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審決分類 審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 登録しない Z29
審判 査定不服 商4条1項16号品質の誤認 登録しない Z29
管理番号 1134730 
審判番号 不服2002-13122 
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2006-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-07-12 
確定日 2006-03-23 
事件の表示 平成10年商標登録願第28355号拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 第1 本願商標
本願商標は、別掲に表示したとおりの構成よりなり、第29類「納豆」を指定商品として、平成10年4月3日に登録出願されたものである。
第2 原査定の拒絶の理由
原査定は、「本願商標は、『炭火熱で発酵させた納豆』を指称する語として、本願指定商品を取り扱う業界において広く使用されている『炭火納豆』の文字を普通に用いられる方法で書してなるものであるから、これをその指定商品中、『炭火熱で発酵させた納豆』(更に、『炭火を使用して製造する納豆』を指称すると補足のうえ)に使用するときは、単に商品の品質・製造方法を表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。」と認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審における証拠調べ通知
当審において、要旨以下のとおりの証拠調べを行い、意見書を提出する相当の期間を指定して、平成16年10月1日付けで請求人(出願人)に通知した。
1.書籍等の記載
(1)株式会社平凡社発行「世界大百科事典1972年版」の「なつとう 納豆」の項の[製造法]の記載中に、「経木包みの納豆は・・・・2重の経木に三角形に包む。これを冷えないうちにあらかじめ炭火を入れ、湯をわかしてある発酵室に入れる。」との記述が認められる。
(2)株式会社勁文社1997年7月10日発行「なにかとナットウ・ブック - オール・ザット・納豆読本」(都立中央図書館蔵)の8頁に、「・・・自宅のすぐ近くで作っている登喜和食品の『本造り納豆』である。国産の小粒大豆を使用して、炭火を使って発酵熟成させたもので、昔ながらのワラで包んである。高級品といったって1ツ二百円だ。」の記述がある。
(3)株式会社アスペクト社1999年12月15日発行「至宝の伝統食 納豆」(都立中央図書館蔵)において、
(ア)「味めぐり:昔ながらの製法にこだわった珠玉の逸品」との見出しのもと、「そでふり納豆」の項に、
「北海道音更町産振袖大豆を使用。添加物はいっさい使わず塩と小麦だけで作られる。大豆は、薪を燃料に鉄釜で約4時間かけて蒸し上げられ、さらに炭火で38〜40度に保たれたむろで約23時間発酵させる。炭火から発生する炭酸ガスが納豆によい効果をもたらしているという。でき上がった納豆は、やわらかく餅のような食感で豊かな香りが楽しめる。」との記述がある。
(イ)さらに、「納豆おもしろMap」との見出しのもと、写真入りで、「そでふり納豆」の項に、「北海道の大振袖大豆を使用。炭火造りで、やわらかい味が特徴。三角の容器は赤松の経木から作られたもの。納豆の環境に最適という。」との記述がある。
(ウ)同じく、「備長炭 炭火造り」の項に、「江戸 炭火造り 東京」、「備長炭による炭火造り製法」等の文字が入った包み紙の写真とともに、「岩手産の小粒大豆を備長炭を使用し、炭火造りにした味わい深い納豆。東京の青梅市で作られている。」との記述がある。
(エ) 同じく、「出雲の大地」の項に、「燻煙炭火造り納豆」等の文字が入った包み紙の写真とともに、「独特の栽培方法で育てた大豆を燻煙炭火造りにした、まろやかな味の納豆。香ばしい香りが食欲をそそる。」との記述がある。
(4)「納豆大全」(町田忍著 株式会社小学館1997年9月10日発行)(都立中央図書館蔵)に、
