• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
管理番号 1192318 
審判番号 無効2007-890168 
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-29 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第4715767号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4715767号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4715767号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成からなり、平成14年11月25日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同15年10月10日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用する登録第1592525号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成からなり、昭和46年2月24日に登録出願、第17類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同58年5月26日に設定登録されたものである。その後、商標権の存続期間の更新登録が2回なされ、さらにその後、指定商品については、平成16年9月8日に第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」、第24類「布製身の回り品,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「被服」を指定商品とする書換登録がなされているものである。
同じく、登録第3070070号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(3)に示すとおりの構成からなり、平成4年5月27日に登録出願、第25類「ジ-ンズ製の被服」を指定商品として、同7年8月31日に設定登録されたものである。その後、商標権の存続期間の更新登録がなされているものである。
そして、いずれも現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第121号証(枝番を含む。)を提出した。
1 理由
(1)無効の事由1?商標法第4条第1項第11号
引用商標は、いずれも、本件商標出願の日より前に商標登録出願され、本件商標に係る指定商品と重複する商品を指定商品とする登録商標である。
本件商標は、5角形の幾何図形を、そのほぼ外形線上及び内側に2重の点線をもって書し、さらに、上下間の中央に外形の五角形を横断するように、2本の点線で描かれた弓形の図形を2つ横に並べて配し、さらに、五角形の中央よりやや下側を横断するように、一本の点線で描かれた横線を配してなるものである。
ア 引用商標1との類似性
引用商標1は、本件商標と同様の5角形の図形を、そのほぼ外形線上及び内側に2重の点線をもって書し、小さな縦長の長方形の図形を上下中央部のやや上部の左外側に付し、且つ上下間中央に本件商標と同様に左右に並んだ2本の弓形の点線によって描かれた図形を描いてなるものである。
本件商標と引用商標1は、その外周を構成する5角形が、最外周が実線で描かれ、そのわずかに内側及び少し距離を開けた内側に点線で同様の5角形が描かれ、上部の2本の点線と両側に描かれた2本の点線は交差しているという点、及び5角形の縦横の比率、両側の傾斜の角度及び底部の突出の角度が同じである。両商標の基本的構成にこのようなほぼ同一と評価しえる図形が使用されていることにより、本件商標と引用商標1との間には非常に強い共通性が認められる。
なお、本件商標と引用商標1における5角形の図形には、様々なバリエーションが考えられるものであるから、商標の比較においても当該部分の共通性は両商標の類似性を強める方向に作用することは明らかである。
このように考えれば、本件商標と引用商標1がほぼ同一の形状の5角形の外周を有している点は、両者の類似性を強く印象付けるものであることが明らかである。
さらに、本件商標に描かれた横に並んだ2つの弓形の図形は、引用商標1に描かれた横に並んだ2つの弓形との共通性を非常に強く印象付ける作用をもっている。従って、この部分が類似していることは明らかである。
このように、5角形の図形がほぼ同一である点と、2つ並んだ弓形の図形の強い共通性に照らすならば、本件商標が引用商標1に類似していることは明らかというべきである。
たしかに、本件商標は、引用商標1に比して、2つの弓形を構成する点線の湾曲の程度が異なるという微細な相違点は存在する。
しかし、商願平成6-3468に対する登録異議の申立についての平成10年3月19日付け決定(甲第115号証)や、商願平成6-3469に対する登録異議の申立についての平成10年2月12日付け決定(甲第117号証)を見ても明らかな通り、単に2つの弓形の湾曲の程度が異なるということだけでは類似性は否定されないのであって、本件商標が全体として観た場合に引用商標1と彼此相紛れるおそれのある外観であることは明らかである。
商願平成6-3466に対する登録異議の申立についての平成10年3月5日付け決定(甲第116号証)、及び商願平成6-3467に対する登録異議の申立についての平成10年3月19日付け決定(甲第118号証)においても、同様に、2つの弓形を構成する点線が必ずしも引用商標1と同一でない商標出願について、全体として観た場合の外観上の紛らわしさを認定し、混同のおそれがあると明確に述べている。
また、本件商標には、五角形の中央よりやや下側を横断するように、一本の点線で描かれた横線が存在するが、この横線の存在は両商標の類似性の判断には何ら影響を及ぼすものではない。この横線は、五角形の外周及びその内側の点線を構成する線と同様に、単純な図形であり、ポケットの形状を表す背景としてしか認識されないのであって、本件商標を観る者は2つの弓形で構成される部分により着目するからである。
イ 引用商標2との類似性
引用商標2は二つの弓形の図形からなる。
本件商標に描かれた横に並んだ2つの弓形の図形は、引用商標2に描かれた横に並んだ2つの弓形の図形と同様に、両端から中央にかけて鋭く下降し、V字型の図形を構成しているのであって、この強い共通性に鑑みれば、本件商標が引用商標2に類似していることはあきらかである。
以上のように、本件商標は商標法第4条第1項第11号に反してなされたものである。
(2)無効の事由2?商標法第4条第1項第10号、同第15号
本件商標は、請求人の商標の周知著名性により、また、商品の特性及び取引の実状により、具体的な商品において使用された場合には、請求人の商品と混同を生じ、又は請求人ないしは請求人と関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがあるものであって、商標法第4条第1項第10号ないしは同第15号に違反して登録されたものである。
