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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
取消200530508 審決 商標
取消200530509 審決 商標
無効200335303 審決 商標
無効200335304 審決 商標
無効200335094 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない 104
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 104
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない 104
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 104
管理番号 1123139 
審判番号 無効2003-35302 
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-07-22 
確定日 2005-08-15 
事件の表示 上記当事者間の登録第1950727号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1950727号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおり、「ジェロビタール」の片仮名文字及び「GEROVITAL」の欧文字を二段に横書きしてなり、昭和56年10月8日に登録出願され、第4類「石けん類(薬剤に属するものを除く)歯みがき、化粧品(薬剤に属するものを除く)香料類」を指定商品として、昭和62年4月30日に設定登録され、その後、平成9年5月20日に商標権存続期間の更新登録がされているものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の登録は無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第50号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法4条1項10号、同15号、同7号及び同19号の規定に該当するにもかかわわず、過誤によって登録されたものであり、以下に述べる理由により、商標法46条1項の規定により、無効にされるべきである。
A.商標法第4条第1項第10号及び同第15号について
(1)引用商標
請求人は、請求人の所有する以下の商標を引用する。
(a)「Gerovital H3」
(b)「Gerovital」
(c)別掲(2)に示す商標(甲第19号証)
(d)別掲(3)に示す商標(甲第20号証)
(2)請求人について
請求人「ジェロビタール コスメティックス エス エー(Gerovital cosmetics SA)」は、ルーマニア国法人であり、J/40/10058/1991の下で同国商工会議所に登記されたブカレストの商事会社(Societatea Comerciala)である。その前身は政府決定1213/23.1990により設立されたブカレストの商事会社「ミラージュ エス エー(Miraj SA)」であり、その名称を変更したものである(甲第17号証 ルーマニア商工会議所登録証明書)。請求人は、化粧品及び香水の製造販売を主たる営業目的としている。請求人の前身である前記「ミラージュ エス エー」(以下「ミラージュ社」という。)は、ルーマニア国の国家機関である「セントララ インダストリアラ メディカメンテ シコスメティセ(Centrala lndustriala Medicamente si Cosmetice)」からの正当な権利承継人であり、政府決定1224/1990によって設立された「イメコエス エー ブカレスト(IMECO S.A.BUCUREST)」と1992年2月21日に契約を締結し、同社の有するルーマニア国家発明商標局に登録された「GerovitalH3/Prof.Dr.Ana Aslan」からなる商標・登録番号R1966/2487、及びこれに対応する世界知的所有権庁登録(マドリッド協定)319015/18.08(上記引用商標(c))の分割譲渡を受けたものである(甲第15号証の1,2 イメコ エス エー、ミラージュ エス エー及びファーマク エス エー間の譲渡契約書、甲第18号証 ルーマニア国商標登録簿、甲第19号証 世界知的所有権庁マドリッド登録319015号商標原簿)。
このとき、請求人に分割譲渡された指定商品は、「クレンジングミルク、トニックローション、油肌用デイクリーム(Day Cream)、乾燥肌用デイクリーム、ナイトクリーム、マッサージクリーム、乾燥防止アイクリーム(Eye Cream)、美顔用パック、ハンドクリーム、毛管ローション、ボディミルク、硫黄及びタールシャンプー、抗蜂巣炎クリーム、ヘアーバルサム」である(同第15号証の1,2)。
なお、上記譲渡契約により、ルーマニア国政府決定1200/10.1990に基づき設立されたクルージューナポカの商事会社「ファーマク エス エー(Farmec SA)」(以下「ファーマク社」という。)は、当該同一商標につき「油性クリーム、ハーフ油性クリーム及びボディエマルジョン(乳液)」について分割譲渡を受けている(甲第15号証の1,2)。
ただし、ファーマク社が分割譲渡された上記の化粧品は、すべて、「ノボカイン」という化学物質を含むものに限定されており(甲第15号証の添付書類2)、これは、我が国では、薬事法上、化粧品について使用の認可がなされていない。よって、ファーマク社を通した化粧品は我が国には輸入できないものとなっている。
請求人は、2002年10月3日付第4614号により独占的代理店契約を日本法人ジャパンジーオーティーメイク株式会社(以下「ジーオーティーメイク社」という。)との間に3年間有効、更新可能な契約として締結し、請求人が「GerovitaI H3 Prof.Dr.Ana Aslan」の商標を使用して製造した化粧品を、輸入・販売する独占的代理店として、ジーオーティーメイク社を指名した。その後ジーオーティーメイク社の営業準備が完了したため、当該契約を2003年6月25日付で修正し、契約の相手方をジーオーティーメイク社の営業を承継した日本ジェロヴィタール・コスメティクス株式会社に変更し、契約期間を5年に延長した上、同社が最低仕入れ量及び販売量を充足する限り、契約を更新するものとしている(甲第14号証の1,2)。
現在その商品は、甲第11号証の商品パンフレットに記載のとおりであり、いずれも、「Gerovital H3/ Prof.Dr.Ana Aslan」の上記引用商標(上記引用商標(d)と略同一)を基本とした商標が、商品の容器、並びにその包装箱若しくは説明書に直接使用され、またそれらの販売促進用宣伝広告物に関して使用されている(甲第12号証、甲第13号証)。
(4)引用商標及びアナ・アスラン(Ana Aslan)博士の周知・著名性
引用各商標は「Gerovital」、「H3」、「Prof Dr A.Aslan」(署名の形)を要部とする商標である。そのうち、「Prof Dr A.Aslan」は、アナ・アスラン博士の署名である。そこでまず、「GEROVITAL H3」並びにアナ・アスラン博士について説明する。
(ア)「GEROVITAL H3」(ジェロピタールH3)は、ルーマニアにおける数百年に及ぶともいわれる老化に対する長い研究を基礎として、1957年に開発された老化予防・治療薬にかかる名称であり、アナ・アスラン博士・教授(1897年1月1日生まれ)がその発明者、開発者である。同博士は、自己が発明、開発した老化予防・治療薬にラテン語で「老いる」を意味する「gero」と「生命(力)」を意味する「vital」と、ビタミン類似の種々の効果を暗示する「H3」を合成して「GEROVITAL H3」と名付けたのである。
(イ)アナ・アスラン博士は、ルーマニアの国立アカデミー会員、医学博士、理学博士で、老人医学、内科学、心臓学を特別専攻した学者である。同博士は、すでに存在するプロカインを使用して、長く使用した場合の栄養再生特性を発見、細胞の老化を予防又は遅延させる治療薬効をもつことに着目して、1946年より異なるPHのプロカインの実験研究を重ね、1957年ルーマニア厚生省から老化予防・治療薬「GEROVITAL H3」について認可を取得したのである(甲第41号証 41頁、甲第42号証 16頁)。
(ウ)「GEROVITAL H3」は、1957年以降、アメリカ、東西ドイツ、フランスなどの厚生省からも承認されるなど世界50数カ国から許可され、また老人病学研究所での同薬品を用いる老化予防・治療には世界中から人が訪れる等、非常に注目され、ルーマニアを代表するものとなった(甲第41号証 53頁、甲第43号証 14,15,16,17頁)。また、「GEROVITAL H3」を使用した基礎化粧品も開発され、これは1970年代には工業規模で生産されるに至った(甲第41号証、同号証中特に、53,179,180,181頁、甲第32号証 ルーマニア健康省Ana Aslan国立老人及び老人医療研究所が、請求人の前身のミラージュ社に宛てた証明書)。
(エ)アナ・アスラン療法は、(a)基本物質としてのプロカインの使用による老化の防止と治療及び慢性機能低下症の防止と治療。(b)プロカインを用いた長期療法を患者の生物学的年齢と病理に則した治療スケージュールにより行う。(c)プロカインの経口、非経口投薬。(d)プロカイン溶液又は錠剤の投薬など複雑な療法を実施しているもので、アメリカ等国外からの治療客が多く、諸外国でよく知られている(甲第41号証4頁、甲第42号証 166頁、甲第43号証14,15,16,17頁)。
