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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z25
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z25
管理番号 1195545 
審判番号 無効2006-89159 
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-13 
確定日 2009-04-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第4332094号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4332094号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4332094号商標(以下「本件商標」という。)は、平成10年4月1日に登録出願され、別掲(1)のとおりの構成よりなり、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,ベルト」を指定商品として、同11年11月5日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録商標は、以下のとおりである。
(1)商標登録第125853号(引用商標1)は、「CAMEL」の欧文字を横書きしてなり、第48類「煙草及紙巻煙草」を指定商品として、大正9年3月18日登録出願、同10年2月23日の設定登録され、その後、5回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、平成12年8月30日に指定商品を第34類「たばこ」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(2)商標登録第193386号(引用商標2)は、別掲(2)のとおりの構成よりなり、第48類「紙巻煙草、葉巻煙草、嗅煙草、其ノ他各種ノ煙草」を指定商品として、大正15年12月23日登録出願、昭和2年9月22日に設定登録され、その後、5回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、平成19年6月27日に指定商品を第34類「たばこ」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(3)商標登録第1895814号(引用商標3)は、別掲(3)のとおりの構成よりなり、第27類「たばこ、喫煙用具、マッチ」を指定商品として昭和57年9月28日登録出願、同61年9月29日に設定登録され、その後、2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、平成18年11月8日に指定商品を第14類「貴金属製喫煙用具」及び第34類「たばこ,喫煙用具(金属製のものを除く。),マッチ」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(4)商標登録第1895815号(引用商標4)は、別掲(4)のとおりの構成よりなり、第27類「たばこ、喫煙用具、マッチ」を指定商品として昭和57年9月28日登録出願、同61年9月29日に設定登録され、その後、2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、平成18年11月8日に指定商品を第14類「貴金属製喫煙用具」及び第34類「たばこ,喫煙用具(金属製のものを除く。),マッチ」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(5)商標登録第2647243号(引用商標5)は、別掲(5)のとおりの構成よりなり、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として昭和61年9月25日登録出願、平成6年4月28日に設定登録され、その後、同16年4月13日に商標権の存続期間の更新登録がされ、平成17年1月5日に指定商品を第25類「被服」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(6)商標登録第4002212号(引用商標6)は、別掲(6)のとおりの構成よりなり、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品として平成6年5月25日登録出願、同9年5月23日に設定登録されたものである。
(7)商標登録第4010427号(引用商標7)は、別掲(7)のとおりの構成よりなり、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品として平成6年5月25日登録出願、同9年6月13日に設定登録されたものである。
(8)商標登録第4002213号(引用商標8)は、別掲(8)のとおりの構成よりなり、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品として平成6年5月25日登録出願、同9年5月23日に設定登録されたものである。
(9)商標登録第2378499号(引用商標9)は、別掲(9)のとおりの構成よりなり、第21類「装身具、ボタン類、家宝およびその模造品、造花、化粧用具(ただし洗面用具入れを除く)」を指定商品として、昭和61年8月1日登録出願、平成4年2月28日に設定登録され、その後、同14年3月12日に商標権の存続期間の更新登録がされ、平成15年4月2日に指定商品を第6類「金属製のバックル」、第14類「身飾品,貴金属製コンパクト,宝玉及びその模造品」及び第26類「ボタン類,衣服用き章(貴金属製のものを除く。),衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。),衣服用バックル,衣服用ブローチ,帯留,ボンネットピン(貴金属製のものを除く。),ワッペン,腕章,腕止め,頭飾品」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(10)商標登録第3264403号(引用商標10)は、別掲(10)のとおりの構成よりなり、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品として平成6年5月25日登録出願、同9年2月24日に設定登録され、その後、同19年3月6日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
(11)登録商標ではないが請求人の引用する別掲(11)の商標(引用商標11)は、「らくだ標章」及び欧文字「CAMEL」からなり、遅くとも1987年代から現在に至るまで、我が国及び海外において数多くの商品に使用されたとするものである。
(以下、これらをまとめていうときは、「各引用商標」という。)

