ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z25 審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z25 |
---|---|
管理番号 | 1106801 |
審判番号 | 無効2003-35035 |
総通号数 | 60 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2004-12-24 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2003-02-03 |
確定日 | 2004-11-04 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4490954号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第4490954号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標登録の無効の審判 1 本件商標 本件商標登録の無効の審判に係る、登録第4490954号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成12年9月22日に登録出願され、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同13年7月13日に設定登録されたものである。 2 本件商標登録の無効の審判 本件商標登録の無効の審判は、本件商標が商標法4条1項11号及び同15号に違反して登録されたものであるとして、商標法46条により本件商標の登録を無効にすることを請求するものである。 第2 請求人の引用商標 請求人が本件商標の無効の理由に引用する商標は以下のとおりである。 1 登録第1592525号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成よりなり、昭和46年2月24日に登録出願され、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同58年5月26日に設定登録、その後、2回に亘り商標権の存続期間の更新登録がなされ現に有効に存続しているものである。 2 登録第2205094号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(3)に示すとおりの構成よりなり、昭和55年9月30日に登録出願され、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)その他本類に属する商品」を指定商品として、平成2年1月30日に設定登録、その後、平成11年12月21日付けで商標権の存続期間の更新登録がなされ現に有効に存続しているものである。 第3 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第45号証を提出した。 1 請求人と被請求人の関係 請求人は、被請求人がジーンズのバックポケット部分に使用していた標章に対して、不正競争防止法及び商標法に基づき、当該標章の使用の差止を求める訴えを東京地裁に提起した。その結果、平成12年6月28日、東京地裁において、(1)請求人の商標が請求人の商品又は営業表示として需要者に広く認識され、周知となっていること、(2)請求人の商標と被請求人の標章が類似であること、(3)被請求人標章が、原告と被告の間で、商品又は営業を誤認混同したり、少なくとも被告標章が付された商品を製造販売する者が原告と何らかの資本関係、提携関係等を有するのではないかと誤認混同するおそれがあること、が認められ、被請求人の標章の使用の差止が認められた(甲第1号証)。 右事件は控訴されたが、平成13年12月26日、東京高裁も東京地裁の右判決を維持し、右判決は確定した(甲第2号証)。 しかるに、被請求人は、上記の状況にありながら、本件商標の登録に及んだものである。 2 商標法4条1項11号該当について (1)本件商標と引用商標1は、その外周を構成する五角形が、(a)最外周が実線で描かれ、(b)そのわずかに内側及び少し距離を開けた内側に点線で同様の五角形が描かれ、(c)上部の二本の点線と両側に描かれた2本の点線は交差しているという点、(d)五角形の縦横の比率、両側の傾斜の角度及び底部の突出の角度が同じである。両商標の基本的構成にこのようなほぼ同一と評価しえる図形が使用されていることにより、本件商標と引用商標1との間には非常に強い共通性が認められる。 なお、本件商標と引用商標1における五角形の図形は、当該商標の図形の大部分を占める最も大きな図形であり、かつ、その形状にも様々なバリエーションが考えられるものであるから、商標の比較においてこの部分を捨象するのは妥当ではない。両商標の対比においては、五角形の部分及び内部の図形を、不可分のものとして対比するべきである。このように、五角形についても一体として比較の対象とすべきであることは、本件商標とほぼ同一の標章に対する差止が問題となった、前述の東京高裁判決にも示されているものである。 