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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) X25 |
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管理番号 | 1210127 |
判定請求番号 | 判定2009-600021 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標判定公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 判定 |
2009-06-12 | |
確定日 | 2010-01-22 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5169970号商標の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | 商品「かぶりもの」に使用するイ号標章は、登録第5169970号商標の商標権の効力の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5169970号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1に示すとおりの構成よりなり、平成20年3月3日に立体商標として登録出願され、第14類「キーホルダー」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,防暑用ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)」を指定商品として、平成20年10月3日に設定登録されたものである。 第2 イ号標章 請求人が、商品「かぶりもの」に使用する商標(以下「イ号標章」という。)は、別掲2に示すとおりの構成よりなるものである。 第3 請求人の主張 請求人は、「商品『仮装用かぶりもの』について使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属しない、との判定を求める。」と申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし第3号証を提出した。 1 判定請求の理由 (1)イ号標章が使用されている商品「仮装用かぶりもの」は、本件商標の指定商品と非類似である。 (2)イ号標章は、本件商標と非類似である。 (3)イ号標章は、商品「仮装用かぶりもの」の形状を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法第26条第1項第2号に該当し、本件商標の商標権の効力が及ばない。 2 判定請求の必要性 請求人は、本件商標の商標権者から、平成21年4月8日付の内容証明郵便にて、商標権侵害である旨の警告を受けている。 3 イ号標章の説明 イ号標章は、請求人が「ふぐキャップ」の名称で販売する「仮装用かぶりもの」(以下「イ号商品」ということがある。)であり、その形態は、別掲2に示すとおりのものである。 別掲2から明らかなように、本件商品は「仮装用かぶりもの」である。 4 イ号標章が商標権の効力の範囲に属しない理由 (1)商品非類似 ア イ号標章が使用されている商品「仮装用かぶりもの」は、本件商標の指定商品と非類似である。 イ 本件商標は、別掲1の態様の「立体商標」であって、その指定商品に「帽子」を含むものである。なお、仮装用衣服は含まれていない。 ここで「帽子」とは、日常的に日よけやファッション目的で着用されるものということができる。 a.イ号商品は「仮装用衣服」か「帽子」か 商標権の効力は、登録商標の指定商品及びこれに類似する商品に及ぶが、指定商品と非類似の商品には及ばない。したがって、イ号商品が本件商標の指定商品中の「帽子」と非類似の商品であれば、本件商標権の効力はイ号商品に及ばないことになる。 特許庁における「類似商品・役務審査基準」において、「帽子」(類似群17A07)と「仮装用衣服」(類似群24A03)とは、非類似の商品とされている。すなわち、イ号商品が「帽子」ではなく、「仮装用衣服」の概念に含まれるものであれば、本件商標の指定商品「帽子」とは、非類似であり、本件商標権の効力は及ばないこととなる。 ところで、上記審査基準においては「仮装用衣服」の概念についての解説はない。そして、「商品及び役務区分解説」(甲第1号証)においても同様である。 そこで、「仮装用衣服」と同じく、衣服の中での特殊用途のものをまとめた概念である「運動用特殊衣服」についての解説を参照すると、「この概念には、スポーツをする際に限って着用する特殊な衣服が含まれる。」と記されている。 この考え方を敷衍すると、「仮装用衣服」とは「仮装をする際に限って着用する特殊な衣服」ということができる。 