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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない Y0608091518192021222425272831
管理番号 1193961 
審判番号 取消2008-300120 
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2008-01-29 
確定日 2009-02-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第1611401号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1611401号商標(以下「本件商標」という。)は、「Playgro」の欧文字を横書きしてなり、昭和55年6月6日に登録出願、第24類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、同58年8月30日に設定登録、その後、平成6年3月30日及び同15年5月13日の二回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ、また、同16年8月11日に指定商品を第6類「アイゼン,カラビナ,金属製飛び込み台,ハーケン,金属製あぶみ,拍車」、第8類「水中ナイフ,水中ナイフ保持具,ピッケル」、第9類「家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,スロットマシン,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,運動用保護ヘルメット,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,メトロノーム,レコード」、第15類「楽器,演奏補助品,音さ」、第18類「乗馬用具」、第19類「飛び込み台(金属製のものを除く。)」、第20類「揺りかご,幼児用歩行器,マネキン人形,洋服飾り型類,スリーピングバッグ」、第21類「コッフェル」、第22類「ザイル,登山用又はキャンプ用のテント」、第24類「ビリヤードクロス」、第25類「仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」、第27類「体操用マット」、第28類「おもちゃ,人形,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具」及び第31類「釣り用餌」とする指定商品の書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁の理由を以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第38号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)被請求人について
被請求人は、昭和44年(1969年)1月23日に設立され、その事業目的を「外着、肌着用生地編、製造並びに縫製加工、販売」等とする株式会社である(甲第2号証の1及び2)。
また、被請求人は、株式会社ファミリア(以下「ファミリア」という。)の関連会社(甲第3号証)であり、親会社であるファミリア商品の縫製を請負っている会社である。
(2)請求人について
請求人は、昭和52年(1977年)7月に設立された株式会社横浜興産を母体として、平成17年(2005年)3月に設立された株式会社であり(甲第4号証)、同18年(2006年)8月17日以降、後述のPlaygro社の製品を輸入し、日本国内における販売を開始した。
(3)Playgro Pty Ltd(以下「Playgro社」という。)について(甲第5号証の1)
ア Playgro社は、平成4年(1992年)4月にオーストラリアにおいて設立された法人であり、「デザインを通して、最良の子供のライフスタイル製品を製造し、乳幼児分野全般における市場のリーダーとしての地位を維持すること」にビジョンを抱き、“Play and Grow”いわゆる「子供は遊びの中から成長していくもの」を会社理念として、それらを組み合わせて「PLAYGRO」と名づけ会社名とした(甲第5号証の6)。
Playgro社は、その設立当初からMother’s Choiceのアクセサリー部門を買収するなどしている。
イ 平成7年(1995年)には「PLAYGRO」ブランドを立ち上げ、早くもその翌年の同8年(1996年)には、全世界的規模で著名な「Winnie the Pooh(くまのプーさん)」及び「Disney Babies」の乳幼児用発育おもちゃのプログラムを開発すべく、「Walt Disney Consumer Product(WDCP)」とライセンス契約を果たし、「くまのプーさん乳幼児発達用おもちゃ」のシリーズ化に成功した。
これを端緒として、平成9年(1997年)には、ワーナーブラザーズのルーニー・チューン及びスクービー・ドゥー、チャールズ・シュルツ・ピーナッツ、ロイヤルドルトンのバニーキンズ(食器などの絵柄としても有名)、メイシー・マウスなど(甲第6号証の1及び2)とライセンス契約を果たした。
ウ その後もScooby Doo Powerpuff Girlsなど、マスターライセンスを取得し、これ以降6年間でPlaygro社は、58カ国へ製品の流通に至っている。さらに、平成15年(2003年)には、ディズニーのプラッシュ(ぬいぐるみ)に関するマスターライセンスを取得し、また、オランダに関連会社「Playgro Benelux BV」を法人化させるなど、精力的にシェアを伸ばしていった。
エ Playgro社は、世界的な市場においての戦略的な投資成長を確立するために、小売投資家グループとの提携により、平成13年(2001年)のオーストラリア会社法に基づき、同16年(2004年)6月30日ヴィクトリアにおいて、商業登記番号109699336をもって登記し、株式会社となった(甲第7号証)。そのことによってヨーロッパ市場の拡大に成功し、平成17年(2005年)には、「Playgro Benelux BV」は、「Playgro Europe BV」として拡大し、スペイン、ポルトガル、英国、アイルランド及びフランスに設立された販売オフィスでその販売基盤を広げ、全世界にその流通網を築いた(甲第5号証の2及び3)。
オ Playgro社は、乳幼児発育用おもちゃのあらゆるデザイン・製品開発において優れた会社であり、オーストラリア最大の乳幼児発育用おもちゃの会社であるばかりでなく、世界6大企業のうちの1社でもある(甲第5号証の4)。
(4)請求人商標
