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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 101
管理番号 1067941 
審判番号 審判1995-3632 
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1995-02-23 
確定日 2002-09-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第2043365号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第2043365号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2043365号商標(以下「本件商標」という。)は、「レイデント」の文字を書してなり、昭和60年12月18日に登録出願され、第1類「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品として同63年4月26日に設定登録され、その後、平成10年2月3日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べるとともに、証拠方法として甲第1ないし第204号証を提出している。
本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当し、かつ、同法第47条括弧書きの「不正競争の目的で商標登録を受けた場合」に該当するほか、同法第4条第1項第7号にも該当することから、同法第46条第1項の規定により、その登録は無効とされるべきである。

1.引用標章の周知性について
(1)請求人は、本件商標の出願日(昭和60年12月18日)までに、自己の開発した金属表面処理剤を用いて表面処理した各種試供品について、民間企業(理学電機工業株式会社、株式会社島津製作所、株式会社京都科学研究所、松下電器産業株式会社、立石電機株式会社等)や公的機関(大阪府立工業奨励館、京都市工業試験場等)の試験を受けていたものであり(甲第5ないし第41号証)、請求人の金属表面処理剤とその使用による表面処理法の新しさと高い評価が紹介報道され(甲第42ないし第49号証)、また、多方面のユーザーからの注文・依頼を受けて、各種の機械部品や機械材料等の表面処理を行ってきた(甲第56ないし第99号証)。
(2)請求人は、昭和36年に創設された「大日表面工業」から始まり、その後の屋号「冷電鍍工業」を経て現在の「レイデント工業株式会社」が設立登記され、その登記目的の「機械部品及びその材料の表面処理並びに調質」に関係する業務を、「大日表面工業」の当初から約35年間に亘って継続的に営み、現在に至っている。
この点に関し、被請求人は、請求人会社と「大日表面工業」、「冷電鍍工業」の業務の承継関係を示す証拠は何ら提出されていない旨主張しているが、既に提出ずみの甲第5ないし第7号証のほか、新たに追加提出する甲第115ないし第121号証によれば、請求人が現商号「レイデント工業株式会社」を昭和39年12月17日に設立登記する以前に、その屋号を「大日表面工業」、「大日表面工業桃山研究所」あるいは「冷電鍍工業」と称して、既に機械部品やその材料の表面処理並びに調質等の業務を営んでいた事実は明白である。
その当時の住所は、「京都市伏見区桃山町泰長老110番地」であって、甲第1号証や第122号証から確認されるとおり、この住所から昭和56年6月26日に現住所(京都府久世群久御山町大字島田小字江ノ口39番地の3)へ移転している。そのため、万一日付の不明な書証にあっても、この住所の記載から何時のものであるかが判明する。
また、「大日表面工業」を昭和36年5月に創設(甲第115号証)した小川賢は、昭和50年6月16日に死去(甲第123号証)したため、その子である現在の代表取締役の小川郁生が上記業務を引き継いで、現在に至っており、上記住所移転等の記録にも徴せば、被請求人の業務の承継関係は明白である。
(3)本件商標の指定商品である「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」とその使用による表面処理法については、日刊新聞紙上にも大きく紹介報道された(甲第42ないし第47号証)とおり、従来一般のそれが平均20〜50℃に加温された浴槽に浸漬する方法(黒色クロムメッキ方法)であるのに反し、請求人が独自に開発したそれはマイナス5゜C〜マイナス20゜Cの特殊な金属表面処理剤に浸漬する方法である。
請求人は、この金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法の総称として、自己の商号に冠した「レイデント」という簡略な片仮名文字を与え、その文字標章(以下「引用標章」という。)を業務用パンフレット(甲第2ないし第4号証)に表示して使用し、多方面のユーザーや取引先等に配布する一方、新聞・雑誌等にも広告し(甲第50ないし第55号証)、その商標としての周知化を図ってきた。
