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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007890090 審決 商標
無効2007890087 審決 商標
無効2007890091 審決 商標
無効2007890094 審決 商標
無効2007890086 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y14
管理番号 1200443 
審判番号 無効2007-890089 
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-06-19 
確定日 2009-06-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第4915872号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4915872号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4915872号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成17年6月14日に登録出願、第14類「貴金属,キーホルダー,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製針箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製宝石箱,貴金属製の花瓶及び水盤,記念カップ,記念たて,身飾品,貴金属製のがま口及び財布,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,貴金属製コンパクト,貴金属製靴飾り,時計,貴金属製喫煙用具」を指定商品として、同年12月16日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要旨
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第14号証(枝号を含む。)を提出した。(平成20年3月19日付け提出の弁駁書に添付の甲第9号証ないし甲第13号証は、甲第10号証ないし甲第14号証とする。また、枝番のあるものについて、枝番の全てを引用する場合は、その枝番の記載を省略する。)
1 請求の理由
(1)無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第15号に該当し、同法第46条第1項第1号及び同第5号により、その登録を無効にすべきものである。
(2)無効原因
ア 商標法第4条第1項第7号について
(ア)本件商標は、請求人の会社創設者である「ガボール・ナギー」(以下「ガボール」という。)がデザインし、請求人が製造、販売してきたシルバージュエリーの要部を構成する立体形状を平面図としたものである。
同立体形状は、請求人が平成6年(1994年)に作成し、平成7年(1995年)6月1日に米国において発行された「ガボール」のデザインによるシルバー・アクセサリーのカタログに掲載されている(甲第2号証の1)。
同デザインカタログは、平成13年(2001年)に米国において、著作権番号VA-1-091-208として国会図書館に登録されている(甲第2号証の2)。
「ライオン」と称されるこのデザインは、「ガボール」の最も代表的なデザインの一つであり、ガボールのアニマルモチーフは、シルバーアクセサリー界では人気アイテムであり、その中でもこの別掲(2)の構成よりなる「輪を噛むライオン」(以下「ライオンのデザイン」という。)は、常にアクセサリー著名雑誌のグラビア写真ページに紹介されている(甲第3号証の1ないし6)、需要者がこのデザインを見れば、すぐに「ガボール」の製品と認識するものである。
そして、本件商標と「ライオンのデザイン」(別掲(2))とを比較すれば、両者が同一又は極めて類似していることは、明らかである。
(イ)被請求人は、「ライオンのデザイン」が「ガボール」の最も有名なデザインであることを知りながら、というより、その著名性を利用する目的で、請求人、あるいは、「ガボール」が平成11年(1999年)1月16日死亡後、「ライオンのデザイン」に係るデザインに関する権利を承継したマリア・ナギー(以下「マリア」という。)(請求人の代表者)の許諾をとらずに、この意匠デザインを商標として出願し、登録したものである。
なお、被請求人は、数年前よりインターネットサイト及び日本の提携ショップで本件意匠デザインを含む請求人のシルバー製品のコピー商品を販売しており(甲第4号証1ないし3)、請求人は、多大な被害を被っている。
また、被請求人は、添付「被請求人登録商標」(甲第5号証の1)にリストされているとおり、本件商標のほかにも同様に立体形状を平面図化した標章を12件も登録しているが、そのいずれも「ガボール」のシルバーアクセサリーのモチーフを盗用していることは、同比較表(甲第5号証の2)を見れば一目瞭然である。
さらに、被請求人は、「ガボール」のデザインを立体商標として商標登録を試み、特許庁に拒絶されている(甲第6号証)。
(ウ)被請求人は、「ガボール」のデザインを盗用し商標登録を受けたのみならず、当該登録商標13件を根拠として、請求人のシルバージュエリー代理店及び販売店14社に対し「審判請求人のシルバーアクセサリーのデザインが同商標登録の権利を侵害している。」という旨の見当違いの警告書(甲第7号証)を送付した。
さらに、被請求人が運営する「GABOR INC USA」(以下「ユーエスエー社」という。)のインターネットホームページ(www.gabor-silver.com)(甲第4号証の1)の付属ページにおいて、「下記業者は、GABOR INC USA(GIUSA)の商標権利を侵害している非公認業者です。GIUSA商品をお求めの場合には、GIUSA公認ショップよりお求めください。」と表記し、請求人の製品の販売店14社の名称・住所をリスト・アップし、その各名称部分に各販売店宛の上記警告書のPDFファイルをリンクするということまでやっている(甲第8号証の1及び2)。
(エ)他人の製品のデザインを盗用して商標登録出願するというだけでも卑劣な行為であるにもかかわらず、その上、その不当に獲得した商標権をもとに正当な権利者を脅すという公正な取引秩序に反する行為は、許されるはずがない。
したがって、本件商標及び他の12件は、商標法第4条第1項第7号の不登録事由「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものであるから、同法第46条第1項第5号により、その登録を取り消されるべきものである。
なお、請求人は、他の12件の登録商標についても、平成19年6月19日付で登録無効審判請求を提出している。
イ 商標法第4条第1項第15号について
本件商標及びその他12件は、「ガボール」のデザインである。
そして、需要者は、雑誌等によって、請求人が製造、販売する「ガボール」の製品について知っている。
したがって、被請求人が本件商標をその指定商品に使用すると、取引者、需要者は、請求人の製造、販売する「ガボール」の製品であると誤認する可能性が極めて大きい。
被請求人は、現に、上記ア(イ)で述べたとおり、自身の運営する会社のウェブサイト、提携ショップにおいて「ガボール」の製品のコピー品をあたかも真正品であるかのごとく宣伝し、販売しており、実際に市場において製品の出所について大きな混乱が起こっている。
本件のように商品のデザインが創案者のものであると知られている場合又は商品のデザインが創案者の特徴・個性を表すものとして需要者に強く印象づけられている場合において、その意匠デザインを他人が商標として使えば、需要者はその商標を付した商品はそのデザインの創案者の商品と関係があると思うのは当然である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を取り消されるべきものである。
なお、請求人は、被請求人の前述行為及びその他一連の悪徳行為に対し、平成19年3月22日付で「営業誹謗行為差止請求事件」の訴訟を東京地方裁判所に提起した(甲第9号証)。
2 平成20年3月19日付け提出の弁駁書
(1)本件商標は、上記1(2)ア(ア)で述べたとおり、「ガボール」が創作したシルバーアクセサリーのデザインをそのまま平面的なデザインとしたものである。
「ガボール」は、請求人を設立し、請求人を通じて彼のデザインしたシルバーアクセサリーを製造・販売していた。
したがって、かかるデザイン(意匠)に係る権利が、「ガボール」及び請求人に帰属していたことは明らかである。