(オ)ルーマニアの紹介に関する文書等の多数には、ルーマニアにおける世界的に著名なものとして、老化予防・治療薬及び化粧品である「GEROVITAL H3」並びにその発明者、開発者としてアナ・アスラン博士が紹介されており、「GEROVITAL H3」ないしその略称である「GEROVITAL」並びにアナ・アスラン博士(Ana Aslan)の名前は世界的に著名となっている(甲第41号証、甲第42号証、甲第43号証)。
(カ)このように、「GEROVITAL H3」(ジェロビタールH3)(単に、「GEROVITAL」(ジェロビタール)と略されることもある)は、ルーマニアの誇るアナ・アスラン博士によって、発明された老化予防治療薬及びそれと関連する基礎化粧品の名称であり、上記のとおり、これは、本件商標の出願日(昭和56年(1981年)10月8日)の20年以上も前から、創作・使用され、世界的に周知・著名なものとなっている。
(キ)請求人は、引用各商標、及び、それと「GEROVITAL」の構成文字を同じくするものの若干態様に変化のある商標について、世界知的所有権庁(マドリッド協定)、共同体商標庁、カナダ、韓国、アメリカ合衆国、レバノン、オーストラリア、スウェーデン、南アフリカ、イスラエル、エクアドル、フィンランド及びルーマニア本国において、世界的規模で商標登録を取得している(甲第18号証ないし甲第31号証)。なお、これらの登録簿からも分かるとおり、権利者の表示は、請求人の旧名称である「ミラージュ エス エ一」のまま、名称変更の手続が終了していないままのものもある。
(5)引用商標と本件商標との類似性
これに対して、本件商標は、「GEROVITAL」の英文字と「ジェロビタール」の片仮名文字を上下2段に組み合わせてなるものであり、かつ、その指定商品において、「化粧品」を含むものである。上述のとおり、「化粧品」は、引用商標の使用にかかる商品であり、かつ、本件商標は、引用商標と、実質上同一のものであることは明らかである。
(6)不正の目的
(ア)本件商標権者は、上記のように、ルーマニアの財産ともいうべき薬品及び化粧品の名称と同一の商標を、ルーマニア政府当局、請求人及びアナ・アスラン博士らの何らの承諾を得ることなく、我が国において無断で勝手に商標登録したものである。
(イ)この点詳細に説明すれば、本件商標権者は、本件商標「GEROVITAL/ジェロビタール」につき、当初の権利者であるルーマニア当局から、共産主義又は社会主義革命の前後いずれにおいても、商標権の取得を許可されていない。もともと、引用商標「Gerovital H3 Prof.Dr.Ana Aslan」は、上述のとおり、ルーマニア国の共産主義時代である1957年に「Prof.Dr.Ana Aslan」(アナアスラン博士)により発明・創造されたものであるが、共産主義・社会主義下にあって、私企業が商標権を所有することは制度上不可能であり、すべての財産は国家機関が所有して国家に帰属していた。よって、1966年ルーマニア国における当初の商標権者は、ミニステラル インダストリエ アリメンタル(Ministerul Industrier Alimentare)の下にあるディレクティア ジェネララ デ アプロヴィナレ シ デスファセレ(Directia Generala De Aprovizionare Si Desfacere、食品産業省供給販売局ともいうべきもの)であり、後にこれを「医薬品、化粧品及び塗料中央工業省」(Centrala Industriala Medicamente,Cosmetice,Coloranti si Lacuri:CIMCCL)に移転している。
なお、現在のルーマニア等における正式の商標権者は、上述の各国商標原簿に記載のとおり、請求人となっているが、ルーマニア政府当局、本件商標権者及びアナ・アスラン博士が、本件商標の商標登録について、本件商標権者に許諾を与えた事実はない。
なお、1987年から1990年革命前の海外貿易は、国営企業である「CHIMICA」により独占されており、商品の輸出は「CHIMICA」を通す必要があった(なお、CHIMICAの現在の名称はROMFERCHIMである)。当該輸出会社はもとより、商標権の所有ないし管理と関係ないが、上記食品産業省あるいは医薬品、化粧品及び塗料中央工業省が、本件商標権者に対して、日本において本件商標の登録を取得することについて許可を与えた事実も存在しない(甲第35号証 ルーマニア政府外国貿易省が日本のルーマニア大使館に宛てた文書、甲第36号証 ルーマニア健康及び家庭省が請求人に宛てた証明書、甲第37号証 同上、甲第38号証 ルーマニア観光省が請求人に宛てた証明書、これらの証明書は、すべて、本件商標権者がルーマニアのいずれの当局からの承諾もなく本件商標権を取得したことが述べられている。)。
(ウ)また、本件商標権者は、化粧品だけでなく、本件商標を旧29類「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」、旧32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品」、旧28類「酒類」、現行39類「鉄道による輸送、車両による輸送、その他各種のサービス」に、商標「gerovital plant・ジェロビタール プラント」を現行3類「化粧品のほか、せっけん類、香料類、歯磨き」に、取得している(甲第2号証ないし甲第10号証)。このようなルーマニアの誇る商品「GEROVITAL」(ジェロビタール)と関係ないところで、ルーマニア政府当局、請求人及びアナ・アスラン博士が、本件商標と同一の商標につき、その登録の取得を本件商標権者に許可するはずはない。
(エ)さらに、「GEROVITAL H3」及び「GEROVITAL」は、それ全体としてアナ・アスラン博士の発明であり、同博士の命名であるにかかわらず、本件商標権者は、博士本人の名称である「Ana Aslan/アナ・アスラン」まで、現行分類の3類に化粧品のみでなく、「家庭用帯電防止剤その他つけまつ毛」まで広く権利を取得している(甲第11号証)。
同博士は自己の署名について登録を許すときは、必ず同意書に署名して交付していたが(甲第44号証、カナダ国における商標出願においての許諾の証明書)、本件商標権者について同意書を交付したような事実はない。なお、アナ・アスラン博士は、1987年(91才)に亡くなられているが(甲第42号証)、本件商標の登録時(昭和62年(1987年)4月30日)又はそれ以前に本件商標の登録について、本件商標権者に承諾を与えた事実は全くない。
(オ)このことを裏付けるひとつとして、本件商標と略同一の商標「GEROVITAL-H3」(登録第1669925号、甲第2号証)の公告時において、セントラーラ インダストリアラ デ メディカメンテ コスメティセ コロランティ シ ラクリ(CIMCCL薬品、化粧品、塗料全製品の中央局)名義の異議申立がなされた事実がある(甲第34号証)。
当該異議申立人である同中央局は、1966年ルーマニアにおいて、同年8月18日、OMPIにおける最初の登録、1982年のオーストラリア連邦の登録を取得したものと実質的に同一の機関であり、また日本の旧類の1類商標登録第596564号(昭和37年9月11日登録)についても権利者となっていた(甲第33号証)
これに対して、本件商標権者は、異議申立答弁書において、ルーマニア国立貿易機関である「ICE CHIMIMPORTEXPORT,S.R.OFROMANIA」と化粧品の輸入に関する代理店経絡を締結したこと並びに商標出願に必要な参考資料の送付を受ける同意書を取り交わしていた事実があると主張している(異議申立答弁書6頁(4)の項)。しかしながら、「ICECHIM」というのは存在したが、商標権の管理を行うこととは何ら関係のない輸出担当の会社であり、その後ブカレストの医薬品工場に吸収合併されている。
なお、上記異議申立は、当時の異議申立人による主張及び立証が不十分であったと思われるために、遺憾ながら、異議申立は却下されてしまい、結果、本件商標は登録されるに至っている。
(カ)さらに、本件商標権者は、本件商標権を勝手に取得していながら、本件商標の下で自ら化粧品を輸入販売し、その販売に当たり、ルーマニア国から後援を得ているかのような虚偽の宣伝広告をなし、かつ、商標権者の地位を濫用して、請求人が上述の日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社を我が国における正規の独占的代理人として指定し、「GEROVITAL H3」ないし「GEROVITAL」並びにアナ・アスラン博士の商標ないし標章を使用して営業活動を展開することを認めていることを妨害し、同社並びに請求人の商品を取り扱う美容院その他当該商品を掲載した雑誌社に商標権侵害の警告状を次々と送付して、営業の妨害を行っている。しかしこのような被告の行為は、正当な権利行使の枠を逸脱するものというべきである(甲第39号証)。
なお、本件商標権者は、請求人の独占的販売代理人ジーオーティメイク社の本件引用商標等の使用に対し、商標権侵害を主張して東京地方裁判所に仮処分を申請し、これは現在平成15年(ヨ)第22040号として民事第47部に係属中である。
これに対して、請求人は、本件商標権者の本件商標権等による濫用に対抗するため、本件商標権等に基づく差止請求権不存在確認並びに損害賠償等を請求して、平成15年7月11日に東京地方裁判所に出訴した(平成15年(ワ)第15971号)。
(キ)その上、本件商標権者は、本件商標を使用した自己の商品の販売に当たっても、勝手に、ルーマニア厚生省、ルーマニア観光省、ルーマニア国立療治医学研究所、ミラージュ S.A.コスメティク エンタープライズを「後援」として、自己の商品のカタログ等販売促進に利用している(甲第40号証)。もとよりこれは、明らかに事実に反するものである。さらに、本件商標権者が頒布するカタログは、全体が革命前の写真をはじめ、アナ・アスラン博士の写真を無断で冒頭に掲載した不当なものである。