請求人が使用する商標(以下「請求人商標」という。)は、青色の地球儀の表面を表すような楕円形を描き、楕円の中にそのカーブに沿った丸みを帯びた白地の太字の欧文字の小文字で「playgro」と横書きし、特に「l」の表記は、子供の成長を思わせるように楕円のカーブに沿って上へ伸びるように描いてなり、乳幼児用おもちゃ、人形等に使用するものである(甲第8号証)。また、請求人商標は、Playgro社の名称及びその著名な略称を表示するものであって、前述のようなディズニー製品の製造・販売等により、世界的に周知・著名な商標である。請求人商標を付した商品は、日本において平成13年(2001年)7月から同15年(2003年)6月までタカラトミー株式会社を代理店として販売されていたが(甲第9号証の1ないし3)、同18年(2006年)8月17日からは、請求人を通じて日本に輸入され、日本国内において販売されている。
(5)請求人商標の使用について
Playgro社は、商号の一部である「Playgro」の文字をブランド名とし、平成7年(1995年)から「乳幼児用のおもちゃ」において当該ブランド展開を開始、設立から現在に至るまで「Playgro」の文字よりなる請求人商標を使用している。
Playgro社は、前記(3)イのとおり、平成8年(1996年)からウォルトディズニー社とのライセンス契約による「くまのプーさん」のシリーズ化及びその翌年にはワーナーブラザーズのルーニー・チューン及びスクービー・ドゥー、チャールズ・シュルツ・ピーナッツ、ロイヤルドルトンのバニーキンズ、メイシー・マウスなど次々に新規ライセンス契約を締結し、数々の賞を受賞するなどして、Playgro社及び請求人商標は、ディズニーやワーナーブラザーズなどの著名なキャラクターと共に全世界において広く認識されるに至った。
これらのキャラクターは、老若男女を問わず、たとえその名前までは知らなくても、そのキャラクターを一見すれば誰もが認めるほどの著名なものばかりであり、請求人商標は、それらのパッケージ及び商品本体に印刷される等して全世界に流通している。
また、Playgro社は、その販売拠点を全世界に有し、請求人商標が周知・著名であることは、以下(7)イ(ウ)で述べるとおりである。
請求人商標が付された商品は、大手百貨店の乳幼児用おもちゃ売り場(主に東京・神奈川、関西)、請求人の店舗(ショールーム神奈川、東京代官山)、請求人の販売代理店(全国72店舗)、通信販売、インターネット、赤ちゃん用雑誌等で紹介・販売されている(甲第10号証の1ないし3)。
(6)被請求人の使用商標
被請求人は、実際には、次の3種類の商標を使用している(以下、これらを「被請求人使用商標」という。)。
ア 使用商標A
ブルー、黄色、赤色に交互に色分けして刺繍を施した欧文字よりなり、全体を通して「Playgro」と看取することができる構成である(甲第11号証)。
イ 使用商標B
小鳥が枝をくわえている様子を図で表現し、その右横に欧文字にて「Playgro」と横書きしてなり、末尾の「o」のすぐ上に葉っぱのような小さな図形を描く構成よりなる(甲第12号証)。
ウ 使用商標C
使用商標Bから、小鳥の図形を除いた構成よりなる(甲第13号証)。
(7)商標法第51条第1項について
商標法第51条第1項は、「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる」旨定めているところ、本件審判の争点は、被請求人による被請求人使用商標の使用行為が、上記規定に該当するか否かである。
ア 本件商標と被請求人使用商標との類否
本件商標は、やや太字の半角の明朝体にて「Playgro」と横書き(甲第22号証)してなる。
使用商標Aは、前述のとおりブルー、黄色、赤色に交互に色分けして刺繍を施した欧文字よりなるところ、本件商標とは字体を異にするため、外観が異なるが、「Playgro」との欧文字を認識することができる。
使用商標Bは、小鳥の図形や葉っぱのような図形を有するため、本件商標とはその外観が異なるが、「Playgro」との欧文字を認識することができる。
使用商標Cは、使用商標Bから小鳥の図形を除いた構成であり、葉っぱのような図形を有しているため、本件商標とはその外観が異なるが、「Playgro」との欧文字を認識することができる。
したがって、本件商標と被請求人使用商標とは、外観を異にするものの、いずれも「Playgro」との欧文字を認識することができ、それより生じる観念・称呼が同一であるから、全体として類似の商標であるということができる。
また、本件商標と被請求人使用商標とが使用されている商品は、いずれも「おもちゃ,人形」である。
したがって、本件商標と被請求人使用商標とは、互いに類似する商標である。
イ 他人の業務に係る商品と混同を生ずるか否か
次に、被請求人が被請求人使用商標を商品「おもちゃ,人形」に使用した上記行為が、商標法第51条第1項に規定する「故意に他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」に該当するか否かについて判断するに、上記の「他人の業務に係る商品と混同を生ずる」か否かは、当該商標と他人の表示の類似性の程度,他人の表示の周知著名性の程度や、当該商標に係る商品と他人の業務に係る商品との間の性質,用途等における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らして,当該商標に係る商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁判所平成10年(行ヒ)第85号審決取消請求事件 甲第23号証)。
これを踏まえて、被請求人使用商標と請求人商標との類似性・請求人商標の周知著名性・商品の関連性等について以下に述べる。
(ア)被請求人使用商標と請求人商標との類似性
被請求人使用商標と請求人商標との類似性について検討するに、それぞれを外観について対比すると、請求人商標は、前記(4)のとおり、青色の地球儀の表面を表すような楕円形に丸みを帯びた文字で「Playgro」と横書きしてなるのに対し、被請求人使用商標は、前記(6)のとおりであるから、互いに外観上の差異を有する。
次に、その観念についてみると、請求人商標は、Playgro社が”Play and Grow”を基本ベースとし、それらを組み合わせて「PLAYGRO」と名づけたことから、「遊びの中から成長していく」等の観念が生じるのに対し、被請求人使用商標については、被請求人を原告とし請求人を被告とする商標権侵害差止請求事件(平成19年(ワ)第14622号)において、原告(被請求人)は、本件商標の観念について「Play」と「Grow」を掛け合わせた造語であると主張しており、前記(7)アで検討したとおり本件商標と類似する被請求人使用商標からも同様に「遊びながら成長する」の観念が生じる。その上、それぞれは、「プレイグロー」の称呼を共通にするため、被請求人使用商標と請求人商標とは、互いに類似の商標であるといえる。
