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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200225215 審決 商標
不服200322975 審決 商標
不服20035262 審決 商標
不服2003853 審決 商標
不服200225216 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
管理番号 1160575 
審判番号 無効2005-89087 
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-14 
確定日 2007-06-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第4777168号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4777168号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4777168号商標(以下「本件商標」という。)は、平成15年9月11日登録出願、別掲のとおりの構成よりなり、第25類「和服」及び第41類「舞踊に関する能力の認定」を指定商品及び指定役務として同16年6月11日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第131号証(枝番を含む)を提出した。
1 請求の理由
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号及び同第19号の規定により無効にすべきものである。
(2)請求人適格について
松浦紗代子及び松浦素代子(以下、両名を併せて「請求人」という。)は、平成16年(2004年)7月27日に、第41類に属する願書記載の役務を指定役務として、商標「子スズメ民踊楽園」(商願2004ー69262号)及び商標「スズメのマークの図形」(商願2004ー69264号)の出願を行ったところ、本件商標を引例とする拒絶理由通知を受けた。
(3)請求人は、名称を「子スズメ民踊楽園」とする法人格なき社団を構成する者であり、請求人中「松浦紗代子」は子スズメ民踊楽園園長として、「松浦素代子(又は「そよ子」と称する。)」は同副園長として活動しているものである。この子スズメ民踊楽園は、本件商標の出願日(平成15年9月11日)の前から活動を開始し、現在に至るまでも精力的に活動を行っている。
ここで、「子スズメ民踊楽園」は、民踊に関する教授資格の認定、民踊教室、民踊の教養講座等の主に民踊を教授等するに際して用いる名称である。そして、請求人が代表を務める「子スズメ民踊楽園」の永年の活動の結果、現在では数多くの民踊指導者が輩出され、各地に「スズメ」の名称を附した一門が活動を行っている。また、民謡の種々の大会においてその一門が数々の賞を獲得したり、請求人を中心としてNHKの民謡番組にもたびたび出演したり、公演を行ったり、その他種々の活動を行っており、民謡に携わる者であればその名称を知らない者がいない程の名声を博している。
昭和29年に、請求人の父松浦森勝が始めた「民謡の集いスズメ会」が、昭和31年に「子スズメ会」となり、昭和43年に「子スズメ民踊楽園」として発展してきたものである。
また、本件商標に記載されている「子スズメ民踊楽園」及び「スズメのマーク」は、種々の提出した証拠からも明らかなように、これは「子スズメ民踊楽園」の創立者である請求人の父松浦森勝が創案・使用を開始し、創立者松浦森勝が平成9年に他界した後も、「子スズメ民踊楽園」の名称とシンボルマークである「スズメのマーク」は継続して使用されている。
(4)被請求人である平野登絲子(又は「松浦登糸子」と称する。)は、創立者である故松浦森勝の次女であり、「子スズメ民踊楽園」の活動を請求人である松浦紗代子(長女)及び松浦素代子(三女)と共に松浦三姉妹として活動を行っていた。そのような中で、平成15年8月23日に、従来から3姉妹として行っていた子スズメ民踊楽園の合同活動から松浦登糸子が自らの意志で脱退し、かつ、同年9月11日に、請求人の同意を得ることなく、本件商標を商標出願し登録されたものである。
(5)第1に、同一活動を行っていたグループについては、自己の意志で脱退したメンバーがグループ名を継続使用することが、世の中の道理に合わないことであると考えられる。通常は、残ったメンバーにグループ名を継続使用する権利が残っていると考えられる。
また、被請求人平野登絲子が自らの意志で脱退する前後を通して、「子スズメ会」或いは「子スズメ民踊楽園」は、請求人である松浦紗代子及び松浦素代子が所属するものとして認識されていた。