第3 請求人の主張の要旨
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び弁駁の理由を次のように述べ証拠方法として、甲第1号証ないし甲第53号証(枝番を含む)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第19号の規定に該当するものとして、同第46条第1項の規定によって、その登録を無効とすべきものである。以下、その理由を詳述する。
(1)請求人について
請求人の一人である「日本たばこ産業株式会社」(以下、「JT」という。)は、平成11(1999)年に、米国の巨大企業グループであるアール・ジェイ・アール・ナビスコ・ホールディングス・コーポレーション(「RJR Nabisco Holdings Corp.以下、「RJR」という。)の米国以外の海外たばこ事業を約9400億円で買収し、これに伴い引用商標1ないし4の商標権者となった者である(甲第12号証、甲第13号証の1ないし8、甲第14号証、甲第15号証)。かかるたばこ事業には、引用商標1ないし4に係る事業が含まれる。
また、請求人の一人である「ワールドワイド・ブランズ・インク」(以下、「WBI」という)は、JTの関連会社であり、引用商標5ないし10の商標権者である。
したがって、いずれの請求人も、引用商標1ないし10及び、これらに関する使用商標(引用商標11を含む)に関して、出所の混同が生じるおそれのある他人の使用、及び、その高い識別力の毀損、希釈化を及ぼすおそれのある他人の使用等を排除することにつき利害関係を有する者である。
(2)周知著名性について
A.商品「たばこ」分野における周知著名性
RJRの歴史は、1875年の工場創立にまで遡ることができる。その約40年後の1913年、世界初のブレンデッドシガレットが開発され、その原料の一つであるトルコ葉のイメージと当時流行していた異国趣味に影響を受け、ブランド名は「CAMEL(キャメル)」に決定された(以下、「CAMEL(キャメル)」名の下で製造・販売又は提供等される商品又は役務を「キャメル」ブランドという)。また、たばこの包装箱は、甲第16号証、甲第17号証の1、甲第22号証)に表されたように、実物のらくだを観察して図案化した「らくだ図形」が使用されることになった。かかる「らくだ図形」の選択は、らくだのモデルを探すことで四苦八苦した事実(甲第16号証、第22号証)に象徴されるように、1910年代当時としては独創的なことであった。
それ以来、英文字「CAMEL」とともに、かかる「らくだ図形」がたばこの包装箱に継続して使用され、販売・宣伝広告等が行われたため、「キャメル」ブランドは需要者の記憶に定着し愛着を持たれて今日に至っており、1958年のパッケージ変更計画がアメリカ中のファンからの猛烈な反対により中止されたという事例はその象徴的なものといえる(甲第16号証、第17号証の1、甲第22号証)。
また我が国においても、昭和3(1928)年より今日まで、英文字「CAMEL」とともに、かかる「らくだ図形」がたばこの包装箱に継続して使用され、販売・宣伝広告等が行われてきた(甲第18号証ないし甲第23号証)。たばこの包装箱に使用された「らくだ図形」及びそのシルエットからなる「らくだ図形」を総称して以下「らくだ標章」という。
その後、請求人の一人である JTが、RJRの米国以外の海外たばこ事業を約9400億円で買収した平成11(1999)年には、キャメル「ブランド」に係るたばこ出荷本数は世界第3位であり、たばこ市場において「世界五大ブランド」の一つに数えられるようになっている(甲第13号証の5及び6)。
以上のことから、「キャメル」ブランドに使用される英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」は、本件商標の出願日たる平成10年4月1日において、商品「たばこ」分野において揺るぎない高い周知性を獲得し、その周知性は本件商標の登録日である平成11年11月5日から現在に至るまで保持されていることは明らかであり、このことは甲第39号証の1及び2における特許庁又は裁判所の判断を参酌すれば顕著な事実であると考える。
B.商品「被服」等分野における周知著名性
「キャメル」ブランドは、1987年から1993年までF1グランプリ(以下「F1」という )のチームスポンサーであり、また、2003年から現在に至るまでオートバイレースの世界最高峰「MotoGP世界選手権」(以下「MotoGP」という)のチームスポンサーであるため、それらのチームのF1カー並びにオートバイの車体、及び、レーサー並びにメンバーのユニフォーム等には一貫して、英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」が表されてきた。(甲第24号証ないし甲第33号証)
また、甲第34号証で表されたように、F1関連商品として英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」が使用された「被服」(「帽子」含む)、タオル、バッグ、旗等がWBIによって1990年から1993年までF1専門店で販売されていた。なお、これらの商品は、現在においても、インターネット上のヤフーオークション等のオンラインショップや、過去のF1レースに関する記事やブログ等に掲載され、容易に一般の「被服」等分野の需要者、取引者が目にすることができる。
また、1980年に「キャメル」ブランドの販促イベントとして開始された「キャメル・トロフィー(CAMEL・TROPHY)」は、2000年まで、毎年1回開催され、世界的に著名なオフロード・イベントに成長した(甲第35号証の1及び2)。そして甲第35号証の1に表されたように、英文字「CAMEL」は、参加者達の服装等に使用され、「キャメル・トロフィー」を紹介する写真・映像等を通して、その視聴者・購読者等の記憶に残るものとなった。さらに、英文字「CAMEL」及び英文字「TROPHY」からなる商標が使用された「被服」や「かばん類」等が甲第35号証の1に表されたように販売等された。引用商標5は、商品「被服」に使用されたこれらの商標を保護するために登録されたものである。
さらに、甲第39号証の1及び2において特許庁及び裁判所は、英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」が、衣類、帽子、かさ並びにクッション、キーホルダー、ライター、タオル、ステッカー、ワッペン、旗及び折り畳み椅子等の家庭用雑貨などの各種商品に付されて販売され、常時幅広く使用されていた事実と、上記通年的に報道されるF1グランプリにおいて顕著な態様により英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」が使用されていた事実を考慮して、英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」は、単に「たばこ」についてだけでなく、「かばん類、財布類」の分野においても周知著名なものであったと認めている。さすれば、同様に使用されていた衣類、帽子等本件商標に係る第25類に属する商品においても、英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」は周知著名であるということがいえる。
以上のことから、これらの使用に係る英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」は、本件商標の出願日たる平成10年4月1日において、第25類に属する「被服」等分野においても周知性を獲得し、その周知性は本件商標の登録日である平成11年11月5日から現在に至るまで保持されていることは明らかである。
(3)本件商標と「らくだ標章」の類似について
本件商標と引用商標2、4、7、9ないし11を構成する「らくだ標章」は、動物をかたどった黒塗りの図形よりなるものであり、背中のこぶ、長い四肢、長い首等、動物の「らくだ」の特徴を捉えて描いてなるものであるから、取引者・需要者が、これらをいずれも「ラクダ」と称呼・観念して取引にあたる場合は決して少なくなく、称呼、観念において共通するものといえる。また、外観について、その図形部分を検討するに、らくだの様子は種々表現することが可能であるにもかかわらず、こぶが一つであり、後ろ足を揃え前足の片方を一歩前に出している状態であること、顔はまっすぐ前を向いた状態であることなどその基本的部分が共通しており、本件商標と引用商標2、4、7、9ないし11を構成する「らくだ標章」とは構成における軌を一にするものというべきである。