(イ)商品の関連性
被請求人使用商標と請求人商標とが使用されている商品の関連性については、いずれも「おもちゃ・人形」のうち特に乳幼児用のものを中心としているだけでなく、被請求人使用商標を付した商品を取り扱うファミリアは、アメリカや欧州等の海外からも輸入販売している大手アパレルメーカーであり、著名キャラクター「スヌーピー」のブランドを取り扱っていることは、周知のとおりである(甲第24号証)。そうすると、世界の至る所で頻繁に展示会等が催されている実情を勘案すれば、後述のとおり世界的に広く認識されるに至っている請求人商標と類似する被請求人使用商標を被請求人及びファミリアが使用することにより、被請求人及びファミリアがPlaygro社から商品を輸入して販売しているかのような誤認を生じさせ、また、経済的に密接な関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について誤認混同を生じさせるおそれがあるということができる。
(ウ)請求人商標の周知・著名性
Playgro社についての概略は、前記(3)及び(5)のとおりであるが、Playgro社及び請求人商標は以下のとおり、全世界的な周知・著名性を獲得している。
a)平成7年(1995年)から自社の商号の略称「Playgro」を自社ブランド名とし、オーストラリアにおいて同9年(1997年)商標登録出願し、同10年(1998年)商標権を取得した(登録番号740357)(甲第25号証)。
b)平成8年(1996年)、Walt Disney Consumer Product(WDCP)とライセンスの契約を締結し、世界的に著名な「Winnie the Pooh」及び「Disney Babies」の乳幼児用発育おもちゃプログラムのソフト開発に着手した。中でもPlaygro社がデザインしたディズニーの「くまのプーさん」は、請求人商標とともに世界市場において最大のシェアを占めるに至り、請求人商標の周知・著名性は、かのディズニーが認めたPlaygro社の商標として揺るぎないものとなった。
c)ところで、Walt Disneyのキャラクターの権利は、各国ごとに当該権利を管理する者が定められており、Playgro社は、数々の国においてWalt Disneyのライセンシーとなる契約を各権利者との間で締結しているところ、例えば、オーストラリア及びベネルクス(ベギルー・オランダ)において契約書(甲第26号証及び甲第27号証)を交わし、Walt Disneyのライセンシーとなっている(ちなみに、このライセンス契約書は一部である。)。
d)平成9年(1997年)には、ワーナーブラザーズのルーニー・チューン及びスクービー・ドゥー、チャールズ・シュルツの新聞コミック「ピーナッツ」、ロイヤルドルトンのバニーキンズ、メイシー・マウスなど新規ライセンス契約を締結し、それらライセンス契約の功績で、ワーナーブラザーズからアジア太平洋に向けたルーニー・チューンのマスター・トイ・ライセンスが与えられた。その結果、Playgro社は、おもちゃの専門マーケットに対する設計及び開発を包括的に委任されるようになり、Playgro社の顧客に対して「高付加価値」製品の供給を開始するようになった(甲第5号証の2)。
e)上記ライセンス契約によってPlaygro社は、ライセンスされたブランド商品をオーストラリアでデザインし、開発・販売することができ、それらの製品は、ディズニーなどのライセンサーのラベルが着けられるが、請求人商標においても、それらの製品のパッケージやラベルに必ず付けることができる。したがって、世界中で販売されるあらゆるライセンスされた製品に請求人商標が付された著名キャラクターが販売されている(甲第28号証ないし甲第32号証)。
f)平成10年(1998年)から同13年(2001年)にかけて、Playgro社のおもちゃ部門は、Scooby Doo Powerpuff Girls、Australian Football League(AFL、オーストラリア・フットボールリーグ)からマスターライセンスを取得した。さらに、Playgro社は、平成15年(2003年)Disneyプラッシュ(ぬいぐるみ)のマスターライセンスを取得し、オーストラリアにおけるDisneyの最大のおもちゃライセンス権者となった(甲第5号証の2、甲第6号証の3)。
g)Disneyのブランドにおいて、請求人商標が付された製品を世界各国に販売しているが、平成9年(1997年)7月からは、南アフリカ、ニュージーランドで販売を開始し、同10年(1998年)7月からシンガポールで、同12年(2000年)7月からオランダ、イスラエル、同13年(2001年)からポーランド、ドイツなどで販売を開始し、日本においては、同年7月から同15年(2003年)6月までタカラトミー株式会社が代理店として販売していた(甲第5号証の5、甲第33号証)。
h)ロイヤルダルトンブランドにおいては、平成14年(2002年)7月からイギリスで、ルーニー・チューンにおいては、同11年(1999年)7月からワーナーブラザーズムービーワールドやワーナーブラザーズスタジオストレスのテーマパークなど、世界中の人々の目を引く場所での販売を展開している(甲第5号証の5、甲第33号証)。
i)Playgro社及び請求人商標は、世界50カ国以上で、自己の商標として又はディズニー製品及びディズニーの「くまのプーさん」のキャラクターとともに流通している(甲第5号証の5、甲第33号証)。
j)Playgro社は、ライセンス契約によって数々の製品を製造するとともに数々の賞を受賞している(甲第34号証)。
k)このような実績を積み重ねた結果、Playgro社は、乳幼児発育用おもちゃのあらゆるデザイン・製品開発においてオーストラリア最大の乳幼児発育用おもちゃの会社であるばかりでなく、世界6大企業のうちの1社に数えられるまでに至った(甲第5号証の4)。
l)Playgro社は、オーストラリアのメルボルンに国際本部を設置し、デザイン及び製品開発、流通センター、ショールームを設け、オランダのボクステルには、ヨーロッパ本部を設置し、ヨーロッパ流通センター、ショールームを設け、中国の上海、香港には、それぞれ製造及び品質管理オフィスを設けるなど、各主要拠点を通してPLAYGROの製品を世界58カ国に発信している(甲第5号証の5、甲第34号証)。
m)Playgro社は、平成6年(1994年)主要ブランドとして、「PLAYGRO」を立ち上げ、乳幼児用製品の主要ブランドとして商標「PLAYGRO」について、世界各国で商標登録出願して商標権を有する等している(甲第25号証)。
(エ)小括
以上のとおり、被請求人使用商標と請求人商標との類似性の程度は非常に高く、請求人商標は、ディズニー等のキャラクター等に付されることによって世界的な周知著名性を獲得しているといえる。その上、被請求人使用商標に係る商品と請求人商標に係る商品は、いずれも乳幼児用「おもちゃ,人形」であって、性質を一にして、商品の取引者及び需要者を共通とするためその関連性は、非常に密接である。
