• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Z14
管理番号 1099823 
審判番号 無効2002-35285 
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-07-08 
確定日 2004-06-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第4479729号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4479729号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲の1に示したとおりの構成よりなり、平成12年6月27日に登録出願、第14類「時計,記念カップ,記念たて,キーホルダー,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ」を指定商品として、平成13年6月1日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張(争点)
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のとおり述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第20号証(枝番を含む。)を提出している。
1 別掲の2に示すとおりの構成よりなる商標(甲第2号証、以下「引用商標」又は「ウイングマーク」という。)の周知性について
(1)請求人は、輸出入業務及び顧問業務を主たる業務とする会社をドイツ国で経営すると共に、1996(平成8)年からは、「国際航空連盟」公認の小型飛行機による曲技飛行競技の世界大会(世界航空ショー)を我が国で開催するに当たって、その世界大会の企画・運営又は開催に関する専門的業務を行っているものである。
(2)ところで、国際航空連盟(Federation Aeronautique Internationale=FAI)とは、非政府・非営利の国際団体であり、宇宙も含む航空活動をより世界規模なものへと発展させていくことを目的として、1905年に設立された連盟であって、1985年には国際オリンピック競技委員会(IOC)の傘下団体になっているものである。また、国際航空連盟(FAI)の加盟国は、世界95か国に及び、そのうちの50か国で気球・滑空機・模型航空・落下傘などの「航空競技」が行われている。
そして、当該「航空競技」中、専用の小型飛行機を用い、設定された空域の中で、規定演技若しくは自由演技のプログラムでする競技を「アエロバティックス」(曲技飛行)と称するものである。
この「アエロバティックス」(曲技飛行)は、1960年にチェコスロバキアで初の世界アエロバティックス選手権(各国ナショナルチームが参加)が開催されたのを皮切りに、それ以来、2年おきに17回の同選手権、1993年から1995年にかけて15回のワールドカップが開催され、1996年からはワールドカップに代わって国際航空連盟(FAI)公認の最高峰ランクの大会となる「FAI World Grand Prix of Aerobatics」(以下「FWGPA」という。)が世界各国で開催されてきている(甲第3号証)。
(3)我が国における「アエロバティックス」(曲技飛行)は、兵庫県「但馬空港」におけるワールドカップ(1995年)開催を始めとして、1996(平成8)年10月の同空港におけるワールド・グランプリ大会(FWGPA IN TAJIMA。以下「FWGPAイン但馬」という。)、さらには、1997(平成9)年8月の北海道豊頃町「とよころ飛行場」における「FWGPA Official Exhibition」(以下「とよころエキシビション」という。)の開催が実行され、以後も合わせると、計10回程度のアエロバティックスの大会が開催されている。
請求人は、1996(平成8)年10月の兵庫県「但馬空港」における「FWGPAイン但馬」から、その企画・運営又は開催に主催者として関与しており(甲第4号証及び同第5号証)、我が国で開催される「FWGPA」のシンボルマークとして、引用商標を創出し、これを採択使用してきたものである。
(4)但馬空港におけるFWGPAイン但馬は、1996(平成8)年10月25日から27日までの3日間の開催であったが、運輸省、文部省、外務省、兵庫県、JOC、日本体育協会等を後援とするものであって、そのチケットは日本全国で販売され、その結果、約23,500人の観客を動員する盛大なものとなった。
そして、この大会については、朝日新聞、毎日新聞にも報道されている。