そして、別掲2に示されるイ号商品は、「仮装をする際に限って着用するもの」であり、日常的に外出用に町中で着用するものであるとは考えがたい。 そうすると、イ号商品は、「仮装用衣服」の概念に含まれるものというべきである。 b.イ号商品と「帽子」の類否 更に、商標法における商品の類否は一般に、以下の要素を総合的に判断して決するものとされている(特許庁商標課編「商標審査基準」)。 (イ)生産部門が一致するかどうか (ロ)販売部門が一致するかどうか (ハ)原材料及び品質が一致するかどうか (ニ)用途が一致するかどうか (ホ)需要者の範囲が一致するかどうか (ヘ)完成品と部品との関係にあるかどうか c.イ号商品と「帽子」とを、上記にあてはめると、以下のようにいうことができる。 (イ)イ号商品の生産は、仮装衣装やパーティーグッズの専門業者であって、日常使用する「帽子」の生産者が扱うことはない。 (ロ)イ号商品の販売は、仮装衣装やパーティーグッズの販売者であって、日常使用する「帽子」の販売店で販売されることはない。 ちなみに、請求人は、イ号商品を「洋品店」では一切販売していない。参考までに、請求人の商品カタログを提出する(甲第2号証)。 (ハ)原材料は共通する。 (ニ)イ号商品の用途は、パーティーにおける「仮装」であり、日常的に日よけやファッションなどの目的で着用される「帽子」とは異なる。すなわち、用途が全く異なる。 (ホ)イ号商品の需要者は、パーティー、特に「仮装」に関心のある特定の者であり、広く一般人を需要者とする「帽子」とは異なる。 (ヘ)イ号商品も「帽子」も、それぞれ独立した商品であって、完成品と部品の関係にはない。 そうすると、共通点は(ハ)「原材料」のみであり、総合すると非類似の商品というべきである。 以上から、イ号商品は、「仮装用衣服」の概念に含まれる商品であって、日常的に使用される「帽子」とは非類似の商品というべきである。 したがって、本件商標権の効力はイ号標章には及ばない。 (2)商標法第26条該当 イ号標章は、商品「仮装用かぶりもの」の形状を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法第26条第1項第2号に該当し、本件商標の商標権の効力が及ばない。 動物などの形態を模した「仮装用かぶりもの」は、請求人を含む複数の者から販売されている(甲第2号証、甲第3号証)。仮装用であるから、その形態は種々のデザインが施されているが、いずれも「その形状」こそが「商品の形状として普通に用いられるもの」と需要者に認識され、その形状が商品の出所識別標識として機能することはない。 したがって、イ号商品の形態は、商品「仮装用かぶりもの」の形状を普通に用いられる方法で表示したにすぎないものであり、商標法第26条第1項第2号に該当するものである。 (3)イ号標章は本件商標と非類似である。 ア イ号標章 イ号標章は、ふぐをモチーフとした「仮装用かぶりもの」であって、着用者の頭部全体が顔を外部に露出しながらふぐの胴体内にすっぽり覆われるよう、ふぐの顔部分の下方に着用者の顔が露出される大きな円形開口部を備えたヘルメット様に構成されている。 正面視において、ふぐの顔はリング状の口を中心にその左右やや斜め上方の近傍位置にそれぞれ目を配置して顔が構成されている。そして、この顔は略五角形状の青色部分内に設けられている。ふぐの顔部分の下方には円形の大きな開口部が設けられ、この開口部の下方には着用時に固定するためのフラップが設けられている。また、略五角形状の青色部分左右側頂点近傍においてそれぞれ斜め上方に向かって突出した胸びれを備え、この胸びれの下方の白色部分には小さな円形状の斑点が四つ菱形状に配置されている。 左側面視において、顔の口部下端から胸びれ付け根上端、尾びれ付け根上端を境に上側は青色の背中部分、下側は白色の腹部分とされ、その境界線は緩やかな曲線で構成されている。そして、胸びれと尾びれとを一つずつ備え、胸びれの右側には小さな円形状の斑点が四つ略四角形状に配置された態様となっている。 イ 本件商標 本件商標は、ふぐをモチーフとした「ぬいぐるみ」と思しき立体的形状であって、正面視において、ふぐの顔は嘴状の口を中心にその左右やや斜め上方の離れた位置にそれぞれ目を配置して構成されている。また、嘴を中心としてX字状の放射ラインを境として上側が青色、左右側が黄色、下側が白色に色分けされており、目はそれぞれ黄色部分に配設されている。また、左右の胸びれはそれぞれ黄色部分の上下中心よりやや下方において水平方向に設けられ、小さな円形状の斑点が青色部分及び左右黄色部分に複数配設されている。 左側面視において、顔の口部上端から胸びれ付け根上方、尾びれ付け根上方を境に上側は青色の背中部分、下側は白色の腹部分とされ、その境界線はジグザグであって、このジグザグの下側の三つの頂点からは下方に直線が突出して設けられている。そして、胸びれ、尾びれ、背びれ、尻びれを一つずつ備え、全身に小さな円形状の斑点が複数配設された態様となっている。 