(ア)「ラベルコピー考現学」の項において、「・・・炭火造り(保谷納豆 一九九二年)・・・燻煙炭火造り(島根県JA斐川町 一九九六年)・・・石室炭火熟成(カジノヤ 一九九七年)・・・炭火造り 納豆菌を発酵させるのに炭火を使用する。炭火の出す炭酸ガスが納豆菌の発育や熟成を助け、納豆の味をまろやかにする。」との記述がある。
(イ) 同じく、「ラベルから「納豆」の文字が消える!?」の項において、
「いろり納豆(東京都 紀ノ国屋 一九九五年) 茨城県久慈郡金砂郷村(金砂地区)で契約無農薬栽培された極小大豆を独特の製法(燻煙炭火造り)で仕上げた手作り納豆の一級品での、歯ごたえのある、納豆本来の風味と天然の旨味をご賞味下さい。」との記述がある。
(ウ)同じく「江戸東京糸ひき納豆(東京都 保谷納豆 一九九六年) ・・・本品は納豆に適した国産小粒大豆を原料としています。製法としては古来より発酵に炭火を用いる「天然炭火造り」の製法を取り入れ、昔なつかしい松経木に包みました。納豆本来のねばりと香り、やわらかさの中に歯ごたえのある味をご賞味下さい。」との記述がある。
(エ)同じく、「奥秩父丸大豆納豆(東京都 保谷納豆 一九九七年) ・・・古来より発酵に炭火を用いる天然炭火造りの製法を取り入れ低温でじっくり発酵熟成させました。・・・」との記述がある。
2.新聞の記事検索の結果
(1)読売新聞(1991年7月30日付 東京版夕刊)13頁に、
「◆茨城 水戸の炭火納豆 〈1〉〒302 取手市下高井水砂2172=オーサト、0297・78・3171〈2〉1パック30グラム入り30個2500円(税、送料込み)〈3〉まろやかな味がする特小粒納豆。シソと岩ノリを使った特製タレの風味が好評です。」との記述がある。
(2)日刊工業新聞(1992年3月9日付)19頁に、
「【日立】 納豆メーカーの茨城水戸食品(…略…)は福岡県鞍手郡若宮町に九州工場を完成、このほど本格稼働に入った。当面の生産量は一食四十g換算で一日に約十三万食、三年後をメドに二倍の約二十五万食に引き上げる計画。同工場ではカップ型の炭火納豆とミニトレータイプを主に生産する。」との記述がある。
(3)読売新聞(1995年9月14日付 東京版夕刊)18頁に、
「小山商店(国立市0425・72・1404)の納豆は、無農薬・低農薬の国産大豆使用。室の中で炭火をたいて納豆菌の働きを活性化。うま味と日持ちの良いのが自慢という。「信濃路」(百五十グラム二百五十円から)、「小山さんちの炭火納豆」(百グラム百二十円から)はいずれも小粒だが、大粒の注文生産にも応じる。」との記述がある。
(4)日本食料新聞(1995年12月4日付)農産加工/特集 9面に、 「販売傾向や売れ筋など(株)ドミーでみると次のとおり。・・・・・このうち、売れ筋をみると、(1)ドミー納豆(PB、トレー四段)小売一一八円(2)丸愛炭火納豆・一二八円(3)朝日モーニング納豆・・・」との記述がある。
(5)日本食糧新聞(1998年4月8日付)に、
「オシキリ食品は、販売構成二○%の「炭火納豆」、同一七%の「十勝納豆」をはじめ、「ひきわり3P納豆」「ポン納豆」「にこにこ納豆」がメーン。」との記述がある。
3.インターネット上の情報
(1)http://www.konnanodo.com/shop/takenoshita/のウェブサイトにおいて、
「炭火納豆(30g x 3) x6個入:1,300円(税込)」の商品宣伝中に、「炭火でじっくり熟成させて造りますので、まろやかで香りのよい納豆です。」との記述がある。
(2)http://www.e-nanden.jp/category/takenosita.htmlのウェブサイトにおいて、
「高千穂炭火納豆」の商品紹介において、「炭火でじっくり熟成発酵したまろやかでとても香りの良い小粒納豆です。3個1パック、特製タレ付き」との記述がある。
(3)http://www.bpf.or.jp/sanpin2003/category/miso-1.htmlのウェブサイトにおいて、
「大バカ納豆」の商品照会中に、「福島県産の大豆のみを使い、炭火で加温して発酵させた無添加の手づくり納豆。・・・納豆菌の発酵に残留農薬の心配がある稲わらを使わず、炭火で加温しています。・・・」との記述がある。
(4)http://www.ninjinclub.co.jp/sen/toufu/015.htmlのウェブサイトにおいて、