よって、被請求人が被請求人使用商標を商品「おもちゃ,人形」に使用する行為は、取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば、商標法第51条第1項に規定する「故意に他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」に該当するものである。
ウ 商標権者の故意
商標法第51条第1項における商標権者の「故意」とは、商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標等を使用するにあたり、その使用の結果他人の業務にかかる商品と混同を生じさせること等を認識していたことをもって足りるものと解される(最高裁判所第三小法廷昭和56年2月24日判決・最高裁判民事132号175頁参照。)(甲第35号証)。
このようなところ、請求人商標は、上記のとおり世界的に周知・著名であって、当然当業者である被請求人も請求人商標を知悉していたと推認され、以下(ア)?(ケ)のような事実から、被請求人が商品「おもちゃ,人形」について本件商標に類似する被請求人使用商標を使用するにあたり、その使用の結果、請求人の業務にかかる商品と混同を生じさせること等を認識していたということができる。
(ア)請求人の輸入元であるPlaygro社は、上記のとおり世界的に有名なディズニーを代表する「くまのプーさん」をはじめとする国際的レベルのキャラクターデザインや乳幼児発達用おもちゃのデザイン及び開発・流通を手がける世界6大企業のうちの1社に数えられる大手メーカーであり、請求人は、Playgro社のそれらの商品を輸入・販売する者である。このようなところ、請求人は、平成19年(2007年)3月13日付けの通知書(甲第36号証)を受け取り、被請求人が甲第1号証にかかる登録商標の商標権者であることを正式に知った。
(イ)被請求人の当該通知書によれば、使用商標Aの使用開始時期については明記することなく、使用商標Aを付した商品「乳児用布製おもちゃ・人形」を天皇家皇太子殿下の第一皇女愛子内親王殿下がご愛用されていたことを殊更強調するが、請求人がファミリアの店頭で販売員に確認したところ、使用商標Aが付された商品の販売が開始されたのは「そう古くからではなく、10年は経過していないと思います。」という回答を得た。
(ウ)使用商標B及びCの使用については、甲第19号証のカタログに初めて掲載されており、それ以前の甲第18号証のカタログの同形の「木製おもちゃ」には、「familia」の商標が付されていた(甲第17号証の1、2)。また、被請求人を原告とし請求人を被告とする商標権侵害差止請求事件(平成19年(ワ)第14622号)において、原告(被請求人)の提出に係る甲第3号証とされたカタログによると、「『Babygro』の木製おもちゃが新しく使用商標Bにリニュアルされた」旨の記載があり、同商品の販売は、平成19年(2007年)8月からであると記載されている(甲第37号証)。したがって、使用商標B及びCの使用開始時期は、平成19年(2007年)8月前後であるということができる(甲第20号証及び甲第21号証)。
(エ)そうすると、本件商標は、昭和58年(1983年)8月30日に商標登録されているものの、使用商標Aの使用開始時期は、早くとも平成9年(1997年)頃であり、使用商標B及びCの使用開始時期は、同19年(2007年)8月前後であるといえる。これに対し、請求人商標は、遅くとも平成9年(1997年)には、かの有名なディズニーの「くまのプーさん」をデザインした者に係る商標として世界的な周知・著名性を獲得しており、当業者である被請求人は、当然に請求人商標を知悉していたものであるから、被請求人により被請求人使用商標の使用は、不正な使用であると断ぜざるを得ない。
(オ)さらに、被請求人又はファミリアは、当然当業者であるから、「乳幼児用の被服・おもちゃ類」に関する情報や事情には精通しているところ、展示会や買い付け等で海外へ渡航することは、日常茶飯事の昨今、世界的に有名なディズニーのキャラクター、中でも「くまのプーさん」の「おもちゃ,人形」を当然に知悉しており、それらディズニーやその他の著名なキャラクターの「おもちゃ,人形」のパッケージ又は商品本体にPlaygro社の商標「Playgro」が付されて販売されている事実を認識していたというべきである。現にPlaygro社は、海外の当業者用展示会に度々出展しており、世界の最大手おもちゃメーカーの一つに数えられる程の企業である。
(カ)ファミリアは、著名なキャラクター「スヌーピー」の商品を取り扱っているという事実があり、その「スヌーピー」は、上記記載の新聞コミック「ピーナッツ」に登場する中心的なキャラクターであるからには、当然認識しているとみなすことができ、かつ、数あるキャラクターの中でも一番の人気を誇るディズニーキャラクター商品については、人一倍神経を使い、それらの情報を素早く察知し、認識することは、当然に予想されることである(甲第6号証)。
(キ)被請求人は、縫製等を主な業務としているところ(甲第2号証の2)、本件商標が請求人商標に類似していることを奇貨として、本件商標に類似する被請求人使用商標を被請求人の商品に付して、ファミリアに納入することは、容易であり、また、甲第18号証(44頁)記載の輸入用「ヒツジ」のぬいぐるみと酷似するようなタグ表示を作製することも可能である。被請求人の上記の行為は、需要者をして、あたかもファミリアが請求人商標を付した商品を輸入・販売しているかのごとく誤認混同を生じさせるものである。
(ク)請求人商標は、前記(エ)のとおり、被請求人による被請求人使用商標の使用開始以前に、世界的な周知・著名性を獲得していたものであるから、被請求人の行為は、請求人商標の周知著名性を利用してその名声にフリーライドせんとする行為であり、一般の需要者をしてPlaygro社の商品であるかのごとく誤認又は出所の混同を生じさせる不正競争行為である。
(ケ)商標法第51条第1項の趣旨は、前記のとおり「商標権者は指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有するが、指定商品又は指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品又は指定役務に類似する商品又は役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用は、法律上の権利としては認められていない」というものであり(取消2005-30101号審決)(甲第38号証)、この趣旨からすれば、被請求人は、自己の商標権を利用して、請求人商標の知名度に便乗し、本件商標と類似する被請求人使用商標を使用して権利を主張するものであって、かかる行為は断じて許しがたい。したがって、これらの行為は、被請求人が故意に他人の業務に係る商品と混同を生じさせ、商標権を不正に行使する不正競争行為にあたるものであるといわざるを得ない。
