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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) X30
管理番号 1213064 
異議申立番号 異議2008-900457 
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2010-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2008-11-17 
確定日 2010-03-05 
異議申立件数
事件の表示 登録第5159303号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5159303号商標の商標登録を取り消す。
理由 1 本件商標
本件登録第5159303号商標(以下「本件商標」という。)は、「ももいちごの里」の文字を標準文字により表してなり、平成20年2月21日に登録出願され、同年7月10日に登録査定、第30類「菓子,パン」を指定商品として同年8月15日に設定登録されたものである。

2 登録異議の申立ての要旨
(1)商標法第4条第1条第10号について
有限会社福屋(以下「申立人福屋」という。)は、平成14年(2002)に、徳島市農業協同組合(以下「申立人JA徳島市」という。)の組合員である佐那河内村支所の特定農家が生産する、徳島県佐那河内村産のイチゴとして著名な「ももいちご」を内側に含んだ大福を開発し、これに「ももいちごの里」の商標(以下、本件登録商標と区別するため「福屋商標」ともいう。)を付して販売を開始し、現在に至っている。
なお「ももいちご」の商標権自体は、申立人JA徳島市の組合員である秦忠義(以下「申立人秦」という。)が、商品「いちご」について、商標「ももいちご\百壱五」(商標登録第4323578号、以下「申立人秦登録商標」という。)を取得しており、申立人JA徳島市が該商標の使用を管理している。
「ももいちご」のブランドで販売されるイチゴは、申立人JA徳島市の佐那河内村支所の組合員である、徳島県名東郡佐那河内村の特定の農家のみが生産するイチゴであり、桃のように大粒で甘みが強く果汁はジューシーであることから大変な人気商品となった。特に生産農家を限定していることから希少性が高く、高級イチゴ或いは幻のイチゴとして多くのメディアに取り上げられ、さらに人気に拍車がかかりデパートやインターネットなどでは高価で販売されている。
一方で申立人福屋は、高価な該ももいちごをそのまま使用した大福を開発し、「ももいちごの里」との福屋商標を使用して平成14年(2002)より販売を開始した。なお該商品の開発、販売及び福屋商標「ももいちごの里」の使用にあたっては申立人JA徳島市から許諾と協力を得ている。申立人福屋による「ももいちごの里」大福の販売形態は、店舗やデパートでの販売の他、インターネットを通じて全国に販売している。その売上高は、毎年12月から翌年3月頃という限られた期間にも拘わらず、1000万円に達する。
該福屋商品「ももいちごの里」も大好評を博し、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどの多くのメディアで紹介された結果、福屋商標「ももいちごの里」は、申立人福屋の大福を示すものとして、遅くとも平成20年初頭までに、少なくとも関西地方の需要者の間に広く認識されている。
したがって、本件商標は商標法第4条第1条第10号に違反することは明白である。
(2)商標法第4条第1条第7号について
商標権者は、申立人福屋が福屋商標「ももいちごの里」を第30類の指定商品「菓子」で登録していないことを奇貨として、他人の周知商標の登録を得たものであるから、公の秩序又は善良の風俗に反する。
同様に申立人秦がイチゴについて所有する著名な商標「ももいちご」を要部として取り込んだ商標を無断で登録したものである。