「燻煙炭火造り納豆 みちのくカップ3」との表題のもと、「登喜和食品(東京都府中市):・・・『薫煙炭火造り納豆 みちのくカップ3』は、納豆本来の風味と、天然の旨みを大切に造られています。ふっくらとした質のいい国産大豆を選び、炭火でじっくり保温して発酵させ、燻煙で熟成させました。・・・」との記述がある。
(5)http://www.cosmo-shopping.com/daily/0090001.htmlのウェブサイトにおいて、
「人気番組「どっちの料理ショー」の特選素材! 本物の味!小山商店の手づくり本格炭火納豆。:「小山さんちの炭火納豆」(小粒)」との見出のもと、サイト中に、「< 昔ながらの製法で手づくりされる懐かしの炭火納豆 >」、「人気番組『どっちの料理ショー』の特選素材にも選ばれた、極上の本格炭火納豆!」、「そんな自慢の逸品「小山さんちの炭火納豆」が、東京・国立の小山商店から届きました!」、「昔ながらの製法で手づくりされる懐かしの炭火納豆。炭火でじっくり発酵させているから、あの納豆特有のにおいもマイルドなんです。」、「創業以来40年、今も炭火発酵という伝統の製法を守って手づくりされる伝統の味。ふっくら仕上げられた小粒大豆は食感も軽やか。1粒1粒にしっかり豆の味が生きていて"本物の納豆"の味がするんです。さらに市販の納豆と違って、炭火でじっくり発酵させているから、あの納豆特有のにおいもマイルドなんです。」、「20時間かけて炭火発酵、昔ながらの製法で手づくりされています:この炭火納豆は1つひとつすべて手づくり。圧力釜で蒸し煮した大豆に納豆菌を吹き付け、手早く経木で包んでから、地下ムロでじっくり炭火で発酵させること約20時間。その間つねに温度の微調整を繰り返し、丁寧につくられているんです。そのうえ炭火の炭酸ガスが大豆タンパクをゆっくり分解・熟成するから、においもマイルドなんですよ。」との記述がある。
(6)セコム株式会社のネットショップのサイトにおいて、
「東京都 わらづと納豆2本と炭火納豆8個セット わらの中で発酵させた納豆は独特の風味があります 価格 : \2,730 (税込)」との記述がある。(7)http://www.nattou.com/data/8-8.htmlのウェブサイトにおいて、
「茨城県の市販納豆」中に、「水戸物語 炭火納豆 たれ付」との記述がある。
(8)http://homepage3.nifty.com/hanayaka/shopping/p1.htmlのウェブサイトにおいて、
「炭火納豆と柔肌生うどん 製造・生産:只野農場」の項に、「●炭火納豆「豆乃舞」は、自家製ミヤギシロメ大豆100%使用。町内の納豆屋さんに丹精込めて仕上げてもらった大粒の炭火納豆です。・・・商品コード: B-13 商品名: 炭火納豆 豆乃舞」との記述がある。
(9)http://www.elkanet.com/square/plaza/nattou/na1719/na1719.htmlのウェブサイトにおいて、
「納豆のページ」中に、「エントリーNo.17 水戸の炭火納豆(極小粒)」、「内容量:30g×3 製造者:坂田発酵食品(株) 小樽工場」、「水戸の炭火納豆、以前にも紹介しましたがこの商品は私が子供の頃によく食べていた記憶があります。・・・」との記述がある。

第4 請求人(出願人)の意見等
1.本願商標は、納豆の製造方法を直接表示したものではなく、従来示された{炭火}の文字も、納豆の製造を直接表したものではない。
(1)書籍等の記載
(ア)株式会社平凡社発行「世界大百科事典1972版」における記載中「経木包みの納豆は・・・冷えないうちに予め炭火を入れ・・・」との記載中の「炭火」は、温度を上げる為に使用したものである。
現在醗酵室の温度を上げるには、電気、ガスなどが主流であって、「炭火」は使用していない。また温度を上げる為に「炭火」を使用したとしても、これを以って製造方法に「炭火」が関与したとは言わない。例えば、暖めるために「ガス」や「電気」を使用しても、「ガス納豆」「電気納豆」とは言わない如くであり、他の食品についても単に暖めるために使用した「炭火」が、その製法に関与したと言うことはできない。
従って、本願商標の「炭火納豆」は、明らかに商標として使用している。(イ)株式会社勁文社の書籍の場合にも「炭火を使って発酵熟成させたので」と記載され、室温の上昇に炭火を使用したとされており、製造方法を示すものでなく、単に温度上昇に使用したにすぎない。従って、上記と同様の理由から、本願商標について、この証拠も、納豆についてその製造方法を表示した語として、炭火納豆と言う事を証明する資料にはならない。