ア 請求人の商標の周知著名性
請求人は、引用商標1及び引用商標2を、100年以上も前から、請求人を表示する商標として、請求人商品に使用しており、引用商標1及び引用商標2は、本件商標の指定商品の需要者において、請求人の商品を表すものとして広く認識されており、その周知著名性の程度は高いものである。
引用商標1及び引用商標2を用いた商品は、少なくとも、昭和40年代より現在に至るまでの長年にわたって、男性誌、女性誌を問わず、各種雑誌記事等に記載され、テレビにおいてコマーシャルフィルムが放送され、膨大な量の商品が購入されており、請求人が用いた宣伝広告費も高額に上り、その中でも、請求人は引用商標1及び引用商標2を強調した宣伝広告を続けていたものである。
そして、遅くとも本件商標の出願日である平成14年11月25日までには、請求人の取り扱うジーンズパンツに限られず、スカート、シャツ、ジャケット等、請求人が取扱うあらゆる商品を表示するものとして周知著名になっていたものである。
著名な請求人商標である「LEVI’S」と並んで、以下に述べる各種雑誌記事等においては、引用商標1のうち、その外周五角形形状とその内部の二つのアーチ形状が、これらの雑誌記事等の視聴者に大きく印象が残るものであり、当該部分のみで請求人の商品を表示するものとして認知される識別力が高い部分となり、需要者に周知著名となっているものであることが容易に推認される。以下、この点について詳述する。
(ア)雑誌記事
引用商標1及び引用商標2が表示された新聞雑誌記事には甲第6号証ないし甲第113号証のようなものがある。
(イ)請求人のジーンズパンツ等の売上
請求人のジーンズパンツの日本における売上は、平成7年(前年12月1日から同年11月31日までの会計年度における売上高、以下同じ。)から平成11年は、250億円を超え、平成12年から平成15年までも、平成13年を除き年間売上高が200億円を超えており、平成13年の年間売上高も200億円近くある。平成7年から平成15年までの期間に限っても、請求人のジーンズパンツの売上総数は5千万本を超えている。
請求人のジーンズパンツ売上のうち、大半のジーンズパンツには、引用商標1及び引用商標2が使用されており、このような莫大な売上高からは、引用商標1及び引用商標2を使用した請求人のジーンズパンツが、大多数のジーンズパンツ取引者・需要者が目に触れたことが容易に推認可能である。
(ウ)その他の宣伝広告等
請求人は、平成11年7月から同12年5月までの間、全国3箇所において、「リーバイス ヒストリー展」を開催した(甲第114号証)。当該展覧会のポスター、チラシ及び入場券は、請求人の登録商標たる「LEVI’S」との欧文字と、引用商標1及び引用商標2が使用された請求人のジーンズパンツのバックポケットを16個並べた写真が用いられており、これらのポスター、チラシ及び入場券を目にした需要者に、引用商標1及び引用商標2が請求人の商品であることを表示する商標であることを強烈に印象づけるものとなっている。なお、当該展覧会の延べ入場者数は35,766名であった。
請求人は、上記のとおり、各種宣伝広告を行ってきたものであるが、その宣伝広告費は、過去10年間において毎年約15億円から29億円という膨大な金額に上る。請求人の主力商品であるジーンズパンツの大半に引用商標1及び引用商標2が用いられていたことは上記に述べたとおりであり、かかる広告宣伝によって、引用商標1及び引用商標2が需要者に広く認知されたものであることを推認しうる。
さらに、請求人による宣伝広告に加えて、請求人の宣伝広告によらず、雑誌等の特集によって、引用商標1及び引用商標2が用いられた請求人の商品が掲載されることも多々あり、これらの媒体での引用商標1及び引用商標2の周知効果も大きい。
さらには、平成12年6月28日、東京地方裁判所において請求人が提起した商標権侵害差止等請求訴訟において、請求人の商標が請求人の商品又は営業表示として需要者に広く認識され、周知となっていることが認められ、標章の使用の差止が認められた(甲第4号証)。
右事件は控訴されたが、平成13年12月26日、東京高裁も東京地裁の右判決を維持し(甲第5号証)、右判決は確定した。
上述から、請求人の引用商標の周知著名性は明らかである。
イ 引用商標の独創性
引用商標1の内部の二つのアーチ形状からなる二重破線及び引用商標2は、請求人が100年以上も前から、競業者の商品と区別するため、そのジーンズパンツのバックポケットに採用したものであるが、当該二重破線の形状は、ジーンズパンツの形状やバックポケットの用途等から一般的に生まれるものではなく、極めて独創性が高いものである。この二つのアーチ形状からなる二重破線は、外周部をなす五角形部分の形状と相まって、その特徴的なバックポケットのステッチ様の商標を構成するのであり、引用商標1もまた独創的なものといえる。引用商標1及び引用商標2は、その高い独創性とその周知著名性とが相まって、強い出所表示機能を有するものである。
ウ 請求人の商品及びこれに使用される商標の特性
請求人は、1853年にアメリカにおいて設立された会社であり、19世紀後半に、耐久性のあるデニム地を使い、ポケットを金属のリベットで補強した「ジーンズ」を世界で初めて製造・販売した会社である。その後100年以上にわたって、請求人は、引用商標1および2を含む多くの商標を付したジーンズを販売してきたものである。
引用商標1および2は、ジーンズの後ろポケットの形状及びその内部に糸で描かれるステッチ、または内部のステッチのみの形状を現したものであるが、これらのステッチは縫製の過程で微妙にずれることがある。また、上記のように100年以上のジーンズ製造販売の歴史があるゆえに、ポケットの形状またはステッチの形状が微妙に異なるモデルが販売されていることがある(甲第114号証の1ないし4参照)。
しかし、請求人の商品には、共通して、不変的に、2つの弓形の図形からなる商標が使用されている。この形状は「アーキュエットステッチ」と呼ばれ、ジーンズを購入する需要者にとってジーンズのブランドを判断する重要な要素となっている。
このように、請求人の商品に使用されている「アーキュエットステッチ」の商標は、その形状にある程度の幅を有しつつ、全体的には、2つの弓形の図形として需要者に認識されているものである。
エ 請求人の商品との混同を生ずるおそれ
上記のような請求人の商標の著名性及び商品の特性を考慮すれば、本件商標が実際に商品に使用された場合には、請求人の商品との混同を生じることが明らかである。
まず、商品の特性上、ポケットの形状及びその内部のステッチの形状にはばらつきがあることが当然のこととして需要者には受け入れられており、商標の細かな差異は混同のおそれを否定する理由にならない。例えば、確かに仔細に検討すれば、ポケットの外周のうち、左右各辺に沿う2本の線の上方の間隔は、本件商標の方が、引用商標1ないし2より大きい。
しかし、請求人の実際の商品の中には、本件商標と同様に、上方の間隔の広がりの程度が大きいものも存在するのであり(甲第114号証の1ないし4参照)、これらの商品については、上記差異の存在は当てはまらない。なにより、需要者は、実際の商品を目にするに当たっては、かかるミリ単位の相違を重要な要素として認識するものではない。
