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審決分類 審判 全部無効 商3条1項1号 普通名称 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 131
審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 131
審判 全部無効 商3条2項 使用による自他商品の識別力 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 131
管理番号 1070919 
審判番号 審判1999-35344 
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-07-06 
確定日 2003-01-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第2689971号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第2689971号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.本件商標
本件登録第2689971号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成元年12月12日に登録出願、第31類「ゆず入りの七味唐辛子」を指定商品とし、商標法第3条第2項の適用を受けて、同6年7月29日に設定登録されたものである。

第2.請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第183号証を提出した。
1.本件商標は、その指定商品「ゆず入りの七味唐辛子」なる普通名称の単なる略称を普通に用いられる程度の態様で表わしてなるものであるから自他商品識別力を欠き、商標法第3条第1項第1号に該当し、本来、同法第3条第2項の適用が受けられないケースであるにも拘わらず、同法第3条第2項の使用による特別顕著性の適用を受けて登録されたものである。
また、本件商標は、その指定商品「ゆず入りの七味唐辛子」との関係上単に商品「七味唐辛子」の原材料を表示するにすぎないものにも該当するものであるが、本件商標は、本件出願人以外の多数の販売業者により本件商標の出願前から大々的に使用されており、かつ、現在も継続して使用されている事実が存在することからみて、本件商標は取引者・需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとは到底いえないため、商標法第3条第2項の規定により適法に商標登録を受けることができないものである。
2.本件商標の構成中の「ゆず(柚子)」は、ミカン科に属する柑橘類の一種でありその香りと酸味を生かして日本料理のアクセントとして古くから広く一般的に使われている香味料である。この「ゆず(柚子)」は、単独で香味料として用いられるばかりでなく、例えば「こしょう」「酢」「みそ」等の他の調味料と合わせ「ゆずこしょう」「ゆず酢」「ゆずみそ」等として一般的に用いられている事実が存在する(甲第1号証)。
また、本件商標「ゆず七味」の構成中の「七味」は、本件商標の指定商品との関係上「七味唐辛子」の略称であることが明らかであり、また「七味」が「七味唐辛子」の略称として古くから広く一般に用いられている事実は顕著な事実といわなければならない。
これにより、調味料の原材料として一般的に用いられている「ゆず」と「七味唐辛子」を意味する「七味」を単に結合させた本件商標「ゆず七味」は、本件商標の指定商品「ゆず入りの七味唐辛子」が冗長な名称となることから簡略化されて「ゆず七味」と呼ばれるようになったものであり、本件商標は、取引者・需要者において商品「ゆず入りの七味唐辛子」なる普通名称の略称として認識されているものである。
すなわち、本件出願人以外の多数の販売業者において、「ゆず七味」を「ゆずの入った七味とうがらし」なる普通名称の略称として理解・認識し、商品「ゆずの入った七味唐辛子」を「ゆず七味」の名称で本件商標の出願日である平成元年12月12日前より大々的に販売し、かつ、現在も継続して販売している事実が存在する。
甲第5号証乃至甲第90号証は、商品「ゆずの入った七味唐辛子」を「柚子七味」の名称で販売している卸売業者による証明書である。この商品「ゆずの入った七味唐辛子」は、有限会社柚こしょう本舗又は河田柚子園等が製造したものであり、この製造業者から各卸売業者を経由して日本全国に散らばっている多数の販売店に納入されているものである。
以上の証明書により、日本全国に散らばっている多数の販売業者が「ゆず七味」「柚子七味」を「ゆずの入った七味とうがらし」の略称として理解・認識し、商品「ゆずの入った七味唐辛子」を「ゆず七味」という商品名で本件商標の出願日である平成元年12月12日前より大々的に販売し、かつ、現在も継続して販売している事実を立証する。
また、甲第91号証乃至甲第174号証は、商品「ゆずの入った七味とうがらし」を「柚子七味」の名称で販売している卸売業者及び製造業者による証明書である。この「ゆずの入った七味唐辛子」は、有限会社柚こしょう本舗、河田柚子園又は佐伯商店等が製造したものであり、この製造業者から各卸売業者を経由して日本全国に散らばっている多数の販売店に納入されているものである。
以上の証明書により、日本全国に散らばっている多数の販売業者が「ゆず七味」「柚子七味」を「ゆずの入った七味とうがらし」の略称として理解・認識し、商品「ゆずの入った七味唐辛子」を「ゆず七味」「柚子七味」という名称で本件商標の査定日である平成6年3月22日前より販売し、かつ、現在も継続して販売している事実を立証する。
次に、甲第175号証乃至甲第177号証は、商品「ゆずの入った七味唐辛子」を「ゆず七味」の名称で販売している大手百貨店(株式会社高島屋・株式会社大丸)の証明書である。
これらの証明書からも、大手百貨店が「ゆず七味」「柚子七味」「柚七味」を「ゆずの入った七味とうがらし」の略称として理解・認識し、商品「ゆずの入った七味唐辛子」を「ゆず七味」「柚子七味」「柚七味」という名称で本件商標の出願日である平成元年12月12日前より大々的に販売している事実を立証する。
また、甲第178号証乃至甲第180号証は、食品衛生法施行規則第5条第3項の規定による製造所固有の記号の届出(写し)であり、平成元年5月26日及び同年6月10日に大分県別府保健所に受理されたものである。
当該届出書の届出記号を使用する食品の名称・商品名の欄に食品の名称(分類名)「香辛料」、商品名「柚子七味」と記載してあることからみても、本件商標の出願日である平成元年12月12日前から「ゆず七味」「柚子七味」が「ゆずの入った七味唐辛子」の商品名(普通名称)として使用され
ていた事実を証明する。
以上より、本件商標は、本件商標の指定商品「ゆず入りの七味唐辛子」なる普通名称の単なる略称を普通に用いられる程度の態様で表わしてなるものであるから自他商品識別力を欠くものである。上述したとおり、本件商標は普通名称にすぎないから、本来、商品の普通名称については商標法第3条第2項の規定の適用は受けられないものであるにも拘わらず、誤って同法第3条第2項の規定を適用して登録されたものである。
3.次に、本件商標は、本件商標の指定商品との関係上単にその商品の原材料を表示するにすぎないものにも該当するが、甲第5号証乃至甲第177号証に示すように、「ゆず七味」は、本件出願人以外の多数の販売業者により本件商標の出願前から大々的に使用されており、かつ、現在も継続して使用されている事実が存在することからみて、本件商標は取引者・需要者が特定の者の業務に係る商品であることを認識することができるものとは到底いえるものではない。
