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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z12
管理番号 1181221 
審判番号 無効2007-890067 
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-05-30 
確定日 2008-07-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第4840590号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4840590号商標(以下「本件商標」という。)は、「アヴァンボーグ」の片仮名文字と「AVANVOGUE」の欧文字を上下二段に横書きしてなり、平成13年4月13日に登録出願、第12類「船舶並びにその部品及び附属品,航空機並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車並びにその部品及び附属品,自転車並びにその部品及び附属品,電動三輪車並びにその部品及び附属品,乳母車,車いす,人力車,そり,手押し車,荷車,馬車,リヤカー,荷役用索道,カーダンパー,カープッシャー,カープラー,牽引車,陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。),陸上の乗物用の機械要素,陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。),タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片,乗物用盗難警報器」を指定商品として、同17年2月25日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録商標は、以下のとおりであり、その商標権は、いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第655209号商標(以下「引用商標1」という。)は、「VOGUE」の欧文字を横書きしてなり、昭和36年10月23日に登録出願、第26類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同39年10月9日に設定登録され、その後、4回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、さらにその後、平成17年4月6日に、指定商品を第16類「雑誌、書籍,その他の印刷物(この商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く。)」とする指定商品の書換の登録がされたものである。
2 登録第967284号商標(以下「引用商標2」という。)は、「ヴォーグ」の片仮名文字を横書きしてなり、昭和43年12月20日に登録出願、第26類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和47年6月7日に設定登録され、その後、3回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、さらにその後、平成14年11月27日に、指定商品を第6類「金属製彫刻」、第9類「映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」、第16類「印刷物,書画,写真,写真立て」、第19類「石製彫刻,コンクリート製彫刻,大理石製彫刻」及び第20類「額縁,石こう製彫刻,プラスチック製彫刻,木製彫刻」とする指定商品の書換の登録がされたものである。
3 登録第4547685号商標(以下「引用商標3」という。)は、「ボーグ」の文字を標準文字で表してなり、平成11年1月8日に登録出願、第16類「紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,衛生手ふき,型紙,紙製テーブルナプキン,紙製タオル,紙製手ふき,紙製のぼり,紙製旗,紙製ハンカチ,紙製幼児用おしめ,裁縫用チャコ,荷札,印刷物,書画,写真,写真立て,文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,印刷用インテル,印字用インクリボン,活字,こんにゃく版複写機,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,装飾塗工用ブラシ,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,封ろう,マーキング用孔開型板,郵便料金計器,輪転謄写機,観賞魚用水槽及びその附属品」を指定商品として、同14年3月1日に設定登録されたものである。
4 登録第4802292号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成16年2月20日に登録出願、第16類「雑誌,新聞,その他の印刷物,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,封ろう,印刷用インテル,活字,青写真複写機,あて名印刷機,印字用インクリボン,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,郵便料金計器,輪転謄写機,マーキング用孔開型板,電気式鉛筆削り,装飾塗工用ブラシ,紙製幼児用おしめ,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,型紙,裁縫用チャコ,紙製のぼり,紙製旗,観賞魚用水槽及びその附属品,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,荷札,印刷したくじ(おもちゃを除く。),紙製テーブルクロス,紙類,文房具類,書画,写真,写真立て」を指定商品として、同16年9月10日に設定登録されたものである。
(上記1?4の登録商標をまとめていうときは、単に「引用商標」という。)

