ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない 032 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 032 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない 032 |
---|---|
管理番号 | 1083698 |
審判番号 | 無効2001-35124 |
総通号数 | 46 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2003-10-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-03-29 |
確定日 | 2003-09-13 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第3371385号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.本件商標 本件登録第3371385号商標(以下「本件商標」という。)は、1995年4月6日チェッコ共和国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、平成7年4月25日に登録出願され、別掲に示すとおりの構成よりなり、第32類「ビール」を指定商品として、平成12年11月2日に設定登録されたものである。 第2.請求人の主張 請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第27号証(枝番号を含む。)を提出した。 本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。以下にその理由を述べる。 1.「Budweiser」ブランドの周知著名性 請求人は甲第1号証(英和商品名辞典)及び甲第2号証(世界の名酒辞典’87-’88年版)に示す通り、世界最大のビール会社である。同社は、数々のブランドのビールを製造販売しているが、中でも飛び抜けた市場占有率を誇っているのが「Budweiser」ブランドである。「Budweiser」は、米国でのビールの市場占有率第一位のビールブランドであり、米国市場の約48%強のシェアを有している。 1876年までに製造開始された「Budweiser」は、甲第3号証(英和商品名辞典)に示す通り、米国で最初に全国的に販売を始めたビ一ルであって、初めてボトル詰め販売方式が採用されたビールでもあった。 請求人は、「Budweiser」により、1890年代には、早くも世界で最も有名なビール醸造会社となった。 そして、その後長年にわたり、「Budweiser」の名前は、請求人の販売に係るビールのブランド名として、世界的に認知されている。これは例えば、甲第4号証として提出する各種の辞書の記載「Budweiser:米国の代表的なビールの名前」等からも明らかである。 我が国でも、第二次世界大戦後に「Budweiser」ビールが大量に国内にもたらされ、その後も例えば代理店、カツミ商会を通じて「Budweiser」ビールは輸入されていた(甲第5号証)。そして、同ビールは、1981年にサントリー株式会社が輸入代理店となると、本格的且つ大々的に輸入され、急速に我が国の一般のビール愛好家の間に浸透していった。 甲第6号証として提出する日本実業出版社発行による「商品・ブランド地図」にも、「海外ブランドとしては圧倒的な知名度で日本市場での主役を務めることになる。」と説明されており、また、その説明の正しさは、92年度実績の輸入ビールランキングで堂々の1位を占めていることからも、端的に裏付けられている。 無論、請求人はその重要ブランドである「Budweiser」の保護のために、甲第17号証に示す通り、世界中100カ国以上でその商標登録を取得している。したがって、「Budweiser」のブランドが、請求人のビールの商標として、本件商標の出願日前より、既に取引者及び需要者間で周知著名であったことは明白である。 2.「Bud」ブランドの周知著名性 上記「Budweiser」ビールブランドを擁する請求人会社は、また、「Bud」(バド)のブランドも用いており、これも「Budweiser」ブランド同様に我が国一般需要者に浸透している。これは甲第13号証として提出するランダムハウス英和大辞典の「Bud=Budweiser」という記載や甲第4号証の3からも明白である。 この「Bud」のブランドは、上記「Budweiser」ビールの別名であるほかに、甲第10号証に示す通り「Bud Light」等のように、請求人会社が提供するビールの人気ブランド名としても認知されている。 