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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y11
管理番号 1184413 
審判番号 取消2007-300455 
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2007-04-13 
確定日 2008-08-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第4960298号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4960298号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4960298号商標(以下「本件商標」という。)は、平成17年11月11日に登録出願され、「エフエッチエスカット」の片仮名文字を標準文字で表してなり、第11類「暖房装置,電気式暖房装置」を指定商品として、同18年5月26日に登録査定、同年6月9日に設定登録されたものであり、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第40号証を提出した。
1 請求の理由の要旨
(1)商標権者のホームページ(甲第3号証)によれば、2004年(平成16年)12月に床暖房事業部立上げとの記載があり、2006年(平成18年)6月に「FH-Scut」商標登録との記載がある。しかし、出願登録された商標は、甲第1号証及び甲第2号証のとおり、全体をカタカナ文字で「エフエッチエスカット」と一連一体に表してなる構成態様からなるものである。
ホームページの業務内容から「床暖房」の項を開くと、「FH-Scut」の文字と「床暖房」の文字との間に太い線を介して大きな文字で目立つように表示しており、商品の有利さを説く見出しには、「FH-Scut床暖房がイイ理由」との記載がある。見出しに続く1から8の箇条書きの最後の「8:安心の5年保証」の欄には、説明として「FH-Scutの床暖房には独自の5年保証がついています(以下略)」との記述がある。そして、施工実績の項を開くと、「FH-Scut床暖房 納入実績」との表題の下に、平成17年を主とする現場名、内容が一覧表となって纏められている。
(2)商標権者の作成に係るカタログ(甲第4号証)をみると、表紙には、右下に大きな文字で「FH-Scut床暖房」と表示され、小文字で表した「cut」の文字の上に「エフエイチ」及び「エスカット」の文字を二段併記で小さな文字で表している。また、床暖房の文字中の「床」を大きく、暖房をその四分の一の大きさの文字とし、暖房の文字の上にルビ風に「ゆかだんぼう」とひらがな文字で表している。
同様な表記は、カタログの4頁目の右上及び裏表紙にも見出せる。カタログの3頁から4頁に見開きで製品の推奨されるべき有利さを説明する見出しに「FH-Scut床暖房がイイ理由」のように繰り返し表れるが、3頁の上に目立つように大きく黒く太い文字で「エスカット床暖房だから」と表し、4頁の右側上部には「厳寒の地、北海道で生まれたハイクオリティな床暖房です。」との由来の説明がある。
(3)請求人である株式会社ScutSystemは、平成15年8月に設立されたステンレス面状ヒーター「S-cutヒーター」を床暖房用として用いた「S-cut床暖房」の製造、販売、施工を行う会社である。
「Scutヒーター」は、北海道札幌市の株式会社日本地場産業にて開発され、寒冷地の屋根融雪用、トラック仮眠用ヒーターとして販売されていたものである(特開平10-208856、特開2000-182752、特開2000-182758 甲第5号証ないし甲第7号証)。
「Scut」は、屋根に積もった雪を切ることをイメージした「SNOW CUT」の「SNOW」の頭文字の「S」と「cut」を組み合わせて命名したものである。
日本地場産業では、平成10年より、この「Scutヒーター」を床暖房装置とし販路を拡大すべく、首都圏に進出。マンション、戸建住宅などを中心に販売し、電気床暖房装置として一定の評価を受けた(甲第8号証及び甲第9号証)。
このときに首都圏に営業所、支店を設立し、先兵として赴任したのが日本地場産業の役員であった山崎雅夫(株式会社ScutSystemの現役員)である。山崎雅夫は、株式会社日本地場産業の開発者であり、床暖房ヒーターの意匠権(登録第1063521号)の創作者でもある。
日本地場産業は、平成14年頃からの社業不振でほどなく事実上の倒産を余儀なくされた(甲第10号証)。首都圏で「Scutヒーター」の販売に当っていた山崎雅夫は、この電気式床暖房装置が日本地場産業の破綻・消滅で担い手を失うのを惜しみ、個人で「Scutヒーター」を用いた床暖房装置の販売・施工を続けた(甲第11号証)。
甲第11号証のカタログに掲載されている株式会社ジバサンは存在しない会社であるが、住所は株式会社日本地場産業の平成13年2月に変更した住所としてある。
(4)そして、平成15年8月に、主たる業務内容として「床暖房の施工並びに販売」とする株式会社ScutSystem(住所 千代田区神田淡路町)が設立され(甲第12号証、甲第18号証)、日本地場産業の「Scut床暖房装置」が株式会社ScutSystemの「S-cut床暖房」として正式に蘇り市場に供給されることとなったのである。山崎雅夫は、以後、常に役員として「S-cut床暖房」の改良、普及に力を注いでいる。
株式会社ScutSystemは、平成17年4月に現住所(神田錦町)に住所変更したので、旧住所及び現住所のカタログを甲第15号証ないし甲第17号証として提出する。
旧住所でのカタログでは、「S-cut/エスカット」「エスカット」「エスカット床暖房」「エスカットヒーター」「S-cut System」「エスカットシステム」の表示が用いられている(甲第15号証)。
現住所でのカタログでも、甲第16号証では「S-cut床暖房」「エスカット」「エスカットヒーター」「ScutSystem」「エスカットコントローラー」の表示が用いられており、甲第17号証では「S-cut床暖房」「エスカット床暖房」「エスカットヒーター」「S-CUTヒータ」の表示が用いられている。
「S-cut床暖房」の実績は、ホームページ(甲第18号証)に掲載されている通りである。その実績の存在を明らかにするために注文書を提出する(甲第19号証ないし甲第24号証)。
株式会社ScutSystemは、継続して鋭意広告宣伝に努めていることを明らかにするために、雑誌広告の表紙、奥付、該当頁などを提出する(甲第25号証ないし甲第30号証)。
(5)遡れば、平成14年(2002年)、山崎雅夫が個人で床暖房装置の営業をしていた頃、面識を得て「Scutヒーター」の製造・施工方法などを教示した人物がいた。この人物が本件商標の出願人である株式会社エフアールエーに職を得てから、その知見を生かして「FH-Scut床暖房」の製造販売を始めたのである。
甲第11号証のカタログと甲第4号証のカタログを比較すれば、掲載されている写真、図及び説明は酷似している。商標についていえば、表紙裏表紙では「Scut床暖房」に「FH-」を加えて、「FH-Scut床暖房」と表示を変えたにすぎないといえる。甲第11号証の6頁目の左上の「エスカット床暖房だから」との表記は、甲第4号証の4頁で大きさ色を変えたにすぎず、甲第11号証の6頁、7頁の商品の有利さの説明でも、エスカット床暖房がイイ理由を甲第4号証の4頁、5頁でFH-Scut床暖房がイイ理由としている。甲第11号証のカタログの4頁のイラストは、甲第4号証の2頁でそのまま複写され、なおかつ、ホームページでもそのまま使われている。甲第11号証の4頁から5頁に掲載されている「床暖房がイイ理由」についての小見出しは、甲第4号証の2頁から3頁でそっくりそのまま順序も一緒で使われており、これらは商標権者のホームページ(甲第3号証)にも踏襲されている。
(6)本件商標の出願時(平成17年11月11日)及び商標権者がホームページにて床暖房事業部を立ち上げたとする平成16(2004)年12月時点で、請求人の使用する商標「S-cut」「エスカット」は、電気式床暖房装置及び電気式床暖房装置の設置工事を指標する商標として取引者・需要者に浸透しており、周知商標となっていたものと評価される。
被請求人は、市場で一定の評価を得ており名前が浸透している「S-cut床暖房」が商標登録されていないことを奇貨として、全体をカタカナ文字で「エフエッチエスカット」とすれば非類似と判断され登録されると考えたと思われる。しかし、被請求人は、本件商標の出願時点から、「エフエッチエスカット」商標ではなく、称呼において類似し、請求人の使用している「S-cut」に近づけ類似する「FH-Scut」商標を使用すべく意図していたのではないかと疑われる。すなわち、ローマ字二文字の「FH」は一般的に商品の型式、符号と認識されがちで、称呼する場合に省略されることが多いからである。
その証左として、被請求人の営業用仕様書ともいうべき「納入仕様書」を提出する(甲第33号証)。この中には、表紙に電気式床暖房装置と「FH-Scut」を二段併記してあり、施工詳細図には「エスカット床暖房」と明示されている。この納入仕様書を受け取った見込客は、後に請求人会社の営業担当に「おたくの会社の商品と思った」と漏らしていた。
(7)以上のように、本件商標の商標権者は、登録商標「エフエッチエスカット」と類似する商標「FH-Scut」「FH-Scut床暖房」「エスカット床暖房」「FH-S-CUT」「FH-S-CUTシステム」なる商標を使用していると判断される。
このような使用は、請求人が本件商標出願前から電気式床暖房装置について使用している商標「S-cut/エスカット」「エスカット」「エスカット床暖房」と同一若しくは類似する商標の使用と認められ、他人(請求人)の業務に関わる商品と混同を生ずることになる。
よって、本件商標は、商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきものである。