(2)被請求人は、「被請求人が、本件商標の真の権利者である。」旨主張し、その理由として、本件商標のもととなったシルバーアクセサリーのデザイン(意匠)に係る権利が、被請求人に帰属している旨述べている。
そして、「ライオンのデザイン」(意匠)が被請求人に帰属する根拠として、次の2つの契約書を挙げている。
ア 「Gabor Nagy」(ガボール・ナギー)と「Gaboratory International,Inc.」(ガボラトリー・インターナショナル・インク、以下「インターナショナル社」という。)との間の1998年12月10日付契約書(乙第2号証、以下「第1契約書」という。)
これにより、「インターナショナル社」が、「ガボール」から「ライオンのデザイン」(意匠)に係る権利を取得した。
イ 「Gaboratory International,Inc.」(インターナショナル社)と「CDM Exchange Co.」(シーディーエムカンパニー、以下「CDM」という。)との間の2003年9月5日付契約書(乙第9号証、以下「第2契約書」という。)
これにより、「CDM」が、「インターナショナル社」から「ライオンのデザイン」に係る権利を取得した。
(3)被請求人の上記(2)の主張は、根拠がない。
ア 東京地方裁判所平成20年2月27日判決(甲第10号証)について
本判決は、請求人が、「ユーエスエー社」及びその代表者であると自称している被請求人を被告として提訴した訴訟のうち、「ユーエスエー社」に対する訴訟の判決である。
「ユーエスエー社」は、適正な呼び出しを受けたにもかかわらず応訴しなかったので、東京地方裁判所は欠席判決により、原告(請求人)の申立を認めたものである。
本判決では、本件商標を含む被請求人名義の商標登録13件全てが、商標法第4条第1項第10号(15号のミスタイプ)及び第4条第1項第7号に該当し、それぞれ、同法第46条第1項第1号及び第5号に基づき無効とされるべき商標であり、したがって、このように明らかな無効理由のある商標権に基づきその権利を行使することは、本件の権利行使の態様からみて、虚偽の事実の告知あるいは流布として、不正競争防止法第2条第1項第14号の営業誹謗行為に該当するとして、当該権利行使行為(競争相手への商標権侵害の警告状送付行為)の差止めと、損害賠償を認めた。
なお、もう一人の被告(被請求人)については、領事送達を二度試みたが、二度とも正式の受領署名がとれず、現在東京地方裁判所が三度目の領事送達を試みているところである。
「ユーエスエー社」の代表者である被請求人(甲第6号証では、「ユーエスエー社」が本件商標の所有者であると述べており、「ユーエスエー社」は、実質的に被請求人と同一である。)が、第1契約書及び第2契約書を基に、自己が本件商標を含む13件の商標登録の正当な所有者であると主張して、裁判所で正々堂々と争わず、特許庁でのみ今回のような主張を行っているのは全く理解に苦しむといわざるを得ない。
イ 「インターナショナル社」は、本件商標のもとになったシルバーアクセサリーのデザイン(意匠)に関する権利を「ガボール」あるいは請求人から取得してはいない。
「インターナショナル社」は、ガボールブランド事業の権利者でないことを認めている(甲第11号証の1及び2)。
請求人は、平成15年(2003年)7月29日、米国商標「GABOR」(以下「米国商標1」という。)、別掲(3)の構成よりなる米国商標(以下「米国商標2」という。)及び別掲(4)の構成よりなる米国商標(以下「米国商標3」という。)の不正出願/登録及び同商標並びに「ガボール」のデザイン(意匠)の無権限使用の取消し、差止め等を求めて、「インターナショナル社」を米国カリフォルニア州連邦地方裁判所に提訴し、同地方裁判所を通じて、平成16年(2004年)8月に当該訴訟につき、原告(請求人)、被告(インターナショナル社)間で和解(甲第11号証の1及び2)が成立した。
この和解で被告は、上記米国商標1ないし3を含む「GABOR」及び「GABORATORY」関連商標及び「ガボール」のデザイン(意匠)に対する権利を有していないことを認めている。
和解契約書のポイントは以下の点である
(ア)被告は、米国登録商標番号2696716号(審決注:米国商標1)を原告に譲渡すること(譲渡証書作成交付済-甲第11号証の2)(登録商標「GABOR」の原告側への譲渡)
(イ)被告は、米国特許商標庁に出願中の商標出願番号78/006129号(審決注:米国商標2)及び商標出願番号78/076328号(審決注:「米国商標3」という。)の出願を放棄すること;また、被告らは、「GABOR」もしくは「GABORATORY」の語句を含む標章、あるいは混乱を来たすほどこれらの標章に酷似した標章の登録等は一切試みないこと(「インターナショナル社」商標出願の放棄)
(ウ)原告は、米国特許商標庁商標審判部に被告の出願の放棄を通知し、商標無効審判手続きを終了させるための手続をとること(商標無効審判申立の取下げ)
(エ)被告らは、原告の商標出願番号78/078466号「GABORATORY」(紋章デザイン付)、及びその他原告が「GABOR」もしくは「GABORATORY」の語句を含む標章の登録出願をすること及び原告による「GABOR」もしくは「GABORATORY」標章の使用に対し、反対せず、また異議申立てもしないこと(原告による商標登録及び商標使用に対し異議申立てをしないこと)
(オ)被告らは、被告自身、その承継人、ライセンシー、代理店のいずれも「GABOR」もしくは「GABORATORY」の標章あるいは混乱を来たすほどこれらの標章に酷似した標章を含んだ宝飾品、アクセサリーを一切提供、製造、ライセンス許諾、市販、販売あるいはそれらについての広告の掲載、頒布をしないこと(商標不使用の同意)
(カ)被告らは、被告自身、その承継人、ライセンシー、代理店のいずれも「原告のカタログ」もしくは「被告のカタログ」に描写されている商品と殆ど同一のものか、あるいは酷似しているために原告の製品を知悉しているバイヤーが、当該製品は当然、原告が製造したものと信じ込まれてしまう可能性のある宝飾品又はアクセサリーを一切、製造、ライセンス許諾、市販、販売あるいはそれらについての広告の掲載、頒布をしないこと(「ガボール」のデザイン(意匠)不使用の同意)
(キ)本契約の署名と同時に、被告らは、被告又はその関係会社、それらの従業員、役員が占有あるいは管理している被告のカタログに掲載されている宝飾品、アクセサリーも含め、「ガボール」のデザイン(意匠)に基づいている宝飾品、アクセサリーの製造に使用されていた、又は使用可能なオリジナルの金型及び生産用の金型をすべて原告代理人に引き渡すこと(金型の引き渡し)。
上記の和解内容から明らかなように、被告(インターナショナル社)は、自社が「ガボール」関連商標、デザインの所有者でないことを認め、商標登録の原告(請求人)への譲渡、商標登録出願の取り下げ、今後本件デザインを含む、「ガボール」のデザインに係るシルバーアクセサリーを製造、販売しないこと、金型を原告(請求人)に引き渡すこと等を約束した。
この訴訟において、第1契約書に基づく主張は一切なされていない。
原告(請求人)は、被告(インターナショナル社)が上記和解契約の約定を履行しないので、2007年7月19日、被告(インターナショナル社)らに対し、同和解契約の履行等を求めて、米国カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所に提訴した(甲第12号証)。
この訴訟において、請求人は、「インターナショナル社」が上記和解契約に違反して登録を受け、さらに、「CDM」に名義変更した、米国商標1ないし3の抹消を求めた。
また、請求人は、「インターナショナル社」が上記和解契約で約定した本件デザインを含む「ガボール」のデザインに係るシルバーアクセサリーの製造、販売の禁止も求めている。
「インターナショナル社」は、この訴訟において応訴せずに近々欠席判決が下される予定である(甲第12号証)。
この訴訟において、当然のことながら、第1契約書に基づく主張は一切なされていない。
請求人は、第1契約書の「ガボール」の署名は、自署でなく偽造と考えているが、原本による証拠調べが必要であり、写しでは、証拠能力も証拠価値も全くないといえる(署名と本文をつぎはぎし、それをコピーすれば、第1契約書の作成は可能である)。
もし、このまま欠席判決が下されれば、米国の裁判所により、上記商標登録は全て無効と認定され、米国特許商標庁がこれらの商標登録を取り消すことになる。
その結果、これらの商標登録に基づく権利の主張は一切認められないことになる(甲第12号証)。
このように、被請求人が本件無効審判において自己の権利の根拠として主張する米国商標1ないし3の登録は、全て裁判所により無効と宣告されること明らかである。