すなわち、商標法第3条第1項3号に該当する商標であっても、使用された結果、需要者が何人かの業務にかかる商品を表示しているものであると認識することができるに至っているものについては、同法第3条第2項の規定により商標登録を受けることができるが、この規定の趣旨は、「特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能をもつに至ることが経験的に認められるので、このような場合には特別顕著性が発生したと考えて商標登録しうることにしたのである。この認定の基準は、当該商標が使用されている具体的な取引の実情を参酌して定められるべきである。」(甲第2号証)ことからして、甲第5号証乃至甲第177号証に示すように、本件商標「ゆず七味」は「ゆず入りの七味唐辛子」を指称する言葉として需要者に理解・認識されるに止まり、特定の者の業務に係る商品を表示するものとして需要者に広く認識されているものとは言い難いから、本件商標は、商標法第3条第2項の規定の適用を受けることはできないものといえる。
判決例においても、使用による特別顕著性について、「『甲州黒』の名称が、良質な黒紋付染の品質の一つを意味するものとして、その需要者に相当程度行き渡っていることはうかがえないわけではないが、本願商標自体の使用によって、本願商標そのものが原告ないしそれをうかがわせる特定の者の業務にかかる商品『黒染織物』ないし『黒紋付用黒染絹織物』を表示するものとして需要者に広く認識されるに至っているものとは、にわかに認め難い。」(東京高裁判決昭和57年6月29日、甲第3号証)と判断されたのは、まさに上記主張に合致するものであり、使用の結果、需要者に当該表示が浸透しているという事情があるとしても、それが商品の品質を示す表示として知れわたっているに過ぎず、特定業者の業務に係る商品を示す表示、すなわち商標として広く認識されているものでない場合には、商標法第3条第2項の規定の適用は受けられないものといわなければならない。
また、長年の使用の結果、自他商品の識別機能を有する著名商標として認識されているか否かについて、「原告が昭和38年ころ以降本件商標の登録に至るまで『オールラウンド』または『ALLROUND』の商標をその製造、販売に係るスキーに使用していたことを認めることができるが、別記認定のとおり『オールラウンド』の語が他の会社等の製造販売に係るスキーについて本件商標の登録前10年余にわたりその品質表示の語として多用されてきた事情を勘案すると、上掲甲号各証及びこの点に関し原告の挙示する他の全証拠をもってするも、いまだ原告主張の右事実を認めしめるに足りず、したがって原告の右主張も採用することができない。」(東京高裁判決昭和62年12月3日、甲第4号証)と判断された事実が存在する。すなわち、商標権者以外にも多数の者により当該商品の品質表示の語として使用されてきたという事実により原告商標につき商標法第3条第2項の規定の適用を排除したことからみて、本件商標の如く商標権者以外にも多数の者により使用されてきた商品の品質表示の語は、自他商品識別機能を欠き商標登録は受けられないものといわなければならない。
本件商標も、甲第5号証乃至甲第177号証に示すように、本件出願人以外の多数の販売業者により本件商標の出願前から大々的に使用されており、かつ、現在も継続して使用されている事実が存在することからみて、本件商標は取引者・需要者が特定の者の業務に係る商品であることを認識することができるものとは到底いえるものではない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第2項の規定により本来適法に商標登録を受けることができないものであったにも拘わらず、本件出願人以外の者の使用事実を無視して登録されたものであるから、商標法第46条第1項の規定に基づきその登録は無効とされるべきものである。
4.商標権者は、請求人等の「ゆず七味」「柚子七味」を普通名称や原材料表示として使用している者に対して、本件商標権を侵害しているので使用を中止されたい旨電話等で強硬に申し入れてきており、甚だ困惑しているものである。
5.答弁に対する弁駁
(1)請求人適格について
商標登録の無効審判は「利益なれば訴権なし」の民事訴訟法上の原則に従い、これを求める法律上の利益を有する場合にのみ請求できると解することは、被請求人の主張を待つまでもなく当然のことであり、請求人にも異論はない。請求人はそのような事実を知った上で、本件商標登録の無効を求めることにつき法律的な利益を有するが故に本件審判請求を提起したものであり、当然に請求人適格を有しているのである。
請求人は、請求書にも明らかなように、本件商標登録出願の平成元年12月12日前から現在に至るまで「ゆず七味」「柚子七味」なる名称の商品を製造し、有限会社三戸本店、有限会社フクナガ物産等の名の下で販売しており、商標法第32条の規定にいう先使用権を有するものではあるが、本件商標権者たる被請求人より侵害警告等を受ける等のおそれがあり、そのような場合、法的紛争に費やす時間、費用等を配慮すれば、予め本件商標に登録無効の事由が存することを明らかにして無効審決を求めることは当然であり、商標法の定める無効審判制度の趣旨に合致するものである。
被請求人は、無効事由の存する登録商標に係る本件商標権を根拠に請求人に対して「ゆず七味」「柚子七味」の名称の使用中止を申入れており、この点のみで被請求人の利害関係人たることは明らかであるが、このようないわゆる侵害警告に紛らわしい行為の存否を問うまでもなく、上記したように被請求人に請求人適格の存することは明白である。
(2)商標法第3条第1項第1号について
第一に被請求人は、請求書に添付した証明書を「販売業者等の私的な証明書にすぎず」とか「10年以上前の販売時期についてどのような根拠に基づいて」とその不当性を主張するが、この種証明書は一私人の証明書が多数存在することにより意味を持つものである。そのことは、被請求人が本件商標登録を受けるに際し、被請求人本人が「私的」と称する証明書でもって商標法第3条第2項の規定の適用を受けている事実、しかもその証明書が平成3年11月6日の時点でもって、昭和59年に遡っている事実を鑑みれば明らかであり、被請求人の主張は根拠のないことは明白である。逆に被請求人が,請求人の提出した証明書の不当性を主張するのなら、本件商標登録を受ける過程で被請求人より提出された証明書こそ、その不当性を問われるべきものである。
第二に被請求人は「ゆず七味」の普通名称性を否定する根拠として「ゆず七味」を他の語、例えば「ゆず入り七味」「ゆずの唐がらし」「ゆず谷村の七味」と呼ぶ場合があることを挙げているが、この主張は不当である。
即ち、普通名称は、唯一その名称で呼ばれることを要するものではなく、他の語と共に併存していても普通名称たり得るものである。
平成2年11月30日名古屋地裁民事第9部 昭和61年(ワ)1394号判決(甲第181号証)によれば、愛知県及び静岡県近郊において壁土等を表わす「ドロコン」という標章に普通名称たることが認められているが、これは、愛知県、静岡県の近郊以外では異なる名称で呼ばれている筈の壁土であるにもかかわらず、この地方で「ドロコン」と呼び慣らされていることをもって普通名称と認められたということであり、日本全国唯一その名称で呼ばれているという状況であることが普通名称たることの必要な条件でないことを示している。
また、平成5年11月10日東京高裁第13民事部 平成5年(行ケ)40号判決(甲第182号証)によれば、「混成集積回路」と「HIC」が何れも同じ商品を示す普通名称として併せ用いられていることが伺い知れるし、更に、平成9年11月27日東京高裁第6民事部平成9年(行ケ)62号判決(甲第183号証)によれば、「うどんを主材料とした鍋料理」を意味する「うどんすき」が普通名称化したと認められているが、特定の造語「うどんすき」が普通名称化するプロセスにあって、取引者、需要者に商品「うどんを主材料とした鍋料理」の一般的名称として認識されるに至った時点では、該商品を表す名称として唯一「うどんすき」のみが存在していたのではなく、他の名称も存在していたことを、判決中には明示されてはいないけれども、伺い知ることができる。
以上のように「ゆず七味」を他の語で呼ぶ場合のあること、それも「ゆず七味」と同義でない語を根拠とする被請求人の主張は不当である。
