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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない Z33
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない Z33
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Z33
管理番号 1098320 
審判番号 無効2002-35556 
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-12-27 
確定日 2004-05-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第4539565号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4539565号商標(以下「本件商標」という。)は、「LEYDA」の欧文字を標準文字とし、平成13年4月6日に登録出願され、第33類「ワイン」を指定商品として、同14年1月25日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第15号証を提出した。
1.商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について
本件商標を構成する「LEYDA」の欧文字は、チリ国のサン・アントニオ地方の中の1地区の名称である「Leyda」に相当するものである。「Leyda」渓谷の地図を甲第1号証として提出する。
この「Leyda」は、2002年5月10日発行のチリ国の官報(甲第2号証)によれば、2002年2月12日より、チリ国におけるぶどう酒の産地として、チリ国により指定された地名でもある。同官報によれば、アコンカグアはサン・アントニオ渓谷及び外三地区からなり、サン・アントニオ渓谷は、Leyda渓谷からなる旨が明記されており、その各構成区域の全ては、ぶどう酒の産地として、パリ条約の加盟国でもあるチリ国の国家が認定しているものである。
チリ国は、ぶどう酒の産出国としては比較的歴史が浅く、ワイン用の高級品種が栽培されるようになったのは19世紀に入ってからであるが、以来、栽培面積は南北に伸びており、上述のアコンカグアは、サンチャゴ周辺の北方に位置する優良なワイン産地となっている(甲第3号証)。
Leydaは、ぶどう酒用ぶどうの産地としては、新しい地域ではあるが、その有望性ゆえにチリ国の当業界で注目を集めている。甲第4号証ないし甲第6号証は、チリ国の「planeta」誌のウェブサイトに掲載されているLeyda関係の記事のプリントアウト及びその抄訳であり、2001年11月8日付記事(甲第4号証)では、「サン・アントニオ地方のレイダは、最近チリのワイン醸造界において注目を集め始めている。」と書かれている。同年11月9日付記事(甲第5号証)では、2000年のLeydaにおける最初の収穫について言及されており、その大きな可能性を報じている。また、2001年12月7日の記事(甲第6号証)では,Leydaの有望性が、コンチャ・イ・トロにより確認された旨が報じられている。
甲第7号証は、チリ国の有名なジャーナル誌「La Tercera」のウェブサイト中の「Leyda」に関する部分のプリントアウトとその抄訳である。ここでもまた、新たなワイナリー地域としてのLeydaが紹介されている。
このように、チリ産のぶどう酒を取り扱う当業者にとっては、「Leyda」がチリ国のぶどう酒の産地名であることは周知の事実である。
したがって、本件商標がその指定商品「ワイン」に使用されても、これに接する需要者は、単に、当該ワインの産地名を表示したに過ぎないと理解するに止まり、本件商標がLeyda産以外のチリワインに使用された場合は、産地の誤認によって、当該ワインの品質につき誤認混同を生ずるものである。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同第4条第1項第16号の規定に該当することは明白である。

2.商標法第4条第1項第7号について
本件商標権者は、「ヴィニャ レイダ リミターダ」の名称を有するチリ国の法人であるが、その名称中「ヴィニャ」は、スペイン語で「ワイン」を意味し、「リミターダ」は、商号名称であるから、「ヴイニャ レイダ リミターダ」の名称全体からすれば、チリ国のLeydaに存するワイン業者であることは明白である。したがって、本件商標権者は、本件商標の出願時に既に「Leyda」がチリ国のぶどう酒用ブドウを産出する土地の地名であって、ワインの産地表示に該当することを当然に知っていた者である。
