• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X30
管理番号 1208357 
審判番号 無効2009-890005 
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-15 
確定日 2009-12-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第5151550号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5151550号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5151550号商標(以下「本件商標」という。)は、「ヨイチュー」の文字を書してなり、平成19年11月16日に登録出願、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、平成20年7月18日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録商標は、下記のとおりである。
1 登録第3276055号商標(以下「引用商標1」という。)は、「HICHEW」の文字を欧文字で書してなり、平成5年1月18日に登録出願、第30類「茶,コーヒー及びココア,氷,菓子及びパン,ウースターソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢,酢の素,そばつゆ,ドレッシング,ホワイトソース,マヨネーズソース,焼肉のたれ,角砂糖,果糖,氷砂糖,砂糖,麦芽糖,はちみつ,ぶどう糖,粉末あめ,水あめ,ごま塩,食塩,すりごま,セロリーソルト,化学調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,穀物の加工品,アーモンドペースト,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,即席菓子のもと,酒かす,食用グルテン」を指定商品として、平成9年4月11日に設定登録され、その後、商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
2 登録第4598722号商標(以下「引用商標2」という。)は、「HI-CHEW」の文字を標準文字で書してなり、平成13年12月5日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,酒かす,ホイップクリーム用安定剤,穀物を主原料とする粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状・ゼリー状の加工食品」を指定商品として、平成14年8月23日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
3 登録第1327395号商標(以下「引用商標3」という。)は、「ハイチュウ」の文字を片仮名文字で書してなり、昭和50年2月1日に登録出願、第30類「菓子、パン」を指定商品として、昭和53年3月10日に設定登録されたものである。その後、3回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ、指定商品については、平成20年8月27日に第30類「菓子及びパン」とする書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
4 登録第4017987号商標(以下「引用商標4」という。)は、「ハイチュー」の文字を片仮名文字で書してなり、平成6年8月4日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,茶,ウースターソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢,酢の素,そばつゆ,ドレッシング,ホワイトソース,マヨネーズソース,焼肉のたれ,角砂糖,果糖,氷砂糖,砂糖,麦芽糖,はちみつ,ぶどう糖,粉末あめ,水あめ,化学調味料,香辛料,食用グルテン,穀物の加工品,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,氷,酒かす」を指定商品として、平成9年6月27日に設定登録され、その後、商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
5 登録第4814416号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成からなり、平成16年1月28日に登録出願、第30類「アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コーヒー及びココア,氷,菓子及びパン,調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物を主原料とする粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状・ゼリー状の加工食品」を指定商品として、平成16年10月29日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
なお、引用商標1ないし引用商標5をまとめていうときは、以下「引用各商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第35号証を提出した。
1 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第11号該当について
ア 指定商品の類似性
本件商標の指定商品は、引用各商標の指定商品と同一又は類似である。即ち、本件商標の指定商品である「菓子及びパン」は、いずれも引用各商標の指定商品である「菓子及びパン」等と同一又は類似する。
イ 商標の類似性
本件商標は、下記のとおり、引用各商標に類似する。
(ア)外観
本件商標を構成する片仮名5文字のうち語頭の一文字を除く4文字「イチュー」は、引用商標4の語頭の一文字を除く4文字「イチュー」と一致する。したがって、本件商標は外観上引用商標4と相紛らわしく、本件商標は引用商標4に類似する。
(イ)称呼
本件商標からは「ヨイチュー」の称呼が生じ、引用各商標からは「ハイチュー」の称呼が生じる。両称呼を対比すると、いずれも4音節の同数音からなり、語頭音を除く「イチュー」の3音節が完全に一致するうえ、いずれも一息に淀みなく読みくだすことができるものであって、音調上も、前半2音が軽やかに発音され、後半が前半よりもやや低く発音される点で共通する。そして、後半の「チュー」は、強く響く歯茎破擦音が「ウ(u)」の母音を帯同し、さらに長音を伴うことによって音量が多くなることから、強音として聴取される点において共通する。以上のとおり、本件商標から生じる「ヨイチュー」の称呼と引用各商標から生じる「ハイチュー」の称呼を対比すると、両者を構成する4音のうち3音が共通する上、両者の音調も同一であり、前半2音が軽やかに称呼され、強音として聴取される後半の「チュー」へとリズミカルにテンポよくつながる全体の音調が著しく類似する。とりわけ、両称呼に共通する後半の「チュー」は、響きの強い歯茎破擦音「ch」が、力を入れて発音され易い母音「ウ(u)」を帯同し、さらに長音を伴うことによって音量が多くなることによって、強音として聴取される。このように、本件商標と引用各商標の称呼は、語尾部分の「チュー」が強く印象付けられる点でも、相互に全体的語調・語感が著しく近似する。
(ウ)観念
本件商標及び引用各商標は、いずれも特定の観念を有しない造語よりなるものであるから、観念上、両者を彼此識別することはできない。
(エ)まとめ
以上のことから、本件商標は、外観及び称呼の上で引用商標4に類似する。さらに、本件商標は、称呼上、引用各商標に類似する。
ウ したがって、本件商標は、他人の先願に係る登録商標に類似するものであって、同一又は類似する商品に使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、本件商標は無効とされるべきである(同法第46条第1項第1号)。
(2)商標法第4条第1項第15号該当について
ア 本件商標は、請求人がその製造・販売に係る「ソフトキャンデー(チューイングキャンデー)」商品について昭和50年以来33年間に亘って継続して使用した結果、日本全国において周知・著名となった引用各商標との関係において、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にも該当するから、無効とされるべきである(同法第46条第1項第1号)。
イ 商標法第4条第1項第15号に規定する「他人の業務にかかる商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無の判断基準について、最高裁判所は、「当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである」と判示している(最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決・民集54巻6号:甲第6号証)。
そこで、上記判決が判示する判断基準に沿って、本件商標が引用各商標との間で出所の混同を生じさせる恐れについて検討する。
(ア)本件商標と引用各商標との類似性
本件商標と引用各商標との類似性については、上述のとおりである。即ち、外観上、本願商標を構成する片仮名5文字のうち4文字「イチュー」が引用商標4と一致する。また、本願商標からは「ヨイチュー」の称呼が生じ、引用各商標からは「ハイチュー」の称呼が生じるところ、いずれも4音節の同数音からなり、語頭音を除く「イチュー」の3音節が完全に一致するうえ、いずれも一息に淀みなく読みくだすことができ、音調上も、前半2音が軽やかに発音され、後半が前半よりもやや低く発音される点で共通する。そして、後半の「チュー」は、強く響く歯茎破擦音が「ウ(u)」の母音を帯同し、さらに長音を伴うことによって音量が多くなることから、強音として聴取される点において共通する。とりわけ、両称呼に共通する後半の「チュー」は、響きの強い歯茎破擦音「ch」が、力を入れて発音され易い母音「ウ(u)」を帯同し、さらに長音を伴うことによって音量が多くなることによって、強音として聴取される。
このように、本願商標と引用各商標の称呼は、語尾部分の「チュー」が強く印象付けられる。その結果、両称呼は相互に全体的語調・語感が著しく近似する。
そうすると、本件商標は、外観及び称呼の上で引用各商標に類似するものである。
(イ)引用各商標の著名性及び独創性