第三に、被請求人は、請求人による証明は、請求人及び河田柚子園が製造した商品を扱っている業者による証明が殆ど全部であり、特定の製造業者による商品を扱っている業者による証明のみでは普通名称化の証明としては不十分であると主張しているが、不当である。
被請求人は、請求人の提出した証明における「ゆず七味」のメーカーの数の少なさを根拠にしているようにみえるが、「ゆず七味」なる名称の商品が多量に取引に供された場合、例えそのメーカーの数が少なくても、普通名称たることを妨げるものではない筈であるし、また、本件における商品のメーカーの数は、被請求人の理解するように少なくはないとも考えられる。
即ち、一般に「メーカー」というのはその商品の出所を指すもので、商品の品質保証等を含め、その購買者に全責任を負う立場のもので、「あの会社の商品」と呼ばれるにふさわしい立場のものをいい、必ずしも物理的な製造者と一致するものではない。このことは、「メーカー」と称する多数の企業が、いわゆる下請け業者に対して製造の委託を行っている事実からも明らかで、請求人の証明における「ゆず七味」の製造者が殆ど2社にしぼられることのみをもってメーカーの数の少なさを主張するのは不当である。
甲第5号証〜甲第21号証の「柚子七味」商品は、被請求人の製造に係るものであるが、有限会社三戸本店の商品であると理解するのが適当で、有限会社三戸本店がこの商品のメーカーであるとするのが至当であるし、同様に甲第51号証〜甲第68号証の「ゆず七味」商品は有限会社フクナガ物産が、甲第157号証〜甲第170号証の「柚子七味」商品はあべ園が、甲第171号証〜甲第173号証の「柚子七味」商品は佐伯商店が各々「メーカー」であるとするのが適当である。
以上のように、「ゆず七味」「柚子七味」商品は、多数のメーカーにより市場に提供されたもので、特定のメーカーによるものではないと考えるのが至当であるし、仮にそれが特定のメーカーによるものであったとしても多量の「ゆず七味」「柚子七味」商品が取引に供されることにより、その名称が普通名詞として認識され得るものであるから、被請求人の主張の不当は明らかである。
なお、被請求人は、請求人の提出した証明のうち、本件出願日の平成元年12月12日前の販売を証するものが少ないことを主張しているが、商標法第3条第1項第1号の規定の適用については出願日ではなく査定日を基準とするものであり、無意味な主張であると考える。
以上、詳述したように、本件商標の普通名称たることは、被請求人の示す「ゆず七味」以外の名称があったとしても、請求人の提出した甲第5号証から甲第180号証の正当な且つ多数のメーカーの「ゆず七味」商品に係る証明により明らかであり、従って、本件出願日平成元年12月12日前の被請求人の使用状態が如何あろうとも商標法第3条第2項の規定の適用を受けることはできないものである。
(3)商標法第3条第1項第3号と同法第3条第2項について
本件商標は「ゆず入りの七味トウガラシ」を認識させるとして、商標法第3条第1項第3号の規定に該当するものとされたが、いわゆる使用による顕著性が生じたことを理由に、同法第3条第2項の規定の適用を受けて商標登録を受けるに至っているが、本件商標は、出願前使用の事実は認めるものの、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」状態にはなっておらず、いわゆる特別顕著性を備えていないもので、本来的には商標登録を受けることができなかったものである。
即ち、被請求人の「ゆず七味」商標が「何人かの業務に係る商品」であることを需要者が認識するためには、もともとはいわゆる識別性のないとされる「ゆず七味」であるが故に、まずは、周知であることが求められる筈であるが、これを証するものとして、被請求人は、おそらくは業者対象であろう刊行物5誌、パンフレット2通、商品貼付用ラベル26通を示すにすぎず、また、これを補うに、被請求人自らが「10年以上前の販売時期についてどのような根拠に基いて証明したものか」と疑問を投げかける手法でもって得られた証明書12通を示すにすぎず、周知であることを確定するに足らざるものと云わねばならない。
まして、本件の場合「何人かの業務に係る商品」であることを示すということは「ゆず七味」商品を見れば被請求人の商品であることをきわめて高い蓋然性でもって認識しなければならない筈であるが、本件出願日平成元年12月12日において、請求人が証明するように、被請求人以外のメーカーより供給された「ゆず七味」若しくは「柚子七味」商品を多数のものが取引している事実からして、少なくとも取引業者間にあって「ゆず七味」といえば被請求人の商品であるとの認識があったとは考えられるものではない。
被請求人は「本件商標は取引者・需要者が特定の業務に係る商品であることを認識することができる」と主張する。
なるほど、本件商標「ゆず七味」を使用すれば、それは特定の「ゆず入り七味トウガラシ」業務に係るものであることは認識できるけれども、法は「特定の業務に係る」商品たることを求めるのではなく「何人かの(従って、特定の業者の)業務に係る」商品たることの認識を求めているのであり、この点被請求人の理解は誤っている。
また、被請求人は「商標法第3条第2項の適用を受けた経緯があることからして、被請求人による使用により特別顕著性を得るに至ったことは明らかである」ことを根拠に「請求人の主張は失当である」としている。いわば審査を経て登録されたのであるから、これに否やを申し立てるのは不当である、と云うがごとくであるが、無効審判制度の存する意義を鑑みても、その論法こそ不当であり、本件商標が使用による特別顕著性を獲得し、商標法第3条第2項の規定の適用を受けることが妥当であったか否かの一点に絞って主張のやりとりがあって然るべきものであると考える。
請求人はまさにその点につき、本件商標は当該規定の適用を受けるための「何人かの業務に係る」商品たるの要件を欠き、いわゆる使用による特別顕著性を獲得していないので、本来当該規定の適用を受けるべきものではなかったと主張しているのである。
(4)このように、本件商標「ゆず七味」は「ゆず入り七味トウガラシ」を指称する普通名称であって商標法第3条第1項第1号の規定に該当するし、また「ゆず入り七味トウガラシ」を認識させるいわゆる品質表示語で同法第3条第1項第3号の規定に該当するものであったとしても、いわゆる使用による特別顕著性を獲得するに至っておらず、同法第3条第2項の規定の適用を受けることは出来ないものである。利害関係人として請求人適格を有する請求人はそのように確信し、本件商標登録は商標法第46条第1項の規定に基いて無効にされるべきである。

第3.被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第31号証(枝番含む)を提出した。1.請求人適格について
被請求人は、請求人に対して本件商標権を侵害している旨、電話等で申し入れた覚えはないし、まして書面等により警告したこともない。
そして、商標法では、請求人適格に関し、登録異議申立てについては、商標法第43条の2において、「何人も」これをなし得る旨明文化されているのに対し、登録無効審判については、「何人も」これをなし得るとの語句を欠いていることは明らかである。また、審判手続きに関しては、民事訴訟法の種々の規定が準用されていることから、「利益なければ訴権なし」という民事訴訟法上の原則は、商標登録無効審判事件でも本来的に当てはまるとみるのが自然である。
したがって、「利益なければ訴権なし」という民事訴訟法上の原則により、請求人による無効審判の請求は不適法であるので、本件審判請求は商標法第56条で準用する特許法第135条の規定により却下されるべきである。2.商標法第3条第1項第1号について
請求人は、本件商標は、本件商標の指定商品「ゆず入りの七味唐辛子」なる普通名称の単なる略称を普通に用いられる程度の態様で表わしてなるものであるから、商標法第3条第1項第1号に該当し、本来、商品の普通名称については同法第3条第2項の適用は受けられないものであるにも拘わらず、誤って同法第3条第2項の規定を適用して登録されたものである旨主張し、その根拠として、甲第5号証〜甲第180号証を提出した。
