字「S」、当該Sの下に、横棒を引き、さらにその下に、傾斜したイタリック体のデザインされた欧文字で「SPORTEC」と白抜き文字で書している。この「SPORTEC」は、造語である。そして、引用商標1から、「エス スポーテック」、「エス」、「スポーテック」との称呼を生じるが、特別な意味は持たないものである。
(ウ)引用商標2は、欧文字で「SPORTEC」と書している。この「SPORTEC」は、造語であり、「スポーテック」との称呼を生じるが、造語であるため特別な意味は持たないものである。
(エ)引用商標3は、欧文字で「SPORTEC」と書している。この「SPORTEC」は、造語であり、「スポーテック」との称呼を生じるが、造語であるため特別な意味は持たないものである。
(オ)請求人は、「SPORTEC」の前半5文字から「スポーツ」の観念が生じるとともに、後半「TEC」の文字からは「技術」の観念が生じると主張するが、「SPORTEC」の語は、造語であって、造語からは特定の観念が生じないとされるのが通例である。また、請求人は「SPORTEC」の前半5文字の「SPORT」から「スポーツ」、後半「TEC」の文字からは「技術」の観念が生じると、商標を切断しているが、「SPORTEC」の文字から前半5文字の「SPORT」を切断すると、残るのは「EC」であって、後半は「TEC」ではない。日本の商標の実務においては、通常そのような観念の切り出しは行われない。もし仮に、「SPORTEC」を切断したとしても、切り出される「EC」は、「欧州共同体」との観念が生じるだけである。
(カ)そうすると、本件商標と引用商標1とは、外観は全く異なり、称呼においても「スポーツテクニック」と「エス スポーテック」、「エス」、「スポーテック」とでは、3音以上相違し、長さも異なる。さらに、引用商標1は、特定の観念を持たない造語であるので、本件商標と引用商標1とは、外観、称呼、観念の何れにおいても相違し、全く非類似の商標である。
また、本件商標と引用商標2及び3とは、外観は全く異なり、称呼においても「スポーツテクニック」と「スポーテック」とでは、3音相違し、長さも異なる。また、引用商標2及び3は、特定の観念を持たない造語であるので、本件商標と引用商標2及び3とは、外観、称呼、観念の何れにおいても相違し、全く非類似の商標である。
イ 本件商標に係る出願の正当理由
(ア)本件商標の出願の経緯
1)はじめに
申立人は、本件商標の出願が正当な理由がなくなされた旨主張するが、本件商標は、本件の権利者が、多大な投資をした自己の事業を保護するために、出願したものであり、その出願には、正当な理由がある。
もともと、請求人と被請求人との間で、ビジネスを開始するときに、日本国において、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に商標の取得ができない旨を協議した。しかしながら、請求人からは「商標取得はできる。申請してある」との話をされ、乙第1号証の1ないし3を提示され、ビジネス並びに被請求人の投資がスタートした。しかし、後述のように、請求人は、目本国において、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に対して、「SPORTEC」や「S/SPORTEC」の商標の取得は結局できなかった。つまり、被請求人は、請求人から虚偽の申告をされたことになる。既に、被請求人は、ビジネスをスタートし、多額の広告宣伝費等の投資も開始していた。また、当然の権利として被請求人のビジネスを保全するため商標登録したというのが、本件商標取得の経緯である。したがって、本件商標の出願には、正当な理由があると言えるものである。
また、平成12年当時は、請求人は、もともとスイス国内でしか商品の展開をしていない会社であった。したがって、請求人のお膝元であるヨーロッパですら商標登録をしていない状況であった。そこで、被請求人は、ドイツ及びヨーロッパでも商標権を保全するために「S/DESIGN」の商標登録をした(乙第2号証、乙第3号証の1ないし3)。
ドイツ国での商標登録「S/DESIGN」(登録第30459032号、指定商品第12類)の登録商標は、平成16年10月14日出願、平成17年3月14日登録であり、請求人の引用商標1の米国での登録日(平成18年11月14日)よりも前に登録になっており、ドイツ国に於ける商標「S/DESIGN」の正当な商権者は、被請求人の経営する株式会社ティーエスエム(TSM Co,.Ltd.)である。この商標登録「S/DESIGN」の登録時に、請求人からは何ら異議申立等を受けなかった。