第3 請求人の主張の要点
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第149号証(枝番を含む。なお、枝番を有する証拠について、枝番のすべてを引用するときは、以下枝番を省略する。)を提出した。
1 請求の理由
(1)引用商標の著名性について
(ア)引用商標1は、1892年(明治25年)、ニューヨークで創刊されたファッション誌の題号であって、米国のザ・コンド・ナスト・パブリケーションズ・インコーポレーテッド並びにアドバンス・マガジン・パブリッシャーズ・インコーポレーテッドの所有を経て、現在、我が国においては、その関連会社である請求人が所有する世界的に著名な登録商標である。
引用商標2は、引用商標1の片仮名表記であって、我が国においては、第二次大戦以前より現在に至るまで使用され、日本国内で周知著名となっている。
引用商標3は、我が国文部省の「国語審議会」による指導に基づき、引用商標1の片仮名表記として、我が国の新聞社をはじめ、辞典、雑誌等の出版業界で使用され、本件商標の登録出願前から周知著名性を獲得し、現在に至っているものである。
引用商標4は、我が国において、平成11年から専用使用権者である有限会社日経コンデナスト(平成17年10月1日、社名変更により、有限会社コンデナスト・パブリケーションズ・ジャパンとなった。以下「日経コンデナスト社」という。)により使用されている「VOGUE」誌の日本語版の標章であり、実質的に引用商標1と同一の標章である。
(イ)「VOGUE」誌は、アメリカ版を初め、イギリス版、フランス版、イタリア版、ドイツ版、スペイン版、ポルトガル版、オーストラリア版、韓国版、台湾版、ブラジル版、南アフリカ版、ロシア版、ギリシャ版の各国版が発行されている。さらに、「VOGUE」日本版(VOGUE NIPPON)は、専用使用権者である日経コンデナスト社により、1999年7月28日に発行された。したがって、現在は世界15ヶ国においてそれぞれの国語で発行されている(甲第66号証)。
「VOGUE」又は「ヴォーグ」(ボーグ)は、本件商標の出願前より、各種事典類、文献類、新聞、雑誌等において紹介されていた。
そして、「VOGUE」誌は、ファッション関係を中心として各分野における世界一流の粋を集めたものであり、「VOGUE」誌に登場するファッション、ファッションモデル、デザイナー、カメラマン、企業、政界人、財界人等は全て一流である。また、「VOGUE」誌に広告を掲載するについては、厳しい基準が設けられており、厳選された一流企業のみが広告を掲載できるのであり、「VOGUE」誌に広告を掲載できること自体、一流企業の証明となり得るのである。
したがって、引用商標を構成する「VOGUE」、「ヴォーグ」、「ボーグ」の表示は、世界的に著名なファッション誌の題号として、本件商標の出願前ないし登録査定時において、我が国の、少なくともファッション関連商品の需要者、取引者に広く認識されていたものである。
(2)出所の混同について
請求人は、「混同を生ずるおそれ」について、「レール・デュ・タン」事件(最高裁平成10年(行ヒ)第85号、平成12年7月11日第三小法廷判決)において示された判断基準に沿って、以下のとおり言及する。
(ア)本件商標と引用商標との類似性について
本件商標は、「アヴァンボーグ」と「AVANVOGUE」とを二段に書してなるものである。そして、本件商標中の「アヴァン」と「AVAN」の各文字は造語である。このため、引用商標1及び4と同一性のある「ボーグ」及び「VOGUE」に世人の注意が集中するため、本件商標の要部は「ボーグ」及び「VOGUE」にあるものと考えるべきである。
引用商標1及び2からは「ヴォーグ」の称呼のほかに「ボーグ」の称呼も生じる。
したがって、本件商標は、その要部である「VOGUE」において、引用商標1、3及び4と外観、称呼、観念において類似するものであり、さらに、引用商標2とは、称呼及び観念が類似する。
(イ)本件商標の指定商品と「VOGUE」誌について
本件商標の指定商品は、第12類「自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車並びにその部品及び附属品」等であり、被請求人は、日本を代表する世界的に著名な「自動車,オートバイ」等の製造販売業者である。
一方、「VOGUE」誌には、世界的に著名な自動車会社等による自動車の広告が毎月のように掲載されている。
「VOGUE NIPPON」誌においても、創刊号から第94号の間に、自動車の広告が206件も掲載されている。この中には、自動車に関する特集も掲載され、「VOGUE」誌と「自動車」とは、ファッション商品として関係している(甲第147号証)。
被請求人は、上述のように、日本を代表する世界的に著名な自動車等の製造販売業者であり、上記世界的に著名な自動車の広告の事実を知らないはずはなく、これらの事実を十分承知の上、本件商標を出願し、登録を受けたものであるから、引用商標へのフリーライドの意図は明白である。
したがって、引用商標と本件商標とは、標章と商品につき、いずれも相互の関連性は極めて深く、出所について混同を生ずるおそれがある。
(ウ)引用商標の周知著名性及び独創性の程度について
引用商標の著名性については、前記(1)のとおりである。また、独創性の程度について、東京地裁の判決(甲第142号証)は、「VOGUE」は、「流行、はやり」を意味するフランス語に由来する英語の普通名詞であるから、造語による標章に比して、独創性の程度は必ずしも高くないと言わざるを得ない。・・しかし、我が国においては、「VOGUE」という語は決して通常一般的に使用される語ではないなどの理由により、自他識別機能は、決して低いものとはいえない、としている。
(エ)本件商標の指定商品と「VOGUE」誌との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、及び商品の取引者及び需要者の共通性、その他取引の実情などに照らしての判断について