このように考えれば、本件商標と引用商標1がほぼ同一の形状の五角形の外周を有している点は、両者の類似性を強く印象付けるものであることが明らかである。 さらに、本件商標に描かれた横に並んだ2つの弓形の図形は、引用商標1に描かれた横に並んだ二つの弓形の図形と、ほぼ同様の湾曲の度合いを有し、両商標を見るものに対しその共通性を非常に強く印象付ける作用をもっている。従って、この部分が類似していることは明らかである。 このように、五角形の図形がほぼ同一である点と、二つの並んだ弓形の図形の強い共通性に照らすならば、本件商標が引用商標1に類似していることは明らかというべきである。 なお、本件商標の中央部には英文字の「S」字様の図形が記されているが、右の図形は両商標の類似性をさらに高めるものに他ならない。 引用商標1には、二つの弓形の図形に挟まれた中央部に「ダイヤモンドポイント」と呼ばれる菱形の図形が存在する。これに対し、本件商標においては、右「ダイヤモンドポイント」と同様の位置に「S」字様の図形が形成されることとなり、二つの弓形の図形に挟まれた中央部に図形が存在するという点においてより共通性が増すことになるからである。 また、本件商標には、右上に、横長の長方形の中に「SOMETHING」の文字を白色で記した図形が存在し、これに対し、引用商標1においては小さな縦長の長方形の図形が上下中央部のやや上部の左外側に付されているという点で共通する。なお、本件商標は横長、引用商標1は縦長の長方形であるが、両商標を見る者は、かかる図形が付されているという特徴に着目するものと考えられ、図形の違い及び場所の相違は微弱な違いといわざるをえず、両商標を異なるものとすることはできないものというべきである。また、本件商標においては「SOMETHING」の文字が記載されているが、本件商標全体に占める右図形の面積の小ささに鑑みれば、実際に本件商標が使用された場合には右文字はあまりに小さいため判読が困難となることが明らかであるから、右の点をもって両商標が異なるとすることもできない。 (2)引用商標2は、二つの弓形の図形と、その中央にある「ダイヤモンドポイント」と呼ばれる菱形の図からなる。 本件商標に描かれた横に並んだ二つの弓形の図形は、引用商標2に描かれた横に並んだ二つの弓形の図形と、ほぼ同様の湾曲の度合いを有し、両商標を見るものに対しその共通性を非常に強く印象付ける作用をもっている。従って、この部分が類似していることは明らかである。 したがって、仮に本件商標の周囲の五角形を除外して考えた場合、本件商標と引用商標2は、中央部分の図形が菱形の図形であるか、「S」字様の図形であるかの差異しかないこととなる。そして、前述のとおり、二つの弓形の図形に挟まれた中央部に図形が存在するという共通点を有する。 3 商標法4条1項15号該当について 請求人は、昭和40年代より引用商標1及び2を請求人の商品に使用し、また宣伝広告活動を行っていた。さらに、引用商標1及び2は甲第6号証ないし同第44号証に示すとおり各種雑誌、新聞の掲載記事に取り上げられ、紹介されたことにより、引用商標1及び2は需要者に広く知られ、著名なものとなっている。 このように、引用商標1及び2はジーンズを購入するものにとってはジーンズのブランドを判断する重要な要素であり、かつ本件商標と引用商標1及び2の類似性に鑑みれば、本件商標は需要者において、請求人の商品と出所について混同を生じるおそれのあることは明らかである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第95号証(枝番を含む)を提出した。 1 総論 請求人は、被請求人が販売するジーンズのバックポケットの中央部で使用された一部のステッチデザイン(以下「判決引用被請求人標章」という。)につき差止めが認められた高裁判決等を不当に強調した上で、本件でも本件商標と引用商標1及び2との間に類似性がある旨主張している。 しかしながら、本件商標は上記裁判で差止めの対象となった被請求人のバックポケットのデザインとは大きく異なっており、この点だけをもってしても、上記判決を引用すること自体が失当であることが明らかとなる。 また、東京高裁判決においては、不正競争防止法上の類似の問題として実際に使用されている両社のバックポケットの形状のうち、特にポケット内部のステッチ(刺繍によりデザインされた破線模様のこと。)の類似性が問題となっているが、本件はあくまでも本件商標の商標法上の有効性、すなわち図形商標と文字商標が組み合わされた結合商標たる本件商標と、同じく図形商標と文字商標が組み合わされた結合商標たる引用商標1、さらには図形商標たる引用商標2との類似性等が問題となっているのである。したがって、図形部分の外観の相違点のみならず、「SOMETHING」や「S」と「LEVI’S」という文字部分の相違点も重要となってくることは言うまでもない。 本件商標と被請求人の判決引用被請求人標章の構成が大きく異なっている以上、請求人が上記判決を引用して本件商標の無効性を主張しようとする方法が不当であることは明らかである。 2 商標法4条1項11号該当について (1)本件商標と引用商標1との類否について (ア)五角形外周部分の識別力について 請求人は、本件商標と引用商標1との比較において、その外周を構成するホームベース状の五角形部分の類似性をしきりに強調する。 