それのみならず、本件商標権者のカタログには、ルーマニアにおいてシコメド エス アー(SICOMED S.A.)が権利を所有している商品を、同社と取引がないまま無断で使用している。
その他請求人及びその他のルーマニア関係者が知らない商品が「GEROVITAL H3」ないし「GEROVITAL」並びにアナ・アスラン博士などの本件等商標の下で販売されている(甲第40号証)。
以上の事実から、本件商標権者が、ルーマニアの誇る著名商標の信用を不当に利用して不当な利益をあげる目的で、すなわち、「不正の目的」で、本件商標を出願・登録したことは明らかである。
(ク)本件商標は、昭和62年(1987年)4月30日に登録され、すでに、登録後5年以上を経過しているものであるが、上述のとおり、「不正の目的」をもって登録されたものであり、商標法47条の規定にしたがい、商標法4条1項10号及び同第15号の適用について、除斥期間の適用はないというべきである。
(7)小括
以上のとおり、本件商標は、他人の周知・著名商標と同一ないし類似する商標ないしは、混同を生ずるおそれのある商標であって、当該他人の何らの承諾を得ることなく、不正の目的をもって出願・登録されたものであり、商標法4条1項10号ないし同第15号に該当することは明らかである。
B.商標法第4条第1項第7号及び同第19号について
(1)上記のとおり、アナ・アスラン博士はルーマニア国にとり、国際的に著名であって、ルーマニアの誇る科学者であり、かつ、同博士の発明した老化予防・治療等並びに同博士が開発した「GEROVITAL H3」(ジェロビタール H3)、ないしその要部である「GEROVITAL」(ジェロビタール)の薬剤並びにアナ・アスラン博士の処方に基づいた化粧品は人類特に老齢者に多大な貢献を果たしているのである。
これに対して、本件商標権者は、この名称と同一の本件商標を、ルーマニア政府当局、引用各商標の正式の商標権者である請求人及びアナ・アスラン博士の何らの承諾なく出願及び登録したものである。
すなわち、本件商標は、「GEROVITAL H3」、「GEROVITAL」、「アナ・アスラン博士」の名声を冒認しようとするもので、国際的信義に反して、出願・登録されたものであることは明らかである。
よって、本件商標は、商標法4条1項7号に違反する。
さらに、本件商標は、他人の業務にかかる商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者間に広く知られた商標と同一ないし類似する商標であって、不正の目的をもって使用するものであることも明らかである。 特に、本件審判請求人の我が国における独占的代理人である日本ジェロヴィタール・コスメティクス株式会社は、上述の営業妨害に会い、これによって、請求人の商品の国内参入は阻まれており、明らかに、「不正の目的」をもって使用するものである。
よって、本件商標は、商標法4条1項19号にも違反して登録されたものである。
2 弁駁の理由
A.商標法4条1項10号及び同15号について
(1)不正の目的について
(ア)被請求人は、「アナ・アスラン博士とジェロビタールH3との出会いについて」(答弁書3頁)として、報道カメラマンとして同博士を密着取材したと述べる。仮に、被請求人が報道カメラマンとしてアナ・アスラン博士と関係を持ち、また、ルーマニア観光省と関係を持ったとしても、それと本件商標権の取得とは何ら関係がない。
また、乙第4号証及び乙第5号証を提出して、パックツアーに関する取引契約を締結したと述べるが、これは、単なる旅行に関する契約にすぎない。
ここで、とくに注意すべきは、被請求人は、「某企業経営者がジェロビタールH3老化予防治療に興味をもち、アナ・アスラン博士を日本に招待した」と説明しており、明らかに、被請求人は、本件商標の含む「ジェロビタール(Gerovital)」が被請求人自身の創作にかかる商標でなく、アナ・アスラン博士の命名する商標であると認識している点である。
(イ)被請求人は、「日本への輸入及び商標権取得の経緯について」(答弁書5頁)として、ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)と日本に対する化粧品の輸出に関する話合いをして、「CHIMICA」は、日本国での商標権を取得する意思がないから、被請求人側で処理して欲しいと言われた、と述べる。そして、日本において商標「ジェロビタールH3」について商標権を取得せず、これを他人に権利取得されては、商標「ジェロビタールH3」を付した化粧品を日本に輸入することができなくなり、上記ルーマニア国立輸出入公団との契約を履行できなくなることから、本件商標等を出願し、登録を得たと述べる。
しかしながら、化粧品の輸入と当該商標権の取得とは全く別問題である。
(a)ルーマニアの共産主義の時代には、このジェロビタールH3(Gerovital‐H3)の商標のような商標権(財産権)は、ルーマニアの国家機関に帰属し、事実、甲第19号証として提出した、マドリッド協定国際登録簿(登録第319015号)に示されるように、商標「Gerovital/Prof.Dr.Ana Aslan/H3」は、1966年に、ディクレティア ジェネララ デ アプロヴィナレ シ デスファセレ(Directia Gnerala De Aprovisionare Si Defacere,食品産業省供給販売局)が所有していた。
このように、「CHIMICA」のような輸出入公団は、専ら外国貿易を担当する国家機関にすぎず、商標権の取得を左右できる立場にはなかったのである。
(b)現に、「CHIMICA」は、被請求人の代表者に商標「GEROVITAL H3 PROF.DR.ANA ASLAN」を同人又は同人の会社名義で登録することに合意も、その旨の権限も付与したことがないこと並びに「CHIMICA」は単に、被請求人と商取引契約を締結しただけであり、商品販売の独占権を付与したことはないこと等を明確に示した文書を提出してきている(甲第45号証)。
(c)上記に関連して更に重要書類について述べると、請求人は、審判請求書において、甲第34号証として、登録商標「GER〇VITAL‐H3」の公告時において、セントラーラ インダストリアラ デ メディカメンテ コスメティセ コロランティ シ ラクリ(「CIMCCL」薬品・化粧品・塗料全製品の中央局、ルーマニア国家機関)名義の異議申立がなされた事実がある旨を指摘した。
これに対して、被請求人(本件商標権者)は、異議申立答弁書において、ルーマニア国立貿易機関である「ICE CHIMIMPORTEXPORT,S.R.OFROMANIA」と化粧品の輸入に関する代理店契約を締結したこと並びに商標出願に必要な参考資料の送付を受ける同意書を取り交わした事実があると反論し、その証拠として、ルーマニア国立貿易機関との同意書写し(1通)、ジェロビタールクリームの成分分析書写し(3通)として提出している(甲第34号証)。
この異議由立について、被請求人は、答弁書の中で(同第9頁)、「社会主義国であったルーマニアの縦割り行政が招いた事態であり、本件商標権者が別途ルーマニア輸出入公団(CHIMICA)と契約を結んでいたことを知らされていない結果であり、一方、本件商標権者にしてみれば、ルーマニア輸出入公団(CHIMICA)との契約を遵守するためには、あくまで権利化を目指さなければならない関係上、答弁をしたまでであり、これをもって、本件商標権者に不正の目的があったことが推認されるわけでも、また、不正の目的で出願した結果が招いたわけでもなく、上記正当理由が否定されるわけでもない」と述べる。
これに対して、請求人は、被請求人が上記異議答弁書において提出した同意書をここに甲第46号証として提出する。
同号証が明白に示すとおり、これは、商標登録を承諾する同意書ではない。当該文書は、「CHIMICA」が、被請求人に対して取引対象について輸入の承認と許可を取得するために必要な成分表その他の処方と分析法にかかる情報を及び秘密文書を交付することを約し、同時に秘密保持義務を被請求人に課した契約書ないし同意書である。しかも、被請求人により当該対象となる化粧品の許認可が所定期間内に取得できないときは交付した文書を返還すること並びに損害賠償の規定まで含む厳しい内容の書面である。
このように、当該同意書は、何ら被請求人に対し商標権取得を同意する書面ではない。被請求人は、この書面について何らの訳文をも添付することなく、単に商標取得の「同意書」と称して、特許庁に提出しており、これは、まさに、特許庁担当審査官を欺き、当該商標権を取得したことを端的かつ明白に示すものに他ならない。
(ウ)被請求人は、さらに、「不正の目的の有無について」として、「アナ・アスラン博士が開発した化粧品の日本への輸入が円滑に行えるように、その道を確保するため、ルーマニア国家のために尽力したものであり、この行為のどこが不正の目的であるのか理解しがたい」、と述べる。また、「日本で商標権を取得しなければ、ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)との契約を誠実に履行して日本に輸入することができなくなり、それは日本に輸出したいというルーマニア国家の意思に反する以上、その遵守のために商標権を取得したのであり、不正な目的はおろか、むしろ商標権を取得するに足る「正当な理由」がそこには存在するのみである」と述べる。
(a)しかしながら、ジェロビタールH3の化粧品を我が国へ輸入することと、当該化粧品を単に我が国に輸入する一企業にすぎない被請求人が、この化粧品について輸出国で命名された商標の商標権を我が国で取得し、独占することとは全く別問題であることは明白である。
