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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 124
管理番号 1085387 
審判番号 審判1998-30446 
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-11-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 1998-05-07 
確定日 2003-09-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第1419427号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 商標法第51条の規定により、登録第1419427号商標の登録は、取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1419427号に係る商標(以下「本件商標」という)は、別紙に表示するとおりの構成よりなり、昭和47年6月22日に登録出願、第24類「楽器、その他本類に属する商品」を指定商品として、同55年5月30日に登録されたものである。
第2 請求人の主張
1 請求の趣旨
結論同旨の審決
2 請求の理由
(1)登録商標の不正使用の事実
(ア)請求人は、米国カリフォルニア産のエレキギターの輸入及び販売を業とする者であるところ、被請求人より平成10年1月6日付の通知書を受け、被請求人が甲第1号証にかかる本件商標の商標権者であることを知った。
ところが、請求人において調査したところ、被請求人が現にエレキギターについて使用している商標は、甲第1号証にかかる本件商標の標章態様のものではなく、甲第2号証にかかる商品カタログ及び商品自体に示されているような標章態様の「M図形mosrite of California」であった。
しかも、請求人が米国カリフォルニア州ハリウッドから輸入しているエレキギターに使用されている標章は、商品カタログ(甲第3号証)及びその商品自体(甲第4号証)に示された標章態様からなるもので、これは、甲第2号証に示された標章と全く同一のロゴ態様のものである。甲第3号証及び甲第4号証に示した標章は、甲第5号証に示したカリフォルニア州政府長官発行の「商標登録証書(CERTIFICATE OF REGISTRATION OF TRADEMARK)」によって明らかなとおり、米国カリフォルニア州ハリウッド、ユッカ・ストリート6301 1/2のスガイ.ミュージカル・インストルメント・インコーポレーテッド(以下「スガイ社」という。)が商標権者であり、この会社が製造したエレキギターを、請求人である遊佐典之(楽器店名:フィルモア、武蔵野市中町1丁目19番8号)が独占的に輸入し、日本国内で販売している。
被請求人は、本件商標の標章態様とは同一のものではなく、「mosrite」に「of California」と付記して、あたかも米国のカリフォルニア産品であるかのごとき表示の自家工場製ギターを販売している。しかも、その付記したロゴも、請求人が前記スガイ社から輸入している「モズライト・ギター」に使用されている標章と全く同一のロゴをコピーして不正使用している。
(イ)「of California」のロゴは、ベンチャーズモデルと呼ばれる「モズライト・ギター」の歴史と共にある重要な表示で、後記するギター製作者のセミー・モズレー(Semie Moseley)によるものである。そして、「M図形mosrite of California」の標章表示は、セミー・モズレーが1952年にカリフォルニア州べーカーズフィールドに工房を開設し「モズライト・ギター」の製造を開始した時以来のものである。それを被請求人はセミー・モズレーが1992年8月に死去したことを境に、本件商標の標章に「of California」というセミー・モズレーの書した同一の筆記体表示を付記した態様で使用し始めたのである。
(ウ)甲第2号証に示されたカタログには「製造元ジャパンモズライト(有)」と表示、甲第6号証に示された保証書には「有限会社日本モズライト 長野県大町市宮田町5290」と表示されているから、顧客の中には我が国にモズライト社の日本法人があると容易に誤信し、全部品をノックダウン式で輸入し、長野県の工場で組み立てていると信じている者もいる。