また、欧州共同体商標「S/DESIGN」(登録第004653572号、指定商品第12類)の登録商標は、平成17年9月26日出願、平成19年11月20日登録であり、欧州共同体に於ける商標「S/DESIGN」の正当な商権者は、被請求人の経営する株式会社ティーエスエム(TSM Co,.Ltd.)である。この商標登録「S/DESIGN」の登録時に、請求人からは何ら異議申立等を受けなかった。
さらに、請求人を有名にしたのは被請求人及び被請求人の経営する会社によるものである。以下に事実関係について詳細に説明する。
2)平成12年3月
被請求人はスイスでのジュネーブショーにて請求人と協議し、日本におけるSPORTECビジネスをスタートすることに合意し、スポーテックジャパンの事業の準備を開始した。この時に、商標関係の確認作業を行った。
(a)商標「SPORTEC」について、スイス国内においては、請求人が商標登録済みであるが、日本やその他の外国における登録された権利はなかった。
(b)日本国内において、第12類の自動車並びにその部品及び附属品について、「SPORTEC」商標について商標調査をしたところ、「商標登録第4418363号『スポルティック/SPORTIC』指定商品:自動車並びにその部品及び附属品,ほか略』」を発見した。この商標に、「SPORTEC」は、類似するものと考えられ、また、商標権者は、本田技研工業株式会社であり、使用されているため、商標「SPORTEC」は日本国内おいて登録不可能であることが判明した。
3)平成12年12月
「SPORTEC」のビジネスをスタートするに当たり、日本国において、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に対して「SPORTECの商標取得できないのではないか。」との被請求人からの指摘に対し、請求人から「商標を取得できる。」、また、登録申請したとの報告があった。
また、被請求人から請求人に対して、独占輸入契約書の締結を依頼したが、契約書は提示されなかった。結局そのまま契約書の提示が最後までなかった。
したがって、被請求人は、請求人の代理人もしくは代表者に正式になったことはない。
4)平成13年1月
この時点で、日本で販売できる商品が完成しておらず、また、日本国において自動車部品等に対しての「SPORTEC」商標の登録が出来ていないことなどの問題点があったが、請求人の「SPORTEC商標が取得できる」との話を信じて、被請求人は、ビジネスを始動させた。
これを受けて、東京オートサロンに被請求人とスポーテックジャパン社との負担にて「SPORTEC JAPAN」として出展(約800万円の出費)。広告展開を開始した(平成13年だけで1200万円出費)。各雑誌社にパブリシティー記事の掲載を開始した(平成13年だけで3000万円出費)。被請求人の負担は大変高額であった。
5)平成13年2月
請求人より日本において、商標の申請をした旨の書類が被請求人に提示される(乙第1号証の1ないし3)。
6)平成13年12月頃まで、
請求人の製品の本格的輸入、販売に向けて、契約交渉、宣伝活動を一年間に渡り行う。
7)平成14年1月
被請求人の販売パーツの準備ができたため被請求人はやっと輸入をスタートさせる。
8)同時期に、被請求人は請求人に対して、日本国内で商標登録できる独自ブランドの商標登録を行うように再三の要請を行ったが、請求人は一切動かなかった。
9)平成14年12月
請求人の会社からイエンツハウナー氏(取締役)が離脱した。またイエンツハウナー氏は商品開発の責任者のため今後の商品開発の展開ができないことへの問題を、被請求人より請求人に問題提起したが、全く問題ないとの回答にて、とりあえず様子見とした。
10)平成15年6月
請求人の会社で、6ヶ月間で2度の担当者並びに代表者変更(ロイタート氏、ミュラー氏)があり、担当者の変更のたびに方向性が違い、決定事項などを振り出しに戻すような対応をされた。また2名の担当者はいずれも自動車業界経験者ではなく数多くの問題が発生した。被請求人は真っ当なビジネスができなかったため、被請求人は請求人に対して日本向け製品のライセンス製造の提案をした。
11)平成15年8月10日
被請求人と請求人は、スイス国チューリッヒにおいて、日本向け製品のライセンス製造に関する最終の話し合いを行った。