(a)引用各商標の著名性
引用各商標は、請求人の業務にかかる「ソフトキャンデー(チューイングキャンデー)」の商標として永年使用された結果、我が国国内において全国的に周知・著名となっており、その著名性は、本件商標の出願時はもとより、今日に至るまで継続している。
請求人は、明治32年に我が国最初の本格的洋菓子製造会社として創業し、当初からビスケット及びドロップス等を主力製品としていたが、現在では、広く菓子(キャラメル、ビスケット、チョコレートなど)から食品(飲料、ココア、ホットケーキなど)、冷菓(アイスクリームなど)、栄養補助食品の製造、さらに、飲食店やトレーニングジムの経営等を行う我が国有数の企業となっている。
請求人は、明治32年の創業時からキャラメル、チョコレートクリーム等とともにソフトキャンデー(チューイングキャンデー)類の発売を開始し、それ以来数多くの定番商品、ヒット商品を生み出し、市場をリードし続けている。
なかでも、引用各商標を付したソフトキャンデー(チューイングキャンデー)「ハイチュウ(HICHEW)」(以下「請求人商品」という。)は30年以上の間一貫して、請求人の戦略商品、重点商品として位置付けられてきた(甲第7号証の1ないし3)。
請求人は、昭和6年に、当時としては斬新な他に類を見ないソフトキャンデー(チューイングキャンデー)「チューレット」の発売を開始した。特殊な原料を配合して弾力性を与えるなど、請求人独自の製法で作り出された「チューレット」は発売以来新しいキャンディーとして好評を得たが、この「チューレット」のもつ特性をさらに向上させたオリジナル商品として、請求人は、昭和50年に請求人商品を発売し、その商標として引用各商標を採択した。請求人商品には、請求人が永年にわたって蓄積してきたキャラメルの製造技術が生かされており、請求人商品はキャラメル製品のひとつである「ミルクキャラメルハイソフト」等の高級品質商品グループの一角を占めるキャンディーに育てようとする意図で発売された請求人のオリジナル商品である(甲第8号証)。
請求人商品は、発売開始当初はストロベリー味であったが、その後、アップル味、オレンジ味、グリーンアップル味、グレープフルーツ味、ビーチ味、グレープ味、ヨーグルト味、パインヨーグルト味、メロン味等、次々と新しい風味の商品が販売された。さらに、クリスマス期間限定のストロベリーヨーグルト味及び梅の季節限定の梅風味等の期間限定発売の商品や、北海道限定発売の夕張メロン味及び沖縄限定発売のパイナップル味等の地域限定発売の商品も、引用各商標を使用して販売された。さらに、各種の風味の請求人商品をパックにした「3コパック」及び「5コパック」等のいわゆるアソートタイプの商品も販売し、請求人商品は、その種類の豊富さ、様々な風味を取り入れる斬新なアイデアから人気を高め、キャンディーのトップブランドとして、子供達、中高生、OL、主婦等に限らず幅広い年代から圧倒的な支持を得るようになった。
引用各商標は、昭和50年の発売以来変わることなく請求人商品に付され販売されている。これらのパッケージの見本は、提出者の広報・IR部史料室作成にかかる「ハイチュウ歴史図鑑」という資料(甲第8号証)及び昭和50年以来請求人が作成、頒布してきた取扱商品カタログ(甲第9証の1ないし63)に示すとおりである。発売当初の箱型から持ちやすいスティックタイプになるなどパッケージの変更はあったものの、「HICHEW」、「ハイチュウ」等の名称に変更は一切無く、30年間以上もの長期にわたり一貫して継続的に使用されている。
請求人商品は、上記のとおり、30年以上の間継続的に製造・販売され、一貫して引用各商標が使用されてきた、我が国の菓子業界あるいは菓子製品における代表的かつ著名なロングセラー商品である。
請求人商品は、発売以来30年以上の長期にわたり需要者の支持を得て安定した売上を保ち、その売上高は現在もなお好調に伸び続けている。請求人商品が現在と同じようなスティックパックの包装形態に変更された最近の20年間(昭和60年度から平成16年度)に限っても、累積販売金額は約2,000億円を超え、ソフトキャンデー(チューイングキャンデー)市場の約34%を占めている。この実績は、キャンディー市場全体で見てもシェアはトップである(甲第10号証)。このことは、調査機関が実施した、飴・キャラメル・キャンデー・ドロップ・のど飴の購入銘柄調査にも顕著に現れており、引用各商標を付した請求人商品は、調査が実施された平成13年から平成17年までの5年間継続して圧倒的なトップシェア商品となっている(甲第11号証及び同第12号証)。
このように、引用各商標は、昭和50年から現在に至るまでの間、請求人の商標として、一貫して請求人商品に使用され続けており、最近の20年間に限っても累計販売金額が約2,000億円以上にも及ぶ驚異的な販売実績をあげている。そして、このような長期間に亘り且つ大々的な販売活動によって請求人商品が、引用商標とともに、需要者・取引者の間で広く認識されていることも以下の事実に照らせば明白である。
即ち、株式会社ビデオリサーチ作成の「2003年度『森永ハイチュウ』郵送調査報告書」によれば、無作為に抽出された約1,500人を対象として行われた調査の結果「『ハイチュウ』の認知率は関東全体93%関西全体97%とほぼ飽和状態である」と評価され、関東における認知率は競合する菓子ブランド「ミルキー」、「キシリトール」に続いて3位であり、関西では1位である(甲第13号証の1)。同じく「2004年『森永ハイチュウ』郵送調査報告書」では、無作為に抽出された約1,300人を対象として行われた調査の結果「ブランド認知」として、「全体データを見ると『ハイチュウ』は<関東>99%<関西>100%(中略)認知はほぼ飽和状態といえる」と評価されている(甲第13号証の2)。同じく「2005年度『森永ハイチュウ』ブランド評価調査結果ご報告書(母親版)」によれば、3,200名を対象とする調査の結果「全体データを見ると『ハイチュウ』は<関東><関西>ともに99%と東阪ともに認知は非常に高く、飽和状態といえる」と評価されている(甲第13号証の3)。同じく「2005年度『森永ハイチュウ』ブランド評価調査結果ご報告書(本人版)」でも、3,200名を対象とする調査の結果、「全体データを見ると『ハイチュウ』は<関東>99%<関西>100%(中略)となっており(中略)認知は東阪ともにほぼ飽和状態といえる」と評価されている(甲第13号証の4)。第三者による上記調査結果によれば、遅くとも2003年(平成15年)の時点において、引用各商標が請求人商品の商標として全国的に広く知られていることは明らかである。むしろ、引用各商標は、これを知らない需要者が殆どいない著名商標であることに疑念を差し挟む余地を許さないものである。その結果、東京商工会議所及び全日本菓子協会においても、引用各商標が請求人の商標として全国的に周知・著名であることが、客観的に証明されている(甲第14号証及び同第15号証)。
以上のとおり、引用各商標が30年以上にわたり使用されてきた事実、引用各商標を付した請求人商品の販売数量、その圧倒的な市場シェア、継続的かつ莫大な量の広告宣伝活動及び第三者による客観的な調査結果及び証明に照らせば、引用各商標が、本願商標の出願日である平成19年11月16日時点及び現時点において、請求人商品について使用される商標として全国的に周知・著名となっていることは、明らかである。
(b)引用各商標の独創性
引用各商標である、「ハイチュウ」、「ハイチュー」、「HICHEW」あるいは「HI-CHEW」という成語は存在せず、引用各商標はいずれも特定の観念を有しない造語である(甲第16号証の1ないし12)。これらの語は、一般的な辞書や情報事典等には一切記載がない。また、市場においても、請求人商品のみを指称する語として使用されている。例えば、「ハイチュウ」を「菓子」分野で検索すると、70万件以上の情報が抽出できるが、その全ての情報が、請求人商品に関する(又は請求人商品に関連した)情報である。検索結果画面のうち、最初の10件目、100件目、それ以降は、それぞれ100件毎に1,000件目までを提出する(甲第16号証の13ないし23)。この点は、「ハイチュー」で検索した場合であっても、結果は同様である。繰り返せば、これらの語(引用各商標を構成する語)は成語ではないし、市場においても、請求人商品に関する使用例以外皆無であるほど、独創性は高い。
(ウ)商品間の関連性、取引者、需要者の共通性
引用各商標は、請求人商品について一貫して使用されてきた。一方、本件商標の指定商品は「菓子及びパン」であるが、現実に被請求人が本件商標を使用している商品も、請求人商品に酷似するソフトキャンデー(チューイングキャンデー)である。すなわち、請求人の調査によれば、被請求人は、現に韓国からソフトキャンデー(チューイングキャンデー)(以下「本件商品」という。)を輸入し、請求人商品の包装に酷似した包装を用いて、本件商標を付した上で、3個パック100円にて日本国内で販売している(甲第17号証の1ないし3)。これら商品間の関連性が極めて高いことはいうまでもなく、当然にその取引者、需要者も完全に一致する。その上、甲第17号証の3と甲第18号証を対比すれば明らかなように、本件商品は、その包装形態(包装箱のサイズ、配色、内容表示など)が請求人商品のそれ(甲第18号証)と酷似している。
(エ)本件商標又は本件商品に対する需要者の普通に払われる注意力
本件商品は、所謂「100円ショップ」のチェーン店で販売されている。即ち、流通経路の末端において、一般消費者に対して日常的に売買される単価の安い商品であって、その購買時に需要者が払う注意力は高いものではない。また、甲第11号証に明らかなとおり、ソフトキャンデー(チューイングキャンデー)等の需要者には、10代の購入者が多いことが認められ、甲第13号証の1に示す調査結果によれば、小学4?6年生、小学1?3年生、幼稚園生及び幼稚園前の各需要者層における請求人商品の摂食経験率は、男子がそれぞれ100%、96.3%、96.3%及び71.4%、女子がそれぞれ100%、100%、96.4%及び65.4%である。この事実から、請求人商品の主たる需要者には、13歳以下の幼児や10代の年少者が多いことが明らかである。本件商標が使用される本件商品が、請求人と同一のソフトキャンデーであることから、その需要者にも、請求人の主たる需要者と同様、13歳以下の幼小児及び10代の年少者が多数であると考えるのが合理的である。因みに、甲第13号証の2の「要約編」中の「ソフトキャンディ好意度」には、「さらに、『好き』のTOPボックスで絞ったスコアをみると、最も高かったのは<関東>では『女子幼稚園生』で96%、<関西>では『男子幼稚園生』で96%となっている。」と分析されている。そうすると、成人に比べれば注意力、判断力の劣る幼小児や10代の年少者の間で、称呼上著しく類似し、外観上も類似する本件商標と引用各商標とが、時と所を異にして、全体として称呼され、視覚・聴覚されるときに互いに相紛れる恐れは極めて大きい。
