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審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y25
審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Y25
管理番号 1179204 
審判番号 無効2006-89169 
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-29 
確定日 2008-05-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第4714582号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4714582号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成15年1月17日に登録出願され、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品として、同15年10月3日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録は、その指定商品中『洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)』については、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び弁駁の理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第91号証を提出した。
1 請求の理由
(1)商標登録無効の根拠条文
本件商標は、その指定商品中「スキー及びスノーボード用ジャケット及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード用ズボン及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード用セーター類及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード用靴下・耳覆い及びこれに類似する商品,帽子及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード競技用衣服及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード用靴及びこれに類似する商品」については商標法第4条第1項第10号に該当するにもかかわらず商標登録されたものであるから、商標法第46条第1項によりその登録を無効とされるべきである。
また、請求の趣旨に列挙された上記以外の指定商品については商標法第4条第1項第15号に該当するにもかかわらず商標登録されたものであるから、商標法第46条第1項によりその登録を無効とされるべきである。
(2)審判請求の利益
請求人は、商願2004-61696の出願人である。
該出願に対しては、該商標登録出願に係る商標が本件商標と同一又は類似であって、その商標に係る指定商品と同-又は類似の商品について使用するものであり、商標法第4条第1項第11号に該当するとの拒絶理由が通知されている(甲第3号証)。
よって、請求人は本件審判を請求することにつき利害関係を有することは明らかである。
(3)本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することについて
(3-1)引用商標の特定
請求人は、「スキー及びスノーボード用ジャケット,スキー及びスノーボード用ズボン,スキー及びスノーボード用セーター類,スキー及びスノーボード用靴下・耳覆い,帽子,スキー及びスノーボード競技用衣服,スキー及びスノーボード用靴」等について、商願2004-61696号の図形商標(以下、「引用1商標」という。)〔別掲(2)〕の他、欧文字「SPYDER」商標及び片仮名「スパイダー」(以下、「引用2商標」という。)を、世界中で広く使用している。
スキーウェア等はファッション性の高い商品で、毎年流行に合ったデザインが施されるが、商品の出所を示す標識がウェアの表面に表現される場合が多い。引用1商標はウェア等に直接プリントないしは刺繍されるもので、請求人の商品であることを端的に示す図形商標として用いられており、また、以下に述べるとおり、引用1商標に接したスキー及びスノーボード需要者は、引用1商標は請求人の商品であることを容易に認識するものである。
(3ー2)引用各商標の周知・著名性について
(3-2-1)引用1商標使用の経緯
請求人は、アメリカ合衆国の法人で創立は1978年に遡る。カナダナショナルスキーチームの一員であったDavid Jacobs氏が、自らのスキーヤーとしての経験に基づいて、過酷なレースに耐えうる品質の高いスキージャケットを開発・製造するために立ち上げたのが請求人会社である(甲第4号証)。
請求人が製造する商品は、David Jacobs氏が競技スキーの第一人者であったこともあり、その品質に絶大な信頼がよせられるようになった。こうした信頼性の高さは、1989年以降、請求人が全米スキー・スノーボード協会(USSA)のアルペンスキーチームにレーシングワンピースやウエアの提供契約を締結している事実より明らかである(甲第5ないし7号証)尚、2005年には2011年までスポンサー契約延長で合意している。
また、2003年シーズンよりカナダフリースタイルチーム(甲第8号証)・アルペンチーム(甲第9号証)、2004年よりアルペン最強国のオーストリアチームへのスポンサー契約が開始されている事実からも明らかである(甲第10号証)。
その後請求人は、こうしたスキー競技用ウエアで培った信用力・宣伝力を背景に、日本を含む世界中で一般向けスキージャケット、スキーズボン、セーター類、手袋、帽子、鞄類等幅広い商品を展開している。
