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審決分類 審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 118
管理番号 1198998 
審判番号 無効2008-890051 
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-06-10 
確定日 2009-03-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第1797770号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由
第1 本件商標
本件登録第1797770号商標(以下「本件商標」という。)は、「TeddyBear」の文字を横書きしてなり、昭和58年6月29日に登録出願、第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具」を指定商品として昭和60年8月29日に設定登録され、その後、平成8年4月26日及び平成17年3月29日の2回に亘り商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成17年9月7日に指定商品を第3類「つけづめ,つけまつ毛」、第6類「金属製のバックル」、第8類「ひげそり用具入れ,ペディキュアセット,マニキュアセット,まつ毛カール器」、第10類「耳かき」、第14類「身飾品,貴金属製のがま口及び財布,宝玉及びその模造品,貴金属製コンパクト」、第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」、第21類「化粧用具(「電気式歯ブラシ」を除く。)」、第25類「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」及び第26類「腕止め,衣服用き章(貴金属製のものを除く。),衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。),衣服用バックル,衣服用ブローチ,帯留,ボンネットピン(貴金属製のものを除く。),ワッペン,腕章,頭飾品,ボタン類,造花(「造花の花輪」を除く。),つけあごひげ,つけ口ひげ,ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」とする書換登録がされているものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の指定商品中「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第20号証を提出している。
1 請求の理由
(1)「TeddyBear」については、証拠により次の事実が認められる。
(ア)米国第26代大統領であったセオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt 1858?1919)に関して、1902年、狩猟に出かけた際、一匹の小熊を追いつめたが、その熊を撃たず、命を助けたという逸話が残されている。
この名称は、1902年11月の「ワシントン・イブニング」(The Washington Evening)紙の漫画に載ったことから生まれたとされている(研究社2001年発行「英米児童文学辞典」340頁:甲第1号証)。
その後、その漫画を見た者が、ぬいぐるみの熊を作って販売することを思いつき、自己の店で販売するぬいぐるみの熊に、「Teddy’s Bear」(「Teddy」(テディ)は、セオドア・ルーズベルトの名である「Theodore」の愛称である。)という名を使うことについて、セオドア・ルーズベルトの許可を求めたといわれている。
また、「Teddy Bear」(又は「teddy bear」)という語は、米国において、独特の形をしたぬいぐるみの熊を意味する語として広く用いられるようになった。
(イ)大修館書店1999年発行「ジーニアス英和辞典」(改訂版6版1837頁)には、「Teddy bear」という語について、「[しばしばt?](ぬいぐるみの)クマの人形《◆米国の第26代大統領Theodore Roosevelt(《愛称》Teddy)が猟で子グマを助けた漫画から;英米の子供はたいていこの種のものを1つは持っている》」と記載されている(甲第2号証)。
(ウ)小学館1998年発行「ランダムハウス英和大辞典」(第2版第6刷2782頁)には、「teddy bear」という語について、「1.ぬいぐるみのクマ」、「1907.米;Theodore Rooseveltの別称Teddyにちなむ;狩猟中、彼は子グマの命を助けてやったといわれることから」と記載されている(甲第3号証)。
(2)「Teddy bear」又は「teddy bear」(以下、これらをまとめて「teddy bear」という。)の語は、米国において、一般的に独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味し、我が国においても、独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する普通名詞として用いられ、また、カタカナ表記の「テディベアー」又は「テディベア」(以下、これらをまとめて「テディベアー」という。)の語も、我が国において、独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する普通名詞として用いられており、その名称は、誰もが自己の商品に自由に使用できるという共通の認識を有する状態になっていたといえる。
(3)したがって、「teddy bear」及び「テディベアー」の語の由来を考慮すると、ぬいぐるみと同一又は類似の商品のみならず、ぬいぐるみと強い関連性のある商品についてであっても、「teddy bear」又は「テディベアー」という語を商標として登録し、それを特定の商標権者が独占することは、セオドア・ルーズベルトの有名なエピソード、又はテディベアの愛称をもつ小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図、又は誰もが自己の商品にその「テディベアー」等の名称を自由にしようできるという共通の認識を覆す意図があり、公正な競争秩序ないし公平の観念に反するものとして、商標法第4条第1項第7号(以下、単に「7号」ということがある。)の規定に該当する登録無効事由が有するものといえるのである。
(4)請求人が本件審判を請求する決意をするに至った動因は、請求人が請求した別件審判請求事件(取消2007-300236号)の審決取消請求訴訟において、知的財産高裁が平成20(行ケ)10014号平成20年5月15日判決によって、本件商標は7号に背反して登録されたものであるから、無効事由があることを示唆した説示をしていたこと(甲第4号証)にある。
この判決の説示は、敗訴原告(本件請求人)をして本件審判を請求するに当たり、極めて有力な見解となったのである。
