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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない Y09384142
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y09384142
管理番号 1192264 
審判番号 無効2008-890010 
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-01-30 
確定日 2009-01-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第5069541号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5069541号商標(以下「本件商標」という。)は、「デジタルデータダム」の片仮名文字を標準文字で表記してなり、平成18年9月11日に登録出願、第9類「電子計算機,サーバコンピュータ,電子応用機械器具及びその部品,電子計算機用プログラム,ダウンロード可能な電子出版物,ダウンロード可能な画像,ダウンロード可能な音楽,ダウンロード可能な家庭用テレビゲームおもちゃ用ゲームプログラム,ダウンロード可能な電子計算機用プログラム」、第38類「電気通信(放送を除く。),オンデマンド方式による文字データ・音楽・映像の伝送交換」、第41類「電子出版物の提供,オンラインによる電子書籍の提供,オンラインによるによる画像の提供,オンラインによるによる音楽の提供,オンラインによるゲームの提供」及び第42類「電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,コンピュータの記憶領域の貸与」を指定商品及び指定役務として、平成19年8月10日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録は無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号ないし第18号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)引用商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用した登録商標は、以下のとおりである。
ア 登録第3217472号の2(以下「引用商標1」という。)は、「ダム」の片仮名文字と「DAM」の欧文字を二段に併記してなり、平成5年9月29日に登録出願、平成8年10月31日に設定登録された登録第3217472号商標より、指定商品中の第9類「電気通信機械器具、レコード、メトロノーム、電子応用機械器具及びその部品、遊園地用機械器具、電気アイロン、電気式ヘアカーラー、電気式ワックス磨き機、電気掃除機、電気ブザー、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、家庭用テレビゲームおもちゃ」の指定商品について、平成12年5月8日に分割移転登録され、その後、平成18年6月20日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
イ 登録第3268509号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲1に示したとおりの構成よりなり、平成5年10月1日に登録出願、第38類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として、平成9年3月12日に設定登録され、その後、平成19年3月6日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
ウ 登録第3305346号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲1に示したとおりの構成とほぼ同一の構成よりなり、平成5年10月4日に登録出願、第16類「印刷物」を指定商品として、平成9年5月16日に設定登録され、その後、平成19年4月17日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
エ 登録第3315269号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲1に示したとおりの構成とほぼ同一の構成よりなり、平成5年10月4日に登録出願、第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として、平成9年5月30日に設定登録され、その後、平成19年4月17日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
オ 登録第4030182号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲2に示したとおりの構成よりなり、平成6年6月23日に登録出願、第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として、平成9年7月18日に設定登録され、その後、平成19年7月10日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
カ 登録第4039155号商標(以下「引用商標6」という。)は、別掲2に示したとおりの構成とほぼ同一の構成よりなり、平成6年6月23日に登録出願、第38類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として、平成9年8月8日に設定登録され、その後、平成19年8月14日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
キ 登録第4620858号(以下「引用商標7」という。)は、「ダム」の片仮名文字と「DAM」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり、平成13年2月21日に登録出願、第16類、第20類及び第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成14年11月15日に設定登録されたものである。
ク 登録第4961511号(以下「引用商標8」という。)は、「ダム」の片仮名文字と「DAM」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり、平成17年3月29日に登録出願、第35類、第36類、第38類、第39類、第40類、第41類、第42類、第43類、第44類及び第45類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として、平成18年6月16日に設定登録されたものである。
