• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 128
管理番号 1139501 
審判番号 無効2005-89049 
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2006-08-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-04-15 
確定日 2006-04-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第2015373号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第2015373号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2015373号商標(以下「本件商標」という。)は、「SINGHA」の文字を横書きしてなり、昭和60年7月8日に登録出願、第28類「酒類(薬用酒を除く)」を指定商品として昭和63年1月26日に設定登録され、その後、平成10年1月20日に商標権の存続期間の更新登録がされているものである。

第2 請求人の主張(要点)
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第41号証(枝番を含む。)を提出し、人証の申請を行っている。
1 請求の利益について
請求人は、商品「ビール」に商標「SINGHA」を使用していたところ、平成16年11月15日、被請求人から請求人の輸入販売代理店である件外株式会社池光エンタープライズ(以下「池光エンタープライズ」という。)が本件商標の商標権を侵害する旨の警告を受け(甲第2号証)、これにより請求人の商品の販売が停止される場合には、請求人としては重大な経済的損失をこうむるおそれがあるので、本件審判請求をするについて利害関係を有する。
2 無効理由について
(1)請求人について
請求人(ブーン・ロード・ブルワリー・カンパニー・リミテッド)は、1933年創業のタイ国随一のビール醸造業者であり、その製造販売量は1985年当時でタイ国ビール消費量の90パーセントを占め、なかんずく商標「SINGHA」を付したビールはその中心的な製品として販売されていた。同ビールは、タイ国のみならずアメリカをはじめ全世界に輸出され、各地の品評会において受賞するなど、その著名性を改めて立証するまでもないほど、世界的に知られた商標となっている。
(2)登録商標取得の事情と商標権者
本件商標は、ローマ字により「SINGHA」の文字を書してなるものであるが、池光エンタープライズの代表者池田武彦が、請求人の輸入販売代理店として、請求人の製造販売に係る著名なビールである「SINGHA」ビールを輸入販売しようとして、販売のための広告宣伝活動を行っていた時期である昭和60(1985)年7月8日に、当時池光エンタープライズに雇用されていた原商標権者島田一夫によって登録出願され、昭和63年1月26日に商標登録されたものである。
当時、池光エンタープライズの社長池田武彦は、「SINGHA」ビールを輸入販売しようとして昭和58(1983)年9月23日に請求人と輸入代理店契約を結び、広告宣伝活動と酒類販売許可を得ることを企画し、活動を開始していた。池光エンタープライズは昭和60(1985)年4月23日から販売を開始した。
原商標権者島田一夫は、昭和58年7月1日池光エンタープライズに入社し、営業担当者として「SINGHA」ビールの輸入業務などに携わり、約2年6ヶ月在職の後、昭和61年1月突然出社しなくなり退職に至ったものである。前述の如く、この島田一夫の在職中の昭和60年7月8日に本件商標は登録出願された。以上に述べた島田一夫の池光エンタープライズ在職に関する事実は、甲第3号証(退職証明書)、甲第4号証(所得税源泉徴収簿兼賃金台帳)によって、並びに島田一夫の請求人とのかかわりは在職中の島田宛書簡、 甲第5号証の1(ALLOT OVERSEAS SUPPLIES LTD.からの書簡)、甲第5号証の2(RAJAVITHI INTERNATIONAL CO., LTDからの書簡)及び甲第31号証(昭和60年3月15日付京橋税務署長宛「事業もくろみ書」控)によって立証される。
(3)不正目的の存在
「SINGHA」は、タイ語で「獅子」の意味を持ち、タイにおいては請求人によって、独特な獅子の図形と併用した商標としてビールに使用されている。本件商標登録出願当時の日本において「SINGHA」といっても獅子の意味であることを理解若しくは連想する者は少なく、造語又は造語に近いものとして認識せられ、一般に使用される言葉ではなかった。その意味とその商標としての価値を知り得るものは、当時その輸入業務にかかわっていた原商標権者など一部の者しかいなかったものと思われる。したがって本件商標は、原商標権者が偶然あるいは独自に考案した標章ではなく、輸入業務に従事する中からなんらかの意図をもって、輸入するビールのラベルの一部であってかつ称呼、観念を生じるものとして商標の主要部を形成するその文字部分を選択し、そのまま登録出願したものであることは明らかである。したがって、このこと自体不正目的の存在が推認できるといってもよいと思う。