前述のように、自動車は、今やファッションの代表的商品であり、「VOGUE」誌に古くから広告されている商品であるから、出所混同のおそれの高い商品である。特に、商品「自動車、バイク、自転車」等は老若男女が年齢を問わず購入し使用する商品であり、特別な分野に属する特殊な商品ではない。さらに、毎年開かれる自動車ショーとそのコンパニオンによる広告との関係からみれば、「ファッションと関係がない」等とはいえない。したがって、本件商標の需要者、取引者は、社会一般に共通性のある商品、自動車・オートバイ等の乗物を主とするものである以上、出所混同を生ずる範囲は極めて広い。
(オ)本件商標の指定商品の取引者及び需要者において共通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきことについて
以上によれば、本件商標をその指定商品に使用した場合、取引者、需要者が、これを請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品と認識する可能性は十分にあり、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と誤認混同を生ずるおそれがある商標というべきである。
(カ)出版社と多角経営との関係について
我が国の出版社の多くは、本業である出版業務以外に様々な業務を手がけている実情にある。この事実からすると、世界的な出版社である請求人が、経営の多角化を展開していく可能性について、取引者、需要者は、何らの違和感を有しないものと考えられる。
したがって、上記事実に照らしても、本件商標をその指定商品に使用すれば、あたかも請求人の取扱いに係る商品であるかの如く、取引者、需要者をして、商品の出所の混同を生じさせるおそれがあることは明らかである。
2 答弁に対する弁駁
(1)答弁理由1に対する反論
被請求人は、「本件商標を使用することで引用商標にフリーライドする意図は全く持っておらず、その必要性もない。」と主張する。
しかしながら、本件商標は、「ボーグ/VOGUE」の文字を含むものであるから、被請求人の主張は何ら客観性がない。
(2)答弁理由2に対する反論
(ア)被請求人は、本件商標と引用商標との関係で、商品間の性質、用途、目的との関連性及び両者間の取引者、需要者の関連性について言及し、「『VOGUE』誌に軽自動車の広告が掲載された事実はない。」としている。
しかしながら、本件商標の指定商品中の自動車については、「自動車並びにその部品及び附属品」となっており、商品「自動車」の概念は、軽自動車であるとか、普通自動車であるとか、高級自動車であるとかを問う訳ではなく、軽自動車も自動車と同一商品であることは間違いないところである。そして、「VOGUE」誌の広告には軽自動車が存在する(甲第147号証の188)のみならず、日本の軽自動車企画に適合しないまでも、コンパクトで女性向けとされる車種は多数存在する(甲第147号証の17、22、51、142、164、200)。仮に「VOGUE」誌の広告中に、軽自動車そのものの広告が少ないとしても、1999年9月号から2007年6月号(甲第147号証)の少なくとも8年間に、206件もの世界的な自動車メーカーによる広告が行われているという事実を正視するならば、被請求人の上記主張は失当である。換言すれば、今や、自動車は、現代の重要なファッション商品となっているのであり、自動車メーカー及び自動車販売会社は、世界的な権威と名声を有する「VOGUE」誌上に広告を行うことで、重要な顧客吸引力を獲得しているのである。
したがって、本件商標は、「VOGUE」誌との関係で、出所混同を生ずるおそれがあることは明白である。
(イ)さらに、被請求人は、自動車と「VOGUE」誌は、商品の性質、用途又は目的における関連性は乏しく、かつ、「VOGUE」誌がターゲットとする需要者と自動車の需要者とは共通性があるとしても極めて限られた範囲である旨主張する。
しかし、顧客が自動車を購入する場合、自動車の外観、色彩、車内の各部品の詳細な機能やデザイン、そして経済性などを十分に考慮した上で購入を決定するはずであり、甲第147号証として、206件もの証拠が存在するという事実に照らして客観的に判断した場合、被請求人の上記主張は、これらの事実を無視した誤った主張といわざるを得ない。
(3)答弁理由3に対する反論
(ア)被請求人は、「VOGUE」誌がファッション商品について周知著名であることを否定するものではないが、ファッション商品とは、基本的には、衣料や身の回り品であり、少なくとも着せ得やTPOや短期間の流行に応じて取り替えることが可能なもので自動車のように長期間使用される耐久消費財ではないから、「VOGUE」誌の周知著名性も、ファッション分野に関連する範囲に止まるものである旨主張する。
確かに、インターネットや携帯電話が一般的に普及した最近の10年ないし15年の世界における時代の流れは、ほぼ全商品、全流通系統、日常生活において激変している。請求人は、いわゆるファッション商品か否かについての判断を行うに当っては、固定的概念として特定されるものではなく、常に時代と共に流動的に捉えるべき商品・役務であると考える。
(イ)被請求人は、「VOGUE」の文字に独創性はない旨主張する。
しかし、重要なことは、商標の自他商品識別機能、これから派生する出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能、財産的機能、顧客吸引力は、全て、商標のダイナミックな使用によってもたらされる機能であり、創造標章か否かという議論は、商標の現実的機能からみて、程遠い場所での議論にすぎない。加えて、世界的に著名な登録商標「VOGUE」の商標権侵害事件、あるいは不正競争防止法による侵害事件の侵害者は、きまってこのような主張をくり返していた事実があったが、東京高裁をはじめ東京地裁でも、「VOGUE」標章の自他識別機能は、決して低いものとはいえないと認定し、被請求人と同様の主張を退けているのである(甲第6、7号証及び甲第139?144号証参照)。
つまり、我が国では、「VOGUE」の観念としては、流行、はやりとしてよりも、世界的な著名ファッション誌「VOGUE」としての自他商品識別機能を認めているのである。したがって、被請求人の上記主張は誤ったものである。
(4)答弁理由4に対する反論
(ア)外観