また、現商号「レイデント工業株式会社」の設立登記後も、旧代表取締役の小川賢は、昭和50年6月までの生存中、甲第119ないし第121号証や甲第124ないし第126号証のような各種カタログや会社案内を作成・配布するとともに、科学者グループからなる永井親和会の会員(甲第127号証)や日本化学技術会議の会員(甲第128号証)となって、独自に技術開発した特殊な金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法の訴求と営業活動に努めてきた。
さらに、甲第120号証や第124号証から明白なように、昭和42年5月には現在の住所(京都府久世群久御山町大字島田)に新工場を建設し、甲第129ないし第140号証に示すような多数の大企業から受けた問い合わせ・注文に応じて、その指定された機械部品の表面処理を行う一方、甲第141号証から示唆される商事部液販課を設けて、その金属表面処理剤の販売活動も行っていた。
(4)被請求人は、本件商標の出願前に請求人が実際に使用しているとする商標の構成はどのようなものなのか特定できない旨主張し、さらに、被請求人の考えるところでは、請求人の提出に係る甲第1ないし第99号証を精査してみても、請求人は極めて限られた商品のめっき加工という役務(サービス)を提供するに当たって、商標の構成を特定せずに気ままに使用していることを窺わせるにすぎない(請求人が主張する未登録周知商標の商標の構成の特定がなされていない)旨主張している。
しかし、被請求人のこのような主張は、特殊な独創性の高い字体の文字標章を、しかもその説明文中へ一連に羅列せず、それ自体の単独(ワンポイント的)に存在する配置・状態として大書したものだけが商標であると解釈していることにほかならず、請求人としては到底首肯できない。すなわち、本件商標は、「レイデント」を手書きした外観構成であり、その文字標章の字体もいわば筆文字の痕跡をとどめたありふれた明朝体として、一般の新聞や書籍等にみられるものと大差はなく、特殊な独創性を全く有さないものである。
請求人が自己の開発した金属処理剤と金属表面処理法について引用標章「レイデント」を使用してきたことは、甲第2ないし第4、第118、第119、第124及び第125号証の各種パンフレット、甲第42、第46及び第50号証の新聞広告、甲第51ないし第55号証の雑誌広告等から明白であるが、さらに、上記各種パンフレットの配布事実を示す甲第182ないし第192号証、その印刷事実を示す甲第193号証並びにその印刷を含む請求人の宣伝広告費一覧表を示す甲第194号証を提出する。
(5)以上の事実から明白なとおり、請求人が、その商号「レイデント工業株式会社」の略称として、上記金属表面処理剤やその金属表面処理に使用してきた引用標章「レイデント」は、遅くとも本件商標の出願日当時、少なくとも近畿地方の金属表面処理業界やユーザーの間において周知されていたというべきものである。
そして、引用標章「レイデント」と本件商標とは、実質的に同一であり、しかも、本件商標の指定商品である「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」は、その表面処理以外には使用しない商品として、商品と役務との不可分な関係にもあるため、その指定商品も明らかに引用標章のそれと類似する。

2.「不正競争の目的」について
(1)請求人は、その商号が「冷電鍍工業」の時代から永く使用し続けてきた引用標章「レイデント」について、本件商標と全く同一の商品を指定して、昭和50年6月20日に登録出願(商願昭50‐81252)を行い、登録査定(同54年11月9日)を受けることができたが、商標管理上の不手際により登録料の納付を看過したため、同55年5月9日に出願無効となった。
しかし、その間はもとより、その後も現在に至るまで引用標章の使用を継続しているが、やがて上記出願無効の事実が被請求人や同人の所属していた件外有限会社吉崎メッキ化工所(以下「(有)吉崎メッキ」という。)に知れる結果となった。(有)吉崎メッキは請求人との同業者であり、現商号の株式会社吉崎メッキ化工所(以下「(株)吉崎メッキ」という。)となる前の旧商号の当時(昭和47年)から、請求人と技術的な協力関係にあったからである。
(2)(有)吉崎メッキ(東京都田無市芝久保)の「LAYDENT・レイデント」と大書されたパンフレット(甲第101号証)には、「京都のレイデント工業(株)の支援を得まして此の度東京での第一号工場が誕生致しました。」と明記され、また、昭和55年以後に発行された同社(東京都立川市砂川町)の同じ表題を冠したパンフレット(甲第102号証)や、同社(東京都立川市1番町)の「LDレイデント」と大書されたパンフレット(甲第103号証)には、いずれも「本技術は昭和47年より京都のレイデント工業(株)の支援を得まして研究を続けて参りました。」と明記されている。
さらに、昭和51年3月12日付けの日刊工業新聞(甲第44号証)にも、「吉崎メッキ化工所は超薄膜防錆加工を目的にした『レイデント』処理の受注活動に本腰を入れる方針である。・・・(中略)・・・レイデントはレイデント工業(京都)の技術援助を受けて実用化を進めているもので、耐蝕、防錆を目的とした黒化仕上げ・・・」と掲載報道されている。ここに、「京都のレイデント工業(株)」や「レイデント工業(京都)」とあるのは、請求人自身を意味しており、このことも金属表面処理業界やユーザー間での周知事実である。
