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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) 124
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) 124
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) 124
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) 124
管理番号 1069454 
審判番号 無効2000-35661 
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-12-08 
確定日 2002-12-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第1419427号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1419427号の指定商品中「楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード」についての登録を無効とする。 その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第1419427号商標(以下「本件商標」という。)は、昭和47年6月22日に登録出願され、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、第24類「楽器、その他本類に属する商品」を指定商品として、同55年5月30日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨以下のように主張し、証拠方法として甲第1号証ないし同第33号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)利害関係について
請求人は、現在、被請求人から、東京地方裁判所平成10年(ワ)第11740号事件において、本件商標権の侵害差止等の請求を受けており審理中であるから、本件審判を請求するに当たって重大な利害関係がある。

(2)商標法第4条第1項第10号について
本件商標の構成態様は、「Mマークmosrite」であり、指定商品中「エレキギター」について使用するものであるところ、甲第1号証ないし同第21号証に係る全刊行物における解説及び現場写真の記載を見れば、そこには全て、別掲(2)に示すとおりの構成よりなる「Mマークmosrite of California」の表示(以下「引用商標」という。)が明確に認められるのであり、「MOSRITE」の商標は、セミー・モズレー又は、彼の関係会社の周知著名な商標であることは明らかである。
したがって、本件商標は、その商標登録出願時において、他人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であり、同一の商品について使用するものであり、かつ、被請求人(出願人)は、明らかに「不正競争の目的」をもって商標登録を受けたものといえるのである。
すなわち、被請求人は、昭和43年(1968年)に米国モズライト社と業務提携をし、モズライト社製の「モズライト」製品を大量に輸入することを条件に、「Avenger」印の「Mマークmosrite」の商標のあるギターを製造することを許諾されたファーストマン楽器製造株式会社の木部分だけの下請として1年余仕事をしていたが、この親会社が昭和44年(1969年)7月に倒産したことにより、売掛金の回収ができなくなったことを口実に、親会社が組立て完成させていた「Avenger」印の「Mマークmosrite」のギターの全部を自社で製造し、かつ、商標「Mマークmosrite」のみならず、「THE VENTURES」の商標までも無断で使用し始めたのである。
また、昭和44年(1969年)2月には、セミー・モズレーのモズライト社は1回目の倒産をしていたから、同社の「モズライト」ギターやベースは輸入しなくなったが、モズライト社は、昭和46年(1971年)には再建されているし、わが国への輸出も再開されているのだから、当然、わが国の市場では、被請求人製造の「モズライト」と衝突したはずである。
また、本件商標の出願時には、ベンチャーズーモスライト・インクが昭和40年(1965年)5月8日に出願し、昭和42年(1967年)3月20日に登録した商標「MOSRITE」がまだ有効に存続中であったのであり、その商標権の存在を少なくとも過失によって看過したのであり、しかも被請求人は、本件商標の出願権を譲受けた2番目の出願人からさらに出願権を買わされた。そして、2番目の出願人となった黒沢商事株式会社は、楽器店を経営している会社であり、しかも、被請求人への譲渡交渉の期間がきわめて短いことを考慮すると、本件商標の2人の出願人らの「不正競争の目的」は被請求人に承継されたものと認定されるべきである。
仮に、被請求人は、甲第24号証の1、2に係る登録商標の商標権が存続中であることについて認識がなかったとしても、わが国において、本件商標に係る「Mマークmosrite」又は「Mマークmosrite of California」の商標が音楽関係者あるいはエレキファンにとっては、他人の周知著名な商標であることの認識があった以上、そのような商標を登録して商標権を取得することは不正競争となるとの認識も当然存したものといえるのである。
したがって、本件商標は、商標法4条1項10号に該当する。

(3)商標法第4条第1項第15号について
本件商標は、前記商標法4条1項10号の規定に該当する商標であると同様の理由により、同法4条1項15号に規定する他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であり、「不正の目的」をもって商標登録を受けた場合に該当するものといえるのである。
すなわち、すでに挙げた多くの甲号証によって明らかなとおり、「Mマークmosrite」の商標は、もともと「モズライト」ギターの発明者であるセミー・モズレーが命名した商標であることは当業界では周知の事実であり、被請求人は、それを無断で商標登録した者であることも客観的に周知の事実であることは、被請求人自身が一番よく承知しているはずである。
前記ファーストマン社は、セミー・モズレーの関係会社から大量の「モズライト」ギターをわが国に輸入して販売しているし、また1963年ないし1965年製作の「モズライト」ギターも中古品として市場に出廻っていることを考慮すれば、被請求人の本件商標は明らかに他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標といえるのであり、そして、既に周知著名な商標であることの認識があったにもかかわらず出願したということは、明らかに「不正の目的(不正の利益を得る目的)」があったものといえるのである。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当する。

