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審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない 025
管理番号 1146741 
審判番号 無効2005-89135 
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2006-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-10-17 
確定日 2006-10-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第3238398号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3238398号商標(以下「本件商標」という。)は、「ウォークバルーン」の片仮名文字を横書きしてなり、平成6年2月7日に登録出願され、第25類「仮装用衣裳として用いられる被服」を指定商品として、同8年12月25日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第22号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)請求人は、被請求人によって本件商標につき権利主張を受けており、双方の間では大阪地方裁判所平成17年(ワ)第5588号に係る侵害訴訟事件が係属中であり、請求人は本件商標権の消長につき、重大な利害関係を有している。
(2)無効理由
本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しており、主位的には同法第46条第1項第1号に基づき、当初から存在しなかったものとして扱うべきであり、予備的には商標法第46条第1項第5号に基づいて無効であり、遅くとも、平成12年12月20日以降存在しなかったものとして、扱うべきである。
(3)無効原因
(3-1)本件商標の基本構成
(a)本件商標は、「ウォークバルーン」によって構成されているが、「ウォーク」の構成部分は、「歩く」の観念を有しており、「バルーン」の構成部分は、「気球又は風船」の観念を有している。
(b)本件商標は、「ウォーク」と「バルーン」とが連続して表示されており、双方が分離されていないが、双方の観念が自明であって、単なる造語に該当しないことを考慮するならば、本件商標は、前記各観念を有している「ウォーク」と「バルーン」との結合商標である。
(3-2)登録査定前後におけるバルーン構造の仮装用衣服の存在及び本件商標の「バルーン」の趣旨
(a)甲第1号証は、被請求人出願に係る実用新案の公開公報(本件商標が登録査定を受けた平成8年7月25日より前の平成5年5月7日公開)であるが、考案の対象である「イベント用ぬいぐるみ」について、「バルーン状」にふくらませることを特徴とするイベント用着用ぬいぐるみ」と表現していることからも明らかなように、空気の導入及び充満に基づき、気球のようにバルーン状に膨らんだ状態の仮装用衣服(以下「バルーン構造の仮装用衣服」という。)の存在を公然と明示している。
(b-1)(イ)本件商標の登録査定日以前に、バルーン構造の仮装用衣服は、既に市場に出現している(甲第2号証ないし甲第5号証)。
(ロ)上記各甲号証からも明らかなように、バルーン構造の仮装用被服について、被請求人を含む少なからぬ業者が「バルーン」の用語を用いて空気の導入及び充満に基づく気球状に膨らんだ状態の特徴点を説明している。
具体的には、被請求人は「歩くバルーン着ぐるみ」、「歩くバルーンぬいぐるみ」、「軽量エアバルーン型のぬいぐるみ」という表現を、株式会社イベントサービスは「人間が入って動くバルーン」、「人間が入る広告バルーン」の表現を、有限会社フェニックスクリエーションズは、「従来のバルーン」の表現をそれぞれ採用した上で、前記特徴点を説明している。
(ハ)このような状況は、「バルーン」による表示部分が正にバルーン構造の仮装用衣服において、空気の導入・充満によって、気球のように膨らんだ状態による特徴点に基づく商品としての品質を表すからにほかならない。
(ニ)被請求人及び株式会社イベントサービスは、それぞれ「ウォークバルーン」、「ジャイアントバルーン」という「バルーン」の表示部分を伴う商標を使用している。当該使用は、必然的に各商標において、「バルーン」の表示部分が、前記特徴点に基づく品質を表すことの反映である。
