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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 018 |
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管理番号 | 1158941 |
審判番号 | 無効2006-89105 |
総通号数 | 91 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2007-07-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2006-07-27 |
確定日 | 2007-05-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第3220256号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第3220256号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第3220256号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成5年11月2日に登録出願され、第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類」を指定商品として、同8年11月29日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張の要点 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証を提出している。 1 請求の利益 商標登録無効審判を請求する利益に関して、「ある商標の登録の存在によって直接不利益を被る関係にある者は、それだけで利害関係人として当該商標の登録を無効にする審判を請求することにつき、利害関係を有する者に該当すると解するのが相当である。」と審決で判断されている(甲第2号証)。 そこで、請求人が、本件商標の登録の存在によって直接不利益を被る関係にあることを、以下に説明する。 (1)請求人の歴史について 請求人「ベン エフ. デイビス カンパニー」は、1935年にアメリカ合衆国において、Benjamin Franklin Davis(ベンジャミン フランクリン デイビス)氏が自分の名前にちなんで設立した作業着(ワークウェア)を製造・販売する衣料品メーカーである(甲第3号証及び甲第4号証)。現在は、シャツ、ズボン、帽子、バッグ等を製造・販売している(甲第5号証ないし甲第7号証)。そして、請求人は日本国において絶大な人気を博するブランドになっている(甲第8号証)。 (2)本件商標について (ア)本件商標には、請求人が米国において使用(甲第9号証)及び商標登録している商標(甲第10号証)である「笑いサル」と同一の図柄に、腕及び足を書き加え、2本足で立っている「笑いサル」の全身像が描かれている。そして、本件商標に描かれている「笑いサル」は、シャツを着て、頭に帽子をかぶり、ズボンのポケットに両手を突っ込んだ姿が描かれている。上記全身像の下には、請求人が米国において使用(甲第9号証)及び商標登録(甲第11号証)している欧文字「BEN DAVIS」が書されている。 (イ)本件商標は、請求人が米国において使用及び商標登録している上記2商標(「笑いサル」の図柄及び欧文字「BEN DAVIS」)を含み、かつ、請求人が製造・販売する商品には上記2商標が付され、日本国に輸入されている。 このため、本件商標を本件商標に係る指定商品に使用した場合、需要者は、被請求人の商品が、請求人の業務に係る商品であると誤認し、その商品の需要者が商品の出所について混同するおそれがある。 (3)以上より、請求人は、本件商標の登録の存在によって直接不利益を被る関係にあると認められる。 したがって、請求人は、本件商標の登録を無効にする審判を請求することにつき、利害関係を有する者に該当する。 2 無効理由 (1)商標法第4条第1項第7号について (ア)本件商標は、シャツを着て、頭に帽子をかぶった「笑いサル」の全身像及び欧文字「BEN DAVIS」からなる商標である。欧文字「BEN DAVIS」は、請求人が設立された1935年から、請求人により使用されており、本件商標の出願時において米国において著名になっている(甲第8号証)。また、「笑いサル」の図柄からなる商標は、60年以上にわたり請求人により使用され続けており、著名である(甲第3号証)。 (イ)請求人は、欧文字「BEN DAVIS」及び「笑いサル」の図柄を組み合わせた商標(審決注:当該商標は、別掲(2)のとおりの構成からなり、請求人がアメリカ合衆国において使用及び商標登録していると主張する商標と同一といい得るものであるので、上記使用及び商標登録に係る商標を含めて、以下「引用商標」という。)について商標登録出願をしており(甲第12号証)、請求人の上記出願に対して、本件商標が引用され拒絶理由通知を受けている(甲第13号証)。 そこで、請求人は、本件商標の譲渡交渉を被請求人との間で進めてきたが、被請求人は請求人からの申し出を拒絶し、本件商標を所有し続けたい旨を回答した。