請求人は、本件商標と引用商標との外観が同一でないことは認める。しかし、本件商標は、造語であるところから、本件商標中の著名な部分の「ボーグ」、「VOGUE」の部分が要部となり、その結果、要部の点で外観が類似することになる。
(イ)観念
被請求人は、本件商標につき、「流行の先端、流行の前」といったような意味合いを持たせたものである旨主張するが、本件商標の前半部「アバン」、「AVAN」は造語である。したがって、取引者、需要者がファッション誌として著名性のある文字「ボーグ」、「VOGUE」の部分に着目するのは極めて自然である(甲第6、7号証参照)。
(ウ)称呼
称呼についても、「MEIVOGUE」における東京高裁の認定(甲第7号証)と同様な判断がされてしかるべきである。
(エ)以上のことは、特許庁における事件(異議決定・拒絶査定・無効審決)で示された認定・判断、及び東京地裁、大阪地裁、東京高裁、大阪高裁の各判決によって示された認定・判断を客観的に観察するならば、被請求人の主張は明らかに誤った主張であり、本件商標は、引用商標との関係で、「混同を生ずるおそれがある商標」なのである。
(5)答弁理由5に対する反論
(ア)被請求人以外の他の世界的に有名な自動車メーカーが、何故に競ってこのように膨大量の広告を「VOGUE」誌を通して行っているのか、同業者ならばその理由は自ずと解かるはずである。被請求人の主張は、これらの206件もの広告を完全に無視した事実誤認の主張である。
(イ)被請求人による「多角経営の可能性は極めて低い」との主張に対しては、請求人は、請求の理由中で詳述しているところであるが、請求人は、甲第6号証(東京高裁の判決)を引用する。
(ウ)乙第11号証の「Peugeot Vogue」は、日本で登録されてはいない商標である。
乙第12号証は、除斥期間を経過した登録商標であり、請求人らが使用を認めている商標ではない。
乙第13号証は、請求人が平成19年8月23日付で、無効審判を請求したものであり、現在審理中である(無効2007-890142:甲第149号証)。
請求人らは、ファッション誌として世界的に著名な「VOGUE」商標の保護につき、特許庁、裁判所に対し、希釈化防止、汚染防止を図る企業努力を20数年にわたり継続的に行っている(甲第142号証参照)。
被請求人は、日本を代表する自動車、二輪自動車メーカーとして世界的に著名な企業であるから、「VOGUE」誌のファッション分野における周知著名性にフリーライドして商取引を行う必要性はなく、また、被請求人のブランドイメージを損なうおそれのある商標を採択することはない旨主張するが、被請求人が上記のように世界的企業であると自認するならば、他人の著名商標「VOGUE」、「ボーグ」を要部とするような本件商標を使用すべきではないと考える。
3 むすび
以上のように、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから、無効とされるべきである。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第14号証を提出した。
1 請求人は、被請求人が引用商標へのフリーライドの意図を有しており、本件商標と引用商標とは、標章と商品につき、いずれも相互に関連性が極めて深く出所の混同が生ずるおそれがあるので、商標法第4条第1項第15号に該当する旨主張する。
しかしながら、被請求人は、本件商標を使用することで引用商標にフリーライドする意図を全く持っておらず、その必要性もない。また、標章と商品の関係においても関連性は極めて乏しいものであるから、被請求人が本件商標を使用しても請求人との関係で混同を生ずるおそれはない。この後者の点について、「レール・デュ・タン」事件における混同のおそれについての判断基準に沿って、以下のとおり答弁する。
2 本件商標の指定商品と「VOGUE」誌との間の性質、用途又は目的における関連性並びに取引者及び需要者の関連性について
(1)本件商標の指定商品
(ア)本件商標の指定商品は、第12類の「自動車,二輪自動車,航空機」他である。被請求人が製造販売する商品は、自動車、二輪自動車、航空機、エンジン他広範にわたっているが、請求人は、主に「自動車」について混同を問題にしていると思われるので、以下、自動車、特に乗用自動車について検討する。
(イ)自動車は、基本的に移動の道具であり、その生産は、大規模な工場によって行われ、安全面を含めた性能が厳密に検査されて商品として取引されるものである。自動車の購入者は、一般的に運転免許を有する者であり、老若男女を問わない。自動車の購入に際しては、インターネットやカタログで自動車の情報を得て性能、価格等を比較検討し、販売店(ディーラー)を訪問して試乗等をし、その後契約、納車となるが、購入者は、定期的な車両検査や自賠責保険の加入が義務付けられており、その所持・運転には社会的責任を伴うものである。自動車の値段は、数十万から1000万円を超えるものがある。自動車の購入は、平均して数年に1回の割合である。
(2)「VOGUE」誌
一般的に、雑誌は、様々な内容の記事を編集して定期的に発行されるもので、購読者は老若男女を問わない。雑誌は、記事の内容で売り上げを伸ばすものもあるが、「VOGUE」誌は、雑誌に載せる商品の広告料で成り立っており、雑誌には、有名ブランドの洋服、カバン、靴等のいわゆるファッションに関する広告が多数掲載されている(乙第1号証)。有限会社コンデナスト社の社長の斉藤和弘氏によれば、「VOGUE NIPPON」は広告収入100%頼っているとのことである(甲第134号証)。また、同氏は、「グッチを買うこととヴォーグを買うことが等価でないと、雑誌も成立しないし、広告の媒体として機能しない。ブランドと雑誌は相互依存の関係にある。」と述べている(乙第2号証)。「VOGUE」誌の広告料は、甲第134号証によれば、ファッション誌で最高の235万である。「VOGUE」誌の広告主は、その雑誌の購読者が、広告商品を購入することを見込んで高額な広告料を払っている。「VOGUE NIPPON」の値段は、680円であり、書店で毎月購入することができる。
(3)商品の取引者及び需要者について
(ア)自動車の需要者は、一定年齢以上の老若男女である。需要者を限定して販売するものではない。
