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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 009
管理番号 1067895 
審判番号 無効2000-35008 
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-01-12 
確定日 2002-09-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第4127619号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4127619号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1.本件商標
本件登録第4127619号商標(以下「本件商標」という。)は、「カーネギー・スペシャル」の文字と「CARNEGIE SPECIAL」の文字とを二段に横書きしてなり、平成8年3月13日に登録出願、第9類「理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用のものを除く),救命用具,電気通信機械器具,レコード,電子応用機械器具及びその部品,オゾン発生器,電解槽,ロケット,遊園地用機械器具,回転変流機,調相機,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,火災報知機,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,消防車,消防艇,盗難警報器,保安用ヘルメット,磁心,自動車用シガーライター,抵抗線,電極,映写フイルム,スライドフイルム,スライドフイルム用マウント,録画済みビデオデイスク及びビデオテープ,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,計算尺,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,ウエイトベルト,ウェットスーツ,浮袋,エアタンク,水泳用浮き板,潜水用機械器具,レギュレーター,アーク溶接機,犬笛,家庭用テレビゲームおもちゃ,金属溶断機,検卵器,電気溶接装置,電動式扉自動開閉装置,メトロノーム」を指定商品として同10年3月27日に設定登録がなされたものである。

2 請求人の引用する登録商標
請求人は、以下の7件の登録商標を引用している。
(イ)「DALE CARNEGIE」の文字よりなり、昭和38年2月4日に登録出願、第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品、ただし、この商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」を指定商品として同40年4月12日に設定登録された登録第673178号商標
(ロ)別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、昭和38年2月4日に登録出願、第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品、ただし、この商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」を指定商品として同40年4月12日に設定登録された登録第673179号商標
(ハ)「デール・カーネギー」の文字よりなり、昭和44年7月8日に登録出願、第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品、」を指定商品として同47年1月14日に設定登録された登録第944088号商標(なお、指定商品については、商標登録の取消の審判により、その指定商品中「写真」について取り消すべき旨の審決がされ、その確定審決の登録が平成11年5月26日になされている。)
(ニ)「DALE CARNEGIE COURSE」の文字よりなり、平成4年9月30日に登録出願、第41類「人材能力開発の技術と知識の教授」を指定役務として同7年10月31日に設定登録された登録第3091527号商標
(ホ)「デール・カーネギー」の文字よりなり、平成4年9月30日に登録出願、第41類「人材能力開発の技術と知識の教授」を指定役務として同7年10月31日に設定登録された登録第3091528号商標
(ヘ)別掲(2)に示すとおりの構成よりなり、平成4年9月30日に登録出願、第41類「人材能力開発の技術と知識の教授」を指定役務として同8年3月29日に設定登録された登録第3138449号商標
(ト)別掲(3)に示すとおりの構成よりなり、平成4年9月30日に登録出願、第41類「人材能力開発の技術と知識の教授」を指定役務として同8年7月31日に設定登録された登録第3174259号商標

3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第26号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)「DALE CARNEGIE」の周知著名性
請求人の引用商標「DALE CARNEGIE」は、請求人会社の創設者で、人材能力開発を目指した教室教育方法を創案したアメリカ合衆国市民、故Dale Carnegie(デール・カーネギー)の氏名に基づくものである。デール・カーネギーは、1912年にアメリカ合衆国で前記教育方法による講座を開設した。この講座は「効果的なコミュニケーション」「効果的な話し方」等の能力の開発・改善・向上をテーマとして、「デール・カーネギー・コース」として知られ、高く評価されている。アメリカ合衆国主要都市で行われ、現在では日本を含む70数か国で行われており、このコースの受講終了者は世界中で450万人を越えている。日本においても、30数年間継続して活動が行われてきており、現在、日本の講座では6つのコースを主要プログラムとして提供している。
故デール・カーネギーの著名な著作物である原題「How to Win Friends and Influence People」は、著作権者より日本語訳出版の許諾を得ている株式会社創元社により「人を動かす」との題名で日本語訳版が出版されているが(甲第8号証)、本件商標の出願日前である1995年(平成7年)2月10日に発行された日本語訳版の奥付には「第2版第63刷」とあり、そのあとがきによれば「1958年第1版発行以来24年間で169刷を重ねた」とある。これは総発行部数で概算200万冊を越えることを意味する。
また、「DALE CARNEGIE」の名称が人材能力開発のための教室教育方法による講座について需要者間に広く認識されるに至っていたことは、内外の出版物(甲第7号証の1ないし12及び同第11号証ないし同第22号証)に数多く取り上げられている事実からも知ることができる。