また、請求人と(有)吉崎メッキとの間では、実際にも注文書や売上元帳(甲第104ないし第106号証)から明白なとおり、請求人の上記金属表面処理剤を売買する商取引が行われていたのである。
この点に関し、被請求人は、(有)吉崎メッキとレイデント工業(株)との間には、金属表面処理剤の売買取引を継続的に行ったという事実はなく、技術協力関係も存在していない旨主張しているが、それらの売買取引や技術協力関係があったことは、甲第114号証(審判平6-9256号の審決)でも肯定されているのに加え、新たに甲第178及び第179号証を提出するものである。
(3)被請求人(吉崎晴好)は、(有)吉崎メッキ代表取締役吉崎周良の次男であり、また、現在の(株)吉崎メッキ代表取締役吉崎一紘は、同じく吉崎周良の長男である。そして、(有)吉崎メッキの昭和59年5月31日付け登記簿謄本(甲第107号証)によれば、その当時、被請求人は同社に所属しつつも、取締役になっていなかったが、その後の同60年4月8日付け同社の登記簿謄本(甲第108号証)によれば、同社の取締役として就任している。
その意味から、被請求人が、同社の上記パンフレットや新聞に掲載の事実と経緯についてはもとより、請求人の上記金属表面処理剤とその表面処理法に使用していた引用標章の存在を知らぬ筈はない。まして、昭和50〜60年当時には、請求人と(有)吉崎メッキとの間において、フランチャイズ方式での金属表面処理に冠する契約締結の商談が進行中にあり、そのための「レイデント基本契約書」を請求人から同社へ送付していた。
その「レイデント基本契約書」の調印・返送を催促する昭和59年5月20日付けの書簡(甲第110号証)や同年5月31日付けの別の書簡(甲第111号証)も、請求人から同社へ送付したが、これらに対する同年6月9日付けの返信書簡(甲第112号証)では、被請求人が同社の担当部長として、上記基本契約書の内容に種々の条件を付与することにより、その契約締結に難色を示してきた一方、同社から請求人に対する上記金属表面処理剤の補給注文等も途絶えたままで、現在に至っている経緯がある。
この点に関し、被請求人は、請求人は上記「基本契約書」を証拠として提出していないと主張し、さらに、甲第112号証をみる限りでは、「基本契約書」では当時請求人が提供しようとしていた触媒の薬品名が確認できないため、それらの確認を行うことによって薬品を取り扱う者としての責務を果たすために甲第112号証に示される申し入れを行ったものである旨主張している。
しかし、甲第112号証をみれば、その「基本契約書」における個々の条文を挙げた具体的な指摘や加除訂正がなされていることに徴し、その基本契約書が請求人から被請求人の手元に届いていたことは明白であり、今更請求人から証拠として「基本契約書」を提出するまでもない。
また、「基本契約書」で薬品名が確認できなかったという点については、その当時までに被請求人の所属していた(有)吉崎メッキと請求人との相互間では、甲第104、第105、第151、第152、第168、第170ないし第173号証から明白なように、請求人の金属表面処理剤を売買する商取引が何回も継続して行われていたため、さらに(有)吉崎メッキも請求人の金属表面処理剤を第三者へ販売(液販)していたため、その後の昭和59年6月に至っても、未だ薬品名を確認できなかったということはあり得ず、被請求人の主張には全く理由がない。
(4)本件商標が、上記商談を始めてからの昭和60年12月18日に出願された事実に鑑みれば、その商談進行中に被請求人や同人の所属していた(有)吉崎メッキにおいて、請求人の出願に係る商願昭50-81252が出願無効になったことを知り、被請求人の個人名義として本件商標の登録出願を密かに行うとともに、これに基づき上記基本契約書の締結を反古したものと考えられる。
そのことは、本件商標の外観構成が甲第100号証から明白なように、請求人が出願していた上記商願昭50-81252(商公昭54-19754号)のそれと全く同じ字体の文字標章からなり、その指定商品も全く同じであって、偶然の一致とは到底考えられない。甲第100号証を知っていなければあり得ない作為であり、他人(請求人)の名称に冠した文字標章「レイデント」の取得に固執していること自体、その他人(請求人)の周知商標に化体した信用を利用せんとする意図である。
被請求人は、乙第6号証の1ないし16、第7、第8号証の1ないし10に基づき、あたかも被請求人が片仮名文字からなる標章「レイデント」を考えていたかの如くに答弁している。しかしながら、問題なのは、この「レイデント」を考えていたか否かではなく、これが他人(請求人)の使用商標を知りながら密かに出願し、商標登録を受けたことにある。被請求人の答弁では、本件商標の登録を得たことの正当な理由には到底なり得ない。
(5)以上のとおり、被請求人が本件商標の登録を取得した行為は、信義誠実の原則に反し、公正な競業秩序を乱すばかりでなく、請求人が独自に技術開発し、永年の営業努力を積み重ねてきた金属表面処理剤と金属表面処理法の名声にただ乗りし、又はその名声を毀損させ、引用商標「レイデント」に化体した信用と顧客吸引力を稀釈化させる不正競争行為にほかならない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べるとともに、乙第1ないし第18号証(枝番を含む。)を提出している。