(8)まとめ
以上の理由により、被請求人は、本件商標と類似する被請求人使用商標を使用するにあたり、請求人の取引先であるPlaygro社の業務に係る商品と故意に出所の混同を生じさせるものをしたものである。また、被請求人は商標権者として商標の正当使用義務に違反するばかりでなく、他人の権利利益を侵害し、一般公衆の利益を害するものであるから、商標権行使の範囲を逸脱した商標の不正使用をしているといわざるを得ない。
よって、本件商標は、商標法第51条第1項の規程により取消されるべきである。
2 弁駁の理由
(1)被請求人使用商標は、本件商標に類似する商標の使用にあたるか否かについて
被請求人は、被請求人使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標を使用していると主張するが、被請求人の主張には、何ら根拠がなく、被請求人使用商標は本件商標の類似の範囲に該当するものであり、全く同一とはいえず、商標法第51条の趣旨から考えて、本条では、厳格に解すべきであり、社会通念上同一ともいえない。
被請求人使用商標は、全体が丸みを帯びた肉肥の欧文字であるところ、特に「a」は右斜め下を開けた円のように表し、「o」はビックリマーク「!」に似せたように表してなることから、被請求人使用商標は、乳幼児用の可愛らしいイメージに近づけた独自性のある商標といえる。したがって、被請求人の被請求人使用商標は、使用上普通に行われる程度に変更を加えたものとは到底いい難いことから、商標法第51条第1項にいう「登録商標に類似する商標の使用」に当たるといえる。
(2)被請求人が被請求人使用商標を使用することは、請求人の業務に係る商品との間に出所の誤認混同を生じさせるか否かについて
ア 被請求人使用商標の使用について
(ア)被請求人は、被請求人使用商標が付された商品を独占的にファミリアに販売し、一般需要者にファミリアの商品として同社の直営店や百貨店で再販売している。
(イ)被請求人は、乙第7号証ないし乙第39号証の書証で、販売開始時期や継続期間について種々述べているが、実際、被請求人使用商標を被請求人が主張する期間に使用していたか明瞭に記載されておらず、かつ、これらは、一般需要者向けではなく、ファミリアや、ファミリアの店舗向けの型番・品番を照会した、いわば内部向け資料であるにすぎない。
(ウ)被請求人は、被請求人の販売活動において、皇室愛子様ご愛用品として採用されたことが知られ、被請求人の商標として広く知られるに至っていると主張するが、被請求人は、ファミリアを通じてのみ独占的に商品を供給しているのであって、ファミリアに販売された商品は、ファミリアの表示のもとファミリアの広告・パンフレットに掲載されファミリアの商品として一般需要者に販売されている。現に乙第48号証の雑誌に掲載されている記事「サーカスベア」の商品は、まさしくファミリアの名が表示されており、文中には「ファミリアの起き上がりこぼし」と記載されている。当該商品はマスメディアでさえ、ファミリアの商品であると認識し記事として掲載しているから、一般需要者にとってはなおさらファミリアの商品であると認識せざるを得ない。したがって、被請求人使用商標が被請求人の商標として広く知られている事実はない。
(エ)被請求人が特定の者に対し独占的に販売していることからすれば、たとえ商品タグの裏面に小さく、企画は被請求人であるとする表示があったとしても、ファミリアが被請求人から購入した商品を販売しているのであって、一般需要者が購入するのは、ファミリアからであり、ファミリアの表示の商品であることに違いはない。したがって、このような態様での使用は、被請求人による本件商標の使用とはいえず、本件商標が付された被請求人商品の出所表示機能を果たすのは、むしろ被請求人とファミリアとの間の取引のみである。
イ 請求人商標の使用について
請求人商標は、前記1(5)及び(7)イ(ウ)のとおり、多数の著名なキャラクターのデザインを手がける世界6大玩具メーカーの一つとして位置づけられ、ウォルトディズニー社からも数々の賞を受けるなどの実績を有している。また、日本国内においても、タカラトミー株式会社が平成13年(2001年)7月頃から約3年にわたって請求人商標を付した商品の販売をしており、「ウイニー・ザ・プー・ディスカバリー・ジム」は、7700ユニットの購入歴を有し、3年間で購入額が合計151,400米ドルにも達している(甲第9号証の1ないし3)。
その後、請求人は、平成18年(2006年)8月17日に販売を開始したが、請求人の販売開始以前から既に日本国内において請求人商標は、周知されていたといえる。
上記のとおり、被請求人使用商標は、未だ被請求人の業務に係る商品であることを表示する商標とはいえず、一般需要者にあたかもファミリアの業務に係る商品であるかのごとく出所について誤認混同を生じさせ、また、被請求人は、ファミリアが乳幼児おもちゃについて海外から輸入販売していることを承知していることから(甲第18号証及び甲第19号証のヒツジ、甲第24号証)、世界的に周知著名なPlaygro社の取引関係にあるかのような誤認を生じさせ、経済的に密接な関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について誤認混同を生じさせるものである。
(3)被請求人に故意があるか否かについて
ア 被請求人の販売方法は、全く独占的販売ルートであるが、被請求人とファミリアとの間には、専用使用権若しくは通常使用権の設定登録は、一切なされていない(甲第1号証)。
イ そもそも、請求人は、平成19年(2007年)3月13日付けの通知書(甲第36号証)を被請求人から受取り、被請求人との間の交渉時に、被請求人から「敬宮愛子内親王殿下のご愛用グッズに使用されている」との話しがあり、マスコミにも採り上げられるとのことで、請求人としては、「皇室」の御愛用品を納める業者との争いは、いかにもおそれ多く、そのような争いを極力避けようとし、インターネット上の記載を削除し、雑誌への請求人商品の掲載を中止する等の処置を迅速に行った。しかし、被請求人の提出に係る雑誌「女性自身」(乙第48号証)によれば、愛子内親王殿下がご愛用のおもちゃは、ファミリアの業務に係る商品として紹介され、被請求人の名は一切明記されていないことから、被請求人使用商標は、出所識別機能を果さないどころか出所の誤認を生じさせる態様で使用している。