ウ 対比 イ号標章と本件商標とを対比するに、全体的な構成において、イ号標章が全体をすっぽり覆うことのできるヘルメット様に構成されているのに対し、本件商標には顔を外部に露出するための開口部が存在せず、また、頭部を入れるための開口部も確認できないのであるから、公示されている態様からは単なるぬいぐるみ様のものとして理解されるに過ぎず、頭部全体を覆うことができるものとして理解されるものではない(もしそのように理解されるものであれば、本件商標は3条1項3号に該当することになる。)。 そして、ふぐの顔の具体的態様において、イ号標章は青色部分内に目及び口を集中的に配置し、加えて口部分がリング状であるのに対し、本件商標は目と口とが離れて配置され、しかも青色部分内に設けられておらず、口部分も嘴状である。さらに、本件商標は嘴を中心としてX字状の放射ラインを境として上側が青色、左右側が黄色、下側が白色に色分けされているのに対し、イ号標章は略五角形状の青色部分とそれ以外の白色部分に分けられているにすぎない。 すなわち、需要者の最も印象に残るであろう顔の表情が全く異なるものであるといわざるを得ない。 その他、イ号標章が胸びれと尾びれしか備えていないのに対し、本件商標は胸びれと尾びれの他、背びれ、尻びれも備え、斑点模様においても、イ号標章が胸びれの手前に四つの斑点しか備えていないのに対し、本件商標は全身に多数の斑点を備えている。 しかるに、イ号標章と本件商標とは、「ふぐ」というモチーフを共通にするとしても、その外観的特徴が全く異なるものであって、明らかに印象を異にするものであるというべきである。 したがって、イ号標章は、本件商標と非類似である。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の判定を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし第11号証(枝番を含む。)を提出した。 1 答弁の理由 (1)答弁の理由の概要 ア イ号標章が使用されている商品は「帽子」である。 イ イ号商品と指定商品「帽子」は同一ないし類似である。 ウ 本件商標には識別力があり、商標法26条1項2号の適用はない。 エ 本件商標とイ号標章は類似している。 (2)イ号標章が使用されている商品は「帽子」である ア この点、請求人は、「帽子」を「日常的に日よけやファッション目的で着用されるもの」(判定請求書2頁下から2行?)と定義し、一方、「仮装用衣服」について、「運動用特殊衣服」の解釈に関する「商品及び役務区分解説」(甲第1号証)とのアナロジーにより、「仮装をする際に限って着用する特殊な衣服」であると定義し(判定請求書3頁4行?)、(イ号商品が)「日常的に外出用に町中で着用するものであるであるとは考えがたい。」(判定請求書3頁下から2行?)と主張し、本件商標の商標権の効力が及ばない旨主張する。 イ しかしながら、イ号商品も「日常的に日よけやファッション目的で着用されるもの」には相違なく(「日常的に外出用に町中で着用するものであるとは考えがたい。」とする請求人の主張は、何らの証拠にも基づかないで、独自の経験則により判断するものであって失当である。)、明らかに「帽子」の範疇に含まれるものである。 また、「帽子」は「仮装用衣服」の上位概念であり、仮にイ号商品が「仮装用衣服」としての性質を備えるものであったとしても、これを「帽子」に含めて考えないとする根拠にはならない。 (3)イ号商品と指定商品「帽子」は同一ないし類似である ア 請求人は、「商標審査基準」を根拠に、生産部門・販売部門・原材料及び品質・用途・需要者の範囲・完成品と部品の関係の有無等の諸要素について、イ号商品と指定商品を個別に比較した上で、原材料以外の各要素について全て異なるとの判断のもと、イ号商品と指定商品「帽子」は、非類似であると結論付ける。 イ しかしながら、商標法が商標権の効力をその指定商品と類似の商品にまで認めた趣旨は、類似商品に登録商標が使用されると、出所混同の虞れがあり、これを防止する点にあると解されるのであるから、商標権の効力を解釈するにあたっては、単にイ号商品と指定商品とを生産部門・販売部門・原材料及び品質・用途・需要者の範囲・完成品と部品の関係の有無等の諸要素に分断して個別に判断するのみでは不十分であって、当該商品に登録商標の使用を認めると出所の混同を生じる虞れがあるや否やという実質的な観点から、イ号商品と指定商品の類似性について考察すべきである。 ウ 判例も同様の立場に立って、「商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある湯合には・・・類似の商品にあたる」として、餅と菓子・パンにつき「両商品は互いに品質・形状・用途を異にするものであっても類似商品」(最判昭43.11.15民集22.12.2559)との判断を示している。 