甲第8号証として、チリ国農業省ブドウ園及びワイン局の局長による証明書を提出する。この証明書によれば、Leydaのチリ国におけるぶどう酒の産地としての指定は、1999年からLeydaにブドウ園を有する3名からの申請に基づくものとのことである。その申請者3名のうち1名が「Agricola Leyda Ltda.」であり、これは、本件商標権者と同一人であるとのことである。
当該申請は、2001年12月になされたものであり、これは、本件商標が登録査定となった時期と一致する。即ち、本件商標権者は、本件商標の登録が確実となった時点で、Leydaのワイン産地表示としての指定を受けるよう画策し、商標法第4条第1項第17号が商標登録出願時に該当しないものには適用されないことを奇貨として、「Leyda」の表示使用の独占を目論む者と推測される。
かかる目論みは、チリワインの取引業界における取引秩序を乱し、正常な商慣習に反する行為であるから、本件商標は、公序良俗に反する商標となり、商標法第4条第1項第7号の規定に該当する。

3.答弁に対する弁駁
被請求人は、「ある地名が我が国の取引者・需要者において産地又は販売地として認識されるというためには、その地名が著名な地理的名称といえるか、あるいは、著名でない場合は、その地名が指定商品の産地又は販売地であると認識させる何らかの具体的事情が必要となる。」旨を述べている。
しかしながら、「Leyda」がチリ国におけるぶどう酒の産地として、チリ国という国家により指定されたという事実は、「Leyda」が指定商品の産地又は販売地であると認識させる何らかの具体的事情になり得るものである。確かに、「Leyda」がチリ国のワインの原産地名称として指定されたのは、平成14年2月21日のことであり、本件商標の登録査定時の平成13年12月20日より後であるが、その時期的差は、わずかに2ヶ月間のことであり、また「Leyda」がワインの産地として知られていたが故に、チリ国という国家が「Leyda」をワインの原産地名称に指定したのであろうから、原産地名称の指定前であっても、「Leyda」は、ワインの産地として相当程度知られていたことは容易に推測できることである。
被請求人は、「チリ国により原産地表示として指定されている地名は正確には『Leyda』ではなく『Valle de Leyda』である。」と主張している。しかしながら、「Valle de Leyda」の「Valle」の部分は、甲第9号証に示す通り、「谷」の意味を有するスペイン語であり、「Valle de Leyda」は「レイダ谷」の意味であり、依然として「Leyda」の文字部分が地名としての要部を構成することは明白である。事実、原産地表示の「Valle」の部分は、しばしば省略されている。甲第10号証として提出するインターネット上に掲載されている「98ワイン頒布会」の記載によれば、チリワイン「カルタビエハ カベルネ・ソーヴィニョン」の産地として「マウレ」が表示されている。この産地「マウレ」は、正式には甲第2号証に表示の「Valle deI Maule」に相当し、やはり「Valle」の文字部分は地名としての要部でないことから省略されているのである。
被請求人は、甲第4号証ないし甲第7号証につき、これらがスペイン語によるものであることから、我が国の取引者・需要者において理解されない旨述べている。しかしながら、英語版もインターネット上で公開されているので、それぞれの英語版を甲第11号証ないし甲第14号証として提出する。したがって、「Leyda」の紹介記事は、英語でも公開されているのであるから、我が国の取引者・需要者においても十分認識され得ることは明白である。
また、被請求人は、被請求人が各国において「Leyda」に係る登録商標を所有しており、それらが無効審判や異議申立などが行われることなく維持されていることをもって、本件商標は、自他商品識別力を備えた商標であると主張する。しかしながら、自他商品識別力は、時代と共に変動し易いものであり、また、商標登録の時期によっては、無効理由や異議理由に該当しない等の各国毎に異なる事情が存在する。したがって、他国において過去に成立した登録商標がそのまま存続していることをもって、チリ国ワインの原産地表示に相当する本件商標「Leyda」が、本件商標の指定商品の産地表示として認識されないということにはならない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第13号証を提出した。
1.我が国における「LEYDA」の認識について
(1)「Leyda」は、請求人自身も審判請求書において述べているように、単なるチリ国のサン・アントニオ地方の中の1地区の名称にすぎないものであり、チリ国は、ぶどう酒の産出国としては比較的歴史が浅く、また「Leyda」は、我が国の取引者・需要者においてではなく、チリ国の当業界で注目を集めているにすぎないものである。
そうとすれば、本件商標「LEYDA」は、著名な地理的名称とまではいえず、また、我が国の取引者・需要者において、「ワイン」の産地又は販売地であると認識される積極的な事情は存在しないというべきである。