ウ 被請求人は、販売開始時期を重視し、その旨言及しているが、本件審判については、販売開始時期が争点ではなく、むしろ被請求人による被請求人使用商標の使用は、本件商標の使用とはいえず、被請求人は、被請求人使用商標を付した商品がファミリアの販売によって、ファミリアにあたかもPlaygro社との取引関係にあるかのごとく誤認混同を生じさせ、請求人商標が世界的に周知著名な商標であることに便乗し、故意に請求人商標の顧客吸引力にフリーライドすることにある。このようなところ被請求人は、世界的に周知著名な商標が、我が国において登録されていないことを奇貨として、Playgro社から輸入販売を開始した請求人に対し侵害訴訟を提起したことは、外国において周知著名な商標の権利者の国内参入を阻止するものであるとしかいいようがない。
(4)結び
以上の理由から、被請求人は、本件商標と類似する被請求人使用商標を使用するにあたり、自らが「Playgro」を商標登録していたことを奇貨として、故意に他人の業務に係る商品と誤認混同を生じさせ、請求人商標の顧客吸引力にフリーライドする不正競争行為をなしている。被請求人のかかる行為は、商標権者として商標の正当使用義務に違反するばかりでなく、外国において周知著名な請求人商標の国内参入を阻止するものであり、かつ、他人の権利利益を侵害し、一般公衆の利益を害するものであるから、商標権行使の範囲を逸脱した商標の不正使用といわざるを得ない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第48号証を提出した。
1 被請求人の業務
被請求人は、昭和44年(1969年)にファミリアが米国のケイパート社と技術提携を行い設立した会社であり、ファミリアとの業務提携を維持・継続して今日に至っている。
ファミリアは、昭和23年(1948年)に設立され、育児用品のみならず幼児服・子供服や母親のための服、その他周辺商品に事業を拡張しており、我が国において有数の著名な会社となっている。
被請求人は、ベビー服やベビー用品等の企画と製造を中心にしており、生地の編立てから縫製まで一貫して自社にて行っている。
2 被請求人による本件商標の使用
被請求人は、昭和55年(1980年)に本件商標を出願し、同58年(1983年)に商標権の設定の登録を受けた(乙第6号証)。
そして、「Playgro」の名のとおり、「こどもが楽しく安全に遊び、健やかに成長するように」「こどもとともに遊び、ともに育つように」との願いを込めて育児用品を企画し、昭和63年(1988年)から現在に至るまでの約21年の長きにわたり布製の育児用玩具や人形に本件商標を使用している。また、平成19年(2007年)からは、木製の育児用玩具についても「Playgro」ブランドとして商品の企画、製造及び販売をしている。本件商標を用いた商品(以下、「被請求人商品」という。)の販売方法は、被請求人商品をいったんファミリアに販売し、同社が全国約150ヶ所に存在する同社の直営店や百貨店において一般需要者に販売する方法をとっている。乙第7号証ないし乙第39号証は、これらの直営店や百貨店を対象とした秋冬商品(主に3月頃開催)・春夏商品(主に10月頃開催)展示会において配布された平成元年(1989年)春夏?同20年(2008年)秋冬の商品展示会パンフレットの写しである。また、乙第40号証ないし乙第46号証は、被請求人商品が掲載されたファミリアカタログやファミリアニュースの写しである。これらのパンフレットやカタログには、本件商標が付されたボール、ハンドル等の育児用玩具や人形の被請求人商品の図や写真が掲載されており、被請求人が昭和63年(1988年)から現在に至るまで継続して本件商標と社会通念上同一の商標を育児用玩具や人形に使用していることが明らかである。
また、被請求人が商品に付して使用してきた「Playgro」にかかる標章は、乙第47号証のとおりであり、被請求人は、昭和63年(1988年)の使用開始から現在に至るまで一貫して「Playgro」の文字の右肩に飾りを付した本件商標と社会通念上同一の商標をボール、ハンドル等の育児用玩具や人形に使用している。そして、被請求人が販売活動において、「Playgro」ブランドを育ててきた結果、本件商標は、我が国の育児用玩具・人形の需要者をして被請求人の商標として広く知られるに至っている。例えば、乙第48号証の雑誌記事からは、被請求人商品のデザインと品質のよさから皇室愛子様ご愛用品としても採用されたことが知られる。
3 本件商標の登録が商標法第51条第1項の取消事由に該当しないこと
本件審判請求書おいて、請求人は、被請求人が本件商標の使用を開始した時期が平成9年頃であるとの前提の下で、本件商標の登録が商標法第51条第1項により取り消されるべきものである旨主張する。
しかし、かかる主張は、その前提において事実に反する。上述のとおり、被請求人が本件商標の使用を開始したのは、昭和63年(1988年)である。もっとも、請求人が本件審判請求書において被請求人使用商標(甲第11号証ないし甲第13号証)とする商標の使用開始時期は、使用商標Aが平成16年(2004年)、使用商標B及びCが同19年(2007年)であるが、これらの被請求人使用商標は、被請求人が昭和63年(1988年)から使用している「Playgro」の文字の右肩に飾りを付した商標と実質的に同一の商標にすぎない。
一方、請求人の主張によれば、Playgro社が設立されたのは、平成4年(1992年)4月であり、同社が「PLAYGRO」ブランドを立ち上げたのは同7年(1995年)とのことであるから、被請求人が本件商標の使用を開始した昭和63年(1988年)当時は、Playgro社自身や「Playgro」ブランド自体存在していなかったのである。商標法第51条第1項により商標登録を取り消すことができるのは、商標権者が故意に同条にいう行為をした場合である。本件審判においては、上述のとおり被請求人が本件商標の使用開始時である昭和63年(1988年)にPlaygro社の「Playgro」商標を認識することは不可能であること、被請求人使用商標が昭和63年(1988年)の使用開始時から実質的に同一であることから、被請求人が、故意に、被請求人使用商標を使用し、請求人の取引先であるPlaygro社の業務に係る商品と混同を生じさせたことは全くない。
したがって、被請求人の行為は商標法第51条第1項には該当せず、本件商標の登録は、何ら取り消されるものではない。

第4 当審の判断
1 商標法第51条第1項について
本件審判は、商標法第51条第1項の規定に基づき商標登録の取消しを求めるものであるところ、同条項の趣旨は、商標権者が、故意に、指定商品についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品に類似する商品についての登録商標と同一又はこれに類似する商標の使用をして、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした場合に、商標権者に対する制裁として、その商標の登録を取り消すというものである。