(b)本件商標「GEROVITAL」(ジェロビタール)は、被請求人も認めるように、アナ・アスラン博士よって命名されたものである。すなわち、アナ・アスラン博士は、プロカイン、塩酸プロカイン(ノボカイン)、又はそのデリバティブに老化予防・治療効果があると発見して、これを主成分とする老化・予防薬、老化・予防治療、及び化粧品に名付けたものである。
(c)そして、「GEROVITAL/ジェロビタール」の要部を含む商標「Gerovital H3/Prof.Dr.Ana Aslan」は、ルーマニア国の財産として、甲第19号証として提出した、マドリッド協定国際登録簿(登録第319015号)に示されるように、ルーマニアの国家機関であるデイクレティア ジェネララ デ アプロヴィナレ シ デスファセレ(Directia Gnerala De Aprovisionare Si Defacere,食品産業省供給販売局)が所有していた。
そして、上記商標及びルーマニア国内におけるルーマニア国家発明商標局に登録された同一商標(登録番号 R1966/2487、甲第19号証)は、1992年以降、甲第15号証として提出した分割譲渡契約(被請求人も同一の分割譲渡契約書を乙第18号証として提出している)によって、請求人の前身であるミラージュ社とファーマク社に分割譲渡され、現在この2社によって所有されているものである。
(d)この点、詳細に説明すれば、甲第15号証として提出した上記分割譲渡契約書に添付された添付書類1に示されるように、ミラージュ社(請求人の前身)には、商品「ノボカイン又はノボカインの加水分解物(デリバティブ)を含む化粧品類」に関して、当該商標「Gerovital H3 Prof.Dr.Ana Aslan」が分割譲渡されており、他方、ファーマク社には、同添付書類2に示されるように、「ノボカインを含む油性クリーム・ハーフ油性クリーム・ボディエマルジョン(乳液)」について、同商標が分割譲渡されている。この譲渡契約を反映して、甲第19号証として提出したマドリッド協定国際登録(登録第319015号)の商標登録簿が示すように、ファーマク エス エーには、「塩酸プロカイン(ノボカイン)ベースの化粧品」についてだけが分割譲渡されている(登録第319015号A)。
この点、乙第18号証として被請求人が提出した上記分割譲渡契約書の訳文にも、ミラージュ エス エーの製品は、「ノボカインまたはノボカインの加水分解誘導体を処方している」と訳されており、他方、ファーマク エス エーの製品は、「ノボカインを処方している」と訳されており、ファーマク エス エーの製品は、「ノボカイン」を含有するものだけに限定されていることは明白であり、これは、被請求人も、上記乙18号証を提出しているところからみて、認めているものと推察する。
(e)しかしながら、この点、被請求人は、答弁書(15頁)の中で、ファーマク社が所有する商標権についての化粧品には、登録上、成分の制約はなく、「ノボカイン」という化学物質を含むものに限定されていないと首尾一貫しない主張をするが、被請求人が自ら提出する乙第18号証からも、ファーマク社の製品が、「ノボカイン」を含有するものに限定されていることが明白であり、これは、被請求人の全くの錯誤という他はない。
(f)なお、被請求人は、乙第27号証として、ファーマク社のルーマニア国における商標登録公報(ルーマニア国家商標登録2R2487号)において、ファーマク社の商品に限定がないことを述べてもいるが、これは、上記分割譲渡契約を正確に反映しないで、誤って発行されたものである。この点について、請求人は、ルーマニア国家発明商標局に、公報の訂正を求め、ファーマク社の所有する商標は、「ノボカインを含む、油性クリーム・ハーフ油性クリーム・ボディエマルジョン(乳液)」に訂正されている(甲第49号証)。
(エ)被請求人は、「ルーマニア当局の承諾について」(答弁書8頁)として、ファーマク社からは、輸入・日本での販売及び商標権の取得について同意を得ているとして、その証拠として、乙第17号証を提出する。また、「本件商標権者が、外国における権利者から同意を得ている点について」(答弁書10頁)として、ファーマク社から、ジェロビタール化粧品の日本への輸入、及び、上記商標(「Gerovital H3 Prof.Dr.Ana Aslan」)に関する日本での商標登録に関して同意を得ている、として、乙第17号証から乙第24号証を提示する。また、同時に、被請求人は、「本件商標権者は、(ジェロビタール)化粧品を製造しているわけではなく、後述するように、本件商標に関する真の所有者であるルーマニア企業のファーマク社が製造した化粧品の譲渡を受けて、これを日本へ輸入しているだけである」と述べている(答弁書第8頁)。
(a)上記のとおり、当該商標「Gerovital H3 Prof.Dr.Ana Aslan」は、ルーマニア国において現在、ファーマク社と請求人の2社によって所有されているのであり、その1社から、商品を輸入したからといって、2社から商標権の取得の同意を得たことにはならない。かつ、被請求人が同意を得たという、ファーマク社の商標権は、上述のとおり、分割契約上、「ノボカインを含む、油性クリーム・ハーフ油性クリーム・ボディエマルジョン(乳液)」に限定されており、被請求人が、「化粧品」すべてについて、「Gerovital(ジェロビタール)」の要部からなる本件商標の商標権を取得する根拠は全く存しない。
(b)被請求人が同意を得たとする証拠として提出した乙第17号証においても、ファーマク社は、「We are aware that in Japan the owner of Gerovital H3‐Prof.Dr.Ana Aslan is Mr.Yoshinori Hashimoto」 (私どもは日本におけるGerovital H3‐Prof.Dr.Ana Aslan の所有者は「與志紀 橋本」であることに気づいています。)と述べている程度であり、同意したなどとは決して述べてはいない。
このように、被請求人は、単に、ファーマク社の製品を輸入するためであると称しながら、本件商標を、その本国ルーマニアの真の各所有者(2社)の同意を得ることなく、かつ、すべての「化粧品」について商標登録を無断で、かつ、前記異議答弁書に述べるがごとき、特許庁担当審査官を欺もうして、商標登録を取得したことは明らかである。
(c)加えて、被請求人は、請求人(請求人の前身ミラージュ社)のジェロビタール化粧品をも輸入しておきながら(乙第32号証として、被請求人目らその事実を認めている)、請求人と我が国における独占販売契約(甲第14号証)を締結し、その製品を輸入・販売する日本ジェロビタール・コスメティクス株式会社に対して、本件商標権に基づき、仮処分を申請し(平成15年(ヨ)22082号)、その製品の輸入・販売の阻止を図ろうとしている。これは明らかに本件商標権の濫用に該当する。すなわち、被請求人は、本件商標を、本国ルーマニアの真の商標権者に無断で勝手に取得することによって、本国ルーマニアの本件商標の正当権利者の一である請求人の製品の日本への輸入を差し止め、自己のみがジェロビタール化粧品を我が国で販売することをもくろむものであり、被請求人が本件商標を、不正の目的によって取得したものであることは明々白々である。
(オ)被請求人は、「化粧品の成分について」(答弁書第15頁)として、先にも引用したように、「ファーマク社が所有する商標権についての化粧品には、登録上、成分の制約はなく、「ノボカイン」という化学物質を含むものに限定されていない。「ノボカイン」という化学物質が成分に含まれるかどうかは、特許権の問題であって、現実にアナ・アスラン博士の手により「ジェロビタールH3」として開発された製品のすべてが「ノボカイン」を含むものだけに限定される趣旨ではない」と述べる。
(a)しかしながら、アナ・アスラン博士は、プロカイン、塩酸プロカイン(ノボカイン)又はそのデリバティブの老化予防・治療効果を発見して、これを老化予防・治療薬や化粧品に応用し、それらの製品を「ジェロビタール(Gerovital)」と命名したものである(甲第41号証、甲第42号証)。よって、これらの成分の含まれない化粧品は、「ジェロビタール(Gerovital)」とは呼べず、当該商標を使用できないものであることは明らかである。
(b)上記のとおり、ファーマク社の商標「Gerovital H3 Prof.Dr.Ana Aslan」については、ノボカインを含む油性クリーム・ハーフ油性クリーム・ボディエマルジヨン(乳液)」に限定されており、他方、請求人の商標については、「ノボカイン又はノボカインの加水分解誘導体(デリバティブ)」を含む化粧品類となっていることからも明らかである(甲第15号証、甲第19号証)。
なお、被請求人も、「ジェロビタール(Gerovital)」の本質が上記有効成分にあることは熟知しているとみえ、その輸入に係る商品の宣伝広告において、「プロカイン」の効果をうたっている(甲第50号証)。
(c)ところで、「プロカイン」及び「ノボカイン(塩酸プロカイン)」の成分は、化粧品については、世界的に使用が禁止されることになったため、最早、ファーマク社は、「ジェロビタール(Gerovital)」の商標を、その製造に係る化粧品に使用することはできないこととなった。
けだし、上述のとおり、ファーマク社の当該商標にかかる商品は、「ノボカイン」を含むものに限定されているからである。
他方、請求人は、使用が禁止されていない「ノボカインの加水分解誘導体(デリバティブ)」を含む化粧品類を製造し、それに、「ジェロビタール(Gerovital)」の商標を使用を継続できている。