したがって、本件商標は、「子スズメ会」あるいは「子スズメ民踊楽園」の活動から自己の意志で脱退した商標権者が、「子スズメ会」あるいは「子スズメ民踊楽園」及び「スズメのマーク」の登録を図ったものであり、不正の目的を有していることは明らかである。
第2に、平野登絲子が自らの意志で脱退する前後を通して、「子スズメ会」あるいは「子スズメ民踊楽園」は、松浦紗代子及び松浦素代子が代表者として所属する団体として認識されていた。
(6)子スズメ民踊楽園は、法人格を有さない社団であるが、請求人である松浦紗代子及び松浦素代子が子スズメ民踊楽園の代表者であり、一般にもそのように認識されている。
一方、被請求人である平野登絲子は、平成15年8月23日に「子スズメ民踊楽園」を脱退し、子スズメ民踊楽園とは何ら関係のない者である。したがって、被請求人は子スズメ民踊楽園とは関係ない者となっているため、商標法第4条第1項第8号が適用される「他人」に該当し、よって「子スズメ民踊楽園」は被請求人にとって他人の名称又は著名な略称に該当する。
また、「子スズメ民踊楽園」は、請求人の所属する「子スズメ会」あるいは「子スズメ民踊楽園」の名称又は著名な略称を含むものであることから、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する
(7)本件商標を構成する「子スズメ民踊楽園」の文字及び「スズメのマーク」は、請求人である松浦紗代子及び松浦素代子が代表を務める子スズメ民踊楽園において、創立者松浦森勝氏の代より永年精力的に「民謡に関する教授資格の認定、民謡教室、民謡の教養講座等の主に民踊の教授」などに、これらを使用した結果、本件商標の登録出願時及び査定時には、取引者・需要者の間に広く認識されていたものである。
また、本件商標の指定役務、第41類「舞踊に関する能力の認定」は「技芸・スポーツ又は知識の教授」に含まれるものであり、「民謡に関する教授資格の認定、民謡教室、民謡の教養講座等の主に民踊の教授」と類似する役務である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(8)本件商標の指定商品中には、第25類「和服」が含まれるが、「子スズメ民踊楽園」が「民謡に関する教授資格の認定、民謡教室、民謡の教養講座等の主に民踊の教授」等の役務に永年使用され、広く知られていることは上記したとおりであり、また、民踊は和服で踊るものであるから、「和服」と密接に関連している点を考慮すれば、本件商標が商品「和服」に使用された場合には、「子スズメ民踊楽園」又は「子スズメ会」に係る商品であると誤認し、商品の出所の混同が生ずるおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(9)「子スズメ民踊楽園」の文字及び「スズメのマーク」が、請求人の業務に係る役務「民謡に関する教授資格の認定、民謡教室、民謡の教養講座等の主に民踊の教授」に永年使用された結果、取引者・需要者の間に広く認識されている事実は上記したとおりである。
そして、被請求人は、子スズメ民踊楽園に所属していたが、平成15年8月23日に脱退し、その直後に本件商標登録出願を行っている。この事実に鑑みると、被請求人は、請求人が商標登録出願を行っていないことを熟知しており、この商標権を取得すれば、請求人に損害を与え、上記商標の名声を利用できると考えたものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(10)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号又は同第19号に違反して登録されたものである。
よって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項の規定により無効とされるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、主に自らの歴史を記載して、その記載を以って「子スズメ民踊楽園の歴史」と称している。これは「子スズメ民踊楽園」の名称を掲げた団体の歴史ではなく、被請求人の歴史を記載しているに過ぎないことは明白である。
(2)被請求人は、「子スズメ民踊楽園」及び「スズメのマーク」の由来から、これらの標章が創出された当初より被請求人に帰属する旨を主張している。