エ この点、請求人が拘泥する、イ号商品を「仮装用かぶりもの」と呼称するか、あるいは「帽子」と呼称するか、という点は、単なる形式上の問題に過ぎない。 イ号商品は、指定商品である「帽子」と品質・形状・用途において極めて近似している上、このような特徴的なデザインを有する「帽子」ないし「かぶりもの」の需要者は共通している。更に、本件商標自体が、「さかなクンの帽子」とし顕著な識別力を有するため(乙第1号証ないし第10号証参照)、イ号商品に本件商標を使用した場合に、需要者が同一営業主の製造又は販売にかかる商品であると誤認混同することは明らかである。 オ なおイ号商品は、東急ハンズに納品され、本件商標を使用した「さかなクン帽子」と同一分類・同一フロアにて、あたかも競合品であるかのように販売されていたことも、上記誤認混同を生じさせるとの主張を裏付ける一事情である。 (4)本件商標には識別力があり商標法26条1項2号の適用はない ア 請求人は、イ号標章が「仮装用かぶりもの」の形状を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法26条1項2号により、本件商標の商標権の効力が及ばない旨主張する。 イ しかしながら、イ号商品を「仮装用かぶりもの」と分類する点が仮に正しかったとしても、イ号商品の形状は、一般の「仮装用かぶりもの」に比して顕著な特徴を有するものであり、明らかに「商品の形状として普通に用いられるもの」ではない。 (5)本件商標とイ号標章は類似している ア 請求人は、本件商標とイ号標章を対比し、頭部全体を覆うことができるか否かという全体的な形状の相違、目と口の配置の相違、口の形状の相違、配色の相違、背びれと尻びれの有無、斑点の個数の相違等を挙げて、「需要者の最も印象に残るであろう顔の表情が全く異なる」「『ふぐ』というモチーフを共通にするとしても、その外観的特徴が全く異なる」ことを理由に、本件商標とイ号標章は非類似であると主張する。 イ しかしながら、請求人は、両者の称呼・観念上の類似(以下で詳述する)を全く無視し、また外観上の比較についても、その相違点を個別的・機械的に指摘しているに過ぎず、両者の外観の全体が、需要者に出所の混同を生ずるほどに類似しているか否かという観点からの考察が不十分である。判例も「商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、・・・商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」(最判昭43.2.27、民集22.2.399)と判示し、商品の出所混同のおそれの有無を判定するという観点から、諸要素を取引の実情に応じて総合的に考慮すべき必要性について言及している。 ウ まず、称呼・観念上の類似性について考察すると、本件商標の出願当時、本件商標は「さかなクンの帽子」として、全国的に周知されていた(乙第1号証ないし第10号証)。 すなわち、「さかなクン」はふぐを模した帽子を被ったその特徴的な容貌がトレードマークのタレントであるが、本件商標の出願当時、さかなクンは、テレビ・ラジオ・雑誌・インターネット等の各種メディアに頻繁に出演し、そのキャラクターとともに、常時「さかなクン」が被っている「さかなクンの帽子」は全国的に周知されていたのである。2007年以降だけでも、別紙「さかなクン出演一覧表」のとおり、テレビに出演している。 以上の点から、本件商標からは、「さかなクンの帽子」という称呼が生じ、また、「さかなクンの被っている帽子」ないし「さかなクン」という観念が生じるものである。 一方、イ号標章は、確かに細部の配色やデザインについて、請求人指摘のような外観上の若干の差異も見られるが、帽子ないしかぶりものにふぐというモチーフを使用するという極めて顕著な特徴において、両者は共通している。また両者を正面視した場合に、上部約半分を占める扇形ないし略三角形の青色に着色された領域、装着時の額に相当する部分にほぼ等間隔で配置された目と口、そのような目と口が生み出す間の抜けたような表情、愛らしい真円の黒目、横方向につきだした胸びれ等において、両者は悉く類似している。以上のような外観上の類似性・モチーフの共通性を前提とした場合、本件商標が「さかなクンの帽子」として周知であることも相侯って、イ号標章からは「さかなクンの帽子」という称呼が生じ、「さかなクンの帽子」ないし「さかなクン」という観念を生ずるというべきである。 なお、知財高裁平成20年12月17日判決(平成20年(行ケ)第10139号事件)も、国内において周知となっていた「キューピー」の特徴的容姿と符号する登録図形商標につき、「キューピー」の称呼と観念を生ずる旨を判示しており、同旨の見解を採用している(乙第11号証)。 エ 以上より、本件商標とイ号標章は、称呼・観念において共通し、その他既に述べたような外観上の類似性も存在するのであるから、両者は、取引の実情を考慮した場合、需要者はその出所につき混同を生ずる虞があるというべきだから、本件商標とイ号標章は、類似していることは明らかであり、商品「帽子」について使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属するものである。 