(2)被請求人は、人間能力の開発のための教育及び方法を提供し、さらにこの主題に関する書籍その他の教育用機器および教材を販売するという事業活動を行っている(甲第6号証)。この点において、被請求人の業務は、請求人の業務と互いに競合することが明らかである。
能力開発等のための講座方式の教育方法においては、印刷物の形態をもつ教科書・参考書その他の教材が用いられているが、最近、テープレコーダ、パソコン、映写フィルム、スライドフィルム、録画済みビデオディスク及びビデオテープ等の電気・電子機器および写真・映画・光学機械器具等もさかんに用いられるようになっている。
したがって、人間能力の開発のために提供される教育業務について使用される商標と同一または類似の商標が同じような主題に関する上記商品について使用されるときは、需要者は、前記教育業務によるサービスと前記商品は同一人によって提供されているものと考えるおそれがあるから、人材能力開発の技術と知識の教授の役務と上記各商品とは互いに類似する関係にあるというべきであり、又、本件商標の指定商品中、「映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」は引用商標(イ)及び(ロ)の指定商品「写真」と類似するものである。
そして、本件商標構成中、「SPECIAL/スペシャル」の文字は、商品の品質についての誇称であり、自他商品の識別力を欠く文字であるから、商標として識別性ある部分は「CARNEGIE/カーネギー」にあるというべきであり、「カーネギー」の称呼も生ずる。
一方、請求人の「DALE CARNEGIE/デール・カーネギー」の表示は、しばしば「D.CARNEGIE」「D.カーネギー」「CARNEGIE」「カーネギー」等と省略されて使用されている(甲第7号証の7及び10等)。
また、被請求人は、「カーネギー」の文字を含む商標を何件も出願していること(甲第9号証1ないし9)、被請求人は、「サクセス・アンリミテッド」と題する小冊子(甲第6号証)を作成・配布して、同人の行う事業内容の説明を行っているが、その中に「SSI D・カーネギー・プログラムス」という名称の事業部門を設けていること、被請求人の代表者は、デール・カーネギーについての著作を翻訳し、これを被請求人の関連会社である騎虎書房より「運命を動かした男、デール・カーネギー」との題目によって出版しており、同書の訳者あとがきで、「DALE CARNEGIE」の名における講座の著名性を被請求人自ら認めていること(甲第10号証)等からみて、本件商標における「CARNEGIE/カーネギ-」の文字は、「DALE CARNEGIE /デール・カーネギ一」の省略形として採択されたものであることが明らかである。

(3)してみれば、「CARNEGIE」「カーネギー」の文字を主要素とする本件商標は、引用各商標と類似するものであり、指定商品間および指定商品と指定役務間に抵触関係が存在するから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。
また、被請求人の本件商標登録は、一連の出願行為の一部であり、請求人の行う人材能力開発講座の名声を利用して自己の利益を図る行為といわざるを得ないから、本件商標は、公正な取引秩序を害し、公の秩序を害する商標であり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
更に、「CARNEGIE/カーネギー」の表示を含む本件商標の登録によって、需要者は、本件商標を付した印刷物(弁駁書において、第9類の商品の誤記である旨記載している)をもって請求人によって商標使用を許諾された商品であるかの如き誤信を抱くおそれがあり、その結果、請求人業務と混同を生ずるおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反する。

(4)答弁に対する弁駁
請求人の引用商標(イ)ないし(ハ)の取消審決は未だ確定していない。請求人は「サービスとサービスで使用されることのある商品とは類似する」というような一般論は述べておらず、あくまで本件の場合について個別的かつ具体的に類似性を、さらには需要者の側において混同が生じる可能性が高いことを論じているのである。
被請求人は、カーネギーの語に接した一般の者は、世界的に著名な「アンドリュー・カーネギー」を想起すると述べているが、人間能力の向上のための方法を開発し教育する分野における混同の可能性という視点を欠いている。「アンドリュー・カーネギー」は、鉄鋼王で慈善家として知られている(甲第23号証)のであって、その名がいかに著名であるとしても、人間能力開発の分野での「デール・カーネギー」の著名性はそれとは無関係である。
被請求人は、「デール・カーネギー」の表示は、少なくとも第9類の指定商品の商標としては広く知られていないと述べているが、請求人は、デール・カーネギー(DALE CARNEGIE)の表示が人間能力開発方法の創始者、著作物の著者として、また請求人名称として、請求人が提供する教室講座名およびその商標などとして広く認識されていることを主張しているのであり、特に第9類の指定商品の商標として著名であると主張しているのではない。
なお、本件請求人他4者が本件被請求人他2者に対し提起した訴訟(東京地裁平成10年(ワ)第21141号損害賠償請求事件)について、平成12年9月29日に言い渡された判決においては、「デール・カーネギー」及び「DaleCarnegie」等の表示の日本国内での周知性が認められており、「デール・カーネギー・コース」の表示についても、本件営業表示の要部は「デール・カーネギー」の部分であると認定されている。