一方、「VOGUE」誌も購読者を制限するものではないが、上述のように「VOGUE」誌がターゲットとする需要者は特定クラスの需要者である。すなわち、「ラヴォーグ南青山」事件で示されたとおり、「高級でハイセンスな読者」であって(甲第142号証)、女性が対象である。有限会社コンデナスト社の編集長によれば、雑誌のコンセプトは、「既存の女性誌をはるかに超えた『成熟した新しい女性たち』へモダンなクリエイションを発信。」することである(甲第134号証)。
そして、「グッチを買うこととヴォーグを買うことが等価」な需要者は、「VOGUE」誌に掲載された広告のグッチやエルメスのカバン、ベンツ、BMW、ポルシェ、アウディ、ジャガーのような高級自動車を購入することができる者である。このような購読者が広告商品を自ら購入するから広告の価値があり、「VOGUE」誌は広告媒体として成り立つのである。
要するに、「VOGUE」誌の需要者は、ポルシェやジャガーなどの高級乗用車を自らの判断で購入できるお金持ちの女性である。この点、自動車を購入する女性ユーザーと一部共通するとも考えられる。
しかしながら、女性が購入する割合が最も高い自動車は軽自動車であり、女性ユーザーの割合は66%である(乙第4号証)。また、未婚女性ユーザーが自分専用に軽自動車を使用する割合は80%である(同号証)。したがって、女性が自分用に1台の自動車を購入するならば、軽自動車が最も多いこととなる。ポルシェやジャガーを自ら購入し、さらに、軽自動車も所有し、もっぱら軽自動車を運転する女性もいるであろうが例外的な話である。
このように、請求人がターゲットとする「高級でハイセンスな」女性需要者と自動車の需要者との関連性は全くないわけではないが極めて限定的である。事実、請求人の証拠によれば、「VOGUE」誌に軽自動車の広告が掲載された事実はない。
(イ)請求人は、モーターショー等でコンパニオンによる広告の実態から、自動車がファッション商品そのものであると主張する。
しかしながら、モーターショーでコンパニオンと共にライトアップされる車両は、近未来のコンセプトカーであったり、一般庶民の手が届かない外国のスポーツカーなど高級車である。実際、モーターショーの来客は、ライトアップされた車の周囲にある販売予定か販売中の自動車に興味を示す光景を見受ける。コンパニオンと華やかな演出で自動車がファッション商品であるとの結論は極めて短絡的であって、そのような演出は、ゲーム機や電気製品、農業機械などの新製品発表会でも行われるものである。
(ウ)「ファッション」とは、「はやり、流行。特に、服装・髪型などについていう。また転じて、服装」(広辞苑)と定義されている。「ファッション商品」とは、一般に食料品、耐久消費財を除く商品で、婦人服、紳士服、婦人(紳士)用品等で季節性や流行があり、商品のライフサイクルが短いもので、一般的には、衣料をメインとし関連する身の回り品までを括りとして定義されるものとの次世代電子商取引推進評議会の定義もある(乙第5号証)。自動車を身の回り品のレベルで捉えられる者もいるであろうが、それは、常に4、5台以上の乗用車をガレージに乗車可能な状態で維持できる一握りの需要者であろう。
(エ)以上のとおり、自動車は、基本的に移動のための道具で、数年に1回の割合で慎重に購入される耐久消費財である。一方、「VOGUE」誌は、基本的に広告媒体で、その広告で需要者の購買意欲を喚起させるために用いられるもので、両者は、商品の性質、用途又は目的における関連性は乏しいものである。そして、「VOGUE」誌がターゲットとする需要者と本件商標が使用される自動車の需要者とは共通性があるとしても極めて限られた範囲である。
3 引用商標の周知著名性及び独創性の程度
(1)被請求人は、「VOGUE」誌が、ファッション商品について周知著名であることを否定するものではない。しかしながら、ファッション商品とは、上述のとおり、基本的には、衣料や身の回り品であり、少なくとも季節やTPOや短期間の流行に応じて取り替えることが可能なもので、自動車のように、長期間使用される耐久消費財ではない。
(2)「VOGUE」誌の周知著名性も、そのファッション分野に関連する範囲に止まるものである。そして、商標「VOGUE」は、英語で「流行、はやり」の意味があり、「大学生・社会人に必要な語」である(乙第6号証)。高校卒業レベルを対象としたNHKの英語講座にも記載されている(乙第7号証)。
また、「VOGUE」誌においても、その表紙に「Reality Vogue!」と「リアルに輝くモードな私。」とが併記されていることは(乙第1号証)、「Vogue」と「モード(mode)(流行)な私」の関係を示している。さらに、「VOGUE」誌内の記事(乙第1号証)や百貨店の伊勢丹商品を掲載した付録(乙第8号証)の記事には、「InVogue」が表示されている。「In Vogue」とは、「流行して、人気があって」の意味であり(乙第6号証)、流行・はやりの商品といった意味合いと理解される。このように、「VOGUE」誌も自ら本来の流行の意味とダブらせて「VOGUE」を利用している。これらの使用例のように、「Vogue」の単語自体は日本人にもそれほど難解な英単語ではない。本来、ファッション商品の広告において用いることができる「流行、はやり」を意味するものにすぎない。すなわち、「VOGUE」誌は、「流行、はやり」の商品に関連する記事や広告に「流行、はやり」の題号をつけた雑誌にすぎないものである。その雑誌がファッション商品について周知著名性を獲得し得たのは、その記事や広告の対象を世界最先端の流行や上流社会における高級ファッショントレンドを受け入れる「高級でハイセンスな読者」とし、厳選した海外の高級な商品の広告のみを掲載するという特異性を維持し、それが特定クラスの需要者に受け入れられてきたこと、また、ローマン体の文字書体で統一されて使用されたことによるものと考えられる。
(3)以上のとおり、ファッション商品について「VOGUE」の周知著名性は認められるが、「VOGUE」の文字自体に独創性は全くない。
4 本件商標と引用商標との類似性の程度
(1)外観
本件商標は、上段の「アヴァンボーグ」及び下段の「AVANVOGUE」は、いずれも同書同大同間隔に表したものである。