このワールド・グランプリ大会を開催するに当たって、請求人は、各要所に引用商標を顕著に表示したチラシ、カタログ、ポスター、チケット等を作成し、これを広く一般に頒布し、広告・宣伝を行ったものである(甲第6号証)。
また、1997(平成9)年8月9日及び10日の2日間開催された「とよころエキシビション」も、相当数の観客を動員する盛大なものであった。
そして、この大会の様子については、開催前から「月刊 日本カメラ」「月刊 AUTO SPIRITS」等の各種雑誌や、「スポーツニッポン」「日刊スポーツ」「北海道新聞」「十勝毎日新聞」等の各新聞にも取り上げられた。
この「とよころエキシビション」を開催するに当たっても、請求人は、「FWGPAイン但馬」のときと同様に、各要所に引用商標を顕著に表示したチラシ、カタログ、ポスター、チケット等を作成し、広く一般に頒布しているばかりでなく、そのチラシを十勝毎日新聞にも掲載し、広告・宣伝を行ったものである(甲第7号証)。
(5)以上によれば、引用商標は、本件商標の登録出願時には、請求人が「曲技飛行競技会(航空ショー)の企画・運営又は開催」に使用をする商標として、この種業界の取引者・需要者の間に広く認識されるに至っていたものといわなければならない。
2 本件商標と引用商標の酷似性、本件商標の出願人等について
本件商標と引用商標は、別掲の1及び2に示すとおり、「AEROBATICS」の文字の有無を除いては、地球様の図形と両脇の翼、その上部に配された三つの星図形及び「FAI」「WORLD GRAND PRIX」の欧文字などの構成要素を同一にし、全体としての構成態様も酷似するものである。
そして、引用商標は、図形と文字を組み合わせた特異な印象を与える請求人創出の商標であるから、これと本件商標とが、その構成要素及び構成態様において偶然に一致したものとは到底認めることができない。
また、本件商標の登録出願人である「塙正典」は、本件商標の登録出願日前であって、請求人が引用商標の使用を開始(平成8年10月)した後となる、少なくとも平成10年2月から同12年3月頃までの間は、請求人の従業員であった(第8号証)。
なお、本件商標の商標権は、「塙正典」から被請求人に移転され、平成13年8月23日にその登録がなされているが、これをもって、本件商標に対する商標法第4条第1項第19号の該当性が左右されるものではない(甲第1号証の2)。
3 請求人の登録意匠及び商標登録出願について
請求人が引用商標と同一の標章を意匠に係る物品「ラベル」について、本件商標の登録出願日前の平成9年1月13日に意匠登録出願をし、平成9年12月19日に意匠登録されたものである(甲第9号証)。
また、商標登録出願については、請求人が引用商標と同一の商標を第16類、第18類、第25類、第26類、第41類の商品・役務を指定商品・役務として、平成9年1月13日に登録出願したところ、いずれも類似する他人の登録商標との関係によって、その登録を断念したものである(甲第10号証)。
4 弁駁の理由
請求人は、被請求人の答弁に対して以下の通り弁駁する。
(1)引用商標「ウイングマーク」の創作について
ア 被請求人は、「ウイングマークは被請求人代表者のジャン-ルイ モネが1995年(平成7年)秋に創作したものであり、乙第3号証の1は、1996年(平成8年)10月『FWGPAイン但馬』開催決定にあたり、そこで使用すべきロゴ(ウイングマーク)をFWGPA事務局が同年7月30日付で請求人にファックスで提示した書面である。」旨主張する。
しかしながら、「ジャン-ルイ モネ」がウイングマークを1995年秋に創作したことについては、主張のみであって、これを裏付ける何らの証拠もないから到底認め難いものである。また、乙第3号証の1については、ファックスしたとされる請求人のFAX番号が相違するばかりでなく、書証右上の符号「6」「6A」「6B」「6C」「6D」も後で付け加えられた不自然なものであること、及び、FWGPA事務局が請求人にファックスで提示したとされる1996年(平成8年)年7月30日以前、既に請求人は自己の創作したウイングマークのデジタル化を「TAKE-1」事務所に依頼していたこと(甲第11号証)等を併せ考慮すれば、乙第3号証の1は、被請求人が捏造したものであることを否定できない。
イ 甲第11号証の1は、ウイングマークは1996年(平成8年)10月のFWGPAイン但馬開催に先だって、請求人が企画・運営、開催するアエロバティックス(曲技飛行)競技会のシンボルマークとして、同人が創作したものであることを宣誓している書面である。