したがって、同条項に基づき本件商標の登録を取り消すためには、被請求人が上記類似範囲にある商標の使用をすることにより、請求人の業務に係る商品と出所の混同を生ずるものをしたこと、及びその使用について故意があったこと、つまり商品の出所の混同を生じさせることを認識していたことが要件となると解される。
そこで、この観点から以下に検討する。
2 商標の使用事実等について
当事者の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)請求人は、平成17年(2005年)3月1日に設立された法人であり、事業目的を育児用品、玩具の販売等とするものである(履歴事項全部証明書:甲第4号証)。
(2)Playgro社は、平成4年(1992年)4月にオーストラリアにおいて設立された法人であり、同7年(1995年)から「PLAYGRO」ブランドを立ち上げ、同8年(1996年)から同13年(2001年)の間に、ウォルトディズニー(WDCP)等と提携し、チャールズ・シュルツ・ピーナッツ、ロイヤルドルトンのバニーキンズ及びメイシー、ルーニー・チューン等のライセンスを取得し、同11年(1999年)以降の6年間で58か国への製品の流通に至っており、同10年(1998年)から同15年(2003年)の間にウォルトディズニーから数度の賞を受賞している(甲第5号証の2ないし5、甲第26号証、甲第27号証及び甲第34号証)。
そして、Playgro社は、オーストラリアの会社法に基づき平成16年(2004年)6月30日に登記され、株式会社となった(甲第7号証)。
(3)Playgro社に係るカタログの写し(甲第6号証の1)には、「Winnie the Pooh」、「LOONEY TUNES」に登場するキャラクター等の人形が掲載され、その1枚目の左上及び2枚目の左下に横長楕円形内に「p」と「l」の各文字を湾曲させた「playgro」の欧文字を白抜きで表した商標(別掲(1)、請求人商標)が表示され、2枚目の下部に「Playgro Australia Pty Ltd」の文字が記載されている。なお、その作成又は頒布の時期をうかがい知る表示は見当たらない。
また、甲第31号証及び甲第32号証のカタログの写しにも、請求人商標及び「Playgro Australia Pty Ltd」の文字が記載されており、「2001Catalogue」及び「Catalogue2002」の各記載から、平成13年(2001年)及び同14年(2002年)に配布されたと推認することができる。
さらに、Playgro社の会社概要2006年版(甲第5号証の1)にも、請求人商標が表示されている。
(4)ウォルトディズニーに係るキャラクターが表示されたおもちゃの写真(甲第28号証ないし甲第30号証)には、請求人商標が表示されている。
請求人に係るカタログの写し(甲第8号証)には、左上に請求人商標と同一の標章が表示され、下部に「輸入元:株式会社ダッドウェイ」及び「横浜市港北区新横浜2-15-12」と記載されている。なお、該カタログの作成又は頒布の時期をうかがい知る表示は見当たらない。
(5)「2007 春・夏 総合カタログ」の写し(甲第10号証の1)には、その2枚目左上に請求人商標、その右に「プレイグロ オーストラリアで大人気の育児ブランド“プレイグロ”。ともに遊び、ともに育つという『Play & Grow』という願いを込めたファンキーでやさしいおもちゃたち!」、4枚目下部に「ダッドウェイ」及び「横浜市港北区新横浜2-15-12」の各記載が認められる。
(6)雑誌「赤すぐ 2007.1・2」の写し(甲第10号証の3の2枚目)には、幼児用玩具の紹介とともに請求人商標、「playgro」及び「(株)ダッドウェイ」の各記載が認められ、「赤すぐ2007年3・4月号」別冊付録の写し(甲第10号証の2の2枚目)にも「playgro」及び「ダッドウェイ」の各記載が認められる。
(7)タカラトミー株式会社に係る(請求人主張)カタログの写し(甲第9号証の1)には、左側の一部が欠けている請求人商標が記載され、カタログの写し(甲第9号証の2)には、請求人商標が記載されている。
しかし、いずれのカタログにも、作成又は頒布の時期をうかがい知る表示は見当たらない。
(8)被請求人は、昭和44年(1969年)1月に設立された法人(履歴事項全部証明書:甲第2号証の1)であり、同25年(1950年)に設立されたファミリアの関連会社である(甲第3号証)。
(9)被請求人に係ると認められる平成元年(1989年)ないし同20年(2008年)のカタログの写し(乙第7号証ないし乙第39号証)には、幼児用のおもちゃ、人形等が掲載されており、図案化した「o」の文字の右上に滴状の図形を配し、全体に丸みを帯びたゴシック体の「Playgro」の欧文字を表した商標(別掲(2)、以下「本件使用商標」という。)及び該本件使用商標を基調として色彩又は該滴状の図形を葉っぱ状の図形に変更した商標が表示されている。
また、写真(甲第11号証ないし甲第14号証)、ウェブページの写し(甲第16号証の2)及びファミリアに係るカタログの写し(甲第17号証の2、甲第18号証及び甲第19号証)にも、本件使用商標及び該本件使用商標を基調として色彩又は該滴状の図形を葉っぱ状の図形に変更した商標が表示されている。
なお、ウェブページの写し(甲第20号証及び甲第21号証)は、不鮮明のため、本件使用商標を明確に認めることができない。
(10)ファミリアに係るカタログの写し(乙第42号証ないし乙第46号証)には、本件使用商標と色彩が相違する商標が表示された幼児用のおもちゃが掲載されている。
(11)「Playgro」ロゴの一覧(乙第47号証)には、本件使用商標を基調として、色彩を赤色とするもの、青、黄及び赤の3色からなるもの、「o」の文字の右上に配された滴状の図形を葉っぱ状の図形に変更したものが認められる。
(12)雑誌「女性自身」(乙第48号証)には、愛子内親王殿下ご愛用のおもちゃとして、本件使用商標が付された起き上がりこぼしが掲載されている。
3 商標法第51条第1項該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「Playgro」の欧文字を活字体で表してなるところ、該文字は特定の語義を有しない造語と認められるものであり、これよりは「プレイグロ」の称呼を生ずるものである。そして、本件商標の指定商品は、「おもちゃ,人形」を含むものである。
(2)本件使用商標について
本件使用商標は、別掲(2)のとおり、構成中の「o」の文字の右上を僅かに切り欠き、該切り欠きから右上方に向かって滴状の図形を配してなり全体に丸みを帯びたゴシック体の「Playgro」の欧文字からなるものであり、その使用に係る商品は、幼児用のおもちゃ、人形等(乙第7号証ないし乙第39号証)と認められる。
(3)本件商標と本件使用商標との比較