しかしながら、引用商標1に見られるようなホームベース状の五角形外周部分は、ジーンズのバックポケットにおいて使用されているデザインの内、最も典型的なもので、市場で流通しているジーンズのほとんどが本件五角形外周部分に極めて似た形状のバックポケットを使用している(乙第1号証ないし同第31号証及び同第92号証)。 また、同じようなバックポケットのデザインを象った商標登録実務においても、本件五角形外周部分と同様の形状をした商標が数多く併存して登録されている(乙第32号証)。これは、本件五角形外周部分のような形状に識別力が認められていないことの証左に他ならない。 このように、本件五角形外周部分のようなホームベース状の形状は、この種業界においては、非常にありふれた形状であり、自他商品識別力がないか又は極めて弱いものであって、その内部に表された形状が自他商品識別の際の重要な要素になるものといわなければならないことは言うまでもない。 この点、無効審判請求事件(平成9年審判第20434号事件)における平成11年1月19日審決と平成11年12月15日付東京高裁判決(平成11年(行ケ)第166号審決取消請求事件)(乙第33号証及び同第34号証)においても、「この種業界においては、前記五角形の外形そのものは、ありふれたものであり、自他商品識別力がないか又は極めて弱いものであって、その内部に表された形状が自他商品識別の際の重要な要素になるものといわなければならない。」という判断が明確に示されている。 (イ)五角形内部の波線について 以上述べたとおり、五角形の図形部分については、自他商品識別力がないか又は極めて弱いものであるから、かかる商標の類否判断においては、自他商品識別力を有する部分、すなわち、五角形の外形以外の部分である中央を横断する二重波線の形状や、文字商標の部分が類否判断の基礎となる要部とすべきである。 本件商標における五角形の内部にある破線と、引用商標1の五角形内部において両端から中央の結合部にかけて存在する二本の破線とを比較すると、(a)結合部分の有無、(b)中央部の「S」と「ダイヤモンドポイント」との相違、(c)破線の曲がり度合いの相違等という大きな相違点が存在する。 以上のことから、両商標の非類似性は明らかである。 (ウ)タブを象った図形の位置・形状や当該図形内のブランド名の相違 引用商標1の五角形の左外側に縦長の台形状の図形は、前述した実際に請求人のジーンズのバックポケットに使用されているタブを象った図形である。実際のタブには、ブランド名が表記されるのが一般的で、引用商標1においても「LEVI’S」という請求人の著名なブランド名が表記されている。 これに対し、本件商標においても五角形の右上内部にある文字(被請求人の著名なブランド名である「SOMETHING」)が記載されている横長の長方形も、いわゆるタブを象ったものであるが、請求人のそれとは、(a)ブランド名の相違、(b)タブの位置(c)タブ自体の形状という点で相違する。 (エ)小括 本件登録商標と引用登録商標1との類否性を判断する場合、それぞれ五角形内部にある破線(いわゆるステッチ)を部分的に比較した場合であっても、両者の非類似性が明らかなことは詳述した通りであるが、両商標を全体的に観察した場合には、両商標の非類似性は動かしがたいものとなる。 (5)本件商標と引用商標2との類否について 引用商標2は引用商標1の五角形内部のステッチ、すなわち請求人内部破線とほぼ同様の形状である。したがって、上記で述べたところから、請求人内部破線と本件商標における被請求人内部破線との非類似性は明らかである。 さらに、被請求人の本件商標における「SOMETHING」のブランド名が表記されたタブを象った長方形の存在と当該「SOMETHING」ブランドの著名性等を併せ考慮するならば、両商標の非類似性はさらに動かし難いものとなる。 また、仮に、五角形の外形部分に関する請求人の前記主張を前提とすれば、五角形の外形の有無も大きな相違点となる。 3 商標法4条1項15号該当について (1)商標法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである。とするのが最高裁判例である(最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決民集54巻6号1848頁,最高裁平成13年7月6日第2小法廷判決判例時報1762号130頁)。 (2)本件についてみると、すでに詳述したとおり、本件商標と引用商標1及び2は、明らかに非類似の商標であるから、本件において「混同を生ずるおそれ」の有無の判断にあたっても、両者が非類似であるという事情は大きく考慮されるべきであり、かかる点だけみても、商品の出所の混同を生ずるおそれはないことは明らかである。 加えて、すでに述べたとおり、この種業界においては、前記五角形の外形そのものは、ごく一般的に使用されているありふれたものであり、かつ、当該形状を含む商標登録や出願が非常に数多くあることから、自他商品識別力がないか又は極めて弱いものであることは明らかである。 (3)また、請求人は、引用商標1及び2が「各種雑誌記事に取り上げられ、紹介されたことにより、需要者に広く知られ、著名なものとなっている」旨主張している。