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審決分類 審判 全部無効 審理一般(別表) 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z30
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z30
管理番号 1083491 
審判番号 無効2001-35295 
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-07-05 
確定日 2003-08-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第4240097号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4240097号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4240097号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成9年9月17日に登録出願、第30類「うどんのめん」を指定商品として、平成11年2月12日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第23号証を提出している。
1 裁判所の決定等の経緯
請求人は、2001年(平成13年)7月3日付作成の陳述書である甲第10号証で本件商標の使用と所持を裁判所に禁止された経緯等について、概略以下のとおり述べている。
(1)被請求人及び請求人について
被請求人の前身である有限会社富田乾麺工場(後に「株式会社富田乾麺工場」となる。その経営者を以下「A」という。)は、昭和41年当時、高松市で小規模な乾麺製造業を営んでいたが、後発の業者だったので地元の香川県内に販売市場を持たず、独自のブランドも持っていなかった。
請求人である株式会社クレナイ商事(旧商号「株式会社紅商事」。その創業者を以下「B」という。)は、被請求人の生産する乾麺を卸売りする会社として昭和42年に設立された。
(2)「讃岐金刀比羅シリーズ」などの商標の誕生
Bは、当時の被請求人の製麺装置を工夫して、味の良い乾麺を製造できるようにしたうえで、「新たな乾麺のブランド」を創作して販売することとし、当時あまり一般には知られていなかった「讃岐」の地名を初めて乾麺に採用し、神社名の「金刀比羅」も採用して「讃岐金刀比羅シリーズ」の商標を作った。商標の上下と中央に配した帯には、それまで乾麺には使われたことがなかった深みのある色彩を用いた。金刀比羅宮の旭社の絵を自ら筆で描いて中央下部に配し、Aが考案したマーク「冨士と」(フジヤマと「と」)をBがリファインして商標の上部に配し、下部に被請求人の社名と所在地を記載し、裏面にBの書いた能書きを掲載しAの名前を入れた。
(3)総代理店委嘱・売買契約の締結
新聞による広告もあって、東京で「讃岐金刀比羅シリーズ」などの製品は大ヒットし、「讃岐」の名も徐々に知られるようになり、製造能力も5〜7倍の新工場を建設することになった。そして、被請求人の全ての製品は請求人を通じて販売することとなり、被請求人と請求人との間で「総代理店委嘱・売買契約」(甲第1号証)を締結した。
(4)麺製造装置に関する契約の締結
Bは、被請求人が新工場を建設するに当り新しい製麺技術を開発して無償で被請求人に提供し、新工場は新しい製麺技術と装置によるものとなり、新工場で生産された製品は大きな評価を得た。この成功を受けて、被請求人と請求人間で請求人が提供した技術の使用に関する「麺製造装置に関する契約」(甲第2号証)を締結した。
(5)被請求人が「金刀比羅」及び代表的な商品5点を商標登録
昭和60年にAが第一線を退いた後、Aの夫人(以下「C」という。)とその子供(以下「D」という。)は、契約に反する裏販売や契約が禁じている別会社を作っての販売等請求人の販路を奪いとり業績を悪化させ、被請求人に大きな利益を挙げるように画策した。
被請求人は、Aが考案しBがリファインしたマーク「冨士と」(フジヤマと「と」)と「金刀比羅」の名称を被請求人の名で商標登録し、また直接販売を開始するに先立って代表的な商品5点を選び、商標中の請求人(発売元クレナイ商事)の表示を塗りつぶして商標登録した。
