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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 028
管理番号 1081655 
審判番号 審判1997-20436 
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-09-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 1997-12-01 
確定日 2003-07-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第4074134号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4074134号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4074134号商標(以下「本件商標」という。)は、後掲(1)の構成よりなり、平成8年2月9日に登録出願、第28類「釣り具」を指定商品として、同9年10月24日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
(1)請求の趣旨
結論同旨の審決を求める。
(2)請求の理由
商標権者は、かねてから評価の高い名品「フィリプソン」に目を付け、そのコピー商品を製作することを企画し、本件商標を取得した。
そもそも「フィリプソン」とは、アメリカのバスフィッシングの歴史の中で生み出されたグラスロッドであり、製造者は、アメリカ人技師ビル・フィリプソンであった。
彼の作り出す優秀なグラスロッドは、世界を席巻し、釣り竿業界では知らぬものがないほどである。その特徴は、独特な製法で作られたエポキサイトといわれる材料で作られており、一本ずつ手作業で糸が巻かれ、焼きを入れ、すべての行程が手作りで行われるというもので、生産量は極めて少ないうえ、製造者が高齢化しており、製造はとぎれがちであった(甲第1号証)。このため、希少価値ゆえに価格も高騰し、マニアの垂涎の的とされてきた。
こうした希少価値に目を付けた商標権者は、コピー商品を作るべく、釣り具メーカーの請求外「株式会社天竜」(以下、「天竜」という。)に対し、日本製のPグラス樹脂を使用し、国産のグラスロッドの製法に従って、大量に機械生産させた。この際、天竜には、コピー商品を作るという真相を明示せず、すべての権利を取得したという趣旨の説明をしていたという。天竜では、エポキサイトなどはまったく使用せず、純日本製の製品として天竜製Pグラスを利用して製造しているということであり、「フィリプソン」とは素材においても、製法においても、まったく異なるものであり、「フィリプソン」の完全復刻版などではないことを、消費者に明言している。
ところが、商標権者は、パンフレットにおいて、「あの名作グラスロッド、フィリプソンの完全復刻版だ。」として、販売を始めた(甲第2号証及び同第3号証)。そのため、市場においては、本物の「フィリプソン」であると誤認して購入した者(約5000人)がでた。
請求人は、米国において、現在、唯一の「フィリプソン」の商標登録権者(甲第4号証)であり、製造販売権を有するものであって、かつて製造し、保管してきたエポキサイト製の部品を手作業で完成させるという作業により、一本一本丹念に製造している。その主任監督者は、かつてビル・フィリプソンと一緒に働き、ともに製造を担当した当時のチーフビルダー、ポール・ハイタワー氏が担当している。
請求人は、商標権者に対し、商標の使用や、商品名「フィリプソン」の使用許諾をした事実はなく、商標権者は、過去においても、商品名「フィリプソン」の使用許諾を与えられたことはないし、製品の販売権を取得した事実もない。
請求人は、本年(平成9年)9月頃から、日本において本格的に販売を開始し、その宣伝を始めた(甲第6号証及び同第7号証)。しかるところ、日本製グラスロッドを使用したコピー商品がエポキサイト製であると偽り、アメリカ製のグラスロッド「フィリプソン」の「完全復刻」と明示して、販売され、正規の商品と誤認、混同を生じさせている。そして、既に、公正取引委員会に対して被害届けが多数出されており、被害者の会も発足しているといわれ、各地の釣具店では、購入者からの苦情と、返品引き取り要求が出され、対応に苦慮しているという。
商標権者は、釣り具販売業者であり、「フィリプソン」の商品名を周知し、その名声を利用しようと企てたことは明白であり、品質誤認の商品の混同を認識し、容認している。
以上の理由により、商標法第51条による商標登録取消審判を求めるものである。
(3)証拠方法
請求人は、甲第1号証ないし同第37号証(枝番号を含む。)を提出した。