この点、左右の向きが異なり、本件商標のらくだの方が多少ふくよかである等の差異を有するため、外観上類似しないとの反論もあり得ようが、第25類に属する「被服」等の取引業界において、図形商標をワンポイントマークとして使用することが普通に行われていること、それらはかなり小さな表示形態となること、及び、これには刺繍をもってする場合もあることは、取引における一般的実情というべきものであり、らくだのふくよかさにおいて相違するから類似しないとすると、取引実情と相容れない結果をもたらし不当であると言わざるを得ない。
また、上記のように全体から受ける視覚的印象が似通ったものである点からすれば、左右向きの差異は一層、曖昧なものとなり、時と処を異にして離隔的に接する場合は、必ずしも常に図形の細部まで正確に記憶されているとはいえないのが通常であり、これらの構成上の差異は、本件商標と引用商標2、4、7、9ないし11を構成する「らくだ標章」の構成全体から受ける共通した印象からすれば、微差の範囲にとどまるものである。
同旨の判断は、過去の審決例(甲第40号証の1ないし甲第40号証の11)においても複数なされている。
以上により、本件商標と引用商標2、4、7、9ないし11を構成する「らくだ標章」とは、称呼、観念及び外観上類似するものであることは明らかである。
(4)本件商標権者の不正の目的について
株式会社エクサムは過去に、商標aないしe(甲第39号証の1及び3)を使用した商品を大手を含む多数のディス力ウントストアで販売等しており、「キャメル」ブランドの権利者側は、引用商標11と同一の商標を引用して、商標aないしeに係る登録商標に対して、商標法第53条第1項の商標登録の取消審判を請求し、以下のように主張した(甲第39号証の1及び2)。
「ここで強調すべきことは、エクサムの商品は、いずれも、これらのディスカウントストアにおいて「キャメル」の名の下に、いわゆる「有名ブランド商品」らしき外観を装って販売されていたものである。たとえばDマートにおいては、「ブランドバーゲン」の名のもと、グッチ、セリーヌ、ハンティングワールド、ロベルタ、ダンヒル、カルチェ、MCM等々世界の名立たる有名ブランドと同列に並ぶ形で、「キャメル」ブランドでの広告が大々的に行なわれていた。また、関西にある、ブランド品のディスカウントストア「還元屋」の広告でも、エクサムの商品が「キャメル」の名の下に、MCM、プリマ・クラッセ、プラダ、ルイ・ヴィトン、セリーヌ等々の世界の有名ブランドと同等に並ぶ形で扱われている。しかしながら、エクサムは、いずれも世界に名立たる有名ブランドとはほど遠い、日本の中小企業に過ぎない。また、エクサムの商標aないしeが、世界に名立たる有名ブランドに匹敵する有名ブランドとして我国において著名であるとは、到底認め難い。我国において、世界的に著名なのは、上記のとおり、あくまで請求人の商標なのである。上記のように、エクサムの商品が世界の有名ブランド商品と同列に並べられ、まるで有名ブランド商品のごとく販売できたのは、この意味では、本件では、需要者・取引者の間で、実際に商品の混同が生じていたといいうるものである。」
かかる主張が認められ、商標法第53条に基づく商標登録の取消しが認められている。それにもかかわらず、株式会社エクサムは、甲第39号証の1ないし2に係る商標aないしeの「らくだ標章」と構成における軌を一にする「らくだ標章」(甲第39号証の3)を、本件商標として採択し、さらに「らくだ標章」とともに、「キャメル」ブランドが1913年当時から一貫して取り入れている異国趣味を想起させる英文字「INCA」と、英文字「CAMEL」を結合させた商標を使用し、さらに本件商標として商標権まで得ている。かかる態様は、英文字「INCA」を上段に、英文字「CAMEL」を下段に書してなるものであり、英文字「CAMEL」が容易に抽出し得る態様であると認められる。
以上の事情から、本件商標の出願は、「キャメル」ブランド及びこれを構成する英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」の顧客吸引力への只乗り行為により「不正の利益を得る目的」等の「不正の目的」があったと推認せざるを得ない。
なお、株式会社エクサムの「不正の目的」の意図は、甲第41号証によっても推認できる。
(5)商標法第4条第1項第15号について
引用商標1ないし3、5ないし9及び11は、英文字「CAMEL」の文字を要部(又は要部の一つ)とし、他方、本件商標からも英文字「CAMEL」を容易に看取できるため、本件商標も英文字「CAMEL」を要部の一つとすると認めることができる。また、引用商標2、4、7及び9ないし11は「らくだ標章」を要部(又は要部の一つ)とし、他方、本件商標も「らくだ標章」を要部の一つとすることが認められ、本件商標と引用商標2、4、7及び9ないし11の「らくだ標章」は、上記のように外観、称呼、観念において類似するものである。そうすると、要部において共通ずる本件商標と各引用商標は、全体としても外観、称呼及び観念上類似する商標であるといえる。
さらに、上記のように、引用商標1ないし11を構成する英文字「CAMEL」又は「らくだ標章」は、本件商標の出願日までに、第34類に属する「たばこ」分野のみならず、第25類に属する「被服」等分野においても高い周知性を獲得しているものであり、さらに本件商標の登録日及び現在までその周知性を保持し続けているものである。
そうすると、本件商標を、第25類の指定商品に使用すると、需要者、取引者は、請求人若しくはこれと組織的、経済的に何らかの開係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであり、かつ、上記のように、本件商標は「不正の目的」で商標登録を受けた場合に該当することは明らかであるため、商標法第47条第1項に規定するいわゆる除斥期間の適用はないとするのが相当である。
よって同法第46条第1項の規定により無効とすべきものである。
(6)商標法第4条第1項第19号について
上記のように、本件商標と各引用商標は、全体として外観、称呼及び観念上類似するものであり、かつ、本件商標の出願日までに、我が国又は外国における需要者の間で高い周知性を獲得し、本件商標の登録日及び現在までその周知性を保持し続けているものであり、また、本件商標は、不正の目的をもって使用することを意図して出願されたことは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により無効とすべきものである。
(7)むすび
前記したとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号又は同第19号に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項の規定により無効とすべきものである。
2 弁駁の理由の要旨
被請求人が平成19年1月15日付けで提出した答弁書に対して、請求人は以下のとおり弁駁する。
(1)登録拒絶の理由と営業の自由
(1ー1)被請求人は、あたかも零細企業の多い業界であるから、標章の選択についても自由度が高いとでもいいたいかのごとくである。しかし、人類の生活に欠かすことのできない、即ち幅広く一般消費者をターゲットとしている商品分野であるからこそ、識別標識が適切に機能することが必要なのである。また、零細企業であるからといって、他人の著名商標や周知商標はもとより、第三者の商標権にかかる禁止権の範囲で標章を使用してよいなどということもあり得ない。被請求人は、答弁書において、再三自らが『零細企業』であると述べているが、本件無効事件において、被請求人が『零細企業』であることにより免責される法的根拠は何等存在しない。