請求人は、被請求人に対して、日本車向けに請求人のオリジナルブランドして「SPORTEC DESIGN MONO10」ホイールを製造すること、及び、日本国内においてこれを独占的に販売することを承諾した。
12)平成15年9月
被請求人と請求人は、ドイツ国フランクフルトにおいて、今後の製造・販売戦略、商標、ライセンス、翌月の東京モーターショーにおける活動などについて話し合い、合意した。
13)平成15年10月
東京モーターショー開催、被請求人の自己負担にて専用ブースを設け、取扱商品の告知のため出展した。しかし請求人は、展示内容などに関し、様々な因縁をつけてきた。
14)平成15年11月13日
被請求人は、国産車用商品発売にあたり、本田技研所有の上記「SPORTIC」商標との抵触を避ける意味で、商標「S/DESIGN」を第12類に出願した。
15)平成15年12月
請求人会社の代表者交代に伴う内紛、度重なる担当者変更、自動車業界未経験スタッフによるノウハウの欠如など、ライセンス製造の問題について請求人の態度が一貫せず、被請求人は請求人の内部トラブルに巻き込まれた。
ドイツのエッセンにて請求人と被請求人は会議をするが、請求人のあまりの横暴ぶりに合意にいたらず、被請求人は請求人に対し、このまま状況が収束しない場合には、提携関係を打ち切る旨を通告した。
16)平成16年3月12日
請求人より被請求人に対して、再度会議をしたい旨の申し出があり、被請求人は請求人と、スイス国ジュネーブにおいて、ライセンス問題について話し合い、和解に向け話し合いを再開した。
17)平成16年3月18日
請求人は被請求人に対して、今までの無礼の数々に対して謝罪・感謝の念を記載した文書を送付した(乙第4号証の1及び2)。請求人は、謝罪・感謝の念を表すために、日本語で記載した書面を送付した(乙第4号証の1及び2)。しかし、具体的な進展はなく再度決裂した。
18)平成16年4月22日
被請求人は、15年12月並びに16年3月の二度にわたる請求人との協議にも何の進展も見られないため、多大な宣伝広告費等を負担している自己の事業を保護するために、本件商標「SPORT TECHNIC」を第12類に出願した。また、商標「S」を第12類に出願した。
19)平成16年4月30日
被請求人は、商標「S/DESIGN」を第12類に登録した(商標登録第4768661号)。
20)平成16年6月18日
請求人は、被請求人が商標「S/DESIGN」の商標登録をしたことを知り、請求人から、被請求人のオフィスのあるデュッセルドルフにて会議をしたい旨の申し出があった。デュッセルドルフにて協議をしたが、商標登録第4768661号「S/DESIGN」を無償にて共同使用したいとの高圧的な申し出により、被請求人は、共同使用も譲渡も、無償では応じられない旨を回答した。
21)平成16年9月22日
請求人は、被請求人の販売するライセンスホイルの生産会社である株式会社レイズに、虚偽内容を記載した通知をした(乙第5号証の1ないし3)。
22)平成16年10月8日
被請求人は、本件商標「SPORT TECHNIC」を第12類に登録した(商標登録第4808365号)。
23)平成16年10月22日
請求人は、被請求人の販売するライセンスホイルの取引先である株式会社オートバックスセブン等数十社に対して虚偽内容を記載した通知をした(乙第6号証の1及び2)
24)平成16年11月19日
被請求人は、上記4)で伸べたように、多大な宣伝広告費等を負担している自己の事業を保護するために、商標「S」を第12類に登録した(商標登録第4819143号)。
25)平成16年11月
被請求人はライセンス商品である「SPORTEC DESIGN」の製品をすべて破棄し販売を中止した。以後は、本件商標「SPORT TECHNIC」の製品を販売している。
26)日本国内において、平成12年から平成16年にかけて、引用商標を積極的に広告活動したのは、請求人でなく、被請求人である。
27)以上説明したように、被請求人は、何ら不正の目的なく、自己の事業を保護するために本件商標を商標登録したものであり、本件商標の出願には、「莫大な広告宣伝費を投資した自己の事業を保護するため引用商標1ないし3とは非類似の独自の商標を出願した」という正当な理由がある。
(イ)また、被請求人は請求人の商標「SPORTEC」が第12類の自動車並びにその部品及び附属品に商標登録されていないことにつけ込んで、本件商標を登録したのではなく、商標「SPORTEC」は、本田技研工業株式会社の「スポルティック/SPORTIC」が存在するために、第12類の自動車並びにその部品及び附属品に登録できないことから、上記のように多大な宣伝広告費等を負担している自己の事業を保護するために、引用商標1ないし3とは、非類似の独自の商標権を取得したものである。
