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審決分類 審判 一部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z19
管理番号 1160594 
審判番号 無効2006-89104 
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-07-27 
確定日 2007-06-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第4561036号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4561036号の指定商品中第19類「陶磁器を骨材として合成樹脂エマルションを主材とする建築物等の壁・床用仕上塗材,屋上・バルコニー・ベランダ・厨房・浴室・廊下・サッシ廻り・庇・外壁用水性合成ゴム系樹脂製防水材,その他の建築・構築用水性合成ゴム系樹脂製防水材,リノリューム製建築専用材料,プラスチック製建築専用材料,合成建築専用材料,アスファルト及びアスファルト製の建築用又は構築用の専用材料,ゴム製の建築用又は構築用の専用材料,しっくい,石灰製の建築用又は構築用の専用材料,石こう製の建築用又は構築用の専用材料,繊維製の落石防止網」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4561036号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成12年6月8日に登録出願され、第1類、第5類、第6類、第19類及び第37類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成14年4月19日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録第4445351号商標(以下「引用商標」という。)は、「ONDEX」の文字を標準文字により表してなり、平成11年9月29日に登録出願され、第19類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、平成13年1月12日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証を提出している。
1 請求の理由
本件商標は、以下のとおり、その指定商品中、第19類「陶磁器を骨材として合成樹脂エマルションを主材とする建築物等の壁・床用仕上塗材,屋上・バルコニー・ベランダ・厨房・浴室・廊下・サッシ廻り・庇・外壁用水性合成ゴム系樹脂製防水材,その他の建築・構築用水性合成ゴム系樹脂製防水材,リノリューム製建築専用材料,プラスチック製建築専用材料,合成建築専用材料,アスファルト及びアスファルト製の建築用又は構築用の専用材料,ゴム製の建築用又は構築用の専用材料,しっくい,石灰製の建築用又は構築用の専用材料,石こう製の建築用又は構築用の専用材料,繊維製の落石防止網」(以下「本件商品」という。)については、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきものである。
(1)指定商品の同一・類似性
引用商標の指定商品は、第19類「建築用又は装飾用のプラスチックシート材料,その他のプラスチック製建築専用材料」であるところ、本件商品には、これと同一の商品「プラスチック製建築専用材料」及び類似する商品「陶磁器を骨材として合成樹脂エマルションを主材とする建築物等の壁・床用仕上塗材,屋上・バルコニー・ベランダ・厨房・浴室・廊下・サッシ廻り・庇・外壁用水性合成ゴム系樹脂製防水材,その他の建築・構築用水性合成ゴム系樹脂製防水材,リノリューム製建築専用材料,プラスチック製建築専用材料,合成建築専用材料,アスファルト及びアスファルト製の建築用又は構築用の専用材料,ゴム製の建築用又は構築用の専用材料,しっくい,石灰製の建築用又は構築用の専用材料,石こう製の建築用又は構築用の専用材料,繊維製の落石防止網」が包含されている。したがって、本件商品と引用商標の指定商品は、同一又は類似する関係にあることは明白である。
(2)商標の類似性
(ア)称呼上の類似性
本件商標は、一部図案化された「ONTEX」の欧文字と「オンテックス」の仮名文字とを上下二段に書してなるものであり、仮名文字部分は欧文字部分の読みに相当するものであるから、その構成文字に相応して「オンテックス」の称呼のみが生ずる。
他方、引用商標は、「ONDEX」の欧文字を標準文字により書してなるものであるから、その構成文字に応じて「オンデックス」の称呼を生ずるとみるのが自然である。
そこで、両商標から生ずる称呼を対比するに、両者とも促音を含めて6音という同一の称呼長からなり、かつ前半の「オン」と後半の「テックス」又は「デックス」の2音節という同数音節を有する点において共通する。
さらに、称呼上最も重要な語頭音を共通音とするほか、明瞭には聴別し難い中間に位置する第3音に「テ」と「デ」の差異を有する以外、すべての音構成において共通する。
そこで、唯一の差異音である「テ」音と「デ」音につき検討するに、両音はいずれも歯茎と前舌を調音位置とする破裂音であって、調音・調音方法とも一致するばかりでなく、母音(e)を共通にする、発音上近似した音である。そして、「テ」音、「デ」音の差異は、わずかに無声子音「t」と有声子音「d」の音質上の差異にすぎない。したがって、「テ」音、「デ」音は、もともと音質上、近似する音であることは明白である。
本件商標及び引用商標を一連に称呼した場合、第4音にそれぞれが促音「ッ」を伴う関係上、母音(e)がそれぞれの子音に比べて殊のほか明瞭に聴取され得る。その結果、唯一の違いである無声子音「t」と有声子音「d」の音質上の差異が、続く母音(e)によってかき消されるため、清音「テ」、濁音「デ」の差異は彼此不明瞭なものとなる。
即ち、本件商標の称呼と引用商標の称呼とを比較した場合、それぞれ聴取される音は、本件商標が「オンテエックス」(on te kkusu)、引用商標が「オンデエックス」(on de kkusu)となる。
なお、被請求人は、本件商標を付した商品に関するテレビコマーシャル、ラジオコマーシャルを制作し、自身のホームページ(http://www.ontex.co.jp/cm/index.htm1)においても公開しているが、これを視聴すると、第三音を構成する無声子音「t」はほとんど聴取することができない。結果として、「オンデックス」に酷似した称呼のように聴取できる。これは、現実の使用状況においても称呼上、相紛らわしく、出所混同を生ずるおそれがあることを示す。
かかる請求人の主張が正当なものであることを裏付ける資料として、以下の審決例及び判決例を挙げることができる。
・「ナルテック」と「NALDEC」(審判第2001-60320号)-甲第3号証
・「VERTEX」と「バーデックス」(昭和63年審判第14951号)-甲第4号証