ケ 商標登録願2005-28632号(その後、登録第5157744号として登録された。以下「引用商標9」という。)は、「ダム」の片仮名文字と「DAM」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり、平成17年3月31日に登録出願、第1類、第2類、第4類ないし第6類及び第8類ないし第34類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、平成20年8月8日に設定登録されたものである。(以下、一括していうときは「引用各商標」という。)
(2)請求人について
請求人は、業務用カラオケ事業(業務用カラオケ機器・カラオケソフトの販売及び賃貸、並びに通信カラオケへの音源・映像・企画コンテンツなどの提供)、カラオケ・飲食店舗事業、Web配信事業(コンテンツの配信や情報発信)、衛星放送事業、音楽・ソフト事業(音楽・映像ソフトの制作・販売)などを営む会社であり、カラオケ業界のリーディングカンパニーである(甲第4号証)。
請求人は、1976年に業務用カラオケ事業を開始し、それ以降、同事業を中核にして上記各事業に業務を拡張してきた。カラオケ業界では、従来、カセットテープ・CD・LDなどによるカラオケシステムが主流であったが、1990年代前半から通信カラオケシステムが登場し、請求人も1994年に通信カラオケシステムに参入した。その際に採用された商標が「DAM」であって、「Daiichi Kosho Amusement Multi Media System」に由来する。その後、技術の進歩等により、通信カラオケシステムは、業務用カラオケ装置の主流を成すようになり、現在販売されている業務用カラオケ装置のほぼ全てが通信カラオケシステムである。その中で、請求人の通信カラオケシステム「DAM」は、性能の優秀性等から、市場の約50%を占め、シェア1位を誇っている。
(3)請求人の商標「DAM」について
ア 請求人は、1994年に通信カラオケシステム「DAM」及び通信カラオケ集中管理システム「DAMNET」の発売を開始して以来、新製品を開発し発売してきたところ、いずれの通信カラオケシステムにも「DAM」ないしこれを含む商標を採択しており、そのことは、甲第5号証に示すとおりである。このように、請求人は、10年以上もの長きにわたって通信カラオケシステムを取り扱ってきた。これら製品には、いずれも「DAM」の商標が付され、かつ、「DAM-」で始まる製品番号を共有していることから、これらは、全体で「DAM」シリーズを形成している(甲第6号証)。また、現在の主なラインナップでは、個別の商品名として「Premire DAM」「DAMステーション」「BB cyber DAM」「Party DAM」などがあるが、いずれも「DAM」を含む構成で一貫している。なお、電子目次本(「デンモク」)、スピーカ、アンプ、目次本などのカラオケ周辺機器にも商標「DAM」が顕著に表示されている。また、Web配信事業では、「メロDAM」の表示の下、携帯電話向けに着うた「記号(登録商標を示す丸アール)」、着うたフル「記号(登録商標を示す丸アール)」、着信メロディなどのコンテンツが配信され、また、「clubDAM.com」の下、PC向けに各種音楽情報などが提供され、さらに、「karaoke@dam」の表示の下、ストリーミングによるカラオケ楽曲の提供などが行われている(甲第4号証)。このように、請求人の事業は、業務用カラオケ事業を中心として、カラオケ端末の高機能化や通信技術の発達などにより、各種コンテンツの提供にまで拡大してきているところ、「DAM」は、これら事業を象徴する表示として位置づけられるのである。
イ 請求人は、「DAM」及びこれを含む商標を多数使用してきた。当然ながら、これらを商標登録している(甲第7号証の1ないし35)。このように、請求人は、第9類と第41類をはじめとして、第16類、第36類、第38類などの各種商品・役務分野で「DAM」を含む商標を登録しているのであり、このことからも、上述した請求人の多数の使用商標及び登録商標は、「DAM」シリーズを形成しているといえる。
ウ 広告
請求人は、DAM製品の認知やイメージ向上を図るべく、各種媒体により大々的に宣伝広告活動を展開している。
(a)テレビCM
請求人は、本件商標の出願前から、全国又は一部地域でDAMシリーズのテレビCMを行ってきた(甲第8号証の1及び5)。
(b)新聞記事
請求人の「DAM」にかかわる事業は、各種紙面で取り上げられており、取引者のみならず需要者が目にする機会も多い(甲第9号証の1ないし20)。
エ 上述した企業努力の甲斐もあって、DAMシリーズの通信カラオケシステムは、市場シェアのほぼ50%を占めている(甲第10号証の1ないし4)。
また、請求人のDAMシリーズの稼働台数は、20万台を超え、マーケットシェアの50%を超えている(同号証の3及び4)。ここで、全国カラオケ事業者協会発行「カラオケ白書2007」によれば、2006年度のカラオケ業界全体での出荷台数は約7万4千台、出荷額は、約903億円、全稼動台数は約41.7万台であったから(甲第11号証)、請求人の市場シェアがいかに大きいかを示すのに十分であろう。
オ カラオケの仕組みについて
今日では、通信カラオケが主流を成しているところ、かかる通信カラオケは、一般にサーバとカラオケ端末(カラオケ装置)とを通信回線で接続してなり、カラオケ端末が、サーバから配信された楽曲データに基づいて楽音を生成するといった仕組みである(甲第12号証)。カラオケ端末は、ハードディスクやCPUなどを備えているから、配信等された楽曲データや背景映像データを蓄積することが可能である。その意味で、カラオケ端末は、従来的な通信機器の範ちゅうにとどまらず、一種のコンピュータとしての側面をも有しているといえるのであって、今日の我々がPCあるいは携帯電話による通信を利用して各種情報やコンテンツにアクセスできるように、カラオケ端末による通信を利用して、様々な情報等を得ることができるのである(例えば「DAMステーンョン」端末は、映画・ゲームなどのコンテンツを提供可能である)。なお、通常の通信カラオケ装置は、棚などに載置されるものであるが、審判請求人の「Party DAM」(DAM-PD)は、脚部にキャスターが設けられているために移動自在であり、披露宴会場、レストラン/パーティー会場、ホテル/旅館、福祉・高齢者施設などの施設で、カラオケをはじめ、ゲームなどのコンテンツを楽しむことができるよう設計されている(甲第6号証)。被請求人がコンビニエンスストアなどに設置する「筺体」(端末)のシルエットは、被請求人ウェブサイト(甲第13号証)からすれば、この「Party DAM」のシルエットに相通じるものがある。
カ これらのことからすれば、請求人のDAMシリーズは、少なくとも本件商標の出願時には、需要者・取引者の間で広く知られていたものであって、その周知・著名性は、現在において高まりこそすれ、決して衰えているものではない。