(5)7号に規定する「公序良俗」とは、一国におけるその時代の社会通念に従って、商標を指定商品又は指定役務に独占的に使用することが社会公共の利益に反するかどうかによって、取引の実情を通じて判断されるべき相対的な概念であり、また特定の国又は国民を侮辱するような商標や国際信義に反するような商標も、この規定に該当するものと解されている(有斐閣発行、網野誠著「商標」第6版327頁)。
ただ一口に国際信義といっても、その意味内容は様々な場合があり得るから、ケース・バイ・ケースで適用の可否は考えられて然るべきであろう。
(6)以上の理由により、本件商標をその指定商品について商標として被請求人に独占させることは、米国第26代大統領のセオドア・ルーズベルトの有名なエピソードに由来する「テディベア」及び「teddy bear」の名称を、何人も自由に使用できるという国民の共通認識を覆す意図が出願時にあったから、公正な競争秩序ないし公平の観念に反することになる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に規定する我が国の公序良俗を害するおそれのある商標というべきである。
よって、本件商標は、同法第46条第1項第1号の規定に基づき、その登録は無効とされるべきである。
2 弁駁の理由
(1)請求人適格について
被請求人は、請求人は本件審判を請求するについて利害関係の立証をしていないと主張する。しかし、請求人は、本件商標の専用使用権者である株式会社友企画との間で争った審判事件(取消2007-300236)及び知的財産高裁平20(行ケ)10014号審決取消請求事件の当事者であった事実、そして知的財産高裁平成20年5月15日判決において裁判長から、本件商標登録には無効事由が存在する余地のあることが説示された事実は、正に請求人において本件商標に対し登録無効審判を請求する利害関係を有する証拠といえるのである。
したがって、被請求人の主張は失当である。
(2)本件商標について
被請求人は、本件商標の構成態様(外観)や称呼について述べ、「TeddyBear」という外観・称呼からは「熊のぬいぐるみ」の観念が生ずると主張する。
しかしながら、「TeddyBear」の語源は、その由来から2語に分離できる語である。すなわち、前者からは米国の第26代大統領のセオドア・ルーズベルトのことが、後者からは小熊のことが想起されるのであり、「熊のぬいぐるみ」の誕生はその後のことである。
本件商標の語の由来は、すでに主張立証したとおり、100年以上過去の上記大統領をめぐる歴史的事件に基くものであり、その「ぬいぐるみ」なるものはその事件と同時発生的に誕生したものではないから、これを混同してはならない。
(3)本件商標の採択理由について
被請求人は本件商標の採択の理由について述べているが、出版事業と本件指定商品との関係は不明であるし、また本件商標について被請求人は自身では使用せず、第三者である株式会社友企画に期間限定で専用使用権を設定している。
なお、被請求人は本件商標の採択の理由を、あたかも自己の商標として自由に選択できる状態にあったかのように主張するが、「TeddyBear」とは、正に米国大統領の愛称に由来する歴史上の人物に準ずる名称であるから、何人も自由に選択して商標登録できる状態にあるような語ではない。すなわち、被請求人の本件商標の登録は冒用行為以外の何にものでもない。
(4)本件商標の普及の努力について
被請求人は、自社の出版物として乙第2号証ないし乙第9号証を提出し、「テディベア」の普及に努力していると主張するが、その内容は出版物の原本を見ていないから明らかでないし、出版と「TeddyBear」の名称を商標登録することとは関係のない事実であるのみならず、商標登録をすることには、本件名称を冒用し正に当該商品について独占使用する営利的意図が見えているのである。これでは、米国大統領ゆかりの名称を普及することに努力したなどと主張すること自体、誤りである。
(5)本件商標の使用状況について
被請求人の主張によると、被請求人は、米国大統領セオドア・ルーズベルトと小熊との関係から誕生した「TeddyBear」の名称を、商標として登録することによって当該商品について独占し、これを自からは使用せずに本件商標についてのライセンス・ビジネスを行うことを目的としていることが明らかである。そして、これらの会社へのライセンス以外に、前記した専用使用権が現在も有効に存続しているのである。
しかしながら、このようなライセンスの事実と7号違反による登録の事実が継続していることとは別の問題である。
(6)「テディベア/TeddyBear」について
被請求人は、「テディベア」とは、基本的に「頭、両手、両足を動かすことのできる、毛足の長い熊のぬいぐるみ」のことを指称するというが、誤りである。
被請求人は、専ら商品の「ぬいぐるみ」のことを言っているのであり、商標である「TeddyBear」の名称のことを言っているのではない。とすると、本件商標の指定商品との関係もおかしくなってくる。
この名称の由来について被請求人は、「熊のぬいぐるみ」を販売しようとした者がこの名称を採択して使用し始めたと主張するが、狩猟中の大統領が小熊を見逃してやったエピソードが、「ワシントン・イヴニングニュース」紙に漫画で掲載された事実から生まれたものと解するのが妥当である(甲第1号証)。
また、被請求人は、英国の商標登録例(乙第10号証及び乙第11号証)を挙げているが、これらいずれも本件商標とは構成態様が異なり、ロゴ化されている態様から成るものであるから、比較にならない。
また、被請求人は、木対桜の登録例のことを主張するが、全然比較にならず、失当である。
(7)「TeddyBear」の出願時の周知性について
被請求人は、本件名称は登録時点ではその存在は殆んど知られていないとして、乙第12号証ないし乙第17号証の辞書を引用する。
しかしながら、一般辞書への「言葉」の掲載というものは、長期間経過後にはじめて実現するものである事実を考えれば、一般辞書への掲載の有無を、形式的に出願時点や登録時点を基準とするような見解や主張は誤りである。
(8)請求人の主張に対する反論について
(ア)「ぬいぐるみと強い関連性のある商品」といえば、本件商標の指定商品中の「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」に「根付け」のように立体的であろうと、ワッペンやシールのような平面的であろうと、例示することができる。
ただすでに主張したように、本件商標に係る構成態様は英文字のみから成る標章であるから、あえて「ぬいぐるみ」と関連づけなくとも、その文字自体は特定の観念を有する名称であることは理解できる。
(イ)被請求人は、「テディベアー」の愛称が有する人気や著名性に只乗りする(フリーライド)意図や自由に使用できる共通の認識を覆す意図があると請求人が主張するのに対し、何を根拠にそう主張するのか理解に苦しむという。
しかしながら、本件商標に係る文字には、すでに主張したとおりの由来があり、これは少なくとも米英国民間には衆知の事実である以上、その事実を承知していた被請求人がそれを出願し登録し、さらに第三者に使用権を許諾するライセンス・ビジネスを行う行為は、正に冒用によるフリーライド行為を証明しているといわねばならない。
