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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を取消(申立全部取消) X0305 |
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管理番号 | 1214743 |
異議申立番号 | 異議2008-900350 |
総通号数 | 125 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2010-05-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2008-09-16 |
確定日 | 2010-03-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第5140777号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第5140777号商標の商標登録を取り消す。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第5140777号商標(以下「本件商標」という。)は、「カンパリグレープフルーツ」の片仮名文字を標準文字で表してなり、平成19年6月8日に登録出願、第3類「家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用漂白剤,かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,つや出し剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,芳香剤(身体用のものを除く。),その他の香料類」及び第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕環,失禁用おしめ,はえ取り紙,防虫紙」を指定商品として、同20年4月30日に登録査定、同年6月13日に設定登録されたものである。 2 登録異議の申立ての理由 (1)引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録第702484号商標(以下「引用商標」という。)は、「CAMPARI」の欧文字を横書きしてなり、昭和39年11月13日に登録出願、第28類「酒類」を指定商品として、同41年3月25日に設定登録され、その後、4回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、平成18年6月21日に指定商品を第32類「ビール」及び第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」とする指定商品の書換登録がされているものである。 そして、当該商標権には、第29類「清涼飲料,果実飲料」を指定商品とする防護標章登録第1号が平成2年5月28日に設定登録され、同13年3月9日に防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録がされているものである。 (2)申立ての理由(要点) ア 本件商標と引用商標との類似性について 本件商標は、片仮名の標準文字「カンパリグレープフルーツ」を一連に書してなるが、「グレープフルーツ」の部分は果実の一般名称であり、その要部は「カンパリ」である。 一方、引用商標は、欧文字「CAMPARI」を一連に書してなり、「カンパリ」の称呼を生じること明らかである。 そうとすると、本件商標の要部と引用商標とは、称呼において同一であることから、両商標が全体として類似することは明らかである。 イ 引用商標の著名性について 日本において引用商標を有する申立人を中核とするカンパリグループは、世界190か国で40に及ぶブランドの酒類・清涼飲料等を販売しており(甲第4号証)、2007年度における同グループ全体の売上げは、957.5百万ユーロ(約1,340億円)、純利益は、125.2百万ユーロ(約175億円)である(甲第5号証)。 我が国においても、引用商標は、洋酒等の酒類を指定商品として昭和39年11月13日に登録出願され、同41年3月25日に設定登録されており(甲第2号証)、サントリー株式会社が輸入代理店として、申立人の「CAMPARI」商品を輸入・販売している(甲第6号証)。 また、引用商標は、昭和56年12月28日に、指定商品を「清涼飲料,果実飲料」として防護標章登録出願され、平成2年5月28日設定登録、同12年4月27日に防護標章の更新登録出願がされ、同13年3月9日に更新登録されており、この事実も引用商標の周知・著名性を示す証左である(甲第2号証)。 ウ 商標法第4条第1項第8号該当性について 「カンパリ(CAMPARI)」とは、イタリアのトリノでバーテンダーをしていたガスパーレ・カンパリ(Gaspare Campari)が開発し、1860年、当時の流行に乗って、「ビッテル・アルーソ・ドランディア」(オランダ風苦味酒)と名づけて売り出した商品に由来し、その後、息子のダヴィデ・カンパリ(Davide Campari)が「カンパリ(CAMPARI)」と商品名を変え、現在は申立人が製造元となっている(甲第8号証)。 