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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 030 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 030 |
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管理番号 | 1067927 |
審判番号 | 審判1998-35517 |
総通号数 | 36 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2002-12-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1998-10-28 |
確定日 | 2002-11-14 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第3076655号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第3076655号商標(以下、「本件商標」という。)は、「赤間外郎」の文字を横書きしてなり、平成4年11月12日登録出願、第30類「外郎」を指定商品として平成7年9月29日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 第2 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は、被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第24号証を提出している。 本件商標は、「赤間」と「外郎」とからなる商標である。「赤間」は、山口県下関市内の地名、又は、神社の名前であり、「外郎」の文字は、請求人の姓名であり、その家業である薬・外郎薬(現在は家業を法人化)の商品表示である。本件商標は、請求人の姓名である「外郎」という文字を含む商標であり、かつ、その「外郎」すなわち他人の商品等表示を不正に使用して請求人の商品と営業との混同を生じさせているものであって、不正競争防止法第2条第1項第1号の不正競争に該当する。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたものであり、無効とされるべきものである。 1 請求人の名前は、外郎藤右衛門(「ういろうとうえもん」と読む。)といい、「外郎」は、室町時代の陳外郎に始まる請求人外郎藤右衛門の氏名である。しかも、日本国内にはただ一つ、請求人外郎氏のみの氏名であって、代々襲名して外郎藤右衛門を名乗る由緒ある著名な氏名である。他人の氏名を含む商標は商標法第4条第1項第8号で商標とすることは禁止されているし、さらに、他人の業務に係る氏名を商品等表示として使用することは、不正競争防止法でも、第2条第1項第1号に該当する不正競争として禁止されている。 2 請求人外郎藤右衛門は、陳外郎こと陳延祐の曾孫祖田の長男定治(いわゆる小田原外郎)の直系の子孫に当たる者であって、後述のとおりの薬「透頂香」(日本最古の製薬)の製法を一子相伝で承継してきており、透頂香は、外郎家の薬であることから、薬の「ういろう」又は「外郎」と呼ばれている。そして、菓子の「ういろう」は、陳外郎こと陳延祐の子の大年宗奇が、外国使節接待のとき自ら作って供したのが始まりといわれており、その菓子が評判となり、外郎家の菓子ということから、お菓子の「ういろう」又は「外郎」と呼ばれるようになったもので、小田原の外郎でも、お菓子の「ういろう」を製造し、客の接待に供していたし、明治時代以降は、「ういろう」との商標で、お菓子の「ういろう」を製造販売し、現在は、稼業を法人化し、株式会社ういろうとして、これらの薬と菓子を「ういろう」又は「外郎」の商標で製造販売している。 3 一方、一部の地方で「ういろう」菓子が断続的に造られ、販売されたようであるが、その名前は、「ういろ」又は「うゐろ」若しくは「外良」等と称して、外郎家に遠慮して「ういろう」とはしていなかったようである。「ういろう」を使用するようになったのは、敗戦後のことのようである。また、山□地方でだけは、菓子の「外郎」として販売されており、その亜流の1つとして、本件商標が申請され登録されたものと思われるが、地方のことであり、請求人もごく最近まで、その事情は知らなかったのである。 