(4)商標法第4条第1項第16号について
本件商標が16号に該当することは、甲第5号証、同第10号証、同第25号証ないし同第32号証に係る証拠によって証明されるところである。
すなわち、「モズライト」ギターのファンは、その特徴あるデザインのギターに「Mマークmosrite」の商標が表示されていれば、かってセミー・モズレー又は彼の関係会社が製作した「モズライト」ギターと均等の品質を有するギターと誤認することになるのは必至である。
したがって、前記証拠に示すように、本件商標は、エレキギターにおいては元来、周知著名な商標であることから、それをセミー・モズレーや彼の会社とは無関係の被請求人が商標登録をしたことは、「ザ・ベンチャーズ」が弾いてわが国のエレキファンを熱狂させた「モズライト」ギターの品質と誤認を生ずるおそれがあるといえるのである。
したがって、本件商標は、商標法4条1項16号に該当する。

(5)答弁に対する弁駁
(ア)営業組織は個人から会社に変更されたが、営業の場所も内容も実質的に全く変更はない。しかも、個人名義による営業時であっても、その営業名称(屋号)は「フィルモア」であり、この名称で長年営業を行って来たのであり、メールアドレスのドメインネームも「fillmore」である。これらの事実は、顧客からの書翰の宛先を見れば一目瞭然である(甲第25号証ないし同第32号証)。
したがって、請求人は、本件審判請求に実質的に重大な利害関係を有する者であることに変わりはない。
また、請求人にとって、本件商標権は、現在及び将来において、セミー・モズレーが開発し「MOSRITE」と命名したエレキギターの技術を承継し、かつ普及していくためには、存在してはならないものであるから、これを登録無効に至らしめたいのである。
(イ)本件商標は、19号の適用も十分あり得ると考えられる。けだし、被請求人による本件商標の出願は、その動機と状況から見て不正の目的(不正の利益を得る目的)をもって使用するための「悪意の出願」であったといえるからである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求を却下する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第9号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)利害関係について
本件審判事件の請求人は、平成12年4月5日設立された法人としての株式会社フィルモアであるが、請求人が利害関係の根拠として主張している東京地方裁判所平成10年(ワ)第11740号商標権侵害差止等請求事件の被告は、自然人である「フィルモア楽器こと遊佐典之」である。
したがって、重大な利害関係がある旨の請求人の主張は、全くの虚偽であることは明白である。
また、請求人及び遊佐典之が執拗に3回も本件商標登録の抹消を求めようとする訳は、請求人の代表者である遊佐典之が出願中の商標登録願(商願平10ー035356 乙第1号証)にとって、本件商標の存在が障碍となるからであり、また、請求人は、「マルMmosrite」の下部に「of California(筆記体)」を付記した標章等をその輸入、製造、販売にかかるエレキギターやその部品並びに雑誌やインイターネット上の宣伝広告に使用している(乙第3号証、同第4号証および同第5号証)。
そして、請求人及び請求人会社の代表者である遊佐典之は、セミー・モズレーや彼の会社とは全く無関係である。
そうとすれば、請求人は、被請求人を指弾する以前に、他ならぬ請求人自らが「マルMmosrite」商標を「不正競争の目的」および「不正の目的(不正の利益を得る目的)」をもって使用し、わが国の一般消費者をして「モズライト」ギターの品質と誤認を生じさせていることになるのであるから、このような請求人には、本件商標の無効審判請求を求める法律上の正当な利益(訴えの利益)はなく、当事者適格を欠くことが明らかであり、請求人の代表者が本件商標と同一の商標の出願を行っていることを秘したうえ、本件審判請求に及んだことは、禁反言の法理からして、また、信義則に違反するものとして到底許されるものでなく、本件審判請求は、正に権利の濫用に該当するものであることは明白である。
したがって、本件審判請求は、却下または棄却を免れない。