(ウ)株式会社アスペクトにおいては、
(a)昔ながらの製法にこだわった逸品として「炭火で38〜40度に保たれ、23時間発酵させる炭火から発生する炭酸ガスが納豆によいという・・・」とされているから、ここでも部屋の昇温に使用されていることが判る。即ち炭火により作った納豆ではない。
前記効果の記載は、恐らく請求人の研究発表を聞き、その効果のみを記載したものであろう(審判請求書4頁7行に記載、甲第15号証)。
(b)「そでふり納豆」の炭火造りについては、請求人が、昭和58年以来使用し、発表している「炭火造り」をそのまま記載したにすぎない(商標登録第4105440号)。
即ち、「炭火造り」の表示は、昭和58年以来請求人の提供する高級「納豆」のブランド名としての使用が開始され、「炭火造り」の表示をした「納豆」は、取引者・需要者から高い評価を得た。そのため、「炭火造り」の名声に便乗した大手・中小同業他者の多くが類似商品を出すに至ったものである。いずれの類似商品も、特許庁の審査・審判が長期にわたり、商標「炭火造り」と商標登録が遅れたため、勝手に「炭火造り」の表示を使用したもので、「炭火」をその製法として採用しているがゆえに、かかる表示していると言った必然性のある表示とはとても認められない。今回証拠でとり上げている「炭火造り」の表示は、かかる事情の下で採用された事に起因しており、このうちの「炭火」の文字が商品「納豆」の製法を記載した記述の前例と考えることは出来ない。
(c)「備長炭炭火造り」については、平成8年から使用開始した「江戸炭火造り、東京」の請求人の商標(登録第4391814号)までも模倣し、その効用も、そのまま記載したものである。
尚、「炭火造り」の表示については、(b)で述べた理由から、「炭火」の表示が商品「納豆」の製法を表示したものではない。
(d)「出雲の大地」の項における「燻煙炭火造り納豆」は、請求人の炭火造り「昭和58年以来」を模倣するに際し、「燻煙」を付して同一表示を避けたものと認められる。
因に「燻煙」とは燻製品に見られる処理で、殺菌を目的としたもので、少なくとも納豆の製造に使用されるのでなく、強いて考えれば製造後の殺菌に使用するのであろう。
尚、「炭火造り」の表示については、(b)で述べた理由から、「炭火」の表示が商品「納豆」の製法を表示したものではない。
(エ)納豆大全に関する件
(a)「ラベルコピー考現学」の項の「炭火造り」は請求人のもの(1992年)、燻煙炭火造りは前項(d)と同様に、具体性がないし、燻煙で納豆を作ることはできないから殺菌であろう。単に請求人の表示と同一表示を避けたにすぎないとも考えられる。
尚、「炭火造り」の表示については、前項(b)で述べた理由から、「炭火」の表示が商品「納豆」の製法を表示したものではない。
次に「石室炭火熟成」についてはその意味が不明である。石室内を炭火で加温する意味ならば、炭酸ガスが溜り熟成にならない。これを、換気するならば、炭火を使用しなければならない必然性が認められない。更に炭酸ガスが納豆菌の発育や熟成を助けという記載に到っては全く根拠のないデタラメという外はない。請求人は、前記特許製法の完成までに幾多の実験をしているが、炭酸ガスは納豆菌の発育を阻害する性質があることを確認しているが、熟成を促進する知見はなかった。
(b)いろり納豆の「燻煙炭火造り」も請求人の「炭火造り」と同一の表示を避けたものに外ならない。前記のように燻煙は殺菌に使用することがあっても、納豆菌の生育を助長したり、熟成を良好にすることはない。このような記載は「納豆を実際に造っていない証拠」に外ならない。他の文献を見て、間違った捕え方をしたのではなかろうか。実際に納豆を造れば「燻煙」により納豆を造るとはとても言えないと思われる。
(c)「江戸・東京糸ひき納豆」は、請求人のものであるから、「天然炭火造り」などの文字があるのは当然である。
(d)「奥秩父丸大豆納豆」も請求人の商品であって、炭火造りの文言があるのは当然である。
(2)新聞の記事検索の結果について
(ア)水戸の炭火納豆(オーサト)については、請求人の商品の模倣をしたものである。従って、製造方法は従来と同様であって、標章を変えたにすぎない。