4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べている。
(1)第一答弁
(a)引用商標(イ)ないし(ハ)は、不使用を理由に取り消されている。又、第26類の印刷物を指定商品とするものであるから、第9類の指定商品とは大部分非類似であり、しかも本件商標は、「カーネギー スペシャル」の称呼が生じるのに対し、引用商標は、「デール カーネギー」の称呼のみを生じるものであるから、両者は、明らかに非類似の商標である。
また、引用商標(二)ないし(ト)は、第41類の知識の教授を指定役務とするものであるから、本件商標の指定商品である第9類の商品とは、非類似のものである。
(b)カーネギーの語に接した一般の者が、これをデール・カーネギーの略称と認識すると主張するのは、論理の飛躍である。単にカーネギーといった場合は、一般には、「カーネギー財団」、「カーネギー・ホール」として世界的に著名な「アンドリュー・カーネギー」を当然想起させる筈である。しかも、印刷物とか、講座名に使用しているのは全てデール・カーネギーを含む言葉であってカーネギーだけの言葉ではないし、カーネギーの称呼で商品若しくは役務の取り引きがなされている証拠が提出されているわけでもない。
また、請求人は、被請求人がカーネギーをデール・カーネギーを意図して採択したと勝手に決め付けているが、被請求人は、この商標をアンドリュウーカーネギーに関する商品に使用することもできるし、この商標権をこのような商品に使用することを意図する第三者に譲渡することもできるものである。このような被請求人の変わりうる意図によって、商標権が有効になったり、無効になったりするかのような主張をするのは論理的でない。
(c)請求人は、スペシャル(SPECIAL)の文字は、商品の品質についての誇称であり、自他商品の識別力を欠く文字である旨主張しているが、スペシャルを誇称として使用する場合は、形容詞的に、スペシャルカーネギーと使用する筈であり、カーネギースペシャルとして使用されることはない。
(d)請求人は、デール カーネギーが米国及び日本において広く認識されている旨主張しているが、著者の名前として或る程度知られていたとしても、本件第9類の指定商品については使用されていないので、少なくとも第9類の指定商品の商標としては広く知られていないこと明らかである。
現に、請求人が、米国及び日本に於て、デール・カーネギーが良く知られていると主張している根拠の殆どは、デール・カーネギーの書いた「人を動かす」と「道は開ける」の本が著名であるということにある。しかしながら、これらの本についても、著名というほど一般には知られていないものである。
また、第26類の印刷物についても、第41類の知識の教授についても、デール・カーネギー単独で商標として使用しているわけではないので、デール・カーネギー自体は商標ではない。
これに関連して、請求人は、被請求人代表者が、「運命を動かした男、デール・カーネギー」の訳者あとがきで、「デール・カーネギー」の名における講座の著名性を被請求人自ら認めている旨主張しているが、世界的にその名を知られているといっているのは、世界的に「話し方コース」を開講していることからきたものであって、著名という意味で言ったものではない。被請求人の代表者は、商標法上の著名という意味を知らない素人であるから、本の宣伝文句(或る程度誇張するのは常識である)として何と言おうが、それによって「デール・カーネギー」が著名と認められるわけでもない。
(e)請求人は、「SSI D.カーネギー・プログラムス」の内容は、故デール・カーネギーの著作物を無断使用するものである旨主張しているが、被請求人は、デール・カーネギーの著作物の著作権は既に消滅していると信じており、現在裁判中であり、本件とは直接関係がないので、その理由は割愛する。
(f)請求人は、被請求人の本件商標登録は、一連の出願行為の一部であり、請求人の行う人材能力開発講座の名声を利用して自己の利益を図る行為といわざるをえない旨主張している。
しかしながら、印刷物についてのデール・カーネギーの登録商標は取り消されているし、請求人は、講座名としてもデール・カーネギー自体を使用しているわけではない。更に、デール・カーネギーとカーネギー・スペシャルとは、明らかに非類似の商標であるから、請求人の行う人材能力開発講座の名声等を利用していないこと明らかである。しかも、請求人が実際に使用している講座名は、「デール・カーネギー」ではなく、「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・セールス・コース」等であるが、これらと本件商標「カーネギー・スペシャル」とは、明らかに別異の商標であるから、請求人の人材能力開発講座の名声を利用する等の問題は全く生じないものであり、「デール・カーネギー」の商標使用を許諾された商品であるかの如く誤信を抱くおそれがある筈はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第11号及び同第15号に違反していないことは明らかである。