しかしながら、これら販売業者等による証明書は、販売業者等の私的な証明書にすぎず、どのような根拠に基づいて普通名称と証明したものか不明である。
一般に商標の普通名称化については「普通名称化したものであることが認定せられるためには、とかく希望的な観察をしがちな同業者間の認識のみではたらず、少なくとも一般消費者が普通名称化していることを認識することが必要であるが、更にそれのみならず、当該商標の取引者間において現実に普通名称として使用せられていることを必要とする。従って、辞書やその他の一般刊行物、当該取引者に関係ない学問的、技術的文献、講演等において普通名称であるかのように使用されているのみでは足りない。」(網野誠著「商標」第4版(第202頁)というのが通説となっている。
これは商標の普通名称化の認定により、商標権の消滅という、個人の莫大な利益が犠牲にされるのであるからその判断には慎重を期すべきことからすれば、同業者間の認識のみでは足らず、a)少なくとも一般消費者が普通名称化していることを認識すること、b)当該商標の取引者間において現実に普通名称として使用されていること、c)辞書やその他の一般刊行物、学問的、技術的文献等において普通名称であるかのように使用されていること、などが要求される。
また、請求人の提出した甲第1号証には(「甲第2号証」は誤り)、ゆずを用いた調味料として「ゆずこしょう」「ゆず酢」「ゆず味増」などが記載されているが、「ゆず七味」は記載されていないことからも「ゆず七味」が普通名称化されていないことは明らかである。
さらに、請求人による証明は、有限会社柚こしよう本舗(請求人)及び河田柚子圏が製造した「ゆずの入った七味とうがらし」を扱っている業者による証明がほとんど全部であり、特定の製造業者による商品を扱っている業者による証明のみでは、普通名称化の証明としてははなはだ不十分である。しかも、本件商標出願日である平成元年12月12日前より販売していたことを証するものは甲第1号証ないし同第180号のほんの一部に過ぎない。
また、「ゆずの入った七味とうがらし」の商品に関して同業他社では「ゆず入り七味」(ハウス食品(株))、「ゆずの唐がらし」((株)桜井)、「ゆず谷村の七味」((株)加藤美蜂園本舗)(乙第2号証参照)などのネーミングを用いており、「ゆず七味」のネーミングを使用しているのは、有限会社柚こしよう本舗及び河田柚子園の製造した商品のみであり、これら特定の製造メーカーが使用しているからといって普通名称化していることにはならない。
したがって、これらの証拠に基づき本件商標「ゆず七味」は普通名称にすぎないから、商標法第3条第1項第1号に該当し、本来、商品の普通名称については同法第3条第2項の適用は受けられないものであるにもかわらず、適用を受けて登録されたとする請求人の主張は認めることができない。
なお、本件商標と同じ第31類には登録商標第1370805号「ゆずぽん」がある(乙第3号証)。この登録商標は、「ゆずのエキスを用いた調味料、香辛料、食用油脂」を指定商品とするものであり、この「ゆずぽん」は柑橘類などの酸味のきいた果汁エキスを用いた調味料である「ぽんず」において、果汁エキスとして「ゆず」のエキスを用いたもの、であることが容易に想像できるものである点において本件商標と共通点を有するものであるが、これについても商標登録として認められており、「ゆずエキス入りぽんず」の造語である「ゆずぽん」などの商標は、特許庁においては一般名称として判断されていないことを裏付けるものである。
3.商標法3条第1項第3号について
(1)本件の場合、査定時において「ゆず七味」の商標を付した商品を製造していたのは、有限会社柚こしよう本舗及び河田柚子園のみであり、証明書についてもこれらの会社から商品を購入している業者が、販売期日を私的に証明しているにすぎず、10年以上前の販売時期についてどのような根拠に基づいて証明したものか不明である上にその販売数量などについても明らかでない以上、「ゆず七味」の商標が被請求人以外の多数の販売業者により本件商標の出願前から大々的に使用されていた、ということはできない。したがって、「本件商標は取引者・需要者が特定の業務に係る商品であることを認識するものができるものとは到底いえるものではない。」とする請求人の主張には承服できない。
なお、請求人は商標登録前の第三者による使用に関し、甲第3号証及び甲第4号証の判例を挙げているが、甲第3号証の事例は、原審に相当する審決で、「使用商標が本願商標と構成を異にするばかりでなく、本願商標が原告の業務に係る商品『黒染織物』を表示するものとして、需要者に広く認識されるに至ったものとは認め難い。」と特別顕著性が否定されたケースであり、当該商標が商標法第3条第2項の適用を受け得るほど広く認識されているものではなかった点で本件とは大きく異なる。
また、甲第4号証は、商標「ALLROUND」の登録前に「オールラウンド」又は「ALLROUND」の商標が多数の会社により製造販売されていた、すなわち、出所の異なる多数の会社の商品にそれぞれ当該商標が使用されていた事例であるから、甲第4号証のケースにおける判断をそのまま本件に適用するのは適当でない。
(2)請求人による商標の宣伝・販売について
本件商標権は、乙第4号証に示すようにその審査段階において「商標法第3条第1項第3号に該当する」として拒絶理由通知を受け、その後、商標法第3条第2項の適用を受けて商標登録が認められたものである。
すなわち、本件商標は、商標「ゆず七味」を付した商品を被請求人が昭和59年10月の販売開始以来、販売促進に努めるとともに、巨額の経費を投じて雑誌などによる宣伝広告等を行った結果、登録時には「ゆず七味」が商標として取引者、需要者間に広く認識されるにいたったことが認められて登録されたものであり、このような宣伝広告等の結果、「ゆず七味」はその販売開始時である昭和59年10月には、「ゆず七味」の商標を付した商品を製造販売するものは被請求人の他にいなかったこともあって、販売直後より売上が急増し、これに伴い、被請求人の努力にもかかわらず、請求人のように「ゆず七味」の商標を用いる他の業者も出てくるようになったのである。 してみれば、本件商標は取引者・需要者が特定の業務に係る商品であることを認識するものができるとして商標法第3条第2項の適用を受けた経緯があることからして、被請求人による使用により特別顕著性を得るに至ったことは明らかであることからすれば、本件商標の査定登録時に本件商標「ゆず七味」は商品識別機能を有し、特別顕著性を有していたというべきである。 さらに付言するならば、被請求人が「ゆず七味」の商標を付した商品の販売を開始したのが昭和59年10月(乙第5号証参照)であるのに対し、請求人の提出した証拠は、その販売期日が古いもので昭和60年であり、後者の販売開始時期は被請求人の販売開始後短期間で行われており、有限会社柚こしよう本舗及び河田柚子園以外に「ゆず七味」の商標を付した商品を製造しているメーカは当時見当たらなかったことなどからすれば、これらの製造メーカーは、被請求人の商品を知得した上で同じ商標を付した商品を製造販売した可能性も考えられる。かかる商標が本件商標の登録前に使用されていたからといって、本件商標に備わった特別顕著性が損なわれるものではないことは、前掲判例や商品に化体した業務上の信用を保護せんとする商標法の趣旨に照らして明らかである。
なお、本件商標に関しては、被請求人と資本を共通にする会社である水工商事株式会社が、本件商標の出願前である昭和60年2月21日に「ゆず七味」とブロック体で縦書きに表記した商標について商標登録出願をした経緯がある(乙第7号証)。しかしながら、これについては、実際に使用していた商標の構成と、出願に係る商標の構成とが異なっていたため、商標法第3条第2項の適用が受けられなかった。そこで、その後、「ゆず七味」の販売を主に行うこととなった被請求人会社により、使用している商標と同じ構成で改めて商標登録出願し直したのである。