2 答弁に対する弁駁の要旨
(1)被請求人は、「昔から使用していた『エフエッチエスカット』をそのまま商標登録したに過ぎない」旨述べているが、ここでいう昔とは商標出願日(平成17年11月11日)を基準とする1年足らず前の、床暖房事業部を立ち上げたとする平成16年12月以降のことと認められる。
そもそも、被請求人は、床暖房装置について製造販売をするに至った経緯、自ら使用する商標の採択の動機・理由・由来を全く説明していない。株式会社ジバサンで使用していたカタログ(甲第11号証)を剽窃に近く模倣してカタログを製作(甲第4号証)頒布した理由についても口を拭っている。
被請求人は、甲第11号証の存在を知っていたことは否定できない。この甲第11号証で採択使用されていた商標が誰かの商標である可能性に配慮して、それを避けるために全体として片仮名文字からなる本件商標「エフエッチエスカット」を採択したことは間違いないからである。
請求人の設立は、平成15年8月であって、被請求人が床暖房事業部を立ち上げた時点までに1年以上の実績があり、たとえば、インターネットのホームページでの検索、見込み客への営業での競合、請求人の雑誌広告(甲第26号証ないし甲第30号証)などで、正確な時期は特定できないものの、請求人の存在及び商標を認識していたとするのが自然である。これは、請求人及び被請求人の取扱製品のヒーターが肉薄のステンレス鋼板製により構成されていることが共通する特徴であり、このようなヒーターを採用している電気床暖房装置を製造している会社は稀であり、被請求人にとっては当然関心の的となるからである。
審判請求後ではあるが、平成19年10月4日付けで被請求人に対して、商標権侵害行為等の中止を求める通知書(甲第35号証)を投函しているが、これに対しては現在に至るまで回答を得ていない。
(2)また、被請求人は、「『エフエッチエスカット』『FH-Scut』を使用したかったのみ」で商標権者に故意はない旨述べているが、甲第4号証のカタログを見れば、「エフエッチエスカット」と一連に使用はしておらず、「エフエイチ」と「エスカット」を上下二段に表し「エスカット」の称呼が生じるようにしていることは明白である。
(3)以上述べたように、被請求人の答弁は理由のないものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べた。
1 商標法第51条第1項は、商標権者の「故意」を要件としているが、請求人の主張は、商標権者の「故意」については十分な立証がされているとはいえない内容である。
請求人は、「本件商標の商標権者(中略)一定の評価を得ており市場で名前が浸透している『S-cut床暖房』が商標登録されていないことを知ってか、全体をカタカナ文字として『エフエッチエスカット』とすれば非類似と判断され登録されると考えたと思われる。」旨主張しているが、そのような事実は一切ない。昔から使用していた「エフエッチエスカット」をそのまま商標登録したに過ぎない。請求人の主張は憶測の域を出ず、商標権者(被請求人)の故意を十分に立証しているとはいえない内容である。
また、請求人は、「商標権者はこの商標の出願時点から『エフエッチエスカット』商標だけでなく、称呼において類似し株式会社ScutSystemが使用している『S-cut』に近づけ類似する『FH-Scut』商標を使用すべく意図していたのではないかと疑われる。」旨主張しているが、商標権者は、「エフエッチエスカット」「FH-Scut」を使用したかったのみで、商標権者に故意はなく、商標権者の故意を十分に立証しているとはいえない内容である。そして、請求人は、「この納入仕様書を受け取った見込客は後に請求人会社の営業担当に『おたくの会社の商品と思った』と漏らしていた。」旨主張しているが、これも商標権者の故意を十分に立証しているとはいえない内容である。
商標権者の故意を十分に立証していないことは、請求人の審判請求理由のまとめの項においても商標権者の故意について記載してないことからも明らかである。
よって、答弁の趣旨とおりの審決を求めるものである。