したがって、「カンパリ(CAMPARI)」は、カクテルのベースとして使われるビター系リキュール酒の一種としての洋酒たる商品を、引用商標のもとに世界各国で販売する申立人の著名な略称である。 よって、本件商標は、他人(申立人)の名称の著名な略称たる「カンパリ」を含み、申立人の承諾を得ていないものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当する。 エ 商標法第4条第1項第15号該当性について 上述のように、本件商標と引用商標とが類似し、引用商標が著名であることは明らかである。 そうとすると、本件商標権者が、本件商標をその指定商品に使用した場合には、当該指定商品の需要者が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。 オ 商標法第4条第1項第19号該当性について 上述のように、本件商標と引用商標とが類似すること、及び引用商標が申立人の業務に係るビター系リキュール酒を表示するものとして日本国内又は外国において著名であることは明らかである。 そうとすると、本件商標権者が、本件商標を第3類「家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤」等や第5類「薬剤、医療用油紙,衛生マスク」等の指定商品に使用する行為は、申立人が永年にわたり営々と築き上げ、その著名商標「CAMPARI」に化体した信用や名声を著しく毀損・破壊するとともに、同商標の出所表示機能を著しく稀釈化するものである。 よって、本件商標は、日本国内又は外国において著名な商標について、信義則に反する不正の目的でなされたものといえ、商標法第4条第1項第19号に該当することは明らかである。 3 本件商標に対する取消理由 平成21年8月24日付けで通知した取消理由は、要旨次のとおりである。 (1)引用商標の周知性について ア 申立人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。 (ア)申立人は、スピリッツ、ワイン、ソフトドリンクを取り扱うイタリアの法人であり、同人に係る製品は世界190ヶ国以上で取り扱われており、2007年度における同人グループ全体の売上げは、約1340億円である(甲第4号証及び甲第5号証)。 (イ)申立人に係るリキュールの瓶にはり付けられたラベルには、「CAMPARI」の文字が表示されており、当該商品は、発案者であるガスパーレ・カンパリが1882年に死亡した後、事業を承継した息子のダビデ・カンパリによって「CAMPARI(カンパリ)」と改名され、以降、本件商標の出願時はもとより登録時に至るまで継続して製造販売されており、我が国においても、2000年以降、輸入代理店であるサントリー株式会社を通じて継続して販売されていることが認められる(甲第6号証ないし甲第8号証及び後掲イ(キ))。 (ウ)2003年から2008年に至る間に、新宿、渋谷、赤坂、六本木等の屋外掲示板に「CAMPARI」の文字が表示された商品「リキュール」の広告を掲示したこと、東京駅や大阪駅の通路等に同様の掲示をしたこと、居酒屋、カラオケ店などのチェーン店において、同商品を使用したカクテルをメニューに掲載したこと、同商品との関連でホームカクテルの普及促進やスーパーマーケットにおける同商品の販売支援を行ったこと、などが認められ、「CAMPARI」の文字が表示された商品「リキュール」について、現物写真を大々的に掲示するなどし、また、「カンパリ」の文字を併せ表示して、当該商品の宣伝広告が継続的に行われたことが認められる(甲第7号証)。 イ 当審において職権による調査をした結果によれば、以下の事実が認められる。 (ア)「英和商品名辞典」(1991年 株式会社研究社発行)には、「Campari カンパリ」の項に、「イタリアのCampari社製の一種のリキュール。1860年より製造。・・・考案者G.Campariに由来。」との記載がある。 (イ)「コンサイスカタカナ語辞典 第3版」(2005年10月20日 株式会社三省堂発行)」には、「カンパリ」(Campari)の項に、「イタリア産の赤いリキュール。辛味のある食前酒として好まれている。」との記載がある。なお、「Campari」の文字の前には、登録商標(商品名・会社名など)である旨の記号が表示されている。 (ウ)「例文で読むカタカナ語の辞典第3版」(1998年11月1日 株式会社小学館発行)には、「カンパリ(Campari)」の項に、「イタリアの薬酒。苦味が強く、鮮やかな赤い色と柑橘系の香りが特徴。商標名。」との記載がある。 (エ)「カタカナ語・略語辞典〔改訂新版〕」(1996年1月10日 株式会社旺文社発行)には、「カンパリ[Campari]」の項に、「イタリアの薬酒の商標。鮮やかな赤色と柑橘系の香りを特徴とする苦味のある酒。」との記載がある。 (オ)「研究社 新英和大辞典第6版」(2002年3月 株式会社研究社発行)には、「Campari」の項に、「【商標】カンパリ《食前酒として飲まれるイタリア産ビターズ;ソーダ水と混ぜてよく飲まれる》。」