1.引用商標の周知性について
(1)本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとして、その登録を無効にするに当たっては、引用標章が、本件商標の出願時及び査定時において我が国内の需要者の間に広く認識(周知)されていなければならない(商標法第4条第3項)。そして、その周知性の立証に当たっては、以下に示すような事実を総合勘案して客観的に判断することが必要であり、請求人は、そのための証拠を提出すべきものと思料する。
ア.実際に使用している商標と役務(商品)
イ.使用開始時期
ウ.使用期間
エ.使用地域
オ.広告宣伝の方法、回数及び内容
カ.営業の規模(店舗数、営業地域、売上高等)
(2)請求人の提出に係る証拠を検討すると、甲第1号証(請求人の登記簿謄本)によれば、請求人会社は、昭和39年12月に設立され、資本金は1964年が100万円、1969年が400万円とし、業務内容は「機械部品及びその材料の表面処理並びに調質、飲食店の経営、各種食品の販売、電機ストーブの製造及び販売、前各号に付帯する一切の業務」とするものであるが、請求人会社の売上高の推移、従業員の伸張、事業所数の推移を示す証拠は提出されていない。
また、甲第5号証(理学電機工業株式会社の昭和39年6月15日付け検査結果通知書写し)には「大日表面工業」の文字が、甲第6及び第7号証(株式会社島津製作所の試験検査成績表写し)には「冷電鍍工業KK」の文字がそれぞれ読みとれるものの、請求人会社と「大日表面工業」、「冷電鍍工業KK」の業務の承継関係を示す証拠は何も提出されていない。
(3)次に、甲第2ないし第99号証をもとに請求人の引用標章の使用態様及び使用実績についてみると、甲第3号証(パンフレット)には、レイデント処理液の商品名として「レイデント・ハイブラック(建浴液)#501」や「レイデント・ハイブラック(調整液)#502」、「Radiant LAYDENT」が、甲第4号証(パンフレット)には、「RAYDENT」や「レイデント処理について」がそれぞれ掲載されている。
しかしながら、甲第2ないし第4号証の証拠の印刷日、配布先が不明であり、真に顧客に配布されたものであるとの立証もない。さらに、甲第3及び第4号証に表記された標章の構成(態様)は、上記のように統一されたものではなく、甲第100号証(商公昭54-19754号公報等)の商標の構成とも一致していないため、甲第3及び第4号証が本件商標の出願前に顧客に配布されたものだとしても、本件商標の出願前に請求人が実際に使用しているとする商標の構成がどのようなものかは被請求人には特定できない。
(4)請求人は、甲第5ないし第41号証(試験検査成績表及び試験結果報告書等)から明白なとおり、本件商標の出願日(昭和60年12月18日)までには、請求人が独自に開発した金属表面処理剤を用いて表面処理した各種試供品について、ユーザーの民間企業(理学電機工業株式会社、株式会社島津製作所、株式会社京都科学研究所、松下電器産業株式会社、立石電機株式会社等)の試験を受けるとともに、公的機関(大阪府立工業奨励館、京都市工業試験場等)の試験も反復的に受け、徐々にその防錆や改質等の有効性が高く評価されるに至った旨主張している。
しかしながら、乙第1号証(神奈川県メッキ工業組合編「めっき基礎読本」)のめっき検査に関連する記述からすると、請求人が提出した甲第5ないし第41号証(試験検査成績表及び試験結果報告書等)は、めっき加工業者である請求人がめっき処理した製品に「塩水噴霧試験」による検査を行った検査結果を示す資料であり、めっき被膜が製品として適正なものであるかどうかを判定するものであって、めっき加工業者であれば当然に行う製品の検査結果を示すものにすぎず、請求人の上記主張内容を示すものではない。
(5)また、甲第42号証(昭和46年10月8日付け日刊工業新聞抜粋写し)には、請求人の提供する「黒色防錆薄膜処理法」が「レイデント法」であることが記載され、甲第43号証(昭和50年10月16日付け日刊工業新聞抜粋写し)には、請求人の提供する「黒色防錆薄膜処理法」が「レイデント処理法」であり、「レイデント処理液で通電する・・・」旨の記載がある。
甲第45号証(昭和59年12月5日付け日刊工業新聞抜粋写し)には、請求人の提供する「黒色防錆薄膜処理法」が「レイデント処理法」であること、同様に甲第46号証(昭和60年1月30日付け日本工業技術新聞抜粋写し)及び甲第47号証(昭和60年3月20日付け日本工業技術新聞抜粋写し)には、請求人の提供する「黒色防錆薄膜処理法」が「レイデント処理法」であることが記載されている。
甲第48号証(第21回名古屋工業技術試験所研究発表会の予稿集抜粋写し)には、「資料をレイデント工業(株)の協力のもとに制作し、・・・」ことが記載され、甲第49号証(昭和58年6月15日株式会社広信社発行「表面技術総覧(めっき・陽極酸化編)」抜粋写し)には、浴液名が「レイデントハイブラックL‐SL」であることが記載されている。しかし、この「レイデントハイブラックL‐SL」の組成の詳細は不明との記載があり、浴液を組成している薬品名を特定することすらできていない。