これらの審決は、清音「テ」、濁音「デ」の両音は、きわめて近似した音であって、中間位置にかかる差異音を有するのみの場合、語調、語感が近似し、互いに紛れるものであることを示すものであるから、本件商標より生ずる「オンテックス」と引用商標「オンデックス」の差異音が中間に位置する濁音・清音のみであって、語調、語感が近似し、互いに紛れるものであるとの請求人の主張を裏付けるものである。
・「VERTEX」と「バーデックス」(東京高裁平成5年(行ケ)26号)-甲第5号証
この判決では、「出願商標の称呼『バーテックス』と引用商標の称呼『バーデックス』を対比するとき、一般に称呼の類否を判断するには語頭音の類否が極めて重要な役割を果たすことは経験則の教えるところであり、語頭音が共通する。さらに唯一の相違である『テ』と『デ』の差であるが、いずれも母音の『e』を共通にし、両商標を一連に称呼した場合、第三音の相違はさほど大きな識別力を有するものということはできない。」としている。
上記判決にて類否判断の対象となった称呼「バーテックス」と「バーデックス」は、6音構成中の中間音である第3音に清音「テ」、濁音「デ」の差異を有するのみという点において、本件商標と引用商標の称呼の対比関係と同一であり、類似とする判決理由は、語頭音が共通するうえ、第三音の相違がさほど大きなものではないとする請求人の主張を裏付けるものである。
・「MTEX」と「MDEX」(平成4年審判第12517号)-甲第6号証
・「Intex」と「Index」(平成2年審判第19303号)-甲第7号証
これらの審決例の対象となった称呼「エムテックス」と「エムデックス」、「インテックス」と「インデックス」の対比関係は、称呼全体の構成が6音、2音節からなる点、差異音の前に鼻音「ン」あるいは「ム」を共通にしている点、差異音の後に促音「ッ」を伴っている点で、差異音が「テ」「デ」である点において、本件商標と引用商標から生ずる称呼の対比関係と酷似するものである。いずれの審決においても、差異音が近似しており、かかる差異が称呼全体に及ぼす影響が小さいと判断されている。これらの審決は、本件商標及び引用商標のそれぞれを一連に称呼した場合、全体として語調、語感が近似するとの請求人の主張を支持するものである。
さらに、本件商標と引用商標が称呼上類似であることは、商標審査基準の類似基準である第4条第1項第11号6・(II)(1)「ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が母音を共通にするとき」、同(3)「ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が清音、濁音、半濁音の差にすぎないとき」に該当することからも明らかである。
上記より、両者が、ともに特別な観念を有しない造語であることも相侯って、これらをそれぞれ一連に称呼するときは、その語調、語感が近似し、彼此聞き誤られるおそれがあるものというべきである。
(イ)接尾語としての「TEX」(テックス)及び「DEX」(デックス)の汎用性
本件商標は、「TEX/テックス」の接尾語を伴う一方、引用商標は、「DEX」の接尾語を伴い、接頭語の「ON/オン」においては、共通するものである。
本件商標における、「TEX/テックス」の接尾語は、元々は「組織、構造」等を意味する英語の「texture」に由来するものと推測されるが、この接尾語は、促音を包含するメリハリのある語であることから、しばしば造語としての商標中に採択されている。
例えば、本件指定商品が属する国際分類第19類又は日本分類第7類においても、「テンテックス」、「コルテックス/CORTEX」、「モルテックス」、「GORE-TEX/ゴアテックス」、「SEMTEX」、「ポリテックス」、「インテックス/INTEX」(甲第8号証)等、数多くの「TEX/テックス」を接尾語とする商標が存在した。
そして、「DEX」もまた、「TEX/テックス」と同様に促音を包含するメリハリのある語であるから、しばしば造語としての商標中に採択されている。
例えば、本件指定商品が属する国際分類第19類又は日本分類第7類においても、「Vandex」、「ミルデックス/MILDEX」、「グランデックス/GRANDEX」、 「STRANDEX/ストランデックス」、「TAFDEX」(甲第9号証)等、数多くの「DEX/デックス」を接尾語とする商標が存在する。
このように、接尾語としての「TEX」(テックス)及び「DEX」(デックス)は、共に数多くの商標中に採用されているところ、上記のとおり、「テ」音と「デ」音は互いに相紛らわしい近似音である。
したがって、汎用されている接尾語である「TEX/テックス」を伴う本件商標に接した需要者が、時と場所を変えて、同様に汎用されている接尾語である「DEX」(デックス)を伴う引用商標に接した場合、「TEX」(テックス)及び「DEX」(デックス)が音質上極めて近似する語であるという事実とも相侯って、両商標を彼此明瞭に記憶し区別するのは極めて困難なこととなる。
(ウ)取引の実情における類似性
一般に、商標の類似は、対比される両商標が同ー又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるのか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
そこで、両商標の使用状況について検討する。請求人は、引用商標「ONDEX」及びその社会通念上同一商標である仮名文字「オンデックス」を使用している(甲第10号証ないし甲第13号証)。他方、被請求人は、本件商標の欧文字部分と仮名文字部分を分離させた態様で、それぞれを使用している(甲第14号証ないし甲第16号証)。
本件商標の欧文字部分は、一部図案化されているとはいえ、全体に容易に「ONTEX」の文字が認識される。この被請求人の使用態様「ONTEX」と請求人の商標「ONDEX」を対比すると、両者には、「T」と「D」の文字の差異があるのみである。このため被請求人による欧文字部分の使用は、請求人の「ONDEX」と外観上相紛らわしく、取引の場における引用商標との識別は容易ではない。
さらに、被請求人は、自社のホームページ等において「オンテックス」のカタカナ文字部分を使用し、自社商品の紹介を行っているが、かかる「オンテックス」文字は、引用商標と社会通念上同一の商標であって、実際に請求人によって使用されている「オンデックス」と中間の文字に濁点を有するという差異を結有するにすぎない。このため、取引者が両商標に接した場合、一瞥では両商標を識別できないほど外観上酷似しているといわざるを得ない。
上述より、取引の状況においても本件商標は、引用商標との識別が困難なほど類似しており、被請求人による本件商標の使用は、請求人の引用商標との使用との関係において、出所混同を生ずる蓋然性が極めて高い。
2 弁駁の要点
(1)被請求人の称呼上非類似であるという主張に対する反論