しかしながら、これらの標章は子スズメ民踊楽園の名を掲げた団体に所属するものであって、被請求人に所属するものではない。すなわち、昭和43年に「子スズメ民踊楽園」としての活動が開始され、創立者であり請求人及び被請求人の父である松浦森勝の意向により、趣味としてではなく民踊指導を職業として前面に押出していくことの第一歩として被請求人を初代園長とした。この事実は、請求人も当時の生徒間でも認知されていたことであった。その後、昭和50年頃まで被請求人が子スズメ民踊楽園園長の肩書きを持ち、請求人である松浦紗代子が子スズメ会会主の肩書きを持つこととなった。そして、昭和51年には、子スズメ民踊楽園の園長が、被請求人から松浦森勝へと移り、松浦森勝を園長として、請求人及び被請求人が指導者として各教室長を輩出している。
(3)被請求人は、運営に関しては、請求人とは独立した体制で行うものであった旨主張する。
しかしながら、平成2年9月付の「子スズメ民踊楽園 規約(内規)」の「第六章 会議(内規No.の2)」の第二章(運営)及び第三章(会計)において定められているように、子スズメ民踊楽園の運営は、被請求人が主張するようにそれぞれ個人が独立した体制で行うものではなく、明らかに会が中心となり運営され、会計処理も行われていた。具体的には、園長である松浦森勝が存命中には、松浦森勝により、請求人及び被請求人に関する月謝、出演費等の経理処理が行われていたものであり、請求人又は被請求人により独立運営されていたわけではない。
(4)被請求人は、「子スズメの民踊楽園」の規約によっても教室運営が独立運営を旨とすることが記載されている旨述べている。
しかしながら、これらの各教室は、請求人ら、被請求人及びその他名取等が所属する楽園本部の下部組織として開かれているものであり、上記規約は、あくまでも当該「教室」が独立運営をすることができることを規定したものであって、楽園本部に所属する請求人まで独立して運営しなければならないことを意味するものではない。請求人及び被請求人は、子スズメ民踊楽園の楽園本部から、給料と言う形で収入を得ていたのであって、それぞれが独立して教室を運営し収入を得ていた訳ではない。
(4)被請求人は、そもそも「脱退」はあり得ない主張している。
しかしながら、被請求人は、答弁書の表中で自ら『子スズメ民踊楽園の合同活動から松浦登糸子脱退』との言葉を使用している。一方、請求人らは、子スズメ民踊楽園が長年公演を続けて来た春祭りや指導員講習を遂行している。これらはとりもなおさず、子スズメ民踊楽園が、請求人で運営が継続され、被請求人は子スズメ民踊楽園から脱退したことを意味しているものである。
(5)被請求人は、「子スズメ民踊楽園」を被請求人或いは請求人によって長年使用されてきたことを事実と認めながら、広く周知・著名となるほどの使用はされていなかったとの主張は、被請求人自身も 「子スズメ民踊楽園」及び「スズメのマーク」の標章の下でこれだけの実績をあげている事実とは矛盾するものであって、不正の目的を持っていると言い得るものである。
(6)被請求人は、本件商標を不正の目的をもって出願したものではないと主張するが、被請求人は、他地区に「子スズメ会」なる団体が活動を始めた情報を得、「子スズメ民踊楽園」及び「スズメのマーク」が第三者に使用されることを憂慮したとあるが、そもそも被請求人が脱退する以前は請求人と共に「子スズメ民踊楽園」にて活動していたのであるから、もし被請求人の主張するとおりであり且つ「子スズメ民踊楽園」を脱退していないのであれば出願前に請求人と相談すると考えるのが普通である。しかしながら、実際には、請求人には何等の相談も無く商標登録出願を行い、その一方で請求人は被請求人が本件登録商標を出願した事実を平成17年1月まで知らなかった。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由及び弁駁に対する反論を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第45号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)「子スズメ民踊楽園」は、故松浦森勝氏の創立支援の下、昭和31年に被請求人が「舞踊の指導」を開始した「子スズメ会」をその起源とする。
昭和31年「子スズメ会」に集まったメンバーは、森勝氏が創立した民謡の集い「スズメ会」に集う者の子息たちであり、被請求人はかかる名称の下、この子供たちを対象に民踊の指導を開始した。「子スズメ会」発足当時の舞踊の指導者は被請求人のみであった。
その後、昭和43年に「子スズメ民踊楽園」と名称を変更し、現在に至る。
(2)請求人も主張するように「子スズメ民踊楽園」及び「スズメのマーク」は、請求人・被請求人らの父である故松浦森勝氏によって案出・デザインされたものである。
「子スズメ民踊楽園」の名称は、「スズメ百まで踊り忘れず」の諺と被請求人の年齢に由来する。被請求人が舞踊の教授を開始するにあたって、「登絲子」にふさわしい名前をつけてやりたい」として森勝氏が創出したものである。
「スズメのマーク」を案出した際、森勝氏は被請求人の目を模したデザインを施している。