日本においても請求人の商品は古くから市場に出回っており、引用1商標は本件商標が出願された2003年1月17日よりも前から使用されていることは、甲第11号証として提出した1991年から1992年の商品カタログ、甲第12号証に添付した2000年発行のスキー雑誌における記事紹介、甲第13号証に添付した2001年発行の雑誌記事における人気商品ランキングの結果、甲第14号証として添付した2001年発行の雑誌の商品紹介記事、甲第15号証に添付した2002年発行の雑誌記事をもって証明する。
また、本件商標の出願後における日本での引用1商標の継続使用については、甲第16号証に添付した2003年発行の雑誌中の商品紹介記事、そして、2006年から2007年用の商品を紹介する請求人の日本法人により作成された日本向けウェブページ(甲第17ないし54号証)を紹介する。
以上の提出した資料からわかるように、請求人は、従来から一貫してその商品に引用1商標を継続して使用し続けている。その態様は着色されていたり、円図形と重なって配されていたり、蜘蛛の巣の中に存在していたりするが、基本的な姿態(要部)は引用1商標として紹介した標章であり、この図形をもってして需要者は請求人の商品であることが認識されるのである。
(3-2-2)引用1商標の周知性について
請求人の引用1商標がスキーウェア及び関連商品において周知となっていることは、以下のとおり明らかである。
即ち、2001年シーズンに発行されたスキー雑誌「bravoski」の読者アンケートで「今季買うならこのウェア」という特集で読者アンケート第9位を獲得したり(甲第13号証)、同様にスキー雑誌「skier’s SCOPE」において「(20)00/(20)01(年シーズン)最も気になるプロダクツは?」のコーナーに商品紹介されている(甲第12号証)ことからも明らかなように、遅くとも2001年冬には我が国市場において高い評価を獲得していることが伺える。
また、添付した甲各号証からもわかるように、相当数にのぼる雑誌記事や米国やカナダ、オーストリーの国のスキー協会のスポンサーも行っている事実は、請求人が世界的に名声を博していることが理解でき、また、名声を博している商品の殆どに引用1商標が付されている事実から、引用1商標が引用2又は3商標(「3商標」は誤記と認められる。)と同様に需要者に広く認識されていることが理解できる。
(3-2-3)広告戦略
スポーツ用品については、プロの選手と契約して、商品を使用してもらう代わりに広告としての効果を図る傾向があることは、野球やサッカー等をみれば、明白であり、このことはスキーやスノーボードの分野においても同様である。
請求人は、日本のプロスキーヤーである山木匡浩氏とスポンサー契約しており、たとえば甲第55号証及び56号証にあるような記事を、スキー雑誌(2003-2004年「スキーグラフィック」)に定期的に掲載していた。また、その中に、請求人の広告として甲第57号証に添付したものが掲載されていた。同氏は人気スキーチーム「なまら癖-X」の一員として活動中であり、各種スキー雑誌には多くの特集記事が掲載されていた。こうした特集記事において同氏が着用するスキージャケットも請求人の提供によるものであり、需要者に対して強い影響を与えている。
このように、請求人は単に雑誌上に広告を掲載するのみでなく、有名スキーヤーに自社の提供するスキージャケット等を着せるという手法により、請求人商品に注目を集めさせ、その結果、引用1商標及び引用2及び3商標(「3商標」は誤記と認められる。)の周知性・著名性をさらに強いものとしている。
(3-2-5)外国商標の状況
請求人はこのような周知・著名商標を我が国においてのみでなく、甲第58号証に示すように広く世界規模でこれを保護すべく、世界各地に出願し、登録を得ている。かかる事実を示す資料は追って補充する。
請求人は、外国での引用商標の出願・登録の有無が、我が国での周知性・著名性に直接的に影響を与えるものでないことは承知している。しかし、請求人の提供するスキー用品は前述のようにアメリカ・カナダ・オーストリーといった世界各国のナショナルスキーチームに提供されているものであり、世界規模で周知・著名となっていることは容易にうかがえるものである。各国への出願は、世界規模での引用各商標の周知性・著名性の維持を目的とするブランド戦略に基づくものであり、我が国での周知性・著名性を判断するにあたっても十分勘案されるべきものと考える。
(3-2-6)小括
以上のように、請求人は引用1商標を1991年頃より「スキージャケット,スキーズボン,スキー競技用衣服,セーター類,手袋,帽子,靴」等に幅広く使用を開始し、今日に至るまでその使用を継続した結果、本件商標の出願時点では既に周知性を獲得していたものである。そして、その周知性は現在でもなお維持・拡大されているものである。
(3-3)本件商標とスパイダー商標の類否について
(3-3-1)指定商品の抵触
本件商標の指定商品中の「洋服,コート」は,請求人が引用1商標を使用している商品「スキージャケット,スキーズボン」等(甲第17ないし41号証)に類似する。また、本件商標の指定商品中の「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽」は,請求人が引用1商標を使用している「スキー用インナーシャツ・下着」(甲第30ないし40号証)に類似する。
本件商標の指定商品中の「エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い」は,請求人が引用1商標を使用している「手袋」(甲第47ないし50号証)に類似する。
本件商標の指定商品中の「ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子」は請求人が引用1商標を使用している「帽子」(甲第42ないし46号証)に類似する。
本件商標の指定商品中の「運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」は、請求人が引用各商標を使用する「スキー競技用衣服」(甲第51号証)に類似する。