との記載がある。 (カ)「小学館ランダムハウス英和大辞典第2版」(2002年1月10日 株式会社小学館発行)には、「Campari」の項に、「《商標》カンパリ:赤い色をしたイタリアの食前酒。」との記載がある。 (キ)「’86?’87ザ・ブランド」(1986年10月30日 サンケイマーケティング発行)には、「CAMPARI カンパリ(イタリア)」の項に、「イタリアはミラノで100年以上前に生まれた『カンパリ社』のオリジナル・リキュールの商標。ルビー・レッドの輝きとおとな好みのほろ苦さは、古くて新しいドリンクともいえ、多くの人たちに親しまれている。」及び「発案者はガスパーレ・カンパリ。・・・そして遂に1860年、夢にまでみた新しい酒を売り出したのである。・・・まだガスパーレは自分の名前をつけることをためらい“ビッテル・アルーソ・ドランディア”(オランダ風苦味酒)と名づけた。1882年ガスパーレが亡くなった後、息子のダビデ・カンパリが事業を継ぎ、父の意志のとおり、この酒をカンパリと改名したのである。」との各記載がある。 (ク)「2004年版世界の名酒辞典」(平成15年11月20日 株式会社講談社発行)」には、「CAMPARI」の文字が表示されたラベルをはり付けたリキュールの写真とともに「カンパリ」の項に、「1860年、ミラノ市でガスパーレ・カンパリが、ビッテル・アルーソ・ドランディア(オランダ風苦味酒)として創製。息子ダヴィデの代になって、カンパリと改名。・・・ダヴィデ・カンパリ社★サントリー」との記載がある。 (ケ)2006年4月27日付け「毎日新聞 東京朝刊13ページ」には、「家事科の時間:帝国ホテルの技 バーテンダーの仕事/4止」の見出しの下、「初めてカクテルに挑戦する場合、ベースのお酒として、まずはオレンジの皮から作った『カンパリ』をお求めになってはいかがでしょう。・・・カンパリは、シェーカーを使わず、混ぜるだけでカクテルが作れます。先にグラスに氷を入れておき、カンパリと他の材料を注いでスプーンでまぜます。氷は市販のものを使った方がおいしくできます。・・・氷の入ったグラスに2センチを目安にカンパリを入れ、お好みの量のソーダを加えるだけで『カンパリソーダ』ができます。スライスしたレモンを添えれば、見た目も華やか。ソーダの代わりにオレンジジュースを使えば『カンパリオレンジ』、グレープフルーツなら『カンパリグレープフルーツ』になります。」との記載がある。 (コ)1994年7月4日付け「日本食糧新聞」には、「サントリー、缶入り本格カクテル『カンパリグレープフルーツ』など発売」の見出しの下、「サントリー(株)は、イタリアを代表するリキュール『カンパリ』を使った缶入り本格カクテル『カンパリグレープフルーツ』『同オレンジ』を6月21日から全国に新発売している。カンパリにグレープフルーツジュース、オレンジジュースを加えてつくった本格カクテル。」との記載がある。 (サ)サントリーのウェブページ「カンパリを使ったカクテルCOCKTAILS」の見出しの下、「FRUITYフルーツ系 カンパリとフルーツの果汁感のバランスが魅力の、飲みやすいカクテル。」として、「カンパリ グレープフルーツ」が紹介されている(http://www.suntory.co.jp/wnb/campari/cocktails/index.html)。 (シ)「Campari カンパリ」を見出しとするウェブページには、「門外不出の味わいは食前酒の定番」及び「カンパリはビッテル・アルーソ・ドランディア(オランダ風苦味酒)と命名されていたが、後に創始者の名をとってカンパリと改名。いまや世界中にその名を轟かせている。」との各記載並びに「カンパリ・グレープフルーツ」の見出しの下、「カンパリのほろ苦さに、甘酸っぱさがほどよくマッチ ◆カンパリ…30ml ◆グレープフルーツ・ジュース…適量」との記載がある(http://www5a.biglobe.ne.jp/~shyoo1/campari.htm)。 (ス)「Akira’s liqueur book」を見出しとするウェブページには、「Campari カンパリ」の下に、「1860年ミラノに誕生。不動の存在感を持つ国際的銘酒。」の記載及び「カンパリを使用したカクテル」として、「カンパリグレープフルーツ」との記載がある(http://www.sango.sakura.ne.jp/~akira_n/liqu/campari.html)。 (セ)「カンパリ 750ml/CAMPARI」の見出しの下、「すっかりおなじみになったイタリア名産のリキュール。」との記載がある(http://www.golfdigest.co.jp/detail3/detail_6410661.html)。 (ソ)「病み付きの苦味系リキュール・カンパリ」の見出しの下、「最近のイタリアンブームですっかりおなじみになったイタリア名産のリキュール、『カンパリ』。」との記載がある(http://www.ne.jp/asahi/bar/stolas/campari.htm)。 (タ)「カンパリ 24度」の見出しの下、「『CAMPARI(カンパリ)』は、その美しい液色と独特の風味が世界中で愛されているイタリアを代表するリキュールです。