第5 当審の判断 1 商品の類似性について (1)本件商標の指定商品中には、前記のとおり、「ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,防暑用ヘルメット,帽子」が含まれているものである。 そこで、まず、「帽子」の定義について検討するに、「大辞林(第三版)」によれば、「ぼうし【帽子】」とは、「頭にかぶる装身具」と解説されている。 他方、請求人は、イ号標章が使用されている商品は、「仮装用かぶりもの」であると主張しているので、「かぶりもの」の定義について検討するに、「デジタル大辞泉(http://kotobank.jp/word/%E8%A2%AB%E3%81%8D%E7%89%A9)」によれば、「かぶりもの」【被り物/冠り物】とは「頭にかぶるものの総称。帽子・笠・頭巾(ずきん)や手ぬぐいなど。」と解説されている。 そうすると、イ号商品が「仮装用」の「かぶりもの」か否かは別として、別掲2のとおり、頭に被る「かぶりもの」であるから、「かぶりもの」の範疇に含まれることは間違いない。 したがって、本件商標の指定商品中の「帽子」等も、上記の定義(帽子・笠・頭巾)に含まれるものであるから、同じく「かぶりもの」の一種であると認めるのが相当である。 (2)次に、「仮装用」の定義について請求人は、「衣服の中での特殊用途のものをまとめた概念である『運動用特殊衣服』についての解説を参照すると、『この概念には、スポーツをする際に限って着用する特殊な衣服が含まれる。』と記されている。この考え方を敷衍すると、『仮装用衣服』とは『仮装をする際に限って着用する特殊な衣服』ということができる。そして、別掲2に示されるイ号商品は、『仮装をする際に限って着用するもの』であり、日常的に外出用に町中で着用するものであるとは考えがたい。そうすると、イ号商品は、『仮装用衣服』の概念に含まれるものというべきである。」旨主張している。 しかしながら、請求人が引用した「運動用特殊衣服」についての解説の後段には、「ここで運動用特殊衣服となっていて”被服”となっていないが、”衣類”と”被服”との違いは次の通りである。すなわち、後者から”帽子””手袋””くつ下”等、付属的なものを除いたものが前者である。」と解説されている。 これを、請求人と同様、この考え方を敷衍すれば、「仮装用衣服」に「帽子、手袋等」は含まれていないことになる。すなわち、「かぶりもの」は、「仮装用衣服」の類には含まれないことを意味することになる。 (3)なお、請求人は、イ号商品は、「仮装用かぶりもの」であると主張しているが、請求人提出の商品カタログ(甲第2号証)によれば、長方形の枠線で囲まれた商品名欄には、例えば「モーモーキャップA」、「POP’Nアニマル帽子 うさぎ」、「POP’Nアニマル帽子 くま」、「POP’Nアニマル帽子 パンダ」、「黒ねこキャップ」及び「ブタさんキャップ」等と記載されていること、及びイ号商品についても「ふぐキャップ」の名称で販売していることなどから判断すると、請求人自身がイ号商品を、「帽子」又は「キャップ(縁なし帽子)」と認識していることを図らずも証明しているものというべきである。 (4)さらに、請求人は、「商標審査基準」を根拠に、生産部門・販売部門・原材料及び品質・用途・需要者の範囲・完成品と部品の関係の有無等の諸要素について、イ号商品と指定商品を個別に比較した上で、原材料以外の各要素について全て異なるとの判断のもと、イ号商品と指定商品「帽子」は、非類似であると主張している。 しかしながら、別掲3(1)ないし(7)で示すとおり、イ号商品に極めて類似する「子供用の帽子」は、生産者が常に同一かどうかはともかく、帽子を取り扱う商店等でも多数販売されているところ、形状も原材料も共通するものであり、かつ、日よけや防寒、ファッションなどを目的とする用途及び需要者(子供)も同一と認められるものである。 そうすると、イ号商品は、「仮装用」でない単なる「かぶりもの」に属する商品であるから、「かぶりもの」の概念に含まれる「帽子」とは類似の商品というべきである。 (5)そうすると、イ号商品は、「仮装用かぶりもの」というよりは、「帽子」等に類似する「かぶりもの」又は「帽子」そのものというべきであるから、本件商標とイ号標章の商品は、同一又は類似の商品と認めるのが相当である。 2 商標(標章)の類似性について (1)本件商標について 本件商標は、別掲1のとおり、魚の「ふぐ」をモチーフとした立体的形状(立体商標)からなるものである。 そして、その正面の丸形の厚ぼったい唇の上から背中一面にかけては、青色で着色され、また、唇の下から下腹にかけては半円状に白色で着色され、それ以外の部分は、唇及び各ヒレの部分を含め黄色で着色されているものであるが、その体の表面には、水色で大きめの斑点が左右対称的に配置されているものである。 