上記各商品の生産部門、販売部門、用途、需要者等を勘案すれば、それぞれ抵触する商品であることは明らかであり、現に特許庁編集の『「商品及び役務の区分」に基づく類似商品・役務審査基準〔国際分類第8版対応〕』においても、相互に類似商品として明示されている。
(3-3-2)商標の類似
本件商標と引用1商標の類似
本件商標及び引用1商標の態様は別掲(1)及び(2)のとおりである。
そして、本件商標と引用1商標が外観上類似する商標であることは、甲第3号証に添付した拒絶理由通知において、引用1商標と類似すると判断されて引例として挙げられたことからも明らかである。
両商標は、細部を見ると相違点をあげることができるが、簡易迅速を尊ぶ商取引においては、全体の印象において近似性があれば、両商標は、特許庁の判断のとおり類似する商標と言わざるを得ない。事実、東京高裁平成12年(行ケ)147事件判決に同旨の判断がなされている(甲第59号証)。
スキーウェアやスキー商品の世界において請求人の商品は既に名声を得ており、本件商標をこの分野で使用すると需要者をして彼此紛らわしく感じるもので、両商標は外観上類似する。
(3-4)結論
以上の通りであって、本件商標は、請求人の業務に係る商品について周知性を獲得している引用1商標に類似する。そして、請求人が引用1商標を使用している各種商品と本件商標の指定商品中「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」は、類似する。
そして、引用1商標は、本件商標の出願前から周知性を獲得しており、これは現在においても失われていない。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するにもかかわらず登録されたものであり、その登録は無効とされるべきである。
(4)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて
(4-1)スパイダー商標の周知・著名性及び本件商標とスパイダー商標の類似性については既に述べた。請求人はスパイダー商標を1991年頃より「スキージャケット,スキーズボン,スキー競技用衣服,セーター類,手袋,帽子,靴」等に幅広く使用を開始し、今日に至るまでその使用を継続した結果、本件商標の出願時点では既に周知・著名性を獲得していたものである。そして、その周知・著名性は現在でも失われていない。
(4-2)商品及び需要者の関連性
引用1商標は、使用している商品の中で、特に「スキージャケット」「競技用スキーウェア」が最も広く知られている。この商品と本件商標の指定商品は、身にまとうもので共通し、その需要者において共通性が認められる。
(4-3)混同のおそれ
商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、所謂狭義の混同のみならず、商品や営業の関連性を想起させる広義の混同が含まれる(「レールデュタン」事件判決・最高裁平成10年(行ヒ)第85号、甲第60号証)。さらに、同号の目的からすれば、周知表示又は著名表示へのフリーライド希釈化(ダイリューション)を防止することも重要であるとされている。
しかるところ、上に検討したように、引用1商標の「スキーウェア,スキーズボン」等の商品分野に及ぶ周知・著名性、そして、本件商標の指定商品と請求人が引用各商標を使用する商品との取引者・需要者層の個別・具体的な関連性や共通性の実情等を総合的に考察すれば、本件商標がその指定商品に使用された場合には、それがあたかも著名ブランドであるスパイダー商品に係る請求人の提供する商品であるかの如く誤認され、そうでなくとも、何らかの密接な営業上の関連性を想起させ、あたかも請求人のグループ会社か、あるいは許諾を受けた者に係る商品であるかの如く誤認させ、商品又は営業上の出所混同を生じるおそれが極めて高いと言わねばならない。さらに、本件商標のように引用各商標と類似する商標が使用された場合には、著名商標に化体した業務上の信用やブランドイメージにただ乗りし、それが希釈化されるに至るのは必定である。
よって、本件商標は引用1商標と紛らわしく、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(4-4)結論
以上の通りであって、本件商標は、請求人の引用1商標との間で出所の混同を生じるおそれのある商標であるから、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
2 弁駁の理由
(1)答弁の理由(2)(2-3)について
被請求人は、両商標の概略構成を、蜘蛛が頭部を上方にして、4対の外方向に大きく延ばした状態の背面図を黒色で平面的に表現した図形であるという共通点を自認しつつ、ア.頭胸部と腹部との全体的形状の相違、イ.腹部背面における白抜き模様の有無、ウ.脚の形状の相違、エ.触肢の有無、オ.口器部の表現の差異、カ.蜘蛛全体の姿態の相違、等により両商標は外観上相紛れることのない非類似の商標と主張する。
しかし、かかる被請求人の主張は当を得ない。
なぜなら、取引者・需要者が、図柄によって構成された商標について、必ずしも、図柄の細部まで正確に観察し、記憶し、想起してこれによって商品の出所を識別するとは限らず、商標の全体の主たる印象によって商品の出所を識別する場合が少なくないからである(東京高裁平成12年(行ケ)147事件に同旨甲第59号証)。本件商標と引用1商標を離隔的観察した場合、外観上、最も看者に強い印象を与えるのは、写実的に描写された蜘蛛が4対の脚を外方向に大きく延ばして配置されている点にあるというべきであり、かかる構成こそが両商標の基本的特徴である。商標の対比は、時と処を異にして離隔的観察をした場合を前提としてなされるものである。被請求人の主張する各相違点は、商標の類否判断の観点からは、いずれも、引用1商標と比べて些細な変形、変種とみるのが相当である。
