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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない 016
管理番号 1126013 
審判番号 取消2004-31310 
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-12-22 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2004-10-04 
確定日 2005-10-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第4134397号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4134397号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおり、「レガシィクラブ」の片仮名文字を横書きしてなり、平成8年8月6日に登録出願され、第16類「印刷物」を指定商品として、同10年4月10日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第35号証(枝番号を含む。)並びに検甲第1号証及び検甲第2号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)取消理由
本件商標は、片仮名で「レガシィクラブ」と横書きしてなるものであるところ、被請求人は、指定商品について、別掲(2)のとおりの本件商標に類似する商標(以下「本件使用商標」という。)を使用することにより、別掲(3)のとおりの商標(以下「請求人引用商標1」という。)及び別掲(4)のとおりの商標(以下「請求人引用商標2」という。)を使用している請求人の業務に係る商品と混同を生ずる行為をしているので、その登録は、商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきである。
(2)本件商標の構成
本件商標は、片仮名で「レガシィクラブ」と横書きしてなり、「レガシイクラブ」の称呼が生じる。
(3)被請求人の使用行為
(ア)被請求人は、本件使用商標を付した自動車に関する「ムック」を平成15年12月28日以来、現在に至るまで刊行・販売している(甲第7号証ないし甲第11号証及び検甲第1号証)。
(イ)本件使用商標は、ローマ文字で上段に「LEGACY」、下段に「CLUB」と配し、上記「LEGACY」の「CY」の上方に片仮名で「〔レガシィクラブ〕」と小さく書した構成よりなる。
上記の構成中の「〔レガシィクラブ〕」に関しては、本件商標と物理的に同一と解して差し支えないが、残余の「LEGACY/CLUB」の部分に関しては、物理的には本件商標と明らかに別異のものである。
そこで、社会通念上の同一性があるかを検討するに、甲第2号証に示すように本件使用商標中の「LEGACY」の文字と対応する英単語が存し、その称呼は「レガシイ」であり、その他に同一の称呼を有する英単語は発見できないから、本件使用商標中の「LEGACY」と本件商標中の「レガシィ」は一義的に対応しているといえる。
しかしながら、「遺産」等の意味を有する「LEGACY」が外来語としてわが国において定着していないことはもとより、平均的な語学力を持つ需要者、取引者が直ちに上記の英単語の意味を想起できないことはいうまでもなく、本件商標の「レガシィ」に接した需要者、取引者はその観念を理解できず、それを一種の造語として認識する蓋然性が高く、これを「遺産」等の意味を有する英単語「LEGACY」と社会通念上同一とすることはできない。
なお、後記するように「レガシィ」の文字は需要者、取引者にとって富士重工業株式会社の人気乗用車「レガシイ/LEGACY」を想起するものとして親しまれており、それを前提とすれば需要者、取引者は本件使用商標中の「LEGACY」と本件商標中の「レガシィ」を相互に想起するといえる。
しかしながら、それは他人の著名商標「レガシイ/LEGACY」を前提としてのものであり、加えて、同社は本件商標と抵触する指定商品に係る先願、先登録の登録第2277436号商標「LEGACY」を保有している(甲第5号証の1及び2)。
よって、本件使用商標は、本件商標とは社会通念上の同一性があるとすることはできない。
(ウ)次に、本件使用商標中の「CLUB」の文字は「クラブ、同好会」等の観念を有する英単語であり(甲第3号証)、「クラブ」と称呼するものであり、その限りにおいては本件商標中の「クラブ」の文字と対応するといえる。