かくして、本件商標の登録査定が行われた平成8年7月25日当時、既にバルーン構造の仮装用衣服が存在しており、かつ本件商標の「バル一ン」部分がバルーン構造に基づく商品の品質を表していたことは、間違いない。
(b-2)(イ)本件商標の登録査定の後の段階におけるバルーン構造の仮装用衣服が、商品として取り扱われている(甲第6号証ないし甲第17号証)。
(ロ)上記各甲号証からも明らかなように、前記登録査定後には、幾多の業者がバルーン構造の仮装用衣服を取り扱っており、しかも、請求人を含む少なからぬ業者において「肩車バルーン」、「おんぶバルーン」、「送風機式バルーン」、「アドバルーン&着ぐるみ」、「バルーンコスチューム」、「ウォークバルーン」、「エアロバルーンロボット」、「インフレイタブルバルーン」、「アメリカン・バルーン・レンタル」、「エアウォークバルーン」などのように、「バルーン」の表示部分を伴う商標を使用している。
このような状況もまた「バルーン」による表示部分が当該仮装用衣服による商品の品質を表していることの明瞭な証左である。
(c)かくして、本件商標の「バルーン」は、前記登録査定の段階において既にバルーン構造という仮装用衣服の商品としての品質を表しており、登録査定後の段階においては、そのような傾向は益々顕著となったことが明らかである。
(3-2)本件商標の審査過程
(a)前述のように、本件商標の登録査定前以前において、既にバルーン構造の仮装用衣服は公然たる取引、及び販売及び宣伝広告の対象として存在していた。
(イ)ここで、本件商標の指定商品として、「バルーン構造の仮装用衣服」又は「送風式バルーン着ぐるみ構造の仮装用衣服」とした上で出願された場合を想定しよう。
この場合には、本件商標の内の「バルーン」が商品の品質を表しており、要部を「ウォーク」に求める以外にない。
しかるに、甲第18号証に示すように、「ウォーク」の名称を有し、かつ指定商品として仮装用衣服を包摂している先願商標は、既に存在していたのである。
(ロ)したがって、本件商標の指定商品として、実際の使用状況に基づき、バルーン構造の仮装用衣服という特定が行われた場合には、本件商標は、上記先願商標を引用に基づいて商標法第4条第1項第11号該当性を根拠として拒絶され、登録に至らなかったであろうことは、十分察知し得るところである。
とすれば、たまたま、指定商品につき、「仮装用衣裳として用いられる被服」と表示されているが故に、「バルーン」の部分が、商品の品質を表すことにつき看過されたが故に、本件商標は、登録に至ったというにすぎない。
(b)(イ)しかしながら、前記指定商品の場合には、本件商標はバルーン構造以外の仮装用衣服をも必然的に包摂していることに帰し、本件商標をバルーン構造以外の仮装用衣服に使用した場合には、必然的に商標法第4条第1項第16号の製品の品質に誤認混同に基づく拒絶理由の成否が当然の争点として浮上する。
(ロ)にもかかわらず、本件商標が登録査定に至ったのは、
(ロ-1)被請求人においては、本件商標を専らバルーン構造以外の仮装用衣服に使用することを目的とし、バルーン構造以外の仮装用衣服に使用することを目的としていなかったにもかかわらず、指定商品の表示において、先願商標の引用等による拒絶理由通知及び拒絶査定を避けるために前記使用の目的を秘匿し、かつ指定商品に関する限定表示を避けたこと、
(ロ-2)審査段階においては、バルーン構造の仮装用衣服が既に商品として現存していることは、商標審査官に必ずしも知悉されていなかったため、「バルーン」の部分が商品の品質を表すが故に先願商標との関係において商標法第4条第1項第11号に該当すること、更には本件商標が商標法第4条第1項第16号にも該当し得ることに気付かなかったが故に、これらの条項を根拠とする拒絶理由通知及び拒絶査定を為し得なかったことに由来している。
(3-3)商標法第4条第1項第16号の該当性
(a)(イ)同条同項同号の「誤認を生ずるおそれ」とは、「需要者にそのような認識が形成されるおそれがあれば十分であり」(東京高裁 44年9月17日付けの「RIP CAP」事件:判例タイムス241号254頁)、しかも、対象となる商標が品質を表す表示として、需要者に認識されている必要はなく(東京高裁 昭和56年5月28日付けの「Earl Gray」事件:無体財産集13巻1号471頁)、更には当該需要者には、取引業者も含まれている(例えば、田村義之著「商業概説」《株式会社弘文堂平成12年7月15日第2版第1刷発行》の206頁参照)。
(ロ)このような状況を反映して、特許庁の審査基準は、同条同項同号の判断基準として、当該品質が商品中に現実に存在することを要件としておらず、将来出現し得る品質につき、需要者において誤認する可能性がある場合には、同条同項同号に該当するものとして扱っているのである。