そして、「Bud」のブランドは、単独で使用される場合の他、甲第7号証、甲第12号証及び甲第13号証に示すとおり、例えば「BIG BUD」、「Bud Summer」等の様に用いられる場合があるが、こうした広告文の使用例のいずれにおいても「Bud」の文字を要部として当該広告文が認識されていることは明らかである。 したがって、「Bud」のブランドが、請求人のビールの商標として、本件商標の出願日前より、既に世界各国及び我が国において取引者及び需要者間で周知著名であったことは明白である。 3.本件商標と「Budweiser」「Bud」との類似および誤認混同のおそれ (1)本件商標の構成は別掲の通りであるところ、チェコ語である「Budejovicky」の欧文字(なお、「e」の文字の上に「`」と「y」の文字の上に「´」の記号がそれぞれ付されているが、以下省略する。)と「Budvar」の欧文字が二段に筆記体風に中央に表示されている。しかしながら、これらの二語は、大きさが相違する等、その構成上一体的に認識することは困難であるため、それぞれが独立して認識される場合が多いと考えられる。そしていずれの語も冒頭に「Bud」の文字を含むものであり、「B」のみが大文字で強調され、特に上段の「Bud」の文字の下には「ejovicky」の部分に較べて太いアンダーラインが引かれており、本件商標は、冒頭の「Bud」の欧文字部分が注目されるようにデザインされているというべきである。 そして、これらの語が日本人にとって判読音読が困難なチェコ語であることとも相まって、これらの語は冒頭の「Bud」の欧文字部分に相応して「バド何とか」の様に称されることが多いとみるのが自然である。そうした場合には、上述の「Budweiser」及び「Bud」ブランドが我が国需要者間に深く浸透している周知著名な商標であることから、必然的に「Budweiser」又は「Bud」ブランドが想起される結果となる。 (2)また、チェコ語を判読し得る需要者であれば、本件商標の要部とも言える「Budejovicky」の欧文字部分が「Budweiser」のチェコ語表記であることを理解する。したがって、被請求人の「Budejovicky」は、請求人の周知著名な「Budweiser」ブランドとの混同を生じさせる類似したものであることは否定できないものである。 (3)したがって、チェコ語を判読音読できない一般的な需要者にとっては、本件商標は「バド何とか」の様に認識されるので、「バド」の発音を共通とする請求人の「Budweiser」及び「Bud」商標と称呼上相紛らわしいものであり、チェコ語を知っている需要者にとっては、同一の都市名を意味する本件商標と「Budweiser」及び「Bud」商標とは観念において相紛らわしい類似の商標と言わざるを得ない。これは、被請求人自身が世界各国で主張していることである。 (4)なお、世界各国において、「Budejovicky」と「Budweiser」または「BUD」との類似が認定されている。一例を挙げれば、スペインの特許商標庁は、1999年5月の決定において、「Budejovicky Budvar」と「Budweiser」および「BUD」とは混同を生じせしめる程度に類似していると認定し、被告ブドバーの登録出願を拒絶している(甲第22号証)。 (5)そして、本件商標を付したビールと請求人との関係について、現実に誤認混同が生じていることは紛れもない事実である。たとえば、本件商標を付したビールを提供するビア・レストランであるCERVEZA(東京都港区六本木)のウェブサイトには、「あのバドワイザーの元祖」とコメントが記されている(甲第23号証)。ここにいう「バドワイザー」とは、明らかに請求人の世界的に周知・著名なビールを指し示しており、本件商標を付したビールが請求人のビールの「元祖」であるという誤認混同が生じてしまっているのである。 (6)以上のとおり、本件商標は、請求人の周知著名な商標と相紛らわしいものであり、しかも請求人の商品と全く同一である指定商品「ビール」に使用されるものであるから、本件商標が付されたビールに接した需要者は、当該ビールが恰も請求人又はこれに関連する者の業務に係る商品であるかのごとく誤認することになり、本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同第15号の規定に該当することは明らかである。 4.不正の目的による使用 本件商標は、世界的に周知著名な請求人の「Budweiser」及び「Bud」商標の著名性にただ乗りせんとする不正の目的を持って使用されるものであって、商標法第4条第1項第19号の規定にも該当するものであるので、その理由を以下に詳述する。 世界中で、長年にわたり、「Budweiser」の名前は、請求人の販売に係るビールのブランド名としてのみ、一般的に認知されている。 