さらに、仔細に検討すれば、本件商標のポケット形状の内部を形成する二つの弓形の図形は、請求人のアーキュエットステッチに比べて曲線の湾曲の度合いが異なる。
しかし、請求人のアーキュエットステッチが非常に有名になった結果、2つの弓形の図形からなる後ろポケットのステッチは請求人を示すものであるということは需要者にとって常識となっている。これは、甲第17号証の、各社から販売されているジーンズの後ろポケットの比較記事において、2つの横に並んだ弓形の図形を採用しているのが請求人だけであることからも明らかである。
このように「2つの弓形の図形=請求人のジーンズ」ということを知っている需要者が、本件商標が付された商品を見た場合、請求人の商品のバリエーションの一つであるか、少なくとも請求人と被請求人との間に何らかの経済的な関係があるものと誤解する可能性があることは明らかである。
この点を示すため、請求人の商品と、本件商標が実際に付された商品の写真を甲第119号証及び甲第120号証に示す。甲第119号証の1は、請求人の商品を販売するインターネットのオンラインショップのウェブサイトにおいて掲載されている請求人の代表的な商品である「501」という商品の後ろポケット部分の写真である。甲第119号証の2は、同ウェブサイトの、請求人の商品である「エンジニアドジーンズ」という商品の後ろポケット部分の写真である。
さらに、甲第120号証は、「ザ・リアルマッコイズ」というブランドの商品を販売するインターネットのオンラインショップのウェブサイトにおいて掲載されている、「COWBOY PANTS Lot.S613」という商品の後ろポケット部分の写真である。「ザ・リアルマッコイズ」というブランドは、被請求人の代表者である岡本博氏が創立メンバ一の一人となっている会社が販売している商品のブランドであり、「ザ・リアルマッコイズ」のブランドの商品に付されている後ろポケットの形状は、まさしく本件商標と同一のものである。
そして、甲第119号証の1や甲第119号証の2の請求人の後ろポケット部分のステッチを良く知る者が、甲第120号証の被請求人の商品の後ろポケット部分のステッチを目にした場合は、2つの弓形の図形がまず目につき、両者に細かな違いがあるとしても、構成の軌を一にするものであるため、これを請求人の商品と混同することは明らかである。
なお、この点について、請求人が株式会社エドウィンの登録した同様の形状のジーンズポケットのステッチに関する商標に対して行った無効審判(無効2003-35035、甲第121号証参照)においても、請求人の商標と株式会社エドウィンの商標は互いに類似するものではないものの、2つの弓形のステッチが「ともに二重の破線をもって、五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され、これが中央部で下向きに形成されており、両ステッチ部分の形状をおおまかに観察すれば、互いに近似する形状であり、この点において、両者は構成の軌を一にするといえるものである」として、混同のおそれを認定している。
本件商標も、2つの弓形のステッチが二重の破線をもって、五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され、これが中央部で下向きに形成されているものであり、おおまかに観察すれば、請求人の商標と互いに近似する形状であることは明らかである。
本件商標の指定商品及び引用商標が用いられるジーンズパンツ等の商品は、上記のとおり、同一又は極めて密接な関連性を有しており、その取引者及び需要者はほぼ完全に共通する。
ジーンズパンツは、現在の日本において、男女及び年齢を問わずに一般的に日常的に愛用されるに至った数少ない日用衣料品であり、ジーンズパンツの一般的な需要者とは、通常の一般人であって、ジーンズパンツのコレクターや、ファッション雑誌でジーンズパンツの比較検討を行った上で購入するような需要者ではない。
通常の一般人がジーンズパンツの購入にあたって商品を選択するに際しては、各ブランドのブランドイメージが重要となるのであり、請求人の引用商標1等の宣伝広告等で周知著名となっているブランドについての記憶を頼りに、商品の選択を行うことが一般的で、細部についてのデザイン等の差異によって商品を識別することは通常行われない。すなわち、日用衣料品たるジーンズパンツを購入する際に普通に払われる注意力の程度は、経験則上、それほど高度なものとはいえないというべきである。
これに、請求人の商標が周知著名であることを考慮すれば、本件商標は、需要者において、商品の出所について混同を生じるおそれがあるものである。
以上のように、本件商標は商標法第4条第1項第10号ないしは同第15号に反してなされたものである。
(3)結論
したがって、本件商標の商標登録は無効とされるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 引用商標1との類似性について
本件の請求書において、請求人は、本件商標には、引用商標1の外周を構成する5角形とほぼ同一と評価しえる図形が使用されていることにより引用商標1と非常に強い共通性が認められること、及び、その内部に描かれた横に並んだ2つ弓形の図形も非常に類似するものであって、引用商標1に描かれた横に並んだ2つの弓形との共通性を非常に強く印象付ける作用をもっているため、全体として両商標が類似していることは明らかであることを述べた。
これに対し、被請求人は、答弁書において、まず、ジーンズのヒップポケットは縫製を簡易にするために直線からなる五角形又はこれに準じた形状をしており、また二重ステッチで縫い付けられているのが通常であるため、五角形の外枠は極めてありふれた形状であり、また多くの企業が商標として採択しているから、五角形の外枠そのものは自他商品の識別力がなく、その内部に現された形状こそが自他商品識別の際の重要な要素になるものであると述べる。また、被請求人は、その根拠として、東京高裁平成11年(行ケ)第166号判決を引用している。
しかし、かかる被請求人の主張は根拠のないものである。
まず、「ジーンズのヒップポケットは縫製を簡易にするために直線からなる五角形又はこれに準じた形状をしており」という点については、そもそも、縫製を簡易にするという目的であればより辺の数の少ない四角形にするのが合理的なのであり、五角形が選択されることはないのであるから、かかる主張は前提からして誤ったものである。
また、ジーンズの後ろポケットには様々な形状が考えられるのであり、甲第13号証の雑誌記事を見ても、バックポケットの形状には、底辺が平らになった六角形のもの、下部が曲線で構成されているものなど、様々な形が存在しえるものであり、その数あるバリエーションの中から本件商標に引用商標1と同一の逆ホームベース型が使用されているという事実は、両商標の類似性を考慮するに当たって重要な要素となっている。