(b)(イ-1)本件商標の登録査定時においては、バルーン構造の仮装用衣服が取引業者において公然たる売買の対象となっており、しかも、名称としての「バルーン」の表示部分の存在によって「バルーン」の表示部分が、仮装用衣服の品質を示すものと理解し得た以上、その後において、バルーン構造の仮装用衣服の取引、及び当該取引を伴う「バルーン」の表示部分を含む商標の使用が拡大し、前記品質の表示が更に顕著となることは、十分予測し得る事態である。
(イ-2)とすれば、前記登録査定段階において、本件商標が近い将来において、取引業者を含む需要者をして、バルーン構造の仮装用衣服を想定させ、ひいてはバルーン構造以外の仮装用衣服に称された場合における商品の品質誤認を生ずるおそれが存在していたものというべきである。
(イ-3)現に、前述のように「バルーン」の表示を採用する業者が拡大していることは、事後の遡及によって、審査段階において、前記誤認を生ずるおそれを予測することが十分可能であり、かつ予測すべきであったことの明瞭な証左である。
(イ-4)かくして、本件商標は、同条同項同号及び商標法第46条第1項第1号に基づく無効理由を有している。
(ロ-1)あえて、前記登録査定時においてバルーン構造の仮装用衣服が取引業界において公然と存在していたことを度外視し、前述のような前記登録査定時より後において、幾多のバルーン構造の仮装用衣服が出現したことに着目した場合には、甲第16号証の2に示すように、特定の業者においてバルーン構造の仮装用衣服自体に対し、「バルーン」の用語を既に採用しており、この点は、前記において指摘したとおりである。
(ロ-2)このような状況は、仮装用衣服における「バルーン」の商品名における表示が、即、バルーン構造の仮装用衣服自体に該当することを証明しており、かつ、その業界においては、そのような表示が通用することを裏付けている。
甲第16号証の2の見積依頼書は、甲第16号証の1の案内書と共に平成12年12月20日に送付されているが、このような状況は、同一当時、既に仮装用衣服における「バルーン」の表示がバルーン構造の仮装用衣服自体を現すことを示している。
とすれば、たとえ、商標法第46条第1項第1号の該当性を度外視したとしても、平成12年12月20日において、同条同項第5号に基づく無効理由は、明らかに成立している。
(4)結論
以上より、請求の趣旨記載の審決を求めるものである。
2 弁駁の理由
(1)「ウォーク」と「バルーン」との関係
(a-1)「ウォークバルーン」が「歩く風船」という観念を生ずることは、「ウォーク」と「バルーン」とが固有の観念を有しており、双方が決して不可分一体でないことを示している。現に、「バルーン」の語を包摂した商標が使用されている。
このような状況は、「バルーン」の部分が固有の観念を有しており、かつ、他の部分と必然的に観念上分離可能であることを明瞭に証明している。
「バルーン」を含む本件商標においては、バルーン構造以外の仮装用衣服との間において、品質の誤認が生ずる危険性が存在したことを意味するものにほかならない。
(a-2)本件商標が「歩く風船」という趣旨を表示し得る点において、一定の観念上相互に関連を有している有意義な結合と解することができる。
しかしながら、商標法第4条第1項第16号の品質の誤認の成否は、結合の場合に何らかの意義が存在すると否とを問わず、構成部分が品質誤認の原因となるか否かによって判断されるのである。本件商標が観念上「ウォーク」の部分と「バルーン」の部分とに分離されることは、すなわち、「バルーン」に着目した上で、品質の誤認の成否の認定判断が可能である。
(b)被請求人主張の基本的問題点
被請求人の個別の主張について、以下のとおり反論する。
(b-1)被請求人は、本件商標の指定商品が第28類の「風船」及び第12類の「気球」ではない以上、本件商標の「ウォークバルーン」は、何ら仮装用衣服の品質を表していないと主張している。
(イ)しかしながら、バルーン構造の仮装用衣服が本件商標出願当時、既に業界において公然と存在しており、しかも、「バルーン」の部分がバルーン構造を示すことは、需要者(前記のように、ほとんどがイベント業者)において、十分察知し得るところである。ましてや、本件商標登録出願後においては、その危険性が益々増大していたことは、明らかである。
(ロ-1)あえて「ウォークバルーン」に着目した上で考察する。
第28類の「風船」、及び第12類の「気球」の分野においては、「ウオークバルーン」の「バルーン」が商品の品質を表すことは、疑いの余地がない。とすれば、第25類の仮装用被服においても、「バルーン」の部分がバルーン構造、すなわち、後述するような送風によってふくらんだ状態であることを表示し得ることに変わりはない。