(2)本件商標の使用及び取得の経緯について
(ア)本件商標の使用について
被請求人は、昭和44年(1969年)から現在に至るまで、本件商標を付したギター及びその部品および付属品を製造し販売してきているが、その間の経緯を簡潔に説明すると下記のとおりである。
被請求人の代表者である黒雲清人は、昭和38年、エレキギターの下請け工場として、株式会社テスコ弦楽器製作所(テスコ弦楽器)との取引を開始した。昭和39年10月、被請求人は、有限会社黒雲製作所として法人登記をし、各種弦楽器の下請け製作をしてきたところ、テスコ弦楽器は、ファーストマン楽器製造株式会社から下請けとして「モズライト・ギター」を、被請求人は、さらにその孫請けとして「モズライト・ギター」の木部の製作をしてきた。
昭和43年(1968年)、テスコ弦楽器が倒産したため、被請求人は、昭和44年(1969年)、ファーストマン楽器製造株式会社の下請として、本件商標を付したギターの製造をし、これをファーストマン楽器製造株式会社に納め始めた。
ところが、被請求人が本件商標を付したギターを本格的に製造し始めて間もなくして、ファーストマン楽器は、エレキギターブームの急速な陰りの影響を受けて、昭和44年(1969年)7月倒産に追い込まれたのである。これより以前の同年2月、本家の米国のモズライト社も倒産して消滅した。ファーストマン楽器株式会社が倒産し、ファーストマン楽器の手形は不渡りとなり、被請求人は、売掛金の支払いを受けることができず、かつ、大量の在庫を抱えることとなった。
そこで、被請求人は、やむなく、抱えていた「モズライト・ギター」につき、現在の代理店である日本電通工業株式会社及び大和楽器株式会社へ販路を求めた。
昭和47年(1972年)頃から、被請求人は、「モズライト・ギター」の完成品の販路を本格的に拡大していったが、世情は厳しく、年100本位しか売れない年もあったが、辛抱と努力で乗り切ってきた。
被請求人のモズライト・ギターの製作本数が次第に増え始めた頃の昭和52年(1977年)、突然、黒澤商事株式会社から、「マルMマークmosrite」の商標(出願中)を購入するよう、さもないと、この商標を使用出来なくなるばかりか、損害賠償の請求をするといわれ、約400万円という大金が掛かったが.黒澤商事(株)からこれを買い取った。昭和52年(1977年)9月のことである。この商標は、昭和55年(1980年)5月30日登録となり、以後2回更新されている。
昭和59年(1984年)頃から、被請求人のユーザーからの要望で、「モズライト・ギター」の本件商標「マルMマークmosrite」の下部に「of California」を付記し始めた。
昭和60年(1985年)頃までに、被請求人は、「モズライト・ギター」を累計で約5000本製作販売してきた結果、被請求人の「モズライト・ギター」は、日本全国に知られるようになり売れていくようになった。
昭和60年以降は、被請求人の「モズライト・ギター」の製作販売本数は、平均して、年約1200本である。日本の楽器業界は、マーケットそのものがそれほど大きなものではないので、毎年約1200本の「モズライト・ギター」が売れているということは、また、現在までに累計で約2万1千本の被請求人の「モズライト・ギター」が製作販売されてきた事実は、この「モズライト・ギター」は、その性能に問題がなく、わが国の楽器業界や一般消費者間で、周知であるということが出来る。
被請求人は、ファーストマン楽器の下請けとして、昭和44年(1969年)から、「モズライト・ギター」の製作に関わってきて以来、ファーストマン楽器製造株式会社が倒産してなき後、さらに米国のモズライト社も倒産してなき後、今日まで、約32年間、日本製の「モズライト・ギター」を製作販売し続けて、その品質の向上に努めてきてこれを大切に育てきたことは、日本国の楽器業界や一般消費者に周知の事実である。
(イ)本件商標の取得について
本件商標の出願経過は、乙第6号証(出願書類一式)のとおり、昭和47年(1972年)6月22日出願されたものである。被請求人は、昭和52年(1977年)9月20日商標登録出願中の権利を取得し、同月28日出願人名義変更届を提出したが、本件商標に類似する先登録の商標として、登録第736316号の商標「MOSRITE」および登録第736317号の商標「VENTURE-MOSRITE」が存在していた。この二つの商標は、いずれも、昭和42年(1967年)3月20日登録となったものであるが、アメリカ合衆国カリフォルニア州ハリウッド市ノースハイランド1215所在のベンチャーズーモスライト・インクが所有するものであった。
米国のモズライト社は、日本国では商標登録を全く行っておらず、この関連会社であるベンチャーズーモスライト・インクが、商標登録第736315号「VENTURES」外、上記の2件の商標権を有しただけである(甲第24号証の1、同第24号証の2)。
モズライト社もベンチャーズーモスライト・インクも、本件商標と同一の構成から成る標章「マルMマークmosrite」については、商標権を得ていない。
米国のモズライト社は、昭和44年(1969年)2月に倒産をして消滅した。このモズライト社の関連会社であるベンチャーズーモスライト・インクは、ともに倒産して消滅したためか、これら商標の更新登録手続きをせず、日本国における、これら商標権を放棄したことが明らかである(乙第6号証の1ないし同第7号証の2)。
このように、本件商標は、ベンチャーズーモスライト・インクが、これら商標権を放棄したため、登録の障碍事由が解消し、これら商標権が消滅してから1年余り経過した後、昭和55年(1980年)5月30日登録となったのであり、被請求人の本件商標権取得は、商標法上全く問題はない。