そして、請求人は、1996年(平成8年)5月18日には既に、シンボルマークをウイングマークとする構想を「ジャン-ルイ モネ」に提示していて(甲第11号証の2)、その後の1996年7月11日には当該ウイングマークのデジタル化を東京の「TAKE-1」事務所に依頼し、数回の修正(甲第11号証の3ないし7)を経て、1996年7月20日ないし同7月29日の間に「甲第11号証の8ないし11」に示す4種のウイングマークをデジタル化している事実が認められる。
以上の経緯からみて、ウイングマークは、FWGPA事務局が請求人にファックスで提示したとされる1996年(平成8年)7月30日以前に、請求人が創作したものであることは明らかである。
なお、「ウイングマークは、請求人が創作し、使用するもの」であることは、1996年(平成8年)ないし1999年(平成11年)にかけて請求人が企画・運営、開催した曲技飛行ショーには、一貫して当該ウイングマークが使用されているのにもかかわらず、請求人が関与しない、例えば、2000年(平成12年)10月20日ないし22日に開催された「アエロバティックス HONDAグランプリ2000」や2002年(平成14年)11月1日ないし3日に開催された「アエロバティックス日本グランプリ」には当該ウイングマークが使用されていないことからも是認できる(甲第12号証の1ないし3)。
(2)請求人ウイングマークの周知性について
ア 1998年(平成10年)3月26日から28日までに開催されたカーレース「FedEx Championship Series」において、請求人のウイングマークを付した飛行機で曲技飛行のデモンストレーションをすると共に「アエロバティックス日本グランプリ」の紹介パンフレットを頒布した(甲第13号証の1ないし6)。
イ 1998年(平成10年)6月13日、14日に開催された「1998年全日本選手権 フォーミュラ・ニッポン第4戦」において、請求人のウイングマークを付した飛行機で曲技飛行のデモンストレーションをすると共に「アエロバティックス日本グランプリ」開催のプレス発表をした(甲第14号証の1ないし4)。
ウ 1998年(平成10年)1O月23日ないし25日の「’98アエロバティックス日本グランプリ」(以下「’98日本グランプリ」という。)は請求人が企画・運営、開催したものであって、この大会において、パンフレット、飛行機、パイロットの帽子など、あらゆるところに請求人のウイングマークが使用された(甲第15号証の1ないし18)。
エ 1999年(平成11年)10月15日ないし17日の「’99アエロバティックスHONDAグランプリ」(以下「’99HONDAグランプリ」という。)は請求人が企画、運営、開催したものであって、この大会において、パンフレット、飛行機、パイロットの帽子など、あらゆるところに請求人のウイングマークが使用された(甲第16号証の1ないし12)。
オ 1998,1999年に開催されたアエロバティックス競技会の模様を収録したビデオ及び請求人のウイングマークが付されたラジコン模型飛行機が販売されている(甲第18号証の1及び2、同第19号証)。
以上に、本件審判請求時に提出した甲第4号証ないし同第7号証を総合すれば、1996年ないし1999年にかけて我が国で開催されたアエロバティックス(曲技飛行)の興行は、その全てを請求人が企画・運営、開催したものであって、当該アエロバティックス興行におけるパンフレット、チラシ、チケット、飛行機、パイロットの帽子等には、一貫してウイングマークが使用されている事実が認められる。
また、「’98日本グランプリ」及び「’99HONDAグランプリ」の興行においても、前者は35,000人、後者は35,500人の観客を動員(甲第17号証)し、「読売新聞」「下野新聞」「福島民友」等の新聞及び「OPT4WD」「航空情報」「SKYSPORTS」「プレイボーイ」「航空ファン」等の雑誌にも取り上げられる盛大なものであった。
さらに、1998年・1999年のアエロバティックス興行においては、その興行終了後、間もなくビデオ(アエロバティックスを内容とするものであって、パッケージにはウイングマークが付されている。)を発売し、今までにそれぞれ4,300本、4,500本を販売し、ラジコン模型飛行機(請求人との契約により、ウイングマークが使用されている。)も1,520機の売り上げがあった。そして、いずれも好評に販売中である。
そうとすれば、請求人が引用するウイングマークは、本件商標の登録出願時には既に、同人が企画・運営、開催するアエロバティックスの興行(航空ショー)を表示するものとして、この種業界の取引者・需要者の間に広く認識されるに至っていたものであって、現在もその周知性は継続しているものである。
加えるに、「FAI」「FWGPA」の文字よりなる標章についても、これが周知なものとなっているならば、それは1996年当初、我が国においては全く知られていなかった当該標章をウイングマークと共に請求人が使用し、かつ、盛大に宣伝・広告した結果のものということができる。