(ロ-2)「ウォーク」の部分に着目するに、当該部分は、「歩く」の趣旨を示している以上、「ウオークバルーン」は、「歩行によって使用するバルーン構造の仮装用衣服」又は「歩いた状態のバルーン構造を示す仮装用衣服」という用法又は効能に基づく品質を表していることに変わりはない。
このような場合、前記用法又は効能を発揮し得ない仮装用衣服との商品の誤認混同が生ずることは、改めて指摘するまでもなかろう。
ちなみに、甲第2号証において、バルーン構造の仮装用衣服である「ジャイアントバルーンの別名称として「ウォークアラウンド」の商標が使用され、同様に、甲第10号証において、「ブロワーで空気を送り込むタイプの着ぐるみ」であるバルーン構造の仮装用衣服について、商標「ウォークアラウンドボールマン」が使用されていることは、「ウォーク」の部分が上記の趣旨を表示することの明瞭な証左である。
(ハ)かくして、前記主張は明らかに無意味かつ失当である。
(b-2)被請求人は、本件商標につき、被請求人によって創作され得た造語であって、本件登録出願前後において被請求人及びその許諾を受けた業者(甲第3号証及び同第13号証、同第17号証)以外の第三者によって使用された事実はないと主張している。
(イ)しかしながら、商標法第4条第1項第16号との関係において問題とすべきは、「バルーン」の部分が本件商標登録出願の前後において、バルーン構造の仮装用衣服を表示する危険性が存在するが故に、バルーン構造以外の仮装用衣服との品質の誤認が生ずる恐れがあるか否かの点にある。
このような場合、本件商標をいかなる当事者が創作したか否かは、同条同項同号の該当性とは別次元の事項である(そもそも商標においては、特許、実用新案、意匠とは異なり、「創作」の要素は、精々商標法第4条第1項第11号における類否の判断における斟酌事項にすぎない。)。
前記の点は、前記の判例において、造語即ち創作された商標であっても、同条同項同号に該当し得ることに照らしても明らかである。
したがって、たとえ本件商標が、被請求人が創作した造語であるとしても、このことは、何ら品質誤認の危険性の存否を左右し得ない。
(ロ)被請求人自身、バルーン構造の自らの実用新案登録出願において「バルーン状にふくらませることを特徴とするイベント用借用ぬいぐるみ」(甲第1号証)と説明すると共に、自ら製造販売を行っているバルーン構造の仮想用衣服について、「歩くバルーンぬいぐるみ」、「軽量エアバルーン型のぬいぐるみ」(甲第3号証)と説明しており、自らの商品がバルーン構造であることを明瞭に証明することによって、「バルーン」の部分がバルーン構造による品質を表すことについて、積極的なプロパガンダを行っているのである。
このような状況に即した場合、バルーン構造以外の仮装用衣服との間に品質誤認の危険性が存在することは、改めて指摘するまでもない。
(b-3)被請求人は、バルーン構造の仮装用衣服が本件商標出願当時において存在したとしても、「ウォークバルーン」が当該バルーン構造の仮装用衣服を指すと認められる状況など存在せず、本件商標がバルーン構造以外の商品に使用されたとしても、バルーン構造の仮装用衣服である旨の誤認が生ずることはあり得ないと主張している。
(イ)しかしながら、審判請求書第3項四1において指摘したように、商標法第4条第1項第16号の「誤認を生ずるおそれ」とは、「需要者、取引業者を含む」において対象となる商標が、予定の品質を表すことを認識されるに至っている必要はなく、そのような認識が形成される恐れがあれば十分であり、現に特許庁の審査基準もまた将来出現し得る品質につき、誤認する可能性があるか否かを判断基準としているのである。
(ロ)このような場合、本件商標出願当時、更には本件商標の登録査定時において、既にバルーン構造の仮装用衣服が公然と存在していたことは、前記誤認のおそれを明瞭に証明しているのである。
何故ならば、仮装用衣服の需要者のほとんどを占めている取引業者、即ちイベント業者においては、既に公然と知られているバルーン構造の仮装用衣服と接触することは、結局時間の問題にすぎず、このような場合「バルーン」の表示を伴った本件商標が出現した場合には、必然的にバルーン構造であることを想定し、逆にバルーン構造以外の仮装用衣服に対してそのような商標(その典型例である本件商標)が使用された場合には、品質誤認の危険性が生じ得るからである。
(2)「バルーン」の趣旨
(a-1)被請求人が言わんとしているのは、通常の普通名詞たる「バルーン」とは、「風船」又は「気球」の趣旨にすぎないが、本件商標における「バルーン」とは、具体的に「風船式」という点にある。