上述のように、請求人は、日本国において、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に対して、「SPORTEC」や「S/SPORTEC」の商標の取得は結局できなかった。被請求人は、請求人から虚偽の申告をされた。また、被請求人は、莫大な広告宣伝費も投資した。したがって、当然の権利として被請求人のビジネスを保全するため引用商標1ないし3とは、非類似の独自の商標「SPORT TECHNIC」を登録したというのが、本件商標取得の真相である。
また、平成12年当時は、請求人は、もともとスイス国内でしか商品の展開をしていない会社であったが、請求人を有名にしたのは被請求人及び被請求人の経営する会社であると自負している。
(ウ)以上のように、本件商標と引用商標1ないし3とは、全く非類似である。かつ、被請求人は、何ら不正の目的なく、莫大な広告宣伝費も投資した自己の事業を保護するために本件商標を商標登録したものであり、本件商標の出願には、「莫大な広告宣伝費を投資して、日本国内で有名にした自己の事業を保護するため引用商標1ないし3とは非類似の独自の商標権を取得した」という「正当な理由」がある。

4 当審の判断
(1)商標法(以下「法」という。)第53条の2の規定に基づき、商標登録の取消を請求することができるためには、第1に「登録商標がパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国(以下「パリ条約の同盟国等」という。)において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって当該権利に係る商品若しくは役務又はこれに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするもの」であること、第2に「その商標登録出願が正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたもの」との要件を充たすことが必要であると解される。
そこで、本件について、上記の要件を充足するものであるか否かを検討する。
(2)まず、本件商標が、パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって、当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするものであるか否かについて検討する。
ア パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有するか否か
請求人提出の証拠(甲第1号証)によれば、請求人は、いずれもパリ条約の同盟国と認められる米国、スイス、ドイツ、オーストリア、フランスにおいて、引用商標1ないし3について商標登録を得、商標権を有している者である。
してみれば、請求人は、パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者と認められ、引用商標は、いずれも、当該権利に係る商標と認められるものである。
イ 本件商標と引用商標との類否について
そこで、本件商標と各引用商標との類否について判断する。
(ア)本件商標
本件商標は、「SPORT TECHNIC」の文字からなるところ、中間に1文字相当の空白があることから、視覚上、「SPORT」と「TECHNIC」の文字からなるものとして看取されるものである。そして、前半の「SPORT」は、「スポーツ」を表す英語として、我が国において広く親しまれた語であり、また、後半の「TECHNIC」は「手法、技巧」の意を有する英語であり、これに由来する外来語「テクニック」は「技術、技法」を表すものとして知られ使用されていることは、周知に属する事項といえるものである。
しかして、両語を結合した「SPORT TECHNIC」の文字が特定の語義を表現する既成の熟語等を形成するものであると認め得る証拠はみいだせないが、しかし、前記各語の親しまれた意味合いを併せみると、「スポーツ技術」程の意味合いをもって看取される場合があるというのが相当である。
してみると、本件商標は、その構成文字に相応して「スポートテクニック」の称呼を生ずるものであり、前記「スポーツ技術」程の意味合いをもって看取され得るものである。