なお、被請求人は、請求人のウイングマークの周知性を否定する根拠の一として「この2つの航空イベントに関する甲号証のパンフレットや新聞記事等には請求人の名前を全く見出すことができず、この2つの航空イベントの主催者も互いに異なっていることが明らかであるので、何ら説得力を有していない。」と主張する。
しかしながら、商標の周知性は、商標の果たす役割からみれば、当該商標を使用する者が何人であるかが明確にされる必要性はなく、一定の何人かの商品若しくは役務の識別標識であるという点において、取引者・需要者の間に広く認識されているものであれば足りることは言うまでもない。そして、ウイングマークがアエロバティックスの興行(航空ショー)を表示するものとして周知性を獲得していて、それを使用する者が請求人であることは前述のとおりである。
また、アエロバティックスの興行(航空ショー)において、主催者が異なっても一貫してウイングマークを請求人が使用してきたことは、とりもなおさず、当該ウイングマークが大会や主催者のマークとしてではなく、請求人の前記興行を表示する商標として周知されていることの証明に他ならない。
(3)国際航空連盟事務総長の通知状(甲第4号証)について
上記通知状には、「当連盟は、三塚伸幸氏は、日本あるいは世界の何れの地においてもFAIの代理人であったことはなく、同氏をいかなる理由にせよFAIが指命、授権、あるいは同氏と契約したことがないことを更に証明する。事実、つい最近まで当連盟は三塚氏について全く何も知らなかった。(甲第4号証の2)」との記述がなされている。
しかしながら、後述する甲第20号証ないし同第22号証からみれば、請求人と国際航空連盟が関係ないとする上記の記述は全く事実に反するものであり、したがって、国際航空連盟事務総長の通知状とする甲第4号証は、およそ信憑性のないものと言わざるを得ない。なお、前記通知状における国際航空連盟事務総長の署名が真正なものであったとしても、同事務総長が誤解のもとに署名したものと推認される。
5 結論
以上詳述したとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時には既に、請求人が「曲技飛行競技会(航空ショー)の企画・運営又は開催」に使用をする商標として、この種業界の取引者・需要者の間に広く認識されるに至っていたものであるから、本件商標は、当該引用商標と同一又は類似の商標が商標登録されていないことを奇貨として、請求人の従業員であった「塙正典」により、先取り的(剽窃的)に出願されたものといわなければならない。また、被請求人が本件商標の正当権利者でないことも明らかである。
したがって、本件商標は、その出願が周知な引用商標について信義則に反する不正の目的でなされたものであって、商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである

第3 被請求人の主張(争点)
被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第5号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求人の引用商標の周知性について
請求人は、自らが創案したとする引用商標が請求人主催の曲技飛行競技会(又は航空ショー)のシンボルマークとして周知著名であるとする。
しかし、まず1996年(平成8年)10月に兵庫県豊岡市で開催されたFAI公認の曲技飛行世界グランプリ「FWGPAイン但馬」は「但馬空港フェスティバル’96」の数あるイベントの中の一つとして行われたもので、その主催者は「但馬空港フェスティバル実行委員会」(会長は豊岡市長)即ち「豊岡市」であって、請求人ではない(甲第6号証)。請求人は、この主催者の依頼によってこの競技会の開催、執行等に関する業務を行い、実施委託料を得たにすぎないのである(乙第1号証及び同第2号証参照)。
したがって、この但馬空港での競技会に関するチラシや新聞記事等(甲第6号証)には、請求人の名前はどこにも出ていないのは当然である。
なお、甲第5号証の1ないし7の東京航空局長や釧路空港事務所長の飛行のための各「許可証」は、いずれも1997年(平成9年)7月に申請したもので、この但馬空港での飛行に対するものではなく、平成9年8月に開催された北海道「とよころ飛行場」での飛行ショーに対するものであることに注意すべきである。