さらに、被請求人は、請求人が日本のマーケットに進出する計画があれば「そのヘルプを我々にさせていただきたい」という申出をしている(甲第14号証)。 上記事実は、請求人が米国において使用し、著名となっている引用商標が、我が国で登録されていないことを奇貨として、請求人の国内参入を阻止又は代理店契約締結を強制する目的で、被請求人が本件商標に係る出願をしたものと強く推察される。 (ウ)なお、被請求人は、本件商標は「BEN DAVIS社の了解を取って日本での商標登録をしたものです。」と述べているが、請求人は被請求人が本件商標登録出願をすることに承諾を与えた事実はない(甲第3号証)。また、被請求人は「ただし、文章で契約したわけではありません。また、先方から依頼されて登録したのか、こちらから登録をしておく旨申し出たものなのかも不明です。」と述べており、被請求人が請求人の許諾を受けて、本件商標登録出願をしたことは証明されていない(甲第3号証及び甲第14号証)。 (エ)本件商標は、引用商標を含む商標である。「笑いサル」の図柄は、Benjamin Franklin Davis(ベンジャミン フランクリン デイビス)氏が、請求人を設立した当時にデザイナーに依頼して製作させた標章であり、創造商標である(甲第15号証)。また、欧文字「BEN DAVIS」は、請求人が米国において商標登録及び使用している商標「BEN DAVIS」と同一であり、同商標は、Benjamin Franklin Davis(ベンジャミン フランクリン デイビス)氏が自分の名前にちなんで決定したものであり、造語商標(甲第4号証)である。このように、二つの創造商標を結合させた引用商標が偶然採択されるとは考えられない。しかも、請求人の有する引用商標は米国において著名であるので、本件商標の出願は「不正の利益を得る目的、又は、他人に損害を与える目的」をもってされたことが強く窺われる。 (オ)以上述べた事実から、本件商標は、請求人の著名商標を剽窃的に出願し、登録された商標に該当することは明らかである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 (2)商標法第4条第1項第15号について (ア)請求人が製造・販売する商品は、被請求人によって昭和52年頃から輸入されている(甲第14号証)。米国から輸入される商品には、引用商標が付されている(甲第9号証)。また、昭和52年頃、請求人に係る小冊子及び紙製の看板のようなものが日本国内に大量に存在していた(甲第14号証)。 したがって、本件商標出願時及び査定時において、引用商標は、日本国内で著名と認められる。 (イ)商標法第4条第1項第15号における「出所の混同を生じるおそれ」とは、「他人の業務に係る商品であると誤認し、その商品の出所について混同するおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の出所について混同するおそれがある場合」をもいう。そして、「混同を生じるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるべきである、と判示されている(甲第16号証)。 (ウ)これを本件についてみると、以下の事実が認められる。 (i)本件商標は、請求人が米国において使用している引用商標を含む商標であるので、請求人の米国において使用している商標と極めて類似している。 (ii)本件商標の出願時及び査定時において、請求人の商品は、引用商標を付して日本国内に輸入・販売されており、引用商標は日本国において周知・著名になっていた。 (iii)本件商標は、上記のとおり、請求人が創作した独創性が極めて高い2つの創造商標(「笑いサル」の図柄に係る商標及び文字商標「BEN DAVIS」)を組み合わせたものである。 (iv)本件商標に係る指定商品の需要者は、一般消費者であるので、商品の流通経路等の取引実情に関する知識を十分に持ち合わせていないのが通常である。 (エ)以上述べた事実を総合して判断すると、本件商標を付した商品の取引者及び需要者は、本件商標を付した商品は、請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると誤認する。 (オ)なお、本件商標は、上述のとおり、不正の目的で商標登録を受けた商標であるので、除斥期間の規定は適用されない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 3 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当するので、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすべきものである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、何ら答弁していない。 第4 当審の判断 1 請求人の主張及び証拠によれば、請求人は本件審判を請求することについて利害関係を有するものと認められるので、以下、本案に入って審理する。 2 商標法第4条第1項第7号について (1)商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標登録を受けることができないと規定しているところ、その文言自体からすれば、商標の構成自体に着目した規定となっているが、登録出願の経緯に照らし、商標法の予定する秩序に反する登録出願も、公の秩序に反するものというほかなく、これを有効とすることは同法の趣旨に反するものというべきである。