2 第2回答弁
(1)請求人は、弁駁書において「この甲第11号証で採択使用されていた商標が誰かの商標である可能性に配慮して、それを避けるために全体として片仮名文字からなる本件登録商標『エフエッチエスカット』を採択したことは間違いないからである」と述べている。
しかし、本件商標登録について被請求人が商標登録出願する時点で、「エスカット」または「S-cut」の商標登録は存在しておらず、被請求人は「エフエッチエスカット」、「FH-SCUT」、「エスカット」、「S-cut」のいずれの商標も選択でき、商標登録することができた。
上記事情を鑑みるに、請求人の主張は誤りである。請求人は被請求人の意思を、悪意に基づいて推定しているに過ぎない。
なぜならば、被請求人は「エフエッチエスカット」、「FH-SCUT」、「エスカット」、「S-cut」のいずれの商標も選択でき、商標登録することができたにもかかわらず「エフエッチエスカット」を選択したのは、被請求人の商品名が単純に「エフエッチエスカット」であったからである。
もし、被請求人が「エスカット」、「S-cut」の名称を使い、請求人が主張するように故意に誤認混同を生じさせたいと思っていたならば、はじめから「エフエッチエスカット」ではなく「エスカット」や「S-cut」で商標登録を行っている。「エスカット」や「S-cut」で商標登録を行えば、「エスカット」や「S-cut」の商標を使用しても、商標法第51条第1項に規定される取消審判を請求されないからである。
(2)また、請求人は「請求人の設立は平成15年8月で、被請求人が床暖房事業部を立ち上げた時点までに1年以上の実績があり、たとえば、インターネットのホームページでの検索、見込み客への営業での競合、請求人の雑誌広告(甲第26号証ないし甲第30号証)などで、正確な時期は特定できないものの、請求人の存在および商標認識していたとするのが自然である。」と述べている。
しかし、インターネットのホームページでの検索では自社商品名「エフエッチエスカット」「FH-SCUT」で検索しても自社の商品は検索エンジンで上位に表示され、自社の商品の宣伝効果は認識できるものの、請求人の商品は検索されず、請求人の存在は気がつかないとするのが自然である。
また、見込み客への営業での競合、請求人の雑誌広告などで1年程度先行していたとしても、実績は1年程度であるため、その存在は業界で知らない人はいないといえるまでは有名ではなく、被請求人が知っていなければならないとするのは酷に過ぎる。
(3)請求人は「甲第4号証のカタログを見れば、『エフエッチエスカット』と一連に使用はしておらず、『エフエッチ』と『エスカット』を上下二段に表し「エスカット」の称呼が生じるようにしていることは明白である。」と主張している。
しかし、商標法第51条第1項に該当するためには、商標権者の「故意」を要件としているが、請求人は、商標権者の「故意」については十分な立証ができているとはいえない内容である。