引用商標1は「VOGUE」、引用商標2は「ヴォーグ」、引用商標3は「ボーグ」、引用商標4は「VOGUE/NIPPON」である。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観において顕著な差異がある。
(2)観念
本件商標は、フランス語の「AVANCE」(前進)、「AVANT」(?の前に)という単語の「AVAN」の部分と「VOGUE」(流行、はやり)とを結合した造語であり、フランス語の「AVANT-GARDE(アバンギャルド)」(前衛、前衛芸術)(乙第9号証)のように、主観的には、「前+流行」の組み合わせで「流行の先端、流行の前」といったような意味合いを持たせたものである。
これに対して、引用商標は、英語及びフランス語で「流行、はやり」の意味がある。なお、引用商標2と3は、「ヴォーグ」及び「ボーグ」の片仮名文字からなるもので、この片仮名文字だけから直ちに「VOGUE」を想起することは困難と考えられる。
(3)称呼
本件商標は、上段の片仮名文字が下段の欧文字の「AVANVOUGE」の称呼を特定するものと無理なく理解されるため、「アバンボーグ」の称呼が生じるものである。ちなみに、「アバン」の称呼で始まる単語にはフランス語の「アバンギャルド」や「アバンチュール」があり、「ボーグ」の称呼で終わる単語には「サイボーグ」や、例えば、株式会社バンダイナムコホールディングスの自律型昆虫ロボットおもちゃの「ワンダーボーグ」のようなロボットおもちゃの名称で多用されている(乙第10号証)。
これに対して、引用商標は、「ボーグ」の称呼が生じる。
(4)以上から、本件商標と引用商標とは、外観において顕著な差異があり、観念では「流行の先端」と「流行」といった差異がある。称呼についても「アバンボーグ」と「ボーグ」の差異があり、類似性はない。
5 商品の取引の実情
(1)自動車を選択するにあたり、動力性能、価格だけでなく、安全面が考慮される。この安全面は、日本の8大自動車メーカーが生産していることで担保されている。需要者にとって、メーカーの選択が重要である。また、需要者に直接対応する営業マンの寄与するところも大きい。商標も自動車のイメージを表現し、商品選択の目印として重要であるが、自動車を購入する手掛かりの一つであり、商標だけで自動車を選択する者はいない。このような取引事情において、商標の一部に他人の周知著名商標を構成するだけで自動車の売り上げを伸ばすことはできない。
仮に、自動車メーカーと他業種とがコラボレートした自動車を販売するにしても、そのことは最終的に自動車の売り上げに寄与するものであり、広告段階で積極的にコラボレート商品であることを周知せしめる広告実態が需要者に理解されており、商標だけから他業種との関係を想起することはない。
(2)さらに、請求人が多角経営を行う可能性は極めて低い。上述のとおり、「VOGUE」誌は広告料で維持されており、多角経営により特定の分野へ進出することは広告主に影響を与えマイナスとなる。すなわち、進出する分野が高級品分野であれば広告主と競合し、高級品分野でなかったり、進出が失敗すれば、雑誌のイメージが悪化してしまう。「VOGUE」をいうブランドを利用した多角的商品化事業は困難である。
実際に、二輪自動車に「Peugeot Vogue」(プジョーヴォーグ)が使用され(乙第11号証)、自動車に「Renge Rover VOGUE」が使用されている(乙第12号証)。また、富士通株式会社が未来のパーソナルIT機器に「FUTURE MEDIA VOGUE」(登録第5052558号商標)を使用している(乙第13号証)が、これらの取引において「VOGUE」誌との誤認混同が生じている事実はない。
「VOGUE」は、単なる「流行、はやり」を意味する平易な英単語であり、誰もが商品に採択し得るものである。それを商標の構成の一部に含むということだけで、ファッションに関連しない分野にまでその周知著名性が及ぶものではない。
(3)被請求人は、日本を代表する自動車、二輪自動車メーカーとして世界的に著名な企業である。従業員は16万人以上、売り上げ高は11兆円を超える(乙第14号証)。「VOGUE」誌のファッション分野における周知著名性にフリーライドして商取引を行う必要性はなく、また、被請求人のブランドイメージを損なうおそれのある商標を採択することはない。
6 むすび
上述のとおり、「VOGUE」が雑誌としてファッション分野で周知著名であったとしても、自動車と雑誌は、商品の関連性に乏しく需要者の重なり合いの程度も低いものである。しかも、本件商標は、引用商標とは、外観及び観念も異なっており、商標の類似性も極めて限定的なものである。また、引用商標の独創性も殆どない。したがって、上記事情を総合的に考慮し、需要者において普通に払われる注意力を基準とすれば、被請求人が「VOGUE」誌にフリーライドするために本件商標を採択したと認識する需要者は皆無であり、商品の出所につき広義の誤認も生ずるおそれはない。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。

第5 当審の判断
1 「VOGUE」誌の著名性について
(1)請求人が提出した甲第6号証、甲第7号証、甲第14号証ないし甲第119号証、甲第123号証ないし甲第128号証、甲第131号証ないし甲第138号証及び甲第142号証ないし甲第147号証を総合すると、以下の事実が認められる。
(ア)「VOGUE」誌は、1892年に創刊された服飾雑誌であり、2001年10月現在、アメリカをはじめ、イギリス、フランス、イタリア等世界の15カ国で、それぞれの国語で発刊されている(甲第66号証)。我が国においても1999年9月1日に「VOGUE NIPPON」が発行された(甲第70号証)が、それ以前にも海外版の「VOGUE」誌が輸入されていた(甲第71号証)。
本件商標の登録出願前に我が国において発行された百科事典類には、「ヴォーグ又はボーグ(Vogue)」について、「最も知られた流行服飾雑誌の名。」、「フランスの服飾雑誌。」、「婦人服飾流行雑誌。・・・ファッション雑誌としては高水準のものを紹介している・・」などのように記載されている(甲第55ないし62、72ないし84号証)。
また、服飾関係の事典類等にも、「ヴォーグ(Vogue)」に関し、著名なファッション雑誌である旨の記載がある(甲第85ないし88号証)。