しかしながら、「バルーン」には、「気球状の」、「風船状の」、「ふくらんだ」ことをなす形容詞、さらには、「ふくらむ」、「ふくらませる」という動詞の趣旨、しかも、前記の主体又は客体として、ガウンなどの衣服も含まれている。
このような状況を反映して、仮装用衣服における「バルーン」とは、送風によってふくらんだ状態であるバルーン構造(被請求人のいう「風船式」)の趣旨として採用されたのである。逆に、被請求人の主張は、単に「バルーン」の名詞としての典型的な趣旨が「風船」、「気球」であることを指摘しているだけであって、「バルーン」が前記のような形容詞又は動詞としての機能を有しており、広義の趣旨として「風船式」を表示していることを全く失念しているものにほかならない。
(a-2)仮装用衣服においては、送風によって膨らんだ状態である。バルーン構造は、いずれもモーターを駆動源としてファンによって衣服内に送風を行っている。しかしながら、「バルーン」の表現による膨らんだ状態とは、決して当初からガス又は空気が封入され、膨らんだ状態である場合に限定されているわけではない。仮装用衣服の分野において、「バルーン」の表示が行われた場合には、送風によって膨らんだ状態を表すことは、需要者たる取引業者において十分察知し得るところであり、このような状態は、即「バルーン」が品質の表示に該当することにほかならない。
(b-1)被請求人は、乙第2号証に示すように、第25類の「洋服」の分野において、「BALLOON/バルーン」の商標登録が行われており、他方、乙第3号証に示すように、幾多の商品分野において、「…バルーン」の商標が登録されている旨を主張している。
しかしながら、このような主張もまた以下に述べるように、失当である。
(イ-1)乙第2号証の指定商品は「洋服」であって、本件商標の指定商品である仮装用衣服とは、異なる類似群コードに属している。
このような場合、乙第2号証が登録されたとしても、審査段階では当該分野において「バルーン」の用語が商品の品質を表す訳ではないという認定判断が行われたことを裏付けているにすぎず、何ら本件商標の登録査定が正しかったことを裏付ける訳ではない。
(イ-2)乙第2号証による商標の登録が正しかったのであれば、「洋服」の分野において「バルーン」が送風によってふくらんだ状態による品質を表す危険性が乏しいと判断されたというにすぎない。
これに対し、「仮装用衣服」を指定商品とした場合、登録査定時において、既に「バルーン」が商品の品質を表しており、かつ、将来そのような表示が益々増大することが予見された場合には、乙第2号証の場合と同列に論ずることはできない。
(ロ)かくして、乙第2号証及び同第3号証は、要するに商標法第4条第1項第16号に該当しない場合を例示しているにすぎず、本件商標について前記各乙号証の商標と同列に論ずることはできない。
(b-2)被請求人は、バルーン構造の仮装用衣服において「バルーン」の用語が使用されていることは、「風船式」であることを分かりやくするために当該表示が行われているにすぎず、他の表示(例えば、「ウォークアラウンド」、「エア・コスチューム」など)が採用されていることは、「バルーン」がバルーン構造(被請求人の言う「風船式」)の仮装用衣服の存在を認定し得る状況に至っていないことを示しているという趣旨の主張に及んでいる。
しかしながら、このような主張もまた以下に述べるように失当である。
(イ)「バルーン」の用語が「風船式」、即ちバルーン構造であることを分かり易くすることを目的として採用されていることは、即、「バルーン」の部分が、「風船式」、即ち、送風によってふくらんだ状態であるバルーン構造であることを証明することにほかならない。
したがって、前記被請求人の主張の前半部分は、自ら品質の誤認の危険性を自白していることにほかならない。
しかのみならず、前記のような趣旨による他の表現による商標が併存することは、逆に「…バルーン」による商標が客観的に送風によってふくらんだ状態であること、即ちバルーン構造であることを客観的に表示するものにほかならない。
(ロ)かくして、前記被請求人の主張は、他の商標の併存状態が却ってバルーン構造の仮装用衣服の定着性、更には本件商標がバルーン構造であることを証明していることを気付いていない者の立論にすぎない。
(b-3)被請求人は、甲第18号証に示すように、「WALK/ウォーク」が仮装用衣服を指定商品として登録されたことは、本件商標の「ウォーク」が商品の品質を表示しないと主張している。
(イ)しかしながら、甲第18号証の存在は、何ら「バルーン」の品質表示機能を否定する論拠とはならない。