このように、被請求人は、本件商標の商標権者であるにも拘わらず、故意に当該登録商標の標章と同一態様のものは使用せず、あえて「mosrite of California」という産地名を付記した類似態様の標章を使用し、その結果、そのエレキギターを請求人が輸入し販売している前記スガイ社製の「mosrite of California」の表示のある真正な「モズライト・ギター」と顧客をして誤認又は出所の混同を生じている。
(エ)したがって、被請求人の登録商標の不正使用による不正競争的行為は、商標法第51条第1項に該当する登録の取消事由となる行為である。
(2)「MOSRITE」ギターの由来
(ア)セミー・モズレー(Semie Moseley)は、1952年カリフォルニア州ベーカーズフィールドで宣教師のレイ・ボートライト(Ley Bootrite)の後援を得て独自のエレキギターの製作を開始するためモズライト社(Mosrite Inc.)を創立した。
因みに、モズライト社の名称とエレキギターの商標を「MOSRITE」と命名したのは、ギター製作者であるセミー・モズレーと前記後援者レイ・ボートライトの2人の名前を合体したのが由来である。そして、セミー・モズレーが製作したエレキギターには「Mマークmosrite of California」のロゴ商標が表示されていた。
(イ)一方、「ザ・ベンチャーズ(THE VENTURES)」は、1959年秋にボブ・ボーグル(Bob Bogle)とドン・ウィルソン(Don Wilson)が米国ワシントン州シアトルで結成したエレキギターによるロックンロールのグループで、1960年春にはベースギターのノーキー・エドワーズ(Nokie Edwards)とドラムのハウェー・ジョンソン(Howie Johnson)の2人が加わり、4人のグループが結成された。
1962年に「ザ・ベンチャーズ」のノーキー・エドワーズは、「モズライト・ギター」に出会い、使い始めた。1963年には3人全員が「モズライト」を使い始めたことから、「モズライト・ベンチャーズモデル」が誕生し、モズライト社は工場設備を拡張して大量生産に入った(1963年に年間200本、1964年に800本、1965年に1800本、1966年に2100本となった。)。1965年ザ・ベンチャーズは、来日公演し、エレキギターの威力とサウンドの魅力を日本人に与え、同時に彼らが手にしている「モズライト・ギター」への憧れを強固なものにした。
(ウ)1965年6月に我が国では飛鳥貿易株式会社が「モズライト・ギター」の輸入を開始した。
1968年5月には、モズライト社から生産ライセンスを取得したファーストマン楽器製造株式会社(大阪市西区清水町41番地、以下「ファーストマン社」という。)が生産を開始、最初の日本製「モズライト・ギター」が誕生した(その当時、被請求人は木部分の下請をしていた)。その後ファーストマン社は1969年7月に倒産した。
(エ)米国のモズライト社も1969年7月に1回目の倒産、1970年再建、1973年に2回目の倒産をした。1992年4月にアーカンソー州ブーンビルにセミー・モズレーの工場が建設された。
(オ)1992年5月30日請求人とユニファイド・サウンド・アソシエーション・インコーポレーテッド(Unified Sound Association Inc.以下「ユニファイド社」という。社長セミー・モズレー)は、請求人が「モズライト・ギター」の40周年記念モデルと同一品質のものの製造を依頼し、セミー・モズレー側からギター1本の単価、支払方法について要求があり、出荷スケジュールについての話し合いがなされ、相互に了解して口頭による契約を行った。
契約締結後の1992年5月31日に同工場で「モズライト・ギター」を1952年にカリフォルニアで製造開始して40周年経過したことから、40年記念モデルが製造された。しかし、1992年8月7日にセミー・モズレーは死亡した。ユニファイド社は、妻のロレッタ・モズレーが社長となったが、製造技術及び経営能力のなさから、1994年4月に倒産した。
(カ)その後、請求人は、1996年11月に米国カリフォルニア州で「mosrite of California」の登録商標(甲第5号証)を専有していた前記スガイ社に「モズライト・ギター」の製造を依頼し、これを輸入して販売している。なお、スガイ社とセミー・モズレー氏との間には取引関係はなかった。
(3)我が国における登録商標「mosrite」について
我が国における「mosrite」商標(第24類)については、次のとおりである。
▲1▼商標登録第736316号(甲第13号証)
商標「MOSRITE」
第24類「楽器、演奏補助品、その他本類に属する商品」
商標権者 米国カリフォルニア州ハリウッド市ベンチャーズ・モスライト・インコーポレーテッド
昭和40年(1965)5月8日出願
昭和42年(1967)3月20日設定登録
昭和52年(1977)3月20日存続期間満了