本件商標「TeddyBear」は、正に実在した米国大統領の愛称と彼が出会った小熊との関係から生まれた言葉であることを需要者が観念している語であり、名称である。
(ウ)被請求人は、請求人が引用した前記知財高裁判決に対し既判力を云々しているが、お門違いの主張である。
請求人は、その判決で裁判長が最後に示唆している説示を引用しているのであり(知財高裁における「示唆」は、「付言」や「念のため」という傍論とはやや性質が違い、裁判所による積極的な助言が見て取れるのであり、敗訴した当事者には次のアクションへの貴重な言葉であると解することができる。)、本件審判はこの判決における説示を生かして請求したのであるから、特許庁にその説示の妥当性の判断を求めているのである。
そこで、請求人が問題とする点は、何人も当該名称を自由に使用できるかどうかを考える前に、この名称ないし語を一私企業に独占排他させる商標権を付与してよい合理的理由があるかどうかを考えることである。したがって、この要点について、的確に答えていない被請求人の反論は理由になっていない。
(エ)被請求人は、本件商標を長年にわたり平穏に使用して来たから、米国民の国民感情を害したり、国家利益が損われた事実はないと主張する。
しかしながら、7号の規定において広く国際信義に反する商標の登録を不可とする理由は、「TeddyBear」なる名称の語源はすでに主張しているように、米国大統領と小熊との出会いにあり、これから可愛い小熊のぬいぐるみに発展した歴史的背景を考えると、この名称は米国の誇る一つの文化的遺産ともいえるものであり、これはわが国においても親しまれている名称である以上、本件商標の登録を一私企業に依然として認めたままでいることは、わが国と米国との国際信義に反する行為となり、両国の国民的公益を損うおそれがある。また、「TeddyBear」のもつ顧客吸引力の大きさを考えるとき、本件商標の一私企業による独占的使用を認め、ライセンス・ビジネスを奨励するようなことは、極めて不当であるというべきである。
したがって、本質的にこのような要素から成る本件商標は、7号に該当する商標として無効とされるべきである。
なお、被請求人が引用した知財高裁平19(行ケ)10391平成20年6月26日判決は、本件商標と同レベルの歴史的背景や観念を有する語に対する事案ではないから、第7号に該当する商標か否かを検討するに際し、比較に値しないものである。
(9)甲第1号証ないし甲第3号証の証拠価値について
被請求人は、甲第1号証ないし甲第3号証は1998年(平10年)1月以降の出版に係るものだから証拠価値がないと主張するが、失当である。
これについては、上記(7)のとおり、われわれが使用する「言葉」が一般辞書に掲載されるのは、長期間経過後にはじめて実現するのであり、上記甲各号証に示した辞典はそれぞれ専門書であり、その刊行までには長年にわたり収集蓄積された時間の経過を考えれば、ようやくその時点で初めて公にされたというものである。
ということは、これらの辞典に掲載されている全語はいずれも普通に使用されて来ている言葉であり、その発行時点において初めて生まれた言葉ではないのである。
(10)我が国における「テディベア美術館」について
伊豆急行線伊豆高原駅から約9分のところに「伊豆テディベア・ミュージアム」(静岡県伊東市八幡野)がある。このミュージアムは1995年4月に開館され今日に至っているが、関口芳弘同館長は次のようなメッセージを発表している(甲第5号証)。「テディベアがこの世に生まれて、100年以上の時が流れました。その間、多くの人々がテディベアを愛し、そのぬくもりを大切にしてきました。テディベアは、その存在を大切にする人にとって、悲しい時にはなぐさめの言葉を、うれしい時には微笑みを投げかけてくれる大切な友人です。私たちは、こうしたテディベアが届けてくれる暖かい心をより多くの方々に知っていただきたいという願いから、このミュージアムを開設しました。個性豊かなテディベアたちが、あなたの心の中に優しく語りかけ、幸せを運んでくれることを願っております。」
これを読んでもなお、被請求人は本件商標に係る「TeddyBear」の名称の使用を、当該指定商品について独占することは問題はないと反論するのだろうか。このミュージアムには、1000体のテディベアのぬいぐるみのコレクションが展示されているというから、世界中からの作品がここに集められていることになる。それほどに「TeddyBear」の名称は、そのぬいぐるみを介して需要者に周知著名となっており、広く公序良俗を構成している語といえるのである。
また、テディベアに関する美術館は各地に存在し、飛騨高山テディベアエコビレッジ(岐阜県高山市西之一色町)や蓼科テディベア美術館(長野県北佐久郡立科町白樺湖)は、いずれも多くの観光客を集めて有名である。
これらの美術館に陳列展示されているものは、すべて「テディベア」の名称がついているものであるところ、その名称が先にあってのぬいぐるみであり、ぬいぐるみが先にあっての「テディベア」の名称ではない。
(11)セオドア・ルーズベルト大統領の知的財産権について
「TEDDY BEAR」は、米国のセオドア・ルーズベルト大統領のニックネームであり、「TEDDY BEAR」は「ルーズベルトの小熊」として知られている。そもそも「TEDDY BEAR」がルーズベルト大統領のエピソードによって1902年に誕生していることは、多くの人が知るところであり、現在は、米国もとより全世界で「TEDDY BEAR」は米国第26代大統領セオドア・ルーズベルトの知的財産権として認められている。
「Teddy」は「セオドア・ルーズベルト大統領」のニックネームであり、現在でも、第二次大戦当時の有名な「フランクリン・ルーズベルト大統領」と区別するため、アメリカ人が「セオドア・ルーズベルト」を「Teddy」の愛称で呼ぶのが一般的な習慣となっている。「テディベア」のエピソードを伝える当時の新聞記事を提出する(甲第7号証)。
(12)正規の使用権者について
1907年、セオドア・ルーズベルト大統領の偉業を称えるために公益法人「セオドア・ルーズベルト協会」が設立された。請求人は、平成17年4月15日、同協会と契約して同協会の知的財産である「テディベア」商標の日本での使用権を得ている立場である(甲第8号証)。協会が請求人に与えた「委任状」(甲第9号証)及び請求人が協会から日本国内での「商標出願」を行うことを認められた書類(甲第10号証)を提出する。「セオドア・ルーズベルト協会」は米国国民の尊敬を集めた公的機関である(甲第11号証)。
セオドア・ルーズベルト大統領は日露戦争を仲裁した日本の大恩人であり、上記ルーズベルト協会では、日米の政財界からの強い要請もあって、2005年9月に「日露戦争終結100周年記念行事」を行った。米国では、2005年、ニューハンプシャー州のダートマス大学において日露講和条約調印100周年を記念する国際会議が開催された(甲第12号証)。
日本では、日本海海戦に関係した「東郷神社」で、5月28日に「100周年記念式典」が行われ、日本を代表する政財界の人々が参列した(甲第13号証)。
それらの行事の一環として、セオドア・ルーズベルト協会が2005年9月に行った「日露戦争終結100周年」を記念するための商品化をし、その収入を日米同事業の活動資金にしたいとの要請に従い、請求人がその事業を行ったところ、被請求人による商標権侵害の抗議等の妨害を受けその事業を中止せざるを得なくなっている。