そこで案ずるに、本件においては原商標権者による商標権の取得が、外国で周知な他人の商標と同ー又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるため、あるいは強制して代理店契約を結ばせるため、さらには輸入代理店である池光エンタープライズの営業を妨害するためなどの不正な意図に基づいて、先取り的に登録出願したものと推認されるのである。このことは、企業(池光エンタープライズ)が外国製造業者(ブーン・ロード・ブルワリー)の輸入販売代理店として営業活動をしようとして広告宣伝活動をしている時期に、その営業活動に携わっていた原商標権者が外国製造業者にも、また雇用されている輸入販売代理店にもまったく無断で個人的に登録出願したこと自体によって、不正の意図が明らかに認められるといわねばならない。この原商標権者の行為は明らかに雇用する企業に対する背信行為であり、その就業規則違反である。さらに、原商標権者が退職後、昭和61(1986)年に第三者と組んで自らSINGHAビールを輸入することを企てたが成功しなかったことを、1987年に池光エンタープライズの社長池田武彦がタイ国の輸出業者であるRAJAVITHI INTERNATIONAL CO., LTD(ラジャビシ・インターナショナル・カンパニー・リミテッド)の社長から聞いており、本件商標権の取得が請求人に代理店契約を結ばせる上で、ことを有利に運ぶなどの意図に基づいていたことを、推認できるであろう。陳述書(甲第6号証)に基づいて、池田を証人としてその証言によって原商標権者の勤務状況、本件商標取得の事情等を明らかにする。
(4)商標「SINGHA」の国内での周知
(ア)ところで、請求人の商標「SINGHA」を付したビールが需要者の間に広く認識されていたことは、池光エンタープライズが日本国内で販売する前の10年間で200万人(タイ政府観光局による)に達したタイ国への日本人観光客(ちなみに、タイ国税関の資料によると、1985年226,517人、1986年161,549人であった。)及びタイ国進出の350社(タイ駐在日本商工会議所による)に達する企業によりタイ国産のビールとして知られていたこと、また、これを下地として輸入販売代理店池光エンタープライズの昭和58年から60年11月にわたる期間における集中的な広告宣伝活動の結果、本件商標の登録査定時においては、少なくとも外国産のビールを取り扱う取引者間においては広く認識されていたことが推認される。当時における新聞雑誌等の紹介記事並びに広告を甲第7ないし第28号証として提出する。
(イ)また、昭和60(1985)年4月23日から4月30日の間、晴海で行なわれた第16回東京国際見本市のタイ国政府観光庁のブースにおいて、請求人の商標「SINGHA」を付したビールを出展したが、この時の来場者数は株式会社東京ビッグサイト広報課によれば401,740人を数えたので、同ブースへの訪問者も相当の数があったことが推定される。甲第30ないし第34号証によって出展の事実と販促内容を立証する。このような新聞記事等と広告宣伝の結果、商標「SINGHA」を付したビールはタイ国産のビールとして登録時には日本国内で周知になっていたものと認識できる。
(ウ)さらに、請求人の商標「SINGHA」を付したビールの日本国内における販売状況は、池光エンタープライズが販売を開始した昭和60(1985)年4月23日から原商標権者島田一夫によって登録出願された本件商標に登録査定が発せられた昭和62(1987)年10月16日当時において、池光エンタープライズによると、「SINGHA」ビール年間輸入本数は、1985年86,880本、1986年144,000本、1987年200,400本であった。また、金額ベースでは、集計の時点が上記数量ベースとは異なるが、1985年(昭和60年6月)3,441,830円、1986年(昭和61年6月)19,900,460円、1987年(昭和62年6月)43,201,777円、1988年(昭和63年6月)81,412,965円であった。
これらの数字を見ると、急激に販売量が増加していることが分かり、請求人の商標「SINGHA」を付したビールが日本市場に受け入れられて知名度を高め、登録時にはタイ産のビールとして日本国内で周知になっていた状況が認識できる。
(5)商標「SINGHA」の外国での周知
(ア)国内において、需要者の間に広く認識されていたことは上記のとおりであるが、また、請求人の当該商標はタイ国において著名なものであったことは、立証するまでもないほど顕著な事実であって、日本における周知性の立証を必要としないほどのものである。すなわち、商標法第4条第1項第19号でいう「外国における需要者の間に広く認識されている商標」は、必ずしも複数の国において周知である必要はないとされているが、請求人は1933年創業のタイ国随一のビール醸造業者であり、1985年当時、既に創業以来50年余の歴史を有し、タイ国ビール市場の略90パーセントを占有していたものである。なかんずく商標「SINGHA」を付したビールは、その中心的な製品として販売されており、タイ国民の国民的飲料としてタイ国王以下タイ国民の愛飲するところであった。
したがって、タイ国においては本件商標の登録出願時には既にその著名性を改めて立証するまでもないほど周知著名になっていたものである。
