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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない Z25
管理番号 1155455 
審判番号 取消2000-30903 
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2000-08-04 
確定日 2007-03-23 
事件の表示 上記当事者間の登録第4200205号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件審判請求に係る登録第4200205号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成9年4月28日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服」を指定商品として、平成10年10月16日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると主張し、その理由を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第25号証(枝番号を含む。)を提出している。
(1)引用登録商標の使用と本件商標の使用中止要請について
請求人は、藤野商店(個人経営)を前身として、平成2年11月に設立された各種衣料品の製造、加工及び販売等を業とする会社であり(甲第7号証)、昭和59年7月頃より引用に係る別掲(2)のとおりの登録第2359472号商標(第17類「被服、その他本類に属する商品」、昭和63年11月21日に登録出願、平成3年12月25日に設定登録。以下「引用登録商標1」という。)及び別掲(3)のとおりの登録第2317749号商標(第17類「被服、その他本類に属する商品」、昭和63年7月25日に登録出願、平成3年6月28日に設定登録。以下「引用登録商標2」という。)を使用した婦人用ニットシャツの製造販売を開始し、平成元年7月14日付けで引用登録商標1及び2(以下、これらをまとめて言う場合「引用登録商標」ともいう。)の前商標権者である野脇直友より上記引用登録商標の連合商標につき通常使用権の許諾を受け(甲第8号証ないし甲第13号証)、その後、引用登録商標を現在に至るまで継続的に使用している(甲第14号証、甲第15号証)。
引用登録商標は、いずれも登録後に第三者に譲渡移転されたが、請求人は、引用登録商標1を平成9年3月2日付けで、引用登録商標2を平成10年12月8日付けで、それぞれ譲り受けて移転登録手続を行っており、現在は両商標ともに請求人が所有している(甲第4号証、甲第6号証)。
一方、請求人の製造する婦人用ニットシャツは、国産生地のみを使用して国内縫製による品質の高さと、徹底したコスト削減による低価格等が評価され、中四国地方のみならず、中京から関東地方、九州から沖縄地方に至るまで幅広く販売されており、毎年春先から秋口に至るまでの定番商品として販売実績がある(甲第16号証)。
ところが、平成9年5月、広島市の衣料品卸商社より、請求人の商品とそっくりの商品が市場に出回っているとの電話連絡を受けた。当該商品の送付を受けて(甲第17号証)、商品に付されていた繊維製品品質表示者番号(C-EH1701)を照会したところ、被請求人の商品であることが判明した。
その後も、姫路市の衣料品卸商社をはじめ、大阪、東京、鹿児島、沖縄といった各地の取引業者から、請求人商品と類似の商品が出回っているとの電話連絡があった。被請求人商品の販売価格は、請求人商品の販売価格を下回っていたので、取引業者からは「自社よりも低価格で他社に納品しているのではないか」と苦情を言われることも多かった。
平成9年6月、請求人代表取締役Aが、被請求人代表取締役Bに対して電話をし、請求人の商品と類似する商品の製造販売を止めてほしい旨を申し入れた。しかしながら、翌平成10年になっても同じ状況であったので、同年4月24日付けで、被請求人に対して包装資材ほか外観の酷似した被請求人商品の販売を中止してほしい旨の警告書(甲第18号証)を郵送したところ、被請求人からは20年以上使用している商標であるから請求人商標とは誤認混同を生ずるおそれがないと反論された(甲第19号証)。