しかしながら、「クラブ」と称呼する英単語としては上記の「CLUB」のほかに「蟹」の観念を有する英単語「CRAB」が存し(甲第4号証)、これも前記の「CLUB」と同様わが国において広く親しまれている言葉である。したがって、本件使用商標中の「CLUB」と本件商標中の「クラブ」は一義的に対応しておらず、両者を社会通念上同一とみなすことはできない。
(エ)さらに、本件商標において「レガシィクラブ」の文字が等大、等書体、等間隔にて一連に横書きしているのに対し、本件使用商標においては「LEGACY」と「CLUB」は上下2段に分離して書されている。
この場合、本件商標が上記登録第2277436号商標の存在にも関わらず登録査定がなされたのは、上記態様からなる本件商標には構成上「レガシィ」と「クラブ」の部分に分離観察すべき格別の理由はないので「レガシイ」の称呼が生じる余地はなく、「レガシイクラブ」の称呼及び観念しか生じないと判断されたからにほかならない。
(オ)以上のように、本件使用商標と本件商標間に社会通念上の同一性がないことは明白である。一方、本件使用商標は片仮名の「レガシィクラブ」の部分はもとより、ローマ文字の「LEGACY/CLUB」からも「レガシイクラブ」の称呼が発生する。
よって、本件使用商標と本件商標は称呼「レガシイクラブ」を共通にする類似商標である。
(4)請求人の業務に係る商品及びそれに付された商標
(ア)請求人は、請求人引用商標1を付した自動車に関する「雑誌」を平成14年6月20日以来、現在に至るまで刊行・販売している(甲第14号証ないし甲第24号証及び検甲第2号証の1)。上記雑誌は当初は季刊誌としてスタートし、平成16年2月20日発売の第14号以降は隔月刊誌として刊行されている。
また、請求人はそれ以前に、請求人引用商標2を表紙に、請求人引用商標1を裏表紙に付した自動車に関する「ムック」を平成12年12月20日、平成13年3月20日、平成13年6月20日、平成13年9月20日、平成13年12月20日、平成14年3月20日にそれぞれ刊行・販売している(甲第25号証ないし甲第30号証及び検甲第2号証の2)。そして、各号の(公称部数でない)発行部数は2万部を超えており、これは同種の雑誌に比べて高い数字であり、約1万8千店といわれる日本全国の書店(甲第35号証の朝日新聞平成16年9月1日東京版朝刊第2頁記事参照。)にことごとく配本できる数である。
(イ)請求人引用商標1は、ローマ文字にて「LEGACY」と配すると共にその左端に「C」の文字をモチーフとした図を配し、上段に上記「LEGACY」とは異なる書体(筆記体)にて小さく「Club」と配し、上記「C」の文字をモチーフとした図の下方に片仮名にて「クラブ・レガシィ」と小さく書した構成よりなる。
(ウ)請求人引用商標2は、ローマ文字にて「LEGACY」と配し、左端の「L」に重なるように、「LEGACY」とは異なる書体(筆記体)にて小さく「Club」と配し、上記「Club」の「C」の文字を図形化して大きく記し、上記「L」の文字の下方に片仮名で「クラブ・レガシイ」と小さく書した構成よりなる。
(エ)請求人引用商標1及び2は、共に「クラブレガシイ」の称呼を生じる。一方、両商標は「Club」部分に対して「LEGACY」の部分が圧倒的に大きく、しかも書体も、配置位置も異なることから、構成上両者が分離観察される蓋然性が高く「レガシイ」の称呼も生じる。
称呼「レガシイ」に関し、件外富士重工業株式会社が登録第2277436号商標「LEGACY」(甲第5号証の1及び2)を保有していることは上記(3)(エ)で記したとおりである。同じく、「LEGACY」は平成1年の発売以来、国内販売累計100万台を突破する同社の人気乗用車の車名であり(甲第6号証)、自動車に関する雑誌やムックの需要者層は言うに及ばず、一般人にも広く知られている著名商標である。
以上の事実に鑑み、請求人は請求人引用商標1及び2を付した雑誌及びムックの販売にあたっては富士重工業株式会社から上記登録第2277436号商標「LEGACY」(甲第5号証の1及び2)の使用許諾を受けている。
(5)本件商標と請求人引用商標1及び2の抵触の有無
(ア)請求人が請求人引用商標1及び2を使用した時期は本件商標の出願日より後であるが、本論に入る前に両者には抵触がなく、請求人の使用行為には違法性がないことを記す。
前記したとおり、本件商標の称呼は「レガシイクラブ」であり、これに対し請求人引用商標1及び2の称呼は「クラブレガシイ」及び「レガシイ」であるから、両者の称呼は明らかに異なり称呼上これらを類似とする根拠はない。