(3)商標法第4条第1項第10号について
(ア)本件商標の登録出願時である昭和47年(1972年)6月22日当時、請求人が引用する標章「マルMマークmosrite」(以下、引用標章という)が他人(米国のモズライト社)の業務に係る商品を表示するものとして、わが国の需要者間に周知となっている事実は全くない。
米国のモズライト社は、昭和44年(1969年)2月に倒産しており、米国のモズライト社からライセンスで「モズライト・ギター」を製造していたファーストマン楽器製造株式会社も昭和44年7月に倒産しているので、昭和44年7月以降は、日本国においては、米国のモズライト社製またはファーストマン楽器製造株式会社製の「モズライト」ギターは1本も出回らなくなったからである。
請求人の提出に係る甲号各証は、本件商標出願日以降のものばかりであり証拠価値は無きに等しく、引用標章の使用主である米国のモズライト社による引用標章の使用期間、引用標章の使用方法や態様、引用標章を使用したエレキギターの製作、輸入又は販売数量、販売地域、取引範囲、広告宣伝の内容や回数等が全く明らかにされていないから、引用標章の使用主である米国モズライト社が引用標章をエレキギターに使用した結果、引用標章が、わが国において、本件商標の登録出願の日前より、需要者間に広く認識されていたということは出来ない(唯一、出願日に先行するものは甲第22号証のみであるが、これはどこにでもある普通のパンフレットに過ぎず、わが国で引用標章が周知であることを示すものではありえない。)。
商標法4条1項10号の適用を受けるには、周知標章が、当該登録商標の出願時のみならず登録査定時においても周知であることが要件である。引用標章がその使用主である米国のモズライト社により使用されなくなってから10年余り経過した本件商標の登録査定時である昭和55年1月11日の時点では既に、米国のモズライト社を使用主とする引用標章は、日本国の一般消費者の脳裏から全く消え去っていたのである。
(イ)10号の規定は、その直接の目的は、商標の使用の事実を保護することにある、即ち、私益保護のための規定と解されている。すると、10号の違反を理由とする無効審判請求の請求人適格を有する者は、この周知商標を現実に継続して使用している使用主である。
本件審判請求にあっては、この審判の請求人適格を有するとなし得るのは米国のモズライト社のみというべきであるが、米国のモズライト社は、既に消滅している。即ち、10号の違反を理由とする無効審判請求の請求人適格を有する者はもう何処にもいないのである。
してみれば、請求人は、10号の違反を理由とする無効審判請求の当事者適格を有しないこと明白であり、請求人には「訴えの利益」がないというべきであるから、速やかな本件審判請求の却下または棄却を求める。
(ウ)本件商標は、設定登録の日から5年を経過している。
本件商標は、先登録の類似商標「MOSRITE(商標登録第736316号)」及び「VENTURE-MOSRITE(商標登録第736317号)」が、更新登録されず、これら商標権が放棄されたために、登録査定となり、商標登録を得たものである。
そして、これらの商標登録権者は、米国モズライト社の関連会社である米国のベンチャーズーモスライト・インクであるから、米国のモズライト社は、日本国におけるこれらの商標権を放棄するともに、これらに類似する引用標章も放棄したものというべきである。
本件商標の登録査定日には、引用標章の使用主たる米国のモズライト社は消滅して存在していないのであるから、「競争」そのものが無いが故に「不正競争」は存在せず、かつ、その使用主とされる米国のモズライト社自身が日本国における引用標章の権利を放棄したものというべきであるから、本件商標が、請求人の主張するような、「不正競争の目的で商標登録を受けた場合」に該当しないことは明らかである。
してみれば、本件商標登録から5年を経過した平成2年5月31日以降は、商標法4条1項10号の該当を理由とする商標法46条に基づく登録無効審判請求は、商標法47条により、商標法上不能であるというべきであるから、本件審判請求は速やかに却下または棄却されるべきである。
(エ)判例は、「かかる全国的に流通する日常使用の一般的商品について、商標法4条1項10号が規定する『需要者の間に広く認識されている商標』といえるためには、それが未登録商標でありながら、その使用事実にかんがみ、後に出願される商標を排除し、また、需要者における誤認混同のおそれがないものとして保護を受けるものである」と判示している(東京高裁・昭和58・6・16判例時報1090号164頁)。
この判例にあるように、商標法4条1項10号の規定は、主として「それが未登録商標でありながら、その使用事実にかんがみ、後に出願される商標を排除する」ためのものである。
請求人が、周知であると主張する引用標章は、ベンチャーズーモスライト・インクが登録所有する商標登録第736316号「MOSRITE」と同一または類似であことは疑いを容れず、この登録第736316号の商標の一つの使用形態であり、引用標章も既登録商標というと同義であるから、結局、商標登録第736316号「MOSRITE」が周知商標であるというに帰着する。
そして、この既登録商標というべき引用標章は、昭和52年3月20日に登録商標第736316号とともに消滅したというべきである。
したがって、請求人が主張するようにベンチャーズーモスライト・インクから使用許諾を受けた者らが使用する引用標章が、本件商標登録出願時である昭和47年6月22日の時点で周知であった(この周知であるとの証明は全くなされてはいないが)にしても、引用標章は、消滅したのであり、本件商標についての昭和55年1月11日の登録査定処分は、商標法4条1項13号を満たすものとしてなされたものなのであるから、商標法4条1項10号の適用がないこと明らかであって、この10号により、引用標章をもって、本件商標の登録を排除することは出来ない。
(オ)判例は、本号(旧法2条1項8号)を適用すべき場合は、出願時に特定人による商標使用の事実がある場合に限られる(大審院昭和16年11月7日判決 昭和16年(オ)第629号)こと、「広く認識されている商標」というのは、未登録商標をいい、登録商標はこの中に包含されない(昭和33年2月19日審決昭和30年(抗告審判)審決公報164頁)こと、商標それ自体が取引者、需要者の間に「どの程度知られるに至った」かが証拠により明確にされないかぎり、前記事実について証明があったとはいえない(東京高裁 昭和28年11月5日判決 昭和27年(行ナ)第20号)など判示している。
請求人は、その主張にかかる周知商標の使用主は、「セミー・モズレー又は彼が設立した会社」であるとし、周知商標主が複数存在する旨主張しているが、上記の大審院の判例に違反する主張である。
請求人の主張する周知商標主が仮にいるとすれば、本件商標の出願日である昭和47年6月22日の特定人に限定される、即ち、ベンチャーズーモスライト・インクに限られるからである。
しかしながら、本件商標が登録査定となった昭和55年(1980年)1月11日の時点では、請求人が周知商標と主張する引用標章は、その周知商標主であるベンチャーズーモスライト・インクおよびその商標の通常使用権者であるファーストマン楽器製造株式会社および米国のモズライト社により使用されなくなってから約10年余りが経過している。
この点につき、請求人が周知と主張する引用標章が使用されていたかのごとき主張は、わが国の商標法上誤りというの外ない。日本国に「モズライト・ギター」が出回った事実が仮にあったとしても、それらは、周知商標主で登録された商標権者であるベンチャーズーモスライト・インク、その通常使用権者である米国のモズライト社またはファーストマン楽器製造株式会社による引用標章の使用意思にもとずき市場に出回ったものではなく、全く無関係の第三者による事実上の流通にすぎないから、わが国の商標法上、使用としての意味がない。