(6)契約に反する裏販売等の阻止のための裁判所の決定
請求人は、被請求人の契約に反する行為を中止させることを求めた仮処分を高松地方裁判所(以下「高松地裁」という。)に提訴したが、申し立て却下の決定がされたので、即時抗告したところ、平成11年6月18日に高松高等裁判所(以下「高松高裁」という。)は先の高松地裁の決定を破棄し、被請求人の販売行為を全面的に禁止する「クレナイ商事の表示がない包装資材」の被請求人による所持を禁じて高松地裁の執行官の保管にゆだねること等を命じた(甲第3号証)。
しかし、被請求人は手段を講じて請求人に商品を供給せず、新たに他社名義による直接販売を継続していたので、請求人は被請求人を高松高裁の決定に従わせる「間接強制」を高松地裁に求めた。これに対し、被請求人は高松地裁に「特別事情による保全取消申立」(=特別な事情があるから仮処分の決定を取消すようにとの求め)を訴え、また高松高裁に対して「決定への異議」を申立てたが認められず、高松地裁は平成12年8月14日に被請求人の違反行為につき間接強制を決定(甲5号証)し、同裁判所は間接強制の決定に従って請求人に対して執行文(甲第7号証及び同第8号証)を発行した。
平成12年の秋、間接強制の決定が出ると、DとCは新会社を設立して被請求人の乾麺工場をその会社に売却して、高松高裁や高松地裁の決定や、請求人との両契約の束縛から逃れようとした。請求人は高松地裁にこのような行為を禁止する麺製品営業譲渡禁止等を求める仮処分申立てをした。
同申立てについて、平成13年1月18日に高松地裁は、被請求人に対して、全ての製品にクレナイ商事の表示をしなければならないとの命令等5項目の仮処分の決定を下した(甲第9号証)。
2 商標法第46条第1項第3号に該当することについて
(1)主旨
被請求人は、請求人が制作して販売してきた商標から請求人が発売元であることを記した「発売元株式会社クレナイ商事」の表示部分を塗りつぶして消去した本件商標を、平成9年に商標登録を求めて登録した。
しかし、本件商標は、次のように二つの裁判所によって被請求人による所有と使用と権利の移動が禁止された。
ア.高松高裁が被請求人による本件商標の所有と使用を禁止した。
1)高松高裁は、平成11年6月18日の決定(甲第3号証)の主文の「二の3」において、「相手方が現に占有する発売元株式会社クレナイ商事と表示された以外の包装された麺製品(但し、別紙発売元無記載製品一覧表記載のものを除く)及び包装資材に対する占有を解いて高松地方裁判所執行官に保管を命ずる。」とした。
ここで「相手方」とは被請求人を指し、「相手方が現に占有する発売元株式会社クレナイ商事と表示された以外の包装された麺製品及び包装資材」とは、請求人名が発売元として記載されていない商標に包装された製品と、それらの商標による包装用フィルム等を指す。したがって、被請求人の本件商標が含まれることはいうまでもない。
また、別紙発売元無記載製品一覧表記載のものを除いて、相手方が現に占有する発売元株式会社クレナイ商事と表示された以外の包装された麺製品及び包装資材は、「発売元株式会社クレナイ商事」を消去して出願し登録された本件商標を含み、占有を解いて高松地裁執行官に保管を命じたもので、被請求人が所有することが禁止されたことを意味する。
2)同決定の主文の「二の1」において「相手方は、自己名義及びさぬきうどん株式会社名義で製造した麺製品を抗告人以外の第三者に販売及び出荷してはならない。」とした(同決定の2頁)。
ここで「自己名義で製造した麺製品」とは、「請求人の社名を消去し被請求人の名義のみを残した本件商標の麺製品を含む、被請求人が契約に反して製造し販売してきた麺製品」を指し、「抗告人」とは請求人を指すことから、被請求人の本件商標に係る製品の販売が禁止されたことを意味する。
イ.高松地裁が本件商標による麺製品の販売を禁止し、被請求人による麺製造と販売に関するあらゆる権利の移転を禁止した。
本件商標は、平成13年1月18日の高松地裁の決定(甲第9号証)においても、「被請求人が全ての麺製品について株式会社クレナイ商事の表示をしなければならない」と命じて、株式会社クレナイ商事の表示がない本件商標の使用を禁止した。
また、被請求人が第三者の委託による製造、また第三者に生産又は販売を委託することも禁止して、本件商標が第三者の製品に使用する行為を禁止した。また、被請求人が第三者に対して麺製品の製造及び販売に関する一切の権利を移転する行為を禁じ、被請求人が名義を変えて当該商標を使用することを封じた。