ちなみに、甲第31号証の1に示すように被請求人は請求人引用商標1及び2の使用開始後である平成15年10月29日に第16類において「クラブレガシイ」(商願2003-95686)の商標を出願し(なお、この出願は甲第31号証の2に示すように、上記請求人の使用行為を引用した拒絶理由通知を平成16年6月30日に受けている。)、また、件外富士重工業株式会社も甲第32号証に示すように平成16年5月19日に第16類において「クラブレガシイ」(商願2004-46097)の商標を防衛的に出願している。
(イ)そこで、特許庁電子図書館の称呼検索により「クラブレガシイ」に類似する商標の検索を行ったが、本件商標はヒットしなかった。同様に「レガシイクラブ」に類似する商標の検索を行ったが、上記「クラブレガシイ」はヒットしなかった(甲第33号証)。さらにPATOLISの類似商標調査により上記と同様の検索を行ったが、やはり「クラブレガシイ」に対し「レガシイクラブ」、「レガシイクラブ」に対し「クラブレガシイ」はヒットしなかった。
これらの検索システムは現実の称呼類似の判断より広い範囲で該当商標をヒットさせる仕組みになっているが、これをもってしても「レガシイクラブ」と「クラブレガシイ」は非類似と捉えられている。
(ウ)次に、本件商標の観念は「レガシイクラブ」であり、これに対し請求人引用商標1及び2の観念は「クラブレガシイ」及び「レガシイ」であるから、両者の観念は明らかに異なる。
また、(3)(エ)において記したように、先願、先登録の商標「LEGACY」の存在にもかかわらず、本件商標が登録査定されたのは本件商標からは「レガシイクラブ」の称呼及び観念しか生じないと判断されたからにほかならない。
さらに、本件商標と請求人引用商標1及び2の外観が非類似であることもいうまでない。
(エ)したがって、本件商標と請求人引用商標1及び2は非類似であり、請求人が請求人引用商標1及び2を使用する行為に何らの違法性も存しない。
(6)混同行為
(ア)本件使用商標は、「LEGACY」と「CLUB」とを上下2段に分離して書されている。また、甲第7号証ないし甲第11号証及び検甲第1号証に示すようにそれをムックの表紙に付するに際し、「CLUB」の部分を表紙の写真領域に沈め込むと共に、「LEGACY」の部分をコントラストが鮮明になるように表紙の白色の余白領域に配する手法により両者を意識的に振り分け、「LEGACY」の部分を際立たせている。よって、本件使用商標に接した需要者、取引者が「LEGACY」の部分を分離観察することは必定であり、本件使用商標は「レガシイクラブ」のほか、「レガシイ」の称呼も生じる。
一方、請求人引用商標1及び2は、前記したように共に「Club」の部分に対して「LEGACY」の部分が圧倒的に大きく、しかも書体も、配置位置も異なることから、これらに接した需要者、取引者が「LEGACY」の部分を分離観察することは必定であり、これらは「クラブレガシイ」の称呼のほか、「レガシイ」の称呼も生じる。よって、本件使用商標と請求人引用商標1及び2とは称呼を共通にする類似商標である。
(イ)一方、本件使用商標が付された商品と、請求人引用商標2が付された商品は共に「ムック」である。また、請求人引用商標1が付された商品「雑誌」は本件使用商標が付された商品「ムック」と類似する。この場合、検甲第1号証及び検甲第2号証の2からも明らかなように、本件使用商標が付された商品及び請求人引用商標2が付された商品は「ムック」とはいえ、雑誌と区別がつかない外観及び内容を有し、更に一定周期で刊行されると共に連続した号数も付されており、雑誌コードや刊行形態に精通した書店等の取引者はともかくとして、一般の需要者には雑誌と見分けがつかない態様のものである。
(ウ)本件使用商標が付されたムックと請求人引用商標1が付された雑誌及び請求人引用商標2が付されたムックとは共に自動車に関するものであり、需要者層が共通し、被請求人と請求人は競業関係にある。
(エ)被請求人が本件使用商標を付したムックを発売した平成15年12月28日当時、請求人は請求人引用商標2を付したムックを通算6号(甲第25号証ないし第30号証)、それに引き続いて請求人引用商標1を付した雑誌を通算7号(甲第14号証ないし第20号証)刊行しているものであり、(4)(ア)で記した請求人の商品の発行部数及びそれが限られた読者を対象とした自動車に関するムック、雑誌であることを勘案した場合、請求人引用商標1及び2には保護に値するに充分な信用形成がなされていたと判断される。