(イ)すなわち、請求人は、タイ国での最初のそして最大の醸造所であり、1933年にファラヤ・ビロム・バクディ(シャム名:ブーン・ロード)により設立された。この私有企業は、その創業者の将来を見通した、かつ創造的なマネジメントのもとで拡大し多角化し、年間8億リットルの生産能力を備えた高名なビール生産者になった。今日まで、請求人の広大な生産ラインは、ビール、ソーダ水、飲料水、既成フルーツジュース、既成飲料茶、及び既成飲料コーヒーを含んでいる。請求人は、その製品を 「SINGHA」、「Leo」、及び「THAI Beer」のブランド名で生産し販売している。
(ウ)この中で、「SINGHA」は創業当初以来の商標であり、本件商標の登録出願時までに略50年にわたる使用実績を有するものであった。1983年の発行にかかる請求人の50年史には、「SINGHA」のタイトルが付され、創業者の使用品と共に創業当時のビールとして「SINGHA」のラベルを付したビールが撮影されている(甲第35号証)。
(エ)可能な限り最良のビールを生産するという公約を通して、請求人の製品は、過去30年間、継続的に各種の立派な研究所から地方的な及び国際的な賞と金メダルを受けてきた。賞の中には、1971年ベルギーブリュッセル国際ビールコンクール金賞受賞がある(甲第36号証の1及び2)。この賞は、本件商標の登録出願当時、請求人が既に世界的に確固たる地位を業界において築いていたことを証するものであり、商品の卓越に対する請求人の名声を反映するのみならず、また国際的なその製品の受容と認定を反映しており、国際的に商標「SINGHA」が周知であったことは、このことによっても明らかである。
(オ)1986年当時の請求人の売上高は、バンコック・ポスト1987年10月20日の記事によれば、Internationa1 Business Research(Thailand)が発表した1986年度の売上高上位30社のランキングで、バンコック銀行や国際資本による石油会社に伍して45億1千百万バーツの売上高で24位となっている(甲第37号証参照)。請求人を中核とするブーン・ロード・グループはタイ財閥の一つであり、その詳細については末広昭、南原真著「タイの財閥 ファミリービジネスと経営改革」同文館出版(甲第38号証)に詳細に述べられている。特に、同書254頁の表8・2には、タイ国の「ビールの生産量とブランド別の市場シェア(1987-89年)」が示されており、本件商標の登録出願当時「SINGHA」ビールが、実に93.64から88.65%という高シェアを占めていたことがわかる。これをもってしても、商標「SINGHA」がタイ国内で周知であったことは、疑いのないところといえるであろう。
(カ)さらに、JETRO所蔵のタイ国バンコック税関発行の統計資料「FOREIGN TRADE STATISTICS OF THAILAND」(甲第39号証)の記載に基づくと、1985年から1987年のタイ国のモルツ製ビールの輸出先国は、オーストリア、オーストラリア、ベルギー、スイス、中国、ドイツ、デンマーク、フランス、英国、香港、インドネシア、インド、日本、マカオ、マレーシア、オランダ、フィリッピン、シンガポール、台湾及び米国の20ヵ国であり、特に米国に対する輸出量が多く、次いでマレーシア、英国、日本、フランスなどがこれに続いている。この輸出ビールは、先に見たとおりタイ国での「SINGHA」ビールの略独占体制のもとに行なわれたものであり、輸出されたビールは「SINGHA」ビールであったと推定できる。
したがって、本件商標の出願、登録当時において、商標「SINGHA」はタイ国内のみならず、これら諸外国においてもよく知られていたものと推認される。
(キ)また、タイ社会のひとつの不可欠な部分として、請求人は、環境維持プログラム、教育奨学金プログラム、文化事業、伝統的祭事、及びスポーツのスポンサーに積極的に参加しており、「SINGHA」ビールの製造者として請求人はSINGHAビールの名前と共にこの面においてもタイ国内で著名である。
(6)請求人への影響と無効の理由
(ア)次に、不正目的により取得・使用されたことを証するものとして、原商標権者直接ではないが、出願人・原商標権者が譲渡した第一譲受人内田茂からさらに譲渡を受けた被請求人小林豊は、当初からの輸入販売代理店である池光エンタープライズに対して本件商標の商標権を侵害する旨の警告をなし(甲第2号証)、あわせて、実施契約の締結を申し入れ高額の実施料を請求している事実がある(甲第40号証)。
ちなみに、出願人・原商標権者島田一夫、島田一夫から譲渡を受けた内田茂、さらに内田茂から譲渡を受けた被請求人小林豊は、いずれもかつて同じ酒類販売業界に属していたか、あるいは現在も同じ業界に属する知人同士の関係にあって、当時から直接、間接に「SINGHA」ビールを販売していたので、本件商標の取得の経緯、「SINGHA」が請求人の著名な商標であること、その価値などを知り得る立場にあった。したがって、かかる行為は、出願人・原商標権者の不正目的により取得された本件商標の不正な使用を実行に移すものということが推認できる。特に、第一譲受人内田茂と被請求人小林豊が親密な関係にあることは、両者がかつて同じ会社(株式会社リカー木村商事)に勤務していた同僚であり、現在は被請求人小林豊が代表取締役を務める新潟銘酒株式会社の経営陣に第一譲受人内田茂の縁戚者が列していることによっても明らかであろう(甲第41号証)。