被請求人(の前身)は、それ自身、1911年になした一方的な宣誓供述書(甲第26号証)において、「Budweiser」が請求人(の前身)のビールを意味することを認め、請求人(の前身)が米国のみならず欧州以外の各国において「Budweiser」を使用する権利を有することを認めていた。さらに、被請求人(の前身)は、それ自身、1939年の請求人との契約(甲第27号証)において、請求人(の前身)が世界で初めて「Budweiser」を商標または商号として使用したものであることを確認し、被請求人(の前身)は北米、中米、サモア、フィリピンでは「Budweiser」のみならず「Bud」との結合を含む全ての商標をも使用することが許されないことを認めていた。 本件商標の登録出願は1995年になされたものであるが、それは街の名称としての「Budweis」の使用が完全に廃止されてから約50年も経過した後のことである。したがって、被請求人が「Budweiser」や単なる「Budejovice」のみを使用することには、何ら合理的な理由は認められない。 よって、被請求人が偶々「Ceske Budejovice」に設立され、1967年に「Budejovicky Budvar」の商号を採用したという事実は、請求人の世界的に周知著名な「Budweiser」及び「Bud」の著名性を利用せんという被請求人の不正の意図を推定させるものでこそあれ、何ら否定するものではない。 本件商標は、商品のビールのラベルとして使用する商標であることは、その構成態様からして明らかであるが、実際の使用状況では、甲第20号証として提出する商標権者の商品写真に示す通り、ビールラベルの下方に「Budweiser Budvar」の文字が赤地に白抜きでくっきりと明瞭に表されている。また、当該商品のラベルの上方には「金賞:100%モルト・チェコのオリジナルのバドワイザー」と書かれたシールが貼り付けられている。言うまでもなく「Budweiser」は請求人の世界的に周知著名な商標「Budweiser」と同一のものであり、また「バドワイザー」はその「Budweiser」の読みに相当する言葉である。 このように、本件商標は、殊更、請求人の著名商標である「Budweiser」を想起させるような態様で使用されているものであり、これに接した需要者は当然に当該商品が請求人又はその関連会社がチェコ国向けに出荷した商品又はチェコ国内で生産した商品が何らかのルートによって日本に入ってきたものと誤解し、請求人の「Budweiser」のチェコ版ビールを試してみようという発想で当該商品を購入することになる。 以上のとおり、本件商標は、請求人の業務に係るビールを表示するものとして日本国内及び世界中で広く認識されている商標と類似の商標であって、請求人商標の著名性を利用せんという不正の目的をもって現に使用されているものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当するものである。 5.結論 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に該当することは明らかであるから、商標法第46条第1項1号によりその登録は無効とされるべきものである。よって、請求の趣旨の通りの審決を求めるものである。 第3.被請求人の主張 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第31号証(枝番号を含む。)を提出した。 本件商標が、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号の規定に該当するものであるとの点は否認ないし争う。本件商標に無効事由は存在しない。 1.請求の理由第1項のうち、請求人が「Budweiser」という商標のビールを製造販売している米国法人であることは認め、請求人が日本を含む世界のビール市場において大きなシェアを占めていること、及び、世界最大の生産量を誇っていることは不知。また、「Budwiser」ブランドの周知著名性については、争う。請求人自身が、証拠として提出した、甲第3号証(研究社発行「英和商品名辞典」)中、「Budweiser」に関する記載中でも、「命名は、同ビールの醸造法(Krausening法)が生まれたBohemiaの街Budweisに因み、同地産のビールがBudweiserと呼ばれていた。」との説明がある。このように、請求人が、Budweiserの商標の周知性を主張するのであれば、19世紀の後半に、請求人が、Budweiserの名称使用をはじめたときに、すでに、Budweisの名称が知れ渡っていたことを考慮するべきである。 2.請求の理由第2項の「Bud」ブランドの周知著名性については争う。 