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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない 025
管理番号 1103337 
審判番号 無効2003-35420 
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-10-06 
確定日 2004-09-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第4154907号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4154907号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成9年2月19日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子」を指定商品として、平成10年6月12日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用する登録第3369039号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成7年11月16日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、平成10年2月20日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第270号証(枝番を含む。)を提出した。
そして、本件審判の請求は、平成15年10月6日にされたものである。
1 請求の理由
(1)請求の利益について
請求人は、引用商標の商標権者であり、本件商標の指定商品が抵触することにより、本件審判を請求するについて利害関係を有する。
(2)引用商標の周知性について
(ア)請求人の活動との関係
請求人、株式会社ディージェーホンダレコーディングスジャパンの創立者及び代表取締役である本田勝裕は、長年に渡って常にDJ界の先駆者として知られ、現在では若者の間に信奉者も数多く存在する。
1990年にニューヨークで開催されたDJバトルに本田勝裕は、日本人として初のエントリーを認められ、日本人で初めてDJバトル世界大会に出場した。
1992年に本田勝裕はニューヨークに渡り、セミナーにて行われた「DJ Battle For World Supremacy」に出場して準優勝を獲得する。
1994年に本田勝裕は、ソロ・アーティストとしてレコード契約を交わし、米国で米国の新旧代表的アーティストとの共同作業によるデビューアルバムの製作を開始し、1995年に本田勝裕は、ソニーミュージックと契約し、デビューアルバム「h」でソロデビューを果たした。
1997年に本田勝裕は、セカンド・アルバム「hII」をリリースした。
1999年本田勝裕は、アーティストとしてレコード会社に所属し、ニューヨークに「dj honda RECORDINGS」を設立後、同年に請求人である「dj honda RECORDINGS JAPAN」を東京に設立した。
2001年本田勝裕は、ニューアルバム「hIII-JAPAN EDITION」を日本にて発売し、同年には同アルバムからのカットシングル「REAL TO ME」をリリースする。
また、韓国ソウル市東大門のサッカー競技場でライブを行い、2002年には「UNDERGROUND CONNECTION」の韓国盤をリリースし、同年には「hIII」韓国盤を発売した。
本田勝裕は、これらの幅広い音楽活動により、日本人として最先端を歩むアーティストとして日本及び海外諸国において著名となり、1995年より本田勝裕がリリースしたアルバムに引用商標を継続的に使用してきたことから引用商標が周知著名となる土台が確立された。
(イ)引用商標が周知性を獲得するに至った経緯
本田勝裕は、アルファベット文字「h」をモチーフとした独自の図形として引用商標を完成し、本田勝裕本人が音楽活動を行う際に自ら帽子を身につけ、自らのトレード・マークとして定着させていった。インタビューや取材は勿論、写真撮影時には必ず同帽子を被り、マークの存在を視聴者にアピールしてきた。
更に、本田勝裕は、ヒップホップ音楽がファッションと密接であることから、ファン層に音楽活動に共感してもらうだけでなく、そのファッションをも楽しんでもらうことを企画し、引用商標の認識度を高めるためにもオリジナル商品のプレゼントを始め、コンサート等に足を運ぶファン達を対象とする引用商標を付した同帽子商品の販売を企画した。