(1-2)続けて、被請求人はラクダのシルエット図形が既に特許庁により認められている旨述べている。被請求人は、これを証するものとして、商標登録第4720285号に対して本件審判の請求人の一人であるワールドワイド・ブランズ・インク社が申し立てた異議に対する決定謄本の写しを乙1号証としている。しかし、請求人は前記商標登録に対しても本件審判の登録と同日付けで既に無効審判を請求している。したがって、商標登録第4720285号の存在を理由として、ラクダのシルエット図形が特許庁より認められているというのは明らかに失当であり、結局本項において被請求人は本無効審判における根拠ある反論を何等行っていない。
(1-3)さらに、被請求人は、「問題とされる標章が外観・称呼・観念において同一または類似しない場合、商品の出所の混同を理由に登録拒絶することが、その査定により万人に認められる営業の自由を狭めることにならぬよう慎重でなければならない」とし、「周知著名商標との類似問題を先入観に基づく商標の不正目的の有無と混同しないようにして判断しなければならない」との一般論を述べている。この一般論自体は妥当としても、これが不正目的の存在する蓋然性が高い場合にまで、商品の出所混同を理由に登録拒絶を禁じているものではないことは明白である。
(2)出所の混同の存在
(2-1)理由1において、被請求人は、「ラクダ」が普通名詞であることや「インカ」という言葉の由来について延々と述べている。後述するとおり、普通名詞に由来する標章であることが出所混同の不存在を示すものではなく、「ラクダ」や「インカ」の由来が「CAMEL」商標の著名性につき何等影響するものではないため、ここでの被請求人の商標法の本質に対する誤解に立脚した冗長な説明については反論しない。
(2-2)商標法第3条第1項第1号において識別力がないとされるのは「その商品又は役務の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(いわゆる「普通名称」の商標)であって、「普通名詞」の商標ではない。被請求人はしきりに「造語」や「普通名詞」という単語を繰り返すが、「CAMEL」、「ラクダ」、又は「ラクダの図形」が「普通名称」とされるのはラクダの生体やラクダの生体に関連する商品に使用する場合に限られる。
商標法は特許法や意匠法等のいわゆる創作法ではなく、その第1条に記載されている通り、商標を保護することにより商標を使用する者の業務上の信用を維持し、取引秩序を守るためのいわゆる標識法である。そこにおいて、著名商標として保護されるかどうかを検討するにあたり考慮されるべきは、どれほど独創的な標章が考案されたかではなく、その長年の使用・広告等の行為によりその標章に化体した信用、いわゆるグッドウィルがどれほど蓄積されているかである。
(2-3)被請求人の述べるとおり、著名商標であってもその特定商品(本件ではタバコ)以外では何人もその商標(本件ではCAMEL)という標章・称呼を使えるとすれば、それはそもそも商標法においては専用権のみしか保護されないという結論にも等しく明らかに失当である。また、仮に専用権および禁止権のみしか保護されないという趣旨だとしても、商標法が不登録事由につき第4条第1項第10号、同第15号、同第19号等を認めていることと明らかに矛盾するものである。
被請求人は請求人がその著名性を濫用しているかのような誤った主張を巧みに繰り返しているが、請求人はその審判請求書において関連性の無い商品分野についてまでその周知性・著名性が及ぶとは一言も述べていない。請求人は、同請求書の第15項から第16項において述べているように「CAMEL」及び「らくだ標章」の長年の使用によって築き挙げられ蓄積されたイメージと関連の強いファッション系の商品分野については周知・著名性が及ぶと申し立てているにすぎない。
(2-4)また、被請求人はひよ子菓子の立体商標が審決取消訴訟で取り消された事例を引いているが、立体商標に関する平成17年(行ケ)第10673号審決取消請求事件判決の判旨は本件無効審判とは明らかに関係がないし、被請求人自身本事例が自己の主張とどう関連するのかを一切明確にしていない。被請求人が、明らかに本件に関係のない判例を持ち出してまで反論の根拠としているのは、被請求人が商標法についてよく理解していないか、あるいは審理を不当に遅延させる目的によるかいずれかと思われるが、いずれにしてもこの点についての反論は不要と考える。
(2-5)さらに、被請求人は出所の混同の不存在に関る答弁の最後の部分で、被請求人はリャーマとアフリカ、中近東のラクダを連想し、これに南米先住民の言葉で王を意味するインカという語を結合し、インカキャメルという全く自己の知識・思考に基づき新語を創作したものであるとし、被請求人は昭和46年頃に南米民族音楽のファンとなり、その中でインカ・アンデスという言葉とリャーマにも魅惑され「INCA CAMEL」という言葉を思いついたものと結んでいる。
この点に関連し、実際に被請求人が「ラクダ」をモチーフにした標章を使用したのは、甲39号証の1に示される商標法第53条第1項に基づく商標登録の不正使用取消審判(平成7年審判3124号)において取消決定された標章に始まる。この標章はピラミッドをその構成要素に加えていることからも明らかなとおり、明らかに中近東を想起させる標章であり、南米を連想させるものではない。被請求人は独自の発想に基づき「インカキャメル」なる語を創作した旨述べているが、実際に被請求人が「インカキャメル」なる商標を出願し始めたのは、平成8年4月26日である。被請求人は、平成7年5月17日に上記不正使用取消審判に参加人申請をし、同年12月8日にその参加申請が認められ、同年12月28日に答弁書を提出している。これに対し、本件審判の請求人の一人でもあるワールドワイド・ブランズ・インクが弁駁書を提出したのが平成8年4月23日であるという時系列的経緯に鑑みれば、被請求人は、不正使用が認められ上記「CAMEL」商標の登録が取り消された場合に備え、「インカキャメル」商標を出願したとの推測が十分に可能である。
(2-6)結局、被請求人は、「らくだ図形」と「INCA」「CAMEL」の文字商標から構成される本件商標が著名商標である「CAMEL」及び著名商標である「らくだ標章」と混同を生じるおそれがないことについての法的に意味のある根拠を何等示すことなく、請求人の著名商標が哺乳類の一種を表す普通名詞及びそのシルエットであり、自らの登録商標は造語であるから混同は生じないという主張を繰り返しているに過ぎない。
また、本件商標のうち文字の部分は「INCA」と「CAMEL」の二段より構成されるものであり、このような二段の場合にはそれぞれ分離して称呼が生じるものとされるのが、特許庁の審査における一般的な考え方である。このような場合であっても分離して称呼が生じないのとされるのは、二段の構成要素がそれぞれ同じ大きさや同じデザインでまとまりよく構成されている場合等、例外的な場合に限られるはずである。
本件商標の文字部分はそもそも二段であるし、著名商標「CAMEL」の文字を含むものでもあるため、「CAMEL」の部分が分離して称呼されると考えるのが一般的な考え方といえる。これは、特許庁の著名商標に関する審査基準において、「他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して、取り扱うものとする。」とされていることからも明らかである。
(2-7)そこで、実際に本件商標がワンポイントマークとして付された被服を手にするのは商標に関する知識等のないに等しい一般の消費者であることを忘れてはならない。請求人が審判請求書において述べたとおり、「第25類に属する『被服』等の取引業界において、図形商標をワンポイントマークとして使用することが普通に行われていること、及びこれらには刺繍をもってする場合もあることは取引における一般的実情」であり、「全体から受ける視覚的印象が似通ったものである点からすれば、左右向きの差異は曖昧なもの」である。更に言えば、一般の消費者としては、実際にはショーウインドーのガラス越しにこのようなワンポイントマークに接することもあるであろうし、吊り下げ式POPにラクダ標章がプリントされる場合もあるであろう。また、平台に雑多に積み上げられた商品の中から商品を選別する場合もあるであろう。これらの場合、マークを裏面から見たり、上下反転させて見たりする場合も十分にありうることである。また、試着室に入って衣服を試着するような場合、消費者が鏡越しに目にする被服のブランドのワンポイントマークは必ず左右反転することになる。すなわち、産業用機械器具等の事例とは明らかに異なり、被服の場合においては、一般の消費者が本来の形どおりの商標にしか接しないということは、被服の販売の実態を前提とすればありえないことであり、左右向きの差異があっても消費者には事実上は同一の商標であるとの印象を植え付ける可能性が極めて高いといえるものである。