このように、裁判所によって被請求人による所有も使用も、また第三者への権利の移転も禁じられた本件商標は、商標法第46条第1項第3号に該当する。
(2)本件商標の登録と裁判所による禁止及び市場の認識
ア.商標の登録及び裁判所による禁止
被請求人は、平成10年から正面切って請求人の販売市場を奪い取る行動を開始するのに先立ち平成9年に、被請求人は自社名や自社のマークが商標に記されていたことをよいことに、請求人の代表的な商品5点の商標から請求人の会社名を消去った商標を登録出願した。本件商標はその一つである。
そして、被請求人は平成10年2月から契約に反する直接販売活動を始め、その行為が裁判所によって禁じられた。
イ.市場の認識
請求人は、商標に「冨士と」(フジヤマと「と」)(Aの名前である冨士太の冨士の絵と、富田の頭文字の「と」を組み合わせたもの)の商標や被請求人の社名と所在地を記載したが、この「請求人が企画し、請求人が製麺技術を預けた被請求人の工場で請求人の製麺技術によって生産して請求人が販売してきた商品(乾麺)」は、流通市場でも消費者の間でも「請求人の商品」として認識され、甲第11号証ないし同第14号証で「讃岐金刀比羅シリーズ」をはじめとする本件商標が、請求人である株式会社クレナイ商事の商標として業界で認識され流通してきたことを示している。
(3)被請求人の答弁に対する弁駁
ア.二つの裁判所の決定は、本来、商標権の所有者に認められるべき登録商標の使用や商標権の移転等が、契約と商法に反する不当な違法行為であるとして禁じているものである。しかも、主文に続く「理由」に明らかなように、被請求人は、請求人と被請求人との間で締結した昭和47年4月の「総代理店依嘱売買契約」(甲第1号証)及び昭和50年5月の「麺製造装置に関する契約」(甲第2号証)が有効に存在していることを以って、決定において禁じられたこれらの行為は不当な行為であると判断されたのである。
イ.被請求人は、裁判所の決定による制約は継続的売買契約期間の限りで認められるものである旨主張するが、裁判所の決定が、「契約期間の限りのものである」からといって契約に反する被請求人の不正な製造や販売、所有が契約期間中に放置されることがないことは、裁判所の決定を見れば明らかである。同様に、契約によって当該商標権を取得する資格を持たぬ者が、契約と商法に反する不正な目的のために取得し使用した商標権が、契約の期間中に特許庁によって放置されるべきであろうはずがない。
ウ.被請求人は、「裁判所の決定は保全処分である」「暫定的な決定を理由に被請求人の商標権が否定されるべきではない」というが事実を偽る主張である。裁判所の今回の仮処分の決定は、本裁判の証言と同様、被請求人の代表者や経理担当者に対する「審尋」を経て下された「断行の仮処分」であって、本裁判の判決と同等な機能を持つ決定である。
3 本件商標の登録は商標法第4条第1項第10号にも違反する(平成13年10月12日付審判事件答弁書への弁駁書)
請求人は、昭和42年に「讃岐金力比羅シリーズ」を発売した後、昭和56年8月にそのシリーズの姉妹品として「讃岐釜揚うどん」の商標(甲第23号証、別掲のとおりの構成よりなる商標、以下「引用商標」という。)を制作して製品化し、販売を開始した。
(1)乾麺のトップセラーとして、以来、全国で販売されてきた
ア.甲第17号証の世界文化社刊の「家庭画報」平成6年6月号(361頁)の記事において「讃岐金刀比羅太うどん-クレナイ商事(東京都)」が紹介され、「讃岐金刀比羅太うどん」が全国のスーパーなどで広く販売されていた事実が紹介されている。
甲第22号証の2ないし4の例のように、「讃岐釜揚うどん」は、冬期「讃岐金刀比羅太うどん」とセットで同時に販売されることが多く、この記事からも「讃岐釜揚うどん」が全国で広く販売されてきたことを十分に類推することができる。
イ.甲第11号証は食品業界では有力な「食品新聞」恒例の「全国の乾麺・つゆ特集号」であるが、全国の主要製麺企業を紹介する記事の「クレナイ商事」の紹介において、「販売量の大手で、チェーンストアーにも強く、店頭のカバー率は高い。『金刀比羅』など『讃岐うどん』が主力で…」と、「讃岐金刀比羅シリーズ」や「讃岐釜揚うどん」等が(全国の)チェーンストアーで、大量に販売されてきた事実を記している(98頁)。
