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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない Y36
管理番号 1218228 
審判番号 取消2007-301206 
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2007-09-20 
確定日 2010-06-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第5047929号商標の商標登録取消審判事件についてされた平成20年 7月23日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10326号平成21年 3月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5047929号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成18年9月14日に登録出願、第36類「建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供」を指定役務として、平成19年5月18日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、「本件商標の登録を取り消す。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第25号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)請求人のハウスマーク(以下、請求人の主張に限り「長谷工マーク」という。)の周知著名性について
ア 請求人について
請求人は、昭和12年に個人経営として創業された長谷川工務店を前身とし、昭和40年4月には東京・大阪・名古屋の各証券取引所第一部へ上場を果たしている総合建設業及び不動産業を主たる業務とする会社である。
請求人は、昭和44年にはじめて自社施工マンションを竣工して以来、マンション事業者として確固たる地位を築いており、施工実績は累計44万戸を超え、マンション建設の最大手である。2007年3月期決算においては実に単体で5,990億円(連結ベースでは7,231億円)の売上を計上している。
このように、創業来70年にわたって一貫してきた企業ドメイン及びその規模に鑑みても、請求人は、不動産・建設業者はもちろんのこと、一般の需要者においても広く知られている。また、請求人は、マンション事業の周辺事業に関する様々なグループ会社、関連会社を有している(甲第3号証、甲第4号証)。
イ 長谷工マークについて
請求人及びそのグループ会社は、別掲(2)のとおりの構成よりなる長谷工マークを使用している(甲第3号証ないし甲第9号証)。長谷工マークは、サービスマーク制度の導入と同時に出願を行ない、権利を取得しており(甲第10号証)、また、長谷工マークを包含する商標についても、権利を取得している(甲第11号証、甲第12号証)。請求人は、昭和63年10月1日に社名を変更した際に長谷工マークを制定し、以来、請求人及びそのグループ会社は、長谷工マークのもと、長谷工グループのCI(コーポレート・アイデンティティ)を確立させ、不動産・建設を中心とした広い分野での営業活動を展開してきた(甲第13号証ないし甲第16号証)。
このように、長谷工マークは、約20年前から長谷工グループ各社において継続して使用され、かつ現在もなお継続的に使用されている。
ウ まとめ
以上の事実から、長谷工マークが、請求人及びそのグループ会社の業務を表すものとして、遅くとも本件商標の出願時においては既に、不動産・マンション業者及び需要者をはじめ、一般の需要者にも広く認識されていたことは明らかである。
(2)被請求人の商標の使用について
ア 本件商標は、中心に円形を配し、その左右に上下互い違いの直角三角形を配した図形と、その下部に図形に比して小さな文字で「NANYO」の文字を書してなる商標である。本件商標においては、何らの色彩も施されてはおらず、黒一色により図形部分が塗りつぶされている。
イ しかるに、被請求人が現実に使用をしている標章(以下「被請求人使用商標1」という。)は、色彩においてこれと著しく異なる。すなわち、中心の円の図形が赤く、その左側の直角三角形の図形が緑に、右側の直角三角形が濃青に着色されており、その他の「NANYO」の文字部分、及びその右側に書された「株式会社 南陽ハウジング」の文字部分が特段着色されず黒一色とされていることとも相俟って、着色された図形部分のみが一際目を惹く態様となっている(甲第18号証)。