さらに付言すると、商標権者はその名称の通り土産物を扱っており、「ももいちごの里」の商標を付した商品「パイ」を土産物店などで販売し、商品パッケージ表面には「徳島県 佐那河内村ももいちご使用」と明記している。しかしながら、実際には「ももいちごミックスジャム(りんご由来)」を使用しているに過ぎず、青果である「ももいちご」そのものがパイに含まれている訳ではない。また該「ももいちごミックスジャム」に「ももいちご」がどの程度含まれているかも不明である上、表示の根拠となるのは「りんご由来」のミックスジャムであるから、「ももいちご」を期待する需要者を誤認させるおそれの高い表示であって、不適切と言わざるを得ない。何より、需要者間に「もものように甘くてジューシーなイチゴ」として評判を得ている「ももいちご」の風味を感じられる商品とは言い難く、このような品質の商品を恰も「ももいちご」と同様の感動を得られる商品として販売することは、需要者の期待を裏切り、「ももいちご」に化体した信用を著しく毀損することは明白である。
一般論としては、商品の質の劣悪が直ちに商標法第4条第1号第15号等の取消理由に該当しないとされている。これは、商品の劣悪は自身の商標の信用を失墜させること、換言すると自らが不利益になる行為を商標権者は行わないであろうとの前提に立つものであるが、本件においては商標権者による本件商標登録の使用によって、現実に申立人らの努力により構築した信用が毀損されており、また需要者の利益も阻害されている。このような状況を放置すれば、申立人らが苦労して築き上げた「ももいちご」のブランドカと信用が損なわれるのみならず、需要者においても商標権者商品を「ももいちご」と同様の品質や感動を期待して購入する結果、多大な不利益を被る。
さらに付言すれば、商標権者は「ももいちご饅頭」なる饅頭商品も販売しているが、同様に「ももいちごミックスジャム(りんご由来)」を使用したものであって、上記パイと同様、需要者の期待する「ももいちご」の感動を得られるものではない。このように商標権者の行為は、商品の品質よりも商標に依拠して販売しているものであり、品質を期待する需要者に対して不利益を現実に生じている。このような状況は、商標法制定の趣旨に鑑みても決して望ましくない。
以上のような背景から、本件商標は、公序良俗に違反し、商標法第4条第1項第7号違反に該当する。
(3)商標法第4条第1条第15号について
本件商標は、申立人JA徳島市が生産、管理する徳島県佐那河内村産のイチゴとして著名な商標「ももいちご」を含むので、需要者は該「ももいちご」の生産者である申立人JA徳島市と何らかの関係を有するものと考えるところ、商標権者有限会社ニコニコヤみやげ店は、申立人JA徳島市とも申立人秦とも無関係である。特に本件においては上述のとおり、イチゴと菓子、パンは商品の販売形態が嗜好品として近接している上、イチゴを含んでいることを全面に押し出した菓子やパンが多く存在していることから、出所混同のおそれが高いという事情もある。
よって、本件商標は他人の業務に係る商品と出所の混同を生じるおそれがあるといえ、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1条第16号について
さらに極めて重大な瑕疵として、本件商標は、上述のとおり、徳島県佐那河内村産のイチゴとして著名な商標「ももいちご」、又は少なくとも「いちご」の表示を含むところ、その指定商品は単に「菓子やパン」であって、「ももいちご」以外のイチゴを含む菓子やパン、あるいはイチゴ自体を含まない菓子やパンをも包含している。よって「ももいちご」を含まない商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号にも該当する。

3 当審が通知した取消理由
当審において、商標権者に対し、平成21年6月22日付け取消理由通知書をもって通知した本件商標の取消理由は、要旨次のとおりである。
(1)登録異議申立人有限会社福屋(以下「福屋」という。)、登録異議申立人徳島市農業協同組合及び登録異議申立人秦忠義の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)2004(平成16)年1月6日付け「讀賣新聞」には、「四国食紀行」、「甘?い果汁たっぷり」、「ももいちご 徳島県佐那河内村」の見出しの下に、「スダチの産地として知られる佐那河内村に、新たな<ブランド果物>として全国から熱い視線を注がれているイチゴがある。普通のイチゴの三倍以上はあろうかという百八十グラムの大きさと・・・ジューシーさ、そして、甘くて柔らかい香りが人気を呼んでいる『ももいちご』だ。