ウ.甲第18号証は被請求人から請求人に宛てて送られてきた昭和57年の「代金請求書」であり、発売間もない昭和57年当時の「讃岐釜揚うどん」の販売を示す被請求人発行の資料である。同号証の資料によれば、「讃岐釜揚うどん」が請求人の大阪、名古屋、世田谷、足立や横浜の倉庫を通して、広範囲に向けて出荷されはじめたことが判る。その資料中の「大」は「大阪倉庫宛」を、「名」は「名古屋倉庫宛」を、「世」は「世田谷倉庫宛」を、「足」は「足立倉庫宛」を、「横」は「横浜倉庫宛」をそれぞれ請求人の略号で表しているものである。北海道や東北の納入先には「世田谷倉庫」から出荷され、九州地区へは「大阪倉庫」から出荷されていた。
エ.甲第19号証ないし同第21号証は、平成2年及び同8年に取引問屋又は商社が発行して請求人に送られてきた「特売協賛金等の支払請求書」である。首都圏及び全国各地において「讃岐釜揚うどん」が大手の商社や問屋を通じて広く販売されていたことが判る。なお、「特売協賛金等の支払請求書」は、販売量を直接的に示すものではない。
(2)「クレナイ商事の商標」と認識されて販売されてきた
請求人の陳述書(甲第10号証)に述べた理由から、請求人は被請求人のA夫妻(AとC)に同情して、同夫妻のために、商標の上部に富田冨士太のマーク「冨士と」(フジヤマと「と」)を請求人がリファインして形を整えたものを掲載した。また「製造元」を表す意味で「富田乾麺工場の所在地と社名」を記載した。
そして、この商標の乾麺は「クレナイ商事の讃岐釜揚うどん」として認識され、「クレナイ商事の讃岐釜揚うどん」として流通してきた。
ア.甲第11号証の食品新聞の全国の製麺企業を紹介する記事において、「讃岐金刀比羅シリーズ」など「讃岐のうどん」を制作し販売するクレナイ商事を関東の代表的な製麺業者のひとつとして紹介しているが(98頁)、107頁に始まる四国の製麺業者紹介の頁には被請求人の富田乾麺工場も「讃岐金刀比羅シリーズ」も紹介されていない。
イ.甲第12号証は大手商社の「菱食」が全国の乾麺生産業者に出展を求めて東京流通センターで毎年開催する展示会の会社別の展示場の写真の一部である。「東京の明星食品」「岡山の横山製麺」「宮城のヤオシン」「奈良の池利」「香川の石丸」等と並び、被請求人工場において生産される全ての乾麺が「クレナイ商事の麺」として陳列され、紹介されていることを示している。富田乾麺工場として出展を求められることはなかった。全国の、他の問屋や商社においても同様な扱いであった。
ウ.甲第13号証は大手問屋東京リョーショクの期間特売の特売商品をメーカー別にまとめた内部資料である。「讃岐釜揚うどん」が「クレナイ商事の讃岐釜揚うどん」として取扱われている。全国の他の問屋や商社においても同様な扱いであった。
エ.甲第14号証は、世界文化社刊の平成6年6月号の「家庭画報」の362頁で「讃岐金刀比羅太うどん」を「クレナイ商事」の麺として紹介し、取り寄せ先として紹介していることを示す。
この事実からも「讃岐金刀比羅太うどん」とセットで「讃岐金比羅太うどん」の強力な姉妹品として全国に流通してきた「讃岐釜揚うどん」も「クレナイ商事の麺」として認識され紹介されたきた事実を十分に類推することができる。
オ.甲第19号証ないし同第21号証を見れば、首都圏の問屋も地方の問屋も、全て「クレナイ商事の讃岐ざるうどん」と認識してきたことが明らかである。
カ.甲第22号証の1、2の「全国乾麺販売実績表」や全国規模の有名スーパーの「陳列指示棚表」を見ても、「讃岐釜揚うどん」が「メーカー・クレナイ商事の讃岐釜揚うどん」と認識され、店頭の陳列棚にも「メーカー・クレナイ商事の讃岐釜揚うどん」と表示されてきたことが判る。
以上に明らかにように、引用商標からなる「讃岐釜揚うどん」は、昭和56年に請求人が制作して発売し、以来、広く全国において請求人「クレナイ商事の讃岐釜揚うどん」として販売されてきたものである。
したがって、本件商標の登録は商標法第4条第1項第10号に違反するものであり、取消されるべきものである。
4 商標法第4条第1項第15号にも違反することについて(平成13年10月12日付審判事件答弁書への弁駁書)(なお、適用条文については、平成13年10月12日付審判事件答弁書への弁駁書には「商標法第4条1項19号」と記載されているが平成14年10月12日付弁駁書の訂正・補足書により誤記につき「・・15号」と訂正している。)