(ロ)仮装用衣服の分野では、「ウォークアラウンド」(甲第2号証)、「ウォークアラウンドボールマン」、「歩いて使用する」、又は「歩いた状態をなす」のような用法又は効能に関する品質表示機能を示しており、現に被請求人自身「歩くバルーン着ぐるみ」、「歩くバルーンぬいぐるみ」(甲第3号証の1、2、3)の表現によって「ウォーク」が品質表示機能を有することを証明しているのである。
たまたま、甲第18号証の出願が昭和59年10月31日であって、前記各「ウォーク」の表示が仮装用衣服の分野において存在しなかったが故に、商標登録を受けたというにすぎず、このことは決して「ウオーク」の部分の品質表示機能を否定する論拠とはならない。
(3)大阪地方裁判所における訴訟事件との関係
別件侵害訴訟において、損害の立証に突入したことは、何ら侵害裁判所が本件商標を有効視していることの証左とはならない。
(c)かくして、前記は、何ら本件商標が有効視され得ることの間接証拠とはなり得ない。
(4)総括
審判請求書において指摘したように、甲第18号証の登録商標の存在を考慮するならば、本件商標は、バルーン構造による仮装用衣服という本来の商品が否定された場合には、当然拒絶査定を受けるべき状況にあった。
たまたま、商標法第47条に基づき、既に登録から5年を超える期間が過ぎてしまったため、本件商標については、甲第18号証商標を引用したことによる商標法第4条第1項第11号に基づく無効審判請求が既に不可能な状態に至っているが、このような本件商標に基づく権利主張は、業界において有害無益であって、本件商標には何ら“信用維持”の必要性など存在し得ない。
ここに、本件商標につき、無効審決を求めるものである。
3 第二弁駁の理由
(1)甲第1号証に係る実用新案の登録無効審判事件の審決(甲第22号証)の認定判断は、「バルーン状」という表現が当該実用新案登録出願の請求の範囲のみによる独自かつ固有の表現ではなく、一般的に妥当することを明らかにしている。
(2)「バルーン」の用語が、当初からガス又は空気が封入され膨らんだ状態だけでなく、送風などを原因として膨らんだ状態又は膨張した状態をも示しており、上記審決等の「バルーン状」の「バルーン」は、後者の趣旨として採用されていることは、明らかである。本件商標の「バルーン」の部分は、バルーン構造による品質を表現していることは、疑いの余地がない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
(答弁の理由)
1 無効理由の要点
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当することを理由とし、本件商標が商標法46条1項1号又は5号により無効であると主張している。請求人は、本件商標が商標法第46条第1項第5号に該当するに至った時として、平成12年12月20日を主張している。
2 無効理由に対する反論
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当すると主張するが、この主張は、以下に詳述するように全く失当である。
(a)本件商標は、各文字が同一の大きさのカタカナによって一連に記載されてなり、「ウオーク」と「バルーン」とが強弱、大小等によって区別されておらず、「ウォーク」と「バルーン」とに分離されない結合商標である。 このため、本件商標は、「ウォークバルーン」のみの外観及び「ウォークバルーン」のみの称呼を生じる一種の造語である。
日本における英語の普及により、「ウォーク」が「Walk」(歩く)、「バルーン」が「Balloon」(風船、気球)を意味することが取引者の間で知られ、本件商標「ウォークバルーン」が「歩く風船」なる観念を生じるとしても、これによって「ウォークバルーン」が「ウォーク」と「バルーン」とに分離される理由とはならない。
また、本件指定商品は、第25類「仮装用衣裳として用いられる被服」(類似群コード17A01〜17A04、17A07)であり、第28類「風船」(類似群コード24A01)や第12類「気球」(類似群コード12A02)ではない。「ウォークバルーン」は、何ら「仮装用衣裳として用いられる被服」の品質を表示していない。
「ウォークバルーン」なる言葉(商標)は、被請求人によって創作された全くの造語であり、本件商標出願時まで及び今日において、業界においても、業界外においても被請求人及びその許諾を受けた者を除く第三者によって使用されていた事実はない。甲第3号証の1ないし5は、被請求人自らの「ウォークバルーン」の使用を示し、甲第13号証及び甲第17号証は、被請求人から「風船式の仮装用衣裳として用いられる被服」を購入した者が「ウォークバルーン」を使用していることを示す。