(4)被請求人及びその使用に係る商標「Digital Data DAM」について
ア 被請求人について
被請求人は、そのウェブサイトによれば、情報・通信サービス、キオスク端末販売、ハードウェア、ソフトウェア企画・開発・運営、コンテンツ、アグリゲーンョンを営む会社であって、「Digital Data DAM」、「F7000Lb」「F9000Lb」「F9000Lb-ex」なる製品ないしサービスを提供している(甲第13号証)。
イ 被請求人の使用に係る商標「Digital Data DAM」について
(a)上記 「Digital Data DAM」は、ウェブサイトの説明によれば、“広域負荷分散ストレージサービス”の名称であるところ、このサービスにかかわるシステムは、「一つのデータを複数の“Fシリーズ”各筺体に分散配置し、ユーザーからのデータ配信リクエストに対し、複数台の筺体を割り当てることで、個々の筺体の負荷を平坦化する」といったものであり、別の見方をすれば、データ配信でもある(同号証)。かかるシステムに係る筺体(端末)は、被請求人のニュースリリースによれば、全国のコンビニエンスストアなどに設置されている(甲第14号証の1及び2)。
(b)そして、被請求人の使用する上記商標には、3つの態様が認められる。すなわち、(i)「Digital Data DAM」の欧文字をゴシック体で横書きし、「Digital Data」部分を黒で、「DAM」部分を薄青で表してなる態様、(ii)「Digital」「Data」「DAM」の各欧文字を上下三段に組み合わせたものが黒塗りの枠内に収められ、上記「Digital」「Data」は白で、上記「DAM」は薄青で表されてなる態様及び(iii)「Digital Data DAM」の欧文字を通常の活字で書してなる態様である(甲第13号証)。
いずれの態様にも共通するのは、「Digital」と「Data」は頭文字のみ大文字で残りは小文字、「DAM」は全て大文字で表され、前記「DAM」部分が殊更強調されていることである。さらに、前2者の態様では、「DAM」部分のみ薄青色で着色されており、「DAM」の強調の度合いは後者の態様よりも明らかに大きくなっている。
(5)本件商標登録を無効にすべき理由
ア 商標法第4条第1項第11号違反について
(a)本件商標は、上述のとおり、「デジタルデータダム」の文字を標準文字で書してなり、第9類,第38類,第41類及び第42類の商品及び役務を指定商品及び指定役務とするものである(甲第1号及び第2号証)。
一方、請求人が引用する引用各商標は、前記第2のとおり、要するに、片仮名「ダム」と欧文字「DAM」を上下二段に併記してなるもの、あるいは、欧文字「DAM」と図形を組み合わせてなるものである(甲第3号証の1ないし9)。
(b)ここで、本件商標の構成中「デジタルデータ」の語については、広辞苑第6版に“デジタル(digital)”の語句が“ある量またはデータを、有限桁の数字列(例えば二進数)として表現すること。”と、“データ(Data)”の語句が“(i)立論・計算の基礎となる、既知のあるいは認容された事実・数値。資料。与件。(ii)コンピューターで処理する情報。”と定義されていることからして、極めて容易に“デジタル方式の(二進数で表され、コンピューターで処理可能な)情報”といった程度の意味合いが理解されるのであり、しかも、かかる語が上記のような意味合いで広く使用されていることは、顕著な事実である。
本件商標に係る指定商品・指定役務は、正にこの種の情報を扱うものであり、被請求人が実際に行っているストレージサービス等についても当然に当該情報を対象としているのであるから、「デジタルデータ」の文字が自他商品・役務識別力を欠くことは、明らかである。
また、「デジタルデータダム」の文字から生ずる称呼「デジタルデータダム」は、一気一連に称呼するには、明らかに冗長であって、また、上述した「デジタルデータ」の親しまれた意味合いを考慮すれば、本件商標は「デジタルデータ」と「ダム」の2つの部分からなるものと極めて容易に認識される。
そして、「デジタルデータ」を「ダム」と組み合わせることで熟語的な意味合いが生じるなど、観念的な一体性を認めるに足る事情は皆無である。そうすると、自他商品・役務識別力を欠く「デジタルデータ」の文字部分と、識別力を備えている「ダム」の文字部分との間には、明らかな軽重の差がある。
これらのことと、上述した請求人の「DAM」シリーズの周知・著名性や、被請求人による「DAM」を殊更強調した使用態様などを勘案すれば、本件商標に接した需要者・取引者は、その構成中「ダム」に着目して取引に当たることがあるものといわなければならない。
よって、本件商標からは、全体で「デジタルデータダム」の称呼を生じるほか、要部「ダム」から「ダム」の称呼を生じ、「ダム、せき」などの観念を生じる。
(c)引用各商標が、その構成態様からして「ダム」の称呼を生じ、「ダム、せき」といった観念を生じることは論ずるまでもない。
(d)そこで、本件商標と引用各商標とを比較すると、本件商標の要部と引用各商標とは、称呼及び観念を共通にするから、両商標は、外観上の相違を考慮するまでもなく類似する。
(e)また、本件商標登録に係る指定商品及び指定役務は、引用各商標のいずれかの指定商品及び指定役務と抵触している。
(f)よって、本件商標は、引用商標1ないし8に類似するものであって、その指定商品又は指定役務も、引用商標1ないし8の指定商品又は指定役務と同一又は類似であるから、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであり、また、本件商標は、先願に係る引用商標9に類似するものであって、その出願に係る指定商品又はこれに類似する商品について使用するものであるから、同法第8条第1項の規定に違反する。
イ 商標法第4条第1項第15号違反について
引用各商標「DAM」が、請求人の業務に係る通信カラオケシステム等を指標するものとして広く知られていること、請求人のDAMシリーズには「DAM?」あるいは「?DAM」といった構成の商標が多数存在すること、通信カラオケの端末が一種のコンピュータであることは、上述したとおりである。また、一般的な通信カラオケシステムと被請求人のストレージサービスとが、サーバと端末とを通信回線で接続してなる点で共通していることは、前述したところからして明らかである。そして、請求人が「DAM」製品を介して、カラオケ楽曲をはじめ、各種コンテンツを提供していること、また、かかるコンテンツの提供は、技術の発展等に伴って、対象が拡大していることも先に述べたとおりである。
また、「デジタルデータ」の文字は、本件商標に係る商品・役務との関係において自他商品・役務識別力を欠くものであり、加えて、被請求人は、本件商標をそのまま使用するのではなく、殊更「DAM」だけを目立つように変形して使用しているのであって、この点において、請求人の著名商標「DAM」に便乗する意図がうかがい知れるのである。そうすると、本件商標がその指定商品及び指定役務に使用された場合には、その商品及び役務が請求人又は請求人と経済的・組織的に関連のある者の商品及び役務であるかのように商品又は役務の出所について誤認するおそれがあるといわなければならない。