ウ 被請求人使用商標1と長谷工マークは、形状において、左右に配されているのが直角三角形と長方形及び二等辺三角形、という相違はあるものの、いずれも直線のみからなる幾何学図形である。これに加えて、赤、緑、濃青という配色において極めて酷似しており、とりわけ看者の目を強く惹く中央に配された赤い円図形において同一であり、結果として極めて似通った印象を看者に与えるものとなっている。
(3)請求人と被請求人との間の交渉経緯
被請求人使用商標1の存在を知った請求人は、その使用の中止をするように、数回にわたり請求人に通知をした(甲第19号証、甲第20号証)。その結果、被請求人は、請求人に対しロゴマークの変更案をFAXにて送付し、別異の形状を有する図形への変更につき合意に至った(甲第21号証)。しかるに、本件商標の登録査定を受領した被請求人は、意を翻し、今後も継続して使用していく、との意思を一方的に通知してきた。
(4)要件事実
ア 被請求人使用商標1と登録商標の同一又は類似性
前述のように、被請求人は、複数の幾何学図形から構成されたモノクロの本件商標に、個々の幾何学図形にそれぞれ別々の色彩を施した被請求人使用商標1を使用している。
商標法第70条第1項によれば、「第25条、・・・における『登録商標』には、その登録商標に類似する商標であって、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含むものとする。」との規定があり、同条第3項には「・・・第51条第1項における『登録商標に類似する商標』には、その登録商標に類似する商標であって、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含まないものとする。」との規定がある。これらを字義どおりに解釈すれば、被請求人使用商標1は、「登録商標に類似する商標であって、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるもの」といい得るから、「類似」ではなく、同法第51条第1項の要件を具備しない、とも思われる。
しかし、同法第70条の趣旨が「商標の使用においては、少なくとも多少の色彩の相違は同一のものとして取り扱われているのが実情」であり、「もし色彩が少しでも違えばその商標は相互にすべて同一ではないものとして取り扱われていることになれば不使用取消審判の適用や、商品又は役務ごとに色ちがいの商標を付して使用する場合等にすべての色について登録をし、かつ、使用をせねばならない等の不都合を生じ」る、という点に鑑みたものであること、さらに、同法第51条の趣旨が「商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課す」という点にあること、を明記する必要がある(本段落のカギ括弧部分はいずれも特許庁編「工業所有権法逐条解説[第16版]」より引用。)。
被請求人使用商標1の使用は、通常生じうる「多少の色彩の相違」や「商品又は役務ごとに色ちがいの商標を付して使用する場合」ではなく、本件商標を請求人のハウスマークとして周知著名である長谷工マークと近似する方向に変更して使用する行為であり、上述のような同法第70条の規定によって救済を意図した使用とは著しく異なる。その一方で、周知著名なマークに近づける方向での使用は、商標の不当な使用にあたり、これによって一般公衆の利益が害されるような事態を誘発しているものであり、同法第51条による制裁を課されて然るべきものである(網野誠著「商標」第5版、859頁)。
例えば、「Afternoon Tea」事件(平成9年(行ケ)第153号:甲第22号証)において、他者所有の「AftenoonTea」の白抜き文字の周知著名商標が存在する中、「アフタヌーンティー\AFTERNOONTEA」の登録商標を有する商標権者が、アルファベット文字のみで「AfternoonTea」と黒ベタで表示した商標を使用した場合において、「このような変更により、被請求人使用商標(B)は、請求人使用商標と同一の形態に近づく方向へ変更されているものである。したがって、被請求人使用商標(B)の使用は、使用上普通に行われる程度の変更を加えたものと解することはできず、商標法51条1項にいう『登録商標に類似する商標の使用』に当たると認められる。」とし、登録商標の使用とみなす範囲の判断基準として「使用上普通に行われる程度の変更を加えたもの」との基準が示されている。同様の判断は、昭和54年(行ケ)第21号(中央急救心事件:甲第23号証)においても明らかになっている。
以上のとおり、被請求人使用商標1の使用は、登録商標との対比において、使用上普通に行われる程度の変更ではなく、むしろ請求人のハウスマークの周知著名性に鑑みれば一般需要者の利益が害されるものであり、正当な商標権(専用権)の行使ではなく、同法第51条第1項にいう「登録商標に類似する商標の使用」に当たると認められて然るべきものである。