3.請求の理由第3項の「本件商標と「Budwiser」「Bud」との類似及び誤認混同のおそれ」に対する反論 請求人の(1)ないし(3)の主張について反論する。以下の番号は、請求人の付した番号に符合している。 被請求人の商標は、「Budejovicky Budvar」という一体となった用語であり、この2つの語が、一つのコンビネーションとなって、他と識別可能な出所表示機能を構成している。請求人の主張するように、無理に、これを「Budejovicky」 と「Budvar」の2語に分離したり、「Bud」と「ejovicky」、「Bud」と「var」とに、それぞれ、分離して称呼、観念しなければならない特段の事由が在するものとも認められない。むしろ「Budejovicky Budvar」の全体をもって、被請求人の商号の一部を表したとみるのが相当である。 請求の理由第3項(1)(2)(3)に記載の事実には、数多くの誤りが見られるので次に主張する。 「ブドワイスないしバドワイス(Budweis)」は、現在チェコ語による正式名称が「チェスケー ブジェョビツェ(CeskeBudejovice)」というボヘミヤ地方に存在する町のドイツ語の名称である。 ドイツ語の文法では、名詞の末尾に「‐er」を付けることによって、地名についての形容詞となる。すなわち、「Budweiser」は、「Budweis の[もの]又は[人]」を意味する形容詞である。また、「Budvar」は、「バドワイスの醸造所(Budweiser Brewery)」という意味のチェコ語である「Budejovicky pivovar」という言葉の最初の3文字Budと最後の3文字varを組み合わせた造語である。「Budejovicky」とは、チェコ語で「Budejoviceの[何か]又は[誰か]」という意味の形容詞であり、「pivovar」は、チェコ語で「醸造所」という意味である。 特許庁は、平成12年9月28日、被請求人の商標登録出願(平成7-40809)にかかる「Budejovicky Budvar」の商標について、一旦、請求人の異議を認めて出願を拒絶したが、その査定を取り消し、平成12年9月28日、次のとおり審決している(平成10年審決第19765号)(乙第2号証)。 「本願商標は、(中略)全体をもって、請求人(出願人)の商号の一部を表したとみるのが相当である。 そうとすれば、本願商標は、バデジョビッキーバドバー、ブジェョビキブドバールの一連の称呼のみを生じさせる商標と認められるものである。 他方、登録異議申立人が引用する商標は、「Budweiser」の文字よりなる商標(以下「引用A商標」という。)と「Bud」(以下「引用B商標」という。)の文字よりなる商標であるところ、引用A商標は「バドワイザー」の称呼を、引用B商標は、「バド」の称呼を生ずるものである。 (中略)したがって、本願商標をその指定商品について使用しても、引用A,B商標を連想、想起したり、該商品が申立人又は同人と組織的・経済的に何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがないものであるから、本願商標を商標法第4条第1項第15号に該当するものとして拒絶した原査定は、妥当でなく取り消しを免れない。」、この審決は、正当に本件商標を評価しており、極めて妥当なものである。 また3.(4)で請求人は、世界各国において、「Budejovicky」と「Budweiser」または「Bud」との類似の認定がなされていると主張するが、後述するように、請求人と被請求人とは、世界各国で商標登録に関して紛争を生じているのであり、たまたま請求人に有利な1例を取りだしてそれがすべてであるというのは、誤りである。 各国の裁判例でも、「Budejovicky Budvar」と「Budweiser」との商標については、お互いに混同を生じないとの判決が出されている。 さらに3.(5)で請求人は、本件商標を付したビールと請求人との関係について、現実に誤認混同が生じている実例として、「(前略)バドワイザー”とは、請求人のビールを指しており、本件商標を付したビールが、請求人のビールの“元祖”であるという誤認混同が生じているのである。」と主張する。しかし、後述するように、歴史的にみて、請求人が、19世紀の後半に、当時ボヘミア地方の、現在チェコ共和国にある、700年のビール醸造の歴史を有するチェスケー ブジェョビツェのドイツ名称でありBudweisの名称を自己の製造するビールに採用したことに根本原因があり、まさに、「元祖」という指摘は正しい記載である。そこに誤認混同を生じているのでなく、むしろ、請求人の製造する「アメリカ」のビールと「チェコのバドワイスで製造した本件商標を付した」ビールを日本における販売店が、事実を正しく認識しており、決して、両方のビールを混同していないことの証左というべきである。 