なお、本件商標の商標公報上に、指定商品として30類「外郎」と記載し、外郎が普通名詞であるかのように取り扱われている。しかし、「ういろう」で有名な名古屋の青柳ういろうの商標で明らかなとおり、指定商品は「ういろう」であり、「外郎」とは記載されていない。しかも、「外郎」に「ういろう」との読み方はない。したがって、「外郎」は山口で一部使われているが、普通名詞にはなっていない。元来、外郎を「ういろう」と読むことは、漢字の読み方としては存在しない読み方であり、外郎家の祖先である陳外郎が「ういろう」と名乗ったことからでた言葉であることは明らかであり、普通名詞ではない。 4 以上のとおり、本件商標は、「赤間外郎」という文字からなる商標であり、その構成中の「外郎」は請求人の氏名であることも明らかである。 5 被請求人は、「外郎」という文字は「菓子の名。米の粉を黄などに染め、砂糖を加えて蒸し、四角に切ったもの。山口・名古屋の名産」を意味する言葉であることも事実であると主張し、広辞苑第4版の「ういろう」の項を引用する。 (1)しかし、右広辞苑第4版の「ういろう」の項の記述は誤りであり、お菓子の「ういろう」は、請求人である外郎家の製品である。「外郎」・「ういろう」の言葉は、外郎家に由来する言葉である。 株式会社学研(学習研究社)昭和51年6月10日発行の「和菓子」に「ういろう 小田原市、外郎藤右衛門の製品である。」と記載され、茶と美舎昭和57年5月10日発行の「茶と美 第12号」に「ういろう 小田原市の外郎藤右衛門の製品である」と記載され、女子栄養大学出版部昭和52年9月初版発行「伝統の銘菓句集」に「ういろう・神奈川 今から約600年前、中国出身の外郎家の先祖が良薬「透頂香ういろう」の口直しに創製したのが菓子のういろうの始まりです。その栄誉は『東海道中膝栗毛』の小田原のくだりや、歌舞伎十八番の『外郎売り』に書かれています。」と記載され、株式会社早川書房1965年8月15日発行「お菓子風土記」に「菓子ういらう 東海道を箱根に向かう小田原の町筋、右側に一六菊花と五七の桐をのれんに「ういろう本舗」の大看板が目につく。本来は外郎と書く。」と記載されていることから明らかなとおり、「ういろう」「外郎」は、小田原市の外郎藤右衛門の製品、即ち外郎家の製品(菓子)である。それ故に姓である外郎から「外郎」・「ういろう」といわれるようになった呼称である。 (2)薬の「外郎」、菓子の「外郎」とも、外郎家の薬、外郎家の菓子という言葉に由来する呼称であって、お菓子の「外郎」が、薬の外郎に似ているから「外郎」と呼ばれるようになったものではない。薬の外郎こと「透頂香」は、小さな銀色の丸薬である。一部の書物に、薬の「外郎」と菓子の「外郎」の類似性を云々する説があるが、これも誤りである。 (3)広辞苑には、前記のとおり、外郎は「菓子の名。米の粉を黄などに染め、砂糖を加えて蒸し、四角に切ったもの。山口・名古屋の名産」と記載されている。これによると、山口の「ういろう」も米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子でなければならない。 しかし、株式会社昭文社1999年3月発行の「全国和菓子風土記」によると、山口の「外郎」は、「わらびの粉と精製した小豆あんを主原料にして蒸し上げたもの」、昭和46年3月30日発行の山口市の市史によっても、山口の「外郎の材料は、古来小豆と砂糖のほかに『せん』という蕨の根からとる澱粉が用いられている。」とのことである。 そうすると、山口の「外郎」は、「わらびの粉(せん)と小豆あんを主原料とした蒸し菓子」であり、「米粉を原料とした」蒸し菓子ではく、前記広辞苑にいう「ういろう」ではないことになる。「ういろう」は山口の名物との記載は違っていることとなる。 また、上記「全国和菓子風土記」によれば、名古屋では「ういろう」ではなく「外良」「ういろ」が巷間使われていたことが推察できる。名古屋の名物は「ういろう」ではなく「外良」「ういろ」である。 したがって、三省堂発行『大辞林』の『ういろう』の項の「菓子の一種。米の粉に黒砂糖などで味つけした蒸し菓子。名古屋・山口などの名産。外郎餅。」の記載についても、また、講談社発行の「日本語大辞典」の「ういろう」の項の「米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子。名古屋・山口などの名物」の記載についても同様であり、いずれも誤った記載であることは明白である。 