そして、被請求人は商品の販売開始後、乙第8号証乃至乙第19号証に示すように1986年〜1995年、1997年及び1998年に全国の麺類業者や関係企業の集まりであるめん産業展に本件商標にかかる商品を出展したり、その他麺に関する雑誌である「めん」1987年9月号(昭和62年9月10日 日本麺類業団体連合会発行:乙第20号証)、「めん」1989年1月号(昭和64年1月10日 日本麺類業団体連合会発行:乙第21号証)、「人気メニューシリーズ そば」(柴田書店発行:乙第22号証)及び乙第4号証の意見書に添付してあるように各種雑誌等に本件商標にかかる商品の広告を頻繁に掲載するなどして、販売促進に努めるとともに、巨額の経費を投じて雑誌などによる宣伝広告等を行ってきている。
このように被請求人がその出願日である平成元年12月12日以前より商標「ゆず七味」を使用し、宣伝広告などを行って業務上の信用をつちかつてきた結果、査定登録時には、本件商標は取引者・需要者が特定の業務に係る商品であることを認識することができるものとなっていることは明らかであり、わずか2業者が「ゆず七味」を製造販売したとしてもそのことによって本件商標が取引者・需要者が特定の業務に係る商品であることを認識するものができないとはいえない。
なお、本件に関しては前述した販売時期に関する経緯、3条2項の適用を受けるために出願し直しているという経緯、被請求人の販売促進活動に関する経緯も斟酌して判断されるべきであることを申し添える。
4.弁駁に対する答弁
(1)請求人適格について
請求人は弁駁書において、請求人は『ゆず七味』、『ゆず七味』なる名称の商品を製造し、有限会社三戸本店、有限会社フクナガ物産等の名の下で販売しているから、請求人適格を有する旨反論している。
しかしながら、本件無効審判請求事件においては、請求人は当該商標を付した製品を製造していると言及するだけで、具体的な証明はなされていない。
また、上記商標を付した「ゆず入りの七味唐辛子」を有限会社三戸本店や有限会社フクナガ物産等は販売しているとしても、請求人とこれら販売会社との関係も立証されていない以上、この販売事実をもって請求人が本件商標権に対して利害関係を有することにはならない。
さらに、被請求人が先使用権を有するのであれば、むやみに訴訟をする意図もない。この点に関しては、本件無効審判の請求の後、請求人の代理人の所属する特許事務所の他の弁理士から非公式に口頭で、請求人が先使用権を有するので無償で使用権を許諾してほしい旨申し入れがあった。そこで、被請求人としては先使用権の有無を確認しこれを検討するために、その先使用権を有することを示す資料を送付してほしい旨返答したが、その後何ら返答がないのが現状である。したがって、請求人が先使用権を有することが明確であれば、侵害警告等をする意図はない。
(2)商標法第3条第1項第1号について
a)請求人は、被請求人が請求人の提出した普通名称に関する証明書に対し、「販売業者等の私的な証明書」であると反論したことに関し、被請求人もその「私的」と称する同様の証明書で商標法第3条第2項の適用を受けた旨反論する。
しかしながら、これは請求人の議論のすり替えである。なぜならば、被請求人は「ゆず七味」の使用による識別性を獲得したことを証明するために「販売業者等の私的な証明書」を提出し、これが認められたのに対し、請求人は、「ゆず七味」が一般名称であることを証明するために「販売業者等の私的な証明書」を提出しているのであって、被請求人は「一般名称」の証明に「販売業者等の私的な証明書」はそぐわない旨を主張しているのであり、両者の位置付けは全く異なるのであるから、同じ立場で議論すべき問題ではない。
また、請求人は、被請求人が普通名称に関する証明書に対し、「10年以上前の販売時期についてどのような根拠にもとづいて証明したか不明である」と反論したことに対し、被請求人も商標法第3条第2項の適用の証明書は平成3年11月6日の証明書において昭和59年に遡っているから同じである旨主張するが、これについても請求人の主張は失当である。なぜなら、請求人の提出した証拠は10年以上経過しているのに対し、被請求人が審査段階で提出した証拠は7年程しか経過していない点で大きく相違する。すなわち、広く産業界において販売記録等の保管は10年を境にして大きくその態様が異なり、10年以上前の販売記録等まで細かく保管しておくことはまれであるが、7年程度であれば、これを保管しているケースは珍しくない。したがって、請求人の提出した証拠が10年以上以前のことであることに疑義をもつことは自然なことであり、これを審査段階の被請求人の証拠と同列視することはできない。
さらに、請求人は、有限会社三戸本店や有限会社フクナガ物産等の販売先である「メーカー」が多量の商品を販売したからその名称が普通名称化した旨主張するが、これはいささか乱暴な議論であって、これだけでは、普通名称としての要件を充足したものではない。基本的には、文献での記載をもって証明すべきである。
なお、請求人は、甲第181号から第183号の判例を提出し、「ドロコン」、「HIC」、「うどんすき」などの例を挙げて日本全国唯一その名称で呼ばれていなくとも普通名称たりうる旨主張する。これらの新規証拠の提出及びそれに関する主張については要旨変更の虞もあるが一応反論すると、確かに普通名称の要件は地方での名称で足りるが、これら「ドロコン」、「HIC」、「うどんすき」などの事例は、普通名称として客観的に認めうるほど普及しているものであるのに対し、本件「ゆず七味」は普通名称として客観的に認められるほど普及していない点で同列に扱うべきものではない。 甲第181号証の商標「ドロコン」及び甲第182号証の商標「HIC」は、それぞれ客観的な文献に記載されている点で普通名称としての最低限の要件を満たしているものである。
これに対し、「ゆず七味」が普通名称であるとする請求人の根拠は、特定の人たちが「ゆず七味」を「ゆずの入った七味とうがらし」という普通名称の略称として認識していたという主観的なものであって、「ゆず七味」の普通名称としての使用を示す文献等は何ら示されておらず「普通名称」としての認定要件を満たすものではない。
b)甲第5号証〜甲第177号証について
請求人は、甲第5号証乃至甲第177号証で「ゆず七味」などの商標を付した商品の販売を事実を証明する証拠を提出し、これを根拠に本件商標「ゆず七味」が「普通名称」であることを主張している。しかしながら、「普通名称」の証明の基準となるのは本件商標の査定日である平成6年3月22日以前であるにもかかわらず、これら甲号証には、その後の販売を証明するものが非常に多く含まれている。したがって、平成6年3月22日後の日付を証明している甲各号証を取り下げることを要望する。具体的には、甲第87号証乃至甲第90号証、甲第119号証乃至甲第122号証、甲第125号証乃至甲第156号証並びに甲第170号証である。
c)普通名称としての立証不充分について
甲第5号証乃至甲第177号証から上記証拠を除いたとしても請求人による「ゆず七味」の普通名称としての立証は不充分であり、「ゆずの入った七味唐辛子」を普通名称と断定する請求人の主張は承服できない。なぜなら「ゆずの入った七味唐辛子」は、本件商標の指定商品ではあるが、これは本件商標の出願の経過において被請求人が商標法第4条第1項第16号に該当しないように指定商品を滅縮した際にかかる指定商品を採用したのであって、「ゆずの入った七味唐辛子」が被請求人が指定商品として採用する以前から普通名称として用いられてきたかどうかは定かではない。
d)甲第178号証〜甲第180号証について
さらに、請求人は平成元年5月26日及び同年6月10日に大分県別府保健所に受理された製造所固有の記号の届出(甲第178号証〜甲第180号証)の「商品名」の記載欄に「柚子七味」と記載してあることをもって「ゆず七味」が普通名称として使用されていた旨主張している。しかしながら、これは明らかに失当である。すなわち、「商品名」の語は乙第27号証、乙第28号証及び乙第29号証などの判例で用いられているように、ブランド名等の商標と同じ意味で用いられるのが一般的である。したがって、甲第178号証〜甲第180号証の商品名の記載欄に「柚子七味」と記載されていることは、請求人が「柚子七味」(ゆず七味)を普通名称ではなく、商標として認識していたことを示すにほかならない。