(4)答弁に対する弁駁
イ 商標権者による使用
証拠補充書によって提出済みの甲第17号証により、商標権者による使用は立証済みである。
商標権者は、すでに本件商標に基づき、東京地方裁判所に仮処分申請を行い、当該商標権を行使している。このほか「フィリプソン」を表示し、使用している。当該商標を使用している事実に争いはなく、また、被請求人が、使用する意図がなく、現に使用していないのであれば争う意味もあるが、自らコピー商品に使用する意図で取得し、かつ使用しているのであるから、争うこと自体意味がない。この点を争うのであれば「現に使用していないし、使用することもない」と主張してから、反論すべきである。
ロ 商品の品質の誤認
証拠補充書によって提出済みの各証拠、アンケート回答用紙によって、立証済みである。
被請求人は、本件商標を取得し、自ら製造した日本製若しくは韓国製の一般的な釣り竿を、「フィリプソンの完全復刻版」と称して、これを販売している。
被請求人は、Pグラス製の安価な日本製の竿を「フィリプソン」として販売しており、購入者はほぼ全員が、アメリカ製フィリプソンとして、すなわちアメリカで生産されたものであり、製法はかつての「エポキサイト」方式によるものであるということを前提に購入しており、それが購入の動機であることをはっきり指摘している(アンケート回答結果)。
「フィリプソン」(Phillipson)を商標登録したのは、とりもなおさず「アメリカ製のフィリプソン」として、まがい物を販売するためであり、まがい物を製造して、現に販売しており、それを善良な消費者が、まがい物ではなく「アメリカ製のフィリプソン」として購入するのは当然の結果なのである。
本件商品は、購入層が大変限定された商品である。釣りの中でも、ある特定の川魚を対象としたもので、釣りマニアの中でも特に嗜好性の強い、専門性を持った分野に属する。
したがって、その分野においては「フィリプソン」(Phillipson)は、周知著名性がある。被請求人がいうように、「英和商品名辞典」に載っていないとしても、当該専門分野において、その著名性、品質の誤認は検討されなければならない。本件商品の専門分野においては、「フィリプソン」(Phillipson)は、明らかに著名であり、被請求人はこれに乗じて、その名声を利用して、本件表示を行い、消費者は、本物と誤認して、これを購入したものである。
フィリプソンの商品名は、アメリカにおいても一時商標登録が切れ、空白の時期があったといわれる。しかし、商品そのものは在庫があり、それを細々と製造しており、過去の販売した製品の修理のほか、在庫の部品を組み立てて販売することも行われていた。「フィリプソン」(Phillipson)は、未登録商標として、生産されたグラスロッドの表示として利用されてきた。請求人会社の設立以前から、同商品名は利用されており、現在においても引き続き利用されてきているものである。
ハ 故意
関係各証拠で誤認混同を意図していたこと、現在においても誤認混同を利用していることが、関係各証拠から明らかなところである。
被請求人は、98年発行の商品カタログにおいて、詳細に本物の「フィリプソン(Phillipson)」を紹介し、有名であったことを強調している。そして、これを商標として使用している。明らかに、故意を持って当該商標を、本物の「フィリプソン(Phillipson)」と混同させるために使用している。

3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求を棄却する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第3号証を提出した。
本件審判請求書には、商標法第51条に規定する以下の要件が一切立証されておらず、本件審判の請求に理由がない。
(1)商標権者による使用
請求人は、被請求人における本件商標登録前の使用に基づいて主張するのみであり、「商標権者」による本件商標のどのような類似商標を、いつ、使用したのか特定されておらず、使用について何ら主張立証していない。被請求人に関連する称呼として、甲第2号証及び同第3号証を提出しているが、これらは、「虚偽表示」を立証するものとされており、「使用商標」を立証するものではない。そして、使用商標に係る主張も全くない。
甲第2号証及び同第3号証は、それぞれ「1996年版ザウルス商品パンフレット」、「1997年版ザウルス商品パンフレット」の各抜粋であり、遅くとも1997年春頃までに発行されたものである。一方、本件商標は、平成9年(1997年)10月24日に設定登録されたものである。したがって、甲第2号証及び同第3号証のパンフレット頒布を含む、前記設定登録前における被請求人のいかなる行為も、商標法51条が要求する「商標権者」による使用には該当しない。、