(イ)茨城の水戸食品も従来の製造方法で製造した納豆に「炭火納豆」の標章を付したものにすぎない。
(ウ)小山商店の「炭火納豆」も標章にすぎない。
何故ならば「炭火をたいて納豆菌の働きを活性化」ということの意味が不明であり、請求人の特許製法ならば「炭火をたいて活性化」とはいわない。 また請求人の特許製法を用いた疑いを生じ、特許権侵害になるおそれがある。
(エ)「丸愛炭火納豆」の「炭火納豆」は請求人と使用契約を結んでいた。従って、請求人の使用と同一視できるものと考えられる。
(オ)「オシキリ食品」の「炭火納豆」の表示は、その製品の特徴などの記載がないので、何を意図して「炭火納豆」と命名したのかが不明であるが、「炭火」を納豆の製法に使用する技術を持っている請求人以外の業者がほとんど存在しないので、かかる表示は製法の表示ではなく、単なる標章使用と考えられ請求人の商品の模倣品であると思われる。
(3)インターネット上の情報
(ア)takenoshitaの「炭火でじっくり熟成」については製法不明である。しかし、この記載から考えて単なる加熱と推定される。「炭火」を使用してじっくり熟成する事はできないからである。
(イ)「高千穂炭火納豆」は前記(ア)と同じ、標章にすぎないものと推定する。
(ウ)「大バカ納豆」の「炭火で加温」についてどのようにするのか不明、単なる室温上昇ならば、通常炭火は使用しないと考えられる。又、「炭火」で室温を上昇させたとしても、このために使用する「炭火」は製法に使用したとは言えない。即ち、室温上昇ならば、既に述べたように、電気、ガスと変わらないからである。炭酸ガスを問題にするならば、請求人の特許製法侵害の疑いがあり、通常、請求人以外のものが「炭火」を使用して納豆を製造することは出来ないものと思われる。
(エ)「登喜和食品の燻煙炭火造り納豆」については、前記のように「燻煙で納豆の製造は出来ない」ので、燻煙で殺菌することか、その場合には燻煙で製造するとは言わないので、「燻煙炭火造り」とはならない。
尚、「炭火造り」の表示については、(1)(ウ)(b)で述べた理由から、「炭火」の表示が商品「納豆」の製法を表示したものではない
(オ)「小山さんちの炭火納豆」は、前記(2)-(ウ)記載と同一である。
例えば、ここで説明されている炭火で温度の微調整はきわめて難しい。また「炭火の炭酸ガスが大豆タンパクをゆっくり分解・熟成」というような記載があるが、この記載は全く意味不明のことを記載している。「炭火の炭酸ガス」を使用すると納豆菌の繁殖を抑制する事にはなるが、納豆の熟成を助長するとはとても考えられない。炭酸ガスが、大豆タンパクの分解等する旨の記載に至っては、全く意味不明の記載としか言いようがない。かかる、非科学的で実体と整合しない記載中に、「炭火」の記載があるからと言って、この文字が納豆の製造方法などを表示していると考えることは出来ない。
(カ)「東京都 わらづと納豆と炭火納豆のセット・・・」の記載は、わらの中で発酵させて「炭火納豆」としている。しかし、これは「炭火」を製造方法として利用した記載でなく、単なる標章の模倣にすぎないと推定される。
(キ)「只野農場の炭火納豆」中の「炭火」の表示は、製造方法の記載でなく、標章の模倣と推定される。
(ク)「水戸の炭火納豆」は標章の模倣であり、「坂田発酵食品の納豆」は請求人の使用契約者である。
2.書籍、新聞、インターネットの各情報は、炭火により温度を保持させたもの、標章を模倣したもの、製法が虚偽であって、製法を示す文言として使用されていないもの、であって、採用されるべきではない情報である。
(1)室温保持用に炭火を使用したもの(従って炭火の特性を用いたものでなく、電気暖房、ガス暖房と同一)であると思われるが、温度コントロールの難しさ、取り扱いの困難性から、現在は殆んど使用されていない。
(2)請求人の商標を単に模倣した標章の使用が大部分であり、実際上「炭火」を使用していないものと認められる。
(3)一般的に、請求人のように、特許製法(炭火使用)による納豆の味が良かったので、多数の業者は「炭火納豆」の標章使用をしようとしたもので、例えば、燻煙は製造法の積極要件でなく、万一使用されているとすれば、殺菌等の最終段階で使用されるにすぎない。
3.結論