(オ)以上のように、請求人引用商標1及び2に対する本件使用商標の表示の近似性は高く、一方、請求人引用商標1及び2は請求人の商品の出所を表すものとして、自動車に関するムック及び雑誌の需要者層に広く認識されている。よって、自動車に関するムック及び雑誌という特殊、かつ、狭い競業の場において、被請求人が本件使用商標を使用することは、需要者がその商品を請求人の商品と取り違えたり、あるいは、請求人の商品の姉妹誌や増刊号と誤認したり、あるいは請求人と関連する出版者の商品と誤認するかのように、商品の出所につき混同を生じせしめるものである。
(7)弁駁の理由
(ア)本件商標と本件使用商標の同一性について
被請求人は、本件商標と本件使用商標の同一性について、カタカナの登録商標を英文字で使用することに関し社会通念上の同一性があると主張するが、本件の場合にこれが妥当しないことは審判請求書で主張した通りである。
特許庁審査基準に照らしてみた場合、そもそも構成中に件外富士重工業株式会社の著名商標「LEGACY」を含む本件商標が登録されたこと自体大いに問題があるといわざるを得ない。
社会通念上の同一性の認定とは裏を返せば他人の商標権の禁止権に対抗できる使用権の範囲を認定することであり、物理上の同一性の範囲と社会通念上の同一性の範囲間に使用権の広狭があってはならないことは法趣旨に照らして当然のことである。
仮に、本件の使用行為に関し同一性を認定した場合、被請求人は先願、先登録でしかも著名商標である富士重工業株式会社の登録第2277436号商標「LEGACY」と重複した権利を認められ、物理上の同一性の範囲に比し使用権の範囲が拡大することになるので、このような使用行為は社会通念上の同一性の範囲内の使用行為を逸脱しているといわざるを得ない。
(イ)本件商標と請求人引用商標1及び2の抵触の有無について
被請求人は、請求人引用商標1及び2は本件商標に類似すると主張するが、両者が非類似であることは審判請求書で主張した通りである。
両者が類似するとの上記主張に関し被請求人は答弁書においてその根拠を明らかにしていないが、被請求人が言及する侵害訴訟においては「要するに、クラブとレガシイの順番を逆にしただけである」などと述べている。
「クラブとレガシイの順番を逆にした」というからには、その前提として本件商標が「レガシイ」や「クラブ」に分離されなければならない。しかしながら、前記したように本件商標が登録された所以は本件商標はあくまでも「レガシイクラブ」と一体不可分に称呼、観念されるべきと判断された点にあり、そこからは構成要素として「レガシイ」や「クラブ」を取り出す余地は無く、上記の被請求人の主張は失当である。
(ウ)本件使用商標と請求人引用商標1及び2の類似性について
被請求人は、「本審判請求人は上記侵害事件においては、本審判事件の取消理由とは反対に、『クラブレガシイ』および『Club/LEGACY』は『レガシイクラブ』および『LEGACY/CLUB』には類似していないと主張しており、本審判事件とは逆の相反する意見を主張しているものである。」と主張しているが、この主張は誤っている。
上記侵害事件においては、請求人は請求人引用商標1及び2は本件商標とは非類似であると主張しているのであり、本件使用商標と非類似であると主張しているわけではないのであり、そこには相反する要素は何等存しない。
なお、被請求人は答弁書において本件使用商標が請求人引用商標1及び2と類似するとの請求人の主張に何等反論しておらず、むしろ類似することを自認していると解される。
(8)結び
以上のように、商標権者である被請求人は、指定商品について本件商標に類似する本件使用商標を使用することにより、請求人引用商標1及び2の商標を使用している請求人の業務に係る商品と混同を生ずる行為を行っている。この場合、出版業界、それも自動車に関するムック及び雑誌という特殊、かつ、狭い競業の場において被請求人が請求人引用商標1及び2の商標を付した商品の存在について熟知していることは疑いの余地もない。
そして、被請求人の使用は、たまたま本件商標の登録を得ていたことを奇貨とした同人が本件商標の使用権の範囲に関する独自の解釈に基づいて行ったものであり、同人は自己の使用行為が請求人の商品に対する混同を惹起することの認識を充分持っており、使用について故意を有するものといわざるを得ない。
よって、本件商標は、商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきである。

3 被請求人の答弁
(1)本件商標を、被請求人は、検甲第1号証のごとく使用している。つまり、片仮名の「レガシィクラブ」および英大文字の同一書体で「LEGACY/CLUB」と二段に表して雑誌の表題として使用している。