(ア)本件商標と引用商標とは語調、語感が共通し、差異が不明瞭で、称呼上極めて近似する。被請求人自身が答弁書において認めるとおり、本件商標は、その構成より「オンテックス」の称呼が生ずるのに対して、引用商標は、「オンデックス」の称呼が生ずるものであって、促音を含めて6音という同一の音数からなり、6音の中間部における「テ」と「デ」との差異音を除いては、「オ」「ン」「ッ」「ク」「ス」という全ての音において共通する。
また、両商標の称呼は、前半の「オン」と後半の「テックス」又は「デックス」の2音節という同数音節を有する点においても共通する。
すなわち、本件商標と引用商標とは、同音数かつ同音節数であり、差異音の「テ」と「デ」は共に第3音目に位置するという共通点があるのみならず、この差異音は50音表の同行に属する上に、母音と子音をも共通しているものである。
したがって、商標審査基準第4条第1項第11号6・(I)の記載に照らしても、本件商標と引用商標は、音質・音調が共通し、称呼上極めて近似するものであることは明らかである。
(イ)他方、被請求人が差異音の「テ」と「デ」につき、「鋭い音感」と「重く鈍い音感」の差異があると答弁書において主張しているのは、清音「テ」と濁音「デ」における聴取し難い差異に過ぎない。そして、両音がいずれも歯茎と前舌を調音位置とする破裂音であって、調音・調音方法とも一致するのであるから、「テ」と「デ」の音が発音上近似した音であることは、明白である。
このことは、商標審査基準第4条第1項第11号6・(II)(1)に記載の「ともに同音数の称呼からなり、相違する1音が母音を共通するとき」、同(3)「ともに同音数の称呼からなり、相違する1音が清音、濁音、半濁音の差にすぎないとき」は、称呼上類似するという基準に照らしても、本件商標と引用商標とが称呼上極めて似通ったものであることは明らかである。
したがって、「テ」音と「デ」音を単体でみた場合でも、発音上近似する音であることは明らかであるから、それが「オンテックス」「オンデックス」という一連の全体称呼となった場合には、かかる近似音における微差は一層不明瞭かつ暖味になることは、いうまでもない。
(ウ)また、被請求人は、答弁書において、アクセントの位置について縷々述べている。しかしながら、本件商標及び引用商標を一連に称呼した場合、アクセントが位置する第3音に続く第4音が促音「ッ」となっている結果、差異音における「テ」音と「デ」音の母音(e)は他の子音に比して強調して聴取される。その結果、唯一の相違である無声子音「t」と有声子音「d」の音質上の差異が、続く母音(e)によってかき消されるため、清音「テ」、濁音「デ」の差異はより一層不明瞭かつ暖昧なものとなる。
以上より明らかなとおり、本件商標と引用商標は、称呼上非類似であるという被請求人の主張に成立の余地はない。
(エ)被請求人が示した異議決定・審決例は、本件には妥当しない。
被請求人が示す異議2002-90507号における決定は、本件に妥当するという理由がない。本件商標に対して、請求人より引用商標と類似する旨等の異議申立がなされた際の決定を証拠資料として挙げているが、異議申立手続においては、理由補充期間が30日間と短い上に、異議申立人には無効審判ほどには審理手続きに関与する機会が与えられていない。また、上述の異議申立事件と本件無効審判事件とでは、提出した証拠資料も相異なるものである。更には、無効審判請求については、異議決定があったとしても一事不再理の適用もないのである。したがって、異議申立事件における判断が本件無効審判においても妥当することはあり得ない。
被請求人が示す審決例、審査例は、本件商標と引用商標とが非類似であるとする主張には妥当せず、むしろ本件商標と引用商標との類似性を裏付けている。
被請求人は、「インデックス」の称呼を生じさせる「INDEX」の文字よりなる商標が、「インテックス」の称呼を生じさせる「INTECS」の文字よりなる先行商標の存在に拘わらず登録を受けたことを示す審決例を提出しているが、本件商標と引用商標の前半部分における音節は「オン」(ON)の称呼を生じさせるものであって、「イン」(IN)ではない。
さらに、審査例として被請求人が根拠に挙げている登録併存例等は、すべて「イン」の称呼又は「IN」の文字を前半の音節部分に含むものにすぎない。
したがって、いずれの登録併存例も、前半の音節部分を「オン」の称呼及び「ON」の文字としている本件商標及び引用商標における類否判断の参考となるものではあり得ない。
上述のとおり、被請求人は、「イン」の称呼又は「IN」の文字を前半の音節部分に含むもの以外には、登録併存例を全く開示していない。
被請求人が証拠として挙げた登録例「INDEX」の文字は、乙第1号証の3に記載されているとおり、「索引、見出し」等を意味する語として広く一般に用いられている語である。そして、こうした明確な観念を有する「INDEX」に対し、特定の意味合いを有さない「INTECS」等が、観念における明確な相違などを総合的に勘案されて、中間音である「テ」と「デ」の差異音にも拘わらず、非類似と判断され登録されたという例外的な登録併存例に過ぎないことを端的に示している。
他方、本件商標と引用商標とは、「INDEX」の場合とは異なり、いずれも特定の観念を生じない造語とみるべきものであるから、上記のような登録併存例は本件審判事件に当てはまるものではない。即ち、上述のような例外的特殊事情を有する登録併存例に基づいて、本件商標と引用商標の称呼非類似を主張するのは、失当である。
過去の特許庁の審査(審理)に鑑みれば、本件商標と引用商標とは類似であるとみるのが自然である。現に、本件商標と引用商標と同様に第3音の「テ」と「デ」のみの相違である場合には、称呼類似であると判断されているものが多数存在する。
(オ)過去の審査(審理)手法に照らして、本件商標と引用商標とは称呼類似である旨の主張について
(a)「ナルテック」と「NARDEC」(甲第3号証)について
被請求人は、答弁書において、上記商標の共通する前半部分の称呼「ナル」音である関係上、本件商標と引用商標との称呼は異なると主張しているが、被請求人の主張は合理的な理由に欠ける。
そもそも、この審決は、「両商標から生ずる『ナルテック』と『ナルデック』の称呼のうち、異なるのは、清音と濁音という点だけであるから、両音は、極めて近似した音といわなければならない。さらに、この差異音が比較的明瞭に聴別しがたい中間部の第3音に位置することも相侯って、両称呼をそれぞれ一連に称呼したときには、語調、語感が近似したものになる。」という判断を示すものであって、前半の「ナル」については共通部分と認定するに止まり、特段音節などに着目することなく、類似であると判断している。
したがって、当該審決が示すのは、あくまで、本件のように清音「テ」、濁音「デ」の両音は、きわめて近似した音であって、中間位置にかかる差異音を有する場合、語調、語感が近似し、互いに相紛れるものであることを示すものであって、被請求人が述べている「中間部で段落を生ずることはなく、・・・『テ』と『デ』とにはアクセントは生じない」等の事項は、単なる憶測に過ぎないことは明らかである。
(b)「VERTEX」と「バーデックス」(甲第4号証及び甲第5号証)について