『桃のように大きく、ジューシーで甘い』というのが名前の由来。大阪中央青果市場とJA徳島市佐那河内支所が1992年に共同開発した。開発と言っても品種改良で生み出されたものではなく、気候を生かした栽培法と、糖度や大きさなどの出荷規格を統一した結果誕生した。」、「ももいちごを使って徳島市内の和菓子店『福屋』は2002年から、イチゴ大福「ももいちごの里」を売り出している。・・・発売初日、四百八十円という値段にもかかわらず、開店から四時間で百二十個を完売。」、「東京では、最高で1ケース1万円近くの値を付けることもあるというももいちご。」等の記述がされ、上記イチゴ「ももいちご」及びイチゴ大福「ももいちごの里」の写真が掲載されている(甲第4号証の1)。同様の内容の記事は、インターネットの讀賣新聞「YOMIURI ON-LINE」サイトでも掲載された(甲第4号証の2及び3)。
(イ)福屋では、「ももいちごの里」の文字からなる商標(以下「引用商標」ということがある。)を商品「大福」の個別包装及び包装箱に付して使用しているほか、インターネットを介して該商品の通信販売も行っている。福屋のホームページには、「ももいちごの里通信販売」の表題の下に、「徳島市佐那河内村では『桃のように大きく、ジューシーで甘い』という『ももいちご』がごく少数の農家でつくられています。ジューシーで、そして、甘く柔らかい香りの『ももいちご』を真白で柔らかな餅でそっと包みました。」と記述され、「ももいちごの里」と表示された上記商品の写真と共に、2004年12月3日付けの「徳島新聞掲載記事」の抜粋写しも掲載されている。該新聞記事には、「『甘い宝石』色づく」、「ももいちご収穫始まる」の見出しの下に、「佐那河内村特産のイチゴ『ももいちご』の収穫が同村内の各農家で始まった。・・・ももいちごの産地は同村だけで、二十二戸が計四・七ヘクタールで栽培。・・・JA徳島市佐那河内支所で検査を受けた後、大阪市内の卸会社に出荷される。」と記載されている。福屋のNETショッピングサイトでは、「ももいちごの里」単品、「ももいちごの里」化粧箱3個入、「ももいちごの里」化粧箱6個入の写真が掲載され、各商品(以下、引用商標を使用したこれらの商品を「使用商品」ということがある。)の説明、価格等が記載されている(甲第2、第3及び第5号証)。
(ウ)月刊タウン情報誌「CU」2007.2.15号(株式会社メディコム発行)には、「大正創業の老舗が全国に誇る!キング・オブ・いちご大福」の表題の下に、写真と共に、「福屋のももいちごの里1個550円※12月初旬?4月上旬までの期間限定(ももいちごの出荷による)」として紹介され、「・・・佐那河内村から全国へと名声を轟かせる名産『ももいちご』ではないだろうか。とはいっても、テレビ番組『どっちの料理ショー』で厳選素材に選ばれて以降、その人気はもはや全国区。・・・よくみると『ももいちごの里』とあるではないか。・・・聞くと同店では5年前からももいちごを使ったいちご大福を製造・販売しているという。」等の記述がされている(甲第6号証)。
(エ)月刊誌「STORY(ストーリィ)」2007年6月号(光文社発行)の別冊付録「女カッコイイ秘密、教えてください 冨田リカさんの『カジュアルの掟』BOOK」には、「冨田リカさんのスウィーツめぐり」と題する頁において、「大粒のいちごを丸ごと真っ白い餅で包んだ大福」として写真入りで商品が紹介され、「佐那河内産のももいちごは普通のより倍以上の大きさ。”ももいちごの里”1個¥550」と説明されている(甲第8及び第9号証)。
(オ)週刊誌「女性自身」2007年2月27日号(光文社発行)には、「華麗なるいちご族」の表題の下に、「徳島県・佐那河内村の生産者28名のみが育む【ももいちご】」の見出しで、「和菓子処福屋」「ももいちごの里」として写真入りで紹介され、「大粒のももいちごを、ピンクに色づけされた餡とともに柔らかいお餅で包んだ大福は、・・・」等の記述がされている(甲第11号証)。
(カ)隔週誌「関西ウォーカー」2006年No5(2/15→2/28)(角川書店発行)には、「めちゃ売れイチゴものをお取り寄せ」の頁において、「『和菓子処福屋』のももいちごの里」として写真入りで紹介され、「ももいちごの大福は果汁がジュワッ!柔らかな餅の中には、徳島県佐那河内村で作られる希少なももいちごが。・・・」等の記述がされている(甲第13号証)。