上述のように、請求人が証拠として提出した、甲第3号証(研究社発行「英和商品名辞典」)中、「Budweiser」に関する記載中でも、「命名は、同ビールの醸造法(Frausening法)が生まれたBohemiaの街Budweisに因み、同地産のビールがBudweiserと呼ばれていた。」との説明がある。さらに、甲第8号証(日本実業出版社発行「一目で分かる商品・ブランド地図」)中の記載でも、「淡色ビールの故郷チョコスロバキアのブドワイゼにちなんで命名された」との説明がある。 そしてまた、3.(6)で請求人は、本件商標が、請求人の商標と相紛らわしいものであり、当該ビールが、請求人またはこれに関連するものの業務にかかる商品であるかのごとく、誤認をもたらすと主張するが、これは、全く根拠のないものであり、本件商標が、商標法第4条第1項第10号、及び同第15号に該当しないものであることは、以下で述べる、被請求人が、「BudejovickyBudvar」の商標を使用したことの歴史的背景からも明らかである。 結論として、歴史的背景及び両者間の紛争の歴史を勘案した上で検討した場合、「Budejovicky Budvar」という商標は、1911年および1939年の合意内容を踏まえて、請求人が登録した「Budweiser」「Bud」という商標と区別して、被請求人によって商標登録がなされたものであり、その商標である「BudejovickyBudvar」は、一体として表現されたものであり、請求人が登録した「Budweiser」または「Bud」という商標と比較して、その発音および外観において著しく相違しており、「Budejovicky Budvar」が、「Budweiser」または「Bud」と混同を生じないと主張するものである。 4.請求人の主張する「不正目的による使用」に対する反論 請求人は、本件商標が、請求人の「Budweiser」及び「Bud」商標の著名性にただ乗りしようとする不正目的をもって使用されるもので、商標法第4条第1項第19号の規定に該当すると主張するが、被請求人はこのような主張を到底認めることができないものである。以下理由を述べる。 請求人の前身会社の創始者であるアドルフ ブッシュ氏の証言結果からも明らかなように、ブッシュ氏は、そのバドワイザーの名称を付したビールの製造の当初から、ボヘミヤ地方の製造方法を採用し、アメリカの産物ではないSaazer産ホップとボヘミヤ産の大麦を使用して、バドワイズまたはボヘミア地方で当時製造されていたビールに品質、色、香り、味の点で似ているビールを醸造していたということである。したがって、本来ビールの産地を表示する名称であるバドワイスのビールに因んで、バドワイザーと言う名称を付けたものであり、自らが借用した名称の原産地の名称を使用し、しかも、チェコ語の表現を使用した「Budejovicky Budvar」という被請求人の商標を不正目的といわれる筋合いはない。 なお、請求人が甲第20号証に関して指摘する「Budweiser Budvar」の文字は、あくまで、他の商標の使用と異なり、被請求人の商号の表示を指摘している。同表示は、ラベルの下に小さく、「BREWED AND BOTTLED BY THE BREWERY BUDWEISER BUDVAR,(以下省略)」として記載されており、醸造者の商号の表示としての機能を有している。当該文字が、商標としての使用か、商号の使用かは明確に区別されるべきである。 以上の通り、本件商標は、「BudejovickyBudvar」であり、その読み方は、ブデジョビッキー ブドバーないし、バデジョビッキーブドバーなどとなり、称呼、外観及び観念上相紛れるおそれのない非類似の商標と認められるものである。そのために、「Budweiser」とは区別した「Budejovicky Budvar」を使用しているのである。以上の事実経過から判断して、被請求人が不正目的をもって本件商標を使用しているとは到底言えないものであるから、商標法第4条第1項第19号の規定には該当しない。 5.結論 以上の記述より、本件商標が、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び第19号には該当しないことは、明らかであり、本件無効審判の請求は、速やかに棄却されるべきである。 第4.当審の判断 1.商標法第4条第1項第10号該当について 本件商標は、別掲に示すとおりの構成よりなるものであるところ、その構成に係る「Budejovicky」及び「Budvar」の欧文字は、肉太の線で表された正四角形の枠内の中心部分に顕著に、かつ、同じ書体でまとまりよく一体的に表されており、殊更、これを「BudejovickY」と「Budvar」、「Bud」と「ejovicky」又は「Bud」と「var」とに、それぞれ分離して称呼、観念しなければならない特段の事由が存するものとは認められないものであり、むしろ、該正四角形内に書された文字全体をもって、被請求人(商標権者)の商号の一部を表したものとみるのが相当である。 