請求人主張の妥当性は、本件商標や引用商標が使用される実際の商品の取引状況をみればより一層明らかとなる。被請求人は、答弁書において、使用商標と引用1商標との同一性に言及しているが、その中で甲第15号証等の証拠について「いずれも印刷が不鮮明」と主張する。しかし、この被請求人が「不鮮明」と主張する甲第15号証等は、引用商標が使用される商品の実際の取引状況を現わしたものに他ならないのである。甲第15号証はスキージャケット等の雑誌紹介記事としては極めて一般的な書面構成から成る。
すなわち、取引者・需要者はこの程度の鮮明さ、大きさで掲載される商品紹介記事を参考に商品を選別するのである。甲第15号証をみれば明らかなように、この程度の鮮明さ・大きさで紹介された記事に接する需要者は、それが写実的に描写された蜘蛛が4対の脚を外方向に大きく延ばして配置されているという特徴は看取できるものの、その細部、たとえば引用1商標の頭部には蝕肢が表現されていないとか、蝕肢の間に小さな円弧形状の突起が口器部として表現されているとかについてまで看取することはできない。このような実際の取引状況を勘案すれば、両商標に接する取引者・需要者は、写実的に描写された蜘蛛が4対の脚を外方向に大きく延ばしているという共通点について強い印象を受けることは明らかである。このような商標は外観上類似といわざるを得ない。
(2)答弁の理由(2)(2-4)について
被請求人は、引用1商標の後背部に蜘蛛の巣が表示されているとか、周囲が円及び楕円で囲まれているので、引用商標と甲各号証に表示されている標章とは、社会通念の観点から同一ではないとしている。
しかし、実際に商標が使用される場合には、当該商標を極力目立つように配置することを目的に、色彩が変更されたり、周囲を他の図形で囲んで表示したり、「背景図形」を伴って使用されることはよくあることである。この場合、当該商標と背景図形等とが一体不可分となって、当該商標のみを分離抽出して把握することが不自然である程に渾然一体として融合しているのであればともかく、当該商標と背景図形等とが容易に分離把握されるような態様であれば、その出所表示機能は依然として当該商標部分により発揮されるとするのが相当である。
この点、甲第12号証記載の商標のように、当該商標の背景に蜘蛛の巣とおぼしき図形が表示されているに過ぎない態様であれば、これに接する取引者・需要者は、その中央に大きく記載された引用1商標こそを出所表示機能を果たす部分と認識し、蜘蛛の巣は「背景図形」として把握するに過ぎない。また、甲第14号証も同様に、引用1商標とそれを取り囲む円図形が一体不可分と言い得る程の揮然一体としたものではない。この程度の商標の変更は、実際に商標を使用する局面では通常よく用いられる範疇の変更であって、社会通念の観点から同一ではないとする被請求人の主張は当を得ないものである。
また、被請求人は、甲第15号証第4頁に表示された商標について、主に需要者に訴求すべく服飾のデザインとして意匠的に使用しているものであり、このような使用態様をもってして商標的な使用態様とはいえないとする。しかし、ファッション業界においては、商標はタグ部分や胸のワンポイントマークに使用されるのみならず、そのファッション性を重視し商品の前面に大きく表示される場合もある。特に、当該商標がハウスマーク的な商標である場合はなおさらである。このような態様で商標が使用された場合、取引者・需要者が当該商標を意匠的模様としてのみ把握し、そこに何ら出所表示機能をも見出さないとすることは合理的でない。引用1商標のように、請求人の商品全般について使用されている周知・著名なハウスマーク的商標であれば、商品の前面に使用された場合であっても、出所表示機能を果たすものである。なお、ファッション業界においては、商標が場合によっては商品の前面にデザイン的に使用されることがあり、それが商標としても機能し得るものであることは、被請求人が提出する証拠からも明らかである。なぜなら、被請求人は自らの商標の使用態様を示す証拠として、商品の前面に大きく表示した態様である乙第8号証を提示しているが、これは、被請求人を含めた当業者間において、このような態様も商標的使用として認識されていることを強くうかがわせるものである。
さらに、被請求人は請求人のスポンサー契約の事実について、請求人は単に複数存在するスポンサーの一つに過ぎないので、スポンサー契約の事実を以て請求人商品の優位性に結びつくものではないと主張する。
しかし、かかる主張は、ナショナルチームスポンサーの実態を理解していないものである。
確かに、被請求人が主張する通り、たとえば全米スキー・スノーボード協会は請求人の他9社がスポンサー契約をしている。しかし、他の8社を見てみれば、「CHEVROLET」(登録商標)が「The officia1 vehic1e」に関するスポンサーであり、「VISA」(登録商標)が「The officia1 credit card」に関するスポンサーであるように、それぞれ異なる分野でのトップ企業の集合体なのである。すなわち、請求人の商品分野において全米スキー・スノーボード協会をスポンサーとするのは請求人ただ一社なのである。これは、請求人が主張するように、請求人の製造するスキージャケットで等の品質の高さが認められたものであり、このようなトップチームの「The officia1 uniform provider」としての地位が、市場において請求人商品の優位性に影響を与えることは明らかである。他のナショナルチームについても事情は同様であって、スポンサー企業が多いから「単に複数存在するスポンサーの一つに過ぎない」というような短絡的な主張は成り立たない。
なお、被請求人は、引用各商標の外国での出願・登録状況について、わが国における周知・著名性を立証するものではなく、本件の審理において一切関係がないかのように主張する。
この点、請求人は、審判請求書でも述べたように、外国への出願・登録状況がわが国における引用各商標の周知・著名性を直接的に立証するものでないことは承知している。しかし、引用商標はアメリカ・カナダ・オーストリーといった著名なナショナルチームにより使用される商標であり、その周知・著名性は世界規模のものである。こうした世界規模で周知・著名なブランドを維持するために、請求人は多大な労力を払っている。その一環が、請求人の主張するような世界各国への出願・登録という形に現れているものであって、わが国における引用商標の周知・著名性を検討するに当たっても、こうした請求人のブランド戦略は適切に勘案されるべきものであると考える。