この点、被請求人の引用した東京高裁平成11年(行ケ)第166号判決(平成11年12月15日判決言い渡し)よりも後に出された東京高裁平成13年12月26日判決(平成12年(ネ)第3882号不正競争行為差止等請求控訴事件)の判決文(甲第5号証)においては、「遅くとも昭和59年までには、…少なくとも、ジーンズのバックポケットのステッチの形状がメーカーによって異なること、したがって、その形状によってジーンズの出所を識別し得ること自体は、需要者に広く知られていたものと認めることができる。」と明確に述べられており、かかる五角形の外枠を共通にする商標を比較するにあたっては、「バックポケットの外周近くで概ねその形状に沿って五角形を形成する2本の線の部分」を基本的な構成態様の一部として比較の際に考慮されていることが明らかである。
従って、ともに五角形の外枠を有する本件商標と引用商標1の類似性の判断に当たっては、両商標がほぼ同一といえる五角形の外周の形状を有している点が考慮されなければならない。
次に、本件商標と引用商標1において、共通する五角形の外枠の内部に、さらに五角形を横断する2つの曲線が形成されているという点において両商標は基本的態様を共通にすることが明らかである。
商標の類否は、取引者・需要者が取引時に有する通常の注意力をもって、時と処を異にして観察した場合、取引者・需要者が両商標を見誤るかどうかを基準として判断すべきであり、両商標を並べてみて直接対比をして商標の類否を判断すべきではない(小野昌延編『注解・商標法』199頁〔工藤〕)。
また、ジーンズパンツは、現在の日本において、男女及び年齢を問わずに一般的に日常的に愛用されるに至った数少ない日用衣料品であり、ジーンズパンツの一般的な需要者とは、通常の一般人であって、ジーンズパンツのコレクターや、ファッション雑誌でジーンズパンツの比較検討を行った上で購入するような需要者ではない。
通常の一般人がジーンズパンツの購入にあたって商品を選択するに際しては、各ブランドのブランドイメージが重要となるのであり、引用商標1等の宣伝広告等で周知著名となっているブランドについての記憶を頼りに、商品の選択を行うことが一般的で、細部についてのデザイン等の差異によって商品を識別することは通常行われない。すなわち、日用衣料品たるジーンズパンツを購入する際に普通に払われる注意力の程度は、経験則上、それほど高度なものとはいえないというべきである。
そして、本件商標と引用商標1は、外周を形成する五角形及びその外周近くで概ねその形状に沿って五角形を形成する2本の線の部分と、外周部左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分とからなるものであって、内部に形成された部分は、外周部の左右各辺から商標横方向中央にかけての部分に、それぞれがほぼ平行な2本の曲線からなるアーチ形状が左右一つずつ、計二つ形成されるという基本的な構成態様において共通している。
細部の形状においても、外周を形成する五角形を構成する各辺の傾斜、その内側の二重破線の間隔、交差する位置について共通性があり、内側の左右の各アーチ形状が、いずれも外周部の左右両辺のほぼ中央の各端部から、横方向中央部分に向って延び、中央末端部分が左右の各端部の位置よりも低くなっているという、基本的な構成要素において共通性を有するものである。
被請求人が述べる差異点は、両商標を仔細に直接対比して検討すれば気づくとしても、時と処を異にする点で観察した場合(離隔観察の場合)には看者にとって重要な印象を与えない、ごく小さい局部的な形状の差異に過ぎないというべきである。
たとえば、曲線同士が引用商標1においてはほぼ平行であるのに対し、本件商標においてはV字状になっており平行ではない、という点については、もし被請求人の言う「平行であるか否か」は2本の曲線の上下の間隔が、両端部から中央に下降する際に一定しているか、あるいは上下の間隔が場所によって広くなったり、狭くなったりしているか、という意味であるのならば、かかる差異は両商標を十分に拡大して実際に物差しで計測しなければ判別できないような差異であって、類似性の判断においては無視しえるものといえるし、もし2本の曲線の最も高い位置と最も低い位置の差異のことを指しているのであれば、引用商標1においては2本の曲線のも高い位置と最も低い位置には明確な差があり、「ほぼ平行」という表現は誤っている。
そして、本件商標における2本の曲線も、引用商標1における2本の曲線も、弓形を描いて中央で接合するという点において共通するのであるから、この点が類似性を否定する理由とはならない。
また、線対称か、線対称ではないか、という点についても、本件商標における曲線の図形が、中央部分を境にして左の図形と右の図形が全く異なるものであるのならともかく、実際にはともに端部から中央に伸びるほぼ同一機軸の曲線であって、そもそも一般的な看者が「本件商標における2本の曲線が厳密に言えば左右対称ではない」と気づくこと自体がありえないものである。また、上記の離隔的な観察をする場合には、かかる些細な差異点は、2本の曲線という共通点によってほぼ無視されるといえるものである。
さらに、同様に、「破線で描かれた五角形の両端中央部から並行に延びる2本の破線からなる曲線が中央部で接合する図形」という基本的な構成要素を覆すほどの差異点とはいえない。
また、2本の曲線が交わってひし形を形成しているか否か、またその中央に横線が設けられているかという点についても、全体としての共通点の中における僅差であって、特に離隔的観察をする場合には共通性に包摂される程度のものであり、これらの差異点による印象が上記共通点による強い印象を凌駕するものとは到底認められない。
また、横線についても、一本の破線であることから、看者にとっては特に意味のある図形とは判断されず、地の模様として認識されるものといえるから、この点についても共通性を覆すものとはいえない。
中央部が鋭角に交わっているか、鈍角に交わっているかという点についても、「破線で描かれた五角形の両端中央部から並行に延びる2本の破線からなる曲線が中央部で接合する図形」という共通性に包含される程度の些細な差異でしかないといえる。
五角形の外枠自体が線対称であるか否かという点に至っては、通常の観察においては分からない誤差ともいえる差異であって、ほぼ無視できるものである。
最後に、「アーキュエットな外観を呈しているか否か」という点にあたっては、被請求人は、引用商標1は眼鏡橋や錦帯橋のような丸みを帯びた女性的なイメージを醸し出しているのに対し、本件商標は急峻な山とその間の谷をイメージさせ、男性的なイメージを与えるデザインになっていると述べるが、眼鏡橋又は錦帯橋であるか、急峻な山とその間の谷であるかは被請求人の独自のイメージに過ぎず、両商標の共通性を検討するものではないため、類似性を否定する根拠とはなりえないものである。
以上より、本件商標と引用商標1は、類似しているものである。
この点、被請求人は、乙第3号証として、五角形の外枠とその内部にステッチ上の曲線模様を配したものが多数並存していると主張する。しかし、本件で問題にされるのは、本件商標と引用商標1の類否判断であって、そのほかに五角形の外枠とその内部にステッチ上の曲線模様を配したものが存在するという事実は両商標の類似性には影響を及ぼさないものであるから、被請求人のかかる主張は当を得たものではない。
イ 引用商標2との類似性について