平成10年12月22日、請求人代表取締役Aと同専務取締役Cは、被請求人本社を訪問し、被請求人営業担当者D(甲第20号証)に対して類似商品の販売中止を申し入れた。
平成12年1月より、請求人では商品の出荷を開始したが、被請求人商品は流通量も以前に増して多くなっているらしく、請求人商品の納入先(衣料品卸問屋)から両商品を混同した電話が寄せられている(甲第21号証、甲第22号証)。
(2)本件商標と本件使用商標との類似性について
被請求人の商品に付された商標(甲第23号証、以下「本件使用商標」という。)は、別掲(4)のとおり、隅丸正方形の細線枠内に欧文字「L」と「B」とを組み合わせた図形部分と、左横書きされた「La blarNu」または「La blarnu」の欧文字部分との結合商標であり、婦人用ニットシャツの衿ネーム部分と胸中央部分とに刺繍されているほか、包装袋下部の色帯上に印刷されている(甲第23号証)。
そこで、本件使用商標を本件商標(甲第1号証)と比較すると、
a.図形における隅丸正方形をした細線枠の有無、
b.欧文字中「r」の文字の高さ、
c.欧文字中「N」(大文字)か「n」(小文字)か、
d.欧文字中「U」(大文字)か「u」(小文字)か、
の点において相違点がみられ、両商標は同一商標ではないが、少なくとも欧文字部分から生ずる称呼「ラ・ブラーニュ」等を共通にする類似商標であることは明らかである。
また、本件使用商標が付された商品「婦人用ニットシャツ」は、本件商標の指定商品中「被服」に含まれる商品であることも明らかである。
なお、平成9年5月頃に販売されていた被請求人商品(甲第17号証)における本件使用商標の使用態様では、衿ネームに刺繍された図形部分には隅丸正方形をした細線枠が見られないが、現在のその使用態様(甲第23号証)では、衿ネーム、胸のワンポイントマーク及び包装袋の全ての図形部分に細線枠が付加されている。
(3)本件使用商標と引用使用商標との比較について
次に、請求人の商品に付された商標(甲第24号証、以下「引用使用商標」という。)は、別掲(5)のとおりであるところ、本件使用商標(別掲(4)、甲第23号証)とかかる引用使用商標とを比較すると、
a.衿ネームにおいて、白地に紺色で商標を刺繍表示している点、
b.商品において、その胸中央部に白色糸を用いて、図形商標を上段に、文字商標を下段にして、各々刺繍表示している点、
c.商品の包装袋には透明包装袋を用い、最下部に横方向に銀色で幅広の帯を付し、該帯上に紺色で商標を印刷表示している点において共通しており、しかも、各使用商標の配置と大きさは略同一である。
さらに、同じように折り畳まれた商品は、色、柄に至っても同様なデザインが多く、同じ大きさの包装袋内に収容されているために、一見して判別しにくい状況にあることは明白である(甲第25号証)。
(4)被請求人が故意に混同を生じる使用をしていることについて
前述のように、請求人は、被請求人に対して再三にわたって請求人商品と混同を生ずるような態様での使用を中止してほしい旨を申し入れているにもかかわらず、現在においてもその使用態様は変更されておらず、その結果、取引業者間において請求人商品と被請求人商品との間に混同が生じている。
しかるに、本件商標の商標権者たる被請求人が、故意に、本件商標の類似範囲内における商標の使用によって、他人たる請求人の業務に係る商品と混同を生じるものをしているので、商標法第51条第1項の規定に該当することは明らかである。
(5)被請求人の答弁に対する弁駁
(ア)商標法第51条第1項の規定に基づく取消審判は、商標権者が故意に自己の登録商標の類似範囲内における登録商標の使用によって他人の業務に係る商品等と混同を生じさせた場合を規制対象としているのであるから、被請求人による被請求人登録商標の類似範囲内における登録商標の使用が規制対象とされるのであって、同項適用に際して、請求人の登録商標との類似関係が問題とされることはない。
もとより、請求人が審判請求書において2件の請求人の登録商標を引用したのは、請求人の使用商標の法的裏付けを立証するためにすぎない。