請求人は、かかる意図の下に外国への出願・登録状況を示す資料として甲第61号証ないし甲第89号証を提出する。
(3)答弁の理由(3)(3-3)について
被請求人は、本件商標と引用商標間で出所の混同が生じない根拠の一つとして、被請求人が本件商標を使用する商品「洋服」と請求人が主に引用商標を使用する商品「スキージャケット」とは、品質・用途・販売場所等が大きく異なるため、需要者の範囲も明らかに異なると主張する。
しかし、「洋服」と「スキージャケット」は取引者・需要者の範囲を共通にするものである。
審判請求書においても述べたが、そもそも「洋服」と「スキージャケット」は類似商品・役務審査基準上、類似の商品とされている。
したがって、審査基準上も「洋服」と「スキージャケット」は類似する商品とされているのであり、被請求人の主張は妥当性を欠く。
「洋服」と「スキージャケット」は取引者・需要者において共通性を有するものであり、本件商標が「洋服」について使用された場合には、あたかも著名ブランドである請求人の提供する商品であるかのごとく誤認されるおそれが高いといわざるを得ない。
(4)結論
以上に述べたことから,被請求人が答弁書で述べたことはいずれも妥当ではなく請求人の主張を覆すものではない。
したがって,本件商標は商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当するものであるから,その商標登録は無効にされるべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。
(答弁の理由)
(1)はじめに
本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号の各規定に違反して登録されたものではない。したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号の規定に基づいて、その登録は無効とされるべきものではない。
以下、その理由を詳述する。
(2)商標法第4条第1項第10号該当性について
(2-1)本件商標
本件商標は、蜘蛛図形よりなり、商品の区分第25類に属する商品を指定商品として、平成15年1月17日に商標登録出願をし、同年10月3日に設定登録がされたものである。
(2-2)引用1商標
引用1商標は、本件商標とは顕著に相違する蜘蛛図形よりなり、商品の区分第25類に属する商品を指定商品として、平成16年7月2日に商標登録出願がされたものである。
(2-3)本件商標と引用1商標の対比
(2-3-1)本件商標と引用1商標の概略説明
両商標の概略構成は、蜘蛛が頭部を上方にして、4対の脚を外方向に大きく延ばした状態の背面側を黒色で平面的に表現した図形である。
(2-3-2)本件商標と引用1商標の類否
両商標は、一見して顕著な相違点が存在することは明らかであり、この点、請求人も両商標には相違点があることは認めている(審判請求書第9頁10行)。もっとも、具体的には以下のような相違点の存在が認められる。
すなわち、両商標は、ア.頭胸部と腹部との全体的形状の相違、イ.腹部背面における白抜き模様の有無、ウ.脚の形状の相違、エ.蝕肢の有無、オ.ロ器部の表現の相違、カ.蜘蛛全体の姿態の相違等の複数の顕著な相違点の存在が認められる。
このように、本件商標と引用1商標との間には複数の顕著な相違点が存在するため、簡易迅速を旨とする商取引の現場における、時と所を異にする離隔的観察においても、外観上相紛れることのない非類似の商標であるといわなければならない。
(2-3-3)両商標における具体的構成態様の相違
〔頭胸部と腹部との全体的形状の相違〕
本件商標における蜘蛛の頭胸部と腹部は、その全体輪郭において、頭胸部と腹部との間に区切れ目がなく、両者は一体的に連続した雫形形状である。
これに対して、引用商標における蜘蛛の頭胸部と腹部とは、第四脚の付け根部において頭胸部と腹部とがお互いに挟まり、両者間には区切れ目が明確に形成されている。
〔腹部背面における白抜き模様の有無〕
本件商標における腹部背面は、全体が他の部分と同じ黒色地である。
これに対して、引用1商標における腹部の背面中央部には、上下の部分を丸み形状とした中細杵模様が白抜きで大きく表現されており、これが極めてよく目立つ存在である。
〔脚の形状の相違〕
両商標とも、頭胸部には4対の脚全体が表現されているが、本件商標における4対の各脚は、付け根部から爪先部までの全体が太く表現されている。
これに対して、引用1商標における4対の各脚は、付け根部から爪先部に従って細く表現され、特に、爪がある第一節は極端に細い先鋭形状である。
〔触肢の有無〕
本件商標における蜘蛛の頭部には触肢が全く表現されていない。
これに対して、引用1商標における蜘蛛の頭部には、第一脚の付け根部と口器部との間に触肢が左右対称に表現されている。
〔口器部の表現の相違〕
本件商標における頭部前端中央部には、短太で左右に開いた上顎だけが大きく顕著に口器部として表現されている。
これに対して、引用1商標における頭部前端中央部には、触肢の間に小さな円弧形状の突起が口器部として表現されている。
〔蜘蛛全体の姿態の相違〕
本件商標においては、一体的に表現された頭胸部と腹部とを中心にし、頭胸部の左右から外方向に大きく伸ばしたほぼ同じ長さの4対の脚が、ほぼ等間隔で放射状に広がり、蜘蛛全体が大きな円形状に表現された姿態である。
これに対して、引用1商標においては、頭胸部から延びた4対の脚が、他の脚と比較して極端に長い第一脚と、次に長い第二脚とは、等間隔をもって上方向に大きく延びており、残る第三脚と第四脚とは等間隔をもって下方向に延びた状態であるから、頭胸部と腹部は延ばした脚全体の下方部に位置した状態であると共に蜘蛛全体が上下方向に長い楕円形状に表現された姿態である。