第4 当審の判断
1 本件商標と被請求人の使用商標・使用商品及びその類否
(1)本件商標は、前記したとおり、「エフエッチエスカット」の片仮名文字を標準文字で表してなり、第11類「暖房装置,電気式暖房装置」を指定商品とするものである。
そして、本件取消審判において、請求人が本件商標の不正な使用に該当すると主張している被請求人の使用に係る商標(以下「本件使用商標」という。)は、甲第4号証(被請求人の作成に係るカタログ)に示されているとおりの商標であり、その態様は、別掲(1)のとおり、「FH-Scut床暖房」の文字を大きく表してなるところ、その構成中の「FH-S」と「床」の文字は、「cut」及び「暖房」の文字に比べてかなり大きく表されており、小さく書された「cut」と「暖房」の文字の上には、更に小さな文字で、「cut」の文字の上には「エフエイチ」と「エスカット」の文字を二段併記にして配し、「暖房」の文字の上には「ゆかだんぼう」の文字をルビ風に配した構成からなるものである。また、甲第3号証(被請求人のホームページ)及び甲第4号証のカタログには、「FH-Scut」の態様からなる商標も使用されている。
そして、被請求人は、この商標を「電気式床暖房装置」について使用している。
(2)本件商標は、上記のとおりの構成からなるものであるから、その構成文字に相応して、「エフエッチエスカット」の称呼を生ずるものである。
これに対し、本件使用商標は、上記のとおりの構成からなるものであるところ、その構成中の「床暖房」の文字は、その使用に係る商品である「電気式床暖房装置」を指称するものであるから、その要部は、「FH-Scut/エフエイチ/エスカット」の文字部分にあるものと解され、その片仮名文字に相応して「エフエイチエスカット」の称呼を生ずるものと認められる。
してみれば、本件使用商標と本件商標とは、外観を異にするものではあるが、称呼において類似する関係にあるから、被請求人(商標権者)は、その指定商品に含まれている商品について、本件商標に類似する商標の使用をしているものといわなければならない。