(イ)甲第21号証は、請求人商品(甲第24号証)と被請求人商品(甲第23号証)とが商取引市場において混同されている事実を立証しようとするものである。
また、被請求人が答弁書中に引用した判決例は、商標の類否判断における判断基準に関するものであって、事案が全く異なる。ましてや、請求人商品と被請求人商品との間に実際に混同が生じているか否かは、商取引の実情に照らして各事案毎に個別判断されるべき性質のものであって、画一的な判断基準に馴染まないものである。
そして、請求人ら所謂製造業者により縫製されたこの種の女性用衣料品は、大小様々な卸商社を介して、全国に無数に存在する小売業者に対して供給されるのが通例である。その際、仕入れを行う小売業者では、甲第22号証に見られるような各卸商社が作成した商品カタログに基づいて発注を行っている。請求人が上記(3)で述べた事項a.ないしc.に加えて、同じ大きさの包装袋内に、色、柄に至るまで同様なデザインが施された商品が収容されるために外見が酷似してしまい、一見して両商品を識別することはむずかしい。ましてや、甲第22号証に代表される卸商社作成の商品カタログ中に掲載される商品写真は小さく、細部について判別するのはほとんど不可能であるから、取引関係者が両商品を混同してしまうのである。
要は、現実の取引市場において、被請求人の商品が請求人の商品と紛らわしく、混乱を生じていることが問題なのである。商標が相互に類似していても現実の商取引市場において明確に識別されている事例が見られるように、商標の類否と商品の混同有無とが必ずしも一致しないことは、経験的事実の示すところである。
(ウ)前述した請求人商品と被請求人商品との共通点についてみると、確かに、各共通点のそれぞれは、衣料品分野において従来から慣用的に用いられてきた商標の表示手法であることは否めない。
しかしながら、そもそもボーダー柄の女性用ニットシャツという商品自体がデザイン的に近似しているにもかかわらず、故意に請求人の表示方法と逐一酷似した表示手法を被請求人が総合的に採択使用したために、両商品の外観が全体として酷似してしましい、その結果、一見しただけでは両商品を識別することが困難になってしまったのである。
商取引市場において商品の混同が生じている事実については、その性質上、実際に誤認混同が生じて迷惑している商取引先の陳述よりほかに有効な直接証拠が想定し難いものと思料されるが、請求人商品と被請求人商品の対比写真(甲第25号証の1ないし5)に示されているとおり、両商品は一見して判別しにくい状況にあることは明白であり、両商品の流通経路、取引者、需要者の共通性に照らせば、両商品の外観が酷似していることが、すなわち、誤認混同が生じることの証左である。
(エ)商標の表示方法には無限とも言うべき選択肢が存在しているにもかかわらず、被請求人が敢えて請求人商品におけると同様な商標の表示方法を採択使用している事実に照らせば、被請求人において、請求人商品と混同を生じさせることを認識していたことは明白である。そして、請求人が再三にわたって被請求人商品における本件使用商標の態様を変更してくれるよう求めたにもかかわらず、被請求人では同じ態様で継続使用しているのであるから、請求人と同業者である被請求人において誤認・混同の未必の故意があることが推定できるのである(甲第27号証)。
さらに、請求人が平成10年2月17日付けで商標登録出願を行いつつ、既存の取引先に対して当該出願商標を付した商品の提供を開始したところ、被請求人においても同年5月20日付けで商標登録出願を行っている。これら請求人出願商標(甲第28号証)と被請求人出願商標(甲第29号証)を比較すると、ともに「C」と「V」のモノグラムからなる図形商標と、「VALENTINO」を含んだ文字商標とを上下二段に結合させてなる点において奇妙な程に共通している。請求人商品の発売開始と時期を同じくして同様な商標が出願されたことは偶然の一致とは思われず、被請求人において、請求人商品に追従しようとする意図が推認されるのである。
(オ)まとめ
商品の提供者は、自己の提供する商品を競業他者の提供する商品と区別し、需要者・取引者に対して自己の商品の優位性をアピールしてその購入を動機づけるべく、競業他者と識別できるような商標を採択使用するのが通例であり、それがまた、健全なる商意識に基づく表示行為というべきである。しかるに、被請求人は、殊更に請求人商品と酷似した表示手法を採用し、請求人商品との間に現実に誤認混同を生じせしめている。