このように、本件商標と引用1商標との間には複数の顕著な相違点が存在するため、簡易迅速を旨とする商取引の現場であっても、これに接する需要者ないし取引者が、外観上相紛れることのなど全く認められる余地はない。よって、本件商標と引用1商標とが互いに非類似であることは明白であるものと言わざるを得ない。
(2-4)引用1商標の周知・著名性
請求人は、相当数の雑誌記事、米国等のスキー協会とスポンサー契約をしている事実、及び、広告戦略の観点から、引用1商標は請求人の業務に係る商品である「スキージャケット等」を表示するものとして需要者・取引者の間に広く知られ、周知性ないし著名性を獲得している旨を述べている。
しかしながら、以下に述べるように、このような雑誌記事ないし事実程度では、引用1商標について、著名性はおろか周知性をも獲得していないものといわざるを得ない。なぜならば、請求人の引用1商標自体が、周知・著名性を獲得していないことはもちろんのこと、そもそも引用1商標と甲各号証に表示されている標章とは、社会通念の観点からも、決して同一であるとは言えないからである。
(2-4-1)雑誌記事について
すなわち、請求人は引用1商標の周知・著名性を証左するものとして、甲第12号証ないし甲第16号証を提出している。以下、これらの甲各号証について反論する。
甲第12号証は、その中段にスキーウェア、ゴーグル等を着用した男性の写真が表示されている。そして、その男性のスキーウェアの中心部に蜘蛛の図形とおぼしきものが存在するが、この図形は、その後背部に蜘蛛の巣が存在している。そのため、かかる使用標章と引用1商標とはその外観的な構成を明確に異にするものといわなければならない。
甲第13号証は、「スパイダー」の文字のみであるため、図形のみにより構成される引用1商標が周知・著名性を獲得する根拠となるものではない。
甲第14号証は、その下段にスキーグローブの写真が表示されている。そして、その甲部分に甲第12号証と同様に後背部に蜘蛛の巣を配した蜘蛛の図形が認められるものの、さらにその周囲を円及び楕円により2重に囲いてなるものであるため、その構成が引用1商標の構成とは大きく異なることは一見して明らかである。
甲第15号証は、その第1頁ないし第3頁の合計5ヶ所にわたって請求人の商品と思しきものが掲載されているが、いずれも印刷が不鮮明であるため、引用1商標が表示されているか否かは不明である。
もっとも、甲第15号証第4頁は、スキーインナーが表示されている。
そして、その前面に蜘蛛の図形及び該図形に重ねるように青の円を配したものであり、引用1商標の構成とは大きく異なるものといわなければならない。そもそもこのように蜘蛛の図形をインナーの前面に大きく表示しているのは、主に需要者に訴求すべく服飾のデザインとして意匠的に使用をしているものであり、このような使用態様をもってして商標的な使用態様であるとは到底認められない。よって、このような証拠資料は、周知・著名性の証拠資料となるものではない。
甲第16号証は、甲第15号証第1頁ないし第3頁と同様に、いずれも印刷が不鮮明であるため、引用1商標が表示されているか否かは不明である。
このように、これらのいずれをも検討しても、引用1商標が周知・著名性を獲得しているものとは到底認められない。
(2-4-2)スポンサー契約の事実について
請求人は、各国のスキー協会ないしナショナルチームとスポンサー契約をしている事実から、請求人の業務に係る商品の品質は保証され、その結果引用1商標は周知・著名性を獲得している旨述べている。
一般に、各種競技スポーツの協会ないしナショナルチーム等はその活動資金を得るべく複数の企業、団体とスポンサー契約を結ぶものである。事実、甲第5号証によれば、全米スキー・スノーボード協会には請求人のほかに9社、甲第8号証によれば、カナダフリースタイルスキー協会には、同じく22社、甲第9号証によれば、カナダアルペンチームには、同じく8社、甲第10号証によれば、オーストリアアルペンチームには、実に35社もの企業ないし団体がスポンサーとして契約している。
このように、請求人は上記協会ないしナショナルチームのスポンサーであったとしても単に複数存在するスポンサーの一つにすぎない。そのため、このような事実があるからといって、請求人の商品について、請求人が主張するような優位性があることとは結びつくものではない。
(2-4-3)外国商標の状況について
請求人は、引用1商標の周知・著名性を立証すべく、世界各国での引用1商標の出願・登録状況を甲第58号証として提出する予定である旨述べている。
しかしながら、このような証拠資料を提出しても、我が国における周知・著名性を立証することにはなりえないことはおろか、外国における周知・著名性を立証することにもなりえない。いうまでもないことであるが、周知・著名性は、その商標の使用の事実のみによって立証されるべきものであり、わが国ないし外国における出願・登録状況とは何ら関係がないからである。
よって、請求人が甲第58号証を提出したとしても、引用1商標の周知・著名性とは何ら関連がないものといわなければならない。
(2-5)商標法第4条第1項第10号該当性についてのまとめ
以上のことから、本件商標と引用1商標は、外観において類似するものではなく、また、引用1商標は、周知・著名性を獲得しているものとは認められない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものではない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
(3-1)引用1商標の周知・著名性
すでに述べているように、引用1商標が周知・著名性を獲得している事実は認められない。よって、被請求人が、本件商標をその指定商品に使用しても請求人の業務に係る商品と出所の混同が生じるおそれは全くない。
(3-2)本件商標と引用1商標の対比
既に述べたように、本件商標と引用1商標とは、外観上相紛れるおそれなど全く認められない非類似の商標である。
(3-3)出所の混同の有無
(3-3-1)被請求人の使用状況について
本件商標は、被請求人が展開する服飾ブランド「MODERN LOVERS」「モダンラヴァーズ」に付されるシンボルマークである(乙第1号証)。