(1)実質的に炭火の特性を利用して納豆を製造する為に、炭火を使用している業者は皆無に等しい。
(2)実質的に炭火を使用していると称する場合でも、炭火により生じる炭酸ガスを納豆の熟成に使用するなどの記載がある点より考えると、納豆の特性と、炭火の特性を利用した製造方法により製造されたものとは考えられない。
(3)燻煙については、殺菌はできるかも知れないが、少なくとも納豆の熟成に効力があるとは思わないので、燻煙と製造を結びつけるのは間違いと見る外はない。
(4)現実に「炭火」を商品「納豆」の品質等を表示するために使用することなく、商品販売の目印として使用していながら、その効果は、炭火を使用した特別の製法の効果と同様にすることは、まさに品質を誤認させる不当な表示であって許される表示ではない。
この様に科学的根拠のない誤った表示や明らかな模倣による表示が多数あることを根拠に、真面目に商品開発をしている業者の目印を品質表示とすることは不当な認定としか言いようがなく許されない。
(5)本願商標は、請求人によって20年以上継続して使用され、東京近辺においては、年間100万個程販売しているので、取引者需要者間に広く知られている。
よって、本願商標は、たとえ昔(電気もガスも普及していなかった当時)は製造方法の一部を構成したことがあったとしても、現在は、請求人の製造販売に係る納豆を表示する商標として、少なくとも東京近郊では、需要者に広く知られるに至っている。従って、商標法第3条2項の規定の適用を受ける要件も十分に具備しているものと思料する。

第5 当審の判断
1.本願商標について
本願商標は、別掲のとおり、「炭火納豆」の文字を毛筆体で、殊更、特異ともいえない態様により、普通に横書きしてなるものであるところ、該文字は、「炭でおこした火」(広辞苑第5版)の意味合いを有する「炭火」の文字と、指定商品名である「納豆」の2文字を結合したものであることは容易に認識、理解し得るところである。
そして、「納豆」は、「よく煮た白大豆を藁づとなどに入れて適温中におき、納豆菌を繁殖させて作った食品。粘り気が強いので糸引き納豆と呼ばれ、今日普通に納豆というのは、この種のものをさす。」(広辞苑5版)食品であって、古くより我が国に根付き、米を主食とした日本人の食生活には欠かせないものとして、今日においても広く親しまれ食されているものである。
ところで、上記の証拠調べ通知の「1.書籍等の記載」によれば、納豆は、通常、蒸し、あるいは煮た大豆に納豆菌を接種し(稲わらで包んだものは稲わらに付着しているものが大豆に繁殖する。)、これを発酵室に入れ、発酵させ、そして、発酵室から出して放冷し商品とする工程により生産されるものであるが、発酵室で発酵させる工程においては、あらかじめ発酵室を40〜45℃くらいに保つために、炭火が用いられていたことが認められる(「世界大百科事典1972版」の納豆の項参照)。
しかして、現在、この発酵の工程はコンピュータで管理され行われるようになってはいるものの(「納豆大全」204頁)、近年における消費者の健康志向に伴う自然食品の普及、グルメブームの浸透等の消費構造の変化のなか、その発酵工程中に、昔ながらの炭火を用いる方法が、本願商標の出願前より広く採用されていたことを認めることができる。
そして、これら方法により製造された納豆には「炭火造り」、「薫製炭火造り」等の文字が使用されているとともに(「なにかとナットウ・ブック - オール・ザット・納豆読本」、「至宝の伝統食 納豆」及び「納豆大全」等々)、上記証拠調べ通知の「2.新聞の記事検索の結果」及び同「3.インターネット上の情報」によれば、例えば、茨城県水戸の「オーサト」、福岡県九州工場の「茨城水戸食品」、東京都国立市の「小山商店」、北海道の「オシキリ食品」、宮崎県都城市の「竹之下フーズ」、東京都の「セコム」さらには茨城県の「只野農場」等各地の納豆生産業者が、発酵工程で炭火を用いた納豆について「炭火納豆」の文字を使用している事実が認められる。
そうすると、本願商標の文字構成、構成態様及び上記納豆の生産方法の実際、取引界の実情等からみて、本願商標を、その指定商品について使用した場合、これに接する者は、当該商品(納豆)が、原審説示の如く、「炭火熱で発酵させた納豆」であることを表す、商品の品質、製造方法を表示したものと認識、理解するに止まり、「炭火熱で発酵させた納豆」以外の商品(納豆)について使用したときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれあるものというのが相当である。