(オ)審決・判決
かかる請求人の主張は、以下のとおり、従来の審決・判決においても同様に認定されてきた。
(a)無効2006-89113号審決(「ハイチュウ(ハイチュー)」対「マイチュウ」)
上記別件審判事件(以下「MYCHEW無効審判事件」という。甲第19号証の1)において、請求人が使用する引用各商標について「キャンディー・キャラメル・チューインガムの分野において本件の出願時はもとより査定時においても、取引者、需要者において広く認識されているものと認められる」と認定し、さらに、無効審判請求の対象とされた「MYCHEW」の文字からなる商標から生じる「マイチュウ」の称呼と引用商標から生じる「ハイチュウ」の称呼を対比して「比較的短い音構成において、これに続く「チュウ」の音が強く発音されることからそれぞれ全体として一連に称呼した場合、彼此聞き誤るおそれがある称呼上類似性を有する商標といわなければならない」と認定した上で、ソフトキャンデーの購入者に10代の購入者が多く、商品を購入する際の注意力がさほど高くないこと及び無効審判被請求人の商品包装が請求人商品と酷似していることを総合して、「本件商標に接する取引者、需要者をして、引用商標を想起又は連想し、該商品が請求人あるいは同人と経済的又は組織的になんらかの関係を有する者の業務に係る商品、シリーズ商標であるかのように誤信し、商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標といわざるを得ない」と結論付け、商標法第4条第1項第15号に該当するとしている。
そこで、本件についてみるに、本件商標は、これから生じる称呼の語頭の一音が「ヨ」であるか「マ」であるかの違いがあるだけで、引用各商標との類似性の程度に大きな差異があるものではない。一方、引用各商標の著名性及び独創性が極めて高いものであること、本件商品が請求人商品と同種のソフトキャンデー(チューイングキャンデー)であること、被請求人の商品包装が請求人商品のそれに酷似すること、需要者の払う注意力の程度がさほど高いものではないこと等の諸事情は、MYCHEW無効審判事件と全く同じであるから、本件商標についても、引用各商標との間で出所の混同を生じるおそれを否定することは到底できない。
後述するように、被請求人が、MYCHEW無効審判事件を知悉した上で本願商標を採択したことは明白であるが、その背景には、MYCHEW無効審判事件の被請求人の関連会社で、同人と組織的な関係を有する本件審判の被請求人が、MYCHEW無効審判の帰趨をみて、「MYCHEW」ではなく「ヨイチュー」であれば商標法第4条第1項第15号の適用を免れることができると考えて、本願商標の出願に及んだものと推察される。しかし、上述のとおり、「ヨイチュー」と引用商標から生じる「ハイチュウ(ハイチュー)」の称呼を対比した場合には両者が類似すること、少なくとも、「称呼上類似性を有する商標」(MYCHEW無効審判事件審決24頁33行目)であることに何ら変わりはない。
もとより商標法第4条第1項第15号該当性を判断するに当たっては、商標の類否のみが問題とされるのではない。すなわち商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきであるから、上記に掲げた個々の事情ごとに峻別して悉無律的にその存否を判断するのではなく、個々の事情ごとにその程度を検討した上、最終的にこれらを総合して「混同のおそれ」の有無を決すべきものである。
すなわち、「混同を生ずるおそれ」の要件の判断においては、当該商標(引用略)と他人の表示(引用略)との類似性の程度が商標法第4条第1項第11号の要件を満たすものでないにしても、その程度がいかなるものであるのかについて検討した上、他人の表示(引用略)の周知著名性の程度や、上記諸事情に照らして総合的に判断されるべきものである。
本件においては、引用各商標の著名性の高さ、その独創性、本件商標が使用される商品が請求人商品と同種のソフトキャンデー(チューイングキャンデー)であること、本件商品の包装が請求人商品のそれに酷似すること、需要者の払う注意力の程度がさほど高いものではないこと等の諸事情は、MYCHEW無効審判事件と全く同じであるから、本件商標から生ずる称呼の語頭の一音が「マ」ではなく「ヨ」であるという相違があるだけで出所の混同のおそれが払拭されることはない。引用各商標の著名性・独創性、商標の類似の程度、需要者が払う注意力、その他取引の実情を総合して考察したときに出所混同のおそれがあることを否定できない以上、商標の語頭の一音を違えれば商標法第4条第1項第15号の適用を免れることができると考えるのは誤りである。かかる判断手法についても、審決、及び、判決においては、繰り返し認定されてきた。その一部を挙げれば、以下のとおりである。
(b)抗告昭和32年第179号審決(「犬が蓄音機の前で演奏を聴いている図形」対「熊が蓄音機の前で演奏を聴いている図形」;甲第19号証の2)
この審決では、対比する商標が「その称呼及び観念に於て『犬』印と『熊』印との相違があるとしても上記のとおりその構想が一般に有り触れたものと異なり上記会社独自の創案に係るものと同一性を有するものである以上世人は上記のとおり周知著名な引用商標を想起し恰もその商品が同会社又はこれと特殊な関係にある者の製造又は販売に係るものであるかの如く誤認し、ひいて商品の出所について混同(略)を生じさせる虜があるものと認めざるを得ない」と認定している。
そこで翻って本件についてみるに、本願商標は、これから生じる称呼の語頭の一音が「ヨ」であるか「マ」であるかの違いがあるだけで、他の語(音)は全く同一か又は殆ど同一である。犬と熊といった全く異なる相違点があるわけではない。また、引用各商標の著名性及び独創性が極めて高いものであること、及び、本件商品が請求人商品と同種のソフトキャンデー(チューイングキャンデー)であること、被請求人の商品包装が請求人商品のそれに酷似すること、需要者の払う注意力の程度がさほど高いものではないこと等は上述のとおりであるから、本件商標と引用各商標との間で出所の混同を生じるおそれを否定することは到底できない。
(c)無効平成6年第21271号審決(「正本」対「菊正本」;甲第19号証の3)
この審決では、「(請求人が)取り扱う包丁には、長年に亘り『正本』の文字よりなる商標を使用してきたこと、そしてこの間、新聞、雑誌等に多大な費用をかけて宣伝広告をしてきた結果、本件商標の登録出願前すでに『正本』の商標を付した包丁は、同人の営業にかかるものとして取引者及び需要者間に広く知られていたことが認められる。そうすると、被請求人が『正本』の文字を含む本件商標を、その指定商品について使用した場合に、これに接する取引者、需要者は、請求人又は請求人と何らかの関連を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生じさせるもとの認めざるを得ない」と認定している。
そこで翻って本件についてみるに、本件商標は、引用各商標をそのまま含んで登録されているわけではないが、全体の音調が近似する点は上述のとおりである。また、引用各商標が請求人商品に長年一貫して使用され続けたことや、その間、新聞・雑誌等に多大な費用をかけて宣伝広告をしてきた結果、引用各商標を付した請求人商品が、請求人の営業にかかるものとして取引者及び需要者に広く知られていることも上述のとおりである。この審決で問題となった商標を付した商品は包丁であり、主たる需要者はいわゆる大人であると思われるところ、本件商品・請求人商品の主たる需要者は幼少児であること上述のとおりであるから、この点に鑑みれば、本件商品について、請求人又は請求人と何らかの関連を有する者の業務に係る商品であるかの如く出所の混同を生じるおそれは、更に高い。
(d)東京高等裁判所昭和50年(行ケ)第74号判決(「ALINAMIN/アリナミン」対「アリナポン/ALINAPON」;甲第19号証の4)
この判決では、「本件商標と引用商標とは、外観・称呼上別体のものとして区別できる差異はあるので同一のものとして混同される恐れまではないが、対応・類似する点が少なくないし、殊に本件のようないずれもそれ自体特定の語義を有しない創造語の場合には、とりわけ全体としての対比から類似の有無を検討しなければならない。・・・したがって引用商標は原告が製造・販売するビタミン剤の商品名として周知著名なものということができる。ところで、このような引用商標の使用の実情にてらし、前一項認定のこれに対する本件商標の類似性を検討すると、本件商標を指定商品に使用するときは、観念的な連想を惹き起こし易いその基幹部分『アリナ』(ALINA)を共通にし・・・原告が製造・販売するビタミン剤に使用する引用商標『アリナミン』(ALINAMIN)を連想させ、取引者・需要者はあたかもシリーズ商標もしくは姉妹商品として原告の製造・販売にかかるものと誤認し、商品の出所につき混同を生じる恐れがある。・・・したがって本件商標は、取引の実情にてらし、全体として引用商標に類似する」と認定している。この判決では、広義の混同に係る規定といわれている商標法第4条第1項第15号ではなく、それ以上に類似性が要求される同条第1項第11号に拠っている。
そこで翻って本件についてみるに、本件商標と引用各商標とは、全く同一のものとは言えないが、上述のとおり、対応・類似する点は多い。また、それぞれの商標は、いずれもそれ自体特定の語義を有しない創造語であるから、とりわけ全体としての対比から類似の有無を検討しなければならない。この点、引用各商標は、請求人商品発売開始以来ひきつづき現在にいたるまで一貫して使用され、請求人商品も長期に亘り一貫して、新聞・雑誌・テレビ等で全国にわたって絶えず宣伝が続けられてきた。かかる営業努力により、引用各商標は、周知・著名となっている。このような引用各商標の使用の実情にてらして、本件商標との類似性を検討すると、両者は、全体4音中の3音(イチュウ等)が同一文字(音)であって、これを特定商品に使用するときは、観念的な連想を惹き起こし易く、取引者・需要者はあたかもシリーズ商標もしくは姉妹商品として請求人の製造・販売にかかる商品であると誤認されやすい。特に、上記ビタミン剤に比較して、本件商品の主たる需要者が幼小児等であることに鑑みれば、本件商品と請求人商品との出所につき混同を生じる恐れは高いと認定されるべきである。
(e)東京高等裁判所平成16年(行ケ)第256号判決(「メバロチン」、「MEVALOTIN」等、対「メバスロリン/MEVASROLIN」;甲第19号証の5)