前記したとおり、「讃岐釜揚うどん」(引用商標)は、昭和56年に請求人が制作して発売し、以来、広く全国において請求人「クレナイ商事の讃岐釜揚うどん」として販売されてきたものである。また、前記両裁判所の決定の主文や理由に関する記載に明らかなように、本件商標は、被請求人が請求人との契約に違反して請求人の販売市場に直接販売をおこない、請求人との契約に反して請求人の販売先と販売権を奪い取る不正な行為のために被請求人が商標登録をして用いた。
したがって、本件商標の登録は商標法第4条第1項第15号に違反するものであり、取消されるべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の趣旨は成り立たない、審判の費用は請求人の負担とする、との審決を求める。と答弁し、その理由を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として乙第1号証を提出している。
1 本件商標が商標法第46条第1項第3号に該当する旨の主張について
(1)高松高裁が被請求人による本件商標の所有と使用を禁止したとの主張について
高松高裁による「相手方が現に占有する発売元請求人と表示された以外の包装された麺製品及び包装資材に対する占有を解いて高松地方裁判所執行官に保管を命ずる」との決定における、「麺製品及び包装資材」とは明らかに動産を指す概念であって、この中に無体財産権である商標権が含まれる旨の解釈は成立しない。また、「占有移転禁止+執行官保管」と所有権の所在との間に関連性はない。結局、請求人の主張は二重の意味で成立しない。
また、上記決定は、被請求人は、その製造する商品を請求人以外の者に販売または出荷してはならないということを命じただけであって、商標の権利関係については何も結論を出していない。請求人の主張は法的に成り立たない。
(2)高松地裁が本件商標による麺製品の販売を禁止し、被請求人による麺製造と販売に関するあらゆる権利の移転を禁止したとの主張について
本件高松地裁の決定は被請求人の販売方法、販売形式についての制限を設けるものではあるが、商標の権利関係については何も語ってはいない。請求人の主張は両者を混同している。請求人の主張は法的に成り立たない。
仮に本件の高等裁判所、地方裁判所の決定により被請求人の商品販売方法、形式が現時点で制約を受けているとしても、その制約は、請求人・被請求人間の継続的売買契約期間の限りで認められるものであって、被請求人の本件商標権を否定する理由になるものではない。
また、そもそも上記両裁判所の決定は、いずれも保全処分であって、終局的な裁判所の判断ではない。従って、上記決定自体、将来の本案訴訟で否定される可能性があり、このような暫定的な決定を理由に被請求人の商標権が否定されるべきではない。
(3)本件商標が商標法第46条第1項第3号に該当しないことについて
請求人は、本件商標の登録無効の主張の根拠を商標法第46条第1項第3号に求めている。
しかし、同号は 、商標登録が登録出願により生じた権利を承継しない者の登録出願に対してなされたときに適用されるものであって、本件のように被請求人自身が登録出願をおこない、同人に対して商標登録が認められた場合に適用される条項ではない。
2 請求人の弁駁に対する答弁
(1)請求人は平成13年10月12日付「審判事件答弁書への弁駁書」において、本件商標の登録は商標法第4条第1項第10号及び同第15号に違反する旨を主張する。
しかし、商標法第56条第1項で準用する特許法第131条第2項の規定により、要旨変更にあたる請求の理由の補正は禁じられている。従って、本審判はあくまで請求人の当初の申立内容であった「商標法第46条第1項第3号」の違反の有無でなければならない。
そうすると、請求人の主張が排斥されなければならないことは明らかである。
(2)念のため、以下請求人の主張に対して反論する。
ア.甲第1号証の売買契約書第1条には、請求人はあくまで被請求人の「代理店」であることが明示されている。代理商に過ぎない者が本人(商品供給者)の製造する商品の商標権を取得するなどあり得ない。
イ.高松地裁の決定は、確かに被請求人が商品を請求人以外の第三者に販売・出荷することを禁じているが、それによって被請求人の商標権が失われるものではないし、請求人に商標権が移動するものでもない。すなわち、高松地裁の決定は、商標権の所在とは無関係である。
ウ.本件商標の登録は商標法第4条第1項第10号にも違反することについて
