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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z42 審判 全部無効 商8条先願 無効としない Z42 審判 全部無効 称呼類似 無効としない Z42 審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない Z42 |
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管理番号 | 1171126 |
審判番号 | 無効2006-89064 |
総通号数 | 98 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2008-02-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2006-05-17 |
確定日 | 2008-02-01 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4474912号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第4474912号商標(以下「本件商標」という。)は、「MIZUHO」の文字を標準文字により表してなり、平成11年12月16日に登録出願され、第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として、同13年5月18日に設定登録されたものである。 2 引用商標 請求人が引用する登録第4246220号商標(以下「引用商標」という。)は、「みずほねっと」の文字を標準文字により表してなり、平成9年5月26日に登録出願され、第35類「広告,商品の販売に関する情報の提供」及び第38類「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」を指定役務として、同11年3月5日に設定登録されたものである。 3 請求人の主張の要点 請求人は、本件商標の登録についての一部又は全部を無効とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証及び第2号証を提出している。 (1)請求の理由 本件商標の一部又は全部は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号、同法第8条第1項及び同法第3条第1項の規定に違反して登録されたものであるから、その登録は無効とされるべきものである。 ア はじめに (ア)電気通信の役務のうち、「電子メール」、「インターネットのホームベージ開設場所の提供」といった役務は、第42類の役務に該当する。 引用商標は、ドメイン名ではないが、ネット上での役務ではドメイン名への高度依存があり、引用商標に最も類似するといえるドメイン名に「MIZUHO.NET」がある。引用商標の指定役務は、ネット上での役務であることから、引用商標の使用に当たり合わせてドメイン名の標章の使用(「みずほねつと」に最も類似するといえるこの「MIZUHO.NET」の使用)をした場合、引用商標及び「MIZUHO.NET」と本件商標とは、同一若しくは類似又は出所の混同を生ずるおそれがあると思われる。 (イ)被請求人は、本件商標のほか、本件商標と同一の構成からなり、第38類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務とする登録第4457746号、同じく、第35類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務とする登録第4478383号商標を所有し、さらに、自己のグループ会社の取扱いに係る役務「銀行業務」等について、「みずほ」又は「MIZUHO」の商標を使用している。 (ウ)インターネットについて インターネットは、通信プロトコル(約束)であるTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)を用いて世界のネットワークを相互(Inter)に接続したコンピュータネットワーク(Network)であり、「ネット」とも称されている。 インターネットは、IPというプロトコルに従って接続された世界規模のコンピュータネットワークであり、インターネットのIPネットワークに接続させた通信相手の特定にはIPアドレス(数字をピリオドでつないだもの)を使う。ただ、このIPアドレスの数字とピリオドを人間が識別するのは非常に困難で、DNS(Domain Name System)という約束に従って構成されるドメイン名という識別子(標章)を用いている。ドメイン名を使ってインターネット上でやりとりを行うためには、これをコンピュータ同士が通信するために必要なIPアドレスに変換させなければならない。ドメイン名とIPアドレスを対応づけるしくみが、DNSであり、「インターネット上の住所録」にあたる。 電子メール(Electronic Mail)は、このインターネットを通じて文字メッセージ・画像データやプログラムなどを送ったり受け取ったりする通信になる。例えば、メールサーバに到着し保存してあるメールを、パソコンなどそのクライアントに取り込むために用いるプロトコルにPOPやIMAPがある。プロバイダ(電気通信事業者)は、顧客にこのメールサーバのサーバエリア(領域)を貸与する役務を行っている。また、この電子メールのやりとりには、その顧客毎の識別子とドメイン名を組み合わせたものが通常使用される。 プロバイダは、顧客にホームページの開設場所の提供として、ホームページのサーバエリア(領域)を貸与する役務を行っている。この役務についても、顧客毎の識別子とドメイン名を組み合わせたものが通常使用される。 (エ)商標の類否の判断に当っての最高裁の判例 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、呼称等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)。 イ 引用商標の指定役務と同一又は類似の役務 (ア)引用商標の指定役務中、第38類の「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」は、プロバイダによるインターネットへの接続サービスの意になる。ところで、プロバイダが提供する役務には、このインターネットへの接続役務のほかにも、電子メールやホームページ開設場所の提供といった役務がある。電気通信事業を所管する総務省の「電気通信サービスQ&A」(2002年4月発行)に「インターネットを楽しむために」と題して、次のように記載されている。 「インターネットは、世界中のコンピュータ同士を相互に結び付けているネットワークです。利用者は、プロバイダと呼ばれる電気通信事業者と契約することで、インターネットを楽しんだり、電子メールを使い世界中の利用者と文章や画像をやり取りできます。また、目的に応じて様々な情報を発信できるホームページを開設したり、他の人のホームページを閲覧して楽しむことができます。」 プロバイダが提供している役務には、「インターネットへの接続サービス」の役務以外にも、「電子メール」の役務や「ホームページの開設場所の提供」の役務があるということである。 (イ)ここでいうプロバイダは、ASP(Application Service Provider)でなくISP(Internet Service Provider:電気通信事業者)をいう。このプロバイダが提供するこうした役務は、商標法の指定役務でいうと、「インターネットへの接続サービス」は、「電子計算機端末による通信」になるので、第38類の役務に当たる。「電子メール」役務は、「電子メール」という表記では、第38類の役務であるが、「電子メール」はPOPやIMAPといったプロトコルによる「サーバエリアの貸与」によってその提供が行われているので、「電子メールのサーバエリアの貸与」でもあって、第38類の役務に当たると同時に第42類の役務にも当たる。「ホームページの開設場所の提供」は、「インターネットホームページのサーバエリアの貸与」で、第42類の役務に当たる。 (ウ)したがって、引用商標の指定役務と同一又は類似の役務には、第35類「広告(インターネットによる広告を含む。),商品の販売に関する情報の提供(インターネットによる商品の販売に関する情報の提供を含む。),広告場所の提供(インターネットによる広告場所の提供を含む。)」、第38類「電子計算機端末による通信,電子メール」及び第42類「電子メールのサーバエリアの貸与,インターネットホームページのサーバエリアの貸与」といった役務が含まれているといえる。 ウ 商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同法第8条第1項について (ア)ネット上の役務・インターネット・サービス・プロバイダの役務での「ねっと(ネット・NET)」の語や「ドメイン名」の使用を、「電子メール」、「インターネットのホームページ開設場所の提供」といった役務の取引状況(提供状況)に基づいて判断すべきである。 (イ)引用商標を、例えば「MizuhoNet」、「MIZUHO NET」との表記で使用することは、「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の呼称及び観念を生ずる商標(商標法第50条第1項)といえる。「ドメイン名」については、同条項の「社会通念上同一と認められる商標」に、引用商標を「MIZUHO.NET」とするドメイン名の表示での使用が含まれるか否かで判断すべきである。 つまり、「NET」の語は、「NETWORK」の略語として、本件指定役務を提供する業界においても、企業内の提携関係やコンピュータネットワークに関連する役務を表す語として採択使用されているものであるから、自他役務の識別標識としての機能を果たす部分は、(NETを除いた)「MIZUHO」の文字部分にある。「NET」は、平仮名では「ねっと」になる。 (ウ)引用商標の「ねっと(ネット・NET)」の語(の部分)は、自他役務の識別標識としての機能がないか又は薄いものといえるから、引用商標は、需要者に識別標識として強く認識されると思われる「みずほ(ミズホ・MIZUHO)」の部分のみをもって認識される場合も少なくないであろう。 引用商標の「みずほ」の部分からは、「ミズホ」の呼称及び「瑞穂(みずみずしい稲の穂)」の観念が生ずる。他方、本件商標からも、同じく「ミズホ」の呼称及び「瑞穂(みずみずしい稲の穂)」の観念が生ずる。 したがって、引用商標「みずほねっと」と本件商標「MIZUHO」とは、同一又は類似であり、混同を生ずるおそれがあるといえる。 (エ)ローマ字で表記した「MIZUHO NET(MizuhoNet)」の「MIZUHO(Mizuho)」の部分及びドメイン名「MIZUHO.NET」の「MIZUHO」の部分からは、いずれも「ミズホ」の呼称及び「瑞穂(みずみずしい稲の穂)」の観念が生ずる。 他方、本件商標からも、同じく「ミズホ」の呼称及び「瑞穂(みずみずしい稲の穂)」の観念が生ずる。 したがって、「MIZUHO NET」及び「MIZUHO.NET」と本件商標とは、同一又は類似であり、混同を生ずるおそれがあるといえる。 (カ)現時点で「みずほ」といえば、まず思い浮かぶのは被請求人株式会社みずほフィナンシャルグループの「みずほ」であろうが、先願先登録の引用商標に基づいて請求人等が提供する役務が、あたかも金融グループの役務であると混同を生じるおそれがあるものといえるかどうかはともかくとして、その金融グループの発足及び本件商標の登録出願は、あくまでも引用商標の登録よりも後の日付となっている。 (キ)商標審査基準によれば、形容詞的文字(商品の品質、原材料等を表示する文字又は役務の提供の場所、質等を表示する文字)を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されていない商標と類似するとされる。 引用商標は、「みずほ」と「ねっと」との2つの語の結合商標であり、「ねっと」の部分は形容詞的文字といえる。 したがって、引用商標は、「ねっと」が付加結合されていない商標「みずほ」と類似するといえる。 (ク)してみれば、本件商標は、引用商標の指定役務と同一又は類似の役務については、商標法第4条第1項第11号、同項第15号又は同法第8条第1項のいずれかに該当するものであるから、その登録を無効にすべきものである。 エ 商標法第3条第1項について 商標審査基準によれば、「自己の業務に係る商品又は役務について使用」をしないことが明らかであるときは、原則として、第3条第1項柱書により登録を受けることができる商標に該当しないものとする。(例)1 出願人の業務の範囲が法令上制限されているために出願人が指定商品又は指定役務に係る業務を行わないことが明らかな場合」とされている。 銀行法(昭和56年法律第59号)によれば、当該免許を受けて銀行業を営む者は同法第2条に掲げる業務を本業とし、同法第10条、第11条、第12条及び「普通銀行ノ信託業務ノ兼業等ニ関スル法律(昭和18年法律第43号)」第1条に掲げる業務のほか、他の業務を営むことができない(同法第12条、第47条)とされてきた。「自己の業務に係る商品又は役務について使用」をしないことが明らかであるときは、原則として、第3条第1項柱書により登録を受けることができる商標に該当しないもの」とされるので、本件商標は、出願日や登録査定日を判断の基準日とした場合には、その登録は原則として無効になる。 金融庁が、銀行が広告業など本業以外の事業を営むことを認めるとして、被請求人のグループ会社の株式会社みずほ銀行が広告業の事業計画を公にしたのは、平成14年12月8日であり、本件商標の出願日は同11年12月16日、登録査定日は同13年3月12日である。 (2)弁駁の要旨 ア 引用商標について 被請求人は、引用商標が「みずほねっと」とあえて日本生まれの文字平仮名で表記したことで観念は別のものとなるととらえているようであるが、平仮名とカタカナとを混在させずに呼称・表音を表記することで観念は全く別のものとなってしまうのであろうか。 例えば、「銀行」、「ぎんこう」の日本語表記は明治時代に誕生したが、この表記が生み出されなかったとして話を進めると、「MizuhoBank」という商標について、「預金の受入れ及び定期積金の受入れに関する情報の提供、資金の貸付け及び手形の割引に関する情報の提供」の役務を指定して、平仮名で表記して「みずほばんく」として出願し登録された(「銀行」「ぎんこう」の表記は存在しないから「みずほ銀行」「みずほぎんこう」ではない。)後に、先の役務を含む広範な役務について、第三者が「MIZUHO」の商標を登録出願し登録された場合、「みずほばんく」の権利者から無効審判請求が起されても請求が成り立たないとすべきかどうか。請求人は、二つの商標は類似商標として、登録は無効とされてしかるべきと考える。 「みずほばんく」が、すべての文字を平仮名でまとまりよく一体的に表現されていて、よどみなく一連に称呼されるとしても、被請求人のいう、外来語の日本語表記なのだから「バンク」となるはずで、「ばんく」と表記した場合は「Bank」、「バンク」とは無関係との主張には同意できない。「みずほばんく」をローマ字表記すれば「MizuhoBank」とも表記できる。 イ 指定役務の同一又は類似について (ア)商標の同一・類似性は、個別具体的に判断されるので、すべての事案に共通ではない。特許庁が公開している審査基準で示される類似群に属する役務群と個別具体的な判断で類似とされる役務は合致するとは限らない。 例えば、一つの役務を「電子メール通信」役務と「電子メールのサーバエリアの提供」役務という二つの表現をした場合、審査基準上それぞれの類似役務が異なる可能性があり、特許庁や裁判所が個別具体的に判断することで役務の類否が決まる。 (イ)被請求人は、本件商標の指定役務は引用商標の指定役務のいずれとも類似しないと主張するが、役務の類否はあくまでも個別具体的に判断されるもので、審査基準で「類似」とされたものでも「非類似」となる場合又はその逆の場合もあり得る。 引用商標の指定役務「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」の禁止権が及ぶ役務「電子メールのサーバエリアの貸与」や「インターネットホームページのサーバエリアの貸与」は、第38類でなく第42類の役務とされているようであり、本件商標の指定役務中に引用商標の指定役務「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」の禁止権が及ぶ役務があるのではないかと考える。 (ウ)被請求人は、「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」を行う事業者が「電子メールのサーバエリアの貸与」や「インターネットホームページのサーバエリアの貸与」の役務を提供することがあるとしても、そのことのみをもって、商標法上それらの役務のすべてが同一あるいは類似するということはできない旨主張する。 しかし、「インターネットへの接続・電子計算機端末によるネットワークへの接続の提供」、「電子メール通信・電子メールのサーバエリアの提供」、「ホームページの開設場所の提供・インターネットホームページのサーバエリアの提供」は、プロバイダとよばれる電気通信事業者が一般に営む役務であり、これらは、類似役務に当たる。プロバイダとよばれる電気通信事業者は、総務省が主管する電気通信事業法のもとに「インターネットへの接続」、「電子メール(電子メールサーバエリアの提供)」、「インターネットホームページのサーバエリアの提供」等の役務を提供している(甲第1号証)。この一つの法律のもとに営んでいるこれらの役務は、類似役務とされてしかるべきであり、「役務の取引の実情」、「具体的取引の状況」からもこれらの役務は類似役務とされてしかるべきである。 もっとも、利用する顧客の役務選択度合いのみから単純にとらえることで類否判断がされてしまうなら、被請求人の主張は正しいかもしれない。電気通信事業者が、上記三つの役務を提供する場合であっても、顧客に取捨選択の余地があり、顧客はこれらの役務すべての利用を強制されない。被請求人主張のように各々の役務を利用する需要者の範囲は(著しくといえるかはともかくとして)相違することになり、被請求人の主張は全くの間違いとはいえない。 ただ、役務間で利用する顧客に差があるというのであれば、例えば、国際分類第7版での「電子計算機端末による通信」と「テレックスによる通信」、「電報による通信」、「電話による通信」、「フアクシミリによる通信」、「無線呼出し」の各役務の需要者の重なりと、「電子計算機端末による通信」、「電子メール通信(電子メールのサーバエリアの提供)」、「ホームページ開設場所の提供」の各役務の需要者の重なりとでは、前者が後者よりも重なりが低く、後者が類似役務ではないとするなら、需要者の重なりの低い前者はなおさら類似役務ではないとすべきである。 「利用する需要者の範囲が著しく相違する役務は類似するということはできない」との被請求人の主張に沿って考察してゆくと、例えば、「預金の受入れ及び定期積金の受入れに関する情報の提供」、「資金の貸付け及び手形の割引に関する情報の提供」、「内国為替取引に関する情報の提供」、「債務の保証及び手形の引受けに関する情報の提供」、「外国為替取引に関する情報の提供」等、銀行業務・証券業務における役務は多いが、そのすべてについて需要者の範囲がほぼ一致するかといえば必ずしもそうではない。仮にそれぞれの役務の提供を受ける需要者の範囲が大きく異なっているものがあった場合、その役務は、たとえ銀行業務・証券の一般的な役務であっても互いに類似性が低いか存在しない役務になるとは請求人には到底思えない。 ウ 本件商標と引用商標との類否について (ア)被請求人は、国語審議会報告や内閣告示「外来語の表記」の表現方針から、平仮名表示した「ねっと」はインターネットを示す文字ではないと主張するが、商標の表示・表記についてもこれらの報告・表現方針に準じて表現すべきかどうか、商標の表示・表現についてはこれらの報告・表現方針は及ばないのではないか。 (イ)被請求人は、引用商標がまとまりよく一体的に表現され、全体から生じる呼称もよどみなく一連に称呼されると主張するが、「みずほねっと」を例えば、「MizuhoNet」、「MIZUHO NET」との表記で使用することは、「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の呼称及び観念を生する商標といえるものである。平仮名表示のみならず、片仮名、ローマ字の文字での表示についても類否の判断上考慮されるべきである。商標の表示・表記に関する規定、商標法第50条第1項の規定があるにもかかわらず、商標の類否について、被請求人があえて平仮名表記に限定した視点から述べているのは、理解出来かねる。 請求人は、「MIZUHO」とローマ字(英字)表示しようが「みずほ」と平仮名表示しようが、「瑞穂(みずほ)」の呼称及び観念を生ずると考える。 (ウ)被請求人は、特許庁における登録例、異議決定例、審決例を挙げているが、商標の類否については、個別具体的に判断されるものであって、過去の特許庁においてなされた本件と無関係の事案に関しての判断例が、本件審判事件について同様に適用されなければならないということはなく、それに拘束されるものではない。 第42類において、「ねっと」の語を含む商標に関して並存登録が認められなかった事案として、本件と同一の「みずほねっと」の商標登録出願(商願平11-119044)が、登録第4474912号商標「MIZIHO」を引用して拒絶された例がある。 (エ)請求人は、「みずほ」及び「MIZUHO」の商標が被請求人の業務に係る「銀行」及び「証券」の各役務について使用され著名であることについて別事件の知財高裁の裁判過程でも認めているとはいえ、これら以外の役務についての著名性を認めている訳ではない(平成17年(行ケ)第10756号審決取消請求事件)。 例えば、電気通信事業・広告・商品の販売に関する情報の提供といった分野において著名・周知商標とは考えていない。 まして、一部の商品・役務で著名商標でありさえすれば、他の分野の商品・役務においてまでも、他者の非著名商標を無視し憲法の財産権の保障規定さえ無視してまでも、著名商標の商標権者の出願商標の登録を認めるべきではない。 (オ)被請求人は、引用商標と「MIZUHO.NET」とは全く相違すると主張するが、ネットにおいてはドメイン名に高度の依存性があり、「電気通信事業・広告・商品の販売に関する情報の提供」といった役務をネットで提供する場合、引用商標と「MIZUHO.NET」とは非常に密接な商標であると請求人は考える。 商標「みずほねっと」、「MIZUHO NET」とその商標に最も類似するドメイン名商標(MIZUHO.NET)とは、全く別異の商標とするのが被請求人の主張のようであるが、この呼称上も視覚上も類似性の高い商標同士を「全く相違する」とするのはいかがなものか。むしろ逆に、本件審判対象の役務商標の類否の判断に当たってはドメイン名をふまえた判断もされるべきである。 例えば、「広告」、「商品の販売に関する情報の提供」等の役務をネット上で提供する場合、引用商標の使用に当たってドメイン名の標章(「MIZUHO.NET」)を使用するときは法律上の問題が生じてしまう。「MIZUHO.NET」と被請求人の商標「MIZUHO」とは、同一・類似又は出所の混同を生ずるおそれがあるからである。「MIZUHO.NET」商標の構成中「.NET」は、トップレベルドメインネームを表示する記号として広く一般的に使用されているものであって、この文字に自他商品・役務の識別力はないから、これに接する需要者・取引者は、「MIZUHO」の語を自他商品役務の出所識別標識であるとして注目する結果、被請求人の登録商標「MIZUHO」等との間で混同を生ずることは明らかである。 つまり、引用商標の指定役務及び類似役務について被請求人の商標「MIZUHO」、「みずほ」に登録商標の権限が存在する限り、引用商標の最も近いドメイン表示たる「MIZUHO.NET」を使用することは、法規定上適法性を欠くことになる。 (カ)請求人が、引用商標の使用に当たって、「MIZUHO.NET」という標章を使用した場合、この「MIZUHO.NET」と被請求人の商標「MIZUHO」、「みずほ」との間で混同を生ずることは明らかであるからこそ、引用商標をネット役務で使用する際のドメイン名を「MIZUHO.NET」とした場合、被請求人の有する登録商標(「MIZUHO」)の存在が問題となる訳である。請求人は、電気通信事業・広告・商品の販売に関する情報の提供といった役務を提供するに当たり、引用商標はドメイン名商標でないので、最も類似するドメイン名標章である「MIZUHO.NET」を用いたい。商標法は、ドメイン名の形式を有する商標も登録出願することを認めている。ドメイン名の形式を有する商標も自他商品・役務の識別標識として使用され、機能することがあり得るから、ドメイン名標章「MIZUHO.NET」を用いたいのであれば、その該当役務及び類似役務において被請求人が登録商標「MIZUHO」を用いる権利は本来無効であることを求める請求になる。 