しかしながら、請求人が証拠として提出する雑誌記事等を検討すると、特段バックポケットのステッチを際立たせたものではないほか、掲載されているもの自体、引用商標1や2そのものではなく、それ以外の請求人バックポケットやそれとも形状の異なるバックポケット等である。したがって、引用商標1及び2の著名性を基礎付ける証拠として、かかる雑誌記事等は不適切である。なお、請求人バックポケットについても、請求人が引用する東京地裁判決及び東京高裁判決の両方において、その著名性が明確に否定されていることに留意すべきである。 (4)さらに、前記したとおり、ジーンズ業界においては、バックポケットはブランド名等が大きく表記された革ラベルや紙ラベルと共に使用されており、需要者は、当該ラベルに大きく表記されたブランド名で商品の出所を識別することが一般的であり、被請求人のジーンズも例外ではない(乙第91号証ないし同第93号証)。かかる取引実情や、ジーンズを消費者が実際に購入する際には試着を行い店員の説明を聞き慎重に購入するのが一般的であること(乙第94号証及び同第95号証)等からしても、商品の出所混同のおそれはないことは明らかである。 なお、請求人が申立又は請求した多数の異議申立・無効審判において、商品の出所混同のおそれなしと判断されている例が多数存在している(乙第33号証及び同第34号証、同第45号証及び同第46号証)。 (5)以上述べたとおり、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務にかかる商品であるかの如くその出所について混同するおそれはない。 第5 当審の判断 1 商標法4条1項11号について (1)本件商標と引用商標1との類否について (ア)両商標の構成について 本件商標の構成は、別掲(1)に示すとおりのものであって、左右対称の野球のホームベース状の五角形を実線で描き、その各辺の内側に沿って二重の破線を配し、この五角形図形の中央部分に欧文字の「S」字状の図形を描き、その左右に該五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって、アーチ形状の図形を描き、この五角形図形の上辺の右内側部分に、黒塗り四角形を配し、この図形内に「SOMETHING」の文字を書してなるものである。 これに対して、引用商標1の構成は、別掲(2)に示すとおりのものであって、左右対称の野球のホームベース状の五角形を実線で描き、その各辺の内側に沿って二重の破線を配し、この五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって、左右二つのアーチ形状の図形を描いてなり、この五角形図形の左辺の左外側部分に、縦長の四角形を配し、該図形内に縦書きで「LEVI’S」の欧文字を書してなるものである。 (イ)欧文字部分の対比 しかして、本件商標は、その構成中に「SOMETHING」の欧文字を、引用商標1は「LEVI’S」の欧文字を、それぞれ有してなるが、両商標がそれぞれに有する前記文字を自他商品の識別標識とする際には、互いに明瞭に識別できるから、両商標は、それぞれの文字部分をもって比較する場合には、互いに類似するとはいえないものである。 (ウ)外観上の類否判断 次に、両商標の外観上の類否について判断する。 (a)本件商標及び引用商標1はともに、ジーンズパンツにおける後ポケット(以下「バックポケット」という。)の形状を表してなるとみられるところ、請求人が提出した甲第12号証ないし同第15号証、及び、被請求人が提出した乙第1号証ないし同第20号証、乙第25号証ないし同第31号証によれば、請求人、被請求人以外の各社においても、バックポケットの外周の形状は野球のホームベース状の五角形を採用している事例が多数見受けられることから、本件両当事者を含めて、ジーンズパンツを取扱う業界においては、バックポケットの外周部の該五角形の形状は、ありふれて使用されているといえるものである。 そうとすれば、この五角形の形状部分は、自他商品の識別機能が極めて弱い部分であり、この部分によっては、自他商品を識別することはできないというべきである。 しかして、請求人が提出した甲第15号証には、「ステッチをみてメーカー名が解りますか?」として、「ブルージーンズで最もジーンズらしい部分、それはヒップラインと、ヒップについているパッチ・ポケットである。・・・・・それだけに2つのパッチ・ポケットとそこにあるステッチこそブルージーンズのシンボルと言えるだろう。」とあることをも加味すれば、バックポケットの形状は、その内部にあらわされたステッチ(縫目)(以下単に「ステッチ」という。)の形状が自他商品を識別する際の重要な要素になるというのが相当である。そして、ジーンズパンツの購買者層である需要者においても、これと同様の認識を有していると推認できるものである。 そこで、両商標の内部に表された外周部を上下に二分するステッチを対比するに、本件商標のそれは、五角形図形の中央部分に欧文字の「S」字状の図形を描き、その左右に該五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって、アーチ形状の図形を描いてなるものであり、左右のアーチ形状の図形は互いに分離しているものである。 