(3)商標法第3条第1項第3号について
弁駁書において、請求人は、本件商標は、その審査段階で提出した刊行物、パンフレット、ラベル及び証明書による被請求人による特別顕著性の証明が不充分であった旨主張する。しかしながら、被請求人の証拠は内容的に不充分なものではない。したがって、量的に不充分であるとするのであれば、請求人は具体的に何通の書面が必要であるのかを明らかにすべきであり、ただ不充分であると主張するのみでは根拠のない主張といわざるをえない。特に雑誌等の刊行物は全国的に頒布されるもので同業者間に知らしめる効果は大きいと思量する。
次に、請求人が提出した証拠は10年以上経過したものであり、その信憑性について疑義があることについては先に提出した答弁書で述べたとおりであるが、これら請求人が提出した証拠は、ほとんどが中小の業者によるものであり、基本的には大分県を中心とし、九州圏せいぜいで関西圏で使用されてきたものである。これに対し被請求人の商標は基本的には、東日本を中心とするものであり、基本的に両者の範囲は地域的にはあまり重複していないと思われる。前述した商標法第3条第2項の適用を受けるための証拠方法には、地方公共団体、商工会議所等の公的機関の証明書が例示されていることから、当該適用を受けるには地方での識別性で足りる。
(4)商標法第3条第2項に基く無効理由について
請求人が提出した証拠は、中小の業者によるものがほとんどであると思われ、基本的には山口県、島根県、岡山県、広島県などを中心とする中国地方、さらにはせいぜい九州圏、四国圏、関西圏などの西日本で使用されてきたものであり、関東圏など東日本での使用を示す証拠は僅かである。しかも、大々的に使用されてきたことまでは立証されていない。これに対し被請求人の商標は基本的には、東日本を中心とするものであり、両者の範囲は地域的にはほとんど重複しておらず、被請求人の商品と需要者が重複するケースは少ない。
また、商標法第3条第2項の適用は、使用による顕著性を獲得するに至ったものについて、その獲得した顕著性を保護するために、その使用態様に限って商標登録を認める規定であり、その適用を受けるための証明書の内容からして、その識別力の獲得は地域的なもので足りるはずである。さらに商標法第3条第2項の適用にあたっては、当該商標(又はこれに類似する商標)を周知著名でない状態で他人が使用していたことをもって、その拒絶理由とする旨の規定は設けられてはいない。これは、仮に商標法第3条第2項の適用にあたって、周知・著名でない商標が他の地域で使用されていたことを拒絶・無効理由とすれば、商標法第3条第2項の判断時は査定時であるから、出願後の他の地域での周知・著名でない商標の使用により商標法第3条第2項の適用を受けた商標が無効となりうることとなり、先願主義の実効が失われることとなるからである。
さらに、付言するならば、我が国商標法は、先願主義を採用している以上、他の地域で他人が使用している未登録商標と同一・類似の商標が登録されることを容認しているのであって、かかる未登録商標に対する問題点を解消するために、法は未登録の周知・著名商標に対しては商標法第32条の先使用権などの別途保護規定を設けることにより調整を図っているのである。
これらのことからすれば、本件商標はその使用態様に限って認められたものであるから、その査定時に同じ態様の周知商標が存在していれば拒絶・無効理由となるであろうが、請求人の提出している証拠の中には同じ態様のものは認められない。したがって、西日本などの異なる地域で本件商標とその態様が類似する商標が使用されていたという理由では、本件商標が商標法第3条第2項の適用を受けることができなかったことの理由としては不充分である。
(5)結論
以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、本件商標は商標法第3条第1項第1号に該当するものではなく、また、商標法第3条第1項第3
号に該当するものの商標法第3条第2項の規定により登録適格性を具備した商標である。
(6)証拠調べ通知書に対する意見
a)商標法第3条第2項は、同法第3条第1項第3号、第4号及び第5号に該当する商標であっても、使用された結果需要者が何人かの業務にかかる商品であることを認識することができるもの、いわゆる使用により識別力を有するに至った商標についてはこれらの規定にかかわらず商標登録を受けることができる旨規定する。そして、使用により識別力を有するに至った商標として登録が認められるのは、その現実に使用されていた商標と同一の商標及びその商標を使用していた商品又は役務と同一の商品役務に関する場合のみである。
すなわち、法は商標法第3条第2項の適用を受ける商標については、その商標の文言自体に識別性がないことを前提としつつも、使用されたことによって狭義における識別力のみならず、その独占適応性が生じたものについては特例として登録を認めているのであって、本件商標において使用により識別力を有するに至った商標は、商標登録原簿に掲載された毛筆書体で縦書き二列に右側より「ゆず/七味」と記載された態様そのものである。
したがって、本件商標はそもそもそれ自体識別性のない「ゆず七味」なる語からなる商標をその使用の態様と同一のものに限って認められたものであるから、第三者が異なる態様で「ゆず七味」の文字を使用することはあらかじめ許容しているのであって、かかる使用例をもって本件商標が商標法第3条第2項の適用を受けられないとすることはできないことを念頭に判断すべきである。
b)資料別添1〜4に対する意見
証拠調べ通知書では、資料別添1〜4を列記し「上記1ないし4によれば、『ゆず七味』、『柚子七味』及び『ユズ七味』の語が(1)「ゆずを原材料にしてなる七味とうがらし」を表示するものとして、一般需要者に知られていること(2)「ゆずを原材料としてなる七味とうがらし」が複数の者により販売され使用され、また、認識されている事実が認められる。」と認定している。なお資料別添1〜4は(1)のみに該当するもの、(2)に該当するものとがある(例えば、資料別添1は、(2)を証明するものではあるかもしれないが、(1)を証明するものであるとはいえない)。したがって、証拠を提示して理由を付すときには、その証拠によって立証せんとする趣旨を整理して示していただくよう要望する。
まず資料についてそれぞれ簡単にまとめると以下のとおりである。
・資料別添1:河田柚子園の「ゆずの加工品」に関するパンフレット(写)及び該パンフレットを印刷した印刷所(写)の台帳であり、このパンフレットには、「ゆず七味」に関し、ゴシック体で縦書き一連に「ゆず七味」と記載されいる態様と、薬味容器のラベルに毛筆体で横書き一連に「柚子七味」と記載れている態様とが表されている。
・資料別添2:1994年10月14日付の日本食糧新聞の記事の内容を示すものであり、この記事には明星食品(株)の「明星夜食亭シリーズ」に「ゆず七味」が別添される旨記載されており、「ゆず七味」とゴシック体で記載されている。また、この商品に別添される「ゆず七味」がどのような態様で使用されていたかはこの記事からは不明である。
・資料別添3:1992年7月27日付の日本食糧新聞の記事の内容を示すものであり、この記事には真富士屋食品(株)の新製品として「ゆず七味(粉末)」が販売される旨記載されており、「ゆず七味」とゴシック体で記載されている。また、この商品において「ゆず七味」がどのような態様で使用されていたかはこの記事からは不明である。
・資料別添4:1989年2月21日付の日本経済新聞の記事の内容を示すものであるが、この記事には、創業二百五十年の老舗である八幡屋磯五郎がこの度七味にユズをプラスしたものを作った旨記載されており、「ゆず七味」とゴシック体で記載してある。なお、この八幡屋磯五郎が販売している「ゆずの入った七味とうがらし」は、「ゆず七味」ではなく、乙第30号証の1、2に示すように「ゆず入り七味」あるいは「七味唐辛子 ゆず入り」である。