これに対し、請求人が甲号証で使用している商標は、片仮名の「クラブ・レガシィ」および英大文字のCをモチーフしたような大きなマークに続けて英大文字で「LEGACY」と表示し、その上に英筆記体小文字で「club」として二段に表して使用されており、クラブレガシイと称呼するとしている。
このような両者の商標において、権利者の商標の使用が故意に指定商品につい本件商標に類似する商標の使用であって請求人の業務に係る商品と混同を生ずるとして商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきである、としている。
(2)まず、商標権者の本件商標の使用が、類似する商標の使用であると主張しているが、上記の如く、使用している片仮名の「レガシィクラブ」は本件商標そのものであり、また、英大文字の「LEGACY/CLUB」も本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
片仮名の登録商標を英文字で使用し、英文字の登録商標を片仮名で使用することは、極めて一般的な使用形態であり、片仮名と英文字との相互使用は現代では社会通念上一般的である。ほとんど全ての登録商標がそのように使用されているといえるほどである。そのような使用状態は登録商標そのものの使用であって、類似商標の使用ではない。
つぎに、商標法第51条第1項でいう類似する商標の故意の使用とは、例えば、本件の場合では、商標権者が、既に雑誌に使用している「クラブレガシィ」「club/LEGACY」の存在を知っているにもかかわらず「レガシィクラブ」の類似商標である「クラブレガシィ」や「CLUB LEGACY」を使用した場合が該当する。
しかし、この場合、商標権者以外の者が「レガシィクラブ」の商標登録後にそれに類似する「クラブレガシィ」や「CLUB LEGACY」を使用することになり、これは登録商標「レガシィクラブ」の商標権を侵害することになる。
本件の場合はまさにこの例であり、請求人は、被請求人である「レガシィクラブ」の商標権者から商標権侵害の訴訟を受けている(平成16年(ワ)第17735号商標権侵害差止請求事件)。
そして、請求人は上記侵害事件においては、本審判事件の取消理由とは反対に、「クラブレガシィ」及び「Club/LEGACY」は「レガシィクラブ」及び「LEGACY/CLUB」には類似していないと主張しており、本審判事件とは逆の相反する意見を主張しているものである。
(3)以上のごとく、商標権者の商標の使用は、登録商標と類似の商標の使用ではなく、しかも、審判請求人の取消理由の主張には根拠がなく、商標権者の商標の使用は商標法第51条第1項の規定には該当しないものである。

4 当審の判断
被請求人は、答弁書において「答弁の趣旨」について記するところがないが、答弁の内容から「本件審判の請求は成り立たない。」との審決を求めているものと判断し、以下、審理する。
(1)本件使用商標
(ア)甲第7号証ないし甲第11号証及び検甲第1号証によれば、被請求人は、別掲(2)のとおりの本件使用商標を、自動車に関する「雑誌」に、平成15年12月28日以降使用している。
なお、甲第7号証によれば、当該雑誌の発売日は「2003年12月248日」と表示されいるが、請求人は被請求人が本件使用商標を「平成15年12月28日」以降使用していると主張しているところ、これに反する証拠はないから、甲第7号証に係る雑誌の発売日は上記のとおりと認める。
また、請求人は、本件使用商標に係る商品は「ムック」であるとしているが、甲第9号証、甲第10号証及び検甲第1号証の左下隅に記載ある雑誌コードによれば、該商品は雑誌と認められる。
(2)請求人引用商標1及び2
(ア)甲第14号証ないし甲第24号証及び検甲第2号証の1によれば、請求人は、別掲(3)のとおりの請求人引用商標1を、自動車に関する「雑誌」に、2002年(平成14)年8月1日以降使用している。
(イ)甲第25号証ないし甲第30号証及び検甲第2号証の2によれば、請求人は、別掲(4)のとおりの請求人引用商標2を、自動車に関する「ムック」に、2001年(平成13年)1月17日以降使用している。
(3)商標の類否について
(ア)本件商標と本件使用商標との類否
本件商標は、前記のとおり、「レガシィクラブ」の文字を書してなるものであるから、その構成文字に相応して「レガシイクラブ」の称呼を生ずる。また、「レガシィ」の文字は我が国において馴染まれた外来語とはいえないことから、その意味合いを直ちに認識し得ないとしても、「クラブ」の文字は愛好者の集まりといった意味合いを有する欧文字「club」の外来語として広く親しまれ用いられている語であるから、これよりは、「レガシィクラブ」と名称付けされた特定の愛好者の集まりを観念させるということができ、「レガシィのクラブ、レガシィの会」程度の観念を生ずるものと認められる。