また、同協会からの依頼により請求人が「ROOSEVELT TEDDY BEAR」の商標登録出願を行ったところ、本件商標等により類似商標として登録を拒まれている。
そのために、上記協会より「他人の著名名称を日本の会社が無断で商標登録し、かつ同事業の妨害を行った」と大変な非難を浴びた。
以上の事情があり、被請求人の不正な商標登録、その維持、そして事業の継続には反対している。
(13)被請求人の商標登録行為について
最近も「イナバウアー商標事件」の新聞報道がされたが、近年の「知財高等裁判所」設立以来、日本でも商標の「先願主義」の行き過ぎが否定されている。その商標が外国で如何に著名であるかが尊重されている。その点従来の日本にあった「先願主義」(早い者勝ち)の考えは時代に即さず、多くが否定されている。それらの類似事件として、a)イナバウアー、b)キューピー運送会社、c)くまのプーさん、d)赤毛のアン、e)ELLE、f)CHANEL、g)阪神優勝、h)キューピー食品会社が挙げられる(甲第14号証ないし甲第16号証)。
本件商標は、その最たるもので、被請求人は米国のセオドア・ルーズベルト大統領の著名性と信用性を悪用して金儲けを行う行為であり、アメリカ国内でも大変な非難を受けている。
請求人が本件商標を出願した当時「昭和60年」は今から22年前であり、その当時との商標権を含めた「各知的所有権」の認識は大きく進化しており、そのような傾向を踏まえての判断を期待したい。
(14)被請求人の不正使用について
(ア)被請求人等は「株式会社ドウシシャ」(以下「ドウシシャ」という。)に本件商標を使用させ、多額の使用料を受け取っている。それらは過去の審決取消審判(平成20年行(ケ)第10014号)の証拠として、被請求人が提出したものに裏付けられている(甲第17号証)。
被請求人は、ドウシシャが洋服・テキスタイル商品等の主力商品についての商標使用許諾を受けている「株式会社友企画」(以下「友企画」という。)に、本件商標についての専用使用権の設定をさせていることを見てもそれが分かる(甲第18号証)。
ドウシシャは、本件商標をあたかも前述の「セオドア・ルーズベルト協会」の「テディベアー」に関連があるように商品を販売している。それに対して何の支払いも行わず、いわゆる只乗りの状況である。
特に、それらの商品には、上記エピソードの「1902年」の年号が強調して表示されていることを見れば、その便乗ぶりが窺える。
日本の消費者は、決して「テディベアー」の商標に魅力があるのではなく、「セオドア・ルーズベルト協会」に関連する有名な「小熊」を評価して本件商標の関連商品を購入しているのである。
そうであれば、消費者を欺くものであり、また不正な取引を行っているといわざるを得ない(甲第19号証)。
(イ)友企画は、米国第26代大統領セオドア・ルーズベルトを記念して誕生し、世界的に有名な「TEDDY BEAR」を不正に使用させ多額な収益を上げている会社である。そもそも、同社は、元代表小川友久氏(現代表はその配偶者である)が勤務していた帝人株式会社を退職する時に本件商標をタダ同然で譲渡を受け、それを盾にドウシシャと組み「TEDDY BEAR」と関係があるように日本の消費者へ信じ込ませ、大金を得ている不正な会社である。
帝人株式会社は本件商標を自ら使用することは反社会的と判断し、被請求人に譲渡したと噂されている。
友企画の本社は、吉祥寺の住宅街にあり全く実態がなく単に本件商標をドウシシャに不正使用させ利益を上げているにすぎない。その実情を説明する為興信所の調査資料を提出する(甲第20号証)。
ドウシシャは、上記「TEDDY BEAR」を販売するにあたり、友企画と契約して本件商標の使用を独占的に得ている会社であり、両社は共同で「TEDDY BEAR商品」を販売し利益を上げている。
「株式会社雄鶏社」は、女性用手芸商品販売で日本を代表する会社であるが不正に「TEDDY BEAR」商標を登録し所有し、やはりドウシシャにそれを使用させ多額な収益を得ている会社である。その登録商標について、友企画に専用使用権を設定させ共同でドウシシャに協力している。
これら3社企業の商標活動は、不正なもので公正な競争秩序ないし公平の観念に反するものである。
(15)むすび
最後に指摘しておきたいことは、本件商標が7号に該当するとして登録無効となった場合、何人も「TeddyBear」の名称を商標として自由に使用できることから混乱が起こると考えることと、一私企業が独占排他の使用権を有していてよいとすることとは別の問題である。特許庁は、商標法の精神と保護要件を遵守する立場から、7号にいう公序良俗の法思想を考えることにより、需要者の利益を保護することに意を尽すべきである。
そして、何人でも当該名称を商標として自由に使用することによって市場の混乱が起るのであれば、その時は不正競争防止法などの他法による取締りを考えればよいのである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第17号証を提出している。
1 請求人適格について
本件審判は、当事者対立構造を採るものであって、請求に際しては、当然のことながら、請求人が利害関係を有することが必須の要件である。
しかしながら、請求人は、利害関係を有することを一切立証しておらず、補正することのできない事項のため、本件審判の請求は、請求の要件を具備せず、却下されるべきである。
2 本件商標について
本件商標の態様は、「TeddyBear」の欧文字を、ローマン体で左横書きしてなるもので、上記欧文字中、「T」と「B」が大文字で、その他の文字が小文字で表わされている。
かかる本件商標を構成する文字中「Teddy」の文字は、男性名である「Edward」「Theodore」の愛称を表わすものとして辞書に記載されるなど広く知られたもので、「Bear」の文字は、「熊」を表わす外来語として日常的に使用されているので、全体として「テディベア」の称呼のみが生ずるものである。
なお、前記「TeddyBear」の文字は、“近時の英語の辞書”には、「熊のぬいぐるみの一種を意味するもの」として記載されているので、本件商標からは「熊」のぬいぐるみの一種」という観念が生じることは、被請求人も敢えてこれを否定するものではない。
3 本件商標の採択理由について
被請求人株式会社雄鶏社は、昭和20年の会社設立後、今日に至るまで、婦人・一般向きの手芸・編み物・料理に関する実用図書の出版を主業務としているもので、日本人による手芸・編み物などの執筆本は勿論のこと、海外出版物の邦訳本も同様に取り扱っている。
被請求人は、1983年(昭和58年)12月に、米国で発売されていた「ぬいぐるみ」に関する本「Teddy Bear」の邦訳本を刊行し(乙第1号証)、ぬいぐるみを製作するための材料キットの通信販売を開始した。
上記邦訳本は、国内では殆ど知られていなかった「テディベア」について、その作り方を図解入りで説明したものであって、「テディベア」の魅力を普及させることを目的としたものである。
その普及手段の一つとして、被請求人は、前記邦訳本の出版と、物販を企画すると共に、他の商品についても、本件商標と同様に「TeddyBear」、「テディベア」について商標登録出願を行ったものである。