(3)不正目的の存在
(3-1)理由3(1)で、被請求人は商標法第3条を根拠に、本件登録商標の使用を何ら問題のない営業行為と述べている。繰り返しになるが、被請求人は商標法第3条第1項第1号の趣旨を歪曲して理解している。そこでは、普通名詞の商標登録が認められていないのではなく、その商品又は役務の普通名称普通に用いられる方法で表示する方法で表示する標章のみからなる商標が登録を認められていないのみである。
また、著名商標が保護されるべき理由は、長年の使用・広告等の営業行為によりその標章に化体した信用に基づく著名性を獲得した商標とそうでない商標との誤認混同を防止し、そのような著名商標に化体した信用を毀損する行為やその信用に便乗する不正な行為を防止し、もって取引秩序を維持し消費者の保護を図る必要があるためである。被請求人が、著名商標と既存の言葉を組み合わせたに過ぎない結合商標を使用することが何ら問題のない営業行為であると断言していることは、取引秩序を乱す思想であるばかりでなく、消費者の混同を惹起することを何等問題のない行為と断じているに等しい。
(3-2)さらに被請求人は、請求人が甲41号証で不正の目的の存在を示す根拠としてあげた商標「LONGCHAMP」に関する無効審判の事例に関し、同商標は被請求人が他人より譲り受けた商標であって被請求人の出願したものではないのであり、譲受人として無効審判請求を争うのは当然であると述べている。この点だけをとりあげれば被請求人の反論は合理的にもみえるが、請求書でも明らかなとおり、請求人は、被請求人が無効審判請求を争ったこと自体をもって、不正目的の存在を示す根拠と主張しているものではない。前述のとおり、被請求人は意図的に他人の著名商標に便乗する手法を繰り返しているといえるものであり、請求人としては、被請求人に不正の目的があったことは複数の事実の積み重ねによって明らかであると考えているものである。
(3-3)続けて、被請求人は「請求人は被請求人(代表者)が零細企業経営者であるから不正を行う人間であるとの偏見と予断を持っている」と述べている。勿論、請求人はその請求書において被請求人が零細企業経営者であるから不正を行うとは一切論じていない。
(3-4)続けて、被請求人は、インカやペルーについてタバコと関連しない旨述べ、「インカ」や「ペルー」という点から生じる観念について縷々述べたうえで、「PALM SPRING POLO CLUB」事件における補足意見を挙げている。しかし、仮に補足意見のいうような考えが適用される余地があるとしても、本件商標は著名商標「CAMEL」及び著名な「らくだ標章」と類似する標章を含むものであり、両者の差異は「INCA」だけであり、これが請求人以外の商標の出所を強く連想させる事情もなく、結局本件では補足意見の述べるような考えが適用される余地はないというべきである。
(3-5)被請求人は、引用商標5・6・7・8が「CAMEL」の文字に「TROPHY」・「COLLECTION」・「SHOP」の文字を組み合わせた結合商標であることを理由に、請求人においても「CAMEL」の文字が普通名詞でありこれらの引用商標5・6・7・8の指定商品(被服)の出所に関し、独占的使用権が認められないことを予想して結合商標としたものであると推論して述べている。
しかし、請求人は単に実際に使用する態様で商標出願を行ったものにすぎない。そもそも実際に使用する態様で商標出願を行うのは一般的なことであるし、特にこれらの引用商標5・6・7・8の出願人は米国法人であり、米国では使用証明の提出に備えて実際に使用する態様で出願することが多いという実情を踏まえれば、これにそった形での出願がなされるのは極めて自然なことでもある。請求人自らが「CAMEL」単独では登録できないと考えていたなどというのは、単に被請求人の誤った推論にすぎない。
(3-6)続けて、被請求人は、被服分野において「CAMEL」ブランドが周知著名であることを証するために請求人が提出した証拠に対して、請求人の意思はともかくマスコミ等は請求人をたばこ販売業者として扱っているとの反論を行っている。しかし、被請求人が指摘する証拠は単にF1の車体の写真を並べたものであるため、その中に請求人の英文字「CAMEL」及び「らくだ標章」が表されたチーム・ロータスの車体の他に、英文字「Marlboro」とそのイメージカラーが表されたチーム・マクラーレンや、英文字「Cabin」が表されたチーム・ティレルの車体が同時に存在するのは極めて当然であるし、同証拠の該当ページには被請求人のいうたばこ販売業者以外の企業の名称や商品名が表された車体も多数存在する。被請求人の主張は、証拠の意味を自己に有利になるように歪曲して理解することを前提としており、極めて不合理である。
(3-7)被請求人は、ここでの最後の部分において、取消審判請求の事例に関し、不正な行為を行ったことはないとし、商標法の知識が無かったため結果的に不正取消審判によって取り消された商標を使用していたものであると述べている。しかし、商標法の知識が無かったことは被請求人を免責するものではないし、自らに不正の目的が無かったことを何等証明しているものでもない。
(3-8)前述したとおり、被請求人の一連の行為には、請求人の著名商標の信用に便乗しようとする不正の意図がうかがえる。以下、これにつき整理して述べる。
被請求人による「ラクダ」をモチーフにした標章の使用は、甲第39号証の1として示した商標法第53条第1項に基づく商標登録の不正使用取消審判(平成7年審判3124号)において取消決定された標章に始まる。そして、被請求人は、少なくともこの登録が不正使用取消審判により取り消される可能性あることを認識して以降、「INCACAMEL」なる商標を出願し始めたものである。そして、これについては、既に述べたように、時系列的な経緯に照らせば、不正使用により「CAMEL」の登録が取り消された場合に備えて、出願していたものとの推測が可能である。
この最初の「INCA CAMEL」の出願以降、被請求人は「CAMEL」の部分が特に抽出されやすいような態様での出願もしているほか(甲第48号証の1ないし3)、既に述べた「US CAMEL」、「CAMEL STAR」(甲第49号証)等様々な態様で「CAMEL」を含む商標を出願している。これら一連の事実に鑑みれば、被請求人に「CAMEL」という著名商標の使用・価値に便乗しようという不正の目的が存在していた蓋然性が極めて高いというべきである。
また、甲第47号証として提示した商標登録願2005-095266号は指定商品を「ライター、灰皿」としており、被請求人が、いくつかの登録例に乗じて請求人の業務により近い商品をターゲットにしてきているような事実もうかがえる。
以上、これらの長年にわたる複数の事実を総合的に勘案すれば、被請求人に不正の目的が存在していることは明らかであると思料する。
(4)証拠について
今回新たに証拠として提出したもののうち、甲第43号証及び甲第44号証は被請求人が証拠を提出せずに意見のみを述べている点につき請求人側から証拠を提出したに過ぎず審理を不当に遅延するものではないと思料する。
甲第52号証は、被請求人の登記簿謄本であり、何ら被請求人に新たな防御負担を課するものではなく、審理を遅延させるものでもないと思料する。
その余の証拠は、すべて被請求人の出願又は異議申立事件に係る証拠であり、被請求人自らの関与した手続きであることであるから、全て了知しているはずのものであり、何ら被請求人に新たな防御負担を課すものではなく、審理を遅延させるものでもないと思料する。
また、これらの証拠は、全て職権でも探知できるものであり、被請求人の行った答弁に対し、請求人が請求書において述べた無効理由を補足するために提出しているものであるから、要旨の変更には該当しないものと思う。
(5)まとめ
以上のごとく、本件商標は、請求人が請求書で述べたとおり商標法第4条第1項第15号及び同第19号に違反するものであり、同法第46条第1項の規定により無効とされるべきものである。