この判決では、引用商標である「メバロチン」等の語の独創性について検討し、引用商標を使用する薬剤の商品別売上高ランキングが1位であること、継続的な宣伝広告の実績、「メバ」の語を冠した医薬品は、いわゆる後発医薬品が発売されるまで10年以上にわたり、引用商標以外のものが出版物等に掲載されていなかったこと等を理由に、引用商標の独創性を「相当程度高いということができる」と認定している。類似性については、「本件商標の『メバスロリン』と引用商標の『メバロチン』を一連のものとして称呼した場合、共通する音が聴者の記憶、印象に残りやすいのに対し、相違する音が称呼全体に及ぼす影響は小さいことから、両商標の全体の語感、語調は近似している」と認定している。更に、混同の生じるおそれについては、「引用商標の高度な著名性及び独創性、引用商標と本件商標との類似性の程度、両商標に係る商品の性質、用途、目的における関連性の強さ、取引者・需要者の共通性の程度を考慮すれば、被告が本件商標を高脂血症用薬剤に使用した場合、その取引者・需要者において、これを原告あるいは原告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するか、又は、・・・関係のある会社が新たに販売を開始した「メバロチン」のシリーズ商品の一つ又はそれに何らかの改良を施した新商品であると混同するおそれがあるというべきである」と判示している。
そこで翻って本件についてみるに、引用各商標を使用する請求人商品は、キャンディー市場の約34%を占有する圧倒的トップシェアを誇り、発売以来30年以上の長期にわたる継続的な宣伝広告の実績を有し、上述のとおり「ハイチュウ」の語の独創性は「相当程度高い」というべきである。また、本件商標と引用各商標との類似性は、それぞれを一連に称呼した場合には、全体の語感・語調が極めて近似していることも上述のとおりであり、その度合いは上記判決以上である。また、それぞれの商標に係る商品が全く同一市場を対象とし、その需要者も、13歳以下の幼小児を中心にしていると思われる点に鑑みれば、相互に出所を混同するおそれは更に高いと考えるのが相当である。
(f)東京高等裁判所平成11年(行ケ)第309号判決(「カプトロン/CAPTORON」対「カプトリル R/CAPTORIL R」;甲第19号証の6)
この判決では、「『カプトロン』の称呼と『カプトリル』の称呼について対比すると、両称呼は、いずれも5音であり同数の音節から成るところ、5音中の語頭から始めの3音であり比較的強く発音される『カプト』を共通にしており、また、4音目の子音も『r』であり共通しているため、両称呼は類似するということができる。4音目及び5音目である『ロン』及び『リル』の差異は、この部分が比較的弱く発音され、称呼全体において余り目立たないものであるため、両称呼の類似性に影響を及ぼすものではない。そうすると、本件商標と引用商標とは、その要部について称呼が類似し、全体として考察しても、両商標は類似するものと認められる」と審決の判断を是認し、「混同のおそれ」については、「一般に、商標の使用によって商品の出所に混同を生じるおそれがあるかどうかを判断するに当たっては、当該商品の取引者及び需要者を基準として判断すべきであるところ、医薬品を服用し、又はその投与を受ける患者は、自らの意思と支出において医薬品を購入するものであるから、当該医薬品の需要者に当たるというべきである。したがって、医療用医薬品において、類似した商標が使用されることにより商品の出所に混同を生じるおそれがあるかどうかは、医師、薬剤師等の医療専門家のみならず、当該医薬品を服用し、又は投与を受ける患者についても、これを参酌すべきものと解するのが相当である。・・・本件において、本件商標と引用商標は、前記のとおり相当程度類似しており、医師、薬剤師等の医療専門家についても商品の出所について混同を生じるおそれがあるということができ、患者については、一層、そのおそれが高いということができる」と審決を支持している。その上で、引用商標の周知性については、「引用商標又はその要部である『カプトリル』の商標を付した被告製品は、昭和59年から平成6年まで、薬価ベースで年間100億円を超える売上高であったこと(略)、当該商品は、血圧降下剤市場において、昭和59年から昭和62年にかけて、30%以上の市場占有率を有していたこと(略)、被告は、当該商品の宣伝広告のために、平成元年から平成5年まで年間1,000万円以上を支出し、医事関係者を対象とする雑誌に広告を掲載していたこと(略)、昭和58年から平成8年にかけて薬局等を対象とする雑誌等に、カプトプリル製剤としては、当該商品のみが紹介されていたこと(略)、カプトプリル製剤として、当該商品以外の商品が薬効別薬価基準に登載されるようになったのは平成9年以降であること(略)に照らすと、引用商標を使用した被告の製品は、本件商標の登録査定がされた平成9年5月7日において、被告の販売する血圧降下剤として、薬剤の取引者、需要者である医薬品卸業者、病院、医院、薬局、薬店、患者等に広く知られていたものと認めることができる。これと同旨の審決の認定は、是認することができる」と認定した上で、「本件商標は、周知の登録商標と類似し、本件商標を医薬品に使用した場合には、被告の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるということができ、その旨の審決の認定判断は、正当というべきである」と結論付けている。
そこで翻って本件についてみるに、本件商標と引用各商標は、いずれも同数の文字・音節から成り、5文字中の4文字、4音中の3音を共通にし、更に、当該共通音(文字)が比較的強く発音されるから、本件商標と引用各商標とは、その要部について称呼が類似し、全体として考察しても、両商標は類似する。
「混同のおそれ」については、上記のとおり、本判決の対象範囲である、医師、薬剤師等の医療専門家や、その患者に比較して、相対的に注意力が劣ると思われる13歳以下の幼小児等が多数であることに鑑みれば、本件は、この判決以上に、混同を生じるおそれは高い。更に、引用各商標の周知性については上述のとおりである。請求人商品は、昭和50年から30年を超える使用実績を誇り最近の20年に限っても累計販売金額は約2,000億円を超え、約34%の市場占有率を有している。請求人は、30年余にわたり継続的な宣伝広告活動を行い、その結果として、第三者の調査によれば、引用各商標を使用した請求人商品の認知率は、93%ないし100%となっている。したがって、本件商標を本件商品に使用すれば、請求人商品と混同を生じるおそれは、本件審決・判決の事案以上に高いというべきである。
(カ)混同を生じるおそれ
本件商品と請求人商品とは、現実の市場においても、混同の「おそれ」があり又は、「おそれ」を超えて現に混同が生じている。この点は、下記のとおり、一般的ブログ等の記載に徴しても明らかである。そのうちの一例を挙げれば、
(a)「エキサイトブログ」の「どーんとマルスコイ」と題されたブログには、「いくらなんでも、やりすぎヨイチュー。類似ってゆーか酷似」と記載されている。需要者においても本件商品と請求人商品は、「酷似」していると認識されているのである(甲第19号証の7)。
(b)「さくらんぼ日記」と題されたブログには、「森永の某お菓子に酷似していると思うのは、さくらだけじゃないハズ」、「これは!!まさしく○イチューのパクリだね」、「森永さん公認のお菓子なのかな」、「確かに某メーカーの某ハイチューにそっくりですね。」「ココまでパクるともー笑うしかないよね」、「これ、アウトでしょ!?」といった記載がなされている。需要者においても本件商品と請求人商品とは、「酷似している」と認識されているし、その結果「森永さん公認のお菓子なのかな」といった混同まで現実に生じている(甲第19号証の8)。
(c)「Σ僕 堀澤かずみ オフィシャルブログ」と題されたプログには、「母さんがまた苺のお菓子買ってきた!!!!! 今日はハイチュウ買ってきたんやねん?あれ?ハイチュウ? ハイチュウじゃないぞ。何か違うぞ。(図の部分略)」、「てっきりハイチュウかと・・・wwww」等と記載されている(甲第19号証の9)。
(d)「みんカラβ」と題されたブログには、「子供たちは○イチューと言って食べてました」と記載されている。甲第19号の8の記載に照らしても、「○イチュー」が、請求人商品を指称している可能性は極めて高い(甲第19号証の10)。本件商品の主たる需要者が幼少児であることを考えれば、このブログに記載されたとおり、幼少児が本件商品を請求人商品と誤認して食べている可能性は高い。
(e)「yaplog! times」と題されたブログには、「チューイングキャンディーハイチューが3本入りで100円かぁ・・・うるさいから買ってあげるか!と手に取るとアレなんか薄い・・・よく見るとハイチューじゃなくてヨイチューです」と記載されている(甲第19号証の11)。少なくとも、棚に並んでいる段階では、本件商品と請求人商品とに現実の誤認が生じている証左である。
(f)「yusuketanaka.org」と題されたブログには、「『ああ、ハイチューね』、と思ったら、『ヨイチュー?!』」と記載されている。「CROWN」といった社名が大書され、これとともに「ヨイチュー」の語が大書されていても、大人と推定される需要者の認識においてすら、「ああ、ハイチューね」といった混同が生じている(甲第19号証の12)。
(g)「FC2ブログ」の「ぐいぐい日記」と題するブログには、「ハイチューかと思いきや、ヨイチューでした」と記載され、この記事に対するコメントには「ハイチューのパクリですねでももしかしたらハイチューがヨイチューをパクったのかもしれませんね」等とまで記載されている(甲第19号証の13)。
(h)その他のブログでも、「これは明らかにパクっちゃてるでしょ」、「これは・・・○イチュウのパチもんですよね?良いのかダイソー」、「それにしたって『ヨイチュー』って思いっきりパクリです」、「名前も中身も・・・・・・、どう考えても「ハイチュウ」のパクリじゃねぇか!!??」、「まがい物にも程がある。ヨイチューって・・・」等、本件商品と請求人商品が酷似してると認識されている状況に関する記事・意見は枚挙に暇がない(甲第19号証の14ないし18)。
以上の記載からも明らかなように、本件商品は、請求人商品と同一市場に流通することにより、混同の「おそれ」があり、又は、「おそれ」を超えて、現に混同が生じている。
(キ)まとめ
以上のとおり、引用各商標が極めて著名であること、引用各商標と本件商標とは外観及び称呼の各要素に照らし類似すること、本件商品と請求人商品が同種であること、被請求人が使用する商品包装が請求人商品の包装に酷似したものであること、流通経路及び需要者が同一であり、加えて、本件商標が使用される商品の需要者が当該商品を購入する際に通常払う注意力が特段高いものではないことを勘案すれば、被請求人が本件商標をその指定商品について使用した場合には、その取引者・需要者において、本件商標が引用各商標のシリーズ商標であるもの、若しくは、本件商標を付した被請求人の商品が、請求人の販売するソフトキャンデー(チューイングキャンデー)の姉妹商品等として請求人の製造・販売にかかるものと誤認し、又は、請求人と経済的若しくは組織的になんらかの関係がある者の業務にかかる商品であると誤認し、商品の出所につき混同を生じる恐れは極めて高い。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものとして無効とされるべきである(同法第46条第1項第1号)。