2.請求人(出願人)の主張について
(1)請求人は、本願商標は、毛筆体で横書きされた態様であり、所謂普通に用いられる方法で表された書体ではないと主張する。
しかしながら、本願商標は、「炭火納豆」の文字を、殊更、特異ともいえない態様により、普通に横書きしてなるものと認められること、上記のとおりであるから、かかる請求人の主張は採用できない。
(2)請求人は、実質的に炭火の特性を利用して納豆を製造するために、炭火を使用している業者は皆無に等しく、実質的に炭火を使用していると称する場合でも、納豆の特性と炭火の特性を利用した製造方法により製造されたものとは考えられないから、それら表示は品質を誤認させる不当な表示であって、それを根拠に請求人の「炭火納豆」の表示を品質表示とすることは不当な認定であるとし、本願商標は一種の造語として自他商品識別機能を具備するものであると主張している。
しかしながら、たとえ、請求人による、納豆の製造工程においての炭火の使用が、「炭火を使用し、炭酸ガスにより納豆菌の働きを一旦休止させ、後に急激に活性化させて納豆を製造することについて特許第3016198号」(審判請求書3頁)の製造方法の実施であるとしても、上記の証拠調べ通知において示した証拠によれば、請求人以外の者が、その業務に係る商品(納豆)に「炭火納豆」の表示を用いているのは、それら業者が、納豆製造工程中の発酵工程において納豆菌の発酵を促すため炭火を用いていることによるものにほかならないのであるから、請求人以外の者の当該商品への「炭火納豆」の文字の使用は、その製造方法を端的に表示し商品を差別化するため使用している表示であることは明らかである。
そうすると、請求人と請求人以外の者との間において、納豆の製造工程における炭火の使用の方法、目的に、相違があるとしても、いずれも炭火を使用していることにおいては変わりがないから、かかる事情にあって、請求人の「炭火納豆」の文字のみが自他商品の識別機能を有するものとはいうことはできず、したがって、かかる請求人の主張は採用することができない。
(3)また、請求人は、「至宝の伝統食 納豆」(都立中央図書館蔵、株式会社アスペクト社刊)に掲載されている、「納豆おもしろMap」との見出しのもと「そでふり納豆」の項にある「炭火造り」の表示は、昭和58年以来、請求人が使用し、発表している「炭火造り」(商標登録第4105440号)をそのまま記載したにすぎないとか、同じく、「備長炭炭火造り」の表示は、平成8年から使用開始した請求人の「江戸炭火造り、東京」(商標登録第4391814号)を模倣したものであり、「出雲の大地」の項の「燻煙炭火造り納豆」は、請求人の「炭火造り」を模倣するに際し「燻煙」を付して同一表示をさけたものであり、「ラベルコピー考現学」の項の「炭火造り」は、1992年の請求人のものである。等々。請求人は、上記証拠調べ通知に示した、「炭火造り」、「備長炭炭火造り」、「燻煙炭火造り納豆」、「燻煙炭火造り」及び「炭火納豆」等の文字の使用例は、いずれも、請求人の表示を他人が勝手に使用したもの、あるいは模倣したものである等と主張しているが、かかる請求人の主張を裏付けるべき的確な証拠方法の提出がないから、その主張を俄に認めることができない。
このほか、請求人の述べるところはいずれも証左がなく、妥当性を欠くものであるから、これを採用の限りでない。
(4)請求人は、本願商標は請求人の製造販売に係る納豆を表示する商標として、少なくとも東京近郊では、需要者に広く知られるに至っているから、商標法第3条第2項の規定の適用を受ける要件を十分に具備していると主張している。
そこで、請求人が平成14年1月11日に上申書により提出した証拠についてみるに、まず、甲第4号証は「商品ご案内」と称する請求人の商品カタログとみられるが、これよりは、請求人が納豆に本願商標を使用していたことを認めることができるとしても、これをもって本願商標の周知性を証明し得たものとはいえない。