被請求人の「被請求人の登録商標の使用は、一般に使用されている(乙第1号証)登録商標の行使であって」という主張から明らかなように、被請求人による本件使用商標の使用は被請求人が所有する本件商標の類似範囲内における使用に該当する。
また、被請求人は、少なくとも請求人の引用使用商標の存在を知って故意に当該使用行為に及び、その結果、請求人商品との間に現実に誤認混同が生じているのであるから、被請求人の行為は商標法第51条第1項の要件を具備している。

3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証を提出している。
本件は、商標法第51条第1項の規定に基づく本件商標の取消審判に係るものである。
ところで、本件商標は図形と文字によりなるものであるところ(指定商品は商標公報記載のとおり。)、本件商標の使用は一般に使用されている方法による登録商標の行使であって(乙第1号証)、本件商標を付記変更して請求人の登録商標と類似させ、商品(指定商品)を販売しようとする故意はないものである。
以下、本件使用商標は、請求人の登録商標に類似させている商標ではないことを答弁する。
(1)本件使用商標の使用中止要請について
請求人は、その製造販売に係る婦人用ニットシャツは品質優良で国内において広く販売されていると主張するとともに、現在まで継続的に使用しているとして甲第14号証及び甲第15号証、販売実績として甲第16号証、さらに、請求人の商品と被請求人の商品とを混同したとする事実を証する証拠として甲第21号証及び甲第22号証を提出している。
しかしながら、これら証明書の陳述者は何れも請求人の特定の取引先であり、被請求人とは競業関係にあるから、これら証明書は上記事実の証明としては信憑性に欠ける。請求人が文書を作成して取引先(私人あるいは法人)にその証明を依頼すれば、誰でも証明捺印することが多々見られるからである。(東京高裁判決平成2.4.24無体集22巻1号311、元東京高裁判事竹田稔著「知的財産権侵害要論」第3版523頁参照)。
(2)本件商標と引用登録商標1との類似性について
本件商標と引用登録商標1とが類似する商標であるとの請求人の主張は認めない。商標の類否については、商標の外観、称呼、観念から判断すべきである。
(ア)外観について
本件商標は、別掲1のとおり、縦横同一の大きさの肉厚を有する「L」内にやはり同一の大きさの肉厚を有する「B」の文字を著しく大きく強く顕著に表し、その右側にさらに「La blarNU」の欧文字を小さく弱く横書きして表したものである。
これに対し、引用登録商標1は、ありふれた四角形の輪郭内に毛筆にて肉太く縦横長さ不同の逆カネ尺の図形を表し、この逆カネ尺の2辺内部に、側面より見た背もたれとシートよりなる椅子の形状を図形化して表し、シートの上方に、カネ尺と背もたれに間隔をおいて、毛筆で漢字の「一」の文字を横書きして独立して表している。
故に、両者は著しくその構成態様を異にするので、一般取引者、需要者が通常払う注意力をもってするも、何等、外観において出所混同を来すおそれのない商標である。
(イ)称呼、観念について
本件商標は、上記(ア)に記したとおりの構成よりなるところ、構成中、図形からは称呼、観念は生じない。文字は「ラブラーニュ」と称呼する。
これに対し、引用登録商標1は、特定の称呼、観念は生じないものである。故に、本件商標と引用登録商標1とは、外観、称呼、観念において著しい差異があるので、両者は非類似の商標である。
よって、本件商標は、請求人の引用登録商標1に類似させたものではない。
(ウ)甲第17号証及び甲第23号証における本件使用商標の使用態様について
請求人は、甲第17号証での本件使用商標の使用態様では衿ネームの図形部分には隅丸正方形をした細線枠が見られないが、甲第23号証では、全ての図形部分に細線枠が付加されていると主張している。
けだし、甲第23号証の図形部分における四角形の輪郭は、特別顕著性を有するものではなく、被服等を取扱う業界においては商標の輪郭として普通に採択使用されている事実が認められるので(乙第2号証)、このありふれた四角形の輪郭は商標とはいえない。