以上の状況にもかかわらず、ファーマク社は、「ノボカイン」を含まない化粧品を製造してこれに「Gerovital」の商標を使用し(これを被請求人は輸入している)、かつ、上記分割譲渡契約に反して、「ノボカインを含む油性クリーム・ハーフ油性クリーム・ボディエマルジヨン(乳液)」以外の商品(化粧品)にも同商標を使用している。これに対して、請求人は、ファーマク社の同商標の使用は、不正競争に該当するとして、ルーマニア不正競争局に意見を具申した後、内務省財務局に対しファーマク社に対する刑事告訴を行った(甲第47号証及び甲第48号証)。
(d)以上、詳述したとおり、被請求人は、本件商標を、ファーマク社の化粧品を輸入販売するためと称して、「ジェロビタール(Gerovital)商標の本国ルーマニアの商標権者(請求人)の何らの正当権限を得ることもなく、勝手に当該商標の商標権を、「すべての化粧品」に取得し、かつ、当該請求人の真正なジェロビタール化粧品を輸入する日本ジェロビタール・コスメティクス株式会社の輸入・販売を当該商標権を利用して妨害しており、明らかに、自己のみが、ファーマク社の不真正なジェロビタール化粧品を輸入するために商標権を取得・行使しており、そもそも本件商標を不正の目的によって取得していることに疑いない。
(2)ジェロビタール(Gerovital H3/Prof.Dr.Ana Aslan)商標の周知・著名性
既に、審判請求書(第5頁から第6頁)に述べたとおり、当該ジェロビタール商標は、アナ・アスラン博士によって、「プロカイン、塩酸プロカイン(ノボカイン)又はそのデリバティブ」に老化・予防治療効果があることが発見され、これらを成分とするルーマニア国の老化・予防治療薬、化粧品に名づけられたものである。そして、アナ・アスラン博士の努力によって世界的に知られるようになったものである(甲第41号証、同42号証、同43号証)。これに対して、被請求人は、答弁書で述べるように(第8頁)、ただ、ファーマク社のジェロビタール化粧品を輸入し、販売しているだけであり(上述のとおり、請求人の商品もかつては輸入していた)、本件商標は、決して、被請求人の商標として周知・著名となっているわけではない。
以上のとおり、被請求人の本件商標の取得は、他人の周知商標と同一又は類似の商標を不正の目的で取得したものであり、本件商標は、明らかに商標法4条1項10号ないし同15号に違反するものである。
B.商標法4条1項7号及び同19号について
上述のとおり、本件商標の「Gerovital」の商標は、アナ・アスラン博士の発見にかかる不老効果のある化学成分からなる医薬品や化粧品にルーマニアで使用されてきており、その商標権は、本国ルーマニアにおいて現在、請求人とファーマク社の2社に正当に承継されている。
これに対して、被請求人は、請求人の承諾を何ら得ることなく、本件商標を、化粧品すべてに商標登録し、請求人の真正なジェロビタール化粧品の我が国への輸入を妨害している。
かかる被請求人の本件商標の取得は、正に、正当商品の流通を阻害し、国際信義に反するものであることは明らかである。
よって、本件商標は、商標法4条1項7号ないし同19号に該当することは明らかである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第40号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号及び同第15号について
A.不正の目的について
請求人は、あたかも自らのみが本件商標を使用する正当な根源を有しているかのように主張し、その反射的な事実として、被請求人(本件商標権者)が、本件商標を使用し、また、その使用を確保するために商標登録を受けることについて、アナ・アスラン博士及びルーマニア国家とは全く無関係に、無断で勝手な行動により、アナ・アスラン博士、ひいては、ルーマニア国家の誇る信用を不当に利用して不当な利益をあげる不正の目的により商標登録を受けたかのように主張しているので、本件商標権者及び請求人の真の立場を説明し、また、これに関連して、被請求人が本件商標について商標登録を受けるに至るまでの過程を説明し、これをもって、商標権の取得について不正の目的など存在しないこと、むしろ、本件商標権者は長年にわたり、アナ・アスラン博士やルーマニア国家の利益に寄与していたことを立証する。具体的には、(1)本件商標権者は、ルーマニア国家との契約を履行する必要から商標登録を受けた者であり、商標登録を受けることについて「正当な理由」があること、(2)本件商標権者は、現在でもアナ・アスラン博士の流れを汲む「真の」権利者から日本において商標登録を受けることについて同意を得ていることを以下、立証する。
(1)本件商標権者の商標登録を受けるに足る正当な理由について
(ア)商標権者が本件商標について商標登録を受け使用するに至るまでの経緯
請求人は、本件商標権者が、アナ・アスラン博士及びルーマニア国家とは全く接点がなく無関係に商標権を取得したかのように主張しているが、事実に反するため、まずは、この点を明らかにする。
(a)アナ・アスラン博士とジェロビタールH3との出会いについて
本件商標権者の代表者は、1977年(昭和53年)に世界老人医学会議に出席のため来日したアナ・アスラン博士を、報道カメラマンとして密着取材した際に初めてお会いし、博士の帰国時のお土産として、代表者が撮影した桜の下での博士の写真を手渡した(乙第1号証)。同年、某企業経営者がジェロビタールH3老化予防治療に興味を持ち、アナ・アスラン博士を日本に招待した。この際、代表者は、指名を受け、同博士との再開の機会を得た(乙第2号証)。また、この機会を通じて、代表者は、駐日ルーマニア大使館のメンバーとの親交も生まれ、ルーマニア観光省から、報道カメラマンとして、日本国内においての宣伝企画に関するチャネルがあるであろうことと、海外取材経験が豊富なことから、ジェロビタールH3治療をルーマニアのドル獲得の目的のために商品化できないものかとの相談を受けた。
その第1歩として、代表者は、まずルーマニアにおけるジェロビタールH3治療の現状視察、その後に旅行商品としてのパックツアーの企画を始めた。その準備のため、代表者は、1978年(昭和54年)、ルーマニア観光省の招待取材を受けて、初めてルーマニアに渡り(乙第3号証)、同観光省及び国立旅行社0.N.Tカルパチ社(CARPATI NATIONAL TRAVEL OFFICE)の担当者とツアーパック商品としての具体化を話し合い、同年12月5日に、再度ルーマニアに渡った上で、まず、パックツアーに関する取引契約をO.N.Tカルパチ社との間で行った(乙第4号証及び乙第5号証)。
また、この際、アナ・アスラン博士が所長を務めるルーマニア国立老人病研究所及び同所の滞在治療を受けるクリニック設備、また、ジェロビタールH3治療設備完備のフローラホテルを視察した。
そして、上記1978年(昭和53年)12月の契約を終えた後、この契約を履行すべく、1979年(昭和54年)2月に、本件商標権者である株式会社ジーエイチスリールーマニアが設立された。この会社名は、ルーマニア観光省の担当官により命名され、社名は、ジェロビタールH3の略語にルーマニア国名が付けられた。
以上より、本件商標権者が、アナ・アスラン博士及びルーマニア国家とは全く無関係ではないことが理解できる。
(b)日本への輸入及び商標権取得の経緯について
一方、本件商標権者の代表者は、上記の1978年(昭和53年)の渡ルーマニアの際に、ルーマニア国立老人研究所でお会いしたアナ・アスラン博士から、直接に次のような提案を受けた。
即ち、ルーマニアのドル獲得のための商品として、自分が開発した化粧品を日本で販売できないか、というものであった。もちろん、社会主義体制下のルーマニアで、アナ・アスラン博士個人の一存で、日本への輸出を決定できるはずもなく、これを受けて、すぐさま、博士の秘書の手配で、化粧品の輸出を行うルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)との話し合いを持った。この契約に際しては、日本への輸入を具体化するための2点の重要なポイントが協議された。第1に、日本に輸入する化粧品は、日本の厚生省認可化粧品原料基準の原料成分のみで構成されていなければならないこと、そして、第2に商標登録の件についてである。
第1の点については、日本においての禁止成分を除いた成分表を元に製造を行い、また、日本への輸入許可に必要な書類は速やかにルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)が提出して協力することになった。
一方、第2の問題については、ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)には意思はなく、日本での登録なので日本側で処理をしてくれと言われた。その背景には社会主義体制下で何らかの組織事情があるのであろうと思われ、特に、当時、ドルの獲得に血道を上げていた事情から、日本での商標登録のための出費によってドルが流出するのを防ぎたいとの思惑があったものと思料される。いずれにしろ、ルーマニアへ入国するようになってから間もない、本件商標権者には、当時、商標権が存在すること、及び、誰が商標権者であるかなど、知ることもできない状態であった。
本件商標権者は、以上の協議を受け、特に、まず第2の商標登録の件について、日本において商標「ジェロビタールH3」について商標権を取得せず、これを他人に権利取得されては、商標「ジェロビタールH3」を付した化粧品を日本に輸入することができなくなり、上記ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)との契約を履行することができなくなることから、ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)の日本への輸出を確保するために、1981年(昭和56年)10月8日に商標「ジェロビタール/GEROVITAL」について「石けん類、歯みがき、化粧品、香料類」を指定商品として出願し、1987年(昭和62年)4月30日に設定登録を受けたものである。