(3)商標法第4条第1項第19号該当について
ア 引用各商標は、日本国内において需要者の間に広く認識されている。
この点は、上記の「引用各商標の著名性及び独創性」の項において詳述したとおりである。
イ 本件商標は、引用各商標に類似する。
本件商標と引用各商標が類似する点については、上記の「商標の類似性」の項において詳述したとおりである。
ウ 被請求人の不正の目的
以下に述べる事実に照らせば、被請求人が、我が国における請求人の商品の人気にあやかって、引用各商標の著名性に便乗し、これにただ乗りする目的(フリー・ライド)又は引用各商標が有する出所表示力を希釈化して請求人に損害を与える目的(ダイリューション)をもって、本件商標を使用するものであることは明らかである。
(ア)「不正の目的」の意義
商標法第4条第1項第19号に規定する「不正の目的」とは、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識され、周知・著名となっている他人の商標について、不正の利益を得る目的又は当該他人に損害を加える目的その他取引上の信義則に反するような目的と解される。これには、他人の商標に化体した信用や名声等に対してのただ乗り(フリー・ライド)、希釈化(ダイリューション)や汚染(ポリューション)することにより当該他人に損害を与えることとなる場合も含まれる(甲第20号証)。
(イ)被請求人は、引用各商標の著名性及び顧客吸引力を知っていた。
被請求人は、MYCHEW無効審判事件の被請求人クラウン コンフェクショネリー コーポレーション リミテッド(以下「クラウン製菓」という。)との間に密接な組織的関連性を有する。即ち、クラウン製菓は、平成16年10月ないし平成17年1月項に製菓業を営む韓国法人ヘテ製菓を買収しており(甲第21号証及び同第22号証)、ヘテ製菓は、日本現地法人としてヘテジャパン株式会社(甲第23号証の1)を有している。そして、ヘテジャパン株式会社と被請求人とは、その所在地が同一であったし、その後、ヘテジャパン株式会社の移転に伴い、被請求人も同一住所に本店住所の移転登記を行っている(ただし、現時点では、ヘテジャパン株式会社の登記簿は閉鎖されている;甲第23号証の2及び同3)。また、人的に見ても、ヘテジャパン株式会社と被請求人の代表取締役は同一人物であり、また、被請求人の3名の取締役のうち2名が重複している。また、被請求人の監査役も、ヘテジャパン株式会社の監査役であった。以上のことから、両社が密接な関連性を有する関連会社であることは明白である。かかる組織的関連性に照らせば、被請求人が、MYCHEW無効審判事件の帰趨及びMYCHEW無効審判事件で認定された引用各商標の著名性をはじめとする事実関係について知悉していたことは明らかである。
また、請求人は、平成8年頃から大韓民国に引用各商標を付した請求人商品を輸出しており、平成15年には、大韓民国向けパッケージを採用した商品(以下「請求人韓国商品」という。)を本格的に発売した。その結果、請求人韓国商品の大韓民国における販売数量は飛躍的に増大し、請求人韓国商品が大韓民国市場に定着するに至った(甲第24号証の1)。現在では、請求人韓国商品は、韓国の殆どのコンビニエンス・ストアで販売されている。大韓民国におけるこれらの事実に加え、我が国において請求人の商品とこれに使用される引用各商標が高い著名性を有すること及び被請求人の親会社であるヘテ製菓が、韓国において提出者と同じく製菓業を業とする法人であることからすれば、大韓民国内において販売されている請求人韓国商品を含む菓子製品については本件商標の出願前には当然にこれを認識・把握していたと考えられる。大韓民国の隣国である我が国で販売されている菓子製品に関しても、30年以上のロングセラーである請求人商品のような人気商品に関する情報については、本件商標の出願前に全く知らなかったとは考えられない。請求人韓国商品とへテ製菓のMYCHEW商品については、日本におけるテレビ番組等でも多数放映されたし、韓国においては、請求人商品の人気にあやかったMYCHEW商品が棚を接して販売されているのである(甲第24号証の2)。したがって、本件商標が、引用各商標から生じる称呼の語頭の一音だけを入れ替えただけのものであることから、引用各商標に「不自然にすりよった」と認めるのが自然である。
これらの点を併せ考えると、被請求人が、請求人の商品及び請求人韓国商品を全く知らず、これらとは関係なく独立して、本件商品に用いる本件商標を採択したことはありえない。即ち、被請求人は、請求人韓国商品及び請求人の商品を知り、これらに使用されている引用各商標が高い著名性を有すること及び引用各商標が高い顧客吸引力を有することを確知していたと考えるのが自然である。さらに被請求人は、MYCHEW無効審判事件の帰趨を知った上で、なおも引用各商標の著名性に便乗し、その顧客吸引力を不当に利用する目的をもって、本件商標を出願したのである。
(ウ)被請求人が意図する具体的な使用態様
被請求人は、本件商標を請求人の商品に酷似する同種のソフトキャンデーについて使用しており(甲第17号証の1ないし3)、このために引用各商標と極めて相紛らわしい本件商標の出願に及んだことは明らかである。
このことは、本件商品の包装が請求人の商品のそれに酷似しているという事実からしても明白である。現実的にも、本件商品と請求人商品とが同一市場に流通することにより、混同の「おそれ」を超えて、現に混同が生じている(甲第19号証の7ないし18)。
エ まとめ
以上の事実から、被請求人が、不正の目的、すなわち、我が国における請求人の商品の人気にあやかって、引用各商標の著名性に便乗してこれにただ乗りすると同時に、引用各商標の出所表示力を希釈化し、請求人が永年にわたる商品開発や広報宣伝等の不断の努力によって引用各商標に化体させた貴重な顧客吸引力を毀損させ、不正の利益を得るとともに提出者に損害を与える目的をもって、本件商標を使用するものであることは明らかである。しかも、その関連会社であるクラウン製菓の商標「MYCHEW」がMYCHEW無効審判事件において無効とされたことをみて、語頭の一音のみを変えて再度本件商標の出願に及んだ行為は、請求人の業務上の信用に意図的に害を加え、引用各商標の貴重な顧客吸引力を希釈化することを目的としたものであって、その行為は極めて悪質といわなければならない。
以上のとおり、本件商標は、我が国において広く知られた引用各商標に類似し、被請求人が不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当するものとして無効とされるべきである(同法第46条第1項第1号)。
(4)商標法第4条第1項第7号該当について
ア 上記のとおり、被請求人は、上記MYCHEW無効審判事件のクラウン製菓との間に密接な組織的関連性を有する法人である。かかる組織的関連性に照らせば、被請求人が、同審判事件の帰趨及びMYCHEW無効審判事件でも認定された引用各商標の著名性をはじめとする事実関係について十分に認識していたことは明らかである。また、請求人が、平成8年頃から請求人韓国商品の輸出を開始し、平成15年には、請求人韓国商品を本格的に発売したことで、大韓民国における販売数量は飛躍的に増大したことも述べた。
かかる事情から、被請求人が、請求人の商品及び請求人韓国商品とは関係なく独立して、本件商標を採択したことはありえない。したがって、本件商標が、商標法第4条第1項第7号に該当することも明らかである。
(ア)「公序良俗を害するおそれがある商標」の解釈
商標法第4条第1項第7号(以下「7号」という。)にいう「公の秩序又は善良の風俗」とは、文理上は「社会公共の利益」及び「社会の一般的な道徳観念」をいうが、7号が商標法の中の一法条として設けられていることからすれば、その解釈も商標法の法目的に照らしてなされるべきことはいうまでもない。
そして、商標法が、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図ると共に、需要者の利益を保護することを目的とするものであることからすれば、7号にいう「公序良俗」には単に「社会公共の利益」及び「社会の一般的な道徳観念」といった一般的な意味合いのみならず、商品流通社会の秩序・競業秩序も包含されると解するべきである。
この点については、学説上(甲第25号証)も裁判例(甲第26号証ないし同第29号証)によっても確立している。
以上のとおり、7号にいう「公序良俗」には、商標法により維持されるべき商品流通社会の秩序良俗・競業秩序も包含されると解される。そして、ある商標出願行為が商道徳上の妥当性を欠く場合、出願人の主観的意図が公正な競業秩序に反するものである場合、不正の目的をもって出願されたものであることが明らかである場合、出願経過に社会的相当性を欠くものがある場合には、かかる事情が存在するにもかかわらず結果として得られた商標登録を容認することは、商品流通社会の秩序良俗・競業秩序を包含する「公序良俗」を害するおそれがあると判断される。
ところで、「フリー・ライド」とは「他人の蓄積した名声を、正当な理由なく盗用して不正な利益を得る行為」のことをいい、「ダイリューション」とは、「他人の商品等表示と同一または類似の表示が第三者の商品等表示として使用されることにより、当該他人の商品等表示が有する商品等主体の表示力、識別力あるいは顧客吸引力といった財産的価値が低減させられること」ないし「有名商標の識別力を損ずる行為をいう」とされているところ(甲第30号証)、競業関係にある他人の著名商標への「フリー・ライド」を意図してなされた出願行為や、当該著名商標の「ダイリューション」を起こすことを知りながら、その結果を是認してなされた出願行為が、我が国に於ける公正な競業秩序に反するものであることはいうまでもない。
この点、学説上も「著名商標の“タダ乗り”も、それが著名商標との関係において商品の出所について混同を生ずるおそれがある場合は、商標法第4条第1項第15号の規定により処理するとしても、そのおそれがない場合は、本号(7号)の規定により処理すべき問題と考える」と論じられている。即ち、フリー・ライドについては、「狭義では、他人の著名商標を自己のために盗用することをいう。「Free ride」とされるためには、盗用される商標が著名であれば、混同のおそれの有無は問題とならない」のであり、この点は、ダイリューションが「希釈化が成立するために出所の混同のおそれの有無、競争関係の有無は問題とされない」のであるから、引用各商標の著名性・独創性、商標及び商品の類似性、完全な競争関係が肯定される本件については、7号該当性はさらに高い。