1996年に同帽子の製造、販売が開始され、本田勝裕の出演するクラブ等で限定販売するという地道な販売活動がなされていたが、引用商標の付されたレコードが発売されたことをきっかけに急速に同帽子の需要も高まり、1997年にはファッション業界から同商品だけでなく引用商標を付した商品化に伴うライセンスを求める企業が増え、「Tシャツ、スウェットシャツ」などを始め、オリジナル被服を展開することとなった。
上記活動により、1997年には引用商標は既に本田勝裕をイメージする標章として周知となった。
その結果、請求人が自身のシンボルマークとして引用商標を採択し、その音楽活動及びマーチャンダイジング商品の販売において継続的に使用してきたことにより、引用商標は周知性を獲得するまでに至った。
(ウ)引用商標と各国における商品展開
1994年、本田勝裕がソロ活動する際に引用商標を中央部にデザインした商品「帽子」について自らが使用し、販売を開始する。
1995年から引用商標並びに登録商標「dj honda」を作品のカバーについて使用し、本田勝裕の代表的な標章となった。
更に、1997年、セカンドアルバムが軌道に乗った頃、引用商標並びに登録商標「dj bonda」を添付した被服類を幅広く商品展開する。季節に分けて掲載されるカタログコレクションが印刷され、雑誌、新聞記事を通じて大々的に宣伝活動を開始する。
1999年に本田勝裕は、株式会社ソニー・ミュージックアーティスツを離れ、請求人である株式会社ディージェーホンダレコーディングスジャパンを設立し、同社が引用商標及び登録商標「dj honda」の管理、使用及び同商標に係る商品の製造、販売を一手に担うことになる。
請求人は、引用商標を保護するため、日本国以外にも市場を展開するアジア圏、韓国、ヨーロッパ共同体及び米国において引用商標を取得した。
請求人は、2000年に米国ラスベガスで開催された被服の展示会において、引用商標の付された同商品がヨーロッパ及び日本の代理店に注目を浴びたことから、1993年にショップ「gangsta」としてオープンされた札幌のショップを「REAL DEAL」としてリニューアルオープンし、2001年には、ニューヨークのSOHOにアーティスト活動と平行して引用商標を付した商品のフラッグシップ・ショップ「h272」を開設する。ここでは被服類の販売にとどまらず、毎週末にニューヨークの有名DJによるライブも行われ、ファッションと音楽を融合させた活動の拠点として注目を集めている。
更に、2001年には韓国ソウル市アックジョンに引用商標並びに登録商標「dj honda」を付したブランド商品の直営店を開設した。
これら請求人並びに本田勝裕の積極的な販売活動・活動の結果、需要者又は消費者において引用商標が請求人の商標であることは既に世界的に十分認識されており、引用商標が周知著名商標であることは明らかである。
(エ)取引の実情
請求人は1997年頃より、引用商標を付したブランド商品を日本で販売するにあたって販売代理店である株式会社サウスアンドウエストとライセンス契約し、同社が約15社の製造会社とサブライセンス契約を交わし、同製造会社により製造された商品は小売店・量販店を含めた約8000店舗にて積極的な販売活動が継続されている。1997年から2003年6月までの総売上額は約430億円を誇っている。
引用商標の主な被服及び帽子は、いずれもモノトーン色でシックにデザインされた商品が多いため、黒色や暗い色の生地の製品は引用商標と同一の形状を白色で、白い生地の製品は黒色で帽子やTシャツ等の商品中央部に引用商標を付され、販売されている。
一方、被請求人及び「b-one-soul」のホームページによると、本件商標は、2000年頃より日本のマーケットにおいてベーシックなカジュアルテイストの商品に本件商標をTシャツ・帽子等、被服商品及び帽子商品に付して販売を開始していることが紹介されている。
本件商標の使用態様は、かつて被請求人が使用していた商標よりも引用商標の商標態様に近似した態様となっている。
(2)本件商標と引用商標との類似について
本件商標と引用商標の構成は、1.左右二本の縦線よりなる。2.左縦線は上端部に向かって幅広く描かれている。3.左縦線の下端部は鋭角的に突起している。4.左縦線の右上端部は鋭角的に突起している。5.右縦線の下端部は左縦線の方向に向かって緩やかに曲がっている。6.本件商標の全体は黒太の線で縁取られた白抜きよりなり、引用商標の全体は黒色よりなる、特徴を共通としており、引用商標の縦線の上端部が左右に分かれている差異はあるものの、本件商標はあたかも引用商標をモチーフとして変形させた商標であると印象づけられるものであり、互いに相紛らわしい商標である。