これに対して、引用商標1のそれは、左右二つのアーチ形状の図形がバックポケットの中央部分で交差しているものである。 そして、前記したジーンズパンツを取り扱う業界の実情及び需要者の認識の程度に照らせば、本件商標と引用商標1とは、上記のステッチの形状の違いにより互いに識別することが可能というべきである。 また、これらの両ステッチは、ともに二重の破線をもって、五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され、これが中央部で下向きに形成されており、両ステッチの形状をおおまかに観察すれば、両者は構成の軌を一にするものであり、互いに近似する形状といえるとしても、両商標のステッチ中央部分の構成の違いを含めて全体的に観察すれば、本件商標と引用商標1とは、互いに紛れるおそれのない非類似の商標とみるのが相当である。 したがって、本件商標と引用商標1とは、互いに類似するとはいえないから、本願商標が商標法4条1項11号に違反して登録されたとすることはできない。 (2)本件商標と引用商標2との類否について 本件商標の構成は、前記したものであり、引用商標2の構成は別掲2に示すとおりのものであって、二重の破線をもって、左右二つのアーチ形状の図形を中央部で交差させた態様よりなるもである。 しかして、本件商標と引用商標2とは、ステッチの形状において、前記(1)で示した相違に加えて、左右対称の野球のホームベース状の五角形図形の有無、欧文字を有する四角形図形の有無において顕著な差を有し、明らかに別異の商標というべきである。 したがって、本件商標は引用商標2とは類似するものではない。 2 商標法4条1項15号について (1)引用商標1、及び、これと酷似した被告のバックポケット形状の周知・著名性について 請求人が提出した以下の各甲号証には、請求人の取り扱いに係るジーンズパンツの宣伝広告が継続してなされ、そこには、引用商標1の形状と酷似したバックポケットの形状(以下「請求人バックポケットの形状」という。)が掲載されていることが認められる。 すなわち、 「日本繊維新聞」昭和47年5月31日号(甲第6号証)、「ストアーズレポート」1972年7月号(甲第7号証)、「MEN’SCLUB」1975年8月号(甲第8号証)、「MEN’SCLUB」1975年9月号(甲第9号証)、「男子専科 MEN’S MODE事典」1975年(甲12号証)、「MEN’SCLUB」1976年3月号(甲第13号証)、「MEN’SCLUB」1976年7月号(甲第14号証)、1981年5月20日株式会社草思社発行、「リーバイス ブルージーンズの伝説」(甲第17号証)、「ホットドッグプレス」1982年4月10日号(甲第18号証)、「LEVI’S NEWS LETTR」1981年6月(甲第21号証)、「LEVI’S BOOK」1986年(甲第23号証)、「LEVI’S BOOK VOL.2」1986年(甲第24号証)、「メンズクラブ」1987年1月号(甲第25号証)、「LEVI’S BOOK VOL.3」1987年(甲第26号証)、「LEVI’S BOOK VOL.4」1987年(甲第27号証)、「メンクラ」(「メンズクラブ」と推認し得る)1988年3月号(甲第29号証)、「LEVI’S BOOK VOL.5」1988年(甲第30号証)、「メンズクラブ」1990年8月号(甲第34号証)、「ホットドッグプレス」1990年10月号(甲第35号証)、「メンズノンノ」1991年10月号(甲第36号証)、「HDP」(「ホットドッグプレス」と推認し得る)1991年11月号(甲第37号証)、「メンズノンノ」1993年7月号、8月号(甲第41号証)、「Boon EXTRA」平成7年5月号(甲第43号証) の各甲号証である。なお、甲第10号証ないし同第44号証のうち、バックポケットの形状が不鮮明のものや、出典が推認できない不明な印刷物のものは採用できない。 これらの、各甲号証に示された、昭和47年5月以降における、主としてファッション雑誌における請求人の取り扱いに係るジーンズパンツの継続的な宣伝広告によれば、請求人バックポケットの形状は、商品「ジーンズパンツ」を含む本件商標の指定商品の取引者・需要者の間で、広く認識され、これが現在においても継続しているものと推認し得るものである。 なお、上記各甲号証によっては、請求人バックポケットの形状が、著名となっているとまでは認定し得ない。 (2)出所の混同のおそれについて ある商標が、商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品に使用したときに、当該商品が当該他人の商品に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品が当該他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれ(「広義の混同を生ずるおそれ」)がある商標を含むものと解するのが相当であり、当該商標が、商標法4条1項15号に該当するか否かを判断するに際しては、当該商標と当該他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(平成12年7月11日 最高裁判所第三小法廷判決 平成10年(行ヒ)第85号参照)。 