出願時、「風船式の仮装用衣裳として用いられる被服」が存在していたとしても、そこから直ちに取引者、需要者の認識において、「ウォークバルーン」が「風船式の仮装用衣裳として用いられる被服」を指すものと認められる状況など、どこにもなく(請求人の提出証拠も、それが認められるようなものではない。)、取引の実情において、「ウォークバルーン」なる商標が「風船式でない仮装用衣裳として用いられる被服」に使用されたとしても、取引者、需要者が品質を誤認する、すなわち「風船式の仮装用衣裳として用いられる被服」であると誤認することなどない。
結局、本件商標は、「ウォークバルーン」全体で商標法第4条第1項各号の登録適格性が判断され、審査過程において何ら拒絶理由を受けることなく、適法に商標登録を受けたものである。
(b)また、そもそも、「バルーン」は、「風船。気球。」を意味し(乙第1号証)、「仮装用衣裳として用いられる被服」業界において、本件商標出願時においても、また今日においても、「アドバルーン」、「風船」又は「気球」しか着想させず、「風船式の仮装用衣裳として用いられる被服」の品質を意味するものと受け止められている状況にはない。指定商品第25類「洋服」について、登録商標「BALLOON/バルーン」(登録第917564号)が存在することもこれを裏付けている(乙第2号証)。また、「○○○○バルーン」なる登録商標は、数多く存在しており(乙第3号証)、「バルーン」部分が品質を表示するのであれば、このような多くの登録商標が存在するはずもない。
請求人の提出した証拠には、「風船式の仮装用衣裳として用いられる被服」において「バルーン」なる用語が使用されている事例も含まれているが、いずれも「風船式」であることから、わかりやすいように「バルーン」という言葉を使用しているという実態が示されているだけである。「仮装用衣裳として用いられる被服」ではない、人が着用しないインフレータブル(ふくらませて使う。膨張式の。)のものでも、「風船式」であるが故に「バルーン」という言葉を使用している(甲第5号証の1、甲第6号証の1、2、甲第15号証、甲第16号証の1〜4の一部)。一方、「風船式の仮装用衣裳として用いられる被服」は、一般には「ウォークアラウンド」(甲第2号証、甲第10号証)、「エアぐるみ」(甲第4号証の1、2)、「エアー・コスチューム」(甲第5号証の1)、「コスチューム」(甲第12号証、甲第16号証の4)、「風船スーツ」又は「エアー着ぐるみ」(甲第14号証の1、2)等と称されている。請求人の提出した証拠は、「バルーン」すなわち「風船式の仮装用衣裳として用いられる被服」という状況が存在していることを認めるに足りるものではない。
また、請求人が後発的無効理由発生日とする平成12年12月20日は、甲第16号証の1の日付によると思われるが、甲第16号証の1は、「インフレータブル・バルーン」の言葉が使用されていたことを示すにすぎず、何ら本件商標登録の後発的無効理由を示すものではない。請求人のこの主張は、当を得ていない。
(c)被請求人は、平成3年頃から自己の登録実用新案品について本件商標使用を開始し、本件商標が登録されてからは、本件商標の使用をしてきたものである(甲第3号証の1〜5)。業界において、被請求人の登録商標「ウォークバルーン」は、継続して信用を蓄積してきており、信用の維持にも努めてきた(甲第5号証の2)。被請求人が請求人を被告として提訴した大阪地方裁判所平成17年(ワ)第5588号の侵害訴訟事件も自己の登録商標「ウォークバルーン」の信用の維持を図ろうとするものである。
請求人は、この侵害訴訟事件においても、本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当し、本件商標が商標法第46条第1項第1号又は同第5号により無効であるとの主張を行ったが、当該侵害訴訟事件は、この主張にもかかわらず、損害論に移行している。特許庁においても、本件商標の信用維持の趣旨を理解してもらい、本件商標権の安定維持に寄与されることを望むものである。
3 結び
したがって、本件商標は、査定時及び現在において、商標法第4条第1項第16号に該当するものではなく、本件商標に同法第46条第1項第1号及び同第5号の無効理由は存在しない。請求人の主張は失当であり、本件商標に対する審判の請求は成り立つべきものではない。

第4 当審の判断
1 本件商標は、「ウォークバルーン」の文字を書してなるものであるところ、構成中の「ウォーク」の文字は、「歩く」という意味の語として、また、「バルーン」の文字は、「風船。気球」を意味する語として、よく知られている語であるから、構成全体として「歩く風船(気球)」ほどの意味合いを認識させるものである。