エ 商標法第4条第1項第15号について 引用商標を、例えば「MizuhoNet」、「MIZUHO NET」と表示することは、「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の呼称及び観念を生ずる商標といえる。つまり、引用商標を使用する際、ローマ字「MizuhoNet」、「MIZUHO NET」と表示しても同一視される。 引用商標と「MIZUHO.NET」はどうか。社会通念上同一と認められる商標であるなら、引用商標の使用として「MIZUHO.NET」が使える。同一とまでは認められないなら、引用商標の使用として「MIZUHO.NET」を使う権利は生じない。ネットでドメイン名が使用されるということは社会通念といえる。引用商標は、ドメイン名でないことは明白で、引用商標に最も類似するドメイン名は「MIZUHO.NET」である。引用商標の商標権には禁止権もあり、引用商標がネットでの役務であることから、ドメイン名を考慮した場合、本件商標について商標法第4条第1項第15号の適用があってしかるべきである。 オ 商標法第8条第1項に違反して登録されたものではないについて 本件商標の指定役務のうち、引用商標の指定役務と同一・類似のものについて、商標法第8条第1項に該当する。 カ 最高裁判決について 最高裁判決(昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)は、商標の類否は、具体的取引状況に基づいて判断するとしている。 つまり、「役務の取引の実情」、「具体的取引状況」が、本件審判請求の類否判断に際して、殊に重要ということであり、請求人と被請求人の類否の結論の相違はここから出てきている訳で、ここを無視してしまっては類否の判断を誤る危険性があると考える。 4 被請求人の答弁の要点 被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし第25号証(枝番号を含む。)を提出している。 (1)本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について ア 本件商標の指定役務は、いずれも引用商標の指定役務に類似しない。 本件商標の指定役務は、商品及び役務の区分第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務である。他方、引用商標の指定役務は、第35類に属する「広告,商品の販売に関する情報の提供」及び第38類に属する「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」である。特許庁商標課編「商品及び役務の区分に基づく類似商品・役務審査基準〔国際分類第8版対応〕」に照らせば、本件商標の指定役務はいずれも、引用商標の指定役務のいずれとも類似しないことは明らかである。 なお、請求人は、引用商標の指定役務である「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」が「電子メールのサーバエリアの貸与」や「インターネットホームページのサーバエリアの貸与」などの役務に当たると述べ、その根拠として、「プロバイダと呼ばれる電気通信事業者」が「電子メールサービスの役務」や「ホームページ開設サービスの役務」を提供することがあると主張しているようであるが、事業の多角化が進んでいる現代社会において同一の事業者が、多種多様な商品やサービスを提供することは一般的であって、そのような多種多様な商品やサービスのすべてが類似の商品又は役務として取り扱われるわけでは決してない。 したがって、仮に、「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」を行う事業者が「電子メールのサーバエリアの貸与」や「インターネットホームページのサーバエリアの貸与」の役務を提供することがあるとしても、そのことのみをもって、商標法上それらの役務のすべてが同一あるいは類似するということはできない。商標審査基準によれば、これらの役務は相互に非類似の役務とされており、実際に、電子メールによる通信を利用する需要者の範囲とホームページ開設サービスを利用する需要者の範囲は著しく相違するから、これらの役務が類似するということはできない。請求人の主張は容認することができない。 イ 本件商標は、引用商標に類似しない。 (ア)商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない(特許庁商標審査基準第3の九、1参照)。 そこで、本件商標と引用商標を、その外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素に照らして考察すると、以下のとおりである。 (イ)本件商標は、標準文字による欧文字6文字を横書きにしてなり、他方、引用商標は、標準文字による平仮名6文字を横書きにしてなるものである。 したがって、外観上、両者が異なる文字種により構成された非類似の商標であることは、明らかである。 (ウ)本件商標からは、その構成文字に応じて「ミズホ」の称呼を生じる。他方、引用商標からは、その構成文字全体に応じて「ミズホネット」の称呼のみが生じる。その理由は以下のとおりである。 1)引用商標は全体で一体不可分の造語である。 請求人は、「『インターネット』は『ネット』とも称されている」と主張し、「『みずほねっと』は『みずほ』と『ねっと』の2つの語の結合商標であり、『ねっと』の部分は形容詞的文字といえる」旨主張する。 しかしながら、仮に、「ネット」の文字が、請求人が主張するように「インターネット」の略称として用いられることがあるとすれば、まさに請求人自身が「『インターネット』は『ネット』とも称されている」と記載しているように、外来語の通常の記載方法に従って(乙第1号証及び第2号証)、片仮名をもって「ネット」と記載されるはずである。外来語である「インターネット」の略称を平仮名で「ねっと」と記載して表現することが一般的であるという事実は全く存在せず、引用商標に接した需要者、取引者は、引用商標を構成する文字のうち「ねっと」の部分を「インターネット」の略称としての「ネット」と認識することは有り得ない。 百歩譲って、仮に、引用商標の「ねっと」の文字部分が、外来語の「ネット」に通じ、さらにこれから、請求人が主張するように「インターネット」の意味合いが生じることがあったとしても、すべての文字を平仮名で、標準文字(同書同大)により、スペース等による分離箇所もなく、外観上まとまりよく一体的に表現されていること、引用商標全体から生じる称呼が全体で5音と短く、よどみなく一連に称呼しうるものであることから、引用商標に接した需要者・取引者は、これを全体として一体不可分の造語と理解し、「ミズホネット」と称呼する。 2)特許庁における、「ねっと」の語を含むか否かが異なる複数の商標に関する登録実務並びに異議決定及び審決で示された判断 ・特許庁における登録例(乙第3号証ないし第11号証) 後願登録商標 先願登録商標 「じよいふるねっと」 「JOYFUL」 「ゆめねっと」 「ゆめ」 「らくだねっと」 「楽打\らくだ」 「すこやかねっと」 「すこやか」 「やすらぎ」 「やすらぎねっと」 「りーふねっと/リーフネット」 「Leaf」 「FCねっと」 「FC」 上記の商標は、各々異なる出願人により、異なる日に、本件商標の指定役務と同一又は類似する第42類の役務を指定して出願されたものであるが、それぞれ並存して登録されている。そうすると、上記の各商標はいずれも、第42類の本件商標の指定役務と同一又は類似する役務を指定役務とし、その構成文字中に「ねっと」の語を含むものであるが、「ねっと」の部分が各指定役務との関連で形容詞的文字であるとは判断されず、それぞれ構成全体を以って一体不可分の商標として取り扱われ、相互に非類似であると判断されたものと考えられる。このような多くの並存登録例が存在する中で、上記の各商標と同一の音数又はそれより短い音数からなり、平仮名をもって同書同大等間隔に一連に記してなる上記の各商標と同様の構成を有する引用商標「みずほねっと」のみが「みずほ」と「ねっと」とに分断して認識されると解すべき理由を見いだすことはできない。 ・特許庁における従前の審決又は異議決定例 (a) 異議2001-90788では、「電子計算機端末による通信ネットワークに係るコンピュータプログラムの保守」等を指定役務とし、標準文字で「Net-Vision」と書してなる商標について、「本願商標は、その構成文字全体は、外観上まとまりよく一体的に表されていて、これより生ずる『ネットビジョン』の称呼は、よどみなく一連に称呼し得るものであることより、その構成文字中の『Vision』の文字部分のみが独立した標識部分として認識され得ないというべきであるから、本件商標は、その構成文字全体をもって一体不可分の造語よりなるものと認識し把握されるとみるのが相当」と認定した上で、引用商標「VISION」とは非類似とした(乙第12号証の1及び2)。 (b)平成11年審判第15150号では、「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供」等を指定役務とし、「COMSANET」と「コムサネット」の文字とを上下二段に横書きしてなる商標について、「各構成文字全体は外観上まとまりよく一体的に表現されていて、しかも、これより生ずると認められる『コムサネット』の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである」と認定し、「構成中の『NET』及び『ネット』の文字部分が特定の役務又は役務の質を具体的に表示するものとして直ちに理解できるものともいい難い」と述べた上で、「構成中の『COMSA』及び『コムサ』の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見出せない」として、引用商標「コムサ」等とは非類似とした(乙第12号証の3)。 上記の審決及び異議決定においては、(i)商標が外観上まとまりよく一体に表示されており、(ii)全体から生じる称呼が冗長でなくよどみなく一連に称呼し得るものである場合には、たとえ構成中に「Net」、「NET」又は「ネット」の文字が含まれているとしても、構成全体をもって特定の観念を生じない一体不可分の造語として認識し、把握されると見るのが自然であるとの判断がなされている。 これら異議決定例及び審決例と比較すると、引用商標にあっては、上記(i)及び(ii)の判断基準を満たすものであることは明らかである上、上記異議決定及び審決に係る商標が「Net」又は「NET」とアルファベットで表記されているのとは異なり、引用商標はその構成文字のすべてが平仮名をもって構成されていることから、上記の審決及び異議決定の対象とされた商標と比較しても、それら以上に外来語である「NET(ネット)」の語を想起させ難いものであり、より一層一体感の強い商標として認識されることは明らかである。 3)小括 以上のとおり、引用商標のうち「ねっと」の部分は形容詞的文字であるから、「みずほねっと」が「みずほ」と類似するという請求人の主張にはなんら合理的な理由がなく、特許庁における従前の登録実務や審決で示されてきた判断基準とも相容れるものではない。引用商標のうち「みずほ」の文字が請求人の役務の出所を表示する商標として周知であるなどの特段の事情があるとすれば格別、そのような特段の事情がない本件においては、引用商標は、構成全体をもって特定の観念を生じない一体不可分の造語として認識し、把握され、その構成文字の全体に相応して「ミズホネット」の称呼のみが生じるのであって、該称呼を本件商標から生じる称呼「ミズホ」と対比すると、両称呼はその構成音数の差異、「ネット」の音の有無により明らかに聴別し得るものである。 したがって、称呼上、本件商標は、引用商標とは非類似の商標である。 (エ)観念上、本件商標は、引用商標に類似しない。 本件商標は、被請求人及びその企業グループが統一して使用している著名商標「MIZUHO」と同一であり、著名商号「みずほ」とも類似することから、被請求人及びその企業グループを表象するものであり、その旨の観念が生じる。また、その構成文字に相応して生じる「ミズホ」の称呼から「瑞穂(瑞々しい稲の穂)」(乙第13号証)の観念も生じうる。他方、引用商標からは、上記(ウ)で述べたとおり「ミズホネット」の一連の称呼のみが生じるところ、「みずほねっと」又は「ミズホネット」という成語は存在しないから、引用商標に接した需要者、取引者は該語をなんら特定の意味を有しない造語として認識し、把握する。 そうすると、本件商標と引用商標の間には観念上類似すると見なすべき理由は、なんら存在しない。 ウ まとめ 以上の次第で、本件商標の指定役務は、引用商標の指定役務のいずれとも類似しないから、これらの指定役務について、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するものではないことは明らかである。それに加えて、そもそも本件商標は、引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの判断基準に照らしても明らかに非類似の商標であって、互いに相紛れる恐れがないものであることは明白である。 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。 エ その他 本件商標における無効理由の有無とは関係がないが、被請求人の主張を請求人が曲解することのないように、念の為付言する。 上記のとおり、引用商標「みずほねっと」は、構成全体をもって特定の観念を生じない一体不可分の造語として認識し、把握される故に、本件商標とは類似しないものであるが、このことは、「みずほねっと」という商標が、いかなる事情の下にあっても常に、構成全体を以て一体不可分の造語として認識され、把握されるということを意味するものではない。 最高裁判所は、「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする」と判示している(最高裁判所第三小法廷昭和43年2月27日判決、乙第14号証)。すなわち、商標の類否を判断するにあたっては外観、称呼、観念の各判断基準を総合して全体的に考察しなければならず、とりわけ、具体的な取引の実情を明らかにしうる限り、これを踏まえることなく商標の類否判断がなされてはならない。そして、上記最高裁判例のいう「具体的な取引の実情」には、対比される商標の周知性・著名性が含まれる。 対比される二の商標のうち、拒絶理由、異議申立理由又は無効理由の存否についての判断の対象とされる商標(以下「甲商標」という。)と、当該拒絶理由、異議申立理由又は無効理由として引用される他方の商標(以下「乙商標」という。)のうち、甲商標が周知・著名である場合には、甲商標の出願人又は商標権者が当該商標をその指定商品等に使用した場合には、その取引者・需要者は、当該商品等はかかる出願人又は商標権者の商品等であると認識する蓋然性が極めて高いため、甲商標と乙商標との類似性は否定されやすい。かかる判断をした一連の判決が存在する(乙第15号証ないし第19号証)。 被請求人の「MIZUHO」を甲商標とし、請求人の「みずほねっと」を乙商標として対比する場合には、具体的な取引の実情に照らして、「MIZUHO」という文字が、その査定時において被請求人の業務にかかる商品又は役務の出所を表示する商標として広く認識されている場合には(この点については、請求人自ら「現時点で『みずほ』といえば、まず思い浮かぶのは被請求人『みずほ』であろう。」と述べ、被請求人の商標「MIZUHO」の著名性を認めている。)、被請求人が「MIZUHO」をその指定商品等に用いる場合には、その取引者・需要者は、当該商品等は被請求人の商品等であると認識するため、「みずほねっと」の商標権者である請求人の商品等との出所混同を生じるおそれはなく、したがって、「MIZUHO」は「みずほねっと」に類似しないという結論が導かれるのである。 反対に、拒絶理由、異議申立理由又は無効理由として引用される乙商標が周知・著名である場合には、甲商標の出願人が甲商標を乙商標と同一・類似の指定商品等に使用すると、それに接した取引者・需要者は、当該商品等は乙商標の商標権者の商品等であると誤認しやすいため、甲商標と乙商標との類似性は肯定されやすい。かかる判断をした一連の判決が存在する(乙第20号証ないし第22号証)。 したがって、請求人の「MIZUHO.NET」を甲商標とし、被請求人の「MIZUHO」を乙商標として対比する場合には、被請求人の乙商標の著名性からして、類似性が肯定されるのである。 ましてや、「MIZUHO.NET」という商標態様は、「みずほねっと」とは全く相違し、「.NET」はトップレベルドメインネームを表示する記号として広く一般的に使用されているものであって、これらの文字に自他商品・役務の識別力はないから、これに接する需要者、取引者は「MIZUHO」の語を自他商品役務の出所識別標識であるとして注目する結果、被請求人の登録商標「MIZUHO」等との間で混同を生じることは、明らかである。 (2)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について 商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務にかかる商品又は役務と混同を生ずる恐れがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)は商標登録を受けることができない」と規定する。したがって、同号に該当するためには、そもそも請求人が引用商標を何らかの業務について使用しているものであることが前提となるが、本件商標の出願時及び査定時において、引用商標が請求人の業務に係る商品又は役務について使用され、広く知られていたという事実はおろか、そもそも請求人が引用商標を何らかの業務について使用したという事実すらない。 混同が生じる対象となる請求人の業務自体が存在しないのであるから、本件商標が引用商標との関係において、商標法第4条第1項第15号に該当するとの請求人の主張は、主張自体失当である。 (3)本件商標の商標法第8条第1項該当性について 上記(1)アで述べたとおり、本件商標の指定役務は引用商標の指定役務のいずれとも類似しないことは明らかである。したがって、引用商標が本件商標よりも先に出願されたものであっても、本件商標が商標法第8条第1項に該当することはない。 また、上記(1)イで述べたとおり、そもそも本件商標は引用商標と類似しない。 したがって、引用商標が本件商標よりも先に出願されたものであっても、本件商標が商標法第8条第1項に該当することはない。 (4)本件商標が商標法第3条第1項に反するものであるか否かについて (ア)請求人は、本件商標が「自己の業務に係る商品又は役務について使用」をしないことが明らかである場合に該当し、その指定役務の「全部又は一部について原則として無効になるのではないか」との疑問を呈する。しかしながら、本件商標の登録査定時において、本件商標の出願人が自己の業務に係る商品又は役務について本件商標を使用しないことが明らかであったという事実はない。 (イ)みずほホールディングスの業務範囲 本件商標の登録査定日(平成13年3月12日)において、本件商標の出願人は株式会社みずほホールディングス(以下「みずほホールディングス」という。)であり、みずほホールディングスは、査定時に施行されていた銀行法(乙第23号証)第52条の2に基づく内閣総理大臣の認可を受けた銀行持株会社であった。銀行法第52条の5は、銀行持株会社の業務範囲を「その子会社である銀行及び第52条の7第1項各号に掲げる会社の経営管理を行うこと並びにこれに附帯する業務」と規定している。ここで「経営管理に附帯する業務」とは、例えば、銀行持株会社が傘下の子会社のためにグループを代表して継続的に資金調達をすること、営業用ソフトや不動産の子会社への貸付けを行うことなどが該当し、みずほホールディングスの子会社がその業務に使用する、グループ名称を含む商標を、グループを代表して出願・登録・維持・保全し、当該商標を各子会社を通じて使用ないし使用させる業務も当然にこれに該当するものである。 (ウ)みずほホールディングスの子会社の業務範囲 銀行法第52条の7第1項に基づき、銀行持株会社は第7号イに規定する従属業務を専ら営む会社を子会社とすることができるところ、従属業務には「他の事業者のための不動産(原則として、自らを子会社とする銀行持株会社又はその子会社から取得し、又は賃借した営業用不動産又は事業用不動産に限る。)の賃貸又は他の事業者の所有する不動産若しくはそれに付随する設備の保守、点検その他の管理を行う業務」(銀行法施行規則第34条の8第1項第1号)「他の事業者の役員又は職員のための福利厚生に関する事務を行う業務」(同第2号)、「他の事業者の事務に係る文書、証票その他の書類の印刷又は製本を行う業務」(同第4号)、「他の事業者の業務に関し必要となる調査又は情報の提供を行う業務」(同第7号)、「他の事業者の行う資金の貸付けその他の信用供与に係る債権の担保の目的となる財産の評価、当該担保の目的となっている財産の管理その他当該財産に関し必要となる事務を行う業務」(同第10号)、「他の事業者の行う資金の貸付け(住宅の購入に必要な資金の貸付けその他の消費者に対する資金の貸付けに限る。)に関し相談に応ずる業務又は当該資金の貸付に関し必要となる事務を行う業務」(同第11号)、「他の事業者の行う外国為替取引、信用状若しくは旅行小切手に関する業務又は輸出入その他の対外取引のため直接必要な資金に関する貸付け、手形の割引、債務の保証若しくは手形の引受けに関し必要となる事務を行う業務」(同第12号)、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第2条第3号に規定する労働者派遣事業又は職業安定法第30条第1項の規定に基づき許可を得て行う職業紹介業」(同第16号)、「他の事業者のために電子計算機に関する事務を行う業務(電子計算機を使用することにより機能するシステムの設計若しくは保守又はプログラムの設計、作成、販売若しくは保守を行う業務を含む。)」(同第17号)が含まれる。 そして、上記の従属業務には、本件商標の各指定役務が含まれる。 すなわち、上記「他の事業者のための不動産(原則として、自らを子会社とする銀行持株会社又はその子会社から取得し、又は賃借した営業用不動産又は事業用不動産に限る。)の賃貸又は他の事業者の所有する不動産若しくはそれに付随する設備の保守、点検その他の管理を行う業務」には、「施設の警備」、「会議室の貸与」、「展示施設の貸与」が含まれる。 上記「他の事業者の役員又は職員のための福利厚生に関する事務」には、「宿泊施設の提供」、「宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」、「美容」、「理容」、「入浴施設の提供」、「写真の撮影」、「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介」、「婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供」、「葬儀の執行」、「墓地又は納骨堂の提供」、「庭園又は花壇の手入れ」、「庭園樹の植樹」、「肥料の散布」、「雑草の防除」、「有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る)」、「建築物の設計」、「身辺の警護」、「あん摩・マッサージ及び指圧」、「きゅう」、「柔道整復」、「はり」、「医業」、「医療情報の提供」、「健康診断」、「歯科医業」、「調剤」、「栄養の指導」、「家畜の診療」、「保育所における乳幼児の保育」、「老人の養護」が含まれる。 上記「他の事業者の事務に係る文書、証票その他の書類の印刷又は製本を行う業務」には、「オフセット印刷」、「グラビア印刷」、「スクリーン印刷」、「石版印刷」、「凸版印刷」が含まれる。 上記「他の事業者の業務に関し必要となる調査又は情報の提供を行う業務には、「気象情報の提供」、「測量」、「地質の調査」、「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」、「公害の防止に関する試験又は研究」、「電気に関する試験又は研究」、「土木に関する試験又は研究」、「農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究」、「機械器具に関する試験又は研究」、「国民の社会生活における精神的あるいは物理的問題に関する調査又は研究」、「産業技術・科学技術に関する調査又は研究」、「社会科学に関する調査又は研究」、「自然科学に関する調査又は研究」、「人文科学に関する調査又は研究」が含まれる。 上記「他の事業者の行う資金の貸付けその他の信用供与に係る債権の担保の目的となる財産の評価、当該担保の目的となっている財産の管理その他当該財産に関し必要となる事務を行う業務」には、「測量」、「地質の調査」、「建築又は都市計画に関する研究」、「著作権の利用に関する契約の代理又は媒介」が含まれる。 上記「他の事業者の行う資金の貸付け(住宅の購入に必要な資金の貸付けその他の消費者に対する資金の貸付けに限る。)に関し相談に応ずる業務又は当該資金の貸付に関し必要となる事務を行う業務」には、「個人の身元又は行動に関する調査」が含まれる。 