4 本件商標の普及の努力について
最初の出版物である「Teddy Bear」が、きわめて好評を博したこともあって、その後も購読者の要望に応えて、被請求人は、1984年12月から2003年1月の期間において「テディベア カタログ」、「テディベアとかくれんぼ」、「テディベアのワードローブ」、「TeddyBear Knits」、「子どもの好きなクマさんのセーター」、「テディベア、作ろう!」、「何でもかんでもテディベア」、「大好き!すぐできちゃうハートとテディベア」、「小さなテディベア」、「テディベアと仲間たち」、「アンティークテディベア」、「パターンブック」、「テディベアの時間」、「テディベア テディベア」、「メモリアル テディベアブック」、「贈りたいベア欲しいベア」、「利倉佳子のTEDDY BEAR LESSON」、「失敗しないテディベア作り」、「きっかけ本24 やさしくレッスン 小さなテディベア」、「テディベア ワールド」などの書籍(乙第2ないし第9号証)を次々に刊行し、国内における「テディベア」の普及に鋭意努力していたものである。
5 本件商標の使用状況について
本件商標は、1988年(昭和63年)2月28日から2002年(平成14年)5月31日までは株式会社エトワール海渡に、2002年(平成14年)6月10日から現在までは株式会社ドウシシャに、それぞれ通常使用権を許諾し、継続して本件商標を商品「トラベルケース、巾着、ポーチ」等について実際に使用し、今日に至っている。
本件商標は、1988年(昭和63年)から現在に至るまでの約20年の永きに亘って、前記商品等に使用している。
しかしながら、本件商標の使用について、日本国内はもとより、米国を始めとする諸外国のいかなる団体や個人からも、抗議を受けたことはなく、かつその使用の中止を求めるなどのクレームも一切なく、平穏に使用している。
6 「テディベア/Teddy Bear」について
「テディベア」とは、基本的に、「頭、両手、両足を動かすことのできる、毛足の長い熊のぬいぐるみ」のこと、を指称するものである。
上記熊のぬいぐるみの販売については、製作者が、熊との逸話を有する米国第26代大統領であるセオドア・ルーズベルト大統領の愛称(テディ)と、熊(ベア)を結合させた「テディベア」の名称を考え、ルーズベルト大統領に直接手紙を出し、その使用の了解を得たと伝えられているが、真偽のほどは検証のしようがない。
この「テディベア」の名称は、上記経緯から推測すると、ルーズベルト大統領が自ら命名したものではなく、上記特定の形態の「熊のぬいぐるみ」を販売しようとした者が、大統領の逸話に関連付けて「テディベア」の名称を採択し、使用し始めたにすぎず、許可を得るに際しては、特段の条件の付与されたとの話しも聞かず、爾後も、特定の人物や団体からも、何ら制約を受けていない。
このことは、日本以外でも、例えば、英国において、登録第2154048号「Teddybears」(乙第10号証)、登録第981489号「図/TEDDY BEAR」(乙第11号証)などが存在していることからも容易に首肯できるものである。
さらに、「テディベア」又は「Teddy Bear」の文字は、「熊のぬいぐるみ」以外の商品について、商品の品質などを表示するものではなく、自己と他人の商品を識別することのできる標章であるため、敢えて立証するまでもなく、我が国においては、本件商標をはじめ多数の登録商標が存在している。
このことは、例えば、樹木の一般名称として「桜」が存在し、商品「木」との関係では商標登録が認められないものの、「木」以外の他の商品との関係においては商標登録することは可能で、登録商標の存在によっては、何人も自由に使用できるものではないことと同様である。
してみれば、「テディベア」又は「Teddy Bear」を商品「熊のぬいぐるみ」以外の商品について商標登録を得ることについては、商標法上はもとより、法律上なんら問題はないものである。
7 「Teddy Bear」の出願時の周知性について
「Teddy Bear/テディベア」は、本件商標の登録時である1985年(昭和60年)8月29日時点においては、わが国においてはその存在は殆ど知られていなかったものである。
このことは、「新潮 現代国語辞典」(1985年11月10日発行)、「旺文社 国語辞典」(1986年10月20日発行)、「岩波 国語辞典」(1986年10月20日発行)、「最新カタカナ新語辞典」(1987年7月20日発行)、「ど忘れカタカナ語辞典」(1988年2月10日発行)、「カタカナ語辞典」(1989年5月2日発行)(乙第12号証ないし乙第17号証)などの日常的に使用されていた辞書にも、「テディベア」の項目自体がないことからも明らかである。
8 請求人の主張に対する反論
(1)「Teddy Bear」、「テディベア」は独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する普通名詞として用いられている、とする請求人の主張について
上記「Teddy Bear」、「テディベア」が、“今日”「熊のぬいぐるみの一種」を表わす普通名詞であることについては、敢えてこれを否定するものではない。
但し、先に述べたように、本件商標の出願時には、「Teddy Bear/テディベア」そのものが知られていなかったことを付記する。
(2)「teddy bear」、「テディベアー」の語の由来を考慮すると、ぬいぐるみと同一又は類似の商品のみならず、ぬいぐるみと強い関連性のある商品についてであっても、「teddy bear」、「テディベアー」という語を商標として登録し、それを特定の商標権者が独占することは、セオドア・ルーズベルトの有名なエピソード、又はテディベアの愛称を持つ小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図又は誰もが自己の商品に、その「テディベアー」等の名称を自由にしようできるという共通の認識を覆す意図がある、とする請求人の主張について
「ぬいぐるみと強い関連性のある商品」とは、一体どのような商品を指すのか、請求人は具体的に主張していないので、これについて反論することは不可能である。
もし、無効審判の対象となった、本件商標に係る指定商品「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」が該当すると主張するならば、具体的にその根拠を明確にすべきである。
(3)本件商標は、公正な競争秩序ないし公平の観念に反するものとして、7号に該当する登録無効事由が有する、とする請求人の主張について
請求人は、「『セオドア・ルーズベルトの有名なエピソード』又は『テディベアーの愛称をもつ、小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図』又は『誰もが、自己の商品に、その「テディベアー」等の名称を自由にしようできるという共通の認識を覆す意図』がある」と主張するが、何を根拠にかかる主張を展開するのか理解に苦しむ。