(イ)かくして、被請求人小林豊が、本件商標を保有することは、保持すべきでない商標を保有し、請求人ブーン・ロード・ブルワリーに対して取引上の優越的地位をつくり、これを濫用しようとするものであって、その商標権を行使した場合には、請求人及び池光エンタープライズの輸入販売が差し止めを受けるおそれがある。仮に、このような不法な差し止めにより請求人の商品の販売が停止される場合には、請求人としては重大な経済的損失をこうむるおそれがある。また、かかる実施料の請求は、商品価格の値上げにつながり、池光エンタープライズ延いては請求人の商品の価格競争力を奪うおそれがある。
このように、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであり、無効事由を有する商標権を如何に長く保持しようとも、それをもって無効事由が解消するわけではなく、法的保護に値するものとはいえない。したがって、同法第46条第1項第1号に基づきその登録を無効とすべきものである。
(ウ)また、請求人以外の者が「SINGHA」商標を、請求人の製造以外のビールに対して使用した場合には、前述のごとく、請求人の業務にかかる商品として、本件商標登録出願時に我が国内の取引者又は需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標を、その商品について使用するものとして、商標法第4条第1項第10号に違反することは明白である。
前述のごとく、出願人・原商標権者島田一夫が不正競争の目的で商標登録を受けた本件商標には、商標法第47条除斥期間の適用はなく、同法第46条第1項第1号のに基づきその登録を無効とすべきものである。さらにかかる不正競争の目的で商標登録を受けた本件商標の使用を許すのは著しく社会的正義に反し、公の秩序を害するものといわざるを得ない。
(エ)さらに、本件商標については、出願人・原商標権者島田一夫が「SINGHA」商標を、ビール以外の酒類に対して使用した場合には、出所の混同を招来し、請求人が多年にわたり営々として築いてきた当該商標に化体したその信用、名声、顧客吸引力を希釈化させ、毀損させるおそれがあったといわざるを得ない。同じく、被請求人による本件商標の使用は、他人の著名商標に化体したその信用、名声、顧客吸引力にただ乗りするものであって、他人の業務にかかる商品又は役務と混同を生ずるおそれがあり、また著名な企業である請求人と経済的、組織的に何らかの関係があると取引者又は需要者に誤認させるおそれがあるといわざるを得ない。
不正の目的で商標登録を受けた本件商標にあっては、商標法第47条除斥期間の適用はなく、商標法第4条第1項第15号に違反するものとして同法第46条第1項第1号に基づきその登録を無効とすべきものである。
(オ)ところで、商標法は、不正競争防止法と並ぶ競業法であって、登録商標に化体された営業者の信用の維持を図ると共に、商標の使用を通じて商品又はサービスに関する取引秩序を維持することが目的とされている。
商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない」旨を規定しており、前記の目的を具現する条項の一つである。同号の趣旨は、その商標の構成自体が矯激、卑狼な文字、図形である場合及び構成自体がそうでなくても、その時代の社会通念に従って検討した場合に、当該商標を採択し使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合、あるいは国際信義に反するような商標である場合も含まれるものと見るのが相当とされている。そして、「公の秩序」には商品又はサービスに関する取引上の秩序が含まれているものと解されている。
さらに、政府は、諸外国との貿易摩擦が激しさを増すなかで、「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」を昭和60年7月に決定し、その一環として、外国周知商標の我が国における冒認出願登録等の未然防止が検討課題として取り上げられた結果、特許庁としても、これを重視し積極的に対応することとした「外国標章等の保護に関する処理方針」が設けられた。すなわち、その標章(外国標章)が出願商標より先に使用されているものであって、その国(外国)において著名となっているものであり、出願商標がその標章と構成において同ー又は類似のものである場合には、当該出願を他人の著名な標章の盗用と推認し、このような国際信義を損なうような出願商標は、商標法4条第1項第7号に該当するものとして拒絶する運用がなされている(以上「平成7年1月24日 昭和58年審判第19123号審決」による)。
以上の情況並びに取り扱いに照らして考慮するならば、要するに、上述のような不正の目的を以って取得された本件商標においても、その不法な使用を許すことは、国民の正義感を損ない、公正な取引を重んじる市場の秩序を乱し、かつ国際社会における信義に反し、公の秩序を害するものといわざるを得ず、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものというべきである。したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するものとして商標法第4条第1項第7号に違反し、無効とされるべきものである。