被請求人は、答弁書において、上記商標の共通する前半部分の称呼「バー」音である関係上、本件商標と引用商標との称呼は異なると主張しているが、被請求人の主張は合理的な理由に欠ける。
上記同様、審決は、「第3音において清音『テ』と濁音『デ』音の差異を有するのみであり、その差異音の清音『テ』音と濁音『デ』音にしても母音『e』を共通にする歯茎の破裂音で調音の位置が極めて近いものであることからこれを全体として一連に称呼するときには、その語音語感が近似したものとなり、互いに紛れるおそれがある。」と示しているのであって、そもそも「バー」の部分については、共通するという認定に止まり、特段着目せずに、類似であると判断している。
したがって、被請求人が本件とは事案を異にするとする理由付けは、被請求人の憶測に過ぎず、妥当しないことは明らかである。
(c)「MTEX」と「MDEX」(甲第6号証)について
被請求人は、答弁書において、上記商標の共通する前半部分の称呼「エム」音である関係上、本件商標と引用商標との称呼は異なると主張しているが、被請求人の主張は合理的な理由に欠ける。
上記同様、審決は、「異なる『テッ』と『デッ』の音は、清音か濁音かの差異にすぎず、ともに母音(e)が同じで調音方法および調音位置を同じくする近似した音といえる」と示しているのであって、そもそも「エム」の部分については、共通するという認定に止まり、特段着目せずに、類似であると判断している。
したがって、被請求人が本件とは事案を異にするとする理由付けは、被請求人の憶測に過ぎず、妥当しないことは明らかである。
(2)被請求人の観念非類似であるとする主張に対する反論
被請求人は、本件商標が造語であり、ハウスマークであるから、これに接する一般需要者、取引者は、これが被請求人の名称の略称であってハウスマークであることを強く記憶に留めることは明らかであると主張しているが、そのような主張は、客観的な根拠を欠くものである。
そもそも、ハウスマークであるか否か等は、一般の需要者等は知るよしもないのが通常であり、むしろ一般の需要者、取引者にあっては、本件のように「オンテックス」「オンデックス」という極めて似通った称呼を聴取した場合には、彼此明確に聴別することができないために、混同が生じ得るとみるのが自然である。
したがって、本件商標と引用商標は、観念上非類似であるという被請求人の主張は、客観的な理由に欠け、到底成り立ち得ないものである。
(3)本件商標と外観上非類似であるとする主張に対する反論
本件商標中、英文字の「E」の上にあるアクサン・テギュと、Xの文字に多少異なった態様で表されていることは、本件指定商品を扱っている業界では然程めずらしいものではなく、本件商標と引用商標とは外観上類似である。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観上非類似であるので商標全体としても非類似であるという主張は、到底成り立ち得ないものである。
(4)被請求人が主張する「商標の使用状況」や「請求人の引用商標の使用状況」は、本件とは無関係であり、本題から明らかに脱線したものである。
請求人は、称呼類似を裏付ける資料として、「オンテックス」「オンデックス」が実際に聴取された場合に混同が生じるおそれが多いことを示す資料を提出した。
これを、被請求人は誤解した上で、答弁書においてコマーシャルでの使用等商標の使用状況について詳述しているが、登録査定時において本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当していたか否かを争う本件無効審判事件では、本件商標の現在の使用状況は問題にならないことは明らかであり、的外れな主張である。
さらに、被請求人は、請求人の使用商標の使用状況についてまで詳述しているが、かかる主張もまた本件審判事件とは無関係であり、本題から明らかに脱線したものである。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし甲第3号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 商標の比較
次に述べるとおり、本件商標は、外観、称呼、観念のいずれの点より見ても、引用商標とは相紛れるおそれがない非類似の商標である。
(1)外観
本件商標は、欧文字の「ONTEX」と片仮名文字の「オンテックス」とを上下二段に表してなるものである。
上記「X」の文字部分の右半分の線は三重線で表され、右下へ下がる線はそのまま文字の基線を越えて右下へ伸びている。また、「E」の文字の上には、フランス語の綴り字記号「アクサン・テギュ」の如くの短い斜線が添えられている。
これに対して、引用商標は、「ONDEX」の文字を標準文字で表してなるものであるから、本件商標と引用商標とは外観上一見して相異なる非類似の商標である。
(2)観念
引用商標は、特定の観念を伝達することがない造語商標であるから、本件商標と引用商標とは観念上も相紛れるおそれがない非類似の商標である。
(3)称呼
本件商標は、その構成文字より「オンテックス」の称呼が生ずるものであるのに対して、引用商標は、「オンデックス」の称呼が生ずるものである。
この「オンテックス」の称呼と「オンデックス」の称呼とを比較すると、両称呼は、「オ・ン・テッ・ク・ス」、「オ・ン・デッ・ク・ス」の5音節の中間部において、「テ」音と「デ」音との差異を有するものである。
「テ」音は、清音であって鋭い音感を生じさせるものであるのに対して、「デ」音は、濁音であって重く鈍い音感を生じさせるものである。つまり、「テ」音と「デ」音とは、「鋭い音感」と「重く鈍い音感」とで音感を異にする異質の音同士である。
その上、次に述べるとおり、両称呼は、音配列上、これら差異音に極めて強いアクセントを有するものであるから、その音感の差異が明瞭に発音・聴取されるものである。
まず、両称呼の語頭音の「オ」音は、暗いこもったような音で、力の入り難い音である。
次に、これに後続する擬音「ン」は、気息を鼻からもらして発する音で、より一層響きの弱い音である関係上、「オン・テックス」、「オン・デックス」のように段落を以て称呼されるものとなる。
その結果、この擬音「ン」の後続音「テ」及び「デ」音には、強いアクセントが生じるのである。
そして、この第三音の差異音「テ」音、「デ」音は、これ自体、舌尖を上歯茎のもとに密着して破裂させて発する破裂音であって、明瞭に響く強音である。
その上、「テッ」音、「デッ」音が促音「ッ」を伴ってつまる音となる関係上、より一層、これら差異音は明瞭に発音され明確に聴取されるものとなるのである。
次音の「ク」音は、清音として比較的軽い音感を生じさせる弱音であり、末尾音の「ス」音はそれ自体、弱い音である上に、末尾音自体が弱く発せられるものである。
また、この「ス」音が前音に吸収されるかの如く極めて弱く発せられる結果、両称呼は、5音節よりも更に短いものであるかの如くの印象をもって聴取されるものである。
以上の音配列からすると、両称呼は、当該差異音「テ」及び「デ」に極めて強いアクセントを置いて「オン・テックス」、「オン・デックス」と明瞭に発音・聴取されるものであって、当該差異音の音質の差異が一層明確に聴取されるものとみるべきである。