ところで、本件商標は、第14類及び「ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,防暑用ヘルメット,帽子」を含む第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品とするものであるが、本件商標が、たとえ「ふぐをモチーフにしたとおぼしき立体的形状」のものであるとしても、該形状が、直ちに本件商標の指定商品中、例えば「帽子」等を看取させるものとは俄に認められないものであるから、本件商標のいずれの指定商品に使用しても、十分に自他商品の識別力を有するものというべきである。 (2)イ号標章について イ号標章は、別掲2のとおり、魚の「ふぐ」をモチーフとした立体的形状をしているところ、人が頭に被っている様子から判断して、一種の「かぶりもの」と認められるものである。 そして、その正面の丸形の厚ぼったいピンク色の唇の下から背中一面にかけては、青色に着色され、また、唇の下から首ひもまで、全て白色で着色され、胸ビレと尾ビレの部分だけが水色で着色されているものであるが、その体の表面には、水色の斑点が4つずつ左右対称に配置されているものである。 (3)本件商標とイ号標章の対比 本件商標とイ号標章とを比較するに、両者は共に魚の「ふぐ」をモチーフとしているものではあるが、イ号標章が頭全体をすっぽり覆うことのできるヘルメット様に構成されているのに対し、本件商標は、その態様から単なるぬいぐるみ様のものとして理解されるものである。 そして、ふぐの顔の具体的態様において、イ号標章が、正面の青色部分内に目及び口を集中的に配置し、目については黒目の回りに白目部分をも有し、口についてはピンク色のリング形状であるのに対し、本件商標は、黄色の部分内に目と口が配置されているが、その口にしても同色の黄色であって、その中央真横には切り込みが入った分厚い唇を有しているものである。 また、本件商標は、口を中心としてX字状の放射ラインを境として、上側が青色、左右側が黄色、下側が白色に色分けされているのに対し、イ号標章は、略五角形状の青色部分とそれ以外の白色部分に分けられているにすぎず、需要者の最も印象に残ると思われる顔の表情も、全く異なるといえるものである。 さらに、イ号標章が胸びれと尾びれしか備えていないのに対し、本件商標は、胸びれと尾びれ以外にも、背びれ、尻びれを備え、また、イ号標章が顔の両脇に四つの斑点しか備えていないのに対し、本件商標は全身に多数の斑点を備えているものである。 以上を総合して判断すると、イ号標章と本件商標とは、「ふぐ」というモチーフを共通にするものであるとしても、その外観的特徴が全く異なり、明らかに印象を異にする別異のものといわなければならない。 したがって、イ号標章が本件商標に類似するものということはできない。 3 商標法第26条第1項第2号該当性について イ号標章は、魚の「ふぐ」をモチーフとした頭全体をすっぽり覆うヘルメット様の立体的形状をしているところ、これを、その使用に係る商品「かぶりもの」に使用した場合には、イ号標章は「かぶりもの」の立体的形状の一類型として認識されるものと認められる。 したがって、イ号標章は、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものではなく、商品の形状を普通に用いられる方法で表示したにすぎないものといえるから、商標法第26条第1項第2号に該当するものといわなければならない。 4 むすび 以上のとおり、イ号標章の使用に係る商品「かぶりもの」は、本件商標の指定商品「帽子」と同一又は類似の商品と認められるものではあるが、イ号標章は、本件商標とは非類似のものであり、かつ、商標法第26条第1項第2号に該当するものである。 したがって、本件判定請求に係る商品「かぶりもの」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属しないものである。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
別掲1 別掲2 別掲3 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) |
判定日 | 2010-01-12 |
出願番号 | 商願2008-15589(T2008-15589) |
審決分類 |
T
1
2・
1-
ZA
(X25)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山田 正樹 |
特許庁審判長 |
佐藤 達夫 |
特許庁審判官 |
小川 きみえ 野口 美代子 |
登録日 | 2008-10-03 |
登録番号 | 商標登録第5169970号(T5169970) |
代理人 | 峯 唯夫 |
代理人 | 坂田 洋一 |
代理人 | 小林 幸夫 |