なお、請求人は、本件商標の称呼に関して、末尾の「ニック」の音が容易に聴き落とされ、省略されて発音されることもおおいにあり得るという。
しかし、当該「ニック」の音は、それ自体明確に発音聴取されるものであるうえ、「TECHNIC」の文字に相応するものとして、「テクニック」と一連に明確に発音聴取されるのが自然なものであるから、当該「ニック」の音だけが聴き落とされ、省略されるとは言い難いものである。
(イ)引用商標
引用商標1は、別掲のとおり、S字状図形の下に図案化された「SPORTEC」の文字を配してなるものであり、当該「SPORTEC」に相応して「スポーテク」あるいは「スポーテック」の称呼を生ずるものであるが、構成全体及び当該文字部分からは特定の観念を生じさせないというのが相当である。
また、引用商標2及び3は、その構成文字「SPORTEC」から「スポーテク」あるいは「スポーテック」の称呼を生ずるものであるが、構成全文字からは特定の観念を生じさせないというのが相当である。
(ウ)商標の類否について
まず、本件商標の称呼「スポートテクニック」と引用商標の「スポーテク」あるいは「スポーテック」の称呼を対比すると、前半部で「スポー」の音を共通にするけれども、後半で「トテクニック」と「テク」あるいは「テック」の音の差異を有するものである。
してみれば、両者は、構成音数を明らかに異にするうえ、後半部における相違する各音の音質の明らかな差異によって、それぞれを一連に称呼するときは、相紛れることなく判然と区別し得るものである。
また、本件商標と引用商標とは、外観構成において明らかな差異を有するものであるから、外観上相紛れるおそれは認められない。
さらに、本件商標と引用商標とは、観念について比較することができないから、観念上相紛れるおそれがあるとは認められない。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれからみても、相紛れるおそれは認められず、これらを同一又は類似の商品に使用しても、同一事業者の製造販売に係る商品であるかの如く誤認されることはなく、その出所について混同を生じさせるおそれはないというべきであるから、本件商標は、引用商標に類似する商標と判断することはできない。
この点に関して、請求人は、引用商標から「スポーツ」と「技術」の観念が生じ、本件商標と観念が同一である旨主張している。
しかしながら、引用商標の構成文字についてみれば、各構成文字が同じ書体、同じ大きさ、等間隔で一体的に表されているものであり、各文字間のいずれかにおいて分離抽出すべき特段の事情等は認められないから、かかる構成文字より「SPORT」と「TEC」をそれぞれ印象し抽出して、それぞれの意味合いを想起し記憶して取引に資するのが取引通念上自然であると認めることができないものである。
また、「TEC」が、「TECHNICAL」、「TECHNICIAN」等の略語として用いられる場合があるとしても、通常の注意力のもと、「SPORTEC」について「SPORT」と「TECHNIC」とを結合し短縮したものとして認識し、「スポーツ」と「技術」の2つの観念を認識し把握するというのが合理的であるとすべき理由はみいだせない。
してみると、商標の採択に関する請求人の意図はいざ知らず、引用商標は、特定の観念を生じさせない一連の造語として看取されるというのが相当であるから、引用商標より「スポーツ」と「技術」の観念が生じるとしたうえ、本件商標と引用商標との観念が同一であるとの請求人の主張は採用できない。
(3)小活
以上よりすれば、仮に、被請求人が「商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者又は商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に当たることや、本件商標が請求人の承諾を得ない出願であること等が認められたとしても、本件商標が前記の第1の要件中の「パリ条約の同盟国等における商標に関する権利に係る商標又はこれに類似する商標」の要件を充たしていないから、結局、本件商標は、法第53条の2の規定に該当しないといわざるを得ないものである。
(4)結語
したがって、本件商標は、法第53条の2の規定に該当するものとして、その登録を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。


[後記]
(1)引用商標1の指定商品及び指定役務