イ 出所の混同又は質の誤認を生じる使用
前述のとおり、請求人及びそのグループ会社は、そのハウスマークである長谷工マークを永年継続的に使用してきた。その結果、長谷工マークは、少なくとも不動産及び建築の分野、とりわけマンションなど一般の住宅用物件に関連する分野において、取引者及び需要者に広く認識されているものというべきである。
また、被請求人使用商標1は、中央に円形を配し、その左右に縦長の幾何学図形を配しているという点において、長谷工マークと共通している。さらに、その必然性がないにもかかわらず、色の選択において両者は同一である上、最も看者の目を惹く中央の円形を赤く着色している点も同一である。
そうとすると、被請求人使用商標1を見た取引者及び需要者は、それが被請求人(審決注:「請求人」の誤記と認める。)の提供する役務であるとの出所の混同を生じるおそれがあることは必定であるし、また、長谷工マークと勘違いして取引に入った需要者には、提示を受ける物件が請求人の施工とは何ら関係の無い物件であるにもかかわらず関係があるかのように誤信した結果、質について誤認を生じるおそれもある。
ウ 故意の事実
前述のとおり、混同のおそれを排除する目的から、請求人は被請求人に対して、被請求人使用商標1の使用の中止を申し入れている。それにもかかわらず、たまたまモノクロの商標が登録に至ったことを奇貨として、被請求人は、今もなお被請求人使用商標1の使用を継続している。被請求人が出所の混同について故意であったことは自明である。
エ 使用の事実が消滅してから5年以内であること
被請求人は、2007年8月17日時点において、自己のホームページ上で被請求人使用商標1を使用している(甲第18号証)。したがって、使用の事実は消滅していない。
2 答弁に対する弁駁
(1)故意について
被請求人は、甲第21号証(FAX写し)について、被請求人の代表者から請求人宛に差出したFAXの内容ではなく、被請求人の従業員であり、代表者又はそれに準じる役員等の職責を全うしない者から送信した書面であって、「故意」を立証するには不適切である、と述べる。
しかし、甲第21号証の送信者の欄には手書きにて「宮城」と苗字が記され、また、甲第18号証(被請求人のホームページ)には、「南陽ハウジングの最新情報」の欄に「更新情報」の追加記載者の名前として「仙川本店 店長宮城」との記載があり、両者は同一人物であると思料される。さらに、甲第24号証(被請求人の履歴事項全部証明書の写し)の役員には、「宮城」姓が複数名おり(「店長宮城」とこれらの人物との異同は明らかではないが。)、これらの事実からは、被請求人が同族経営であることが推測され、「店長宮城」がこれらの役員と日常的にコミュニケーションがない状況は想定できない。まして、自らのハウスマークの使用について問題が生じ、他社と交渉を行っている状況を、一従業員の独断のもと処理するといったことは常識的に考えてあり得ることではない。
したがって、被請求人の「一従業員の行ったことであるから故意ではない」との主張には、全く理由がない。
さらに、被請求人の「甲第21号証のFAX送付状に添付したロゴマークは種々の変形例を示したのみで、今後、被請求人が使用する商標の図形変形につき請求人と合意した書面を示すものではない。」との主張は、明らかに虚偽である。被請求人は、請求人との交渉の結果、甲第21号証に記載の6種類の図形案を自ら考案し、その上でその6種類の中から自らが希望する代替案として第一候補、第二候補に手書きでマルをつけた上で送信し、具体的な変更の意思を請求人に示したのである。
(2)被請求人使用商標1について
ア 被請求人は、被請求人使用商標1中の図形部分は、下部の「NANYO」の「N」を図案化したものであり、第1及び第2の直角三角形が使用主体としての被請求人を表示するための必須要件である、と述べる。
しかし、「N」の「\」(左上から右下への斜線)を「真円形に図案化」し、「N」の文字を表したものというにはあまりに不自然であり、むしろその接合位置を踏まえれば「H」の図案化として捉えられる余地が大いにある。また、「使用主体を表示するための必須要件」が、その欧文字表記の頭文字としての「N」を表示するデザインにある、との意味合いであるならば、「N」の斜線を真円形とすることによってもはやその意図は毀損されている。こうしたデザインにより当該図案は、長谷工マークに近づく構成となっている。さらに、「必須要件」でない「N」の斜線の図案について、あまつさえ真円形に図案化し、かつ赤く彩色し、これを挟む両脇の直線のみからなる幾何学図形を緑及び濃青にて彩色する行為からは、長谷工マークに近似なものとしようとする意図すら窺え、到底是認できるものではない。
イ 被請求人は、平成9年から被請求人使用商標1を使用しており、一般需要者及び取引者から被請求人の独自商標として広く認識されている、と述べ、乙第6号証、乙第7号証を提出する。