裁判例においても、東京高等裁判所平成16年(行ケ)第219号判決では、フリー・ライドを意図した出願や著名商標の希釈化を招来する商標も7号に該当すると判断されている(甲第31号証)。
(イ)審決における判断
上記判決に示された判断は、審決においても、繰り返し同様の認定がなされている(甲第32号証ないし同第34号証)。
イ 本願商標の出願の経緯
そこで、本願商標の出願の経緯についてみるに、以下のとおりである。
(ア)MYCHEW無効審判事件の審決においても認定されているとおり、引用各商標は商品ソフトキャンデーに使用され、請求人の商標として我が国において著名となっている。
(イ)クラウン製菓は商標「MYCHEW」を出願し、登録を受けたが、これに対して請求人が無効審判を請求した結果、引用各商標との関係において出所の混同を生じるおそれがあるから商標法第4条第1項第15号に該当するという理由で無効審決を受けた。そこでクラウン製菓は、引用商標が請求人の著名な商標として我が国において篤く保護されている事実や、我が国においては「ハイチュウ」の称呼と「マイチュウ」の称呼は相紛らわしいと認識されることについて確知した。
(ウ)平成19年11月16日被請求人が本願商標を出願した。
(エ)本件商標「ヨイチュー」から生じる称呼は、引用各商標から生じる「ハイチュー」の称呼と同じく4音節からなり、その語頭の一音のみが相違するが、その余の3音は同一である。そして、後半の「チュウ」の音が強音として聴取されるために称呼上引用商標とは相紛らわしく類似性の高い商標であって、被請求人が、引用各商標とは関係なく独立して本願商標を採択したものとは到底考えられない。
(オ)被請求人は、平成20年3月より、全く同種のソフトキャンデーであって、請求人の商品(単価100円)と比較して単価が極めて低い商品(3個パック100円)に本件商標を付したものを大韓民国より輸入し、ディスカウント・ショップで販売している(甲第17号証)。
(カ)被請求人は、クラウン製菓の関連会社の日本法人であり、ヘテジャパン株式会社と所在地、代表取締役、過半数の役員が同一であった点等に鑑みると、それぞれの会社は、相互い密接な関連性を有することは明らかである(甲第21号証ないし同第23号証)。
(キ)クラウン製菓、ヘテ製菓、ヘテジャパン株式会社、被請求人及び請求人はいずれも製菓業ないし菓子商品の取扱いを業とする法人であり、相互に競業関係にある。特に、韓国において、その扱い商品が完全に競合していることは上述のとおりである(例えば、甲24号証の2)。
以上の事実関係に照らせば、同じ製菓業界に属し、引用商標を付した請求人の商品が我が国において30年以上に亘ってヒット商品・ロングセラー商品となっていることを十分認識し、さらにMYCHEW無効審判事件を通じて、引用各商標が我が国において著名な商標であることを十分認識しているクラウン製菓が、商標「MYCHEW」に対して無効審決を受けた後、なおも請求人の著名商標である引用各商標に依拠して引用商標と類似性の高い本件商標を採択した。加えて、本件商標を請求人の商品と同種の商品に使用することを意図して、その関連会社を通じ、再度の出願に及んだものであることは明白である。
ウ 本件商標の7号該当性
上記経緯に鑑みると、被請求人の一連の出願・登録、使用行為は、以下の点において、公正な競業秩序に反し、ひいては7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」に該当するといわなければならない。
(ア)出所の誤認混同のおそれ
本件商標が使用されることによって需要者の間で出所の混同を生じさせ、需要者の利益を損なうおそれがある。現実的にも、上述のとおり、本件商標を本件商品について使用することで、請求人商品との現実の混同が生じている。多くの需要者は、上記両商品について類似というよりも酷似と認識しており(甲第19号証の7等)、「森永さん公認のお菓子なのかな」、「ハイチューのパクリですね でももしかしたらハイチューがヨイチューをパクったのかもしれませんね」、「今日はハイチュウ買ってきたんやね ん?あれ?ハイチュウ?ハイチュウじゃないぞ。何か違うぞ」、「子供たちは○イチューと言って食べてました」、「チューイングキャンディーハイチューが3本入りで100円かぁ・・・うるさいから買ってあげるか!」、「『ああ、ハイチューね』、と思ったら、『ヨイチュー?!』」等、混同の「おそれ」を超えて、現に混同が生じている(甲第19号証の7ないし18)。
(イ)フリー・ライド
本件商標の出願行為は、競業関係にある請求人が有する著名商標への「フリー・ライド」を意図したものである。現に本件商品と請求人商品に混同が生じている一方で、その結果、「どうしてもブログに載せたくて買ってしまった」、「お味のほうはどうだったんだろうか?100円ショップかぁ?探してみるよ」(甲第19号証の8)、「で“ヨイチュ“かったの? 買いましたよ。いっぱい売ってました。もう腹の中です」、「自分も試しに買ってみます」(甲第19号証の10)、「ヨイチュー?!どこに売ってるんでしょー?」(甲第19号証の13)、「もしどこかにあったら、食べてみて♪」(甲第17号証の17)といった興味から、本件商品を購入する需要者もあり、請求人商品への「フリー・ライド」も現実になされている。
(ウ)希釈化
かかる「ただ乗り」的使用によって請求人が永年の努力によって引用各商標に化体させた貴重な業務上の信用が毀損され、また請求人商品と比較して3分の1という著しく単価の低い同種商品に使用されることによって請求人が有する著名な引用各商標が希釈化され、その価値が損なわれることになる。
また、被請求人は、かかる結果を招来することを認識し、これを是認して本件商標の出願行為に及んだものである。
(エ)競業他社に対する加害目的
更に問題とされるべきは、被請求人は、かかるただ乗り的使用による信用毀損と商標の希釈化によって請求人が現実に具体的な損害を被ることを知りながら、請求人に損害を与えることを専ら目的として「MYCHEW」、「ヨイチュー」のような一連の商標の出願を繰り返しているのである。かかる行為は、特定の競業他社に害を加えることのみを目的として商標を「悪用」する行為に他ならず、商道徳上到底容認できるものではない。
エ 以上のとおり、被請求人の行為は、出所の誤認混同を惹起することにより、需要者の利益を損なうものであって商標法が目的とする商品流通社会の秩序を脅かすものである上、競業関係にある請求人が有する著名商標にただ乗りし、その出所表示力を希釈化し、更には請求人に危害損失を加えることを専ら目的とするものであるから、被請求人の出願にかかる動機・経緯には、健全な法感情に照らして到底容認することのできないものがあるという他なく、我が国における商取引において尊重される公正な競業秩序に真っ向から反するものといわなければならない。
よって、本件商標は、その登録出願の経緯・目的・意図等に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当するものとして無効とされるべきである(同法第46条第1項第1号)。
2 弁駁
(1)本件商品の輸入販売中止は、本件審判の請求の理由及び審理には直接的関係がない。
乙第1号証の1及び2では、本件商品の販売が何時中止されたか判然としない。例えば、本件商品は、2008年9月12日時点においても販売されており(甲第35号証)、リニューアル商品と称する「ぷちフルーツ」(乙第1号証の3)の韓国からの出荷が2008年11月27日と思われることに鑑みれば、本件商品は、本件審判の請求時点においても、日本市場において販売されていた可能性が極めて高い。仮に、現時点において被請求人商品が販売されていなかったとしても、本件審判の理由及び審理には直接的な関係はない。
(2)本件商標は商標法第4条第1項第11号に反して登録されたものであり、仮に、現時点において本件商標が使用されていなかったとしても、無効理由がないことにはならない
ア 本件商標は、引用商標1ないし引用商標5と類似する。これらの引用各商標は、いずれも、本件商標の先願・先登録商標であり、かつ、指定商品が同一又は類似であることも異論はないと考えられる。商標の類似性についても、本件商標と引用各商標は称呼上類似し、また、本件商標は外観上も引用商標4と相紛らわしい。
イ 本件商品の輸入実績は、本件商標が引用各商標との類似性判断には何らの関係もない。
(3)本件商標は商標法第4条第1項第15号に反して登録されたものであり、仮に、現時点において本件商標が使用されていなかったとしても、無効理由がないことにはならない
ア 引用各商標は、請求人がその製造・販売に係る「ソフトキャンデー(チューイングキャンデー)」商品について昭和50年以来33年間に亘って継続して使用した結果、日本全国において周知・著名となっている。
本件商標は、かかる著名商標である引用各商標との関係において、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標である。そして、その著名性は、本件商標の出願時はもとより、今日に至るまで継続している。請求人商品は、30年以上の間継続的に製造・販売され、我が国の菓子業界あるいは菓子製品における代表的かつ著名なロングセラー商品である。請求人商品は、発売以来長期にわたり需要者の支持を得て安定した売上を保ち、その売上高は現在もなお好調に伸び続けている。その結果、請求人商品は最近の20年間(昭和60年度から平成16年度)に限っても、累積販売金額は約2,000億円を超え、ソフトキャンデー(チューイングキャンデー)市場の約34%という圧倒的トップ・シェアを誇っている。引用各商標が付された請求人商品は長期間の大々的な販売活動によって、需要者・取引者の間で広く認識されており、この点は、外部調査においても明らかである。
イ 引用各商標である、「ハイチュウ」、「ハイチュー」、「HICHEW」あるいは「HI-CHEW」という成語は存在せず、引用各商標がいずれも特定の観念を有しない造語である(甲第16号証の1ないし12)。
ウ また、本件商品が、一般消費者に対して日常的に売買される単価の安い商品であって、その購買時に需要者が払う注意力は高いものではなく、特に、需要者中には13歳以下の幼児や10代の年少者が多い点に鑑みれば、称呼上も外観上も類似する本件商標と引用各商標とが、時と所を異にして、相紛れる恐れは極めて大きい。
エ この点は、多数の審決・判決においても、同様に認定されているし、無効2006-89113号審判においても、同様の審決がなされている。本件商標についても、この審決の判断は同様に妥当すると考えるし、甲第19号証の2ないし6の審決・判決の判示に比較しても、本件商標は、無効とされるべきである。