▲2▼商標登録第1419727号(甲第1号証、本件商標、商標及び指定商品は上記第1に記載のとおり。)
昭和47年(1972)6月22日出願、出願人:佐藤尚武(東京都大田区)
昭和52年(1977)6月16日出願人名義変更届 出願人:黒沢商事株式会社(東京都豊島区)
昭和52年9月28日出願人名義変更届 出願人:有限会社黒雲製作所(長野県大町市)
昭和53年(1978)12月25日商標登録異議申立
申立人:セミー・アーレン・モズレイ 米国カリフォルニア州ベーカースフィールド市
異議申立の結論:理由なし。
昭和55(1980)5月30日設定登録
平成2年(1990)6月27日更新登録
(4)むすび
以上の理由により、本件商標の商標権者である被請求人は「故意に」、指定商品「楽器(エレキギター)」について、登録商標に類似する商標「M図形mosrite of California」を使用して、顧客に対し、商品の品質「米国カリフォルニア産ギターの品質」の誤認を生ずる行為、又は他人の業務に係る商品「カリフォルニア州の生産者(スガイ社)と我が国におけるその独占的輸入販売者(本件請求人)のエレキギター」と混同を生ずる行為を現に行っている。したがって、本件商標は、商標法第51条第1項の規定を充足する商標となっているから、取り消されるべきである。
3 証拠方法
請求人は、審判請求書及び弁駁書に記載のとおり甲第1号証ないし甲第58号証(枝番号を含む。なお、甲第12号証は欠番。)を提出した。
第3 被請求人の答弁
1 答弁の趣旨
「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決
2 答弁の理由
(1)本件商標の取得
被請求人は、1968年(昭和43年)から現在に至るまで、本件商標を付したギターこれらの部品及び附属品を製造、販売している。その間の経緯は下記のとおりである。
(ア)大阪市所在のファーストマン社は、アメリカ合衆国カリフォルニア州ハリウッド市所在のベンチャーズ―モズライト・インクから本件商標のほかに商標「VENTURES」、商標「VENTURES‐MOSRITE」、及び「MOSRITE」の商標使用の許諾を得て日本でこれら商標を付したギターの製造、販売を開始した。
(イ)被請求人は、1968年ファーストマン社の下請として、本件商標を付したギターを製造し、これをファーストマン社に納め始めた。
ところが、被請求人が本件商標を付したギターを本格的に製造し始めて間もなくして、ファーストマン社が倒産、さらには、本家のベンチャーズ―モズライト・インクも倒産したため、被請求人は、売掛金の支払いを受けることができず、かつ、大量の在庫を抱えることとなった。
そこで、被請求人はやむなく、本件商標を付したギターの在庫の販売を続けたところ、これが好評であり注文が相次いだので、さらにこれらのギターの製造、販売を続けた。
(ウ)被請求人は、本件商標を付したギターの製造、販売を順調に伸ばしていたところ、突然、黒沢商事株式会社から、このままでは被請求人は本件商標の使用ができなくなる、ついては本件商標(出願中)を買い取られたき旨の通告を受けた。
被請求人は、本件商標をそれまで大切に育てて来たのに、今後これが使用できなくなっては、その営業に重大な支障をきたすことになるので、やむなく、1977年(昭和52年)9月に黒沢商事株式会社に多額の対価を支払いこれを買い取った。
当時、本件商標に類似する先登録の商標として商標登録第736316号の商標「MOSRITE」及び商標登録第736317号の商標「VENTURES―MOSRITE」が存在していた。この2つの商標は、いずれも、1967年(昭和42年)3月20日登録、アメリカ合衆国カリフォルニア州ハリウッド市ノースハイランド1215所在のベンチャーズ―モスライト・インクが所有するものであったが、更新登録されず、商標権は期間満了により消滅した。
(エ)本件商標は、上記のとおり登録障碍事由が解消したため、1980年(昭和55年)5月30日設定登録、その後商標権存続期間の更新登録がされ現在に至っている。
そして、甲第14号証(1990年(平成2年)2月2日の更新登録願書に添付した商品カタログ)によれば、1988年(昭和63年)、遅くとも1989年(平成1年)初め頃までには、被請求人は、本件商標のほかに「of California」の表示を、被請求人の販売するギター及びその商品カタログに使用していた事実が証明される。本件商標は、被請求人が所有登録するものとして日本における楽器業界及びその消費者間では周知となるに至っている。被請求人が本件商標を取得したことについては、商標法上全く問題はない。
(2)本件商標の使用
被請求人は、本件商標の登録前から、その指定商品であるギター及びその部品並びにこれらのパンフレット等に、本件商標を使用している。