(2)品質の誤認・出所の混同(周知性)
アメリカ製「フィリプソン」の具体的な使用態様、周知性が立証されておらず、しかも、請求人が誤認混同の対象とするアメリカ製「フィリブソン」は、1974年には製造が中止されており、品質の誤認、混同のおそれはない。
請求人は、その引用商標を「フィリプソン」と示すのみで、具体的な態様を特定していない。引用商標が片仮名文字「フィリプソン」であるならば、それは本件商標の片仮名表記にすぎない。「フィリプソン」は、本件商標と実質的に同一の商標であって、第51条における「類似する商標」ではない。
請求人は、「フィリプソン」が釣り竿の名品で、著名商品名であると主張するのみで、具体的な立証がなされていない。そして、乙第1号証として提出する「英和商品名辞典」にも掲載がなく、その周知性は認められない。
請求人が著名性の立証証拠として唯一提出する甲第1号証は、以下の理由により著名性を立証するものとは認められない。
甲第1号証は、雑誌「Rod and Reel」1997年12月号とされているが、発行日、発行者を確認することができない。
当該証拠には、「日本でもアメリカでも、幻のブランドとしていまなお高い人気をもつフィリプソンのロッド」その他の周知性を伺わせる記載が認められるが、これらの記載がいかなる事実に基づき記載されたものであるかの裏付けは全く存在しない。甲第1号証からは、単に1952年から1972年頃にかけて製造販売された釣り竿の商品名であったこと、ビル・フィリプソンという名人が製造した釣り竿であったことが伺えるにすぎず、これらが事実であったとしても、引用商標「「フィリプソン」が周知、著名であったということはできない。
甲第1号証の記事は、客観性がない。一般の記事でなく「パブリシティー」あるいは「タイアップ記事」の可能性が高い。記事中に「大森のビンテージショップ、「ハネダクラフト」という記載がある。そしてこの記事は「本誌特別洋行局」なるものの執筆であるが、「メンバーは洋竿鑑定士・田長石英、「ハネダクラフト」のミヤコ嬢様。そしてご存知「道楽」の松本君。ロッドビルダーとして経験も豊富で、なによりフィリプソンの信奉者なのである。」との記載から、これらの者が「本誌洋行局」なるもののメンバーと認められる。 メンバーの一人は、「ハネダクラフト」の従業員である。これらの事実から、この記事は、「ビンテージもののフィリプソン」を販売する「ハネダクラフト」がその宣伝のため、当該雑誌の編集部に持ちかけて(あるいはタイアップして)記事としたものである可能性が高い。ちなみに、近年の雑誌記事においては、パブリシティー記事やタイアップ記事の比率が高くなっており、その記事の体裁は一般記事と区別がつきにくい形となっていることは、周知の事実である。そうすると、甲第1号証に書かれた「フィリプソン」の釣り竿に対する評価は、これを客観的な記述と認めることはできず、これをもって周知、著名ということはできない。
第51条において「品質の誤認を生ぜしめたとは、品質を劣悪にして需要者に商品の品質の誤認を生ぜしめた場合は含まれないとされる。」(乙第2号証)、しかるに、請求人が「品質の誤認」に関連して主張するところは、専ら品質の優劣に係る、それも極めて些細な点であり、「品質の誤認」に該当するものではない。しかも、請求人が引用する商標「フィリプソン」は、上記の通りわが国における取引者・需要者の間で周知著名であるとは認められず、しかも「アメリカ製フィリプソン」なるものは1974年には製造を終了している。したがって、請求人が本件商標に類似した商標を使用したとしても、請求人が主張するような「アメリカ製フィリプソン」なるものと品質の誤認を生じるおそれはない。したがって、「品質の誤認」を生ずるおそれはない。
第51条における「出所の混同」は、具体的な出所の混同である。したがって、引用商標を使用した商品が現実に市場に流通していることが前提となる。また、当然のこととして、引用商標の使用は「正当な使用」でなければならない。しかるに、被請求人は「フィリプソン」なる商標を使用した釣り具の販売に関して、「本年9月ころから、日本における本格的に販売を開始し、その宣伝を始めた。」と述べている。そして、「アメリカ製フィリプソン」は、1974年に製造が中止されている。本年9月(1997年9月)からの使用であれば、本件商標の出願後であり、本件商標に対して「先使用権」を主張する余地はなく、その使用は「正当な使用」ということはできない。したがって、ハネダクラフトなどが使用する商標と被請求人が使用する商標が類似することをもって、「出所の混同」が生じるおそれがあるということはできない。
(3)故意
アメリカ製「フィリプソン」の製造が中止されている以上、誤認混同はあり得ず、誤認混同を生じさせることにつき故意があったということはできない。