本件商標に係る取引の実情についても、被請求人が主に男性用被服としてモノトーン色の生地上に本件商標を胸元に添付し、引用商標の商品よりも本件商標の商品が同一市場・同一地域において低価格にて販売されている取引の実情は、取引者又は消費者に対して、引用商標権者がこれまでの消費者よりも更に若年層をターゲットとして販売する際に、引用商標をモチーフとして変形させた商標を被服又は商品タグに添付して商品展開したものであると混同させる可能性が高く、一般的な出所の混同だけでなく具体的な出所の混同をも生ずるものである(甲第248号証ないし甲第252号証)。
よって、本件商標と引用商標とは互いに類似する商標である。
(3)商標法第4条1項第10号について
本件商標は、白抜きに黒い縁取りでアルファベット文字をモノグラム化した態様よりなる。
他方、引用商標は、黒色で「h」の縦線部分を弓矢のようにデザイン化された態様よりなる。
引用商標は請求人の音楽活動におけるシンボルマークとして周知、著名商標となり、以後、被服、帽子等のアパレル商品全般に同商標を付して広くマーチャンダイジング商品を展開していることにより、被服、帽子等の商品についても既に引用商標は周知・著名商標である。
更に、引用商標が本件商標の出願以前に既に周知・著名であったのであるから、引用商標に類似する本件商標を商標登録し、使用すれば、取引者需要者に出所の混同を生じることは明らかである。しかも、被請求人は当業者であるからこの事情は熟知していたはずであり、被請求人に悪意があったことは明らかであって、本件商標は、「不正競争の目的」をもって出願されたものであり、本件商標の使用は需要者又は取引者間において出所の混同を生じさせるものである。
(4)商標法第4条第1項第15号について
本件商標と引用商標はいずれも限られた26文字のアルファベット文字より一つを採択してデザイン化されたものである。
しかしながら、本件商標と引用商標の色彩に黒と白の差異はあるにせよ、本件商標は26文字の限られたアルファベット文字の中から敢えて引用商標に類似する可能性の高い文字をデザイン化したものである。
更に、引用商標が本件商標の出願以前より周知・著名商標であったのであるから、引用商標に類似する本件商標を商標登録し、使用すれば、取引者、需要者に出所の混同を生じることは明らかであって、両商標の取引市場が同一であることとも相俟って、被請求人に悪意があったことは明白である。しかも、被請求人は当業者であるからこの事情は熟知していたはずであり、本件商標は「不正の目的(不正の利益を得る目的)」で出願されたものである。また、本件商標が同一市場において使用されることは需要者又は取引者間にあたかも本件商標が引用商標権者の業務に係る商品と混同を生じさせるものである。
(5)商標法第4条第1項第7号について
引用商標が既に周知・著名商標であるにも拘わらず、引用商標と類似又は同一の指定商品について本件商標を出願したものであり、引用商標が本件商標の出願以前より周知・著名商標であったのであるから、引用商標に類似する本件商標を商標登録し、使用すれば、取引者、需要者に出所の混同を生じることは明らかである。しかも、被請求人は当業者であるからこの事情は熟知していたはずであり、両商標の取引市場が同一であることとも相俟って、被請求人は引用商標の業務上の信用にフリーライドする目的をもって出願されたものである。
更に、引用商標に類似する本件商標を被請求人が使用することは、請求人の商品であることを信じる消費者又は取引者に著しい不利益を与え、法の維持せんとする商標秩序を破壊するものであり、公の秩序又は善良の風俗に反するものである。
(6)商標法第4条1項第19号について
引用商標は、本件商標の出願以前に周知・著名商標であり、請求人と被請求人の商取引が同一市場において行われている。引用商標が本件商標の出願以前より周知・著名商標であったのであるから、引用商標に類似する本件商標を商標登録し、使用すれば、両商標の取引市場が同一であることとも相挨って、取引者、需要者に出所の混同を生じることは明白である。しかも、被請求人は当業者であるからこの事情は熟知していたはずであり、被請求人に悪意があったことは明らかであるから、本件商標は「不正の目的」をもって出願されたものである。
更に、本件商標の使用は、引用商標の出所表示機能を稀釈化させ、請求人が引用商標によってこれまでに築き上げてきた名声、信頼等を毀損させるものである。
(7)むすび
以上により、本件商標は、商標法第4条1項第7号、同第10号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものであるから、同法第46条1項の規定によりその登録を無効とすべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)不正競争の目的不正の目的及び本件商標と引用商標との類似性について