請求書でも述べたとおり、引用商標2は二つの弓形の図形からなるところ、本件商標に描かれた横に並んだ2つの弓形の図形は、引用商標2に描かれた横に並んだ2つの弓形の図形と同様に、両端から中央にかけて鋭く下降し、V字型の図形を構成しているのであって、この強い共通性に鑑みれば、本件商標が引用商標2に類似していることは明らかである。
なお、この点、被請求人は、本件商標は外枠部分とステッチ部分の双方とからなるものであり、これらは一体として、全体を不可分のものとして理解・認識されるものとみるのが相当であるから、明らかに構成を異にするものであると主張する。
しかし、被請求人のいう「本件商標は外枠部分とステッチ部分の双方とからなるものである」点は妥当であるとしても、いかなる商標と本件商標を対比するかによって、その判断の内容は異なって然るべきである。上述のとおり、本件商標と引用商標1が比較される場合には、両商標がともに、ほぼ同一ともいえる五角形の外枠を有しているために、両者を比較するに当たっては、かかる共通点が重要な類似点として看者に認識される。
これに対し、本件商標と引用商標2を比較する場合、五角形の外枠は引用商標2には存在しないものの、五角形の外枠が請求人のジーンズに長年使用されてきた結果、通常の看者は、本件商標と引用商標2を見た場合、引用商標2が、ジーンズのバックポケットの内部の図形であることを認識し、従って引用商標2と、本件商標の内部の図形との類似性を判断するものといえる。甲第17号証参照。
甲第17号証には、「ステッチをみてメーカー名が解りますか?」として、「ブルージーンズとして最もジーンズらしい部分、それはヒップラインと、ヒップについているパッチ・ポケットである。…それだけに、2つのポケットとそこにあるステッチこそブルージーンズのシンボルといえるだろう。」とあることからすれば、バックポケットの形状とともに、その内部のステッチの形状が自他商品を識別する際の重要な要素となるというのが相当である。
したがって、本件商標と引用商標2との間には、2本の並行する破線からなる2個の曲線という共通点、しかも中央部が交差しておらず、中央部の横線も存在しないという点においてより強い類似性が認められるのであり、従って両者は互いに類似するものといえる。
以上のように、本件商標は商標法第4条第1項第11号に反してなされたものである。
(2)商標法第4条第1項第10号該当性について
まず、引用商標1が請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であることは、すでに提出した雑誌広告、雑誌記事、カタログ、パンフレット、請求人が毎年費やしている広告宣伝費の額等の資料からして明らかであり、また、東京高裁平成13年12月26日判決(平成12年(ネ)第3882号不正競争行為差止等請求控訴事件)(甲第5号証)及び平成16年10月20日東京高裁判決(平成16年(行ケ)第85号審決取消請求事件)においても認定されているところである。特に後者の判決においては、「(引用商標1)及びこれに酷似した被告バックポケットの形状は,ジーンズパンツの需要者・取引者の間に広く認識されており,著名といえるまでに至っているかどうかはともかく,その周知著名性の程度は,極めて高いものであると認められる。」と明確に述べられている。
そして、本件商標と引用商標1との類似性については、上記の通り、認められるものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第10号にも反してなされたものである。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標は、請求人の商標の周知著名性により、また、商品の特性及び取引の実状により、具体的な商品において使用された場合には、請求人の商品と混同を生じ、又は請求人ないしは請求人と関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがあるものである。
まず、商標法第4条第1項第15号の適用においては、周知著名性や指定商品等の諸事情を基に総合的な判断がなされるべきことは、最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決 判時第1721号第141頁(以下「レールデュタン最高裁判決」という。)に述べられているとおりであり、必ずしも周知度が全国的であることを要するものではない。また、レールデュタン最高裁判決によれば、商標法第4条第1項第15号の趣旨は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することにあり、同号の「混同」には広義の混同も含むことが明らかにされている。
また、不正競争防止法第2条第1項第1号は、周知商品等表示の保護規定であるところ、最高裁第1小法廷平成10年9月10日判決(いわゆる「スナックシャネル」事件最高裁判決)は、同号の「混同」には、広義の混同も含むことを明らかにしている。
すなわち、商標法第4条第1項第15号における「他人の業務に係る商品又は役務と混同するおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務にかかる商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものである。
そして、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断される(以上、レールデュタン最高裁判決)。
本件においては、商標の類似性については、すでに述べたとおり、本件商標と引用商標1は、「破線で描かれた五角形の両端中央部から並行に延びる2本の破線からなる曲線が中央部で接合する図形」という基本的な構成要素において共通するものであり、その他の差異点はかかる基本的な共通性を凌駕するものではないから、肯定できるものであり、引用商標2についても、2本の並行する破線からなる2個の曲線という共通点、しかも中央部が交差しておらず、中央部の横線も存在しないという点においてより強い類似性が認められるものである。
さらに、周知著名性については、既に提出した多数の証拠により、年齢性別を問わず請求人のアーキュエットステッチが著名・周知であることは明らかであり、またこの事実はいくつもの判例等においても認められている。また、アーキュエットステッチは請求人が世界で初めて製造販売したジーンズに付された商標であるから独創性も十分に認められるものである。また、本件商標と引用商標はともにジーンズパンツに使用されるものであるため、商品等の関連性及び取引者、需要者の共通性についても、全く同一のものと認められるものである。
したがって、本件商標を、その指定商品に使用するときには、当該商品が請求人の取り扱う商品であると誤信するか、又は、請求人との間に密接な関係を有する者の業務に係る商品であると誤信することで、その商品の出所について広義の混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