また、本件商標の指定商品「仮装用衣裳として用いられる被服」は、第25類の「被服」の範疇の商品であり、いわゆる「着ぐるみ」等が属する「仮装用衣服」とは、別異の商品というのが相当である。
2 請求人は、「バルーン」の用語自体が、バルーン構造自体を表示するものとして理解され、バルーン構造という仮装用衣服の商品としての品質を表しているとして、本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当する旨主張し、甲第1号証ないし甲第21号証を提出している。
しかして、請求人提出に係る証拠によれば、仮装用衣服等のイベント用品に係る業界において、「バルーン」の語が以下のように使用されている事実が認められる。
「バルーン状に膨らませることを特徴」(着ぐるみ)(甲第1号証)、「人間が入る広告バルーン」「人間が入って動くバルーン」「仕組みは風船をぬいぐるみにしたものでバルーン用の新素材」(着ぐるみ)(甲第2号証)、「歩くバルーンぬいぐるみ」(着ぐるみ)(甲第3号証の1及び3、甲第13号証)、「歩くバルーン着ぐるみ」(甲第3号証の2)、「ヘッドタイプのバルーン」(風船状のキャラクターのヘッド部分を棒の先に取り付けた商品)(甲第3号証の2)、「設置型の送風式バルーン」(甲第3号証の4)、「エアアーチ、フワフワ(子供向けジャンボ遊具)などのバルーン商品製作を手がけ」(甲第3号証の5)、「リズムに合わせてバルーンの腕を動かす」(甲第6号証の1)、「着ぐるみバルーン」「空気でふくらむバルーンの着ぐるみ」「着ぐるみバルーンの構造 バルーン部 材質・・ナイロン 制作方法・・ミシンによる縫製」(甲第7号証)、「バルーン式着ぐるみ 内部に小型の送風機と専用のバッテリーが内蔵された着ぐるみです。構造が送風機付きバルーンと同じで」(甲第8号証)、「イベント企画やバルーン、着ぐるみ等」「『ビッグバルーン』・・『着ぐるみ』・・」「バルーン式着ぐるみ」(甲第9号証)「インフレータブル・バルーン」(大型キャラクター、会場用ブースのエアスペース、新タイプの涼しい着ぐるみ等)」(甲第16号証の1)、「バルーンの上面にアートはありますか」(甲第16号証の2)、「ブースバルーンは広告効果抜群」(イベントの受付ブース等に使用する商品)(甲第16号証の4)、「バルーン式着ぐるみ」「バルーンコスチューム」(甲第16号証の6)
以上の事実からすると、「バルーン」の文字は、仮装用衣服等、イベント業界においても、風船状のものを表す場合に「バルーン」の語を使用する場合があることは認められるとしても、その文字のみをもって、例えば、送風式で膨らませて使用する(バルーン構造の)商品というような、特定の商品を表示するものとして、需要者(イベント業者等)に認識されているとまでは認めることができない。
そうとすると、上記のとおり、仮装用衣服に係る業界においても、「バルーン」の語が特定の商品を表示させるものとして認識されていないばかりでなく、本件商標は、前記のとおり、仮装用衣服とは別異の商品に使用するものであり、しかも、構成全体として「歩く風船(気球)」の程の意味合いを認識させるものであるから、これをその指定商品に使用しても、送風式で膨らませて使用する仮装用衣服であるかのごとく、商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるものとは認められない。
してみれば、本件商標は、その登録査定時についてはもとより、商標登録がされた後においても、商標法第4条第1項第16号に該当するものとすべき理由は、見当たらない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項第1号又は同第5号により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2006-08-07 
結審通知日 2006-08-11 
審決日 2006-08-23 
出願番号 商願平6-11557 
審決分類 T 1 11・ 272- Y (025)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩内 三夫村上 照美 
特許庁審判長 田代 茂夫
特許庁審判官 内山 進
柳原 雪身
登録日 1996-12-25 
登録番号 商標登録第3238398号(T3238398) 
商標の称呼 ウオークバルーン 
代理人 櫻林 正己 
代理人 赤尾 直人 
代理人 中村 敬 
代理人 森 隆行 

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