つぎに、甲第5号証の1は、保谷商工会が請求人の申請に基づき証明した形式の平成13年11月26日付けの「証明願」であり、甲第5号証の2は、東村山市商工会が証明した前記と同様の形式の平成13年11月26日付けの「証明願」である。また、甲第6号証の1ないし3及び甲第7号証の1ないし8は、同業者等が証明した前記と同様の形式の、平成13年11月13日から同12月15日の間に作成された「証明願」である。
しかしながら、甲第6号証の1は、請求人の(本願商標の)使用契約者であるという坂田醗酵食品株式会社の証明によるものであるから、利害関係者による係る「証明願」は、客観的な立場での証明とはいえない。
甲第5号証の1及び2、甲第6号証の2及び3並びに甲第7号証の1ないし8は、いずれも、請求人が本願商標を永年にわたり納豆について使用していたこと、そして、本願商標は請求人が納豆について使用する商標として、需要者、取引者間に広く知られるに至っていたことを証明した内容を要旨とする「証明願」である。
しかしながら、請求人は、本願商標を納豆に20年以上継続して使用し、東京近辺においては、年間100万個程度を販売していると主張しているにもかかわらず、本件において提出した証拠中には、その販売数量、販売期間、販売額等を確認し得る客観的な証拠方法の提出がなく、このように、本件において、上記に関する客観的な証拠方法の提出のない請求人より依頼を受けた上記書証の各証明者が、その証明事項を証明するに際し、如何なる資料をもって証明し得たのか不明というほかはなく、そうすると、かかる裏付け資料のない「証明願」により、本願商標が需要者、取引者間に周知であったことを証明するには十分なものとはいえない。
しかも、請求人以外の同業者が、現に、「炭火納豆」の文字よりなる商標を納豆について使用している事実があることは、前記1.のとおりである。
甲第7号証の9は、「炭火納豆」のロゴの「印刷確認書」であるが、印刷した紙カップ用ホルダーの印刷数量が不明である。
甲第8号証は、「JAPAN PACKAGING CONTEST ’92/日本パッケージングコンテスト(日本包装技術協会発行)」、甲第9号証は、「あさひ銀総研レポート(平成5年2月1日あさひ銀総合研究所発行)」、甲第10号証は、「シグナル NET WORK VOL.28 1993(平成5年8月10日全日食チェーン共同組合発行)」、甲第11号証は、「TANTO/たんと10月号(平成5年10月1日集英社発行)」、甲第12号証は、「日経の生活情報誌 ショッピング/1994 6月号(平成6年6月1日日経ホーム出版発行)」、甲第13号証は、「YOMIURI SPECIAL20 ザ納豆決定版(1999年読売新聞社発行)」、甲第14号証は、「工業部会報第8号(平成13年7月1日東村山市商工会工業部発行)」等の雑誌、会報誌の類であるが、これらには、請求人の販売する「炭火納豆」若しくは「炭火納豆」の付された納豆の多連容器が写真と共に紹介掲載、宣伝・広告されていることが認められるが、その配布先(地域)及び頒布、販売した部数等が明らかでなく、本願商標の使用の実績を推し量る証左とすることはできない。
そうすると、上記証拠のみをもって、本願商標の指定商品についての需要者、取引者間における、使用状況、使用実績を客観的に証明するには十分とはいえないものである。
3.結び
したがって、本願商標が、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号に該当するとの原査定の認定は妥当なものであり、また、本願商標が使用により、取引界において何人の業務に係る商品であることを認識することができるに至っているとはいえないから、原査定を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲
本願商標


審理終結日 2006-01-23 
結審通知日 2006-01-24 
審決日 2006-02-08 
出願番号 商願平10-28355 
審決分類 T 1 8・ 272- Z (Z29)
T 1 8・ 13- Z (Z29)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 勝治高橋 厚子池田 佐代子 
特許庁審判長 柴田 昭夫
特許庁審判官 岩崎 良子
山本 敦子
商標の称呼 スミビナットー、スミビ 
代理人 涌井 謙一 
代理人 鈴木 正次 

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