なお、請求人は、左右対称の二つのアーチ形状の図形を含む引用商標1を、100年以上の歴史をもって使用してきたものである。長い社史を有する請求人のバックポケットのステッチは、各年代ごとに、また、バックポケットのサイズ等により、引用商標1が有する出所識別機能に影響がない程度の形状のゆれが生じている。例えば、甲第49号証の雑誌記事に表示されている「505-02」、「515-02」などの商品に付されているバックポケットのステッチの形状は、引用商標1に比べると、曲線の曲率が大きく、2本の曲線の高低差が大きいことが分かる。かかる年代ごとのずれにより、請求人のバックポケットのステッチの内部の図形は、ある程度高低差について幅が存在するものであることが需要者に広く認識されている。
しかし、かかる幅を持ちつつも、請求人のアーキュエットステッチは、並行する2本の曲線からなるアーチ形状が左右一つずつ、計二つ形成されるという図形として認識されているものである。従って、本件商標のように、引用商標1よりも2つのアーチ形状の高低差が大きい図形であっても、これがジーンズパンツに使用される場合には、請求人のステッチのバリエーションの一つであると誤認混同されるおそれを生じるものである。
以上のように、本件商標は商標法第4条第1項第15号に反してなされたものである。
(4)結論
したがって、本件商標の商標登録は無効とされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
1 本願は商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(1)本件商標と引用商標1は、請求人指摘の通り、いずれも実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した、恰も将棋の駒を上下逆転させたような五角形の外枠(以下、単に「五角形の外枠」とする。)と、その内側に配された曲線からなる二重の破線模様の図形からなるものである。
しかし、比較的低い価格と耐久性を要求されるデニム製のズボン(以下「ジーンズ」とする。)の尻部分の外ポケット(以下「ヒップポケット」とする。)は、縫製を簡易にするために、直線からなる五角形又はこれに準じた形状をしており、且つ、ヒップポケット部分は最も内圧がかかる部分であるために、その強度を増加させるための二重ステッチで縫い付けられているのが通常である。
このように、多くのジーンズメーカーが、五角形の外枠デザインを用いていることは、乙第1号証をまつまでもなく公知の事実であり、五角形の外枠は、ジーンズのヒップポケットのデザインとしては極めてありふれた形状となっている。一般人も五角形の外枠を見れば、直ちにそれはジーンズのヒップポケットの図形である、と認識して理解している。
そしてこのことから、メーカー各社は、ジーンズのヒップポケットの五角形の外枠の内側のステッチのデザイン等によって自他商品を識別させようとしており、そのデザインを多くの企業が商標として採択している(乙第1号証)。少なくとも当業界に通用する常識としては、五角形の外枠そのものは自他商品の識別力がなく、それが商標の一部として登録されていた場合であっても、それは所謂要部を構成するものではなく、その内部に表された形状こそが自他商品識別の際の重要な要素になるものといわなければならない。
請求人提出の甲第115号証ないし甲第118号証は、何れも平成15年の5月15日から同年7月10日という短い期間内に同一の審査官によってなされた決定に関するものであって、五角形の外枠に関する社会的認識を等閑視している点に、明らかな誤りがある。
東京高裁平成11年(行ケ)第166号判決も、「(本件と同様に登録第1592525号商標を引例とする無効審判請求にかかる)平成9年審判第20434号審決が、『ジーンズを取り扱う業界においては、ジーンズのヒップポケットが実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形の外形をしており、その内側のステッチデザインがメーカーによって異なることが認識されているものといえるし、前記五角形の図形に接する取引者、需要者は、それがジーンズ以外の商品について使用されたとしても、それをヒップポケットの形状を表した図形と認識し理解するというのが相当である。』と判断したことに誤りはない。」と明言している(乙第2号証)。さらにこの点については、請求人自身、「…五角形の外周及びその内側の点線を構成する線と同様に、単純な図形であり、ポケットの形状を表す背景としか認識されないのであって、…」、としてこれを自認している。
そこで、本件商標と引用商標1の横断する二重破線の形状を比較すると、五角形の外枠内部に形成された両者の要部といい得る左右の曲線を形成するそれぞれ2本の曲線同士が、引用商標1においてはほぼ平行であるのに対し、本件商標においてはV字状になっており平行ではない。また、両商標とも、上記左右の各曲線が五角形の外枠の横方向中央において接合しているものの、引用商標1においては、横方向中央下部に想定される縦軸に対して線対称であるのに対して、本件商標においては、線対称とはなっておらず、本件商標の右側に形成される曲線部分は、引用商標1とは異なり、右側の端部から下中央部の接合位置に向かい、緩やかに降下する曲線によって表されているが、左側に形成される曲線は、右側の曲線より下方を端部とし、五角形の外枠の下方に向かい、長めに下降して下中央部の接合位置に至るものであって、このような左右各曲線の形状の違いにより、左右の曲線が全体として五角形の外枠の上辺に対し斜めに(右側の曲線が上方に)形成されるように表現されている点において差異がある。
これらの差異点は、本件商標及び引用商標1において、それぞれ一見して看者の目を惹く五角形の外枠内部の二つの曲線の基本的形状を構成する差異であるから、両者の基本的構成態様における差異点といわざるを得ない。さらに、両者は、細部の形状においても、二つの曲線が五角形の外枠内部において接合する位置における形状が、引用商標1においては、曲線を形成する2本の破線によって縦長のひし形を形成し、その中央に横線が設けられているのに対し、本件商標においては、曲線を形成する2本の破線がそれぞれV字状に、下方で重なることなく接合し、その接合点の上部には五角形の外枠の左右各辺から横方向に1本の破線が配されているものである。
また、本件商標は、左右の曲線が、下部で鋭角に交わっているのに対し、引用商標1はこれが鈍角に交わっている。加えて、両商標は、五角形の外枠部分が、引用商標1においては、横方向中央に想定される縦軸に対して左右対称であるのに対して、本件商標においては、左右対称とはなっておらず、左側にわずかであるが傾いている点でも差異を有するものである。
そしてなにより増して重要な差異は、請求人が自ら指摘するように、引用商標1はアーキュエットな外観を呈しているのに対し、本件商標は決してアーキュエットとはいえない点である。因みに、アーキュエットとは「アーチ状の・円弧状の」を意味する英語の形容詞ARCUETを意味し、太鼓橋や、それが連なった長崎市の眼鏡橋や岩国市の錦帯橋を横から見たような形状を指す場合に用いられる。そして、その名の通り、引用商標1の五角形の外枠内部の曲線の形状は、全く同一半径の二つの円弧から構成されることにより、丸みを帯びた女性的なイメージを醸し出している。これに対して本件商標は、アーチとは言えず、恰も高さの異なる急峻な山とその間の谷をイメージさせ、眼鏡橋や錦帯橋とはかけ離れた、極めて男性的なイメージを与えるデザインになっている。