(4)商標法第4条第1項第15号について
本件商標権は、新商標法の施行の際(平成9年4月1日)に現に存していたから、従前どおり除斥期間(5年)の適用があること明白であり、本件審判請求中、商標法4条1項15号の該当を理由とする部分は、その理由の適否を論ずる以前に、商標法上不能であるから、速やかに却下または棄却されるべきものである(附則 平成8年法律第68号抄 第8条第2項)。
(5)商標法第4条第1項第16号について
この規定は、一定の商標がその外観、称呼、観念等から判断して、その指定商品について、その商品の品質が現実に有するものと異なるものであるかのように、世人をして誤認させるおそれがあるような場合が該当する、と解されている。そして、商品の品質または役務の質の誤認を生ぜしめるか否かは、商標自体の構成によって判断すべきであって、商標以外の取引の事情等を勘案して判断すべきではないとするのが、学説・判例の示すところである。
本件商標は、その外観、称呼、観念等から判断して、その指定商品との関係において不実を表示しているため、本件商標によって表される商品に関して、世人をして錯誤に陥らせるようなおそれは全くないこと明白である。
また、請求人の主張に従ったとしても、引用標章が「モズライト」ギターに使用された結果、本件商標の登録査定日の時点で需要者間に広く認識されて著名となっていたということは出来ないから、本件商標が「モズライト」ギターの品質と誤認を生ずることはない。
してみれば、本件商標が商標法4条1項16号に該当する旨の請求人の主張に理由がないこと明らかである。
(6)弁駁に対する反論
(ア)請求人は、本件審判請求に実質的に重大な利害関係を有する者であることに変わりはないと主張しているが、法のもとでは、自然人と法人は峻別されており、請求人の主張は、自然人と法人とを強いて混同せんとするものであって、これが法の初歩的かつ基本的な常識に反するものであり失当という外ない。
(イ)請求人は、本件審判請求の理由として、商標法4条1項19号を追加している。
しかしながら、平成10年法律51号により、無効審判の請求書の請求理由については、請求理由の要旨を変更する補正は認められておらず、無効理由の根拠条文を追加したり変更したりする場合や、無効理由たる事実を証明する証拠を追加したり差し替えたりする場合は、要旨を変更する補正となる(特許法131条2項、商標法56条1項)。
このように、本件審判請求の理由として、商標法4条1項19号を追加することは要旨変更となるから、商標法56条1項に違反するものである。