(6)むすび
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号並びに同法第8条第1項の規定により、商標登録を受けることができないものであるから、その商標登録は、同法第46条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。

2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 被請求人は、本件商標の一連性の根拠として、「韻を踏ませる構成態様」を挙げるとともに、「本件商標のようにテンポよく額を踏ませることによって、長い文字列であるからこそ全体としての一体性を生み出すものもあります。・・・むしろ文字列として長いものでなければ韻を踏んでいるという事実は、見いだせないものであります」と述べている。
しかしながら、「韻を踏む」とは「同韻の字を句脚に用いる」ことであるから(甲第15号証)、本件商標は、韻を踏んでいると言えるものではない。また、本件商標の称呼の各要素「デジタル」「データ」及び「ダム」は、音数を異にし、しかも、語頭音も「デ」「デ」「ダ」と不揃いであるから、このように統一性を欠くな本件商標がテンポ良く称呼できるとは到底いえない。そもそも「長い文字列であること」と「韻を踏んでいる」又は「テンポの良い」こととは何ら必然性がないのであって、短い文字列でもテンポの良いものや韻を踏んでいるものが存在するという経験則の教えるところである。よって、韻を踏んでいる又はテンポの良いことを根拠とする被請求人の主張は、明らかに論拠を欠く。
なお、被請求人は、「(審査において)『デジタルデータダム』は・・・ 商標法第4条第1項第11号には該当しないとの判断がなされたものと推認できます」などと、審査官の思考を推し量るかのような記述をしているが、登録査定の当否を問題とする無効審判において、かかる推量はナンセンスであり、本末転倒というほかない。
イ(a)また、被請求人は、本件商標の観念的な結合を主張するとともに、その理由として「『データを貯める筺体』の比喩として『水をためるために、河川・渓谷などを横切って築いた工作物とその付帯構造物の総称』たる『ダム』を使用したものである。したがって、・・・『デジタルデータダム』は、『デジタルデータを蓄積する筺体』なる意味を暗示する」などと強弁している(答弁書第5頁5行ないし16行)。
しかしながら、「『データを貯める筺体』の比喩として・・・『ダム』を使用した」なる言い訳は、後述するように主張自体失当であるが、それをおくとしても、被請求人にしか認識し得ない主観的な事情に過ぎず、需要者・取引者の立場から客観的に判断されるべき商標の類否判断において何ら考慮に値しない。よって、このような主観的な事情に基づいて客観的な観念の発生を導く被請求人の論理は明らかに破綻している。更に言えば、水を貯めるために河川等に設けられる「ダム」(dam)は、土木分野の言葉であって、本件商標の指定商品・役務にかかわる「コンピュータ」分野に属する言葉「デジタルデータ」とは、およそ無関係であるから、このような無関係な言葉を強引に関連付けようとする理屈は到底成り立ち得ないのである。
また、審判請求書でも述べたように、請求人の引用各商標は「Daiichi Kosho Amusement Multi Media System」の頭文字に由来しており、水をためる「ダム」(dam)とは、全く無関係に創作されたものである。そして、このことは、本件商標中の「ダム」から被請求人の主張するごとき意味合いが直感されるわけでないことの一つの証左である。
上述したことに照らせば、本件商標中の「ダム」が水をためる「ダム」を比喩的に用いたものなどという答弁書の主張が、後知恵の理屈であることは明らかである。
かくして、本件商標は、被請求人主張のごとき意味合いを生じさせるものではなく、観念上の一体性が認められる余地はない。
(b)また、被請求人は、「デジタルデータ保存」や「デジタルデータサービス」等の例を挙げ(乙第1号証)、「『デジタルデータ』は、その後に続く言葉に形容詞的にかかっている」として、本件商標の観念的一体性の根拠づけを試みている。
しかし、乙第1号証に係るインターネット検索結果を精査しても、「デジタルデータを掲載」「古地図のデジタルデータ。」「統計情報などのデジタルデータです」「膨大なデジタルデータを・・・保存する」「デジタルデータを完全な形でコピーする」「おもに扱うデータは、・・・全部デジタルデータです」「ディジタル・データをいかにして扱うか」「デジタルデータの脆弱性」「デジタルデータで情報を活用」「デジタルデータをどのようにやり取りしていますか?」などの記述が多数を占め、結局、「デジタルデータ」がコンピュータ分野において識別力を欠く「名詞」であることが明らかになるだけである。「デジタルデータ保存」「デジタルデータサービス」のわずかな記載例をもって、「デジタルデータ」を形容詞的な語とみることには明らかに無理があるばかりか、却って、乙第1号証は、「デジタルデータ」が識別力を欠くため「ダム」を要部とみる請求人の立場を裏づけているとさえいえる。
そもそも、本審判で問題にしているのは、本件商標の識別力自体ではなく、識別力具備を前提とした、要部認定を含む商標の類否(及び出所混同のおそれ)であって、両者は明確に区別されるべきものである。被請求人は、識別力のない標章に基づいて本件商標と引用商標を非類似と主張するという支離滅裂な論理を展開しており、かような論理は、前提として誤っている。
よって、「デジタルデータ保存」等を本件商標の観念的一体性の根拠とする被請求人の主張は失当である。
(c)被請求人は、また、本件商標の審査経緯に言及しているが、審査段階で発せられた識別力に関する拒絶理由は、「デジタルデータダム」が「デジタル式のデータへ直接アクセスする方法」の意味合いを看取させるといったものであり、これに対し被請求人は、「ダム」に「直接アクセスする方法」との意味はないから本件商標全体で「デジタル方式のデータに直接アクセスする方法」なる意味合いを看取させるとは言えない旨を反論し、かかる反論が容認されて登録になったのである。即ち、本件商標は、「ダム」部分に識別力が認められた結果、「デジタルデータダム」全体でも識別力が肯定されたに過ぎないのであって、一連性を認められたために識別力が肯定されたのではない。
ウ 被請求人は、「願書に記載された商標…に基づいて登録要件の具備を判断されるべきであり、使用商標との対比によって無効理由の有無を判断されるべきではない」などと主張するが、これは、商標の類否判断の手法について説示した最高裁判所判決及び定着した実務に明らかに反する主張であり、失当である。