第7類「内熱機関用の燃焼部分、すなわち、点火コイル・分配器・加速器・アノード・蓄電器・(分配器の)スイッチ・コンデンサー、内熱機関用の点火用マグネト・排気管・多岐管・排気多岐管により主に構成される車両排気システム・車両排気システム用のサイレンサー、地上用車両用のエンジン・カップリング、及び車両エンジン用の中間冷却器」
第12類「自動車、地上用車両用のチューンエンジン、車体、自動車のシャーシ、車両のボンネット、車両に適合した日よけ、車両用の軸受ジャーナル、車両用の車軸、自動車車輪用のバンド、自動車用のトーションバー、地上用車両用の車体、地上用車両用のブレーキ、地上用車両用のブレーキ・ライニング、地上用車両用のブレーキ・セグメント、地上用車両用のブレーキ・シュー、自動車用のバンパー、地上用車両のガソリンタンク用キャップ、自動車車輪用のスポーク・クリップ、自動車用のクラッチ、地上用車両用のトルクコンバーター、地上用車両用のトランスミッション・カップリング、地上用車両用のシート・カバー、地上用車両用の方向指示器、自動車用のスポーツ・ステアリング・ホイール及びアルミホイル、自動車用自由車輪、地上用車両用の駆動歯車、地上用車両用のギア・ノブ、自動車用の空力構造部品、地上用車両のためのアルミ・ペダル、車両シート用のセキュリティ・ハーネス、車両エンジン用フード、車両用フード、ハブキャップ、自動車車輪用ハブ、自動車車輪用リム、自動車用スポーツ・シーツ、車両用サスペンション・ショック・アブソーバー、自動車用ショック・アブサーバー、車両用緩衝バネ、スポーツ・カー、地上用車両用変速装置、及び地上用車両用車台」
第37類「車両の保守及び修理、自動車のチューニング・サービス」
(2)引用商標2の指定商品及び指定役務
第7類「機械および工作機械;エンジン(農耕用作業車用エンジンを除く);クラッチおよび駆動ベルト(農耕用作業車用を除く);農業用機器;孵卵器」
第9類「科学、船舶航行、測量、電気、写真、映画、光学、計量、計測、信号、制御、救助、教育にかかわる機器および器具;音声や画像の記録、伝送、再生装置;磁気記録装置、レコード;自動販売機および自動現金処理装置;レジスター、計算機、データ処理機器およびデータ処理装置;消火器;エンジンの燃焼過程の制御に用いられる電気部品および電気機器」
第12類「車両;陸上、空中、水上の輸送手段に用いられる機器」
第37類「車両、特にエンジンチューニングに関する修理、維持、サービス」
第42類「食料供給;来客の宿泊提供;医療処置、健康管理、美容;獣医学および農業分野におけるサービス;法律相談および法的代理;学術研究および産業調査;データ処理プログラムの作成」
(3)引用商標3の指定商品及び指定役務
第7類「機械、工作機械;エンジン(陸上車のエンジンは除く);連結装置、伝動装置(陸上車のエンジンは除く);農作器具;孵卵器」
第9類「科学、航海、測地、電気、写真、映画、光学、計量、測量、信号、管理(検査)、救援(救助)、教育に関する装置や器具;音や映像の記録、伝送、再生装置;磁気性記録媒体;音響ディスク、自動販売機、プリペイド用機械のメカニズム;レジスター、計算機、情報処理とコンピュータに関する装置;消火器;エンジン点火のプロセスにおける電気部品と制御装置」
第12類「輸送機関;陸上、航空、水上での輸送機械」
第37類「輸送機関、特にエンジンの調整にともなう修理、整備ならびにメンテナンス」
第42類「修復、仮設住宅、医療援助、公衆衛生と美容整形医療;獣医療サービスと農業サービス;法律相談と訴訟手続き;科学的調査、産業調査;コンピュータプログラミング」
別掲 別掲 引用商標1


審理終結日 2009-12-28 
結審通知日 2010-01-06 
審決日 2010-01-20 
出願番号 商願2004-38537(T2004-38537) 
審決分類 T 1 31・ 6- Y (Y12)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 芦葉 松美
特許庁審判官 内山 進
岩崎 良子
登録日 2004-10-08 
登録番号 商標登録第4808365号(T4808365) 
商標の称呼 スポーツテクニック、テクニック、スポートテクニック 
代理人 田中 克郎 
復代理人 廣中 健 
復代理人 五十嵐 敦 
復代理人 石田 昌彦 
代理人 山本 尚 
代理人 稲葉 良幸 

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