(4)請求人は、取消原因として被請求人の行為に対して論難しているので、以下のとおり反論する。
請求人は、被請求人の商品を「コピー商品(贋物)」であるとし、「市場において、消費者から本物の「フィリプソン」として評判を集め、購入者は皆、正規の製品検査を経た本物「フィリプソン」と誤認して、購入したと主張する。しかし、被請求人は、その商品が「本物」でなく「復刻」であると明記して販売しているのである。「コピー商品」を「本物」と称して、あるいはあたかも本物のように販売するのが「贋物」であり、「本物」でないことを明記して販売している以上、これが「贋物」として非難を受ける理由はない。 そして、「被害者約5000人」と主張するが、その根拠は何ら示されておらず、被請求人の知らないところである。
(5)「請求人は、米国において、現在唯一のフィリプソンの商標権登録者であり」と主張し、甲第4号証を提出する。しかし、甲第4号証からは、「Richard Gottednker」なる者が「PHILLIPSON ROD COMPANY」なる商標を、「グラスファイバー製の釣り竿」を指定商品として、1997年9月25日に商標登録出願を行ったことが理解できるのみである。ここにおける出願人(Richard Gottednker)は請求人と異なり、商標も「フィリプソン」ではない。そして、出願されているにすぎず、商標登録もされていない。しかも、出願商標は「PHILLIPSON ROD COMPANY」であるから、この商標が示す法人と異なる法人である請求人が、商標「PHILLIPSON ROD COMPANY」に関して何らかの権限を有しているとも考えられない。しかも、その出願書類によれば、米国における使用開始日は1997年1月2日であって、本件商標の出願日よりも後のことである。請求人は「請求人は、ザウルスに対して、商標の使用や、商品名「フィリプソン」の使用を許諾した事実はなく、ザウルスは過去においても右商品名の利用許諾を与えられたこともない」と述べるが、請求人はいかなる権限に基づきザウルスに対して商標の使用許諾をしようというのであろうか。上記の通り、請求人は商標「PHILLIPSON ROD COMPANY」に関して何ら権限がないと推測され、しかも、被請求人が商標登録出願をしたのは、請求人が使用を開始する約1年も前のことである。
(6)事業の承継
請求人は、かつての「フィリプソン」釣り竿の製造者である「ビル・フィリプソン」の事業の承継人であるかの如く主張するが、両者の関係を示す証拠は何ら提示されていない。
請求人が、自己の製造する商品の正当性を立証する根拠として提出する第5号証は、「1962年のフィリプソンのカタログ」と主張されるものであって、この証拠に掲げられる製品と、請求人および請求人の商品とは全く関連が認められない。「その製法は、かつてのままであり、まさに完全なフィリプソンのグラスロッドである」という主張は何ら甲第5号証によって裏付けられるものではない。更に、ハネダクラフトの広告によれば、「1997年秋、私たちは、デンバーに25年間眠っていたフィリプソン社の最終デッドストックを発見。すべてを買い取ることに成功しました。」(甲第6号証)とある。この表現によれば、ハネダクラフトおよび請求人らは、かつての「フィリプソン社」の事業を継承したものではなく、単に「デッドストック」を購入したものにすぎない。事業の継続性は存在しない。請求人は、「フィリプソン社のデッドストック」を発見し、これを利用して営業を展開するために商標登録出願を行い、「デッドストック」を入手したことをもって、かつての「フィリプソン社」の承継人を語っているにすぎない。
(7)誤認混同について
請求人は、被請求人の販売する「釣り竿」につき誤認混同が生じ、被害が多数発生していると主張するが、全て伝聞であり、主張を裏付ける証拠は存在しない。
(8)むすび
以上の通り、請求人の主張は全て独断に基づくものであり、商標法第51条の要件を満たしていないから、本件審判の請求は理由がないものであり、棄却されるべきものである。
(9)答弁(第2回)
被請求人は、請求人が平成10年6月9日付けで補充した証拠に対し、以下のとおり答弁する。
請求人は、多数の「陳述書」を提出しているが証人調べを経ない「陳述書」は、証拠価値のないものである。
また、米国製の「フィリプソン」釣り竿が存在している事実と、被請求人の「商標登録」の有効性とは無関係である。審判廷における証拠調べを求める次第である。
新たに提出された証拠の認否。
甲第12号証の成立は認めるが、被請求人が「これを基礎に、「違法コピー」をした」との立証趣旨は争う。
甲第17号証の成立は認めるが、立証趣旨は争う。客観的事実に基づかない被請求人に対する誹謗中傷である。
甲第18号証は認める。
甲第20号証の成立は認めるが多数の商品名を挙げた中に単に含まれているに過ぎず、立証趣旨は否認する。