そして、第1契約書には、事業譲渡の対価の記載も、従業員、金型の引き渡し等についての記載もなく、事業譲渡契約としては不完全であり、また、上述のように「ガボール」の署名も真正なものと思われず、この第1契約書が上記米国訴訟において一度も言及されていないことも考えると、証拠的価値は皆無といわざるを得ない。
ウ 「CDM」は、「インターナショナル社」から、本件商標のもとになったライオンのデザインに係る権利を取得していない。
被請求人は、第2契約書により、「CDM」が、「インターナショナル社」からライオンのデザインに係る権利を取得したと主張している。
しかしながら、「インターナショナル社」は、上記イで述べたとおり、「ガボール」からライオンのデザインの権利を取得をしていない。
そうとすれば、「インターナショナル社」は無権利者である。
「CDM」が、無権利者である「インターナショナル社」から権利を取得することは、有り得ない。
なお、第2契約書は、後述の訴訟(甲第13号証)において当事者適格を認める決定的な証拠となり得たにも拘らず証拠として提出されておらず、同判決後back dataで作成されたこと明らかであるが、たとえそれが真正なものであったとしても、無効な権利の譲渡であり、それにより「CDM」が本件デザイン(意匠)に係る権利を取得することはあり得ない。
「CDM」がライオンのデザインに係る権利を「インターナショナル社」から取得していないことは、米国カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所の判決により確定している(甲第13号証)。
「CDM」こと被請求人は、請求人、「マリア」らを被告として平成19年(2007年)6月15日に米国カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所に、商標権侵害、不正競争防止法等に基づき、「GABOR」、「GABORATORY」関連の商標を使用した「ガボール」のデザインにかかわるシルバーアクセサリーの製造、販売、広告等の禁止を求める訴訟を提起した。
これに対し、請求人らは、平成19年(2007年)8月30日に、「CDM」が、商標及びデザインに係わる著作権(日本の意匠権に該当)に対する所有者でないことの確認の求め、請求棄却の申立て(motion)を提出した。
そして、上記連邦地方裁判所は、Trialを含む本案審理に入ることなく、平成19年(2007年)11月6日付判決書をもって、「CDM」は「GABOR」及び「GABORATORY」関連の米国登録商標の所有権者でないこと、及び「ガボール」がデザインしたシルバーアクセサリーにかかわる著作権(日本の意匠権に相当)の所有者でないことを宣告し、「CDM」こと被請求人の訴えを棄却した。
なお、被請求人は、20日以内に訴状を訂正の上、再出訴することが認められていたが、かかる再出訴期間内に出訴しなかったため本件訴え棄却が確定している。
この訴訟では、第2契約書は証拠として提出されておらず、裁判所により乙第6及び第7号証では、権利の譲渡を受けたことの証拠にはならないと指摘されて、判決後急遽、第2契約書を作成したものと思われる。
第2契約書にも、権利譲渡の対価の記載がなく、事業譲渡契約としては不完全といわざるを得ない。
いずれにせよ、「CDM」は、ライオンのデザインに対する権利者(所有者)ではないと米国の裁判所により判決が下され、同判決は既に確定している(甲第13号証に使用されているWith Prejudiceという法律用語は、本件につきCDM(原告)には再出訴が許されないということを意味しており、本判決は20日間の不服申立期間が経過しており、すでに確定している。)。
第2契約書は、上記訴訟において当事者適格を認める決定的な証拠となり得たにも拘らず証拠として提出されておらず、判決後back dataで急遽作成されたこと明らかであり、その証拠能力を含む証拠価値は皆無といわざるを得ない。
エ 以上により、「CDM」が、本件商標の元になった「ガボール」の創作したシルバーアクセサリーのデザイン(意匠)の権利者であるという被請求人の主張は理由がなく、本件デザインに係わる権利は、「マリア」及び請求人に帰属すること明らかである。
(4)結論
上記東京地方裁判所の判決で認定しているように、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号の規定に違反して登録されたものである。
3 平成20年8月22日付け提出の弁駁書
ライオンのデザインを日本で販売していた「ユーエスエー社」の日本における総輸入販売代理店を相手とする商標権侵害事件において、東京地方裁判所は、平成20年6月18日付けで、不正競争防止法第2条第1項第1号に基づき、当該輸入販売代理店に対して、ライオンのデザインをはじめとする10種類のシルバージュエリーの販売差止め及び損害賠償の支払いを命じた(甲第14号証)。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし第28号証(枝番を含む。)を提出した。
1 平成20年1月21日付け提出の答弁書
(1)事件の経緯
「インターナショナル社」は、請求人の「ガボール」から一切の権利の譲渡を受けた後、「CDM」の代表者である被請求人に対して、ガボールブランドのシルバーアクセサリーの商標権を含む一切の事業を譲渡した。
請求人は、「マリア」が日本において平成19年(2007年)に「GABOR」商標の登録を得たことを奇貨として、本件無効審判を請求したものである。
しかしながら、請求人の主張は以下に述べるとおり明らかに誤りであって妥当性を欠き、本件商標は何ら無効にされるべき理由はないものである。
(2)商標法第4条第1項第7号について
ア 被請求人は、「インターナショナル社」と商品の販売契約を締結し、後に商標権を含む一切のガボール事業の譲渡を受けた「CDM」の代表者である。
イ ガボラトリー・インクの「ガボール」は、日頃、多量のアルコール摂取によりその死亡証明書(乙第1号証)記載のとおり、慢性の肝臓病を患い、病気により死期が迫っていることを知り、永年シルバー・ジュエリー製作の片腕であったスティーブ・ガーラック(以下「スティーブ」という。)が後継者になることを望んだ。
「スティーブ」は、シルバー・アクセサリーの職人であり、事業を経営する経験もなく、事業を始める資金も無かったので、「ガボール」と「スティーブ」の永年の友人であったマリオン・イエハンス(以下「マリオン」という。)が相談を受け、「マリオン」が新しい事業の財政と経営を引き受け、「インターナショナル社」をネバダ法人として設立し、「スティーブ」はシルバー・アクセサリーの職人としてデザイン及び製作を担当して、「ガボール」と「インターナショナル社」との間に1998年12月10日付けで事業の譲渡契約が締結された(乙第2号証)。
ウ 「インターナショナル社」は、平成11年(1999年)の「ガボール」の死後、契約に従い、残されたマスター・ピース(原型)とその鋳型と職人達を引継ぎ、「ガボール」の死亡により妻「マリア」は、ガボラトリー・インクを閉鎖した。
「インターナショナル社」は、米国特許商標庁に、米国商標1ないし3を出願し登録を受けた。
エ 被請求人の「CDM」は、米国及び日本における輸出・販売業者として、「スティーブ」と「マリオン」の「インターナショナル社」と商品の販売に関し、2003年7月31日(乙第6号証)及び2003年8月24日に契約を締結した(乙第7号証)。
さらに、2003年9月3日の商標権譲渡契約(乙第8号証)に基き、2003年9月5日に、「インターナショナル社」の全ての商標権、著作権、製造権、販売権、顧客、事業の暖簾の譲渡を受けた(乙第9号証)。
オ 「CDM」は、「インターナショナル社」より、ガボール・ブランドのシルバーアクセサリー商品の提供を受け、日本各地の販売業者にガボール・ブランドの商品の供給を継続した。
そして、被請求人が、契約に基づいて、日本にガボール・ブランドの各商品形状を商標登録したところ、「マリア」が閉鎖していた請求人を突然再開し、「ガボール」との結婚証明書及び死亡証明書を日本特許庁に提出して法律上の相続人であると主張して、平成19年(2007年)に「GABOR」商標を日本に登録することを得た。
カ 「CDM」は、日本及びアジア全域に亘る商標の使用、製造販売の独占権を取得し、日本国内において、米国商標1ないし3を付した「ユーエスエー社」製造のシルバーアクセサリーの商品を積極的に展開して広く周知させた。
キ 被請求人は、「インターナショナル社」の所有であった米国商標1ないし3の商標権の譲渡を受け(乙第10ないし第12号証)、米国では名実共に商標権者となった。
そして、「CDM」は、第2契約書に示すように、名実共に「ガボール」のシルバーアクセサリー・ビジネスの商標権、著作権、製造権、販売権、顧客、事業の暖簾の承継人となった。