第4 被請求人の答弁の要旨
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。と答弁しその理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証を提出した。
〔答弁の理由〕
1 登録無効の理由と営業の自由
(1)衣類の製造販売は,人間の商売として最も早くから行われ,現在においても商売として人間が始めやすい商売である。そのため零細な企業として衣類の製造販売業者が多いのも世界共通の現象である。衣食住という言葉に表されるように衣類は人間の生活に欠かすことのできない物資である。
したがって、衣類の製造販売は商売として広く,自由に認められなければならないものである。製造者は製造に際して出所を示す標章を衣類に付すのも営業の一般原則である。
(2)問題とされる標章が外観・称呼・観念において同一または類似しない場合(商標法第4条第1項第10号ないし14号),商品の出所の混同(同法同項第15号)を理由に登録拒絶することが,その査定により万人に認められる営業の自由を狭めることにならぬよう慎重でなければならない。ラクダのシルエット図形に関しては既に特許庁により認められている(乙第1号証)。
(3)また周知著名商標と類似する商標の不正目的(同法同項第19号)使用を理由にその査定拒絶をする場合,周知著名商標との類似問題を先入観に基づく商標の不正目的の有無と混同しないようにして判断し,万人に認められる営業の自由を狭めることにならぬよう慎重でなければならない。
2 出所の混同の不存在
(1)ラクダは,4000ないし6000年前に家畜化され人間に肉,乳,毛,皮を提供し砂漠の船といわれる運搬手段として,戦闘手段として利用されてきている。その名称は一貫してCAMEL(キャメル)なのである。
ラクダを引く砂漠の商隊の図は茶商にも用いられている。サライという雑誌でもラクダの標章を用いている。「駱駝」というタイトルの雑誌も出版されラクダ象が表紙等に強調されその図は「キャメル」と表記され使用されている。その他ラクダ像の描画,CAMELの文字を含む結合標章は多くの分野の商品に使用されている。
(2)インカ 文字・称呼の創造性
本件商標INCA CAMEL(称呼はインカキャメル)は完全な造語(最初の出願時に対する特許庁の登録査定の書類を見ること)なのである。
CAMELの文字のみあるいはCAMELの文字を含む請求人の有する引用の結合商標が請求人の商標として著名であり,請求人以外のいかなる物・人物・国・事柄をも印象づけ,連想させ、また記憶させないという請求人の主張は,偉大な文明を築いたインカ帝国の言葉であるケチュア語の帝国の支配者という意味からなり,どのような歴史書にもインカ文明として紹介される言葉を,たかが文明の退廃の一原因であるタバコのために否定することになる。人はインカキャメルという称呼をきくとき「インカ」という言葉に惹かれ,南米を連想しリャマや段々畑を意味するアンデスの山並みを先ず印象づけられる。
請求人のCAMEL標章は単にタバコの販売業者としての周知著名性のみを看者に印象づけ,記憶させ連想させるだけである。
(3)キャメルというタバコが米国を象徴するならタバコ自体,インカ帝国からコロンブスによりヨーロッパに持ち込まれ広がった風習であるのに,あたかもタバコを昔のインカ帝国の領域に持ち込んだかのごとく白人が主張していることになる。これは白人の無知と横着と言わざるを得ない。あたかも16世紀東洋で茶を知ったアングロサクソン人が100年も経つと茶の文化を自らの文化として東洋人に教えたがったかのごとくである。CAMEL(GEMELと同様)と言う文字が表す動物の名前の第1音節の音はアルファベットの字母C(カ音表記,GはCと同根でゲ・ジ音表記)の元になったものでアフリカ・アジアの砂漠にいた動物である。引用商標のCAMEL文字・称呼が常に請求人の営業表示,商品と関連づけて印象付けられ,記憶され,連想させれるというのは請求人(代表者)の偏見である。これは,ヨーロッパ人が,宗教といえばキリスト教のみが宗教であり仏教もモスレム教も宗教ではなく,ましてや日本の神道その他の宗教なぞ議論するに値しないという態度に通じる。
(4)商標「SONY」は,その標章,称呼,観念とも独自のもので造語である。そしてそれ自体世界に電気製品メーカーとして知られる。商標「BRIDGESTONE」も標章、称呼,観念とも「SONY」と同様,独自のもので造語であり,タイヤの商品出所を示すものとして世界的に著名である。 これに対して,CAMELは普通名詞であり,人類の歴史とともにアルファベットではCAMELと綴られ,キャメルと称呼され,CAMELの文字を見るものは本件商標や各引用商標中の漠とした動物の像を自己の意識の中に想起してきたのである。そのような人間のCAMELという文字・称呼からの,また,これらに対する印象・記憶・連想は,請求人がタバコの箱にCAMEL文字を付す1913年(請求書,下8行)より遥か昔からの話である。 CAMELという動物に対するネーミングは請求人の行った造語ではない。また本件商標若しくは各引用商標中にあるラクダの像を白黒で描画したのが請求人が最初なのでもない。日本人で中学1年生の英語を履修した者は,CAMELという単語を学びキャメルと発音(呼称)し,砂漠と結び付けた漠然としたキャメルの像を連想する。
印欧語と呼ばれる言語を使用する人々にとってCAMELのスペル・称呼から,独語のDAS KAMEL(カメール),仏語のCHAMESU(シャモー フランス語では英語のKがCHとなりCHをシャと発音することは印欧語の世界の人々にとって周知のことである。),スペイン語ではCAMELLO(CAMELLA)(カメリョ)を同一の動物と認識する。
したがって「CAMEL」の文字・称呼だけで全て引用商標5・6・7・8・10を付して請求人が製造販売する衣類その他の物と結びつくということはあり得ない。請求人の引用商標の標章・称呼がキャメルの観念を世界に広めたのではない。請求人が製品の標章としてラクダを選ぶ前から,ラクダは存在し人々はキャメルと称呼し,日本人は江戸時代からラクダと称呼してきたのである。請求人の主張はあたかも請求人の標章が世界にラクダを知らしめたがごとき傲慢さがある。次のような考えは,本件において当然考慮されなければならない。「他企業の著名標識を冒用する行為は,常に他企業の名声または標識の吸引力の利用に連なるとはいえず,情況によって種々の程度があり,寄生行為にならない場合もありうることになる。標識冒用によって間違いなく寄生の効果が発生すると思われるのは,競争関係にある企業が種類の同じ,またはきわめて近い営業もしくは商品について著名標識を使用する場合であり,営業や商品の領域が異なる度合いに応じて寄生は困難になってゆく。
広義の混同さえも考えられないところでは,著名標識の吸引力は連想の形で意識下に働くことは働くとしても,その効果は不確実で弱いものであり,むしろ,反対の効果によって容易に相殺されてしまうことが多いといわなければならない。してみると,混同の生じない場合に,寄生行為を基礎として著名標識の冒用を抑止するのは,具体的事案に応じて諸般の事情が慎重に検討されなければならない。著名標識またはそれに近似した標識の使用が,当然に寄生行為になるとはけっしていえないことに留意しなければならない。」(満田重昭「著名標識保護の問題の諸相」32頁「金沢法学」第13巻第1号(昭和42年11月発行,金沢大学法制学会 乙第2号証)。
(5)請求人のCAMEL標章は弱いマーク
CAMELという普通名詞は欧文字SUN・STARなどと同じく,それだけでは一般消費者に商品出所との関連性を示さない。したがって,もしこれら普通名詞が特定商品(請求人のタバコ)に使用され,一般消費者が特定の商品出所を印象付け,記憶し、連想するとしたら,その商品に関しては周知著名性を認めてもよい。しかし,特定商品(本件では請求人のタバコ)でCAMELの使用が特定の商品出所を示すとしてもその商品以外では何人もCAMELという標章・称呼を使える。そうでなければ万人に等しく認められるべきCAMELという文字の使用が営業で禁止されることになり,人類共通の知的財産といえる文字の効用を喪失させる。