被請求人の製造販売するギター及びそのパンフレット等には、本件商標の表示のほか「of California」と表示がされていることがあるが、本件商標の表示と「of California」の表示とにはかなりの間隔が置かれ、これらは一体のものとしては構成されておらず、かつ、本件商標の字体と「of California」の字体とは全く異なる。のみならず、「of California」のうち「California」は米国の一州の名称を極めてありふれた書体にて表示しているに過ぎない。
したがって、本件商標及び「of California」の表示に接する消費者が、本件商標と「of California」とを一体のものとして観念、称呼することはあり得ない。被請求人としては、「California」について商標権を主張する意図は全くない。
また、「California」は、いわゆる原産地として表示したものでもない。本件商標は、日本国において被請求人が所有登録するものとして周知となっているから、「of California」をみて、これがアメリカ合衆国のCalifornia州で製造販売されたものと誤信する者はいないからである。
被請求人は、前記(1)(エ)で述べたとおり1988年(昭和63年)までには、遅くとも1989年(平成1年)初め頃までには本件商標のほかに「of California」の表示を被請求人の製作販売するギター及びその商品パンフレットに使用したが、これはセミー・モズレーが製作した「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州で生まれたので、その出生地の地名をギター本体に飾りとして、セミー・モズレーが1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズ・モデル」といわれる「モズライト・ギター」に付記されているのと同一の書体にて添付してほしいとの被請求人の多数の顧客からの強い要望があり、付記するようになった。
現在の「モズライト・ギター」の愛好家は、「本物」の「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州において故セミー・モズレーらにより製作されたこと、故セミー・モズレーの製作した「本物」の「モズライト・ギター」は数千本しかこの世に存在せず、その中古品は極めて高額(1本百万円前後又はそれ以上)で日本国で取引されていること、被請求人の製作する「モズライト・ギター」が日本国の長野県で被請求人らの手によって製作されていることをよく知っており、「of California」の表示を看て、これが「アメリカ合衆国カリフォルニア原産」と誤認する者は皆無である。
(3)本件審判請求について
米国においては、1976年は、ビンテージギター(古い1940年代、1950年代、1960年代のギター)の第1期ブームであり、1976年8月請求人は初渡米し、米国のビンテージギターのブームに刺激を受けて帰国、その際「モズライト・ギター」を4本買ってきた。1980年代に入ると、毎月のように渡米して「モズライト・ギター」を買い付けて輸入し、これら「モズライト・ギター」を「フィルモア楽器店」で販売してきた。
ところが、これら中古のビンテージギターは、数に限りがあり、請求人の商売が先細りになるのは必至であった。そこで、請求人は米国のビンテージギターのショーで知り合ったセミー・モズレーに再び「モズライト・ギター」の製造を求め、これを請求人が輸入し、フィルモア楽器店で販売することを考えた。
1992年(平成4年)アメリカ合衆国アーカンソー州ブーンビルにセミー・モズレーらによってユニファイド社が設立、ここで製造され「Mマーク mosrite」商標が付され「of California」と付記表示された「モズライト・ギター」を請求人は、40周年記念モデルとし、限定40本として請求人の店で販売した。
1992年8月7日セミー・モズレー死去、1994年4月ユニファイド社が倒産したことから、請求人は、ここから「モズライト・ギター」を輸入することができなくなってしまった。
そこで、請求人は、急遽米国カリフォルニア州ハリウッド市所在の須貝邦夫が経営する店から、ニセ物の「モズライト・ギター」を輸入、これを本物の「モズライト・ギター」と称して、請求人の店で販売している。