本件商標と本件使用商標とを比較すると、いずれも「Playgro」の綴りを同じくするものであり、これより「プレイグロ」の称呼を生ずるものであるが、その書体を異にするうえ、「o」の文字部分の図案化の有無の差異をも有するものであるから、両商標は、類似の商標というべきものである。また、本件使用商標において、滴状の図形を葉っぱ状の図形に変更した商標も同様に本件商標と類似するものである。
そして、本件使用商標の使用に係る商品「幼児用のおもちゃ、人形」は、本件商標の指定商品中、第28類「おもちゃ,人形」と同一又は類似のものである。
(4)請求人商標について
請求人商標は、別掲(1)のとおり、黒色の横長楕円形内に「p」と「l」の各文字を顕著に湾曲させ、かつ、全体の文字も湾曲させた「playgro」の欧文字を白抜きで表した構成からなり、前記2(3)ないし(6)のとおり、乳幼児用おもちゃ、人形等に使用するものである。
なお、請求人は、該横長楕円形が青色と主張するが、請求人の提出に係る証拠からはこれを認定することができない。
また、請求人は、請求人商標が50か国以上で販売されるディズニーのキャラクター等の商品に付されており、世界的な周知著名性を獲得していると主張している。
しかし、ディズニーの著名なキャラクター等に係る商品に請求人商標が使用されているとしても、日本国内において、タカラトミー株式会社及び請求人によって請求人商標が付された商品の市場占有率、販売期間、広告宣伝の方法・内容等を具体的に示す証左は提出されておらず、該キャラクター等の知名度、顧客吸引力はさておき、直ちに請求人商標が我が国の需要者の間に広く認識されていると認めることはできない。
(5)故意について
本件使用商標と請求人商標とを比較すると、文字部分は、語頭の欧文字が大文字か小文字かの差異を有するものの「playgro」の綴り字を同じくするものであるから、その構成文字に相応して「プレイグロ」の称呼を生じ、いずれも特定の語義を有しない造語と認められる。
次に、外観についてみると、本件使用商標は、全体に丸みを帯びた字体及び「o」の文字を図案化した点に特徴を有するものであるのに対して、請求人商標は、横長の楕円図形内に「playgro」の欧文字を該楕円図形の湾曲に沿うように変形させた点に特徴を有するものであり、また、それぞれの文字部分の書体も異にするものであるから、両商標は、外観上相違するものである。
そうすると、本件使用商標と請求人商標とは、外観が相違し、観念については比較することができないとしても、称呼を同じくする類似の商標というべきものであり、いずれも商品「おもちゃ、人形」に使用していると認められる。
ところで、商標法第51条第1項の規定による取消審判は、ただ単に、類似した商標を有する者との関係を調整する規定ではなく、一般公衆の利益を害するような登録商標の使用をした場合についての制裁規定と解される。そうとすれば、商標登録の適否について審理する無効審判等とは異なり、一般公衆の利益を害するような登録商標の使用の事実の存否が前提となり、これが認定されない限り、仮に請求人の所有又は使用する商標と本件商標とが類似するものであるとしても、それ自体をもって、商標登録を取り消す理由とはなし得ないものである。
請求人の主張によれば、請求人商標は、その使用が平成7年(1995年)(甲第5号証の2)から開始されたものであるのに対し、本件商標は、請求人商標が使用される以前の昭和55年(1980年)6月6日に登録出願、同58年(1983年)8月30日に設定登録されたものであるうえ、本件使用商標も請求人商標が使用される以前の平成元年(1989年)に採択され、以降継続的に使用(乙第7号証ないし乙第39号証)され、現在に至っているものと認められる。そして、本件使用商標の色彩及び「o」の文字の右上の図形部分の態様を変更した商標(乙第47号証)は、請求人商標が使用された以降に使用されたものと認められるが、これらは、いずれも本件使用商標と酷似しているといい得るものである。
請求人は、本件使用商標が本件商標と類似するものであり、かつ、周知著名な請求人商標とも類似することを前提として、本件商標の登録は、商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきものと主張するが、上記のとおり、本件使用商標と請求人商標とは、称呼を同じくする類似の商標であるとしても、本件使用商標の使用開始時期及びその後の使用状況を勘案すると、被請求人が請求人商標を認識したうえで本件使用商標を採択、使用したということは到底できない。
そして、本件使用商標及びこれの特徴を備えた商標(乙第47号証)は、上記のとおり、請求人商標の構成態様に近づけるような態様に変更したものでもないから、かかる変更された態様をもって、直ちに被請求人が商品の品質の誤認又は請求人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたということはできず、ほかに、請求人の提出した証拠によって、被請求人が商品の品質の誤認又は請求人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたと認めることもできない。
したがって、被請求人が本件商標と類似する本件使用商標をその指定商品に使用するにあたって、商標法第51条第1項に規定する「故意」はなかったものといわなければならない。
4 結び
以上のとおり、被請求人は、故意に本件商標と類似する本件使用商標をその指定商品に使用して商品の品質の誤認又は請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたということはできないから、本件商標の登録は、商標法第51条第1項の規定に該当するとして、その登録を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)請求人商標


(2)本件使用商標


審理終結日 2008-12-22 
結審通知日 2008-12-25 
審決日 2009-01-14 
出願番号 商願昭55-46567 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (Y0608091518192021222425272831)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 中村 謙三
特許庁審判官 末武 久佳
田村 正明
登録日 1983-08-30 
登録番号 商標登録第1611401号(T1611401) 
商標の称呼 プレーグロー 
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所 
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所 

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