本ブランドは、被請求人が2003年2月より全国的に展開しているものであり、その店舗は東京を中心とする関東近県の他、中部・東海地区、関西地区、北海道地区と合わせて全国に10店舗が存在し(乙第2号証及び乙第3号証)、被請求人が展開する数々の服飾ブランドの中でも人気ブランドの一つであるため、毎シーズン一定の売上高を誇っているものである。また、被請求人による積極的な広告戦略によって複数のファッション雑誌に本ブランドの紹介がされており(乙第3号証ないし乙第10号証)、その中で本件商標は、本ブランドを構成する上で極めて重要な役割を担うものである。
このため、被請求人は、本ブランドに表彰される業務上の信用を保護すべく、本件商標につき商標登録出願をし、その登録が認められたという経緯がある。また、上述のとおり、本件商標の長年に亘る使用により、本件商標は周知・著名性を獲得している。
このように、わが国において周知・著名性を獲得しているのはむしろ本件商標の方であり、その結果、本件商標には、わが国の商標法により保護されるべき業務上の信用が多大に表彰されているものといわなければならない。
(3-3-2)需要者の範囲について
請求人は、引用商標が表彰されている商品、特に「スキージャケット」「競技用スキーウェア」と本件商標の指定商品である「洋服」との需要者が共通する旨を述べている。
しかしながら、請求人の主張は、現実の取引の実情を全く無視したものであって、その妥当性を欠くものと言わざるを得ない。なぜなら、本件商標の指定商品の一部である「洋服」と「スキージャケット」とは、品質・用途・販売場所等が大きく異なるため需要者の範囲も明らかに異なるからである。
また、「スキージャケット」は、商品の品質、用途等からすると、主にスポーツ用品を取り扱う専門店において販売されているのが通例である。
他方、「洋服」、特に、本件商標を付する洋服は、主に衣料品を専門的に取り扱う店舗により販売されているのが商取引の実情である。このため、「スキージャケット」と「洋服」、特に本件商標を付する洋服とは、その商品の販売場所が明確に異なるものといわなければならない。
このように「スキージャケット」と「洋服」とは、その商品の品質、用途、販売場所が明確に異なるため、このような現実の取引の実情の下では、その結果として、需要者の範囲も全く異なるものとなる。そのため、本件商標に接する需要者ないし取引者をして請求人の業務に係る商品と出所の混同をせしめるようなおそれが認められる余地は皆無である。
(3-3-3)混同について
以上に述べたように、わが国において周知・著名性を獲得しているのは本件商標である点、及び、本件商標の需要者の範囲が明確に異なる点を鑑みれば、例え本件商標をその指定商品に使用したとしても請求人の業務に係る商標と出所の混同が生ずる余地など全くないことは、もはや明白である。
(3-4)商標法第4条第1項第15号該当性についてのまとめ
本件商標をその指定商品に使用しても出所の混同が生じる余地はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものではない。
(4)結論
以上のように、本件商標は上記、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に違反して登録されたものではないため、商標法第46条第1項第1号に基づいて、その登録は無効とされるべきものではない。

第4 当審の判断
1 引用1商標の周知・著名性について
(1)請求人の主張
請求人は、「1989年以降、請求人が全米スキー・スノーボード協会(USSA)のアルペンスキーチームにレーシングワンピースやウエアの提供契約を締結している事実より明らかである(甲第5ないし7号証)」、「2003年シーズンよりカナダフリースタイルチーム(甲第8号証)・アルペンチーム(甲第9号証)、2004年よりアルペン最強国のオーストリアチームへのスポンサー契約が開始されている事実からも明らかである(甲第10号証)。」及び「日本においても請求人の商品は古くから市場に出回っており、引用1商標は本件商標が出願された2003年1月17日よりも前から使用されていることは、甲第11号証ないし甲第15号証をもって証明する。また、本件商標の出願後における日本での引用1商標の継続使用については、甲第16号証、甲第17ないし54号証を紹介する。以上からわかるように、請求人は、従来から一貫してその商品に引用1商標を継続して使用し続けている。」旨主張しているので、以下検討する。
(2)請求人の提出した上記証拠から、以下の事実が認められる。
(ア)甲第5号証には、引用1商標の表示、「The official Uniform Provider for the U.S.Alpine Ski Team」及び「Cipyright 2003 United States Ski and Snowboard Association.」の記載がある。
そうすると、この証拠から、引用1商標は、2003年に、米国の「the U.S. Alpine Ski Team」の公式ユニフォームに使用されていたことが認められる。
(イ)甲第6号証ないし甲第10号証には、引用1商標又は引用1商標らしい表示はあるものの、いずれの証拠も発行日等の日付の記載がないものであるから、本件商標の登録出願日前に、引用1商標が使用されていたか不明である。
(ウ)甲第11号証の表紙には「1991-1992」の記載、甲第12号証には、「2001フリースキー界/知りたいコト先取り!」、「2001、フリースキー界のもぎたてフレッシュ情報!」、「00/01最も気になる/プロダクツは?」及び「今年からA.K.Iインターナショナルの扱いで、スパイダーウエアが手に入りやすくなった。日本でも『クモの巣』旋風が巻き起こるに違いなし!」の記載、甲第13号証には、「Volume.4 2001 Bravoski 96」、「THE SKI RANKING ●wear/今季買うならこのウエア」の9位に「スパイダー」の記載、甲第14号証には、「SKI GOODS 2001」、「GLOVE」、上から3列目右から3番目に商品スキーグローブの写真と共に「スパイダー/モトグローブ 8151/斬新なデザインが個性派のグラブ技を演出。主素材は伸縮ポリエステルで動きやすい」及び「価格/5,500円」の記載、甲第15号証には、「SKI GOODS 2002」、その192頁に「RACING MODEL/レーシングモデル/最速&最強の滑りを可能にする多彩なファンクション搭載のコンペティションギア」、「ONE-PIECE」に「スパイダー/スーツ1901」の記載、204頁に「INNER/インナー」、二段目一番左に「スパイダー/ケージャージ7041」の記載、及び甲第16号証には、引用2商標「SPYDER」の記載がある。