なお、須貝邦夫が経営するスガイ社は、セミー・モズレーの存命中である1983年11月1日にアメリカ合衆国カリフォルニア州でセミー・モズレーらが1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズモデル」といわれる「モズライト・ギター」に付せられていたのと全く同一の商標「Mマーク mosrite of California」(書体は全く同一)を使用したとして、1983年11月16日アメリカ合衆国カリフォルニア州で商標「Mマーク mosrite of California」につき、商標登録(登録第71383号、更新登録失念のため、さらに1998年5月22日登録第103782号)を得た。
請求人が須貝邦夫らと組んでニセ物の米国カリフォルニア産の「モズライト・ギター」を日本国内で販売するのに障害となるのが、被請求人が登録所有する本件商標の商標権であり、これが登録取消審判に及んだものである。
現在、被請求人は、被請求人を原告とし請求人を被告とする本件商標権の侵害差止等請求訴訟を東京地方裁判所(平成10年(ワ)第11740号)に提起し、審理中である。しかし、被請求人が登録所有する本件商標権は、1980年(昭和55年)5月30日に登録となったが、これ以降も故セミー・モズレーらが製作した「本物」の中古の「モズライト・ギター」が米国から輸入され、日本国で販売されているが、被請求人は、これらに対して法的措置は講じてこなかった。
(4)むすび
被請求人は前述のとおり、本件商標をその指定商品の一つであるギターその部品及びその宣伝広告に正しく使用しているから、本件審判請求は理由がない。
3 証拠方法
被請求人は、答弁書に記載のとおり乙第1号証ないし乙第11号証(枝番号を含む。)を提出した。
第4 当審の判断
1 商標法第51条による取消審判について
商標法第51条による取消審判は、商標権者が故意に指定商品(指定役務)についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品(指定役務)に類似する商品(役務)についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用をして一般公衆を害したような場合についての制裁規定である。すなわち、商標権者が上記した商標の使用により商品の品質(役務の質)の誤認又は商品(役務)の出所の混同を生ずるおそれがあるものの使用を故意にしたとき、何人も本審判を請求することにより、商標登録を取り消すことができることとしたものである。この規定の趣旨は、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課すものである。
2 そこで、上記見地に立って、本件商標につき商標法第51条に定める商標登録を取り消す事由が存するか否かについて検討する。
当事者の主張の趣旨及び甲第7号証(「ザ・ベンチャーズ‐結成から現在まで」1995年(株)河出書房新社発行)、甲第8号証(ファーストマン楽器製造(株)1968年発行「mosrite」ギターの商品カタログ)、甲第13号証(商標登録第736316号商標公報)、乙第1号証(商標登録第736316号商標登録原簿)、甲第40号証(乙第4号証、月刊音楽専門誌「PLAYER」1992年8月号掲載の「モズライトギター」40周年記念モデルの広告)、甲第45号証(ユニファイド・サウンド・アソシエーション・インクの副社長からの1992年8月18日付文書、同文書添付の覚書)、甲第54号証(リュートミュージック・ムック第2号1993年3月10日発行、ファーストマン楽器製造株式会社社長森岡一夫氏へのインタビュー記事)によると、次の事実が認められる。
(1)「MOSRITE」ギターについて
(ア)セミー・モズレー(Semie Moseley)は、1952年カリフォルニア州ベーカーズフィールドで宣教師のレイ・ボートライト(Ley Bootrite)の後援を得て独自のエレキギターの製作を開始するためモズライト社(Mosrite Inc.)を創立した(因みに、モズライト社の名称とエレキギターの商標を「MOSRITE」と命名したのは、エレキギター製作者セミー・モズレーと前記後援者レイ・ボートライトの2人の名前を合体したのが由来である。)。
そして、セミー・モズレーが製作したエレキギターには「Mマークmosrite of California」のロゴ商標が表示されていた。
「of California」のロゴ(筆記体)は、エレキギター製作者セミー・モズレーによるもので、「Mマークmosrite of California」の標章表示は、セミー・モズレーが1952年にカリフォルニア州ベーカーズフィールドに工房を開設し「モズライト・ギター」の製造を開始した時以来のものである。
(イ)ところで、「ザ・ベンチャーズ(THE VENTURES)」は、1959年秋にボブ・ボーグル(Bob Bogle)とドン・ウィルソン(Don Wilson)が米国ワシントン州シアトルで結成したエレキギターによるロックンロールのグループで、1960年春にはベースギターのノーキー・エドワーズ(Nokie Edwards)とドラムのハウェー・ジョンソン(Howie Johnson)の2人が加わり、4人のグループが結成された。