すなわち、最高裁昭和43年2月27日、昭和39年(行ツ)第110号判決(氷山印事件判決;甲第16号証)は、「商標の類否… には、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする」旨を説示しているのであるから、被請求人の使用態様は、一種の取引の実情として、本件商標と引用商標との類否を判断するに当たり、請求人の他の主張とともに当然に考慮されるのである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
被請求人は、商標法4条1項15号の規定の趣旨や審査基準の記載を含めて云々述べて、本件商標の同号該当性を否定している。しかしながら、4条1項15号の趣旨や同号に関する審査基準の記載についてはともかく、その余の被請求人の主張は、以下のとおりいずれも失当である。
なお、被請求人は、「請求人が・・・第4条第1項第11号違反である旨を主張することと、商標法第4条第1項第15号違反を併せて主張することとは矛盾が認められます」などと述べているが、請求人が4条1項11号と15号の選択的な適用を求めていることは、審判請求書の記載から疑いの余地がないから、上記被請求人の記述は、請求人の主張を曲解するものといわざるを得ない。
ア(a)被請求人は、「請求人の商品と被請求人の商品について、性質の部分で上記のとおり一部共通する部分があったとしても、その用途又は目的における関連性は極めて薄い」などとして、いわゆる狭義の混同のおそれを否定しているが、そもそも本号でいう「混同のおそれ」の有無において検討されるべきは、請求人の提供する商品・役務と本件商標の指定商品・指定役務との関連性であって、請求人の商品・役務と被請求人の商品・役務との間の関連性ではない。このことは、被請求人の挙げる最高裁判所判決(いわゆるレールデュタン判決;乙第3号証)が、「当該商標の指定商品等と他人の業務係る商品等との間の・・・関連性・・・などに照らし、・・・総合的に判断されるべきである」と説示していることからも疑いの余地がない。
よって、請求人と被請求人の商品・役務の関連性が希薄であるが故に直ちに出所混同のおそれを否定する被請求人の論理は、全く成り立ち得ない。
(b)被請求人は、また「請求人の商標『DAM』が使用されている商品はあくまでもカラオケシステムです」と述べるが、誤りである。請求人のDAMシリーズは、審判請求書にて詳述したとおり、カラオケ装置にとどまらず、音楽・映像・ゲームをはじめとする各種コンテンツの提供や、各種情報(例えば日韓ワールドカップサッカーの情報;甲第9号証の12)の提供についても使用されており、カラオケ装置にしても、近年の技術革新により、コンピュータ端末としての性格を併せ持つに至っているのである。
これら請求人商品・役務は、コンピュータ、エンターテイメント(娯楽)ないしはコンテンツの分野に属し、昨今のインターネットの普及等をも勘案すれば、その需要者は、広く一般市民を対象とするものであり老若男女を問わない。一方、本件商標の指定商品・役務についてもやはり、コンピュータ、エンターテイメントないしはコンテンツの分野に属し、その需要者も広く一般市民にわたるのであって老若男女を問わない。してみれば、本件指定商品・指定役務と請求人の商品・役務とは、コンピュータ、エンターテイメントないしはコンテンツといった用途又は目的において密接に関連しており、かつ、需要者においても相当程度共通しているといえる。
この点、被請求人は、請求人商品の用途・目的ないし需要者を極めて限定的にとらえているが、上記最高裁判所判決(乙第3号証)が「『化粧用具、身飾品、頭節品、かばん類、袋物』と香水とは、主として女性の装飾という用途において極めて密接な関連性を有しており、両商品の需要者の相当部分が共通する」と判示していることに照らしてみても、不当に狭い解釈であるから、かかる不当な解釈から導かれる混同のおそれなしとの結論は当然に妥当性を欠く。
イ 被請求人は、請求人商標「DAM」の著名性を認めながらも、「専らカラオケやそれに関連する音楽の極めて限られた分野に特化した使用である」「『DAM』といえば『カラオケシステム』と一義的に結びつけることができる」などとして、いわゆる広義の混同のおそれを否定しているが、上述した請求人商品・役務の広がりに照らせば、明らかに独自の解釈に立脚するものであって、到底受け入れられるものではない。
また、被請求人は「請求人は、カラオケ事業及び関連事業に特化した企業であり、多角経営やグループ化による他業種への参入などの事実は認められません」と述べているが、請求人の事業は、その会社案内(甲第4号証)のとおり、カラオケを中心として、飲食、音楽ソフト、音楽等配信、衛星放送なども多角的に手掛けているから、上記被請求人の主張は、事実誤認といわざるを得ない。
なお、請求人のDAM商標は、ハウスマークでないとしても、上述したとおり、各種商品・役務について使用されていることからすれば、ハウスマークに準じた取扱いがなされるべきであって、このことは、上記最高裁判所判決(乙第3号証)が「本件各使用商標及び引用各商標がいわゆるペットマークとして使用されていることは、本件各使用商標等の著名性及び本件各使用商標等と本件商標に係る各商品間の密接な関連性に照らせば、前記判断(注:広義の混同の虞を肯定する判断)を左右するに足りない」旨を判示していることからも首肯される。
(3)その他
なお、被請求人は、本無効審判の請求後に、ウェブサイトでの使用態様を2度も変更した(甲第18号証1及び2)。
すなわち、「DAM」部分の着色を止めて黒で統一するとともに、「Digital Data」のうち小文字で表されていた部分を大文字に変更し、さらに、「DIGITAL DATA DAM」の文字を「DDD」の文字の下に小さく表すように変更し、その後さらに、三日月状の図形と塗りつぶされた円を組み合わせた図柄に変更している。これら変更は、被請求人が、請求人の周知著名商標「DAM」等を十分に認識した上で、その名声に便乗する不正の意図を持って、変更前の使用態様を表示していたことの証左に他ならない。そうであるからこそ、請求人から指摘を受けるや否や次々と使用態様を変更したのである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号ないし第3号証を提出した(被請求人の提出した甲号証は、以下、乙号証と読み替える。)。
(答弁の理由)
1 商標法第4条第1項第11号違反について
請求人は、本件商標が、引用各商標によって商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであると主張しているが、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反したものではない旨、以下のとおり説明する。
第一に、請求人は、「本件商標の全体から生ずる称呼『デジタルデータダム』は、一気一連に称呼するには、明らかに冗長であるため、『デジタルデータ』と『ダム』の2つに分離判断されるべきものであり、結果、『ダム』と請求人の有する『「ダム\DAM』(登録3217472号の2)等の引用各商標に係る登録商標と類似する」と主張している。