(6)請求人は、甲第50号証(昭和60年1月9日付け日刊工業新聞抜粋写し)の新聞広告や、甲第53号証(雑誌「電子材料」1985年3月号の広告抜粋写し)及び甲第54号証(雑誌「M&E」1985年9月号の広告抜粋写し)の雑誌広告において、「レイデント処理」の標章を使用し、甲第55号証(雑誌「アルバイトニュース」昭和59年11月2日号の広告抜粋写し)のアルバイト求人広告において、「レイデント処理(表面処理工法)」の標章を使用している。
そして、請求人は、「レイデント」が、上記金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法の商標として、ユーザー等多方面の認知を受けていた実績もある旨主張しているが、この主張は、甲第56ないし第99号証のどの証拠に基づくものなのかが具体的に示されていないのみならず、そもそも甲第56ないし第99号証は、請求人の相手先より真正な取引書類であったとの証明もない。
請求人がユーザーに配布していたとする挨拶状の甲第148号証も、実際に配布されたとの立証がない。また、甲第77及び第78号証に記載された昭和50年10月16日付け日刊工業新聞とは、甲第43号証のことと思われるが、これには請求人が提供する「黒色防錆薄膜処理法」が「レイデント処理法」であること並びに「レイデント処理液で通電する・・・」ことが記載されているだけであり、請求人が主張するような周知性を立証する資料にはなり得ない。
(7)一方、商標法上の商品は、少なくとも、一般市場で流通に供されることを目的として取引対象となる動産であって、大量生産が可能なものをいうと解されるところ、請求人が提出した証拠を精査しても、商品との関連で特定の構成を有する商標が使用されていることを窺わせるのは、わずかに甲第3、第125号証のみであり、実際の商品の販売形態(例えば、いかなる容器にどのような商標を付し定価をいくらとして販売しているのか)を示す証拠の提出がない。
請求人は、「本件商標の指定商品『金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤』は、薬局において一般個人の消費者向けに市販されている薬品と異なり、・・・金属表面処理業者以外には使用することがあり得ない専門技術分野の特殊品(危険物)として、その役務(金属表面処理業)と不可分の関係にあり、そのための許可を受けた設備がなければ、商品の製造や役務の提供を行なえるものではない」旨主張し、さらに、「請求人の開発した金属表面処理剤も、甲第2ないし4、第118、第119、第124、第125号証等から明白なように、本件商標の指定商品と同じものであり、殊更クロム酸に添加する新しい触媒として、その金属表面処理液(メッキ浴液)の濃度調整を含む使用法に独自の技術的なノウハウがあり、設備としても特別な冷凍機(冷却機)等を必要とするため、上記金属表面処理剤を同業者(金属表面処理業者)の注文に応じて納品した場合には、必ず請求人の技術者が立ち会って、その使用上の技術的な指導と協力を行っていた」旨主張する。
そうすると、請求人が売買していたと主張する「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」とは、役務「めっき」を提供するために付随的に取り扱っている商品と解され、商標法上の商品、すなわち一般市場で流通に供されることを目的として取引対象となる動産であって大量生産が可能なものには該当しない。

2.不正競争の目的について
(1)請求人は、(有)吉崎メッキと請求人会社は昭和47年から技術的な協力関係にあった旨主張しているが、両社の関係は、(有)吉崎メッキがレイデント工業(株)の自称「レイデント液」という薬液の提供を一時期受けたことがあるにすぎない。甲第101ないし第103号証は、単にこのことを意味する程度にすぎず、レイデント工業(株)との間に特別な協力関係は存在していないし、請求人が開発したと称する金属表面処理剤の使用による金属表面処理上の技術的な指導を受けたこともない。さらに、レイデント工業株式会社との間で金属表面処理剤の売買取引を継続的に行っていたという事実もない。
甲第101号証等の当社パンフレットにおける「レイデント工業(株)の支援を得まして」との記載、甲第104号証の当社注文書における「諸条件御社の規定による」との記載は、レイデント工業(株)に対する当社の精一杯の外交辞令である。
甲第104及び第105号証(注文書)は、現商号に変更する前の(有)吉崎メッキの注文書と思われる。この注文は前社長の吉崎周良が行い、現物の受け取りの際の立ち会いは、当時の現場の責任者であった吉崎一紘(吉崎メッキの現在の代表者)が担当したものである。1回目の納品は、レイデント工業が薬品をトラックで持参した。通常、毒物劇物の譲受けを行う場合、商品名、薬品名、数量を確認後「毒物劇物譲受書」に記名押印するが、レイデント工業からはそのような譲受書の提出はなく、また、レイデント工業が上記「レイデント液」と称して持参した薬品の容器には、商品名、薬品名、白地に赤字にて医薬品用外劇物の表示、数量、製造者の名称及び住所、販売者の名称及び住所、レイデントの表示はなかった。
また、請求人は、自社の上記金属表面処理剤とその処理方法に使用していた文字標章「レイデント」の存在を知らぬ筈はない旨主張しているが、当時の現場担当者(吉崎一紘)がその存在を知り得なかった事実を被請求人(吉崎春好)も知ることはできなかった筈と思料する。