そして、これらの差異点は、本件商標と引用商標1の基本的構成態様において、共通点に包摂されない顕著な差異であって、これらを離隔的に観察する場合においても、それぞれ別異の印象を看者に与えることは明白であるから、両構成における共通点を総合勘案しても、両者は、全体として非類似の商標といわなければならない。
他の登録例を見ても、五角形の外枠とその内部にステッチ状の曲線模様を配したものが多数並存しているのであって(乙第3号証)、これらを見ても、引用商標1の保護範囲が請求人の主張するほど広範なものではないことが判る。なお、請求人が指摘する甲第119号証の2のバックポケットの図形は、各引用商標とは全く構成を異にする標章であって、本件とは全く関係がない。敢えて言えば、その提示により、意図的に各引用商標の保護範囲を拡大させようとする欺瞞的ものである。
因みに、商標の類否判断においては全体観察という判断手法もあることは確かであるが、五角形の外枠の識別力が否定されるべき本件にあっては、五角形の外枠部分を除外した要部を比較するという要部観察に重点が置かれるべきである。さらに、上述の通り、需要者及び取引者の認識及び取引の実情をも考慮するならば、本件の場合、五角形の外枠の部分を含めて全体的に両商標を観察しても、両商標は外観において彼此紛れることなく区別し得る。また、両商標は既成の称呼及び観念を生ずるものともいえないことはもとよりである。
なお、念のため、請求人が指摘する甲第120号証の商品は、意識的にか、本件商標中のV型ステッチと交差する横のステッチ線に、目立たないような生地に近い色の糸を使用しているようであるが、これは被請求人とは全く関係のない第三者が製造販売する商品であり、被請求人及びその代表者たる岡本博は、これに一切関知するものではないことを付言する。
(2)次に、本件商標と引用商標2との類否についてみるに、本件商標は、上記したとおり、ジーンズのバックポケットを連想させる五角形の外枠外部を実線で描き、その各辺の内側に沿って二重の破線を配したデザインと、五角形の外枠内の二重の破線をもって描かれたステッチ部分の双方とからなるものであり、これらは一体として、全体を不可分のものとして理解・認識されるものとみるのが相当である。これは恰も国旗の日の丸の要部は中央の赤い丸であっても、識別力を欠く周囲の四角を除いたら、単なる赤い丸という全く異なる形状になってしまうが如きである。図形商標の一部に識別力がない図形を含む場合であっても、当該商標は全体として把握されるべきものであり、識別力のある部分のみをもって商標であると評されるわけではない事は言うまでもない。
これに対して、引用商標2は、引用商標1の五角形の外枠の内部に形成された2本の曲線のステッチ部分のみからなるものである。
そうとすれば、本件商標と引用商標2とは、明らかに構成を異にするものであって、非類似の商標といわなければならない。
(3)何れにせよ、上述の通り、本件商標と各引用商標とは、その構成態様において十分区別し得る差異を有しており、この差異は、比較的簡潔な構成からなるこれら商標の外観に与える影響は大きく、図形全体から受ける視覚的印象を異にするものというべきであるから、これらを時と処を異にして離隔的に観察するも、外観において相紛れるおそれはないものといわなければならない。
また、各商標からは、特定の称呼、観念を生ずることはないものと認められるから、本件商標と引用商標とは、称呼及び観念については比較すべくもない。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならず、本願は商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 本願は商標法第4条第1項第10号に該当しない。
本願が商標法第4条第1項第11号に該当しないとする以上、例え請求人の二件の引用商標が所謂周知商標であったとしても、これ等商標と本件商標とが非類似であること上記1で述べた通りであるから、本願が商標法第4条第1項第10号に該当することもない。
3 本願は商標法第4条第1項第15号に該当しない。
各引用商標が我が国で著名商標の城に達していることは知らない。しかし、仮に請求人の二件の引用商標が所謂著名商標であったとしても、上記1で述べたように、本件商標と各引用商標とは、相紛れるおそれのない別異のものであるのみならず、自他商品の識別において、五角形の外枠よりも、むしろその内部に表された形状が重要な要素を占めるという当業界の実情からして、本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如くにその出所について混同するおそれはないと判断すべきである。
4 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同11号及び同第15号のいずれにも該当しないものであって、これらの規定に違反して登録されたものということはできないから、本件審判請求には理由はなく、本件登録は、商標法第46条第1項の規定により無効とすべきではない。

第5 当審の判断
1 両商標の構成について
本件商標の構成は、別掲(1)に示すとおりのものであって、若干左に伸びた野球のホームベース状の五角形を実線で描き、その各辺の内側に沿って二重の破線を配し、その中央より左右に該五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって、中央部で接続させたアーチ形状の図形を描き、さらに、この五角形図形の中央下寄りに左右に続く横の破線を配してなるものである。
これに対して、引用商標1の構成は、別掲(2)に示すとおりのものであって、左右対称の野球のホームベース状の五角形を実線で描き、その各辺の内側に沿って二重の破線を配し、この五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって、左右二つのアーチ形状の図形を描いてなり、この五角形図形の左辺の左外側部分に、縦長の四角形を配し、該図形内に縦書きで「LEVI’S」の欧文字を書してなるものである。
同じく、引用商標2の構成は別掲(3)に示すとおりのものであって、二重の破線をもって、左右二つの緩やかなアーチ形状の図形を中央部で接続させた図形よりなるもである。
2 商標法4条1項15号について
(1)引用商標1及び、これと酷似した請求人のバックポケットの形状の周知・著名性について
請求人が提出した以下の各甲号証には、請求人の取り扱いに係るジーンズパンツの宣伝広告が継続してなされ、そこには、引用商標1の形状と酷似したバックポケットの形状(以下「請求人バックポケットの形状」という。)が掲載されていることが認められる。
すなわち、