ここで、本件商標については、出願段階において「この商標登録出願に係る商標は、引用各商標の登録商標又は出願中の商標と同一又は類似であって、その商標に係る指定商品(役務)と同-又は類似の商品(役務)について使用するものですから、商標法第4条第1項第11に該当します。」との拒絶理由が通知された経緯がある。
上記拒絶理由に対し、出願人であった被請求人は、「『デジタルデータダム』は、『ダ』行の『デ』『デ』『ダ』をテンポよく並べることによって、韻を踏んでおり、一連の自然的な称呼が生じるため、本件商標はあくまでも『デジタルデータダム』で一連一体の商標であり、引用各商標とは商標全体として非類似である」旨主張し、結果、かかる出願は、登録査定に至った。
ここで、商標が全体として冗長か否かという点については、単に文字列として長いか否かで判断されるべきではないと考える。つまり、本件商標のようにテンポよく韻を踏ませることによって、長い文字列であるからこそ、全体としての一体性を生み出すものもある。また、かかる韻を踏ませることによって一体性を生むためには、むしろ文字列として長いものでなければ韻を踏んでいるという事実は見いだせないものである。そして、このような韻を踏ませる構成態様によって、「デジタルデータダム」は、全体として一連の商標として認識されるものであり、「ダム」の部分だけを抽出して認識されることはない。そして、「デジタルデータダム」は、引用各商標のいずれとも明らかに区別し得る差異を有した非類似の商標であるため、商標法第4条第1項第11号には、該当しないとの判断がなされたものと推認できる。
次に、請求人は、「『デジタルデータ』の文字が自他商品・役務識別力を欠くことは明らかであり、よって、『デジタルデータ』が親しまれた意味合いを有するものであるから、本件商標は、『デジタルデータ』と『ダム』の2つの部分からなるものと極めて容易に認識される」旨、そして、「『デジタルデータ』には、識別力がないため『ダム』との間には明らかな軽重の差がある旨」、また「『デジタルデータ』を『ダム』と組み合わせることで熟語的な意味合いが生じるなどの観念的な一体性を認めるに足る事情は皆無である」旨を主張している。
確かに、「デジタルデータ」を抽出した場合、かかる部分については、「デジタル方式の情報」といった意味合いが生じるものである。しかし、本件商標については、出願段階において、平成19年3月2日付けで商標法第3条第1項第6号の規定に違反する旨の拒絶理由が通知され、そして、その拒絶理由に対して、出願人であった被請求人は、平成19年4月11日付けで意見書を提出し、商標法第3条第1項第6号に該当しない旨を主張し、本件商標は、平成19年5月25日付けで登録に至っている。当初の審査官の拒絶理由は、「『デジタルデータダム』は『デジタル式のデータへ直接アクセスする方法』」ほどの意味合いを看取させるにすぎないものであるから、これを本願指定商品及び指定役務に使用しても自他商品等識別力を有しない。」との内容であった。これに対して、被請求人は「広辞苑にて調べたところ『ダム』には『直接アクセスする方法』という意味は記載されておらず、『発電・利水・治水などの目的で水をためるために、河川・渓谷などを横切って築いた工作物とその付帯構造物の総称』といった意味合いしかない」旨主張し、結果、かかる拒絶理由は解消し登録に至っている。
ここで、被請求人の商品は、全国のコンビニエンスストアやネットカフェ等に設置した端末にサーバ装置を内蔵させたもので、サーバ装置にユーザがパソコンからアクセスして各種データをアップロードして保存するとともに、アップロードしたユーザのデータをユーザの要求に応じてダウンロードするための一連のホスティングサービスを提供するものである。そこで、「データを貯める筺体」の比喩として「水をためるために、河川・渓谷などを横切って築いた工作物とその付帯構造物の総称」たる「ダム」を使用したものである。したがって、「デジタルデータ」は、後に続く「ダム」と形容詞的に一体不可分的に結合し、「デジタルデータダム」は、「デジタルデータを蓄積する筺体」なる意味を暗示する商標となる。よって、本件商標は、観念的な側面においても全体が密接不可分的に結合するものである。
なお、「デジタルデータ」は、一般にその後に続く言葉に対して形容詞的な意味合いをもって使用されることが多く見られる。例えば、検索サイト(yahoo)にて「デジタルデータ」を検索すると、「デジタルデータ保存」や「デジタルデータサービス」等の形態にて使用されている例が認められる(乙第1号証)。これらの例から「デジタル」は、その後に続く言葉に形容詞的にかかっていることが分かる。ただし、「デジタルデータ」とこれらの「保存」や「サービス」という言葉の組み合わせは、観念的な一体感はあるが、これらの例は、記述的であり識別力がない。一方で、被請求人は、「蓄積する媒体」の比喩として「ダム」を使用することによって、全体的な識別力を見いだしている。このように、本件商標は、「デジタルデータ」を「デジタルデータ保存」等と同様に形容詞的に使用しつつ、商標としての識別力を見いだすべく「ダム」を比喩的に使用し、全体として識別力を見いだしたものである。よって、「デジタルデータダム」は、全体として観念的なつながりが非常に強いものである。
また、上記のとおり、本件商標については、出願段階で拒絶理由が通知されているが、審査官は、「『デジタルデータダム』が『デジタル式のデータへ直接アクセスする方法』ほどの意味合いを看取させるにすぎない。」と言及している。当初、「ダム」という言葉の持つ意味について、審査官と被請求人との間には、上記のとおり相違があった。しかし、この点について、被請求人は「ダム」が持つ意味について意見書にて説明し、かかる拒絶理由は解消している。かかる経緯を鑑みるに、審査宮と被請求人の意図する言葉の意味こそ違え、審査官も「デジタルデータ」と「ダム」を一体として意味を抽出しており、決して「デジタルデータ」部分のみについて識別力がないと判断している訳ではない。あくまでも、「デジタルデータダム」全体として識別力があるか否かの判断につきている。そして、「デジタルデータダム」全体として識別力を認められ登録に至っている事実が認められる。
よって、本件商標は、あくまでも「デジタルデータダム」で一商標を構成するものであり、全体として切り離せない一体不可分の商標である。したがって、本件商標と引用各商標との比較は、あくまでも、「デジタルデータダム」全体と「ダム」との比較で行なうべきであり、外観、称呼、観念のいずれにおいても非類似であり、商標法第4条第1項第11号違反には該当しない。
なお、請求人は、審判請求書「第5 被請求人及びその使用に係る商標『Digital Data DAM』について」なる記載の中で、被請求人の使用態様について言及している。そして、それらを踏まえて「使用態様などを勘案すれば、本件商標『デジタルデータダム』に接した需要者・取引者は、その構成中『ダム』に着目して取引に当たることがあるものといわなければならない。」と主張している。しかしながら、いうまでもなく、無効審判は、商標登録の瑕疵について争うことを趣旨としている。よって、願書に記載された商標及び指定商品・指定役務の記載に基づいて登録要件の具備について判断されるべきであり、使用商標との対比によって無効理由の有無を判断されるべきものではないはずである。したがって、請求人のかかる主張については、無効理由の判断において全く意味をなさないものであり、かかる主張は、成り立たない。