さらに、我が国の著名な週刊誌、全国紙等にも、「VOGUE」誌は、「世界的なハイファッション誌、フランスの『ボーグ』が・・〈パリモードを魅惑の日本で・・〉という・・日本特集を企画。」などのように、その時々の話題として記事が掲載されたほか、「ヴォーグ60年展」の関する記事も多くの新聞、雑誌で特集された(甲第89ないし109号証)。
そして、「VOGUE」誌に関する上記事典類、新聞、雑誌等においての掲載は、「VOGUE」、「vogue」、「Vogue」の文字と共に「ヴォーグ」又は「ボーグ」の文字が記載されていたり、あるいは「VOGUE」、「vogue」、「Vogue」の文字が単独で使用されていた。
(イ)「VOGUE」誌は、主として、世界的に著名なブランドを使用した被服や靴、かばん、時計、宝飾品等の服飾、いわゆるファッション関連商品の広告を掲載する雑誌であるが、「VOGUE NIPPON」には、その創刊当初から、上記ファッション関連商品のほか、世界的に有名な自動車メーカーの製造、販売に係る自動車についての広告も掲載されていた(甲第147号証)。
(2)前記(1)認定の事実によれば、「VOGUE」誌は、世界的に著名なファッション関連商品の広告を掲載する服飾雑誌として、本件商標の登録出願時(平成13年4月13日)及びその審決時(平成17年1月19日)において、我が国の服飾を中心としたファッション関連分野の取引者、需要者の間に広く知られていたものと認めることができ、したがって、「VOGUE」の表示及びその片仮名表記である「ヴォーグ」又は「ボーグ」の表示に接する上記ファッション関連分野の取引者、需要者は、これより直ちに請求人の発行に係る「VOGUE」誌を想起又は連想するものとみるのが相当である。
2 本件商標と引用商標の類似性及びこれらが使用される商品について
(1)本件商標は、前記のとおり、「アヴァンボーグ」の文字と「AVANVOGUE」の文字を二段に横書きしてなるものであるところ、これらの文字は、いずれも同一の書体をもって外観上まとまりよく書されているばかりでなく、上段の片仮名は、欧文字の読みを特定したと理解されるものであって、本件商標の構成文字全体より生ずると認められる「アヴァンボーグ」の称呼も冗長なものとはいえない。
そうすると、本件商標は、これを外観及び称呼の面からみれば、構成する文字全体が一体不可分のものとして把握、認識されるものというのが相当である。
(2)ところで、本件商標の指定商品は、第12類「船舶並びにその部品及び附属品,航空機並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車並びにその部品及び附属品,自転車並びにその部品及び附属品,電動三輪車並びにその部品及び附属品,乳母車,車いす,人力車,そり,手押し車,荷車,馬車,リヤカー,荷役用索道,カーダンパー,カープッシャー,カープラー,牽引車,陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。),陸上の乗物用の機械要素,陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。),タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片,乗物用盗難警報器」であって、輸送機械器具とその部品・付属品的な商品群といえる。そして、上記商品、特に自動車については、日常的に購入される卑近な商品と異なり、きわめて高額な商品であり、その取引に関しても、その需要者は、商品に使用される商標のみならず、製造会社がどこであるかなどについても強い関心を寄せるものであり、一般的には、慎重な検討の下に高度の注意力をもって、かつ、製造会社の販売部門(会社)等を通じて取引がされるものである。
これに対し、「VOGUE」誌は、前記認定のとおり、世界的に著名なファッション関連商品の広告を掲載する服飾雑誌であって、一般の書店などで容易に購入することができる商品である。
そうすると、本件商標の指定商品と「VOGUE」誌とは、商品の用途、性質、目的等において大きな相違があるばかりでなく、商品の生産者、販売方法・場所、流通系統等においてもまったく異なる商品というべきであって、商品の関連性に欠けるものといわなければならない。
そして、仮に本件商標の指定商品の需要者と「VOGUE」誌の需要者とが共通する場合があるとしても、「VOGUE」誌の発行者が輸送機械器具等の製造、販売をも取扱いそのことが需要者の間に広く認識されているというような特別の事情があればともかく、商取引の社会通念に照らせば、「VOGUE」誌の発行者が輸送機械器具等の製造、販売をも取り扱うものとは考え難いところであり、また、上記事情を認めるに足る証拠は見出せない。
(3)してみると、本件商標は、構成そのものを観察した場合、上記(1)認定のとおり、その外観及び称呼上一体のものとして認識されるものであり、また、上記(2)認定の取引の実情からみても、本件商標に接する輸送機械器具等の需要者が、その構成中の「ボーグ/VOGUE」の文字部分のみに着目し、「VOGUE」誌を想起又は連想することはないといえるから、本件商標は、構成全体をもって一つの商標を表したものと認識されるというのが相当である。
したがって、本件商標は、その構成文字に相応して「アヴァンボーグ」の一連の称呼のみを生ずるものであって、特定の観念を有しない造語よりなるものというべきであるから、「ヴォーグ」又は「ボーグ」の称呼及び「流行」等の観念を生ずる引用商標とは、称呼、観念及び外観のいずれにおいても異なるものというべきであって、本件商標と引用商標との類似性は見出せない。
3 出所の混同について
以上によれば、「VOGUE」誌は、世界的に著名な服飾雑誌であり、「VOGUE」の表示及びその片仮名表記である「ヴォーグ」又は「ボーグ」の表示(引用商標)に接する我が国の服飾を中心としたファッション関連商品の取引者、需要者は、これより直ちに請求人の発行に係る服飾雑誌を想起又は連想するとしても、本件商標は、「VOGUE」誌とは、商品の用途、性質、目的、流通系統等においてまったく異なる商品分野である輸送機械器具及びその部品・付属品的な商品群について使用されるものであるから、本件商標に接するその取引者、需要者が、その構成中の「ボーグ/VOGUE」の文字部分に印象づけられ、これより直ちに「VOGUE」誌を想起又は連想するものとみることはできない。