甲第34号証の成立は認めるが、発行時は不知。
甲第35号証の成立は認めるが、発行時は不知。また、この証拠から「フィリプソンがメインの商品になっている」ことは伺えない。
甲第37号証の成立は認めるが、立証の趣旨は争う。
その余の証拠は、不知である。
証拠(甲第33号証)として提出されている「アンケート」は以下の理由で採用されるべきでない。
実施時期が不明である。
このアンケートは、請求人に都合の良い回答をピックアップして提出したという理解も成り立つものである。
なお、被請求人は、本件商標権に基づき、請求人の商品をを販売する羽田クラフトを債務者として、債務者の商標「Phillipson」の使用差止を求める仮処分を東京地方裁判所に申請していたところ(東京地裁平成9年(ヨ)第22199号)、平成10年5月13日に、被請求人の申請を認める決定が下されている(乙第4号証)。
以上の次第であるから、本件請求は棄却されるべきである。

4 当審の判断
本件商標は、後掲するとおり、「Phillipson」の欧文字を横書きしてなり、平成8年2月9日に登録出願、第28類「釣り具」を指定商品として、同9年10月24日に設定登録されたものである。
そして、商標権者が「完全復刻」として、1996年販売時の商品カタログに掲載した被請求人の自己の「フィリプソン」に関する使用標章は、後掲(2)イ号標章の1のとおりであり、1998年1月の宣伝用パンフレットに掲載した被請求人の自己の「フィリプソン」に関する使用標章は、後掲(3)イ号標章の2のとおり(以下、合わせて「イ号標章」という。)である。
また、アメリカにおける「フィリプソン」のロッドの真正品について使用していた標章は、後掲(4)ロ号標章(以下、「ロ号標章」という。)に示すとおりである。
(1)「フィリプソン」グラスロッドの成立した経緯
「フィリプソン」グラスロッドを創った「ビル・フィリプソン」は、1904年スウェーデンで生まれ、1923年19才でアメリカ合衆国に渡り、1926年にデンバーの高級バンブーフライロッドメーカー「グッドウィン・グレンジャー社」に入社、当社は、戦争により、1942年閉鎖、その後、「ビル・フィリプソン」は、1945年に仲間と「フィリプソン・ロッド&タックル社(以下、「フィリプソン社」という。)」を創設し、当初は、バンブーロッドを製造していたが、1950年にファイバーグラスロッドの製造を始めた。
そして、フィリプソン社は、1950年から1960年にかけて、ハーター、オービス、エイバークロンビー&フィンチ、L.L.ビーンなどのOEMロッドを生産することで、メジャーマーケットに参入した。その後、幾多の変遷があったが、「ビル・フィリプソン」は、社名を「フィリプソン・ロッド社」に変えて、エポキシグラスのスコッチブライ製(3M社)のロッドを製作、幾多の改革を経て、1971年、エポキサイト・シリーズ製品を完成させた。その後、「ビル・フィリプソン」は、1972年、健康上の理由から、事業を「3M社」に譲ったが、「3M社」は、2年でこの生産を中止した(甲第1号証、同第7号証、同第17号証)。
(2)被請求人のロッド
被請求人は、本件商標の取得に前後して、「あの名作グラスロッド・フィリプソンの完全復刻版だ。」として、自己の商品カタログ「SAURUS」に掲載し、頒布し(甲第2号証及び同第3号証、同第17号証)、日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)を販売していたものであることについては、被請求人の否定するところでない。
(3)本件商標とイ号標章の類否
本件商標は、上記のとおり「Phillipson」のゴシック体欧文字よりなるのに対し、イ号標章は、圧倒的顕著に表された筆記体「Phillipson」の欧文字との比較においても、本件商標とイ号標章とは、外観において異なるところがあるとしても、両者共に「フィリプソン」の称呼を生ずるものであるところを共通にし、少なくとも称呼において相紛れるおそれのある類似するものというべきである。
(4)イ号標章の使用時期
イ号標章は、請求人提出の各甲号証及び被請求人の主張の趣旨に照らして、遅くとも、1996年(昭和8年)以降、継続して使用されてきたものと認められ、これに反する事実はない。
(5)故意
「あの名作グラスロッド・フィリプソンの完全復刻版だ。」として、自己の商品カタログ「SAURUS」に掲載し、頒布し(甲第2号証及び同第3号証、同第17号証)、日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)を販売していたものであることについては、被請求人の否定するところでないから、購入者に対し、「フィリプソン」と同等又はそれ以上の機能を有するとロッドであると誤認を生じさせる故意があったことは明らかである。