2 商標法第4条第1項第15号違反について
商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」について規定している。ここで、商標法第1項第10号ないし同項第15号の規定は、共通して出所混同防止を趣旨として定められたものであるため、実際上は、同項第10号ないし第15号の規定に重畳的に該当する場合が生じ得る。そこで、同号には、かっこ書き「(第10号から前号までに掲げるものを除く。)」が敷かれ、同一又は類似の範囲にあるものは、同項第10号又は第11号に該当するとし、同項第15号は非類似の範囲であるが出所混同が生ずるおそれがある商標について排除する規定となっている。したがって、対象となる商標と類似すると判断した場合に該当し得る商標法第4条第1項第11号違反と対象となる商標と非類似であることが前提となる商標法第4条第1項第15号違反とは、重畳適用されることはないはずである。よって、上記のとおり、請求人が引用各商標と本件商標が類似するとして商標法第4条第1項第11号違反である旨を主張することと、商標法第4条第1項第15号違反を併せて主張することとは矛盾が認められる。
被請求人は、上述のとおり、本件商標と引用各商標とは、非類似であり、商標法第4条第1項第11号に当たらないと考える。また、以下の理由により商標法第4条第1項第15号違反の無効理由にも当たらないと考える。
まず、商標法第4条第1項第15号における引例となるためには、相当の著名性が必要となると解される。商標審査基準において「周知度が必ずしも全国的であることを要しないものとする。」とあるものの、審査基準内において「著名」という言葉で説明されており、これは、同項第10号で「周知」という言葉で説明されているその程度とは、明確に区別しているものであることが明らかである。よって、同項第15号において引例となり得る商標には、強い周知性、つまり、著名度が要求されるということができる(乙第2号証)。そして、かかる著名度が認められる商標であるからこそ、非類似の範囲においても「出所混同を生じるおそれ」があるといえるものであるということになる。ここでいう出所混同のおそれについては、「商標法4条1項15号にいう『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標』には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下『商品等』という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下『広義の混同を生ずるおそれ』という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。」と判断されている(乙第3号証:最判平12年7月11日判決)。さらにその判断にあたっては「『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。」(乙第3号証:最判平12年7月11日判決)と判断されている。
まず、請求人は、「請求人のDAMシリーズには『DAM?』あるいは『?DAM』といった構成の商標が多数存在すること、通信カラオケの端末が一種のコンピュータであることは、上述したとおりである。また、一般的な通信カラオケシステムと被請求人のストレージサービスとが、サーバと端末とを通信回線で接続してなる点で共通していることは、前述したところからも明らかである。そして、請求人が『DAM』製品を介して、カラオケ楽曲をはじめ、各種コンテンツを提供していること、また、かかるコンテンツの提供は、技術の発展等に伴って、対象が拡大していることも先に述べたとおりである。」と主張している。ここで、出所混同を生じるおそれの有無は、商標審査基準の中では、「商品間、役務間又は商品と役務間の関連性」を考慮するとし(乙第2号証)、上記判例の中では、「当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性」等を考慮する(乙第3号証)としている。この点について、確かに請求人が主張するように、請求人の提供する商品と被請求人が提供する商品には、サーバと端末とを通信回線で接続してなる点で共通しているとはいいえるが、請求人の商品と被請求人の商品について、性質の部分で上記のとおり、一部共通する部分があったとしても、その用途又は目的における関連性は、極めて薄いものと考える。つまり、請求人の商標「DAM」が使用されている商品は、あくまでもカラオケシステムである。一方、被請求人の商品は、全国のコンビニエンスストアやネットカフェ等に設置した端末にサーバ装置を内蔵させたもので、サーバ装置にユーザがパソコンからアクセスして各種データをアップロードして保存するとともに、アップロードしたユーザのデータをユーザの要求に応じてダウンロードするための一連のホスティングサービスを提供するものである。したがって、その用途又は目的については、主にカラオケを行なうという明確な目的のもとにカラオケボックス等でカラオケ等の音楽の配信サービスを受けるという請求人の商品と、ユーザーがパソコンでアクセスすることによってオンデマンド方式で欲しい情報・コンテンツを日常生活の極めてごくありふれた場所にて提供を受けるという被請求人の商品とでは、大きく異なるものである。また、需要者についても、請求人の商標に係る商品の需要者は「カラオケをする」「音楽を聴く」という少なくとも音楽に明確な欲求をもった需要者が対象になるのに対して、被請求人の商標に係る商品の需要者は、老若男女を問わず、いわば店で物を買う感覚で各種情報・コンテンツの提供を受けるものであり、その対象としている需要者についても大きく異なるものである。よって、商品同士の関連性が非常に希薄であるため出所混同を生じるおそれは認められない。
次に、いわゆる商品同士の関連性はなくとも、商標が著名であるばかりに、何らかの組織的・経済的関係があると誤信する、いわゆる広義の混同について検討する。ここで、商標法第4条第1項第15号に規定する「出所混同を生ずるおそれ」に何らかの組織的・経済的関係があると誤信する、いわゆる広義の混同も含まれるという背景には、現在においては、企業は、1つの事業に特化することよりもむしろ企業のグループ化等によって多角経営を臨む場合が多く、企業の知名度が高くなれば、直接商品同士に関連性のない業務についても「もしかしたらあの企業なら行なっているかもしれない」と出所混同を生ずるおそれが認められる場合があるからであると推認できる。よって、かかる商標法第4条第1項第15号における引例となり得る商標は、企業自体が多角経営、グループ化を行い様々な事業を幅広く行なっているだろうと推認するに足る著名度が必要であると考える。