これに対し、本件使用商標は、別掲(2)のとおりの構成よりなるところ、構成中「レガシィクラブ」の文字は本件商標とその構成文字を同じくし、「LEGACY/CLUB」の文字は片仮名文字「レガシィクラブ」の称呼を欧文字で表したものと容易に理解し得るから、本件使用商標は、その全体の構成文字に相応して「レガシイクラブ」の称呼を生ずるものと認められる。また、「LEGACY」の文字は、その意味合いを直ちに認識し得ないとしても、「CLUB」の文字は「クラブ」の片仮名文字によっても互換的にも表記され、愛好者の集まりといった意味合いをもって我が国において広く用いられている英単語といい得るから、これよりは、「レガシィのクラブ、レガシィの会」程度の観念を生ずるものと認められる。
しかして、本件商標と本件使用商標とは、「レガシイクラブ」(レガシィのクラブ、レガシィの会)の称呼、観念を同じくするものであるが、本件使用商標はその構成中に二段に顕著に表した「LEGACY/CLUB」の文字を有し、それぞれの文字構成、文字態様からみて外観においては明確な差異を有するものであるから、本件使用商標は本件商標と同一の商標の使用ではないこと明らかであり、したがって、本件使用商標は、本件商標に類似する商標の使用といわなければならない。
なお、請求人は、「クラブ」の文字について、該文字には「CLUB」以外に「蟹」を意味する「CRAB」の文字もあるから、「クラブ」と「CLUB」は一義的に対応していないと主張しているが、我が国では「クラブ」の文字は「蟹」の意味合いに比し「愛好者の集まり、会」の意味合いをもってより広く知られているものといい得るから、該文字は「愛好者の集まり、会」と解するほうが自然であり、したがって、かかる請求人の主張は採用できない。
(イ)本件使用商標と請求人引用商標1及び2との類否
本件使用商標は、上記(ア)のとおり、「レガシイクラブ」(レガシィのクラブ、レガシィの会)の称呼、観念を生ずるものである。
これに対し、請求人引用商標1及び2は、別掲(3)及び(4)のとおりの構成よりなるところ、構成中、「Club」の文字は、その表示方法から「LEGACY」の文字に比し直ちには読み難いとしても、下段の「クラブ・レガシイ」の文字を配してなることを勘案すれば、これよりは全体として「クラブレガシイ」の称呼を生ずるものと認められる。そして、請求人もこの点については自認している。
また、「クラブ・レガシィ」の文字は、「Club/LEGACY」の文字部分の読みを特定したものと認められるところ、「Club」及び「LEGACY」(「クラブ」及び「レガシィ」)のそれぞれの文字の意味するところは上記本件使用商標のそれと同様といえるから、これよりは「レガシィのクラブ、レガシィの会」といった観念を生ずるものと認められる。
そこで、本件使用商標より生ずる「レガシイクラブ」と、請求人引用商標1及び2より生ずる「クラブレガシイ」の称呼を比較するに、両者は、「レガシイ」と「クラブ」の二語が前後に入れ替わっているにすぎないものであり、そして、「レガシィのクラブ、レガシィの会」の意味合いを離れ、それぞれが一連の熟語的意味合いを有する語句として別個独立した観念をもって一般に親しまれているといった事情もないから、観念上の明確な差異によりそれぞれの前後を正確に理解し、記憶することもできず、したがって、取引者、需要者が時と処を異にしてこれらに接するときは、「レガシイ」と「クラブ」のいずれが前であったか後であったかを判別することが極めて困難といわざるを得ない。
そうすると、本件使用商標と請求人引用商標1及び2とは、外観における差異を考慮しても、称呼及び観念において互いに相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。
なお、請求人は、請求人引用商標1及び2より生ずる観念について、請求人引用商標1及び2よりは「クラブレガシイ」(及び「レガシイ」)の観念を生ずるとし、本件商標より生ずる「レガシイクラブ」の観念とは異なる旨主張しているが、「クラブレガシイ」の意味するところは、結局は“「クラブ」あるいは「会」としてのレガシイ”であるから、「クラブレガシイ」の観念は、かかる意味合いにおいて「レガシィのクラブ、レガシィの会」との間に相違があるものとはいえず、したがって、請求人引用商標1及び2より生ずる観念は、前記のとおり、「レガシィのクラブ、レガシィの会」といい得るものである。
(ウ)ところで、請求人は、本件使用商標と請求人引用商標1及び2とが混同するとの主張のなかで、両者よりは、その構成中「LEGACY」の文字より、共に「レガシイ」の称呼をも生ずるとしているので、この点について判断する。