ク 「マリア」は、単に「ガボール」の妻としての相続人であり、米国においても日本においても、GABOR関連商標のシルバーアクセサリー事業の相続人ではない。
ケ 米国におけるGABORブランドの正当な商標権者は「CDM」であり、また、米国における正当なGABORブランド事業の継承者も「CDM」である。
したがって、当該「CDM」の代表者である被請求人が、商品を日本に輸出するに際し、GABORブランドのデザインを商標登録出願すること及び登録されたGABORブランドの商標権に基づき商標権侵害者に警告を発するのは正当な行為である。
本件商標は、他人のデザインを盗用したものでなく、自社のデザインを商標登録したもので商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
ア 商標法第4条第1項第15号において、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある場合」とは、その他人の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同するおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同するおそれがある場合をもいう。
米国におけるGABORブランドの正当な商標権者であり、米国における正当なGABORブランド事業の継承者である被請求人が、「ガボール」の真正商品を販売し、商標を全国的に周知させた。
本条に定める「他人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある場合」とは請求人のことである。
イ 「CDM」は、日本において商標「GABOR」関連商標を周知せしめたもので、米国における商標「GABOR」関連の商標権者であり、商標「GABOR」関連事業の真の承継人である。
本件商標権者は、「ガボール」のデザインを侵害から守るため、立体商標として出願したが、立体商標として「テトラポット」等の僅かな登録例しか認められない現在の立体商標登録の登録要件を充足しないとの理由により、商標法第3条第1項第3号により登録されなかったもので、「ガボール」のデザインを盗用したとの理由で拒絶されたものではないことは、商願2006-069478号に係る拒絶理由通知書(乙第13号証)及び拒絶査定(乙第14号証)により明らかである。
(4)まとめ
以上のように、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号の規定に違反して登録されたものではない。
よって、本件審判の請求は成り立たない。
2 平成20年9月12日付け提出の答弁書
(1)本件商標のデザインについて
請求人は、本件商標のデザインに「係る権利」を観念し、これが「ガボール」及び請求人に帰属していたと主張する。
しかしながら、本件商標のデザインは意匠登録されていないところ、当該主張が、デザインの周知性の帰属主体を論じているのであれば、このような帰属主体は請求人ではなく「ガボール」である。
これは、本件商標のデザインが付された商品を含むシルバーアクセサリー等をデザインし、これを製造・販売していたのはすべて「ガボール」であること、請求人の商品であるシルバーアクセサリーのブランド名が彼の名称をとって「ガボール」と称されていたこと、雑誌記事等でも、これら商品のブランド名は「ガボール」、「ガボールブランド」と称され(甲第3号証の1、2、5及び6)、請求人の名称に言及されることはなかったことから明らかである。
(2)ガボールブランドの事業の承継について
ア 第1契約書(乙第2号証)について
(ア)事業譲渡の動機について
「ガボール」は、第1契約書の作成された平成10年12月以前より、慢性のアルコール中毒症状にあり、また、これに起因する、極めて治療困難な肝臓疾患である肝硬変を数年に渡って患っている状況にあり、医師からは、このまま飲酒を続ければ、近い将来に死に至るという警告を受けていた。
しかし、「ガボール」は、かかる状態となるに至っても飲酒を止めることはなく、むしろその度合いを深めていたため、病状はさらに悪化の一途を辿っていた。そして、それに伴って、ガボールブランドの経営や、シルバーアクセサリーの創作・デザインに対する意欲ないし気力を次第に喪失している状況にあった。
「ガボール」は、このような状況において、同人が最も信頼していたアクセサリー職人であり、また友人でもある「スティーブ」に対して、自分が死亡した場合には、同人が「スティーブ」とともに発展させてきたガボールブランドを引き継ぎ、その事業を継続して欲しいという希望をもつようになっていた。
その一方、「ガボール」の妻「マリア」は、当時、「ガボール」と同様にアルコール中毒の状態にあり、また、ガボールブランドの事業ないし請求人の業務には、元来、全く関与しておらず、会社経営またはアクセサリー製造に関しても、何らの知識・経験を有していなかった。
したがって、少なくとも当時の状況において、「マリア」にガボールブランドを継承し、その事業を継続する能力はなかったのであり、「ガボール」の死後、シルバーアクセサリーの事業を継承していける人物は、事実上、「スティーブ」のみであるという状況にあった。
そこで、「ガボール」は、近い将来に仮に自分が死去した場合には、ガボールブランドの事業を「スティーブ」に引き継がせたいと考え、平成10年(1998年)の12月初旬、そのような意思を具体的に外部に表明・表示するため、遺言書(乙第15号証)を作成し、これをガボール製品のオリジナルの金型(乙第17号証)とともに、「スティーブ」に託したのである。
なお、「ガボール」が、長年のアルコール中毒に起因する肝硬変を患い、これが原因となって死亡したという事実は、「ガボール」の死亡時に作成された、米国カリフォルニア州ロサンゼルス・パサデナ市厚生課作成にかかる死亡確認書(乙第1号証)において、同人の死亡原因として、「アルコール中毒(CHRONIC ALCOHOLISM)による肝硬変(LIVER CIRRHOSIS)」と記載され、その病歴について、「数年来(YEARS)」と記載されていることからも明らかである。
この点、肝硬変(LIVER CIRRHOSIS)とは、不可逆性の肝臓疾患の末期状態をいうのであり、その5年生存率は約50%とされる、極めて治療が困難であり、かつ死亡可能性の高い疾患である。
この点、肝硬変の治癒のためには断酒が必須であり、かかる症状のまま飲酒を継続することは、ほとんど自殺行為であるとさえいえる(乙第18号証)。
以上のとおり、「ガボール」が数年に渡ってアルコール中毒症状に起因する肝硬変を患っている状況にあり、医師からは近い将来に死に至るという事実を告げられていたことに鑑みれば、「ガボール」が、自らの死期を予感し、当人の最も信頼する職人であり友人である「スティーブ」に対して、ガボールブランドを引き継ぎその事業を継続して欲しいと願うのは極めて自然な心情である。
「ガボール」には、「スティーブ」に対する遺言書の作成、及びその後の事業譲渡契約(乙第2号証)を締結する十分な動機があったといえる。
(イ)第1契約書の作成について
「スティーブ」と同様に「ガボール」と数年来の友人であった「マリオン」は、上記遺言の内容を具体化し、「ガボール」死去の際に、ガボールブランドの権利承継を円滑に行い、将来的に第三者に対する対抗力を確保しておくため、「ガボール」と合意の上、遺言書(乙第15号証)の交付から間もない時期である、平成10年(1998年)12月10日に事業譲渡契約を締結した。
当時、「マリオン」は、本業である建設業の傍ら、モータサイクルの製造を通じて知り合った「ガボール」及び「スティーブ」と親交を深めており、時折、請求人におけるガボール製品の日本への輸出にかかる相手方との交渉や、その事務処理を行うなどしていた。
一方、職人である「スティーブ」は、会社経営それ自体については、積極的な興味関心を有していなかった。
このような経緯から、遺言書により表明されたガボールブランドの事業の具体的な権利関係の処理については「マリオン」に託され、「ガボール」と「マリオン」との間で、事業譲渡契約が、締結されることとなったのである。
なお、当該事業譲渡契約に係る第1契約書の当事者は、「マリオン」ではなく「インターナショナル社」となっているが、これは、当時、「マリオン」が使用していたいわば屋号である。
そして、第1契約書は、「マリオン」自身が2通を作成し、「スティーブ」宅において、「ガボール」との間で相互に署名の上、各自がその1通を保有した。
この点について、請求人は、第1契約書に対価や従業員、金型の引渡し等についての記載がなく、事業譲渡契約としては不完全であるなどと主張する。
しかしながら、第1契約書は、「インターナショナル社」がガボールブランドに関する事業を承継したことを第三者に対抗するために作成されたものであり、「マリオン」がそのために必要な最低限の内容を記載したからに過ぎない。