したがって、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときにおいても、当該差異音が称呼全体に及ぼす影響は大きいものであって、両者全体の聴感を異にし、相紛れることはないものである。
(4)本件商標の観念と称呼
本件商標は、その構成文字自体は造語よりなるものであっても、被請求人の名称の略称を表したと容易に理解されるものであって、同時に被請求人のハウスマークである。
そうすると、本件商標に接した一般需要者、取引者は、これが被請求人の名称の略称であってハウスマークであることを強く記憶に留めて「オン・デックス」ではなく「オン・テックス」と明確に称呼するのである。
その上、乙第1号証の1に示すとおり、「TEX(テックス)」の文字部分は、現代の我が国では「組織、生地」の意味合いで生地の商標の構成文字として使用されることが多いものであり、このことは、請求人も認めているところである。
つまり、本件商標の「TEX(テックス)」の文字部分は、「組織、生地」の意味合いを有するものとして慣れ親しまれているものであるから、本件商標の称呼「オンテックス」の後半部は「組織、生地」の意味合いをもって正確に「オンテックス」と称呼されるものであって、誤って「デックス」と称呼されることはないものである。
したがって、本件商標の構成文字が有するこれらの点からしても、本件商標は、引用商標とは称呼上相紛れることはないものである。
以上のとおり、本件商標は、外観、称呼、観念のいずれの点より見ても、引用商標とは相紛れるおそれがない非類似の商標である。
2 異議決定、審決例
本件商標が引用商標とは非類似のものであることは、次の異議決定及び審決に徴して首肯し得るものである。
(1)異議2002-90507号(乙第1号証の2)
当該異議決定は、本件商標の登録に対して、請求人より引用商標と類似する旨等の理由で異議申立がなされた際の決定である。
該決定においては、差異音「テ」と「デ」は促音を伴うことから強調された発音となる上に、「オン」と「テックス」、「オン」と「デックス」との間に短い段落を生じることから、後半部の語頭音「テ」と「デ」との差異は一層明瞭なものとなる、と認定され、本件商標の登録が維持されたのである。
(2)不服2003-15458号(乙第1号証の3)
当該審決は、「インデックス」の称呼を生ずる商標と「インテックス」の称呼を生ずる商標とが非類似であるとの認定を受けた例である。
これら称呼の第二音目以降の称呼「ンテックス」は、本件商標と引用商標との第二音目以降の称呼と同一である。該審決では、差異音「デッ」音と「テッ」音とに比較的強く発音するばかりでなく明確に聴取できるものであるから、両者は、彼此聞き誤るおそれがないと認定されたのである。
なお、本件商標と引用商標との語頭音は「オ」であるのに対して、上記審決における商標の語頭音は「イ」である。
母音「オ」は、唇の左右両端を少し中央に寄せて発する「こもった響きの音」であるのに対して、母音「イ」は、唇を平たく開き発する「明瞭に響く澄んだ音」であるから、母音「オ」の方が母音「イ」よりも弱い音といえるものである。
そうすると、発音上の経験則からすれば、語頭音が相対的に強く発せられる「インテックス」及び「インデックス」の称呼中よりも、語頭音が相対的に弱く発せられる「オンテックス」及び「オンデックス」の称呼中の方が、差異音「テッ」、「デッ」はより一層強いアクセントをもって発せられるのである。
したがって、上記審決における商標同士よりも、本件商標と引用商標との方が称呼上の非類似の度合いが大きいものとみるべきである。
なお、上記審決における審判請求人の名称は「インデックス-ベルケ ゲゼルシャフト……」であって、審判請求人の出願に係る商標は「INDEX」の文字を標準文字で表したものであるから、当該商標は、審判請求人の名称の最も印象に残る語頭部を表す文字を含む商標である。
つまり、上記審判請求人の商標は、その名称の一部を表したものとの理解をもって正確に「インデックス」と称呼・聴取されるものである。
これと同様に、本件商標も、被請求人の名称の略称を表してなるものとの理解の下に正確に「オンテックス」と称呼・聴取されるものである。
以上の異議決定及び審決からしても、本件商標は引用商標とは相紛れることがない非類似のものである。
3 審査例
本件商標と引用商標とが称呼上、非類似のものであることは、特許庁の審査例からしてもいえることである。
すなわち、語頭音が弱い音よりなる称呼音であって、二音目以降の称呼が「ンテックス」又は「ンデックス」である次の商標同士が指定商品が抵触するにもかかわらず、非類似の認定を受けて登録されているのである。
・「INTEX」と「Index」、「INDEX」等(乙第2号証の1ないし14及び乙第2号証の18ないし21)
・「intecs」と「INDEX」(乙第2号証の15ないし17)
・「WINTEX」と「ウインデックス/WINDEX」等(乙第2号証の25ないし27)
・「LINTEX/リンテックス」と「リンデックス/LINDEX」(乙第2号証の28及び29)
・「KINNTEX」と「Kindex」(乙第2号証の30及び31)等
なお、上記登録例のうち、乙第2号証の2ないし4、16ないし19、22、26及び27に示した商標は商標権者の名称の略称を表す文字を含むもの、あるいは、名称の一部又は略称を表す文字よりなるものである。
これら登録商標同士は、いずれも「テ」及び「デ」音に強いアクセントをもって二段の抑揚をもって称呼されるものばかりで、その称呼音数も本件商標及び引用商標の称呼数と同一である。
上記審査例における商標同士の称呼は、本件商標と引用商標との称呼とその音配列が近いものであるから、これら審査例に徴して、本件商標と引用商標とは称呼上相紛れるおそれはないとみるべきである。
4 被請求人の主張
ここで、請求人が提出した各証拠に基づく主張について反論、批判する。
(1)甲第3号証における審決
上記審決は「ナルテック」の称呼と「ナルデック」の称呼について類似する旨の認定事例である。
ところが、これら称呼は、共通する前半部称呼が「ナル」音である関係上、本件商標と引用商標との称呼とは異なって、中間部で段落を生ずることはなく、単に前高型又は平板型の抑揚をもって発せられる結果、その差異音「テ」と「デ」とにはアクセントを生じないものである。
したがって、上記事例は、本件商標と引用商標との場合とは事情を全く異にするものであって、請求人の主張の根拠とはなり得ないものである。
(2)甲第4号証及び甲第5号証における審決又は判決
上記審決又は判決は「バーテック」の称呼と「バーデック」の称呼について類似する旨の認定事例である。
ところが、これら称呼に共通する前半部称呼「バー(baa)」が帯有する長音「一」は母音〔a〕を余韻をもって後続音「テ」又は「デ」につなぐまで強く発音されるものである。
そうすると、この「バー(baa)」の音は強音となり、その直後の差異音「テ」及び「デ」音との間で段落を生ずることもない。