2 請求人の使用する商標及び使用商品
(1)請求人の使用する商標についての経緯
請求人である株式会社ScutSystemは、平成15年8月に設立されたステンレス面状ヒーター「Scutヒーター」を床暖房用として用いた「S-cut床暖房」の製造、販売、施工を行う会社である。
この「Scutヒーター」は、札幌市の株式会社日本地場産業で開発され、寒冷地の屋根融雪用、トラック仮眠用ヒーターとして販売されていたものであるところ、平成10年頃より、これを床暖房装置とし販路を拡大すべく、日本地場産業の役員であった山崎雅夫を中心にして、首都圏に営業所、支店を設立し、マンションや戸建住宅等に販売していたものであるが(甲第8号証及び甲第9号証)、日本地場産業は、平成14年頃、社業不振のため事実上の倒産を余儀なくされ、山崎雅夫が「JIBASAN」の名において個人で「Scutヒーター」を用いた「S-cut床暖房」の販売・施工を続けていた。
そして、平成15年8月に、請求人会社が設立され、「S-cut床暖房」商標に係る床暖房装置は、山崎雅夫から請求人へと引き継がれることとなったものである(現在、山崎雅夫は請求人会社の取締役になっている)。
このような経緯からみれば、請求人と「JIBASAN」の名において事業を行っていた山崎雅夫との間において、資本的な関係はなかったとしても、少なくとも、「S-cut床暖房」いう商標の側面からみれば、継続性をもって、該床暖房事業が受け継がれてきたものということができる。
(2)請求人らの使用する商標及び使用商品
請求人が「電気式床暖房装置」に使用している商標(以下「請求人使用商標」という。)は、甲第15号証(請求人の作成に係るカタログ)に示されているとおりの商標である。その態様は、別掲(2)のとおり、「S」の文字を大きく表し、その右側に、三段に書された文字が「S」の文字の高さに収まるように表されており、中段には「-cut」の文字が、下段には「床暖房」の文字が、いずれも「S」の文字よりかなり小さな文字をもって表されており、「-cut」の文字の上には、更に小さな文字をもって「エスカット」の文字が配されているものである。
また、上記した山崎雅夫が個人的に該事業を行っていた際、「電気式床暖房装置」に使用していた商標(以下「山崎使用商標」という。そして、請求人使用商標と山崎使用商標とをまとめて記載するときは「請求人らの使用商標」という。)は、甲第11号証(JIBASANのカダログ)に示されているとおりの態様からなる商標である。その態様は、別掲(3)のとおり、「Scut床暖房」の文字を大きく表してなるところ、その構成中の「S」と「床」の文字は、「cut」及び「暖房」の文字に比べてかなり大きく表されており、小さく書された「cut」と「暖房」の文字の上には、更に小さな文字で、「cut」の文字の上には「エスカット」の文字を配し、「暖房」の文字の上には「ゆかだんぼう」の文字をルビ風に配した構成からなるものである。
なお、請求人は、「S-cut」と「エスカット」の文字を二段に横書きしてなり、平成18年1月13日に登録出願、第11類「家庭用・業務用電気式床暖房装置」を指定商品として、同19年3月30日に設定登録された登録第5035358号商標を有している(甲第34号証)。