(2)第二答弁
(a)請求人は、「アンドリューカーネギー」は鉄鋼王及び慈善家として著名であるとしても、人間能力の開発分野での「デール・カーネギー」の著名性はそれとは無関係である旨主張しているが、これは明らかに誤りである。
人間能力の開発分野においても、「アンドリューカーネギー」は著名であるからである。即ち、「アンドリューカーネギー」の成功哲学を世界中に広めたのがナポレオンヒルであり、これがこの分野における周知著名なナポレオンヒルプログラムである。このナポレオンヒルプログラムの中で、単にカーネギーの語が使用されているが、これは勿論「アンドリューカーネギ一」を意味するものである。「アンドリューカーネギー」の成功哲学を学んで成功した人物としては、ルーズベルト大統領、ロックフェラー(スタンダードオイル創立者)、グラハムベル(電話の発明者)、イーストマン(コダック社の創立者)その他教えきれない程の成功者が挙げられる。
したがって、本件商標「カーネギー・スペシャル」から、「カーネギー」と略称されると仮定しても、これからデール・カーネギーと認識されることはなく、特定の人物を認識するとすれば、「アンドリューカーネギー」と認識されること明らかである。
(b)引用商標(イ)及び(ロ)は、平成13年2月28日付けで「原告の請求は棄却する。」旨の判決がなされている。
(c)アメリカ及び他の大部分の外国では、デール・カーネギーに関する一部の著作権が消滅し、数年後には全ての著作権が消滅する。従って、アメリカ及び他の大部分の外国においては、何人も「デール・カーネギー」を含む講座名を使用することも、デール・カーネギーを含む商標を印刷物に使用することもできる筈である。このことは、デール・カーネギーを含むというだけでは、出所表示機能等の商標の機能を発揮せず、デールカーネギーコース等といわなければ、商標の機能を発揮しないことを意味する。
このようにデール・カーネギーという表示でさえ、現在若しくは近い将来何人も使用できるようになることを考えれば、デール・カーネギーとは全く別異の本件商標「カーネギー・スペシャル」を使用しても、需要者の側において混同を生じる可能性の無いこと明らかであり、加えて、デール・カーネギー自体は、教室講座名として使用されていないことから、この表示を使用しても、請求人の人材能力開発講座の名声を利用していることにならないこと明らかである。
平成12年9月29日付の東京地裁の判決も「デール・カーネギー」の表示、「デール・カーネギー・コース」及び「デール・カーネギー・トレーニング」の営業表示は、良く知られていたものと認められるが、著名とまでは認められない旨判示している。
(d)請求人は、リーダーズ英和辞典の補遺(甲第24号証)で「How to Win Friends and influence People」が、「聖書に注ぐベストセラーとまでいわれた」と記載されている旨主張している。しかし、「聖書に注ぐベストセラー」という表現は、沢山売れたということの常套語のようであるが、日本においては殆ど売れていないと思われるし、この本を知っている人さえ殆どいない筈である。現在市販の7種の英和辞典と2種の人名辞典によれば、アンドリュー・カーネギーは全てに記載されているが、デール・カーネギーは全てに全く記載されていない。リーダーズ英和辞典にも勿論記載されていない。この事実は、デール・カーネギーは、アンドリュー・カーネギーと比べれば、知名度が遥かに低いことを意味するものである。