しかし、乙第6号証においては、本件商標を使用しているのみであり、被請求人使用商標1の使用を立証するものではない。しかも、乙第7号証は、その発行が2002年(平成14年)であり、被請求人主張の「平成9年から」の使用、「独自商標として広く認識」の事実はない。
ウ 被請求人は、本件商標の構成として重要なことは「NANYO」の文字を配してなるところであり、被請求人使用商標1における図形部分の彩色は、商標の主要部である「NANYO」を引き立たせるために取り入れた通常に行われている単なる着色手法にすぎない旨主張する。
しかし、被請求人は、自らのホームページにおいて、彩色した図形部分(以下「被請求人使用商標2」といい、被請求人使用商標1と同2をまとめて「被請求人使用商標」という。)を単独で使用している(甲第25号証。なお、甲第25号証は、プリントスクリーン処理をしたものであって、画面印刷をした場合は表示されない(甲第18号証参照)。)。ここで、「スタッフ日誌」との標題された記事の冒頭部分に、彩色した図形が単独で使用されおり、その記事内容は、同社の提供する役務についての広告であるから、これが商標の使用であることは疑いがない。
被請求人主張の「商標の主要部」とは如何なる意味なのか定かでないが、取引者・需要者の目を惹く部分がどこか、という点からは、上部の図形部分は、下部の文字部分よりも遥かに大きく表示されており、取引者・需要者の注意を惹くものである。被請求人使用商標1として、図形と文字との結合で用いられているとしても、そのことで図形部分が商標として機能せず、文字部分のみが「商標の主要部」である、との主張は失当である。
エ 被請求人は、緑、赤、青の各色の配列は、ありふれた着色構成であり、特段特定人を表示するための着色構成ではない旨主張し、乙第3号証、乙第4号証を提出する。
しかし、請求人が請求の理由で主張したことは、被請求人使用商標1と長谷工マークとは、図形部分の構成、色彩等において極めて酷似し、似通った印象を看者に与える、というものであり、「配色自体の独占可能性」を主張したものでもなければ、その配色が「請求人独自のもの」と主張したわけでもなく、被請求人が本件商標を被請求人使用商標1のように彩色することは、「商標の使用上普通に行われる程度の変更」の範疇とは到底言えないものであり、その形状構成とも相俟って、請求人の周知商標である請求人使用商標に“より近づく方向”への改変である、と主張しているのである。
(3)長谷工マークの周知性について
被請求人は、長谷工マークは、その構成中、上部の英文字「H」を図案化した図形よりもその使用主体の称呼を表示する「HASEKO」に、周知著名性があるというべきで、図形自体に周知著名性が存在するとは言い難い旨主張する。
しかし、乙第1号証及び乙第2号証は、いずれもモノクロの図形商標であり、本件とは無関係である。加えて、請求人の主体を表す「HASEKO」の文字部分の周知著名性と、「H」を図案化した図形の周知著名性とは両立する。図形と文字とが結合して使用されているケースが多いことにより、かえって図形は文字の、文字は図形の周知著名性を相互に補完しあう。まして、請求人の使用態様にあって、多くが長谷工マークに所定の彩色を施しているのであるから、取引者及び需要者の注意の多くは、その図形部分に注がれるのであり、繰り返し商標として使用されることにより、これが長谷工マークとして広く認識されるのである。
3 むすび
以上のように、被請求人の被請求人使用商標の使用は、商標法第51条第1項に該当するものであるから、本件商標の登録は取り消されるべきである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
1 本件商標について
本件商標は、上部中央に真円形を黒色で塗りつぶしてなり、その真円形の左側であって、底辺を下に頂点を上に形成した第1の直角三角形を、及びその真円形の右側であって、頂点を下に底辺を上に形成した第2の直角三角形をそれぞれ上記真円形に隣接配置してなる。第1の直角三角形及び第2の直角三角形はいずれも黒色で塗りつぶしてある。さらに、本件商標は、第1及び第2の直角三角形でなる図形の下部に英文字の横書きでなる「NANYO」が存在する。そして、本件商標の全体構成は英文字と図形の結合商標というべきである。
2 請求人が使用する商標について
(1)構成について
甲第3号証の頭頁に明示された請求人が使用する商標(以下「請求人使用商標」という。)は、別掲(3)のとおり、上部と下部の構成で成立し、この上部は、使用商標の主体、すなわち「長谷工コーポレーション」の前部の「長谷工」を英文字で表示した「HASEKO」の「H」を図案化した図形となっている(甲第16号証)。つまり、「H」の左部分の縦方向ラインが青に着色した長方形の部分、「H」の中央部分の横棒ラインが赤に着色した真円形の部分、及び「H」の右部分の縦方向ラインが緑に着色した底辺を下側に配した二等辺三角形の部分で構成されている。また、請求人使用商標の下部は、英文字「HASEKO」を明確に表示し、請求人使用商標の重要な構成となっている。