(ア)請求人は、被請求人住金物産株式会社専務執行役員 大塚隆平及び同審査法務部海外審査法務課課長 中本高敏宛て書面において、「(株)サンマリノ「b-one-soul」の商標不正使用について」と題して、請求人は、本田勝裕から本件商標につき独占的使用権の許諾を受け、株式会社アウトバーンにサブライセンスを与えていることを伝えるとともに、甲第264号に記載の項目について問い合わせた。
同書面に対し、被請求人住金物産株式会社代表取締役専務 大塚隆平の書面(株式会社サンマリノによる「b」マーク使用の件)で、被請求人は、甲第264号証に記載の通り回答した。
そして、被請求人の回答は、添付コピーのアウトバーン社2001年SS企画とサンマリノ社の企画を見ると、被請求人のライセンシーであるサンマリノ社のティーシャツは、本件商標をそのまま、胸に表示されて使用されており、被請求人のそのような使用は、引例商標との類似性を自ら認めるものである。
最近では、被請求人は、本件商標には「b-one-soul」を付して使用している(甲第255号証の2)。このことも、本件商標単独では、引例商標と類似することを、被請求人自ら認めるものである。
更に、被請求人の回答(甲第268号証)は、本件商標だけを使用したのでは、引用商標と出所の混同が生ずることを自ら認めるものである。
(イ)被請求人は、本件商標を独自にデザインしたものであり、引用商標が特定のタイプフェイスを表したものであると主張する。
しかしながら、本件指定商品について請求人が引用商標を使用した結果、引用商標が本件指定商品について請求人の商品を表示するものとして取引者、需要者に知られているのにもかかわらず、敢えて引用商標に近似する本件商標を取得した理由については何ら説明し得てない。
(ウ)被請求人は、本件商標と引用商標とは「白抜き」と「細い黒線」との違いがあると主張する。
しかしながら、このような違いは細部の違いにすぎない。本件商標選択の理由を充分に説明出来ず、細部の違いをもって引用商標と本件商標との非類似の主張の根拠とする被請求人の主張は破綻していると言える。被請求人の主張は引用商標と本件商標の細部の差異に基づく主張にすぎない。
(エ)需要者について
引用商標は、dj.hondaこと本田勝裕を表す商標としてヒップホップにおいて知られていたが、ヒップホップにおいて周知著名となるにしたがい、一般の需要者、取引者にも認知され、それゆえ販売量が維持されている。よって、ヒップホップ関係者程、ヒップホップに関する認識、知識等のない需要者、取引者により本件商品は取引されるといえる。
仮に、当初本件商標の需要者がヒップホップ等の音楽ジャンルに興味を持つ若者層であったとしたときは、それらの需要者、取引者の間で広く知られていれば足るものである。
(オ)審査基準について
被請求人は、審査基準を援用するが、審査基準は審査における目安にすぎない。
(カ)野球帽について
被請求人は乙第4号証を援用して、非類似性を主張する。
しかしながら、乙第4号証で注目すべきは、同じアルファベットを頭文字に選択せざるを得ない場合でも、相互に全く相違するように各チームは頭文字をデザインしていることである。
例えば、ニューヨーク・メッツは、先行するニューヨーク・ヤンキースと同様ニューヨーク市の略である「NY」の2文字を選択せざるを得ないが、「N」の文字と「Y」の文字を選択せざるを得ない場合であっても、あらゆる手段を使って自らの業務上の信用を築き蓄積するため先行標章と異なるイメージを与えるよう努力している。
地名に由来する為アルファベット「A」を頭文字として使用せざるを得ない場合についても同様である。同じ「A」であっても、デザインを異にし一目で相互に区別が付くように表されている。
翻って、本件商標と引用商標をみると、本件商標が被請求人主張のように本件商標が「b」又は「ナチュラル記号」に由来し、引用商標は「h」に由来するとしても、異なるアルファベット文字に由来しながら、何故近似する方向に本件商標はデザイン化される必然性があるのか不明であり、むしろ被請求人には自ら他と区別し得る業務上の信用を築くよりは、請求人の業務上の信用にただ乗りしようとする意図が明らかであって、不正競争の意図も認定できるものである。
(キ)被請求人は、引用商標と本件商標とは各無効理由についても、非類似を主張する。
しかしながら、図形としても近似性が問題となる引用商標と本件商標の類否は、両者が見た感じで似ているか否かの問題である。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号について
商標は全体として識別標識として一体をなすものであり、商標の類否の判断は対象を全体的に観察してなされるべきものである。本件商標と引用商標を構成する個々の要素の間に若干の外観上の共通点があるとしても、全体として見た場合に相互に混同の恐れがなければ非類似の商標である。