上記「他の事業者の行う外国為替取引、信用状若しくは旅行小切手に関する業務又は輸出入その他の対外取引のため直接必要な資金に関する貸付け、手形の割引、債務の保証若しくは手形の引受けに関し必要となる事務を行う業務」には、「通訳」、「翻訳」が含まれる。 上記「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第2条第3号に規定する労働者派遣事業又は職業安定法第30条第1項の規定に基づき許可を得て行う職業紹介業」には、「求人情報の提供」が含まれる。 上記「他の事業者のために電子計算機に関する事務を行う業務(電子計算機を使用することにより機能するシステムの設計若しくは保守又はプログラムの設計、作成、販売若しくは保守を行う業務を含む。)」には、「電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明」、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」、「電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む)の貸与」、「電子計算機へのデータ入力」、「電子計算機等を用いて行う情報処理」、「電子計算機システムに関する助言」、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守の助言」が含まれる。 また、銀行法第52条の7第1項に基づき、銀行持株会社は同号第7号ロに規定する金融関連業務を専ら営む会社を子会社とすることができる。金融関連業務とは、「銀行業、証券業又は保険業に付随し、又は関連する業務として内閣府令で定めるもの」であるところ(銀行法第16条の2第2項第2号)、当該金融関連業務には、いわゆる「リース業」が含まれるから(銀行法施行規則第17条の3第2項第11号)、銀行持株会社の子会社は、「編み機の貸与」、「ミシンの貸与」、「衣服の貸与」、「植木の貸与」、「カーテンの貸与」、「家具の貸与」、「壁掛けの貸与」、「敷物の貸与」、「カメラの貸与」、「光学機械器具の貸与」、「漁業用機械器具の貸与」、「鉱山機械器具の貸与」、「計測器の貸与」、「コンバインの貸与」、「祭壇の貸与」、「自動販売機の貸与」、「芝刈機の貸与」「火災報知機の貸与」、「消火器の貸与」、「タオルの貸与」、「暖冷房装置の貸与」、「超音波診断装置の貸与」、「加熱器の貸与」、「調理台の貸与」、「流し台の貸与」、「凸版印刷機の貸与」、「電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む)の貸与」、「美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与」、「布団の貸与」、「理化学機械器具の貸与」、「ルームクーラーの貸与」、「動力機械器具の貸与」、「風水力機械器具の貸与」、「搾乳機の貸与」、「鱈卵器の貸与」、「電気磁気測定器の貸与」、「ガソンリンステーション用装置の貸与(自動車の修理又は整備業のものは除く)」、「冷凍機械器具の貸与」、「印刷用機械器具の貸与」、「ボイラーの貸与」、「医療用機械器具の貸与」を行うことができる。 さらに、登録査定時において銀行法上の従属業務や金融関連業務として掲げられていない役務についても、これらの従属業務及び金融関連業務には、昨今における情報通信技術や金融技術の急速かつ不断の革新あるいは金融自由化措置の進展に機動的に対応することを可能とするべく、金融庁長官・大蔵大臣が定める業務が追加されることが予定されていたのであって(銀行法施行規則第34条の8第1項第25号及び同第17条の3第2項第35号)、例えば金融情報や経済・産業分析に関する情報等を中心とする「雑誌の編集」等の役務が、将来において銀行法上の従属業務や金融関連業務として追加される可能性はあった。また、銀行法第52条の7第1項に基づき、銀行持株会社は、同号第8号に規定する「新たな事業分野を開拓する会社として内閣府令で定める会社」(いわゆる「ベンチャー企業」)を子会社とすることができるから、「一般廃棄物の収集及び分別」、「産業廃棄物の収集及び分別」、「機械・装置若しくは器具にれらの部品を含む)又はこれらにより構成される設備の設計」あるいは「デザインの考案」等の役務を提供する会社が、新たな事業分野を開拓する会社として、銀行持株会社の子会社となる可能性があった。 したがって、みずほホールディングスは、銀行法上の従属業務及び金融関連業務を専ら営む子会社を通じて、グループ全体として、本件商標をその指定役務について使用することができたのである。 (エ)特許庁における審決例 不服2002-222(乙第24号証)は、銀行である株式会社広島総合銀行及び株式会社せとうち銀行が、「もみじ」および「MOMIJI」の文字を上下二段に書した商標について、第16類に属する「紙製包装容器」その他の商品を指定して行った商標登録出願に対して「商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない」としてなされた拒絶査定に対する拒絶査定不服審判において、出願人の名義変更届により、出願人が株式会社広島総合銀行及び株式会社せとうち銀行から株式会社もみじホールディングスに変更された結果、「銀行以外の者が出願人になったものである」から、「名義変更後の出願人は、本願の指定商品にかかる業務を行うことにつき法令上制限されているものとは認められない」と認定し、原査定を取り消した上、上記商標を登録すべきものとする旨の審決を下している。 (オ)特許庁における登録実務 出願人が銀行である場合においても、第42類に属する本件商標の指定役務の一部を含む役務については、商標法第3条第1項柱書の要件を満たすものとして商標登録が認められている(乙第25号証の1ないし43)。 上記商標登録は、いずれも銀行が出願人となり、第42類の本件商標の指定役務の一部を含む役務を指定役務として出願されたものであるが、すべて商標法第3条第1項柱書の登録要件を満たすものとして登録が認められている。 そうすると、登録査定時における出願人が銀行以外の者である本件商標が、商標法第3条第1項柱書の要件を満たすものであることは明らかである。 (カ)まとめ 以上のとおり、本件商標の登録査定時において、みずほホールディングスは、銀行法上の従属業務及び金融関連業務を専ら営む子会社を通じて、グループ全体として、本件商標をその指定役務について使用することができた。実際に特許庁における審決でなされた判断においても、出願人が銀行以外のものである場合には、その業務が法令上制限されているものではないと認定されている。 さらに、仮に出願人が銀行であったとしても、第42類の役務を指定役務とするものについては、第3条第1項柱書の要件を満たすものとして商標登録が認められるのであるから、登録査定時において銀行以外の者が出願人であった本件商標が当該登録要件を満たすものであることは、明らかである。 したがって、本件商標が、その登録査定時において、出願人の業務の範囲が法令上制限されているために、出願人がこれらの役務に係る業務を行わないことが明らかな場合に該当するものであったということはいえず、本件商標が、商標法第3条第1項の規定に違反して登録されたものということはできない。 (5)むすび よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号、同法第8条第1項及び同法第3条第1項のいずれにも違反して登録されたものではない。 5 当審の判断 (1)請求人は、本件商標の登録についての一部又は全部を無効にする審決を求める、と申し立てているが、請求人が述べている全趣旨から判断して、本件商標の登録を無効にする、との審決を求めているものとして、以下審理することとする。 (2)本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について (ア)指定役務の類否 本件商標は、上記1に記載したとおり、第42類に属する役務を指定役務とするものであり、引用商標は、上記2に記載したとおり、第35類及び第38類に属する役務を指定役務とするものである。 もとより、商品及び役務の区分(ここでいう「類」)は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではなく、当然のことながら、異なる類に属する役務であっても互いに類似する役務も存在するし、同一の類に属する役務であっても非類似とされる役務も存在する。 