(2)周知著名性について
請求人使用商標が周知著名であるかどうかは、使用開始時期、使用商標の使用形態、使用方法等を総合的に判断して、取引者及び需要者が出所混同を生ずるか否かを検討することにより結論付けられるところ、請求人使用商標は、その構成中、上部の図形よりも、その使用主体の称呼を表示する「HASEKO」に周知著名性があるというべきで、図形自体に周知著名性が存在するとはいい難い。すなわち、請求人使用商標中の図形部分は、概ねありふれており(乙第1号証、乙第2号証)、看者に特段の斬新性を認識させるものではない。加えて、請求人使用商標の図形部分の青、赤及び緑の配色は、特別に請求人独自が有する配色構成でもなく、ありふれた色彩配列であるものと思料する(乙第3号証、乙第4号証)。
よって、請求人使用商標は、その下部の「HASEKO」に存在意義があり、着色した図形部分は、仮に請求人の法人名「ハセコウコーポレーション」が著名であったとしても、周知著名性が存在するとはいい得ない。
3 被請求人の使用行為の適法性
(1)本件商標は、前記1で述べたとおりの構成よりなり、その構成として重要なことは、「NANYO」の文字を配してなることである。一方、被請求人使用商標1は、本件商標中の上部の図形部分において、中央の真円形を赤に、左側に配した第1の直角三角形を緑に、及び右側に配した第2の直角三角形を青にそれぞれ着色した構成である。そして、この緑、赤、青の各色の配列は、ありふれた着色構成であり、特段特定人を表示するための着色構成ではない(乙第3号証、乙第4号証)。これらの着色採択手法は、商標の構成上の変更ではなく商標の使用上普通に行われる程度の変更であり、かつ、何人も採択自由であって、単に商標のデザイン性を高め、商標の主要部である「NANYO」を引き立たせるために取り入れた、通常に行われている単なる着色手法にすぎない。
被請求人使用商標1が上記青、赤及び緑に着色配列することによって、本件商標に仮に類似する商標となる場合にも、同一商標の範囲内の使用と考えられる。
商標法第70条第3項は、登録商標に類似する商標であっても、色彩のみが異なる類似する商標は、同法第51条第1項に規定する「登録商標に類似する商標」に含まれない旨規定している。すなわち、かかる色彩のみが異なった商標は、同一商標とみなされ、被請求人の商標使用行為は適法性が存在するものと思料する。
(2)請求人は、判例を挙げているが、「AfternoonTea」事件(甲第22号証)は、当該事件の被請求人の登録商標がゴシック体片仮名文字「アフターヌーンティー」とゴシック体アルファベット大文字「AFTERNOONTEA」とを二段に横書きしてなるものであるのに対し、被請求人の使用商標は、アルファベット文字のみで「AfternoonTea」と表したもので、「A」と「T」のみ大文字とし、他のアルファベット文字を小文字で表し、二つの単語からなるものであるように表示しながら、「Afternoon」と末尾の「n」と「Tea」の「T」を近接させたもので、文字の配列において請求人の使用商標と同一であり、しかも、書体において白抜きの請求人の使用商標を黒ベタにしたものとまったく同一の形態であることが明らかである。これは、被請求人の使用商標が請求人の使用商標とその構成を同一にした事件で、本件審判とは同列に論じることはできない。また、「中央救心」事件(甲第23号証)も、甲第22号証の事件と同様、商標の構成上の変更を加えた事件であって、本件審判とは同一理論が適用できるはずもない。
4 役務の出所の混同又は質の誤認について
役務について出所の混同又は質の誤認を生じるためには被請求人使用商標1と請求人使用商標が類似している点にある。
被請求人使用商標1は、前記のとおりの構成であり、その構成中の図形部分は、下部の「NANYO」の「N」を図案化したものであり、第1及び第2の直角三角形が使用主体としての被請求人を表示するための必須要件である。そして、被請求人使用商標1は、該「NANYO」の文字を付加して全体の商標構成を成立した点に特徴がある。
これに対し、請求人使用商標は、その構成中の図形部分は、下部の「HASEKO」の「H」を図案化したものである。
そして、仮に両者の上部の構成が類似しているとしても、商標の要部である下部の構成において、「NANYO」と「HASEKO」と明確に相異しており、一般需要者及び取引者は、使用主体が別人であることを直ちに判明でき得るものである。