また、対価である20万ドルについては、「マリオン」がその全てを支出し、「ガボール」に対して現金で交付し、これに対し、「ガボール」が領収書(乙第16号証)に署名したうえで、「マリオン」に交付した。
現金授受による取引は、米国のシルバーアクセサリー業界においては、商慣習といえるものであり、本件における事業譲渡契約の対価の現金授受もその慣習に従ったものである。
そして、20万ドルという対価は、基本的には当時のガボール製品のオリジナル金型の個数(100個以上)を根拠として算出したものである。
同時に、「ガボール」は、仲間を大切にする人間で、親しい友人に対して感謝の念を表すために、贈り物をする習慣があったことから、「マリオン」は、事業譲渡自体が、遺言書(乙第15号証)に基づく、「ガボール」からの贈与であるという認識も有していた。
したがって、その対価は、当時のガボール製品のオリジナル金型の個数のみならず、かかる点も併せ考慮した上で決定された対価であった。
さらに、請求人が、「ガボール」及びパスカル・ザザ(以下「ザザ」という。)により平成6年(1994年)に設立された際に出資された金額が15万ドルであったこと(乙第19号証)からすれば、上記20万ドルの対価は、極めて妥当だったということができる。
(ウ)金型の承継について
「スティーブ」ないし「インターナショナル社」が、「ガボール」より、ガボール製品の製造のための生命線といえるオリジナル金型を承継し、所有していた事実は、当該事業譲渡契約に基づくガボールブランドの事業承継の事実を裏付けるものである。
現在は、「CDM」の所有下にある金型(乙第17号証)がオリジナルの金型であることは、平成16年(2004年)8月の請求人と「インターナショナル社」との米国における極秘和解契約(甲第11号証)において、請求人自身が「インターナショナル社」に対して、オリジナルの金型の引き渡しを求めていること等からも明らかである。
しかも、仮に、第1契約書が偽造文書であり、事業譲渡が実際にはなされていないというのであれば、請求人は、オリジナルの金型を「スティーブ」ないし「インターナショナル社」が持ち去った時点で、当該金型を取り返すのが通常の対応というべきところ、事業譲渡後5年半以上が経過した上記極秘和解契約の締結時にその引渡しを求めるまで、何らの措置も採ってこなかった。
そして、「インターナショナル社」は、後記に述べる「ザザ」の脅迫があるまでは、オリジナルの金型を利用して、平穏無事にガボール製品の製造・日本への輸出を継続してきたのである。
(エ)署名の同一性について
請求人は、第1契約書の署名は「ガボール」本人によりなされたものではなく、第1契約書は、偽造文書であると主張する。
そこで、被請求人は、「ガボール」の署名の真正を立証するため、平成6年(1994年)4月8日付の請求人定款(乙第20号証)、平成9年(1996年)8月9日付でガボール及びワキサカ有限会社(以下、「ワキサカ」という。)との間で締結された、「日本国における版権と商標に関する契約」(乙第21号証)を追加証拠として提出する。
上記各証拠の署名を検討すると、まず、請求人の定款(乙第20号証)の署名と、第1契約書(乙第2号証)及び領収書(乙第16号証)の署名は、いずれも特徴ある1番目の文字「g」、2番目の文字「n」、また3番目の「r」に似た文字の部分において、筆順及び筆圧がほとんど同一といえ、また、文字相互の間隔も同一である。
また、上記定款(乙第20号証)の各署名と、遺言書(乙第15号証)の、不鮮明ではあるが、「n」と「r」の文字の部分の筆順及び筆圧は、ほとんど同一といえる。
また、「日本国における版権と商標に関する契約」(乙第21号証)の署名は、遺言書(乙第15号証)、第1契約書(乙第2号証)及び領収書(乙第16号証)の署名と筆圧においてやや異なるが、特長ある「g」及び「n」 の部分における筆順や文字全体の形は同一であり、また、文字相互の間隔も同一といえる。
かかる点からすれば、第1契約書 、乙第15号証、乙第16号証、乙第20号証及び乙第21号証の署名は全て、同一人物により作成されたものであり、乙第20号証及び乙第21号証が「ガボール」本人の真正な署名であることはもとより明らかであることからすれば、遺言書(乙第15号証)並びに第1契約書(乙第2号証)及び領収書(乙第16号証)の署名もまた、真にガボール自身により作成されたものというべきである。
なお、乙第20号証及び乙第21号証については、いずれも、一連の紛争が開始されるはるか以前の、「ガボール」存命中に作成されたものである。
請求人定款(乙第20号証)は、米国州務長官の検印のあるものであり、これが真正に作成されたものであることに疑いの余地はない。
一方、「日本国における版権と商標に関する契約」(乙第21号証)についても、平成9年(1997年)に、「ガボール」本人と、当時の日本の輸入代理店であったワキサカとの間で締結されたものである。
当時、ワキサカが請求人の製品を日本に輸入していた事実には争いはなく、また、前記契約それ自体の内容においても、何ら請求人ないし「CDM」と利害関係を有するものではないから、当該契約(乙第21号証)は真に「ガボール」により作成されたものであり、その署名も「ガボール」本人のものといえる。
したがって、乙第20号証及び乙第21号証は、いずれも、「ガボール」本人の真正な署名が記載された書面として、十分な信用性を有する。
この点について、請求人は、弁駁書同所において、署名と本文とをつぎはぎし、それをコピーすれば、第1契約書の作成は可能であると主張する。
しかしながら、第1契約書、乙第15号証、乙第16号証、乙第20号証及び乙第21号証の署名を比較すれば明らかなとおり、各署名は、それぞれ特徴的な部分において極めて類似してはいるが、これらを重ねても同一とはならない。
仮に、請求人の主張するように、第1契約書等が署名をつぎはぎして偽造されたものというのであれば、同一の署名があってしかるべきであるところ、それがないのは、各署名が全て真に「ガボール」によりなされたからに他ならない。
また、そもそも、遺言書(乙第15号証)の署名は、マーク上に重なってなされており、請求人のいうつぎはぎの方法による偽造は不可能である。
(3)原本不提出の点について
請求人は、第1契約書の原本の取調べがなされなければ、その証拠能力も証拠価値も全くなく、また、原本の提出がないことが、同契約書が偽造文書であることの根拠の一つであると主張するようである。
しかしながら、仮に、これが偽造された文書であるとすれば、当初から、原本とされる文書の提出がなされてしかるべきである。
すなわち、ある文書の成立の真正を主張する場合に、その原本を提出できないことは、一般的に、当該文書の提出者にとって、不利な事実認定がなされる可能性を高めるものである。
そうとすれば、偽造文書を作成した者が、その真正を偽ろうとする場合には、写しではなく、偽造文書の「原本」を提出しようと考えるのが自然である。
むしろ、偽造文書の「写し」を提出することは、偽造行為の目的自体を失わせしめるものである。
かかる傾向は、その文書の真正が事実認定において極めて重要な要素と認められる場合には、さらに顕著になるというべきである。
また、本件のように、遺言書(乙第15号証)、第1契約書(乙第2号証)及び領収書(乙第16号証)の作成が、平成10年(1998年)12月とおよそ10年も前に遡り、相当以上の時間が経過している上、その作成場所が海外であるような場合には、当事者が、常に原本を提出できるとは限らないのであり、このような場合に、原本が提示されていない事実を、過度に重視すべきでない。
さらに、ある紛争が生じた場合、決定的な書証となる文書の原本が、これを提示されれば不利益を蒙る一方当事者により奪われる事態は、十分に発生し得ることであって、この場合、原本を奪われた当事者が、原本を提示できないために常に敗訴するとすれば、強奪等の不法行為を誘発することとなるのであり、不合理というほかない。
むしろ、重要なのは原本を提示できない理由である。
本件において、原本が提示できない理由は、以下のとおり、請求人の株主であった「ザザ」が、遺言書(乙第15号証)等の原本を保持していた「マリオン」に対し、マフィアないしギャング組織との関わりを背景にして、執拗に脅迫や嫌がらせを続けた上、すべての原本を同人から奪い取ったことにより、請求人は、これらの証拠の原本を入手できなかったというものである。
すなわち、「マリオン」は、遺言書(乙第15号証)や第1契約書(乙第2号証)等の作成後、これらガボールブランドの事業に係る「インターナショナル社」の権利を証する書面の原本を一括して保管していた。
「インターナショナル社」は、「ガボール」の死後、平成13年(2001年)5月29日に法人化し、さらに同年5月ないし7月の間に、米国商標1ないし3(乙第3号証ないし乙第5号証)の出願を行うとともに、ガボール製品の製造及び日本に対する輸出等を行っていた。