結局、「バーテック」及び「バーデック」の称呼は「前高型」又は「平板型」に発せられ、差異音「テ」と「デ」には全くアクセントが置かれることはないものである。
したがって、上記事例も、本件商標と引用商標との場合とは事情を全く異にするものであって、請求人の主張の根拠とはなり得ないものである。
(3)甲第6号証における審決
上記審決は「エムテック」の称呼と「エムデック」の称呼について類似する旨の認定事例である。
ところが、これら称呼に共通する前半部称呼が「エム」音である関係上、本件商標と引用商標との称呼とは異なって、中間部で段落を生ずることはなく、この「エム」音自体も弱音という程のものではないので、その差異音「テ」と「デ」とはあまり強く発声されないものである。
よって、上記事例も本件商標と引用商標との場合とは事情を全く異にするものであって、請求人の主張の根拠とはなり得ないものである。
(4)甲第7号証における審決
上記審決は、「インテックス」の称呼と「インデックス」の称呼について類似するものとの認定事例である。
これに対して、前記乙第1号証の3に示す審決(不服2003-15458号)も同一の「インテックス」の称呼と「インデックス」の称呼について非類似のものとの認定事例を含むものである。
このように、同一称呼同士に関する二件の審決において異なる判断がなされているところ、商標の類似範囲は時代とともに移り変わることがあるという経験則からすると、古い認定例よりも近時の認定例を尊重すべきである。
甲第7号証における審決の審決日は平成6年(1994年)のものであるのに対して、乙第1号証の3に示す審決の審決日は2005年であって近時のものである。
したがって、本件商標と引用商標との類否に関しては、甲第7号証における審決よりも、被請求人が提出した前記乙第1号証の3に示す審決を重視すべきである。
(5)甲第8号証及び甲第9号証における登録商標例
請求人は、接尾語「TEX」及び「DEX」が商標構成文字の後半部に採択された登録商標が数多く存在する事実をもって、本件商標と引用商標とを明瞭に区別するのは極めて困難であるとの結論を導いている。
請求人は、ある一定の文字を含む商標が数多くあれば、その中の特定の商標同士は識別し難くなる、と主張しているのである。
しかしながら、この主張には論理に大きな飛躍があり、到底、認めることはできないものである。
すなわち、語尾が「TEX」及び「DEX」の文字で構成された商標が数多く採択されているという実情と、その中の個別の商標同士が紛らわしいか否かということとは全く無関係な事柄である。
上記実情があったとして、このような商標同士に数多く接する看者は、「ONTEX」の文字からなる商標と「ONDEX」の文字からなる商標の差異に注意力が喚起される機会が増えてこれら商標を混同しないように注意深くなるということは有り得ても、両商標を混同し易くなるということは到底有り得ないものである。
また、そもそも、甲第8号証及び甲第9号証における登録商標自体は互いに識別可能なものであるから登録されているのであって、識別可能な商標が数多く登録されているという事実が本件商標と引用商標との類否に如何なる関係を有しているのか理解し難いものである。
世に使用される商標が多くなれば、それらの中から混同される商標も多く出てくるであろう、という確率論的な一般論はあり得ても、接尾語「TEX」及び「DEX」が数多く商標中に採用されている事実から、その中の個別の商標同士が混同し易くなるということは有り得ないものである。
したがって、請求人が示す登録商標例も本件商標と引用商標との場合とは事情を全く異にするものであって、請求人の主張の根拠とはなり得ないものである。
以上のとおり、結局、請求人が引用した甲第3号証ないし甲第9号証に基づく請求人の主張は失当であり、到底是認されるべきものではない。
5 商標の使用状況について
請求人は、請求人及び被請求人の商標の使用状況を示す甲第10号証ないし甲第16号証を提出して、その使用状況(取引の実情)からして、本件商標と引用商標とは類似するものと断定している。
しかしながら、以下に述べるとおり、商標の使用状況を考慮するならば、より一層、本件商標と引用商標とは非類似であるとみられるものであり、到底、相紛れることはないものである。
(1)本件商標の使用態様
被請求人の事業内容としては、塗装工事、リフォーム工事をはじめ、建築材料も扱い、更に多角化も積極的に推進中であり、数々の業界紙等にしばしば取り上げられるほどである(乙第3号証の1及び2)。
このような被請求人の極めて活発な事業活動は、ビジネス雑誌「週刊ダイヤモンド」の統計において、日本の会社6万8824社の中、塗装工事業の申告所得において、被請求人が他社を圧倒してトップであることからも窺い知れるものである(乙第3号証の3)。
そして、被請求人の会社案内(乙第3号証の1)、後述するテレビ・ラジオCM放送、被請求人のホームページ(甲第14号証)等に示すとおり、部分的に赤又は青色で線を着色してはあっても、被請求人は本件商標の構成文字の書体をそのまま使用してなるものである。
(2)被請求人のテレビ・ラジオCM放送
被請求人は、テレビやラジオの放送媒体でも積極的に宣伝を展開しているものである。
すなわち、被請求人は2000年に現社名に改称し、その直後から近時に至るまで継続してテレビ、ラジオでCMを放送しているのである。
その放送キーステーションは、関西、九州、中国、東海、四国、関東に渡り、朝日放送、読売テレビ放送、ニッポン放送、FM東京、他の有名放送局が含まれている(乙第3号証の4ないし17)。
これらテレビ、ラジオでのCM放送の具体的内容は、被請求人のホームページ(http://www.ONTEX.co.jp/profile-j/cm.html)「CMのご案内」(甲第15号証)で確認することができるものである。
これらCMの中では、「テ」の音の部分に強いアクセントを置きながら必ず「テックス、テックス、オンテックス!」とリズミカルに叫ばれる箇所があり、この「テックス、テックス、オンテックス!」のセリフは視聴者に極めて強い印象を与え深く記憶に残るものである。
また、テレビCMにおいては、家を擬人化した「オンテくん」と命名されたキャラクターが登場し、このキャラクターが、テレビアニメの正義の主人公であるかの如くの「オンテくん」の主題歌と共にテレビ画面内で所狭しと動き回る姿が非常に印象的である。
この「オンテくん」のキャラクターは、テレビCMばかりでなく、会社案内、ホームページ等、被請求人に関するほとんどの宣伝広告媒体に表示されているものである。
なお、「オンテくん」のキャラクターが手に持っている塗料缶にも本件商標の欧文字部分と同書体の「ONTEX」の文字が表示されており、更に、被請求人はこのキャラクター図形についても商標登録をしている(乙第3号証の18及び19)。
(3)請求人の引用商標の使用状況