隔週誌「神戸ウォーカー」2005年No5(2/16→3/1)(角川書店発行)にも、「まだある!全国から見つけてきた編集部セレクトの激ウマイチゴフード」の頁において、「ももいちごの里」について同様の紹介がされている(甲第15号証)。
(キ)月刊誌「じゃらん中国・四国」2006年3月号(リクルート発行)には、「春先取り!新作スイーツ」の頁において、「徳島県徳島市」の見出しの下に、「福屋(ふくや)」として紹介され、大福の写真と共に、「桃のようなサイズとジューシーさ『ももいちごの里』」525円(?4月初)」と記述されている(甲第16号証)。
(ク)月刊誌「月刊タウン情報トクシマ」2006年3月号(株式会社メディコム発行)には、「グルメニュース」の頁において、「季節限定『ももいちごの里』大福はほぼ毎日完売!」の見出しの下に、写真と共に「季節限定のももいちごの大福『ももいちごの里』525円。人気商品で夕方には売り切れてしまうこともあるので、予約が確実」等の記述がされている(甲第20号証)。
(ケ)月刊誌「ASA」2007年4月号(株式会社あわわ発行)には、「人気カフェのいちご情報」の特集記事において、「福屋のももいちごの里 五百五十円」として写真入りで紹介され、「大福界のアイドルは県外でも人気者!?ピンク色のあんとジューシーなももイチゴの鮮やかな赤色・・・県外からも”お取り寄せ”されるほどの人気商品だ。」等の記述がされている(甲第22号証)。
(コ)2006(平成18)年2月26日付け讀賣新聞には、「あわグル」の記事に「甘?いイチゴの誘惑」の見出しの下に、大福の写真と共に、「『ももいちご』を使ったいちご大福(525円)を販売しているのが和菓子店『福屋』」と記述されている(甲第24号証)。
(サ)2006(平成18)年4月1日付け徳島新聞夕刊には、「トレンド」として福屋の店舗が取り上げられ、店舗内の写真や商品の写真等と共に、「『福屋』共通の看板メニューは期間限定のももいちごの里(一個五百二十五円)。大粒で甘い佐那河内産のももいちごを一個丸ごと使用し、普通のいちご大福よりはるかに大きい。県外からの注文も多く、夕方には売り切れることもあるので、予約しておいたほうがよさそうだ。」等の記述がされている(甲第26号証)。
(シ)平成18年1月9日には、ABC朝日放送のテレビ番組「おはよう朝日です」の全国取り寄せグルメコーナーで使用商品が取り上げられ、「こんな大福見たことない!絶品!!激ウマいちご大福」として「ももいちごの里 化粧箱6個入り」「3,465円(送料別)」のテロップ表示と共に、使用商品及び出演者が試食している様子が放映された。上記番組では、平成17年3月25日にも福屋及び引用商品が取り上げられており、「和菓子処福屋」及び「ももいちごの里」のテロップ表示と共に使用商品及び出演者が試食している様子が放映された(甲第27ないし第29号証)。
(ス)ラジオ放送でも、関東地域を放送エリアとするFMラジオ「J-WAVE」(平成16年12月10日放送)、徳島近辺を放送エリアとするFMラジオ「FM徳島」(平成17年2月25日放送)等で使用商品が紹介された(甲第27及び第30号証)。
(セ)なお、上記甲各号証は、いずれも本件商標の登録出願日(平成20年2月21日)前に係るものであるが、その後も、インターネットの検索サイトGoogleで「ももいちごの里」を検索した結果(平成20年8月9日現在)によれば、2500件余がヒットし、上位20位までがすべて福屋の使用商品に関するものであり、いずれも使用商品及び引用商標に言及している(甲第31号証)。
(2)上記認定事実によれば、引用商標は、福屋の業務に係る商品(徳島県佐那河内村の特定の農家のみが生産する、桃のように大粒で甘みが強くジューシーなことで知られる「ももいちご」を使用した大福)を表示する商標として、本件商標の登録出願時には既に、少なくとも関西地方の取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
(3)他方、本件商標は、取引者、需要者の間に広く認識されている引用商標と同一の文字から構成され、引用商標と同一の商標といえるものであり、かつ、その指定商品は、引用商標が使用されている商品「大福」と同一又は類似の商品といい得るものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものであるから、その登録を取り消すべきものである。