これに対し、「マリア」は、平成14年(2002年)頃まで、「インターナショナル社」によるガボール製品の製造・輸出等につき、何ら異議を述べることもなかった。
ところが、平成14年(2002年)になって、「スティーブ」や「マリオン」に対し、「ザザ」から、直接相対で、または電話やe-mailを通じて、「ザザに対して権利関係書類及びオリジナルの金型を引き渡すとともに、「インターナショナル社」の事業を中止しなければ、背後にあるマフィアないしギャング組織が、「スティーブ」や「マリオン」の生命を奪うことになる。」旨の執拗な脅迫が開始されるようになった。かかる脅迫は、時に銃を用いて行われるほどの悪質なものであった。
さらに、平成15年(2003年)7月29日には、請求人から「インターナショナル社」に対する訴訟が提起され(乙第22号証)、また、「ザザ」による「マリオン」らに対する脅迫や嫌がらせも、継続して行われていた。
なお、このころ、「ザザ」は、オリジナルの金型を強奪するため、「インターナショナル社」の工場に押し入ろうとしたため、ロサンゼルス郡特別機動隊(SWAT)により包囲されるという事件を発生させている(乙第23号証)。
このような状況において、「マリオン」は、当初こそ脅しに屈することなく事業を継続していたが、「ザザ」による度重なる脅迫に、生命の危険を感じるとともに、さらに訴訟遂行に伴う費用の負担も大きかったため、平成16年(2004年)に至って、ついに、「ザザ」に対して権利関係書類の原本を引き渡した上、上記訴訟において、全く真意に基づかない極秘和解契約(甲第11号証)を締結することとしたのである。
なお、オリジナルの金型については、平成15年(2003年)7月31日ないし同年9月5日に至る一連の契約(乙第6号証ないし乙第9号証)でガボールブランドの事業が「インターナショナル社」から「CDM」に譲渡された段階で、「インターナショナル社」から「CDM」に引き渡されており、「マリオン」の手許には残っていなかった(乙第17号証)。
本件における遺言書(乙第15号証)、第1契約書(乙第2号証)及び領収書(乙第16号証)の原本の提出が不可能となったのは、以上の理由に基づくものであるから、これをもって遺言書(乙第15号証)並びに第1契約書(乙第2号証)及び領収書(乙第16号証)の成立の真正を否定する根拠とはなし得ず、また、第1契約書の証拠価値を減殺するということはできない。
(4)請求人の主張に対する反論
ア 東京地方裁判所平成20年2月27日判決(甲第10号証)について
同訴訟において、「ユーエスエー社」が応訴していないのは、請求人の指摘するとおりである。
これは、被請求人「ユーエスエー社」が米国法人であり、日本の裁判所に管轄権が認められないことから、法的手続に則った適正な送達がなされていないと考えたからに過ぎない。
すなわち、被請求人としては、本案で争うまでもなく、同訴訟がそもそも訴訟要件を欠き却下されるべきものと考えていたのである。
したがって、当該訴訟において請求人からの請求を争わなかったのは、本件審判事件における被請求人の態度と何ら矛盾しない。
なお、被請求人は、同訴訟を提起された際は、具体的に日本の弁護士に相談していなかったが、被請求人個人を被告とする訴訟については、日本の弁護士を依頼し、本件と同様請求人の主張を争う方針である。
イ 極秘和解契約(甲第11号証)について
請求人は、平成15年7月29日に米国カリフォルニア州連邦地方裁判所に「インターナショナル社」に対して提起した訴訟において、「インターナショナル社」が、第1契約書(乙第2号証)等を証拠として提出することなく、請求人との間で、平成16年8月に極秘和解契約(甲第11号証)を締結したことを指摘する。
しかし、そもそも当該極秘和解契約が締結されたのは、「インターナショナル社」が「CDM」に対して平成15年(2003年)7月31日ないし同年9月5日に至る一連の契約(乙第6号証ないし乙第9号証)で、ガボールブランドの事業が「インターナショナル社」から「CDM」に譲渡された後である。
すなわち、極秘和解契約当時、「インターナショナル社」は無権利者であったのだから、請求人が「インターナショナル社」より権利を取得することはない。
なお、「インターナショナル社」がこのような行為を行ったのは、「ザザ」からの度重なる脅迫行為により「マリオン」が生命の危険を感じるとともに、訴訟遂行に伴う費用の負担が大きくなってきたためであり、真意に基づくものではない。
また、「インターナショナル社」は、「CDM」に対しガボールブランドに関する事業を譲渡した後は、自ら事業を行っておらず、実質的な不利益もなかった。
このため、「インターナショナル社」は、やむなく真実と反する内容の和解を締結したのである。
また、ガボールブランドに関する事業を譲渡した後の「インターナショナル社」が、自己を当事者とする訴訟でそれほど熱心な態度をとらないことは十分ありうることであり、これが脅迫下にあればなおさらである。
したがって、同訴訟における「インターナショナル社」の対応が被請求人の提出する証拠の証拠価値を直接左右するものではない。
ウ 米国カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所平成19年11月6日判決(甲第13号証)について
請求人は、同訴訟において、第2契約書が提出されていなかったことをもって証拠価値がないと主張するようである。
しかしながら、第2契約書は、「インターナショナル」及び「CDM」が署名した有効な契約であって、同訴訟で被請求人が第2契約書を提出しなかったのは、乙第6号証及び乙第7号証の提出により立証が十分であると考えたにすぎない。
その後、被請求人は、連邦裁判所からの棄却判決が出された際に、依頼していた弁護士より、請求人らが米国国内では侵害商品を販売しておらず、損害が発生したこととはならないため、いずれにせよ損害賠償請求をすることはできないなどの説明を受けた。
このため、被請求人は、不服申し立てをしたとしても、損害賠償を勝ち取れないのであれば意味がないと考え、そのまま何らの措置も採らなかった。
(5)商標法第4条第1項第7号について
ア 請求人は、本件商標は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法第4条第1項第7号)に該当するとし、その根拠として、被請求人が、(ア)本件商標の著名性を利用する目的で、そのデザインを盗用して商標出願したこと、(イ)請求人の代理店及び販売店に対して警告書(甲第7号証)を発送したこと及び(ウ)「ユーエスエー社」のウェブサイトにおいて請求人の販売店を「非公認業者」と紹介し、同様の警告書を掲載したこと(ただし、上記警告書及びウェブサイトの作成名義はいずれも被請求人でなく「ユーエスエー社」である。)が公正な取引秩序に反する行為であることを挙げる。
イ しかしながら、上記(2)において主張したとおり、「ガボール」による遺言書(乙第15号証)及び第1契約書(乙第2号証)に基づき、「ガボール」の死亡した平成11年(1999年)1月以降、その事業及びこれにかかる権利のすべては、「ガボール」及び請求人から「インターナショナル社」に譲渡され、さらに平成15年(2003年)7月31日ないし同年9月5日に至る「インターナショナル社」と「CDM」との間の一連の契約(乙第6号証ないし乙第9号証)を通じて、「インターナショナル社」から「CDM」に譲渡されたものであり、「CDM」は、ガボールブランドに関する事業を行う正当な権利を有する。
他方、請求人は、「インターナショナル社」に対しガボールブランドに関する事業を譲渡した結果、これにかかる権限を失った。
しかるに、請求人は、ガボールブランドに関する事業の利権を得るため、オリジナルの金型を保有しないにもかかわらず、ガボールブランドの製品を突如製造・販売するに至ったのであって、むしろ公正な取引秩序に反する行為を行っているのは請求人である。
そうとすれば、「CDM」は、本件商標を使用する排他的な権限を有し、「CDM」による本件商標の登録は何ら公序良俗を害するものではない。
この点、被請求人は、「CDM」の代表者であるところ、会社の営業にかかる商標を代表者名義で商標登録することは一般的に行われることであり、特段の問題はない。
ウ 小括
したがって、本件商標は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には該当しない。
(6)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、本件商標が、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」(商標法第4条第1項第15号)に該当すると主張する。