引用商標の欧文字「ONDEX」からなる文字の使用状況は、甲第10号証及び甲第11号証に示されるカタログ及び請求人のホームページ(乙第3号証の20)の表示のとおり、通常の活字体で表示した部分も見受けられるものの、最も特徴的で顕著に表された商標は、欧文字「ONDEX」中の「X」の部分が二本の水平線によって分断された態様の文字からなるものである(以下「引用使用商標」という。)。
上記引用使用商標は、極太の線で描かれてなるところ、二本の線が欧文字「X」を水平に分断している点が特徴的であり、更に、この二本の水平線がその左隣の欧文字「E」の三本の水平線の間の部分にぴたりと繋がるかのごとくに配置されてなる点も特徴的である。
この引用使用商標は、上記特徴が極めて印象的であり、看者の脳裡に強く記憶されるものである。
その上、この引用使用商標は、上記カタログ又はホームページの左上冒頭部分又は最終部分(右下)に表示されており、上記カタログ及びホームページ上の表示としては最も重要な部分に表示されているのである。また、引用使用商標の右上には、商標登録されていることを示すいわゆる「丸アール」と呼ばれる記号が必ず付されていることからも、請求人自身がこの書体の文字を非常に重要視していることが容易に理解されるものである。
さらに、引用使用商標の直ぐ上側、下側又は隣には、請求人のグループ名を表す「SOLVAYグループ」の文字、「WWW.ONDEX.COM」(請求人のホームページのURL)の文字、「日本ソルベイ株式会社」の文字又はその居所を表す文字の何れかが必ず併記されているのである。
(4)使用状況の検討
請求人は、審判請求書において、最高裁判決の主旨を次のように引用しているところ、被請求人もこの主旨は認めるものである。
「一般に、商標の類否は、対比される両商標が同ー又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるのか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的取引状況に基づいて判断すべきものである」
請求人は、上記判決の判示に基づいて、両商標の使用状況について検討するとは述べている。
ところが、請求人は、その検討の中で、本件商標及び引用使用商標の顕著な表示が互いに特徴的な文字態様であることを看過し、両商標の使用態様が単なる活字体の欧文字「ONTEX」及び「ONDEX」のみであるかの如くに簡略化して論を進めているものであり、「取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察」をしていないものであるから、この点は上記判決の判示とは大きく矛盾するものである。
請求人及び被請求人の商標は、取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察するならば、次のことがいえるものである。
(ア)引用使用商標のように、営業主体の連絡先、所属グループ又はホームページを表示する文字とともに併記される商標は、社名の略称を表す商標、ハウスマーク又は社章等の非常に重要な商標であることが一般的である。
そして、前記の使用状況からすれば、具体的な法人グル一プ名・営業主体等を表示した部分と共に表示するという方法を採用した引用使用商標が主たる使用にかかる商標というべきである。
つまり、請求人が使用する商標としては、単なる「ONDEX」の欧文字からなる商標よりも引用使用商標の方が主たる商標であって「オンデックス」の片仮名文字を単独で使用しているとも到底いえないものであるから、当該文字のみを抽出して他者の商標の使用に対して商品の出所について論ずるべきものではない。
これに対して、本件商標の態様とその使用態様とはほとんど一致しているものであり、本件商標の「オンテックス」の片仮名文字部分のみを使用しているものではない。
(イ)本件商標と引用使用商標との文字デザインには軌を一にするところは皆無であり、互いに、独自のやや図案化した特徴を有する書体より構成されるものである。
(ウ)請求人は、審判請求書において本件商標と引用使用商標とは、欧文字「T」と「D」との差異を有するのみであるから、両商標は外観上相紛らわしい旨、主張している。
しかしながら、欧文字「T」と「D」とはその形象が著しく異なるものであるから、たとえ、これら欧文字を活字体の「ONTEX」及び「ONDEX」の欧文字同士の中に含まれていると仮定した場合でも、両者は到底外観上類似するものではない。
まして、互いに独自の特徴を有する本件商標と引用使用商標とは、外観上、混同を生じるおそれは全くない。
(エ)請求人は、審判請求書において、被請求人が使用する「オンテックス」の片仮名文字が、請求人が使用する「オンデックス」の片仮名文字と外観上酷似すると述べ、本件商標が引用商標と出所混同を生ずる蓋然性が高いと主張している。
しかし、請求人が商標登録しているのは、標準文字の「ONDEX」からなる引用商標であって、上記「オンデックス」の片仮名文字からなる商標ではない。
そうすると、仮に、「オンテックス」の片仮名文字と「オンデックス」の片仮名文字とが外観上酷似するものであったとしても、請求人は「オンデックス」の片仮名文字からなる商標を商標登録をしていないのであるから、根本的に、これが外観類似であると主張する権利自体を有しないものである。
一方、片仮名文字「オンテックス」と欧文字「ONTEX」とを同時に被請求人が使用している前記の使用状況からして、被請求人が「オンテックス」の片仮名文字を商標として使用している行為は、本件商標の正当な使用行為であって、無効理由云々の問題とはなり得ないものである。
さらに、「オンテックス」の片仮名文字と「オンデックス」の片仮名文字とが外観上酷似するものであったとすれば、請求人の「オンデックス」の片仮名文字からなる商標の使用行為は、自己の登録商標と類似する商標の使用であって、かつ、被請求人の登録商標と類似する商標を使用する行為であるから、商標法第51条に規定される取消審判における「不正使用行為」に該当するものである。
なお、請求人は、審判請求書において、「オンテックス」の片仮名文字が引用商標「ONDEX」の欧文字と社会通念上同一である旨主張しているが、外観が片仮名文字と欧文字とで異なり、かつ、その称呼も同一ではない造語同士が社会通念上同一であるというような飛躍した社会通念はどこにも存在しない。
(オ)本件商標の使用状況は、その登録商標の態様をそのまま使用しているのであって、「テックス、テックス、オンテックス!」のセリフが顕著に流れるテレビ・ラジオCM放送を広く行っており、被請求人が自己の社名に因んで採用したキャラクターの名称も「オンテくん」であって「オンデくん」ではない。
その上、塗装工事業の申告所得の前記統計において被請求人が他社を圧倒してトップであり、異業種の分野にも積極的に参入し、その営業活動は拡大の一途をたどっている。 これらの事実からして、本件商標は被請求人の名称の略称であると容易に理解されるものであって、本件商標は既に、被請求人の取扱に係る又は提供する種々の建築用・構築用材料又はリフォーム工事等を表示するものとして、需要者及び取引者の間に広く認識されるに至っている商標であるとみるのが自然である。