(7)結び
以上に述べたところから明らかな如く、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号に基づきその登録を無効とすべきものである

第3 被請求人の答弁(要点)
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1及び第2号証(枝番を含む。)を提出している。
1 本件商標は適法に出願されて登録されたもので、請求人の主張は当たらない。請求人は商標法の以下の規定を根拠に無効を主張するので、それら準拠条文に沿って以下答弁する。
2 商標法第4条第1項第19号違反について
本件商標は昭和60(1985)年7月8日出願、昭和63(1988)年1月26日登録である。一方、商標法第4条第1項第19号は平成8年施行であるから、指摘された規定は適用され得ない。
3 商標法第4条第1項第10号違反について
指摘された規定の適用如何を本件につき検討すると、問題となる適用要件は次の2つである。登録出願時において既に本件商標が国内において周知となっていたか及び登録出願時に原商標権者が不正競争の目的を有していたかである。
(1)周知性の成立時期について
(ア)請求人は、池光エンタープライズが「昭和58(1983)年9月23日に請求人と輸入代理店契約を結び」と主張している。しかし、この点について何ら証明がなく陳述書による単なる主張にすぎない(甲第6号証)。同じく「広告宣伝活動と酒類販売許可を得ることを企画し、盛んな活動を開始していた」点について、主張と証拠とに看過できない落差がある。すなわち、酒類販売業免許申請書が京橋税務所長宛に昭和60(1985)年3月15日に提出され(甲第33号証)、また、同日付け同税務所長宛提出の事業もくろみ書(甲第31号証)もあるが、予定販売量は瓶入り355ccの24本入りケース100とあって、その販売目的に第16回東京国際見本市での新規輸入ビールの宣伝、試飲販売とあるにすぎない。これは明らかに単なるサンプルセールである。つまり国内における市場性を占うテスト販売であって本格的販売ではない。
池光エンタープライズがシンハー・ビールを輸入し始めたのは、昭和60(1985)年3月からと新聞記事に掲載されている(甲第7ないし甲第9号証)。しかし、見本市出展でない平常の販売事業は、同年4月23日からと請求人自らが述べているとおり、出展後2カ月近く経ってからである。しかも、この点についても販売が実際行われたことを示す証拠は提出されていない。また、そのための酒類販売業免許申請書があるはずであるが、免許証の写しの証拠もない。
むしろ、実際の輸入を証明すると考えられる唯一の証拠は、1985年8月2日付けのSALES INVOICE(甲第5号証の2)であって、これは本件ビールが僅か61,200円分だけ輸入されたことを示すにすぎない。ビール10c/sに対する請求額であり、cとはcaseの略、1caseは24本と考えられるから、単価は255円だったことが推測できる。さらに、同書面中に「実際には15c/sお送りしました。5c/sその他の費用は貴方のご協力に感謝して当社からサービスするものです」とある。つまり、5c/s分(30,600円)とその他の費用はすべてサービスしたとのことである。この「その他の費用」とは何を指すのか不明であるが、もし運賃その他国内に持ち込みの一切の費用ということであれば非常に高額となる。もし売手側にこのような過剰サービスがなされたのであれば、その背景事情が明らかにされなければならない。
(イ)広告宣伝活動としては、これら甲第7ないし第9号証の新聞記事に加え甲第10ないし第29号証の新聞記事等がある。しかし、それら記事の大半には掲載日がなく、単に請求人による書き込みで掲載日とされるのであるから信用できない。しかも、その書き込みの掲載日は本件登録出願日より後のものも多数見られ不適格である。
また、甲第34号証は株式会社西友食品事業部に昭和60(1985)年4月に提出した本件ビールの宣伝・販促計画案であるが、主として新聞(日経、サンケイスポーツ、夕刊フジの3紙)に月1回のペースで掲載する程度にすぎず、しかも開始時期は本願登録出願時の7月より僅か3カ月前の直前となっている。かかる短期間に著名性を獲得したとは到底考えられない。そして、何よりも、これは単なる計画案であって実際の販売実績につき何ら証明されていないのである。
(ウ)これら新聞記事を子細に検討すると、請求人の商標「SINGHA」は、ほとんど常にカタカナ表記されていることに気付く。「シンハー・ビール」、「シンハービール」又は「シンハー」と表記するもの18(甲第7、第8、第12ないし第18及び第20ないし第28号証)、「シンハビール」又は「シンハ」と表記するもの3(甲第9ないし第11号証)、「シンガー」と表記するもの1(甲第19号証)とまちまちである。これからして周知性が疑われる。なお、最後の甲第19号証は本件ビールを紹介するに当たり「UNKNOWN BEERS OF THE WORLD」つまり「世界の未知のビール」とされ「シンガー」とされており、少なくとも我が国における著名性は否定されている。