そして、本件商標権者は、この甲第1号証に示す登録により「GEROVITAL‐H3」の日本での使用が確保でき、ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)からの輸入を適性に問題なく扱えることになったことを確認したことを受けて、1985年(昭和60年)に、最初の化粧品輸入販売業許可を取得した(乙第6号証ないし乙第9号証)。この許可を得るに際し、本件商標権者は、ルーマニア側から成分表の提出を受けている(乙第10号証)。社会主義国家において、ルーマニア国家が許可しなければ、本件商標権者が輸入をできるはずもなく、また、輸入を許可しなければ、このような成分表を本件商標権者に提出するはずがない。
そして、この輸入販売業許可を受けて、本件商標権者は、ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)との間で、化粧品の輸入代理店契約を結び、日本で唯一の代理店であるとのお墨付きも得て(乙第11号証及び乙第12号証)、ジェロビタールH3化粧品の輸入販売を開始し、現在に至っている。
(c)不正の目的の有無について
以上の事実から、本件商標権者は、審判請求人が主張するように、ルーマニアの誇る著名商標の信用を不当に利用して不当な利益をあげる目的で、出願をし、登録を受けたはずもなく、むしろ、アナ・アスラン博士、ひいては、同博士が開発した化粧品の日本への輸入が円滑に行えるように、その道を確保するため、ルーマニア国家のために尽力したものであり、この行為のどこが不正の目的であるというのか理解しがたい。
また、上記のとおり、当時社会主義国のルーマニアにおいて、商標に関する権利制度がどのようになっていたか、また、誰が権利者であるか等、本件商標権者には、調べようもなく、とすれば、解らない以上、当該権利者の利益を害する目的など持ちようもあり得ない。ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)との契約を誠実に履行する一心のみで、本件商標権者は商標権を取得したものである。
もとより、本件商標権者の内心は、間接事実から推認するしかないが、現実にルーマニアの国家機関であるルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)から成分表の提出を受け、なおかつ、同公団を通じて現実に輸入している事実から分かるとおり、ルーマニア国家に損害を与える目的など微塵も読み取れない。仮に、ルーマニア国家に損害を与える行為であれば、ルーマニアが社会主義国であった時代に、国の許可なしに輸出や観光用の査証等の許可が行われるはずもなく、これらが現実化していることにこそ(乙第13号証)、ルーマニア国家の意思に沿うものであることを証明している。
ましてや、ルーマニア国家に損害を与える者に、ルーマニア国家から感謝状が贈られるはずもない(乙第14号証及び乙第15号証)。
なお、請求人は、ルーマニアの国立貿易機関である「ICE CHIMIMPORTEXPORT,S.R.OFROMANIA」(その後のルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA))は、商標権の所有ないし管理とは関係ない旨主張し(審判請求書第9頁及び同第10頁)、したがって、日本での商標権取得に同意を与える権原もない旨を示唆しているが、仮に、そうであったとしても、日本で商標権を取得しなければ、ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)との契約を誠実に履行して日本に輸入することができなくなり、それは日本に輸出したいというルーマニア国家の意思に反する以上、その遵守のために商標権を取得したのであり、不正な目的はおろか、むしろ商標権を取得するに足る「正当な理由」が、そこには存在するのみである。
(d)請求人の立証する事項について
(d1)ルーマニア当局の承諾について
この点につき、請求人は、甲第35号証ないし甲第38号証を用いて、本件商標権者が日本での商標権の取得についてルーマニアのいずれの当局から承諾を得ていないと主張している(審判請求書第9頁)。
しかし、これらの証拠を子細に検討すると、甲第35号証は、第1に「ルーマニア企業(請求人)が、本件商標権者とは独占的な諸権利(ルーマニアが民主化された現在においては、私企業間の契約を意味するものと思われる)を得ていないこと」を証するのみで、請求人のいうように当局(貿易省)から同意を得ていないことを証するものではなく、また、本件商標権者は、請求人とは現在ではそのような契約は結んでいないが、後に詳述するように、他のルーマニア企業(本件商標に関する真の所有者であるルーマニア企業であるファーマク社からは輸入・日本での販売及び商標権の取得について同意を得ている(乙第17号証)。また、甲第35号証は、ルーマニア国立老人研究所アナ・アスランには、商標の所有者でない以上、同意を与える権原がないこと(即ち、同研究所は単に関知しない旨)を証するだけであり、本件商標権者が不正の目的を有していることを証明するものではなく、本件商標権者も、同研究所に対して同意を求めたことはない。ちなみに、請求人は、これをもって本件商標権者と同研究所が友好な関係にはない旨も主張したいのであろうが、同研究所の所長などが来日する際の手配等は、本件商標権者が行っており、そのような事実もない(乙第16号証)。
また、甲第36号証及び甲第37号証は、ルーマニア健康及び家庭省には本件商標権者が小売りについて同意を求めてきてはいないということを証するだけであり、商標権の取得に関する許可の権限との関係も不明である。商標権の取得に関する許可に関係のある当局でなければ、本件商標権者が同局に対して同意を求めてないのは当然であるし、また、本件商標権者は、化粧品を製造しているわけではなく、後述するように、本件商標に関する真の所有者であるルーマニア企業のファーマク社が製造した化粧品の譲渡を受けて、これを日本へ輸入しているだけである。そして、ファーマク社は、ジェロビタール製品を国内、国外に販売できる自由販売認可証を上記ルーマニア健康及び家庭省(厚生省)から得ており(乙第21号証)、本件商標権者は、現在、これを受けて日本へ輸入しているだけである。ましてや、同局は、販売の許可に関する権原を有するのみであり、日本で商標権を取得するのに、同局の許可が必要であることも証明されなければ、甲第36号証及び第37号証には、本件商標権者への「商標権取得に関する承諾」の有無を証する証明力はない。日本への商標権取得と関係のない当局だからこそ、本件商標権者は同局に同意を求めていない、というだけである。
さらに、甲第38号証も、ルーマニア観光省と、商標権の取得に関する許可権原との関係が不明であり、したがって、これらの証拠は、「商標権の取得に関する承諾の有無」を証する証拠ではない。
(d2)異議申立てについて
請求人は、本件商標登録出願に対して、ルーマニアの「セントラーラ インダストリアラ デ メディカメンテ コスメティセ コロランティシ ラクリ(CIMCCL:薬品、化粧品、塗料全製品の中央局)」からの異議申立てがあったことをもって、本件商標登録がルーマニア国家の意思に反すると主張したいようであるが、これは、社会主義国であったルーマニアの縦割り行政が招いた事態であり、本件商標権者が別途ルーマニア輸出入公団(CHIMICA)契約を結んでいたことを知らされていない結果であり、一方、本件商標権者にしてみれば、ルーマニア輸出入公団(CHIMICA)との契約を遵守するためには、あくまで権利化を目指さなければならない関係上、答弁をしたまでであり、これをもって、本商標権者に不正の目的があったことが推認されるわけでも、また、不正の目的で出願した結果が招いたわけでもなく、上記正当な理由が否定されるわけでもない。
(d3)アナ・アスラン博士の承諾について
請求人は、甲第44号証を用いて、アナ・アスラン博士は、自己の署名について登録を許すときは、必ず同意書に署名して交付していた旨主張するが(審判請求書10頁)、甲第44号証を検討すると、出願後に付与されるカナダ国における出願番号が記載されていることから、出願後に交付されたものであり、これは、カナダの当局からの提出の求め等の何らかの必要に応じて事後に提出されたものと思われ、他の国において出願をする者に対してすべて事前に承諾を与えた上で出願されていたとは推認されず、とすれば、本件商標権者と同様であり、仮に、本件商標権者が同博士の生前に同様の依頼をしていれば、前述した同博士と本件商標権者との友好関係からして、同様の署名は頂戴できたと思われる。また、必ず交付していたというのであれば、他の国における登録についてもすべて署名を提出されなければならない。
結果において、甲第35号証において請求人自らが示すように、社会主義体制が崩壊した現在では、不正の目的であるかどうかは、ルーマニアにおいて商標権を所有する権利者が承諾を与えているかどうかによる。そこで、次に、この点について立証する。
(2)本件商標権者が、外国における権利者から同意を得ている点について
請求人は、自らが外国における商標の所有者であり、本件商標権者に承諾を与えていないことをもって、本件商標権者が不正の目的で登録を受けたと主張している。しかるに、請求人の地位、及び、請求人が所有していると主張する他国での商標権についての実態を説明すると、請求人が、外国で権利を所有していることについては、否定はしないが、しかし、請求人のみが、本件商標についての外国における権利者ではないこともまた事実であり、この点は請求人も認めるところである(審判請求書第4頁)。すなわち、ルーマニア国において「Gerovital H3 Prof.Dr.Ana Aslan(サイン付き)」の商標については、ファーマク社も商標権を所有しており、本件商標権者は、このファーマク社から、ジェロビタール化粧品の日本への輸入、及び、上記商標に関するに日本での商標登録に関して同意を得て、実際に日本に輸入し販売している(乙第17号証ないし乙第24号証)。