「日本繊維新聞」昭和47年5月31日号(甲第6号証)、「ストアーズレポート」1972年7月号(甲第7号証)、「MEN’SCLUB」1975年8月号(甲第8号証)、「MEN’SCLUB」1975年9月号(甲第9号証)、「男子専科 MEN’S MODE事典」1975年(甲13号証)、「MEN’SCLUB」1976年3月号(甲第14号証)、「MEN’SCLUB」1976年7月号(甲第15号証)、1981年5月20日株式会社草思社発行、「リーバイス ブルージーンズの伝説」(甲第19号証)、「ホットドッグプレス」1982年4月10日号(甲第20号証)、「LEVI’S BOOK」1986年(甲第25号証)、「LEVI’S BOOK VOL.2」1986年(甲第26号証)、「メンズクラブ」1987年1月号(甲第27号証)、「LEVI’S BOOK VOL.3」1987年(甲第28号証)、「LEVI’S BOOK VOL.5」1988年(甲第35号証)、「メンズクラブ」1990年8月号(甲第42号証)、「ホットドッグプレス」1990年10月号(甲第45号証)、「メンズノンノ」1991年10月号(甲第47号証)、「POPEYE」1991年10月2日号(甲第49号証)、「メンズノンノ」1993年7月号及び同年8月号(甲第59号証及び甲第60号証)等の各甲号証である。なお、バックポケットの形状が不鮮明のものや、出典が推認できない不明な印刷物のものは採用できない。
これらの、各甲号証に示された、昭和47年5月以降における、主としてファッション雑誌における請求人の取り扱いに係るジーンズパンツの継続的な宣伝広告によれば、請求人バックポケットの形状は、商品「ジーンズパンツ」を含む本件商標の指定商品の取引者・需要者の間で、広く認識され、これが現在においても継続しているものと推認し得るものである。
なお、上記各甲号証によっては、請求人バックポケットの形状が、著名となっているとまでは認定し得ない。
(2)出所の混同のおそれについて
ある商標が、商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品に使用したときに、当該商品が当該他人の商品に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品が当該他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれ(「広義の混同を生ずるおそれ」)がある商標を含むものと解するのが相当であり、当該商標が、商標法4条1項15号に該当するか否かを判断するに際しては、当該商標と当該他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(平成12年7月11日 最高裁判所第三小法廷判決 平成10年(行ヒ)第85号参照)。
これを本件についてみるに、本件商標の指定商品は、前記したように「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であり、一方、請求人の使用に係る、請求人バックポケットの形状は、上記2(1)で認定・判断したように、ジーンズパンツに係るものであることから、これら商品は、同一あるいは互いに極めて関連性の深い商品といえるものである。
しかして、甲第13号証及び乙第1号証における、バックポケットのステッチの形状についてみるに、左右対象の二つのアーチ形状を採択しているのは、請求人であり、他社のステッチは、これらとは顕著な差異を有することが認められる。
そこで、本件商標と引用商標1の形状について対比するに、本件商標と引用商標1の両ステッチは、ともに二重の破線をもって、五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され、これが中央部で下向きに形成されており、両ステッチ部分の形状をおおまかに観察すれば、互いに近似する形状であり、この点において、両者は構成の軌を一にするといえるものである。
一方、両者におけるアーチ形状の相違及び、中央下寄りに配された横線は、前記した両者の近似性を凌駕するほどの顕著なものとは認められない。
そして、請求人バックポケットの形状は、上記2(1)で認定・判断したように、商品被服、とりわけジーンズパンツの取引者・需要者の間で広く認識され、周知となっており、他方、被請求人の本件商標、あるいは、そのステッチ部分が周知・著名となっているとの証左はない。
また、本件商標の指定商品は、引用商標1あるいは請求人バックポケットの形状が商品「ジーンズパンツ」に使用された結果、それが獲得している周知性の範囲内の商品といえるものである。
そうとすれば、本件商標を、その指定商品に使用するときには、これに接する需要者は、引用商標1あるいは請求人バックポケットの形状を連想・想起し、当該商品が請求人の取り扱う商品であると誤信するか、又は、請求人との間に密接な関係を有する者の業務に係る商品であると誤信することで、その商品の出所について広義の混同を生ずるおそれがあるというべきである。
(3)被請求人は、ジーンズ業界においては、バックポケットはブランド名等が大きく表記された革ラベルや紙ラベルと共に使用されており、需要者は、当該ラベルに大きく表記されたブランド名で商品の出所を識別することが一般的であり、被請求人のジーンズも例外ではなく、かかる取引実情や、ジーンズを消費者が実際に購入する際には試着を行い店員の説明を聞き慎重に購入するのが一般的であること等からしても、商品の出所混同のおそれはないことは明らかであると主張している。
確かに、引用商標1には、「LEVI’S」の文字が含まれており、該文字は、請求人の商標として知られているものとしても、本件については、アーチ形状のステッチにおいて、本件商標が、他人の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがある商標と認められるものであり、上記した文字部分の存在をもって、両商標間の広義の混同のおそれを否定することはできない。
(4)結語
以上のとおり、引用商標の周知著名性、本件商標と引用商標との類似性、商品の性質、用途又は目的における関連性及び商品の需要者、取引者の共通性などを総合的に勘案すれば、本件商標をその指定商品に使用した場合、請求人又は請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標(登録第4715767号商標)





(2)引用商標1(登録第1592525号商標)





(3)引用商標2(登録第3070070号商標)





審理終結日 2008-08-06 
結審通知日 2008-08-11 
審決日 2008-09-30 
出願番号 商願2002-99514(T2002-99514) 
審決分類 T 1 11・ 25- Z (Y25)
T 1 11・ 271- Z (Y25)
T 1 11・ 26- Z (Y25)
最終処分 成立  
前審関与審査官 保坂 金彦 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 小林 由美子
矢澤 一幸
登録日 2003-10-10 
登録番号 商標登録第4715767号(T4715767) 
代理人 中山 健一 
代理人 谷口 登 
代理人 達野 大輔 
代理人 員見 正文 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