被請求人は、平成9年から被請求人使用商標1を使用しており(乙第6号証、乙第7号証)、一般需要者及び取引者から被請求人の独自商標として広く認識されているから、被請求人の役務と請求人の役務とは出所の混同や質の誤認を生ずべくもない。
5 故意について
請求人は、「被請求人は請求人に対し、ロゴマークの変更(案)をFAXにて送信した。その後の電話によるやりとりの上、別異の形状を有する図形への変更につき合意に至った」旨主張する。
しかし、この書面は、被請求人の代表者から請求人宛に差出したFAXの内容ではなく、被請求人の従業員であり、代表者又はそれに準じる役員等の職責を全うしない者から送信した書面であって、「故意」を立証するには不適切である。加えて、甲第21号証(FAX送付状に添付したロゴマーク)は、種々の変形例を示したのみで、今後、被請求人が使用する商標の図形変形につき請求人と合意した書面を示すものではない。
6 むすび
したがって、被請求人による被請求人の商標の使用行為は、同法第51条第1項に該当せず、本件商標の登録は取り消されないものと確信する。

第4 当審の判断
1 商標法第51条第1項は、「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定している。 そこで、被請求人(商標権者)による被請求人使用商標の使用が上記規定に該当するか否かについて検討する。
2 被請求人使用商標について
(1)被請求人使用商標1について
甲第18号証及び乙第7号証によれば、被請求人使用商標1は、別掲(4)のとおり、図形と文字との組み合わせよりなるものであるところ、上部の図形部分は、左側に、緑地の直角三角形を直角の部分が右下になるように配し、右側には、青地の直角三角形を直角の部分が左上になるように配し、これらの直角三角形の間の中央に、赤地の円図形を左右の直角三角形に接するように配してなるものである。また、当該図形の下には、「NANYO」の文字を黒色で横書きしてなるものである。
そして、被請求人使用商標1は、図形部分と「NANYO」の文字部分とが上部と下部に明らかに区別して配置されている上、上部の図形部分は下部の文字部分の3倍程度の大きさで表され、かつ、色彩も施されているから、その構成中上部の図形部分が取引者・需要者に対し役務の出所標識として強い印象を与えるものであり、独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものと判断するのが相当である。
なお、被請求人は、被請求人使用商標1は、その構成中の上部の図形は下部の英文字「NANYO」の最初の文字「N」を図案化させたものであり、「NANYO」の文字とで全体の構成を成立させた旨主張しているが、上部の図形部分が独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得ること、上述のとおりであり、当該商標全体を不可分一体のものとしてみなければならない事情は見出せないから、被請求人の主張は採用できない。
また、被請求人使用商標1は、平成14年(2002年)ころには、その業務に係る「建物の貸借の代理又は媒介」について使用していたものと認められる(乙第7号証。甲第18号証によれば、平成19年(2007年)8月ころにも使用していたことが認められる。)。
(2)被請求人使用商標2について
甲第25号証によれば、被請求人使用商標2は、別掲(5)のとおり、被請求人使用商標1の上部の図形部分と色彩も含めて同一の構成からなる相似形の図形であり、「スタッフ日誌」と題する記事において、項目ごとの極めて小さい目印として使用されているものである。
そして、被請求人使用商標2の使用は、被請求人のホームページが被請求人の役務(本件商標の指定役務に含まれる「建物の貸借の代理又は媒介」)に関する広告を内容とする情報を提供するものであり(甲第18号証及び甲第25号証)、「スタッフ日誌」と題する記事を被請求人のホームページから独立したものとみるべき事情は見出せないから、これを商標としての使用に該当するものであるといわなければならない。
3 本件商標と被請求人使用商標の類否
(1)本件商標と被請求人使用商標1について
本件商標と被請求人使用商標1は、それぞれ別掲(1)及び(4)のとおりであり、両者は、上部の図形部分において前者が黒色で表されているのに対し後者が色彩を施されている点に差異を有するが、他の構成要素はすべて同一とするものであるから、互いに類似する商標と判断するのが相当である。
なお、被請求人は、被請求人使用商標1はその着色採択手法が商標の構成上の変更ではなく商標の使用上普通に行われる手法であり、本件商標と同一の範囲内のものと考えられるから、商標法第70条第3項の規定によって、同法第51条第1項における類似する商標には含まれない旨主張するが、この主張は採用することができない。