しかしながら、上記(2)において述べたとおり、「CDM」は、「ガボール」から、ガボールブランドに関する事業を承継した「インターナショナル社」より、平成15年7月31日から同年9月5日にかけて、同事業及びこれにかかる権利のすべてを承継したのであるから、「CDM」が本件商標を指定商品に使用しても、商品の出所につき混同を生ずるおそれはない。
この点、過去の審決においても、出願人が商標の使用者から承諾を得ていたことを理由として、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがなく、本号に該当しないとした例がある(審判平1-11972)。
そして、「CDM」の代表者である被請求人が本件商標を出願した場合も、同様に、商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には該当しない。

第4 無効理由の通知
当合議体において、当事者が申し立てない理由について審理したところ、審判長は、その審理の結果を、当事者に対し要旨次のとおり通知した。
1 本件商標について
本件商標は、別掲(1)の図形からなるところ、甲第2号証の1及び同第3号証の1ないし6によれば、該図形は、請求人会社「ガボラトリー・インク」の創設者である「ガボール」のデザインに係るシルバーアクセサリー(ウォレットチェーン、キーチェーン、ブレスレット、ペンダントトップ等)を構成する立体形状(請求人のいう「輪を噛むライオン」(別掲(2))を含め、以下、一括して「引用標章等」ということがある。)の一部を平面図として表したものと認められる。
そして、上記シルバーアクセサリーについては、我が国において本件商標の登録出願前に発行された雑誌に「ガボール」のデザインに係るものとして写真と共に紹介されている甲第3号証の1ないし6)。
特に、雑誌「シルバーアクセ完全FILE5(最強の人気ブランド2001年最終スクープ13連発!)」(甲第3号証の2)の「SCOOP!2 GABOR」と題する頁において、上記シルバーアクセサリーの写真と共に、「日本で買えるガボールの定番アイテムをラインナップ。でもその定番でさえなかなか手に入らないのが現状。ガボール亡きあと、「マリア」を筆頭に計4人で作業する現在のガボールファミリー。・・・」との記述がされている。
2 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)請求人及び被請求人の主張によれば、「ガボール」が1999年1月16日に死亡したこと(乙第1号証)から、上記1にいう「ガボール」のデザインによるシルバーアクセサリーの立体形状(引用標章)に係るデザインに関する権利をはじめ、「ガボール」が生前にデザインし請求人が販売していたシルバーアクセサリー製品(以下「ガボール製品」という。)やその販売権、商標権等の帰属を巡って両当事者間に争いが生じたことが認められる。
(2)被請求人は、引用標章等に係るデザインに関する権利をはじめ、ガボール製品関連の商標権、著作権、製造権、販売権等については、第1契約書(乙第2号証)により、「インターナショナル社」が「ガボール」から譲渡を受け、さらに、第2契約書(乙第9号証)により,「CDM」が「インターナショナル社」から譲渡を受けた旨主張している。
また、被請求人は、「インターナショナル社」と商品の販売に関し、2003年7月31日付契約書(乙第6号証)及び同年8月24日付契約書(乙第7号証)を交わし、日本及びアジア全域に亘る商標の使用、製造販売の独占権を取得した旨主張している。
そして、乙第3号証ないし乙第5号証及び乙第10号証ないし乙第12号証によれば、ガボール製品についての基本的な商標ともいえる米国商標1ないし3については、米国において「インターナショナル社」によって2001年6月13日、同年5月29日、同年7月30にそれぞれ登録出願され、2003年3月11日、2006年1月10日にそれぞれ登録され、その後、「CDM」に譲渡され2007年4月6日及び同月10日に譲渡の登録がされたことが認められる。
なお、乙第3号証ないし乙第5号証の訳文として提出された乙第3号証の1、乙第4号証の1及び乙第5号証の1は、原文には存在しない「最新の登記上の所有者」及び「譲渡記録」が記載されており、正確なものではない。
(3)しかしながら、第1契約書及び第2契約書に基づく被請求人の上記主張は、米国における一連の訴訟の経緯に照らすと直ちには首肯し難いものである。
すなわち、請求人は、「インターナショナル社」を被告として、米国商標1ないし3の不正出願/登録及び同商標並びに「ガボール」のデザインの無権限使用の取消、差止等を求める訴訟を2003年7月29日に米国カリフォルニア州連邦地方裁判所に提起したが、同裁判所を通じて2004年8月に当該訴訟につき当事者間に和解が成立した(甲第11号証)。
当該和解契約書は、
a)米国商標1の請求人側への譲渡、
b)「インターナショナル社」は、米国商標2及び3の出願を放棄し米国商標1ないし3に酷似した標章の登録等を行わないこと、
c)請求人は、米国特許商標庁での商標無効審判申立を取り下げること、
d)「インターナショナル社」は、請求人による商標登録及び商標使用に対し異議申立てをしないこと、
e)「インターナショナル社」は、米国商標1ないし3及びこれらに類似する商標を使用しないこと、
f)「インターナショナル社」は、「ガボール」のデザインを使用しないこと、
g)「インターナショナル社」は、ガボール製品に係る金型を請求人に引き渡すこと、などを骨子とするものといえる。
請求人は、「インターナショナル社」が上記和解契約の約定を履行しないので、2007年7月19日に和解契約の履行等を求める訴訟を米国カリフォルニア州連邦地方裁判所に提起した(甲第12号証)。
他方、「CDM」こと被請求人は、2007年6月15日に請求人、「マリア」等を被告として、米国商標1ないし3を根拠に商標権侵害等に基づきガボール製品の製造、販売、広告等の禁止を求める訴訟を米国カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所に提起したが、逆に被告から「CDM」はガボール製品に関する商標及びデザインに係る著作権に対する所有者でないことの確認を求める請求棄却の申立てがされた結果、「CDM」こと被請求人の訴えが棄却された(甲第13号証)。
これら米国における一連の訴訟の経緯からすると、「インターナショナル社」が「ガボール」の生前に同人から引用標章に係るデザインをはじめ、ガボール製品関連の商標権、著作権、製造権、販売権等を譲り受けたとする被請求人の主張は俄には信じ難く、むしろ、上記和解契約の内容からすれば、「インターナショナル社」は「ガボール」から上記諸権利を譲り受けていないものと推認される。
そうすると、「CDM」が米国商標1ないし3について登録簿上の名義人となっているとしても、元々権利を有していない「インターナショナル社」から「CDM」又は被請求人が上記諸権利を取得することはないといわざるを得ない。
そして、上記「CDM」こと被請求人が提起した米国訴訟の判決(甲第13号証)においても、被請求人が当審において提出した乙第6号証及び乙第7号証の契約書によっては、「CDM」こと被請求人は「インターナショナル社」から標章に係る権利の譲渡を受けたものとは認められないと認定されているのである。
また、「CDM」又は被請求人が引用標章に係るデザインをはじめ、ガボール製品関連の商標権、著作権、製造権、販売権等を譲り受けたとする根拠として重要といえるべき第1契約書(乙第2号証)及び第2契約書(乙第9号証)は、上記米国訴訟において証拠として提出されていない。
(4)以上を総合勘案すると、被請求人は、ガボール製品及び引用標章等に係るデザイン等が「ガボール」及び請求人に帰属するものであることを熟知した上で、引用標章等が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、上記1のとおり引用標章等の一部を平面図とした本件商標を、請求人に無断で剽窃的に登録出願し登録を受けたものというべきである。
(5)他方、「ガボール」のデザインに係るシルバーアクセサリーは、上記1のとおり、「ガボール」及び請求人の業務に係るものとして本件商標の登録出願前に既に我が国においても紹介されており、その特異なデザインとも相俟って、この種商品のマニアの間には相当程度知られていたものと推認されることから、当該マニアが本件商標から上記シルバーアクセサリーを連想、想起する場合も少なからずあるものというべきである。
(6)そうすると、かかる被請求人の行為は、他人(請求人)の製品のデザインを当該他人に無断で商標として剽窃的に登録出願し、市場に無用の混乱を生じさせ、公正な商取引の秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものといわなければならない。