また、この1997年(平成9年)8月に開催された「とよころ飛行場」における「とよころエキシビション」はパイロットわずか3名が出演した飛行ショーにすぎず、このショーもそのパンフレットやチケット(甲第7号証の1ないし15)によれば、「FWGPA-JAPAN DELEGATION」が「主催」又は「共催」と表示されており、このショーに関する新聞記事(甲第7号証の16ないし45)においても、請求人の名前はどこにも見出すことができない。
しかも、このショーでのこの「FWGPA-JAPAN DELEGATION」なる機関は、FAI公認のFWGPA実施主体ではない。
このように、兵庫県豊岡市の「FWGPAイン但馬」と北海道の「とよころエキシビション」に関する請求人提出のパンフレットや新聞記事には、請求人の名前はどこにも表示されておらず、また上述したところから明らかなように、引用商標が共に使用されているものの、少なくともこの2か所でのイベントの主催者は異なっているのである。
したがって、請求人が上記2か所のイベントで主催者として引用商標を使用したことにより、その商標が請求人の商標として周知著名となったとする主張は、全く妥当性を欠いたものというほかない。
そして、時系列では、平成8年10月「FWGPAイン但馬」、平成9年8月「とよころエキシビション」、平成12年6月本件商標の登録出願、平成13年6月本件商標の登録、であるが、上記「とよころエキシビション」から本件商標の登録出願時までの3年間、更にその出願後、本件商標登録時を含む現在に至るまでの計5年間、請求人が曲技飛行競技会あるいは飛行ショーを開催したり、更にそのシンボルマークとして引用商標を使用したとする主張や証拠は一切出されていないのである。
要するに、請求人は本件商標の出願より3年前と4年前の合計2回の航空イベントだけにその一員として関係したにすぎないのであって、その後現在に至るまでの5年間は曲技飛行競技会の企画・開催等や引用商標の使用は全くなされていないのであって、この点からも引用商標が「請求人の商標」として本件商標の出願時及び登録時の時点で「取引者・需要者の間に広く認識されるに至った。」との主張が不当なことは明らかである。
2 請求人の引用商標について
ところで、請求人は、引用商標は請求人自らが創出して、これを前記した平成8年10月開催の「FWGPAイン但馬」のために採択・使用したもので、その後、この引用商標と同一の商標を平成9年1月13日に商品・役務の区分第16類、第18類、第25類、第26類、第41類の5分類に商標登録出願すると共に(但し、いずれも拒絶された。)、同時にこの商標のモチーフそのものを利用して「ラベル」の意匠として出願し、意匠登録も受けたとしている。
しかし、請求人のこの主張は全く不当で、この引用商標は、被請求人会社の代表者ジャン-ルイ モネが1995年(平成7年)秋にFWGPA即ち被請求人のロゴとして創作したものである。
ここに提出の乙第3号証は、第1回FWGPAイベントである前記「FWGPAイン但馬」の開催決定に当たり、そこで使用すべきこのロゴをFWGPA事務局から「FWGPAイン但馬」の連絡窓口となっていた請求人にファックス提示した1996年(平成8年)7月30日付けの書面であり、これに添付されたロゴは引用商標と全く同一であり、引用商標が請求人の創作にかかるものであるとの主張は全くのウソなのである。
したがって、この被請求人創作のロゴをそのまま適用してその要部のすべてとなすこの「ラベル」の意匠である請求人所有の登録意匠には、何らのオリジナリティもなく、本来登録無効理由を内在しているのである(意匠法第3条第2項、同第9条)。
以上の説明からも容易に理解できるように、引用商標の正当権利者は被請求人であって、もし請求人主張のように、この引用商標がFAI公認の曲技飛行世界グランプリに関するシンボルマークとして周知であるとすれば、それは被請求人の商標として周知なのである。
なお、請求人「三塚伸幸」氏の最近の言動に鑑み、FAI(国際航空連盟)では、2002年(平成14年)9月12日に本部のマックス・ビショップ事務総長名で、「FAIは三塚伸幸氏に対して過去も現在も何らの権限を与えたことはなく、同氏はFAIとは全く関係がなく、またロゴ、商標、意匠についても、同氏に対してFAIの語の使用を許可したことはない。」旨を関係者に通知している(乙第4号証)。
3 被請求人と本件商標の出願人「塙 正典」氏との関係
本件商標は「塙 正典」名で平成12年6月27日に出願されたが、その前月である同年5月11日に被請求人と「塙 正典」氏との間で、同年10月に日本で開催予定のFWGPA(FAI公認曲技飛行世界グランプリ)について、塙氏を日本における執行役員(Managing Director)に任命し、かつ総代理人としての権限を付与する契約を締結した(乙第5号証)。
これに基づき、塙氏は被請求人に代わり、必要と思われる本分類に本件商標を出願したもので、その商標がFWGPAのロゴとして引用商標と「AEROBATICS」の語の有無の相違を除き、その構成が同一であるのは当然である。