4 当審の判断
(1)利害関係について
本件審理に関し、当事者間に利害関係の有無について争いがあるので、まず、この点について判断する。
確かに、請求人が利害関係の根拠として挙げている東京地方裁判所平成10年(ワ)第11740号事件において、本件商標権に基づく侵害差止等の請求を受けているのは、「フィルモア楽器こと遊佐典之」であって、本件審判事件の請求人である「株式会社フィルモア」ではない。
しかしながら、甲第33号証(株式会社フィルモアの商業登記簿謄本 乙第2号証も同じ)、同第25号証ないし同第32号証(顧客からの書翰)及び請求人の主張によれば、フィルモア楽器こと遊佐典之は、平成12年4月5日に、営業組織を個人から会社に変更したが、営業の場所も内容も実質的に全く変更はなく、しかも、個人名義による営業時であっても、その営業名称(屋号)は「フィルモア」であったこと、その名称で長年営業を行ってきたものであること、メールアドレスのドメインネームも「fillmore」であったことを認めることができる。
そうとすれば、法律上の人格からみれば、本件審判の請求人である「株式会社フィルモア」と「フィルモア楽器こと遊佐典之」とは別人格であることは被請求人の主張のとおりではあるが、上記事情からすれば、請求人は、本件審判の請求をすることについて、実質的に重大な利害関係を有するものとみるのが相当である。
併せて、請求人は、現在及び将来において、セミー・モズレーが開発した「MOSRITE」エレキギターの技術を承継し、かつ普及していくためには、本件商標の存在が障害になっている旨主張しており、この点からしても、請求人は、本件審判の請求をすることについて、重大な利害関係を有するものということができる。
なお、請求人が「マルMmosrite/of California(筆記体)」の標章等をその輸入、製造、販売にかかるエレキギターやその部品並びに雑誌やインイターネット上の宣伝広告に使用しているからといって、又、請求人の代表者が本件商標と同一の商標の出願を行っているからといって、請求人が本件無効審判の当事者適格を欠くことになったり、あるいは、本件審判請求が権利の濫用になるものということはできない。

(2)商標法第4条第1項第10号について
(ア)引用商標の周知性について
請求人の提出に係る甲第1号証ないし同第32号証及び請求人の主張の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
セミー・モズレーは、昭和28年(1953年)頃から、アメリカ合衆国において、エレキギターの製造を始めた。その後、セミー・モズレーは、モズライト社を設立し、引用商標が付されたエレキギターの製造販売をするようになった。
「モズライト」とは、セミー・モズレーと、同人の初期の後援者であるレイ・ボートライトの名前を合体したものである。
わが国では、昭和40年(1965年)頃から、ベンチャーズーモスライト・インクを通じて引用商標が付されたモズライト・ギターが輸入販売されるようになった。ベンチャーズーモスライト・インクは、昭和40年(1965年)5月8日、「MOSRITE」、「VENTUREーMOSRITE」等の商標をわが国で出願し、これらの商標は、昭和42年(1967年)3月20日に商標登録された。ファーストマン社は、このころから、モズライト社から許諾を得て、「アベンジャーモデル」という「MOSRITE」の標章を付したエレキギターの製造販売をしていたが、被請求人は、その生産に、下請けとして関与していた。
人気ロックグループであるザ・ベンチャーズが昭和40年(1965年)に来日してモズライト・ギターを使用したこと、寺内タケシ、加山雄三といった人気ミュージシャンがモズライト・ギターを演奏に使用したことなどから、遅くとも、本件商標登録の出願時には、引用商標は、モズライト・ギターの商標として、エレキギターを取り扱う業者やエレキギターの愛好家の間では、よく知られるようになっていた。
モズライト社は、昭和44年(1969年)に倒産した。また、ファーストマン社も、同年7月に倒産した。モズライト社は、再建されたが、昭和48年(1973年)に再び倒産した。
被請求人は、上記のとおり、ファーストマン社の下請けをしていたが、昭和43年(1968年)頃から、モズライト・ギターの複製品である本件商標を付したエレキギターを製造販売するようになった。被請求人は、その後、引用商標を付したモズライト・ギターの複製品を製造販売するようになり、現在に至るまで、その製造販売を継続している。
佐藤尚武は、昭和47年(1972年)6月22日、本件商標登録の出願をした。ベンチャーズーモスライト・インクがわが国で有していた「MOSRITE」等の商標は、昭和52年(1977年)3月20日に、期間満了により消滅し、昭和54年(1979年)9月10日にその登録が抹消された。本件商標登録出願権は、昭和52年(1977年)6月16日に、佐藤尚武から黒澤商事株式会社に移転したが、同社からこの権利を買い取るよう求められた被請求人は、これを400万円で買い取り、本件商標登録出願権は、同年9月28日に、黒澤商事株式会社から被請求人に移転した。本件商標権は、昭和55年(1980年)5月30日に登録された。
セミー・モズレーは、上記2度目の倒産後しばらくして、エレキギターの製造を再開し、一時中断した期間はあったものの、継続的にエレキギターの製造販売を続けた。セミー・モズレーは、引用商標を付したモズライト・ギターを製作し、それらは、モズライト・ギターの人気が高かったわが国にも輸出、販売された。
請求人は、昭和51年(1976年)5月に、フィルモア楽器店を開店し、モズライト・ギターの販売を開始した。
セミー・モズレーが、平成4年(1992年)、ユニファイド社を設立したことから、請求人は、同年5月30日、同社にモズライト・ギターの40周年記念モデルの製造を依頼し、引用商標が付された同モデルを輸入販売した。
同年8月、セミー・モズレーが死亡し、ユニファイド社も、平成6年(1994年)に倒産したため、請求人は、平成8年(1996年)11月から、スガイ社が製造したエレキギターを輸入し、販売している。
加山雄三や寺内タケシは、モズライト・ギターを使用して演奏活動を続けており、また、日本には、モズライト・ギターの愛好者が多数存在する。モズライト・ギターの中古品は、市場において高い価格で取引されている。引用商標は、現在に至るまで、モズライト・ギターの商標として、エレキギターを取り扱う業者やエレキギターの愛好家の間で、よく知られている。
以上の事実によれば、引用商標は、本件商標登録の出願時には、セミー・モズレー又は同人が設立した会社が製造するエレキギター(モズライト・ギター)を表示するものとして、需要者の間に広く認識されており、そのことは、本件商標の登録時においても変わらなかったものと認められる。