3 本件使用商標と請求人らの使用商標との類否
本件使用商標は、上記したとおり、「FH」の文字がハイフンを介して「Scut」以下の文字と結合されており、しかも、「S」の文字の右側にして「cut」の文字の上には、該欧文字の読みを表したものと認められるように、「エフエイチ」と「エスカット」の文字が二段に表されていることからみて、「FH」の文字と「Scut床暖房」の文字とを組み合わせたものと認められるものである。そして、「FH(エフエイチ)」の文字は、商品の型式等を表す記号・符号の一類型と認められるものであることから、容易に「Scut床暖房」の文字部分をもって自他商品の識別標識として捉えられ、取引に供されるものであり、更には、「床暖房/ゆかだんぼう」の文字部分が商品の用途・品質を表すものであることから、「Scut(エスカット)」の文字部分のみをもって取引に供されることもあり得るものというべきである。このことは、被請求人のカタログ(甲第4号証)の4頁において、「エスカット床暖房だから」の表題を用いていることからも首肯し得るものである。
一方、請求人使用商標は、上記したとおり、「S」の文字の右側に、「-cut」と「床暖房」の文字を表し、最上段に小さく「S-cut」の読みを表したものと認められる「エスカット」の文字を配した構成からなるものであるから、その構成全体をもって取引に供されるとともに、「床暖房/ゆかだんぼう」の文字部分が商品の用途・品質を表すものであることから、「Scut(エスカット)」の文字部分のみをもって取引に供されることもあり得るものというべきである。
また、山崎使用商標は、上記したとおり、「Scut床暖房」の文字を大きく表し、「S」の文字の右側にして「cut」の文字の上にその文字の読みを表したものと認められる「エスカット」の文字が配されているものであるから、その構成全体をもって取引に供されるとともに、「床暖房/ゆかだんぼう」の文字部分については、上記したとおりのものであるから、「Scut(エスカット)」の文字部分のみをもって取引に供されることもあり得るものというべきである。
してみれば、本件使用商標と請求人らの使用商標とは、「エスカットユカダンボウ」あるいは「エスカット」の称呼を共通にする類似の商標といわなければならない。
また、本件使用商標構成中の「Scut床暖房」部分における文字の大きさの配分や読みを表す小文字の配置等は、請求人使用商標と近似しているばかりでなく、山崎使用商標との関係においては、その特徴をそのまま有しているものであるから、本件使用商標と請求人らの使用商標とは、外観においても極めて紛らわしいものということができる。