すなわち、同法第70条第3項は、「第51条第1項における『登録商標に類似する商標』には、その登録商標に類似する商標であって、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含まないものとする。」と規定されており、被請求人使用商標1は本条項に該当するかのようにも考えられる。
しかしながら、同法第70条第1項の趣旨は、商標の使用においては、少なくとも多少の色彩の相違は同一のものとして取り扱われているのが実情であり、そして、もし色彩が少しでも違えばその商標は相互にすべて同一ではないものとして取り扱われていることになれば不使用取消審判の適用や、商品又は役務ごとに色ちがいの商標を付して使用する場合等にすべての色について登録をし、かつ、使用をせねばならない等の不都合を生じるという点に鑑みたものであり、さらに、同法第51条第1項の趣旨は、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課すという点にあると解される。(特許庁編「工業所有権法逐条解説[第17版]1464頁及び13554頁)
そうとすれば、同法第70条第3項に該当する商標は、登録商標と一般に同一のものとして取り扱われる程度に色彩が相違するものに限られると解釈するのが相当である。
してみれば、被請求人使用商標1は、その上部の図形部分を構成する二つの直角三角形にそれぞれ青と緑、円図形に赤と異なった三色の色彩が施されており、黒色で表された本件商標とは一般に同一のものとして取り扱われる程度の色彩の相違とはいい難く、同法第70条第3項には該当しないものといわなければならない。
(2)本件商標と被請求人使用商標2について
本件商標と被請求人使用商標2は、それぞれ別掲(1)及び(5)のとおりである。そして、本件商標は、図形部分と「NANYO」の文字部分とが上部と下部に明らかに区別して配置されている上、上部の図形部分は下部の文字部分の3倍程度の大きさで表されているから、本件商標は、その構成中上部の図形部分が、取引者・需要者に対し商品の出所標識として強い印象を与え、独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものと判断するのが相当である。
なお、被請求人は、本件商標は、その構成中の上部の図形は下部の英文字「NANYO」の最初の文字「N」を図案化させたものであり、「NANYO」の文字とで全体の構成を成立させた旨主張しているが、上部の図形部分が独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得ること、上述のとおりであり、当該商標全体を不可分一体のものとしてみなければならない事情は見出せないから、被請求人の主張は採用できない。
そこで、本件商標の図形部分と被請求人使用商標2を比較すると、両者は、前者が黒色で表されているのに対し後者が色彩を施されている点に差異を有するが、他の構成要素はすべて同一とするものであるから、互いに類似する商標と判断するのが相当である。
してみれば、本件商標と被請求人使用商標2とは、互いに類似する商標といわなければならない。
4 請求人の使用に係る商標等について
甲第3号証ないし甲第9号証によれば、請求人及びそのグループ会社が使用する商標は、別掲(3)のとおりの構成よりなる商標(請求人使用商標)であること、及びその商号中に「長谷工」の文字を含まない請求人のグループ会社も「HASEKO」の文字を含む請求人使用商標を使用していること(甲第4号証の7及び8)が認められる。
そして、請求人使用商標は、不動産及び建築の分野の取引者及び需要者の間に広く認識されているものと認めることができる。
しかしながら、請求人使用商標中の図形部分については、請求人及びそのグループ会社の業務に係る役務を表示するものとして、それが単独で使用されていることを明らかにする証拠の提出はない。
そうすると、請求人の提出した証拠によっては、請求人使用商標中の図形部分は、被請求人使用商標1が使用されていた平成14年はもとより、現在においても、それ自体独立して、請求人及びそのグーループ会社の業務を表示するものとして、取引者及び需要者の間に広く知られ周知性を獲得するに至っていたものと認めることは困難であるといわざるを得ず、他にこれを認めるに足る証拠は見出せない。
5 役務の出所の混同及び質の誤認を生ずるおそれについて
商標法第51条第1項における役務の質の誤認又は出所の混同を生ずる使用に該当するか否かは、実際の具体的な使用について判断すべきである。
そして、請求人使用商標と被請求人使用商標1は、それぞれの図形部分において構成要素を共通にする部分があるとしても、請求人使用商標は、商号中に「長谷工」の文字を含まない請求人のグループ会社を含め、図形部分と「HASEKO」の文字部分が常に不可分一体に使用され、他方、被請求人使用商標1も、図形部分と「NANYO」の文字部分が不可分一体に使用されている。