オ 甲第19号証の7ないし16に示すとおり、本件商品と請求人商品とは、現実の市場において現に混同が生じている。仮に、被請求人が現在本件商標の使用を中止したとしても、本件商標を再度使用すれば、市場における商品の混同が生じることになる。
なお、被請求人は、本件商標について、「他商品の商標にて(として)使用するため登録してある。」と明言しているから、今後、本件商標の指定商品(菓子及びパン)に、再度使用を開始する可能性は高いと言わざるを得ない。
(4)本件商標は第4条第1項第19号に反して登録されたものであり、仮に、現時点において本件商標が使用されていなかったとしても、無効理由がないことにはならない
ア 本件商標が引用各商標と類似することは上述のとおりである。また、引用各商標は、日本国内において需要者の間に広く認識されている。そうすると、被請求人は、我が国における請求人の商品の人気にあやかって、引用各商標の著名性に便乗し、これにただ乗りする目的又は引用各商標が有する出所表示力を希釈化して請求人に損害を与える目的をもって、本件商標を使用するものと言わざるを得ない。
イ 被請求人と、本件審判に先立って行われた無効審判事件の被請求人であったクラウン製菓とは、密接な組織的関連性を有するし、被請求人もこの点は争わない。
そうすると、被請求人は、前記無効審判事件の帰趨及び当該無効審判事件で認定された引用各商標の著名性をはじめとする事実関係について知悉しながら、本件商標を出願したものである。
ウ そもそも、被請求人は、請求人が平成8年頃から大韓民国に引用各商標を付した商品を輸出し、平成15年には、大韓民国向けパッケージを採用した商品を本格的に発売したことも知っていた。現在では、請求人の韓国における商品は韓国の殆どのコンビニエンス・ストアで販売されており、多くの場合、上記クラウン製菓の同様商品とは同一の棚で販売されているから、被請求人がこれを知らないとは考えられない。この点も、被請求人は争っていないので、本件商標が、引用各商標から生じる称呼の語頭の一音だけを入れ替えただけの、引用各商標に「不自然にすりよった」ものであると認めるのが自然である。
(5)本件商標は第4条第1項第7号に反して登録されたものであり、仮に、現時点において本件商標が使用されていなかったとしても、無効理由がないことにはならない
ア 被請求人は、上記のとおり、クラウン製菓との間に密接な関連性を有する法人であり、被請求人が、同審判事件の帰趨及びMYCHEW無効審判事件でも認定された引用各商標の著名性も認識していた。請求人は、平成8年頃から請求人の韓国向け商品の輸出を開始し、平成15年には、韓国市場においても、販売数量は飛躍的に増大したことも、審判請求書において詳述したところである。かかる事情から、被請求人が、請求人の商品及び請求人韓国商品とは関係なく独立して、本願商標を採択したことはありえない。
イ 商標法第4条第1項第7号にいう「公序良俗を害するおそれがある商標」が、単に商標の構成が矯激・卑わいであること等によって公序良俗に反するもののみをいうものではなく、その出願行為自体が社会的妥当性を欠く場合や、出願人の主観的側面において不正の目的をもって出願されたものである場合も含むと解されていることは、審判請求書においても、縷々主張したところであり、被請求人も争わない。
ウ かかる判断が為された判決は多数あり(甲第26号証ないし同第29号及び同第31号)、審決においても、繰り返し同様の認定がなされている(甲第32号証ないし同第34号証)。
エ なお、本件商標を使用した結果、本件商品と請求人商品との現実の混同が生じていることも、多数のブログ等に明らかであり(甲第19号証の7ないし18)、請求人の商品へのフリー・ライドがなされている点については、証拠を提出した(甲第19号証の8、同10、同13、同17等)が、これらの諸点についても、被請求人は争わない。特に問題とされるべきは、被請求人が、かかる「ただ乗り的使用」による信用毀損と商標の希釈化によって、請求人が現実に損害を被ることを知りながら、請求人に損害を与えることを専らの目的として「MYCHEW」、「ヨイチュー」のような一連の商標の出願を繰り返している点である。しかも、被請求人は、これらの商標に関する請求人の主張について一顧だにせず、本件商標を「他商品の商標にて使用するため、登録してある」と明言する。被請求人の行為は、請求人の損害のみならず、出所の誤認混同を惹起することにより、需要者の利益をも損なうものである。したがって、被請求人の出願にかかる動機・経緯は、健全な法感情に照らして到底容認することができず、我が国における商取引において尊重される公正な競業秩序に真っ向から反するものといわなければならない。これは、「チューイングキャンデー」以外の菓子やパンに使用されても、事情は全く変わらない。
オ よって、本件商標は、その登録出願の経緯・目的・意図等に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。
(6)「不必要な誤解を払拭させるため、商品名及びディザインをリニューアして2008年11月から称号を“プチフルーツ”と言う商品名にて改名輸入し、当社の主取引先の大創産業へ納品中である」ことは、本件審判の理由及び審理には直接的関係がない
ア 被請求人は、2008年11月から、「プチフルーツ」と商品名を変えて、主取引先である大創産業宛に納品中であると主張する。しかし、かかる資料では、本件商品の販売が何時中止されたか判然としないし、仮に、リニューアル商品と称する「ぷちフルーツ」が2008年11月27日に韓国から出荷されていた事実を認めるとしても、かかる事実は本件には直接的な関係はない。
イ 仮に「プチフルーツ」(ただし、乙第1号証の3の写真には、商標は「ぷちフルーツ」と表示されている。)なる後継商品が発売されたからといって、本件商標が無効とされるべきではない理由にはならない。
(7)本件商標が「他商品の商標にて使用」される予定であったとしても、上記の理由から、無効にされるべきである。
ア 被請求人は、本件商標を本件商品に使用することを中止して、替わりに、「他商品」(チューイングキャンデー以外)に使用すると主張しているようであるが、本件商標が無効とされるべき理由とは、直接的な関係がない。
本件商標は、「菓子及びパン」を指定商品とするところ、これらのいずれの商品に使用されるとしても、本件商標が、商標法第4条第1項第11号、同項第15号、同項第19号、及び、同項第7号に違反して登録されたものであることに変わりはない。
イ この点、請求の理由については、被請求人は一切争わないから、本件商標の登録は、その指定商品の全てについて、無効とされるべきである。
(8)既に登録された他社の類似商標との公平性について
審判請求は、類似する全ての登録商標に対して、一時に請求しなければ制度としての妥当性を欠くといったものではない。また、被請求人が掲げる商標(ただし、乙第1号証の4の項番4.の「ハイチュー」は請求人の保有登録商標であるから、被請求人の主張自体が失当である。)と本件商標とは、本質的に異なる構成の商標である。即ち、本件商標のみが「イチュー」の語を共通にする類似商標であるのに対して、他の商標は(乙第1号証の4の項番4.及び同14.[被請求人の保有する本件商標]を除く。)、引用商標と2音以上異なっている。称呼上、引用商標から生じる「イチュー(イチュウ)」の称呼と、構成音(構成文字)の大部分が同じ商標は、本件商標のみである。また、乙第1号証の4の項番4.又は同14.以外の商標の商標権者とは、他の無効審判で当該商標の登録性について争われた実績もなく、市場において出所の混同が具体的に生じたこともなく、また(現時点では)その恐れもない。また、本件商標を除いては、商標法第4条第1項第19号に反するような事実はない。加えて、「公序良俗を害するおそれがある商標」、即ち、商標出願人の出願時の主観的意図が公正な競業秩序に相反したり、商標出願人が不正の目的をもって登録出願に及んだり、あるいは、商標登録出願の経緯に社会的相当性を欠くような事実もない。したがって、これらの商標が、本件商標と別異の扱いがなされたとしても、制度としての妥当性(公正性)を欠くことにはならない。

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を次のとおり述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第4号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 ヨイチューの商品名で一時的販売をしていた製品は、2008年2月輸入分以降、輸入販売を行っていない(乙第1号証)。
2 その後、不必要な誤解を払拭させるため、商品名及びデザインをリニューアルして2008年11月から称号を“プチフルーツ”という商品名にて改名輸入し、当社の主取引先の大創産業へ納品中である(乙第2号証)。
3 商標「ヨイチュー」は、他商品の商標にて使用するため、登録してある。
4 現在、使用していない商標の「ヨイチュー」の無効を請求人が主張するということであれば、既に登録された他社の類似商標も無効の対象にならないということは、公平性の欠如になる見解を持つことになる。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用各商標の周知性及び独創性について
ア 引用各商標の周知性
(ア)請求人は、昭和50年6月に、従来から同人が製造販売してきた商品「チューレット」(「たべられるチューインガム」と呼ばれたソフトキャンディー)の特性をさらに向上させたソフトキャンディー(ストロベリー味)に、商標「ハイチュウ」、同「Hi-CHEW」を表示して販売を開始した。その後、昭和61年には、当該商品に商標「HICHEW」が表示されるようになり、オレンジ、グリーンアップル、グレープフルーツ、ピーチ、グレープ等々というように、その風味も次々に多彩なものが発売されるようになった。当該商品について途中で商品の形態の変更はあったが、その販売は、発売以降途切れることなく継続され、商標「HICHEW」、同「ハイチュウ」についても、本件商標の出願時及び査定時を経て、継続して当該商品に表示され使用をされた(甲第7号証の1ないし同第9号証の63)。
(イ)商品「ソフトキャンディー」についての売上高は、発売以降20年間の累計金額で約2,000億円を超え、平成13年度(2001年度)から平成17年度(2005年度)の5年間の販売量は、年度平均約1億7,400万個であり、年度平均の売上高が約136億円にのぼるものである。そして、平成14年ないし平成16年のソフトキャンディー市場における平均シェアは、約34%(請求人調査)を占める商品となっている(甲第10号証及び同第12号証)。