「Leyda」渓谷の地図として提出されている甲第1号証の出典については何ら明らかにされていないが、その使用されている言語から、日本において出版されたものでないことは明らかである。チリ国における一地方名として、「Leyda」が存在する事実を否定するものではないものの、甲第1号証によって、我が国の取引者・需要者において、「Leyda」が地名として周知であることは何ら証明されていない。
(2)甲第2号証は、平成14年2月21日に指定された原産地名称に関するチリ国の官報であるが、チリ国により、原産地表示として指定されたのは、本件商標の登録査定後のことであり、また、チリ国により原産地表示として指定されている地名は、正確には「Leyda」ではなく、「Valle de Leyda」である。
そうとすれば、甲第2号証は、本件商標が本件査定時において、我が国の指定商品の取引者・需要者に産地又は販売地表示として認識されていたかどうかという事実には何ら影響を与えるものではない。
(3)請求人は、甲第3号証を提出して「アコンカグアは、サンチャゴ周辺の北方に位置する優良なワイン産地となっている」旨主張する。甲第3号証には、確かに「アコンカグア」の記載はある。しかしながら、請求人が審判請求書において述べているように、本件商標「LEYDA」は、アコンカグアを構成する4地区のうちの一つであるサン・アントニオ渓谷における一地名に過ぎない。また、甲第3号証において、「アコンカグア」の記載が存在したとしても、「LEYDA」の記載は存在しない
そうとすれば、我が国の取引者・需要者が「アコンカグア」をワインの産地表示又は販売地表示として認識することはあっても、「LEYDA」を「ワイン」の産地又は販売地として認識することはないというべきである。
被請求人においても、我が国における多くの辞書、辞典及び酒類に関する書籍等を調査したが、そこに「LEYDA」に関する記載は発見できなかった(乙第1号証ないし乙第13号証)。
(4)甲第4号証ないし甲第7号証は、全てチリ国において発行されている雑誌等のスペイン語による記事であり、我が国の酒類の取引者・需要者の外国語、とりわけスペイン語の理解度を考慮すると、これらの記事の存在によって、「LEYDA」がその指定商品の産地又は販売地として、我が国の取引者・需要者において認識されているとは到底考えられない。
(5)以上のように、甲第1号証ないし甲第7号証によっては、本件査定時に、本件商標の指定商品である「ワイン」の取引者・需要者において、「Leyda」が産地名または販売地名として認識されていたことは証明されていない。

2.商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について
商標法第3条第1項第3号の該当性は、日本国内における取引者・需要者が、本件査定時において、本件商標「LEYDA」を産地表示として認識しているか否かにより判断されるべきである。
上述したように、本件査定時に、我が国の「ワイン」の取引者・需要者において、本件商標を産地表示と認識する特殊な事情は存在せず、請求人提出の甲第1号証ないし甲第7号証においては、我が国の取引者・需要者において、本件商標「LEYDA」がチリ国のぶどう酒の産地名として周知の事実となっていることは証明されていない。
なお、被請求人は、商標「LEYDA」について、我が国においてのみ商標登録出願を行っているわけではなく、アルゼンチン、オーストラリア、中国、コロンビア、スイス、ドミニカ共和国、韓国、メキシコ、台湾、ヨーロッパ共同体等、世界の数多くの国々で商標登録を有しており、更に、チリ国内において、その構成中に「LEYDA」の語を含む「VINA LEYDA」、「VALLE LEYDA」等の商標を登録している。
他国の商標法には、我が国の商標法とはその制度を異にするものがあるにしろ、世界各国における商標登録の存在は、本件商標が産地表示としてではなく、自他商品識別力を備えた商標として認識され、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しないとの被請求人の主張を補強するものである。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号の規定には該当しないというべきである。

3.商標法第4条第1項第7号について
商標法第4条第1項第7号の該当性については、査定時おいて判断されるが、本件査定時においては、チリ国にて「Valle de Leyda」は原産地名称として指定されていない。
我が国において商標登録出願した際に、既にチリ国において、原産地統制名称として指定されていたのであればともかく、両国共にWTOの加盟国であるとはいえ、法制度の異なる国において、単に原産地統制名称としての申請と商標登録出願を同時期に行っただけでは、商取引業界の秩序を乱しているとまでは考えられないものである。
本件商標権者が請求人の主張するような目論見をもっていたのであれば、商標法第4条第1項第17号の規定は、出願時に該当しないものには適用されないのであるから、本件商標登録出願を行った後すぐに、チリ国において、原産地統制名称としての申請を行っていたはずである。チリ国における原産地統制名称の申請が本件査定時と同時期であるからといって、それは偶然にすぎず、本件商標出願時から本件査定時まで期間を空けた理由が考えられない。