上記の事実は、これらの標章が創出された当初より被請求人に帰属するものであることを示すにほかならない。
(3)被請求人は、「子スズメ民踊楽園」の前身である「子スズメ会」にて昭和31年より舞踊の指導を開始して以来、現在に至るまで民踊の指導者、舞踊家としての実績を持つ者である。
昭和31年の「子スズメ会」発足当時の指導者は、被請求人のみであり、請求人の一人である松浦紗代子氏は、民謡の会「スズメ会」にて謡を学んでいたものの、民舞を始めてはいなかった。紗代子氏に民舞の指導を施したのは「子スズメ会」の指導者である被請求人であった。
さらに、請求人の一人である松浦素代子氏に対して民舞の指導員としての免状を与えたのも子スズメ民踊楽園園長である被請求人であった。つまり、請求人は、被請求人の門下生であったにすぎない。
また、「子スズメ民踊楽園」としての合同活動は、被請求人・請求人の通常の民舞指導の活動に対してむしろ例外にあたるものである。
(4)請求人は、被請求人は自らの意思で「子スズメ民踊楽園」を脱退した者であるから「子スズメ民踊楽園」及び「スズメのマーク」は被請求人に帰属しないと主張するが、請求人・被請求人らの「子スズメ民踊楽園」は上記体制をとるものであり、そもそも「脱退」はあり得ない。甲第6号証は、請求人松浦紗代子氏によって作成された書面であるが「被請求人が平成16年に開催する予定の『子スズメ春まつり』について、不参加の意思を表明した」との記述があるのみであり、被請求人が子スズメ民踊楽園から「脱退する」との意思を表示した旨の記述ではない。
「子スズメ民踊楽園」の活動は、各教室の独立運営によるものであって、「春まつり」はあくまでも各教室の意思に基づく「合同参加」によって催されるものであり、「子スズメ民踊楽園」の名称で教室を営むために参加が強制されるものではない。
被請求人は「子スズメ民踊楽園」を脱退あるいは自らの意思を持って「子スズメ民踊楽園」の活動停止を宣言したこともない。「子スズメ民踊楽園」発足時から現在に至るまで継続して、その名称の下で「舞踊の教授、舞踊の能力に関する能力の検定」の活動を行う者であるから、「子スズメ民踊楽園」及び「スズメのマーク」は被請求人に帰属する。
(5)被請求人は、「子スズメ民踊楽園」が請求人の法人格なき社団の名称として本件出願時においてすでに著名であったとの請求人の主張に承服しない。
請求人は「子スズメ民踊楽園」が自己の団体名称として周知著名である根拠として、甲第9号証、甲第24号証、甲第25証、甲第28号証、甲第72号証ないし甲第74号証及び甲第85号証をあげているが、いずれの証拠もかかる主張の根拠とはならない。
つまり、これらの証拠をもって「子スズメ民踊楽園」の名称が著名性を持つに至ったとはいえない。
(6)請求人の法人格なき社団である「子スズメ民踊楽園」との関係において、本件商標が商標法4条1項8号に該当するというためには、請求人の団体の名称「子スズメ民踊楽園」が著名であることが要件とするところ、上述のとおり、請求人の法人格なき団体の名称である「子スズメ民踊楽園」は、著名性を有しない。
そもそも「子スズメ民踊楽園」の名称は、被請求人の創立した団体の名称であり、被請求人と該団体の関係において被請求人は、「他人」に該当しない。
よって、本件商標は商標法4条1項第8号には該当しない。
(7)請求人は本件商標を構成する「子スズメ民踊楽園」「スズメのマーク」が請求人の役務を表示するものとして周知であったと主張するが、これらは、本件の出願時である平成15年(2003年)9月23日(11日の誤りと思われる。)の時点において周知性を獲得していない。さらに、本件商標は、被請求人が昭和43年の「子スズメ民踊楽園」発足時より現在に至るまで「舞踊の教授」等について継続使用してきたものであって、請求人の指摘する「子スズメ民踊楽園」の名称を有する法人格なき社団等との関係において「他人」には当たらない。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(8)また、上記したとおり、被請求人の活動と各請求人の活動は従来よりそれぞれ独立運営体制をとっていたのであり、現在に至るまで被請求人及び各請求人の間で「出所混同」は生じていない。
そもそも、本件商標は著名な商標ではない。これらの事実から、被請求人の本件商標が他人の業務に係る商品・役務と出所混同を生ずることもない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(9)請求人は、請求人が本件商標につき商標登録を受けていないことを奇貨として、被請求人が不正の目的をもって出願したものであると主張するが、被請求人の本件商標出願には、かかる不正の目的は一切ない。
被請求人は、本件商標を「子スズメ民踊楽園」となんら関係のない第三者から守ることのみを念頭に出願したものであって、自己の門下生である請求人に対してその使用を排除することを念頭にしてはいない。