3 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきものである。

第5 当審の判断
1 前記第4の無効理由の通知は、妥当なものと認められるから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものである。
2 無効理由の通知に対する請求人の意見
無効理由の通知に対して、請求人は、意見を述べていない。
3 無効理由の通知に対する被請求人の意見
無効理由の通知に対して、被請求人は、以下のように意見を述べるとともに、追加の証拠として、乙第24号証ないし乙第28号証を提出している。
そこで、被請求人の主張及び証拠について、以下のとおり判断する。
(1)被請求人は、「被請求人が代表者となっているCDMが、ガボール・ナギーの事業を承継した。」旨主張し、その証拠として、第1契約書の写し(乙第2号証)、2003年7月31日付け契約書の写し(乙第6号証)、同年8月24日付け契約書の写し(乙第7号証)、同年9月3日付け契約書の写し(乙第8号証)、第2契約書の写し(乙第9号証)、遺言書(乙第15号証)及び領収書(乙第16号証)の写し(以下、まとめて「契約書等の写し」という。)を提出している。
しかしながら、契約書等の写しについて原本の提示はなく、写しに対応する原本が実際に作成されたのか、さらに、手書きの部分が真実「ガボール」のものであるかを認めるに足る証拠の提出もない。
被請求人は、契約書等の原本を提出できない理由として、「インターナショナル社」を設立した「マリオン」が、請求人の株主である「ザザ」に権利関係書類の原本を引き渡したためである旨述べている。
しかしながら、それを証する証拠の提出はない。
以上のとおりであるから、契約書等の写しを証拠として採用することはできない。
したがって、「CDM」が「ガボール」の事業を承継したと認めることはできない。
(2)被請求人は、「和解契約(甲第11号証、以下「当該和解契約」という。)が締結されたのは、(a)「マリオン」が、「ザザ」から、生命の危険を感じるほどの悪質な脅迫を受けていたこと(b)当該和解契約締結当時、「インターナショナル社」は、ガーボールブランドに関する事業の全てをCDMに譲渡していたため、同社は保全すべき権利そのものを有しておらず、訴訟で争う実質的理由を失っていたこと(c)契約内容が、請求人が「インターナショナル社」に対して7500ドル支払うという、同社にとって有利とも言える内容であったことによるものである。したがって、当該和解契約が締結された事実をもって、「インターナショナル社」が、ガボール・ナギーからガボールブランドにかかる事業及びそれに伴う諸権利を譲り受けていなかったことの根拠とすることはできない。」旨主張している。
しかしながら、(a)についていえば、被請求人は、脅迫を受けていたとの主張するのみで、その事実を証する書面等を何ら提出していない。
また、(b)についていえば、仮に、「インターナショナル社」が、当該和解契約締結時において、ガーボールブランドに関する事業についてなんら権利を持っていなかったとしても、それによって、同社が、当該和解契約によって生ずる債務(米国商標1の請求人側への譲渡、米国商標2及び3の出願の放棄等)について、その履行を免れることができないことは当然である。
そして、「インターナショナル社」は、当該債務を履行できなければ、請求人から、債務不履行による損害賠償等を請求されることについて十分に予測し得たはずである。
そうとすれば、被請求人の「訴訟で争う実質的理由を失っていた」との主張は、理解し難い。
さらに、(c)についていえば、当該和解契約では、「請求人が、インターナショナル社に対して7500ドル支払う」という内容のみではなく、米国商標1の商標権の請求人側へ譲渡、米国商標2及び3の出願放棄等、「インターナショナル社」が負うべき負担についても定められている。
そうとすれば、当該和解契約の内容が、「インターナショナル社」にとって有利であったということは、一概にいうことはできない。
以上のとおり、当該和解契約締結の経緯に関する(a)ないし(c)の主張は、いずれも説得力があるとはいえないものである。
さらに、当該和解契約締結の際に、「インターナショナル社」が、自分にとって有利な証拠となる契約書等の写しの存在を主張していないのは不自然というほかない。
以上の点を、総合的に考慮すれば、「インターナショナル社」は、「ガボール」から、ガボールブランドにかかる事業及びそれに伴う諸権利を譲り受けていなかったために、当該和解契約締結時に「契約書等の写し」の存在を主張し得なかったと考えるのが自然である。
したがって、この点についての被請求人の主張は採用しない。
(3)被請求人は、「当該和解契約において、請求人は、インターナショナル社らに対し、7500ドルを支払うこととしている。当該和解契約が、完全な無権利者であるインターナショナル社が剽窃的に米国における各商標権を登録したのを、真の権利者である請求人が取り返すという前提事実の下でなされたものであるというならば、あえて、請求人がインターナショナル社に対して対価を支払う理由など一切無い。にもかかわらず、当該和解契約において、インターナショナル社が対価を得ていたことは、当該和解契約締結当時、インターナショナル社がガボールブランドに関する権利を有していたことを、請求人自身が認めていたことの重大な裏づけといえる。」旨主張している。
しかしながら、当該和解契約で請求人が「インターナショナル社」に7500ドル支払うとされたことと「インターナショナル社」がガボールブランドに関する権利を有していたこととを結びつける理由は、当該和解契約書の記載において見いだすことはできない。
そうとすれば、当該和解契約において、請求人から、「インターナショナル社」に7500ドルを支払うとされたからといって、当該和解契約締結当時、「インターナショナル社」が、ガボールブランドに関する権利を有していたということはできない。
したがって、この点についての被請求人の主張は採用しない。
(4)被請求人は、「当該和解契約の履行を求める米国での訴訟(甲第12号証)について、「マリオン」に対する訴訟は、請求人によって取り下げられている(乙第27号証)、また、「インターナショナル社」は、解散している(乙第28号証)から、当該訴訟をもって、「インターナショナル社」がガボールブランドに関する権利を有していなかったことの根拠とすることはできない。」旨主張している。
しかしながら、最終的には「マリオン」に対する訴訟が取り下げられたとはいえ、当該訴訟の審理中に、「マリオン」が、自分にとって有利な証拠となる契約書等の存在を主張していないのは不自然であるというほかない。
そうとすれば、当該訴訟の経緯は、「インターナショナル社」が、ガボールブランドに関する権利を有していたいなかったと推論する根拠となり得るものである。
したがって、この点についての被請求人の主張は採用しない。
(5)被請求人は、「被請求人が、米国での商標権侵害訴訟等(甲第13号証)において、乙第8号証及び第2契約書を提出しなかったのは、被請求人の米国の弁護士が、『乙第7号証の「権利の譲渡」の条項に従えば、米国における商標権の所有権は「インターナショナル社」から「CDM」に権利が移転したこととなるため、立証上何ら問題がない』と判断したためと思われる。」旨主張している。
しかしながら、被請求人が、当該弁護士の判断について述べている内容は、被請求人の憶測にすぎないから、この点についての被請求人の主張は採用しない。
(6)その他の被請求人の主張及び証拠をもってしても、上記1の認定を覆すに足りない。
4 結び
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、他の無効理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標



(2)輪を噛むライオン(ライオンのデザイン)



(3)米国商標2



(4)米国商標3






審理終結日 2009-01-22 
結審通知日 2009-01-28 
審決日 2009-02-16 
出願番号 商願2005-53429(T2005-53429) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (Y14)
最終処分 成立  
前審関与審査官 八木橋 正雄 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 久我 敬史
小林 由美子
登録日 2005-12-16 
登録番号 商標登録第4915872号(T4915872) 
代理人 山嵜 進 
代理人 中川 康生 

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