上記のうち、「テディベアの愛称をもつ、小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図」、「誰もが、自己の商品に、その「テディベアー」等の名称を自由にしようできるという共通の認識を覆す意図」については、被請求人は、明確にこれを否定する。
本件商標の登録出願時に「Teddy Bear」が、ある特定の法人又は個人の取り扱いにかかる商標として著名であったなどの事実が、少なくともわが国に存在したのであれば、請求人の主張は理解できるが、そのような事実は存在せず、その存在を立証する事実を、請求人はなんら立証していないので、立証の伴わない主張には理由がない。
そもそも、先に述べたように、本件商標の登録出願時に「テディベア」そのものが国内において殆ど知られていない以上、そのような共通の認識があったとは、到底考えられない。
(4)知財高裁の平成20年5月15日平成20(行ケ)10014号判決によって、本件商標は7号に背反して登録されたもので無効事由があることを示唆した説示をしている、とする請求人の主張について
請求人は、本件審判の請求の根拠として上記判決の理由の一部を引用しているが、既判力の及ぶ範囲は、主文に包含される判断のみ(民事訴訟法第114条第1項)であって、判決の理由として記載された内容については、何ら拘束力を有しない。
なお、上記判決では、本件商標に関し、「無効事由を構成する余地がある」と述べるに止まるにすぎない。
したがって、請求人が、この判決の理由を無効理由の根拠とするならば、請求人自身が、具体的に、本件商標の出願人(被請求人)が、出願当時において、テディベアに関し、セオドア・ルーズベルトの有名なエピソード又はテディベアの愛称を持つ小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図、誰もが自己の商品にその「テディベア」等の名称を自由に使用できるという共通の認識を覆す意図、を有していたことを具体的に立証すべきである。
(5)7号に規定する「公序良俗」とは、一国におけるその時代の社会通念にしたがって、商標を指定商品又は指定役務に独占的に使用することが社会公共の利益に反するかどうかによって、取引の実情を通じて判断されるべき相対的な概念で、また、特定の国又は国民を侮辱するような商標や国際信義に反するような商標も、この規定に該当するものと解されている、とする請求人の主張について
7号は、公序良俗に反する商標は登録しない、というものである。公序良俗に関する判断は、特段の事情が存在しない限りは、その時代(本件商標の出願時)に応じた社会通念に従って判断されるべきものである(東京高裁平成19年(行ケ)第10391号参照)。
しかるに、本件商標「TeddyBear」の文字自体は、公序良俗に反するものではなく、法律によって禁止された文字でもない。
また、「TeddyBear」そのものが、殆ど国内において知られていなかったので、被請求人が「TeddyBear」にフリーライドする必然性はなく、そもそもフリーライドの意思は、被請求人には全くなかったものである。
むしろ、先に述べたように、被請求人自身が「TeddyBear」の普及に努力していた状況を勘案すると、請求人の主張は、単なる憶測で無効理由を主張するにすぎず、一顧の価値すらないものである。
さらに、先にも述べたように、被請求人は、20年の永きに亘り、平穏に使用していたもので、その間、被請求人の本件商標の使用によって、少なくともアメリカ国民の感情が害されたとか、アメリカの国家利益が損なわれたなどとする抗議や非難は一切なく、国際信義に反する、との請求人の主張は、なんら立証を伴わないもので、理由がないと言わざるを得ない。
況や、本件商標「TeddyBear」の使用によって、我が国における商品流通社会の秩序を害したこともなく、仮に「TeddyBear」が、著名であったとしても、それは商標としての著名性ではなく、商品「熊のぬいぐるみの一種」を表わす名称(普通名称)としてのものにすぎず、7号に該当するおそれすらないものである。
9 甲第1号証ないし甲第3号証の証拠価値について
請求人の提出に係る甲第1号証ないし甲第3号証については、少なくとも1998年(平成10年)1月以降の出版に係るものである。
したがって、請求人の主張を裏付けするための根拠とはなりえず、全く証拠価値のないものである。
10 まとめ
以上述べたように、被請求人は、請求人の主張するような「テディベアー」及び「teddy bear」の名称を、何人も自由に使用できるという国民の共通認識を覆す意図は、出願当時はもとより、現在もその意思はない。
また、請求人が主張するように、本件商標の出願当初に、「テディベアー/teddybearの名称を、何人も自由に使用できるという国民の共通認識」そのものが存在しない以上、請求人の主張は理由がない。
また、いかなる観点から検証しても、国際信義に反する行為は、被請求人には一切見受けられない。
さらに、被請求人による本件商標の使用は、公正な競争秩序ないし公平の観念に反せず、請求人がかかる事実を立証する証拠を一切提出していない以上、この点においても、請求人の主張は理由がない。
よって、本件審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 請求人適格について
請求人が本件審判を請求する利害関係を有するか否かについて、当事者間に争いがあるので、まず、この点について検討する。
請求人は、本件商標と社会通念上同一といえる登録第1953147号商標について商標法第50条第1項の規定に基づく商標登録の取消審判を請求し、さらに当該審判の審決の取消訴訟を提起したところ、当該訴訟の判決において上記登録商標の登録に無効事由を構成する余地がある旨示唆されたことが明らかである(甲第4号証)。
したがって、請求人は、本件商標についてその登録の無効を求めることには理由があり、本件審判の請求をする利害関係を有するものというべきである。
そこで、以下、本案に入って審理する。
2 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)本件審判は、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして同法第46条第1項第1号の規定に基づき本件商標の登録の無効を求めるものであるところ、7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するような場合、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるものというべきである。
そして、当該商標登録が特定の国との国際信義に反するかどうかは、当該商標の文字・図形等の構成、指定商品又は指定役務の内容、当該商標の対象とされたものがその国において有する意義や重要性、我が国とその国の関係、当該商標の登録を認めた場合にその国に及ぶ影響、当該商標登録を認めることについての我が国の公益、国際的に認められた一般原則や商慣習等を考慮して判断すべきである(知的財産高裁、平成17年(行ケ)第10349号、平成18年9月20日判決参照)。