そして、同法第4条第1項各号には個別に不登録事由が定められていること、商標法においては商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることなどを併せ考えると、登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないような場合には、商標の構成自体に公序良俗違反のない商標であっても、第7号に該当するものと認めるのが相当である(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)10028、平成18.12.26判決参照)。 (2)これを本件についてみるに、請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。 (ア)引用商標は、アメリカ合衆国において被服等について60年以上使用されている(甲第3号証、甲第8号証及び甲第15号証)。 (イ)引用商標を付した被服、帽子、バッグ等の商品は日本にも輸入されており、インターネットを通じて販売されている(甲第5号証ないし甲第7号証)。 (ウ)被請求人が本件商標を譲り受けた株式会社聖林公司(以下「聖林公司」という。)は、昭和52年頃から請求人の業務に係る商品を輸入しており、その事実を被請求人も知っている。被請求人は、引用商標の商標権につき請求人と交渉したことがある。本件商標の出願・登録については、請求人と文書による契約はない。被請求人は、請求人が日本の市場に進出する計画を持っているのであれば、助力したいとの希望を持っている(以上、甲第14号証)。 (エ)請求人は、引用商標及びその類似商標の使用及び商標登録につき、被請求人及び聖林公司に承諾を与えていない。請求人は、本件商標を請求人に移転するように被請求人に依頼したが、被請求人によって拒否された(以上、甲第3号証)。 (3)以上の認定事実によれば、被請求人は、引用商標が請求人の業務に係る商品を表示する商標としてアメリカ合衆国において被服等について長年使用され、相当程度知られていること、引用商標を付した請求人の商品が我が国にも輸入され販売されていたことを知りながら、被請求人の承諾を得ることなく(承諾を得たことを立証する客観的な証拠がない以上、承諾を得たものとはいえない。)、本件商標を登録出願しその登録を受けたものと認められる。 (4)本件商標は、別掲(1)のとおり、帽子をかぶり半袖シャツとズボンを着用して立っている猿を正面から描いた図形と、黒塗り長方形内に表された「BEN DAVIS」の文字とからなるところ、全体として、上記長方形を台とし、その上に上記猿が立っているような印象を与えるものである。しかして、上記猿は、帽子をかぶっているものの、丸い頭、垂れた眉、右方向を見ている目、半開きの大きな口、二本の歯、やや左を向き右側の耳のみが描写されるなど、その顔の表現は引用商標に描かれた猿とほぼ同じといえるものである。また、上記長方形内に表された「BEN DAVIS」の文字は引用商標のそれと同一の綴りである。そうすると、本件商標は、たとえ、本件商標に描かれた猿の図形が帽子や衣服を着用した全身を表している点において引用商標の図形と異なるとしても、上記顔の特徴が一致すること及び文字が一致することから、直ちに引用商標を想起するほどに引用商標に類似するものであり、偶然の一致とは到底いえない。 (5)以上を総合勘案すると、被請求人は、引用商標の存在を知りながら、引用商標及びその類似商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、請求人の我が国への進出を阻止したり、強制的に代理店契約を締結させる等の不正の目的をもって、引用商標が使用されている商品と密接な関係を有する商品を指定商品として、引用商標に酷似する本件商標を請求人に無断で剽窃的に登録出願しその登録を受けたものといわざるを得ない。 かかる登録出願の経緯には著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものといわなければならない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものというべきである。 3 まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲(1) 本件商標 (色彩については、原本参照。)![]() 別掲(2) 引用商標 ![]() |
審理終結日 | 2007-03-28 |
結審通知日 | 2007-04-02 |
審決日 | 2007-04-13 |
出願番号 | 商願平5-110684 |
審決分類 |
T
1
11・
22-
Z
(018)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 芦葉 松美 |
特許庁審判長 |
田代 茂夫 |
特許庁審判官 |
青木 博文 小林 由美子 |
登録日 | 1996-11-29 |
登録番号 | 商標登録第3220256号(T3220256) |
商標の称呼 | ベンデービス |
代理人 | 安村 高明 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 山本 秀策 |