4 商標権者の意見
(1)「ももいちご大福」は商品の一般名称である。「ももいちご大福」を製造販売している菓子店は、福屋だけではない。
商標権者は、本件登録異議申立てがあるまで引用商標の存在を知らなかった。本意見書提出に際し、複数の菓子業界の関係者に福屋の商標「ももいちごの里」(引用商標)を知っているかどうかを聞いたところ、本件商標出願(平成20年2月21日)前はおろか、現在においても知っている人は殆どいなかった。
(2)「ももいちご大福」の販売期間(季節)と販売数量と商標周知化との関係について
「ももいちご大福」の販売期間は毎年11月から翌年の4月初句頃までの短期間で、ときによっては、3月頃に終わることもある(甲第18号証参照)。「ももいちご大福」の販売期間は1年のうちの約3分の1少々と短いので、使用する商標が広く知られることは難しくなる。また、ももいちごは通常のいちごの何倍か大きいので、いちご1株当たりの採取個数も通常の何分の1かに制限しなければならず、「ももいちご大福」の販売数量が非常に少なくなるので、使用する商標の周知化はさらに難しくなる筈である。逆に商品の販売期間が長く、販売数量が多くなると使用する商標の周知化が起こり易くなる。
本異議申立書では、これらの期間、数量等については何ら言及していないが、片手落ちである。
(3)異議申立人「福屋」の商標管理について
福屋は、商標の周知度を高めるため有効で、かつ一般に行われている新聞、テレビ、ラジオ等のマスメディアにおける自前の広告、宣伝はー切行っていない。各甲号証には、このようなものは見当たらない。
しかし、商品の話題性を提供して出版社や放送局等の取材を受けた際、その記事や放送の内容を通じて宣伝を図ろうとしているようにも見受けられる。しかしながら、通常の広告(有料)とは異なり、商標を前面に出して宣伝することは許されないので、記事の文中や放送の中に商標の文字や称呼を嵌め込むことにならざるを得ない。そうすると、どうしても自他商品識別標識としての商標の存在が認識し難くなり、商標の使用とは気付かれない傾向になる。
また、ホームページによる広告は、アクセスしないと見ることはできないし、動機がなければアクセスしないので、需要者は結果的に広告内容を知り得ない。
(4)取消理由通知書で商標法第4条第1項第10号違反とされた指摘理由について
ア 引用商標は本件商標の出願時において周知であるとは限らないので、商標法第4条第1項第10号に該当しないことについて
商標法第4条第1項第10号の規定によると、周知商標の使用者は他人の出願時において周知である場合は同一又は類似の他人の商標の出願を拒絶し、登録を取消すことができるとされている。しかし、引用商標は、本件商標の出願時、出願前の一定期間及び出願以後の一定期間において使用されていたことが明らかではない。すなわち、出願時から出願前の一定期間に引用商標が使用されていない可能性がある。また、出願直後の一定期間の使用も明らかにできないので、全体的にみれば、出願以前の不使用の可能性がさらに、高くなる。
不使用の期間が続くと、引用商標は、それまで周知であったとしても本件商標の出願時に周知でないことを否定できないことにもなる。すなわち、周知でない場合が存在し得ることになる。
というのは、甲第3号証と甲第30号証は、本件商標の出願時からある期間経過後に採取(福屋のホームページをプリントアウト)したもので、出願時に引用商標が使用されていたかどうかを証明も推定もすることができない。また、他の各甲号証には、引用商標が、出願以前に継続して使用されていたかどうかを証明できるものはない。とすると、引用商標は、出願時と出願時前の一定期間内に使用された可能性があるかも分からないが、使用されない可能性もある。出願前一定期間継続して商標が使用されないときには、仮に元々周知性のあった商標でも周知性を失い、周知でなくなることがある。
ところで、甲第3号証の資料採取日は2008年11月15日、甲第30号証の資料採取日は2008年8月9日である。それ以前のことは不明であるので、引用商標の使用開始日の証明はできない。したがって、両甲号証に記載されている引用商標は本件商標の出願時に使用されていない可能性がある。