請求人は、甲第8号証としてチリ国農業省ブドウ園及びワイン局の局長による証明書を提出し、チリ国におけるワインの産地表示の申請者3名のうちの「Agricola Leyda Ltda.が本件商標権者と同一人であるとのことである」と主張しているが、請求人によって、この事実は何ら証明されておらず、単なる名称の類似性のみをもって、同一人と主張しているに過ぎない。請求人において、このような主張を行うのであれば真偽について明らかにされたい。
したがって、本件商標権者は、請求人の主張するような目論見を有していたとは言えず、この偶発的に生じた時期的接近から、本件商標権者の行為がチリワインの取引業界における取引秩序を乱し、正常な商慣習に反する行為である旨の請求人の主張は妥当ではない。
以上のことから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しないというべきである。

第4 当審の判断
1.商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について
本件商標は、前記のとおり、「LEYDA」の欧文字を標準文字で表したものであるところ、請求人は、本件商標はLeyda産のワインを表すものであり、当該ワインの産地名を表示したに過ぎないものである旨主張している。
そこで、請求人の提出に係る甲各号証をみるに、甲第1号証は、その出展は明らかではないが、Leyda渓谷の地図と認められるものであり、該地図中には「LEYDA」の名称が存在していることを認めることができる。
甲第2号証(2002年5月10日発行のチリ国の官報及びその訳文)によれば、「第1条:以下は、当国におけるブドウ栽培地区又は当国で栽培されるワインの原産地表示である。」と規定され、その第3項において、「アコンカグアぶどう栽培地区:この地区は第V地方からなり、アコンカグア渓谷、カサブランカ渓谷、サン・アントニオ渓谷及びキルペ区のマルガ・マルガ渓谷からなる。・・(中略)・・サン・アントニオ渓谷は、同名区及びサン・アントニオ区のレイダ渓谷(Valle de Leyda)からなる。」旨規定されている。
甲第3号証(株式会社講談社発行「世界の名酒事典」2000年版)によれば、「チリでのワインづくりの歴史は、16世紀にさかのぼる。・・ワイン用の高級品種が栽培されるようになったのは19世紀に入ってからで、以来、栽培面積は北へ南へと拡大していった。優良なワイン産地はサンチャゴ周辺の、北からアコンカグア、マイポ、ラペル、マウレなどの川の流域に広がっている。・・」旨記載されている。
甲第4号証ないし甲第7号証は、チリ国において発行されているスペイン語による雑誌等のインターネットにおけるウェブサイト記事のプリントアウト及びその抄訳と認められるものであるところ、甲第4号証(2001年11月8日付記事)によれば、「・・アコンカグアと称されるサン・アントニオ地方のレイダは、最近、チリのワイン醸造界において注目を集め始めている。サンチィアゴからソル街道で1時間半少々の距離にあるこの地域は、1998年からブドウの木が植えられ始めた。・・」旨記載されている。
甲第5号証(同年11月9日付記事)によれば、「レイダのブドウは太平洋の恵み。それは初収穫で確認された。/・・土壌については、黄色の粗粒砂土と粘土が主体であるが、南の地域は石くれが多い。ブドウの木の生育についてはまだ十分な経験がない(最初の収穫が2000年であり、まだ試行錯誤の段階である)ため、生産者達は土壌とブドウの間の関係を明確に把握できず、現在点滴方式で行っている灌漑の方法についても確定的なことが明らかになっていない。現時点では、フェルナンデスだけがボトリング(瓶詰め)を開始している。また、この地域にワイン倉庫(ボデガ)を建設しているのも彼だけである。・・」旨記載されている。
甲第6号証(2001年12月7日の記事)によれば、「我々は、このチリの新たなワイン地域の可能性に満ちた最初のワインを味わった。数週間前にプラネタ紙においてレイダを紹介した。レイダは、近年になってチリ国内で話題になっており、多くのブドウ酒醸造技術者が短期熟成種、即ち、芳香を凝縮し酸味を確保するために寒さが必要なブドウ種に適していると評価している地域である。・・(中略)・・レイダには4人のブドウ生産者が存在する。レイダについて最も“外交的”と思われるコンチャ・イ・トロスの醸造技術者マルセロ・パパが注目しているガルセスのサンタ・テレサ農園はレイダ地域の南端に位置している。コンチャ・イ・トロスは、ガルセスのブドウが今後どのような結果を出すのか明らかではないとしながらも、既にその有望性は確認したと語っている。2001年の収穫が極めて若いブドウ棚の最初のワインだったので、結論を出すのは末だ困難である。しかしながら、そこには見るべき証があったようだ。」旨記載されている。