したがって、本件商標登録の出願時及び査定時においては上記の正当な理由があったことはもちろん、現在においても外国の権利者の国内参入の阻止の意思等は存在せず、商標権取得について不正の目的など全く存在はしない。
そればかりか、上記のとおり、ルーマニア国家が社会主義体制であったかつての本件商標の出願及び登録時には、ルーマニア国の意思として日本へ輸入し、ルーマニア国家が民主化され、自由な競争社会に生まれ変わった現在においても、かつての国家機関の承継者であり、ルーマニアにおける現商標権者である上記ファーマク社の日本における事業展開を確保するため、商標権を維持しているのが実情である。
したがって、むしろ、登録後長年使用され、既に信用が化体している本件商標の商標登録を無効にすると、かえって、国内の取引秩序を害し、ひいては、製造元であり、ルーマニア国での正当権利者であるファーマク社の業務上の信用を著しく害する結果となる。
(ア)ジーオーティーメイク社との係争について
この点につき、請求人は、請求人と日本における独占契約を締結したジーオーティーメイク社の日本における販売等について、本件商標権者が商標権の侵害であるとして係争が生じていることをもって、上記不正の目的があると主張したいようであるが、上記外国における権利者であるファーマク社の製造製品、ひいては、これを日本において輸入販売する本件商標権者の業務上の信用を維持するために当該行為を阻止するのは権利者として当然のことであり、これが不正の目的になるはずもない。
(a)ルーマニア国における商標権の帰属の経緯
この点を理解するに当たり、まず前提として、ルーマニア国における「Gerovital H3 Prof.Dr.Ana Aslan(サイン付き)」の商標権の帰属の経緯について説明すると、1966年(昭和41年)に最初に出願をされ(乙第23号証)、その後、様々な経緯を経て、ルーマニア国家が社会主義であった時代において、最後に商標権を所有していたのは「イメコ エス エー ブカレスト(IMECO S.A.BUCUREST)」であった(乙第25号証)。
その後、この権利は、1989年(平成元年)12月にチャウシェスク政権打倒革命が起こり、社会主義体制が崩壊して民主化されたことに伴って、1991年(平成3年)5月17日に、現在では私企業であるファ-マク 社とミラージュ社(請求人である後の「ジェロビタール コスメティックス エス エー社)に分割譲渡された(乙第27号証及び第28号証)(審判請求書第3頁から第4頁)。
ファーマク社は、その後も更新をし、現在でも商標権を所有している(乙第29号証及び乙第30号証)。
(b)ファーマク社とミラージュ社との関係
これらの事実から分かるとおり、現在では、自由な競争社会において、ファーマク社とミラージュ社は、各々一私企業として、平等な条件下で対等な競業関係にある。とすれば、そこには、各々の営業努力、営業戦略により市場を開拓する競争関係が存在するのみであり(乙第23号証)、本件商標権者は、現在では、ファーマク社の日本における商品の販売及び信用獲得のために尽力しているだけであり、このファーマク社にとって競争相手となるミラージュ社の日本での商標の使用を阻止するのは権利者として至極当然であって、これをもって不正の目的ということはできるはずもない。
とすれば、現在では、共にアナ・アスラン博士の流れを汲む対等な競争業者である以上、ファーマク社とミラージュ社は、各々の努力によって各国における権利の保全に努めるべきであり、そして、本件商標権者は、その一方であるファーマク社の権利を保全するために商標権を取得している以上、不正の目的など存在もしない。
もとより各国商標制度は独立であり、一の、あるいは、とある複数の国で登録を受けていることをもって、直ちに全世界での登録の正当権者になるわけではなく、事実、同一の商標が複数国で別人に登録されていることは多くあることであり、自国で登録を受けた商標が他国においては登録を受けることができないことをもって、直ちに当該他国での登録が不正の目的であるとすることができないのはいうまでもない。
即ち、審判請求人が主張するように、対等な競争相手であるファーマク社の意図を汲む本件商標権者により日本において既に商標権が取得されているため、請求人がその商標を使用することができず、市場に参入できないことが、「不正競争の目的」であるというのであれば、およそ全ての商標権者は、不正の目的を有していることになる。
換言すれば、不正の目的とは、商取引の公正な信義則に違反して、積極的に、外国における権利者に加害をする目的があることを意味し、本件商標権者にそのような意思はないことは、上記の事実から容易に理解できるところである。
一方、請求人と日本における販売契約を結んだとされるジーオーティーメイク社(その後事業を引き継いだ日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社)は、日本において、ファーマク社の同意を得ずに、「Gerovital H3 Prof.Dr.Ana Aslan(サイン付き)」の商標を出願しているが(乙第31号証)、このファーマク社の同意を得ていない出願を不正の目的ではない、というのであれば、同様に、ミラージュ社の同意を得ていない本件商標登録出願及び商標登録も不正の目的ではないと言わざるを得ず、逆に、これを否定して、本件商標登録を不正の目的であると主張することは、ジーオーティーメイク社を通じた請求人自らの日本へ進出を不正の目的であると自認しない限り成立せず、にもかかわらず、本件商標登録を不正の目的であると主張していること自体に、論理の破綻を来している。
請求人は、単に、自らの営業努力の欠如及び営業戦略の失敗の責任を本件商標権者に転嫁しているだけであり、本件商標登録に対し不当に攻撃を仕掛けることにより、むしろ、既に日本において形成されている本件商標権者の業務上の信用、ひいては、製造元であるファーマク社の日本国内における業務上の信用を害し、取引秩序を乱し需要者を混乱に貶めているのは、請求人の方である。
(イ)請求人(前身であるミラージュ社)と本件商標権者との関係について
請求人は、本件商標権者が、自己の商品(ファーマク社製)の販売に当たり、勝手に請求人(の前身であるミラージュ社)を後援として表示していると主張しているが(甲第40号証)、当該甲第40号証には、ミラージュ社には一言の言及もなく、審判官を欺罔する意図を感じ取れる。
確かに、社会主義の崩壊直後においては、本件商標権者も、民営会社として再出発したファーマク社及びミラージュ社の両社への配慮から、ミラージュ社とも取引があった(乙第32号証)。したがって、当時におけるカタログ等にミラージュ社の名称が表示されていたとしても、それが虚偽でないことは、ミラージュ社自身が良く知っているはずである。
しかし、当時のミラージュ社の製品は、容器の密閉度が低く内容物の変質を生じていたため、本件商標権者は、再三の改善申し入れをしたり、提案を試みたが、日本における販売代理店諸氏からは、自由市場参入への意義込みが高く営業努力を続けるファーマク社製の商品への一本化の要望が高まり、1997年(平成9年)頃からは、ファーマク社製に輸入ラインを統一した経緯があり(乙第33号証)、その後は、甲第40号証に示すように、本件商標権者のカタログ等には一切ミラージュ社の名称は表示しておらず、事実に反する行為による不正の目的など一切認められない。
このミラージュ社の営業努力の不足は、その後、2003年に、ジャパンジーオーティーメイク株式会社が契約を受け入れるまで、日本市場への具体的な参入計画もなかったか、あるいは参入を実現できなかったことからも裏付けられ、事実、外国における実績を状況を見ても、営業努力を続けたファーマク社は、ルーマニア国内でも世界的な輸出量でもミラージュ社のそれを10倍も上回る実績をもってジェロビタール製品を製造し、かつ、輸出し(乙第34号証、乙第17号証)、会社のとしての実績も、ファーマク社はミラージュ社の資本金で2倍、株価は25倍である。純益に至っては比較にならない(乙第34号証ないし乙第36号証の比較)。
以上のように、請求人と本件商標権者との間に、かつては取引関係があった事実からは、同時に、当時において本件商標権者からミラージュ社に対して、代理店契約の強要や本件商標権の買い取りの申し入れ等をした事実もなかったことが、立証される。
(ウ)化粧品の成分について
請求人は、ファーマク社の製品の成分について言及しているが(審判請求書第4頁)、この記載を通じて何を主張しようとしているのか、意味不明である。
ちなみに、ファーマク社が所有する商標権についての化粧品には、登録上、成分の制約はなく(乙第27号証及び乙第28号証、乙第37号証ないし乙第39号証)、「ノボカイン」という化学物質を含むものには限定されていない。「ノボカイン」という化学物質が成分に含まれるかどうかは、特許権の問題であって、現実にアナ・アスラン博士の手により「ジェロビタールH3」として開発された製品のすべてが、「ノボカイン」を含むものだけに限定される趣旨ではない(乙第37号証から乙第39号証、乙第17号証)。
B.周知・著名性について
次に、請求人が主張する引用商標の周知・著名性についてであるが、アナ・アスラン博士が、老年学会では有名であり、多くの国において知られていたことは認める。また、周知・著名性の判断に際し、このような外国における事実をも考慮すべきことは否定はしないが、日本における商標登録の要件を判断するに際して重要なことは、これらの外国の事実に照らし立証されるべき事実は、あくまで「日本において出所の混同が生ずる程、我が国の需要者の間に広く知られ」ているかであり、外国での事実のみで直ちに日本における周知・著名性が認定されるものではない。