そして、平成13年6月1日に本件商標の設定登録が行われると(登録証の送達は登録から1か月弱かかっている)、本件商標に係る商標権正当権利者の被請求人に返還すべく、直ちに同7月30日付け譲渡に基づく移転登録申請を同8月1日に行い、同年8月23日に移転登録がなされたもので、この商標権の譲渡費用も実費程度のものであった。
したがって、正当権利者である被請求人にこの商標権を返還するまでの塙氏の行動にはいささかの「不正の目的」も見出すことはできない。
請求人も、本件商標に係る商標権が被請求人の所有になったことについて何らの主張・説明もないのは、被請求人が本件商標の正当権利者であることを認めているからに他ならないのである。
上述のような理由から、本件商標の正当権利者でもない請求人との関係で「不正の目的」の有無を論ずることは、全く無意味なことである。
4 商標法第4条第1項第19号と無効審判
無効審判は、商標の登録処分自体の有効性を争うものであるから、本来登録後の事情によって商標法第4条第1項第19号の該当性が左右されるのは好ましいことではない。
しかし、本件の場合のように、登録後直ちに正当権利者へ商標権を返還するための譲渡手続が行われ、即ち商標登録から権利譲渡(返還)までの時間が極めて密接していて、正当権利者にとっても、それにより何らの損害(高額な買取り要求に従わざるを得なかった場合のような)も生じていないような場合、これを無効とすることは、極めて妥当性を欠く。
そうでなければ、正当権利者が再度同一内容の商標登録を受ける必要が生じ、手続き上極めて不経済であるばかりでなく、再度登録を受けるまでの間の正当権利者の利益保護が不充分となり、一般需要者等に対しても無用な混乱を生じさせるおそれがあるからである。ただ、このような場合には、単に出願人に「不正の目的」がないとして、簡単に解決することもできる。
5 結論
上述したところから明らかなように、出願人であった「塙 正典」氏が本件商標の登録後、直ちに正当権利者である被請求人に返還したのであって、塙氏のこの出願・登録行為には何ら「不正の目的」がないこと明らかである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号の規定には何ら該当しないことは明白である。

第4 当審の判断
1 本件商標と引用商標の類似性
本件商標は別掲の1に、引用商標は別掲の2にそれぞれ示したとおりの構成よりなるものであって、両商標を比較すると、「AEROBATICS」の文字の有無及び色彩の有無を除き、地球様の図の左右に翼を有し、その上部に三つの星を有する図形、及び、「FAI」と「WORLD GRAND PRIX」の文字などの構成要素及びその配置を共通にするものであり、また両商標は、その構成中に有する「FAI」と「WORLD GRAND PRIX」の文字に相応して「エフエーアイ」及び「ワールドグランドプリックス」の共通の称呼を生じるものとみられることから、本件商標は、引用商標と外観、称呼において類似するものと認められる。
2 引用商標の周知、著名性
引用商標は、「請求人が『曲技飛行競技会(航空ショー)の企画・運営又は開催』に使用する商標としてこの種業界の取引者・需要者の間に広く認識されるに至っていた」と請求人が述べるので、この点について検討する。
(1)請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 甲第4号証の1は和解調書、甲第4号証の2は確認書であり、これらによれば、請求人と豊岡市の間において、1996年10月25日から同27日に兵庫県但馬空港において開催された「FWGPAイン但馬」に関する開催実施委託料について和解が成立し、その確認がされたこと。
そして、「FAI World Grand Prix of Aerobatics委員長名の書類」(甲第20号証の4)によれば、上記競技会の興行権は請求人が有していたこと。
イ 甲第5号証の1ないし7によると、1997年7月1日付けで申請のあった飛行に関する、「FWGPA JAPAN」、「FAI WGPA JAPAN DELEGATION」、「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」あるいは「FWGPA-J」宛の東京航空局長又は釧路空港事務所長の許可書であり、これらの宛先に続き、請求人の氏名が記載されていること。
ウ 甲第6号証の1によると、国際航空連盟(FAI)が主管し、但馬空港フェスティバル実行委員会が主催して、1996年10月25日から同27日に兵庫県但馬空港で開催された「FWGPAイン但馬」のリーフレット(チラシ、パンフレット)であり、これには引用商標が表示されているが、請求人の表示は見当たらないこと。