まず、本件商標は、2本の縦線が相互に接するように上下2個の横方向の突起部を有していることから、請求人も認めるように「b」の文字に由来するものであるが、それに止まらず、あたかも楽譜記号のナチュラル(乙第1号証)のように独自にデザイン化したものであって、決して「h」であるとは看取できない。これに対し、引用商標は下の横線は有しておらず、「Monotype old English Text」というタイプフェイスの「h」の文字をそのまま表したものであることは明らかである(乙第2号証)。
また、本件商標も引用商標も、左右2本の縦線を構成要素として含むものであるが、本件商標の縦線は引用商標のそれと比較して極端に太く短く構成されている。さらに、それらは緩やかなカーブを描きつつ、先端に行くにつれて幅広となり、その先端の切り口はナイフですっぱり切ったかのように角張った切り口となっている。これに対し、引用商標は左右2本の縦線も含め全体的に線が細く縦長に構成されている。また、左の縦線の上先端部には深く切り込みが入っており二又に分かれていること、その下先端部には菱形状の突起が付されていること、右の縦線の下先端部は内側に向かってカーブしており欧文字「h」と平仮名の「り」を融合させたかのようなデザインとなっていることは明らかに看取できる特徴である。
これらにより、本件商標はがっちりとした骨太な感じを与えるのに対し、引用商標は繊細できゃしゃな印象を与えるものであり、外観上の差異は大きいものである。特に、引用商標は、「Monotype Old English Text」というタイプフェイスの「h」の文字をそのまま表したものであり、全体の図形としての識別力が弱いため、これらの相違点は特に強調されて看取される。
また、引用商標は「h」と明らかに把握できる構成であるため、「エイチ」との称呼及びアルファベットの「h」との観念が生ずることは明らかである。
これに対し、本件商標は、もともとは「b-one-soul」ブランドの頭文字「b」をデザイン化したものではあるものの、構成文字を直ちに判別しえないほどに図案化されているため、何ら特定の称呼及び観念は生じない。
また、商標審査基準によれば、商標の類否の判断は、商標が使用される商品等の主たる需要者層(例えば、専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品等の取引に実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならないとされている(乙第3号証)。
請求人が指摘するように、本件商標も引用商標も、主にヒップホップ等の音楽ジャンルに興味を持つ若者を対象としている。ヒップホップ等の音楽分野においてはファッションも含め自己主張することが重要であり、当然これらのジャンルに興味のある若者はファッションに非常に敏感である。彼らは、自分は「DJホンダ」の信仰者であることを世間にアピールしたいのであるから、本物を身につけているということが重要なはずであり、「DJホンダ」が常に身に付けている帽子に付されたデザインと同じものを注意深く見分けるはずである。したがって、これらの需要者が上記の相違点を有する本件商標と引用商標を容易に見分けることができるのは明らかである。
野球においても、野球帽の中央にはチームの頭文字をデザイン化したものを付するのが通常であり、その頭文字は重なる場合も多い(乙第4号証)。 しかし、主な需要者層である野球ファンにとって帽子は自分がそのチームのファンであることを主張する意味合いを有するため、本物以外のものを身に付けることは彼らにとって耐えられないことであり、微妙な相違点を注意深く観察する。したがって、例え同じ頭文字からデザインされたものであっても見間違えることはないのである。
同様に、本件商標と引用商標の類否を判断するにあたっては、その需要者であるヒップホップ等に興味のある若者が本件商標に係る商品を購入する際に通常有する注意力はかなり高いものである点を考慮すべきである。
以上より、本件商標は引用商標と外観、観念及び称呼のいずれについても顕著な差異を有し、取引の諸事情を全体として考慮すれば、需要者は容易に識別することができる、相紛れることのない非類似の商標である。
3 商標法第4条第1項第15号について
仮に、引用商標が、本件商標出願以前から「DJホンダ」をイメージするものとして著名となっていたとしても、本件商標と引用商標は明らかに相互に非類似の商標であるため、それぞれ別異のものとして判然と区別されるから、需要者が本件商標を付した商品を請求人又は請求人と何らかの経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務にかかる商品であると誤認し、商品の出所について混同する可能性はない。