4 商品の類否について
被請求人が本件使用商標を使用しているのは、本件商標の指定商品中の「電気式暖房装置」に含まれるものと認められる「電気式床暖房装置」であり、また、請求人及び山崎雅夫が請求人らの使用商標を使用しているのも「電気式床暖房装置」であるから、両者の使用商品は、同一又は類似と認められるものである。

5 他人の業務に係る商品との混同について
(1)請求人使用商標の周知性について
請求人の提出に係る請求人会社のホームページ(甲第18号証)によれば、請求人は、「S-cut電気式床暖房システム」を、平成15年にマンション「レーベンハイム竹ノ塚」に導入したのをはじめとして、平成15年は6件のマンションにおける合計161戸において導入し、平成16年は16件のマンションにおける合計429戸、平成17年は24件のマンションにおける合計988戸、平成18年は3月1日現在で6件のマンションにおける合計304戸において導入し、その外、老人ホーム、保育園、医院、戸建て住宅等にも導入した実績を認めることができる。
また、請求人は、「S-cut電気式床暖房システム」についての広告・宣伝にも努め、「住宅建築(平成17年10月号)」(甲第25号証)、「商店建築(平成17年10月号)」(甲第26号証)、「工務店経営(平成17年10月号)」(甲第27号証)、「I’m home(平成17年12月号)」(甲第28号証)、「ニューハウス(平成17年12月号)」(甲第29号証)、「建築知識(平成18年11月号)」(甲第30号証)等の建築専門雑誌において、その紹介記事が掲載されている。
以上の甲各号証を総合してみれば、「S-cut/エスカット床暖房」の商標は、請求人の業務に係る「電気式床暖房装置」の商標として、被請求人が床暖房事業部を立ち上げたとされる平成16年(2004年)12月当時から、本件商標の出願時(平成17年11月11日)及び設定登録時を経て今日に至るまで、首都圏を中心とするこの種商品の取引者・需要者の間において、少なくとも、一定程度は知られていたものとみるのが相当である。
(2)商品の出所の混同について
前述のとおり、本件使用商標は、請求人らの使用商標と称呼において類似し、外観においても紛らわしいものであり、また、被請求人が本件使用商標を使用している商品と請求人らが請求人らの使用商標を使用している商品とは、いずれも「電気式床暖房装置」であって、同一の商品である。そして、上記のとおり、少なくとも、請求人使用商標は、本件使用商標が使用され始めたものと推定される平成16年(2004年)12月時点においては既に、首都圏を中心とするこの種商品の取引者・需要者の間において、一定程度知られていたものと認められるものである。
してみれば、被請求人が本件使用商標を「電気式床暖房装置」について使用すれば、その商品に接する取引者・需要者は、該商品が請求人の業務に係る商品であるかのように誤認し、その商品の出所について混同をするものといわなければならない。