さらに、本件商標は、図形と文字によりなるものであるので、使用上商品に2段に付して使用しても本件商標の使用といえるものである。
(3)本件使用商標と引用使用商標との比較について
請求人は、本件使用商標(甲第23号証及び甲第25号証)と引用使用商標(甲第24号証及び甲第25号証)とを比較し、両者は互いに共通している点があるので、一見して判別しにくいと主張している。
けだし、請求人の指摘する、「a.衿ネームに刺繍表示している点」については、指定商品中の「被服」、特に洋服、セーター類、寝巻き類の商品においては、商標は殆ど衿ネームに刺繍表示しており、この場合、衿ネームの布の色と刺繍の色は、従来より、衿ネームが黒地だと刺繍は銀色若しくは金色等の白っぽい色を、衿ネームが白地だと刺繍は紺色若しくは黒色等の黒っぽい色を使用しているのが多々見られ、これはセンスの面からみても自然であり、周知の事実である(乙第1号証、乙第3号証ないし乙第7号証)。また、「b.図形商標を上段、文字商標を下段にして各々刺繍表示している点」についても、従来より、洋服等のニットシャツにはセンスの面からみて紳士服、婦人服を問わず多々見られる周知の事実である(乙第1号証、乙第3号証及び乙第8号証)。さらに、「c.商品の包装袋に透明袋を用い、最下部に横方向に帯を付し、該帯に商標を表示している点」についても、従来より、包装袋の最下部に横方向に帯を付し、該帯に商標を表示した透明袋にて被服を包装することは周知の事実である(乙第5号証、乙第6号証及び乙第9号証)。
このように、被請求人は、本件商標を従来より周知の方法で使用し販売しているものである。請求人は、何等混同の事実を提示していない。特定の取引先の主張(甲第21号証)のみの証拠は客観性に乏しく説得力を欠くものである。
請求人は、本件において前提として、本件商標と引用登録商標1との類否関係を明白にした上で、故意に出所について混同を生じさせた事実の有無を主張すべきである。
(4)被請求人が故意に混同を生じる使用をしているとの主張について
請求人は、再三、被請求人に使用の中止方を申し込んだとして、甲第18号証を提出している。
けだし、被請求人は甲第18号証を受け取り、甲第19号証のように回答しているので、請求人によるこの主張は信憑性がないものである。被請求人は、本件商標を法の範囲内において商品につき善意に使用しているものである。
すなわち、被服において、縦縞、横縞等は定番であって(甲第22号証のカタログ番号74138及び74139、乙第1号証、乙第4号証)、また、被服に商標を付す場合、図形と文字とを2段に表示したり、衿ネームに刺繍により施したりするのは今日では一般的になっている。
ここで、故意というのは、登録商標を使用するに当たり、結果として商品の品質の誤認を生じさせること又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り、必ずしも他人の商標に近似させたいとの意図をもってこれを使用していたことまでを必要としないとしている(最高裁(昭56.2.24)三小判、昭55行ツ139号)。
この点について、被請求人は善意であって、以上述べたとおり、被請求人は、本件商標を商取引において一般的に使用されている周知の方法で使用しているものである。
したがって、決して故意に請求人の商品と誤認混同させる認識はない。
(5)むすび
以上述べたように、被請求人が故意に本件商標の類似範囲内における商標の使用によって、他人の業務に係る商品と混同を生じさせているという請求人の主張は、理由がないものであるから、本件商標は、商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきでなく、答弁のとおりの審決を求めるものである。

4 当審の判断
(1)本件商標と本件使用商標について