5 当審の判断
(1)請求人の提出に係る甲各号証によれば、以下の事実を認めることができる。
(a)故デール・カーネギー(1888年生、1955年没)は、米国の著述家・講演者であって、「Dale Carnegie Course」等の名称による話し方講座ないし能力開発講座(以下「本件講座」という。)の創始者として、また、ベストセラー「人を動かす」(甲第8号証 原題「How to Win Friends and Influence People」)等の著者として世界的に著名であること、我が国においても、その著書又は本件講座は、講談社発行の「週刊現代」昭和53年8月31日号(甲第11号証)、マキノ出版発行の「特選街」昭和54年11月号(甲第12号証)、世界文化社発行の「BIGMAN」昭和60年6月号(甲第13号証)、PHP研究所発行の「THE 21」平成5年6月号(甲第14号証)、潮出版発行の「潮」平成3年5月号(甲第15号証)、小学館発行の「週刊ポスト」平成7年8月4日号(甲第16号証)及び平成7年8月11日号(甲第17号証)、日経BP社発行の「日経ビジネス」昭和60年6月12日号(甲第18号証)及び平成9年8月18日号(甲第20号証)、平成7年5月10日付け「毎日新聞」(甲第19号証)、経済界発行の「蘇る!」平成9年9月号(甲第21号証)並びにみくに出版発行の「中学受験合格レーダー」平成9年8月号(甲第22号証)の各紙誌において、「私が薦めるこの一冊」などとして取り上げられていること。
(b)本件講座は、1912年に故デール・カーネギーによってニューヨークで開講されたものであるが、その後、請求人又はそのライセンシーを主宰者として、世界数十か国で実施されてきたこと、我が国においても、昭和38年の開講以来、本件商標の登録出願日までに30年以上の実績を持ち、この間4万名以上が本件講座を修了していること。
(c)請求人及びその著作権・商標権の使用権者であるパンポテンシアは、本件講座の総称として「デール・カーネギー・トレーニング」との名称を用いるとともに、その中に「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・セールス・コース」等「デール・カーネギー」の語を含む名称の計6つのコースを設定していること、そして、パンポテンシアは、引用商標に係る標章(「DALE CARNEGIE」、「Dale Carnegie」、「デール・カーネギー」、「DALE CARNEGIE COURSE」等)を本件講座に係る役務を表示するものとして使用してきたこと。
(d)甲第7号証の7及び10等によれば、請求人の「DALE CARNEGIE/デール・カーネギー」の表示は、しばしば「D.CARNEGIE」「D.カーネギー」「CARNEGIE」「カーネギー」等と省略されて使用されていること。
(e)甲第6号証(SUCCESS UNLIMITEDと題する小冊子)によれば、被請求人会社は、人間能力の開発のための教育事業を行っており、その事業部門の一つとして「SSI D・カーネギー・プログラムス」という名称の事業部門を設けていること、また、甲第10号証によれば、被請求人の代表者である田中孝顕は、その訳書「運命を動かした男、デール・カーネギー」の「訳者あとがき」(平成7年5月25日の日付がある。)において「本書の主人公デール・カーネギー・・・はそれらのノウハウを基にして、今では世界的にその名を知られている『話し方コース』という講座を開講し、多くの受講生がそこで学んだ。」と記載していること。
(f)甲第9号証の1ないし10によれば、被請求人は、本件商標以外にも、次のとおりの「カーネギー」の文字を含む商標(いずれも、第16類の印刷物を含む商品を指定商品としている。)の出願をしていること。
(イ) 商願平5-8552号「ディル・カーネギー・プログラム」(なお、本件商標は、登録第3100976号として商標登録された後、商標登録の無効審判により無効とすべき旨の審決がされ、これを不服とする訴えも東京高裁において棄却されている。)
(ロ) 商願平6-95962号「カーネギー・プログラム/ CARNEGIE PROGRAM 」
(ハ) 商願平6-95963号「カーネギー・クオリテイ・ライフ & ビジネス・プログラム /CARNEG1E QUALITY LIFE & BUSINESS PROGRAM 」
(ニ) 商願平6-1O66O5号「CARNEGIE SYSTEM PROGRAM/カーネギー・システム・プログラム」
(ホ) 商願平6-106606号「CARNEG1E BUS1NESS MOT1VAT1ON PROGRAM/カーネギー・ビジネス・モテイヴェーション・プログラム 」
(ヘ) 商願平6-106607号「CARNEGIE SUCCESS HINT PROGRAM/カーネギー・サクセス・ヒント・プログラム」
(ト) 商願平6-106608号「CARNEGIE EXCELLENT SPEECH PROGRAM/カーネギー・エクセレント・スピーチ・プログラム
(チ) 商願平8-25535号「カーネギー・スペシャル/CARNEGIE SPECIAL」
(リ) 商願平8-43996号「デール・カーネギーズ ヒューマン モティベーション システム/D.CARNEGIE’S HUMAN MOTIVATION SYSTEM 」