(イ)商標及び商品の類否について
本件商標は、別掲(1)に示したとおり、外周上に小さな突起のある黒塗りの円形内に、白抜きで欧文字の「M」を表示した図形を配し、その右に「mosrite」の欧文字を横書きにしてなるものである。
これに対し、引用商標は、別掲(2)に示したとおり、外周上に小さな突起のある黒塗りの円形内に、白抜きで欧文字の「M」を表示した図形を配し、その右に「mosrite」を横書きにした部分が、本件商標とほぼ同一である。引用商標では、この下に欧文字の筆記体で、「of California」と表記されているが、「of California」の部分は、「Mマーク mosrite」の下に小さく、欧文字の筆記体で、付加的に記載されているにすぎないし、また、「of California」の部分は、「カリフオルニア州の」といった観念が生じるから、この部分が特段出所識別機能を有するとはいい難い。これらのことからすると、本件商標は、引用商標に類似するものと認められる。
また、引用商標は、楽器であるエレキギターに使用されているところ、エレキギターと本件商標の指定商品中の「エレキギターを含む楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード」とは、その用途、販売部門等を共通にすることの多い互いに類似する商品と認められるものである。

(ウ)不正競争の目的の有無について
商標法47条は、同法4条1項10号に違反してされた商標登録であっても、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き、商標登録の無効審判請求をすることができないと規定するところ、本件無効審判の請求は、商標登録の日である昭和55年5月30日から5年以上経過していることから、本件商標登録が不正競争の目的で受けたものかどうかについて検討する。
請求人、被請求人の提出した証拠及び主張の全趣旨を総合し、前記東京地方裁判所平成10年(ワ)第11740号事件において認定された事実をも併せ考慮すると、佐藤尚武が本件商標の登録出願をした当時には、先に認定したとおり、引用商標は、モズライト・ギター(セミー・モズレー又は同人が設立した会社が製造するエレキギター)を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたのであり、しかも、ベンチャーズーモスライト・インクが「MOSRITE」等について商標権を有していたのであるから、引用商標と類似する本件商標を出願した佐藤尚武には、不正競争の目的があったものと認められる。
その後、ベンチャーズーモスライト・インクが有していた商標権は、期間満了により消滅したが、引用商標がモズライト・ギターを表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたことには変わりがなく、また、モズライト社は、昭和44年(1969年)及び昭和48年(1973年)に倒産したものの、セミー・モズレーは、倒産後もエレキギターの製造を続けており、引用商標が付されたセミー・モズレー製造にかかるエレキギターがわが国に輸入されていたものと認められる。
一方、被請求人は、昭和39年頃から、ファーストマン楽器製造株式会社の孫請けとして「モズライト・ギター」の木部の製作をしてきたこと、昭和44年(1969年)頃から、ファーストマン楽器製造株式会社の下請として、本件商標を付したギターの製造をして、これをファーストマン楽器製造株式会社に納め始めたが、同年7月にファーストマン楽器製造株式会社が倒産したことにより、親会社が組立て完成させていた「Avenger」印の「Mマークmosrite」のギターの全部を自社で製造し、かつ、商標「Mマークmosrite」のみならず、「THE VENTURES」の商標までも使用して、エレキギターを販売していたこと、甲第25号証ないし同第32号証(顧客からの書翰)によれば、被請求人が製造販売していたモズライト・ギターの複製品をモズライト・ギターと誤認して購入した者がいたこと、又、書翰のなかには「本物として販売されている」旨の記載があることも認めることができる。更に、登録後に係ることではあるが、被請求人は、昭和59年(1984年)頃から、「モズライト・ギター」の本件商標の下部に「of California」の文字をも付記し始めたことを認めることができる。
そうとすれば、被請求人が本件商標(出願中)を譲り受けるに至った経緯が被請求人の主張のとおりであったとしても、上記した事実関係に照らしてみれば、被請求人は、引用商標がセミー・モズレー又は同人が設立した会社が製造するエレキギター(モズライト・ギター)を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたことを十分認識していたものというべきであり、かつ、その製造販売にかかるエレキギターを、それがモズライト・ギターの単なる複製品ではなく、セミー・モズレー又は同人が設立した会社と何らかの関係があるとの誤認を生じさせる方法で販売してきたものと認められるから、本件商標の登録時に、被請求人には、不正競争の目的があったものといわざるを得ない。