(2)甲第112号証(1984年6月9日付け書簡)によれば、被請求人が、(有)吉崎メッキの総務部長として請求人会社の提示に係る「基本契約書」に対し請求人会社に申し入れを行ったことになっている。しかし、請求人は、この「基本契約書」を証拠として提出していない。
被請求人は、この「基本契約書」の内容については、請求人からの提出をまってその内容を確認した上で答弁したい。レイデント工業は、弊社との地域的な棲み分けを図るために、「基本契約書」(素案)を提示してきたものと推察される。
(3)被請求人が「Laydent」や「レイデント」と命名したのは、昭和44年12月頃にクロム廃液の電気分解処理実験をしていたとき、実験に使用していた鉄の陰極が茶色に変色し、この「茶色をした薄い緻密なめっき層」の英訳が「Layer Density Obtained from a Dun Tone Film」であり、「電気めっき」のことを「電鍍」(デント)ということも勘案し、前記英訳の「Layer」の「La」、「Density」の「Den」及び「Tone」の「To」をとり、語呂もよいため「Laydent」や「レイデント」とし、密かに心に暖めていたものである。
その後独立に備え、被請求人は登録第2043365号商標として「レイデント」の商標権を取得した。

第4 当審の判断
1.請求人の提出に係る甲各号証を総合すると、本件商標の出願前において、以下の事実が認められる。
(1)請求人(レイデント工業株式会社・昭和39年12月設立)は、本件商標の出願(出願日・昭和60年12月18日)前から、片仮名文字からなる引用標章「レイデント」を自社の開発した黒色金属表面処理剤及びこの処理剤を用いる黒色防錆薄膜処理法という金属表面処理法(以下「黒色金属表面処理」という。)に使用してきた(甲第1、第10、第39、第42ないし第47、第50ないし第55、第57ないし第96、第98、第104、第105、第131、第132、第134、第136ないし第138、第140、第141、第160及び第161号証)。
そして、上記各証拠においては、引用標章を冠した「レイデント液」、「レイデント処理液」、「レイデント処理触媒液」等の表示が使用されているが、それらの表示中の「液」、「処理液」及び「処理触媒液」は、いずれも上記黒色金属表面処理剤を指すものと認められる。
また、上記「黒色金属表面処理」については、これと同一又は同種の表面処理を表す語として、他に「金属材料の表面黒化」、「黒色皮膜処理」、「超薄膜黒色法」等の表示が使用され、さらに、引用標章を冠した「レイデント処理(法)」、「レイデントメッキ」、「レイデント加工」等の表示が使用されているが、それらの表示中の「処理(法)」、「メッキ」及び「加工」等も、同様に黒色金属表面処理を指すものと認められる。
なお、上記「黒色金属表面処理剤(商品)」と「黒色金属表面処理(役務)」とは、その処理工程上密接不可分な関係にあるものといえることから、以下においては、これらを一括して「黒色金属表面処理等」という場合がある。
(2)黒色金属表面処理等(引用標章を冠した「レイデント処理」や「レイデント加工」と称している場合が多い)に関する取引は、多くが近畿地方の企業と行われていたほか、東京や名古屋等の企業とも行われていた(甲第50、第53ないし第55、第57ないし第59、第61、第62、第66、第67、第79、第81ないし第91、第93ないし第96、第98、第131、第132、第134、第136ないし第138、第140及び第161号証)。
また、引用標章を用いた黒色金属表面処理等の広告宣伝は、その正確な広告宣伝に関する費用・回数・地域等は不明であるものの、昭和46年10月、同59年11月から同60年9月にかけて、新聞や雑誌の広告、アルバイト・ニュース等により行われていた(甲第42、第46、第50、第53ないし第55号証)。さらに、日刊工業新聞紙上において、「レイデント工業株式会社は、自社開発でクロムメッキ法の十倍以上の防錆力をもつ金属表面加工技術・黒色防錆薄膜処理法(レイデント処理法)の自動化ラインを完成した」、「吉崎メッキが『レイデント』処理の受注獲得に本腰をいれる方針」、「黒色防錆薄膜処理法=レイデント処理法が半導体の分野で注目され、引合が活発化している」旨の記事が掲載され(甲第43ないし第45号証)、日本工業技術新聞紙上においても、「半導体分野で脚光 防錆薄膜処理法『レイデント処理法』-レイデント工業」、「レイデント工業の開発した画期的な表面処理法である黒色防錆薄膜処理法『レイデント処理法』がクローズアツプされてきており関係ユーザーに大きな注目を集めている」旨の記事が掲載されている(甲第46、第47号証)。
(3)請求人と(有)吉崎メッキは同業者であり、昭和59年5月ないし6月当時、両者の間には、「レイデント処理」の契約に関する書簡のやりとりがあり、このときの(有)吉崎メッキ側の書簡発信人名が同社総務部長吉崎春好であること(甲第111及び第112号証)、(有)吉崎メッキのパンフレット(表題「金属表面処理新技術 LAYDENT レイデント」)において、「本技術は昭和47年より京都のレイデント工業(株)の支援を得まして研究を続けて参りました」旨の説明があること(甲第102号証)、さらに、被請求人は、第4回答弁書において、「1回目の納品はレイデント工業が薬品をトラックで持参し、(有)吉崎メッキが用意した容器に移し替えることにより行いました」旨を答弁していること、がそれぞれ認められる。