(2)以上の事実を総合すれば、引用商標の「Dale Carnegie(デール・カーネギー)」の標章は、請求人ないしそのライセンシーの提供する人材能力開発講座の役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時(平成8年3月13日)までには、我が国においても取引者、需要者に広く知られており、かつ、その周知性は、登録当時も継続していたと認めるのが相当である。また、「DALE CARNEGIE(デール・カーネギー)」の表示は、しばしば「D.CARNEGIE」「D.カーネギー」「CARNEGIE」「カーネギー」等とも省略されて使用されていたことを認めることができる。
そして、被請求人は、請求人の業務と互いに競合している人間能力の開発のための教育事業を行っており、その事業部門の一つとして「SSI D・カーネギー・プログラムス」という名称の事業部門さえ設けており、その内容の項には、「半世紀以上にわたって、世界中の人々に支持され続けているデール・カーネギーの実践ノウハウによって・・・」との記載をしている。また、被請求人の代表者である田中孝顕は、前記のとおり、その訳書「運命を動かした男、デール・カーネギー」の「訳者あとがき」において「本書の主人公デール・カーネギー・・・はそれらのノウハウを基にして、今では世界的にその名を知られている『話し方コース』という講座を開講し、・・」と記載している。
してみれば、被請求人は、「デール・カーネギー」の周知性を十分認識していたものといわなければならない。
しかして、本件商標は、前記のとおり、「カーネギー・スペシャル」の文字と「CARNEGIE SPECIAL」の文字とを二段に横書きしてなるものであるところ、「スペシャル/SPECIAL」の文字部分は、「特別の」等を意味する外来語(英語)として広く親しまれている単語であり、商品の品質についての誇称表示としてもしばしば用いられているものであるから、それ自体、自他商品識別力の希薄な部分であり、見方をかえれば、その語義から「カーネギー/CARNEGIE」の語を強調したものとみることもできるものであって、いずれにしても、本件商標の構成中「カーネギー/CARNEGIE」の文字部分に商品の出所識別標識としての要部があるものといわなければならない。
そして、被請求人による「CARNEGIE/カーネギー」の文字を含む商標登録出願の一連の流れをみれば、その中には「ディル・カーネギー」あるいは「デール・カーネギーズ」の文字を含む商標登録出願があり、これらは、明らかに引用商標を念頭において出願されたものとみられるものであるから、上記各事実をも併せ考慮すれば、本件商標中の「カーネギー/CARNEGIE」の表示も、請求人の引用商標「DALE CARNEGIE」又は「デール・カーネギー」を意図したものであることは、容易に推認し得るところである。しかも、本件商標の指定商品中には、パソコン、ビデオ機器、録画済みビデオディスク・ビデオテープ、映写フィルム、スライドフィルム等々、教育業務において使用される機器・器材をも含むものであって、請求人の業務との関連性も否定できないものである。
そうとすれば、被請求人は、請求人の引用商標「DALE CARNEGIE」又は「デール・カーネギー」が人材能力開発講座の役務を表示するものとして、広く知られていることを承知のうえ、引用商標の周知性フリーライドする等、何らかの不正の目的をもって、本件商標を出願し、その登録を受けたものとみるのが相当であるから、被請求人のかかる行為によって登録された本件商標は、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し、公の秩序を害するものといわなければならない。
この点について、被請求人は、「カーネギー」の語からは世界的に著名な「アンドリュー・カーネギー」を認識させることはあっても、「デール・カーネギー」を認識させることはない旨主張しているが、上記したとおり、本件商標は、「デール・カーネギー」を意図して採択されたものとみるのが相当であるから、被請求人の主張は採用できない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)登録第673179号商標


(2)登録第3138449号商標


(3)登録第3174259号商標


審理終結日 2001-10-01 
結審通知日 2001-10-04 
審決日 2001-10-16 
出願番号 商願平8-25536 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (009)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 静子 
特許庁審判長 為谷 博
特許庁審判官 鈴木 新五
小池 隆
登録日 1998-03-27 
登録番号 商標登録第4127619号(T4127619) 
商標の称呼 カーネギースペシャル、カーネギー 
代理人 小沢 慶之輔 
代理人 稲垣 仁義 

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