請求人は1992年にDJバトル世界大会で準優勝し注目され始め、1995年頃から1999年頃までは注目のDJとして日本の各種雑誌のインタビューを受けたり、TVに出演しており、その際常に引用商標を白字で表した黒い帽子をかぶっていたようであるが、2000年頃から、ブランドの海外展開を考え始めたことが影響したからか、請求人自身が日本の雑誌やTV等に出演する回数が激減した。また、2001年初め頃に「DJホンダ」の大ファンであった野球選手「イチロー」こと鈴木一朗がメジャーリーグに挑戦するため渡米し(乙第5号証)、「イチロー」が引用商標を付した帽子をかぶっている姿が雑誌やTV等で映し出される機会もなくなった。
また、本件商標も引用商標も、ヒップホップ等の音楽に興味を持つ若者を対象としているため、これらの商品の売上げは当然ヒップホップ等の音楽愛好者の数の変化、請求人のファンの数にも影響を受けるであろう。また、これらのヒップホップ等の音楽に興味を持つ若者は自分たちの主義主張をファッションに反映させて個性を発揮したいと考えているため、新たなファッションの動向にも敏感である。数年前に人気のあったブランドでもすぐに飽きられ忘れさられていくことはよくあることである。
以上より、本件商標の使用は、請求人商品との間において商品の出所について混同するおそれはない。
4 商標法第4条第1項第7号について
本件商標と引用商標は非類似の商標である。仮に引用商標が本件商標の出願以前から周知著名であるとしても、これと非類似の商標を出願し権利取得し使用することはそもそも法の予定するところであり、取引秩序を乱すものでもなく、何ら消費者又は取引者に不利益を与えるところはない。
以上より、本件商標は公の秩序又は善良の風俗に反するとはいえない。
5 商藤法第4条第1項第19号について
仮に、引用商標が、本件商標出願以前から「DJホンダ」をイメージするものとして需要者の間に広く認識されていたとしても、本件商標と引用商標は相互に非類似の商標であることは明らかである。
本件商標の採択にあたっては、引用商標と十分区別ができるようにデザイン上の処理がされているのであって明らかに非類似であり、全く関連のない商標である以上、本件商標を使用することによって引用商標の出所表示機能を希釈化させたり、その名声を毀損するような事態は起こりえない。
したがって、本件商標は、「不正の目的をもって使用するもの」とはいえない。
6 除斥期間について
本件商標の登録日は平成10年6月12日であり、本件請求は登録日から5年経過後である平成15年10月6日になされているものである。また、本件商標が引用商標と非類似である以上、被請求人に取引者及び需要者に出所の混同を生じさせることによって不正な利益を得ようとか、請求人に損害を与えようとする意図があったとは言えず、請求人もそのような事実を証明していないから、本件商標は「不正競争の目的」又は「不正の目的」をもって出願されたものとはいえない。したがって、本件請求は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号については、商標法第47条に規定する無効審判の請求期間の要件を満たしておらず、不適法である。

第5 当審の判断
1 本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、別掲に表示したとおりの構成よりなるところ、その構成は、2本の緩やかなカーブを描きつつ、太く短い縦線状の上下2つの横方向の突起部を互いに接する如きの図形の外形の輪郭を残し白抜きした如く看取される図形よりなるものである。そして、その図形の左の太い縦線の上部は平面鋭角的に描かれ、下部は菱形の突起状に描かれ、右の太い縦線の上部は菱形の突起状に描かれ、下部左部分を突起鋭角的に描いてなるものである。
そうして、本件商標全体の構成は、特定の記号、ローマ文字、物象を表した図形とはいい難く、単なる幾何図形よりなるものと看取、理解されるものというのが相当である。さらに、本件商標全体の図形は、がっちり一体にまとまった白抜き部分の多い図形の印象を与えるものである。
他方、引用商標は、別掲に表示した構成よりなるところ、その構成は、2本の細い縦長線の上方を横右上がりの斜め線に接する如きの図形よりなるものである。そして、左の縦線は下向き弓矢状に描かれ、右の細い縦線の下部は左内側に向かってカーブさせ徐々に細く描いてなるものである。
そうして、引用商標全体の構成は、タイプフェイス(Monotype old English Text)の「h」(乙第2号証)の文字をそのまま表したものと看取、認識されるほどに極めて酷似したものである。さらに、引用商標全体の図形よりは、繊細できゃしゃな軽量感の印象を与えるものである。