(エ)請求人は、「1985年当時でタイ国ビール消費量の90%を占め、なかんずく商標『SINGHA』を付したビールはその中心的な製品として販売されていた」と主張する。上記新聞記事もそれと同内容である。
しかし、主張をサポートする証明はない。仮に主張が認められたとしても上記のように本件商標の登録出願当時、まだ本格的に日本に同ビール輸入はされておらず、したがって国内での周知性成立の証明とはならない。
(オ)なお、池光エンタープライズの代表取締役、池田武彦氏もまた自ら請求人所有の商標に類似の「シンハー」を第32類「ビール、清涼飲料、果実飲料」に出願し登録を得ている(登録第3223256号:乙第2号証の1及び2)。平成6年当時でもなお周知と認定されていなかったからこそ登録されたといえるのであって、この点からも周知性は昭和60(1985)年当時まったくなかったと推定できるのである。
(2)不正競争の目的の有無について
(ア)不正競争の目的の有無であるが、原商標権者がその雇い主である池光エンタープライズにも、また、請求人会社にも無断で個人的に登録出願したという主張もまた単なる主張にすぎず証明されていない。原商標権者は雇い主に登録出願の必要性を問いかけたかもしれず、雇い主は当時それを気に留めずにすごしていたかもしれないのである。
(イ)請求書及び陳述書(甲第6号証)によると、原商標権者島田一夫は昭和58(1983)年7月1日池光エンタープライズに入社、昭和61(1986)年2月初めまで約2年7カ月在職後、突然無断で出社しなくなり自然退職している。これも単なる主張にすぎないが、仮にこれを真実として認めたとしても、この退職の仕方で暗示されるものは、本件不正競争の目的に直接結び付かない。また、在職中、島田一夫はビール担当者として請求人の商品輸入に関わったことが昭和59(1984)年5月6日付けの予備契約書(甲第5号証の1)に示されている。これらは、池光エンタープライズが1従業員に請求人のビールを輸入する仕事を割り当てたことを示すにすぎない。
(ウ)上記予備契約書の実行を示す証拠として何があるであろうか。上記(1)で述べたように証拠で確認できる実際の販売は、1985年8月2日付けの「SALES INVOICE」(甲第5号証の2)一つで、これとて本件ビールが僅か61,200円分だけ輸入されたことを示すにすぎない。そして、陳述書(甲第6号証)第6項の記載は伝聞証拠にすぎない。
(エ)以上、原出願人に不正競争の目的を推認できる根拠はない。
4 商標法第4条第1項第15号違反について
指摘された規定が適用できる要件は、上記3で述べたと同様、本件商標の周知著名性及び原商標権者の登録出願時における不正競争の目的である。しかし、これら要件が満足されないことは上記3で既に述べた。
5 商標法第4条第1項第7号違反について
(1)請求人は、「時代の社会通念に従って検討した場合に当該商標を採択し使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合、あるいは国際信義に反するような商標である場合も含まれる」と主張するが、仮にこのようにさまざまな場面に適用があるとするなら、第3条及び第4条で具体的な適用要件を限定して例示列挙し法適用上の透明性及び公平を担保した立法趣旨を無視することになる。むしろ、第7号は公序良俗に反する行為を是正するための規範で、明文の規定がなくとも社会的妥当性が侵害されるおそれが顕著なとき初めて適用されるべき規定である。その意味で本号の適用はきわめで慎重でなければ、かえって法的安定性を侵すおそれが出るのである。
(2)請求人が指摘した昭和58年審判第19123号審決で問題とされた商標は「ポパイ」及び「POPEYE」の文字とポパイの漫画の3要素からなり、第36類「被服、手布、釦鉦及び装身用『ピン』の類」を指定商品とするものであるところ、ポパイは昭和4(1929)年に発表された漫画で当該商標の登録出願の昭和33(1958)年当時、既に日本でまさに周知著名になっていた。その上著作権が日本においても発生していた。そして何よりも「ポパイ」は何か特定の商品との関連で著名なのではなく、「ポパイ」それ自体、独立に著名であった。つまり第36類の商品に限らずそれ自体で著名であった。したがって「ポパイ」が何らかの商品に商標として使われればフリーライドのおそれが明白にあった。
(3)一方、本件商標にあっては、請求人の主張によれば、登録出願当時の昭和60(1985)年にビールにつき日本において著名であったという。著名性の成立がきわめて疑わしいこと既に述べたとおりだが、たとえビールについて著名であったとしても、それだけでは第7号適用には要件不足で、請求人のビールとして日本で著名であったことが証明されなければならない。しかるに、ビールのような飲食品は日本の国内市場に出回って初めて周知になるものと考える。国内市場流通が著名性獲得の前提条件と解されるのである。例えば、自動車とかハンドバッグなどのいわゆる耐久消費品であればたとえ国内に出回ってなくても雑誌や海外旅行したときの評判などから個人的に購入して国内で使用され他者に宣伝されるため著名性獲得の可能性があるが、国内市場にない飲食品では外国で味われて消費されるばかりで国内での著名性獲得のチャンスは少ない。ましてや、ビールには特殊な事情がある。すなわち日本人は外でビールを注文するとき、単に「ビール」と言うばかりでブランドを口にすることはむしろ稀であるという事情である。ビールであれば何でもいいのであってブランドはさして問題にされない傾向が非常に強い。このようなとき「SINGHA」がタイ国で著名だったとしても、それが直接日本でも著名とは到底ならない。