日本でもカクテルづくりには欠かせないものとして本格バーをはじめ幅広い料飲店様でお取扱いいただいています。 」との記載がある(http://kingkong-club.com/SHOP/li025.html)。 ウ 以上によれば、「カンパリ」又は「CAMPARI」(以下、これらをまとめて「使用商標」という。)は、本件商標の登録出願時には既に、申立人の業務に係るリキュールの商標として日本国内又はイタリアを中心として外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたというべきであり、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものというのが相当である。 (2)本件商標と使用商標の類否 本件商標は、「カンパリグレープフルーツ」の片仮名文字からなるものであるところ、その構成中の「グレープフルーツ」の文字(語)は、「果実(ミカン科ザボン類の大形柑橘類)」(広辞苑第六版)を表す語として我が国において一般に親しまれているものであるのに対し、「カンパリ」の文字は、成語とは認められないものである。 しかして、「カンパリ」の文字は、上記のとおり、申立人の業務に係るリキュールの商標として、日本国内の需要者の間に広く認識されているものであることから、本件商標において、語頭部の「カンパリ」の文字部分に強い印象を留めて記憶し、取引に資される場合も決して少なくないものというのが相当である。 してみると、本件商標は、その構成中の「カンパリ」の文字部分が独立して認識されるというべきであるから、その構成文字全体に相応して「カンパリグレープフルーツ」の称呼を生ずるほかに、「カンパリ」の文字部分に相応して「カンパリ」の称呼を生じ、また、「カンパリ社(申立人)製のリキュール」の観念をも生ずるというべきである。 他方、使用商標は、その構成文字に相応して「カンパリ」の称呼及び「カンパリ社(申立人)製のリキュール」の観念を生ずるものである。 そうすると、本件商標と使用商標とは、「カンパリ」の称呼及び「カンパリ社(申立人)製のリキュール」の観念を同じくし、かつ、外観についても片仮名「カンパリ」の綴り字を同じくするものである。 したがって、本件商標は、使用商標と外観、観念及び称呼を共通にすることのある類似の商標といわなければならない。 (3)不正の目的の有無について 本件商標の構成中の「カンパリ」の文字部分は、前記(1)のとおり、申立人がリキュールに使用する商標として日本国内のみならずイタリアほか外国において、取引者、需要者の間に広く認識されている使用商標と類似するものであり、かつ、使用商標は、「カンパリ社(申立人)製のリキュール」を観念させるほかには、何ら特定の意味を有しない造語である。 しかして、本件商標の登録出願日よりも相当以前から、「カンパリグレープフルーツ」と称されるカクテルがあることを認められるところ、該カクテルは、申立人に係るリキュールの「カンパリ」とグレープフルーツを使用したものとして知られており、その名称も、材料の一つとして使用される該「カンパリ」に由来して、「カンパリ」文字が冠されているというべきものである。 一方、商標権者は、本件商標に係る審査の過程において、平成20年1月17日付け手続補足書により参考資料1ないし7を提出しているところ、その参考資料1には、「イタリアのトリノでバーテンダーをしていたガスパーレ・カンパリ氏(Gaspare Campari)が開発し、・・・その後息子のダヴィデ・カンパリが『カンパリ』と名前を変えた。現在の製造元はダヴィデ・カンパリ社。輸入元はサントリー。なお、カンパリ社は、ヴェルモットのチンザノ、ウオツカのSKYYなどを傘下におさめる、酒造業界の一大グループとなっている。」及び「カンパリを使ったカクテル」の見出しの下に、「カンパリグレープフルーツ」と各記載され、さらに、参考資料2には、「『カンパリ』は鮮紅色が美しい、イタリアを代表するリキュール。・・・1860年、イタリア・ミラノのガスパーレ・カンパリ氏によって生み出された『カンパリ』は、いまや世界160カ国以上の国々で愛飲されている。」と記載されていることが認められる。 そうとすると、使用商標の知名度を勘案すれば、商標権者は、使用商標が申立人の業務に係るリキュールを表す商標として広く知られているものであること、及び、そのリキュールを使用したカクテルの一を「カンパリグレープフルーツ」と称していることを十分認識していたというべきである。 してみると、使用商標は、日本国内又はイタリアその他の外国において需要者の間に申立人の業務に係るリキュールを表示するものとして広く認識されていたこと、商標権者は、使用商標についての周知著名性を十分認識していながら、これと類似する本件商標の登録出願をしたこと、本件商標が申立人の業務に係るリキュールを使用したカクテルの名称「カンパリグレープフルーツ」と偶然に商標としての採択が一致したものとは到底認め難いものであることを総合勘案すると、本件商標の登録出願時及び登録査定時において使用商標が有する信用又は名声に便乗して、利益を得ようとの目的をもって、本件商標の登録出願をしたと推認せざるを得ないから、本件商標は、不正の目的をもって使用をする商標に該当するというべきである。 (4)まとめ 以上を総合してみると、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものに該当するものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。 4 商標権者の意見 商標権者は、前記3の取消理由に対し、「本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。」として、要旨次のように述べた。 (1)使用商標の周知性について 本件商標の指定商品は、使用商標の指定商品とは類似しない商品である。 申立人の引用する商標の指定商品「酒類、清涼飲料等」の業務分野における周知性の認否はさておき、取消理由には、本件商標の指定商品の業務分野における使用商標の周知性の証拠となるものは何も示されていない。使用商標が、本件商標の指定商品の業務分野において、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識され、周知・著名性を獲得するに至っているとはいえない。 したがって、本件商標に接する需要者等が、直ちに申立人の商標であることを想起するとはいえないことから、本件商標をその指定商品に使用しても、申立人又は同人と関係のある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがない。 (2)本件商標と使用商標との類否 本件商標は、「カンパリグレープフルーツ」の片仮名文字からなるものである。 本件商標の指定商品は、前記1のとおりの商品に係るものであり、「グレープフルーツ」の文字が商品の品質、原材料等に該当するとは思われない。さらに、「グレープフルーツ」の文字(語)が、一般に親しまれているものであるのならば、本件商標の「グレープフルーツ」の文字部分が逆に需要者の注意を引くことになる。 したがって、ことさらに本件商標の構成中より前半の「カンパリ」の文字部分が独立して認識されるとする取消理由は根拠がなく、本件商標の前後半部分に軽重の差を認めるべき理由も存しないものである。 してみると、本件商標は、さほど冗長にわたるほど長くないものであるから、全体を一連に「カンパリグレープフルーツ」と称呼するものと観察するのが自然であり、単なる「カンパリ」の称呼の使用商標とは類似しないものであり、また、外観及び観念においても類似しない。 (3)不正の目的について 前記(1)で述べたとおり、取消理由には、使用商標は、申立人の業務に関する指定商品「酒類、清涼飲料」においてはいざ知らず、本件商標の指定商品に使用する商標として、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識され、周知・著名性を獲得するに至っているとする証拠がなく、また、申立人の業務と本件商標の指定商品とは、目的、用途、業種、流通系統、需要者層等を異にするものであって、関連性が乏しいものであり、さらに、申立人が多角経営等により本件商標の指定商品等の異業種に参入していることをうかがわせるような証拠、事実も発見できない。 かかる事情の下において、本件商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者、需要者が使用商標を連想、想起するようなことはないというべきであり、該商品が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれはないものと判断するのが相当である。 以上のように、本件商標は、各参考資料によって、商標権者が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものであるということはできない。 5 当審の判断 (1)本件商標についてした前記3の取消理由は妥当なものであり、これに対する商標権者の意見は、以下の理由により採用することができない。 ア 商標権者は、本件商標の指定商品の業務分野において、使用商標が日本国内又は外国における需要者の間に広く認識され、周知・著名性を獲得するに至っているとはいえず、本件商標を指定商品に使用しても、申立人又は同人と関係のある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがない旨主張する。 しかし、商標法第4条第1項第19号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。) 」と規定するところ、同号は、もともと只乗り(フリーライド)のみならず、稀釈化(ダイリューション)や汚染(ポリューション)の防止をも目的とする規定であり、そこでは、例えば、同第15号が出所の誤認混同のおそれを要件として規定しているのとは異なり、これを要件として規定することはしていない。また、商標法第4条第1項第19号は、問題とされる商標が外国において周知であるときは、日本国内における周知性は問わないものとしている。