結局、山口の「外郎」は「ういろう」と類似の菓子であっても、しかも、名前が同じでも別個の菓子であり、したがって、「ういろう」「外郎」は普通名詞ではない。 (4)外郎家の薬透頂香こと外郎薬は、公家、将軍家等では外郎の良薬として有名であったが、歌舞伎18番「外郎売」の芝居の影響でさらに有名になったのである。 本件商標は、「赤間外郎」の文字を横書きしてなるが、「赤間」と「外郎」との文字からなる商標であることは、被請求人も認めている。この「外郎」の文字は、元来、請求人の外郎家の姓名であり、その家業である薬・外郎薬の商品表示である。外郎家及び薬の外郎と何の関係もないものが、由緒ある著名な商品名である「外郎」「ういろう」なる文字を商標として使用することは、請求人の外郎家並びにその家業である製薬業及び薬外郎との混同を生ずるものである。本件商標は、その「外郎」、即ち、他人の商品等表示を不正に使用して他人(請求人)の商品と営業との混同を生じさせているものであって、不正競争防止法第2条第1項第1号の不正競争に該当するものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第4号証を提出している。 1 「赤間」という文字が「地名」であるという主張について 確かに、下関市には、「赤間町」という地名が存在し、「赤間神宮」という神社も存在する。 しかしながら、「赤間」という言葉は、歴史的に様々な意味を持つ言葉として使用されている。例えば、「長門国風土記」には「赤目龍」にまつわる伝説が述べられており、北九州市門司区の間の関門海峡で「赤目」を「赤間」とも呼んだという言い伝えがある。 また、「赤目の鯛」のことを「赤間」と、「大きな船」のことを「赤間」と呼んでいたといわれている。 このように、「赤間」は、単なる地名そのものではなく、極めて多様な意義を含む言葉である。したがって、このような多義的な用語である「赤間」の文字を含む本件商標「赤間外郎」は、全体として一つの造語とみるべきであるから、十分な識別性を有するものである。 2 また、本件商標は、少なくとも本件商標の登録査定前から、継続的に使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとなっていたので、商標法第3条第2項により商標登録が認められるものである。 本件商標は、下関菓子工業組合の会員(「山口県菓子工業組合」下関支部の会員)である計13業者により、平成4年11月頃から現在に至るまで、商品「外郎」について継続的に使用された結果、該工業組合の業者により提供されている商品であるということが、山口県内及びその周辺の福岡県・広島県・鳥取県内や東京都内や大阪府内における一般消費者及び取引者が広く認識・識別できるもの(商標法3条2項参照)となっている(乙第1号証「下関商工会議所の証明書」、乙第2号証「山口県菓子工業組合の証明書」、及び、乙第3号証「下関菓子工業組合の証明書」)。 3 「外郎」が請求人の氏名であるから、本件商標が商標法第4条第1項第8号に違反するとの主張について 請求人は、「外郎」という文字が請求人の氏名であると主張している。被請求人も、請求人の氏名が「外郎」という文字を含んでいることは認める。 しかしながら、「外郎」という文字は、「菓子の名。米の粉を黄などに染め、砂糖を加えて蒸し、四角に切ったもの。山口・名古屋の名産」を意味する言葉であることも事実である(乙第4号証「広辞苑第4版」の「ういろう(外郎)」の項目参照)。 本件商標の中の「外郎」は、この「菓子の名」を意味する「外郎」から採用されたものであり、請求人の「氏名」から採用されたものではない。 したがって、本件商標は商標法4条1項8号に違反するものではない。 第4 当審の判断 本件商標の構成は、前記のとおり「赤間外郎」文字を一連に表示してなり、第30類「外郎」を指定商品とするものである。 1 ところで、請求人は、「外郎」の文字は請求人の外郎家の著名な姓名であり、由緒ある外郎薬の商品表示であると述べるので、「ういろう(外郎)」に関する辞典の記載をみると、「広辞苑第四版」(第4刷、1994年9月12日株式会社岩波書店発行、乙第4号証)の「ういろう【外郎】」には「・・・陳宗敬が・・・創製した薬。・・・透頂香(とうちんこう)」の記載とともに「菓子の名。・・・山口・名古屋の名産・・・ういろうもち。」と記載され、「大辞林」(第20刷、1991年7月1日株式会社三省堂発行)の「ういろう【外郎】」には「・・・薬の一種・・・透頂香(とうちんこう)。外郎薬」の記載とともに「菓子の一種・・・名古屋・山口の名産。