甲第7号証(2000年12月26日付のチリ国ジャーナル誌「La Tercera」の記事)によれば、「ワイナリーの発見者パブロ・モランデが、第V地方の周辺において国内ワイン産業に最適な気候条件を発見した。彼はカサブランカに賭けた後、サンテイアゴ・ドミンゴへ向かう道沿いのレイダにその目を移した。・・(中略)・・彼の自信は単なる予感ではなく、湿度・気温・日照度の調査を通じた理論に基づくものであり、カサブランカ地域を新たなワイン生産の中心地にできるという信念を持っていた。“自然条件は、カリフォルニア沿岸地域のワイナリーに類似している”と彼は説明した。・・(中略)・・レイダ地域のワイナリーは、今度の3月にピノノアール、シャルドネ、ソビニオンブラン800トンを初出荷する。・・」旨記載されている。なお、甲第4号証ないし同第7号証は、いずれもスペイン語の記事であるが、英語版の同様の記事が甲第11号証ないし同第14号証として提出されている。
これらの甲各号証によれば、チリ国において、ワイン用の高級品種が栽培されるようになったのは、19世紀に入ってからのことであり、優良なワイン産地は、サンチャゴ周辺のアコンカグア、マイポ、ラペル、マウレなどの川の流域に広がっていること(甲第3号証)、2002年2月12日より、アコンカグア地区は、チリ国におけるぶどう栽培地区又はチリ国におけるワインの原産地表示として指定されたこと、アコンカグアぶどう栽培地区は、第V地方からなり、その中には、サン・アントニオ渓谷も入っており、サン・アントニオ渓谷は、同名区及びサン・アントニオ区のレイダ渓谷(Valle de Leyda)からなっていること(甲第2号証)、サン・アントニオ地方のレイダ地域は、1998年からブドウの木が植えられ始めたこと(甲第4号証)、最初の収穫が2000年であり、まだ試行錯誤の段階であって、2001年11月9日付記事の時点では、フェルナンデスだけがボトリング(瓶詰め)を開始しているだけであり、この地域にワイン倉庫(ボデガ)を建設しているのもフェルナンデスだけであること(甲第5号証)、レイダ地域のワイナリーは、記事の日付からみれば、2001年3月に、ピノノアール、シャルドネ、ソビニオンブラン800トンを初出荷したこと(甲第7号証)の各事実を認めることができる。
以上の事実に照らしてみれば、「LEYDA」の地名は、チリ国のLeyda渓谷の地図中に存在していることは認められるにしても、チリ国におけるぶどう栽培地区又はチリ国におけるワインの原産地表示として指定された正式名称は、「Valle de Leyda」(レイダ渓谷)であり、しかも、「Valle de Leyda」(レイダ渓谷)は、指定された「アコンカグアぶどう栽培地区」を構成する4地区のうちの一つであるサン・アントニオ渓谷における一地名にすぎないものである。加えて、チリ国における実情をみても、該「Valle de Leyda」(レイダ渓谷)地区において、実際にブドウの木が植えられ始めたは1998年であって、ワインが初出荷されたのは2001年3月であり、2001年11月頃に、該地区においてボトリング(瓶詰め)を開始し、ワイン倉庫を建設していたのは僅か一名にすぎない状況にあったものである。
そして、我が国における文献を徴するに、請求人の提出に係る甲第3号証(株式会社講談社発行「世界の名酒事典」2000年版)においては、「アコンカグア」の記載のあることは認められるが、「LEYDA」の記載は認められない。また、被請求人の提出に係る乙第1号証(岩波書店1998年発行「広辞苑」第5版)、乙第2号証(株式会社自由国民社2003年1月1日発行「現代用語の基礎知識」)、乙第3号証(朝日新聞社2003年1月1日発行「知恵蔵」)、乙第4号証(株式会社集英社2003年1月1日発行「情報・知識imidas2003」)、乙第5号証(株式会社集英社2003年1月1日発行「imidas2003別冊付録 世界情報アトラス」)、乙第6号証(株式会社三省堂1996年発行「コンサイスカタカナ語辞典」)、乙第7号証(株式会社三省堂1998年発行「コンサイス外国地名事典」第3版)、乙第8号証(株式会社三省堂1988年発行「カナで引く外国語辞典」)、乙第9号証(株式会社白水社1996年発行「西和辞典」)、乙第10号証(株式会社講談社1998年発行「’99年版世界の名酒事典」)、乙第11号証(株式会社講談社1999年発行「2000年版世界の名酒事典」)、乙第12号証(株式会社講談社2001年発行「2002年版世界の名酒事典」)及び乙第13号証(株式会社文芸春秋1991年発行「ワールドアトラス・オブ・ワイン」)のいずれの文献においても、「LEYDA/レイダ」に関する記載を見出すことはできない。