1)結局ここで請求人が主張している内容は、「請求人が本件商標を付した商品を主要販売品として大量に販売してきた」ということに尽きる。しかしながら、いうまでもなく販売量と商標権の所在とは全くの無関係である。大量に商品を販売した者が商標権者になるというのであれば、殆どのメーカーは商社に商標権を奪われることになろう。請求人は業界紙、雑誌を証拠として引用するが、業界紙や雑誌が「製造元」ではなく「販売元」に問い合わせをすることは当然であり、これらは全て請求人の発言に基づいて作成されたものであるといえ、客観性は全くない。また、雑誌類が問い合わせ先として掲載するのは「販売者」であることは当然であり、これらの記事を下に商標権の所在を論じることは誤りである。
2)菱食の展示会で「クレナイ商事」のブースで被請求人の商品が展示されたことは、「販売者」として菱食と直取引を行っていたのが請求人である以上当然である。どこの世界に取引関係のない被請求人の名称を付したブースを設けてくれる会社があるであろうか。これをもって商標権の所在を論じることは誤りである。
3)リョーショクの「step up sale」と題された書面において、被請求人の商品が請求人の欄に記載されていることも、請求人が販売者として直接リョーショクと取引を行っていた以上、当然のことである。取引関係のない被請求人の社名を社内文書に入れるわけがないのである。
4)イトーヨーカ堂などのスーパーの伝票類に請求人の名が記載されていることも、これらのスーパーに販売をしているのが請求人である以上、当然のことであり、これをもって商標権の所在を論じることは誤りである。
エ 甲第23号証を見れば分かるとおり、甲第1号証契約当初から、請求人が販売する商品には「製造者」として「富田乾麺工場」の名が明示されており、また、全ての商品には「と(フジヤマ)」(冨士と)の被請求人の別商標(商標登録第2076431号。乙第1号証)が印刷されている。それにひきかえ、請求人は単に「販売元」として記載されているに過ぎない。
オ そもそも商標とは、「自ら業として商品を生産し、証明し、譲渡する者がその商品に使用するもの」を意味するのである(商標法第2条第3項)。代理店である請求人が独自に商標権の主体となることなどあり得ないのである。請求人は自らが商標権者であるかのような主張を展開しているが、請求人は本件麺製品のメーカーであるというのであろうか。理解に苦しむ主張である。

第4 当審が通知した無効理由通知
本件商標の登録は、以下のとおり無効理由があるものと認められる。
1 甲第1号証(総代理店依嘱・売買契約書)、甲第2号証(麺製造装置に関する契約書)、甲第10号証(請求人による陳述書)及び甲第23号証(本件商品の包装フィルムコピー)によれば、本件商品「うどん」(うどんのめん)に使用されている別掲(2)に示すとおりの構成よりなる引用商標(甲第23号証)は、請求人の主導のもとに創作・作成されたものであることが窺われ、また、被請求人による麺製造も請求人の考案に係る装置を使用し、請求人の製麺技術によるところが多く、被請求人の製造に係る引用商標が付されて包装された「うどんのめん」は、原則として全品、請求人に納められ、請求人によって販売されていたものであることを認めることができる。
そうとすれば、両者間の上記契約は、実質的に請求人ブランドによる、いわゆるOEM契約とみるのが相当であり、引用商標は、専ら、請求人の販売に係る商品「うどんのめん」の商品表示として機能していたものといわなければならない。
2 甲第11号証(食品新聞社の出版物の記事)、甲第13号証(問屋の扱商品一覧帳の記載)、甲第18号証(昭和57年の売上表)、甲第19号証(平成2年に問屋が発行した特売協賛金等の請求書)、甲第20号証(平成8年に問屋が発行した特売協賛金等の請求書)、甲第21号証(平成8年に問屋が発行した特売協賛金等の請求書)、甲第22号証の1(1995年全国冬物素麺販売実績表)、甲第22号証の2(1993年のダイエーの冬期店舗陳列棚割表)によれば、引用商標は、本件商標の登録出願時において、既に請求人の業務に係る商品「うどんのめん」の商標として、取引者、需要者の間において広く知られていたものであることを認めることができる。
3 そして、本件商標は、発売元の表示部分を除いて、引用商標と同一の構成からなるものであり、かつ、本件商標の指定商品「うどんのめん」には、請求人の業務に係る商品「うどんのめん」を含むものである。