そうすると、甲第11号証から甲第16号証は、発行日等の日付が本件商標の登録出願日前と認められるから、請求人は、本件商標の登録出願日(2003年1月17日)以前から、我が国において、引用2商標「スパイダー」又は「SPYDER」を、スキーグローブ、スキーズボン、スキーインナー等に使用していたことは認められる。
しかしながら、引用1商標は、蜘蛛の図形であるから、文字「スパイダー」及び「SPYDER」の使用の証拠によって、引用1商標が周知・著名性を有していると認めることはできない。また、甲第11号証中「PRO GS SUIT」、「DECEPTION」、「T-SHIRTS」、「GLOVES」、「CAPS」に赤で丸印の付けられた箇所にある図形、甲第12号証中、男性のスキーウェアの中心部に描かれた蜘蛛の図形、甲第14号証中、スキーグローブ中に赤で丸印の付けられた箇所にある図形、甲第15号証の第1頁乃至第4頁の赤で丸印の付けられた箇所にある図形、甲第16号証の1頁及び2頁の赤で丸印の付けられた箇所にある図形は、不鮮明で内容を特定できないものか、あるいは、内容が特定できても服飾のデザインとしての使用とみるのが自然なものであり、いずれも引用1商標の商標法上の商標の使用とみることはできないというのが相当である。
してみれば、これらの証拠によって、引用1商標の周知・著名性を証明したと認めることはできないものである。
(エ)甲第17号証ないし甲第54号証には、引用1商標の表示はあるものの、「SPYDER COLLECTION 2006-2007」の中の「2006-2007」の記載からすると、本件商標の登録出願日以降に発行されたことが明らかであるから、これらの証拠によって、本件商標の登録出願日以前の引用1商標の周知・著名性をしたと認めることはできないものである。
(3)まとめ
以上(2)からすると、本件商標の商標登録日以前から、引用1商標が請求人の業務に係る商品に使用されていることは認められるとしても、引用1商標が、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願日前に我が国の需要者の間に周知・著名なものとなっていたと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第10号及び同第15号の該当性について
前記1のとおり、引用1商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願日前に我が国の需要者の間に周知・著名なものとなっていたとは認められないものである。
してみれば、引用1商標の周知性が認められない以上、本件商標と引用1商標との類否を判断するまでもなく、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、その商品の需要者が申立人又は申立人と経済的又は組織的に何等かの関係のある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものである。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品「スキー及びスノーボード用ジャケット及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード用ズボン及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード用セーター類及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード用靴下・耳覆い及びこれに類似する商品,帽子及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード競技用衣服及びこれに類似する商品,スキー及びスノーボード用靴及びこれに類似する商品」について商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものではなく、かつ前記商品以外の商品について商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。
4 まとめ
したがって、本件商標の登録は、その指定商品中「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」について、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1)本件商標


別掲(2)引用商標


審理終結日 2007-12-17 
結審通知日 2007-12-20 
審決日 2008-01-07 
出願番号 商願2003-2769(T2003-2769) 
審決分類 T 1 12・ 271- Y (Y25)
T 1 12・ 25- Y (Y25)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 中村 謙三
特許庁審判官 小畑 恵一
津金 純子
登録日 2003-10-03 
登録番号 商標登録第4714582号(T4714582) 
代理人 内藤 通彦 
代理人 橘 哲男 
代理人 佐藤 英二 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 宮永 栄 

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