被請求人が不正の目的をもっていたならば、本件商標出願後に請求人に対して本件商標出願を行った旨を宣言するとともに、請求人による本件商標の使用を禁止する旨の通告書を出す、あるいは、本件商標登録後に、本件商標の使用差止を求める警告書を送付するといった行為を行っているはずである。しかし、被請求人はこうした行為を一切行っていない。被請求人には本件商標出願に関し不正の目的の意図は一切有しておらず、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(10)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、第10号、第15号及び第19号のいずれにも違反して登録されたものではなく、商標法第46条の規定よりその登録を無効とすることはできない。
2 弁駁に対する反論
(1)請求人は、内規および会計処理の実態について、「園長である松浦森勝が存命中には請求人及び被請求人に関する月謝、出演費等の経理処理が行われていた」と述べられているが、かかる経理処理は「子スズメ民踊楽園」の内部規約に基づく処理ではない。かかる経理処理は、森勝と請求人および被請求人の血縁関係に基づく経理処理であって、家庭内において、親子間、姉妹間での金銭のやりとりがなされていたにすぎない。
(2)請求人は、被請求人の「平成16年度の春まつり」参加辞退を取り上げ、かかる行為が「子スズメ民踊楽園との訣別」を意味するかごとく主張するが、自己の門下生と請求人の門下生との間の問題が生じることのないように心がけて調整する行為は、被請求人によって行われた特異な行為ではない。請求人も述べているように森勝存命の折から門下生の交流の調整は行われていたものである。被請求人の門下生・請求人の門下生を集めて合同活動を行う、あるいは、合同活動を辞退するという行為は、子スズメ民踊楽園の活動を維持するために、必要に応じて行われてきたものであって、被請求人の「合同発表会辞退」は特別脱退に値する行為と位置づけられるものでもない。
(3)請求人は、本件商標が著名であると主張するが、舞踊家として請求人の一人である松浦素代子氏が、それなりに知名度がある点について、被請求人は否定するものではない。それどころか、同氏に免許を授けた師匠として喜ばしく思うところである。しかし、請求人の一人が舞踊家としてある程度知られるに至ったことと、本件商標の著名性は必ずしも同視され得るものではない。
請求人は本件商標が著名商標であるとの根拠として、新たに多数の証拠を出しているが、そのほとんどが、本件商標の出願時以降のものであったり、本件商標が使用されていない、あるいは正しく表示使用がなされていないものであったりと著名性を裏付けるものとはなり得ない。
(4)請求人は、「不正目的」について、師匠である被請求人が、門下生にすぎない請求人に対して、許可を得なければ自己の商標につき出願できないものではないとする請求人の主張自体、根本から正当性を欠くものであるが、被請求人として出願の事情等につき請求人側から要求されればいつでも説明する用意はあった。それにもかかわらず、請求人が、本件商標について不知であったのは、被請求人が平成16年度の合同発表会の辞退を告げた後、請求人の態度が急変し被請求人を遠ざけたことに起因するのであり、請求人が不知であったことについて被請求人側に瑕疵はない。

第4 当審の判断
本件商標は、別掲のとおり、上段に小鳥の図形を紋章の如く描き(以下「子スズメマーク」という。)、下段に「子スズメ民踊楽園」の文字を横書きした構成よりなるものである。
請求人及び被請求人提出に係る甲各号証及び乙各号証によれば、「子スズメ民踊楽園」は、法人格を取得していない社団(団体)と認められるところ、当該団体は、昭和29年に、請求人及び被請求人の父松浦森勝が「民謡の集いスズメ会」を始め、その後、昭和31年に「子スズメ会」となり、さらに、昭和43年に「子スズメ民踊楽園」として発展してきたものであり、また、「子スズメマーク」及び「子スズメ民謡楽園」の商標(以下「子スズメ民踊楽園等の商標」という。)は、請求人及び被請求人の父親である松浦森勝氏によって創出されたものであることが認められる。
また、「子スズメ民踊楽園」は、規約によれば(甲第3号証)、本部を中心として、本教室において要請された、指導資格保有者を軸として会員の造る輪で構成され(第二章)、各教室は独立して運営することができ(第五章)、その運営のための会議の開催は総て園長の許可を必要とし、園長事故有る時は三姉妹合議の上、総会以外は開催することができる(第六章)とされている。一方で、団体としての「子スズメ民踊楽園」及び「子スズメ民踊楽園等の商標」の承継に関する明確な規定は見当たらず、当該規約以外に、それらの正当な承継人を特定できる的確な証拠はない。