また、上記判断は、行政処分(商標登録の許否が一の行政処分であることはいうまでもない。)の本来的性格にかんがみ、一般の行政処分の場合におけると同じく、特別の規定の存しない限り、行政処分時、すなわち査定時又は審決時(査定不服の審判)を基準とすべきものと解される(東京高裁、昭和45年(行ケ)第5号、昭和46年9月9日判決参照)。このことは、商標法第4条第3項において同条第1項第8、第10、第15、第17及び第19号については出願時をも基準とすべき例外規定をおいていることからも首肯し得るものである。
なお、同法第46条第1項第5号において、商標登録後に当該商標登録が同法第4条第1項第1ないし第3、第5、第7又は第16号に該当するものとなっている場合には商標登録の無効の審判を請求することができる旨規定しているが、本件は、上記のとおり、同法第46条第1項第1号の規定に基づく審判の請求である。
以上を前提として、以下、本件商標が7号に該当するものであるか否かについて検討する。
(2)「テディベアー」及び「teddy bear」の語について
(ア)請求人及び被請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(a)研究社(2001年4月)発行「英米児童文学辞典」の「teddy bear」の項には、「テディ・ベア(クマのぬぐるみ).この名はアメリカ大統領シオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt,1858-1919)が狩猟中にクマの子を見つけ、これを見逃してやったエピソードが1902年11月の『ワシントン・イヴニング』(The Washington Evening)紙の漫画に載ったことから生まれた.子ども向けの本で最も有名なテディ・ベアは『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh)で、この場合はエドワード・ベアの愛称.・・・」と記載されている(甲第1号証)。
(b)大修館書店(1999年4月1日改訂版6版)発行「ジーニアス英和辞典《改訂版》2色刷」の「Teddy」の項には、「《愛称》テディー(→Theodore).?bear[しばしばt?](縫いぐるみの)クマの人形《◆米国の第26代大統領Theodre Roosevelt(《愛称》Tdeddy)が猟で子グマを助けた漫画から;英米の子供はたいていこの種のものを1つは持っている》.」と記載されている(甲第2号証)。
(c)小学館(1998年1月10日第2版第6刷)発行「小学館ランダムハウス英和大辞典」の「teddy bear」の項には、「1縫いぐるみのクマ.・・・⇒BEAR^(2)10.[1907.米;Theodre Rooseveltの別称Teddyにちなむ;狩猟中、彼は子グマの命を助けてやったといわれることから]」と記載されている(甲第3号証)。
(d)新潮社(昭和60年11月10日第1版第1刷)発行「新潮現代国語辞典」、旺文社(1986年10月20日改訂新版)発行「旺文社国語辞典」、岩波書店(1986年10月8日第4版第1刷)発行「岩波国語辞典第4版」、学習研究社(1987年7月20日)発行「マスコミに強くなるカタカナ新語辞典」、教育図書(昭和63年2月10日4版)発行「ど忘れカタカナ語辞典」、有紀書房(1989年5月2日)発行「国際社会に役立つ最新カタカナ語辞典」のいずれにも「テディベアー」又は「テディベア」の項目はない(乙第12号証ないし乙第17号証)。
(e)被請求人の発行に係る以下の書籍には、テディベアー及びその制作方法等について写真、図解等と共に紹介されている(乙第1号証ないし乙第9号証)。
・「MAKING YOUR OWN Teddy Bear ONDORI テディベア」(昭和59年1月15日初版、昭和59年5月30日再版発行)
・「テディベアカタログ」(昭和60年1月10日発行)
・「ONDORIテディベアとかくれんぼ」(発行日不明)
・TeddyBearKnits by Mo Smith 子どもの好きなクマさんのセーター」(1988年11月20日発行)
・「Miniature Bears 小さなテディベア」(平成7年3月30日初版 平成12年5月30日2版発行)
・「Teddy Bears テディベアと仲間たち」(平成8年5月10日初版 平成8年11月30日2版発行)
・「Creating Heirloom Teddy Bears アンティークテディベア パターンブック」(1996年12月20日発行)
・「TEDDY BEAR'S TIME テディベアの時間」(1998年2月10日発行)
・「TEDDY BEAR TEDDY BEAR テディベアテディベア」(2000年4月10日発行)
(f)「1902年11月にニューヨーク・タイムズ紙で紹介それが『TEDDY BEAR』のはじまりです」との表題が付された書面(請求人の説明によれば新聞記事)には、「テディベアの歴史」(翻訳文)として、「1902年11月、セオドア・ルーズベルト元大統領は友人達とミシシッピーに狩猟に出かけました。数時間も歩き回りましたが、野生動物にはなかなか遭遇しません。ついに、一行は一匹の子熊を追い詰め、取り囲みました。ガイドの一人が、ルーズベルト大統領にその熊を撃つように促しましたが、彼はそれを拒否しました。このエピソードがルーズベルト元大統領の優しい行為として国中に広まりました。それからまもなくして、有名な風刺漫画家であるクリフォード・K・ベリーマンが、ルーズベルト大統領の熊を救ったエピソードを元に漫画にし、それを見たある店の主人が自分の店で熊のぬいぐるみを作って販売する事を思いつきました。彼は自分の店で販売するぬいぐるみに『テディベア』という名前を使わせてくれるようルーズベルト大統領に許可を求めました。現在この熊のぬいぐるみは『テディベア』として知られていますが、これがルーズベルト大統領の愛称、『テディ・ルーズベルト』にちなんで付けられた名前であることはあまり知られていません。」と記載されている(甲第7号証)。
(イ)以上の認定事実によれば、「teddy bear」の語は、米国第26代大統領セオドア・ルーズベルトが1902年に狩猟中に一匹の子熊を追い詰めたが撃たずに助けたというエピソードに由来する語であり、英米では「独特の形をした小熊のぬいぐるみ」を意味する語として知られているものといえる。そして、「teddy bear」のカタカナ表記である「テディベアー」の語は、現在においては、我が国においても「独特の形をした小熊のぬいぐるみ」を意味する語として知られているといえるものの、上記ルーズベルト元大統領のエピソードについてはそれ程知られていないというべきである。
しかも、本件商標の登録出願時及び登録査定時の前後に我が国において出版された国語辞典等には「テディベアー」についての項目がなく、本件商標の査定時においては「テディベアー」の語自体についてさえ我が国ではそれ程知られていなかったものと推認され、むしろ、「テディベアー」の存在については被請求人の上記書籍による紹介等を通じて我が国にも徐々に知られるようになったとみるべきである。まして、上記ルーズベルト元大統領のエピソードが一般に広く知られていたものとはいい難い。
仮に、「テディベアー」の語が「独特の形をした小熊のぬいぐるみ」を意味する語として認識されていたとしても、これを自己の商品について自由に使用できるのはせいぜい商品としての「ぬいぐるみ」についてであって、それ以外の商品については自他商品を識別する商標として誰でも選択・使用することができる状態にあったというべきである。