なお、甲第3号証には「2004年12月3日徳島新聞掲載記事の文字と画像」が嵌め込まれているが、この画像と文字は採取日直前のものでも過去の何年も前のものでも任意に嵌め込みできるので、甲第3号証では使用開始日を推定できない。また、新聞の発行日は頁の上端に印刷されるのが普通であるから、画像の下に記載した日付は恣意的なもので客観性がない。
他の甲号証で、本件商標の出願日前で最もこれに近いものは、発行日が2007年3月10日の甲第22号証である。したがって、本件商標の出願日(2008年2月21日)当日から2007年3月10日の間、1年以上福屋の商標が使用されていない可能性がある。
そうすると、本件商標の出願時に引用商標が周知でなくなり、商標法第4条第1項第10号の規定の適用ができなくなる可能性がある。
イ 引用商標は本件商標の出願時において周知ではないとする前記主張が仮に認められないとしても、元々引用商標は周知でないので、商標法第4条第1項第10号の規定を適用することができず、本件登録の取消理由は存在しない。
(ア)商標の使用とされるためには、商標の文字が記載されているだけでは足りず、自他商品識別標識としての存在が認識される必要がある。字が小さすぎたり、文中に嵌め込まれたり、同じ大きさの文字で挟まれたり、文字に連なって記載されたりすると、一目してその独立した存在を認識することができず、商標の使用とはいえないものと解される。
各甲号証による引用商標は、商標の文字が文中に嵌め込まれたり、字の間で挟まれたりし、かつ虫メガネが必要な程小さかったりして、一目して独立した存在を認識し得ないものであるから、自他商品識別標識としての商標の使用とは認められないものと解される。したがって、このような使用態様では、いくら数を集めても商標の周知性は問題にならないものと解される。 また、商標の周知性は出願時において判断されるので、本件商標の出願後に発行されたり、採取された甲号証は除外されるべきである。すなわち、甲第4号証の2、甲第4号証の3、甲第5号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第18号証、甲第19号証(「ももいちごの里」の文字なし。)、甲第30号証、甲第31号証は周知性の判断の対象にはなり得ない。また、甲第2号証は日付がないので対象にならず、除外すべきである。これらを除外すると残る商標の使用例が少なくなり、結局引用商標は周知性が認められないことになる。
(イ)商品自体の評判がいかに高くても、引用商標が使用されていないときには、商標の周知性とは関係ない。
甲号証の新聞の記事中には、商品「ももいちご大福」の評判がよく、よく売れたという例が紹介されているが、引用商標の表示がなされていない場合もあり、商標の周知性には関係がない。商標の周知性と商品自体の評判の高さとは峻別して判断すべきである。
(ウ)商標の周知性を判断するには、商標を付した商品の販売期間や販売数量を考慮することが必要である。
引用商標を使用した「ももいちご大福」の販売期間は11月から翌年の4月初めまで(甲第18号証)で、1年の内の4分の1少々と短期間であり、かつ1日の販売数量が150個程度(甲第20号証)では、引用商標は周知にならないのではないか。
(5)上述した事項を総合的に判断すると、引用商標は周知な商標からほど遠いものであると解される。
以上のとおりであるので、本件登録には商標法第4条第1項第10号の規定を適用することができず、本件登録の取消理由が存在しない。

5 当審の判断
(1)平成21年6月22日付け取消理由通知書により通知した前記3の取消理由は、妥当なものであり、これに対する商標権者の意見は、以下の理由により採用できない。
(ア)商標権者は、不使用の期間が続くと、それまで周知であったとしても本件商標の出願時に周知でないことを否定できないことにもなる。引用商標は、各甲号証によっては、2007年3月10日から、本件商標の出願日である2008年2月21日の間、1年以上使用されていない可能性があり、そうすると本件商標の出願時に引用商標は周知でなくなる旨主張し、また、引用商標を使用する「ももいちご」を使用した大福の販売期間は、11月から翌年の4月初めと短期間であり、かつ1日の販売数量が150個程度では、引用商標は周知とならない旨主張している。