1962年に「ザ・ベンチャーズ」のノーキー・エドワーズは、「モズライト・ギター」に出会い、使い始めた。1963年には3人全員が「モズライト」を使い始めたことから、「モズライト・ベンチャーズモデル」が誕生し、モズライト社は工場設備を拡張して大量生産に入った(1963年年間200本、1964年800本、1965年1800本、1966年2100本となった。)。1965年ザ・ベンチャーズは、来日公演し、エレキギターの威力とサウンドの魅力を日本人に与え、同時に彼らが手にしている「モズライト・ギター」への憧れを強固なものにした。
(ウ)そして、遅くとも1965年(昭和40年)には「Mマークmosrite of California」の標章表示したセミー・モズレー製作の「モズライト・ギター」は、エレキギターを取り扱う取引者、需要者に周知の標章となっていたものと認められる。
なお、我が国において、ベンチャーズモスライト・インク(米国カリフォルニア州ハリウッド市ノースランド1215)は、商標「MOSRITE」について第24類「楽器、演奏補助品、その他本類に属する商品」を指定して、1965年(昭和40年)5月8日登録出願し、当該商標は、1967年(昭和42年)3月20日商標登録第736316号として設定登録がされ、1977年(昭和52年)3月20日期間満了により消滅、1979年(昭和54年)9月10日その登録が抹消されている。
(エ)1965年6月に我が国では飛鳥貿易株式会社が「モズライト・ギター」の輸入を開始した。
1968年5月には、モズライト社から生産ライセンスを取得したファーストマン社が生産を開始、最初の日本製「モズライト・ギター」が誕生した(その当時、被請求人は木部分の下請をしていた)。その後ファーストマン社は1969年7月に倒産した。
(オ)米国のモズライト社も1969年7月に1回目の倒産、1970年再建、1973年に2回目の倒産をした。
1992年4月に米国アーカンソー州ブーンビルにセミー・モズレーらによってユニファイド社が設立された。
(カ)1992年5月30日請求人は、ユニファイド社(社長セミー・モズレー)に、「モズライト・ギター」の40周年記念モデル(「モズライト・ギター」を1952年にカリフォルニアで製造開始して40周年経過したことによる。)と同一品質のものの製造を依頼する契約を行った。
契約締結後の1992年5月31日に同工場で40年記念モデルを製造した。しかし、1992年8月7日にセミー・モズレーは死亡した。そして、ユニファイド社は、妻のロレッタ・モズレーが社長となったが、製造技術及び経営能力のなさから、1994年4月に倒産した。
(キ)なお、現在も故セミー・モズレーらにより製作されたビンテージギター(数千本程が存在する。)は、極めて高額(1本百万前後又はそれ以上)で日本国で取引されている。
(2)被請求人の本件商標取得の経緯
(ア)被請求人は、1968年ファーストマン社の下請として、本件商標を付したギターを製造、ファーストマン社に納めた。
ところが、被請求人が本件商標を付したギターを本格的に製造し始めて間もなくして、ファーストマン社が倒産、本家のベンチャーズ―モズライト・インクも倒産したため、被請求人は、売掛金の支払いを受けることができず、かつ、大量の在庫を抱えることとなった。
そこで、被請求人はやむなく、本件商標を付したギターの在庫の販売を続けたところ、これが好評であり注文が相次いだので、さらにこれらのギターの製造、販売を続けた。
(イ)被請求人は、本件商標を付したギターの製造、販売を順調に伸ばしていたところ、黒沢商事株式会社から、このままでは被請求人は本件商標の使用ができなくなる、ついては本件商標(出願中)を買い取られたき旨の通告を受けた。
被請求人は、今後これが使用できなくなっては、その営業に重大な支障をきたすことになるので、1977年(昭和52年)9月に黒沢商事株式会社より本件商標を買い取った。
当時、本件商標に類似する先登録の商標として商標登録第736316号の商標「MOSRITE」及び商標登録第736317号の商標「VENTURES―MOSRITE」が存在していた。この2つの商標は、いずれも、前記ベンチャーズ―モスライト・インクが所有するものであったが、更新登録されず、商標権は期間満了により消滅した。本件商標は、上記のとおり登録障碍事由が解消したため、1980年(昭和55年)5月30日設定登録、その後商標権存続期間の更新登録がされ現在に至っている。