(ウ)また、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、上記ルーズベルト元大統領のエピソードに由来する「独特の形をした小熊のぬいぐるみ」が「teddy bear」として、例えば、米国を象徴する存在となっているとか、米国民の重要な文化的資産として認識されているとか、米国民共通の財産として公的機関によって指定ないしは保護されているとか、特定の個人がその名称を使用することが米国政府によって制限されているとか、その名称使用に対し米国政府から抗議を受けたり、米国の国民感情を害したとか、我が国と米英との関係が悪化したというような事実を示す証左はない。
(エ)請求人は、平成20年11月18日提出の弁駁書において、「テディベア」は米国第26代大統領セオドア・ルーズベルトの知的財産権であり、公益法人「セオドア・ルーズベルト協会」から「テディベア」商標の日本での使用権を得ている旨主張し、証拠を提出しているが、上記ルーズベルト元大統領の知的財産権であるとの主張は、当初請求人が主張していた「テディベアーの名称は誰でもが自己の商品に自由に使用できるという共通の認識を有する状態になっていた」ことと矛盾するものであり、直ちにその主張を採用することはできない。
しかも、提出された証拠(甲第8号証ないし甲第13号証)は、本件商標の登録出願後20年以上も経過した時点でのものであり、本件商標の登録出願時及び登録査定時における事情を立証するものとはいえない。
なお、上記セオドア・ルーズベルト協会から我が国が非難、抗議を受けたような事実を示す証左はない。
(オ)請求人は、ぬいぐるみと同一又は類似の商品のみならず、ぬいぐるみと強い関連性のある商品についても「teddy bear」、「テディベアー」の語を商標として登録することは、上記ルーズベルト元大統領のエピソード又はテディベアーの愛称をもつ小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図、又は誰でもが自己の商品に「テデイベアー」の名称を自由に使用できるという共通の認識を覆す意図がある旨主張するが、前示のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、上記エピソードは知られていたとは認められないし、「テディベアー」の語自体それ程知られていたとはいえない以上、その人気や著名性に便乗する意図等があったものとはいえない。
(3)請求人は、平成20年11月18日及び同月19日提出の弁駁書において、被請求人は本件商標を使用許諾し使用権者に不正使用させている旨主張し、証拠(甲第17号証ないし甲第20号証)を提出しているが、提出に係る証拠を精査しても、使用権者による本件商標の使用が直ちに不正なものと認めることはできないし、もともと、これらの証拠は本件商標の登録出願及び登録査定当時の事情を立証するものではない。
また、請求人は、近年は日本における商標の先願主義の行き過ぎが否定されており、従来の早い者勝ちの考え方は時代に即さず否定されている旨主張し、証拠(甲第14号証ないし甲第16号証)を提出しているが、該証拠において示された事件は、本件とは商標が異なるばかりでなく、商標の周知著名性、商標の採択・使用の事情等が本件とは異なるものであり、同列に論ずることはできないものである。
(4)他方、本件商標は、上記第1のとおり、「TeddyBear」の文字からなるところ、「TeddyBear」の文字自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないことは明らかであるし、他の法律等によってその使用が禁止されているものでもない。
そして、上記(2)の事情からすれば、本件商標が米国若しくは米国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものとは認められないばかりでなく、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないということもできない。
したがって、本件商標は、公正な競争秩序又は公平の観念に反するものではなく、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とは認められない。
(5)請求人は、知的財産高裁平成20年(行ケ)第10014号判決を根拠にして本件商標が7号違背で登録されたものであるが如き主張を行っているが、同判決は、その理由中において登録第1953147号商標には商標登録の無効事由を構成する余地があると指摘するに止まるものであるし、もとより、同判決は、商標登録の無効審判である本件とは異なり、商標法第50条第1項の規定に基づく商標登録の取消審判の審決取消訴訟に係るものであって、商標登録の無効事由について詳細に検討したものではなく、その既判力ないしは拘束力が本件に及ぶものではない。すなわち、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理又は審決には、同法第33条第1項の規定により、同取消判決の拘束力が及び、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものである(東京高裁、平成12年(行ケ)第413号、平14.6.19判決参照)。しかるに、本件審判は、無効審判の審決取消訴訟に係る取消判決による再度の審判でもなく、上記商標登録の取消審判とは別個のものであり、上記平成20年(行ケ)第10014号判決が本件の審理判断に影響を及ぼすものではない。
(6)なお、請求人は、平成21年1月15日付け差出しの上申書において甲第21号証を提出し、中国での日本の地名の商標登録問題を取り上げ、「テディベア」がアメリカ第25代大統領「セオドア・ルーズベルト」を記念した名称として著名であることを理由に本件商標を登録することは、中国の特許庁の判断と同様であり好ましくない旨述べているが、中国での当該商標登録問題と本件とは何ら関係を有するものでないこと明らかであるから、当審の判断に影響を及ぼすものではない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定によりその登録を無効にすべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2009-01-28 
結審通知日 2009-02-02 
審決日 2009-02-16 
出願番号 商願昭58-59950 
審決分類 T 1 12・ 22- Y (118)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 林 二郎
特許庁審判官 杉山 和江
小畑 恵一
登録日 1985-08-29 
登録番号 商標登録第1797770号(T1797770) 
商標の称呼 テディーベア 
代理人 齋藤 理絵 
代理人 幸田 全弘 

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