エ 甲第6号証の2ないし15によると、上記「FWGPAイン但馬」に関するリーフレット又は新聞記事であり、これらにも請求人の表示は見当たらないこと。
オ 甲第7号証の1によると、FAI World Grand Prix of Aerobatics Head Officeが主管し、FWGPA-JAPAN DELEGATIONが主催して、平成9年8月9日及び同10日に北海道とよころ飛行場で開催された「とよころエキシビション」のリーフレット(チラシ、パンフレット)であり、これに引用商標は表示されているが、請求人の表示は見当たらないこと。
カ 甲第7号証の2ないし45によると、上記「とよころエキシビション」に関するリーフレット又は新聞記事であり、これらにも請求人の表示はされていないこと。
キ 甲第14号証の1及び2によると、株式会社ツインリンクもてぎが主催して、1998年6月13日及び同14日に開催された、全日本選手権フォーミュラ・ニッポン第4戦のリーフレット等であり、同フォーミュラレースにアエロバティックス出場機体によるデモフライトが予定されていたこと。
ク 甲第15号証の1によると、FWGPAと国際航空連盟(FAI)が主管し、株式会社ツインリンクもてぎが主催して、1998年10月23日から同25日に、栃木県ツインリンクもてぎで開催された「’98日本グランプリ」の冊子であり、これには引用商標が表示されているが、請求人の表示は見当たらないこと。
ケ 甲第15号証の2ないし8によると、平成10年10月5日付けで申請のあった飛行に関する、「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」宛の東京航空局長の許可書であり、宛先に続き請求人の氏名が記載されていること。
コ 甲第15号証の9によると、平成10年9月22日付けで土地及び施設の使用を承認する旨の、「FWGPA-J」宛の株式会社ツインリンクもてぎの土地・施設使用承諾書であり、宛先に続き請求人の氏名が記載されていること。
サ 甲第15号証の10ないし17によると、1998年10月23日から25日にツインリンクもてぎで開催される「’98日本グランプリ」に関する新聞記事又は雑誌の記事などであり、これらに請求人の氏名は記載されていない。
シ 甲第16号証の1によると、国際航空連盟(FAI)とFWGPAが主管し、株式会社ツインリンクもてぎが主催して、1999年10月15日から同17日に、栃木県ツインリンクもてぎで開催された「’99HONDAグランプリ」のリーフレットであり、これには引用商標が表示されているが、請求人の表示は見当たらないこと。
ス 甲第16号証の4ないし9によると、平成11年9月24日付けで申請のあった飛行に関する、「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」宛の東京航空局長の許可書であり、宛先に続き請求人の氏名が記載されていること。
セ 甲第16号証の10ないし12によると、「’99HONDAグランプリ」関する雑誌の記事であり、これらに請求人の表示は見当たらないこと。
(2)上記事実によれば、以下のとおり認められる。
ア 「FWGPAイン但馬」は請求人がその興行権を有していたところ、「FWGPAイン但馬」は、国際航空連盟(FAI)が主管し、但馬空港フェスティバル実行委員会が主催して、平成8年10月25日から同27日の3日間兵庫県但馬空港で開催され、その開催、実施は、豊岡市ないしは但馬空港フェスティバル実行委員会の委託により、請求人がその業務を行ったものと認められる。しかしながら、甲第7号証の1などに表示されている引用商標は、FWGPAイン但馬が国際航空連盟(FAI)の公式に認定する競技会であることを示す商標と認識されるものというべきであって、FWGPAイン但馬の企画、運営又は開催に係る役務の商標とは認め難いといわなければならない。
また、FWGPAイン但馬の企画、運営又は開催に係る役務について、請求人が広告、宣伝を行った事実を示す証拠はない。
イ 「とよころエキシビション」は、FAI World Grand Prix of Aerobatics Head Officeが主管し、FWGPA-JAPAN DELEGATIONが主催し又は他者と共催して、平成9年8月9日及び10日の2日間北海道とよころ飛行場で開催されたことが認められる。