(ア)本件商標は、別掲(1)のとおり、アルファベットの「L」と「B」を組み合わせた如き図形(以下「LB図形」という。本件使用商標の構成中の同図形についても、以下同じ。)と、「La blarNU」の欧文字を「a」と「b」の文字間に半文字程の間隔をあけ、「r」の文字は大文字と同じ大きさで、「NU」の文字は小文字程の大きさで一連に表した構成、態様よりなる文字部分とを連結した構成からなり、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服」を指定商品とするものである。
(イ)これに対し、本件商標を商標権者が使用しているとして請求人が提出した甲第23号証によると、本件使用商標は、別掲(4)(3枚の写真)のとおり、商品「婦人用ニットシャツ」について、その衿ネーム、シャツの胸の部分、商品包装袋の下部の幅広の帯状部分のそれぞれに表示した図形と文字とによりなるものであって、衿ネームとシャツの胸の部分の表示は、四隅を丸くした四角形の輪郭線で囲ったLB図形(ただし、胸に表示の同図形の「L」の部分はやや大きめに表されている。)と、その下段に全体が明朝体風により表された「La blarNu」(「N」は小文字と同じ大きさで表され、「a」と「b」の文字間には半文字程の間隔がある。)の欧文字とを上下に配した構成からなるものであって、衿ネームの表示は白色の地に紺色で、シャツの胸の部分の表示は白色糸の刺繍により表されている。
また、商品包装袋の下部の幅広の帯状部分の表示は、四隅を丸くした四角形の輪郭線で囲ったLB図形と、その下段に全体が明朝体により表された「La blarnu」(「L」の文字は大文字、他の文字は小文字で表され、「a」と「b」の文字間に半文字程の間隔がある。)の欧文字とを上下に配した構成からなるものであって、紺色で表示されている。
加えて、上記衿ネームには、本件使用商標の図形部分の右側に小さく「PARIS」の文字が紺色で表示され、商品包装袋には、帯状部分の左上方に「LADY’S FASHION」の文字、本件使用商標の図形部分の右側に「PARIS」の文字がそれぞれ小さくいずれも紺色で付記されており、衿ネームに紐で括り付けられている下札には、「FUJISAKA SHOJI CO.,LTD」及び「日本製」等の文字が記載されている。
そして、本件使用商標を表示した商品の包装状態(以下「本件商品使用態様」という。)の全体は、別掲(6)(甲第25号証の1の上段のもの)の左側に示した商品のとおりである。
(ウ)しかして、本件商標と本件使用商標との類否についてみるに、両商標の構成は、上記(ア)及び(イ)のとおりであるところ、両者は、本件商標がLB図形部分を文字部分の先頭に配し表示してなるのに対し、本件使用商標は四角形の輪郭線内にLB図形を配し、同図形部分を上段に、文字部分を下段に表示してなる点に相違があるものの、両商標のLB図形部分はほぼ同一と認められ、また、文字部分は、本件商標が「La blarNU」、本件使用商標が「La blarNu」及び「La blarnu」の欧文字よりなるものであって、その構成文字を共通にし、それぞれより生ずる「ラブラーニュ」の称呼も同じくするものであるから、結局、両文字部分も、互いに類似する関係にあるとみることができる。
そうすると、本件において、商標権者(被請求人)がその商品について使用する本件使用商標は、本件商標と類似する商標であり、また、その使用に係る商品「婦人用ニットシャツ」も本件指定商品中に含まれるものと認められる。
(2)引用使用商標について
請求人の引用登録商標1は、別掲(2)のとおり、直ちに特定の事物を認識し得ない抽象的な図形よりなり、他方、引用登録商標2は、別掲(3)のとおり、「Be balcan」の欧文字よりなり、いずれも第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品とするものである。
しかして、甲第24号証によれば、引用使用商標は、別掲(5)(3枚の写真)のとおり、引用登録商標1及び2とほぼ同様の構成からなる表示を、商品「婦人用ニットシャツ」について、その衿ネーム及び商品包装袋にはともに紺色で左右に併記して表示してなるものであり、シャツの胸の部分には白色糸の刺繍により、下札には紺色でともに上下に表示されてなるものである。
そして、引用使用商標の構成中の図形部分は、引用登録商標1に比し、輪郭線とそれに内接する図形との隙間をやや狭く表してなり、また、輪郭線内の図形が、やや丸みを持った太線で描かれているものを、直線的に描き全体として整然としたものに変更して表示されており、同構成中の文字部分は、引用登録商標2がゴシック体であったものを明朝体風に変更して表示されていることが認められる。