この点を検証するに、ルーマニアが社会主義国家であった時代には、悲しい事実ではあるが、アナ・アスラン博士の功績は、殆ど交流のない日本においては誰も知る由がなかった(乙第3号証)。だからこそ、本件商標権者は、日本にジェロビタール商品を知らしめるために、上記のとおり奔走したのである(乙第3号証)。
即ち、日本にジェロビタール治療ツアーを日本において初めて実現し、また化粧品を導入することにより、アナ・アスラン博士の功績を日本においても知らしめようとしたのは、本件商標権者が初めてであり(乙第3号証、乙第32号証等)(甲第40号証及び甲第41号証の131頁から132頁)、それまでは、取引者及び最終消費者にまで広く知れ渡るまでには至っていなかったのが実情である。この本商標権者が、知らしめる努力をしていたことは、請求人が証拠として提出してきた甲第42号証が、本件商標権者の出資、企画であることからも(乙第33号証の第4頁)、十分に理解できる。
実際、取引者である前出のジーオーティーメイク社の代表者も、契約の話が持ち込まれるまでは、ジェロビタールの存在を知らなかったことを推認させる陳述書を裁判所に提出していることからも、日本においては、悲しいかな未だ出所の混同生じる程、広く知られてはいないと思われる。また、請求人は、外国における商標登録の事実をもって、日本における周知著名性も主張しているが、単に登録を受けているだけで、周知性が獲得されるはずも、また、この登録の事実のみをもって日本における周知性まで立証できるものではない。この点につき、本件商標権者は、ミラージュ社が、同社の英国における商標登録について、5年間不使用であることを理由に、商標を失ったとの情報を得ており(乙第40号証)、詳細を確認し、立証する予定である。
C.まとめ
1 以上より、本件商標登録については不正の目的がなく、したがって、設定の登録の日から5年以上経過しているため、商標法第47条の規定により無効審判を請求することができず、また、そもそも出願時及び査定時においても、商標法第4条第1項第10号ないし同第15号の規定に違反してされたものでもない。
2 商標法第4条1項第7号及び同第19号について
上記のとおり、本件商標権者は、正当な理由をもって本件商標を出願し、また、商標登録を受けたものであり、むしろ、ルーマニア国家の名声のために尽力し、また、外国における正当権利者の利益を確保して、真の取引秩序の維持に寄与している者であるから、国際的信義にも違反せず、したがって、本件商標登録は、商標法第4条第1項第7号及び同第19号のいずれにも違反するものではない。
3 結語
以上より、本件商標登録は、商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第7号、同第19号のいずれの規定にも違反するものではなく、無効とされるべきものではない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第10号について
商標法第47条は、同法第4条第1項第10号に違反してされた商標登録であっても、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き、商標登録の無効審判請求をすることができないと規定するところ、本件無効審判の請求は、商標登録の日である昭和62年4月30日から5年以上経過していることから、本件商標登録が不正競争の目的で受けたものかどうかについて検討する。
本件商標と同名の薬品・化粧品は、ルーマニアのアナ・アスラン博士により開発された老化予防・治療(いわゆる不老長寿)の効果があるとされる成分を含むものであり、社会主義体制下にあったルーマニアは、これを利用した治療を同国を訪問する外国人に行って外貨を得ていた事実(甲第41号証)が認められる。
また、本件商標権者(被請求人)と社会主義体制下にあったルーマニアの国家機関というべきルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)との間において、1985、1986年(昭和60、61年)ころ、本件商標と同名の化粧品(ヘアローション、フェイスクリーム)を本件商標権者がルーマニアから輸入する契約(乙第11号証、乙第12号証)があったことが認められるところ、この契約もルーマニアの外貨獲得のための一環と考えられる。そして、この契約に関連した商標権の取得などで本件商標権者がルーマニアに不利益となる行動をとれば、ルーマニア国立輸出入公団は、この契約を解除して本件商標権者に代わる者を選定できることが容易な立場にあったとみられるから、この契約に関連して、本件商標権者がルーマニア国立輸出入公団ひいてはルーマニアに不利益となる商標権の取得をすることは考え難い。
そうすると、本件商標権者が、本件商標を我が国で商標登録した意図は、本件商標が登録出願、商標登録された当時、社会主義体制下にあったルーマニアから、本件商標と同名の化粧品を我が国に輸入して販売開始するにあたり、それが他人の我が国での商標登録により妨げらないようにするためという目的が主たるものと認められ、他に、本件商標権者が、不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたもの、又は、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって本件商標の使用をするものと認めるに足りる証拠はない。
したがって、商標法第4条第1項第10号違反を理由とする請求人の本件商標登録の無効の主張は、採用できない。
2 商標法第4条第1項第7号について
上記のとおり、本件商標権者が、不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたもの、又は、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって本件商標の使用をするものと認めるに足りる証拠はないものであり、また、本件商標の商標登録後においても公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとするまでの本件商標に関連するする事実は認められない。
したがって、商標法第4条第1項第7号違反を理由とする請求人の本件商標登録の無効の主張は、採用できない。
3 商標法第4条第1項第19号について
上記1で認定のとおり、本件商標は、不正の目的(不正の利益得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用するものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない
したがって、商標法第4条第1項第19号違反を理由とする請求人の本件商標登録の無効の主張は、採用できない。
4 商標法第4条第1項第15号について
商標法第47条は、同法第4条第1項第15号に違反してされた商標登録であっても、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、商標登録の無効審判請求をすることができないと規定されているところ、不正の目的で商標登録を受けた場合は、括弧書きをもって除外されている。
しかしながら、その括弧書きの改正がされた平成8年法律第68号の附則第8条第2項によれば、「この法律の施行の際(平成9年4月1日)現に存する商標権についての新商標法第4条第1項第15号に該当することを理由とする商標登録の無効の審判の請求をすることができる期間については、なお従前の例による。」と規定されている。
してみれば、本件商標は、前記のとおり、昭和56年10月8日に登録出願され、同62年4月30日に設定登録されたものであるから、従前どおり、除斥期間(5年)の適用があるものといわなければならない。
したがって、同号に該当する旨の主張については、審理することができない。
5 以上のとおりであるから、本件商標の登録は、商標法第46条第1項の規定により無効とすることはできない。また、商標法第4条第1項第15号該当を理由とする部分は、不適法な請求であって、補正ができないものであるから却下すべきものであり、請求人の主張は採用できない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件商標


(2)請求人引用(C)商標


(3)請求人引用(D)商標


審理終結日 2004-04-09 
結審通知日 2004-04-13 
審決日 2004-04-26 
出願番号 商願昭56-84197 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (104)
T 1 11・ 222- Y (104)
T 1 11・ 22- Y (104)
T 1 11・ 25- Y (104)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 半戸 俊夫為谷 博 
特許庁審判長 小林 薫
特許庁審判官 岩崎 良子
池田 光治
登録日 1987-04-30 
登録番号 商標登録第1950727号(T1950727) 
商標の称呼 ジェロビタール 
代理人 中村 稔 
代理人 菊地 徹 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 松尾 和子 
代理人 菊池 新一 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 大島 厚 
代理人 東谷 幸浩 

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