(4)請求人の主張に係る「商標法第4条第1項第19号に関する審査について」(商標審査便覧42.25)を参照すると、「これまでは周知、著名な商標の保護については第4条第1項第15号第4条第1項第7号の規定を弾力的に適用し、それらの商標を保護する運用を行ってきたが、周知、著名商標の保護の明確化の要請が高まってきたことに伴い、国内または外国において広く認識されている商標を不正な目的で使用されることを防ぐことを目的として、商標法の一部を改正する法律(平成8年法律第68号)により、第4条第1項第19号の規定を新たな不登録事由として明記した。」とある。このように既に上記2で述べたことだが、第4条第1項第19号は平成8年に新設された規定であるから、昭和60年登録出願により登録された本件には本来適用があり得ない。
(5)また、「外国標章等の保護に関する取扱い」(商標審査便覧42.15)には「本処理方針の趣旨は、これまで商標法第4条第1項第7号に該当するとされてきたものであるが、商標法等の一部を改正する法律(平成8年法律第68号)により、同第19号が新設されたことに伴い改めたものである」とされ、昭和60年登録出願当時、本件商標が第4条第1項第7号に該当するなら適用され得た規定であるとされる。したがって、昭和60年当時の社会状況から第4条第1項第7号が適用されるべきであったか否かを検討することになる。しかるときは、既に述べたとおりの状況であるから到底第7号が適用されることはなかった。
6 請求人は、甲第2、第40及び第41号証で件外池光エンタープライズに対する現商標権者の商標権侵害の申し立て事実を持ち出す。しかも、証拠申出書及び尋問事項において原商標権者と転得者及び現商標権者との関係までも取り沙汰する。
しかし、これらは請求人の主張が準拠する上記条文の適用上関係する事実であろうか。

第4 当審の判断
1 請求の利益について
請求人が本件審判の請求をする利害関係を有するか否かについては当事者間に争いがなく、請求人は本件審判についての請求人適格を有するものと認められる。
2 本件商標の登録無効の理由について
(1)請求人の提出に係る証拠及び請求理由の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人は、1933年創業のタイ国随一のビール醸造業者であって、その製造販売に係るビールはタイ国内シェアの9割以上を占めており、その創業当初からビールについて「SINGHA」の文字からなる商標を獅子の図形からなる商標と共に使用していた(甲第35及び第38号証)。
(イ)「SINGHA」の商標を使用したビール(以下「SINGHAビール」という。)は、1971年ベルギーブリュッセル国際ビールコンクールで金賞を受賞した(甲第36号証の1及び2)ほか、1985年ないし1987年にはタイ国産のモルツ製ビールは米英日をはじめオーストリア、オーストラリア、ベルギー等の20ヵ国に輸出されている(甲第39号証)。
(ウ)我が国においては、SINGHAビールは、請求人の輸入販売代理店である池光エンタープライズによって昭和60年4月から輸入販売が開始され、その前後に、販売促進活動が行われると共に各種新聞・雑誌に紹介された(甲第7ないし第28及び第30ないし第34号証)。上記新聞等における記事では、見出しや記述中に「シンハービール」、「シンハー・ビール」、「シンハー」、「シンハビール」、「シンハ」又は「シンガー」と記載されているが、多くはビール瓶を撮影した写真が添えられており、そのビール瓶に貼られたラベルには「SINGHA」の商標及び獅子の図形商標が表示されている。また、上記ラベル自体を表したものと思しき図形が「シンハービール」の文字と共に掲載されたものもある(甲第14及び第15号証)。
(エ)一方、本件商標の原権利者である島田一夫は、本件商標が登録出願された当時、請求人の輸入販売代理店である池光エンタープライズの従業員であり、営業担当者としてSINGHAビールの輸入業務等に携わっていた(甲第3ないし第5及び第31号証)。
(オ)当庁備え付けの商標登録原簿の記載によれば、本件商標の商標権は原権利者である島田一夫から内田茂に譲渡され、さらに被請求人である現権利者の小林豊に譲渡されていることが認められるところ、被請求人小林豊は、酒類一般販売等を目的とする株式会社の役員であり、池光エンタープライズに対して本件商標の商標権侵害の警告をし、さらに、有償の通常使用権の許諾契約を求める通知を行っている(甲第40及び第41号証)。
(2)以上の認定事実によれば、「SINGHA」の商標は、本件商標の登録出願時には既に、請求人がビールについて使用する商標としてタイ国において一般に広く知られていたものというべきであり、新聞雑誌等に紹介され、宣伝広告もされたことから、我が国の取引者、需要者間においても相当程度知られていたものといえる。