加えて、その衿ネームには、図形部分の下段に小さく「MILANO」の文字、「Be balcan」の文字部分の上段に小さく「LADY’S FASHION」の文字が、いずれも紺色で表示されている。下札の図形部分の上段には「LADY’S FASHION」の文字が紺色で表示され、商品包装袋の下部の幅広の帯状部分に表示された「Be balcan」の文字の下段には、「MILANO」と「LADY’S FASHION」の文字が紺色で小さく二段に配して表示されている。
そして、引用使用商標を表示した商品の包装状態の全体は(以下「引用商品使用態様」という。)、別掲(6)(甲第25号証の1の上段のもの)の右側に示した商品のとおりである。
(3)本件使用商標と引用使用商標との混同のおそれについて
本件使用商標及び引用使用商標の構成は、前記(1)及び(2)で述べたとおりであるところ、両使用商標は、それぞれ図形部分と文字部分からなるが、その図形部分は、いずれも四隅を丸くした四角形の輪郭線をもって、構成全体をほぼ正方形状にまとめたものである点において共通するとしても、その内接する図形において、前者はアルファベットの「L」と「B」を組合せた如き図形であるのに対し、後者は特定なものとして捉えることのできない抽象的な図形であるから、これら図形部分は、その構成上の相違により外観上明瞭に区別し得るものであり、両図形よりは特定の称呼、観念を生じないから、かかる点において類似するものともいえない。
また、両使用商標中の文字部分は、いずれも欧文字からなるものであるが、前者は「La blarNu」及び「La blarnu」の文字を書してなるものであって、「ラブラーニュ」の称呼を生ずるものと認められ、後者は「Be balcan」の文字を書してなるものであって、「ビーバルカン」の称呼を生じるから、両称呼はその構成音の全てを異にし、互いに相紛らわしいものとは認められず、観念上、両文字よりはともに特定の意味合いを看取し得ないから比較し得ないものであり、外観において相紛れるものでないこと明らかである。
そして、両使用商標は、それぞれを構成する文字及び図形の全体を一体のものとしてみても、互いに類似するといった事情は認められないものである。
してみると、本件使用商標と引用使用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛らわしい類似するものということはできない。
したがって、商標権者が本件使用商標を「婦人用ニットシャツ」について使用したとしても、そのことによっては、引用使用商標と相紛らわしく、該商品が請求人の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生じるおそれがあるとすることはできない。
(4)請求人の主張について
請求人は、本件商品使用態様と引用商品使用態様とを比較し(別掲(6)、甲第25号証)、両者は、「a.衿ネームにおいて、白地に紺色で商標を刺繍表示している点」、「b.商品において、その胸中央部に白色糸を用いて、図形商標を上段に、文字商標を下段にして、各々刺繍表示している点」、「c.商品の包装袋には透明包装袋を用い、最下部に横方向に銀色で幅広の帯を付し、該帯上に紺色で商標を印刷表示している点」において共通しており、しかも、各使用商標の配置と大きさは略同一である。さらに、同じように折り畳まれた商品は、色、柄に至っても同様なデザインが多く、同じ大きさの包装袋内に収容されているために、一見して判別しにくい状況にあることは明白であるとして、商標権者の本件使用商標の「婦人用ニットシャツ」への使用は、請求人の商品と出所の混同を生じさせるものであると主張し、併せて、兵庫県姫路市所在の衣料品卸商社の担当者の「同業者が頒布していた商品カタログにおいて、・・・弊社が購入していた商品『Be balcan』とは異なる商標が付されていることがわかりました。・・・見た目が同じ商品が弊社より安価で販売されている事実には相違なく、今後、弊社取引先小売店より苦情が寄せられないかと心配です。」と記した旨の陳述書を甲第21号証として提出している。