ここで、請求人は「現在販売されている業務用カラオケ装置のほぼ全てが通信カラオケシステムである。その中で、請求人の通信カラオケシステム『DAM』は、性能の優秀性等から、市場の約50%を占め、シェア1位を誇っている。」とし、また「web配信事業では、『メロDAM』の表示の下、携帯電話向けに着うた(丸R付き)、着うたフル(丸R付き)、着信メロディなどのコンテンツが配信され・・・」と言及している。よって、専らカラオケやそれに関連する音楽の極めて限られた分野に特化した使用である事実が認められる。そして、請求人が長年培ってきたカラオケ分野における確固たる地位により、「DAM」といえば「カラオケシステム」と一義的に結びつけることができるほどである。一方で、カラオケ通信システムは、その提供場所がカラオケボックス内という限られた場所であり、一般の公衆場所において提供するものではないため、「DAM」がカラオケシステムについて著名であるとの著名度の深さは、相当であると認められても、他業種において出所混同を生じるほどの広さの面においては、限りなく狭いものと考える。
また、請求人は、カラオケ事業及び関連事業に特化した企業であり、多角経営やグループ化による他業種への参入などの事実は認められない。したがって、請求人のメインとなる商品カラオケシステムの名称である「DAM」が、関連性のない商品等に使用されたときに、いわゆる広義の混同をも生じるおそれも認められないものである。

3 結び
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び第15号並びに同法第8条第1項のいずれにも違反するものではなく、その商標登録は、同法第46条第1項第1号に該当しないものである。

第4 当審の判断
請求人は、本件審判請求の理由の根拠として、本件商標が商標法第4条第1項第11号及び第15号並びに同法第8条第1項の規定に該当し無効とされるべきであるとしているが、同法第8条第1項の対象となった引用商標9(商標登録願2005-28632号)については、既に、前記第2のとおり、登録第5157744号商標として登録されたので、この点については他の引用商標と同様に扱うこととし、商標法第4条第1項第11号及び第15号該当性の当否について判断する。
1 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、「デジタルデータダム」の文字よりなるところ、その構成中の「デジタル」が「デジタル信号」を意味し、「データ」が「手がかりの資料となる数値・文字・記号の総称」を意味し、「ダム」が「発電・利水・治水などの目的で水をためるために、河川・渓谷などを横切って築いた工作物とその付帯構造物の総称」に通ずる、それぞれ親しまれた語(請求人は、「水を貯めるために河川等に設けられる『ダム〔dam〕』は、土木分野の言葉であって、」と述べているが、特殊なものでなく、極めて一般的である。)であるから、全体として「デジタルデータを貯えておくもの」の如き観念を生ずる造語よりなるものというを相当とし、これより生ずる「デジタルデータダム」の称呼も、格別冗長なところはなく、よどみなく、一気一連に称呼し得るものと認められる。
してみれば、本件商標からは「デジタルデータダム」の称呼のみを生ずるものといわざるを得ない。
他方、引用各商標は、前記第2のとおり、全て「ダム」「DAM」の文字をその構成中に有するものであり、「水を貯えるための堤防」の観念及び「ダム」の称呼を生ずるものというべきである。
そこで、本件商標と引用各商標とを比較するに、両商標は、外観上、相紛れるおそれがない程に相違し、称呼においては、本件商標の称呼が「デジタルデータダム」であるのに対し、引用各商標からは「ダム」の称呼を生ずるものであるから、両称呼は、その構成音数が明らかに相違し、それらを一連に称呼した場合であっても、十分に聴別し得るものである。
また、観念においては、本件商標からは、「デジタルデータを貯えておくもの」のごとき観念を生ずるのに対し、引用各商標からは「発電・利水・治水などの目的で水をためるために、河川・渓谷などを横切って築いた工作物とその付帯構造物の総称」の観念を生ずるから、観念が相違する。
そうすると、本件商標と引用各商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれの点からみても、何ら相紛れるおそれのない非類似の商標であるといわざるを得ない。

2 商標法第4条第1項第15号について
(1)甲第4号ないし第6号証によれば、請求人が、業務用カラオケ事業(業務用カラオケ機器・カラオケソフトの販売及び賃貸、並びに通信カラオケへの音源・映像・企画コンテンツなどの提供)、カラオケ・飲食店舗事業、Web配信事業(コンテンツの配信や情報発信)、衛星放送事業、音楽・ソフト事業(音楽・映像ソフトの制作・販売)などを営む会社であって、いずれの通信カラオケシステム(機器)にも「DAM」を含む商標を表示していることが認められる。
そして、カラオケ関連の業界において、「DAM」を含む商標がある程度周知であることは甲各号証によって認めることができるとしても、その周知度は請求人の商品「業務用カラオケ機器」の範囲に止まるものとみるのが相当であるから、本件商標の指定役務に係る分野にまで及んでいるとみるのは困難といわなければならない。
(2)そうすると、本件商標権者が、本件商標をその指定商品又は指定役務に使用しても、これに接する取引者・需要者が、請求人の使用にかかる商標を連想又は想起するものとは認められず、その商品又は役務が請求人又は請求人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれもないものというべきである。

3 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(引用商標2ないし4)


別掲2(引用商標5及び6)



審理終結日 2008-11-13 
結審通知日 2008-11-19 
審決日 2008-12-03 
出願番号 商願2006-84330(T2006-84330) 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (Y09384142)
T 1 11・ 271- Y (Y09384142)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢代 達雄 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 小川 きみえ
佐藤 達夫
登録日 2007-08-10 
登録番号 商標登録第5069541号(T5069541) 
商標の称呼 デジタルデータダム、データダム、ダム、デジタルデータ 
代理人 橘 和之 
代理人 一色国際特許業務法人 

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