以上のとおりであり、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
(3)本件商標
本件商標は、別紙に表示するとおり、左に、外周上に小さな突起のある黒塗りの円形内に白抜きで欧文宇の「M」を表示した図形を配し、その右に、「mosrite」の欧文字を横書きしてなるものである。
(4)被請求人の使用商標
被請求人の答弁書の記載及び甲第14号証(1990年(平成2年)2月2日の更新登録願書に添付した商品カタログ)、乙第5号証(1990年(平成2年)被請求人ら発行の商品パンフレット)、乙第6号証(1993年(平成5年)頃被請求人ら発行の商品パンフレット)、乙第7号証(1995年(平成7年)頃被請求人ら発行の商品パンフレット)、乙第8号証(被請求人ら発行の現在の商品パンフレット)によれば、被請求人は、1988年(昭和63年)遅くとも1989年(平成1年)初め頃までには、本件商標「Mマークmosrite」の表示のほかに「of California」の表示を付記し、乙第5号証ないし乙第7号証の商品カタログの下部には「ジャパンモズライト(有)」と記載して、被請求人の販売するエレキギター及びその商品カタログに使用し、現在も使用している事実が認められる。
そして、「of California」の表示を付記している点について、被請求人は、セミー・モズレーが製作した「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州で生まれたので、その出生地の地名をギター本体に飾りとして、セミー・モズレーが1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズ・モデル」といわれる「モズライト・ギター」に付記されているのと同一の書体にて添付してほしいとの被請求人の多数の顧客からの強い要望があり、付記するようになったと述べている。
以上の認定事実については、被請求人が自認するところである。
(5)商品の品質の誤認又は出所の混同
前記(1)(イ)及び(ウ)で認定したとおり「Mマークmosrite of California」の標章表示したセミー・モズレー製作の「モズライト・ギター」は、エレキギターを取り扱う取引者、需要者に周知の標章となっていたものである。
甲第16号証ないし甲第20号証、甲第27号証ないし甲第30号証、甲第32号証、甲第34号証、甲第37号証及び甲第38号証、甲第47号証(「モズライト・ギター」を購入した者の書簡)、甲第24号証(山田英雄が石橋楽器店に出したE・メール)及び甲第25号証(石橋楽器店が山田英雄に対して出したE・メールの返事)、甲第46号証(石橋楽器店のインターネットによる広告)、甲第48号証(インターネットのホームページに掲載された記事、発信者不明)によれば、エレキギターの取引者、需要者は、「Mマークmosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記した被請求人製作のエレキギターについて、「Mマークmosrite of California」の標章表示したセミー・モズレー製作の「モズライト・ギター」と同様の品質を有するものと誤認していること、しかも、乙第5号証ないし乙第7号証の商品カタログの下部には「ジャパンモズライト(有)」と表示され、セミー・モズレー製作の「モズライト・ギター」に関連する会社であるかのような表示がされていたこと、さらには前記(1)(キ)で認定したとおり、現在も故セミー・モズレーらにより製作された「Mマークmosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示が付記されたビンテージギターが我が国で取引されていることをも併せ考慮すると、「Mマークmosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記した被請求人製作のエレキギターは、セミー・モズレーが製作したエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ、又はセミー・モズレー若しくは同人と何らかの関連のある者が製作したものではないかと出所について混同を生じていたものといわなければならない。