(4)請求人は、昭和50年6月20日に、第1類「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品として、片仮名文字「レイデント」からなる商標を出願(出願番号昭50-81252)した。この出願は、同54年6月12日に出願公告(公告番号昭54-19754)されたが、最終的には出願無効処分(同55年5月9日)となった(甲第100号証)。
一方、本件商標は、請求人の上記出願・公告・無効処分後の昭和60年12月18日に出願され、同63年4月26日に設定登録されたものであるが、これと請求人の上記出願とを対比すると、その商標の構成が共に片仮名文字「レイデント」からなり、かつ、その書体も同一といえるものであるほか、その指定商品の範囲及び表示も同一といえるものである。

2.以上の事実関係を踏まえ、さらに、引用商標及び本件商標について検討すると、次のことがいえる。
(1)請求人及び(有)吉崎メッキ以外の「レイデント」の使用者をみると、その多くが請求人との間での黒色金属表面処理等(引用標章を冠した「レイデント処理」や「レイデント加工」と称している場合が多い)に関する取引先企業であって、各種取引書類(注文書、加工依頼書、見積依頼書等)において「レイデント」を使用していたことが認められる(甲第57ないし第59、第61、第62、第66、第67、第79、第81ないし第91、第93ないし第96、第98、第131、第132、第134、第136ないし第138、第140及び第161号証)けれども、「レイデント」が同業他社の間において広く使用されていたとする事実は見出し難い。また、一般の辞書・辞典類において、「レイデント」が金属表面処理剤あるいは金属表面処理法に関する一般名称や品質・加工方法等を示すものであるとする証左もない。
そして、上記各種取引書類や、上記1.(2)で示した広告宣伝や新聞記事等においては、例えば、「レイデント処理」、「レイデント加工」、「レイデント処理(法)」、「レイデントメッキ」、「レイデントトソウ」、「レイデント・ハイブラック」、「レイデントLSL」にみられるように、「レイデント」に他の文字が付加されているものも少なくないが、一般的に、実際の商標使用の局面では、或る商標に他の一定の文字(商品の一般名称、品質・材料・加工方法等の表示、他の商標等)を付加して使用されている実情があり、これに照らすと、上記使用例はいずれも前半の「レイデント」の文字部分を要部とする商標の使用というべきであるほか、その使用媒体等によって「レイデント」の書体等の表現形態(手書きのものを含む)が相違しているものもあるが、それらの商標は、いずれも社会通念上同一とみて差し支えのない程度の相違といえるものである。
以上のことからして、請求人の引用標章「レイデント」は、本件商標の出願前に請求人が命名した造語というべきものであって、その使用に係る黒色金属表面処理剤(これが商標法上の商品でないとはいえない)あるいは黒色金属表面処理について、自他商品・役務の識別標識としての機能を十分に果たしていた商標と認めざるを得ない。
この点に関し、被請求人は、「上記各種取引書類(注文書、加工依頼書、納品書等)は、請求人の相手先より真正な取引書類であったとの証明がない」旨主張しているが、甲第57ないし第59、第61、第62、第66、第67、第79、第81ないし第91、第93ないし第96、第98号証の取引書類は、それぞれの記載内容・様式・取引相手会社等からして、本件商標の出願前において真正に成立したものの写しと認められるものであるから、被請求人の上記主張は採用することができない。
また、被請求人は、「引用標章を使用した実際の商品の販売形態(例えば、いかなる容器にどのような商標を付し定価をいくらとして販売しているのか)を示す証拠の提出がない」旨主張している。しかしながら、引用標章を使用した実際の商品(容器に収納した黒色金属表面処理剤)の販売を示す直接的な証拠の提出がなくとも、上記1.(1)及び(2)のとおり、標章の使用について規定する商標法第2条第3項の「商品又は役務に関する広告、取引書類に標章を付して展示し、又は頒布する行為」に該当する証拠の提出があり、その証拠により使用の事実が認められることから、この点に関する被請求人の主張も採用することができない。
(2)本件商標は、上記1.(4)のとおり、請求人が先に出願(最終的に出願無効処分となった)し出願公告された商標「レイデント」とその構成が同一であるばかりでなく、その指定商品の範囲及び表示も同一であること、さらに、請求人の命名した「レイデント」が造語と認められることも考慮すると、被請求人の採択した商標が偶然にこれと一致したものとは認め難い。
そして、上記1.(3)のとおり、黒色金属表面等の商取引に関し、被請求人が在職していた(有)吉崎メッキと請求人との間で、その正確な取引回数や取引高はともかくとして、本件商標の出願前に一定の売買取引があったものと認められることや、当時、レイデント工業(株)宛に(有)吉崎メッキ総務部長名(吉崎春好)で「レイデント基本契約」に関する書簡を送付していることを併せ考えると、被請求人(吉崎春好)は、本件商標の出願前において、被請求人自らが、あるいは同人の関係者を通じて、請求人の使用に係る引用標章「レイデント」ないし請求人の出願に係る商標や指定商品等を知り、その上で、被請求人の名義をもって出願をしたものと認めざるを得ない。