(エ)なお、被請求人は、商標法第4条第1項第10号は、私益を保護する規定であるから、セミー・モズレー又は同人が設立した会社と関係のない請求人が、同号に該当することを主張することはできない旨主張しているが、同号は、商品の出所の混同を防止する趣旨をも含んでいるから、請求人が、セミー・モズレー又は同人が設立した会社と関係がないからといって、同号に該当することを主張することができないということにはならない。
また、被請求人は、甲号各証は、本件商標出願日以降のものばかりであり、証拠価値は無きに等しい旨主張しているが、甲号各証が出願日以降に出版された雑誌等であるとしても、それらの記載内容は、本件商標の出願日以前からのモズライト・ギター等に関する事情が掲載されており、本件審判事件の判断にあたり、十分斟酌し得るものである。
更に、被請求人は、周知商標主が複数存在するとの主張は、大審院の判例に反する旨主張しているが、大審院の判決における「特定人」が一人に限定される趣旨のものでないことは明らかなところというべきである。

(オ)してみれば、本件商標は、その指定商品中の「楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード」は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものといわなければならない。
しかしながら、本件商標の指定商品中の「楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード」以外の指定商品である「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具」については、エレキギターとは、生産部門、販売部門、需要者、用途等を全く異する非類似の商品であるから、同号に違反して登録されたものということはできない。

(3)商標法第4条第1項第15号、第16号、第19号について
そこで次に、本件商標の指定商品中の「楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード」以外の指定商品である「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具」について、本件商標が上記法条に該当するものであるか否かについて判断する。

(ア)商標法第4条第1項第15号について
商標法47条は、同法4条1項15号に違反してされた商標登録であっても、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、商標登録の無効審判請求をすることができないと規定されているところ、不正の目的で商標登録を受けた場合は、括弧書きをもって除外されている。
しかしながら、その括弧書きの改正がされた平成8年法律第68号の附則第8条第2項によれば、「この法律の施行の際(平成9年4月1日)現に存する商標権についての新商標法第4条第1項第15号に該当することを理由とする商標登録の無効の審判の請求をすることができる期間については、なお従前の例による。」と規定されている。
してみれば、本件商標は、前記のとおり、昭和47年6月22日に登録出願され、同55年5月30日に設定登録されたものであるから、従前どおり、除斥期間(5年)の適用があるものといわなければならない。
したがって、同号に該当する旨の主張については、審理することができない。

(イ)商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、上記(2)の(イ)において述べたとおりの構成からなるものであるところ、その構成からみて、本件商標の指定商品中の「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具」について、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものとは認められず、その証拠もない。又、引用商標との関係からみても、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものとは認められない。

(ウ)商標法第4条第1項第19号について
請求人は、平成13年4月6日付審判事件弁駁書において、本件商標は、商標法4条1項19号にも該当する旨、無効の理由を追加している。
しかしながら、商標法56条1項において準用する、平成10年法律第51号により改正された特許法131条2項は、迅速な審理に資するため、無効審判について、「請求の理由」の要旨を変更する審判請求書の補正を認めないこととしており(平成11年1月1日施行)、無効理由の根拠条文を追加することも要旨変更にあたるものと解されている。
そして、本件審判請求は、平成12年12月8日に請求されたものであるから、上記改正法の適用を受けるものである。
したがって、本件審判事件において、請求の理由として商標法4条1項19号を追加することは、請求の理由の要旨を変更するものであるから、商標法56条1項において準用する特許法131条2項の規定により認められない。
なお敷衍すれば、上記のような場合にあっても、職権審理の対象として取り上げることは可能ではあるが、「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具」との関係において、不正の目的をもって使用をするものと認めるに足る証拠は何ら提出されていないので、職権をもって審理の対象とすることはしない。

(4)まとめ
したがって、本件商標は、その指定商品中の「楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード」について、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とし、請求に係るその余の指定商品については、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標


(2)引用商標


審理終結日 2002-03-28 
結審通知日 2002-04-02 
審決日 2002-04-22 
出願番号 商願昭47-85444 
審決分類 T 1 11・ 272- ZC (124)
T 1 11・ 25- ZC (124)
T 1 11・ 271- ZC (124)
T 1 11・ 222- ZC (124)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 鹿谷 俊夫 
特許庁審判長 涌井 幸一
特許庁審判官 中嶋 容伸
滝沢 智夫
登録日 1980-05-30 
登録番号 商標登録第1419427号(T1419427) 
商標の称呼 モスライト 
代理人 市東 譲吉 
代理人 牛木 理一 

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