そうとすれば、両商標は、それぞれ下部に明確に表された「HASEKO」及び「NANYO」の文字部分が明らかに相違し、当該部分がいわば混同防止表示のごときに認識されることと相俟って、容易に区別し得るものと判断するのが相当である。
また、請求人使用商標と被請求人使用商標2は、両者は図形部分において構成要素を共通にする部分があるとしても、「HASEKO」の文字の有無という明らかな差異があり、加えて、被請求人使用商標2が「スタッフ日誌」と題する記事において項目ごとの極めて小さい目印として使用されていることを考慮すれば、被請求人使用商標2の使用は、請求人及びそのグループ会社の業務に係る役務であるかのごとく、その役務の出所について混同を生じさせるおそれや質の誤認を生じさせるおそれがあるものとは認め難い。
さらに、請求人使用商標中の図形部分については、上述の4で認定したとおり、請求人及びそのグループ会社の業務を表示するものとして、取引者及び需要者の間に広く知られていたものと認めることができないから、当該図形部分と被請求人使用商標との関係においては、役務の出所の混同及び質の誤認を生ずるおそれはないものといわなければならない。
また、被請求人による被請求人使用商標1及び同2の使用を併せみても、上述の認定を覆さなければならない事情は見出せない。
以上によれば、被請求人使用商標の使用は、これに接する取引者及び需要者が、請求人の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものと認めることはできないのみならず、請求人と何らかの関係のある者の業務に係る役務であると誤信することもないから、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるものということもできない。
6 故意について
請求人は、被請求人に対して被請求人使用商標の使用の中止を申し入れたが、本件商標が登録されたことを奇貨として、被請求人は今もなお被請求人使用商標の使用を継続しているから、被請求人が出所の混同等について故意であった旨主張する。
しかし、請求人使用商標中の図形部分が周知性を獲得したものと認めることができないこと、被請求人使用商標の使用が請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれ等がないものであること、被請求人使用商標1は本件商標の設定登録(平成19年)前の平成14年には使用され、図形部分と「NANYO」の文字部分が常に不可分一体に使用されていること、及び被請求人使用商標2が「スタッフ日誌」と題する記事において項目ごとの極めて小さい目印として使用されていることからすれば、被請求人の被請求人使用商標の使用は、請求人又はそのグループ会社の業務に係る役務と混同を生ずること又は質の誤認を生ずることについて、故意があったものと認めることはできない。
7 むすび
以上のとおり、被請求人の被請求人使用商標の使用は、取引者、需要者をして役務の質の誤認又は他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあるものとはいえず、また、故意に、役務の質の誤認又は他人の業務に係る役務と混同を生ずるものをしたとも認めることはできない。
したがって、被請求人による被請求人使用商標の使用は、商標法第51条第1項の要件を欠くというべきであるから、本件商標の登録は、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1) 本件商標


(2) 長谷工マーク(色彩については原本を参照)


(3) 請求人使用商標(色彩については原本を参照)


(4) 被請求人使用商標1(色彩については原本を参照)


(5) 被請求人使用商標2(色彩については原本を参照)


審理終結日 2009-06-04 
結審通知日 2008-07-08 
審決日 2008-07-23 
出願番号 商願2006-85762(T2006-85762) 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (Y36)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊瀬 京太郎 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 杉山 和江
小畑 恵一
登録日 2007-05-18 
登録番号 商標登録第5047929号(T5047929) 
商標の称呼 ナンヨー 
代理人 中山 俊彦 
代理人 下坂 スミ子 
代理人 松田 克治 
代理人 松田 三夫 
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