この点に関し、被請求人は、「レイデント」と命名したのは、昭和44年12月頃にクロム廃液の電気分解処理実験をしていたとき、実験に使用していた鉄の陰極が茶色に変色し、この「茶色をした薄い緻密なメッキ層」の英訳が「Layer Density Obtained from a Dun Tone Film」であり、「電気メッキ」のことを「電鍍」(デント)ということも勘案し、前記英訳の「Layer」の「La」、「Density」の「Den」及び「Tone」の「To」をとり、語呂もよいため「Laydent」や「レイデント」とし、密かに心に暖めていたものである旨主張し、その立証資料として乙第8号証(枝番を含む。)を提出している。
しかしながら、その主張の根拠とする証拠(第8号証の2ないし7)を検討すると、第8号証の2ないし5は、いずれも被請求人本人の作成のものと認められる実験手続書及びメモであって、証拠の客観性の点で疑義があるばかりでなく、その実験手続書及びメモには、それらの作成年月と認められる日付(「昭和44年7月」や「1971年2月」)が記載されているが、請求人による「レイデント」関係の使用は、それらの日付以前から、黒色金属表面処理について「レイデント加工」、「レイデントメッキ」等が既に使用していたことが認められる(甲第115、第130ないし第132、第134、第136ないし第138、第140号証等)こと、また、第8号証の6及び7は、同業者の証明書(一通)に関するものであって、被請求人が作成し依頼したものと認められる証明内容について、一同業者(小林鍍金資材)が単に署名捺印したものであり、その意味内容を正確に理解した上で署名捺印したものか疑問が残ることから、結局、これらの証拠によっては、上記の判断を左右するとは認められず、他に上記判断を左右するに足りる証左もない。

3.上記1.及び2.を総合すると、本件商標の出願時において、引用標章が商標法第4条第1項第10号に規定する「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」であるか否かについて判断するまでもなく、引用標章は、本件商標の出願前から、請求人の開発した黒色金属表面処理剤及びその処理剤を用いる黒色金属表面処理に継続的に使用され、本件商標の出願時には、既に一定の信用や顧客吸引力が引用標章に形成(化体)されていたものというべきである。なお、引用標章の使用の事実に関する甲各号証をみると、直接的には黒色金属表面処理(役務)に係る証拠が多く、黒色金属表面処理剤(商品)に係る証拠は少ないといえるが、この点の相違は、その信用や顧客吸引力の形成(化体)の程度に影響を及ぼすことがあるにしても、上記判断に何ら影響を及ぼすものではない。
そして、被請求人が、請求人の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品として、引用標章と同じ片仮名文字からなる商標「レイデント」(先にした請求人の出願に係る商標と同一といえるもの)を出願して商標登録を得たことは、上記引用標章に形成(化体)された信用や顧客吸引力を利用し、あるいは稀釈化させる等の不正競争の目的があったものといわざるを得ず、その行為は、信義則に反するとともに公正な商取引秩序を乱すおそれがあったものといわなければならない。

4.被請求人は、請求人の業務内容に関し、請求人会社と同会社の前身である「大日表面工業」、「冷電鍍工業」の業務の承継関係を示す証拠が提出されていない旨主張している。しかしながら、詳細な業務内容の承継関係を示す証拠の提出がないとしても、請求人が提出した他の関係する甲各号証から、被請求人会社は、昭和39年12月17日に設立登記され(甲第1号証)、その後、本件商標が出願されるまでに、上記1.(1)ないし(3)のとおり、黒色金属表面処理等に関する事業活動や引用標章の使用実績が認められることから、被請求人の上記主張は理由がない。
また、被請求人は、請求人会社と(有)吉崎メッキとの間には、金属表面処理剤の売買取引を継続的に行ったという事実はない旨主張しているが、その売買取引が行われた正確な期間や回数、取引高等が不明であるとしても、上記1.(3)のとおり、事実上両者の間で黒色金属表面処理剤の売買取引があったことが認められるから、この点に関する被請求人の主張も理由がない。
被請求人のその余の主張及び証拠によっても、上記認定・判断に影響を及ぼすものとは認められない。

5.以上のとおり、本件商標は、請求人のその余の主張について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-10-17 
結審通知日 2000-10-27 
審決日 2001-04-24 
出願番号 商願昭60-125667 
審決分類 T 1 11・ 25- Z (101)
最終処分 成立  
前審関与審査官 巻島 豊二 
特許庁審判長 滝澤 智夫
特許庁審判官 久我 敬史
小池 隆
登録日 1988-04-26 
登録番号 商標登録第2043365号(T2043365) 
商標の称呼 レイデント 
代理人 近藤 豊 
代理人 長瀬 弘毅 
代理人 山下 賢二 

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