そうとすれば、「LEYDA」の地名がチリ国のLeyda渓谷の地図中に存在していることは認められるにしても、また、チリ国における文献の中には、「Valle de Leyda」(レイダ渓谷)を単に「LEYDA」と略称表記している場合もあることは窺えるとしても、本件商標の登録査定がなされた2001年12月17日当時においては、未だ、「アコンカグアぶどう栽培地区」がチリ国におけるぶどう栽培地区又はワインの原産地表示として指定されていた訳ではなく、しかも、指定された「アコンカグアぶどう栽培地区」に含まれている地区名の正式名称は、「Valle de Leyda」(レイダ渓谷)であり、加えて、該Leyda(レイダ)地区においては、ワインの生産が始まったばかりであることをも併せ考慮すれば、「LEYDA」の文字からなる地名は、我が国において一般的に知られていたものとはいい難く、また、ワインについての我が国の取引者・需要者間においても、本件商標の指定商品の産地あるいは販売地を表すものとして認識されていたものとは認められない。
したがって、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、商品の産地、販売地を表示するものではなく、また、これをその指定商品中のいかなる商品について使用しても、商品の品質について誤認を生じさせるものではない。

2.商標法第4条第1項第7号について
請求人は、被請求人の名称からみれば、被請求人はチリ国のLeydaに存するワイン業者であることは明白であり、「Leyda」がワインの産地表示に該当することを当然に知っていた者であり、しかも、「Leyda」のチリ国におけるぶどう酒の産地としての指定の申請は、被請求人を含む3名からなされたものであって、当該申請は、本件商標が登録査定となった時期と一致するものであることからみれば、本件商標の登録が確実となった時点で、Leydaのワイン産地表示としての指定を受けるよう画策し、「Leyda」の表示使用の独占を目論むものである旨主張している。
確かに、被請求人は、チリ国サンチャゴの法人であることからみれば、前記1.において認定したチリ国サンチャゴ周辺のワインについての事情を知っていたであろうことは推認し得るところである。
しかしながら、請求人の提出に係る甲第8号証(チリ国農業省ブドウ園及びワイン局の局長による証明書)によれば、「サン・アントニオ地区を構成するレイダ地域」を原産地表示に含めることを目的として申請をしたのは、「マックス コレア レカロス氏代表のアグリコーラ サン ペドロ イ サン パブロ」、「ルイ フェルナンデス エル 氏代表のアグリコーラ レイダ リミターダ」及び「マチアス ガルセス シルバ氏代表のソシエダード アグリコーラ サンタ テレサ リミターダ」の3名であると記載されているところ、この3名のうち、ソシエダード アグリコーラ サンタ テレサ リミターダが本件審判請求人の一名の名称と一致していることは確認できるが、他の2名のうち、少なくとも形式上、被請求人(本件商標権者)の名称と一致する者は見当たらない。
請求人は、「申請者3名のうち1名がAgricola Leyda Ltda.であって、これは、本件商標権者と同一人であるとのことである。」と述べているが、「Agricola Leyda Ltda.」が本件商標権者と同一人であるとする根拠が定かでなく、この点を主張する被請求人の答弁に対しても、請求人は何ら弁駁しておらず、この点を明らかにする証拠の提出もない。
そうとすれば、本件商標の出願・登録日と「Valle de Leyda」(レイダ渓谷)を含むアコンカグアぶどう栽培地区がチリ国におけるブドウ栽培地区又はチリ国で栽培されるワインの原産地表示として指定された日とが近接しているものであることは、請求人の主張のとおりであるとしても、請求人の提出に係る証拠のみをもってしては、被請求人において、正常な商慣習に反する行為があったものと判断することは困難であり、他に、これを裏付けるに足る証左もない。
してみれば、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ということはできない。

3.まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号及び同第7号に違反してされたものではないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2003-12-16 
結審通知日 2003-12-19 
審決日 2004-01-07 
出願番号 商願2001-32006(T2001-32006) 
審決分類 T 1 11・ 272- Y (Z33)
T 1 11・ 22- Y (Z33)
T 1 11・ 13- Y (Z33)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 高野 義三
茂木 静代
登録日 2002-01-25 
登録番号 商標登録第4539565号(T4539565) 
商標の称呼 レイダ 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 田中 克郎 
代理人 神林 恵美子 
代理人 神林 恵美子 

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