そうとすれば、本件商標は、該「BudejovickY」と「Budvar」の文字に相応して、「バデジョビッキーバドバー」又は「ブジェヨビキブドバール」の一連の称呼のみを生ずる商標と認められるものである。 他方、請求人が引用する商標は、「Budweiser」の文字よりなる商標(以下「引用商標1」という。)及び「Bud」(以下「引用商標2」という。)の文字よりなる商標であるところ、引用商標1からは「バドワイザー」の称呼を、引用商標2からは「バド」の称呼を生ずるものと認められる。 しかして、本件商標より生ずる「バデジョビッキーバドバー」、「ブジェヨビキブドバール」の称呼と引用商標1より生ずる「バドワイザー」及び引用商標2より生ずる「バド」の各称呼は、その音構成、構成音数が著しく相違するものであるから、称呼上、明らかに区別し得るものである。 また、本件商標と引用各商標は、前記のとおりの構成よりなるものであるから、外観においては、十分に区別し得る差異を有するものであり、観念においても、相紛れるおそれのないものである。 してみれば、本件商標と引用商標1及び引用商標2は、その称呼、外観及び観念において類似する商標ということはできない。 2.商標法第4条第1項第15号該当について 請求人は、引用商標1及び引用商標2が請求人の業務に係る商品「ビール」の商標として、本件商標登録出願前に、取引者、需要者の間で広く認識されている旨主張、立証しているが、提出に係る甲号各証によれば、引用商標1については周知、著名性が認められるとしても、引用商標2については、これが請求人の業務に係る商品「ビ一ル」の商標として、本件商標の出願時に、需要者の間で広く認識されていたことを証明する証拠としては不十分なものといわざるを得ない。 加えて、本件商標は、前記1.のとおりであって、請求人の引用各商標とは何ら相紛れるおそれのない別異の商標といえるものであるから、本件商標をその指定商品について使用しても、引用商標1及び引用商標2を連想・想起させるものではないと判断するのが相当である。 したがって、本件商標をその指定商品に使用した場合、その商品が請求人又は同人と組織的又は経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれのないものである。 3.商標法第4条第1項第19号該当について 本件商標と引用各商標が類似せず別異の商標であることは、前記1.及び前記2.で述べたとおりである。 そして、本件商標を構成する「Budejovicky」の文字は、チェコ語(形容詞)と認められ、また「Budvar」の文字は、被請求人(商標権者)の創造に係る造語といえるものであるから、本件商標権者が本件商標を採択し出願した行為に、請求人の業務に係る商品に使用する商標の出所表示機能を希釈化させたり又はその名声を毀損させるなど不正の意図があったものとは認められない。 4.むすび したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定によってその登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲(本件商標) |
審理終結日 | 2002-05-20 |
結審通知日 | 2002-05-23 |
審決日 | 2002-06-04 |
出願番号 | 商願平7-40809 |
審決分類 |
T
1
11・
271-
Y
(032)
T 1 11・ 222- Y (032) T 1 11・ 25- Y (032) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 木村 幸一、小林 薫 |
特許庁審判長 |
三浦 芳夫 |
特許庁審判官 |
柳原 雪身 小林 和男 |
登録日 | 2000-11-02 |
登録番号 | 商標登録第3371385号(T3371385) |
商標の称呼 | バデジョビッキーバドバー、ブジェヨビキブドバール |
代理人 | 古田 啓昌 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 神林 恵美子 |
代理人 | 田島 壽 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 勝部 哲雄 |
代理人 | 鼎 博之 |
代理人 | 二関 辰郎 |
代理人 | 北沢 義博 |
代理人 | 宇井 正一 |