ところで、商標法第51条第1項に規定する取消審判においては、商標権者が、故意に、その商標権のうちの類似範囲の商標の使用であって、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も同法の審判を請求できるものと解されるところ、同条第1項で定める「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」とは、商標権者が登録商標に類似する商標の使用をすることによって、その使用された商標と他人の使用に係る商標とを取引者、需要者が混同し、当該他人の業務に係る商品と混同を生ずるものとなったときと解される。
そして、この場合、「混同を生ずるもの」とは、商標法第2条第1項で規定する商標(登録商標)自体に関してのものをいい、それ以外の商品を表示するものによる混同、例えば、商品の模様や商品の包装のデザイン等によっての混同は含まれないと解される。
しかるに、上記請求人の主張は、商品の模様、デザイン及びその商品を包装状態に折り畳んで包装した状態での形状、商標を表示する衿ネームの地色、そこに表示されている商標等の表示の色彩、包装袋の形態、帯状の表示部分のデザイン等の共通性、また、その商品の包装状態においての全体的色彩、文字の配置等、両商品の外観が似ていることを理由として、商品の出所について混同を生じていると主張するものである。
そうすると、かかる主張は、本件商標の類似範囲の使用自体に由来しない事実を前提として互いの商品の出所の混同を述べるものであるから、上記した商標法第51条第1項の取消審判での取消理由には該当せず、また、甲第21号証の事業者の陳述も同様の事情を前提としているものと推測されるので、結局、上記請求人の主張は採用することができない。
そして、請求人は、当審が平成15年9月12日付けで、請求人が「婦人用ニットシャツ」について使用する引用使用商標の周知、著名性について回答を求めた「審尋」に対して、応答するところがないものであり、そうすると、請求人の提出した証拠のみによっては、被請求人が本件使用商標を採択、使用していた頃(平成9年5月から平成12年1月にかけて)、引用使用商標が取引者、需要者間に広く知られていたものであったということもできないものである。

5 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件商標に類似する本件使用商標を「婦人用ニットシャツ」について使用しているとしても、その使用は、請求人の業務に係る商品と混同を生じさせるものをしたとは認めることができないものである。
したがって、本件商標は、商標法第51条第1項の規定により、その登録を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲


別掲
(1)本件商標





(2)引用登録商標1






(3)引用登録商標2





(4)本件使用商標(衿ネームの部分、シャツの胸の部分及び商品の包装袋の下部帯状部分に表示されているそれぞれの商標。)





(5)引用使用商標(衿ネームの部分、下札の部分、シャツの胸の部分及び商品の包装袋の下部帯状部分に表示されているそれぞれの商標。)





(6)本件商品使用態様(左)と引用商品使用態様(右)


審理終結日 2007-01-16 
結審通知日 2007-01-22 
審決日 2007-02-09 
出願番号 商願平9-111908 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (Z25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金子 尚人 
特許庁審判長 柴田 昭夫
特許庁審判官 佐藤 松江
岩崎 良子
登録日 1998-10-16 
登録番号 商標登録第4200205号(T4200205) 
商標の称呼 ラブラルヌ、ブラルヌ、ブラーヌ 
代理人 河野 隆一 
代理人 森 廣三郎 
代理人 森 寿夫 

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