上記別添1〜4を総括するに、確かに別添1〜4では「ゆず七味」の語が用いられていることが認められるが、本件商標と同じ態様で「ゆず七味」が用いられてきたことを示すものはない。「ゆず七味」の語は、「ゆずを原材料にしてなる七味とうがらし」という記述的商標の略称であり、前述したような商標法第3条第2項の適用要件からすれば、本件商標の査定時において、このような記述的商標の略称を第三者が他の態様で使用したとしてもそのことが本件商標の存否に影響することはない。
次に、資料別添1〜4に関して個別に意見を述べると、まず、別添1についてであるが、これはその周知性等が立証されていないことから、(2)「ゆずを原材料としてなる七味とうがらし」が複数の者により販売され、使用され、また、認識されている事実が認められる。」ことのみを立証せんとするものであると思われる。確かに、資料別添1では河田柚子園が「ゆず七味」を販売していることが伺えるが、坂田印刷所の台帳(写)とパンフレットとの関連性が定かでない。すなわち、坂田印刷所の台帳(写)は、これが「ゆずの加工品のパンフレット」に関する入金を示すものでのものであることは推測しうるが、この「ゆずの加工品のパンフレット」が「ゆず七味」の掲載された当該パンフレットを意味していることの証明はなされていない。さらに発行時期に関しても「平成5年8月末売掛金0」だけでは、パンフレットの発行時期が確定的でないし、「5/3 1」の記載が何を意味するのかも不明であり、少なくともこの台帳の前後の記載も含めて判断しなければこの台帳が記載された時期を特定することはできない。したがって、これらの理由から資料別添1については証拠として採用すべきでない。
なお、別添1の坂田印刷所の台帳の記載によれば、このパンフレットは、その印刷部数はわずか2000部であり、この2000部のパンフレットの配布手段や配布地域も定かではないことから、この河田柚子園の「ゆず七味」パンフレットをもって、「ゆず七味」が「ゆずを原材料にしてなる七味とうがらし」を表示するものとして、一般需要者に知られていることを立証するものとしても不充分である。
次に、資料別添2についてであるが、この記事は、その発行が1994年(平成6年)10月14日であり、本件商標の査定日である平成6年3月22日後の記事であるので、この記事の内容により商標法第3条に関する判断が左右されることはありえない。また、この記事内容からすれば、「ゆず七味」はあくまでもカップめんに別添される付録的なものであり、商品の識別標識として使用したものではないから、商標としての使用には該当せず、いずれにしても本件商標に先行する商標とはなりえない。したがって、これらの理由から資料別添2についても証拠として採用すべきでない。
また、資料別添3については、被請求人は、この記事に掲載されている商品の販売元である真富士屋食品に対して、その使用態様等を教えてほしい旨書簡を出したが現時点で返答は得られなかった。また、資料別添3の商品についてその販売数量等も定かでない。したがって、この資料別添3をもって『ゆず七味』、『柚子七味』及び『ユズ七味』の語が(1)「ゆずを原材料にしてなる七味とうがらし」を表示するものとして、一般需要者に知られていることが立証されているとはいえない。また、(2)「ゆずを原材料としてなる七味とうがらし」が複数の者により販売され、使用され、また、認識されている事実は認められるが、この真富士屋食品の『ゆず七味』には、『ゆず七味』の名称が明記されていたのか、明記されていたとすれば、その態様が本件商標と同じ態様であったのか否か定かでない。したがって、この資料別添3をもって、本件商標の態様として「ゆず七味」が使用されていたことを示すものではない。
さらに、資料別添4については、本件商標の査定日以前のものであるが、乙第30号証の1、2に示すように八幡屋磯五郎が販売しているのは「ゆず入り七味」あるいは「七味唐辛子 ゆず入り」であり「ゆず七味」でない。したがって、この記事の文面からすると筆者は、「ゆず入り七味」あるいは「七味唐辛子 ゆず入り」などの商品に対して、無造作に「ゆず七味」の語を用いたと考えるのが妥当である。さらに付言するならば、この記事には「八幡屋磯五郎が今度七味にユズをプラスしたものを作り…」と記載されていることから、創業二百五十年の老舗である八幡屋磯五郎をもってして「ゆずを原材料にしてなる七味とうがらし」を製造したのは1989年(平成元年)の時点ということになる。そして、この時点で「ゆず七味」が普通名称化していたとすれば、そのような名称を八幡屋磯五郎が一切使用していないのは不自然である。これらのことからすると、「ゆず七味」のような製品は比較的新しいものであり、過去において広く製造販売されたものではなかったことが容易に推測され、この時点で普通名称化していたとは考えにくい。したがって、この筆者が無造作に「ゆず七味」の語を用いたのは、「ゆず七味」というブランドの先行する商品があったからであると考えるのが自然である。
そこで、本件商標の出願人ら(以下、被請求人側という)による「ゆず七味」の普及の経緯について言及すると、「ゆずを原材料にしてなる七味とうがらし」に「ゆず七味」の標章を付して販売したのは、乙第4号証、乙第31号証に示すように被請求人側が昭和59年に販売したのが最初であり、それ以前には「ゆず七味」なる商品はなかったと記憶している。そして被請求人側では、「ゆず七味」なる商品の販売開始後、乙第7号証乃至乙第21号証、及び乙第31号証に示すように各種雑誌等に本件商標にかかる商品の広告を頻繁に掲載するなどして、販売促進に努めるとともに、巨額の経費を投じて雑誌などによる宣伝広告等を行い、その名を広めたのであって、その結果として商標法第3条第2項の適用を受け得たのである。したがって、別添資料4の筆者が、「ゆず入り七味」あるいは「七味唐辛子 ゆず入り」などの記述的商標の略称として「ゆず七味」の語を用いたのは、先行する被請求人側の「ゆず七味」が商標としての宣伝活動により広まっていた結果と考えるべきであり、普通名称化した結果であるとする合理的理由はない。また、その後の日付である資料別添2、3についても同様である可能性は否定できない。
以上のとおり、別添資料1ないし4から、本件商標の査定時において(1)「ゆず七味」の語が「ゆずを原材料にしてなる七味とうがらし」を表示するものとして広く需要者に知られているとは認められず、また、(2)「ゆずを原材料にしてなる七味とうがらし」が本件商標の査定時において複数の者により販売等されていたことは認められるが、いずれも本件商標とその態様において異なるものであるから、これら別添1〜4の存在により本件商標が商標法第3条第2項の適用を受けることができなかったことの理由にはならない。なお、資料別添1〜4については、その証拠としての成立も含め、現在その詳細について調査中であり、場所を改めて議論する用意があることを申し添える。

第5 当審の判断
1.本件審判請求に関し、当事者間において利害関係の有無につき争いがあるので、この点について判断する。
無効審判を請求する者は、当該審判請求をするについて法律上の利益を有することを要すると解され、また、商標法第46条(商標登録の無効審判)の立法趣旨は、過誤による商標登録を存続させておくことは、本来権利として存在することができないものに、排他独占的な権利の行使を認める結果となるので、妥当ではないという点にあるものと解される。
そして、それに該当すれば商標登録の無効事由である商標法第3条第1項第1号は、商品の普通名称、及び商標法第3条第1項第3号は、自他商品の識別力という商標の本質的機能に係り、商標登録にあたっての一般的、普遍的な適格性を問題とする条項である。これに該当し本来登録されるべきでないものが登録商標として存在している場合に、この商標権に基づく権利の行使によって、取引社会において、直接かつ具体的に不利益を受ける者があるといわなければならないから、かかる者は無効審判請求の利益を有するとし、本案審理をすることが、商標登録の無効審判の制度趣旨に合致するものというべきである。
しかるところ、請求人は自己の使用商標との関係において、本件商標の「ゆず七味」の語について商品の普通名称であるかどうか、若しくは自他商品の識別力を争うものであり、本件商標の登録の存在によって、商標の使用者としての地位に直接かつ具体的な影響を受け得る者というべきであるから、請求人は、本件審判請求について利益を有する者というべきである。