したがって、本件商標は、その指定商品の需要者をして、請求人又はこれと何らかの関係を有する者とのつながりを抱かせる要因は見出せず、これをその指定商品について使用しても、該商品が請求人又はこれと何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれはないといわなければならない。
4 請求人の主張について
(1)請求人は、本件商標は引用商標と類似する旨主張する。
しかし、前記2認定のとおり、本件商標は、その指定商品の需要者の間において、その構成中の「ボーグ」、「VOGUE」の文字部分のみが独立して把握、認識されるものではなく、引用商標とは非類似の商標というべきものである。したがって、上記請求人の主張は理由がない。
(2)請求人は、自動車はファッションの代表的商品であり、「VOGUE」誌に古くから広告されている商品であるから、出所混同のおそれの高い商品である旨主張するが、以下の理由により、その主張は理由がない。
(ア)乙第5号証(「商品属性情報標準化に関する調査報告書」平成9年3月電子商取引実証推進協議会商品属性情報標準化検討WG発行)の「ファッション商品とは」の項目によれば、「ファッション系の商品は、食料品、耐久消費財を除く商品で、これを大まかに分類すると婦人服、紳士服、婦人(紳士)用品、子供服、呉服、スポーツ用品などがそれにあたる。・・一般的には、衣料をメインとし関連する身の回り品までを括りとしてファッションに定義されている。ファッション商品はその特徴として季節性や流行があり商品のライフサイクルが日用雑貨、文化用品よりも短い。」との記載が認められるところであり、また、自動車本来の目的が輸送のためのものであることなど社会通念に照らしても、自動車をファッションの代表的商品であるとすることは困難である。
(イ)前記1認定のとおり、「VOGUE」誌は、世界的に著名なファッション関連商品の広告を掲載する服飾雑誌として、我が国の服飾を中心としたファッション関連分野の取引者、需要者の間に広く知られているものである。そして、「VOGUE」誌に自動車の広告が掲載されている事実が認められるとしても、それはあくまでも請求人とは、経済的、組織的等において何らのつながりを有しない他社の製造、販売に係る自動車を広告をするために「VOGUE」誌を媒介としているにすぎないものであり、請求人自身が自動車の製造、販売に直接携わっていると認めるに足る証拠の提出はなく、また、「VOGUE」誌に掲載された自動車は、世界的に著名な自動車のメーカーのブランドが使用され、「VOGUE」誌を購読する需要者においても、当該掲載された自動車が単に「VOGUE」誌を通じて広告されているものと十分認識しており、請求人と営業上何らかの関係を有する者によって製造、販売された自動車であるとは考えていないというべきである。
(ウ)したがって、「VOGUE」誌に自動車の広告が掲載されたことをもって、本件商標がその指定商品について使用された場合、該商品が請求人の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあると認めることはできない。
(3)請求人は、我が国の出版社の多くが出版業務以外に様々な業務を手がけている実情にあることを前提に、本件商標をその指定商品に使用した場合、該商品が請求人の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所の混同を生じさせるおそれがある旨主張する。
仮に我が国の出版社の多くが、請求人が主張するように、出版業務以外に様々な業務を手がけている実情にあるとしても、これらの出版社が自動車等の製造、販売を多少なりとも手がけているという事実や請求人が自動車等の製造、販売はもとより、他の業務に直接携わっているという事実を認めるに足る証拠の提出はなく、前記2(2)認定のとおり、商取引の社会通念に照らせば、「VOGUE」誌の発行者が輸送機械器具等の製造、販売をも取り扱うものとは考え難いところであり、また、自動車等の取引を考慮し、かつ、上記(2)の「VOGUE」誌とこれに掲載される自動車の広告との関係をも併せ考えると、本件商標を使用した自動車等に接する需要者は、該自動車等が請求人の業務に係る商品であるとは到底認識しないというべきである。したがって、上記請求人の主張は理由がない。
(4)請求人は、被請求人が引用商標へのフリーライドを意図として、本件商標の登録出願をし、登録を得た旨主張する。
しかしながら、本件商標は、「VOGUE」誌とはまったく異なる商品分野において使用される商標であり、当該分野においては、本件商標は、その構成中の「ボーグ」、「VOGUE」の文字部分のみが独立して把握、認識されるものではなく、引用商標とは非類似の商標というべきものであるから、上記請求人の主張は理由がない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標と認めることはできない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲 引用商標4



審理終結日 2008-02-06 
結審通知日 2008-02-14 
審決日 2008-02-26 
出願番号 商願2001-40206(T2001-40206) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (Z12)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 里美 
特許庁審判長 中村 謙三
特許庁審判官 小畑 恵一
津金 純子
登録日 2005-02-25 
登録番号 商標登録第4840590号(T4840590) 
商標の称呼 アバンボーグ 
代理人 島田 義勝 
代理人 水谷 安男 
代理人 小田 治親 

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