しかしながら、甲第31号証のGoogleの検索情報によれば、本件商標の登録出願直後である平成20年3月にも引用商標に係る大福を購入した事実が認められ、また、取消理由の事実認定では採用していないものの、徳島の特産品として「ももいちご」を取り上げ、関連商品として引用商標に係る大福を紹介している記事は2008年3月5日であること(甲第32号証)、及び現在も引き続いて販売している事実が認められることからすると、申立人福屋は、2002年から現在まで継続して「ももいちご」が生産される時期にこれを原材料とする大福を製造し、これに引用商標を使用して販売していることが認められる。そして、販売時期が短い場合や販売数が少ない場合であっても当該商標を使用する商品の話題性などから、その商標が周知性を獲得することはあり得るのであって、前記3の取消理由において認定した事実から、引用商標が本件商標の出願日及び登録査定時において周知性を獲得しているものと十分認められるものであるから、上記主張は採用できない。
(イ)商標権者は、商標の使用とされるためには、商標の文字が記載されているだけでは足りず、自他商品識別標識としての存在が認識される必要がある。各甲号証による引用商標は、商標の文字が文中に嵌め込まれたり、字の間で挟まれたりし、かつ虫メガネが必要な程小さかったりして、一目して独立した存在を認識し得ないものであるから、自他商品の識別標識としての商標の使用とは認められないものと解される。したがって、このような使用態様では、いくら数を集めても商標の周知性は問題にならないものと解される。旨主張している。
しかしながら、新聞や雑誌の記事に取り上げられ、その商品が紹介されている場合には、通常の広告等のように商標が大きく表示されていないとしても、その読者にその商標及び商品が記憶される場合が高いといえるし、また、雑誌や新聞等の記事に取り上げられるのは一定程度の販売の事実があることが多いから、新聞や雑誌の記事に掲載された事実は、その商標が他の文字と区別のない表示であっても、周知性認定の証拠となり得るというべきである。
(ウ)商標権者は、本件商標の出願後に発行されたり、採取された甲号証は除外されるべきである。すなわち、甲第4号証の2、甲第4号証の3、甲第5号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第18号証、甲第19号証(「ももいちごの里」の文字なし。)、甲第30号証、甲第31号証は周知性の判断の対象にはなり得ない。また、甲第2号証は日付がないので対象にならず、除外すべきである。これらを除外すると残る商標の使用例が少なくなり、結局福屋の商標「ももいちごの里」は周知性が認められないことになる旨主張している。
しかしながら、提出された証拠の作成日が、出願日より後のものであっても、そこに記載された内容が出願日前の事実認定に必要なものであるならば、証拠となり得るものであり、本件商標については、取消理由に述べたとおり、認定できるものであるから、上記主張は採用できない。
(エ)商標権者は、甲号証の新聞の記事中には、商品「ももいちご大福」の評判がよく、よく売れたという例が紹介されているが、商標「ももいちごの里」の表示がなされていない場合もあり、商標の周知性には関係がない旨主張している。
確かに取消理由で採用した甲第24号証の新聞記事には、福屋の「ももいちご大福」が大きく取り上げられていることから、引用商標の周知性については間接的な立証にとどまるものであるが、当該証拠を除いたとしても、他の採用した証拠によって、引用商標が周知であることが認定できるから、その主張は採用できない。
(2)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2009-08-31 
出願番号 商願2008-12417(T2008-12417) 
審決分類 T 1 651・ 252- Z (X30)
最終処分 取消  
前審関与審査官 平松 和雄 
特許庁審判長 芦葉 松美
特許庁審判官 岩崎 良子
内山 進
登録日 2008-08-15 
登録番号 商標登録第5159303号(T5159303) 
権利者 有限会社ニコニコヤみやげ店
商標の称呼 モモイチゴノサト 
代理人 豊栖 康弘 
代理人 富田 光風 
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