2.そこで、本案に入って審理する。
(1)本件商標は「ゆず七味」の文字よりなるところ、構成中の「ゆず(柚子)」は、ミカン科に属する柑橘類であり、香りが高いので果実やつぼみを日本料理の香味料として広く利用されているものである。「ゆず(柚子)」は、「ゆずきり(柚子切)」(ユズの皮をすり鉢でよくすり、裏ごししたものを練り込んだソバ。)、「ゆずこしょう(柚子胡椒)」、「ゆずしょうゆ(柚子醤油)」(ユズの絞り汁に醤油を合わせたもの。)、「ゆずしんじょ(柚子真藷)」(大きめの葉つきユズを七三に切り分け、中をくりぬき、ユズ釜を作る。この釜の中に好みの野菜としんじょ地を混ぜ合わせたものを入れ、蒸したり揚げたり、天火で焼いたりする。)、「ゆずす(柚子酢)」、「ゆずみそ(柚子味噌)」、「ゆずようかん(柚子羊羹)」(以上、社団法人 全国調理師養成施設協会・調理用語辞典・平成10年3月14日第一版第17刷発行。)のように、他の香味料や食品と容易に結びつきやすい語である。
また、構成中の「七味」は、その指定商品との関係をみるまでもなく容易に「七味唐辛子」を想起させるものであるから、「ゆず(柚子)」と「七味唐辛子」を併せて「ゆず七味」又は「柚子七味」のような略語を考案することは極めて容易であるといい得るものである。
そして、このように極めて容易に考えられるような略語が全国各地で多数の者によって普通に使用されていたとしても、決して不思議ではない。
(2)商標登録出願に係る商標が、商標法第3条第1項第3号に該当するか否かの判断時期は査定時又は審決時であると解されるところ、本件商標については、平成6年3月22日に登録査定がされたものである。
しかして、請求人提出の甲第5号証ないし同第174号証は、大分県別府市に所在する有限会社柚こしょう本舗製造(請求人)及び島根県鹿足郡津和野町に所在する河田柚子園が主として製造した商品「ゆずの入った七味とうがらし」を「ゆず七味」あるいは「柚子七味」の名称で販売している全国各地の卸売業者の証明書であり、甲第175号証ないし同第177号証は、株式会社高島屋大阪店、株式会社大丸心斎橋店が商品「ゆずの入った七味とうがらし」を「ゆず七味」あるいは「柚子七味」の名称で販売していたという証明書であるが、上記卸売業者の証明書中で本件商標の登録査定時前のものを都道府県別に分けると、山口県32件、島根県19件、広島県16件、岩手県11件、岡山県5件、兵庫県5件、静岡県4件、香川県3件、大阪府3件、その他長野県、京都府、滋賀県、徳島県、石川県、千葉県、茨城県、青森県、福岡県、鳥取県、埼玉県、東京都、愛知県、栃木県、神奈川県、高知県、愛媛県、奈良県、秋田県、和歌山県、北海道、三重県、群馬県等で合計して約130件ほどあり、最も多いのは西日本であるが、北海道、東北地方、関東地方、中部地方、四国も含めて全国的に使用されていたとみられるものであり、数量的にみても相当程度使用されていたものとみられるものである。
また、株式会社高島屋大阪店、株式会社大丸心斎橋店の証明書も本件商標の査定時前のものである。
そして、甲第178号証ないし同第180号証は、食品衛生法施行規則第5条第3項の規定による製造所固有の記号の届出であり、これには商品名として「柚子七味」の記載があり、これらの証明書は平成元年5月26日及び同年6月10日に大分県別府保健所に受理されたものであるところ、被請求人はこれらの商品名はブランド表示であって商品名ではないと主張し、その事実を証明する書面として乙第27号証ないし同第29号証を提出しているが、乙第27号証ないし同第29号証は、甲第178号証ないし同第180号証に示す保健所の証明書とは異なるものである。
さらに、先に通知した証拠調べ通知書における資料別添1〜4の使用例もある。
(3)商標権者が商標法第3条第2項の適用を受ける目的で提出した、乙第5号証の雑誌等における広告例は、「香味七味」と称する3タイプの七味を「七味唐辛子」「のり七味」「ゆず七味」と並べて宣伝、広告しているところ、「七味唐辛子」は明らかに商品の普通名称であるから、これに並ぶ「のり七味」「ゆず七味」もこれと同等の名称として使用されていたものと推察される。
(4)以上の事実を総合勘案するに、本件商標「ゆず七味」又は「柚子七味」等の名称は取引者、需要者において、商品「ゆず入りの七味唐辛子」を指称する商品の品質、原材料を表わしたものと理解、認識させるにすぎないものであるとみるのが相当である。
(5)被請求人は、甲第5号証ないし同第180号証は、販売業者等の私的な証明書に過ぎない旨主張している。しかしながら、これらの証明書によれば、少なくとも全国約130の同業の卸売業者、株式会社高島屋大阪店、株式会社大丸心斎橋店及び大分県別府保健所の証明書があるという事実を認めざるを得ない。
さらに、証拠調べ通知書における資料別添1〜4の使用例等を総合勘案すれば、「ゆず七味」又は「柚子七味」よりなる名称は商品「ゆず入りの七味唐辛子」を指称する語として同業他社により、本件商標の登録査定日前に少なからず使用されていたと判断されるものである。
そして、被請求人の本件商標の使用の事実が、請求人その他の使用の事実を圧倒的に上回っていて、本件商標「ゆず七味」を付した商品「ゆず入りの七味唐辛子」に接する取引者・需要者が、該商品を製造・販売している者が被請求人であると即座に認め得るほど広く知られていたとは到底認め難い。
そうとすれば、「ゆず七味」の文字よりなる本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当し、その上で商標法第3条第2項の適用を受けて登録されたということは誤りであるというべきである。
(6)してみれば、「ゆず七味」の文字よりなる本件商標は、商品「ゆず入りの七味唐辛子」の品質、原材料を、未だ普通に用いられる方法の域を出ない程度の態様で表示するにすぎないものであり商標法第3条第1項第3号に該当し、かつ、商標法第3条第2項の適用を受け得ざる商標であるといわざるを得ない。
(7)したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第3条第2項に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。
(8)なお、本件異議申立は、「商標法第3条第1項第1号に該当し、かつ同法第3条第2項の適用を受けることができない商標である」としているが、異議申立人の主張、証拠に照らし、また、平成13年8月27日付証拠調べ通知書において、「本件商標が商品の品質、原材料等を表示するするものか否かに関し、職権により証拠調べをしたところ、下記の証拠を発見したので、・・・・通知する。」との記載より、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当する点については、同第1号も同第3号も自他商品の識別標識としての機能を有しない点においては同趣旨と認め、商標法第43条の9第1項(職権による審理)に基づき適用した。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1) 本件商標


審理終結日 2002-04-03 
結審通知日 2002-04-08 
審決日 2002-04-24 
出願番号 商願平1-142269 
審決分類 T 1 11・ 17- Z (131)
T 1 11・ 11- Z (131)
T 1 11・ 13- Z (131)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三澤 惠美子小林 由美子 
特許庁審判長 三浦 芳夫
特許庁審判官 柳原 雪身
小林 和男
登録日 1994-07-29 
登録番号 商標登録第2689971号(T2689971) 
商標の称呼 ユズシチミ 
代理人 小谷 悦司 
代理人 植木 久一 
代理人 祐末 輝秀 
代理人 牛木 護 

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