本件使用商標は、前記のとおり、構成中「LEGACY」と「CLUB」の文字を二段に分離し表示してなるものではあるが、構成各文字は縦にやや長く、角は丸みを持たせて表してなる共通の工夫が施され、全体として見ても、構成各文字の配置はまとまりよく一体として表示されているものである。また、別掲(5)に示す雑誌に表示した使用態様(検甲第1号証表紙写)を見ても、構成各文字は赤色に統一した着色が施されていることから、該文字部分の一体感は何ら失われることはなく、両文字の地色の相違もこの種商品(雑誌、ムック)の表紙においては通常採用されるデザインの範囲内のものであって、かかる地色の相違が両文字の一体感を損ねるともいえない。
しかも、「LEGACY/CLUB」の文字は、「レガシィのクラブ、レガシィの会」の一体とした観念を生じ(上記(ア))、「レガシイクラブ」の称呼もよどみなく一連に称呼し得ること併せ勘案すれば、「LEGACY/CLUB」の文字部分は、これに接する者をして、多くの場合、一体不可分のものとして認識させるというのが相当であり、「LEGACY」の文字部分のみが分離して認識されるとする特段の理由は見出すことができない。
したがって、仮に、請求人引用商標1及び2より、「LEGACY」の文字に相応し、単に「レガシイ」の称呼を生ずるとしても、本件使用商標よりは「レガシイ」の称呼は生じないというべきである。
しかして、本件使用商標よりは、上記(ア)のとおり、「レガシイクラブ」の称呼のみを生ずるというのが相当である。
(4)請求人引用商標1及び2の周知著名性について
請求人は、平成12年12月20日以降、請求人引用商標2を付した自動車に関するムックを通算6号、平成14年6月20日以降、請求人引用商標1を付した雑誌を通算7号発行しており、そして、各号の発行部数は2万部を超え、これは同種の雑誌に比べ高い数字であって、約1万8千店といわれる日本全国の書店に漏れなく配本できる数であるとし(甲第35号証)、被請求人が本件使用商標の使用を開始した平成15年12月28日当時、請求人引用商標1及び2は、請求人の取り扱いに係る自動車に関するムック及び雑誌の需要者に広く認識されていたと主張している。
しかし、請求人の提出に係る甲第35号証には「・・・今年(2004年)7月現在の全国の書店数は約1万8千店。5年前に比べて約4千店も減った。」との記載があるのみで、請求人の取扱いに係る上記商品の発行部数、売上高、広告の回数など具体的事実を証明する記載は全く見られないばかりでなく、他に請求人引用商標1及び2の周知著名性を立証する証拠の提出はないから、請求人引用商標1及び2が平成12年12月20日又は平成14年6月20日以降、今日に至る間、周知著名性を具備するに至っていたとの請求人の主張は、これを認めることができない。
(5)他人の業務に係る商品との混同のおそれの有無について
上記を踏まえ、被請求人が本件使用商標を雑誌に使用した場合、請求人の業務に係る雑誌又はムックと商品の出所について混同を生ずるおそれあるかか否かについてみるに、上記(4)のとおり、請求人引用商標1及び2には、周知著名性が認められないものである。
しかしながら、被請求人の使用する本件使用商標は、請求人引用商標1及び2と、前記(3)(イ)のとおり、互いに類似する商標と認められ、そして、本件使用商標に係る商品と、請求人引用商標1及び2に係る商品とは、共に同種の記事内容を掲載した自動車に関する「雑誌」あるいは「ムック」(「ムック」、は雑誌と書籍の性格を併せ持つ商品であるが、その編集内容、発行形式から雑誌と同種の商品と見て差し支えないものと認められる。)であって、両商品の価格、装丁、販売場所等両商品の共通性、そして、両商品は、いずれも前記(1)及び(2)のとおり、現に、継続して刊行、発売されている商品であることを勘案すれば、たとえ、請求人引用商標1及び2に周知著名性が認められないとしても、これに接する者は、草々の間、いずれの事業者の業務に係る商品であるかを直ちに区別することができず、その出所について混同を生ずるおそれあること否定することができないものといわざるを得ない。
(6)故意について
ところで、商標法第51条第1項により商標登録の取消しをするには、商標権者による当該登録商標の使用行為が、「故意」に他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたときに該当することが必要とされるので、以下、この点について判断する。