したがって、本件商標は、引用商標及び引用使用商標とは充分に識別可能なものであり、本件商標が請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれは全くないものである。
以上のとおり、商標の使用状況を考慮するならば、より一層、本件商標と引用商標とは非類似であるとみられるものであって、到底、相紛れることはないものである。
よって、被請求人の本件商標の使用状況による主張も失当であり、到底是認されるべきものではない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標は、引用商標とは非類似のものであって、商標法第4条第1項第11号に該当しないものであるから、本件商標の登録は同法第46条第1項の規定により取り消されるべきとの請求人の主張は成り立たない。

第5 当審の判断
1 本件商標と引用商標との類否について
(1)本件商標は、別掲のとおり、やや図案化された欧文字「ONTEX」と片仮名文字「オンテックス」の二段併記からなるところ、その構成文字に相応して「オンテックス」の称呼を生ずること明らかである。他方、引用商標は、「ONDEX」の文字からなるものであり、「オンデックス」の称呼を生ずるものとみるのが自然である。
しかして、本件商標から生ずる「オンテックス」の称呼と引用商標から生ずる「オンデックス」の称呼とは、同音数からなり、称呼の識別上重要な要素を占める語頭音部分の「オン」の音をはじめ後半部分の「ックス」の音を共通にし、比較的聴取し難い中間において「テ」と「デ」の音を異にするにすぎない。しかも、相違する「テ」と「デ」の音は、母音(e)を共通にする、いわゆる清音であるか濁音であるかの差であって、いずれも舌尖を上前歯のもとに密着して発する音で、その調音位置・方法が一致し、無声子音(t)と有声子音(d)の差にすぎない。加えて、いずれも促音「ッ」を伴っているために、帯有する母音(e)が強く響き、子音の音質上の差異は僅かなものとなる。それ故、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、全体の音感、音調が極めて近似したものとなり、彼此相紛らわしいものである。
してみれば、本件商標と引用商標とは称呼上類似するものといわざるを得ない。
(2)ところで、両当事者も認めるように、商標の類否は、対比される両商標が同ー又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるのか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決参照)。
しかしながら、本件商標と引用商標が看者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察した場合においても、本件商標と引用商標は、いずれも親しまれた既成の観念を有する成語を表したものとはいえないし、また、本件商標の欧文字部分はやや図案化されているとしても、「ONTEX」の文字を表したものと容易に認識し理解されるものであって、引用商標の「ONDEX」とは、中間における「T」と「D」の文字が異なるのみで、両者の綴りも近似したものであるから、それぞれの構成からみて、称呼上の類似性を凌駕するほどの外観上の差異を有しているものともいえない。
そして、本件商標及び引用商標に係る商品の取引において、商標から生ずる称呼が外観よりも軽視されるというような実情も見当たらない。むしろ、現代社会において音声を用いた宣伝・広告に対する人の耳からの記憶(商標の称呼)が、出所の識別に重要な役割を果たしているといえるのであり(知的財産高等裁判所、平成17(行ケ)10668、平成18.2.16判決参照)、そのことは両商標に係る商品においても何ら変わることはないというべきである。
(3)また、本件商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似のものといえる。
2 被請求人の主張について
(1)被請求人は、本件商標に係る異議決定例、当庁における審決例及び審査例を掲げ、これらの具体例からしても本件商標と引用商標とは称呼上非類似である旨主張する。
しかしながら、当事者対立構造による無効審判と一方的主張に基づく登録異議申立とは、制度が異なり、その結論に相違があったとしてもやむを得ない。また、被請求人が掲げる審決例及び審査例は、商標の構成が相違し事案が異なるばかりでなく、商標の類否は、比較対象となる商標について個別具体的に判断すべきものであるから、上記具体例が本件の審理に影響を及ぼすものではなく、被請求人の主張は、採用することができない。
(2)被請求人は、塗装工事業等を活発に行うと共に、本件商標を使用してテレビやラジオの放送媒体でも積極的に宣伝を展開しており、本件商標は、被請求人の名称の略称及びハウスマークであることもあって、被請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして取引者、需要者間に広く認識されている旨主張して、証拠を提出している。
確かに、被請求人の提出に係る証拠によれば、被請求人は塗装工事業の申告所得において同業者間では第一位であることや、本件商標が実際に使用され広告宣伝されていることなどが認められる。
しかしながら、本件商標が被請求人の主たる業務というべき「塗装工事」の役務について使用する商標として取引者、需要者間に相当程度知られているといい得るとしても、本件商品は上記役務とは明らかに異なる「商品」であって、自ずと取引実情が異なるものであるばかりでなく、本件商標の周知性が本件商品の取引者、需要者間にまで及んでいるとまでは認め難いところから、本件商品について本件商標を使用した場合に、直ちに被請求人を連想、想起するようなことはないというべきであり、さらには、引用商標と誤認混同を生ずるおそれがないとまではいえない。
よって、被請求人の主張は採用することができない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標とは称呼上相紛らわしい類似する商標であり、本件商品と引用商標の指定商品とは同一又は類似のものである。
したがって、本件商標は、本件商品については商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)



審理終結日 2007-04-04 
結審通知日 2007-04-10 
審決日 2007-05-02 
出願番号 商願2000-63336(T2000-63336) 
審決分類 T 1 12・ 262- Z (Z19)
最終処分 成立  
前審関与審査官 椎名 実 
特許庁審判長 田代 茂夫
特許庁審判官 小林 由美子
青木 博文
登録日 2002-04-19 
登録番号 商標登録第4561036号(T4561036) 
商標の称呼 オンテックス、オンテクス 
代理人 鮫島 武信 
代理人 神林 恵美子 

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