これらのことからすれば、同号の要件としての周知性は、誤認混同のおそれの防止を直接の目的とするものではなく、同号によって守られるに値する商標としての最低限の資格を設定するものにすぎないというべきであり、そうであるとすれば、当該商標が周知となっている商品と出願商標の指定商品との関係は、直接には問題にはならず、ただ、両商品の関係が、他の要素(例えば、出願人の方に、周知商標の存否に関係なく、出願商標を指定商品に使用する意思や必要があったか否か、など)ともからんで、不正の目的の有無を判断するための一要素となるにすぎないというべきである(東京高等裁判所平成14年(行ケ)第97号 平成14年10月8日判決参照)。 そして、前記3の取消理由のとおり、使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、日本国内又は少なくてもイタリア国において、商品「リキュール」等の需要者の間に広く認識されていた商標というべきである。 したがって、本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」に当たらないとする商標権者の上記主張は、採用することができない。 イ 商標権者は、本件商標はその指定商品との関係で、その構成中の「グレープフルーツ」の文字が商品の品質、原材料等に該当するものではなく、本件商標の前後半部分に軽重の差を認めるべき理由がないから、構成全体を一連とするものであり、使用商標とは類似しない旨主張する。 しかし、前記3の取消理由のとおり、「グレープフルーツ」の語は、「果実(ミカン科ザボン類の大形柑橘類)」を意味するものであり、我が国において一般に親しまれている語といい得ること、使用商標は、申立人の業務に係るリキュールを表すものとして、日本国内又はイタリア国における需要者の間に広く認識されていること、我が国において、申立人に係るリキュール「カンパリ」にグレープフルーツを加えたカクテルを、カンパリの名称を冠して「カンパリグレープフルーツ」と称して知られていることが認められる。 そうすると、本件商標は、その構成中の「グレープフルーツ」の文字部分が商品の品質、原材料を表すものであるか否かはさておき、その構成中の「カンパリ」の文字部分が独立して認識されるとみるのが相当であり、使用商標と類似する商標というべきであるから、商標権者の上記主張は、採用することができない。 ウ 商標権者は、本件商標をその指定商品に使用しても、申立人又は同人と関係のある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがないから、商標権者が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものではない旨主張する。 しかし、前記アのとおり、商標法第4条第1項第19号は、同第15号のように「商品の出所について混同を生ずるおそれ」を要件とするものではなく、前記3の取消理由のとおり、商標権者が本件商標の審査の過程において提出した参考資料1に、「現在の製造元はダヴィデ・カンパリ社。」及び「カンパリを使ったカクテル」の見出しの下に、「カンパリグレープフルーツ」との各記載があり、同じく参考資料2に、「『カンパリ』は鮮紅色が美しい、イタリアを代表するリキュール。・・・1860年、イタリア・ミラノのガスパーレ・カンパリ氏によって生み出された『カンパリ』は、いまや世界160カ国以上の国々で愛飲されている。」と記載されていることからすれば、商標権者は、使用商標が申立人の業務に係るリキュールを表す商標として広く知られているものであること、及び、そのリキュールを使用したカクテルの一を「カンパリグレープフルーツ」と称していることを十分認識していたというべきであり、本件商標が申立人の業務に係るリキュールを使用したカクテルの名称「カンパリグレープフルーツ」と偶然に商標としての採択が一致したものとは到底認め難いものであること等を勘案すると、使用商標が有する信用又は名声に便乗して利益を得ようとの目的をもって、本件商標の登録出願をしたと推認せざるを得ないから、本件商標は、同第19号にいう「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。略)をもつて使用をするもの」に該当するというべきである。 したがって、商標権者の上記主張は、採用することができない。 (2)結論 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2010-01-22 |
出願番号 | 商願2007-57915(T2007-57915) |
審決分類 |
T
1
651・
222-
Z
(X0305)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 箕輪 秀人 |
特許庁審判長 |
井岡 賢一 |
特許庁審判官 |
酒井 福造 末武 久佳 |
登録日 | 2008-06-13 |
登録番号 | 商標登録第5140777号(T5140777) |
権利者 | エステー株式会社 |
商標の称呼 | カンパリグレープフルーツ、カンパリ、グレープフルーツ |
代理人 | 葦原 エミ |
代理人 | 山村 大介 |
代理人 | 松田 省躬 |
代理人 | 津国 肇 |