そして、被請求人は、前記(4)で認定したとおり「Mマークmosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記したのは、セミー・モズレーが製作した「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州で生まれたので、その出生地の地名をギター本体に飾りとして、セミー・モズレーが1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズ・モデル」といわれる「モズライト・ギター」に付記されているのと同一の書体にて添付してほしいとの被請求人の多数の顧客からの強い要望があり、付記するようになったと述べていることから、被請求人が「of California」(筆記体)の表示した意図は、セミー・モズレーが製作したエレキギターに表示されていた「Mマークmosrite of California」の商標が周知のものであり、「of California」書体についてセミー・モズレーの筆記に倣って表示を行ったことは明らかである。そうすると、被請求人は、自己が製作したエレキギターに「of California」の表示をすることにより、商品の品質の誤認又は出所の混同が生ずるという結果について認識があったというべきであって、被請求人の上記行為については「故意」があったものといわざるを得ない。
してみれば、本件商標の商標権者である被請求人は、本件商標「Mマークmosrite」の表示に、故意に「of California」(筆記体)の表示を付記した本件商標に類似する商標を、その指定商品「エレキギター」について使用することにより、商品の品質について誤認を生じ、又は他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたものである。
3 被請求人は、「本件商標『Mマークmosrite』は、我が国において被請求人が所有登録するものとして周知となっているから、『of California』の表示を看て商品の品質について誤認を生ずることはない」旨主張する。
しかしながら、被請求人提出の証拠を精査するも、本件商標が被請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているに足りる証左は見出すことはできない。却って、甲第7号証によると、セミー・モズレーが製作した「モズライト・ギター」が前記した「ザ・ベンチャーズ」によりエレキギターの需要者の間に広く認識されるに至った事実が認められる。したがって、請求人の主張は採用できない。
また、証人椎野秀聰の証言によれば、「of California」の表示は、「カリフォルニア・サウンド」即ち「カリフォルニアの乾いた音」の意味合いに認識されている旨述べるが、一般に米国風の音楽において「California」の表示について証人の証言のような意味合いがあるとしても、被請求人は、セミー・モズレーが製作した「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州で生まれたので、その出生地の地名をギター本体に飾りとして、セミー・モズレーが1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズ・モデル」といわれる「モズライト・ギター」に付記されているのと同一の書体にて添付してほしいとの被請求人の多数の顧客からの強い要望があり、付記するようになったと述べていることからすると、エレキギターに「Mマークmosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記した本件の場合においては、前記2(5)で認定したとおりセミー・モズレーの筆記に倣って表示を行ったものであって、これに反する証人椎野秀聰の証言は、採用することはできない。
4 結び
以上のとおりであって、本件商標の商標権者である被請求人が故意に本件商標に類似する商標を使用し、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたものであるから、商標法第51条第1項の規定により、本件商標の登録は、取消を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
(審理終結の日 平成11年8月23日)
別掲 【別記】


審理終結日 1999-08-23 
結審通知日 1999-09-14 
審決日 1999-09-08 
出願番号 商願昭47-85444 
審決分類 T 1 31・ 3- Z (124)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鹿谷 俊夫 
特許庁審判長 廣田 米男
特許庁審判官 小林 和男
小池 隆
登録日 1980-05-30 
登録番号 商標登録第1419427号(T1419427) 
商標の称呼 1=モスライト 
代理人 牛木 理一 
代理人 市東 譲吉 

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