しかしながら、松浦森勝氏が平成9年に他界した後においても請求人及び被請求人が(「子スズメ三姉妹」として)、ともに、「子スズメ民謡楽園等の商標」を使用して、「民謡舞踊の教授,民謡舞踊に関する能力の認定」等の役務の提供を行っている事実が認められる。
このことからすると、「子スズメ民踊楽園」は、本部の三姉妹と指導資格保有者を軸とした会員からなる団体として構成され、父松浦森勝氏が平成8年に他界した後には、その運営は請求人及び被請求人が子スズメ三姉妹として、永年に亘り受け継いできたという事実が認められることから、その業務上の信用の主体は子スズメ三姉妹を中心とするその団体にあるというべきであり、三姉妹らの一個人にあるというべきではない。
ところで、請求人、被請求人は、従来から子スズメ三姉妹として活動してきているところ、平成15年8月23日に、請求人の一人である「松浦紗代子」が各教室長宛てに、同16年4月25日開催予定の「平成16年度の春まつり」に被請求人が参加を辞退したため、同人を除いた請求人や長男勝仁らを中心にして開催する旨のお知らせを発した事実が認められ(甲第6号証)、その後は三姉妹が一緒に活動している事実は見出し得ない。
また、被請求人は、参加を辞退する旨のお知らせ直後である同15年9月11日に、本件商標を登録出願することについて請求人に対して相談や同意を得たという事実も認められない。
そして、甲各号証及び乙各号証を総合勘案すれば、「子スズメ民踊楽園等の商標」は、本件商標の登録出願時には、「民謡」又は「民謡舞踊」等の芸能に携わる者の間には相当程度知られていたもの認められる。
加えて、本件商標の指定商品及び指定役務は、第25類「和服」及び第41類「舞踊に関する能力の認定」であり、いずれも「民謡」又は「民謡舞踊」等と密接に関連する商品及び役務であるといえるものである。
そうとすれば、被請求人(商標権者)は、子スズメ民踊楽園の業務上の信用の主体がその団体にあり、三姉妹らの一個人にあるというべきではないにもかかわらず、かつ、従来から三姉妹として一緒に活動してきており、その内の請求人が「子スズメ民謡楽園等の商標」を使用していたことを知っていたにもかかわらず、また、一緒に活動できないとして「平成16年度の春まつり」の参加を辞退する旨のお知らせをした直後に、「子スズメ民謡楽園等の商標」を請求人に相談や同意を得ることなく商標登録出願をし、登録を得たものであり、かかる行為は、取引上の信義則に反するものであり、かつ、「子スズメ民謡楽園等の商標」を取得することにより「子スズメ民謡楽園等の商標」に表象される信用を独り占めしようとするものであって、被請求人の個人的な利益を図ろうとする不正の目的があったものといわざるを得ない。
なお、被請求人は、本件商標を出願したのは、「子スズメ民踊楽園」となんら関係のない第三者から守ること及び請求人に対してその使用を排除することを念頭にしてはいない旨主張するが、前記第三者との関係で、緊急に商標権を確保すべきことを窺わせる事態が生じていることの裏付けがなく、また、従来から子スズメ三姉妹として一緒に活動してきた関係上、相談や同意を得ないで良いとする理由にはなり得ない。
また、被請求人は、師匠である被請求人が、門下生にすぎない請求人に対して、許可を得なければ自己の商標につき出願できないものではない旨主張するが、被請求人は、当時の園長の立場で免許状を与えたにとどまり、また、前述のとおり、子スズメ民踊楽園の業務上の信用の主体がその団体にあり、三姉妹らの一個人にあるというべきではないことからすると、従来から被請求人を含めた子スズメ三姉妹として一緒に活動してきているにもかかわらず、その商標登録出願について相談あるいは同意を得ないで良いとする理由にはなり得ないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであって、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標



審理終結日 2007-04-03 
結審通知日 2007-04-06 
審決日 2007-05-02 
出願番号 商願2003-84132(T2003-84132) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (Y25)
最終処分 成立  
特許庁審判長 伊藤 三男
特許庁審判官 森山 啓
岩崎 良子
登録日 2004-06-11 
登録番号 商標登録第4777168号(T4777168) 
商標の称呼 コスズメミンヨーガクエン 
代理人 豊崎 玲子 
代理人 黒田 博道 
代理人 黒田 博道 

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