以上の事実を総合すれば、商標権者による本件商標の取得は、過去に名声を博していた「フィリプソン」のロッドのコピー商品を販売することを意図として取得されたものであり、商標権者は、かかる意図のもとに本件商標に類似する商標の使用を本件指定商品中の「釣り竿」について使用したものであると認められる。
被請求人は、「その商品が『本物』でなく『復刻』であると明記して販売しているのである。」と主張しているが、トップウォーターロッドの極致として名声を博した、フィリプソン社の名作グラスロッド「フィリプソン」は、エポキシグラスのスコッチブライ製(3M社)の独特な製法で作られたエポキサイトを使用した点に特徴のあるロッドであるのに対し、商標権者の使用に係るロッドは、日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)であって、商標権者の「復刻」と称する係るロッドの製作に関し、格別、この天竜製のPグラス樹脂製ロッドを使用しなければならない必然性はみられないから、上記「フィリプソン」のグラスロッドの代用品として、安易に当該ロッドを採用したものであるというべきである。
そして、「復刻」とは、「原本そのままに再製すること。また、再製したもの。」(広辞苑 岩波書店発行)を意味し、使用に係る商品「釣り竿」についていえば、「完全復刻」(甲第2号証及び同第3号証)という限りにおいては、その機能面においても、同等又はそれ以上の機能、品質を保持しているものでなければならないのに対し、上記のとおり、「フィリプソン」のグラスロッドの代用品として、日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)を使用して製作し、商標権者が「完全復刻」と称して販売した「フィリプソン」のグラスロッドは、粗悪品であるということができないとしても、真正な「フィリプソン」のロッドと同等又はそれ以上の機能、品質を期待し得ないものであり、その購入者に対し「フィリプソン」のロッドの品質に誤認を生じる本件商標に類似する商標の使用であるというべきである。
けだし、「釣り竿」の需要者がこれを購入する場合、単に置物等の装飾品として購入することは考え難く、バスフィッシングの愛好家として、実際に使用することを前提として購入するものであるから、「あの名作グラスロッド・フィリプソン」の機能を有する「釣り竿」が得られるものと期待して購入するものであることは明らかである。
しかして、本条は、商標権者が故意に指定商品についての登録商標に類似する商標の使用をして一般公衆を害したような場合についての制裁規定である(特許庁編 工業所有権法逐条解説 発明協会発行)ところ、「フィリプソン」の製造がすでに中止され、商品の出所について混同を生ずるおそれがないとしても、被請求人が、真正な「フィリプソン」のロッドと異なる、日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)を代用して製作し、「フィリプソン」のグラスロッドの「完全復刻」と称して販売した行為は、購入者に、恰も、真正な「フィリプソン」のロッドであるかの如く、商品の品質について誤認を生ずるものとした(実害を生ぜしめた)ことが明らかである(なお、「品質の誤認」については、「品質を劣悪にして需要者に品質の誤認を生じさせた場合は含まれない。」と解説するものもあるが、「合理的根拠を見出し得ない(播磨・理論514頁)。」(「注解商標法」小野昌延編 参照。)とするこれに反する意見もある。)。
してみれば、商標権者による本件商標に類似するイ号標章の使用は、ロ号標章に係る商品について、故意に、商品の品質について誤認を生ずるものとしたものというべきである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第51条第1項の規定により、その登録を取り消すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件商標


(2)イ号標章の1

(3)イ号標章の2

(4)ロ号標章

審理終結日 2002-02-19 
結審通知日 2002-02-22 
審決日 2002-03-05 
出願番号 商願平8-12284 
審決分類 T 1 31・ 3- Z (028)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 薫 
特許庁審判長 三浦 芳夫
特許庁審判官 米重 洋和
柳原 雪身
登録日 1997-10-24 
登録番号 商標登録第4074134号(T4074134) 
商標の称呼 フィリップソン 
代理人 牧野 二郎 
代理人 有近 紳志郎 
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