(ウ)株式会社ビデオリサーチの「2003年度『森永ハイチュウ』郵送調査報告書」(甲第13号証の1)によれば、男女2歳から65歳及び男女2歳から小学3年生の母親を対象とした調査において、「ハイチュウ」の認知率が関東で92.8%、関西で97.4%であり、「ハイチュウ」の摂食経験は、関東で84.4%、関西で90.4%であった。
また、男女2歳から小学3年生の母親及び小学4年生から39歳の男女を対象とした株式会社ビデオリサーチの「2004年『森永ハイチュウ』郵送調査報告書」(甲第13号証の2)においても、「ハイチュウ」の認知率が関東で99%、関西で100%となっていたと報告されている。
さらに、株式会社ビデオリサーチの「2005年度『森永ハイチュウ』ブランド評価調査結果ご報告書(母親版)」(甲第13号証の3)及び「同(本人版)」(甲第13号証の4)によれば、「ハイチュウ」の認知率が関東、関西ともにほぼ100%となっていたと報告されている。
(エ)東京商工会議所は、平成18年7月13日付で、商標「ハイチュウ」について、平成13年4月15日から現在(証明日)に至るまで請求人が継続して菓子・パンに使用していること、取引者及び需要者の間に広く認識されていることの証明をしている(甲第14号証)。
また、全日本菓子協会は、平成18年4月14日付で、「HICHEW」「HI-CHEW」「ハイチュウ」の文字からなる商標及び別掲(2)に表示した「ハイチュウ」の文字を含む商標について、昭和50年から使用され、テレビ、雑誌、その他の媒体を通じて全国的に広告宣伝されてきた結果、請求人に係る商品を表示するものとして取引先及び需要者間に広く認識され、全国的に周知性を取得するに至っていることを証明している(甲第15号証)。
(オ)以上、請求人商品「ソフトキャンディー」に引用各商標が30年以上にわたり使用されてきた事実、引用各商標を付した請求人商品の販売数量、その市場シェア、継続的な広告宣伝活動、第三者による客観的な調査結果及び証明を綜合してみれば、請求人が同人の業務に係るソフトキャンディーについて永年使用した結果、引用商標1ないし引用商標3及び引用商標5は、「ハイチュウ」の称呼をもって、本件商標の査定時はもとより、その出願時において既に、その取引者、需要者の間に相当に広く認識され、全国的に周知な商標となるに至っていたと認められるものである。
イ 独創性
引用各商標を構成する文字は、いずれも、既存の辞書には掲載されておらず(甲第16号証の1ないし同12)、巷間一般に使用されている文字とはいえない(甲第16号証の13ないし同23)うえ、その構成各文字の配列等からみて、既存の語を結合させて構成されたものとも認められず、唯一請求人に係る標章というべきであって、その独創性の程度は相当に高いというべきである。
(2)本件商標と引用各商標の類似性について
本件商標は、「ヨイチュー」の文字を書してなるものであるから、その構成文字に相応して「ヨイチュー」の称呼を生ずるものと認められ、特定の観念を生じさせることのない造語よりなるものと認められる。
一方、引用各商標についてみると、引用商標1は、「HICHEW」の文字を書してなるものであり、引用商標2は、「HI」と「CHEW」の各文字をハイフンで連結してなるものであるから、いずれも「ハイチュー」又は「ハイチュウ」の称呼を生ずるものと認められる。
引用商標3は、「ハイチュウ」の文字を書してなり、引用商標5は、別掲(1)に表示したとおり「ハイチュウ」の文字を顕著に表した構成のものであるから、その構成文字に相応して、いずれも「ハイチュウ」の称呼を生ずるものと認められる。
引用商標4は、「ハイチュー」の文字を書してなるものであるから、「ハイチュー」の称呼を生ずるものと認められる。
また、引用各商標は、いずれも特定の観念を生じさせない造語よりなるものと認められる。
そこで、まず、本件商標より生ずると認められる「ヨイチュー」の称呼と引用商標1、引用商標2及び引用商標4より生ずると認められる「ハイチュー」の称呼とを比較すると、両者は、いずれも4音節の同数音からなり、語頭において「ヨ」と「ハ」の音の差異を有するものであるが、語頭音を除く「イチュー」の3音節が完全に一致するうえ、いずれも一息に淀みなく称呼でき、音調上も、前半が軽やかに発音され、後半が前半よりもやや低く発音される点で共通するといえる。そして、後半の「チュー」は、響きの強い強音として聴取されるため、両称呼に共通する「イチュー」が強く印象付けられる。その結果、両称呼は全体的に語調・語感が近似し、それぞれを一連に称呼した場合、ともに特定の観念を看取させることのない造語であることも相俟って、彼此取り違えるおそれがある程に近似した印象を与えるものといえる。
次に、本件商標より生ずると認められる「ヨイチュー」の称呼と引用商標1ないし引用商標3及び引用商標5より生ずると認められる「ハイチュウ」の称呼とを比較すると、両者は、語頭において「ヨ」と「ハ」の音の差異を有するものであるが、語頭音を除く「イチュー」の音が「チュ(tyu)」の母音(u)を長く引きのばして発する音であるのに対し、「イチュウ」の音が「チュ(tyu)」の母音(u)を重ねて発する音であるから、いずれも一息に淀みなく称呼でき、音調上も、前半が軽やかに発音され、後半が前半よりもやや低く発音される点で共通するといえる。そして、後半の「チュー」又は「チュウ」の音は、響きの強い強音として聴取されるため、「イチュー」及び「イチュウ」の音が強く印象付けられる。その結果、両称呼は全体的に語調・語感が近似し、それぞれを一連に称呼した場合、ともに特定の観念を看取させることのない造語であることも相俟って、彼此取り違えるおそれがある程に近似した印象を与えるものといえる。
しかして、引用商標1ないし引用商標3及び引用商標5は、上記(1)において認定したとおり、商品「ソフトキャンディー」に使用され、「ハイチュウ」の称呼をもって、取引上周知となっているものであるところ、本件商標と引用各商標とは、構成において異なるところはあるけれども、時と処を異にする取引場裏においては、称呼において、彼此取り違えるおそれがある商標というのが相当であり、本件商標と周知性を具備した引用商標1ないし引用商標3及び引用商標5との類似性の程度は、決して低いものということはできない。
(3)商品間の関連性等について
本件商標の指定商品は「菓子及びパン」であり、引用商標1ないし引用商標3及び引用商標5の使用商品は、「ソフトキャンディー」である。
しかして、「ソフトキャンディー」は、菓子の概念に含まれる商品であることが明らかなものであり、また、「ソフトキャンディー」以外の「菓子及びパン」とは、製造者や販売者を共通にする類似の商品と認められるものであるから、本件商標の指定商品と引用商標1ないし引用商標3及び引用商標5の使用に係る商品とは、その共通性や関連性が極めて高い商品である。
さらに、これらの商品は、需要者を共通にするものである。そして、その需要者は、幼児を含む一般消費者であり、ソフトキャンディーなどの購入者には未成年の購入者が多い実情が認められることから(甲第11号証)、商品を購入する際の注意力の程度が必ずしも高い者とは限らないというべきである。
(4)出所混同のおそれの有無
以上(1)ないし(3)のとおり、引用商標1ないし引用商標3及び引用商標5の周知性の高さ、その独創性の程度、商標間の類似性の程度、使用される商品の共通性、需要者の共通性やその注意力の程度、取引の実情等を総合勘案してみると、本件商標の登録時はもとより出願時において、本件商標を指定商品に使用した場合、これに接する需要者が引用商標を想起し、連想して、当該商品を請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品「HICHEW」「ハイチュウ」の姉妹商品やそのシリーズ商品であるかのように誤認し、商品の出所について混同するおそれがあるものと判断されるものである。
また、甲第19号証の7ないし同18に徴すると、本件商標が使用された商品と請求人商品間、「ヨイチュー」と「ハイチュウ(ハイチュー)」との間において、現に取り違え等混同を生じさせている事態が窺えるところである。
(5)小括
したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品と混同するおそれがある商標に当たるものであるから、商標法第4条第1項第15号に該当するものと認められる。
2 被請求人の主張について
(1)被請求人は、輸入販売の停止や商品名の改名をしたことを述べ、本件商標が他商品の商標にて使用するため登録してある旨主張する。
しかし、商標登録は、その指定商品全てについて使用されるであろうことを前提としてなされるものである。したがって、登録無効審判においては、その請求に係る全ての指定商品について、無効事由の有無が審理対象とされるものであり、どの指定商品に商標権者の使用の意思(思惑)があるかによって、商標登録の無効の原因が限定的に審理される理由とはなり得ないのは明らかなことである。また、輸入販売の停止や商品名の改名は、本件の審理に直接的に関係するものではないから、当該主張により、前記判断は左右され得ない。
(2)被請求人は、既に登録された他社の類似商標も無効の対象にならなければ公平性の欠如になる旨主張する。
しかし、商標登録が無効とされるべきか否かについては、審判の請求を待って、登録商標毎に個々具体的な事実及び証拠に基づき審理し判断されるべきものであるから、「既に登録された他社の類似商標も無効の対象にならないこととの公平性の欠如」をいう被請求人の主張は、失当であって採用し得ないものである。
3 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、その余の無効理由について判断を示すまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1)
引用商標5(色彩については原本参照)




別掲(2)
甲第15号証の4番目の商標




審理終結日 2009-10-06 
結審通知日 2009-10-09 
審決日 2009-10-23 
出願番号 商願2007-116132(T2007-116132) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X30)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小松 孝 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 井出 英一郎
鈴木 修
登録日 2008-07-18 
登録番号 商標登録第5151550号(T5151550) 
商標の称呼 ヨイチュー 
代理人 鳥海 哲郎 
代理人 小林 彰治 
代理人 廣中 健 
代理人 阪田 至彦 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