外郎餅」と記載され、「日本語大辞典」(第一刷、1989年11月6日株式会社講談社発行)の「ういろう【外郎】」には「・・・痰切りの妙薬」の記載とともに「米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子。名古屋・山口の名物」と記載され、「国語大辞典(新装版)」(第一版第5刷、1995年1月10日株式会社小学館発行)の「ういろう【外郎】」には「・・・陳宗敬が創製したという薬」の記載などとともに「・・・蒸籠で蒸しあげた菓子・・・名古屋、山口、小田原の名物」と記載されている。 2 これらの事実を総合すれば、本件商標の登録査定の時である平成7年4月6日には、既に「ういろう」及び「外郎」の語が菓子の一種である「ういろう(外郎)」を意味する普通名詞となっていたと認められるから、本件商標中「外郎」の文字部分は、指定商品の「外郎」そのものを表示する語として取引者、需要者の間に認識されていたものといわなければならない。 請求人は、上記辞典の記載について、前記第2「請求人の主張」に記載した誤りがあると主張する。 上記辞典の記載に請求人が指摘する誤りがあると仮定しても、少なくとも「ういろう」及び「外郎」の語が菓子の一種である「ういろう(外郎)」を表すものであることは上記各辞典に共通して記載されているところである。また、請求人がこれについても誤った記載があるとして提出した「サライ1997年第12号」(甲第17号証)にも、「ういろう」として「ういろう」「ういろ」「外郎」「外良」。呼び名も様々なら味も個性的。室町時代に京都で生まれ、小田原や山口、名古屋で育って全国的な銘菓となった、単純にして奥の深い、蒸し菓子・・・」と記載されており、「ういろう」、「外郎」が菓子の名称である点、上記辞典に符合するものである。 以上からすると、請求人の指摘する各辞典における記載の誤りの存否は上記認定を左右するものではないと認められる。 3 請求人は、本件商標中の「ういろう」の文字が外郎家の姓に由来し、外郎家の製品であることを示す商標であると主張する。 確かに、請求人の提出に係る証拠によれば、本件商標中の「外郎」の文字が外郎家の姓に由来し、かつて、外郎家の製造する薬や菓子を示す固有名詞であったことが認められる。しかしながら、当初特定の商品の出所を表示する固有名詞であった語が、時代とともに次第にその商品の種類を表示する普通名詞となることは、決してまれなことではない。したがって、請求人の主張する「ういろう」「外郎」の由来は、これらの語が本件商標の登録査定の時において既に普通名詞になっていたとする上記認定を左右するものではないと認められる。 4 そうすると、本件商標中の「外郎」の語が指定商品の「外郎」そのものを示す普通名詞である以上、本件商標をその指定商品である「外郎」に使用しても、請求人の外郎家の姓名を含むものと認識されるものではなく、また、請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれもないものと判断するのが相当である。 なお、請求人は、請求の理由として、不正競争防止法第2条第1項第1号に該当する旨主張しているが、その主張は、商標法第4条第1項第15号と同様の趣旨であるので、同第15号として審理した。 5 してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第8号及び同第15号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号所定の無効事由に該当せず、その登録を無効とすべき限りでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2001-09-27 |
結審通知日 | 2001-10-02 |
審決日 | 2001-10-30 |
出願番号 | 商願平4-313387 |
審決分類 |
T
1
11・
271-
Y
(030)
T 1 11・ 23- Y (030) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山田 忠司、渡口 忠次 |
特許庁審判長 |
廣田 米男 |
特許庁審判官 |
宮下 行雄 野本 登美男 |
登録日 | 1995-09-29 |
登録番号 | 商標登録第3076655号(T3076655) |
商標の称呼 | アカマウイロー、アカマ |
代理人 | 鯨田 雅信 |
代理人 | 藤井 冨弘 |