そうしてみると、本件商標と引用商標とは、前記したとおり、全体の構成の差異、本件商標が幾何図形、引用商標がタイプフェイス(Monotype old English Text)の「h」と看取、認識される差異及び全体に与える印象の相違よりすれば、本件商標と引用商標とは、時と所を異にし、離隔観察するとしも、外観において相紛れるおそれのないものというべきである。
また、本件商標は、特定の称呼、観念を生じないものであるから、この点において比較することはできない。
そうとすれば、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれの点においても非類似の商標といわざるを得ない。
2 商標法第4条第1項第10号及び同第15号について
(1)請求人の提出に係る甲各号証によれば、請求人、ディージェーホンダレコーディングスジャパンの創立者及び代表取締役である本田勝裕は、DJ(ディスクジョッキー)界において広く知られ、音楽活動を行う際には、引用商標を帽子のエンブレム(ワッペン)とした帽子を常に被り、引用商標を自らのシンボルマーク(イメージ標章)として使用した結果、その周知、著名性は本件商標の登録出願時を経て登録査定時においても継続していたものと認められる。
さらに、請求人又は本田勝裕及び引用商標の使用権を許諾された各社は、引用商標を本田勝裕の作品カバー、リリースしたアルバム、レコードに使用し、さらに、エンブレム(ワッペン)として使用する帽子、Tシャツ等に使用した結果、広く認識されている事実も認め得るものである。
しかしながら、本件商標と引用商標とは、前記1のとおり、非類似の商標であり、別異のものと看取、認識されるものである。
そうしてみると、本件商標は、引用商標を本田勝裕が被る帽子等のシンボルマーク(イメージ標章)として使用している実情、引用商標の著名性、引用商標を使用する商品展開、商取引の実情等を考慮するとしても、本件商標をその指定商品に使用した場合に、取引者、需要者が、直ちに引用商標を連想、想起するものとは認められないから、本件商標は、不正の目的をもって登録出願され、登録を受けたものということはできない。
(2)本件商標は、不正の目的で商標登録を受けたものとはいえないものであること、上述のとおりである。
そうすると、本件商標の設定登録日は平成10年6月12日であるところ、本件審判の請求は、本件商標の商標権の設定の登録日から5年経過後である同15年10月6日になされているものであるから、商標法第4条第1項第10号及び同第15号の無効理由については、無効審判の請求に対する除斥期間の経過後になされた不適法な請求といわざるを得ない。
3 商標法第4条第1項第7号及び第19号について
引用商標の周知著名性は、前記2のとおり、本件商標の登録出願時を経て登録査定時においても継続していたものと認められるとしても、本件商標と引用商標とは非類似の商標であり、別異のものと看取、認識されるものであり、かつ、本件商標から、直ちに引用商標を連想、想起しない以上、商取引秩序を乱すものでもなく、取引者又は需要者に不利益を与えるものではないから、本件商標は公の秩序又は善良の風俗に反するとはいえない。
さらに、本件商標を使用することによって、引用商標の出所表示機能を希釈化させたり、その名声を毀損するような事情は見あたらないから、本件商標は、不正の目的をもって使用するものともいえない。
4 結語
したがって、本件審判の請求は、その無効理由中、商標法第4条第1項第10号及び同第15号を理由とする請求については商標法第56条第1項において準用する特許法第135条の規定により却下すべきものである。その余の無効理由については、本件商標は同法第4条第1項第7号及び同第19号に違反して登録されたものではないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標



引用商標


審理終結日 2004-06-29 
結審通知日 2004-07-01 
審決日 2004-07-23 
出願番号 商願平9-17220 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (025)
T 1 11・ 22- Y (025)
T 1 11・ 271- Y (025)
T 1 11・ 222- Y (025)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 昇 
特許庁審判長 宮下 正之
特許庁審判官 小川 有三
富田 領一郎
登録日 1998-06-12 
登録番号 商標登録第4154907号(T4154907) 
代理人 柳生 征男 
代理人 青木 博通 
代理人 安原 正義 
代理人 安原 正之 
代理人 中田 和博 
代理人 足立 泉 

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