これを本件についてみるに、本件商標の指定商品は、前記したように「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であり、一方、請求人の使用に係る、請求人バックポケットの形状は、前記(1)で認定・判断したように、ジーンズパンツに係るものであることから、これら商品は、同一あるいは互いに極めて関連性の深い商品といえるものである。 しかして、甲第12号証及び乙第1号証、乙第2号証、乙第4号証ないし同第12号証、乙第25号証、乙第26号証、同第29号証、同第31号証における、バックポケットのステッチの形状についてみるに、左右対象の二つのアーチ形状を採択しているのは、請求人、被請求人、帝人ワオ(乙第1号証156頁、同第25号証)であり、他社のステッチは、これらとは顕著な差異を有することが認められる。 そこで、本件商標と引用商標1の形状について対比するに、本件商標と引用商標1の形状は、前記「1 商標法4条1項11号について」で判断したように、互いに類似するものではないものの、これらの両ステッチは、ともに二重の破線をもって、五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され、これが中央部で下向きに形成されており、両ステッチ部分の形状をおおまかに観察すれば、互いに近似する形状であり、この点において、両者は構成の軌を一にするといえるものである。 一方、両者におけるアーチ形状のステッチ中央部の相違は、前記した両者の近似性を凌駕するほどの顕著なものとは認められない。 そして、請求人バックポケットの形状は、前記(1)で認定・判断したように、商品被服、とりわけジーンズパンツの取引者・需要者の間で広く認識され、周知となっており、他方、被請求人の本件商標、あるいは、そのステッチ部分が周知・著名となっているとの証左はない。 また、本件商標の指定商品は、引用商標1あるいは請求人バックポケットの形状が商品「ジーンズパンツ」に使用された結果、それが獲得している周知性の範囲内の商品といえるものである。 そうとすれば、本件商標を、その指定商品に使用するときには、これに接する需要者は、引用商標1あるいは請求人バックポケットの形状を連想・想起し、当該商品が請求人の取り扱う商品であると誤信するか、又は、請求人との間に密接な関係を有する者の業務に係る商品であると誤信することで、その商品の出所について広義の混同を生ずるおそれがあるというべきである。 (3)被請求人は、ジーンズ業界においては、バックポケットはブランド名等が大きく表記された革ラベルや紙ラベルと共に使用されており、需要者は、当該ラベルに大きく表記されたブランド名で商品の出所を識別することが一般的であり、被請求人のジーンズも例外ではなく、かかる取引実情や、ジーンズを消費者が実際に購入する際には試着を行い店員の説明を聞き慎重に購入するのが一般的であること等からしても、商品の出所混同のおそれはないことは明らかであると主張している。 確かに、本件商標には、「SOMETHING」の文字が、引用商標1には、「LEVI’S」の文字が含まれており、両文字が、被請求人及び請求人の商標として知られているものとしても、本件については、アーチ形状のステッチにおいて、本件商標が、他人の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがある商標と認められるものであり、上記した各文字部分の存在をもって、両商標間の広義の混同のおそれを否定することはできない。 (4)したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものというべきであり、同法46条1項に基づき、その登録を無効にすべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
【別掲】 (1)本件商標 ![]() (2)引用商標1(登録第1592525号商標) ![]() (3)引用商標2(登録第2205094号商標) ![]() |
審理終結日 | 2004-01-09 |
結審通知日 | 2004-01-15 |
審決日 | 2004-01-27 |
出願番号 | 商願2000-103513(T2000-103513) |
審決分類 |
T
1
11・
261-
Z
(Z25)
T 1 11・ 271- Z (Z25) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 橋本 浩子 |
特許庁審判長 |
佐藤 正雄 |
特許庁審判官 |
山本 良廣 宮川 久成 |
登録日 | 2001-07-13 |
登録番号 | 商標登録第4490954号(T4490954) |
商標の称呼 | サムシング、エス |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 佐藤 俊司 |
復代理人 | 日野 真美 |
代理人 | 関根 秀太 |
復代理人 | 達野 大輔 |
代理人 | 中村 勝彦 |
復代理人 | 高田 昭英 |