そして、原商標権者である島田一夫は、本件商標の登録出願当時、請求人の輸入販売代理店である池光エンタープライズの従業員としてSINGHAビールの輸入販売等の業務を行っていたのであるから、SINGHAビールの存在及びそれに使用されている「SINGHA」商標を熟知していたものというべきである。しかも、「SINGHA」の文字は、タイ語で「獅子」の意味を有する成語であるとしても、我が国におけるタイ語の普及度を考慮すれば、我が国では該意味を理解できる者はごく僅かというべきであり、むしろ既成の親しまれた観念を有しない造語ないしは造語に近いものとして認識し把握されるというのが自然である。
そうすると、原商標権者である島田一夫が、請求人が使用している「SINGHA」商標と同一の綴り字からなる本件商標を請求人に無断で商標として採択し登録出願したことは、偶然の一致とは到底いえない。
加えて、上記島田一夫から本件商標の商標権の譲渡を受けた内田茂と、さらに内田茂から譲渡を受けた現権利者である被請求人小林豊とは同じ酒類販売業界に属していたとの請求人の主張を裏付けるものはないものの、少なくとも、被請求人は、酒類販売業者といい得るものであり、SINGHAビールの存在を知り得る立場にあるというべきであるにもかかわらず、請求人の輸入販売代理店である池光エンタープライズに対し本件商標の商標権侵害の警告をし、さらに本件商標の使用許諾料を求めようとすることが窺える。
(3)以上を総合勘案すると、原商標権者である島田一夫は、請求人の「SINGHA」商標の存在を知りながら、それが我が国において商標登録されていないことを奇貨として本件商標を請求人及びその輸入販売代理店である池光エンタープライズに無断で剽窃的に先取り出願し登録を受けたものといわざるを得ない。
かかる行為は、上記島田一夫が雇用されていた池光エンタープライズに対する背信行為であるばかりでなく、商標を高額で買い取らせるため又は池光エンタープライズの営業を妨害するため等の不正な目的によるものであって、公正な商取引の秩序を乱し、国際信義に反するものであり、ひいては公共の利益に反し、公の秩序を害するものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものといわなければならない。
なお、請求人は、人証の申請をしているが、上記のとおり、本件については書証によって十分に判断し得るものであるから、これを採用しないこととした。
(4)被請求人は、当該商標を採択し使用することが社会公共の利益に反し又は社会の一般的道徳観念に反するような場合、あるいは国際信義に反するような場合のように様々な場面に商標法第4条第1項第7号を適用するとすれば、同法第3条及び第4条で具体的要件を限定して例示列挙し法適用上の透明性及び公平を担保した立法趣旨を無視することになる旨主張している。
確かに、同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること及び商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が同法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(東京高裁平成15.5.8判決(平成14年行ケ616号)、平成17.6.30判決(平成17年行ケ10323号)参照)。
これを本件についてみると、上記のとおり、原商標権者たる島田一夫は、本件商標の登録出願当時、請求人の輸入販売代理店である池光エンタープライズの従業員であって、SINGHAビールの輸入販売業務を行っていたという特別の関係にあったのであり、その関係を通じて知り得た請求人使用の商標を剽窃的に先取り出願したと認めるべき事情がある。かかる情況は、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものといわなければならないから、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するものとしてその登録を認めるべきではない。
したがって、被請求人の主張は採用することができない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、請求人のその余の主張について検討するまでもなく、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2006-02-28 
結審通知日 2006-03-03 
審決日 2006-03-14 
出願番号 商願昭60-69344 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (128)
最終処分 成立  
前審関与審査官 栫 生長 
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 久我 敬史
高野 義三
登録日 1988-01-26 
登録番号 商標登録第2015373号(T2015373) 
商標の称呼 シグハ、シングハ、シンハ、シンガ 
代理人 小林 孝次 
代理人 特許業務法人ウィンテック 
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