(ア)まず、前記(1)及び(2)によれば、被請求人が、本件使用商標の使用を開始したのは平成15年12月28日であるから、その使用の開始日は、請求人が請求人引用商標2の使用を開始した平成13年1月17日及び請求人引用商標1の使用を開始した平成14年8月1日より後のことである。しかしながら、被請求人は、本件商標をそれより前の平成8年8月6日に既に登録出願をし、同10年4月10日にその設定登録を受けていたものである。
(イ)本件使用商標と本件商標とは、「レガシイクラブ」(レガシィのクラブ、レガシィの会)の称呼、観念を同一にするものであり、本件使用商標の構成中には「レガシィクラブ」の片仮名文字も表記されており、そして「LEGACY/CLUB」の文字は「レガシィクラブ」の文字を欧文字をもって表したものと認められることは、上記(3)(ア)のとおりである。
他方、本件使用商標と請求人引用商標1及び2とは、「レガシイクラブ」(レガシィのクラブ、レガシィの会)と「クラブレガシイ」(レガシィのクラブ、レガシィの会)の称呼、観念において類似するものであるが(上記(3)(イ))、両者はこれを超え、同一の称呼を生ずるといった類似性はこれを認めることができない(上記(3)(ウ))。
そして、そもそも、本件商標と請求人引用商標1及び2とは、それぞれより生ずる称呼、観念、すなわち、本件商標より生ずる「レガシイクラブ」(レガシィのクラブ、レガシィの会)と請求人引用商標1及び2より生ずる「クラブレガシイ」(レガシィのクラブ、レガシィの会)とにおいて、本件使用商標と請求人引用商標1及び2と同様に互いに類似する関係にあったものである。(東京地裁 平成17年4月13日判決 平成16年(ワ)第17735号参照)
(ウ)そうすると、本件使用商標と本件商標とは同一の称呼のみを生ずるものであるのに対し、本件使用商標と請求人引用商標1及び2とは同一の称呼を生ずる程の共通性はなく、しかも、外観上の相違も明らかであること、また、請求人引用商標1及び2がその使用の期間を通して請求人の業務に係る商品を表示するものとして周知著名性を具備するに至っていたとは認められず、したがって、被請求人に、請求人引用商標1及び2の顧客吸引力を利用するといった事情があったとも見受けられないこと、及び、被請求人は、本件商標の商標権を請求人が請求人引用商標1及び2を使用する前に既に取得していたことを併せ勘案すれば、たとえ、被請求人が、本件使用商標を使用するについて請求人引用商標1及び2を知っていたとしても、殊更、本件商標を請求人引用商標1及び2の形態に近づく方向へ変更し使用したものということはできず、むしろ、本件商標より生ずる称呼、観念の識別標識としての機能を変更することなく、それと同一の称呼、観念を生ずる「LEGACY/CLUB」の欧文字を結合し使用したものというべきであるから、被請求人は、雑誌について本件使用商標の使用をした場合、請求人の業務に係る雑誌又はムックと商品の出所について混同を生じさせるおそれがあることを知りながらあえてその使用をしたものとまでは認められない。
そして、請求人の主張及び提出に係る全証拠をみるも、他に、被請求人が本件使用商標の使用をすることについて、故意に被請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたと認定するに足りる証拠は見当たらない。
(エ)以上によれば、被請求人(商標権者)は、「故意に」雑誌についての
本件商標に類似する本件使用商標の使用であって請求人の業務に係る雑誌又はムックと混同を生ずるものをしたとは認められないというのが相当である。
(7)したがって、本件商標の登録は、商標法第51条第1項の規定により、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標





(2)本件使用商標





(3)請求人引用商標1





(4)請求人引用商標2



(5)検甲第1号証表紙写

(色彩は原本参照)



審理終結日 2005-08-11 
結審通知日 2005-08-16 
審決日 2005-09-09 
出願番号 商願平8-87412 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (016)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 美加 
特許庁審判長 柴田 昭夫
特許庁審判官 小川 有三
岩崎 良子
登録日 1998-04-10 
登録番号 商標登録第4134397号(T4134397) 
商標の称呼 レガシイクラブ、クラブレガシイ 
代理人 金倉 喬二 
代理人 神保 欣正 

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