このことは、江口順一「アメリカ商標法における強い(STRONG)マーク・弱い(WEAK)マークの法理について」232頁大阪大学法学部創立三十周年記念論文集「法と政治の現代的課題」昭和57、(乙第3号証)の論文によっても明らかである。。
(6)ひよ子菓子の立体標章が審決取消訴訟で取り消されたのは,菓子ひよ子と類似するひよこ菓子が江戸時代から存在していることを理由としている。
(7)インカ帝国は1532年、スペイン人のピザロ(FRANCISCO PIZARRO)に滅ばされたが,帝国の人々であるケチュア人(QUECHUA)は当時,現代の分類に従えばラクダ科に属するリャーマ(LLAMA)といわれる動物を使役に使用していた。被請求人はこのリャーマが南米ペルーの山岳地帯,海辺の砂漠地帯で荷を背負って歩く姿から,この動物とアフリカ,中近東のラクダを連想し,南米先住民の代表的な言葉で,現代も1000万以上の人々に使われているケチュア語で王を意味し,発音がしやすく,音の響きもよく,歴史上有名であるインカ(INCA)という語を結合し,インカキャメル(INCA CAMEL)という全く自己の知識・思考に基づき新語を創作したのである。被請求人は,また時期は正確ではないが昭和46年頃,「ウーゴとクリステーヌ」という夫婦のペルーの歌手が来日しNHKで,ペルーの民謡である「コンドルは飛んでいる」や「花祭り」を歌うのを聞き,南米民族音楽のファンとなり,その中でインカ・アンデスという言葉とリャーマにも魅惑されINCA CAMELという言葉を思い付いたのである。出願前,商標等の調査機関に「INCA CAMEL」があるか否かの調査も行っている(乙第9号証・同第10号証・同第11号証)。
3 不正目的の不存在
(1)請求人は,被請求人に不正の目的があると主張するが,被請求人のこのような造語を思いつく経緯が何故不正の目的があるといえるのか。人間の思考,思想は自由なはずであり,INCA CAMELという言葉に不正ということはなく,むしろこの表現は世界に一つしかない特殊な何か神秘的な称呼(発声)を伴い自由な思想感情の創作的表現ともいえるものであり,この表現自体が著作物であるともいえるのである。普通名詞は商標登録できないことを商標法3条は規定する。普通名詞の使用は自由でなければならないからである。したがってCAMELを営業に使用することは本来的に自由なのである。であればこそ請求人も米国においてタバコの箱にCAMELとラクダの図を使用したのである。被請求人がCAMELを含む本件商標である造語標章を請求人に遅れて使用したからといって,何ら問題のない営業行為である。
(2)請求人は被請求人が商標LONGCHAMP(馬のマーク 甲第41号証)の商標権者として無効審判請求を受け無効となったことをもって不正目的の徴表のごとく主張(請求書20頁17行)するが,これは被請求人が他人より譲り受けた商標で被請求人が出願したものではない(乙第8号証)。譲り受けた商標に無効審判請求をされた場合、譲受人が争うのは当然であり,不正目的とは関係がない。
(3)請求人は,被請求人(代表者)につきまた零細企業経営者につき最初から不正を行う人間であるとの偏見と予断を持っている。人類の発展と幸福に寄与すべき商標制度(商標法第1条)の下で請求人のCAMEL商標を付したタバコ販売がどれだけ寄与したのか。むしろ人類に害悪を与えているのである。CAMELという文字と称呼(キャメル)・ラクダ図形は,何故,請求人に衣類販売に関しても独占されなければならないのか。
(4)日本人は,ペルー人の容貌がアジア系であることから,ペルーという国,歴史に,白人と違い特別の親近感がある。そしてインカ(INCA)という文字,称呼は日本人に直ちに南米ペルー,本件商標登録前,日系移民の子で1990年(平成2年)7月から10年以上ペルーの大統領であったアルベルト・藤森,ペルーの民族音楽を演奏した楽団グループ(ロス・インカス),ペルーの民族音楽として有名な曲目「コンドルは飛んでいる」「花まつり」などなどを連想する。インカという称呼と観念には請求人の代表的商品であるタバコは全く含まれない。インカ(INCA)という文字,称呼には,PALM SPRING POLO CULBとPOL0(ポロ・ラルフ・ローレンとの類似に関し争われた事件の最判平成13年7月6日判決(福田裁判官の補足意見にいう)で,出願商標に「ポロ」ないし「POLO」の文字が含まれていてもラルフ・ローレン以外の商品の出所を強く連想させるときは,商標法第4条第1項第15号の該当性が否定される余地があると補足意見を述べている。被請求人の造語である本件商標はこの例に当たる。
(5)引用商標5・6・7・8・9は、CAMELの文字にTROPHY・COLLECTION・SHOPの文字を組み合わせた結合商標である。
請求人はCAMELの文字は普通名詞であり,請求人はこれら引用商標5・6・7・8・9の指定商品(被服)の出所に関し,独占的使用は認められないことを予想して結合商標としたのである。しかしこれらの引用商標5・6・7・8・9は被服の製造販売に関し「著名商標」ではない。請求人がCAMELという文字と他の文字を結合した標章によって初めて特定の商品を指定商品とする商標登録が認められたということは,何人もCAMELという文字と他の文字の結合による商標出願が,引用商標5・6・7・8・9に類似しない限り可能であることを意味する。被請求人のINCA CAMELもこの例に該当する。
(6)請求人は被服分野において「キャメル」ブランドは周知著名であると主張(請求書14頁)し,証拠として甲第24号証ないし甲第33号証を提出する。
しかし,例えば甲第24号証(85頁写真No.1・2・21・22,103頁)において同時に掲載されている商標は請求人と競業関係にある者のタバコのMARLBOROの商標,タバコのCABINの商標(甲第28号証,5枚目)であり,指定商品がタバコである請求人引用商標3である。つまり,請求人の意思はともあれ,タバコの広告に関して他のタバコ販売業者として市場,マスコミが請求人を扱っているのである。請求人のCAMELという文字と称呼はタバコに関する周知・著名なものとしてしか認められていない。
(7)被請求人は、請求人の商標法53条1条に基づく取消審判請求によって取り消された商標(甲第39号証の2)の審判前の権利者(岩田光平・株式会社タカギ)から使用許諾と受けて取り消された商標を使用したことがあるが,商標使用を許諾した商標権者が当時の制度である連合商標として出願中のものであった。当時商標法の知識のなかった被請求人は,その出願中の商標を合法的に使用できると考え袋物に使用して販売したのである(乙第4号証・同5号証・同6号証・同7号証)。現に特許庁は,被請求人使用の商標を連合商標としてなら登録査定すると,岩田光平の代理人弁理士中村正美に知らせていたのに,同代理人が出願を取り下げてしまったのである。被請求人(代表者)は請求人の指摘するまでもなく小さな会社であったが,不正な行為を行ったことは一度もない。
(8)除斥期間の経過
被請求人の本件商標は,平成11年11月5日登録であり,登録から既に5年以上経過している。この場合,「不正の目的」で商標登録を受けた場合を除き5年経過したときは無効審判請求はできない(商標法第47条)。
請求人らが本件商標の無効事由とするのは商標法第4条第1項第15号、同第19号である。実質的にも標章の類否(同第10号),業務の混同のおそれ(同第15号)に関し本件商標が登録査定を受ける過程で本件商標と引用商標の非類似・業務の混同のおそれがないことは十分に審理がなされている。そして商標法47条は権利関係の安定のたにも私益保護が中心である商標法第4条第1項第15号の規定に違反してなされた登録の無効審判請求は「不正の目的で商標登録を受けた場合」を除き,登録後5年以内に請求しなければならない。そしてこの5年という規定は無効審判請求できる期間を定めた除斥期間といわれるものであり,その期間経過によって消滅する。したがって請求人らの商標法第4条第1項第15号を理由とする本件請求は理由がない。