4 以上の事実を総合し、甲第3号証(高松高等裁判所の決定)及び甲第9号証(高松地方裁判所の決定)をも併せ考慮すると、本件商標は、他人の業務に係る商品「うどんのめん」を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標と類似の商標であって、その使用に係る商品と同一又は類似の商品について使用をするものであるから、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。

第5 無効理由通知に対する被請求人の答弁
被請求人に対し、前項「第4」で述べている無効理由を通知し、相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えたが、被請求人は何らの応答もしていない。

第6 当審の判断
1 請求人は、審判請求書において、本件商標は、商標法第46条第1項第3号に該当する旨主張し、証拠方法として甲第1号証ないし同第16号証を提出した。そして、平成13年10月12日付「審判事件答弁書への弁駁書」において、本件商標は商標法第4条第1項第10号、同第15号にも該当する旨、無効の理由を追加するとともに、甲第17号証ないし同第23号証(枝番を含む。)を提出した。
ところで、商標法第56条第1項において準用する特許法第131条第2項(平成10年法律第51号により改正、平成11年1月1日に施行)は、迅速な審理に資するため、無効審判について、「請求の理由」の要旨を変更する審判請求書の補正を認めないこととしており、無効理由の根拠条文を追加することも要旨変更にあたるものと解されている。
そして、本件審判請求は、平成13年7月5日に請求されたものであるから、上記商標法の適用を受けるものである。
したがって、本件審判事件において、請求人が請求の理由として商標法第4条第1項第10号、同第15号を追加することは、請求の理由の要旨を変更するものであるから、商標法第56条第1項において準用する特許法第131条第2項の規定により認められない。
2 次に、請求人は、本件商標は商標法第46条第1項第3号に該当する旨主張しているので、この点について検討する。
商標法第46条第1項第3号の趣旨は、その商標登録が、登録出願により生じた権利を承継しない者の登録出願に対して、誤って登録がされたときにはそのままにしておくのは不当あることから、そのような商標登録を無効にするものと解される。
これを、本件ついてみれば、被請求人が登録出願し、同者が商標登録を受けているもので、その間、登録出願により生じた権利の承継はなかったものと認められることからすると、本件商標の登録は、その登録出願により生じた権利を承継しない者の登録出願に対して、誤って登録がされたものとは認められないものである。
したがって、本件商標の登録は、上記法条に該当するものではない。
3 しかしながら、請求人の主張及び甲号証を総合してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第10号について審理するのが相当であると認められるので、商標法第56条第1項で準用する特許法第150条第1項及び第153条第1項の規定により職権で証拠調を行い、審理した。
そして、職権による証拠調及び審理の結果は、前項「第4」で述べたとおり、本件商標は他人の業務に係る商品「うどんのめん」を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標と類似する商標であって、その使用に係る商品と同一又は類似の商品について使用をするものと認められるものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標

(色彩は原本参照)

(2)引用商標

(色彩は原本参照)
審理終結日 2003-05-14 
結審通知日 2003-05-19 
審決日 2003-07-09 
出願番号 商願平9-159559 
審決分類 T 1 11・ 0- Z (Z30)
T 1 11・ 25- Z (Z30)
最終処分 成立  
特許庁審判長 宮下 正之
特許庁審判官 山口 烈
小林 和男
登録日 1999-02-12 
登録番号 商標登録第4240097号(T4240097) 
商標の称呼 フジヤマト、サヌキカマアゲウドン、トミタフジタ 
代理人 関谷 利裕 
代理人 藤本 邦人 
代理人 西嶋 勝彦 

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