ところで、請求人は、引用商標の指定役務である「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」は、「プロバイダによるインターネットへの接続サービス」を意味し、プロバイダが提供する役務には、この他にも「電子メール」、「ホームページ開設場所の提供」があり、そして「電子メール」は「電子メールのサーバエリアの貸与」に、「ホームページ開設場所の提供」は「インターネットホームページのサーバエリアの貸与」にそれぞれ該当するものであって、第42類の役務になるから、本件商標の指定役務と同一又は類似である旨主張している。 しかしながら、仮に、「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」が「プロバイダによるインターネットへの接続サービス」を意味し、プロバイダが「電子メール」や「ホームページ開設場所の提供」の役務も行っているとしても、そのことから直ちに「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」の役務と「電子メール」や「ホームページ開設場所の提供」の役務とが類似するものとはいえない。 そうすると、「電子メールのサーバエリアの貸与」及び「インターネットホームページのサーバエリアの貸与」が第42類に属すべき役務であるか否かはさておき、本件商標の指定役務には、引用商標の指定役務中の「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」と類似する役務が含まれているということはできない。 (イ)商標の類否 本件商標と引用商標との類否について検討するに、それぞれの構成文字に相応して、本件商標は「ミズホ」の称呼を生じ、引用商標は「ミズホネット」の称呼を生ずること明らかである。 請求人は、引用商標から単に「ミズホ」の称呼が生ずる旨主張し、その理由として、インターネットは「ネット」とも称されること、引用商標はインターネットのドメイン名で表せば「MIZUHO.NET」になり、「NET」は「INTERNET」の略語であって平仮名では「ねっと」になること、引用商標は「みずほ」と「ねっと」の2語の結合商標であり、「ねっと」の文字は形容詞的文字であること、などから引用商標は「ねっと」の部分が自他役務の識別標識としての機能がないか薄いものであり、「みずほ」の部分が識別標識として強く認識される旨述べている。 しかしながら、引用商標は、ドメイン名を表したものとはいえないし(請求人も認めている。)、同書同大の平仮名を等間隔でまとまりよく一体に表してなるものであり、たとえ、インターネットが「ネット」とも称されるとしても、かかる構成においては、「ねっと」の文字がインターネットの略語として直ちに認識し、理解されるようなことはなく、また、「ねっと」の文字が他の語を修飾する形容詞として認識し、理解されることもないというべきであって、殊更、「みずほ」の文字部分と「ねっと」の文字部分とに分離して観察すべき理由はない。 そうすると、引用商標は、特定の親しまれた既成の観念を想起させるものではなく、むしろ全体として一種の造語を表したものとして認識し、把握されるというべきであり、かつ、「ミズホネット」の一連の称呼のみを生ずるものというべきである。 しかして、本件商標から生ずる「ミズホ」の称呼と引用商標から生ずる「ミズホネット」の称呼とは、構成音数が異なるばかりでなく、「ネット」の音の有無という顕著な差異により、それぞれを一連に称呼するときは、全体の音感・音調が明らかに異なり明瞭に区別することができるものである。 そして、本件商標と引用商標とは、それぞれの構成に照らし、外観上判然と区別し得る差異を有するものであり、また、引用商標が特定の既成観念を有するものでない以上、両商標を観念上比較することもできない。 してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。 (ウ)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。 (3)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について 請求人は、本件商標と引用商標とが類似するものであるから、混同を生ずるおそれがあるとして、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する旨主張するが、本件商標と引用商標とが類似するものでないことは上記(2)のとおりである。 そもそも、商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)」であるか否かの判断に当たっては、1)その他人の商標の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)、2)その他人の商標が創造商標であるかどうか、3)その他人の商標がハウスマークであるかどうか、4)企業における多角経営の可能性、5)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性等、を総合的に考慮すべきところ、請求人は自己の業務に係る商品又は役務をはじめ、引用商標がいかなる商品又は役務についてどのように使用されているのか具体的に主張立証するところがなく、これらが一切明らかでないから、判断材料が乏しいものである。まして、引用商標が需要者間に周知になっているなどとは、到底いえない。 そうすると、被請求人が、本件商標をその指定役務について使用しても、これに接する取引者、需要者が引用商標ないしは請求人を連想、想起するようなことはなく、該役務が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。 (4)本件商標の商標法第8条第1項該当性について 請求人は、本件商標と引用商標とが類似するものであるから、混同を生ずるおそれがあるとして、本件商標が商標法第8条第1項に該当する旨主張するが、上記(2)のとおり、本件商標と引用商標とが類似するものではなく、両者の指定役務も同一又は類似のものではないから、引用商標が本件商標よりも先願のものであったとしても、本件商標が同条項に該当するものとはいえない。 (5)本件商標が商標法第3条第1項柱書に反するものであるか否かについて 請求人は、銀行法の規定に言及し、本件商標の出願人の業務の範囲が法令上制限されているために出願人が指定商品又は指定役務に係る業務を行わないことが明らかな場合に該当し、本件商標は3条第1項柱書により登録を受けることができない旨主張するが、本件商標の出願人は、当初「株式会社第一勧業銀行」であったものの、平成12年10月23日提出の出願人名義変更届により「株式会社みずほホールディングス」に変更されているものであり、株式会社みずほホールディングスは、銀行法にいう「銀行」ではないから、その業務範囲が銀行として銀行法上制限されるものではなく、本件商標の指定役務に係る業務を行わないことが明らかということはできない。 したがって、本件商標は、商標法3条第1項柱書に反するものではない。 (6)まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号、同法第8条第1項並びに同法第3条第1項柱書のいずれにも違反して登録されたものではないから、その登録を無効にすべき限りでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-12-07 |
結審通知日 | 2006-12-13 |
審決日 | 2007-01-09 |
出願番号 | 商願平11-114788 |
審決分類 |
T
1
11・
4-
Y
(Z42)
T 1 11・ 18- Y (Z42) T 1 11・ 262- Y (Z42) T 1 11・ 271- Y (Z42) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大森 友子 |
特許庁審判長 |
田代 茂夫 |
特許庁審判官 |
小林 由美子 柳原 雪身 |
登録日 | 2001-05-18 |
登録番号 | 商標登録第4474912号(T4474912) |
商標の称呼 | ミズホ |
代理人 | 廣中 健 |
代理人 | 阪田 至彦 |
代理人 | 鳥海 哲郎 |
代理人 | 永田 早苗 |