第5 当審の判断
1 本件商標と引用商標9及び引用商標11の類否
(1)本件商標は、別掲(1)のとおりの構成よりなるところ、その構成は楕円輪郭内の上部に大きく黒塗りのらくだ(駱駝)のシルエット図形を描き、その下に「INCA」と「CAMEL」の欧文字を二段に横書きしてなることから、全体として「インカキャメル」の称呼を生ずると共に、両文字は特段の結びつきが認められないものであるから、ラクダの図形と「CAMEL」の文字に着目した場合には「キャメル」の称呼をも生ずるものであり、また、「らくだ(駱駝)」の観念を生ずるものとみるのが相当である。
(2)他方、請求人の各引用商標は、それぞれ前記したとおりであるから、その構成態様から「キャメル」の称呼及び「らくだ(駱駝)」の観念を生ずるものと認められるが、特に各引用商標中、「たばこ」及び「被服」等に頻繁に使用された引用商標9及び引用商標11は、いずれも「らくだの図形」と「CAMEL」の欧文字よりなるものであるから、「キャメル」の称呼と共に「らくだ(駱駝)」の観念を生ずるといえるものである。
そうすると、本件商標と引用商標9及び引用商標11とは、「キャメル」の称呼及び「らくだ(駱駝)」の観念を共通にし、互いに紛れるおそれある類似の商標であるといわなけれならない。
2 請求人の引用商標9及び引用商標11の周知著名性について
(1)商品「たばこ」について
甲第13号証、甲第16号証ないし甲第23号証(枝番を含む)によれば、米国の大手たばこ会社であった「R・J・レイノルズ社」は、1913年にブレンデッドシガレットを開発し、その包装箱に、別掲(9)(引用商標9)のとおりのやや山なりに横書きした「CAMEL」の文字と「ラクダの図形」とを顕著に表した請求人の引用商標9を使用したこと、その後、1980年代半ばに「R・J・レイノルズ社」と米国の大手食品メーカーである「ナビスコ社」との合併より設立されたRJR社、及び1999年3月に、RJR社の保有する米国以外のたばこ事業を買収した請求人の1人である日本たばこ産業株式会社(JT社)を通して現在に至るまで、これらの会社が取り扱う代表的なたばこの銘柄の一つとして、請求人の引用商標9が継続して使用されてきたこと、請求人の引用商標9は、通常「キャメル」と称呼され、上記1999年3月の時点で、「世界の五大たばこブランドの一つ」として、我が国の新聞等で報道されていたこと、請求人の商品「たばこ」は、我が国においては、昭和24年(1949年)ころから宣伝されはじめ、上記1999年3月の時点で、その販売本数は、全世界で4592億本であることなどが認められる。
上記で認定した事実によれば、請求人の引用商標9は、R・J・レイノルズ社、RJR社及びJT社の取扱いに係る商品「たばこ」を表示するための商標として、本件商標の登録出願前より、世界的に周知であったといえるばかりでなく、我が国のたばこの取引者・需要者の間においても広く認識されていたものということができる。
(2)商品「被服」等について
甲第24号証ないし甲第28号証、甲第34号証及び請求の理由によれば、RJR社(又はR・J・レイノルズ社)は、1987年から1993年までF1(Formula One)のロータスチームのスポンサーであり、上記期間中、引用商標11は、黄色地のF1カーの車体やレーサーのユニフォームに青色で大きく表され、きわめて目立つ態様で表示されたこと、また、引用商標5は、その構成中の「CAMEL」の文字部分が請求人の引用商標9中の「CAMEL」の文字部分と構成態様を同じくし、かつ、該文字の下に描かれたラクダの図形は、ラクダの向き、こぶ、首、四肢、尾などの態様からみて、請求人の引用商標9中の「ラクダの図形」をシルエットで表現したものと認められるから、引用商標11は、構成全体として、請求人の引用商標9にきわめて近似するものであること、また、請求人の1人であるWBI社は、少なくとも1992年には、F1関連商品として、ジャンパー、スウェットシャツ、セーター、Tシャツ、帽子、タオルなどの衣料品に引用商標11を表示して、我が国において販売したことが認められる。
上記で認定した事実によれば、我が国をはじめ世界的に注目を集めるF1レースにおいて、請求人の引用商標9にきわめて近似する引用商標11が看者に強い印象を与える態様で使用された事実に加え、前記1で認定したとおり、請求人の引用商標9が商品「たばこ」を表示するための商標として、世界的に周知なものであることを考慮すると、F1カーの車体やレーサーのユニフォームに表示された引用商標11に接する取引者・需要者は、引用商標11がR・J・レイノルズ社、RJR社及びJT社の取扱いに係る商品「たばこ」を表示する商標であると直ちに認識するといえるばかりでなく、F1関連商品として、引用商標11を表示したジャンパー、スウェットシャツ、セーター、Tシャツ、帽子、タオルなどの衣料品が1992年(平成4年)には、すでに我が国で販売されていた事実をも併せ考えれば、被服等の分野における取引者・需要者は、引用商標11を使用した上記商品について、請求人商品の関連会社の取り扱う商品であると十分理解していたものとみるのが相当である。
したがって、引用商標11は、請求人商品の関連会社の取り扱う被服を表示するためのものとして、本件商標の登録出願時には既に、取引者・需要者の間に広く認識されていたものとみるのが相当である。
以上によれば、請求人の引用商標9及び引用商標11は、本件商標の出願時及び査定時において、少なくとも「たばこ、被服」等について我が国の取引者・需要者はもとより、世界的に需要者の間に周知性を獲得していたものと認めることができる。
3 不正の目的について
前記で認定した、1の本件商標と引用商標9及び引用商標11の類否及び、2の商品「たばこ」と「被服」についての請求人の引用商標9及び引用商標11の周知性を考慮すると、被請求人による本件商標の採択が偶然に行われたものとは解し難い。
上記のことは、被請求人は、甲第39号証の1ないし3、同第40号証の1、乙第1号証に係る商標ほか、本件商標の登録出願の前後に被服を含む複数類に「CAMEL」の文字及び「らくだの図形」からなる商標を出願している事実があることによっても裏付けられるといえるものである。
してみれば、偶然の一致により、請求人の引用商標9及び引用商標11と類似する本件商標が採択されるに至ったものとは考え難く、被請求人は、「CAMEL」の文字及び「らくだ標章」が請求人の業務に係る商品(たばこ、被服等)を表示するものとして長年に亘り使用され取引者・需要者の間において広く認識されていたことを熟知しておりながら、請求人の被服等における国内参入を阻止し、あるいは、請求人の引用商標9及び引用商標11等の顧客吸引力を希釈化させたり、その名声等を毀損させる等、不当な利益を得るの目的をもって出願し、権利取得したものと推認せざるを得ないから、本件商標は、不正の目的をもって使用をする商標に該当するものといわなければならない。
4 むすび
したがって、本件商標は、請求人のその余の無効事由について論及するまでもなく、商標法第4条第1項第l9号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1) 本件商標



別掲(2) 引用商標2



別掲(3) 引用商標3



別掲(4) 引用商標4



別掲(5) 引用商標5



別掲(6) 引用商標6



別掲(7) 引用商標7



別掲(8) 引用商標8



別掲(9) 引用商標9



別掲(10) 引用商標10



別掲(11) 引用商標11



審理終結日 2007-12-28 
結審通知日 2008-01-09 
審決日 2008-01-22 
出願番号 商願平10-26692 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Z25)
T 1 11・ 222- Z (Z25)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梶原 良子 
特許庁審判長 中村 謙三
特許庁審判官 小畑 恵一
津金 純子
登録日 1999-11-05 
登録番号 商標登録第4332094号(T4332094) 
商標の称呼 インカキャメル、インカカメル、インカ、キャメル、カメル 
代理人 山崎 行造 
代理人 杉山 直人 
代理人 杉山 直人 
代理人 山崎 行造 

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