6 故意について
前記したとおり、被請求人の作成に係るカタログ(甲第4号証)に表示されている本件使用商標の表示の仕方は、請求人の使用に係るカタログに表示されている使用商標と基本的な構成において近似しているばかりでなく、請求人会社の現在の取締役の一人である山崎雅夫が「JIBASAN」の名において床暖房装置の販売・施工をしていた当時(2002年1月現在)に使用していたカタログ(甲第11号証)に表示されている山崎使用商標と比較すると、「FH-」の文字部分及びその読みと認められる「エフエイチ」の文字部分以外は、その構成を全て同じくするものである。しかも、そればかりでなく、甲第4号証のカタログと甲第11号証のカタログを比較すれば、掲載されている写真、図及び説明の文章等は、一部の数値を除いて酷似しているものである。そして、これらの表示は、被請求人のホームページ(甲第3号証)にも踏襲されている。
上記した事実からみれば、被請求人は、請求人と同じ「電気式床暖房装置」の販売・施工を行う事業者であり、しかも、被請求人のホームページ(甲第3号証)における納入実績をみれば、被請求人も関東地方において事業を展開していたことが認められるから、被請求人は、同業者である請求人や山崎雅夫らの事業についての十分な情報を把握したうえ、山崎雅夫が「JIBASAN」の名において使用していたカタログ(甲第11号証)とほゞ同一の体裁・内容からなるカタログ(甲第4号証)を作成・頒布して事業を行っていたものといわざるを得ない。
そして、被請求人は、この点についての請求人の主張に対して、「商標権者は『エフエッチエスカット』『FH-Scut』を使用したかったのみで、商標権者に故意はなかった」旨主張しているのみであり、甲第4号証のカタログを採択した経緯や事情については一切述べていない。
してみれば、被請求人は、同書・同大・同間隔に一連に表した「エフエッチエスカット」の片仮名文字からなる商標の登録出願をして登録を受けておきながら(なお、甲第3号証の被請求人ホームページには、「2006/06『FH-Scut商標登録』」と記載されているが、該商標については、商標登録願2005-33481号として商標登録出願がされた事実は認められるが、商標法第4条第1項第11号を理由に拒絶査定がなされ確定している。)、本件商標の構成を「エフエイチ」と「エスカット」の二段に変更したうえ、これを「FH-Scut床暖房」の文字中に配し、容易に「Scut/エスカット」の文字部分が認識されるような態様をもって使用していたものであるから、上記した被請求人のカタログ(甲第4号証)の構成態様とも併せてみれば、被請求人は、上記のような態様で本件商標を「電気式床暖房装置」に使用すれば、請求人の業務に係る商品「電気式床暖房装置」と混同を生ずるおそれがあることを認識して、その使用を行っていたものと推認するほかはない。
したがって、被請求人は、故意に、請求人の業務に係る商品と混同を生じさせる行為をしたものと認められる。

7 被請求人の主張について
被請求人は、本件審判請求には、商標権者の「故意」についての十分な立証がなされていない旨を専ら主張している。
しかしながら、最高裁昭和55年(行ツ)第139号判決によれば、商標法第51条第1項に謂う「故意」については、「商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用し又は指定商品に類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標を使用するにあたり、右使用の結果、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り・・・」と判示されており、また、東京高裁平成7年(行ケ)第17号判決においても、「商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標等を使用するにあたり、その使用の結果、他人の業務に係る商品と混同を生じさせること等を認識していたことで足りると解される。」と判示されているように、商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用し、その使用の結果、他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足りるものといわなければならない。
そうとすれば、上記したとおり、被請求人は、本件商標を請求人の使用に係る商標に近づけるような態様に変更して使用するとともに、その使用に係るカタログ(甲第4号証)を、特に、山崎雅夫が「JIBASAN」の名において使用していた当時のカタログ(甲第11号証)の構成態様とほゞ同一の状態に作成・使用していたものであるから、そのような態様で本件商標を請求人の業務に係る商品と同じ「電気式床暖房装置」に使用すれば、請求人の業務に係る商品「電気式床暖房装置」と混同を生じさせることを認識していたものといわざるを得ない。
してみれば、被請求人は、故意に、請求人の業務に係る商品と混同を生じさせる行為をしたものといわなければならないから、この点についての被請求人の主張は採用できない。

8 結び
したがって、本件商標の商標権者である被請求人は、故意に、本件商標と類似する商標をその指定商品について使用し、他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたものであるから、商標法第51条第1項の規定により、本件商標の登録を取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件使用商標


(2)請求人使用商標


(3)山崎使用商標


(なお、上記(1)ないし(3)の色彩については原本を参照)


審理終結日 2008-06-20 
結審通知日 2008-06-25 
審決日 2008-07-08 
出願番号 商願2005-106212(T2005-106212) 
審決分類 T 1 31・ 3- Z (Y11)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大島 護 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 鈴木 修
酒井 福造
登録日 2006-06-09 
登録番号 商標登録第4960298号(T4960298) 
商標の称呼 エフエッチエスカット、エフエッチエス、カット 
代理人 小川 順三 
代理人 中村 盛夫 
代理人 富樫 竜一 

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