そして、「とよころエキシビション」のリーフレット(例えば甲第7号証の2)に「アエロバティックスには、国際航空連盟(FAI)の公認する最高のワールド・グランプリ・オブ・アエロバティックス(FWGPA)があり、世界最高のパイロットによる競技会となりますが、今回の豊頃での演技は、この試技・エキシビションとなります。」と記載されていることからすると、「とよころエキシビション」が国際航空連盟(FAI)の公認の競技会でないとしても、第7号証の1などに表示されている引用商標は、国際航空連盟(FAI)に関連する商標として認識されるものと推認することができる。
甲第5号証の1ないし7の許可書は、その日付からすると、「とよころエキシビション」に関する飛行許可書と認められるところ、その許可書の宛先は、その主催者であるFWGPA-JAPAN DELEGATIONであるということができる。
そして、該許可書には、FWGPA-JAPAN DELEGATIONの名称とともに請求人の氏名が記載されていて、この事実からすると、請求人は、主催者の代表者的な立場に立って、「とよころエキシビション」の企画、運営又は開催の実際の業務に当たったものと推認することができる。しかしながら、第7号証の1などに表示されている引用商標は、上記のとおり、国際航空連盟(FAI)に関連する商標として把握されるものというべきであり、少なくとも、「とよころエキシビション」の企画、運営又は開催に係る役務の商標とは認め難いものである。
また、「とよころエキシビション」の企画、運営又は開催に係る役務について、請求人が広告、宣伝を行った事実を示す証拠はない。
ウ 「’98日本グランプリ」及び「’99HONDAグランプリ」は、国際航空連盟(FAI)及びFWGPAが主管し、株式会社ツインリンクもてぎが主催して、平成10年10月23日から同25日の3日間及び平成11年10月15日から同17日の3日間、栃木県のツインリンクもてぎで開催されたことが認められる。その飛行申請の許可書の宛先に、FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATIONと記載されると共に請求人の氏名が記載されており、その事実からすると、請求人は、その組織の代表者的な立場に立って、「’98日本グランプリ」及び「’99HANDAグランプリ」の企画、運営又は開催の実際の業務に当たったものと推認することができる。しかしながら、甲第15号証の1,甲第16号証の1などに表された引用商標は、「’98日本グランプリ」及び「’99HONDAグランプリ」がその主管者である国際航空連盟(FAI)及びFWGPAの公式に認定する競技会であることを示す商標と認識されるものというべきであって、これらの企画、運営又は開催に係る役務に使用された商標とは認識されないものといわなければならない。
また、「’98日本グランプリ」及び「’99HANDAグランプリ」の企画、運営又は開催に係る役務について、請求人が広告、宣伝を行った事実を示す証拠はない。
(3)以上によれば、請求人の提出に係る証拠には、引用商標が「FWGPAイン但馬」、「とよころエキシビション」、「’98日本グランプリ」又は「’99HONDAグランプリ」の企画、運営又は開催に係る役務の商標として請求人が使用をするものと認め得る的確な証拠はないから、請求人の提出に係る証拠によっては、引用商標は、請求人が飛行競技会(飛行ショー)の企画・運営又は開催に係る役務に使用する商標として取引者・需要者の間に広く認識されるに至っていたものとは判断することができない。
3 結論
してみれば、本件商標は引用商標と類似するものであること前記のとおりであるとしても、引用商標が請求人の商標として需要者の間に広く認識されているものと認められない以上、本件商標は、商標法4条第1項第19号に違反して登録されたものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
1 本件商標



2 引用商標

(色彩についての詳細は原本を参照されたい。)
審理終結日 2003-05-14 
結審通知日 2003-05-19 
審決日 2003-07-09 
出願番号 商願2000-71411(T2000-71411) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (Z14)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 榎本 政実 
特許庁審判長 宮下 正之
特許庁審判官 小林 和男
伊藤 三男
登録日 2001-06-01 
登録番号 商標登録第4479729号(T4479729) 
商標の称呼 エフエイアイ、ワールドグランプリ、ワールドグランドプリックス、ファイ 
代理人 為谷 博 
代理人 浅賀 一樹 
代理人 成合 清 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